説明

スクロール圧縮機

【課題】背圧弁によって制御された背圧室の背圧によって旋回スクロールを固定スクロールへ付勢するスクロール圧縮機において、起動直後や通常運転途中での運転条件の切り替え時に、背圧の昇圧不足による離脱状態(旋回スクロールが固定スクロールへ付勢できずに両者が離れた状態)が生じる場合があった。このため、このような離脱状態の時に、吐出圧を背圧室へ導入する背圧弁があるが、背圧弁周りに吐出圧領域を形成する必要が生じ、その吐出圧領域と背圧領域等の圧力が異なる領域間のシール性の確保が困難であるという問題があった。
【解決手段】離脱状態の時に、背圧弁によって圧縮室と背圧室を繋ぐ流路を設ける。これにより、離脱状態時に圧縮室の圧力が吐出圧に近づくというスクロール圧縮機の特性から、圧縮室の吐出圧に近い高圧が背圧室へ流入し、背圧が急上昇して離脱状態から速やかに正常な運転へ復帰できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールに噛み合う旋回スクロールの背面に中間的な圧力(以後、背圧と呼称する)となる背圧室を設けて旋回スクロールを固定スクロールへ付勢するスクロール圧縮機に関し、特に、起動直後や通常運転途中での運転条件の切り替え時に生じやすい、背圧の昇圧不足による離脱状態(旋回スクロールが固定スクロールへ付勢できずに両者が離れた状態)から、正常な運転状態への移行を速やかに行うことが可能なスクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スクロール圧縮機が離脱状態に陥ると、噛合う両ラップで形成される歯先歯底間の隙間拡大による圧縮室のシール性低下により、圧縮室間で多量の漏れが発生し、エネルギー効率が極端に低下する。さらに、多少の背圧上昇が起こるため、旋回スクロールがラップ立設方向である軸線方向内で不規則な振動を起こし、離脱時に旋回スクロールが押圧される旋回スクロール背面の部材と旋回スクロールが衝突する結果、騒音、そして、旋回スクロールやその背面の部材さらには固定スクロールの摩耗という問題が発生する。
【0003】
従来のスクロール圧縮機では、特許文献1に記載されているように、背圧室と圧縮室とを連通する背圧弁流路に背圧弁を設けている。そして、この背圧弁により、正常運転時は、旋回スクロールを固定スクロールへ適度な付勢力によって付勢できる背圧設定値に背圧を制御し、離脱状態では、背圧室と吐出室を連通する吐出室連通路を開いて背圧室に吐出圧を導入し、旋回スクロールが固定スクロールへ付勢される正規の運転状態へ速やかに移行できるようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−132165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載のスクロール圧縮機の背圧弁は、背圧や背圧弁流路が通じる圧縮室(以後、連通圧縮室と呼称する)の圧力(以後、連通圧縮室圧と呼称する)とともに、圧縮機内部の最高圧である吐出圧も扱うため、背圧弁周りに、背圧や連通圧縮室圧とともに吐出圧の領域を設ける必要がある。また、スクロール圧縮機の小型化の要求から、背圧弁も小型化しなければならなくなっている。この結果、背圧弁周りに配置される吐出圧領域と連通圧縮室圧領域間、または吐出圧領域と背圧領域間のシール性の確保が困難となり、吐出圧領域から連通圧縮室領域や背圧領域への作動流体及び油の漏れが発生する。ここで背圧領域へ漏れた作動流体や油も、最終的には背圧弁流路を通って連通圧縮室へ流入する。
【0006】
但し、実際の場合、背圧室の作動流体や油の一部は、旋回鏡板のラップ立設側である旋回鏡板おもて面と固定スクロールの歯先面とほぼ同一となっている台板面の隙間を通って、吸込室や低圧側の圧縮室へ流入する。いずれにせよ、背圧弁周りのシール性低下により、吐出圧の作動流体や油は、それよりも低圧の連通圧縮室や吸込室や背圧室へ漏れ込むことになり、エネルギー効率の低下を生じるという問題があった。この対策としては、背圧弁周りのシール性を確保して上記エネルギー効率の低下を実質的に無視できるレベルにまで抑制することが考えられるが、背圧弁の小型化によってシール長さの確保は困難であるため、シール隙間の極限に近い縮小や、シール隙間へのシール材の挿入が必要となり、加工精度の向上や部品点数の増加による製造コストの大幅な上昇が問題となった。
【0007】
このように、従来の吐出圧導入を行う背圧弁を搭載するスクロール圧縮機では、背圧弁周りのシール性の低下によるエネルギー効率の低下または製造コストの増大が問題となり、エネルギー効率の向上や製造コストの低減という課題があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、簡易な構成で離脱状態から正常な運転状態への移行を速やかに行うスクロール圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記本発明の目的は、
鏡板とそれに立設する渦巻き状のラップを備えて旋回運動する旋回スクロールと、鏡板とそれに立設する渦巻き状のラップを備えた固定スクロールと、前記両スクロールを噛合わせて形成する圧縮室と、その圧縮室中の作動流体の圧力による前記旋回スクロールの前記鏡板である旋回鏡板を前記固定スクロールの前記鏡板である固定鏡板から引離す向きの引離力に対抗して、前記旋回鏡板を前記固定鏡板側へ引付ける引付力を発生させる引付力付加手段の一つとして、前記旋回鏡板の背面に中間的な圧力である背圧を導入した背圧室と、圧縮後の作動流体を導く吐出領域と、その吐出領域と前記背圧室を連通して、前記吐出領域に保持されている油を前記背圧室へ導入する絞りをともなう背圧室油導入路と、前記背圧室と前記圧縮室をつなぎ、その途中に前記背圧を制御する背圧弁を設ける背圧弁流路と、を備える、スクロール圧縮機において、
前記背圧弁流路が開口する圧縮室である連通圧縮室は常時閉込み開始後の圧縮室とし、前記背圧弁は、連通圧縮室の圧力である連通圧縮室圧に対して一定値である加圧値だけ高い背圧設定値以上で導通して前記背圧を前記背圧設定値近傍に制御するとともに、前記連通圧縮室圧に対して前記加圧値よりも小さい一定値である導入加圧値だけ高い背圧導入上限値以下でも導通すること、を特徴とするスクロール圧縮機
によって達成される。
【0010】
また、上記本発明の目的は、
背圧室の圧力と連通圧縮室の圧力との差圧によって背圧弁体が受ける力と、ばねの力によって前記背圧弁体が受ける力、とのバランスによって、正常運転時に、前記背圧室から前記連通圧縮室に供給される作動流体の圧力を調整する背圧制御弁を備えたスクロール圧縮機において、
前記スクロール圧縮機の停止時には、前記ばねの力によって前記背圧弁体が所定の位置に置かれることにより、前記連通圧縮室と前記背圧室とを連通するための背圧導入連通部が形成され、
前記スクロール圧縮機の正常運転時には、前記背圧弁体の移動によって前記背圧導入連通部が消滅し、前記背圧室から前記連通圧縮室へ作動流体を導入するための背圧設定連通部が形成される
構成によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば簡易な構成で離脱状態から正常な運転状態への移行を速やかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のスクロール圧縮機の実施例1における圧縮機の縦断面図。
【図2】図1に示す固定スクロールを下方から見た下面図で、(A)図は旋回外線側圧縮室の閉込み開始時の旋回スクロールラップも含む図、(B)図は旋回内線側圧縮室の閉込み開始時の旋回スクロールラップも含む図。
【図3】図2に示す固定スクロールのG−G線断面図。
【図4】図1に示す旋回スクロールを上方から見た上面図。
【図5】図4に示す旋回スクロールのH−H線断面図。
【図6】図2のQ部を拡大して示す部分拡大図で、吸込パイプ近傍の固定台板面の拡大図。
【図7】図3のP部を拡大して示す部分拡大図で、背圧が予圧値以下(背圧導入上限値以下)のほとんど昇圧していない場合の背圧弁の縦断面図。
【図8】図3のP部を拡大して示す部分拡大図で、背圧が背圧設定値に制御されている場合の背圧弁の縦断面図。
【図9】離脱状態時の圧縮室圧力分布を説明する概略図。
【図10】図7の背圧弁で、各要素の機能に対応する名称(請求項内の要素名称)を示す図。
【図11】図8の背圧弁で、各要素の機能に対応する名称(請求項内の要素名称)を示す図。
【図12】本発明のスクロール圧縮機の実施例2乃至6における図3のP部を拡大して示す部分拡大図で、背圧が予圧値以下(背圧導入上限値以下)のほとんど昇圧していない場合の背圧弁の縦断面図。
【図13】本発明のスクロール圧縮機の実施例2乃至6における図3のP部を拡大して示す部分拡大図で、背圧が背圧設定値に制御されている場合の背圧弁の縦断面図。
【図14】本発明のスクロール圧縮機の実施例2における図12のA部を拡大して示す背圧弁の部分拡大図。
【図15】本発明のスクロール圧縮機の実施例2における図13のB部を拡大して示す背圧弁の部分拡大図。
【図16】本発明のスクロール圧縮機の実施例3における図12のA部を拡大して示す背圧弁の部分拡大図。
【図17】本発明のスクロール圧縮機の実施例3における図13のB部を拡大して示す背圧弁の部分拡大図。
【図18】本発明のスクロール圧縮機の実施例4における図12のA部を拡大して示す背圧弁の部分拡大図。
【図19】本発明のスクロール圧縮機の実施例4における図13のB部を拡大して示す背圧弁の部分拡大図。
【図20】本発明のスクロール圧縮機の実施例5における図12のA部を拡大して示す背圧弁の部分拡大図。
【図21】本発明のスクロール圧縮機の実施例5における図13のB部を拡大して示す背圧弁の部分拡大図。
【図22】本発明のスクロール圧縮機の実施例6における図12のA部を拡大して示す背圧弁の部分拡大図。
【図23】本発明のスクロール圧縮機の実施例6における図13のB部を拡大して示す背圧弁の部分拡大図。
【図24】本発明のスクロール圧縮機の実施例7における背圧弁体の縦断面図。
【図25】本発明のスクロール圧縮機の実施例1の変形した背圧弁の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら実施例について説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1を図1〜図11に基づき説明する。なお、この実施例のスクロール圧縮機の直径は、10mmから1000mm程度である。
【0015】
まず、スクロール圧縮機の全体構成を、主に図1を用いて説明する。
図1に示すスクロール圧縮機1は、固定スクロール2と旋回スクロール3を備えており、固定スクロール2は、固定スクロールラップ(固定ラップ)2bを固定スクロール鏡板(固定鏡板)2aに立設し、また旋回スクロール3も同様に、旋回スクロールラップ(旋回ラップ)3bを旋回スクロール鏡板(旋回鏡板)3aに立設して、これら固定スクロール2と旋回スクロール3を噛合わせることで、両者間に圧縮室100を形成している。
【0016】
これらの両ラップの厚さはほぼ均一である。また、固定ラップと旋回ラップが同一形状の対称歯形をもつ対称形状のスクロール圧縮機では、旋回ラップ3bの外線側に形成される旋回外線側圧縮室と、旋回ラップ3bの内線側に形成される旋回内線側圧縮室とは同一形状となる。一方、旋回スクロール3の旋回ラップ3bの巻終り側の両側面を固定スクロール2の固定ラップ2bとの噛合いに用いるいわゆる非対称歯形のスクロール圧縮機もある。この非対称歯形のスクロール圧縮機では、固定スクロール2の内線の巻終りである内線側固定巻終りは、前述した対称形状のスクロール圧縮機の対称歯形での内線側固定巻終りα(図2(A)参照)の位置から、β(図2(A)参照)の位置に移動する。これは、インボリュート巻角で更に180度回転させた位置であり、外線側固定巻終りγと固定ラップ歯溝をはさんで対向する位置となる。
【0017】
固定スクロール2は、固定鏡板2aの外辺部でその下面が固定ラップ2bの歯先とほぼ同一面となる固定台板2sを備えている。その下面である固定台板面2uがフレーム4にねじ固定される。一方、旋回スクロール3は、その鏡板背面に設けられた旋回軸受23に、クランク軸6の偏心ピン部6aが挿入され、主軸受24で回転支持されたクランク軸6が回転して旋回運動を行う。この旋回スクロール3の背面には、フレーム4との間に背圧室110が形成されている。
【0018】
旋回スクロール3を自転させずに旋回運動させるため、旋回スクロール3とフレーム4との間にオルダムリング5が設けられている。背圧室110の圧力である背圧は、後述する背圧弁により、吐出圧と吸込圧との間の中間的圧力に保持される。また、旋回軸受23が設けられている旋回軸受室115は吐出圧の吐出領域となっているケーシング8内空間下部の貯油部125から吐出圧力の油が供給されるため、吐出圧となっている。従って、旋回スクロール3は、背圧室110の背圧と、旋回軸受室115の吐出圧を引付力付加手段として、固定スクロール2側に付勢、即ち旋回鏡板3aが固定台板面2uに付勢されている。また、場合によっては、旋回ラップ3bの歯先が固定鏡板2aに、または、旋回鏡板3aが固定ラップ2bの歯先に付勢されることもある。
【0019】
CO2やフロンガスに代表される冷媒等の作動流体を圧縮室100へ導くため、固定スクロール2に設けられた吸込穴2yには吸込パイプ50が接続されている。また、この吸込穴2yには、圧縮機の停止直後に作動流体が逆流するのを防止するため、逆止弁70が吸込パイプ50の下方に設けられている。また、固定スクロール2の中央部付近には、圧縮室100で圧縮された作動流体を吐出させるための吐出穴2dが形成されている。この吐出穴2dの外周側の固定鏡板2aには、複数のバイパス穴2e(図1,図2参照)を設け、各々のバイパス穴2eにはそれぞれバイパス弁22が設けられており、バイパス穴が連通している圧縮室100の圧力が吐出圧領域である固定背面室120の圧力より上昇するとバイパス弁22が開いて、作動流体が過圧縮されるのを防止するようにしている。この特別な場合として、作動流体が液体となった場合の液圧縮がある。この場合には、圧力が瞬間的に急上昇しようとするが、バイパス弁22が開いて圧力の急上昇を回避し、運転を継続できる。
【0020】
クランク軸6の中央には、縦(軸方向)に貫通する給油穴6bが設けられており、貯油部125から吐出圧力の油は、クランク軸6の下端に設けられた給油パイプ6x及び給油穴6bなどの給油路を介して、旋回軸受室115に供給される。クランク軸6には、回転バランスを取るために、フレーム4よりも下部にシャフトバランス80とカウンターバランス82が設けられている。カウンターバランス82は、クランク軸6に焼き嵌めまたは圧入により取り付けたモータ7のロータ7a下部に固定されている。モータ7のステータ7bは、円筒ケーシング8aに焼き嵌めまたは圧入して固定され、このステータ7bとロータ7aとが径方向に均一なギャップを保つようにして、フレーム4は円筒ケーシング8aに溶接されている。
【0021】
円筒ケーシング8aの側面には、ケーシング8内のモータ室130上部に連通するように、吐出パイプ55が設けられており、吐出穴2dから固定背面室120に吐出された作動流体は、フレーム4下部のモータ室130へ流入する間に油が分離されて、吐出パイプ55から冷凍サイクル等に吐き出される。円筒ケーシング8a内の下部には、クランク軸6の下部を支持する副軸受25を取り付けるための下フレーム35が固定配置されている。副軸受25は、ボール25aとボールホルダ25bで構成され、クランク軸6が撓んでも片当りが生じない構成となっている。ボールホルダ25bは下フレーム35にねじ止めまたは溶接により固定配置されている。なお、給油パイプ6xは、クランク軸6の下端に圧入して取り付けられている。
【0022】
円筒ケーシング8aの上部には上ケーシング8bが溶接され、下部には底ケーシング8cが溶接されて、密閉型のケーシング8が構成されている。なお、上ケーシング8bには、モータ7に電力を供給するためのモータ線をつなぐハーメチック端子220が溶接で取り付けられ、また固定スクロール2に圧入された吸込パイプ50もこの上ケーシング8bに溶接されている。ケーシング8内には、組立ての適当な段階で油が封入され、この油は、ケーシング8の下部である貯油部125に溜められる。なお、固定背面室120は、上ケーシング8bと固定スクロール2の間に形成されている。このようにして、スクロール圧縮機1は構成されている。
【0023】
次に、上記スクロール圧縮機の動作を説明する。
モータ7によりクランク軸6を回転させると旋回スクロール3が旋回運動する。これにより、吸込パイプ50から吸入された作動流体は、吸込圧の吸込領域105(図2参照)を通って、固定スクロール2と旋回スクロール3との噛合いにより形成される圧縮室100に取り込まれる。圧縮室100に取り込まれた作動流体は、圧縮室が中央へ移動しつつ縮小することによって圧縮され、中央寄りの吐出穴2dから固定背面室120へ吐出される。固定背面室120とモータ7が設置された空間であるモータ室130は、固定スクロール2及びフレーム4の外周面に設けられた外周溝71により連通されており、これによりケーシング8内部は吐出圧に保たれた吐出領域となり、図1に示すスクロール圧縮機はいわゆる高圧チャンバ方式のスクロール圧縮機となる。
【0024】
圧縮室100内の圧力が固定背面室120の圧力よりも高くなる過圧縮条件では、バイパス弁22の弁体が開き、圧縮室内の作動流体を固定背面室120へバイパス穴2eを介してバイパスさせる。即ち、バイパス弁22は圧縮室圧力抑制手段となっている。これにより、不要な仕事である過圧縮を抑制できるため、性能をより向上させることができる。
【0025】
固定背面室120へ流出した作動流体は、その後、外周溝71を通過してモータ室130の上部空間へ流入し、吐出パイプ55から外部へ吐出される。作動流体中に含まれている油は、固定背面室120へ吐出されたとき、ケーシング8の内壁に衝突して分離され、その分離された油は、ケーシング8内壁を伝って、最終的に底部の貯油部125へ戻る。
【0026】
モータ室130の上部空間に流入した作動流体の一部は、モータ7の外周溝や巻線隙間を通ってモータ7の下部空間との間を往復して吐出される。これにより、ステータ7bの巻線やモータの積層鋼板に油が付着し易くなり、作動流体中の油の分離が促進される。
【0027】
貯油部125に溜まっている油は、吐出領域のモータ室130と背圧室110の圧力差すなわち吐出圧と背圧との差圧により、給油パイプ6x及びクランク軸6内の給油穴6bなどの給油路を通り、旋回軸受23と主軸受24に給油され、それら軸受で絞られた後、背圧室110内へ流入する。給油路ピン部6aの上部である旋回軸受室115は、油の流れにおいて絞り部である旋回軸受23より上流側であるため、ほぼ吐出圧となり、旋回スクロール3を固定スクロール2側に押し付ける作用をもち、つまり、引付力の源となる。また、背圧室110も背圧で旋回スクロール3を固定スクロール2側に押し付ける作用をもち、これも、引付力の源となる。これら背圧室110と旋回軸受室115は固定スクロール2と旋回スクロール3とを引き付ける引付力付加手段となる。なお、副軸受25には給油穴6bから遠心力によって給油される。
【0028】
ここで、吐出領域にある油は、給油パイプ6xから給油穴6bを通って、絞り流路となる旋回軸受23と主軸受24を通過して背圧室110へ導かれる。この給油穴6bから背圧室110への絞り流路を背圧室油導入路200(図示せず)と称する。これより、背圧室油導入路200によって背圧室110へ流入する油は、吐出圧まで背圧室110の圧力を昇圧させる作用がある。また、油に溶け込んでいる作動流体は、中間圧の背圧室110へ流入する際、減圧によってガス化するため、これに伴う背圧室110の圧力上昇作用もある。また、背圧室110へ流入した油はオルダムリング5の潤滑も行う。
【0029】
背圧室110へ流入した油は、その後、後述する背圧弁流路60(図3参照)を通って圧縮室100に流入し、作動流体と混合される。この際、後述する背圧弁流路に設ける背圧弁動作により、背圧は中間圧に保たれる。また、背圧室110の油のうちの少量が、吸込領域105に至る吸込域連通路65(図6参照)を介して最終的に圧縮室100へ流入する。ここで、場合によっては、吸込域連通路65を設けない実施例も考えられる。
【0030】
次に、旋回スクロール3と固定スクロール2について、図2〜図6を用いて説明する。
図2,図3に示すように、固定スクロール2には、圧縮室100と背圧室110とを連通する背圧弁流路60が設けられている。背圧弁流路60の圧縮室側の開口部である圧縮室口60aは、図2の如く、固定スクロールの歯底中央に開口させているため、旋回スクロール3の旋回ラップ外線側圧縮室である旋回外線側圧縮室100aと、内線側圧縮室である旋回内線側圧縮室100bの両圧縮室に連通可能に構成されている。
【0031】
本実施例では、圧縮室口60aを設けた固定スクロール2の固定ラップ2b内線側の巻終り(内線側固定巻終り)を、従来歯形(旋回内線側圧縮室と旋回外線側圧縮室が同時に閉込みを開始する対称歯形)の固定ラップ内線巻終り位置(内線側固定巻終り)α(図2の(A)図参照)よりもインボリュート巻角で180度延伸させた位置β(図2の(A)図参照)を内線側固定巻終りとした、いわゆる非対称歯形としている。このため、従来の対称歯形と異なって、圧縮室口60aと連通する旋回外線側圧縮室100aと旋回内線側圧縮室100bの圧力レベルをほぼ同一にすることができる。従って、これらの圧縮室100a,100bと連通する背圧室110の圧力変動幅も小さくできる。
【0032】
圧縮室口60aは、その直径を、旋回ラップ3bの歯幅よりもわずかに小さい寸法に設定し、旋回ラップ3bで圧縮室口60a全体を塞ぐことができる大きさとしている。このため、背圧弁流路60には短時間ではあるが閉じられている時間が発生し、背圧室110は各圧縮室100a,100bと別々のタイミングで連通する。つまり、同時には連通しない。これにより、背圧弁流路60を介して、圧力レベルの異なる固定内線側圧縮室100aと固定外線側圧縮室100bとが連通することがないため、高圧側圧縮室から低圧側圧縮室への漏れは起こり難く、漏れ損失が抑制されるから、エネルギー効率を向上できる効果がある。また、圧縮室口60aの口径をできるだけ大きくしたため、背圧弁流路60の流路抵抗は小さくなり、大流量が流れる場合でも背圧室の圧力を所望の値に迅速に設定できる効果がある。また、この背圧弁流路60は、1回の旋回中に2回も閉口を起こす間欠連通路となるため、後述するこの連通路に設ける背圧弁の開口のきっかけをつくり、背圧弁の動作を確実にして、背圧の異常上昇を回避する効果がある。
【0033】
更に、本実施例では、圧縮室口60aの形成位置を、固定スクロール中心を原点とし、基準方向を固定巻終り方向とする前述した極座標において、固定ラップの巻終りから固定歯底に沿って中央側(巻始め側)へ270度以上入った所に設定している。このように構成することによる効果を以下述べる。
【0034】
図2(A)図に示す時点での旋回ラップの動きを考慮すると、閉込み開始前の旋回外線側圧縮室100a(吸込領域)には開口しない圧縮室口60aの固定歯底上での設定位置は、少なくとも(A)図のハッチングで示す領域となる。なお、極座標が360度以上では圧縮室口60aをどこに設置しても吸込領域には開口しないため、ハッチングを省略している。同様に、図2(B)図に示す時点における、閉込み開始前の旋回内線側圧縮室100b(吸込領域)には開口しない圧縮室口60aの固定歯底上での設置位置も、少なくとも(B)図のハッチングで示す領域となる。
【0035】
(B)図にクロスハッチングで示される領域((A)図と(B)図のハッチングで示した共通部分)に圧縮室口60aを設けると、背圧弁流路60は常時閉込み終了後の圧縮室にのみ連通させることができる。ラップ厚さに近い口径を持つ圧縮室口60aを固定歯底中央部に設ける本実施例の場合、固定歯底中央部付近で圧縮室口60aが吸込領域に連通しない領域(クロスハッチングの部分)の幅がラップ厚さ以上でなければならない。この条件に合う箇所は、このクロスハッチング領域の分布から、極座標で270度以上の位置になることがわかる。
【0036】
従って、圧縮機側開口60aを固定歯底中央部付近で極座標で270度以上の位置に設けることにより、背圧弁流路60を、常時、旋回ラップ3bの巻終りが固定ラップ2bと接した後の閉込み開始後の空間である圧縮室100a,100bにのみ開口させることができ、吸込領域105と通じている吸込空間(ラップ間で形成されている吸込室)には決して連通しないように構成できる。これにより、背圧室110からの高温の油(作動流体も含む)が吸込領域105に流入するのを防止できるから、吸込加熱性能低下を抑制でき、エネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【0037】
背圧弁流路60の他方の開口部である背圧室口60bは、固定スクロール2の固定台板面2uに形成されている周囲溝2pに連通する凹み部2p1に開口されている。このため、背圧室口60bは常時背圧室110に連通している。背圧弁流路60の途中には、絞りを伴う背圧弁26が設置されている。この背圧弁26の構成及び動作は、後に詳細に説明する。
【0038】
本実施例のスクロール圧縮機は、非対称歯形を採用しているため、圧縮室口60aと連通する旋回外線側圧縮室100aである旋回外線側連通圧縮室100arと旋回内線側圧縮室100bの旋回内線側連通圧縮室100brの圧力レベルはほとんど同一となる。更に、各々の圧縮室100arまたは100brが存在する(圧縮室100aと100bに圧縮室側口60aが開口する)旋回位相角の範囲も小さくなるため、その圧力変動幅も小さくなる。この結果、背圧弁26によって設定される背圧の変動が小さくなるため、旋回スクロールを固定スクロールへ付勢する力の変動が抑制される。従って、この付勢力の変動に伴って生じる各スクロールの変形の変動が抑制されるため、両スクロール間の隙間の変動が小さくなり、その隙間における油保持性が向上してシール性が向上し、漏れ損失低減を図ることができる。更に、ラップ同士の干渉の抑制による摩擦損失の低減も合わさって、エネルギー効率を向上できる効果が得られる。
【0039】
また、バイパス弁22を設けているため、これらの相乗効果によって、スクロール圧縮機に要求される全運転範囲で、旋回スクロールを固定スクロールに付勢できると共に、広い運転条件範囲で付勢力を小さくすることが可能となるから、摺動損失が小さく、エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を実現できる効果がある。
【0040】
以上のように、背圧室110から吸込領域105に高温の油を流入させないようにすることで、吸込加熱性能低下を回避できるが、吸込領域105に全く油を供給しないと、ラップ側面における圧縮室100と吸込領域105のシール部であるラップの最外噛合い箇所付近のシール性が低下し、逆にエネルギー効率の低下を生じる。しかし、吸込領域105のうちで閉込み開始前の圧縮室位置である吸込空間の内部に入れても、吸込過程における作動流体の吸込領域105からラップの中央に向かう流れによって、最外噛合い箇所付近に油を供給することができない。最外噛合い箇所付近のシール性を改善するためには、吸込過程における作動流体の吸込領域105からラップの中央に向かう流れにおいて、最外噛合い箇所よりも上流側で少量の給油を行う必要がある。
【0041】
これを実現するため、本実施例では、図4〜図6に示す吸込域連通路65を設けている。即ち、吸込域連通路65は、旋回鏡板3aの固定台板面2uに対向する位置に設ける旋回鏡板給油窪み65b(図4,図5参照)と、固定台板面2u上で、旋回鏡板給油窪み65bの旋回軌跡にかかる位置に設ける固定台板給油溝65aと、同じく旋回鏡板給油窪み65bの旋回軌跡にかかる位置に設ける固定台板掘込み65xから成る(図6参照)。ここで、固定台板給油溝65aは、吸込パイプ50から圧縮室100へ至る作動流体の流動経路内(吸込領域105)に設けられている。また、固定台板掘込み65xは、背圧室110に臨む固定スクロール2の周囲溝2pに繋がっている。
【0042】
以上のように構成される吸込域連通路65の動作を、次に説明する。
旋回スクロール3の旋回運動によって、旋回鏡板給油窪み65bは、図6に示すように、固定台板掘込み65xと固定台板給油溝65aとの間を往復する。この結果、旋回スクロール3が1旋回する毎に、旋回鏡板給油窪み65bに溜まった油を吸込領域105へ送り込むことになる。すなわち、吸込域連通路65は、背圧室110の油を吸込過程における作動流体の吸込領域105からラップの中央に向かう流れにおいて最外噛合い箇所よりも常に上流側に間欠的な給油を実現するものである。これにより、上記した如く、最外噛合い箇所付近のシール性を改善できるため、エネルギー効率を向上できるという効果がある。
【0043】
ここで、固定台板掘込み65xを、背圧弁流路60の背圧室110側開口部である背圧室口60bが設置される凹み部2p1とする別の実施例もある。凹み部2p1には、背圧室110内のほぼ全ての油が集まってくるため、背圧室110内で最も油を収集しやすい場所となっている。このため、必要な吸込給油量を確保するために要する旋回鏡板給油窪み65bを小型化できるため、加工が容易になるという効果がある。また、使用条件によって必要吸込給油量が多くなる場合も考えられるが、広い必要吸込給油量下で旋回鏡板給油窪み65bを設置可能にするという見方もできる。
【0044】
次に、背圧弁流路60の途中に設ける背圧弁26の構成及び動作を、図3P部の部分拡大図である図7及び図8を用いて説明する。まず、構成を説明する。
【0045】
固定スクロールに上下を貫通する弁穴2hと、その内側面と固定スクロールの歯底を繋いで、背圧弁流路60の最も圧縮室側区間をなす流通穴2mを設ける。流通穴2mは、固定スクロール側面から開け、封止材2m1で封止する。そして弁穴2hの下部に弁ピース26bを圧入等により固定配置する。弁ピース26bの下面は、固定台板面2uより上がった凹み部2p1の面に合わせる。そして、弁ピース26bの中央に設けた弁ピース軸穴26b2に背圧弁体26aの弁本体26a1を0.02〜0.05mm程度の半径隙間(今後この隙間を弁シール隙間と呼称する。)を設定して挿入する。弁ピース26bの上部外周には、弁ピース段差26b4を設け、その下部に、弁ピース軸穴26b2まで貫通する弁ピース横穴26b3を設ける。これにより、弁ピース横穴26b3は、常時流通穴2mと繋がる。また、弁本体26a1には、底面と弁体側面26a5に設ける背圧室側弁開口溝26a4をつなぐ弁体連通路26a3を設ける。本実施例では、さらに、弁本体26a1の上部に大径の弁体ヘッド26a2が備わり、弁穴2hは弁体ヘッド26a2により上部弁穴空間2h1と下部弁穴空間2h2に仕切られる。ただし、弁体ヘッド26a2と弁穴2hの間には0.1〜0.2mm程度の半径隙間(今後この隙間を弁ヘッド隙間と呼称する。)を設け、背圧弁体26aは上下可動とする。さらに、弁体ヘッド26a2の上部に弁ばね26cを配し、その上から弁キャップ26dを固定スクロール2に圧入する。
【0046】
弁ピース軸穴26b2は、その内部を背圧弁体26aが動く、背圧弁シリンダの役割とともに、背圧室110の圧力を導入する背圧室導圧路の役割も担う。また、軸穴側面26b1は弁シリンダ側面と言い換えることができる。さらに、弁ピース軸穴26b2のうちの背圧弁体26a下部空間は、背圧室側空間となる。一方、背圧シリンダを背圧弁体で仕切ったときの圧縮室側に形成される圧縮室側空間は、上部弁穴空間2h1となる。この上部弁穴空間2h1は、常時流通穴2mが開口する下部弁穴空間2h2と、弁体ヘッド26a2外周の隙間及び外周面に設ける弁体平面カット26a6によって、連通している。
【0047】
下部弁穴空間2h2の圧力は、背圧弁流路60が開口する連通圧縮室100ar,100brの圧力とほぼ等しくなる。これより、流通溝2m,下部弁穴空間2h2,弁体平面カット26a5(及び、弁体ヘッド外周隙間),上部弁穴空間2h1をつなぐ経路は、背圧弁体26aの圧縮室側空間に連通圧縮室の圧力である連通圧縮室圧を導入する圧縮室導圧路の役割を担っている。この結果、背圧弁体26aにかかる軸方向力に及ぼす連通圧縮室圧の正味負荷面積は、弁本体26a1の断面積となる。つまり、背圧弁体26aは、(背圧−連通圧縮室圧)である圧力差に弁本体26a1の断面積をかけた弁体押上げ力を受ける。
【0048】
この弁体押上げ力に対抗するべく、背圧弁体26aを押下げる力(背圧室側空間方向へ移動させる向きの力であり、今後弁体押下げ力と称する)を弁ばね26cで与える。この結果、弁ばね26cによる弁体押下げ力は、背圧弁体26aが圧縮室側空間である上部弁穴空間2h1側へ移動する(上側へ移動する)につれて増大する、背圧室側空間側へ戻す下向きの力となっている。すなわち、弁ばね26cによる弁体押下げ力は弁体復元力となり、弁ばね26cは弁体復元力発生手段となっている。これにより、背圧弁体26aの軸方向位置と(背圧−連通圧縮室圧)が対応することになる。
【0049】
次に、上記した背圧弁26の動作について説明する。同時に、上記していない詳細な構成についても合わせて説明する。
【0050】
この背圧弁26は、図8で示す、背圧が適正な付勢力を発生させる背圧設定値となるときの(背圧−連通圧縮室圧)に対応した位置にある背圧弁体26aの背圧室側弁開口溝26a4に対向して、シリンダ側面(軸穴側面26b1)の上端部である弁ピース上端部26b5を設ける。これにより、背圧が背圧設定値まで昇圧した時、弁ピース軸穴26b2から弁体連通路26a3を経て背圧室側弁開口溝26a4へ至る背圧室側流路と、弁ピース上端部26b5上の下部弁穴空間2h2から流通穴2mへ至る圧縮室側流路が連通し、背圧弁流路60となって、背圧室110と連通圧縮室100arまたは100brが連通するため、背圧室内110内の油及び作動流体が連通圧縮室100ar,100brへ流れ、背圧上昇を抑える。このような作用により、背圧は背圧設定値に制御される。以上の動作から、背圧弁26の背圧室側弁開口溝26a4は背圧室側弁開口溝の役割を果たしていることがわかる。これによって、背圧弁体26aの軸周りの回転を規定しなくても背圧導入連通部を形成できるという効果がある。
【0051】
一方、弁ピース上端部26b5上の下部弁穴空間2h2は背圧設定用圧縮室側弁開口部となり、対向する弁体連通路26a3の弁体側面26a5での開口部は、背圧室側弁開口部となる。そして、両者が対向して連通した部分は、背圧設定連通部となる。さらに、詳細に述べると、弁ピース上端部26b5上の下部弁穴空間2h2は、背圧設定連通部の開口面積を拡大し、流路抵抗を低減することで背圧の設定誤差を小さくする効果を有する、背圧設定用圧縮室側弁開口部でも、溝形状とした背圧設定用圧縮室側弁開口溝としたものであり、その中でも、溝幅を拡大し、流路抵抗を大幅に低減することで背圧の設定誤差を一層小さくする効果を有する圧縮室側シリンダ段差としたものである。
【0052】
次に、起動直後や通常運転途中での運転条件の切り替え時に生じやすい、背圧の昇圧不足(背圧設定値以下の背圧)による離脱状態時に対応した、背圧がほとんど昇圧しない(背圧導入上限値以下)場合の背圧弁動作について説明する。
【0053】
その場合、背圧弁26の位置は、図7のような、弁体ヘッド26a2の下面が弁ピース上端部26b5とほぼ接触する最下部近傍となる。そして、シリンダ側面(軸穴側面26b1)の弁ピース横穴26b3は、背圧弁体26aの背圧室側弁開口溝26a4に対向して開口するように配置されているため、弁ピース軸穴26b2から弁体連通路26a3を経て背圧室側弁開口溝26a4へ至る背圧室側流路と、弁ピース横穴26b3から弁ピース段差26b4と下部弁穴空間2h2を経て流通穴2mへ至る圧縮室側流路が連通する。
【0054】
この結果、両流路は背圧弁流路60を形成し、背圧室110と連通圧縮室100arまたは100brが連通する。そして、後述するスクロール圧縮機特有の現象により、連通圧縮室100ar,100brの圧力である連通圧縮室圧は吐出圧に近い高圧となるため、連通圧縮室100ar,100br内の作動流体及び油が背圧室110へ流れ、背圧導入上限値よりも低下していた背圧を一気に上昇させる。以上の動作から、弁ピース横穴26b3の軸穴側面26b1の開口部は背圧導入用圧縮室側弁開口部となり、対向する弁体連通路26a3の弁体側面26a5での開口部は、背圧室側弁開口部となる。そして、両者が対向して連通した部分は、背圧導入連通部となる。これにより、離脱状態が短時間で回避されて、旋回スクロール3が固定スクロール2へ付勢される。
【0055】
その結果、両ラップの歯先歯底間の隙間が0もしくは微小な大きさとなるために漏れが抑制され、圧縮室圧力分布は、吸込圧から徐々に吐出圧に至る正常運転時の分布へ移行する。その状態に移行すると、吐出圧が上昇するため、背圧室油導入路200によって背圧室110へ流入する油量が増大して、背圧上昇が起こる。さらに、離脱状態であるために吐出圧に近い高圧となっていた連通圧縮室の圧力(図9の斜線部参照)が、離脱状態からの脱却によって元のレベルまで一気に低下する(図9斜線部,破線部参照)。これにより、(背圧−連通圧縮室圧)である圧力差は一気に増大するため、その圧力差に弁本体26a1の断面積をかけた弁体押上げ力が一気に増大し、弁ばね26cによる弁体押下げ力に抗って、背圧弁体26aが圧縮室側空間の方(上方)へ移動する。この結果、背圧導入連通部(図10)が消滅したため、背圧室110内の油や作動流体が通常レベルまで圧力が低下した連通圧縮室100ar,100brへ流出することがなくなって背圧上昇が継続し、上記にて説明した図8の背圧設定値に制御する正常運転状態へ速やかに移行する。よって、例え、何らかの原因によってエネルギー効率が極端に低く、騒音増大や摩耗の危険性が高い離脱状態に陥っても、速やかに、正常運転に復帰できるため、高効率で、騒音が小さく、さらに信頼性の高いスクロール圧縮機を提供する効果がある。さらにまた、離脱状態から正常運転へ脱却するための背圧導入に、吐出室から導く吐出圧の作動流体や油を用いないため、背圧弁を介した、吐出領域から吸込領域への背圧導入に伴う漏れ流れは原理的に無く、これによる、エネルギー効率の低下を回避できる。よって、一層エネルギー効率の高いスクロール圧縮機を提供できるという効果がある。
【0056】
次に、上記にて説明を後述するとした、離脱状態で連通圧縮室圧は吐出圧に近い高圧となる現象について、図9を用いて、ここで説明する。
【0057】
スクロール圧縮機は、ラップの外周から中央へいくにつれて高圧となる圧力レベルの異なる圧縮室が並存しているため、圧縮部の漏れ流路で、吐出室や高圧の圧縮室から吸込室へ繋がる直接的な漏れ流路は大半の場合には存在せず(まれに、ラップの巻き数が少ない場合、吐出室や高圧の圧縮室から吸込室へ繋がる直接的な漏れ流路が存在するが、その流路の存在時間は極めてわずかであるため、その流路の存在は無視できる)、圧力レベルが低い圧縮室が漏れ流路内に介在する。圧力レベルが低い圧縮室とは吸込室に近い圧縮室であるから、吸込室に近い圧縮室は、吐出室や高圧圧縮室からの漏れの流れ込み先となり、圧力が上昇する。
【0058】
離脱状態は、両ラップの歯先歯底間の隙間が極めて大きい状態であるため、上記した漏れ流れによる吸込室に近い圧縮室の圧力レベルの上昇は顕著となり、図9のような離脱状態時の圧縮室圧力分布となる。すなわち、閉込み開始直後を含む圧縮室の全域が吐出圧に近い高圧状態となる。これにより、圧縮室側流路が開口する連通圧縮室の圧力(図9の斜線部の離脱状態時の連通圧縮室圧)は、吐出圧に近いレベルとなり、そのレベルは背圧設定値よりも高い圧力となる。
【0059】
ここで、弁ばね26cは、背圧弁体26aが背圧室側空間方向へ最も移動し、弁体ヘッド26a2下面が弁ピース上端部26b5まで(下がった)状態(図7の状態)において圧縮状態となるように弁キャップ26dを固定スクロール2に圧入してもよい。このように、背圧弁体26aが最も下がった状態でも弁ばね26cが圧縮する予圧状態で組み込んでいるため、背圧が上昇し始めて、「背圧−連通圧縮室圧」の差圧が増大し始めても、当初は、背圧弁体26aが移動しない背圧の不感症領域を設定することができる。移動を開始する背圧値である予圧値は、弁体押上げ力が予圧縮による弁体押下げ力に達した時となる。これにより、離脱状態において、多少の背圧上昇が起こっても、背圧が予圧値に達するまで、背圧を導入するための連通部である、背圧導入連通部の開度が低下しないため、背圧導入速度が低下せず、背圧昇圧が短時間で終了できるという効果がある。
【0060】
また、圧縮室口60aが開口する連通圧縮室は、旋回ラップ3bの歯先が圧縮室口60aを閉塞する前後で切り替わる。このとき、切り替え後の連通圧縮室の圧力は切り替え前の連通圧縮室よりもほとんどの場合低くなるため、流通穴2mとそれと通じる下部弁穴空間2h2及び上部弁穴空間2h1の内部の作動流体及び油が切り替え後の連通圧縮室へ流入し、その際に膨張して圧力が低下する。つまり、背圧弁を介して、再膨張損失が生じる。今回、下部弁穴空間2h2から上部弁穴空間2h1へ至る流路の抵抗を大きくし、絞り流路としたため、上部弁穴空間2h1内の作動流体及び油の大半は、上部弁穴空間2h1から出ることがなくなり再膨張しなくなるため、その分だけ、再膨張損失が低減するという効果がある。
【0061】
また、連通圧縮室圧の変動で背圧弁体26aの弁体押下げ力が変動し、背圧弁体26aが上下に振動しようとするが、弁体ヘッド26a2の外周隙間に油が入ることにより、ダンパー効果が生じ、背圧弁体26aの振動が抑制されて、背圧が安定化する。これにより、旋回スクロール3の軸方向の振動が低減し、軸方向でのラップ間の隙間が安定化して、油膜シールが形成されやすくなり、エネルギー効率が向上するという効果がある。
【0062】
さらに、図8で示す通り、背圧室側流路の端部である背圧室側弁開口溝の役割を果たしている背圧室側弁開口溝26a4が圧縮室側流路の端部である背圧設定用圧縮室側弁開口部の役割を果たしている弁ピース上端部26b5から上部の下部弁穴空間2h2と連通(背圧設定連通部を形成)して背圧弁流路60を形成するときに、離脱状態時に連通圧縮室圧を背圧室110へ導入するもう一方の圧縮室側流路の端部である弁ピース横穴26b3が弁本体26a1下端の上昇で弁ピース軸穴26b2と連通している。つまり、背圧弁流路60とともに背圧導入用圧縮室側弁開口部が背圧室側流路と連通することで第二背圧弁流路60′が形成される。これにより、背圧弁流路の流路抵抗が低減するため、背圧弁26を流れる油及び作動流体の流量が多い場合(背圧室油導入路すなわち主軸受や旋回軸受を流れる油量が多い場合に対応し、具体的には吐出圧が高かったり、吸込圧が低かったりした場合)でも、容易に背圧弁26を流れ抜けることが可能となり、背圧の過度な上昇を抑制し、広い運転範囲で背圧を理想的な背圧設定値に近付けることができる。よって、広い運転範囲で、付勢力を適正化し、高効率な運転を実現できるという効果がある。
【0063】
また、背圧室側弁開口溝26a4を設けているため、背圧弁体26aが中心軸まわりに回転しても、弁ピース横穴26b3との連通による背圧導入連通部の形成が阻害されることは無い。これにより、背圧弁体26aの回転止めを設ける必要が無くなり、低コスト化の効果がある。また、外周溝であるために加工が容易であり、加工コストの上昇を抑制できる効果がある。さらに、背圧導入連通部の流路抵抗を低減できるため、前述の理由により、広い運転範囲で背圧を理想的な背圧設定値に近付けることができる。
【0064】
よって、広い運転範囲で、付勢力を適正化し、高効率な運転を実現できるという効果がある。この背圧導入連通部の流路抵抗は、弁ピース横穴26b3の軸穴側面26b1上の端部に、背圧導入用圧縮室側弁開口溝の役割を担う軸穴連通内周溝26b6を設けると、前記した第二背圧弁流路60′での流路抵抗低減により一層低減し、広い運転範囲で、一層付勢力を適正化し、一層高効率な運転を実現できるという効果がある。また、背圧導入時の流路抵抗低減により、背圧をより迅速に背圧室110へ導入できるため、離脱状態からの復帰が一層早くなり、一層高効率で高信頼性であり一層低騒音の圧縮機を提供できるという効果がある。
【0065】
また、弁キャップ26dの中心に背圧弁体26aの上方への変位量を規制するためのストッパ突起26d1を設ける。これにより、背圧弁体26aが上昇し過ぎて、弁本体26a1が弁ピース軸穴26b2から抜けることを防止する。さらに、上部弁穴空間2h1の容積を小さくする効果もあり、これにより、再膨張損失低減の効果もある。さらに、弁ばね26cとの隙間を狭めに設定することで、弁ばね26cの座屈変形を防止し、背圧設定を確実にするという効果もある。
【0066】
今回の背圧弁体26aは、弁体ヘッド26a2を設け、受圧面積とばね搭載面積を個別に設定可能な構成としている。作動流体がCO2のような高圧ガスを取り扱う場合でも、ばねを小型化することなく、弁本体26a1の断面積である受圧面積のみを小さくして、弁体押上げ力を小さくできるため、実用的な大きさの背圧弁26を構成することが可能となる。つまり、弁体ヘッド26a2により、いかなる高圧の作動流体でも、受圧面積のみを小さくすることが可能となるため、小径で大荷重を発生する特別なばねを考案する必要がなく、低コストになるという効果がある。
【0067】
背圧が背圧設定値まで昇圧するならば、弁本体26a1の側面である弁体側面26a5とそれに対向する軸穴側面26b1の隙間における連通圧縮室100ar,100brと背圧室110間の漏れは、それによって新たな損失が生じるわけではないから、許容される。しかし、その漏れによって、背圧が背圧設定値まで昇圧しなくなると、付勢力が低下することになり、高効率な運転ができなくなる。離脱状態に至った場合には、図7で示すようなメカニズムが働いて、背圧は速やかに上昇し、離脱状態を回避するけれども、すぐに、背圧が低下するため、結局、離脱状態と正常運転を繰り返し、平均すれば、低いエネルギー効率の運転しかできない状態に陥る。このような運転に陥る危険性を低減するためには、弁体側面26a5とそれに対向する軸穴側面26b1間の漏れ流路断面積を狭くする必要がある。その隙間である弁シール隙間の大きさを小さくしようとした場合、ごみ詰まりの危険から、隙間低減には限界がある。
【0068】
背圧室110の油は、大部分が、背圧室油導入路である主軸受24と旋回軸受23から流入するため、背圧室110内のごみの最大直径は、軸受隙間程度と考えることができる。これより、背圧弁26でのごみ詰まりを回避するためには、弁シール隙間を少なくとも軸受隙間よりも大きくしなければならない。軸受半径隙間は0.01mm程度であるため、弁シール隙間は前記した通り、0.02〜0.05mm程度に設定した。よって、流路断面積を低減するには、もう一方の寸法である隙間の幅を低減する必要がある。隙間の幅は、この場合、弁本体26a1の外周または弁ピース軸穴26b2の内周であるから、弁本体26a1または弁ピース軸穴26b2の直径を小さくできればよいことになる。
【0069】
前述の通り、今回の背圧弁構成では、弁本体26a1の直径は自由に設定可能であるため、上記した背圧低下を回避し、高効率の運転を実現できるという効果がある。
【0070】
また、背圧弁シリンダの側面となる軸穴側面26b1は、表面粗さを小さくするために研磨する必要があるが、今回は、固定スクロール2と別体である弁ピース26bの弁ピース軸穴26b2の内周面としたため、研磨する対象が小部品となって、加工が容易となり、加工コストが低減する効果がある。
【0071】
さらに、弁ピース段差26b4と弁ピース横穴26b3によって、背圧導入用の流路を設定できるため、固定スクロール3に2本の流通穴2mを開ける必要が無くなり、加工コストが低減するという効果もある。
【0072】
これまで、弁体ヘッド26a2を備えた、背圧弁体26aの場合のみを説明してきたが、図25で示すような、弁体ヘッド26a2が無く、単純な柱状の背圧弁体26aとした、実施例としてもよい。これは、図7や図8の弁本体26a1を、弁ヘッド26a2と同一の直径とした場合であり、この時には、弁ピースは不要となる。この結果、弁ピース設置によって形成していた、圧縮室導圧路や背圧導入側の圧縮室側流路を固定スクロール2内に形成する。この場合、背圧弁体の形状が単純になるとともに、弁ピースが不要となるため、加工コストが低減するという効果がある。
【実施例2】
【0073】
本発明のスクロール圧縮機の実施例2を、図12〜図15の背圧弁拡大図を用いて説明する。この実施例2において上記実施例1と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示している。
【0074】
この実施例2は、背圧室側弁開口溝26a4を廃し、弁ピース横穴26b3の軸穴側面26b1上の端部に、背圧導入用圧縮室側弁開口溝の役割を担う軸穴連通内周溝26b6を設ける。その他の点については実施例1と同一であるので、重複する説明を省略する。
【0075】
背圧弁体26aの回転規制が不要になることから低コスト化の効果がある。また、弁本体26a1に外周溝を設けないため、剛性を上げることができる。これにより、材料強度の低い安価な材料を用いて背圧弁体26aを製作できるため、さらに低コスト化が可能になる。
【実施例3】
【0076】
本発明のスクロール圧縮機の実施例3を、図12,図13,図16,図17の背圧弁拡大図を用いて説明する。この実施例3において上記実施例1と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示している。これらの図で示される部分以外は、上記実施例1と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0077】
この実施例3は、実施例1のように背圧制御時に弁体連通路26a3が弁ピース上端部26b5までには至らず、背圧弁体下端部に形成した第二背圧弁流路が背圧弁流路60となったものである。これに伴い、下部弁穴空間2h2は、背圧弁流路ではなくなる。このため、弁ピース段差26b4の上端側に絞り流路である弁ピース絞り26b7を設定し、下部弁穴空間2h2への作動流体及び油の出入り量を低減する。これにより、再膨張損失が一層低減するという効果がある。また、本実施例では、背圧弁体下端に背圧室側弁体段差である、端部弁体段差26a13を設けている。背圧設定連通部(図17参照)では、不連続的な圧力差が発生するため、そこを流れる油から作動流体が爆発的に発生し、大きな圧力変動が生じる可能性がある。この圧力変動が背圧弁体26aの下面に至ると、弁体押上げ力が大きく変動することになり、背圧弁体26aの振動が生じ、背圧が大きく変動する。よって、付勢力が変動し、性能が安定せず、また、離脱状態に陥る危険性が高くなる。端部弁体段差26a13を設けることにより、発泡に伴う圧力変動が背圧弁体26aの下面に至らないため、上記の問題を回避でき、性能が安定し、離脱状態へ陥る危険性を低減できる効果がある。また、背圧弁体26aと弁ピース軸穴26b2の摺動部の軸方向長さが増大しているため、背圧弁体26aの動作中の姿勢が安定化し、背圧弁動作が滑らかとなって、制御性が向上するという効果もある。
【実施例4】
【0078】
本発明のスクロール圧縮機の実施例4を、図12,図13,図18,図19の背圧弁拡大図を用いて説明する。この実施例4において上記実施例1と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示している。これらの図で示される部分以外は、上記実施例1と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0079】
この実施例4は、これまでの実施例のように背圧弁体26aに、その下端部を一端とする弁体連通路を設けないため、基本的には背圧シリンダである弁ピース軸穴26b2を経由する作動流体や油の流れは無い。代わりに、背圧弁シリンダである弁ピース軸穴26b2を貫いて背圧室110と連通圧縮室100ar,100brを繋ぐ流路を設け、背圧弁体26aには、2本の外周溝(背圧導入用連通溝である上部弁体連通単独外周溝26a20と背圧設定用連通溝である下部弁体連通単独外周溝26a21)を設ける。ここで、圧縮室100と弁ピース軸穴26b2の間は、流通溝2mと圧縮室側カット26b10と圧縮室側弁ピース横穴26b11で流路を形成し、弁ピース軸穴26b2と背圧室110の間は、背圧室側弁ピース横穴26b21と背圧室側カット26b20と背圧室側流通穴2nとで流路を形成する。ここで、圧縮室側カット26b10と圧縮室側弁ピース横穴26b11は連通しない形状とする。さらに、圧縮室側カット26b10と下部弁穴空間2h2の間には、絞り流路となる平面カット状の弁ピースカット絞り26b8を設ける。
【0080】
本実施例では、弁本体26a1に、縦穴を開けなくてすむため、弁本体26a1の剛性を確保することが容易である。よって、弁本体26a1の直径を小さくして受圧面積を低減できるため、ばね定数の小さな弁ばね26cを用いることが可能となる。よって、背圧が背圧設定値よりも少しでも上昇すると、背圧弁の開度が一気に高まるため、実際の背圧は、目標値である背圧設定値に非常に近い値となる。このため、背圧弁26を流れる油及び作動流体の流量が多い場合(背圧室油導入路すなわち主軸受や旋回軸受を流れる油量が多い場合に対応し、具体的には吐出圧が高かったり、吸込圧が低かったりした場合)でも、容易に背圧弁26を流れ抜けることが可能となり、背圧の過度な上昇を抑制し、広い運転範囲で背圧を理想的な背圧設定値に近付けることができる。よって、広い運転範囲で、付勢力を適正化し、高効率な運転を実現できるという効果がある。また、一般に、ばねは圧縮時のばね姿勢のばらつきによって、発生する復元力にばらつきが生じるが、ばね定数が小さいと、そのばらつきは格段に小さくなる傾向がある。よって、弁ばね26cが発生する復元力のばらつきを小さくできるため、背圧設定の精度を高めることが可能となる。よって、量産時の背圧設定のばらつきを抑制でき、圧縮機の効率の下限を向上させて、保証する効率を高く設定できるとともに、平均効率を高くできるという効果がある。
【0081】
ここで、下部弁体連通単独外周溝26a21を背圧弁体26aの下端まで拡大した、背圧室側弁体段差となる端部弁体段差26a15を設けてもよい。この場合、背圧設定時に図19に示す、第二の背圧弁流路60′が形成される。つまり、背圧弁流路60と並行して第二背圧弁流路60′が形成される。これにより、背圧弁流路の流路抵抗が低減するため、背圧弁26を流れる油及び作動流体の流量が多い場合(背圧室油導入路すなわち主軸受や旋回軸受を流れる油量が多い場合に対応し、具体的には吐出圧が高かったり、吸込圧が低かったりした場合)でも、容易に背圧弁26を流れ抜けることが可能となり、背圧の過度な上昇を抑制し、広い運転範囲で背圧をより理想的な背圧設定値に近付けることができる。よって、広い運転範囲で、付勢力をさらに適正化し、さらに高効率な運転を実現できるという効果がある。また、端部弁体段差26a15は、深い段差であるため、背圧設定連通部での発泡に伴う圧力変動が背圧弁体26aの下面に至らないため、背圧が安定する。よって、性能が安定し、離脱状態へ陥る危険性を低減できる効果がある。
【0082】
また、背圧設定時の背圧弁体26aは、ストッパ突起26d1の底面へ弁体ヘッド26a2の上面が達するまで上がる(圧縮側空間の方へ移動する)。その時、背圧弁流路60の開度を規定している背圧設定連通部は最大の開度となるように各流路が配置されている。図21でみると、下部弁体連通単独外周溝26a21の上端が圧縮室側弁ピース横穴26b11,背圧室側弁ピース横穴26b21の上端までくる。このように、背圧弁体26aが圧縮室側空間方向へ移動するに従い、背圧設定連通部の開度が単調に増大するようになっている。これにより、背圧が上昇すると、背圧弁体26aが圧縮室側空間方向へ移動し、背圧弁流路60の開度が増大するため、背圧室110から圧縮室100へ流れる油量が増大し、背圧は低下する傾向を有する。このようにして、背圧はある一定の値に収束する傾向をもつため、背圧制御が可能となる。
【実施例5】
【0083】
本発明のスクロール圧縮機の実施例5を、図12,図13,図20,図21の背圧弁拡大図を用いて説明する。この実施例5において上記実施例4と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示している。これらの図で示される部分以外は、上記実施例4と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0084】
この実施例5は、背圧室側弁ピース横穴を同じ中心位置で径のみ拡大した、大径背圧室側弁ピース横穴26b22とする以外は、実施例4と同様である。これにより、背圧設定用連通溝である下部弁体連通外周溝26a21が弁ピース横穴26b11,26b22と連通を開始する場合、必ず、背圧室側弁ピース横穴26b21から連通を開始する。よって、弁ピース横穴と連通している下部弁体連通外周溝26a21内は、連通圧縮室圧ではなく常に背圧となり、背圧設定連通部は図21で示す通り、圧縮室側弁ピース横穴26b11と下部弁体連通単独外周溝26a21の間となる。このため、下部弁体連通単独外周溝26a21は、減圧部の上流側となるため、油内の作動流体は発泡しない。よって、背圧弁体26aにかかる油からの力に大きな変動はなく、背圧弁26は、振動したりすることなく、安定した動きをするため、背圧制御に対する外乱は少なく、制御性が向上する。これにより、制御途中の背圧設定値から外れた時間が短時間となるため、高効率な運転時間が長くなり、効率の時間平均値が向上するという効果がある。また、この実施例も、実施例4と同様に、背圧弁体26aが圧縮室側空間へ移動するにつれて背圧設定連通部の開度が単調増大するため、背圧の制御性が向上し、効率の時間平均値が一層向上するという効果がある。
【実施例6】
【0085】
本発明のスクロール圧縮機の実施例6を、図12,図13,図22,図23の背圧弁拡大図を用いて説明する。この実施例6において上記実施例4と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示している。これらの図で示される部分以外は、上記実施例4と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0086】
この実施例6は、弁本体26a1に共用連通溝である1個の幅広弁体連通単独外周溝26a23を設けるとともに、それらと連通するため弁ピース26bに設ける、下から、圧縮室側カット26b10へ繋がる下部圧縮室側弁シール横穴26b14,背圧室側カット26b20へ繋がる背圧室側弁ピース横穴26b21,圧縮室側カット26b10へ繋がる上部圧縮室側弁シール横穴26b13の3本の横穴以外は、実施例4で端部弁体段差26a15を設けたものと同様である。よって、上記幅広弁体連通単独外周溝26a23と弁シール横穴に関する説明のみ行う。
【0087】
幅広弁体連通単独外周溝26a23は、常に背圧室側弁ピース横穴26b21と連通しているため、幅広弁体連通単独外周溝26a23内は、連通圧縮室圧ではなく常に背圧となる。このため、実施例5の場合と同様に、幅広弁体連通単独外周溝26a23は、減圧部の上流側となるため、油内の作動流体は発泡しない。よって、背圧弁体26aにかかる油からの力に大きな変動はなく、背圧弁体26は、振動したりすることなく、安定した動きをするため、背圧制御に対する外乱は少なく、制御性が向上する。これにより、制御途中の背圧設定値から外れた時間が短時間となるため、高効率な運転時間が長くなり、効率の時間平均値が向上するという効果がある。また、この実施例も、実施例5と同様に、背圧弁体26aが圧縮室側空間へ移動するにつれて背圧設定連通部の開度が単調増大するため、背圧の制御性が向上し、効率の時間平均値が一層向上するという効果がある。
【0088】
この実施例では、背圧室側弁体段差となる端部弁体段差26a15を設け、第二背圧弁流路60′を形成させ、背圧の設定精度を高くしたが、作動流体を極端に溶解させる特性の油を使用する場合、発泡が激しく起きて、背圧弁体26a下面の圧力を変動させる危険性が生じるため、この場合には端部弁体段差26a15を設けない構成とする。また、3本の弁ピース横穴の弁シール軸穴26b2側に、下から、背圧導入用圧縮室側弁開口溝である下部弁シール内周溝26b16,背圧室側弁開口溝である中央弁シール内周溝26b23,背圧設定用圧縮室側弁開口溝である上部弁体シール内周溝26b15を設けてもよい。これらは、同時に設置する必要は無く、場合に応じて、各々を設置してももちろん良い。これら内周溝の設置により、各連通時の開度変化が大きくなり、一層、背圧設定の精度が上がる。これにより、広範囲な条件下で、エネルギー効率が向上した圧縮機を提供できるという効果がある。
【実施例7】
【0089】
本発明のスクロール圧縮機の実施例7を、図24の背圧弁体26aの縦断面図を用いて説明する。この実施例は、これまでに記載した、弁体ヘッド26a2を有する全ての実施例の背圧弁体26aに関するものであり、これ以外の部分は同一である。よって、背圧弁体26aのみ説明する。
【0090】
上記した通り、背圧弁体26aは、弁本体部を0.02〜0.05mm程度の弁シール隙間で弁ピース軸穴26b2に挿入するとともに、弁体ヘッド部を0.1〜0.2mm程度の弁ヘッド隙間で弁穴2hに装着しなければならない。これまでの実施例のように、弁体ヘッド部と弁本体部を一体化した背圧弁体の場合、弁ピース26bには、弁穴2hへ装着する外周と弁ピース軸穴26b2の高い同軸度が要求されるとともに、背圧弁体26aに対しても、弁体ヘッド部26a2の外周と弁本体26a1外周に高い同軸度が要求され、加工コストが非常に上昇するという課題があった。
【0091】
本実施例では、背圧弁体26aを、弁体ヘッド部であるヘッド円柱26a101と、それを載せるヘッド台座部26a100dを備える、弁本体部であるコマ弁体26a100に分割し、ヘッド台座部26a100dの直径は、ヘッド円柱26a101が安定して搭載可能な範囲でヘッド円柱26a101直径よりも小さい寸法とする。これにより、弁シール隙間はコマ弁体26a100、弁ヘッド隙間はヘッド円柱26a101との間で設定できるため、弁ピース26b及び背圧弁体26aに要求されていた同軸度は全て不要となる。よって、加工コストを大幅に低下できるという効果がある。
【0092】
今回の実施例では、弁体ばね26cが常時背圧弁体26aに力を与えるように設定されているため、ヘッド円柱26a101とコマ弁体26a100が離れることは通常ない。しかし、例えば、弁体ばね26cのばね定数が小さい場合、圧縮機に加速度が加わると、両者が離れ、形状によっては、ヘッド円柱26a101が傾いて弁穴2h内でかじった状態で止まったり、コマ弁体26a100が弁ピース軸穴26b2内で同じく傾いてかじってしまう危険性がある。この危険を回避するため、円錐台突起26a100eをヘッド台座部26a100d状に設け、それをはめ込む同様形状の穴をヘッド円柱26a101下面に設けてもよい。この突起と穴の隙間は大きくて構わない。
【0093】
以上の実施例によれば、正常運転時では、導通圧縮室圧に概略一定の加圧値を加えた背圧設定値に背圧を制御する背圧弁が、背圧低下による旋回スクロールの離脱時に、圧縮室の漏れ増大によって圧縮室全域に渡る圧力が吐出圧に近づくスクロール圧縮機特有の現象を利用し、背圧弁周囲に吐出圧領域を設定することなく、背圧室へ高圧を速やかに導入する動作を起こす。これにより、短時間で旋回スクロールの離脱が解消するため、旋回スクロール離脱に伴う、部材間の摺動や衝突による騒音や信頼性低下、また、歯先歯底隙間の拡大によるエネルギー効率の低下を極めて短時間で回避するとともに、正常運転時における背圧弁周囲の漏れによるエネルギー効率低下を低コストで回避できるという効果がある。
【0094】
また、更に有利なスクロール圧縮機を得るために、以下のような構成を採用することが考えられる。例えば、圧縮室導圧路の圧縮室側部を圧縮室側流路と共用してもよい。また、圧縮室導圧路の流路抵抗を増大させるべく、圧縮室導圧路内に少なくとも一か所の絞りを設けてもよい。また、復元力発生手段を、圧縮室側空間に設け、その一端を背圧弁シリンダに設置し、他端を背圧弁体または背圧弁体と一体的に移動する移動体に設置する圧縮ばねとしてもよい。また、背圧弁体が背圧室側空間方向へ最も移動した時も、圧縮ばねが圧縮されていることとしてもよい。また、背圧弁体が圧縮室側空間方向へ移動するに従い、背圧設定連通部の開度が一定を含む単調増大とするべく、背圧設定連通部を設定すること、としてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 スクロール圧縮機
2 固定スクロール
2a 固定鏡板
2b 固定スクロールラップ(固定ラップ)
2h 弁穴
2h1 上部弁穴空間
2h2 下部弁穴空間
2m 流通穴
2n 背圧室側流通穴
2p 周囲溝
2p1 凹み部
2u 固定台板面
3 旋回スクロール
3a 旋回鏡板
3b 旋回スクロールラップ(旋回ラップ)
4 フレーム
5 オルダムリング
6 クランク軸
6b 給油穴
7 モータ
7a ロータ
7b ステータ
8 ケーシング
8a 円筒ケーシング
8b 上ケーシング
8c 底ケーシング
22 バイパス弁
23 旋回軸受
24 主軸受
25 副軸受
26 背圧弁
26a 背圧弁体
26a1 弁本体
26a2 弁体ヘッド
26a3 弁体連通路
26a4 背圧室側弁開口溝
26a5 弁体側面
26a6 弁体平面カット
26a15 端部弁体段差
26a20 上部弁体連通単独外周溝
26a21 下部弁体連通単独外周溝
26a22 大径背圧室側弁ピース横穴
26b 弁ピース
26b1 軸穴側面
26b2 弁ピース軸穴
26b3 弁ピース横穴
26b4 弁ピース段差
26b5 弁ピース上端部
26b6 軸穴連通内周溝
26b7 弁ピース絞り
26b8 弁ピースカット絞り
26b10 圧縮室側カット
26b11 圧縮室側弁ピース横穴
26b13 上部圧縮室側弁シール横穴
26b14 下部圧縮室側弁シール横穴
26b15 上部弁シール内周溝
26b16 下部弁シール内周溝
26b20 背圧室側カット
26b21 背圧室側弁ピース横穴
26b23 中央弁シール内周溝
26c 弁ばね
26d 弁キャップ
35 下フレーム
50 吸込パイプ
55 吐出パイプ
60 背圧弁流路
60a 圧縮室口
60b 背圧室口
60′ 第二背圧弁流路
65 吸込域連通路
70 逆止弁
71 外周溝
100 圧縮室
100a 旋回外線側圧縮室
100b 旋回内線側圧縮室
100ar 旋回外線側連通圧縮室
100br 旋回内線側連通圧縮室
105 吸込領域(吸込室)
110 背圧室
115 旋回軸受室
120 固定背面室
125 貯油部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡板とそれに立設する渦巻き状のラップを備えて旋回運動する旋回スクロールと、鏡板とそれに立設する渦巻き状のラップを備えた固定スクロールと、前記両スクロールを噛合わせて形成する圧縮室と、その圧縮室中の作動流体の圧力による前記旋回スクロールの前記鏡板である旋回鏡板を前記固定スクロールの前記鏡板である固定鏡板から引離す向きの引離力に対抗して、前記旋回鏡板を前記固定鏡板側へ引付ける引付力を発生させる引付力付加手段の一つとして、前記旋回鏡板の背面に中間的な圧力である背圧を導入した背圧室と、圧縮後の作動流体を導く吐出領域と、その吐出領域と前記背圧室を連通して、前記吐出領域に保持されている油を前記背圧室へ導入する絞りをともなう背圧室油導入路と、前記背圧室と前記圧縮室をつなぎ、その途中に前記背圧を制御する背圧弁を設ける背圧弁流路と、を備える、スクロール圧縮機において、
前記背圧弁流路が開口する圧縮室である連通圧縮室は常時閉込み開始後の圧縮室とし、前記背圧弁は、連通圧縮室の圧力である連通圧縮室圧に対して一定値である加圧値だけ高い背圧設定値以上で導通して前記背圧を前記背圧設定値近傍に制御するとともに、前記連通圧縮室圧に対して前記加圧値よりも小さい一定値である導入加圧値だけ高い背圧導入上限値以下でも導通すること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載のスクロール圧縮機において、前記背圧弁は、前記固定スクロールに形成される柱状空間である背圧弁シリンダと、その背圧弁シリンダ内に備える、背圧弁シリンダの長さ方向である弁軸方向に移動可能な前記背圧弁シリンダの側面である弁シリンダ側面と摺接する弁体側面を有する柱状の背圧弁体と、その背圧弁体により前記背圧弁シリンダを仕切って隔成する2空間のうち、一方を圧縮室導圧路で前記連通圧縮室と繋ぎ前記連通圧縮室の圧力となる圧縮室側空間、他方を背圧室導圧路で前記背圧室と繋ぎ背圧となる背圧室側空間とするとともに、前記背圧弁体が前記圧縮室側空間方向へ移動するにつれて前記背圧室側空間へ戻す力が増大する弁体復元力を前記背圧弁体に付与する弁体復元力発生手段を設けることで、前記背圧弁体の前記弁軸方向の位置と前記背圧から前記連通圧縮室圧を引いた圧力差を対応させ、前記背圧弁流路を前記弁シリンダ側面または前記弁体側面で二分割し、その内の前記圧縮室側区間である圧縮室側流路の開口部である圧縮室側弁開口部と、前記背圧弁流路の内の前記背圧室側区間である背圧室側流路の開口部である背圧室側弁開口部を、前記弁シリンダ側面と前記弁体側面に振り分けて設け、前記背圧が前記背圧設定値以上に対応する前記背圧と前記連通圧縮室圧の圧力差が前記加圧値以上となる場合の背圧弁体位置で、前記圧縮室側弁開口部と前記背圧室側弁開口部は対向しその対向部である背圧設定連通部を介して連通するとともに、前記背圧が前記背圧導入上限値以下に対応する前記背圧と前記連通圧縮室圧の圧力差が前記導入加圧値以上となる場合の背圧弁体位置で、前記圧縮室側弁開口部と前記背圧室側弁開口部は対向しその対向部である背圧導入連通部を介して連通するべく、前記圧縮室側弁開口部と前記背圧室側弁開口部を配置すること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載のスクロール圧縮機において、前記背圧が前記背圧導入上限値以下である前記背圧と前記導通圧縮室圧の圧力差が前記導入加圧値以上である場合、前記背圧と前記導通圧縮室圧の圧力差が一定値である予圧値以上になるまで前記背圧弁体が前記弁軸方向に移動せずに前記背圧導入連通部の開度を一定に保持すること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項2または3に記載のスクロール圧縮機において、前記圧縮室側弁開口部を前記弁軸方向において離れた前記シリンダ側面内の2箇所に配するべく前記圧縮室側流路を設け、前記背圧室側流路を、前記背圧室導圧路と前記背圧室側空間を経て前記背圧弁体の前記背圧室空間に臨む面から前記弁軸方向において前記弁体側面内の1箇所を前記背圧室側弁開口部とする弁体連通路で形成し、前記背圧設定連通部は、前記背圧室側弁開口部と前記圧縮室側空間寄りの前記圧縮室側弁開口部である背圧設定用圧縮室側弁開口部が対向する箇所とし、他方の前記背圧導入連通部は、前記背圧室側弁開口部と前記背圧室側空間寄りの前記圧縮室側弁開口部である背圧導入用圧縮室側弁開口部が対向する箇所とすること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項4に記載のスクロール圧縮機において、前記弁体側面の前記背圧室側弁開口部の位置に外周溝である背圧室側弁開口溝を設けるか、または、前記シリンダ側面の2箇所の前記圧縮室側弁開口部である前記背圧導入用圧縮室側弁開口部及び前記背圧設定用圧縮室側弁開口部の各々の位置に内周溝である背圧導入用圧縮室側弁開口溝及び背圧設定用圧縮室側弁開口溝を設けるか、または、前記背圧室側弁開口溝及び前記背圧導入用圧縮室側弁開口溝、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項5に記載のスクロール圧縮機において、前記背圧設定用圧縮室側弁開口溝を、前記圧縮室側空間側全域に拡大した、圧縮室側シリンダ段差とすること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項2または3に記載のスクロール圧縮機において、前記圧縮室側弁開口部を前記シリンダ側面内の1箇所に配するべく前記圧縮室側流路を設け、前記背圧室側流路を、前記背圧室導圧路と前記背圧室側空間を経て前記背圧弁体の前記背圧室空間に臨む面から前記弁体側面内の前記弁軸方向において離れた2箇所に開口する前記背圧室側弁開口部を有する弁体連通路で形成し、前記背圧設定連通部は、前記圧縮室側弁開口部と前記背圧室側空間寄りの前記背圧室側弁開口部である背圧設定用背圧室側弁開口部が対向する箇所とし、他方の前記背圧導入連通部は、前記圧縮室側弁開口部と前記圧縮室側空間寄りの前記背圧室側弁開口部である背圧導入用背圧室側弁開口部が対向する箇所とすること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項8】
請求項7に記載のスクロール圧縮機において、前記弁体側面の2箇所の前記背圧室側弁開口部である前記背圧導入用背圧室側弁開口部及び前記背圧設定用背圧室側弁開口部の各々の位置に外周溝である背圧導入用背圧室側弁開口溝及び背圧設定用背圧室側弁開口溝を設けるか、または、前記シリンダ側面の前記圧縮室側弁開口部の位置に内周溝である圧縮室側弁開口溝を設けること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項9】
請求項8に記載のスクロール圧縮機において、前記背圧設定用背圧室側弁開口溝を、前記背圧室側空間側端部まで拡大した背圧室側弁体段差とするとともに、前記背圧設定用背圧室側弁開口溝につながる前記弁体連通路を排すること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項10】
請求項2または3に記載のスクロール圧縮機において、前記圧縮室側弁開口部を前記シリンダ側面内の1箇所に配するべく前記圧縮室側流路を設けるとともに、前記背圧室側弁開口部を前記シリンダ側面内で前記弁軸方向において前記圧縮室側弁開口部と同一位置でシリンダ周方向において重なり合わない位置に配するべく前記背圧室側流路を設け、さらに前記弁軸方向において離れた前記弁体側面内の2箇所に外周溝を設け、前記背圧設定連通部は、前記背圧室側空間寄りの前記外周溝である背圧設定用連通溝と前記圧縮室側弁開口部及び前記背圧設定用連通溝と前記背圧室側弁開口部が対向する2箇所とし、前記背圧導入連通部は、前記圧縮室側空間寄りの前記外周溝である背圧導入用連通溝と前記圧縮室側弁開口部及び前記背圧設定用連通溝と前記背圧室側弁開口部が対向する2箇所とすること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項11】
請求項10に記載のスクロール圧縮機において、少なくとも前記軸方向における前記背圧室側開口部の寸法を前記圧縮室口部の寸法よりも大きくし、前記背圧設定連通部は前記背圧設定用連通溝と前記圧縮室側弁開口部が対向する1箇所に限定し、さらに前記背圧導入連通部は前記背圧導入用連通溝と前記圧縮室側弁開口部が対向する1箇所に限定すること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項12】
請求項10に記載のスクロール圧縮機において、前記背圧設定用連通溝を、前記背圧室側空間側端部まで拡大して背圧室側弁体段差とすること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項13】
請求項2または3に記載のスクロール圧縮機において、前記圧縮室側弁開口部を前記弁軸方向において離れた前記シリンダ側面内の2箇所に配するべく前記圧縮室側流路を設けるとともに、1箇所の前記背圧室側弁開口部を前記シリンダ側面内で前記弁軸方向において2箇所の前記圧縮室側弁開口部の間に配するべく前記背圧室側流路を設け、さらに前記弁軸方向において前記背圧室側弁開口部と各前記圧縮室側弁開口部との最小距離よりも大きくかつ2箇所の前記圧縮室側弁開口部間の最小距離よりも小さい幅の外周溝である共用連通溝を前記弁体側面内に設け、前記背圧設定連通部は、前記圧縮室側空間寄りの前記圧縮室側開口部である背圧設定用圧縮室側弁開口部と前記共用連通溝が対向する箇所とし、前記背圧導入連通部は、前記背圧室側空間寄りの前記圧縮室側弁開口部である背圧導入用圧縮室側弁開口部と前記共用連通溝が対向する箇所とすること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項14】
請求項13に記載のスクロール圧縮機において、前記シリンダ側面の前記背圧導入用圧縮室側弁開口部または前記背圧設定用圧縮室側弁開口部または前記背圧室側弁開口部の各々の位置に、内周溝である背圧導入用圧縮室側弁開口溝または背圧設定用圧縮室側弁開口溝または背圧室側弁開口溝を設けること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項15】
請求項14に記載のスクロール圧縮機において、前記背圧設定用圧縮室側弁開口溝を、前記圧縮室側空間側全域に拡大した、圧縮室側シリンダ段差とすること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項16】
請求項4,5,6または13に記載のスクロール圧縮機において、前記背圧設定連通部が出現する時に、前記背圧導入用圧縮室側弁開口部が前記背圧弁体の前記背圧室側空間端部に達し、前記背圧導入用圧縮室側弁開口部と前記背圧室側空間と前記背圧室導圧路によって、背圧を設定する第二背圧弁流路を形成すること、を特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項17】
背圧室の圧力と連通圧縮室の圧力との差圧によって背圧弁体が受ける力と、ばねの力によって前記背圧弁体が受ける力、とのバランスによって、正常運転時に、前記背圧室から前記連通圧縮室に供給される作動流体の圧力を調整する背圧制御弁を備えたスクロール圧縮機において、
前記スクロール圧縮機の停止時には、前記ばねの力によって前記背圧弁体が所定の位置に置かれることにより、前記連通圧縮室と前記背圧室とを連通するための背圧導入連通部が形成され、
前記スクロール圧縮機の正常運転時には、前記背圧弁体の移動によって前記背圧導入連通部が消滅し、前記背圧室から前記連通圧縮室へ作動流体を導入するための背圧設定連通部が形成される
ことを特徴とするスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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