説明

スクロール圧縮機

【課題】
スクロール圧縮機において、高さ方向にコンパクトに収納でき、重量増加を抑えてオルダムリングの爪の面圧を確保し、かつ周辺部品と干渉することのない構造を得る。
【解決手段】
揺動スクロール102とフレーム104の底部104aとの間に、揺動スクロール102をスラスト方向に支承する略リング状のスラスト受け112が配設され、このスラスト受け112は、揺動スクロール102の台板102cの背面の外周側に形成された凹部102eに収容されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空調機および冷凍機等に搭載されるスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最初に、図8および図9を参照して、特許文献1に記載された従来のスクロール圧縮機の構造と動作を説明する。図8は従来のスクロール圧縮機の縦断面図、図9は図8の要部拡大断面図である。
【0003】
図8および図9において、固定スクロール101および揺動スクロール102から構成される圧縮機構がシェル103内の上部に設けられている。揺動スクロール102は、その外周近傍背面において、シェル103の内周面に固着されたフレーム104によりスラスト方向に摺動自在に支持されている。
【0004】
揺動スクロール102の背面の中心近傍に設けられたボス部102aには軸受穴部102bが形成されており、この軸受穴部102bには、主軸105の上端部に形成された偏心軸部105aが、周方向に摺動自在に係合する状態で収納されている。主軸105は、上端が開放された有底円筒状のフレーム104の底部104aに形成された主軸受104bによりラジアル方向に軸支され、また外周に回転子105cが固着されており、電動機106によって回転駆動される。
【0005】
フレーム104の底部104aの上面中央部には、オルダムリング107を収容するオルダムリング収容部104cが形成されている。オルダムリング107は、オルダムリング収容部104cの底面と所定方向に摺動自在であり、かつ、揺動スクロール102の背面と、前記所定方向と直行する方向に摺動自在に構成されている。
【0006】
シェル103の底部には油溜め108が形成され、主軸105の下端には、油溜め108内の潤滑油を汲み上げて軸受穴部102b、主軸受104bおよびオルダムリング収容部104cに供給するためのポンプ109が設けられている。また、主軸105内には、給油経路である油穴105bが設けられている。
【0007】
次に、上述した従来のスクロール圧縮機の動作を説明する。電動機106により主軸105が回転駆動されると、その回転が偏心軸部105aおよび軸受穴部102bにおいて主軸105と係合する揺動スクロール102に伝えられる。この際、オルダムリング収容部104c内で往復運動するオルダムリング107により揺動スクロール102の自転が防止されるので、揺動スクロール102は公転運動を行うことになり、固定スクロール101と協動して、周知のスクロール圧縮機の圧縮原理により冷媒ガスが圧縮される。
【0008】
また主軸105が回転すると、ポンプ109により油溜め108内の潤滑油が吸引される。これにより、潤滑油は、図9に矢印で示すように、主軸油穴105bを通って軸受穴部102bおよび主軸受104bを潤滑し、次いで、揺動スクロール102の背面とオルダムリング収容部104cの底面との間にオルダムリング107を境に形成される内側空間110に至る。そして、オルダムリング107の上面と揺動スクロール102の背面との隙間を経てオルダムリング107の外側空間111に至り、さらに、フレーム104に穿設された排油穴104dを通じてフレーム104外へ排出され、油溜め108に戻る。
【0009】
上述した従来のスクロール圧縮機において、運転時、渦巻内の圧縮ガスによる軸方向の反発力(以下、「スラスト荷重」と記す)によって、揺動スクロール102がフレーム104に強く押し付けられながら公転運動をする。その結果、スラスト荷重により揺動スクロール102の下面が摺動摩耗し、最悪の場合、揺動スクロール102がフレーム104に焼き付いてしまう。
【0010】
このような事態を避けるため、特許文献2に記載されたスクロール圧縮機では、揺動スクロール102とフレーム104との間の摺接面にスラスト受けを配設している。スラスト受けによりスラスト荷重を受けることで、スラスト荷重による揺動スクロール102下面の摺動摩耗を抑えることができ、またフレーム104との焼き付きを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−189961号公報参照
【特許文献2】特開2007−146813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
揺動スクロール102とフレーム104との間にスラスト受けを配設する場合、固定スクロール101とフレーム104との間の限られた空間内に揺動スクロール102、オルダムリング107およびスラスト受けを配置しなければならない。
【0013】
しかし、揺動スクロール102にはオルダムリング107の爪部を収容する溝部を設けなければならず、揺動スクロール102の台板にある程度の厚みが必要となるため、圧縮機の体積が増加する。また、圧縮機運転時にスラスト受けが周辺部品と干渉しないよう揺動スクロール102の背面にスラスト受けを取り付けると、揺動スクロール102の遠心力が増加して、軸受けに異常磨耗や焼き付きが発生する原因となる。
【0014】
更に、スラスト受けを揺動スクロール102の背面に配設することで、同じく背面に設けられたオルダムリング107の爪部収容溝とオルダムリング107の爪との面圧を確保できなくなり、オルダムリング107の爪部に異常磨耗が発生する原因となる。
【0015】
この発明は上記の課題を解決するためになされたもので、スラスト受けの配置を工夫することで、高さ方向にコンパクトに収納でき、重量増加を抑えてオルダムリングの爪の面圧を確保し、かつ周辺部品と干渉することのない構造を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明にかかるスクロール圧縮機は、底部に油溜めを有するシェルと、シェル内の上部に設けられ、台板上に渦巻歯が形成された固定スクロールと、固定スクロールとともに圧縮機構を構成し、台板上に渦巻歯が形成され、背面の中心部に揺動軸受を有するボス部が形成された揺動スクロールと、一端に揺動軸受に回転自在に係合する偏心軸部が形成され、電動機により回転駆動される主軸と、有底円筒状をなし、外周がシェルの内周面に固着され、揺動スクロールを挟んで、開放側上端面に固定スクロールが当接固定され、底部に主軸を回転自在に支承する主軸受が形成されたフレームと、揺動スクロールとフレームの底部との間に配設され、揺動スクロールの自転を防止するオルダムリングと、を備えたスクロール圧縮機において、
揺動スクロールとフレームの底部との間に、揺動スクロールをスラスト方向に支承する略リング状のスラスト受けが配設され、かつスラスト受けは、揺動スクロールの台板の背面の外周側に形成された凹部に収容されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明のスクロール圧縮機は、揺動スクロールの台板の背面に設けられた略リング状の凹部にスラスト受けを収容することで、高さ方向にコンパクトな構成とすることができる。更に揺動スクロールの軽量化ができるので、軸受けの異常磨耗や焼き付きを防止でき、あわせて軽量なスクロール圧縮機を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の要部拡大断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の主要部材を展開して示した斜視図である。
【図3】実施の形態1における揺動スクロールおよびスラスト受けを背面側から見た平面図である。
【図4】図3の要部拡大図である。
【図5】図3の要部拡大図である。
【図6】この発明の実施の形態2におけるスクロール圧縮機の要部拡大平面図である。
【図7】この発明の実施の形態3におけるスクロール圧縮機の要部拡大平面図である。
【図8】従来のスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図9】図8のスクロール圧縮機の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明にかかるスクロール圧縮機の各実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の要部拡大断面図である。また図2は、同スクロール圧縮機の主要部材を展開して示した斜視図である。なお図1は、ソルダムリング収容部104cを含まない位置の断面を示している。図中、図8および図9に示した従来のスクロール圧縮機と同一部分には同一符号を付して、重複する説明を省略する。
【0021】
圧縮機構を構成する固定スクロール101は、台板101aの下面に渦巻歯101bが形成されたものである。同様に揺動スクロール102は、台板102cの上面に
渦巻歯102dが形成されたものである。前述したように、固定スクロール101に対して揺動スクロール102が揺動運動を行うことにより、渦巻歯101bと102dとの間で冷媒ガスの圧縮が行われる。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態においては、揺動スクロール102の台板102cの背面の外周側にリング状の凹部102eを形成し、その凹部102eに略リング状のスラスト受け112を収容している。
【0023】
また、図2に示すように、凹部102eにリーマボルト114を配置するための一対のネジ穴102fを設け、スラスト受け112の対向する位置に、リーマボルト114の頭部を収納する一対の孔112aを設けている。リーマボルト114を、スラスト受けに設けられた孔112aと、揺動スクロール102の背面に設けられたネジ穴102fに挿入することで、スラスト受け112の位置を規制し、周辺の部材との干渉を避けることができる。
【0024】
次に、図3、図4および図5を参照して、揺動スクロール102の背面に設けられたスラスト受け収容用凹部102e、この凹部102eに設けられたネジ穴102f、およびスラスト受け112に設けられたリーマボルト114の頭部を収納するための孔112aの寸法関係について説明する。
【0025】
図3は揺動スクロール102およびスラスト受け112を背面側から見た図、図4および図5はその要部拡大図である。図3に示すように、揺動スクロールの台板102cの背面の外周側に形成された略リング状の凹部102eに、同心円状にスラスト受け112が収容されている。なお、揺動スクロールの台板102cの背面に形成された一対の溝102gは、オルダムリング107のリング部107aに形成された爪107bを収容する溝である。
【0026】
図4に示すように、揺動スクロールの台板102cの背面に設けられた凹部102eにおいて、台板102cの中心からオルダムリング爪収容溝102gの直線部外周側終端までの距離をφAとする。また台板102cの中心から凹部102eの内周位置の距離をφBとする。このときφA<φBの関係で配置することで、圧縮機運転時のオルダムリング107の爪107bとオルダムリング爪収容溝102gとの面圧を確保することができる。
【0027】
また、図5に示すように、リーマボルト114とスラスト受け112に設けられた穴の隙間をCr1とする。揺動スクロール102の台板102cの背面に設けられた略リング状の凹部102eの内周とスラスト受け112の内周の隙間をCr2とする。またスラスト受け112の外周とフレーム104の内周の隙間をCr3とする。このとき、Cr1<Cr2かつCr1<Cr3の関係で構成し、リーマボルト114によりスラスト受け112の位置を規制することで、スラスト受け112を高さ方向でコンパクトに収納しつつ、周辺部品と干渉することのない構造を得ることができる。
【0028】
次に、本実施の形態にかかるスクロール圧縮機の動作を説明する。シェル103に設けられた電源端子(図示せず)に通電すると、電動機106と回転子105cとの間にトルクが発生し、主軸105が回転する(図8参照)。これにより、主軸105の偏心軸部105aに回転自在に装着された揺動スクロール102がオルダムリング107を介して公転運動し、固定スクロール101と協動する。
【0029】
吸入管からシェル103内に吸引された冷媒ガスは、固定スクロール101と揺動スクロール102によって構成される圧縮室へ吸入され、圧縮された後、吐出管を介してシェル103外へ吐出される。
【0030】
またシェル103の底部の油溜め108にある潤滑油は、主軸105が回転するとポンプ109により揚油され、主軸105内に設けられた油穴105bを通り、スラスト受け112とフレーム104の底部104aとの摺接面、更に各軸受や他の摺動部に給油、潤滑された後、再びシェル103の底部に戻る。
【0031】
以上のように、揺動スクロール102の台板102cの背面に略リング状の凹部102eを設け、この凹部102eにスラスト受け112を収容することで、高さ方向にコンパクトな構造のスクロール圧縮機を実現できる。また、凹部102eを設けることで揺動スクロール102の軽量化ができ、遠心力を抑えることができる。
【0032】
また、揺動スクロール102の台板102cの背面に設けられた凹部102eの内周位置をオルダムリング107の爪107bの直線部より外側に設けることで、爪の面圧を確保できる。
【0033】
更に、スラスト受け112の配設位置をリーマボルト114とスラスト受け112に設けられた孔112aおよび揺動スクロール102の台板102cの背面に設けられた穴102fで規制することで、周辺部品と干渉することのない構造を実現できる。
これらの結果、信頼性の高いスクロール圧縮機を得ることができる。
【0034】
なお、スラスト受け112には、通常、耐磨耗性に優れた金属製の板材を用いるが、特性の異なる金属を張り合わせ板材を構成してもよい。例えば、摺動部側に耐磨耗性に優れた金属を用い、揺動スクロール102と接する側に強度に優れた金属を用いる。
【0035】
実施の形態2.
本実施の形態では、オルダムリング107の爪107bがオルダムリング107のリング部107aより外周側にオーバーハングしている場合について、スラスト受けの形状を説明する。
【0036】
図6は、このような場合のスラスト受け112の形状を示す要部平面図である。実施の形態1で説明したスラスト受け112に、オルダムリングの爪収容溝102gの先端に設けられた逃がし部102hに対応する形で逃がし部112bを爪収容溝102gの直線部より外周側に設けることで、オルダムリング107との干渉を回避することができる。
【0037】
実施の形態3.
本実施の形態では、スラスト受け112の摺動部に潤滑油を給油する給油孔を設けた場合について、スラスト受け112の構造を説明する。
【0038】
図7は、このような場合のスラスト受け112の形状を示す要部平面図である。実施の形態2で説明したスラスト受け112に、オルダムリング107の爪107bの逃がし部112bより外周側に給油孔112cを設けることで、スラスト受け112の摺動部に潤滑油を十分供給し、スラスト荷重による異常磨耗や焼き付きを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0039】
101 固定スクロール
101a、102c 台板
101b、102d 渦巻歯
102 揺動スクロール
102a ボス部
102b 軸受穴部
102e 凹部
102f 穴
102g オルダムリング爪収容溝
103 シェル
104 フレーム
104a 底部
104b 主軸受
104c オルダムリング収容部
104d 排油穴
105 主軸
105a 偏心軸部
105b 油穴
105c 回転子
106 電動機
107 オルダムリング
107a 爪
107b リング部
108 油溜め
109 ポンプ
110 内側空間
111 外側空間
112 スラスト受け
112a 孔
112b 逃がし部
112c 給油穴
114 リーマボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に油溜めを有するシェルと、
前記シェル内の上部に設けられ、台板上に渦巻歯が形成された固定スクロールと、
前記固定スクロールとともに圧縮機構を構成し、台板上に渦巻歯が形成され、背面の中心部に揺動軸受を有するボス部が形成された揺動スクロールと、
一端に前記揺動軸受に回転自在に係合する偏心軸部が形成され、電動機により回転駆動される主軸と、
有底円筒状をなし、外周が前記シェルの内周面に固着され、前記揺動スクロールを挟んで、開放側上端面に前記固定スクロールが当接固定され、底部に前記主軸を回転自在に支承する主軸受が形成されたフレームと、
前記揺動スクロールと前記フレームの底部との間に配設され、前記揺動スクロールの自転を防止するオルダムリングと、を備えたスクロール圧縮機において、
前記揺動スクロールと前記フレームの底部との間に、前記揺動スクロールをスラスト方向に支承する略リング状のスラスト受けが配設され、かつ前記スラスト受けは、前記揺動スクロールの台板の背面の外周側に形成された凹部に収容されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記スラスト受けに設けられた孔と、前記揺動スクロールの凹部のうち前記孔に対向する位置に設けられた穴にリーマボルトを挿入し、前記リーマボルトによって前記スラスト受けの位置を規制することを特徴とする、請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記スラスト受けは、材質の異なる略リング状の2種類の金属が張り合わされた板材であることを特徴とする、請求項1または2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記オルダムリングとして、リングの上面および下面に互いに直交する1対の爪が形成され、かつ前記爪が前記オルダムリングのリングより外周側にオーバーハングしているものが用いられ、前記スラスト受けに、前記爪を逃がす逃がし部が前記揺動スクロールの背面に設けられて前記爪を収容する溝の直線部より外周側に形成されることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記スラスト受けは、前記フレームとの間に潤滑油を給油するための給油孔を有することを特徴とする、請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記油溜めの潤滑油はポンプにより汲み上げられ、前記主軸内を軸方向に貫通する油穴を通り、前記フレームの主軸受と揺動軸受を給油した後、前記スラスト受けの前記フレームと摺接する面を通り、前記フレームにある排油穴から前記油溜めへ排油されることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−225257(P2012−225257A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93679(P2011−93679)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】