説明

スクロール圧縮機

【課題】可動スクロールの押付力過剰によるスラスト損失の増大を抑制する。
【解決手段】スクロール圧縮機は、上記圧縮機構側の端面に凹陥し上記可動スクロールのボス部33が収容されるボス部収容部54と、該ボス部収容部54の底面から延びる貫通孔53に上記駆動軸が挿通保持される軸保持部56とを有するハウジングを備えている。上記ハウジングは、圧縮機構側の端面に、上記ボス部収容部54の開口の外側に環状に形成されシールリング58を保持するシールリング溝57が設けられ、上記ボス部収容部54の底面に、上記軸保持部56の貫通孔53の外側に環状のスリット59が形成され、上記スリット59の外径d1と上記ボス部収容部54の圧縮機構側の開口径d2とは、d1≧d2の関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールと可動スクロールとを有するスクロール圧縮機に関し、特に、各スクロールのスラスト損失低減に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、固定スクロールと可動スクロールとが噛合して圧縮室を形成するスクロール圧縮機が知られている。例えば、特許文献1には、この種のスクロール圧縮機が開示されている。このスクロール圧縮機では、駆動軸の先端に連結された可動スクロールが偏心回転することによって、流体が圧縮室へ吸入、圧縮され、高圧流体となって外部へ吐出される。また、上記スクロール圧縮機では、圧縮室内の圧力で可動スクロールが離反しないように、可動スクロールの背面側に設けられた背圧空間がもたらす圧力によって、可動スクロールは固定スクロール側へ押し付けられる。背圧空間はシールリングによって内周側と外周側とに区画されている。内周側の第1背圧空間では高圧が付与され、外周側の第2背圧空間では第1背圧空間よりも低圧が付与される。スクロール圧縮機では、この2つの背圧空間の圧力を調整することによって背圧制御が行われる。
【0003】
一方、スクロール圧縮機では、可動スクロールが偏心回転するため、可動スクロールに連結される駆動軸は傾き易い。駆動軸が傾くと、駆動軸は軸受部で片当り状態となり、駆動軸及び軸受部において磨耗が発生してしまう。そこで、上記特許文献1のスクロール圧縮機では、軸受部に環状のスリットが設けられ、そのスリットの内壁部が弾性的に撓むことで駆動軸の傾きを許容している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−97458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のスクロール圧縮機の構成では、上記スリットよりも外周側に上記シールリングが配置されている。このように、シールリングが外周側に設けられると、高圧の第1背圧空間が相対的に大きくなり、背圧空間がもたらす可動スクロールへの押付力が大きくなる。その結果、可動スクロールと固定スクロールとの間の密着性が強くなって、摩擦損失、所謂スラスト損失が過剰となり、スクロール圧縮機の耐久性が低下するという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、第1背圧空間を相対的に小さくすることで、可動スクロールの押付力過剰によって引き起こされるスラスト損失の増大を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、固定スクロール(20)および可動スクロール(30)を有する流体の圧縮機構(10)と、上記可動スクロール(30)の背面側のボス部(33)に連結される駆動軸(80)と、上記可動スクロール(30)の背面側に配置され、該可動スクロール(30)との間に背圧空間(100)を形成するハウジング(50)とを備えたスクロール圧縮機を前提としている。そして、第1の発明は、上記ハウジング(50)は、上記圧縮機構(10)側の端面に断面視円形に凹陥し上記可動スクロール(30)のボス部(33)が収容されるボス部収容部(54)と、該ボス部収容部(54)の底面から延びる貫通孔(53)に上記駆動軸(80)が挿通保持される軸保持部(56)とを有し、上記ハウジング(50)の圧縮機構(10)側の端面には、上記ボス部収容部(54)の開口の外側に環状に形成され、上記可動スクロール(30)の背面に当接して上記背圧空間(100)を内周側と外周側とに区画するシールリング(58)を保持するシールリング溝(57)が設けられ、上記ハウジング(50)のボス部収容部(54)の底面には、上記軸保持部(56)の貫通孔(53)の外側に環状のスリット(59)が形成され、上記スリット(59)の外径d1と上記ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口径d2とは、d1≧d2の関係を満たしている。
【0008】
本発明では、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口は、その開口径が軸保持部(56)のスリット(59)の外径と比べて同等以下になるように形成されている。上記開口が小さく形成されると、該開口の外側に形成されるシールリング溝(57)に保持されるシールリング(58)の径を小さくすることができる。そして、シールリング(58)の径が小さくなることによって、シールリング(58)内周側の背圧空間の高圧が可動スクロール(30)に対して作用する作用面積が相対的に小さくなるため、可動スクロール(30)への押付力を低下させることができる。そのため、従来よりも押付力を低く設定することが可能となり、押付力の設計自由度を高めることができる。その結果、押付力過剰によって引き起こされるスラスト損失の増大を抑制することができる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、上記ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口は、リング部材(71)が内嵌されて構成されている。
【0010】
本発明では、ボス部収容部(54)にリング部材(71)が設けられている。上記リング部材(71)は内嵌され、該リング部材(71)によって上記ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口が形成されている。そのため、上記開口は上記リング部材(71)によって小さくすることができ、該開口の外側に形成されるシールリング溝(57)に保持されるシールリング(58)の径を小さくすることができる。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、上記シールリング溝(57)は、上記リング部材(71)の上面における外周角部が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部によって構成されている。
【0012】
本発明では、リング部材(71)の上面に、外周角部が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部が設けられている。上記リング部材(71)が内嵌されると、上記切欠き部と上記リング部材(71)が内嵌する部位の内周面とによってシールリング溝(57)が形成される。そのため、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口に近接してシールリング溝(57)が形成され、該シールリング溝(57)に保持されるシールリング(58)の径を小さくすることができる。
【0013】
第4の発明は、第2の発明において、上記シールリング溝(57)は、上記リング部材(71)の上面に周方向に亘って形成された溝部によって構成されているいる。
【0014】
本発明では、リング部材(71)の上面に、周方向に亘って形成された溝部が設けられ、該溝部によってシールリング溝(57)が構成されている。そのため、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口に近接してシールリング溝(57)が形成され、該シールリング溝(57)に保持されるシールリング(58)の径を小さくすることができる。
【0015】
第5の発明は、第2の発明において、上記シールリング溝(57)は、上記ボス部収容部(54)における上記リング部材(71)が内嵌する部位の上面における内周角部が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部によって構成されている。
【0016】
本発明では、ボス部収容部(54)における上記リング部材(71)が内嵌する部位の上面に、内周角部が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部が設けられている。上記リング部材(71)が内嵌されると、上記切欠き部と上記リング部材(71)の外周面とによってシールリング溝(57)が形成される。そのため、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口に近接してシールリング溝(57)が形成され、該シールリング溝(57)に保持されるシールリング(58)の径を小さくすることができる。
【0017】
第6の発明は、第2の発明において、上記シールリング溝(57)は、上記リング部材(71)の上面と上記ボス部収容部(54)における上記リング部材(71)が内嵌する部位の上面とに跨って周方向に亘って形成された溝部によって構成されている。
【0018】
本発明では、リング部材(71)及びボス部収容部(54)における該リング部材(71)が内嵌する部位の上面に溝部が設けられている。上記溝部はリング部材(71)と上記部位とに跨って周方向に亘って形成され、該溝部によってシールリング溝(57)が構成されている。そのため、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口に近接してシールリング溝(57)が形成され、該シールリング溝(57)に保持されるシールリング(58)の径を小さくすることができる。
【0019】
第7の発明は、第1の発明において、上記軸保持部(56)の貫通孔(53)は、円筒部材(76)が内嵌されて構成され、上記スリット(59)は、少なくとも内周壁が上記円筒部材(76)によって構成されている。
【0020】
本発明では、軸保持部(56)に円筒部材(76)が設けられている。上記円筒部材(76)は内嵌され、上記軸保持部(56)の貫通孔(53)を構成している。また、スリット(59)の少なくとも内周壁が上記円筒部材(76)によって構成されている。つまり、上記スリット(59)は、別部材である上記円筒部材(76)によって形成されている。そのため、スリット(59)を形成するために、一体形成されたハウジング(50)に対して切削溝加工を行う必要がなく、切削工具が干渉しないようにボス部収容部(54)の開口を大きくする必要がなくなる。これにより、上記スクロール圧縮機(1)では、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口を小さくすることができ、該開口の外側に形成されるシールリング溝(57)に保持されるシールリング(58)の径を小さくすることができる。
【0021】
第8の発明は、第7の発明において、上記スリット(59)は、上記円筒部材(76)の外周側が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部によって構成されている。
【0022】
本発明では、円筒部材(76)に外周側が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部が設けられている。上記スリット(59)は、上記切欠き部と上記円筒部材(76)が内嵌する部位の内周面とによって形成される。
【0023】
第9の発明は、第7の発明において、上記スリット(59)は、上記軸保持部(56)における上記円筒部材(76)が内嵌する部位の内周側が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部によって構成されている。
【0024】
本発明では、軸保持部(56)における円筒部材(76)が内嵌する部位に、内周側が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部が設けられている。上記スリット(59)は、上記切欠き部と上記円筒部材(76)の外周面とによって形成される。
【発明の効果】
【0025】
本発明のスクロール圧縮機によれば、スリット(59)の外径d1とボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口径d2とがd1≧d2の関係を満たすようにした。その結果、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口は従来より小さくなり、開口の外側に形成されるシールリング溝(57)に保持されるシールリング(58)の径も従来より小さくなる。このように、シールリング(58)の径が小さくなると、シールリング(58)内周側の背圧空間の高圧が可動スクロール(30)に対して作用する作用面積が相対的に小さくなるため、可動スクロール(30)への押付力を低下させることができる。そのため、従来よりも押付力を低く設定することが可能となり、押付力の設計自由度を高めることができる。その結果、押付力過剰によって引き起こされるスラスト損失の増大を抑制することができる。
【0026】
第2の発明によれば、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口を構成するリング部材(71)を内嵌するようにした。仮に、ハウジング(50)が一体に形成されていると、スリット(59)を切削加工によって形成する際に切削工具がボス部収容部(54)の開口に干渉するため、上記加工は困難である。しかし、本発明では、別部材であるリング部材(71)を内嵌させるようにしたので、リング部材(71)を内嵌する前の状態においてスリット(59)の切削加工を行うことで、切削工具は干渉しなくなり、スリット(59)を容易に形成することができる。そして、スリット(59)形成後にリング部材(71)を内嵌することによって、これまで加工が困難であったハウジング(50)を容易に形成することができる。また、加工が容易になることから、ハウジング(50)の形状精度が高くなり、上記スクロール圧縮機(1)の回転動作をより安定化させることができる。
【0027】
第7の発明によれば、軸保持部(56)の貫通孔(53)を構成する円筒部材(76)を内嵌するとともに、該円筒部材(76)がスリット(59)の少なくとも内周壁を構成するようにした。つまり、上記スリット(59)は、別部材である上記円筒部材(76)によって形成されている。そのため、ハウジング(50)に対して直接スリットの切削加工を行う必要がなく、切削工具が干渉しないようにボス部収容部(54)の開口を大きくする必要がなくなる。これにより、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口を小さくすることができ、該開口の外側に形成されるシールリング溝(57)に保持されるシールリング(58)の径を小さくすることができる。そして、シールリング(58)内周側の背圧空間の高圧が可動スクロール(30)に対して作用する作用面積が相対的に小さくなり、スラスト損失の増大が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の実施形態1に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態1に係るスクロール圧縮機の一部を示す縦断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態1の変形例1に係るスクロール圧縮機の一部を示す縦断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態1の変形例2に係るスクロール圧縮機の一部を示す縦断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態2に係るスクロール圧縮機の一部を示す縦断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態3に係るスクロール圧縮機の一部を示す縦断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施形態4に係るスクロール圧縮機の一部を示す縦断面図である。
【図8】図8は、本発明の実施形態5に係るスクロール圧縮機の一部を示す縦断面図である。
【図9】図9は、本発明の実施形態6に係るスクロール圧縮機の一部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態及び変形例は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、或いはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0030】
《実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。図1及び図2に示す実施形態1のスクロール圧縮機(1)は、冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(図示省略)に接続され、冷媒を圧縮するものである。
【0031】
上記スクロール圧縮機(1)は、圧縮機構(10)、駆動モータ(40)、ハウジング(50)、ケーシング(90)を備えている。
【0032】
上記ケーシング(90)は、上下方向に軸線を有する円筒状の胴部であるケーシング本体(91)と、該ケーシング本体(91)の上端に気密状に溶接され、上方に突出した凸面を有する椀状の上壁部(92)と、該ケーシング本体(91)の下端に気密状に溶接され、下方に突出した凸面を有する椀状の底壁部(93)とで構成されている。上記上壁部(92)には、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(10)へ導く吸入管(94)が貫通固定されている。更に、上記ケーシング本体(91)には、ケーシング(90)内の冷媒を冷媒回路へ吐出させる吐出管(95)が貫通固定されている。上記ケーシング(90)の底壁部(93)には、潤滑油が貯留された油溜まり部(96)が形成されている。
【0033】
上記ケーシング(90)の内部には、圧縮機構(10)と、該圧縮機構(10)の下方に配置される駆動モータ(40)とが収容されている。また、この圧縮機構(10)と駆動モータ(40)には、該駆動モータ(40)の回転駆動を該圧縮機構(10)へ伝達する駆動軸(80)が連結されている。
【0034】
上記駆動軸(80)は、ケーシング(90)内を上下方向に延びる主軸部(81)と、該主軸部(81)の上端面に偏心して突設され圧縮機構(10)と連結される偏心部(82)と、該主軸部(81)の略中央部分に形成され回転時の動的バランスを取るためのカウンタウェイト部(83)とを有している。また、駆動軸(80)の内部には、その上端から下端へ貫く給油路(84)が設けられている。駆動軸(80)の下端は、油溜まり部(96)に浸漬されている。
【0035】
上記駆動モータ(40)は、ステータ(41)及びロータ(42)により構成されている。ステータ(41)は、焼嵌め等によりケーシング本体(91)内面に固定されている。ロータ(42)は、ステータ(41)の内側に配置され、上記駆動軸(80)の主軸部(81)に対して同軸に且つ回転不能に設けられている。
【0036】
上記ハウジング(50)は、ケーシング本体(91)に気密状に圧入固定され、ケーシング(90)の内部を圧縮機構(10)が収納される上部空間(97)と駆動モータ(40)が収納される下部空間(98)とに区画している。
【0037】
上記圧縮機構(10)は、上記ハウジング(50)上に配置され、該ハウジング(50)の上面に固定される固定スクロール(20)と、該固定スクロール(20)とハウジング(50)との間に配置され固定スクロール(20)に噛合する可動スクロール(30)とを備えている。
【0038】
上記固定スクロール(20)は、鏡板(21)と、該鏡板(21)の前面(図1及び図2で
は下面)に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(22)と、該ラップ(22)の外周側に位置して該ラップ(22)と連続的に形成された外周壁部(23)とを有している。ラップ(22)の先端面と外周壁部(23)の先端面とは略面一に形成されている。また、固定スクロール(20)は、外周壁部(23)で上記ハウジング(50)の上面に固定されている。
【0039】
一方、上記可動スクロール(30)は、鏡板(31)と、該鏡板(31)の前面(図1及び
図2では上面)に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(32)とを備えている。上記可動スクロール(30)は、該可動スクロール(30)のラップ(32)が上記固定スクロール(20)のラップ(22)に噛合するように配設されている。そして、上記固定スクロール(20)と可動スクロール(30)との間で両ラップ(22,32)により仕切られた空間が形成され圧縮室(11)を構成している。
【0040】
また、上記可動スクロール(30)の鏡板(31)の背面中心部には、ボス部(33)が一体に形成されている。上記ボス部(33)には軸受(34)が圧入され、該軸受(34)には上記駆動軸(80)の偏心部(82)が挿入されている。
【0041】
また、上記可動スクロール(30)の鏡板(31)内部には、上記駆動軸の給油路(84)から可動スクロール(30)の摺動面へ潤滑油を供給する高圧油導入通路(35)が設けられている。上記高圧油導入通路(35)は、上記給油路(84)上端が開口する上記ボス部(33)の内部と可動スクロール(30)の鏡板(31)の前面側とを連通するように形成されている。更に、上記高圧油導入通路(35)内には、外周にスパイラル状通路を有し油の供給量を制御する流量制限部材(36)が挿入されている。
【0042】
上記固定スクロール(20)の外周壁部(23)には、吸入ポート(24)が設けられ、該吸入ポート(24)に上記吸入管(94)が気密状に接合されている。
【0043】
また、上記固定スクロール(20)は、上記鏡板(21)の背面中央を凹陥してなる高圧部(25)と、該高圧部(25)の底面中央から上記鏡板(21)の前面へ貫通する吐出口(26)とを備えている。上記高圧部(25)の底面には、圧縮室に連通する通路を塞ぐ逆止弁として、リード弁(27)が設けられている。つまり、圧縮室(11)の圧力が所定の圧力以上となっている場合には、リード弁(27)が開いて圧縮室(11)は高圧部(25)に連通する。また、上記高圧部(25)は蓋(28)で塞がれている。上記蓋(28)によって、高圧部(25)と上部空間(97)とが区画されている。
【0044】
また、上記高圧部(25)と下部空間(98)とが連通するように、上記固定スクロール(20)には上記高圧部(25)に開口する第1流通路(図示省略)が、上記ハウジング(50)には第1流通路(図示省略)と下部空間(98)とを連通する第2流通路(図示省略)がそれぞれ形成されている。
【0045】
上記ハウジング(50)は、駆動軸(80)が挿通され、ケーシング本体(91)に気密状に圧入固定されているハウジング本体(51)を備えている。上記ハウジング本体(51)の上面外周側では、上記固定スクロール(20)が固定されている。また、上記ハウジング本体(51)には、上面中央が円柱状に凹陥された凹部(52)と、該凹部(52)の底面から下端に貫通する貫通孔(53)とが形成されている。
【0046】
上記凹部(52)の開口部には、環状のリング部材(71)が設けられている。リング部材(71)は、ハウジング本体(51)の上面と上記リング部材(71)の上面とが略面一になるように凹部(52)に内嵌され、ストッパ(72)により下向きの移動が制限されている。また、リング部材(71)の下向きの移動を制限するために、ストッパ(72)に代えてリング部材(71)が凹部(52)に圧入されたり、または、圧入とストッパ(72)の両方が施されても構わない。
【0047】
上記ボス部(33)は、凹部(52)にリング部材(71)が内嵌されて形成される縦断面視凸状の空間に収容されている。つまり、リング部材(71)と凹部(52)とによって、ハウジング(50)のボス部収容部(54)が構成されている。ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口は、リング部材(71)の開口によって構成されている。
【0048】
上記ハウジング(50)の貫通孔(53)には、軸受(55)が圧入され、上記主軸部(81)の上端部は、該軸受(55)によって回転可能に支持されている。つまり、ハウジング(50)には、上記貫通孔(53)及び軸受(55)が駆動軸(80)を挿通保持する軸保持部(56)が形成されている。
【0049】
上記リング部材(71)は、上面における外周角部が周方向に亘って切り欠かれており、該切欠き部と上記凹部(52)の内壁とによって環状のシールリング溝(57)が形成されている。尚、上記切欠き部は、上記リング部材(71)の少なくとも上面における外周角部を切り欠く構成であれば良く、図2に示す段差形状以外に、角部を面取りした形状等でも構わない。
【0050】
上記シールリング溝(57)には、シールリング(58)が嵌め込まれ、該シールリング(58)は可動スクロール(30)の鏡板(31)の背面側に当接するように保持されている。すなわち、上記シールリング(58)は、ハウジング(50)と可動スクロール(30)との間に形成される背圧空間(100)を、シールリング(58)の内周側の第1背圧空間(101)と、シールリング(58)の外周側の第2背圧空間(102)とに区画している。
【0051】
上記背圧空間(100)は、可動スクロール(30)の鏡板(31)とハウジング(50)との間に形成され、可動スクロール(30)を固定スクロール(20)に押し付けるための背圧が作用する空間である。
【0052】
上記第1背圧空間(101)は、主にボス部収容部(54)により空間形成されている。
【0053】
上記第2背圧空間(102)は、ハウジング本体(51)の上面と可動スクロール(30)の背面との間の間隙により形成されている。また、第2背圧空間(102)は、ハウジング本体(51)の上面外周側に設けられる凹部(図示省略)を介してケーシング(90)内の上部空間(97)へと連通している。
【0054】
また、第2背圧空間(102)には、可動スクロール(30)の鏡板(31)の背面に形成されたキー溝(図示省略)と、ハウジング本体(51)の上面に形成されたキー溝(図示省略)とに係合して、可動スクロール(30)の自転を防止するためのオルダムカップリング(105)が設けられている。
【0055】
また、上記凹部(52)の底面には、貫通孔(53)の外側に環状のスリット(59)が形成されている。上記スリット(59)は、上記スリット(59)の内壁部が弾性的に撓むことで駆動軸(80)の傾きを許容し、駆動軸(80)の片当りを抑制している。
【0056】
本実施形態のハウジング(50)は、上記スリット(59)の外径d1とボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口径d2とがd1≧d2の関係を満たすように形成されている。具体的には、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口を形成するリング部材(71)の内径d2が、スリット(59)の外径d1と比べて同等または小さく形成されている。
【0057】
−運転動作−
上記駆動モータ(40)を作動させると、圧縮機構(10)の可動スクロール(30)が回転駆動する。この可動スクロール(30)は、オルダムカップリング(105)によって自転を防止されつつ、主軸部(81)の軸心を中心に公転する。この可動スクロール(30)の公転に伴い、圧縮室(11)の容積が中心に向かって収縮し、圧縮室(11)において上記吸入管(94)から吸入された冷媒ガスは圧縮される。圧縮が完了した冷媒ガスは、固定スクロール(20)の吐出口(26)を介して、高圧部(25)に吐出される。高圧部(25)に吐出された高圧の冷媒ガスは、固定スクロール(20)の第1流通路及びハウジング(50)の第2流通路を通過してケーシング(90)の下部空間(98)へ流出し、吐出管(95)からケーシング(90)の外部へ吐出される。
【0058】
上記ケーシング(90)の下部空間(98)は、吐出される高圧の冷媒ガスと同等の圧力、即ち、吐出圧力となっており、下部空間(98)の下方の油溜まり部(96)に貯留された油にも吐出圧力が作用する。これにより、油溜まり部(96)の油が駆動軸(80)の給油路(84)の下端から上端に向かって流れ、可動スクロール(30)のボス部(33)内に流出する。ボス部(33)内に供給された油は、ボス部(33)の軸受(34)と駆動軸(80)の偏心部(82)との摺動面を潤滑し、ボス部収容部(54)内(即ち、第1背圧空間(101))に流出する。こうして、上記第1背圧空間(101)は高圧の油で満たされるとともに、吐出圧力と同等の圧力となる。また、ボス部(33)内に供給された高圧の油は、高圧油導入通路(35)へ浸入し、流量制限部材(36)で供給量が制御されて可動スクロール(30)と固定スクロール(20)との摺動面に供給され、摺動面は潤滑される。
【0059】
一方、蓋(28)で高圧部(25)と区画された上部空間(97)は、高圧部(25)と比べて低圧のままである。そのため、上部空間(97)と連通する第2背圧空間(102)の圧力も同様に低圧である。しかし、本実施形態とは異なり、外周から吐出口(26)に至る圧縮経路の途中に連通路(図示省略)が設けられた場合には、上部空間(97)及び第2背圧空間(102)は圧縮途中の圧力(中間圧)となる。この場合、連通路は、例えば、圧縮途中の圧縮室(11)と上部空間(97)とが連通するように固定スクロール(20)に設けられる。圧縮室(11)内の冷媒ガスが徐々に圧縮され所定の中間圧に達すると、連通路の端部に設けられたリード弁(図示省略)が開き、その冷媒ガスの一部は連通路を通過して上部空間(97)及び第2背圧空間(102)へ流出する。こうして、上部空間(97)及び第2背圧空間(102)は高圧と低圧の間の圧力(中間圧)となる。
【0060】
こうして、可動スクロール(30)の鏡板(31)の背面には、吐出圧力となる第1背圧空間(101)の第1背圧と、低圧(或いは中間圧)となる第2背圧空間(102)の第2背圧とが作用し、この2つの背圧によって可動スクロール(30)は固定スクロール(20)側へ押圧される。この押付力は、冷媒ガスの圧縮時に可動スクロール(30)に作用する離反力、つまり、固定スクロール(20)から可動スクロール(30)を引き離そうとする力に抗する力である。この押付力によって離反力は減少し、離反力によりもたらされる可動スクロール(30)の傾斜(転覆)は防止される。
【0061】
ところで、圧縮機のサイズや圧縮比などの設計条件によっては、押付力が過剰になることがある。押付力が過剰であると、固定スクロール(20)と可動スクロール(30)との密着性が強くなり、摩擦損失、所謂スラスト損失が増加する。その結果、スクロール圧縮機の耐久性が低下してしまう。
【0062】
そこで本実施形態では、ハウジング(50)はスリット(59)の外径d1とボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口径d2とがd1≧d2の関係を満たすように形成されている。具体的には、リング部材(71)がハウジング本体(51)の凹部(52)に内嵌されることで、ボス部収容部(54)の開口は従来より小さく形成されている。更に、シールリング溝(57)は、ボス部収容部(54)の開口近傍に位置する切欠き部により形成される。そのため、シールリング(58)による背圧空間(100)の区画位置は、従来よりも内周側に設けることができる。つまり、シールリング(58)の径を従来よりも小さくすることができる。このようにシールリング(58)の径が小さくなると、第1背圧が鏡板(31)の背面に作用する面積が相対的に小さくなるため、可動スクロール(30)への押付力を低下させることができる。そのため、従来よりも押付力を低く設定することが可能となり、押付力の設計自由度を高めることができる。その結果、押付力過剰によって引き起こされるスラスト損失の増大を抑制することができる。
【0063】
また、本実施形態のハウジング(50)は、ハウジング本体(51)と該ハウジング本体(51)に内嵌するリング部材(71)とから構成されている。仮に、ハウジング本体(51)とリング部材(71)とを一体で形成するとなると、スリット(59)を切削加工する際に、切削工具がボス部収容部(54)内の段差(74)に干渉するため、加工が困難である。しかし、図2に示すような段差(74)を有しないハウジング本体(51)であれば、切削工具がハウジング本体(51)に干渉することがなく、容易に切削加工によってスリット(59)は形成される。そして、ハウジング本体(51)にリング部材(71)を内嵌させることによって、加工困難なハウジング(50)が容易に得られる。また、加工が容易になることから、ハウジング(50)の形状精度が高くなり、上記スクロール圧縮機(1)の回転動作をより安定化させることができる。
【0064】
《実施形態1の変形例》
(変形例1)
実施形態1のリング部材(71)は、該リング部材(71)の上面における外周角部が周方向に亘って切り欠いてなる切欠き部を有するが、その形態に代えて、本変形例は、図3に示すように、リング部材(71)の上面に周方向に亘って形成された溝部を形成し、該溝部をシールリング溝(57)としている。本変形例の場合、背圧空間(100)の区画位置を更に内周側に設けることが可能であるため、押付力が更に低下され、押付力過剰によるスラスト損失の増大が一層抑制される。
(変形例2)
実施形態1のハウジング(50)のボス部収容部(54)は、ハウジング本体(51)にリング部材(71)が内嵌された構造であるが、本変形例のボス部収容部(54)は、図4に示すように、リング部材(71)の部分がハウジング本体(51)と一体形成されたものである。本変形例の場合、実施形態1のリング部材(71)の開口に相当する部分によって、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口が形成され、その開口径d2とスリット(59)の外径d1とがd1≧d2の関係を満たしている。そのため、実施形態1と同様に、スラスト損失の増大が抑制される。尚、本変形例では、ボス部収容部(54)の内壁は、d1≧d2の関係を満たすように形成されていればよく、図4に示す段差(74)を有する形状以外に、例えば、ボス部収容部(54)の底面側から圧縮機構(10)側へ内径が小さくなるテーパ状であっても構わない。
【0065】
《実施形態2》
次に、本発明の実施形態2を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態は、上記実施形態1においてハウジング(50)のボス部収容部(54)の構成を変更したものである。つまり、上記実施形態1では、リング部材(71)のみに切欠き部を形成したが、本実施形態では、図5に示すように、リング部材(71)とハウジング本体(51)の両方に切欠き部を形成するようにした。
【0066】
具体的に、上記リング部材(71)には、実施形態1と同様に、該リング部材(71)の上面における外周角部に周方向に亘って切欠き部が形成されている。一方、ハウジング本体(51)側にも、上面における内周角部に周方向に亘って切欠き部が形成されている。そして、上記リング部材(71)の上面とハウジング本体(51)の上面とが略面一になるように、該リング部材(71)は該ハウジング本体(51)に内嵌され、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口は、リング部材(71)の開口によって構成されている。その内嵌された状態では、互いの切欠き部同士が向かい合って環状の溝が形成され、その環状溝がシールリング溝(57)となる。つまり、本実施形態のシールリング溝(57)は、リング部材(71)の上面とハウジング本体(51)の上面とに跨って周方向に亘って形成されている。尚、リング部材(71)及びハウジング本体(51)の切欠き部は、図5に示す角部に設けた段差形状以外に、角部を面取りした形状等でも構わない。
【0067】
このように、本実施形態においても、シールリング(58)による背圧空間(100)の区画位置をリング部材(71)を有しない従来の形態よりも内周側に設けることができる。そのため、第1背圧空間(101)の高圧が作用する面積を小さくすることができ、実施形態1と同様にスラスト損失の増大が抑制される。
【0068】
また、本実施形態のハウジング(50)のボス部収容部(54)も、実施形態1と同様にハウジング本体(51)がリング部材(71)に内嵌される構成であるため、容易にスリット(59)を加工することができる。その他の構成、作用及び効果は上記実施形態1と同様である。
【0069】
《実施形態3》
次に、本発明の実施形態3を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態は、上記実施形態1においてハウジング(50)のボス部収容部(54)の構成を変更したものである。つまり、上記実施形態1では、リング部材(71)に切欠き部を形成したが、本実施形態は、図6に示すように、ハウジング本体(51)に切欠き部を形成するようにした。
【0070】
具体的に、上記リング部材(71)は、縦断面が四角形状の環状部材である。一方、ハウジング本体(51)は、上記リング部材(71)が内嵌する凹部(52)の内壁と上面との内周角部に周方向に亘って切欠き部が形成されている。そして、上記リング部材(71)の上面とハウジング本体(51)の上面とが略面一になるように、上記リング部材(71)は該ハウジング本体(51)に内嵌されている。本実施形態の場合も、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口は、リング部材(71)の開口によって構成され、その開口径d2とスリット(59)の外径d1とがd1≧d2の関係を満たしている。また、その内嵌された状態では、上記切欠き部とリング部材(71)の外周面とによって環状の溝が形成され、その環状溝がシールリング溝(57)となる。尚、上記切欠き部は、図6に示す角部に設けた段差形状以外に、角部を面取りした形状等でも構わない。
【0071】
このように、本実施形態においても、シールリング(58)による背圧空間(100)の区画位置をリング部材(71)を有しない従来の形態よりも内周側に設けることができる。そのため、第1背圧空間(101)の高圧が作用する面積を小さくすることができ、実施形態1と同様にスラスト損失の増大が抑制される。
【0072】
また、本実施形態のハウジング(50)のボス部収容部(54)も、実施形態1と同様にハウジング本体(51)がリング部材(71)に内嵌される構成であるため、容易にスリット(59)を加工することができる。その他の構成、作用及び効果は上記実施形態1と同様である。
【0073】
《実施形態4》
次に、本発明の実施形態4を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態は、上記実施形態1においてハウジング(50)のボス部収容部(54)及び軸保持部(56)の構成を変更したものである。図7に示すように、本実施形態のハウジング(50)は、上面中央から下端へ一定の径で貫通する貫通孔(60)を有するハウジング本体(51)を備え、該貫通孔(60)の下側部分には円筒部材(76)が内嵌されている。
【0074】
上記貫通孔(60)の下側部分には、上記円筒部材(76)が圧入され、その円筒部材(76)の内周側には軸受(55)が圧入され、該軸受(55)によって、上記主軸部(81)の上端部は回転可能に支持されている。つまり、ハウジング(50)の下側部分には、駆動軸(80)を保持する軸保持部(56)が構成され、その軸保持部(56)の貫通孔(53)は、円筒部材(76)の開口によって形成されている。一方、貫通孔(60)の上側部分にはボス部(33)が収容され、ボス部収容部(54)が形成されている。ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口は、貫通孔(60)の上側部分によって構成されている。また、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口の外側であり、ハウジング本体(51)の圧縮機構(10)側の端面には、シールリング溝(57)が環状に形成されている。
【0075】
円筒部材(76)の外周側には、周方向に亘って切欠き部が形成されている。そして、上記切欠き部と上記円筒部材(76)が内嵌する貫通孔(60)の内壁とによって、スリット(59)が形成されている。尚、上記切欠き部は、上記円筒部材(76)の少なくとも上面における外周角部を切り欠く構成であれば良く、図7に示す外周角部に設けた段差形状以外に、角部を面取りした形状等でも構わない。
【0076】
このように、本実施形態では、上記スリット(59)は、ハウジング本体(51)とは別部材である上記円筒部材(76)を内嵌させることによって形成されている。そのため、本実施形態では、スリットを形成するためにハウジング本体(51)を切削溝加工する必要がなく、切削工具が干渉しないようにボス部収容部(54)の開口を大きくする必要がなくなる。これにより、本実施形態では、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口を小さくすることができ、該開口の外側に形成されるシールリング溝(57)に保持されるシールリング(58)も小さくすることができる。このように、本実施形態においても、シールリング(58)内周側の第1背圧空間(101)の高圧が可動スクロール(30)に対して作用する作用面積が相対的に小さくなり、実施形態1と同様にスラスト損失の増大が抑制される。その他の構成、作用及び効果は上記実施形態1と同様である。
【0077】
《実施形態5》
次に、本発明の実施形態5を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態は、上記実施形態4においてハウジング(50)の軸保持部(56)の構成を変更したものである。つまり、上記実施形態4のハウジング本体(51)は、一定の径で貫通する貫通孔(60)に円筒部材(76)を内嵌したが、本実施形態は、図8に示すように、上側より下側の径が大きい貫通孔(60)に円筒部材(76)を内嵌するようにした。
【0078】
具体的に、貫通孔(60)は、下側穴部(61)と、該下側穴部(61)に連続して形成され該下側穴部(61)より径の小さい上側穴部(62)とから構成されている。円筒部材(76)は、下側穴部(61)に内嵌され、圧入固定されている。また、上記円筒部材(76)は、実施形態4と同様に、該円筒部材(76)の外周側が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部が設けられている。そして、上記切欠き部と上記円筒部材(76)が内嵌する貫通孔(60)の内壁とによって、スリット(59)が形成されている。また、上側穴部(62)にはボス部(33)が収容され、ボス部収容部(54)が形成されている。ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口は、上側穴部(62)によって構成されている。
【0079】
このように、本実施形態では、円筒部材(76)は、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口を形成する上側穴部(62)よりも径の大きい下側穴部(61)に内嵌されている。そのため、本実施形態では、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口を実施形態4よりも小さくすることができ、上記開口の外側に形成されるシールリング溝(57)に保持されるシールリング(58)も小さくすることができる。このように、本実施形態では、シールリング(58)内周側の第1背圧空間(101)の高圧が可動スクロール(30)に対して作用する作用面積が相対的に一層小さくすることができ、スラスト損失の増大を抑制する効果が大きくなる。その他の構成、作用及び効果は上記実施形態4と同様である。
【0080】
《実施形態6》
次に、本発明の実施形態6を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態は、上記実施形態4においてハウジング(50)の軸保持部(56)の構成を変更したものである。つまり、上記実施形態4では円筒部材(76)に切欠き部を形成したが、本実施形態では、図9に示すように、ハウジング本体(51)の貫通孔(60)に切欠き部を形成するようにした。
【0081】
具体的に、上記円筒部材(76)は、縦断面が四角形状の環状部材である。また、上記貫通孔(60)の内壁略中央部には、周方向に亘って溝部が形成されている。そして、上記円筒部材(76)は、上端が上記溝部の開口に位置するように貫通孔(60)に挿入され、圧入固定されている。そして、上記溝部の内壁と該溝部に対向する円筒部材(76)の外周面とによって、スリット(59)が形成されている。また、貫通孔(60)の上側部分にはボス部(33)が収容され、ボス部収容部(54)が形成されている。ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口は、貫通孔(60)の上側部分によって構成されている。
【0082】
このように、本実施形態では、貫通孔(60)の内壁に設けられた溝部によってスリット(59)が形成され、スリット(59)の外径d1とボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口径d2との関係はd1>d2となる。そのため、本実施形態では、ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口径は、スリット(59)の外径に等しい実施形態4よりも小さくすることができる。このように、本実施形態では、シールリング(58)内周側の第1背圧空間(101)の高圧が可動スクロール(30)に対して作用する作用面積が相対的に一層小さくすることができ、スラスト損失の増大を抑制する効果が大きくなる。
【0083】
尚、図9に示す貫通孔(60)は、一定の径を有する貫通孔の内壁に溝が設けられた形態であるが、それに限らず、例えば、実施形態5と同様に、上側穴部(62)より下側穴部(61)の径が大きくなるように貫通孔(60)が形成され、該下側穴部(61)の内壁に溝が形成されている形態でも構わない。その他の構成、作用及び効果は上記実施形態4と同様である。
【符号の説明】
【0084】
1 スクロール圧縮機
10 圧縮機構
20 固定スクロール
30 可動スクロール
33 ボス部
50 ハウジング
53 貫通孔
54 ボス部収容部
56 軸保持部
57 シールリング溝
58 シールリング
59 スリット
71 リング部材
76 円筒部材
80 駆動軸
100 背圧空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロール(20)および可動スクロール(30)を有する流体の圧縮機構(10)と、上記可動スクロール(30)の背面側のボス部(33)に連結される駆動軸(80)と、上記可動スクロール(30)の背面側に配置され、該可動スクロール(30)との間に背圧空間(100)を形成するハウジング(50)とを備えたスクロール圧縮機であって、
上記ハウジング(50)は、上記圧縮機構(10)側の端面に断面視円形に凹陥し上記可動スクロール(30)のボス部(33)が収容されるボス部収容部(54)と、該ボス部収容部(54)の底面から延びる貫通孔(53)に上記駆動軸(80)が挿通保持される軸保持部(56)とを有し、
上記ハウジング(50)の圧縮機構(10)側の端面には、上記ボス部収容部(54)の開口の外側に環状に形成され、上記可動スクロール(30)の背面に当接して上記背圧空間(100)を内周側と外周側とに区画するシールリング(58)を保持するシールリング溝(57)が設けられ、
上記ハウジング(50)のボス部収容部(54)の底面には、上記軸保持部(56)の貫通孔(53)の外側に環状のスリット(59)が形成され、
上記スリット(59)の外径d1と上記ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口径d2とは、d1≧d2の関係を満たす
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記ボス部収容部(54)の圧縮機構(10)側の開口は、リング部材(71)が内嵌されて構成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記シールリング溝(57)は、上記リング部材(71)の上面における外周角部が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部によって構成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項2において、
上記シールリング溝(57)は、上記リング部材(71)の上面に周方向に亘って形成された溝部によって構成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項2において、
上記シールリング溝(57)は、上記ボス部収容部(54)における上記リング部材(71)が内嵌する部位の上面における内周角部が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部によって構成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項2において、
上記シールリング溝(57)は、上記リング部材(71)の上面と上記ボス部収容部(54)における上記リング部材(71)が内嵌する部位の上面とに跨って周方向に亘って形成された溝部によって構成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項1において、
上記軸保持部(56)の貫通孔(53)は、円筒部材(76)が内嵌されて構成され、
上記スリット(59)は、少なくとも内周壁が上記円筒部材(76)によって構成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項8】
請求項7において、
上記スリット(59)は、上記円筒部材(76)の外周側が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部によって構成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項9】
請求項7において、
上記スリット(59)は、上記軸保持部(56)における上記円筒部材(76)が内嵌する部位の内周側が周方向に亘って切り欠かれた切欠き部によって構成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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