説明

スクロール型圧縮機

【課題】駆動軸と軸受部との間の摺動部の温度上昇を抑制する。
【解決手段】ケーシングと、ケーシングに収容される駆動機構と、駆動機構に連結する駆動軸17と、駆動軸17に回転駆動されて冷媒を圧縮するスクロール式の圧縮機構と、駆動軸17を回転可能に支持する軸受部34を有するハウジング部23と、を備えるスクロール型圧縮機について、ハウジング部23の表面に、該ハウジング部23の放熱面積を増大させる放熱部36を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に関し、特にスクロール型圧縮機の圧縮機構を駆動させる駆動軸と該駆動軸を支持する軸受部との間の摺動部の放熱対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スクロール型圧縮機において、圧縮機構を駆動させる駆動軸と該駆動軸を支持する軸受との間に潤滑油を連続的に供給する構造として、特許文献1のような構造が知られている。特許文献1における駆動軸には、駆動軸を上下に貫通する給油通路と、該給油通路から水平方向に延びる分岐路とが形成されている。そして、上記給油通路の下端には、該給油通路に潤滑油を汲み上げる油ポンプが設けられている。この油ポンプによって給油通路に汲み上げられた潤滑油は、上記分岐路を通過した後、駆動軸と軸受との間に形成された軸受隙間に供給される。このように軸受隙間に供給された潤滑油が駆動軸と軸受部との間に十分な厚さの油膜を形成することにより、駆動軸と軸受部との間の摺動部が十分に潤滑される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−294037
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スクロール型圧縮機の圧縮効率を改善するには、駆動軸と軸受部との軸受隙間を狭くすることが考えられる。これにより、駆動軸の軸心が軸受部に対して傾いてしまうことが抑制されるため、固定スクロールの軸心に対する可動スクロールの軸心の傾きも抑制できる。その結果、可動スクロールと固定スクロールとの間の隙間が拡大して流体が漏れてしまうことを回避でき、圧縮効率を向上できる。
【0005】
また、上記潤滑油は、圧縮機構によって圧縮された流体ととともに圧縮機の外部へ吐出されてしまう場合がある。このように外部へ吐出される潤滑油が増えると、圧縮機内に溜められた潤滑油が不足して、油切れ状態となる。このような油切れ対策として、軸受隙間に供給する潤滑油の量を減らすことが考えられる。
【0006】
しかし、上述のように軸受隙間を狭くしたり、軸受隙間に供給する潤滑油の量を減らしたりすると、その分、軸受隙間に形成される油膜の厚さが薄くなってしまう。この油膜の厚さが薄くなると、駆動軸と軸受部との間の摺動部の摩擦抵抗が増大し、ひいては摩擦熱により摺動部の温度が上昇してしまう。すると、該摺動部を潤滑する潤滑油の温度も上昇する。そうなると、潤滑油の粘度が低下し、潤滑油の油膜の厚さが更に薄くなる。このように、軸受隙間に形成される油膜の厚さが薄くなっていくと、駆動軸と軸受部との間の摺動部の潤滑が更に損なわれ、摺動部の焼付き等により軸受部で所望の性能を得られなくなる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動軸と軸受部との間の摺動部の温度上昇を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、ケーシング(10)と、該ケーシング(10)に収容される駆動機構(16)と、該駆動機構(16)に連結する駆動軸(17)と、該駆動軸(17)に回転駆動されて冷媒を圧縮するスクロール式の圧縮機構(15)と、上記駆動軸(17)を回転可能に支持する軸受部(34)を有するハウジング部(23)とを備え、該ハウジング部(23)の表面には、該ハウジング部(23)の放熱面積を増大させる放熱部(36,76,77)が形成されていることを特徴とする。
【0009】
第1の発明では、ハウジング部(23)の表面に、該ハウジング部(23)の放熱面積を増大させる放熱部(36,76,77)を設けたため、その分、ハウジング部(23)の表面から放熱可能な熱量が増える。従って、駆動軸(17)と軸受部(34)との間の摺動部で発生した熱が、軸受部(34)及びハウジング部(17)を介して上記ハウジング部(23)の表面から効率的に放出されるため、上記摺動部の温度上昇が抑制される。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、上記放熱部(36,76,77)は、上記ハウジング部(23)の表面に形成される凹部又は凸部で構成されていることを特徴とする。
【0011】
第2の発明では、ハウジング部(23)の表面に凹部又は凸部を設けたため、ハウジング部(23)の表面積が拡大し、その分、ハウジング部(23)の表面から放熱可能な熱量が増える。従って、駆動軸(17)と軸受部(34)との間の摺動部の熱が、凹部又は凸部が形成されたハウジング部(23)の表面から効率的に放出されるため、上記摺動部の温度上昇が抑制される。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、上記放熱部は、上記軸受隙間(35)からの潤滑油が流通可能な凹条に形成された少なくとも1つの溝部(36,76,77)を含むことを特徴とする。
【0013】
第3の発明では、油供給機構(60)により供給され上記軸受隙間(35)を流れる潤滑油を、凹条に形成された少なくとも1つの溝部(36,76,77)へ流れ込ませることが可能となる。そうすると、溝部(36,76,77)を流れる潤滑油によってハウジング部(23)が冷却される。これにより、駆動軸(17)と軸受部(34)との間の摺動部から軸受部(34)を介したハウジング部(23)への伝熱が促進されるため、上記摺動部の温度上昇が抑制される。
【0014】
第4の発明は、第3の発明において、上記ハウジング部(23)の下側には、上記圧縮機構(15)によって圧縮されたガス冷媒で満たされた高圧空間(28)が形成され、該高圧空間(28)のガス冷媒を上記駆動軸(17)の周方向に旋回させる旋回流形成機構(90)を更に備え、上記溝部(36,76,77)は、上記ハウジング部(23)の下部表面において、上記軸受隙間(35)の下端から、上記駆動軸(17)の径方向に対して上記ガス冷媒の旋回方向に傾いた方向に延びていることを特徴とする。
【0015】
第4の発明では、圧縮機構(15)から吐出されたガス冷媒は、高圧空間(28)内において旋回流形成機構(90)によって駆動軸(17)の周方向に旋回されている。ここで、第4の発明では、溝部(36,76,77)は、ハウジング部(23)の下部表面、つまり高圧空間に臨むように、且つ駆動軸(17)の径方向に対してガス冷媒の旋回方向に傾いた方向に延びるように形成されている。こうすると、軸受隙間(35)の下端から高圧空間(28)へ流出しようとする潤滑油には、高圧空間(28)内の旋回流が作用する。その結果、表面張力によって溝部(36,76,77)に付着した状態の潤滑油は、上記旋回流の影響を受けて溝部(36,76,77)を流れ易くなる。このように溝部(36,76,77)を流れる潤滑油によって、ハウジング部(23)が効率的に冷却される。従って、駆動軸(17)と軸受部(34)との間の摺動部から軸受部(34)を通じたハウジング部(23)への伝熱が促進されるため、上記摺動部の温度上昇が更に抑制される。
【0016】
第5の発明は、第4の発明において、上記旋回流形成機構(90)は、上記高圧空間(28)のガス冷媒を、上記駆動軸(17)の回転方向と同じ方向に旋回させるように構成されていることを特徴とする。
【0017】
第5の発明では、軸受隙間(35)の下端から高圧空間(28)へ流出しようとする潤滑油には、高圧空間(28)内の旋回流だけでなく、該旋回流と同じ向きに回転する駆動軸(17)の回転力が作用する。これにより、溝部(36,76,77)の潤滑油が更に流れやすくなるため、ハウジング部(23)の熱がより効率的に冷却され、上記摺動部の温度上昇がより効率的に抑制される。
【0018】
第6の発明は、第4又は第5の発明において、上記油供給機構(60)は、上記ケーシング(10)の底部(13)に溜められた潤滑油を上記軸受隙間(35)へ汲み上げる油搬送部(61)を備え、上記溝部(36,76,77)は、該溝部(36,76,77)の流出端が上記ケーシング(10)の内壁まで延びるように形成されていることを特徴とする。
【0019】
第6の発明では、軸受隙間(35)の下端からの潤滑油は、溝部(36,76,77)によってケーシング(10)の内壁まで導かれ、ケーシング(10)の内壁を下方へ伝った後、底部(13)へ溜められる。そして、この潤滑油は、油搬送部(61)によって再び軸受隙間(35)へ汲み上げられる。つまり、摺動部を潤滑した後に溝部(36)を流れてハウジング部(23)を冷却した潤滑油はケーシング(10)の底部(13)に戻されて、再び摺動部の潤滑用に用いられる。
【0020】
第7の発明は、第4から第6の発明のうちいずれか1つの発明において、上記ハウジング部(23)の下部表面には、複数の上記溝部(36,76,77)が形成されていることを特徴とする。
【0021】
第7の発明では、各溝部(36,76,77)を流れる潤滑油が各溝部(36,76,77)を冷却するため、ハウジング部(23)は広範囲に亘って冷却される。また、溝部(36,76,77)の流出端がケーシング(10)の内壁まで延びている構成(第6の発明)において複数の溝部(36,76,77)を設けることにより、潤滑油が複数の溝部(36,76,77)に流れるため、ケーシング(10)の底部(13)に戻される潤滑油の量が増大する。
【発明の効果】
【0022】
上記第1の発明によれば、ハウジング部(23)の表面に、該ハウジング部(23)の放熱面積を増大させる放熱部(36,76,77)を形成した。これにより、ハウジング部(23)が効率的に冷却されるため、駆動軸(17)と軸受部(34)との間の摺動部で発生した熱が、軸受部(34)を通じてハウジング部(23)へ伝わりやすくなる。従って、上記摺動部の温度上昇を抑制できる。
【0023】
また、上記第2の発明によれば、凹部又は凸部で構成された放熱部(36,76,77)によって、ハウジング部(23)が効率的に冷却される。これにより、駆動軸(17)と軸受部(34)との間の摺動部の熱が、軸受部(34)を通じてハウジング部(23)へ伝わりやすくなるため、上記摺動部の温度上昇を抑制できる。
【0024】
また、上記第3の発明によれば、軸受隙間(35)からの潤滑油が流通可能な凹条に形成された少なくとも1つの溝部(36,76,77)を設けたため、該溝部(36,76,77)を流れる潤滑油によってハウジング部(23)を冷却できる。これにより、上記摺動部の熱が軸受部(34)を通じてハウジング部(23)へ伝わりやすくなるため、上記摺動部の温度上昇を抑制できる。
【0025】
また、上記第4の発明によれば、ケーシング(10)内の高圧空間(28)に、駆動軸(17)の周方向にガス冷媒を旋回させる旋回流形成機構(90)を設けた構成において、上記高圧空間(28)に面するハウジング部(28)の下部表面に、溝部(36,76,77)を、駆動軸(17)の径方向に対してガス冷媒の旋回方向に傾いた方向に延びるように形成した。これにより、潤滑油が溝部(36,76,77)を流れ易くなるため、該潤滑油によってハウジング部(23)を一層効果的に冷却できる。従って、上記摺動部の熱が軸受部(34)を通じてハウジング部(23)へ伝わりやすくなるため、上記摺動部の温度上昇を抑制できる。
【0026】
また、上記第5の発明によれば、高圧空間(28)における旋回流の旋回方向が、駆動軸(17)の回転方向と同じになるため、潤滑油が溝部(36,76,77)を流れやすくなる。これにより、ハウジング部(23)をより一層冷却できるため、上記摺動部の温度上昇を効果的に抑制できる。
【0027】
また、上記第6の発明によれば、ケーシング(10)の底部(13)に溜められた潤滑油を軸受隙間(35)へ汲み上げる油搬送部(61)を設けた構成において、溝部(36,76,77)を、該溝部(36,76,77)の流出端がケーシング(10)の内壁まで延びるように形成したため、油搬送部(61)によって底部(13)から軸受隙間(35)に供給された潤滑油を、溝部(36,76,77)を通じて再び底部(13)へ戻すことができる。従って、スクロール圧縮機の油切れを抑制できる。
【0028】
また、上記第7の発明によれば、ハウジング部(23)に複数の溝部(36,76,77)を設けたため、ハウジング部(23)を効率的に冷却でき、その結果、摺動部を効率的に冷却できる。更に、溝部(36,76,77)の流出端がケーシング(10)の内壁まで延びている構成(第6の発明)において複数の溝部(36,76,77)を設けることにより、ケーシング(10)の底部(13)に戻される潤滑油の量を増大できるため、油切れをより確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るスクロール型圧縮機の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】図2は、案内板を正面側から視た斜視図である。
【図3】図3は、案内板を背面側から視た斜視図である。
【図4】図4は、ハウジング部を下方から視た図である。
【図5】図5は、その他の実施形態に係る図4相当図である。
【図6】図6は、その他の実施形態に係る図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0031】
本発明の実施形態に係るスクロール型圧縮機(1)は、冷媒が循環して冷凍サイクル運転動作を行う図示しない冷媒回路に接続され、冷媒を圧縮するものである。
【0032】
スクロール型圧縮機(1)は、図1に示すように、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング(10)と、該ケーシング(10)内の下方に設けられた電動機(16)(駆動機構)と、該電動機(16)から上下方向に延びる駆動軸(17)と、該駆動軸(17)によって駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構(15)と、案内板(58)と、油供給機構(60)とを備えている。
【0033】
ケーシング(10)は、上下方向に延びる円筒状の胴部であるケーシング本体(11)と、その上端部に溶接されて一体接合され、上方に突出した椀状の上壁部(12)と、ケーシング本体(11)の下端部に溶接されて一体接合され、下方に突出した椀状の底壁部(13)(底部)とで圧力容器に構成されており、その内部は空洞とされている。
【0034】
ケーシング(10)の上壁部(12)には、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(15)に導く吸入管(19)が挿通固定されている。また、ケーシング本体(11)の上部には、ケーシング(10)内へ開口する開口部(20a)が形成された吐出管(20)が気密状に挿通固定されている。
【0035】
電動機(16)は、いわゆるDCブラシレスモータにより構成されている。この電動機(16)は、ケーシング(10)内壁面に固定された環状のステータ(51)と、このステータ(51)の内側にエアギャップ隙間(図示省略)を介して挿通されステータ(51)に対して回転可能に構成された略円柱状のロータ(52)とを備えている。ステータ(51)の外周面には、該ステータ(51)の上端面から下端面まで延びる溝状のコアカット部が、周方向の所定の間隔をおいて複数、形成されている。このコアカット部とケーシング本体(11)の内周面で囲まれた部分がモータ冷却通路(55)を構成している。ロータ(52)には、該ロータ(52)を上下方向に貫通する貫通穴(52a)が、該ロータ(52)の中心軸と同軸となるように形成されている。
【0036】
駆動軸(17)は、上下方向に延びる細長い棒状に形成された主軸部(17a)と、該主軸部(17a)の上端に立設された円柱状の偏心ピン(17b)とを備えている。偏心ピン(17b)は、主軸部(17a)の軸心から所定距離だけ偏心している。この駆動軸(17)は、電動機(16)のロータ(52)の貫通穴(52a)に挿通固定されている。
【0037】
駆動軸(17)には、給油路(62)が形成されている。この給油路(62)は、詳しくは後述する油供給機構(60)の一部を構成している。給油路(62)は、駆動軸(17)を上下に貫通する主給油路(63)と、該主給油路(63)から分岐する2本の分岐給油路(64a,64b)とを有する。分岐給油路は、主軸部(17a)に形成された主軸側給油路(64a)と、偏心ピン(17b)に形成された偏心軸側給油路(64b)とで構成されている。主軸側給油路(64a)は、上記主給油路(63)から水平方向に延びて主軸部(17a)の外周面から径方向外方へ向けて開口している。偏心軸側給油路(64b)は、上記主給油路(63)から水平方向に延びて偏心ピン(17b)の外周面から径方向外方へ向けて開口している。
【0038】
圧縮機構(15)は、固定スクロール(24)と、固定スクロール(24)に組み合わされる可動スクロール(26)と、可動スクロール(26)を支持するハウジング部(23)とを備えている。
【0039】
ハウジング部(23)は、電動機(16)の上方に設けられている。ハウジング部(23)は、その外周面において周方向の全体に亘ってケーシング本体(11)に圧入固定されている。つまり、ケーシング本体(11)とハウジング部(23)とは全周に亘って密着されている。そして、ケーシング(10)内がハウジング部(23)によって、ハウジング部(23)下方の高圧空間(28)とハウジング部(23)上方の低圧空間(29)とに区画されている。また、ハウジング部(23)と電動機(16)との間には、モータ上部空間(18)が形成されている。
【0040】
ハウジング部(23)には、上面中央に凹設されたハウジング凹部(31)と、下面中央から下方に突設され、軸受穴(33)が形成された筒部(32)とが形成されている。この軸受穴(33)には、駆動軸(17)を回転自在に支持する主軸受メタル(34)(軸受部)が挿通固定されている。この主軸受メタル(34)には、駆動軸(17)が挿通されている。主軸受メタル(34)と駆動軸(17)との間には軸受隙間(35)が形成されている。また、ハウジング部(23)には、ハウジング凹部(31)の下部から水平方向に延びる排油路(37)が形成されている。
【0041】
更に、ハウジング部(23)の下部表面には、凹条に形成された4本の冷却溝(36)(溝部)が形成されている。これらの冷却溝(36)の形状については、詳しくは後述する。
【0042】
固定スクロール(24)は、鏡板(24a)と該鏡板(24a)の下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(24b)とから構成されている。この固定スクロール(24)は、その下端面がハウジング部(23)の上端面に密着した状態で、締結ボルト(38)によってハウジング部(23)に締結固定されている。
【0043】
可動スクロール(26)は、鏡板(26a)と該鏡板(26a)の上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(26b)と、ボス部(26c)と、偏心軸受メタル(26d)とを備えている。鏡板(26a)は、略円板状に形成され、上記ハウジング部(23)の上方に位置している。ラップ(26b)は、固定スクロール(24)のラップ(24b)に噛合するように構成されている。ボス部(26c)は、円筒状に形成され、鏡板(26a)の下面から突出するように該鏡板(26a)に一体形成されている。偏心軸受メタル(26d)は、ボス部(26c)に挿通固定されている。偏心軸受メタル(26d)には、駆動軸(17)の偏心ピン(17b)が挿通されている。可動スクロール(26)は、オルダム継手(39)を介してハウジング部(23)に支持されるとともに駆動軸(17)の上端が嵌入され、この駆動軸(17)の回転により自転することなくハウジング部(23)内を公転するようになっている。
【0044】
そして、固定スクロール(24)のラップ(24b)と可動スクロール(26)のラップ(26b)とが互いに噛合しており、これにより固定スクロール(24)と可動スクロール(26)との間において、両ラップ(24b,26b)の接触部の間が圧縮室(40)として構成されている。この圧縮室(40)は、可動スクロール(26)の公転に伴い、両ラップ(24b,26b)間の容積が中心に向かって縮小することで冷媒を圧縮するように構成されている。
【0045】
固定スクロール(24)の鏡板(24a)には、圧縮室(40)に連通する吐出通路(41)と、吐出通路(41)に連続する拡大凹部(42)とが形成されている。吐出通路(41)は、固定スクロール(24)の鏡板(24a)における中央において上下方向に延びるように形成されている。拡大凹部(42)は、鏡板(24a)の上面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。
【0046】
固定スクロール(24)の上面には、この拡大凹部(42)を塞ぐように蓋体(44)が締結ボルト(44a)により締結固定されている。そして、拡大凹部(42)に蓋体(44)が覆い被せられることで圧縮機構(15)の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間(45)が形成されている。固定スクロール(24)と蓋体(44)とは、ガスケット(図示省略)を介して密着させることでシールされている。
【0047】
固定スクロール(24)及びハウジング部(23)には、固定スクロール(24)とハウジング部(23)とに亘って形成された連絡通路(46)が設けられている。この連絡通路(46)は、固定スクロール(24)に形成されたスクロール側通路(47)と、ハウジング部(23)に形成されたハウジング側通路(48)とが連通されて構成されている。このハウジング側通路(48)には、排油路(37)の流出端が繋がっている。
【0048】
そして、連絡通路(46)の上端、すなわちスクロール側通路(47)の上端は拡大凹部(42)に開口し、連絡通路(46)の下端、すなわちハウジング側通路(48)の下端はハウジング部(23)の下端面に開口している。つまり、このハウジング側通路(48)の下端開口により、連絡通路(46)のガス冷媒をモータ上部空間(18)に流出させる吐出口(49)が構成されている。
【0049】
案内板(58)は、圧縮機構(15)で圧縮されて吐出口(49)から吐出されたガス冷媒を、高圧空間(28)内へ導くためのものである。この案内板(58)は、図2及び図3に示すように、案内本体(84)と、該案内本体(84)の両端に形成された翼部(85)とを備えている。
【0050】
案内本体(84)は、横断面が円弧状で且つ上下方向に直線状に延びる下部曲板(86)と、下部曲板(86)の上部に連続して形成され且つ上側に近づくほど内周側に向かって膨出する膨出部(87)と、下部曲板(86)及び膨出部(87)の両側端において外周側に向かって立設された側壁部(88)とを備えている。
【0051】
下部曲板(86)は、電動機(16)のステータ(51)の外側に配設されるようになっている。膨出部(87)は、連絡通路(46)のハウジング側通路(48)よりも内側に位置するように膨出量が調整されている。つまり、下部曲板(86)は、ガス冷媒が、案内板(58)の案内本体(84)の外側を上から下に向かって流れた後、下部曲板(86)の下端部とケーシング本体(11)の内周面とで構成された第1吐出口(86a)から下方へ向けて吐出されるように構成されている。
【0052】
翼部(85)は、案内本体(84)の側壁部(88)における外周側の端部に連続して形成されていて、横断面が円弧状で且つ上下方向に直線状に延びるように形成されている。この翼部(85)は、ケーシング本体(11)の内面に対応した径に形成されており、ケーシング本体(11)に取り付けられるようになっている。
【0053】
案内板(58)は、更に、翼部(85)と案内本体(84)の側壁部(88)とに亘り、モータ冷却通路(55)に向かって流れるガス冷媒の一部を周方向に旋回させる分流凹部(90)(旋回流形成機構)を備えている。分流凹部(90)は、翼部(85)の一方の側端から案内本体(84)の下部曲板(86)及び膨出部(87)の両側端において外周側に向かって立設された側壁部(88)に亘って連続して凹設された凹部により構成されている。ガス冷媒は、該分流凹部(90)の端部とケーシング本体(11)の内周面とで構成された第2吐出口(90a)から吐出される。この第2吐出口(90a)は、吐出管(20)の開口部(20a)よりも下方に位置している。また、第2吐出口(90a)は、駆動軸(17)の回転方向と同じ方向に開口している。これにより、駆動軸(17)の回転方向と、第2吐出口(90a)から吐出される冷媒の旋回方向とが同じになる。
【0054】
油供給機構(60)は、ポンプ部(61)(油搬送部)と、上記駆動軸(17)に形成された給油路(62)とを備えている。このポンプ部(61)は、例えば遠心ポンプで構成されている。ポンプ部(61)は、上記駆動軸(17)の下端に設けられており、ケーシング(10)の底壁部(13)に溜められた潤滑油に浸漬されている。ポンプ部(61)は、潤滑油を給油路(62)へ汲み上げるように構成されている。
【0055】
−冷却溝の構成−
上述のように、ハウジング部(23)の下部表面には、凹条に形成された4本の冷却溝(36)が形成されている。これらの冷却溝(36)は、図4に示すように、軸受隙間(35)から、駆動軸(17)の径方向に対して高圧空間におけるガス冷媒の旋回方向(図4の矢印方向)に90度傾いた方向に直線状に延びている。言いかえれば、冷却溝(36)は、ガス冷媒の旋回方向に沿うように軸受穴(33)の周縁部から接線方向に延びている。各冷却溝(36)の流出端は、ハウジング部(23)の外周縁に形成されている。つまり、各冷却溝(36)は、ケーシング本体(11)の内壁まで延びている。これらの4本の冷却溝(36)は、周方向において等間隔となるように、すなわち、互いに90度の間隔をおいて配設されている。
【0056】
−運転動作−
次に、本実施形態に係るスクロール型圧縮機(1)の運転動作について説明する。まず、電動機(16)を駆動すると、ステータ(51)に対してロータ(52)が回転し、それによって駆動軸(17)が回転する。駆動軸(17)が回転すると、可動スクロール(26)が固定スクロール(24)に対して自転せずに公転のみ行う。これにより、低圧の冷媒が吸入管(19)を通して圧縮室(40)の周縁側から該圧縮室(40)に吸引され、この冷媒は圧縮室(40)の容積変化に伴って圧縮される。
【0057】
そして、この圧縮されたガス冷媒は、高圧となって圧縮室(40)の半径方向内周側から吐出通路(41)を通してマフラー空間(45)へと吐出される。このガス冷媒はマフラー空間(45)から連絡通路(46)へ流入し、スクロール側通路(47)及びハウジング側通路(48)を流通して、吐出口(49)を通してモータ上部空間(18)へと流出する。
【0058】
上記モータ上部空間(18)へ流出したガス冷媒は、案内板(58)の案内本体(84)とケーシング本体(11)の内面との間へ流れ込む。そして、該ガス冷媒の一部は、第1吐出口(86a)を介してモータ冷却通路(55)を流れる一方、残りのガス冷媒は、第2吐出口(90a)を介して高圧空間(28)へ流れ込む。
【0059】
第1吐出口(86a)から吐出されたガス冷媒は、モータ冷却通路(55)を下側に向かって流れ、ケーシング(10)の底壁部(13)にまで流れる。このガス冷媒は、流れ方向が反転してステータ(51)とロータ(52)との間のエアギャップ隙間、又は連絡通路(46)に連続するモータ冷却通路(55)とは別(図1における左側)のモータ冷却通路(55)を上方に向かって流れる。
【0060】
一方、第2吐出口(90a)から吐出されたガス冷媒は、ケーシング本体(11)の内壁面に沿って円周方向に流れて旋回流を形成する。このガス冷媒は、円周方向に流れることにより潤滑油が遠心分離され、特にケーシング(10)の内壁面付近において潤滑油濃度が高いために、内壁付近でよく分離される。
【0061】
そして、モータ上部空間(18)において、上記第1吐出口(86a)を通過した冷媒と第2吐出口(90a)を通過した冷媒とが合流し、吐出管(20)からケーシング(10)外に吐出される。そして、ケーシング(10)外に吐出された冷媒は、冷媒回路を循環した後、再度吸入管(19)を通してスクロール型圧縮機(1)に吸入されて圧縮される。このような循環が繰り返される。
【0062】
−圧縮機の摺動部の潤滑作用−
ケーシング(10)の底壁部(13)に溜められた潤滑油は、ポンプ部(61)によって上方へ連続的に汲み上げられ、主給油路(63)を上昇する。そして、この潤滑油は、主給油路(63)の上端から、並びに、主軸側給油路(64a)及び偏心軸側給油路(63b)を通じて、駆動軸(17)外へ流出する。
【0063】
上記主給油路(63)及び偏心軸側給油路(64b)から流出した潤滑油は、駆動軸(17)の偏心ピン(17b)と偏心軸受メタル(26d)との間の摺動部を潤滑する。その後、潤滑油は、排油路(37)を通じて連絡通路(46)へ流れ込む。連絡通路(46)へ流れ込んだ潤滑油は、ガス冷媒とともに、案内板(58)とケーシング本体(11)の内壁との間の隙間を流れ、第1吐出口(86a)又は第2吐出口(90a)から吐出される。第1吐出口(86a)から吐出された潤滑油は、ケーシング(10)の底壁部(13)に戻される。また、第2吐出口(90a)から吐出された潤滑油は、ガス冷媒と遠心分離された後、ケーシング本体(11)の内壁を下方へ伝って底壁部(13)に戻される。このようにケーシング(10)の底壁部(13)に戻された潤滑油は、ポンプ部(61)によって再び摺動部まで汲み上げられ、該摺動部を潤滑する。
【0064】
一方、主軸側給油路(64a)から流出した潤滑油は、駆動軸(17)の主軸部(17a)と主軸受メタル(34)との間の軸受隙間(35)を流れて、主軸部(17a)と主軸受メタル(34)との間の摺動部を潤滑する。その後潤滑油は、軸受隙間(35)の上端から流出して排油路(37)へ流れた後、ケーシング(10)の底壁部(13)へ戻されるか、又は、軸受隙間(35)の下端から流出する。この軸受隙間(35)の下端から流出する潤滑油の流れについては、後述する。
【0065】
ここで、上述のように駆動軸(17)と主軸受メタル(34)との間を流れた潤滑油は、該駆動軸(17)と主軸受メタル(34)との間の摩擦熱によって昇温される。この昇温が顕著となると、潤滑油の粘度が低下し、これに伴って軸受隙間(35)に形成される潤滑油の油膜の厚さが薄くなる。その結果、駆動軸(17)と主軸受メタル(34)との間の摺動部が十分に潤滑されなくなってしまう。
【0066】
これに対して、本実施形態では、ハウジング部(23)の下部表面に、凹条に形成された4本の冷却溝(36)を形成した。これにより、ハウジング部(23)の表面積を拡大できるため、ハウジング部(23)から放熱可能な熱量を増大できる。そうすると、駆動軸(17)と主軸受メタル(34)との間の摺動部で発生した摩擦熱を、主軸受メタル(34)及びハウジング部(23)を介して4本の冷却溝(36)から効率的に放出できる。その結果、軸受隙間(35)を流れる潤滑油の温度上昇が抑制されるため、該軸受隙間(35)を流れる潤滑油の油膜の厚さが維持される。従って、摺動部を十分に潤滑することができるため、駆動軸(17)と主軸受メタル(34)との焼付きを防止できる。
【0067】
−軸受隙間の下端から流出する潤滑油の流れ−
駆動軸(17)と主軸受メタル(34)との間の摺動部を潤滑した潤滑油の一部は、自重により軸受隙間(35)の下端から高圧空間(28)内へ落下する。すると、該潤滑油は、高圧空間(28)内で形成された旋回流によって粉砕されてミスト化される。そうなると、高圧空間(28)において吐出管(20)の開口部(20a)へ向かうガス冷媒の流れによって、吐出管(20)から外部へ排出されやすくなる。その結果、ケーシング(10)の底壁部(13)に戻される潤滑油の量が減少し、ひいては油切れに至ってしまう。
【0068】
これに対して、本実施形態では、上記軸受隙間(35)の下端から流出する潤滑油には、案内板(58)の分流凹部(90)によって形成されたガス冷媒の旋回流と、駆動軸(17)の回転力によって該駆動軸(17)の回転方向へ向かう力が作用する。そして、ハウジング部(23)の下部表面には、軸受隙間(35)から、駆動軸(17)の径方向に対して上記ガス冷媒の旋回方向に90度傾いた方向に、ケーシング(10)の内壁まで延びる直線状の冷却溝(36)が形成されている。これにより、軸受隙間(35)の下端から流出する潤滑油は、上記旋回流により上記冷却溝(36)に流入する。そして、この潤滑油は、表面張力によって冷却溝(36)に付着した状態となり、軸受隙間(35)の下端から順次流れ込む潤滑油によって押し出されるようにして、ケーシング(10)の内壁まで流れる。
【0069】
このように、軸受隙間(35)の下端から流出する潤滑油は、ケーシング本体(11)の内壁まで流れるため、該潤滑油は、内壁を下方へ伝ってケーシング(10)の底壁部(13)へ戻される。これにより、上述のような潤滑油のミスト化が防止され潤滑油を確実に底壁部(13)へ戻せるため、スクロール型圧縮機(1)の油切れを抑制できる。
【0070】
更に、潤滑油がハウジング部(23)に形成された冷却溝(36)を流れるため、該冷却溝(36)を流れる潤滑油によってハウジング部(23)を冷却できる。そうすると、駆動軸(17)と主軸受メタル(34)との間の摺動部の摩擦熱が、主軸受メタル(34)を通じてハウジング部(23)へ伝わりやすくなる。その結果、上記摺動部の温度上昇を抑制することができる。しかも、液体である潤滑油は、一般的に、気体であるガス冷媒よりも熱伝導率が高い。従って、ハウジング部(23)の熱は、比較的、潤滑油に伝わりやすいため、潤滑油によってハウジング部(23)を効率的に冷却できる。
【0071】
また、冷却溝(36)は、複数本、周方向において等間隔に形成されているため、ハウジング部(23)全体を均一に冷却できる。更に、各冷却溝(36)を流れる潤滑油が各冷却溝(36)を冷却するため、ハウジング部(23)を広範囲に亘って冷却できる。しかも、軸受隙間(35)の下端からの潤滑油は、複数の冷却溝(36)に流れるため、その分、ケーシング(10)の底壁部(13)へ潤滑油を戻し易くなる。その結果、スクロール式圧縮機(1)の油切れを抑制できる。
【0072】
また、高圧空間(28)内のガス冷媒は、ステータ(51)とロータ(52)との間のエアギャップ隙間や、連絡通路(46)に連通していない方のモータ冷却通路(55)(図1における左側)を上方に向けて流れている。このガス冷媒の上方への流れによって、冷却溝(36)を流れる潤滑油が、自重によって下方へ落下するのを抑制できる。これにより、該潤滑油をケーシング本体(11)の内壁まで流れやすくなるため、潤滑油を底壁部(13)に戻し易くなる。しかも、旋回流形成機構としての分流凹部(90)に形成された第2吐出口(90a)の位置は、ケーシング(10)に嵌入された吐出管(20)の開口部(20a)よりも下方に設けられている。こうすると、分流凹部(90)から吐出されたガス冷媒は、吐出管(20)の開口部(20a)へ向けて上昇しながら旋回する。これにより、冷却溝(36)を流れる潤滑油が自重により下方へ落下するのを抑制できるため、潤滑油を底壁部(13)まで戻し易くなる。
【0073】
−実施形態の効果−
以上のように、本実施形態に係るスクロール型圧縮機(1)では、駆動軸(17)を回転可能に支持する主軸受メタル(34)が挿通固定されたハウジング部(23)に、凹条の冷却溝(36)を設けた。これにより、ハウジング部(23)の表面積が拡大するため、駆動軸(17)と主軸受メタル(34)との間の摺動部の摩擦熱を、主軸受メタル(34)及びハウジング部(23)を介して、ハウジング部(23)の表面から効率的に放出できる。その結果、摺動部の温度上昇を抑制することができ、潤滑油の油膜の厚さを維持できるため、上記摺動部を十分に潤滑することができる。
【0074】
更に、上記冷却溝(36)は、ハウジング部(23)の下側に形成された高圧空間(28)にガス冷媒が旋回している構成において、ハウジング部(23)の下部表面に、軸受隙間(35)の下端から駆動軸(17)の径方向に対してガス冷媒の旋回方向に90度傾いた方向に延びるように形成されている。そして、軸受隙間(35)の下端部において上記冷却溝(36)が延びる方向は、駆動軸(17)の回転方向と同じである。これにより、冷却溝(23)に潤滑油を流し易くなり、該潤滑油によってハウジング部(23)を冷却できる。その結果、駆動軸(17)と主軸受メタル(34)との間の摺動部で発生する摩擦熱が、主軸受メタル(34)を通じてハウジング部(23)へ伝わりやすくなるため、上記摺動部の温度上昇を抑制できる。
【0075】
加えて、上記冷却溝(36)は、周方向において等間隔となるように複数本、形成されているため、ハウジング部(23)を均一に且つ効率的に冷却できる。また、冷却溝(36)を複数本、設けることにより、軸受隙間(35)から下方へ落下する潤滑油の量が低減するため、スクロール型圧縮機(1)の油切れを抑制できる。
【0076】
また、上記冷却溝(23)の流出端は、ケーシング本体(11)の内壁まで延びているため、冷却溝(23)を流れる潤滑油をケーシング(10)の底壁部(13)に確実に戻せる。従って、スクロール型圧縮機(1)の油切れを抑制できる。
【0077】
また、上記冷却溝(23)を流れる潤滑油には、電動機(16)のエアギャップ隙間やモータ冷却通路(55)を上方へ向かうガス冷媒の流れや、案内板(58)の分流凹部(90)から吐出されて旋回しながら上昇するガス冷媒の流れが作用する。これにより、冷却溝(23)を流れる潤滑油が自重によって下方へ落下するのを抑制でき、スクロール型圧縮機(1)の油切れを抑制できる。
【0078】
−その他の実施形態−
上記実施形態については、以下のような構成にしてもよい。
【0079】
上記実施形態では、冷却溝(36)を直線状に形成したが、この限りでなく、冷却溝(76)を、図5に示すように、ハウジング部(23)の外周縁へ近づくに連れてガス冷媒の旋回方向に湾曲する曲線状に形成してもよい。これにより、ハウジング部(23)の外周側の冷却溝(76)を流れる潤滑油に、旋回流を作用させることができる。従って、潤滑油を、冷却溝(76)全体に亘ってスムーズに流すことができ、ハウジング部(23)を効率的に冷却できる。
【0080】
更に、冷却溝(77)を、図6に示すように、ガス冷媒の旋回方向に沿うような渦巻き状に形成してもよい。これにより、冷却溝(77)全体に亘って潤滑油をよりスムーズに流すことができ、ハウジング部(23)をより効率的に冷却することができる。
【0081】
また、上記実施形態では、冷却溝(36)の本数を4本としたが、この限りでなく、1本以上形成されていればよい。
【0082】
また、上記実施形態では、軸受隙間(35)と連通する主軸側給油路(64a)を、主軸受メタル(34)の軸方向の中央部付近に設けたが、この限りでなく、主軸受メタル(34)の軸方向の下部付近に設けてもよい。こうすると、該主軸側給油路からの潤滑油が軸受隙間の下端まで流れる距離が短くなる。そうなると、該潤滑油が摺動部を潤滑する範囲が狭くなるため、潤滑油が摺動部から吸収する摩擦熱が少なくなり、軸受隙間(35)の下端からは比較的低温の潤滑油が流出する。その結果、比較的低温の潤滑油が冷却溝(36)を流れることになるため、ハウジング部(23)を効率的に冷却できる。
【0083】
また、上記実施形態では、案内板(58)に形成した分流凹部(90)によって旋回流を形成したが、この限りでなく、高圧空間(28)において旋回流を形成できる構成であれば、どのような構成でもよい。例えば、ケーシング(10)内にファンを設けて旋回流を形成してもよいし、モータ(16)のロータ(52)の上端面に羽根状の部材を取り付けて、該部材を回転させることにより旋回流を形成してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、分流凹部(90)を設けて旋回流を形成することにより冷却溝に潤滑油を流したが、この限りでなく、冷却溝に潤滑油を流すことができるような機構であれば、どのような機構を用いて冷却溝に潤滑油を流してもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、ハウジング部(23)に凹条の冷却溝(36)を形成することによってハウジングの表面積を増大させたが、この限りでなく、ハウジング部の表面積を増大できるような形状であればどのような形状であってもよい。例えば、ハウジング部に凸条の放熱部を設けてもよいし、放熱フィンのように複数の板状部材を並設してもよい。更に、突起部を設けることにより、ハウジング表面積を増大させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明は、駆動軸と軸受部との間の軸受隙間に、ケーシングの底部に溜められた潤滑油を汲み上げて供給する油供給機構を有するスクロール型圧縮機について特に有用である。
【符号の説明】
【0087】
1 スクロール型圧縮機
10 ケーシング
13 底壁部(底部)
15 圧縮機構
16 電動機(駆動機構)
17 駆動軸
23 ハウジング部
28 高圧空間
34 主軸受メタル(軸受部)
35 軸受隙間
36,76,77 冷却溝(放熱部、溝部)
60 油供給機構
61 油搬送部(ポンプ部)
90 分流凹部(旋回流形成機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(10)と、
上記ケーシング(10)に収容される駆動機構(16)と、
上記駆動機構(16)に連結する駆動軸(17)と、
上記駆動軸(17)に回転駆動されて冷媒を圧縮するスクロール式の圧縮機構(15)と、
上記駆動軸(17)を回転可能に支持する軸受部(34)を有するハウジング部(23)と、
を備え、
上記ハウジング部(23)の表面には、該ハウジング部(23)の放熱面積を増大させる放熱部(36,76,77)が形成されていることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記放熱部(36,76,77)は、上記ハウジング部(23)の表面に形成される凹部又は凸部で構成されていることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記駆動軸(17)と上記軸受部(34)との間の軸受隙間(35)に潤滑油を供給する油供給機構(60)を更に備え、
上記放熱部は、上記軸受隙間(35)からの潤滑油が流通可能な凹条に形成された少なくとも1つの溝部(36,76,77)を含むことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、
上記ハウジング部(23)の下側には、上記圧縮機構(15)によって圧縮されたガス冷媒で満たされた高圧空間(28)が形成され、
上記高圧空間(28)のガス冷媒を上記駆動軸(17)の周方向に旋回させる旋回流形成機構(90)を更に備え、
上記溝部(36,76,77)は、上記ハウジング部(23)の下部表面において、上記軸受隙間(35)の下端から、上記駆動軸(17)の径方向に対して上記ガス冷媒の旋回方向に傾いた方向に延びていることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項5】
請求項4において、
上記旋回流形成機構(90)は、上記高圧空間(28)のガス冷媒を、上記駆動軸(17)の回転方向と同じ方向に旋回させるように構成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項4又は5において、
上記油供給機構(60)は、上記ケーシング(10)の底部(13)に溜められた潤滑油を上記軸受隙間(35)へ汲み上げる油搬送部(61)を備え、
上記溝部(36,76,77)は、該溝部(36,76,77)の流出端が上記ケーシング(10)の内壁まで延びるように形成されていることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項7】
請求項4から6のうちいずれか1つにおいて、
上記ハウジング部(23)の下部表面には、複数の上記溝部(36,76,77)が形成されていることを特徴とするスクロール型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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