説明

ジャイロセンサ振動体

【課題】 放射状6脚を有するジャイロセンサ振動体に最適な形状および構造を与えることによって、優れた性能のジャイロセンサ振動体を提供すること。
【解決手段】1個の共通の基部1から互いに60度ずつの角度をなして1平面内に放射状に配列された6本の振動脚2a〜2fを有し、6本の脚のうち一直線に並ぶ2本の脚に前記1平面に平行な方向の脚のたわみを検出する検出電極を設けて検出脚とし、他の脚には前記1平面に垂直な方向の脚の振動を駆動する駆動電極を設けて駆動脚とすると共に、検出脚に平行な方向の回転軸回りの回転角速度を、検出脚を用いて検出するようにし、基部1によって支持を行ったジャイロセンサ振動体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体に定常的な振動を与えておいて、作用するコリオリ力を前記振動体の振動の変化を用いて検出する、ジャイロセンサ振動体の形状または構造に関する。更に詳しくは、放射状に配列された振動脚を有する6脚の振動体から成るジャイロセンサ振動体の形状または構造に関する。
【背景技術】
【0002】
回転角速度を検出するセンサとしての振動ジャイロは、それに用いられるジャイロセンサ振動体の相次ぐ発展により、精度が次第に向上し、形状も既にかなり小型化されていて、様々な大小の移動性の機器や装置に搭載され、用途は益々拡大されている。それに伴ってジャイロセンサ振動体には、小型性を維持しながら、一層の性能の向上、即ち、感度、環境安定性、耐外乱性、生産性等の向上が求められ続けている。
【0003】
従来、一定の成功を収めてきたジャイロセンサ振動体は、基本的に音叉型振動体を基礎として、複数個の平行な振動脚を持つものが何種類かあった。すなわちそれらは、2〜6本の平行に配置された屈曲振動する振動脚を持ち、それら全部または一部を脚の配置された平面に平行に振動させ、特定の軸方向に作用するコリオリ力に基づく振動をいずれかの脚で検出するものである。
【0004】
このような音叉型を基調とするセンサ振動体の中には、音叉平面に垂直方向に作用するコリオリ力によるモーメントのバランスが取れておらず、コリオリ力が働くと音叉に捩れ振動が原理的に発生するものや、あるいは振動脚の形状(屈曲や枝分かれなど)がそれぞれ異なり、駆動振動の周波数やコリオリ力検出振動の周波数の調整が必ずしも容易ではないという問題点があった。
【0005】
そこで一方では非平行な振動脚を備えた多脚センサ振動体も、前述の要請に応じて検討されている。下記に例示する従来例のセンサは、振動体を形成する水晶(3回回転対称性を有する圧電性結晶材料であって、光軸であるZ軸の回りに、電気軸であるX軸と機械軸であるY軸が120°の角度を成して3本ずつある)等の結晶材料の3回対称性を利用して、3脚または6脚を有するものである。これらの従来例を以下に挙げる。
【0006】
【特許文献1】特開2001−82963号公報の図5および段落0036〜0040に記載された振動体(以下従来例1とする)。
【特許文献2】特開2004−354358号公報の図19および段落0047に記載された振動体(以下従来例2とする)。
【特許文献3】実用新案登録第3104824号公報(以下従来例3とする)。
【0007】
上記従来例1の振動体は水晶Z面内にY軸方向に延びる放射状6脚を持つ加速度センサまたはジャイロセンサであり、ジャイロセンサの場合は、(1)各脚を1つおきに面外振動させ、面内に平行な回転軸により面内に発生するコリオリ力による各脚の面内撓みを検出するか、(2)各脚に面内振動をさせ、面内回転によるコリオリ力を面外振動として検出するとの記載がある(段落0040)。
【0008】
従来例2および従来例3に記載された振動体は、いずれも回転における角加速度を検出するセンサであって、ジャイロセンサと直接的な関係はないが、構成材料の多対称性を用いている点に共通性があるので例示したものである。
【0009】
上記従来例1(特許文献1)には放射状脚を有するジャイロセンサについてある程度の記載はあるものの、まだ完成度が不足で、各脚にどのように具体的な役割と構成を与えて利用するかという観点からは十分とは言えない。また振動脚の先端が内向きであって支持を行うべき支持部は外枠となっており、十分な剛性を得るには大きな面積を与える必要があるとも考えられ、小型化要求に対する懸念がある。また、振動体の支持構造を含めた最適構造も明らかにはなっていない。また、検出軸の方向がどのように特定されるかは記載されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、放射状6脚を有する振動体を改良して、最適な形状および構造を与えることによって、原理的な単純性と完全性を備えさせると共に、優れた性能のジャイロセンサ振動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のジャイロセンサ振動体は、下記の特徴を備える。
(1)1個の共通の基部から互いに60度ずつの角度をなして1平面内に放射状に配列された6本の振動脚を有し、前記6本の脚のうちの1本の脚の方向を検出軸の方向とし、前記検出軸と平行な方向の1本または2本の脚に検出(駆動)用の電極を設けて検出脚(駆動脚)とし、その他の脚に駆動(検出)用電極を設けて駆動脚(検出脚)とし、前記駆動脚を面外方向に励振し、前記検出軸回りの回転運動に伴うコリオリ力によって前記検出脚に発生する面内振動を検出すること。
【0012】
また、本発明のジャイロセンサ振動体は、更に下記の特徴の1つ或いは複数を備えることがある。
(2)前記(1)の特徴に加え、更に、前記検出軸に平行な2本の脚を検出脚(駆動脚)とし、他の4本の脚を駆動脚(検出脚)とし、前記駆動脚は前記6本の脚を、隣り合う脚同士が互いに逆位相で面外振動するように励振すること。
(3)前記(1)の特徴に加え、更に、前記検出軸に平行な2本の脚を検出脚(駆動脚)とし、他の4本の脚を駆動脚(検出脚)とし、前記駆動脚はすべて同位相の面外振動をするように励振されること。
(4)前記(1)から(3)のいずれかの特徴に加え、更に、前記6本の脚のうち、前記基部において対向する任意の2本の脚の各先端部間の距離の、当該2本の脚の前記基部に接する根元部の間の距離に対する比の値は、2倍から20倍の間であること。
(5)前記(1)から(3)のいずれかの特徴に加え、更に、前記6本の脚のうち、前記基部において対向する任意の2本の脚の各先端部間の距離の、当該2本の脚の前記基部に接する根元部の間の距離に対する比の値は、4倍から10倍の間であること。
(6)前記(1)から(5)のいずれかの特徴に加え、更に、前記基部は6個の辺または6個の頂点を有する形状であり、前記6本の脚の各々の根元部は、前記辺または頂点に位置すること。
(7)前記(1)から(6)のいずれかの特徴に加え、更に、前記基部には前記振動脚の上面電極と下面電極とを接続するための、複数個のスルーホールが設けられていること。
(8)前記(7)の特徴に加え、更に、前記スルーホールの形状は非円形であり、隣り合う前記スルーホールの間に放射状の部分を有すること。
(9)前記(1)から(8)のいずれかの特徴に加え、更に、前記基部の1面が、該基部の平面形状を越えない面を用いて、支持部材に結合されていること。
(10)前記(7)から(9)のいずれかの特徴に加え、更に、前記基部の1面が、前記複数個のスルーホールの内側の部分において、支持部材に結合されていること。
(11)前記(1)から(10)のいずれかの特徴に加え、更に、前記基部には、支持部材を取り付けるための穴が設けられていること。
(12)前記(1)から(11)のいずれかの特徴に加え、更に、前記基部と前記6本の振動脚の主要な素材は、少なくとも3回回転対称性を有する単結晶材料であり、前記1平面の法線の方向は前記単結晶材料の3回回転対称軸にほぼ平行であること。
(13)前記(12)の特徴に加え、更に前記基部と前記6本の振動脚の主要な素材は水晶であり、前記1平面の法線の方向はZ軸に近く、前記6本の放射状の脚の方向はY軸に近く、かつ前記1平面の法線の方向とZ軸方向との差は5度以内であり、また前記放射状の脚の各々の長軸の方向とY軸方向との差は5度以内であること。
(14)前記(1)から(11)のいずれかの特徴に加え、更に、前記基部と前記6本の振動脚の主要な素材はシリコン単結晶材であり、各脚はその表面に形成された圧電性の膜部材を有すること。
(15)前記(1)から(11)のいずれかの特徴に加え、更に、前記基部と前記6本の振動脚の主要な素材は等方性の材料であり、各脚はその表面に形成された圧電性の膜部材を有すること。
【発明の効果】
【0013】
本発明のジャイロセンサ振動体によって、以下の効果が得られる。
(1)動作原理が極めて素直であると共に、励振による振動、コリオリ力による振動の両方とも力学的なバランスが取れており、高い感度と安定した動作が得られ易い。
(2)振動体全体の重心位置が各振動脚の軸線上にあると共に、その重心または重心の極めて近傍を支持できるので、外部から衝撃加速度等を印加されても脚の振動への擾乱が少なく、耐外乱性に優れる。
(3)材料の対称性に合うように放射状の脚を形成しているので、各脚の形状的、力学的な特性を揃えることが容易である。
(4)材料の対称性に合うように放射状の脚を形成しているので、各脚の加工において形状誤差を少なくでき、生産性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
駆動と検出の機能を6本の放射状脚に最適に割り振り、電極の接続機能と振動体の支持の機能を中心の基部に担わせることにより、簡素な構造で高い性能のジャイロセンサ振動体を小型化して実現した。
【実施例1】
【0015】
図1は実施例1のジャイロセンサ振動体を示す斜視図、図2は基部1の詳細形状を示す斜視図である。本実施例1は最も原理的に忠実な形状を与えたものである。振動体は平板状で、水晶のZ板(光軸に垂直な板)から一体的に、例えばエッチングの手法で切り出されている。振動体は、比較的小さい6角形をなす基部1と脚部から成り、脚部は互いに60°の角度を成して放射状に配置された真直で矩形断面を有し、等しい形状寸法の6本の脚2a、2b、2c、2d、2e、2fより成る。
【0016】
各脚の先端部は振動体の外側に位置し、各脚の根元部は振動体の内側で、基部1の6個の頂点に位置している。基部1の6個の頂点は、各脚1a〜1fの根元部と融合しており図上に表れてはいない。水晶Z板面内には、互いに120°の角度をなすX軸(電気軸)と、3本のX軸の各々と直交する3本のY軸(機械軸)が含まれる。各脚1a〜1fの方向は、好ましくはY軸方向またはその逆方向を向くように設定されている。図1および図2にはX,Y,Z座標軸が3組中1組のみ図示されている。各脚の先端部を結ぶ外端円の直径は例えば6〜12mmであり、各脚の幅は0.1〜0.5mm、振動体の厚さは0.1〜1mm程度である。サイズの制約は原理的ではなく製造上の理由が大きい。
【0017】
また外端円の直径の、基部の正6角形の直径に対する比率は2倍から20倍の間にあることが好ましい。なぜなら原理的にはセンサ振動体全体の質量に対して振動脚の質量の占める割合は大きい方が望ましいが、基部には振動脚の結合、振動脚の周囲電極からの引出線の通路、その引出線を外部回路へ接続するための電極パッドを設けるスペース、振動体の基台または容器への支持部としての機能、等々を有するので、かなりの面積を必要とするからである。また基部の形状は原理的には円や正多角形である必要もない。また各脚も固有振動数が正しく調整されている限り厳密に等長でなくても良い。そこで、上記比率については以下のように表現することにする。即ち、基部において対向する任意の2本の脚の各先端部間の距離の、当該2本の脚の前記基部に接する根元部の間の距離に対する比は2倍から20倍の間にあることが良い。更に好ましくは約4倍から10倍の間である。
【0018】
基部1には図2に示すように、各脚の根元部のやや内側(即ち基部1の中心寄り)に、板材を貫通する6個の3角形の穴1a〜1fが設けられている。この穴の役割は、第1に各脚および基部1の表裏に設けられる電極膜を連結するために穴内部に導体膜を形成したスルーホールであり、第2に基部内の剛性の分布を調整し、振動の影響を軽減することである。即ち、隣接する穴の間に残された6本の放射状の、車輪の「輻(や)またはスポーク」のような形状をなす部分は、その外側で各振動脚間の力の伝達を容易にする一方で、その力が内側の支持部に及ぶことを緩和する。第2の役割を効果的にするには、種々な形状的寸法的な検討を要する。例えば穴の形状は角型等異形(非円形)がよい場合が多い。また振動体が載置される基台または容器(図示せず)の支持部材に振動体を固着するには、基部1の表面(Z面)の表裏いずれか(または両面)を用いて行うとよい。
【0019】
支持の固着面積は基部1(の片方の)表面を用いる。その面を基部の形状一杯に使うことも強度上の意味があるが、一般的には小さい方が好ましいので、穴1a〜1fよりも更に基部1の中心寄りの部分の片面において、支持部材と接着するとよい。
【0020】
支持部材としては、ジャイロセンサの特性を重視する場合、水晶と線膨張係数が近似である、水晶材やガラス材がよく、強度を重視する場合は金属材もよい。接着剤も剛支持の場合は例えばエポキシ樹脂、あるいは低融点金属(例えばハンダやAu/Sn合金)による融着がよく、軟支持の場合はシリコーンゴム等耐熱性があって柔軟な材質が用いられる。特に軟支持を行う場合、支持材料との接着面を、穴位置にかかるかまたは穴の外側や基部の全面まで広げることが容易である。しかし剛支持の場合でも、接着剤が穴の縁や穴の内部にかかったとしても、振動の緩衝効果は幾分か残ることが期待される。
【0021】
次に、振動体のジャイロセンサとしての作用を、図3、図4を用いて説明する。この作用は後述する他の実施例についても共通する。
【0022】
図3において、6脚のうち、垂直方向に太い点線で描いた脚2aと2dはコリオリ力による振動を検出する検出脚の役割を担う。太い実線で描いた他の脚2b、2c、2e、2fは駆動(定常的な励振)の役割を担う。駆動脚2b、2c、2e、2fの振動方向は、振動体平面に垂直な方向、いわゆる面外振動であって、脚2bと2fが同位相、脚2cと2fが逆位相とされる。基部から伝達される起振力によって検出脚2aと2dも、振動体全体の慣性力を打ち消す方向に面外振動を行う。結局、駆動脚を励振することによって、脚2a、2c、2eが同位相(Vz+)、脚2b、2d、2fが逆位相(Vz−)で定常的に面外振動を行っている。
【0023】
この状態で、脚2a、2dの方向の回転軸の回りに振動体が回転運動を行った場合を考える。(脚2a、2dの方向が角速度の検出軸の方向となる。)図4に示す如く、この回転の角速度ωyによって、各脚には振動の速度ベクトルと角速度ベクトルの積の方向にコリオリ力Fcが作用する。(説明の便宜上、脚の先端に作用するように図示した。)これらのコリオリ力によって、各脚は検出脚、駆動脚を問わずに、図示した方向の面内たわみを生起する。検出脚2aと2dに設けた検出電極により、コリオリ力Fcに比例した振幅の電圧を圧電的に検出する。この検出電圧を、例えばよく知られた手法により、増幅し、同期検波を行い、整流することによって、角速度に比例した出力が得られる。
【0024】
上記の駆動と検出を行うための電気的手段について、図5を用いて説明する。
図5において、各脚の周囲に配置した電極膜を、各脚の外側に延長した位置に断面図で示した。駆動脚2b、2c、2e、2fの断面の周囲に配した電極4a、4b、4c、4dは駆動用の電極であって、各脚の電極4aと4cを連結したものを端子Aとし、各脚の電極4bと4dを連結したものを端子Bとし、各駆動脚の端子をA−B−A−B−A−B−A−Bのように直列接続するか、あるいはA+A+A+AとB+B+B+Bのように並列接続して、図示しない2端子発振回路の出力に結線すれば、水晶板内で各駆動脚にX軸方向の電界が表裏で逆方向に生じ、各振動脚は面外方向の曲げ力を受けて、図3、4で説明した面外振動が得られる。なお、図示されている脚側面にある電極部分が存在することが理想的であるが、脚側面での分割部の形成加工の困難性のため省略され、脚の上下(表裏)平面のみの電極膜によって駆動電極を構成することがある。
【0025】
図5を用いて次に検出動作を説明する。検出脚2a、2dの周囲には、断面図に示すように、検出用の電極膜3a、3b、3c、3dが形成される。各脚において電極3aと対向面の電極3dが結合されて検出の一方の端子Cとなり、電極3bと対向面の電極3cが結合されて検出の他方の端子Dとなる。端子C、Dは図5に示したように結線され、3個の差動増幅器5aを経由して検出出力Dtとなる。駆動、検出電極は基部1の上面(支持に用いない方の面)や、スルーホールや、各脚の根元部の間の基部の側面や、基部1の下面(支持部材と結合される側の面)における引き回し配線パターンによって接続され、基部の上面内で、図示しないが例えば駆動用2個、検出用2個、合計4個(2組の2端子)の電極パッドに纏められる。
【0026】
本実施例1の有する効果について以下に考察する。
まず本ジャイロセンサ振動体は原理的に極めて単純明快であり、検出軸の方向も明確である。駆動における面外振動の慣性力のバランスも、コリオリ力による面内振動の慣性力のバランスも自動的に達成される。水晶材で図5のような電極配置の場合、圧電的な作用は駆動において比較的弱く、検出において強いが、本実施例では駆動を4本の脚、検出に2本の脚を割り当てているので、駆動と検出における圧電作用のバランスが良い。
【0027】
各方向に延びた脚は単純な真直片持ち梁として動作し、好ましくない屈曲振動等を行い難い。水晶材料の3つの等価な機械軸方向に対する誤差が小さく、同じ弾性的特性を有すると共に、同じ異方性の条件でエッチング加工されるので、エッチング残滓部分の形状も含めて極めて誤差の少ない高い形状精度が得られ、周波数調整以前の固有振動数の誤差も小さい。また、他軸(ωx、ωz)に対する感度も、数値シミュレーション結果によれば、それぞれ1ppmと10ppm程度に過ぎず、十分小さかった。
【0028】
また基部の大きさも小さく、振動体全体の質量中に占める割合も小さい。また事実上各脚の根元への延長部が集まる点に近い部分を実質的に1点で支持することができる。振動体の支持点は振動体全体の重心に一致しているので、支持点に外乱加速度が作用した場合、振動体が受ける擾乱は最小となる。また支持点と外部接続部が近接していることも組立作業性上有利である。また支持部の周辺の穴によって基部内の剛性の分布を調節することができる。
【0029】
また、駆動振動モードと検出振動モードの固有振動数に所定の差を与える、いわゆる離調度の調整も、各脚の幅と素材板の厚さとに差を付けることに帰着するので、それぞれの周波数も、あらかじめ小さな誤差を与え、最終調整を僅かな量で済ませることができる。また検出脚と駆動脚との脚長に差を設ける手段も採用可能である。各脚の駆動電極膜または検出電極膜は、脚の根元から脚長の6〜7割程度にとどめておき、それより先端部には周波数調整用の質量としての膜を設けておくことにより、各脚の細かい周波数調整はこのF調用の膜をトリミングすることによって容易に行うことができる。即ち本発明の振動体は、一言で言えば原理的な利点と製造上の利点を兼ね備えている。
【実施例2】
【0030】
図6は、基部1の穴1a〜1fの形状および位置を実施例1と変更した点に特徴を有する実施例2の、基部1の近傍を示した斜視図である。各穴の形状は2つの円弧を対向する2辺とし、脚と同じ方向の直線を他の対向する2辺とする扇形である。各穴は基部1を、脚の根元に属する領域と、各穴の内側の支持部材と固着される領域とに判然と分け、各振動脚間の力の伝達はなるべく妨げられないように、かつ振動脚からの力が支持部になるべく及ばないようにされている。各穴の境界をなし車輻のような放射状の部分は、各脚の基部側への延長上に存在している。本実施例2は、実施例1に対して基部1の形状の変化に過ぎないので、実施例の有する原理的、作用的、製造・組立上の特徴はほぼそのまま維持される。
【実施例3】
【0031】
図7は、実施例2と同様に、基部1の穴1a〜1fの形状および位置を実施例1と変更した点に特徴を有する実施例3の、基部1の近傍を示した斜視図である。各穴の形状は2つの円弧を対向する2辺とし、脚と同じ方向の直線を他の対向する2辺とする。各穴は基部1を、脚の根元に属する領域と、各穴の内側の支持部材と固着される領域とに判然と分け、各振動脚間の力の伝達はなるべく妨げられないように、かつ振動脚からの力が支持部になるべく及ばないようにされている。各穴の境界をなし車輻に相当する放射状の部分は、各脚の中間へ向かう角度に設けられている。本実施例3も実施例1の作用効果をほぼ維持している。実施例2と実施例3とのいずれの形状の基部の方が優れているかは検討中の段階である。
【実施例4】
【0032】
図8は実施例4のジャイロセンサ振動体の平面図で、実施例1の振動体の各脚1a〜1fの先端にそれぞれ同形状の付加質量を一体的に形成し、振動体の固有振動数を好みの値に下げるようにしたものである。なお、基部1については実施例2の基部形状を採用しているが、それに限定されない。本実施例4についても、基本的な作用効果は実施例1のものを受け継いでいる。
【0033】
以上本発明の4つの実施例について述べたが、以下種々の変形例について記しておく。
(1)駆動・検出モードについて:
実施例1の如く、隣接する各脚に逆位相の面外振動をするよう駆動信号を与える場合、検出脚は2本が良いが、2本でなくともよい。例えば検出脚は1本であっても、その脚の方向を検出軸とするコリオリ力の検出は可能である。また検出脚を3本とすることも考えられる。隣接3本を検出脚とした場合、実施例1と同様な性質の検出ができる。1本おきの3本を検出脚とした場合、検出軸の方向が定まらないと考えられるが、それで差し支えない用途においては実施可能である。また検出脚を4本(実施例1で脚の機能を入れ替える、即ち検出軸の左右に2本ずつの検出脚が配置される)、または5本(中央の脚の方向が検出軸方向となる)とすることも不可能ではない。なお、脚の形状は、好ましくない振動モードを誘発しない範囲で、真直でなく屈曲させてもよい。
【0034】
他の変形例として、実施例1のように駆動脚を4本、検出脚2本(一直線配置)とするが、駆動脚は全て同位相で面外振動させる。検出脚はその反作用によって逆位相の面外振動をなし、検出脚の方向を角速度の検出軸方向とし、コリオリ力によって2本の検出脚が弓形に変形する面内振動モードが発生するのでそのたわみを検出するものである。作用効果はほぼ実施例1に近いものが期待できる。この場合も駆動脚2本、検出脚4本とする(検出軸は4本の検出脚の対称軸となる)更なる変形も可能である。
【0035】
(2)脚の根元部と基部の接続部の形状について:
脚の根元部に作用する衝撃力等の応力集中を避けるという振動体の強度的な要請から、根元部の平面形状の幅は、徐々に広がっていることが好ましい。実施例1〜4ではいずれも正6角形の頂点から隣辺の間の角を2等分する方向に脚が伸びているので、上の条件をある程度は満たしている。しかし更に積極的に、根元部にRを付けたり、6角形を星形(いわゆるダビデの星の輪郭のような形)にして頂角を更に小さくしたりすることもよい。適切なRを設ければ、根元部を辺の上に配置することもできる。また隣接脚の根元部間を、大きなRや辺数の多い多角形でつないでもよい。
【0036】
(3)基部における支持の態様等について:
実施例1においては、基部の片面を支持部材に接着固定したが、他の支持構造も考えられる。例えば、基部の中心部に小穴を設けて細い円柱状の部分を有する金属の支持部材を挿入して接着するのもよく、小面積で強度のある支持構造となり得る。その小穴としては、スルーホールと別個に設けるか、またはスルーホールの1個または複数個を支持用の穴に兼用することができる。例えば1個の穴の位置を中心寄りにずらす、または支持部材を多ピンとし、複数穴に挿通して接着する。なおスルーホールの数は6個とは限定されず、接続の必要を満たし、振動緩和作用に特に支障がない限り、個数は増減しても差し支えない。従って、車輻をなす放射状の部分の数も6個にはとらわれない。例えば、穴数は3個であったり、12個であったりしてもよい。
【0037】
また実施例1においては、励振または検出電極と外部回路との接続用の電極パッドを、基部の支持面と対向する面に設けた。この場合にはワイヤボンディングによる外部接続が良いが、電極パッドを直接相手基板にフェイスダウンボンディングすることによって、支持と接続を兼ねた振動体の実装構造とすることもできる。
【0038】
(4)振動体の材質について:
実施例では振動体の主なる素材として水晶Z板を用い、その3回回転対称性を活用した。故に、加工可能でさえあれば、同様な回転対称性を有する他の圧電単結晶を用いることができる。また、エッチング加工が容易な材質として知られているシリコン単結晶材を用いて振動体を高い形状精度で加工することもできる。シリコン単結晶は圧電性がないので、シリコンの表面には、圧電性を示す膜、絶縁膜、導電性の膜を必要に応じて積層形成し、駆動と検出、配線を行わせる。また、等方性の材料を用いることができる。例えば圧電性セラミックスのグリーンシートを本発明の振動体の形状に打抜き加工し、その後必要な方向に分極操作を行い、電極膜を形成してジャイロセンサ振動体を完成させる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のジャイロセンサ振動体は、動作特性と生産性に優れているため、産業上の利用可能性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1のジャイロセンサ振動体を示す斜視図である。
【図2】実施例1の基部の詳細形状を示す斜視図である。
【図3】実施例1の各脚の役割および駆動の方向と位相を示した模式的な平面図である。
【図4】実施例1の各脚に作用するコリオリ力と、それに起因するたわみ形状を示した模式的な平面図である。
【図5】駆動脚と検出脚の電極配置と検出回路を模式的に示した、各脚の断面図つき平面図である。
【図6】実施例2の基部の詳細形状を示す斜視図である。
【図7】実施例3の基部の詳細形状を示す斜視図である。
【図8】実施例4のジャイロセンサ振動体を示す平面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 基部
1a、1b、1c、1d、1e、1f 穴
2a、2b、2c、2d、2e、2f 脚
3a、3b、3c、3d 検出電極
4a、4b、4c、4d 駆動電極
5a 差動増幅器
6a、6b、6c、6d、6e、6f 付加質量
Vz 面外振動方向
ωy Y軸方向の回転角速度
Fc コリオリ力
Dt 検出出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個の共通の基部から互いに60度ずつの角度をなして1平面内に放射状に配列された6本の振動脚を有し、前記6本の脚のうちの1本の脚の方向を検出軸の方向とし、前記検出軸と平行な方向の1本または2本の脚に検出(駆動)用の電極を設けて検出脚(駆動脚)とし、その他の脚に駆動(検出)用電極を設けて駆動脚(検出脚)とし、前記駆動脚を面外方向に励振し、前記検出軸回りの回転運動に伴うコリオリ力によって前記検出脚に発生する面内振動を検出することを特徴とするジャイロセンサ振動体。
【請求項2】
前記検出軸に平行な2本の脚を検出脚(駆動脚)とし、他の4本の脚を駆動脚(検出脚)とし、前記駆動脚は前記6本の脚を、隣り合う脚同士が互いに逆位相で面外振動するように励振することを特徴とする請求項1に記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項3】
前記検出軸に平行な2本の脚を検出脚(駆動脚)とし、他の4本の脚を駆動脚(検出脚)とし、前記駆動脚はすべて同位相の面外振動をするように励振されることを特徴とする請求項1に記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項4】
前記6本の脚のうち、前記基部において対向する任意の2本の脚の各先端部間の距離の、当該2本の脚の前記基部に接する根元部の間の距離に対する比の値は、2倍から20倍の間であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項5】
前記6本の脚のうち、前記基部において対向する任意の2本の脚の各先端部間の距離の、当該2本の脚の前記基部に接する根元部の間の距離に対する比の値は、4倍から10倍の間であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項6】
前記基部は6個の辺または6個の頂点を有する形状であり、前記6本の脚の各々の根元部は、前記辺または頂点に位置することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項7】
前記基部には前記振動脚の上面電極と下面電極とを接続するための、複数個のスルーホールが設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項8】
前記スルーホールの形状は非円形であり、隣り合う前記スルーホールの間に放射状の部分を有することを特徴とする請求項7に記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項9】
前記基部の1面が、該基部の平面形状を越えない面を用いて、支持部材に結合されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項10】
前記基部の1面が、前記複数個のスルーホールの内側の部分において、支持部材に結合されていることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項11】
前記基部には、支持部材を取り付けるための穴が設けられていることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項12】
前記基部と前記6本の振動脚の主要な素材は、少なくとも3回回転対称性を有する単結晶材料であり、前記1平面の法線の方向は前記単結晶材料の3回回転対称軸にほぼ平行であることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項13】
前記基部と前記6本の振動脚の主要な素材は水晶であり、前記1平面の法線の方向はZ軸に近く、前記6本の放射状の脚の方向はY軸に近く、かつ前記1平面の法線の方向とZ軸方向との差は5度以内であり、また前記放射状の脚の各々の長軸の方向とY軸方向との差は5度以内であることを特徴とする請求項12に記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項14】
前記基部と前記6本の振動脚の主要な素材はシリコン単結晶材であり、各脚はその表面に形成された圧電性の膜部材を有することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のジャイロセンサ振動体。
【請求項15】
前記基部と前記6本の振動脚の主要な素材は等方性の材料であり、各脚はその表面に形成された圧電性の膜部材を有することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のジャイロセンサ振動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−264863(P2009−264863A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113442(P2008−113442)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(500020287)マイクロストーン株式会社 (16)
【出願人】(391001619)長野県 (64)
【Fターム(参考)】