説明

ジュール加熱装置およびその制御方法

【課題】製品タンクからの飲食物の搬出を停止させるときにジュール加熱ユニットにおける飲食物の流量を定常時よりも少なくし得るようにする。
【解決手段】このジュール加熱装置は、ジュール加熱ユニットに供給ポンプから定常時流量で飲食物を供給する定常処理モードと、定常処理モードよりも少ない休止時流量で飲食物をジュール加熱ユニットに供給する休止処理モードとを有し、定常処理モードのもとでは温度センサからの検出信号に基づいて電極に供給される電力をフィードバック制御する一方、定常処理モードから休止処理モードに切り換えられて供給ポンプから供給される飲食物の流量が定常時流量から休止時流量に漸減させる移行処理のもとでは温度センサからの検出信号を読み込むことなく、電極に所定の休止時電力を供給して電力をオープンループ制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性を有する飲食物を被加熱物としてこれを連続的に搬送しながらジュール熱により加熱するジュール加熱技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ジュースやスープなどのように粘性の低い飲食物、並びに蜂蜜、ジャムおよび味噌などのように粘性の高いペースト状の食品のように流動性を有する飲食物を連続的に搬送しながら加熱するために、例えば、特許文献1および2に記載されるように、飲食物自体に通電してジュール熱により飲食物を加熱するようにしたジュール加熱装置が開発されている。
【0003】
飲食物を連続的に流しながら通電加熱するジュール加熱装置は、上記公報に記載されるように、飲食物を連続的に案内する管状部材つまり加熱パイプと、この加熱パイプに対となって設けられた電極とを備えたジュール加熱ユニットを有し、飲食物を管状部材の流路内に流しながらから飲食物を電極から通電するようにしている。1本の加熱パイプには通常複数対の電極が設けられており、ジュール加熱ユニットは、1本の加熱パイプにより構成されるタイプと、飲食物を複数段階で所定の殺菌温度まで加熱するため複数の加熱パイプにより構成されるタイプとがある。
【特許文献1】特許第2821087号公報
【特許文献2】特許第2840014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなジュール加熱装置は連続的に加熱処理された飲食物を所定量収容するための回収タンクつまり製品タンクを有しており、製品タンクにはジュール加熱ユニットにより加熱された飲食物を直接収容する場合と、加熱された飲食物を冷却ユニットにより冷却した後に収容する場合とがある。製品タンク内の飲食物は包装ユニットに搬送され、包装ユニットにおいて飲食物は包装されて出荷される。
【0005】
例えば、スープを製造するためのジュール加熱装置は、製品タンクから搬出されたスープを樹脂製の袋体に無菌充填するための包装ユニットを有している。包装ユニットには所定数の袋体を収容するカートリッジが装填されるようになっており、装填された袋体が全て使用された後には袋体を収容したカートリッジを包装ユニットに装填する必要があり、そのときには製品タンクからの製品の搬出を停止ないし休止させる必要がある。同様に、包装ユニットが故障した場合には、故障修理が終了するまで製品タンクから製品の搬出を停止する必要がある。このように、飲食物を連続的に搬送しながらジュール加熱して飲食物を調理したり殺菌したりするジュール加熱装置においては、製品タンクから加熱処理後の飲食物の搬出を休止させる場合があり、搬出を休止させた状態のもとでも、ジュール加熱ユニットを作動し続けるために、従来、比較的大型の製品タンクが設けられている。これにより、製品タンクからの製品の搬出が停止された状態のもとでも、定常時流量で連続的にジュール加熱ユニットに飲食物を供給しジュール加熱ユニットから飲食物を製品タンクに供給することができる。
【0006】
ジュール加熱装置により加熱処理される飲食物には種々のものがある。上述したスープ製品のみならず、飲食物を加熱する場合には所定の殺菌温度以上に飲食物が加熱されるように、電極に供給される電力を飲食物の加熱後の温度に基づいてフィードバック制御しており、製品タンクからの製品の搬出が停止されたときに、製品タンクにジュール加熱ユニットから供給される飲食物の量を低下させると、それがフィードバック制御の外乱となって電極に対して供給される電力が大きく上昇下降変動し、所定の殺菌温度まで加熱されない部分が発生することがある。飲食物が所定の殺菌温度まで加熱されない場合にはそれを廃棄する必要がある。ジュール加熱ユニットにホッパなどから供給される飲食物の供給量を変化させると、所定の温度まで製品が加熱されない場合があり、飲食物の製造歩留まりを低下させることになる。そのため従来は、ジュール加熱装置の処理条件を常に一定にするとともに、製品タンクからの搬出が包装ユニットにおける部品の交換や故障修理のために停止される時間を考慮して製品タンクを大型にする必要があった。
【0007】
本発明の目的は、製品タンクからの飲食物の搬出を停止させるときに、ジュール加熱ユニットにおける飲食物の流量を定常時よりも少なくし得るようにすることにある。
【0008】
本発明の他の目的は、ジュール加熱ユニットにより加熱された飲食物を収容する製品タンクを小型化し得るようにすることにある。
【0009】
本発明の目的は、ジュール加熱ユニットにおける飲食物の流量を定常時よりも少ない流量としても、飲食物に対する加熱温度が所定の温度以下に低下しないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のジュール加熱装置は、流路内を搬送される流動性の飲食物に電極により通電して飲食物をジュール熱により加熱するジュール加熱ユニットと、前記ジュール加熱ユニットに飲食物を供給する供給ポンプと、前記ジュール加熱ユニットにより加熱された後の飲食物を収容する製品タンクと、前記ジュール加熱ユニットにより加熱された飲食物の温度を検出する温度センサと、前記電極に電力を供給する電源ユニットと、前記ジュール加熱ユニットに前記供給ポンプから定常時流量で飲食物を供給する定常処理モードと、前記製品タンクからの飲食物の搬出を休止させる際に前記定常処理モードよりも少ない休止時流量で飲食物を前記ジュール加熱ユニットに供給する休止処理モードとに切り換えるモード切換手段と、前記定常処理モードおよび前記休止処理モードのもとでは前記温度センサからの検出信号に基づいて前記電極に供給される電力をフィードバック制御する一方、前記定常処理モードから前記休止処理モードに切り換えられて前記供給ポンプから供給される飲食物の流量が定常時流量から休止時流量に漸減させる休止移行処理のもとでは前記温度センサからの検出信号を読み込むことなく、前記電極に休止移行電力を供給して電力をオープンループ制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明のジュール加熱装置は、前記休止処理モードから前記定常処理モードに切り換えられて前記供給ポンプから供給される飲食物の流量が休止時流量から定常時流量に漸増させる定常移行処理のもとでは前記温度センサからの検出信号を読み込むことなく、前記電極に定常移行電力を供給して電力をオープンループ制御することを特徴とする。
【0012】
本発明のジュール加熱装置は、前記休止移行電力を一定の休止時電力とすることを特徴とする。
【0013】
本発明のジュール加熱装置は、前記休止移行電力を飲食物の漸減流量に応じて定常時電力から休止時電力に漸減することを特徴とする。
【0014】
本発明のジュール加熱装置は、前記定常移行電力を一定の定常時電力とすることを特徴とする。
【0015】
本発明のジュール加熱装置は、前記定常移行電力を飲食物の漸増に応じて休止時電力から定常時電力に漸増することを特徴とする。
【0016】
本発明のジュール加熱装置の制御方法は、流路内を搬送される流動性の飲食物を電極により通電して飲食物をジュール熱により加熱するジュール加熱ユニット、前記ジュール加熱ユニットに飲食物を供給する供給ポンプ、前記ジュール加熱ユニットにより加熱された後の飲食物を収容する製品タンク、前記ジュール加熱ユニットにより加熱された飲食物の温度を検出する温度センサ、および前記電極に電力を供給する電源ユニットを有するジュール加熱装置の制御方法であって、前記ジュール加熱ユニットに前記供給ポンプから定常時流量で飲食物を供給する定常処理モードと、前記製品タンクからの飲食物の搬出を休止させる際に前記定常処理モードよりも少ない休止時流量で飲食物を前記ジュール加熱ユニットに供給する休止処理モードとにおいては、前記温度センサからの検出信号に基づいて前記電極に供給される電力をフィードバック制御するフィードバック制御工程と、前記モード切換手段の操作により前記定常処理モードから前記休止処理モードに切り換えられて前記供給ポンプから供給される飲食物の流量を、定常時流量から休止時流量に漸減させるときは、前記温度センサからの検出信号を読み込むことなく、前記電極に休止移行電力を供給して電極をオープンループ制御する休止移行処理制御工程とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明のジュール加熱装置の制御方法は、前記モード切換手段の操作により前記休止処理モードから前記定常処理モードに切り換えられて前記供給ポンプから供給される飲食物の流量を、休止時流量から定常時流量に漸増させるときは、前記温度センサからの検出信号を読み込むことなく、前記電極に定常移行電力を供給して電力をオープンループ制御する定常移行処理制御工程を有することを特徴とする。
【0018】
本発明のジュール加熱装置の制御方法は、前記休止移行電力を一定の休止時電力とすることを特徴とする。
【0019】
本発明のジュール加熱装置の制御方法は、前記休止移行電力を飲食物の漸減流量に応じて定常時電力から休止時電力に漸減することを特徴とする。
【0020】
本発明のジュール加熱装置の制御方法は、前記定常移行電力を一定の定常時電力とすることを特徴とする。
【0021】
本発明のジュール加熱装置の制御方法は、前記定常移行電力を飲食物の漸増に応じて休止時電力から定常時電力に漸増することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ジュール加熱ユニットにより加熱された飲食物を収容する製品タンクから飲食物の製品が搬出されているときにジュール加熱ユニットに飲食物を定常時流量で供給する定常時処理モードと、製品タンクからの飲食物の搬出が停止されたときに定常時流量よりも少ない流量でジュール加熱ユニットに飲食物を供給する休止処理モードとを有しているので、製品タンクから搬送された飲食物を包装する包装ユニット等において故障や部品交換の作業が発生した場合のように、製品タンクからの飲食物の搬出が停止ないし休止されるときには、ジュール加熱ユニットに定常時よりも少ない流量で飲食物を供給することができ、製品タンクに供給される飲食物の量を少なくすることができる。これにより、製品タンクを小型化することができる。
【0023】
本発明によれば、定常処理モードから休止処理モードに切り換えられる休止移行処理のときには、電極には一定の休止時電力を供給するか、あるいは飲食物の漸減流量に応じて休止時電力を漸減するとともに電力をオープンループ制御するので、休止移行処理において飲食物が所定の加熱温度よりも低下することが防止される。
【0024】
本発明によれば、休止処理モードから定常処理モードに切り換えられる定常移行処理のときには、電極には一定の定常時電力を供給するか、あるいは飲食物の漸増流量に応じて定常時電力を漸増するとともに電力をオープンループ制御するので、定常移行処理において飲食物が所定の加熱温度よりも低下することが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は本発明のジュール加熱装置のシステム全体構成を示す概略図である。このジュール加熱装置10は、チーズ等の流動性を有する飲食物を被加熱物としてこれを加熱処理するために使用されており、予め流動状態に調合された飲食物が投入されて飲食物を所定量収容するホッパ11と、このホッパ11から供給管12を介して連続的に供給される飲食物を所定の殺菌温度まで加熱するジュール加熱ユニット13とを有し、供給管12にはホッパ11内の飲食物をジュール加熱ユニット13に供給するための供給ポンプ14が設けられている。
【0026】
ジュール加熱ユニット13には接続管15aにより冷却ユニット16が接続されており、ジュール加熱ユニット13により加熱された飲食物は、冷却ユニット16に送られて冷却される。冷却ユニット16には接続管15bにより製品タンク17が接続されており、ジュール加熱ユニット13により加熱された飲食物は冷却ユニット16により冷却された後に製品タンク17に収容される。製品タンク17は搬送管18により包装ユニット19に接続されており、搬送管18に設けられた搬送ポンプ20により製品タンク17内の飲食物は包装ユニット19に搬送される。包装ユニット19としては、製品を樹脂製フィルムにより包装するようにしたり、樹脂製の袋に製品を注入するようにしたり、瓶や缶などの容器に製品を注入するタイプがあり、飲食物は所定量毎に包装されて出荷される。
【0027】
ジュール加熱ユニット13は、内部に流路が形成され相互に接続管21により直列に接続された第1段目から第4段目までの4つの加熱パイプ22を有しており、ホッパ11から供給ポンプ14によりジュール加熱ユニット13に供給された飲食物は、殺菌温度まで加熱される。例えば、チーズを被加熱物である飲食物とする場合には、85〜98℃程度の温度まで加熱される。図1に示すジュール加熱ユニット13は4つの加熱パイプ22を有し、最終段の加熱パイプ22を通過した被加熱物は保温機としてのホールド管23において最終の加熱終了温度に所定時間保持された後に冷却ユニット16に供給される。なお、ジュール加熱ユニット13は、図示するように4つの加熱パイプ22により構成することなく、被加熱物である飲食物の種類や搬送流量等に応じて任意の数の加熱パイプ22により構成することができる。
【0028】
冷却ユニット16は、内部に流路が形成され相互に接続管24により直列に接続された4本の冷却パイプ25を有し、加熱終了後の被加熱物はそれぞれの冷却パイプ25内の流路に搬送される。それぞれの冷却パイプ25の外側には外側パイプ26が取り付けられ冷却パイプ25と外側パイプ26との間には冷却媒体が供給される冷却室27が形成され、それぞれの冷却室27には冷水発生機28により生成された冷却水つまりチラーが冷却媒体として配管29を介して供給されるようになっている。冷却パイプ25内を連続的に流れる飲食物は冷却媒体により冷却される冷却パイプ25によって間接的に冷却され、製品タンク17に搬送される。冷却ユニット16内を流れる飲食物の圧力を調整するために、接続管24には補助ポンプ30が取り付けられている。なお、冷却ユニット16を構成する冷却パイプ25の本数は任意に設定することができる。
【0029】
図1に示すジュール加熱装置10は、ジュール加熱ユニット13と冷却ユニット16と製品タンク17とを含めて、殺菌加熱された飲食物を冷却した後に所定量収容するようにした飲食物の製造システムを構成している。ただし、冷却ユニット16が使用されない場合には接続管15aによりジュール加熱ユニット13は直接製品タンク17に接続されることになる。
【0030】
図2はジュール加熱ユニット13を構成する4つの加熱パイプ22の1つを示す拡大断面図であり、加熱パイプ22は複数のリング状の電極31とこれらの間に配置される複数の円筒体32とにより構成されており、内部には被加熱物である飲食物を案内する流路33が形成されている。それぞれの電極31はチタンやステンレス等の導体により形成され、それぞれの円筒体32は樹脂等の絶縁体により形成されており、加熱パイプ22の両端部には流入側と流出側のジョイント部34,35が取り付けられている。それぞれの電極31には電源ユニット36がケーブルを介して接続されており、被加熱物の流れる方向に隣り合って対をなす電極31が相互に逆極性となるように電源ユニット36から高周波電流が供給される。なお、図1に示されたそれぞれの加熱パイプ22に設けられる電極31の数は、被加熱物の種類や加熱温度等に応じて任意に設定される。
【0031】
図3は図1に示すようにホッパ11から包装ユニット19までを含めたジュール加熱装置10の制御回路を示すブロック図である。図3においては、図1に示されたジュール加熱ユニット13を構成する4つの加熱パイプ22には上流側から下流側に向けて符号a〜dが付されており、加熱パイプ22a〜22dのそれぞれの電極31には電源ユニット36から電力が供給される。電源ユニット36からそれぞれの電極31に供給される電力を、加熱パイプ22a〜22d毎に相違させるようにしても良く、上流側の2つの加熱パイプ22a,22bと下流側の2つの加熱パイプ22c,22dに供給される電力を相互に相違させるようにしても良い。
【0032】
最終段の加熱パイプ22dの出口に接続された接続管15aには、全ての加熱パイプ22により加熱されてジュール加熱ユニット13から流出する飲食物の加熱終了温度を検出する温度センサ37が設けられており、この温度センサ37の検出信号は、制御手段としてのコントロールユニット38に送られる。なお、温度センサ37を加熱パイプ22dの出口側端部に取り付けるようにしても良い。
【0033】
コントロールユニット38には操作パネル39が接続されており、被加熱物の種類、それぞれの電極31に対して供給される電力、および被加熱物に対する処理モードなどのジル加熱装置10の運転条件を入力するための入力スイッチが操作パネル39に設けられている。図3において符号39aは定常処理モードへのモード切換スイッチであり、符号39bは休止処理モードへのモード切換スイッチである。定常処理モードの切換スイッチ39aが作業者により操作されると、供給ポンプ14からは定常時流量で飲食物がジュール加熱ユニット13に供給され、休止処理モードの切換スイッチ39bが作業者により操作されると、供給ポンプ14からは定常時流量よりも少ない流量である休止時流量で飲食物がジュール加熱ユニット13に供給される。
【0034】
コントロールユニット38には制御信号を演算するマイクロプロセッサCPUと、制御プログラム、演算式およびマップデータなどが格納されるROMと、一時的にデータを格納するRAMとが設けられており、コントロールユニット38からは供給ポンプ14,搬送ポンプ20、補助ポンプ30、および電源ユニット36にそれぞれ制御信号が送られる。
【0035】
図4は図1に示すジュール加熱装置10により飲食物を加熱処理する場合の処理モードを示すタイムチャートであり、図5は飲食物を加熱処理したときの飲食物の温度変化を示すタイムチャートである。本発明のジュール加熱装置10は、図4に示すように、製品タンク17から包装ユニット19に対して加熱処理後の製品を搬送させる定常処理モードと、包装ユニット19における部品交換等によりその作動が停止される場合のように、製品タンク17からの飲食物の搬送を停止ないし休止させる休止処理モードとを有している。定常処理モードでは、ホッパ11から供給ポンプ14によりジュール加熱ユニット13には定常時流量、例えば1200l/hの流量で飲食物が供給されるのに対し、休止処理モードでは、ジュール加熱ユニット13には休止時流量、例えば600l/hの流量、つまり定常時流量の2分の1の流量で飲食物が供給される。また、定常処理モードでは、電極31に対しては電源ユニット36から定常時電力、例えば1000Vが定常時電力の基準値として供給されるのに対し、休止処理モードでは、電極31に対しては休止時電力、例えば500Vつまり定常時電力の2分の1の電力が基準値として供給される。
【0036】
このように、休止処理モードでは流量を定常時よりも少なくして製品タンク17が短時間で満杯になることなく、包装ユニット19における部品交換等の時間を確保できるようにし、少なくした流量に対応させて電極31に供給される電力も少なくすることにより、結果的に飲食物が所定の殺菌加熱温度以上になるようにしている。定常処理モードと休止処理モードのそれぞれにおいては、温度センサ37からの検出信号に基づいて電源ユニット36から電極31に供給される電力がフィードバック制御される。したがって、定常処理モードでは、定常時電力を基準電力としてジュール加熱ユニット13の飲食物の加熱終了温度が設定温度よりも高くなれば電力が低められ、逆に加熱終了温度が設定温度よりも低くなれば電力が高められるように電力がフィードバック制御される。これにより、飲食物の加熱温度が所望の殺菌温度以上の温度に保持される。同様に、休止処理モードでは、休止時電力を基準電力として飲食物の加熱終了温度の変化に応じて電力がフィードバック制御され、飲食物の加熱温度が定常処理モードと同様に所望の殺菌温度以上の温度となるように保持される。このように、定常処理モードと休止処理モードのいずれのモードにおいても、温度センサ37からの検出信号に基づいて電極に供給される電力をフィードバック制御することにより、製品化に必要となる殺菌加熱温度よりも低い温度となることが防止される。このフィードバック制御における制御動作としては、比例微分(PD)動作、または比例積分微分(PID)動作が使用されている。
【0037】
上述した定常処理モードから休止処理モードには、操作パネル39に設けられたモード切換手段としての切換スイッチ39aを作業者が操作することにより切り換えられ、同様に休止処理モードから定常処理モードには、作業者がモード切換手段としての切換スイッチ39bを操作することにより切り換えられる。定常処理モードから休止処理モードへの切り換えが行われるのは、例えば、包装ユニット19において部品の交換等が行われるために、製品タンク17からの製品の搬出を停止する場合であり、休止処理モードから定常処理モードへの切り換えが行われるのは、例えば、部品の交換等が終了して製品タンク17から製品の搬出を再開する場合である。
【0038】
図4において、例えば、時点Aのときに作業者が操作パネル39の切換スイッチ39aを操作して定常処理モードから休止処理モードに切り換えられたとすると、瞬時に飲食物の流量を定常時流量から休止時流量に切り換えることなく、所定の休止処理移行時間T1をかけて流量を漸減させる。同様に、例えば、時点Cのときに作業者が操作パネル39の切換スイッチ39bを操作して休止処理モードから定常処理モードに切り換えられたとすると、所定の定常処理移行時間T2をかけて流量を休止時流量から定常時流量に漸増させる。図4において、符号Bは休止移行処理が終了して休止処理モードに切り換えられた時点を示し、符号Dは定常移行処理が終了して定常処理モードに切り換えられた時点を示す。休止処理移行時間T1としては、例えば180秒程度に設定され、定常処理移行時間T2としては、例えば120秒程度に設定されている。
【0039】
それぞれの移行処理モードにおいて、定常処理モードおよび休止処理モードと同様に温度センサ37からの検出信号に基づいて電力をフィードバック制御すると、図5において破線で示すように、フィードバック制御系の動作ゲインが大きくなることから、ジュール加熱ユニット13により飲食物の加熱処理温度が大きく変動することになり、飲食物が所定の殺菌温度以下になることがある。
【0040】
本発明は、流量を漸減しながら定常処理モードから休止処理モードに移行する休止移行処理モードにおいては、温度センサ37からの検出信号を読み取ることなく、休止移行電力を供給して電力はオープンループ制御が行われる。この移行時にオープン制御を行うと、飲食物の加熱温度はそれまでの定常処理モード時よりもやや高めになるが、所定の加熱設定温度よりも低くなることが防止される。
【0041】
同様に、流量を漸増しながら休止処理モードから定常処理モードに移行する定常移行処理モードにおいては、温度センサ37からの検出信号を読み取ることなく、定常移行電力を供給して電力はオープンループ制御が行われる。この移行時にオープンループ制御を行うと、飲食物の加熱温度はそれまでの休止処理モードよりもやや高めになるが、所定の加熱設定温度よりも低くなることが防止される。
【0042】
図6(A),(B)はそれぞれ休止移行電力と定常移行電力の制御パターンを示すタイムチャートであり、図6において時点A〜Dはそれぞれ図4における時点A〜Dに対応する。図6(A)に示す制御パターンにおいては、定常処理モードから休止処理モードに切り換えられたとき(時点A)には、休止移行電力として一定の休止時電力、例えば500Vが設定され、電極には休止移行処理が終了するまで一定の電力が供給される。同様に、休止処理モードから定常処理モードに切り換えられたとき(時点C)には、定常移行電力として一定の定常時電力、例えば1000Vが設定され、電極には定常移行処理が終了するまで一定の電力が供給される。
【0043】
一方、図6(B)に示す制御パターンとしては、定常処理モードから休止処理モードに切り換えられたとき(時点A)には、休止移行電力を休止移行処理における飲食物の漸減流量に対応させて定常時電力から休止時電力にまで漸減させる。これにより、電極には飲食物の流量変化にほぼ対応して徐々に低下するように電力が供給される。同様に、休止処理モードから定常処理モードに切り換えられたとき(時点C)には、定常移行電力を定常移行処理における飲食物の漸増流量に対応させて休止時電力から定常時電力にまで漸増させる。これにより、電極には飲食物の流量変化にほぼ対応して徐々に上昇するようにして電力が供給される。
【0044】
このように、休止移行電力としては定常処理時よりも低い電力であって移行処理が終了して休止処理モードとなったときに休止時電力が設定されるのであれば、図6(A)に示すように一定の電力としても良く、図6(B)に示すように電力を変化させるようにしても良い。同様に、定常移行電力としては休止処理時よりも高い電力であって移行処理が終了して定常処理モードとなったときに定常時電力が設定されるのであれば、図6(A)に示すように一定の電力としても良く、図6(B)に示すように電力を変化させるようにしても良い。電力を変化させるパターンとしては、図6(A),(B)に示すように漸次変化させることなく、段階的に電力を変化させるようにしても良い。
【0045】
図7は本発明のジュール加熱装置10による飲食物の加熱処理手順を示すアルゴリズムであり、定常処理モードにより飲食物が加熱処理されている状態のもとで、包装ユニット19の部品交換等により製品タンク17からの製品の搬出を停止させるために操作パネル39の切換スイッチ39aが操作されて定常処理モードから休止処理モードにジュール加熱装置10の運転が切り換えられたことがステップS1において判定されたときには、供給ポンプ14の流量が定常時流量から休止時流量に漸減され、温度センサ37からの信号の読み取りが停止され、さらに、ジュール加熱装置10の運転がフィードバック制御工程からオープンループ制御工程に切り換えられる(ステップS2〜S4)。
【0046】
ステップS2において実行されたポンプ流量の漸減処理により供給ポンプ14の流量が定常時流量から休止時流量にまで到達したことが、タイマーや流量計等によりステップS5において判定されたならば、温度センサ37からの信号を読み取って、ジュール加熱装置10の運転がオープンループ制御工程からフィードバック制御工程に切り換えられる(ステップS6,S7)。
【0047】
次いで、包装ユニット19における部品の交換や修理が終了し、製品タンク17からの製品の搬出を再開させるために作業者により操作パネル39の切換スイッチ39bが操作されて休止処理モードから定常処理モードにジュール加熱装置10の運転が切り換えられたことがステップS8において判定されたときには、供給ポンプ14の流量が休止時流量から定常時流量に漸増され、温度センサ37からの信号の読み取りが停止され、さらに、ジュール加熱装置10の運転がフィードバック制御工程からオープンループ制御工程に切り換えられる(ステップS9〜S11)。
【0048】
ステップS9において実行されたポンプ流量の漸増処理により供給ポンプ14の流量が休止時流量から定常時流量にまで到達したことが、タイマーや流量計等によりステップS12において判定されたならば、温度センサ37からの信号を読み取って、ジュール加熱装置10の運転がオープンループ制御工程からフィードバック制御工程に切り換えられる(ステップS13,S14)。
【0049】
このように、本発明のジュール加熱装置10は定常時流量で飲食物をジュール加熱ユニット13により加熱する定常処理モードと、これに加えて定常時流量よりも少ない流量で飲食物をジュール加熱ユニット13に供給する休止処理モードとを有しているので、製品タンク17から飲食物の搬出を停止するときには、休止処理モードに設定すると、製品タンク17に供給される加熱済みの飲食物の量が少なくなるので、製品タンク17が満杯となるまでの時間を長くすることができる。これにより、製品タンク17の容量を小さくすることができ、製品タンク17を含めたジュール加熱装置10のサイズを小型化することができ、ジュール加熱装置10を狭い設置場所に据え付けることができる。また、本発明においては、定常処理モードから休止処理モードに移行する休止移行処理および休止処理モードから定常処理モードに移行する定常移行処理においては、電力の制御をフィードバック制御することなく、オープンループ制御に切り換えることによって、飲食物が所定の殺菌温度よりも低下することなく、所望の加熱品質を確保することができる。
【0050】
図8(A)はジュール加熱ユニットの他の具体例を示す縦断面図であり、図8(B)は図8(A)の横断面図である。ジュール加熱ユニット13を構成する加熱パイプ22は、被加熱物である飲食物を案内する流路33が形成された断面四角形の管状部材41を有している。この管状部材41は樹脂等の絶縁材料により形成され、この内面には2枚の板状の電極31が相互に対向して取り付けられており、それぞれの電極31には電源ユニット36がケーブルにより接続されている。管状部材41の両端には流入側と流出側のジョイント部34,35が取り付けられている。
【0051】
図9はジュール加熱ユニット13の更に他の具体例を示す縦断面図である。ジュール加熱ユニット13を構成する加熱パイプ22は、被加熱物を案内する流路33が形成された断面円形の管状部材42を有し、管状部材42は樹脂等の絶縁材料により形成されている。管状部材42の両端面には相互に対向するように板状の電極31が取り付けられており、それぞれの電極31には電源ユニット36がケーブルにより接続されている。管状部材42の両端部には流入側と流出側のジョイント部34,35が設けられている。なお、このタイプの加熱パイプ22においては、管状部材42を断面四角形としても良い。
【0052】
図10はジュール加熱ユニット13の更に他の具体例を示す縦断面図である。ジュール加熱ユニット13を構成する加熱パイプ22は、被加熱物を案内する流路33が形成された断面円形の管状部材43を有し、管状部材43の両端は端板部44により閉塞されており、この管状部材43は端板部44を含めて樹脂等の絶縁材料により形成されている。管状部材43の内面には円筒形状の電極31aが固定され、管状部材43の中心部に配置される棒状の電極31bはその両端が端板部44により固定されている。円筒形状と棒状の両方の電極31a,31bには電源ユニット36がケーブルにより接続されており、管状部材43の両端部には流入側と流出側のジョイント部34,35が設けられている。
【0053】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、ジュール加熱ユニット13は複数の加熱パイプ22を有しているが、1つの加熱パイプ22でジュール加熱ユニット13を形成しするようにしても良い。また、本発明のジュール加熱装置10は、流動性を有する飲食物であれば、上述したものに限られず、種々の飲食物の加熱に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のジュール加熱装置のシステム全体構成を示す概略図である。
【図2】ジュール加熱ユニットを構成する4つの加熱パイプの1つを示す拡大断面図である。
【図3】ジュール加熱装置の制御回路を示すブロック図である。
【図4】ジュール加熱装置により飲食物を加熱処理する場合の処理モードを示すタイムチャートである。
【図5】飲食物を加熱処理したときの飲食物の温度変化を示すタイムチャートである。
【図6】(A),(B)はそれぞれ休止移行電力と定常移行電力の制御パターンを示すタイムチャートである。
【図7】本発明のジュール加熱装置による飲食物の加熱処理手順を示すアルゴリズムである。
【図8】(A)は加熱ユニットの他の具体例を示す縦断面図であり、(B)は(A)の横断面図である。
【図9】加熱ユニットの更に他の具体例を示す縦断面図である。
【図10】加熱ユニットの更に他の具体例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10 ジュール加熱装置
11 ホッパ
12 供給管
13 ジュール加熱ユニット
14 供給ポンプ
16 冷却ユニット
17 製品タンク
18 搬送管
20 搬送ポンプ
22 加熱パイプ
31 電極
36 電源ユニット
37 温度センサ
38 コントロールユニット(制御手段)
39 操作パネル
39a,39b 切換スイッチ(モード切換手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路内を搬送される流動性の飲食物に電極により通電して飲食物をジュール熱により加熱するジュール加熱ユニットと、
前記ジュール加熱ユニットに飲食物を供給する供給ポンプと、
前記ジュール加熱ユニットにより加熱された後の飲食物を収容する製品タンクと、
前記ジュール加熱ユニットにより加熱された飲食物の温度を検出する温度センサと、
前記電極に電力を供給する電源ユニットと、
前記ジュール加熱ユニットに前記供給ポンプから定常時流量で飲食物を供給する定常処理モードと、前記製品タンクからの飲食物の搬出を休止させる際に前記定常処理モードよりも少ない休止時流量で飲食物を前記ジュール加熱ユニットに供給する休止処理モードとに切り換えるモード切換手段と、
前記定常処理モードおよび前記休止処理モードのもとでは前記温度センサからの検出信号に基づいて前記電極に供給される電力をフィードバック制御する一方、前記定常処理モードから前記休止処理モードに切り換えられて前記供給ポンプから供給される飲食物の流量が定常時流量から休止時流量に漸減させる休止移行処理のもとでは前記温度センサからの検出信号を読み込むことなく、前記電極に休止移行電力を供給して電力をオープンループ制御する制御手段とを有することを特徴とするジュール加熱装置。
【請求項2】
請求項1記載のジュール加熱装置において、前記休止処理モードから前記定常処理モードに切り換えられて前記供給ポンプから供給される飲食物の流量が休止時流量から定常時流量に漸増させる定常移行処理のもとでは前記温度センサからの検出信号を読み込むことなく、前記電極に定常移行電力を供給して電力をオープンループ制御することを特徴とするジュール加熱装置。
【請求項3】
請求項1記載のジュール加熱装置において、前記休止移行電力を一定の休止時電力とすることを特徴とするジュール加熱装置。
【請求項4】
請求項1記載のジュール加熱装置において、前記休止移行電力を飲食物の漸減流量に応じて定常時電力から休止時電力に漸減することを特徴とするジュール加熱装置。
【請求項5】
請求項2記載のジュール加熱装置において、前記定常移行電力を一定の定常時電力とすることを特徴とするジュール加熱装置。
【請求項6】
請求項2記載のジュール加熱装置において、前記定常移行電力を飲食物の漸増に応じて休止時電力から定常時電力に漸増することを特徴とするジュール加熱装置。
【請求項7】
流路内を搬送される流動性の飲食物を電極により通電して飲食物をジュール熱により加熱するジュール加熱ユニット、前記ジュール加熱ユニットに飲食物を供給する供給ポンプ、前記ジュール加熱ユニットにより加熱された後の飲食物を収容する製品タンク、前記ジュール加熱ユニットにより加熱された飲食物の温度を検出する温度センサ、および前記電極に電力を供給する電源ユニットを有するジュール加熱装置の制御方法であって、
前記ジュール加熱ユニットに前記供給ポンプから定常時流量で飲食物を供給する定常処理モードと、前記製品タンクからの飲食物の搬出を休止させる際に前記定常処理モードよりも少ない休止時流量で飲食物を前記ジュール加熱ユニットに供給する休止処理モードとにおいては、前記温度センサからの検出信号に基づいて前記電極に供給される電力をフィードバック制御するフィードバック制御工程と、
前記モード切換手段の操作により前記定常処理モードから前記休止処理モードに切り換えられて前記供給ポンプから供給される飲食物の流量を、定常時流量から休止時流量に漸減させるときは、前記温度センサからの検出信号を読み込むことなく、前記電極に休止移行電力を供給して電極をオープンループ制御する休止移行処理制御工程とを有することを特徴とするジュール加熱装置の制御方法。
【請求項8】
請求項7記載のジュール加熱装置の制御方法において、前記モード切換手段の操作により前記休止処理モードから前記定常処理モードに切り換えられて前記供給ポンプから供給される飲食物の流量を、休止時流量から定常時流量に漸増させるときは、前記温度センサからの検出信号を読み込むことなく、前記電極に定常移行電力を供給して電力をオープンループ制御する定常移行処理制御工程を有することを特徴とするジュール加熱装置の制御方法。
【請求項9】
請求項7記載のジュール加熱装置の制御方法において、前記休止移行電力を一定の休止時電力とすることを特徴とするジュール加熱装置の制御方法。
【請求項10】
請求項7記載のジュール加熱装置の制御方法において、前記休止移行電力を飲食物の漸減流量に応じて定常時電力から休止時電力に漸減することを特徴とするジュール加熱装置の制御方法。
【請求項11】
請求項8記載のジュール加熱装置の制御方法において、前記定常移行電力を一定の定常時電力とすることを特徴とするジュール加熱装置の制御方法。
【請求項12】
請求項8記載のジュール加熱装置の制御方法において、前記定常移行電力を飲食物の漸増に応じて休止時電力から定常時電力に漸増することを特徴とするジュール加熱装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−130223(P2007−130223A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325964(P2005−325964)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000136642)株式会社フロンティアエンジニアリング (30)
【Fターム(参考)】