説明

スクロール圧縮機

【課題】近年の冷凍空調機器の高効率化に伴い、スクロール圧縮機における固定スクロールと旋回スクロールの鏡板が摺動する面での摺動損失低減が課題となっていた。
【解決手段】二酸化炭素を冷媒とし、かつ、固定スクロール12を鉄系金属材料で、旋回スクロール13をアルミニウム系金属材料で形成し、固定スクロール12の旋回スクロール13と摺動する面の平均表面粗さ(Ra)を0.01μm〜0.2μmとし、これによって、過大な押し付け力が発生する固定スクロール12と旋回スクロール13との摺動面での摩擦係数を低減し、摺動損失を低減するとともに、摺動面におけるかじりや異常摩耗を抑制することができ、圧縮効率向上および高信頼性化を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷暖房、あるいは冷蔵庫等の冷却装置あるいは、あるいは乗り物用の冷凍空調、ヒートポンプ式の給湯装置に用いられるスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のスクロール圧縮機として、圧縮機構部の信頼性を向上するために、固定スクロールおよび旋回スクロールのどちらか一方もしくは、両方に硬質アルマイトを施し、その表面に複数の凹部を設けたものがる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は、特許文献1に記載された従来のスクロール圧縮機の(A)固定スクロールの平面図、(B)固定スクロールの断面図、(C)旋回スクロールの平面図、(D)旋回スクロールの断面図である。図5に示すように、固定スクロール12および旋回スクロール13の硬質アルマイトを施した両ラップ12b、13bの先端面、および両鏡板12a、13aの摺動面に、複数の凹部101を設け、凹部に油膜を確保することにより、摺動面の焼き付きを防ぎ、耐摩耗性および信頼性を向上するものである。
【特許文献1】特開2001−304149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の構成では、二酸化炭素冷媒を使用する場合、圧力が通常のHFC冷媒の約3倍となるため、旋回スクロールの鏡板と固定スクロールの鏡板が摺動する面には過大な押し付け力が発生し、固定スクロールおよび旋回スクロールの摺動面に形成した凹部で油膜を確保することは困難である。そのため、摺動損失の増大、あるいは、かじりや異常摩耗を引き起こしてしまう。また、大容量で多冷媒となるシステムでは液冷媒の戻りが激しい過渡運転時に、洗浄性の高い二酸化炭素の液冷媒により、旋回スクロールのスラスト面においてオイル切れや温度上昇が発生して焼付きに至る恐れがある。また、凹部を形成するためには、アルマイト処理を行い、さらに、マスキングを行うことにより、工程数増加およびコスト増加を伴う。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、旋回スクロールの鏡板と固定スクロールの鏡板の摺動面における摺動損失を低減し、高効率で信頼性の高いスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明のスクロール圧縮機は、二酸化炭素を冷媒とし、旋回スクロールと摺動する固定スクロールの面の平均表面粗さ(Ra)を0.01μm以上0.2μm以下としたものである。
【0007】
以上の構成により、過大な押し付け力が発生する固定スクロールと旋回スクロールの摺動面での摩擦係数を低減し、摺動損失を低減するとともに、摺動面におけるかじりや異常摩耗を抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスクロール圧縮機は、高差圧運転下で、摺動損失低減により、圧縮効率を向上でき、冷凍空調機器の高効率化および高信頼性化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
第1の発明は、二酸化炭素を冷媒とし、かつ、固定スクロール部品を鉄系金属材料で、旋回スクロール部品をアルミニウム系金属材料で形成し、固定スクロールの旋回スクロールと摺動する面の平均表面粗さ(Ra)を0.01μm以上0.2μm以下としたものである。これによって、過大な押し付け力が発生する固定スクロールと旋回スクロールの摺動面での摩擦係数を低減し、摺動損失を低減するとともに、摺動面におけるかじりや異常摩耗を抑制することができる。
【0010】
第2の発明は、特に第1の発明で、固定スクロールの旋回スクロールと摺動する面を、少なくともラッピング処理又はバフ又はバレル研磨したものである。これによって、固定スクロールの旋回スクロールと摺動する面を比較的安価なコストで、確実に、平均表面粗さ0.01〜0.2μmにすることができる。
【0011】
第3の発明は、特に第1〜2の発明で、二酸化炭素を冷媒とし、固定スクロール部品を鉄系金属材料で形成するとともに、旋回スクロール部品をアルミニウム系金属材料で形成し、固定スクロールと摺動する旋回スクロールの面の平均表面粗さ(Ra)を0.01μm以上0.2μm以下としたものである。これによって、第1〜2の発明よりさらに、過大な押し付け力が発生する固定スクロールと旋回スクロールの摺動面での摩擦係数を低減し、摺動損失を低減するとともに、摺動面におけるかじりや異常摩耗を抑制することができる。
【0012】
第4の発明は、特に第3の発明で、旋回スクロールにおいて、少なくとも固定スクロールと摺動する面にアルマイト皮膜処理、PVD処理、ニッケルリンメッキ処理のいずれかの表面処理を施したものである。これによって、大容量で多冷媒となるシステムにおける液冷媒の戻りが激しい過渡運転時に、洗浄性の高い二酸化炭素の液冷媒により旋回スクロールと固定スクロールの摺動面において潤滑油切れや温度上昇が発生し、アルミニウム表面が起点となり焼付きに至る恐れが大きい条件でも焼き付くことなく運転できる。
【0013】
第5の発明は、特に第4の発明で、旋回スクロールにおいて、表面処理後、固定スクロールと摺動する面を、少なくともラッピング処理又はバフ又はバレル研磨したものである。これによって、固定スクロールと摺動する旋回スクロールの面を比較的安価なコストで、確実に、平均表面粗さ0.01μm以上0.2μm以下にすることができる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図、図2は、圧縮機構部の断面図である。
【0016】
以上のように構成されたスクロール圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0017】
図1に示すように、本発明のスクロール圧縮機は、密閉容器1内に溶接や焼き嵌めなどして固定したクランク軸4の主軸受部材11と、この主軸受部材11上にボルト止めした固定スクロール12との間に、固定スクロール12と噛み合う旋回スクロール13を挟み込んでスクロール式の圧縮機構2を構成し、旋回スクロール13と主軸受部材11との間に旋回スクロール13の自転を防止して円軌道運動するように案内するオルダムリングなどによる自転規制機構14を設けて、クランク軸4の上端にある偏心軸部4aにて旋回スクロール13を偏心駆動することにより旋回スクロール13を円軌道運動させ、これにより固定スクロール12と旋回スクロール13との間に形成している圧縮室15が外周側から中央部に移動しながら小さくなるのを利用して、密閉容器1外に通じた吸入パイプ16
および固定スクロール12の外周部の吸入口17から冷媒ガスを吸入して圧縮していき、所定圧以上になった冷媒ガスは固定スクロール12の中央部の吐出口18からリード弁19を押し開いて密閉容器1内に吐出させることを繰り返す。
【0018】
ここで、固定スクロール12は鉄系金属材料で形成し、旋回スクロール13はアルミニウム系金属材料にて形成している。
【0019】
旋回スクロール13の背面部分には、主軸受部材11に配置されている摺動仕切り環78があり、旋回運動を行いながら摺動仕切り環78により、摺動仕切り環78の内側領域である高圧部と、外側領域である高圧と低圧の中間圧に設定された背圧空間29とに仕切られている。この背面の圧力付加により旋回スクロール13は固定スクロール12に安定的に押しつけられ、漏れを低減するとともに安定して円軌道運動を行うことができる。
【0020】
さらに、固定スクロール12には、旋回スクロール13の背面の背圧空間29の圧力を制御する背圧調整弁9を備えている。
【0021】
クランク軸4の下向きの他端にはポンプ25が設けられ、圧縮機運転中はスクロール圧縮機と同時に駆動される。これによりポンプ25は、密閉容器1の底部に設けられたオイル溜め20にあるオイル6を吸い上げてクランク軸4内を縦貫しているオイル供給穴26を通じて背圧空間29に供給する。このときの供給圧は、スクロール圧縮機の吐出圧とほぼ同等であり、旋回スクロール13の外周に対する背圧源ともなる。これにより、旋回スクロール13は圧縮によっても固定スクロール12から離れたり転覆したりするようなことはなく、所定の圧縮機能を安定して発揮する。
【0022】
背圧空間29に供給されたオイル6の一部は、前記供給圧や自重によって、逃げ場を求めるようにして偏心軸部4aと旋回スクロール13との嵌合部、クランク軸4と主軸受部材11との間の軸受部66に進入してそれぞれの部分を潤滑した後落下し、オイル溜め20へ戻る。背圧空間29に供給されたオイル6の別の一部は、通路54を通って固定スクロール12と旋回スクロール13との噛み合せによる摺動部と、旋回スクロール13の外周部まわりにあって自転規制機構14が位置している環状空間8とに分岐して進入し、前記噛み合せによる摺動部および自転規制機構14の摺動部を潤滑するのに併せ、環状空間8にて旋回スクロール13の背圧を印加する。
【0023】
環状空間8に進入するオイル6は、絞り57での絞り作用によって前記背圧と圧縮室15の低圧側との圧力の中間となる中圧に設定される。環状空間8は背圧空間29の高圧側との間が環状仕切り環78によってシールされていて、進入してくるオイルが充満するにつれて圧力を増し、所定の圧力を超えると、背圧調整弁9が作用して、圧縮室15の吸入室に戻され進入する。
【0024】
このオイル6の進入は所定の周期で繰り返され、この繰り返しのタイミングは前記吸入、圧縮、吐出の繰り返しサイクル、絞り57による減圧設定と背圧調整機構9での圧力設定との関係の組み合わせによって決まり、固定スクロール12と旋回スクロール13との噛み合せによる摺動部への意図的な潤滑となる。この意図的な潤滑は連絡路10の凹部105への開口によって常時保証される。こうして吸入口17へも供給されたオイル6は旋回スクロール13の旋回運動とともに圧縮室15へと移動し、圧縮室15間の漏れ防止に役立っている。
【0025】
図3は固定スクロールの平面図、図4は旋回スクロールのラップ側から見た平面図である。
【0026】
固定スクロール12においては、旋回スクロール13との摺動面である図3の斜線で示した部分は、ラッピング処理やバフおよびバレル研磨等により、平均表面粗さ(Ra)0.01μm〜0.2μmとすることが好適である。平均表面粗さ(Ra)を0.2μm以下とすることにより、過大な押し付け力が発生する固定スクロール12と旋回スクロール13との摺動面での摩擦係数を低減し、摺動損失を低減するとともに、摺動面におけるかじりや異常摩耗を抑制することができる。また、平均表面粗さ(Ra)を0.01μm以上とすることにより、低負荷運転時で、油膜を保持することができ、摺動損失低減を実現できる。
【0027】
また、旋回スクロール13においては、図4の斜線で示した固定スクロール12と摺動する面に少なくとも硬化層であるアルマイト皮膜処理、PVD(Physical Vapor Deposition)処理、ニッケルリンメッキ処理のいずれかの表面処理を施すのが良い。
【0028】
これによって、大容量で多冷媒となるシステムにおける液冷媒の戻りが激しい過渡運転時に、洗浄性の高い二酸化炭素の液冷媒により、旋回スクロール13と固定スクロール12との摺動面において潤滑油切れや温度上昇が発生してアルミニウム表面が起点となり焼付きに至る恐れが大きい条件においても、焼き付くことなく運転でき、信頼性の高いスクロール圧縮機を実現できる。
【0029】
また、旋回スクロール13においても固定スクロール12と同様に、固定スクロール12との摺動面を、表面処理後、ラッピング処理やバフおよびバレル研磨等により、平均表面粗さ(Ra)0.01μm〜0.2μmとしている。これによって、過大な押し付け力が発生する固定スクロール12と旋回スクロール13との摺動面での摩擦係数をさらに低減でき、摺動損失を低減するとともに、摺動面におけるかじりや異常摩耗を抑制することができる。
【0030】
以上の構成により、摺動損失低減により、高効率で、高信頼性のスクロール圧縮機を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明にかかるスクロール圧縮機は、圧縮効率向上を実現することがき、作動流体を冷媒と限ることなく、空気スクロール圧縮機、真空ポンプ、スクロール型膨張機等のスクロール流体機械の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態におけるスクロール圧縮機の断面図
【図2】本発明の実施の形態におけるスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図
【図3】本発明の実施の形態におけるスクロール圧縮機の固定スクロールの平面図
【図4】本発明の実施の形態におけるスクロール圧縮機の旋回スクロールの平面図
【図5】従来のスクロール圧縮機の(A)固定スクロールの平面図、(B)同断面図、(C)同旋回スクロールの平面図、(D)同断面図
【符号の説明】
【0033】
1 密閉容器
2 圧縮機構
6 オイル
11 主軸受部材
12 固定スクロール
12a 鏡板
12b ラップ
12c 溝
13 旋回スクロール
13a 鏡板
13b ラップ
14 自転規制機構
15 圧縮室
29 背圧空間
31 高圧空間
54 通路
57 絞り
78 摺動仕切り環
101 凹部
105 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡板から渦巻き状のラップが立ち上がる固定スクロールと旋回スクロールとを噛み合せて双方間に圧縮室を形成し、前記旋回スクロールを自転の規制のもとに円軌道に沿って旋回させたときに前記圧縮室が容積を変えながら移動することで、吸入、圧縮、吐出を行い、前記旋回スクロールとこれの鏡板背面側を略支持する軸受部材にリング状の溝部を設け、前記軸受部材と前記鏡板背面側の中央部に潤滑用オイルにより高圧を与える高圧部と、この高圧部とは前期溝部に装着された合口部を有するリング状の摺動仕切り環によって仕切られ、前記旋回スクロール鏡板背面の外周部に前記高圧部より低い所定の圧力を印加する背圧空間とを設けたスクロール圧縮機において、
二酸化炭素を冷媒とし、前記固定スクロールを鉄系金属材料で形成するとともに、前記旋回スクロールをアルミニウム系金属材料で形成し、前記旋回スクロールと摺動する前記固定スクロールの面の平均表面粗さ(Ra)を0.01μm以上0.2μm以下としたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
旋回スクロールと摺動する固定スクロールの面を、少なくともラッピング処理又はバフ又はバレル研磨したことを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
鏡板から渦巻き状のラップが立ち上がる固定スクロールと旋回スクロールとを噛み合せて双方間に圧縮室を形成し、前記旋回スクロールを自転の規制のもとに円軌道に沿って旋回させたときに前記圧縮室が容積を変えながら移動することで、吸入、圧縮、吐出を行い、前記旋回スクロールとこれの鏡板背面側を略支持する軸受部材にリング状の溝部を設け、前記軸受部材と前記鏡板背面側の中央部に潤滑用オイルにより高圧を与える高圧部と、この高圧部とは前期溝部に装着された合口部を有するリング状の摺動仕切り環によって仕切られ、前記旋回スクロール鏡板背面の外周部に前記高圧部より低い所定の圧力を印加する背圧空間とを設けたスクロール圧縮機において、
二酸化炭素を冷媒とし、かつ、前記固定スクロールを鉄系金属材料で形成するとともに、前記旋回スクロールをアルミニウム系金属材料で形成し、前記旋回スクロールの前記固定スクロールと摺動する前記旋回スクロールの面の平均表面粗さ(Ra)を0.01μm以上0.2μm以下としたことを特徴とする請求項1〜2記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
旋回スクロールにおいて、少なくとも固定スクロールと摺動する面にアルマイト皮膜処理、PVD処理、ニッケルリンメッキ処理のいずれかの表面処理を施したことを特徴とする請求項3記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
旋回スクロールにおいて、表面処理後、固定スクロールと摺動する面を、少なくともラッピング処理又はバフ又はバレル研磨したことを特徴とする請求項4記載のスクロール圧縮機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−226210(P2006−226210A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41985(P2005−41985)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】