説明

スクリーン印刷版の劣化判定方法およびスクリーン印刷版

【課題】スクリーン印刷版における劣化不良の有無を確実に判定することができる方法を提供する。
【解決手段】スクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷版の劣化判定方法が、感光性乳剤層が一体化形成されてなるスクリーンメッシュ部の、パターン開孔部が形成された印刷領域の周囲に、少なくとも2つの判定用マーカーを形成しておく準備工程と、少なくとも2つの判定用マーカーの距離であるマーカー間距離を測定する測定工程と、マーカー間距離と、当該距離に対応させてあらかじめ定めた数値範囲とを比較し、当該数値範囲に属さないマーカー間距離が存在する場合に、スクリーン印刷版に劣化が生じていると判定する判定工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷版の管理方法、およびスクリーン印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、NOxセンサや酸素センサその他のセラミックデバイスの作製方法として、ジルコニア(ZrO2)その他のセラミックスを主成分とする複数枚のセラミックグリーンシートに、種々の電極パターン等を印刷形成した後、これら複数枚のシートを積層して積層体を形成し、該積層体を焼成する方法が公知である。
【0003】
セラミックグリーンシート等に所望の電極パターンを形成する手法としては、スクリーン印刷が周知である。スクリーン印刷は、セラミックグリーンシート等の印刷対象物の上に配置したスクリーン印刷版に、印刷対象物との非当接面側から導電性ペーストなどの塗布物を供給し、スキージを摺動させてスクリーン印刷版と印刷対象物とを当接させつつ、スクリーン印刷版に形成された所定形状の開孔部を通じて塗布物を印刷対象物へ付着させることで行われる。
【0004】
スクリーン印刷版としては、ポリエステル等の合成繊維を編組して作製したスクリーンメッシュを版枠に張り付け固定し、該スクリーンメッシュの上に、印刷パターン部分を開孔部を形成レジスト膜を形成したものが、一般的に用いられる。
【0005】
このようなスクリーン印刷における印刷の均一性を確保するために、テンションゲージによる沈み込み量の測定結果を利用する技術が、既に公知である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−180892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
何らかの量産品の製造行程において用いられる場合など、同一のスクリーン印刷版を繰り返して印刷に用いる場合、該スクリーン印刷版は印刷を実行するたびにスキージの摺動を受けることになる。そのため、印刷パターンを形成する開孔部の伸縮を含め、スクリーンメッシュには伸びや変形といった経時的な劣化が発生する。特に、開孔部の伸縮は、印刷パターンの位置ずれや変形を発生させる直接の要因となる。セラミックグリーンシートに電極を形成する場合などにおいて、そのような位置ずれや変形が生じることは、製品不良につながる。よって、製品不良を発生させるほどの劣化が生じているスクリーン印刷版は、直ちに新しいものと交換することが必要となる。
【0008】
そうしたスクリーン印刷版の劣化度合いを判定する手法の1つとして、特許文献1に記載の技術において採用されているような、テンションゲージによる測定結果を利用する方法がある。これは、テンションゲージによってスクリーンメッシュの中央部に一定の大きさの荷重を加え、そのときのスクリーンメッシュの沈み込み量を測定し、沈み込み量が所定値を超えていた場合、そのスクリーン印刷版は劣化していると判定する手法である。例えば、未使用時の沈み込み量が900μmであるスクリーン印刷版について、所定回数の印刷を行うごとに沈み込み量を測定し、その測定値が基準値(例えば900μm±100μm)を越えているような場合に、該スクリーン印刷版は劣化していると判断される。
【0009】
しかしながら、係る方法は、印刷パターンの伸縮の度合いをスクリーン印刷版全体のテンションによって間接的に評価するものに過ぎず、伸縮量を直接に測定するものではない。そのため、印刷精度と対応づけて劣化不良の判定基準を定めることが困難な場合がある。すなわち、劣化不良を生じさせるため本来であれば交換が必要なスクリーン印刷版を交換不要と判定したり、逆に、まだ交換が不要なスクリーン印刷版を要交換と判定したりすることがある。前者の場合、製品不良を招来することになるのでこれを回避することが必須であるが、後者についても、コストアップの要因となるために避けられねばならない。
【0010】
加えて、テンションゲージを用いる手法は、スクリーンメッシュに直接に接触させて測定するので、スクリーンメッシュを負荷かけてしまうことになり、場合によっては、スクリーンメッシュを傷を付けてしまうこともある。あるいはさらに、伸縮しやすい領域(伸縮のより大きな領域)を特定することも困難である。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、スクリーン印刷版における劣化不良の有無を確実に判定することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、スクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷版の劣化判定方法であって、感光性乳剤層が一体化形成されてなるスクリーンメッシュ部の、パターン開孔部が形成された印刷領域の周囲に、少なくとも2つの判定用マーカーを形成しておく準備工程と、前記少なくとも2つの判定用マーカーの距離であるマーカー間距離を測定する測定工程と、前記マーカー間距離と、前記距離に対応させてあらかじめ定めた数値範囲とを比較し、前記数値範囲に属さない前記マーカー間距離が存在する場合に、前記スクリーン印刷版に劣化が生じていると判定する判定工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、スクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷版の劣化判定方法であって、感光性乳剤層が一体化形成されてなるスクリーンメッシュ部の、パターン開孔部が形成された印刷領域の周囲に、複数の判定用マーカーを形成しておく準備工程と、前記複数の判定用マーカーから2つの判定用マーカーの組を少なくとも1つ選択して、前記2つの判定用マーカーの距離であるマーカー間距離を測定する測定工程と、前記マーカー間距離と、前記距離に対応させてあらかじめ定めた数値範囲とを比較し、前記数値範囲に属さない前記マーカー間距離が存在する場合に、前記スクリーン印刷版に劣化が生じていると判定する判定工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のスクリーン印刷版の劣化判定方法であって、前記準備工程においては、前記判定用マーカーが前記スクリーン印刷版に開孔部として設けられ、前記スクリーン印刷版の印刷対象物と当接する面に前記開孔部を覆うコーティングが施される、ことを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、請求項3に記載のスクリーン印刷版の劣化判定方法であって、前記準備工程においては、前記コーティングが前記感光性乳剤層と視覚的に判別可能に設けられる、ことを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明は、スクリーン印刷版であって、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスクリーン印刷版の劣化判定方法に用いられることを特徴とする。
【0017】
請求項6の発明は、スクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷版であって、パターン開孔部が形成された印刷領域と、前記印刷領域の周囲に開孔部として設けられた少なくとも2つの判定用マーカーと、前記スクリーン印刷版の印刷対象物と当接する面において前記開孔部を覆うコーティングと、を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項7の発明は、請求項6に記載のスクリーン印刷版であって、前記コーティングが前記感光性乳剤層と視覚的に判別可能に設けられてなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1ないし請求項7の発明によれば、マーカー間距離があらかじめ印刷精度などと対応づけて定めた数値範囲内にあるか否かを判定することで、スクリーン印刷版の経時的な劣化の有無を判定する。これにより、スクリーン印刷版に負荷をかけることなく、スクリーン印刷版の経時的な劣化の度合いを把握することができるとともに、スクリーン印刷版の劣化不良を確実に判定することができる。また、劣化不良が生じているスクリーン印刷版を使用した無駄な印刷の実行を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】スクリーン印刷版10全体の断面構造を模式的に示す図である。
【図2】スクリーン印刷版10の中央部の拡大模式図である。
【図3】スクリーン印刷版10を対象当接面10aの側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<スクリーン印刷版>
図1は、本実施の形態に係るスクリーン印刷版10全体の断面構造を模式的に示す図である。図2は、スクリーン印刷版10の中央部の拡大模式図である。スクリーン印刷版10は、例えば、種々の電極パターン等が形成されたセラミックグリーンシートを積層して積層体を形成し、該積層体を焼成することによってNOxセンサなどのセラミックデバイスを作製するプロセスにあたって、セラミックグリーンシートに電極パターンを形成するような場合に用いられる。
【0022】
スクリーン印刷版10は、感光性乳剤層3が一体化形成されてなるスクリーンメッシュ1が、矩形形状の版枠2に張設された構成を有する。なお、図1および図2に示すスクリーン印刷版10においては、感光性乳剤層3の図面視下側の面が、印刷時に印刷対象物40と当接する対象当接面10aであり、感光性乳剤層3の図面視上側の面が、図示しない印刷装置のスキージ20が当接し摺動動作するスキージ当接面10bである。また、図1においては、印刷ペースト30がスキージ当接面10bに供給された状態も例示している。
【0023】
スクリーンメッシュ1、版枠2、および感光性乳剤層3はそれぞれ、公知の材料を用いて構成することが可能である。例えば、スクリーンメッシュ1はポリエステル、ナイロン、テトロン等の合成繊維や、ステンレス等の金属繊維が編組された紗によって構成される。繊維の表面には、めっきや樹脂のコーティングを施してあってもよい。また、版枠2は、ステンレスやアルミ合金などによって構成される。感光性乳剤層3は、例えば、ジアゾ系やSBQ系などの感光性乳剤により構成される。また、スクリーンメッシュ1のメッシュサイズや感光性乳剤層3の厚みなどは、スクリーン印刷版10を用いて形成しようとする印刷パターンに応じて適宜に定められてよい。
【0024】
図3は、スクリーン印刷版10を対象当接面10aの側から見た平面図である。図3に示すように、スクリーン印刷版10においては、その平面視中央部分が、印刷対象物40に対し印刷ペースト30が転写される印刷領域5とされている。すなわち、図3においては図示を省略するが、印刷領域5には、感光性乳剤層3に所望の印刷パターンに応じた任意の平面形状を有するパターン開孔部4が形成されてなる。図2には、係るパターン開孔部4の断面を例示してなる。パターン開孔部4においては、図1に示すようにスキージ当接面10bに供給された印刷ペースト30が、矢印AR1にて示すようなスキージ20の摺動動作に際してスクリーンメッシュ1の間隙を通過可能となっている。パターン開孔部4を介してスクリーンメッシュ1を通過した印刷ペースト30が印刷対象物40の表面に付着することで、印刷対象物40上に、所望の印刷パターンが形成されることとなる。
【0025】
印刷領域5のサイズは、印刷対象物40のサイズや、スクリーン印刷版10のサイズや、スキージのサイズなどに応じて適宜に定められる。
【0026】
<劣化判定用マーカー>
図1および図2においては図示を省略しているが、図3に示すように、本実施の形態に係るスクリーン印刷版10においてはさらに、スクリーンメッシュ1の劣化判定用の複数のマーカー7が、非印刷領域6に設けられている。詳細は後述するが、本実施の形態においては、所定のマーカー7同士の距離の実測値と、当該距離についてあらかじめ定められた許容範囲との関係に基づいて、スクリーンメッシュ1の劣化が判定される。なお、本実施の形態において、スクリーンメッシュ1の劣化(もしくはスクリーン印刷版10の劣化とも称する)とは、そのまま印刷に供した場合に、形成された印刷パターンに、許容範囲以上の変形が生じる状態、あるいは係る状態が生じると判断される状態をいう。
【0027】
本実施の形態において、それぞれのマーカー7は、平面視矩形の微小な開孔を、印刷領域5を取り囲む態様にて離散的に形成することにより設けられてなる。図3に示す場合においては、印刷領域5を内部に包含する矩形D(図3において破線で図示)を非印刷領域6に仮想的に考えたときに、マーカー7の中心8が、該矩形Dの頂点及び辺上に位置するように形成されている。好ましくは、矩形Dの重心位置と印刷領域5の重心位置とが一致する。なお、図3においては、矩形Dの頂点全てと、各長辺上の5箇所ずつと、各短辺上の3箇所ずつとの合計20箇所にマーカー7が形成されているが、これはあくまで例示であって、マーカー7の形成位置はこれに限られるものではない。また、それぞれのマーカー7は、平面視で縦1.5mm×横1.5mm程度のサイズに形成されるのが好適な一例である。ただし、マーカー7としての機能を良好に果たせるものであれば、その形状やサイズは限定されない。
【0028】
なお、パターン開孔部4に対する相対位置の精度の確保や、製造プロセスの簡略化などの観点からは、マーカー7の形成は、パターン開孔部4の形成と同時に行われるのが好適である。
【0029】
マーカー7には、対象当接面10aの側からコーティング9が施されている。これにより、印刷実行時に、印刷ペーストがマーカー7を通過することはないようになっている。印刷の妨げになることがなく、かつ、マーカー7の位置の特定を妨げることがないように形成されるのであれば、コーティング9の材質および形状は限定されない。好ましくは、コーティング9は、感光性乳剤層3と、視覚的に判別可能であるように形成される。これにより、視覚によるマーカー7の位置特定が容易となる。例えば、コーティング9を感光性乳剤層3よりも薄い色で形成すれば、マーカー7を通じて光が透過しやすくなるので、係る位置特定が行いやすくなる。
【0030】
<スクリーン印刷版の劣化判定方法>
スクリーン印刷版10の劣化判定は、上述のように形成されてなる複数のマーカー7のうち、所定の2つを選択してそれらの距離を測定し、得られた測定値が所定の数値範囲(係る数値範囲を使用可能範囲と称する)内にあるか否かで判定する。使用可能範囲は、対象としているマーカー7間の距離がそこから外れているスクリーン印刷版10を用いて印刷を行うと印刷ずれが生じることになる範囲である。使用可能範囲は、あらかじめ実際に繰り返し印刷等の予備実験を行ったうえで経験的に定められる。
【0031】
マーカー7間の距離の測定には、いわゆる測定顕微鏡を用いるのが好適である。測定顕微鏡は、通常、スクリーンメッシュ1に対して非接触で測定を行えるので、スクリーンメッシュ1が測定に際して変形を受けることがない。また、μmオーダーの分解能を有する測定顕微鏡を用いれば、スクリーンメッシュ1の変形を高精度に把握することができる。ただし、測定顕微鏡に限らず、測定に際しスクリーン印刷版10を固定することができ、スクリーン印刷版10に対し非接触で測定することができ、かつ、必要とされる測定精度が確保される測定手段であれば、これを用いることができる。
【0032】
距離測定の対象となる2つのマーカー7の組み合わせは、対象とするスクリーン印刷版10に応じて適宜に定められてよい。例えば、矩形Dの相異なる短辺上あるいは長辺上に位置し、かつ対向する2つのマーカー7の距離を測定する態様であってもよいし、最近接のマーカー7同士の距離を測定してもよいし、短辺上に位置するマーカー7と、長辺上に位置するマーカー7との距離を測定してもよい。
【0033】
なお、マーカー7において実際に測定対象とする箇所は、適宜に定められてよい。例えば、図3のように平面視矩形形状にマーカー7が設けられている場合であれば、その4つの頂点のいずれかを用いてもよいし、4つの頂点の重心位置として特定される中心8の位置を用いてもよいし、4つの辺のいずれかを用いるようにしてもよい。また、どのマーカー7との間で距離を測定するのかに応じて、測定箇所を使い分けるようにしてもよい。
【0034】
また、スクリーンメッシュ1の変形の仕方は、スクリーンメッシュ1の種類や、印刷領域5に形成されるパターン開孔部4の形成位置や、印刷領域5に占めるパターン開孔部4の比率などに応じて異なることから、個々のスクリーン印刷版10における変形を顕著に反映して距離が変化するようなマーカー7の組が、測定対象として選択されるのが好ましい。例えば、パターン開孔部4の形成位置によってスクリーンメッシュ1の変形の傾向が経験的に把握されているような場合には、変形が特に大きいと予想される箇所についての測定を行えるように、マーカー7の組合せを選択すればよい。あるいは、そうした箇所にのみマーカー7が設けられる態様であってもよい。
【0035】
さらには、選択されるマーカー7の組は、複数であってもよい。あるスクリーン印刷版10において、印刷領域5全体の変形を捉えたい場合であれば、矩形Dの4つの頂点に設けられた4つのマーカー7(7a、7b、7c、7d)の位置関係を利用して劣化判定を行うのがその好適な一例となる。係る場合、マーカー7aとマーカー7bの距離(以下、d1)、マーカー7bとマーカー7cの距離(d2)、マーカー7cとマーカー7dの距離(d3)、およびマーカー7dとマーカー7aの距離(d4)をそれぞれ測定し、いずれかの距離がその使用可能範囲内を越えていれば、そのスクリーン印刷版10は、劣化不良が生じていると判定されることになる。
【0036】
例えば、4つのマーカー7a、7b、7c、7dに関する上記4箇所の距離が、スクリーン印刷版10の劣化不良判定の対象とされており、未使用時における距離d1〜d4がいずれも110.000mmであり、使用可能範囲がいずれも110.000mm±0.050mmである場合、該スクリーン印刷版10を用いた印刷を300回行った後の距離d1〜d4の実測値が、d1=109.9889mm、d2=110.0008mm、d3=110.0012mm、d4=110.0004mmであったとき、これらは使用可能範囲内の値であるので、係るスクリーン印刷版10はまだ劣化していないと判断される。
【0037】
距離の測定箇所を複数にした場合、場所による変形の傾向を把握することも可能となる。例えば、上述の例であれば、d1<110.000mmであるのに対して、d2、d3、d4>110.000mmであるので、マーカー7aとマーカー7bの間において収縮が生じている一方、他のマーカー7間では伸張が生じていることがわかる。なお、測定時間が確保されるのであれば、全てのマーカー7の位置を測定しておき、任意のマーカー7間の距離を求めることができるようにしておく態様であってもよい。
【0038】
あるスクリーン印刷版10を使った印刷を繰り返し行うような場合には、上述のような所定のマーカー7間の距離測定を所定の頻度で複数回行い、その測定値の変動傾向を把握することで、係るスクリーン印刷版10の変形の傾向や進行度合を把握することもできる。これにより、該スクリーン印刷版10の寿命予測も可能となり、新しいスクリーン印刷版10への交換予定が立てやすくなる。
【0039】
本実施の形態によれば、このような判定を行うことで、印刷の位置ずれが生じてしまう前にスクリーン印刷版10を交換するようにすることができるので、印刷不良の発生が防止される。また、測定対象たるマーカー7間の距離が使用可能範囲内にある限りそのスクリーン印刷版10は劣化しておらず使用可能であるので、そうした使用可能なスクリーン印刷版10を誤って廃棄することが防止される。これにより、不要な交換に伴うコストアップも抑制される。
【0040】
また、テンションゲージによる測定とは異なり、スクリーンメッシュ1に対して非接触の状態で測定を行って、劣化不良の有無を判定することができるので、劣化不良判定に際してスクリーンメッシュ1に直接に負荷をかけてダメージを与えたり、傷を付けたりすることがない。さらに、マーカー7間の距離変化という、変形に直接に対応する量を測定して劣化の有無を判定するので、テンションゲージ測定に基づく劣化判定に比べて、高い精度で判定が行える。
【0041】
なお、パターン開孔部4の所定箇所のサイズを測定した結果や、実際に印刷を行って印刷対象物に形成された印刷パターンの所定箇所のサイズを測定した結果を、これらに対応して定められてなる使用可能範囲と比較することにより、スクリーン印刷版10の劣化不良を判定することも、原理的には可能である。しかしながら、個々のスクリーン印刷版10によってパターン開孔部4の形成態様および該スクリーン印刷版10を用いて形成される印刷パターンの形状は異なるので、この場合にはスクリーン印刷版10ごとに個別に測定箇所を定めたり使用可能範囲を設定したりすることが必須となる。よって、取り扱うスクリーン印刷版10の種類が多い場合にはその処理は煩雑となる。
【0042】
これに対して、本実施の形態の場合には、個々のスクリーン印刷版10がどのような印刷パターンを形成するのかに無関係に、それぞれのスクリーン印刷版10の同一の箇所にマーカー7を設けることができるので、測定処理の画一化および簡素化という点で優れているといえる。また、パターン開孔部4の形成態様によらず同一の使用可能範囲に基づいて劣化不良の有無をするような場合には、判定処理も簡素化されることになる。しかも、実際に当該スクリーン印刷版を用いて印刷を行う前に判定を行うことができるので、無駄な印刷の実行が回避される。
【0043】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、スクリーン印刷版のスクリーンメッシュの所定位置にあらかじめ複数のマーカーを形成しておき、該マーカー間の距離を測定し、その測定値が所定の使用可能範囲内にあるか否かを判定することで、スクリーン印刷版の経時的な劣化の有無を判定するようにする。これにより、スクリーン印刷版に負荷をかけることなく、スクリーン印刷版の劣化不良を確実に判定することができる。また、劣化不良が生じているスクリーン印刷版を使用した無駄な印刷の実行を回避することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 スクリーンメッシュ
2 版枠
3 感光性乳剤層
4 パターン開孔部
5 印刷領域
6 非印刷領域
7、7a、7b、7c、7d マーカー
8 (マーカー7の)中心
9 コーティング
10 スクリーン印刷版
10a 対象当接面
10b スキージ当接面
20 スキージ
30 印刷ペースト
40 印刷対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷版の劣化判定方法であって、
感光性乳剤層が一体化形成されてなるスクリーンメッシュ部の、パターン開孔部が形成された印刷領域の周囲に、少なくとも2つの判定用マーカーを形成しておく準備工程と、
前記少なくとも2つの判定用マーカーの距離であるマーカー間距離を測定する測定工程と、
前記マーカー間距離と、前記マーカ間距離に対応させてあらかじめ定めた数値範囲とを比較し、前記数値範囲に属さない前記マーカー間距離が存在する場合に、前記スクリーン印刷版に劣化が生じていると判定する判定工程と、
を備えることを特徴とするスクリーン印刷版の劣化判定方法。
【請求項2】
スクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷版の劣化判定方法であって、
感光性乳剤層が一体化形成されてなるスクリーンメッシュ部の、パターン開孔部が形成された印刷領域の周囲に、複数の判定用マーカーを形成しておく準備工程と、
前記複数の判定用マーカーから2つの判定用マーカーの組を少なくとも1つ選択して、前記2つの判定用マーカーの距離であるマーカー間距離を測定する測定工程と、
前記マーカー間距離と、前記マーカー間距離に対応させてあらかじめ定めた数値範囲とを比較し、前記数値範囲に属さない前記マーカー間距離が存在する場合に、前記スクリーン印刷版に劣化が生じていると判定する判定工程と、
を備えることを特徴とするスクリーン印刷版の劣化判定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスクリーン印刷版の劣化判定方法であって、
前記準備工程においては、
前記判定用マーカーが前記スクリーン印刷版に開孔部として設けられ、
前記スクリーン印刷版の印刷対象物と当接する面に前記開孔部を覆うコーティングが施される、
ことを特徴とするスクリーン印刷版の劣化判定方法。
【請求項4】
請求項3に記載のスクリーン印刷版の劣化判定方法であって、
前記準備工程においては、
前記コーティングが前記感光性乳剤層と視覚的に判別可能に設けられる、
ことを特徴とするスクリーン印刷版の劣化判定方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスクリーン印刷版の劣化判定方法に用いられることを特徴とするスクリーン印刷版。
【請求項6】
スクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷版であって、
パターン開孔部が形成された印刷領域と、
前記印刷領域の周囲に開孔部として設けられた少なくとも2つの判定用マーカーと、
前記スクリーン印刷版の印刷対象物と当接する面において前記開孔部を覆うコーティングと、
を備えることを特徴とするスクリーン印刷版。
【請求項7】
請求項6に記載のスクリーン印刷版であって、
前記コーティングが前記感光性乳剤層と視覚的に判別可能に設けられてなる、
ことを特徴とするスクリーン印刷版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−228236(P2010−228236A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77451(P2009−77451)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(509302663)エヌジーケイ・セラミックデバイス株式会社 (20)
【Fターム(参考)】