説明

ジホスフィン配位子

ジアステレオマーの混合物又は純粋なジアステレオマーの形態の式I及びIaの化合物、(I)、(Ia)、[式中、Rは水素原子又はC−C−アルキルであり、そしてR’はC−C−アルキルであり;X及びXは、各々、互いに独立して、sec−ホスフィノ基であり;Tは、C−C20−アリーレン、又はO、S、−N=及びN(C−C−アルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を有するC−C18−ヘテロアリーレンであり;vは、0又は1〜4の整数であり;Xは、T−C結合に対してオルト位に結合されており;Qは、ビニル、メチル、エチル、−CH−OR、−CH−N(C−C−アルキル)、又は金属化試薬の金属をオルト位へ配向させるC−若しくはS−結合されたキラル基であり;Rは、水素、シリル基、或いは、1〜18個の炭素原子を有し、かつ、非置換であるか又はC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、F若しくはCFによって置換されている脂肪族、脂環式、芳香族又は芳香族−脂肪族炭化水素基である]は、不斉合成における均一系触媒としての金属錯体についての配位子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロペンタジエニル環の3位に追加的な置換基を有する1−sec−ホスフィノ−2−[(2’−sec−ホスフィノ)ヒドロキシ−ベンジル]フェロセン、またこれらの化合物の誘導体、それらの製造、これらの配位子と遷移金属との錯体、並びに有機化合物の均一系立体選択的合成における該金属錯体の使用に関する。
【0002】
キラル配位子は、均一系立体選択的触媒作用における触媒について極めて重要な助剤であることがわかった。このような触媒の有効性は、しばしば、特定の基質について特異的であると示されてきた。従って、特定の基質についての最適化を達成し得るためには、充分に多数のキラル配位子を利用可能にすることが必要である。従って、製造し易くかつ立体選択的触媒反応において良好な結果を与える、さらに有効なキラル配位子についての継続的な要求が存在する。性質が特定の触媒目的物について適応及び最適化され得る配位子が、特に関心の対象である。モジュール様式で構築され得る配位子は、この目的に対し特に適している。
【0003】
フェロセンは、配位子の製造についての非常に有用な骨格であり、これは、第2級ホスフィノ基との種々の置換を提供することについて首尾よく使用されてきた。WO 00/037478は、Taniaphosと呼ばれる式:
【化1】


の配位子を記載している。しかし、2個のホスフィノ基が1つのプロセス工程で導入されるため、特に、2種の異なるRP基が骨格へ結合される場合には、それらの製造が複雑かつ高価となるため、それらの産業的な重要性は低いままとなっている。
【0004】
WO 2005/068477は、キラルP原子を有するフェロセンジホスフィンの製造を記載している。Taniaphosタイプの配位子の製造について、この公報は、先ず、金属化においてオルト配向性補助基(ortho-directing auxiliary group)を有するフェロセンへR’R”P−基を導入し、次いで、該補助基をアルデヒド基に加水分解し、次いで該アルデヒド基とオルトメタル化sec−ホスフィノベンゼンとを反応させることを提案している。加水分解性キラル補助基の使用は、プロセスを高価かつ不経済とする。WO 2005/108409によれば、P(III)基がオルト配向性キラル補助基として使用され、金属化の生成物がo−sec−ホスフィノベンズアルデヒドと反応され、次いで該P(III)補助基がsec−ホスフィノ基へ変換される。この合成は、複雑であると考えられる。得られ得る式:
【化2】


の化合物は、Taniaphos-OHと呼ばれ、Cp−PR基は、不斉であり得る(Cpは、シクロペンタジエニルである)。
【0005】
簡単で、モジュールの、経済的な様式で製造され得、かつ、不斉触媒における金属錯体についての配位子として好適である、Taniaphos-OHタイプの配位子についての大きな要求が存在している。
【0006】
今回、予期し得ないことに、出発材料として任意で修飾可能なオルト配向性キラル基が1つのCp環へ結合されているフェロセンを使用した場合、Taniaphos-OHタイプの光学的に純粋な異性体の製造をとりわけ簡単に達成し得ることが、見出された。追加的な光学中心の存在が、二座配位子の合成における優れたジアステレオ選択性を導き、そしてさらに、結晶化又は分取クロマトグラフィー(アキラルなカラム上においてさえ)による立体異性体の簡単な精製又は分離を可能とする。
【0007】
さらに、予期し得ないことに、シクロペンタジエニル環(Cp)中において、Cp−CHOH結合に対してオルト位に、追加的な置換基を含むこれらの配位子は、Taniaphos-OHと比べて、エナンチオ選択的均一系触媒についての金属錯体において少なくともほぼ等しい良好な効果を有し、かつ、プロキラル基質次第で、非常に良好〜非常に高い立体選択性を達成させることが見出された。この置換基の選択により、触媒特性に影響を与えることが可能であり、そして特定の基質についてそれらを最適化することも可能である。
【0008】
本発明は、先ず、ジアステレオマーの混合物又は純粋なジアステレオマーの形態の式I及びIaの化合物:
【化3】


[式中、
は水素原子又はC−C−アルキルであり、そしてR’はC−C−アルキルであり;
及びXは、各々、互いに独立して、sec−ホスフィノ基であり;
Tは、C−C20−アリーレン、又はO、S、−N=及びN(C−C−アルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を有するC−C18−ヘテロアリーレンであり;
vは、0又は1〜4の整数であり;
は、T−C結合に対してオルト位に結合されており;
Qは、ビニル、メチル、エチル、−CH−OR、−CH−N(C−C12−アルキル)、又は金属化試薬(metallation reagent)の金属をオルト位へ配向させるC−若しくはS−結合されたキラル基であり;
Rは、水素、シリル基、或いは、1〜18個の炭素原子を有し、かつ、非置換であるか又はC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、F若しくはCFによって置換されている脂肪族、脂環式、芳香族又は芳香族−脂肪族炭化水素基であり;そして
は、ジアステレオマーの混合物又は純粋なジアステレオマーを示す]
を提供する。
【0009】
本発明に従う好ましい化合物は、式Ib又はIcの化合物:
【化4】


[式中、Q、R、R’、X、X及びv並びには、上記の記載の意味を有する]
である。
【0010】
は、シクロペンタジエニル環に1回若しくは2回又は1〜5回存在し得る。アルキル基Rは、例えば、メチル、エチル、n−若しくはi−プロピル、n−、i−若しくはt−ブチルであり得、好ましいのはメチルである。Rは、好ましくは水素原子である。R’は、芳香族又はヘテロ芳香族基Tにおいて1〜4回存在し得る。好ましいのは、vが0であり、そして従ってR’が水素であることである。
【0011】
アルキル基R’は、例えば、メチル、エチル、n−若しくはi−プロピル、n−、i−若しくはt−ブチルであり得、好ましいのはメチルである。
【0012】
アリーレン基Tは、好ましくは、6〜14個の炭素原子を有する。アリーレンの例は、フェニレン、ナフチレン、アントラシレン(anthracylene)及びフェナントリレンである。好ましいのは、1,2−フェニレン及び1,2−ナフチレンである。
【0013】
ヘテロアリーレン基Tは、好ましくは、4〜14個の炭素原子、そして特に好ましくは4〜5個の炭素原子、及び好ましくは1個のヘテロ原子を有する。ヘテロアリーレンの例は、1,2−若しくは2,3−チオフェニレン、1,2−若しくは2,3−フラニレン、並びにN−メチル−1,2−若しくは−2,3−ピロリレン及びまた2,3−若しくは3,4−ピリジニレンである。
【0014】
及びXは、同一又は異なる炭化水素基及び/又はヘテロ炭化水素基を含む第2級ホスフィノ基であり得る。さらに、X及びXは、同一であるか又は異なり得る。
【0015】
炭化水素基は、非置換であるか又は置換され得、及び/又は、O、S、−N=及びN(C−C−アルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を含み得る。それらは、1〜22個、好ましくは1〜12個、そして特に好ましくは1〜8個の炭素原子を含有し得る。好ましいsec−ホスフィノ基は、該ホスフィノ基が、直鎖又は分枝鎖のC−C12−アルキル;非置換の又はC−C−アルキル−若しくはC−C−アルコキシ−置換されたC−C12−シクロアルキル若しくはC−C12−シクロアルキル−CH−;フェニル、ナフチル、フリル、及びベンジル;並びにハロゲン−、C−C−アルキル−、トリフルオロメチル−、C−C−アルコキシ−、トリフルオロメトキシ−、(CSi−、(C−C12−アルキル)Si−、又はsec−アミノ置換されたフェニル又はベンジルからなる群より選択される2種の同一又は異なる基を含むものである。
【0016】
好ましくは1〜6個の炭素原子を含有する、Pにおけるアルキル置換基の例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、並びにペンチル及びヘキシルの異性体である。Pにおける非置換又はアルキル置換されたシクロアルキル置換基の例は、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、及びエチルシクロヘキシル、及びジメチルシクロヘキシルである。Pにおけるアルキル−及びアルコキシ−置換されたフェニル及びベンジル置換基の例は、メチルフェニル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、エチルフェニル、メチルベンジル、メトキシフェニル、ジメトキシフェニル、トリメトキシフェニル、トリフルオロメチルフェニル、ビストリフルオロメチルフェニル、トリストリフルオロメチルフェニル、トリフルオロメトキシフェニル、ビストリフルオロメトキシフェニル、フルオロフェニル及びクロロフェニル、並びに3,5−ジメチル−4−メトキシフェニルである。
【0017】
好ましい第2級ホスフィノ基は、C−C−アルキル;非置換シクロペンチル若しくはシクロヘキシル;及び置換基として1〜3個のC−C−アルキル若しくはC−C−アルコキシ基を有するシクロペンチル若しくはシクロヘキシル;非置換であるか又は1〜3個のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−フルオロアルキル、若しくはC−C−フルオロアルコキシ、F及びCl基によって置換されているベンジル及び特にフェニルからなる群より選択される同一又は異なる基を有するものである。
【0018】
sec−ホスフィノ基は、好ましくは、式−PRに対応し、ここで、R及びRは、各々、互いに独立して、1〜18個の炭素原子を有し、そして、非置換であるか又はC−C−アルキル、トリフルオロメチル、C−C−アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C−C−アルキル)アミノ、(CSi、(C−C12−アルキル)Si又はハロゲンによって置換されており、そして/又はヘテロ原子Oを含有する、炭化水素基である。
【0019】
及びRは、好ましくは、直鎖又は分枝鎖のC−C−アルキル;非置換シクロペンチル若しくはシクロヘキシル、及び置換基として1〜3個のC−C−アルキル若しくはC−C−アルコキシ基を有するシクロペンチル若しくはシクロヘキシル;フリル;非置換ベンジル、及び置換基として1〜3個のC−C−アルキル若しくはC−C−アルコキシ基を有するベンジル;並びに特に、非置換フェニル、及び置換基として1〜3個のF、Cl、C−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−フルオロアルキル又はC−C−フルオロアルコキシ基を有するフェニルからなる群より選択される基である。
【0020】
及びRは、特に好ましくは、C−C−アルキル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フリル、並びに非置換フェニル、及び1〜3個のF、Cl、C−C−アルキル、C−C−アルコキシ及び/又はC−C−フルオロアルキル基によって置換されたフェニルからなる群より選択される基である。
【0021】
−PR基中のR及びRが異なる場合、配位子は、さらにP−キラルである。
【0022】
第2級ホスフィノ基は、環状sec−ホスフィノ、例えば、式:
【化5】


の1つを有する基であり得、これらは、非置換であるか、又は、C−C−アルキル、C−C−シクロアルキル、C−C−アルコキシ、C−C−アルコキシ−C−C−アルキル、フェニル、C−C−アルキルフェニル若しくはC−C−アルコキシフェニル、ベンジル、C−C−アルキルベンジル若しくはC−C−アルコキシベンジル、ベンジルオキシ、C−C−アルキルベンジルオキシ若しくはC−C−アルコキシベンジルオキシ、又はC−C−アルキリデンジオキシルによって1回以上置換される。
【0023】
置換基は、キラル炭素原子を導入するために、P原子に対して一方又は両方のα位に結合され得る。一方又は両方のα位における置換基は、好ましくは、C−C−アルキル又はベンジル、例えば、メチル、エチル、n−若しくはi−プロピル、ベンジル、又は−CH−O−C−C−アルキル、又は−CH−O−C−C10−アリールである。
【0024】
β、γ位における置換基は、例えば、C−C−アルキル、C−C−アルコキシ、ベンジルオキシ、又は−O−CH−O−、−O−CH(C−C−アルキル)−O−、及び−O−C(C−C−アルキル)−O−であり得る。いくつかの例は、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、−O−CH(メチル)−O−、及び−O−C(メチル)−O−である。
【0025】
置換のタイプ及び置換基の数に依存して、環状ホスフィノ基は、C−キラル、P−キラル、又はC−及びP−キラルであり得る。
【0026】
上記式の基において、脂肪族5員若しくは6員環又はベンゼンは、2個の隣接する炭素原子へ縮合され得る。
【0027】
環状sec−ホスフィノ基は、例えば、以下の式に対応し得る(可能なジアステレオマーの1つのみを示す):
【化6】


式中、基R’及びR”は、各々、C−C−アルキル、例えば、メチル、エチル、n−若しくはi−プロピル、ベンジル、又は−CH−O−C−C−アルキル、或いは−CH−O−C−C10−アリールであり、そしてR’及びR”は、同一であるか又は異なる。
【0028】
式Iの化合物において、sec−ホスフィノ基X及びXは、互いに独立して、好ましくは、−P(C−C−アルキル)、−P(C−C−シクロアルキル)、−P(C−C−ビシクロアルキル)、−P(o−フリル)、−P(C、−P[2−(C−C−アルキル)C、−P[3−(C−C−アルキル)C、−P[4−(C−C−アルキル)C、−P[2−(C−C−アルコキシ)C、−P[3−(C−C−アルコキシ)C、−P[4−(C−C−アルコキシ)C、−P[2−(トリフルオロメチル)C、−P[3−(トリフルオロメチル)C、−P[4−(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(C−C−アルキル)、−P[3,5−ビス(C−C−アルコキシ)及び−P[3,5−ビス(C−C−アルキル)−4−(C−C−アルコキシ)Cからなる群より選択される非環式sec−ホスフィノ、或いは、非置換であるか、或いは1若しくは複数のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−アルコキシ−C−C−アルキル、フェニル、ベンジル、ベンジルオキシ又はC−C−アルキリデンジオキシル基によって置換されている:
【化7】


からなる群より選択される環状ホスフィノ基である。
【0029】
いくつかの具体的な例は、−P(CH、−P(i−C、−P(n−C、P(i−C、−P(t−C、−P(C)、−P(C11、−P(ノルボルニル)、−P(o−フリル)、−P(C、P[2−(メチル)C、P[3−(メチル)C、−P[4−(メチル)C、−P[2−(メトキシ)C、−P[3−(メトキシ)C、−P[4−(メトキシ)C、−P[3−(トリフルオロメチル)C、−P[4−(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(メチル)、−P[3,5−ビス(メトキシ)、及び−P[3,5−ビス(メチル)−4−(メトキシ)C、並びに以下の式の基であり:
【化8】


式中、R’は、メチル、エチル、メトキシ、エトキシ、フェノキシ、ベンジルオキシ、メトキシメチル、エトキシメチル、又はベンジルオキシメチルであり、そしてR”は、独立して、R’と同一の意味を有し、かつ、R’とは異なる。
【0030】
オルト配向性キラル基(ortho-directing, chiral group)Qにおいて、キラル原子は、好ましくは、シクロペンタジエニル−Q結合に対して1、2又は3位に結合されている。基Qは、1〜20個、そして好ましくは1〜12個の原子を有する置換又は非置換の開鎖基(open-chain radical)、或いは、4又は8個の環原子、及び、合計で4〜20個、そして好ましくは4〜16個の原子を有する環式基であり得、該原子は、C、O、S、N及びPからなる群より選択される。C、O、S、N及びP原子上の水素原子は、勘定に入れない。
【0031】
基Qは、例えば、式−S(=O)−Rのスルホキシル基であり得、ここで、Rは、C−C−アルキル、そして好ましくは、C−C−アルキル、若しくはC−C−シクロアルキル、又はC−C10−アリールである。いくつかの例は、メチルスルホキシル、エチルスルホキシル、n−若しくはi−プロピルスルホキシル、及びn−、i−若しくはt−ブチルスルホキシル、及びフェニルスルホキシルである。
【0032】
基Qは、例えば、式−HC(キラル原子がによって示される)に対応し得、ここで、Rは、C−C−アルキル、C−C−シクロアルキル、フェニル、又はベンジルであり、Rは、−OR又は−NRであり、Rは、C−C−アルキル、C−C−シクロアルキル、フェニル、又はベンジルであり、そしてR及びRは、同一であるか又は異なり、そして各々、C−C−アルキル、C−C−シクロアルキル、フェニル、又はベンジルであるか、或いはR及びRは、N原子と一緒になって、5〜8員環を形成する。Rは、好ましくは、C−C−アルキル、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、又はフェニルである。Rは、好ましくは、C−C−アルキル、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、又はn−若しくはi−ブチルである。R及びRは、好ましくは、同一の基であり、そして各々、好ましくは、C−C−アルキル、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、又はn−若しくはi−ブチルであるか、或いは、一緒になって、テトラメチレン、ペンタメチレン、又は3−オキサ−1,5−ペンチレンを形成する。式−HCRの特に好ましい基は、1−メトキシエタ−1−イル、1−ジメチルアミノエタ−1−イル、及び1−(ジメチルアミノ)1−フェニルメチルである。
【0033】
Qがアキラルのオルト配向性基−CH−N(C−C12−アルキル)である場合、該アルキル基は、好ましくは、直鎖アルキル、そして非常に特に好ましくは、メチル又はエチルである。
【0034】
Qがアキラルのオルト配向性基−CH−ORである場合、炭化水素基としてのRは、例えば、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヘテロシクロアルキルアルキル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロアラルキル(O、S、−N=又は−N(C−C−アルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を含有する)であり、ここで、環式基は、好ましくは、5〜7環メンバーを有し、アルキルは、好ましくは、1〜6個の炭素原子を有し、そして環式基中の「アルキル」は、好ましくは、1又は2個の炭素原子を有する。好ましい態様において、炭化水素基としてのRは、C−C−アルキル、C−C−シクロアルキル、C−C10−アリール、C−C12−アラルキル、又はC−C12−アルカラルキル(alkaralkyl)である。Rのいくつかの例は、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、テトラヒドロフリル、フェニル、ベンジル、フラニル、及びフラニルメチルである。
【0035】
基−CH−OR中のシリル基Rは、トリ(C−C−アルキル)Si、又はトリフェニルシリルであり得る。トリアルキルシリルの例は、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリ−n−プロピルシリル、トリ−n−ブチルシリル、及びジメチル−t−ブチルシリルである。
【0036】
Qがアキラルのオルト配向性基−CH−ORである場合、Rは、特に好ましくは、アルキル基、好ましくは、直鎖アルキル、そして非常に特に好ましくは、メチル又はエチルである。
【0037】
Qがキラルα炭素原子を有しない基である場合、それは、直接又は架橋基を介して、シクロペンタジエニル環へ炭素原子を介して結合されている。架橋基は、例えば、メチレン、エチレン、又はイミン基であり得る。架橋基へ結合された環式基は、好ましくは、飽和されており、そして特に好ましくは、C−C−アルキル、(C−C−アルキル)NCH−、(C−C−アルキル)NCHCH−、C−C−アルコキシメチル、又はC−C−アルコキシエチルによって置換され、かつ、合計5又は6環原子を有する、N−、O−、又はN,O−ヘテロシクロアルキルである。開鎖基は、好ましくは、CH基を介してシクロペンタジエニル環へ結合されており、そして該基は、好ましくは、アミノ酸又はエフェドリンから誘導される。いくつかの好ましい例は、以下である:
【化9】


式中、R10は、C−C−アルキル、フェニル、(C−C−アルキル)NCH−、(C−C−アルキル)NCHCH−、C−C−アルコキシメチル、又はC−C−アルコキシエチルである。R10は、特に好ましくは、メトキシメチル、又はジメチルアミノメチルである。
【0038】
本発明の化合物は、置換基Qに対してα位においてハロゲン化されているフェロセンから出発する新規の方法によって得られ得、そして、金属アミドによって該ハロゲン原子に対してオルト位において位置選択的にかつ化学選択的に金属化され得る。次いで、該金属原子は、基Xによって、公知の様式で置換され得る。次いで、−CH(OH)−T−X基を導入するために、α−臭素原子が金属化され得、これらの最終段階は、正確に、不斉C原子の形成を含み、予期し得ないほど高いジアステレオ選択性を導く。
【0039】
本発明は、さらに、式I及びIaの本発明に従う化合物を製造する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
a)式II、IIaの化合物又はそれらの混合物:
【化10】


[式中、Q及びRは、Q=−CHOHを除いて、上記の意味を有し、そしてハロゲンは、臭素又はヨウ素である]と、少なくとも当量の脂肪族Li sec−アミド又はハロゲン−Mg sec−アミドとを反応させ、式III、IIIaの化合物又はそれらの混合物:
【化11】


[式中、MはLi又は−MgXであり、そしてXはCl、Br又はIである]を形成する工程;
b)式III又はIIIaの化合物と式X−Halo[式中、Haloは、Cl、Br又はIである]の化合物とを反応させ、基Xを導入し、そして式IV又はIVaの化合物:
【化12】


を形成する工程;
c)式IV又はIVaの化合物と、少なくとも当量のアルキルリチウム又はマグネシウムグリニャール化合物とを、次いで少なくとも当量の、
c1)以下の式のα−sec−ホスフィノベンズアルデヒド:
【化13】


とを、
又は
c2)式V又はVaのフェロセンアルデヒド:
【化14】


を形成するために最初にジアルキルホルムアミドとを、
次いで、以下の式の有機金属化合物:
【化15】


とを反応させることによって基−(CH(OH)−T(R’−Xを導入し[式中、R’、X、T、M及びvは、上記の意味を有し、そしてMは、Xに対してオルト位に結合されている]、式I又はIaの化合物を得る工程;並びに
d)Qが−CHOHである化合物を製造するために、−CHOR基を誘導体化する工程。
【0040】
Qがメチルである式II及びIIaの化合物、例えば、1−メチル−2−ブロモフェロセンは、T. Arantani et al., Tetrahedron 26 (1970), p5453-5464、及びT. E. Picket et al., J. Org. Chem. 68 (2003), p2592-2599によって記載されている。
【0041】
Qがビニル又はエチルである式II及びIIaの化合物は、例えば、1−[(ジアルキルアミノ)エタ−1−イル]−2−ハロフェロセン、例えば、式:
【化16】


の1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ブロモフェロセンにおけるアミンを除去し、1−ビニル−2−ハロフェロセン、好ましくは、1−ビニル−2−ブロモフェロセンを形成し、そして、必要に応じて、引き続いて、形成されたビニル基をエチル基へ水素化することによって製造され得る。1−[(ジアルキル−アミノ)エタ−1−イル]−2−ハロフェロセンにおいて、アミノ基は、カルボン酸無水物によりアシルオキシによって置換され得、次いで、他の第2級アミノ基又は−OR基によって置換され得る。
【0042】
Qが−CH−N(C−C12−アルキル)基である式II及びIIaの化合物は、例えば、HN(C−C−アルキル)によって、四級化CH−結合されたキラルsec−アミノ基を置換することによって得られ得る。このようなCH−結合されたsec−アミノ基の例は、以下の式のものであり:
【化17】


式中、
10は、C−C−アルキル、フェニル、(C−C−アルキル)NCH−、(C−C−アルキル)NCHCH−、C−C−アルコキシメチル、又はC−C−アルコキシエチルである。R10は、特に好ましくは、メトキシメチル、又はジメチルアミノメチルである。四級化は、有利には、ハロゲン化アルキル(ヨウ化アルキル)、例えば、ヨウ化メチルによって行われる。
【0043】
Qが−CH−ORである式II及びIIaの化合物は、先ず、カルボン酸無水物(例えば、無水酢酸)によって1−(C−C−アルキル)NCH−2−ハロフェロセンを(例えば、1−アセチルオキシ−CH−)へアシルオキシ化し、1−アシルオキシ−CH−2−ハロフェロセンを形成し、そして次いで、これらの中間体と塩基の存在下でアルコールとを、或いはアルカリ金属アルコキシドとを反応させ、1−RO−CH−2−ハロフェロセンを得ることによって、得られ得る。Qが−HCR−ORである式IIの化合物は、アルコールHORでの基Q=−HCR−N(C−C−アルキル)の修飾によって、類似の様式で得られ得る。
【0044】
予期しないことに、基ビニル、メチル、エチル、−CH−OR、及び(C−C−アルキル)NCH−の存在においてさえ、求電子試薬の引き続いての導入についての、臭素原子に対してオルト位における金属化の位置選択性は、本質的に維持される。
【0045】
アルキルリチウム又はマグネシウムグリニャール化合物を使用するフェロセンの金属化は、公知の反応であり、これらは、例えば、T. Hayashi et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 53 (1980), p1138-1151、又はJonathan Clayden Organolithiums: Selectivity for Synthesis (Tetrahedron Organic Chemistry Series), Pergamon Press (2002) に記載されている。アルキルリチウム中のアルキルは、例えば、1〜4個の炭素原子を含み得る。メチルリチウム及びブチルリチウムが、しばしば使用される。マグネシウムグリニャール化合物は、好ましくは、式(C−C−アルキル)MgXの化合物であり、ここで、Xは、Cl、Br又はIである。
【0046】
反応は、有利には、低温、例えば、20〜−100℃、好ましくは0〜−80℃で行われる。反応時間は、約1〜20時間である。反応は、有利には、不活性保護ガス、例えば、窒素、又は希ガス、例えば、ヘリウム又はアルゴン下で行われる。
【0047】
反応は、有利には、不活性溶媒の存在下で行われる。このような溶媒は、単独で、又は少なくとも2種の溶媒の組み合わせとして、使用され得る。溶媒の例は、脂肪族、脂環式、及び芳香族炭化水素、並びにまた、開鎖又は環状エーテルである。具体例は、石油エーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチル又はジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサンである。
【0048】
ハロゲン化は、一般的に、金属化におけるのと同様の反応条件が維持されながら、同一の反応混合物中において、金属化の直後に行われる。本発明の目的のために、「少なくとも当量」は、好ましくは1〜1.4当量のハロゲン化試薬の使用を意味する。ハロゲン化試薬は、Br又はIの導入について、例えば、ハロゲン(Br、I)、ハロゲン間化合物(Cl−Br、Cl−I)、及び脂肪族、過ハロゲン化炭化水素[HCI(ヨードホルム(iodo form))、BrFC−CFBr、又は1,1,2,2−テトラブロモエタン]である。
【0049】
金属化及びハロゲン化は位置選択的に進行し、そして式IIの化合物が高収率で得られる。反応はまた、キラル基Qの存在に起因して、立体選択的である。さらに、必要に応じて、光学異性体はまた、例えば、キラルカラムによってクロマトグラフィー的に、この段階で分別され得る。
【0050】
プロセス工程a)において、フェロセン骨格は、再度、式II又はIIaにおけるハロゲン原子に対してオルト位で、同一のシクロペンタジエニル環において、位置選択的に金属化される。ここで、金属アミドは、ハロゲン原子に対してオルト位にある酸性H原子を置換するに充分である。本発明の目的について、「少なくとも当量」は、フェロセンのシクロペンタジエニル環におけるCH基当たり1〜10当量の脂肪族Li sec−アミド又はXMg−sec−アミドの使用を意味する。Xは、Cl、Br、又はヨウ素である。
【0051】
脂肪族Li sec−アミド又はXMg−sec−アミドは、2〜18個、好ましくは2〜12個、そして特に好ましくは2〜8個の炭素原子を含有する第2級アミンから誘導され得る。N原子へ結合された脂肪族基は、アルキル、シクロアルキル、又はシクロアルキルアルキルであり得、或いは該基は、N原子と一緒になって、4〜12個、そして好ましくは5〜7個の炭素原子を有するN−ヘテロ環式環を形成し得る。N原子へ結合された基の例は、メチル、エチル、n−及びi−プロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、及びシクロヘキシルメチルである。N−ヘテロ環式環の例は、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピペラジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、及びアザノルボルナンである。代わりに、アミド窒素へ2個のトリアルキルシリル基が結合されているLi sec−アミド又はXMg−sec−アミドを使用することも可能である。好ましい態様において、前記アミドは、式Li−N(C−C−アルキル)又はXMg−N(C−C−アルキル)に対応し、ここで、アルキルは、特に、i−プロピルである。別の好ましい態様において、前記アミドは、Li(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)である。
【0052】
プロセス工程a)の反応は、上述の溶媒中において、そして式II及びIIaの化合物の製造のための反応条件下で、行われ得る。反応温度は、ここで、−10℃以下、好ましくは−30℃以下であるべきである。式III及びIIIaの化合物は、一般的に、単離されず、しかし代わりに、得られた反応混合物は、好ましくは、引き続いての工程b)において使用される。
【0053】
プロセス工程b)の反応は、少なくとも当量、又は1.5当量までの過剰量の式X−Haloの化合物を使用して行われる。
【0054】
プロセス工程b)において、基Xは、Mの置換を伴う式X−Haloの化合物との反応によって導入される。本発明の目的について、「少なくとも当量」は、シクロペンタジエニル環において反応する=CM基当たりの反応性化合物の1〜1.2当量の使用を意味する。しかし、5当量までの明らかな過剰量を使用することも可能である。
【0055】
反応は、有利には、低温、例えば、20〜−100℃、好ましくは0〜−80℃で行われる。反応は、有利には、不活性保護ガス、例えば、希ガス、例えばアルゴン、又は窒素下で行われる。反応性求電子性化合物の添加後、混合物は、有利には、室温へ加温されるか、又は高温(例えば、100℃まで、そして好ましくは50℃まで)へ加熱され、そして反応を完了させるためにこれらの条件下でしばらくの間撹拌される。
【0056】
反応は、有利には、不活性溶媒の存在下で行われる。このような溶媒は、単独で、又は少なくとも2種の溶媒の組み合わせとして、使用され得る。溶媒の例は、脂肪族、脂環式、及び芳香族炭化水素、並びにまた、開鎖又は環状エーテルである。具体例は、石油エーテル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチル又はジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサンである。
【0057】
式IVの化合物は、公知の方法(抽出、蒸留、結晶化、クロマトグラフィー法)によって単離され得、そして必要に応じて、それ自体公知の様式で精製される。
【0058】
プロセス工程c)の金属化は、(アルキルリチウムを使用する)上述のリチウム化及び置換反応に類似する様式で行われる。当量のリチウム化試薬又は1.2当量までの過剰量を使用することも可能である。金属化は、好ましくは、−80〜約30℃の温度で行われる。金属の置換は、有利には、先ず、+20〜−100℃の温度で行われ、次いで反応後に80℃までへ加熱される。上述の溶媒が使用され得る。
【0059】
プロセス工程c1)におけるα−sec−ホスフィノベンズアルデヒドとの反応は、有利には、溶媒中において、−80〜80℃、好ましくは−40〜40℃の温度で行われる。水の添加後、反応混合物を有機溶媒で抽出し、そして本発明の化合物を公知の様式で単離する。好適な溶媒は上記に記載した。α−sec−ホスフィノベンズアルデヒドは、公知であるか、又は類似の方法によって得られ得る。得られた化合物は、例えば、シリカゲルカラムにおけるクロマトグラフィーによって精製され得、又は次の工程において直接使用され得る。
【0060】
プロセス工程c2)におけるジアルキルホルムアミドとの反応は、有利には、溶媒中において、−30〜50℃、好ましくは−20〜30℃の温度で行われる。反応混合物を水の添加及び有機溶媒での抽出によって後処理する。好適な溶媒は上記に記載した。次の工程において使用される式:
【化18】


の化合物は、1−ブロモ−2−ヨード芳香族化合物を金属化し、引き続いてHaloX(Haloは、Cl、Br又はIである)と反応させ1−ブロモ−2−X−芳香族化合物を形成し、引き続いてアルキルリチウム又はアルキルMgハライドによってこれらを金属化することによって、簡単な様式で得られ得る。さらなる詳細は、実施例において見られ得る。式V又はVaの化合物の添加及び引き続いての反応は、有利には、溶媒中において、−20〜−80℃の温度で行われる。後処理前に、反応を完了させるために、反応混合物は、室温へ加温されそしてしばらくの間撹拌され得る。反応混合物は、水と混合され、次いで有機溶媒で抽出される。次いで、本発明の化合物は、溶媒の除去によって単離される。粗生成物は、例えばシリカゲルカラムにおける、クロマトグラフィーによって精製され得る。さらなる詳細は実施例に記載される。
【0061】
式I及びIaの化合物が、本発明の方法によって、充分な収率及び高い純度で得られる。基X及びXの導入についての高い柔軟性は、本方法の特有の利点を示し、何故ならば、多くの異なる基Xが、同一の中間体における基Xの導入後に結合され得るためである。
【0062】
式I及びIaの化合物は、例えば、T. Hayashi et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 53 (1980), p1138-1151によって記載されるように、基Qにおいて修飾され得る(アシルオキシ及び−OR又は−OR又は第2級アミン基の導入)。修飾について、ベンジルのOH基は、有利には、二次反応を回避するために、それ自体公知の保護基が提供される。式II及びIIaの化合物の製造について上述した同一の修飾が、可能である。Rが水素であり、かつ、Qが、−CH−OR、−CH−N(C−C−アルキル)、又はオルト位X中へ金属化試薬の金属を配向させるC−結合されたキラル基である、式I及びIaの化合物において、水素でない基Rを導入することが可能である。当然ながら、OH基、例えば、ベンジルのCHOH基又はCHOH基としてのQが、それ自体公知の様式で、誘導体化されることも可能である(例えば、エーテル、エステル、カーボネート又はウレタンへの変換)。
【0063】
本発明はまた、式V及びVaの中間体を提供する:
【化19】


式中、R、X及びQは、上記の意味を有し、但し、以下の式の1−[(ジメチル−アミノ)エタ−1−イル]−2−ホルミル−3(ジフェニルホスフィノ)フェロセンを除く:
【化20】

【0064】
式I及びIaの新規の化合物は、好ましくはFe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Ru、Rh、Pd、Os及びIrの群より、特にRu、Rh及びIrからなる群より選択される、遷移金属の錯体についての配位子であり、これらは、不斉合成、例えば、プロキラル不飽和有機化合物の不斉水素化についての優れた触媒又は触媒前駆体である。プロキラル不飽和有機化合物が使用される場合、非常に高過剰量の光学異性体が、有機化合物の合成において誘導され得、そして高化学変換が、短い反応時間で達成され得る。達成され得るエナンチオ選択性及び触媒活性は優れており、そして不斉水素化の場合、公知の触媒と比較してかなり高い。さらに、このような配位子はまた、他の不斉付加又は環化反応においても使用され得る。
【0065】
本発明は、さらに、周期表の遷移金属の群より選択される金属と配位子としての式I及び/又はIIaの化合物の1つとの錯体を提供する。
【0066】
可能な金属は、例えば、Cu、Ag、Au、Ni、Co、Rh、Pd、Ir、Ru及びPtである。好ましい金属は、ロジウム及びイリジウム、並びにまた、ルテニウム、白金及びパラジウムである。
【0067】
特に好ましい金属は、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムである。金属錯体は、金属原子の酸化数及び配位数に依存して、追加的な配位子及び/又はアニオンを含み得る。それらはまた、カチオン性金属錯体であり得る。このような類似の金属錯体及びそれらの製造は、文献に広く記載されている。
【0068】
金属錯体は、例えば、一般式VI及びVIIに対応し得:
【化21】


式中、Aは、式I及び/又はIaの化合物の1つであり、配位子Lは、同一又は異なる単座のアニオン性若しくは非イオン性配位子、或いは同一又は異なる二座のアニオン性若しくは非イオン性配位子であり;
Lが単座配位子である場合、rは2、3又は4であり、或いは、Lが二座配位子である場合、rは1又は2であり;
zは、1、2又は3であり;
Meは、Rh、Ir及びRuからなる群より選択される金属であり、該金属は、0、1、2、3又は4の酸化状態を有し;
は、オキソ酸又は錯酸のアニオンであり;そして
アニオン性配位子は、金属の酸化状態1、2、3又は4の電荷を釣り合わせる。
【0069】
上記の好ましいもの及び態様は、式I及びIaの化合物に当てはまる。
【0070】
単座非イオン性配位子は、例えば、オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン)、溶媒和する溶媒(ニトリル、直鎖又は環状エーテル、アルキル化されていない又はN−アルキル化されたアミド及びラクタム、アミン、ホスフィン、アルコール、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル)、一酸化窒素及び一酸化炭素からなる群より選択され得る。
【0071】
好適な多座アニオン性配位子は、例えば、アリル(アリル、2−メタリル)又は脱保護1,3−ジケト化合物、例えば、アセチルアセトネートである。
【0072】
単座アニオン性配位子は、例えば、ハロゲン化物(F、Cl、Br、I)、擬ハロゲン化物(シアン化物、シアネート、イソシアネート)、並びにカルボン酸、スルホン酸及びホスホン酸のアニオン(カーボネート、ホルメート、アセテート、プロピオネート、メチルスルホネート、トリフルオロメチルスルホネート、フェニルスルホネート、トシレート)からなる群より選択され得る。
【0073】
二座非イオン性配位子は、例えば、線形又は環状ジオレフィン(例えば、ヘキサジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン)、ジニトリル(マロノニトリル)、カルボン酸のアルキル化されていない又はN−アルキル化されたジアミド、ジアミン、ジホスフィン、ジオール、ジカルボン酸ジエステル、及びジスルホン酸ジエステルからなる群より選択され得る。
【0074】
二座アニオン性配位子は、例えば、ジカルボン酸、ジスルホン酸、及びジホスホン酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、メチレンジスルホン酸、及びメチレンジホスホン酸)のアニオンからなる群より選択され得る。
【0075】
好ましい金属錯体としてはまた、Eが、−Cl、−Br、−I、CIO、CFSO、CHSO、HSO、(CFSO、(CFSO、テトラアリールボレート、例えば、B(フェニル)、B[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]、B[ビス(3,5−ジメチル)フェニル]、B(C、及びB(4−メチルフェニル)、BF、PF、SbCl、AsF、又はSbFであるものが挙げられる。
【0076】
水素化に特に適している非常に特に好ましい金属錯体は、式VIII及びIXに対応し:
【化22】


式中、
は、式I及び/又はIaの化合物の1つであり;
Meは、ロジウム又はイリジウムであり;
は、2個のオレフィン又はジエンであり;
Zは、Cl、Br又はIであり;そして
は、オキソ酸又は錯酸のアニオンである。
【0077】
上述の態様及び好ましいものは、式I及びIaの化合物に当てはまる。
【0078】
オレフィンYは、C−C12−、好ましくはC−C−、そして特に好ましくはC−C−オレフィンであり得る。例えば、プロペン、ブタ−1−エン、及び特にエチレンである。ジエンは、5〜12個、好ましくは5〜8個の炭素原子を含み得、そして開鎖、環状、又は多環式ジエンであり得る。ジエンの2個のオレフィン基は、好ましくは、1又は2個のCH基によって連結されている。例えば、1,4−ペンタジエン、シクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−若しくは1,5−ヘプタジエン、1,4−若しくは1,5−シクロヘプタジエン、1,4−若しくは1,5−オクタジエン、1,4−若しくは1,5−シクロオクタジエン、及びノルボルナジエンである。Yは、好ましくは、2個のエチレン分子、若しくは1,5−ヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン、又はノルボルナジエンである。
【0079】
式VIIIにおいて、Zは、好ましくは、Cl又はBrである。Eの例は、BF、ClO、CFSO、CHSO、HSO、B(フェニル)、B[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]、PF、SbCl、AsF、又はSbFである。
【0080】
本発明の金属錯体は、文献から公知の方法によって製造される(また、US-A-5,371,256、US-A-5,446,844、US-A-5,583,241、及びE. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto (Eds.), Comprehensive Asymmetric Catalysis I to III, Springer Verlag, Berlin, 1999、並びに本明細書中において引用される参考文献を参照のこと)。
【0081】
本発明の金属錯体は、反応条件下で活性化され得、かつ、プロキラル不飽和有機化合物に対する不斉付加反応のために使用され得る、均一系触媒又は触媒前駆体である。
【0082】
前記金属錯体は、例えば、炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合を有するプロキラル化合物の不斉水素化(水素の付加)のために使用され得る。可溶性均一系金属錯体を使用するこのような水素化は、例えば、Pure and Appl. Chem., Vol. 68, No. 1, p131-138, (1996) に記載されている。水素化についての好ましい不飽和化合物は、基C=C、C=N及び/又はC=Oを含む。本発明によれば、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムの錯体が、水素化のために好ましくは使用される。
【0083】
本発明は、さらに、キラル有機化合物の製造のための、好ましくは、プロキラル有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加のための、均一系触媒としての本発明の金属錯体の使用を提供する。
【0084】
本発明のさらなる局面は、触媒の存在下でのプロキラル有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加によるキラル有機化合物の製造方法であって、該付加反応が、触媒量の少なくとも1つの本発明に従う金属錯体の存在下で行われることを特徴とする、方法である。
【0085】
好ましい水素化されるプロキラル不飽和化合物は、開鎖又は環状有機化合物中に1若しくは複数の、同一又は異なる基C=C、C=N及び/又はC=Oを含み得、該基C=C、C=N及び/又はC=Oは、環系の一部であり得るか、或いは環外基であり得る。プロキラル不飽和化合物は、アルケン、シクロアルケン、ヘテロシクロアルケン、或いは開鎖若しくは環状ケトン、α,β−ジケトン、α−若しくはβ−ケトカルボン酸又はそれらの、α,β−ケトアセタール若しくは−ケタール、エステル及びアミド、ケチミン及びケチドラゾン(kethydrazone)であり得る。
【0086】
不飽和有機化合物のいくつかの例は、アセトフェノン、4−メトキシ−アセトフェノン、4−トリフルオロメチルアセトフェノン、4−ニトロアセトフェノン、2−クロロ−アセトフェノン、対応の非置換又はN−置換アセトフェノン−ベンジルイミン、非置換又は置換ベンゾシクロヘキサノン若しくはベンゾシクロペンタノン及び対応のイミン、以下からなる群由来のイミン:非置換又は置換テトラヒドロキノリン、テトラヒドロピリジン及びジヒドロピロール、及び不飽和カルボン酸、エステル、アミド、及び塩、例えば、α−及び、必要に応じて、β−置換されたアクリル酸又はクロトン酸である。好ましいカルボン酸は、式:
【化23】


のもの、並びにまた、それらの塩、エステル及びアミドであり、式中、R01は、C−C−アルキル;非置換C−C−シクロアルキル、若しくは1〜4個のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−アルコキシ−C−C−アルコキシ基によって置換されたC−C−シクロアルキル;又は、非置換C−C10−アリール、若しくは1〜4個のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−アルコキシ−C−C−アルコキシ基によって置換されたC−C10−アリール、そして好ましくはフェニルであり、そしてR02は、直鎖若しくは分枝鎖のC−C−アルキル(例えば、イソプロピル)、非置換若しくは置換(上記に規定される通り)シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、又は保護アミノ(例えば、アセチルアミノ)である。
【0087】
本発明の方法は、低温又は高温、例えば、−20〜150℃、好ましくは−10〜100℃、そして特に好ましくは10〜80℃の温度で行われ得る。光学収率は、一般的に、より高い温度よりも比較的低い温度で、より良好である。
【0088】
本発明の方法は、大気圧又は超大気圧(super-atmospheric pressure)で行われ得る。圧力は、例えば、10〜2×10 Pa(パスカル)であり得る。水素化は、大気圧又は超大気圧で行われ得る。
【0089】
触媒は、水素化される化合物に基づいて、好ましくは、0.0001〜10 mol%、特に好ましくは、0.001〜10 mol%、そして非常に特に好ましくは0.002〜5 mol%の量で使用される。
【0090】
配位子及び触媒の製造並びにまた水素化は、溶媒なしで、又は不活性溶媒の存在下で行われ得、1つの溶媒又は溶媒の混合物を使用することが可能である。好適な溶媒は、例えば、脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素(ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン)、脂肪族ハロゲン化炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、及びテトラクロロエタン)、ニトリル(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル)、エーテル(ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールモノメチル若しくはモノエチルエーテル)、ケトン(アセトン、メチルイソブチルケトン)、カルボン酸エステル及びラクトン(酢酸エチル若しくはメチル、バレロラクトン)、N−置換ラクタム(N−メチルピロリドン)、カルボキサミド(ジメチルアミド、ジメチルホルムアミド)、非環式尿素(ジメチルイミダゾリン)、並びにスルホキシド及びスルホン(ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン)、及びアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル)並びに水である。溶媒は、単独で、又は少なくとも2種の溶媒の混合物として使用され得る。
【0091】
反応は、共触媒、例えば、ハロゲン化第4級アンモニウム(ヨウ化テトラブチルアンモニウム)の存在下で、及び/又はプロトン酸、例えば、鉱酸、又は無機若しくは有機塩基の存在下で、行われ得る(例えば、US-A-5,371,256、US-A-5,446,844及びUS-A-5,583,241、並びにEP-A-0 691 949を参照のこと)。フッ素化アルコール、例えば、1,1,1−トリフルオロエタノールの存在は、同様に、触媒反応を促進させ得る。
【0092】
触媒として使用される金属錯体は、別個に製造され単離された化合物として添加され得るか、又は、反応前に現場(in situ)で形成され、次いで、水素化される基質と混合され得る。単離された金属錯体を使用する場合、反応において、追加的な配位子を添加すること、又は、現場製造の場合、過剰量の配位子を使用することが、有利であり得る。過剰量は、例えば、製造のために使用される金属化合物に基づいて、1〜6、好ましくは1〜2モルであり得る。
【0093】
本発明の方法は、一般的に、反応容器に触媒を配置し、次いで、基質、必要に応じて反応助剤、及び付加させる化合物を添加し、引き続いて反応を開始することによって、行われる。付加させるガス状化合物、例えば、水素又はアンモニアは、好ましくは、圧力下で導入される。該方法は、種々のタイプのリアクターにおいて、連続的に又はバッチ式で行われ得る。
【0094】
本発明に従って製造されるキラル有機化合物は、特に、フレーバー(favour)及び香料、医薬品並びに農薬の製造の分野における、このような物質の製造についての活性物質又は中間体である。
【0095】
以下の実施例は本発明を例示する。
【0096】
出発材料及び略語
1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]フェロセンは、市販されている。
【0097】
式:
【化24】


の1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ブロモフェロセンは、文献J. W Han et al. HeIv. Chim. Acta, 85 (2002), 3848-3854 に記載されるように調製される。該化合物を、本明細書以下においてC1と呼ぶ。
【0098】
式:
【化25】


の1−エチル−2−ブロモ−3−ジフェニルホスフィノフェロセンは、特許WO2006114438に記載されるように調製される。該化合物を、本明細書以下においてC2と呼ぶ。
【0099】
反応は不活性ガス(アルゴン)下で行われる。
反応及び収率は最適化されない。
略語:TMP=2,2,6,6−テトラメチルピペリジン;TBME=tert−ブチルメチルエーテル;DMF:N,N−ジメチルホルムアミド、THF=テトラヒドロフラン、MeOH=メタノール、EA=酢酸エチル、Me=メチル、Et=エチル、i−Pr=i−プロピル、nbd=ノルボルナジエン、Cy=シクロヘキシル、n−BuLi=n−ブチルリチウム、eq.=当量。
【0100】
sec−ホスフィノ−o−ブロモベンゼンを、下記の通り調製する:
【0101】
a)2−ジフェニルホスフィノ−1−ブロモベンゼン
17.5 ml(35 mmol)のi−プロピルマグネシウムクロリド(THF中2.0 M)を、−30℃〜−35℃で撹拌しながら、25 mlのTHF中の5 ml(35 mmol)の2−ブロモヨードベンゼンの溶液中へ滴下する。温度を維持し、そして反応混合物をさらに1時間撹拌する。次いで、9.3 g(42 mmol)のジフェニルホスフィンクロリドを徐々に添加し、混合物をさらに30分間撹拌し、次いで冷却物を除去する。室温で1時間撹拌後、20 mlの水を添加し、混合物を酢酸エチルで抽出し、有機相を飽和NaHCO及びNaCl水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥する。溶媒を蒸留し、無色油状物が得られ、これは、100 mlのエタノールの添加で固体となる。濾過及び少量のエタノールでの洗浄によって、所望の生成物が白色粉末として収率90%で得られる。
【表1】

【0102】
b)2−ジ(パラ−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ−1−ブロモベンゼン
前記化合物を、方法a)と類似の方法によって調製する。ビス(p−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィンクロリドを、ジフェニルホスフィンクロリドの代わりに使用する。表題化合物が、白色粉末として収率90%で得られる。
【表2】

【0103】
c)2−ジエチルホスフィノ−1−ブロモベンゼン
前記化合物を、方法a)と類似の方法によって調製する。ジエチルホスフィンクロリドを、ジフェニルホスフィンクロリドの代わりに使用する。表題化合物が、無色油状物として収率63%で得られる。
【表3】

【0104】
A)2−ハロ−3−sec−ホスフィノフェロセンの調製
実施例A1:以下の式の1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ブロモ−3(ジシクロヘキシルホスフィノ)−フェロセン(A1)
【化26】


11.2 ml(66.9 mmol、3.0 eq.)の2,2−6,6−テトラメチルピペリジン(TMP、98%)を、100 mlの無水THFに溶解し、そして0℃へ冷却する。40.0 ml(64.7 mmol、2.9 eq.)のn−ブチルリチウム溶液(ヘキサン中1.6 M)を滴下する。引き続いて、混合物を0℃で1時間撹拌する(溶液A)。7.46 g(22.3 mmol、1.0 eq.)の化合物C1を60 mlの無水THFに溶解し、そして−60℃へ冷却する(溶液B)。次いで、溶液Aを30分間にわたって溶液Bへ滴下し、次いで、温度を−40℃へ上げながら、混合物を1.5時間撹拌する。反応混合物を−78℃へ冷却し、そして6.00 ml(26.9 mmol、1.2当量)のジシクロヘキシルホスフィンクロリドを添加する。−78℃でさらに2.5時間撹拌後、150 mlの水を添加し、次いで有機相を単離する。水相を飽和塩化アンモニウム水溶液で酸性化し、そして100 mlのTBMEで抽出する。合わせた有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、そして溶媒を除去する。得られる褐色油状物をクロマトグラフィー[シリカゲル、溶離剤=アセトン:ヘプタン(1:2)]によって精製する。これによって、9.75 g(82%)の表題化合物が褐色油状物として得られる。
【表4】

【0105】
実施例A2:以下の式の1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ブロモ−3(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(A2)
【化27】


化合物A2を実施例A1と類似の様式によって調製する。ジフェニルホスフィンクロリドをジシクロヘキシルホスフィンクロリドの代わりに使用する。粗生成物をクロマトグラフィー(シリカゲル60;溶離剤=2%のトリエチルアミンを含有するEA)によって精製する。表題化合物が橙色固体として収率73%で得られる。
【表5】

【0106】
実施例A3:以下の式の1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ブロモ−3−(ジ−オルト−アニシルホスフィノ)−フェロセン(A3)
【化28】


化合物A3を実施例A1と類似の様式によって調製する。ジ−オルト−アニシル−ホスフィンクロリドを、ジシクロヘキシルホスフィンクロリドの代わりに使用する。粗生成物を先ずクロマトグラフィー(シリカゲル60;溶離剤=1%のトリエチルアミンを含有するトルエン)によってそして引き続いてMeOHからの再結晶によって精製する。表題化合物が黄色固体として収率64%で得られる。
【表6】

【0107】
実施例A4:以下の式の1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ブロモ−3−(ジ(3,5−ジメチル−4−メトキシ−フェニル)ホスフィノ)フェロセン(A4)
【化29】


化合物A4を実施例A1と類似の様式によって調製する。ジ(3,5−ジメチル−4−メトキシフェニル)ホスフィンクロリドを、ジシクロヘキシルホスフィンクロリドの代わりに使用する。粗生成物をクロマトグラフィー(シリカゲル60;溶離剤=アセトン)によって精製する。表題化合物が黄色−橙色固体として収率87%で得られる。
【表7】

【0108】
B)2−ホルミル−3−sec−ホスフィノフェロセンの調製
実施例B1:以下の式の1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ホルミル−3−(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(B1)
【化30】


2.8 ml(4.6 mmol)のn−BuLi(ヘキサン中1.6 M溶液)を、撹拌しながら0℃で、30 mlのTBME中の2.0 g(3.84 mmol)の化合物A2の溶液へ滴下し、そして反応混合物をこの温度でさらに1時間撹拌する。次いで、0.63 ml(7.6 mmol)のDMFを30分間にわたって徐々に滴下する。混合物を0℃でさらに30分間撹拌し、次いで冷却浴を除去し、そして温度を室温へ上げる。反応混合物を20 mlの水と混合し、そして酢酸エチルで抽出する。有機相を合わせ、飽和NaC水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターにおいて蒸発乾固させる。クロマトグラフィー(シリカゲル60;溶離剤=1%のトリエチルアミンを含有するEA/ヘプタン1:1)による精製によって、表題化合物B1が赤−橙色泡状体として収率>95%で得られる。
【表8】

【0109】
実施例B2:以下の式の1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ホルミル−3−(ジ−オルト−アニシルホスフィノ)−フェロセン(B2)
【化31】


化合物B2を、化合物A3から出発して実施例B1と類似の方法によって調製する。クロマトグラフィー(シリカゲル60;溶離剤=1%のトリエチルアミンを含有するEA)による精製によって、表題化合物が赤−橙色泡状体として収率>95%で得られる。
【表9】

【0110】
実施例B3:以下の式の1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ホルミル−3−(ジシクロヘキシルホスフィノ)−フェロセン(B3)
【化32】


化合物B3を、化合物A1から出発して実施例B1と類似の方法によって調製する。クロマトグラフィー(シリカゲル60;溶離剤=1%のトリエチルアミンを含有するEA/ヘプタン1:1)による精製によって、表題化合物が赤−橙色泡状体として収率56%で得られる。
【表10】

【0111】
実施例B4:以下の式の1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ホルミル−3−(ビス(3,5−ジメチル−4−メトキシ−フェニル)ホスフィノ)フェロセン(B4)
【化33】


化合物B4を、化合物A4から出発して実施例B1と類似の方法によって調製する。化合物A4のリチウム化当量当たり、3当量のDMFを添加する。表題化合物が、実質的に定量的な収率で赤−橙色固体泡状体として得られ、これは、依然として少量の脱臭素化材料で汚染されている。生成物をさらに精製することなく使用する。
【表11】

【0112】
実施例B5:以下の式の1−エチル−2−ホルミル−3(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(B5)
【化34】


化合物B5を、化合物C2から出発して実施例B4と類似の方法によって調製する。化合物C2のリチウム化当量当たり、3当量のDMFを添加する。表題化合物が、実質的に定量的な収率で赤色固体泡状体として得られる。生成物をさらに精製することなく使用する。
【表12】

【0113】
C)フェロセンジホスフィンの調製
実施例C1:以下の調製
【化35】


1 ml(1.6 mmol)のn−BuLi(ヘキサン中1.6モル濃度)を、撹拌しながら−70℃の温度で、5 mlのTHF及び5 mlのTBMEの混合液中の0.532 g(1.6 mmol)の化合物2−ジフェニルホスフィノ−1−ブロモベンゼンの溶液へ滴下する。赤色反応溶液を−70℃〜40℃の温度で1時間撹拌する。次いで、この溶液を、5 mlのTBME中の0.54 g(1.2 mmol)の化合物B1の溶液へ徐々に添加し、そして混合物を−70℃でさらに撹拌する。15分後、冷却を除去し、そして混合物を室温でさらに1.5時間撹拌する。反応混合物を20 mlの水と混合し、有機相を飽和NaCl水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、そして溶媒をロータリーエバポレーターで蒸留除去する。粗生成物のNMRスペクトルは、2つの可能性のあるジアステレオマーのうち実質的に1つのみが形成されたことを示している。クロマトグラフィー(シリカゲル;溶離剤=1%のトリエチルアミンを含有するEA/ヘプタン1:2)による精製によって、純粋なジアステレオマーの形態の表題化合物が、橙色泡状体として収率80%で得られる。
【表13】

【0114】
実施例C1.1:C1の他方のエピマーの調製(アルコール炭素における他の立体配置)
2.8 ml(4.6 mmol)のn−BuLi(ヘキサン中1.6 M溶液)を、撹拌しながら0℃で、30 mlのTBME中の0.96 g(1.84 mmol)の化合物A2の溶液へ添加し、そして反応混合物をこの温度でさらに1時間撹拌する。次いで、5 mlのTHF中の1当量の2−(ジフェニルホスフィノ)ベンズアルデヒド(市販されている)の溶液を滴下する。混合物を0℃でさらに30分間撹拌し、次いで冷却浴を除去し、そして温度を室温へ上げる。反応混合物を20 mlの水と混合し、そして酢酸エチルで抽出する。有機相を合わせ、硫酸ナトリウムで乾燥し、そしてロータリーエバポレーターにおいて蒸発乾固させる。粗生成物のNMRスペクトルは、主に他方のエピマーが形成されたことを示している(C1:C1.1の比は約1:4である)。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル60;溶離剤=1%のトリエチルアミンを含有するEA/ヘプタン1:1)によって、第1画分において少量の化合物C1、及び第2画分において表題化合物C1.1が橙色−黄色泡状体として得られる(収率68%)。
【表14】

【0115】
実施例C1.2:以下の調製
【化36】


3 mlのTHF中の175 mg(0.24 mmol)の化合物C1の溶液を、0〜5℃で、1mlのTHF中の42 mg(0.36 mmol)の水素化カリウムの懸濁液へ滴下する。続いて、温度を50℃へ上げ、そして混合物を30分間撹拌する。0〜5℃へ冷却後、18μl(0.29 mmol)のヨウ化メチルを添加する。冷却を除去後、混合物を室温でさらに30分間か撹拌する。黄色懸濁液を水と混合する。TBMEで抽出後、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、そして溶媒を除去する。クロマトグラフィー(シリカゲル;溶離剤=1%NEtを含有する酢酸エチル)による精製によって、表題化合物が固体黄色泡状体として収率92%で得られる。
【表15】

【0116】
実施例C2:以下の調製
【化37】


化合物C2を、化合物B1及び2−ジ(パラ−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ−1−ブロモベンゼンから出発して、実施例C1と類似の方法によって調製する。粗生成物のNMRによれば、2つの可能性のあるジアステレオマーのうち1つのみが形成される。クロマトグラフィー(シリカゲル;溶離剤=EA/ヘプタン1:1.5)による精製によって、純粋なジアステレオマーの形態の表題化合物が、黄色固体泡状体として収率89%で得られる。
【表16】

【0117】
実施例C3:以下の調製
【化38】


化合物C3を、化合物B1及び2−ジエチルホスフィノ−1−ブロモベンゼンから出発して、実施例C1と類似の方法によって調製する。粗生成物のNMRによれば、2つの可能性のあるジアステレオマーのうち1つのみが形成される(>95%)。クロマトグラフィー(シリカゲル;溶離剤=1%のNEtを含有するEA/ヘプタン1:1)による精製によって、純粋なジアステレオマーの形態の表題化合物が、黄色固体泡状体として収率81%で得られる。
【表17】

【0118】
実施例C4:以下の調製
【化39】


化合物C4を、化合物B2及び2−ジフェニルホスフィノ−1−ブロモベンゼンから出発して、実施例C1と類似の方法によって調製する。クロマトグラフィー(シリカゲル;溶離剤=1%のトリエチルアミンを含有するEA/ヘプタン1:2)による精製によって、純粋なジアステレオマーの形態の表題化合物が、橙色泡状体として収率56%で得られる。
【表18】

【0119】
実施例C5:以下の調製
【化40】


0.9 ml(1.4 mmol)のn−BuLi(ヘキサン中1.6モル濃度)を、撹拌しながら−70℃の温度で、20 mlのTHF及び30 mlのTBMEの混合液中の1.7 g(5 mmol)の2−ジフェニルホスフィノ−1−ブロモベンゼンの溶液へ滴下する。赤色反応溶液を−70℃〜−40℃の温度で1時間撹拌する。次いで、この溶液を、30 mlのTBME中の2 g(4.2 mmol)の化合物B3の溶液へ徐々に添加し、そして混合物を−70℃で撹拌する。1時間後、温度を−50℃へ上げる。反応混合物を20 mlの水と混合し、有機相を飽和NaCl水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、そして溶媒をロータリーエバポレーターで蒸留除去する。粗生成物のNMRスペクトルは、2つの可能性のあるジアステレオマーのうち実質的に1つのみが形成されたことを示している。クロマトグラフィー(シリカゲル;溶離剤=アセトン/トルエン1:10)による精製によって、純粋なジアステレオマーの形態の表題化合物が、橙色泡状体として収率55%で得られる。
【表19】

【0120】
実施例C6:以下の調製
【化41】


化合物C6を、化合物B3及び2−ジ(パラ−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ−1−ブロモベンゼンから出発して、実施例C5と類似の方法によって調製する。クロマトグラフィー(シリカゲル;溶離剤=1%のトリエチルアミンを含有するEA/ヘプタン1:20)による精製によって、純粋なジアステレオマーとしての表題化合物が、橙色泡状体として収率75%で得られる。
【表20】

【0121】
実施例C7:以下の化合物の調製
【化42】


化合物C7を、化合物B4及び2−ジフェニルホスフィノ−1−ブロモベンゼンから出発して、実施例C1と類似の方法によって調製する。粗生成物のNMRによれば、2つの可能性のあるジアステレオマーのうち1つのみが形成される(>95%)。クロマトグラフィー(シリカゲル;溶離剤=0.5%のトリエチルアミンを含有するEA/ヘプタン1:5)による精製によって、純粋なジアステレオマーの形態の表題化合物が、黄色固体泡状体として収率51%で得られる。
【表21】

【0122】
実施例C8:以下の化合物の調製
【化43】


化合物C8を、化合物B4及び2−ジ(パラ−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ−1−ブロモベンゼンから出発して、実施例C1と類似の方法によって調製する。粗生成物のNMRによれば、2つの可能性のあるジアステレオマーのうち1つのみが形成される(>95%)。クロマトグラフィー(シリカゲル;溶離剤=0.5%のトリエチルアミンを含有するEA/ヘプタン1:5)による精製によって、純粋なジアステレオマーの形態の表題化合物が、黄色固体泡状体として収率50%で得られる。
【表22】

【0123】
実施例C9:以下の化合物の調製
【化44】


(主なジアステレオマーC9a及び第2ジアステレオマーC9b)
化合物C9を、化合物B5から出発して、実施例C1と類似の方法によって調製する。粗生成物のNMRによれば、約2:8の比の2つの可能性のあるジアステレオマーの混合物が形成される。2つのジアステレオマーは、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル;溶離剤=EA/ヘプタン1:25)によって分離され得る。第1画分は、ジアステレオマーC9bを提供し、これはほんの少量で形成される。それは、橙色固体として収率15%で単離される。
【表23】

【0124】
第2画分は、主なジアステレオマーC9aを橙色固体として収率75%で提供する。
【表24】

【0125】
D)金属錯体の調製
手順:約10 mgの配位子と0.95モル当量の[Rh(ノルボルナジエン)]BFとを、アルゴン雰囲気下で0.7 mlのCDODに溶解する。赤色溶液をNMRチューブへアルゴン下で移し、そして31P−NMRによって検査する。
【0126】
実施例D1:配位子C1とのロジウム錯体
【表25】

【0127】
実施例D2:配位子C1.1とのロジウム錯体
【表26】

【0128】
E)使用実施例
全ての作業を、脱気した溶媒を使用して、アルゴン下で行った。
【0129】
実施例E1−E23:水素化
4.73 mg(0.0127 mmol)の[Rh(ノルボルナジエン)]BF及び(0.0133 mmol)の配位子C1(金属に対する配位子の比=1.05)を、2 mlのメタノール中において10分間撹拌する。4 mlのメタノール中の550 mg(2.5 mmol)のメチルアセトアミドシンナメート(MAC)の溶液を、この溶液へ添加し、続いて物質濃度が0.25 Mとなるために必要とされる量のメタノール(4 ml)を添加する。アルゴンを真空によって除去し、そして容器を水素供給(1 bar)へ連結する。スターラーのスイッチを入れることによって、水素化を開始する。1時間後、スターラーのスイッチを切り、そして溶液を再びアルゴンで覆う。変換及び鏡像体過剰率(ee)を、キラルカラム(Lipodex E)を使用してガスクロマトグラフィーによって測定する:変換は定量的であり、そして光学収率ee(鏡像体過剰率)は98%である。
【0130】
下記表1に示される追加的な物質の水素化を、類似の様式で行う。相対的に高い水素圧を使用する水素化を、スチールオートクレーブ中において行う。反応溶液を、アルゴンの逆流下で、中空針を使用して、アルゴンフラッシュしたオートクレーブへ注入する。結果を表2に報告する。
【0131】
【表27】


略語:ee=鏡像体過剰率、GC=ガスクロマトグラフィー、HPLC=高圧液体クロマトグラフィー
【0132】
【表28】


付加:1)1N HCl(1.2体積%);2)2当量のヨウ化テトラブチルアンモニウム/Irのモル及びCFCOOH(0.6体積%);3)10%CF−CH−OH(体積で)の存在下での反応。
実施例番号11において、温度は80℃であるが、その他は25℃である。
ここで使用される略語:
[S]は、モル基質濃度であり;S/Cは、基質/触媒比であり;tは、水素化時間であり;Solv.は、溶媒であり(MeOH=メタノール;EtOH=エタノール;Tol=トルエン;THF=テトラヒドロフラン;DCE=1,2−ジクロロエタン);金属:水素化において使用される金属前駆体:Rha)=[Rh(ノルボルナジエン)]BF;Rhb)=[Rh(シクロオクタジエン)Cl];Irc)=[Ir(シクロオクタジエン)Cl];Rud)=[Rul(p−シメン)];C=変換;Conf.=立体配置;P=水素圧(bar)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアステレオマーの混合物又は純粋なジアステレオマーの形態の式I及びIaの化合物:
【化45】


式中、
は水素原子又はC−C−アルキルであり、そしてR’はC−C−アルキルであり;
及びXは、各々、互いに独立して、sec−ホスフィノ基であり;
Tは、C−C20−アリーレン、又はO、S、−N=及びN(C−C−アルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を有するC−C18−ヘテロアリーレンであり;
vは、0又は1〜4の整数であり;
は、T−C結合に対してオルト位に結合されており;
Qは、ビニル、メチル、エチル、−CH−OR、−CH−N(C−C−アルキル)、又は金属化試薬の金属をオルト位へ配向させるC−若しくはS−結合されたキラル基であり;
Rは、水素、シリル基、或いは、1〜18個の炭素原子を有し、かつ、非置換であるか又はC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、F又はCFによって置換されている脂肪族、脂環式、芳香族又は芳香族−脂肪族炭化水素基であり;そして
は、ジアステレオマーの混合物又は純粋なジアステレオマーを示す。
【請求項2】
前記化合物が、式Ib又はIcの化合物:
【化46】


[式中、Q、R、R’、X、X及びv並びには、請求項1に記載の意味を有する]
であることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
sec−ホスフィノ基であるX及びXが、互いに独立して、−P(C−C−アルキル)、−P(C−C−シクロアルキル)、−P(C−C−ビシクロアルキル)、−P(o−フリル)、−P(C、−P[2−(C−C−アルキル)C、−P[3−(C−C−アルキル)C、−P[4−(C−C−アルキル)C、−P[2−(C−C−アルコキシ)C、−P[3−(C−C−アルコキシ)C、−P[4−(C−C−アルコキシ)C、−P[2−(トリフルオロメチル)C、−P[3−(トリフルオロメチル)C、−P[4−(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(トリフルオロメチル)C、−P[3,5−ビス(C−C−アルキル)、−P[3,5−ビス(C−C−アルコキシ)及び−P[3,5−ビス(C−C−アルキル)−4−(C−C−アルコキシ)Cからなる群より選択される非環式sec−ホスフィノ、或いは、非置換であるか又は1若しくは複数のC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、C−C−アルコキシ−C−C−アルキル、フェニル、ベンジル、ベンジルオキシ又はC−C−アルキリデンジオキシル基によって置換されている:
【化47】


からなる群より選択される環状ホスフィノ基
であることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
基Qが、式−HCに対応し、ここで、Rが、C−C−アルキル、C−C−シクロアルキル、フェニル、又はベンジルであり、Rが、−OR又は−NRであり、Rが、C−C−アルキル、C−C−シクロアルキル、フェニル、又はベンジルであり、そしてR及びRは、同一であるか又は異なり、かつ、各々、C−C−アルキル、C−C−シクロアルキル、フェニル、又はベンジルであるか、或いはR及びRは、N原子と一緒になって、5〜8員のNヘテロ環式環を形成することを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項5】
がC−C−アルキル又はフェニルであり、RがC−C−アルキルであり、R及びRが同一の基であり、かつ、各々、C−C−アルキルであるか、或いは一緒になってテトラメチレン、ペンタメチレン又は3−オキサ−1,5−ペンチレンを形成することを特徴とする、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
式I及びIaの本発明に従う化合物を製造する方法であって、以下の工程:
a)式II、IIaの化合物又はそれらの混合物:
【化48】


[式中、Q及びRは、Q=−CHOHを除いて、請求項1に記載の意味を有し、そしてハロゲンは、臭素又はヨウ素である]と、少なくとも当量の脂肪族Li sec−アミド又はハロゲン−Mg sec−アミドとを反応させ、式III、IIIaの化合物又はそれらの混合物:
【化49】


[式中、MはLi又は−MgXであり、そしてXはCl、Br又はIである]を形成する工程;
b)式III又はIIIaの化合物と式X−Halo[式中、Haloは、Cl、Br又はIである]の化合物とを反応させ、基Xを導入し、そして式IV又はIVaの化合物:
【化50】


を形成する工程;
c)式IV又はIVaの化合物と、少なくとも当量のアルキルリチウム又はマグネシウムグリニャール化合物とを、次いで少なくとも当量の、
c1)以下の式のα−sec−ホスフィノベンズアルデヒド:
【化51】


とを、
又は
c2)式V又はVaのフェロセンアルデヒド:
【化52】


を形成するために最初にジアルキルホルムアミドとを、
次いで、以下の式の有機金属化合物:
【化53】


とを反応させることによって基−(CH(OH)−T(R’−Xを導入し[式中、R’、X、T、M及びvは、請求項1に記載の意味を有し、そしてMは、Xに対してオルト位に結合されている]、式I又はIaの化合物を得る工程;並びに
d)Qが−CHOHである化合物を製造するために、−CHOR基を誘導体化する工程
を含む、方法。
【請求項7】
式V及びVaの化合物:
【化54】


式中、R、X及びQは、請求項1に記載の意味を有し、但し、以下の式の1−[(ジメチルアミノ)エタ−1−イル]−2−ホルミル−3(ジフェニルホスフィノ)フェロセン:
【化55】


を除く。
【請求項8】
遷移金属Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Ru、Rh、Pd、Os及びIrの群より選択される金属と、配位子としての式I及び/又はIaの化合物のうちの1つとの錯体。
【請求項9】
触媒の存在下でのプロキラル有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加によるキラル有機化合物の製造方法であって、該付加反応が、触媒量の少なくとも1つの請求項8に記載の金属錯体の存在下で行われることを特徴とする、方法。
【請求項10】
キラル有機化合物の製造のための、好ましくはプロキラル有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加のための、均一系触媒としての請求項8に記載の金属錯体の使用。

【公表番号】特表2009−541451(P2009−541451A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517222(P2009−517222)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056556
【国際公開番号】WO2008/000815
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(599163159)ソルヴィーアス アクチェンゲゼルシャフト (22)
【氏名又は名称原語表記】Solvias AG
【Fターム(参考)】