説明

ジヒドラジド化合物およびその調製方法と用途

一般式(I)または(II)で示されるジヒドラジド化合物を開示する。式(I)または(II)において、R〜Rはアルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基またはポリエーテル基である。また、当該ジヒドラジド化合物の調製方法と、当該ジヒドラジド化合物の医療用ハイドロゲルおよび薬物徐放用キャリアにおける使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化合物、特に新規のジヒドラジド化合物に関する。また、本発明は当該ジヒドラジド化合物の調製方法と用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ジヒドラジドは、2つのヒドラジド基を有する化合物であり、化学修飾剤および架橋剤として広く用いられているが、バイオ医薬品、新素材などの分野においては重要な用途を有する。ジスルフィド結合を含むジヒドラジドは、近年開発が進んでいるヒドラジドの一種であり、素材の化学的修飾と架橋を行うと同時に、ジスルフィド結合を取り込むことによって、架橋生成物に特殊な性能を付与することができる。例えば、Tesoroらは、ジチオジプロピオン酸ヒドラジドを用いて可逆的架橋エポキシ樹脂を調製している(特許文献1)。また、Shuらは、ジチオジプロピオン酸ヒドラジドとジチオジブチル酸ヒドラジドを調製している(非特許文献1)。しかしながら、現在までのところ、このようなジヒドラジドは、上記のようなジスルフィド結合を含む数種類の脂肪族系ジヒドラジドと、少数の芳香族系ジヒドラジドがあるのみで、素材の新たな化学的修飾および架橋を行うという需要を満たしてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4,882,399号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Biomacromolecules,3,1304,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする第一の課題は、ジスルフィド結合を含む新たなジヒドラジド化合物を提供することである。
【0006】
本発明が解決しようとする第二の課題は、上記ジヒドラジド化合物の調製方法を提供することである。
【0007】
本発明が解決しようとする第三の課題は、医療用ハイドロゲルおよび薬物徐放用キャリアの調製における上記ジヒドラジド化合物の用途を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1における、ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジド(略称DSCDH)の水素原子核磁気共鳴スペクトル及びその化学シフトピークの位置を示す図である。
【図2】実施例4における、ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノ二酢酸ジヒドラジド(略称DGDTPDH)の水素原子核磁気共鳴スペクトル及びその化学シフトピークの位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のジスルフィド結合を含む新たなジヒドラジド化合物は、下記一般式(I)または(II)で表される。
【0010】
【化1】

一般式(I)および(II)において、R、R、R、Rはアルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、ポリエーテル基等であり、R、R、R、Rは、すべてが同じ化学構造であっても、すべてが異なる化学構造であってもよく、またはこのうちの任意のいくつかが同じ化学構造であってもよい。
【0011】
上記アルキレン基は、−(CH− (nは1〜15の整数)、即ち炭素数1〜15の直鎖アルキレン基を指す。好ましくは、炭素数1〜8の直鎖アルキレン基である。
【0012】
上記置換アルキレン基は、低級アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基、フェニル基、エステル基等の基によって少なくとも1個の水素原子が置換された、上記アルキレン基を指す。
【0013】
上記アリーレン基は、芳香族であるフェニレン基、ナフチレン基等を指す。好ましくはフェニレン基である。
【0014】
上記ポリエーテル基は、−[(CHR)O]− を指す。ここでRは低級アルキル基であり、nは1〜4の整数、mは1〜500の整数である。また、Rは水素原子であることが好ましく、nは2、3または4であることが好ましい。
【0015】
上記低級アルキル基は、炭素数1〜8の直鎖または分岐アルキル基を指す。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等を指す。好ましくは、炭素数1〜4の直鎖または分岐アルキル基であり、特に好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基である。
【0016】
上記アルコキシ基は、炭素数1〜6の直鎖または分岐アルコキシ基を指す。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等である。好ましくは、炭素数1〜4の分岐または直鎖アルコキシ基であり、特に好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。
【0017】
上記エステル基は、−C(O)ORを指し、ここでRは上記低級アルキル基である。好ましくは、メチルエステル基、エチルエステル基、プロピルエステル基、ブチルエステル基である。
【0018】
本発明の化合物において、R、R、R、Rはアルキレン基またはフェニレン基であることが好ましい。R、R、R、Rがいずれも炭素数1〜8のアルキレン基であるか、またはRとRは同一であり、フェニレン基であることが更に好ましい。一般式(I)の化合物において、RとRは同一のC〜Cアルキレン基であり、一般式(II)の化合物において、RとRは同一のC〜Cアルキレン基であり、RとRは同一のC〜Cアルキレン基であることが特に好ましい。
【0019】
本発明のジスルフィド結合を含む新たなジヒドラジド化合物は、対応するジチオジアミンまたはジチオジカルボン酸を出発原料として調製される。ここで、本発明の一般式(I)の化合物は、ジチオジアミンを出発原料として調製され、本発明の一般式(II)の化合物は、ジチオジカルボン酸を出発原料として調製される。以下に、ジチオジアミンおよびジチオジカルボン酸のいくつかの例の化学構造式を示す。
【0020】
【化2】

ここで、(1)シスタミン、(2)シスチンジメチルエステル、(3)シスチンジエチルエステル、(4)ジチオジアニリンは、ジチオジアミンに含まれ;(5)ジチオ二酢酸、(6)ジチオジプロピオン酸、(7)ジチオジブチル酸、(8)ジチオ二安息香酸は、ジチオジカルボン酸に含まれる。
【0021】
ジチオジアミンを出発原料として本発明の一般式(I)の化合物を調製する方法は、通常、(1)ジチオジアミンと無水ジカルボン酸とのビスアミド化反応による、ビスジカルボン酸ビスアシルジチオジアミン生成物の合成;(2)ビスジカルボン酸ビスアシルジチオジアミン生成物のエステル化反応;(3)ビスジカルボン酸ビスアシルジチオジアミンエステル化生成物のヒドラジド化の3工程を含む。
【0022】
以下は、代表的なジチオジアミンとしてシスタミンを用いた本発明の一般式(I)の化合物の合成化学反応式である。まず、シスタミンを無水ジカルボン酸と反応させビスジカルボン酸ビスアシルシスタミンを生成し、これをエチルエステル化した後、最後にエステル化生成物をヒドラジド化して本発明の一般式(I)の化合物(ビスジカルボン酸ビスアシルシスタミンジヒドラジド)を得る。式中、Rはアルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、ポリエーテル基等である。
【0023】
【化3】

【0024】
以下は、代表的なジチオジアミンとして、シスタミンを用いて本発明の一般式(I)の化合物を調製する、他の合成方法の化学反応式である。この方法は上記合成方法と類似しており、まず、シスタミンを無水ジカルボン酸と反応させてビスジカルボン酸ビスアシルシスタミンを生成した後、カルボニルジイミダゾールを用いて活性化して、活性化エステルを生成する。その後、直接ヒドラジド化するか、またはエチルエステル化後にヒドラジド化して、本発明の一般式(I)の化合物(ビスジカルボン酸ビスアシルシスタミンジヒドラジド)が得られる。式中、Rはアルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、ポリエーテル基等である。
【0025】
【化4】

【0026】
以下に、代表的なジチオジアミンとしてシスタミンを用いて合成される、本発明の一般式(I)の化合物のいくつかの例の構造式を示す。
【0027】
【化5】

ここで、(1)はジチオジエタンジイルジアミノジカルボニル二酢酸ジヒドラジド(略称DPCDH)、(2)はジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジド(略称DSCDH)、(3)はジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジメチルプロピオン酸ジヒドラジド(略称DMPCDH)、(4)はジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジブタン酸ジヒドラジド(略称DGCDH)、(5)はジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジペンタン酸ジヒドラジド(略称DACDH)である。
【0028】
ジチオジカルボン酸を出発原料として本発明の一般式(II)の化合物を調製する方法は、(1)ジチオジカルボン酸のカルボニルジイミダゾールによる活性化、(2)ジチオジカルボン酸の活性物のアミノカルボン酸エステルとのビスアミド化反応、(3)ヒドラジド化の3工程を含む。
【0029】
以下は、代表的なジチオジカルボン酸としてジチオジプロピオン酸を用いた本発明の一般式(II)の化合物の合成化学反応式である。まず、ジチオジプロピオン酸をカルボニルジイミダゾールと反応させ、活性化エステルを生成する。それを、アミノカルボン酸エステルと反応させてジチオジプロピオン酸ビスアシルアミノカルボン酸エステルを生成する。最後にヒドラジド化を行い、ジチオジプロピオン酸ビスアシルアミノカルボン酸ジヒドラジドを得る。式中、Rはアルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、ポリエーテル基等である。
【0030】
【化6】

【0031】
以下に、代表的なジチオジカルボン酸としてジチオジプロピオン酸を用いて合成される、本発明の一般式(II)の化合物の、いくつかの例の構造式を示す。
【0032】
【化7】

ここで、(1)はジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノ二酢酸ジヒドラジド(略称DGDTPDH)、(2)はジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジメチル酢酸ジヒドラジド(略称DADTPDH)、(3)はジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジヒドロキシ酢酸ジヒドラジド(略称DHADTPDH)、(4)はジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジプロピオン酸ジヒドラジド(略称DPDTPDH)、(5)はジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジブタン酸ジヒドラジド(略称DBDTPDH)である。
【実施例】
【0033】
以下の実施例は、当業者が本発明をより完全に理解できるよう記載するものであり、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジド(略称DSCDH)の調製
(1)ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸(略称DSC)の合成
シスタミン二塩酸塩(米国Aldrich社)10gを蒸留水150mlに溶解して、澄んだ透明溶液を得た。得られた溶液中に、4mol/Lの水酸化ナトリウムを、溶液のpH値が10になるまで加えた。その後、マグネティックスターラーを用いて攪拌しながら、無水コハク酸(米国Aldrich社)を13.3g加えると同時に、溶液のpH値が7〜10に保持されるよう、4mol/Lの水酸化ナトリウムを間断なく加えた。室温下にて2時間反応させた後、溶液中に6mol/Lの塩酸を加えた。溶液を濾過して白色の沈殿物を集め、蒸留水200mlで2回洗浄した。その後、真空減圧下で乾燥を行い、白色の固体生成物DSCを約15g得た。収率は90%を超えた。
【0035】
(2)ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジエチルエステル(略称DSCDE)の合成
250mlの三口フラスコに、DSCを10g、無水エタノールを120ml、濃硫酸を10滴加えた。窒素雰囲気下で2時間還流した後、20mlより少なくなるまで減圧濃縮した。残った溶液を250mlの分液漏斗に移し、酢酸エチルを60ml加えた。有機相を50mlの水で三回洗浄し、水相を除去した。有機相を減圧蒸留して、白色ろう状の固形物であるDSCDEを約9.3g得た。収率は80%を超えた。
【0036】
(3)ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジド(略称DSCDH)の合成
150mlのビーカーにDSCDEを10g、エタノールを80ml加え、攪拌して溶解した後、抱水ヒドラジン(米国Aldrich社)を10ml加え、一晩反応させた。溶液を濾過して白色の沈殿物を集め、エタノール40mlで4回洗浄した。室温下の通風キャビネットにおいて有機溶剤を揮発させた後、真空減圧下で乾燥を行い、白色の固体生成物であるDSCDHを約8g得た。収率は75%を超えた。
【0037】
ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジド(略称DSCDH)の特性解析
元素分析:C1224
【0038】
【表1】

【0039】
高分解能マススペクトル:計算値380.1300 実測値380.1295
H−NMR (DMSO−d):図1参照
【0040】
(実施例2)
ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジド(略称DSCDH)の調製
(1)ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸(略称DSC)の合成
実施例1と同様である。
【0041】
(2)ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジカルボニルイミダゾール活性ジエステル(略称DSCDI)の合成
500mlの三口フラスコに、DSCを10g、無水DMFを60ml加え、室温下で攪拌し溶解した後、カルボニルジイミダゾール(米国Aldrich社)を11.2g加えた。このとき、溶液中に大量の二酸化炭素の気泡と白色沈殿物が生じた。室温、減圧下で3時間反応させた後、無水酢酸エチルを200ml加えて希釈し、濾過して沈殿物を集めた。沈殿物を、無水酢酸エチル200mlで2回洗浄した後、真空減圧下で乾燥を行って白色の固体生成物であるDSCDIを約12g得た。収率は90%を超えた。
【0042】
(3)ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジド(略称DSCDH)の合成
150mlの三口フラスコに、DSCDIを10gとエタノールを100ml加え、窒素雰囲気下で3時間還流した。室温下で冷却した後、抱水ヒドラジンを10ml加え、マグネティックスターラーを用いて一晩攪拌した。溶液を濾過して白色の沈殿物を集め、エタノール40mlで4回洗浄した。室温下の通風キャビネットにおいて有機溶剤を揮発させた後、真空減圧下で乾燥を行い、白色の固体生成物であるDSCDHを約7g得た。収率は75%を超えた。
【0043】
(実施例3)
ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジブタン酸ジヒドラジド(略称DGCDH)の調製
(1)ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジブタン酸(略称DGC)の合成
シスタミン二塩酸塩(米国Aldrich社)10gを蒸留水150mlに溶解して、澄んだ透明溶液を得た。得られた溶液中に、4mol/Lの水酸化ナトリウムを、溶液のpH値が10になるまで加えた。その後、マグネティックスターラーを用いて攪拌しながら、無水グルタル酸(米国Aldrich社)を15.2g加えると同時に、溶液のpH値が7〜10を保持するよう、4mol/Lの水酸化ナトリウムを間断なく加えた。
【0044】
室温下にて2時間反応させた後、溶液中に6mol/Lの塩酸を加えた。
【0045】
溶液を濾過して白色の沈殿物を集め、蒸留水200mlで2回洗浄した。その後、真空減圧下で乾燥を行い、白色の固体生成物であるDGCを約15.5g得た。収率は90%を超えた。
【0046】
(2)ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジブタン酸ジエチルエステル(略称DGCDE)の合成
250mlの三口フラスコに、DGCを10g、無水エタノールを120ml、濃硫酸を10滴加え、窒素雰囲気下で2時間還流した後、20mlより少なくなるまで減圧濃縮した。残った溶液を250mlの分液漏斗に移し、酢酸エチル60mlを加えた。有機相を50mlの水で三回洗浄した後、減圧蒸留して、白色ろう状の固形生成物であるDGCDEを約9.4g得た。収率は80%を超えた。
【0047】
(3)ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジブタン酸ジヒドラジド(略称DGCDH)の合成
150mlのビーカーにDGCDEを10g、エタノールを80ml加え、室温下で攪拌して溶解した後、抱水ヒドラジンを10ml加えて、一晩反応させた。溶液を濾過して白色の沈殿物を集め、エタノール40mlで4回洗浄した。室温下の通風キャビネットにおいて有機溶剤を揮発させた後、真空減圧下で乾燥を行い、白色の固体生成物であるDGCDHを約7.1g得た。収率は75%を超えた。
【0048】
ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジブタン酸ジヒドラジド(略称DGCDH)の特性解析
元素分析:C1428
【0049】
【表2】

【0050】
高分解能マススペクトル:計算値408.1613 実測値408.1604
H−NMR (DMSO−d):
【0051】
【化8】

【0052】
【表3】

【0053】
(実施例4)
ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノ二酢酸ジヒドラジド(略称DGDTPDH)の調製
1000mlのビーカーに、ジチオジプロピオン酸(米国Aldrich社)を10gと、無水ジメチルホルムアミドを50ml加え、室温で攪拌溶解した後、カルボニルジイミダゾール(米国Aldrich社)を17.0g加えた。このとき、溶液中に大量の二酸化炭素の気泡と、白色の沈殿物が生じた。室温、減圧下で3時間反応させた後、グリシンエチルエステル塩酸塩(米国Aldrich社)を14.7g加えて、1時間攪拌し反応させた。その後、エチルエーテルを500ml加えて、1時間静置した後、ビーカーを静かに傾けて上部の有機相層を除去し、エタノールを100ml、抱水ヒドラジンを10ml加えた。室温下で一晩攪拌し、濾過して沈殿物を集めた。沈殿物を、無水エタノール200mlで2回洗浄した後、真空減圧下で乾燥を行って、やや黄色を帯びた固体生成物であるDGDTPDHを約8.5g得た。収率は約50%であった。
【0054】
ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノ二酢酸ジヒドラジド(略称DGDTPDH)の特性解析
【0055】
元素分析:C1020
【表4】

【0056】
高分解能マススペクトル:計算値352.0987 実測値352.0981
H−NMR (DMSO−d):図2参照
【0057】
(実施例5)
ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジメチル酢酸ジヒドラジド(略称DADTPDH)の調製
1000mlのビーカーに、ジチオジプロピオン酸(米国Aldrich社)を10gと無水ジメチルホルムアミドを50ml加え、室温下で攪拌溶解した後、カルボニルジイミダゾール(米国Aldrich社)を17.0g加えた。このとき、溶液中に大量の二酸化炭素の気泡と、白色の沈殿物が生じた。これを室温、減圧下で3時間反応させた。その後、アミノプロピオン酸エチルエステル塩酸塩(米国Aldrich社)を14.7g加え、1時間攪拌し反応させた。その後、エチルエーテルを500ml加え、1時間静置した。静かにビーカーを傾けて上部の有機相層を除去した後、エタノールを100ml、抱水ヒドラジンを10ml加えた。その後、室温下で一晩攪拌し、濾過して沈殿物を集めた。沈殿物を、無水エタノール200mlで2回洗浄した後、真空減圧下で乾燥を行って、やや黄色を帯びた固体生成物であるDADTPDHを約7.3g得た。収率は約40%であった。
【0058】
ジチオジエタンジイルジカルボニルジアミノジメチル酢酸ジヒドラジド(略称DADTPDH)の特性解析
【0059】
元素分析:C1224
【表5】

【0060】
高分解能マススペクトル:計算値380.1300 実測値380.1289
H−NMR (DMSO−d):
【0061】
【化9】

【0062】
【表6】

【0063】
(実施例6)
ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジド(略称DSCDH)の、ヒアルロン酸ハイドロゲルの調製への使用
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量62〜115万、米国NovaMatrix FMC BIOPOLYMER社)0.1gを蒸留水10mlに溶解し、澄んだ透明溶液を得た。得られた溶液中に、DSCDHを0.1g加え、攪拌し溶解した。その後、0.01mol/L塩酸で溶液のpH値を4.75に調節し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(米国Aldrich社)を0.05g加えて、マグネティックスターラーを用いて攪拌した。得られた溶液中に0.01mol/L塩酸適量を間断なく加え、溶液のpH値を4.75に保持した。溶液の粘度は徐々に増大し、およそ15分程度でゲルが形成された。
【0064】
(実施例7)
ジチオジエタンジイルジアミノジカルボニルジプロピオン酸ジヒドラジド(略称DSCDH)架橋ヒアルロン酸ハイドロゲルの、ビタミンB2の徐放への使用
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量62〜115万、米国NovaMatrix FMC BIOPOLYMER社)0.1gを蒸留水10mlに溶解し、澄んだ透明溶液を得た。得られた溶液中に、DSCDHを0.1g加え、攪拌し溶解した。ビタミンB2(米国Aldrich社)を0.01g加え、均一に攪拌した(大部分のビタミンB2は小さい顆粒状固体として溶液中に分散した)。その後、0.01mol/L塩酸で溶液のpH値を4.75に調節し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(米国Aldrich社)を0.05g加えて、マグネティックスターラーを用いて攪拌した。得られた溶液中に0.01mol/L塩酸適量を間断なく加え、溶液のpH値を4.75に保持した。溶液の粘度は徐々に増大し、15分以内に黄色のゲルが形成された。
【0065】
上記ハイドロゲルを約1g取り、15mlのガラス瓶に入れ、0.1mol/Lのリン酸塩バッファ溶液(pH7.2)を10ml加えた。上記ガラス瓶を、人体の生理条件を模した摂氏37度で、回転速度100rpmのインキュベータにセットした。24時間ごとに上清を取り出して、溶液に放出されたビタミンB2量を波長440nmで測定し、また新しい0.1mol/Lのリン酸塩バッファ溶液(ph7.2)を10ml加えた。
【0066】
DSCDH架橋ヒアルロン酸ハイドロゲルは、薬物の徐放用キャリアとして有効であり、ビタミンB2は徐々にハイドロゲルから放出され、その徐放時間は下表のとおり120時間に及んだ。
【0067】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、分子構造が調節可能な、本発明の一般式(I)および(II)で表される多種の化合物を調製できるという効果を有する。技術プロセスは、シンプルなジチオジアミンまたはジチオジカルボン酸を出発原料としており、アミド結合により構造や鎖長の異なるセグメントを取り込むことで、本発明の一般式(I)および(II)で表される化合物に、各種のフレキシブルな分子構造や様々な化学性能を付与することができる。本発明の新たなジヒドラジド化合物は、素材の化学的修飾や架橋に好適に用いられ、可逆架橋特性を持つ新型のエポキシ樹脂、新型の医薬用ハイドロゲル、新型の薬物徐放用キャリア等の新素材や、生物活性を有する新型の誘導体を調製することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)または(II)で表される化合物。
【化1】

(式中、R〜Rはアルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基またはポリエーテル基である)
【請求項2】
一般式(I)または(II)において、RとRはそれぞれC〜C15アルキレン基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
一般式(I)または(II)において、RとRはそれぞれC〜C15アルキレン基である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
一般式(I)の化合物において、RとRは同一のC〜Cアルキレン基であり、かつ、RとRは同一のC〜Cアルキレン基であり、
一般式(II)の化合物において、RとRは同一のC〜Cアルキレン基であり、かつ、RとRは同一のC〜Cアルキレン基である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
一般式(I)または(II)において、RとRはいずれもフェニレン基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
一般式(I)または(II)において、ポリエーテル基は−[(CHR)O]−であり、Rは低級アルキル基、nは1〜4の整数、mは1〜500の整数である、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
一般式(I)または(II)において、Rは水素原子であり、nは2、3または4である、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
一般式(I)で示される化合物は、(1)ジチオジアミンを無水ジカルボン酸とビスアミド化反応させてビスジカルボン酸ビスアシルジチオジアミン生成物を合成する工程と、(2)ビスジカルボン酸ビスアシルジチオジアミン生成物をエステル化する工程と、(3)ビスジカルボン酸ビスアシルジチオジアミンエステル化生成物をヒドラジド化する工程とにより、ジチオジアミンから調製され、
一般式(II)で示される化合物は、(1)ジチオジカルボン酸をカルボニルジイミダゾールにより活性化する工程と、(2)ジチオジカルボン酸の活性化物をアミノカルボン酸エステルとビスアミド化反応させる工程と、(3)ヒドラジド化させる工程とにより、ジチオジカルボン酸から調製される、請求項1に記載の一般式(I)または(II)で表される化合物の調製方法。
【請求項9】
ジチオジアミンはシスタミン、シスチンジメチルエステル、シスチンジエチルエステルまたはジチオジアニリンであり、
ジチオジカルボン酸は、ジチオ二酢酸、ジチオジプロピオン酸、ジチオジブチル酸またはジチオ二安息香酸である、請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
請求項1に記載の一般式(I)または(II)で表される化合物の、医療用ハイドロゲルおよび薬物徐放用キャリアの調製における用途。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−510255(P2010−510255A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537469(P2009−537469)
【出願日】平成19年9月17日(2007.9.17)
【国際出願番号】PCT/CN2007/002740
【国際公開番号】WO2008/061427
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(509144339)上▲海▼百瑞吉生物医▲薬▼有限公司 (1)
【氏名又は名称原語表記】BIOREGEN BIOMEDICAL (SHANGHAI) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 312, Building 1, Lane 720, Cailun Road, Zhang Jiang High Tech Zone, Shanghai 201203 CHINA
【Fターム(参考)】