説明

スクロール流体機械の位置決め方法およびその装置、並びにスクロール流体機械の組み立て方法およびその装置

【課題】 固定スクロールおよび揺動スクロールのラップ部等の加工精度に影響されず、また、回転軸受を内在するフレーム及び副軸受を内在するサブフレームがスクロール流体機械の外筒部に予め固定されている状態においても、両ラップ部を噛み合わせた状態から固定スクロールを自動的にかつ高精度に位置決めすることを目的とする。
【解決手段】 回転軸4を回転させながら、回転軸4の偏心軸4aと逆方向に固定スクロール1を押し付け、固定スクロール1の水平方向の移動限界を計測し、揺動軌跡を得る。この場合、固定スクロール1をフレーム15に対して加圧力を調整しながら押し付け、安定な揺動軌跡を得る。得られた揺動軌跡をもとに、圧縮機運転時の正確な固定スクロール1のラップ部1bと揺動スクロール2のラップ部2bの側面隙間が全周均一になる位置を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば冷凍装置、空気調和装置、真空ポンプ等に使用するスクロール流体機械の位置決め方法およびその装置、並びにスクロール流体機械の組み立て方法およびその装置に関し、さらに詳しくは、固定スクロールを揺動スクロールと組み合わせてフレームに固定する際の固定スクロールの位置決めに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スクロール流体機械の組立工程の1つである固定スクロールを調心位置決めする工程として、以下の方法があった。すなわち、ガイドフレームにコンプライアントフレームを組み付け、コンプライアントフレームの有する回転軸受に回転軸を挿入し、コンプライアントフレームのオルダム案内溝にオルダム継手を係合させ、回転軸の偏心軸を揺動スクロールの揺動軸受に挿入して、揺動スクロールを組付ける。その後、オルダム継手を介して固定スクロールを組付け、ボルトで固定する。固定スクロールの位置決めは、ガイドフレームおよび固定スクロールに設けられた基準のリーマ穴にリーマピンを挿入することにより行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来、リーマピンを利用しないスクロール流体機械の位置決め方法として、以下の方法があった。すなわち、(a)渦巻き状のラップ部を有する揺動スクロールを揺動可能に支持すると同時に上記揺動スクロールを駆動する回転軸をその半径方向に支持するように上記揺動スクロール及び回転軸をフレームに組み込み、かつ渦巻き状のラップ部を有する固定スクロールをそのラップ部が上記揺動スクロールのラップ部と組み合わさりしかも上記フレームに対し移動可能な状態で配置し、上記フレームを保持する工程、(b)上記回転軸を傾けるモーメントを付加しながら上記回転軸を回転させる工程、(c)上記回転軸の回転時に上記固定スクロールを上記フレームに対して所定の圧力で加圧する工程、(d)上記回転軸回転時に生じる上記固定スクロールの変位を少なくとも2方向から計測する工程、(e)上記(d)工程にもとづき各方向からの上記固定スクロールの変位から上記固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する工程、(f)上記(e)工程により上記固定スクロールの揺動軌跡が安定であると判定された場合、上記(d)工程により計測された変位に基づき上記固定スクロールの上記フレームに対する固定位置を求める工程なる(a)〜(f)の工程を備えたものであった(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3287573号
【特許文献2】特開2001−221170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スクロール流体機械において、固定スクロールのラップ部と揺動スクロールのラップ部の側面隙間が全周均一にならないと、両ラップ部により形成される圧縮室の気密性が悪くなり、圧縮機の性能及び信頼性が低下する。
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなリーマピンを用いた従来の組立方法を用いると、固定スクロールおよび揺動スクロールの両ラップ部の加工誤差や、両ラップ部の渦巻中心とリーマ穴の加工精度等により、固定スクロールのラップ部と揺動スクロールのラップ部の側面隙間が全周均一にならない。
【0007】
また、リーマ穴を設けるための加工費やリーマピンの材料費等がコストの増加につながる。
【0008】
上記特許文献1の上記問題点を解決するために特許文献2が提案されたが、特許文献2では下記の問題が生じる。すなわち、回転軸受を内在するフレーム(ガイドフレーム、コンプライアントフレームが有ればコンプライアントフレームも含む)及び副軸受を内在するサブフレームがスクロール流体機械の外筒部に予め固定されており、フレームにオルダムリングを配置し,オルダムリングを介して固定スクロールと揺動スクロールとを噛み合わせた被組立体に対しては、特許文献2の上記(b)の工程において、回転軸を回転軸受及び副軸受に対して必ずしも十分かつ安定に傾けることができない。そのため、ここで求めた固定スクロールのラップ部と揺動スクロールのラップ部の側面隙間が全周均一になる位置は、必ずしも圧縮機運転時の固定スクロールのラップ部と揺動スクロールのラップ部の側面隙間が全周均一になる位置とは限らない。
【0009】
この発明は上記のような従来の課題を解消するためになされたものであり、固定スクロールおよび揺動スクロールのラップ部等の加工精度に影響されず、また、回転軸受を内在するフレーム及び副軸受を内在するサブフレームがスクロール流体機械の外筒部に予め固定されている状態においても、両ラップ部を噛み合わせた状態から固定スクロールを自動的にかつ高精度に位置決めすることができるスクロール流体機械の位置決め方法およびその装置、並びにスクロール流体機械の組立方法およびその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るスクロール流体機械の位置決め方法は、
(a)回転軸受を内在するフレームが外筒部に固定され、回転軸受に回転軸が挿入され、サブフレームの副軸受に回転軸の副軸部分が挿入され、サブフレームが外筒部に固定され、回転軸の偏心軸が揺動スクロールの偏心軸受に挿入されて揺動スクロールがフレームに組み込まれ、オルダム継手を介して固定スクロールのラップ部と揺動スクロールのラップ部が組み合わさるように固定スクロールが組み付けられ、フレームに対して固定スクロールが自由に動く程度に仮組みされた被組立体の外筒部を保持する工程、
(b)固定スクロールを垂直方向及び水平方向に移動可能に保持する工程、
(c)固定スクロールに対して水平方向の押し付け力を作用させ、固定スクロールを介して回転軸を回転軸の偏心軸設置方向と逆方向に傾ける工程、
(d)回転軸を回転させるとともに、回転軸の回転位相と同期して固定スクロールに対する水平方向の押し付け力の位相を変化させる工程、
(e)固定スクロールの変位から固定スクロールの揺動軌跡を測定する工程、
(f)固定スクロールをフレームに対して段階的に加圧する工程、
(g)(e)における固定スクロールの揺動軌跡の測定値と、(f)における加圧力とから、固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する工程、
(h)固定スクロールの揺動軌跡が安定であると判定された場合、固定スクロールのフレームに対する固定位置を求める工程、とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、この発明に係るスクロール流体機械の位置決め方法は、
(a)フレームの回転軸受に回転軸が挿入され、回転軸の偏心軸が揺動スクロールの偏心軸受に挿入されて揺動スクロールがフレームに組み込まれ、オルダム継手を介して固定スクロールのラップ部と揺動スクロールのラップ部が組み合わさるように固定スクロールが組み付けられ、フレームに対して固定スクロールが自由に動く程度に仮組みされた被組立体のフレームを保持する工程、
(b)固定スクロールを垂直方向及び水平方向に移動可能に保持する工程、
(c)固定スクロールに対して水平方向の押し付け力を作用させ、固定スクロールを介して回転軸を回転軸の偏心軸設置方向と逆方向に傾ける工程、
(d)回転軸を回転させるとともに、回転軸の回転位相と同期して固定スクロールに対する水平方向の押し付け力の位相を変化させる工程、
(e)固定スクロールの変位から固定スクロールの揺動軌跡を測定する工程、
(f)固定スクロールをフレームに対して段階的に加圧する工程、
(g)(e)における固定スクロールの揺動軌跡の測定値と、(f)における加圧力とから、固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する工程、
(h)固定スクロールの揺動軌跡が安定であると判定された場合、固定スクロールのフレームに対する固定位置を求める工程、とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、この発明に係るスクロール流体機械の位置決め装置は、
回転軸受を内在するフレームが外筒部に固定され、回転軸受に回転軸が挿入され、サブフレームの副軸受に回転軸の副軸部分が挿入され、サブフレームが外筒部に固定され、回転軸の偏心軸が揺動スクロールの偏心軸受に挿入されて上記揺動スクロールが上記フレームに組み込まれ、オルダム継手を介して上記固定スクロールのラップ部と上記揺動スクロールのラップ部が組み合わさるように上記固定スクロールが組み付けられ、上記フレームに対して上記固定スクロールが自由に動く程度に仮組みされた被組立体の上記外筒部を保持するワーク保持機構、
固定スクロールを垂直方向及び水平方向に移動可能に保持する固定スクロール保持機構、
回転軸を回転させる回転軸用モータ、
固定スクロール保持機構に対して水平方向の押し付け力を作用させる半径方向押付機構、
半径方向押付機構を回転軸の回転位相と同期して回転させる半径方向押付機構用モータ、
固定保持機構を介して、固定スクロールをフレームに対して加圧する垂直加圧機構、
固定スクロール保持機構の水平方向の変位を少なくとも2方向から計測する変位センサ、
変位センサの計測値から、固定スクロールの揺動軌跡を計算する演算部、
垂直方向の加圧力のデータと、固定スクロールの揺動軌跡から、固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する演算部、
固定スクロールの安定な揺動軌跡から、固定スクロールのフレームに対する固定位置を計算する演算部、とを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、この発明に係るスクロール流体機械の位置決め装置は、
フレームの回転軸受に回転軸が挿入され、回転軸の偏心軸が揺動スクロールの偏心軸受に挿入されて揺動スクロールがフレームに組み込まれ、オルダム継手を介して固定スクロールのラップ部と揺動スクロールのラップ部が組み合わさるように固定スクロールが組み付けられ、フレームに対して固定スクロールが自由に動く程度に仮組みされた被組立体のフレームを保持するワーク保持機構、
固定スクロールを垂直方向及び水平方向に移動可能に保持する固定スクロール保持機構、
回転軸を回転させる回転軸用モータ、
固定スクロール保持機構に対して水平方向の押し付け力を作用させる半径方向押付機構、
半径方向押付機構を回転軸の回転位相と同期して回転させる半径方向押付機構用モータ、
固定保持機構を介して、固定スクロールをフレームに対して加圧する垂直加圧機構、
固定スクロール保持機構の水平方向の変位を少なくとも2方向から計測する変位センサ、
変位センサの計測値から、固定スクロールの揺動軌跡を計算する演算部、
垂直方向の加圧力のデータと、固定スクロールの揺動軌跡から、固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する演算部、
固定スクロールの安定な揺動軌跡から、固定スクロールの上記フレームに対する固定位置を計算する演算部、とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、固定スクロールおよび揺動スクロールのラップ部等の加工精度に影響されず、両ラップ部を噛み合わせた状態から固定スクロールを自動的にかつ高精度に位置決めし、スクロール流体機械を組み立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。
【0016】
実施の形態1.
図1はこの発明に適用されるスクロール流体機械の例を示す断面図である。まず、図1に基づいてスクロール流体機械の構造について説明する。
【0017】
図1において、固定スクロール1は、台板1aと、台板1aの一方の面(図1において下側)に形成された渦巻状のラップ部1bを備える。固定スクロール1の台板1aの外周部はボルト(図示せず)によってガイドフレーム15に締結されている。
【0018】
揺動スクロール2は、台板2aと、台板2aの一方の面(図1において上側)に形成され、固定スクロール1のラップ部1bと実質的に同一形状の渦巻状のラップ部2bを備える。台板2aのラップ部2bと反対側の面(図1において下側)には、その中心部に中空円筒形状のボス部2fが形成されており、そのボス部2fの内側面には揺動軸受2cが形成されている。また、ボス部2fと同じ側の面の外周部には、コンプライアントフレーム3のスラスト軸受3aと圧接摺動可能なスラスト面2dが形成されている。
【0019】
揺動スクロール2の台板2aの外周部には、2個1対のオルダム案内溝2eがほぼ一直線上に形成されており、このオルダム案内溝2eにはオルダムリング9の2個1対の揺動側爪9aが半径方向に往復摺動自在に係合されている。一方、コンプライアントフレーム3にも、揺動スクロール2のオルダム案内溝2eとほぼ90度の回転方向位相差を持つ2個1対のオルダム案内溝3bがほぼ一直線上に形成されており、このオルダム案内溝3bにはオルダムリング9のフレーム側爪9bが半径方向に往復摺動自在に係合されている。
【0020】
コンプライアントフレーム3の中心部には、電動機によって回転駆動される回転軸4を半径方向に支持する回転軸受3cが形成されている。また、コンプライアントフレーム3にはリーマピン17が圧入されるリーマ穴3gが形成されており、このリーマピン17はガイドフレーム15に形成されたキー溝15eに係合されており、これによってコンプライアントフレーム3とガイドフレーム15との回転方向の位相が管理されている。すなわち、コンプライアントフレーム3は、ガイドフレーム15に対して回転方向の移動が拘束される。
【0021】
ガイドフレーム15の外周面は密閉容器(ケーシング)10に固定されており、密閉容器10の内部空間は低圧室10cと高圧室10dとに分離されている。ガイドフレーム15の内側面には、同軸度が管理された2つの円筒面すなわち上嵌合円筒面15aと下嵌合円筒面15bとが形成されている。そして、上嵌合円筒面15aと下嵌合円筒面15bは、コンプライアントフレーム3の外周面に同軸度が管理されて形成された2つの円筒面すなわち上嵌合円筒面3dと下嵌合円筒面3eと係合されている。ガイドフレーム15の内側面には、シール材を収納するシール溝が2ヶ所に形成されており、それらのシール溝に上シール材16aおよび下シール材16bが固着されている。そして、これら2つのシール材16a、16bと、ガイドフレーム15の内側面及びコンプライアントフレーム3の外側面とによって形成された密閉空間、すなわち高圧空間15cは、ガイドフレーム15に形成された高圧導入孔15dを介して高圧室10dと連通している。
【0022】
回転軸4の揺動スクロール2側には、回転軸4の軸線方向と実質的に平行な平面部を有する偏心軸4aが形成されており、この偏心軸4aの平面部とスライダー5の内側面に形成された平面部とが往復摺動可能に係合されている。なお、スライダー5は無い場合もある。吸入管10aは圧縮される前の低圧ガスを低圧室10cに導くものであり、吐出管10bは圧縮された後の高圧ガスを高圧室10dから密閉容器10の外に排出するものである。
【0023】
次に、図1のスクロール流体機械の定常運転時の動作について簡単に説明する。電動機によって発生した駆動トルクは、回転軸4を介して、スライダー5へと伝達される。スライダー5に伝達された駆動トルクは、揺動軸受2cを介して揺動スクロール2を駆動する。この時、揺動スクロール2は、オルダムリング9によってコンプライアントフレーム3に対しての自転及び固定スクロール1に対しての自転が拘束されるので、固定スクロール1に対して揺動運動を行う。そして、吸入管10aから低圧ガスは、密閉容器10内の低圧室10cに開放された後に、固定スクロール1の渦巻状のラップ部1bと揺動スクロール2の渦巻状のラップ部2bとが噛み合って形成される一対の三日月状の圧縮室に取り込まれ、この三日月状の圧縮室が相似的に容積を減少していくことで圧縮される。さらに圧縮された高圧ガスは、固定スクロール1の吐出口1eから密閉容器10内の高圧室10dに開放され、その後、吐出管10bから密閉容器10外へ排出される。
【0024】
図2はこの発明の実施の形態1の被組立体であるスクロール流体機械を示す側面断面図であり、スクロール流体機械の主要部を外筒部に組み付けた状態を示す。
【0025】
図2において、図1と同符号の構成部分は図1の構成部分と同様の内容を表している。すなわち、固定スクロール1の台板1aの一方の面(図2において下側)に渦巻き状のラップ部1bを有し、揺動スクロール2の台板2aの一方の面(図2において上側)には固定スクロール1のラップ部1bと実質的に同一形状の渦巻状のラップ部2bが形成されている。また、台板2aのラップ部2bと反対側の面(図2において下側)の中心部には中空円筒形状のボス部2fが形成されており、そのボス部2fの内側面には揺動軸受2cが形成されている。コンプライアントフレーム3の中心部には、電動機によって回転駆動される回転軸4を半径方向に支持する回転軸受3cが形成されている。固定スクロール1とガイドフレーム15はボルト26により固定される。外筒部20である円筒シェルには、その内周にステータ18が固定されており、このステータ18は回転軸4の外周に固定されたロータ19と対向した位置に配置される。サブフレーム21には、回転軸4の下側外周に位置する副軸4bが嵌挿されている副軸受21aを有している。そして、ガイドフレーム15及びサブフレーム21は、溶接部24及び25により外筒部20の内周に固定されている。なお、図2において、オルダム継手機構について図示省略している。
【0026】
この発明の実施の形態1によるスクロール流体機械の位置決め方法及び位置決め装置は、図2に示される、固定スクロール1を、外筒部20に固定されたガイドフレーム15に対して位置決め・固定する工程に適用するものである。
【0027】
この発明の実施の形態1によるスクロール流体機械の位置決め装置の構成を、図3〜図8に基づいて説明する。
【0028】
図3に示すように、位置決め装置の架台119には、それぞれ水平方向の基準面を有する、第1ベース210、第2ベース220、第3ベース230及び下部ベース240が取り付けられている。第3ベース230には、スクロール流体機械の外筒部20を位置決め装置本体に固定保持するワーク保持機構108を備えている。第3ベース230と下部ベース240の間には、シリンダ118により垂直方向に移動可能な昇降台250が設けられ、昇降台250には回転軸4を回転させるための回転軸用モータ110が設置されている。カップリング109はモータ110の回転力を回転軸4に伝達する回転力伝達手段である。昇降台250をシリンダ118により上下動させて、回転軸4とカップリング109の連結の着脱を行う。
【0029】
固定スクロール保持機構106bは固定スクロール1を保持するための機構である。計測体106aは後述する変位センサ101及び102の計測対象となる。固定スクロール保持機構106b及び計測体106aは、それぞれ剛性体で構成され、ボルト等(図示せず)により固定されている。
【0030】
半径方向押付機構114bは、圧縮ばね114cを介して、固定スクロール1のラップ部1bを揺動スクロール2のラップ部2bに半径方向に押し付けるための機構である。シリンダ114aは、半径方向押付機構114bの半径方向押付力を解除するためのものである。
【0031】
フロートブロック113は半径方向押付機構114bの押付力を受ける剛性体であり、計測体106a及び固定スクロール保持機構106bと一体となっている。フロートブロック113、計測体106a及び固定スクロール保持機構106bは、剛性体でかつ一体に構成されているので、計測体106aを変位センサ101及び102により測定することにより、固定スクロール1の傾きや水平方向変位を測定することができる。
【0032】
吊り下げ支持機構103は、架台の第2ベース220に支持ばね103aを介して取り付けられ、固定スクロール保持機構106bを垂直方向に移動可能なように吊り下げ支持している。XYテーブル104は、吊り下げ支持機構103とフロートブロック113の間に取り付けられ、フロートブロック113、つまり固定スクロール保持機構106bの水平移動(X−Y方向)を可能とする。
【0033】
図5(a)及び図6(a)は図3のX−X平面、図5(b)及び図6(b)は図3のY−Y平面を示めし、図5(a)及び(b)は半径方向押付機構114bの押付力が作用していない状態、図6(a)及び(b)は半径方向押付機構114bの押付力が作用している状態を表している。
【0034】
図5(a)及び図6(a)に示すように、XYテーブル104と吊り下げ支持機構103を介して、フロートブロック113は自転せず、架台119に対して、水平及び垂直方向に移動することが可能となる。
【0035】
ここで、半径方向押付機構114bの押付力及び支持バネ103aの支持力は、回転軸4を回転軸受3cおよび副軸受21aに対して十分傾けることができるような力を発生できるように予め調整されている。
【0036】
半径方向押付機構用モータ117は、架台の第3ベース230上に回転可能に支持された回転テーブル107をギア115を介して回転させるためのモータである。このモータ117は回転軸用モータ110と同期して回転し、回転テーブル107に固定された半径方向押付機構114bの押付方向を回転軸用モータ110と同期して変化させることができる。
【0037】
変位センサ101は、架台の第2ベース220に設置され、固定スクロール1が保持された固定スクロール保持機構106bの垂直方向の変位を計測する。この測定値を用いて固定スクロール保持機構106bの傾きを計算することができる。
【0038】
変位センサ102は、同じく架台の第2ベース220に設置され、固定スクロール1が保持された固定スクロール保持機構106bの水平方向変位を計測する。
【0039】
変位センサ101及び102は、計測体106aに対して、図4に示すように配置されている。すなわち、変位センサ101は少なくとも3位置にて垂直変位を計測するように配置されている。変位センサ102は、少なくとも2位置にて水平方向変位を計測するように配置されている。
【0040】
これらのセンサ101、102は、計測中に固定スクロール1がガイドフレーム15に対して傾いてしまった場合でも、固定スクロール1のラップ部1b側面と揺動スクロール2のラップ部2b側面との接触点での変位の計算を可能とする。
【0041】
変位センサ116a、116bは外筒部20の水平方向変位及び傾きを計測する手段である。これらのセンサ116a、116bは、計測中に外筒部20が何らかの原因で動いてしまった場合でも、固定スクロール1の外筒部20に対する位置を測定することができる。
【0042】
本実施の形態では、図4に示すように、変位センサ102は直交する2方向の変位を計測するように配置されている。変位センサ116a、116bについても直交する2方向の変位を計測するように配置されている。
【0043】
垂直方向加圧機構111は、架台の第1ベース210に設置され、計測体106a及び固定スクロール保持機構106bを介して、固定スクロール1をガイドフレーム15に対して所定の圧力で加圧する手段である。シリンダ100は垂直方向加圧機構11を動作させるための駆動源である。
【0044】
アクチュエータ105a及び背圧機構105bは、それぞれ固定スクロール1を調心する際に用いるためのもので、本実施の形態では図5及び図6に示すようにX、Y方向に1対ずつ設けられている。
【0045】
ボルト締結機構112は固定スクロール1をガイドフレーム15に固定する固定スクロール固定機構である。
【0046】
コンピュータ120は、変位センサ101、102、116a、116bにより計測されたデータ、半径方向押付機構114bの押付力、垂直方向加圧機構111の垂直方向加圧力、回転軸用モータ110の回転速度、半径方向押付機構用モータ117の回転速度等のデータを取り入れ、これらの押付力、加圧力及び回転速度を制御するコントローラを備えている。また、コンピュータ120は、変位センサ101、102により計測されるデータから固定スクロール1の変位を計算し固定スクロール1の揺動軌跡の安定性を判定する判定手段と、この判定手段により固定スクロール1の揺動軌跡が安定であると判定された場合、固定スクロール保持機構106bの位置変位に基づき固定スクロール1のガイドフレーム15に対する固定位置を求める固定位置算出手段を備えている。
【0047】
次に、本実施の形態の動作について説明する。まず、図2に示す被組立体は下記のように組み立てられる。すなわち、ガイドフレーム15およびステータ18が外筒部20に固定されており、コンプライアントフレーム3を上記固定されたガイドフレーム15に組み込む。次に、コンプライアントフレーム3の回転軸受3cに回転軸4を挿入した後、ロータ19を回転軸4に固定する。そして、回転軸4の下側に位置する副軸4bをサブフレーム21の副軸受21aに挿入した後、サブフレーム10を外筒部20に固定する。揺動スクロール2の揺動軸受2cを回転軸4の偏心軸4aに挿入し、オルダム継手(図示せず)を介して固定スクロール1をそのラップ部1bが揺動スクロール2のラップ部2bと組み合わさるように組み付ける。そして、固定スクロール1をガイドフレーム15に対して自由に動く程度にボルト26で仮固定する。
【0048】
次に、本実施の形態によるスクロール流体機械の位置決め及び組み立て方法を、図7のフローチャートに基づいて説明する。
【0049】
ステップ1(ST1)において、図2に示す被組立体の外筒部20を、図3に示すように、ワーク保持機構108により位置決め装置の架台119に保持する。
【0050】
ステップ2(ST2)において、仮固定していた固定スクロール1を固定スクロール保持機構106bにより保持する。
【0051】
ステップ3(ST3)において、シリンダ118により昇降台250を上昇させて、回転軸4とカップリング109を連結する。
【0052】
ステップ4(ST4)において、図6(b)及び(c)に示すように、半径方向の押付を解除するシリンダ114aを後退させ、半径方向押付機構114bによりフロートブロック113に対して半径方向の押付力(図示矢印)を負荷する。このとき、フロートブロック113は、図6(a)に示すように、XYテーブル104によってXY平面を矢印方向に移動する。そして、フロートブロック113に固定された計測体106a及び固定スクロール保持機構106bも同様に水平方向に移動し、固定スクロール1も水平方向に移動する。さらに、固定スクロール1のラップ部1bの側面が揺動スクロール2のラップ部2bの側面を押し付けるので、回転軸4が垂直方向から所定角度傾くことになる。この場合、半径方向押付機構114bによるフロートブロック113の半径方向の押付方向は、回転軸4の偏心軸4a設置方向と逆になるように設定する。そして、回転軸用モータ110と半径方向押付機構用モータ117とを同期して回転させる。
【0053】
ステップ5(ST5)において、垂直方向加圧機構111により、計測体106a及び固定スクロール保持機構106bを介して、固定スクロール1をガイドフレーム15に対して段階的に加圧する。
【0054】
ステップ6(ST6)において、変位センサ102により固定スクロール保持機構106bの水平方向移動の限界、つまり固定スクロール1の水平方向移動の限界を全周に渡って測定して、揺動軌跡を計測する。
【0055】
ステップ7(ST7)において、固定スクロール1の揺動軌跡の安定性を判定する。このとき、固定スクロール1の垂直方向の加圧力のデータ、回転軸用モータ110の速度、及び、変位センサ102により計測される固定スクロール1の運動の様子をコンピュータ120に取り入れ、固定スクロール1の揺動軌跡の安定性を判定する。
【0056】
ここで、安定性を有する固定スクロール1の揺動運動軌跡とは、回転軸4の回転によって生じる圧縮反力や、固定スクロール1のオルダム案内溝とオルダム継手間の摩擦等による外乱力の影響が少ない場合に観測される安定した軌跡を意味し、歪みの少ない円軌跡となる。円軌跡である場合、両ラップ部の側面が全回転位相にわたって接触を保った状態で固定スクロール1が振れ回り運動をしており、その中心は目標とするスクロール流体機械の調心位置に等しい。
【0057】
また、適切な軌跡を迅速に得るために、以下の式(1)を満たすように、固定スクロール1をガイドフレーム15に対して作用させる垂直方向の加圧力、回転軸用モータ110の回転速度、半径方向押付機構用モータ117の回転速度(回転軸用モータと同期している)を制御してもよい。
【0058】
F0≪Ff≦Fs・・・(1)
【0059】
ここで、図8に示すように、F0は圧縮反力や摩擦等による外乱の力、Ffは固定スクロール1とガイドフレーム15の接触する面に生じる摩擦力、Fsは揺動スクロール2のラップ部2b側面の固定スクロール1のラップ部1b側面に対する押付力とする。圧縮反力は、回転軸4の回転速度ωに応じて変化する力で、一般に回転速度が速いほど大きい。
【0060】
このように、固定スクロール1をガイドフレーム15に対して加圧する加圧力、回転軸用モータ110の回転速度、固定スクロール1に対する水平方向の押し付け力の位相を制御することにより、固定スクロール1とガイドフレーム15間に生じる摩擦力や、圧縮反力を調節することができるため、より適切な固定スクロール1の揺動軌跡を得ることができる。
【0061】
ステップ8(ST8)において、前記ステップ7で固定スクロール1の揺動軌跡が安定であると判定された場合、すなわち、計測して得られた固定スクロール1の揺動が円軌跡であるのを確認した場合、この軌跡の中心の位置を求めて固定スクロール1のガイドフレーム15に対する調心位置(固定位置)として記憶する。
【0062】
ステップ9(ST9)において、回転軸用モータ110及び半径方向押付機構用モータ117の回転を停止し、固定スクロール1の揺動を停止させる。そして、図5に示すように、半径方向押付解除シリンダ114aを前進させ、半径方向の押付機構114bを退避させる。
【0063】
ステップ10(ST10)において、固定スクロール1に対する垂直方向加圧力を調整しながら、アクチュエータ105a及び背圧機構105bを用いて、固定スクロール1を先ほど求めたガイドフレーム15に対する固定位置に調心する。
【0064】
ステップ11(ST11)において、ボルト締結機構112により固定スクロール1をガイドフレーム15に対して固定する。
【0065】
ここで、ステップ6において適切な揺動軌跡を得られた場合の固定スクロール1の揺動軌跡中心の位置について説明する。図8は、位相が0度あるいは180度(180度の場合は回転軸の傾きが図8の反対側になる)の時に両ラップ部が噛み合っている状態を示す断面図である。図8に示すように、半径方向の押付力により、回転軸4が回転軸4の偏心軸4a設置方向と逆方向に傾きながら両ラップ部の側面が全回転位相にわたって接触を保った状態で固定スクロール1が振れ回り運動をする。黒の点が接触部である。固定スクロール1の揺動軌跡の中心位置は、固定スクロール1の外筒部20に対する位置を測定することで求めることができる。
【0066】
以上のように、本実施の形態によれば、固定スクロール1および揺動スクロール2のラップ部1b、2b等の加工精度に影響されず、両ラップ部1b、2bを噛み合わせた状態から固定スクロール1を自動的にかつ高精度に位置決めし、スクロール流体機械を組み立てることができる。
【0067】
また、回転軸受3cを内在するフレーム3,15及び副軸受4bを内在するサブフレーム21がスクロール流体機械の外筒部20に予め固定されている状態においても、両ラップ部を噛み合わせた状態から固定スクロール1を自動的にかつ高精度に位置決めすることができる。
【0068】
実施の形態2.
図9はこの発明の実施の形態2によるスクロール流体機械の位置決め及び組み立て方法を示すフローチャートである。なお、被組立体であるスクロール流体機械及びスクロール流体機械の位置決め装置は、実施の形態1で説明したもの(図2、図3)と同様の構成である。
【0069】
以下、図9のフローチャートに従って実施の形態2のスクロール流体機械の位置決めおよび組み立て方法について説明する。
【0070】
ステップ101(ST101)において、図2に示す被組立体の外筒部20を、図3に示すように、ワーク保持機構108により位置決め装置の架台119に保持する。
【0071】
ステップ102(ST102)において、仮固定していた固定スクロール1を固定スクロール保持機構106bにより保持する。
【0072】
ステップ103(ST103)において、シリンダ118により昇降台250を上昇させて、回転軸4とカップリング109を連結する。
【0073】
ステップ104(ST104)において、図6(b)及び(c)に示すように、半径方向の押付を解除するシリンダ114aを後退させ、半径方向押付機構114bによりフロートブロック113に対して半径方向の押付力(図示矢印)を負荷する。このとき、フロートブロック113は、図6(a)に示すように、XYテーブル104によってXY平面を矢印方向に移動する。その結果、フロートブロック113に固定された計測体106a及び固定スクロール保持機構106bも同様に水平方向に移動し、固定スクロール1も水平方向に移動するので、回転軸4が垂直方向から所定角度傾くことになる。図10は回転軸4等の部材の傾きを示した模式図である。このとき、半径方向押付機構114bによるフロートブロック113の半径方向の押付方向は、回転軸4の偏心軸4a設置方向と逆になるように設定する。そして、回転軸用モータ110と半径方向押付機構用モータ117とを同期して回転させる。
【0074】
ステップ105(ST105)において、図11(a)に示すように、変位センサ101及び102により、固定スクロール保持機構106bに固定された計測体106aの傾き及び水平移動量、すなわち固定スクロール1の傾きTs(ベクトル量)及び水平移動量Es(ベクトル量)を全周に渡って測定する。
【0075】
ここで、図10のように、両ラップ部が接触する位置(固定スクロールラップ底面位置)での固定スクロール1の揺動軌跡Es2は以下の式(2)で計算される。
【0076】
Es2=Es+H×Ts・・・(2)
【0077】
図10に示すように、Es2は求めるラップ部接触位置での水平移動量、Hは変位センサ102からラップ部接触位置までの垂直距離である。ここで、本実施の形態では、固定スクロール1の揺動時に、固定スクロール1とガイドフレーム15の間には十分な隙間が存在するようにフロートブロック103の支持バネのバネ力を予め調整しておく。
【0078】
ステップ106(ST106)において、上記揺動軌跡Es2が適切であると判定された場合、すなわち図11(b)のように歪みのない円軌跡が得られた場合、当該揺動軌跡Es2より固定スクロール1のガイドフレーム15に対する固定位置を算出する。
【0079】
ステップ107(ST107)において、回転軸用モータ110及び半径方向押付機構用モータ117の回転を停止し、固定スクロール1の揺動を停止させる。そして、半径方向押付解除シリンダ114aを前進させ、半径方向の押付機構114bを退避させる。
【0080】
ステップ108(ST108)において、固定スクロール1に対する垂直方向加圧力を調整しながら、アクチュエータ105a及び背圧機構105bを用いて、固定スクロール1を先ほど求めたガイドフレーム15に対する固定位置に調心する。
【0081】
ステップ109(ST109)において、ボルト締結機構112により固定スクロール1をガイドフレーム15に対して固定する。
【0082】
以上のように、本実施の形態によれば、固定スクロール1とガイドフレーム15の間には十分な隙間が存在するため、回転軸4の回転によって生じる圧縮反力や、固定スクロール1のオルダム案内溝とオルダム継手間の摩擦等による外乱力の影響がないため、実施の形態1で必要な垂直方向からの押し付け力がなくとも、半径方向の押付力及び支持バネの支持力を適切に調整しておけば、安定した揺動軌跡を得ることができる。
【0083】
また、一般に回転軸4の回転速度ωの増加に伴って増加する圧縮反力の影響がないため、回転軸4等の内在する部材の傾きによる影響がなく、機構が追従する速さまで回転速度をあげることができ、計測時間を少なくできるという効果を有する。
【0084】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3によるスクロール流体機械の位置決めおよび組み立て方法について説明する。本実施の形態の位置決め装置の構成を図12に示す。
【0085】
ここで、本実施の形態に使用される被組立体は、上記実施の形態1及び2で説明した被組立体に比べて、サブフレーム21およびガイドフレーム15が、外筒部20に対して固定されておらず、回転軸4にロータ19が固定されていない。すなわち、本実施の形態の被組立体は、コンプライアントフレーム3をガイドフレーム15に組み込み、コンプライアントフレーム3の有する回転軸受に回転軸4を挿入した後、揺動スクロール2の偏心軸受を回転軸4の偏心軸4aに挿入し、オルダム継手(図示せず)を介して固定スクロール1をそのラップ部1bが揺動スクロール2のラップ部2bと組み合わさるように組み付け、ガイドフレーム15に対して固定スクロール1が自由に動く程度にボルト26で仮組みされている。そして、本実施の形態による位置決め方法は、上記の被組立体を対象としており、固定スクロール1をガイドフレーム15に対して固定する工程に適用するものである。
【0086】
本実施の形態の位置決め装置は、図12に示すように、上記実施の形態1及び2で説明した位置決め装置と比べて、下記の点を除いて同様に構成されている。
(1)上部フレーム変位センサ116c、下部フレーム変位センサ116dは、垂直方向の上下2位置で、フレーム15を少なくとも2方向から測定していること。
(2)ワーク保持機構108は、ガイドフレーム15を直接把持していること。
【0087】
本実施の形態のスクロール流体機械の位置決め方法及び組立方法は、実施の形態1及び実施の形態2のフローチャートで説明したと同様の工程により実施される。
【0088】
以上のように、本実施の形態によれば、サブフレーム21およびガイドフレーム15が外筒部20に対して固定されていない被組立体に対しても、実施の形態1及び実施の形態2に示した同様の工程を実施することにより、固定スクロール1および揺動スクロール2のラップ部1b、2b等の加工精度に影響されず、両ラップ部1b、2bを噛み合わせた状態から固定スクロール1を自動的にかつ高精度に位置決めし、組み立てることができる効果を有する。
【0089】
実施の形態4.
図13はこの発明の実施の形態4によるスクロール流体機械の位置決め装置の回転力伝達手段としてのカップリングの構成を示す図である。なお、その他の構成は上記実施の形態の構成と同様であるので説明は省略する。
【0090】
本実施の形態では、図13に示すように、回転軸用モータ110と回転軸4との回転力伝達手段であるカップリングとして、オルダム型のカップリング121を使用する。オルダム型のカップリング121を用いれば、回転軸用モータ110のモータ軸の軸心に対する回転軸4の偏心の有無に関わらず、モータ軸に対して回転軸4の軸心を一致させようとする求心力が発生しないため、回転軸4が自由に振れ回り運動をすることができる。
【0091】
また、図14に示すように、回転軸4の偏心軸4a設置方向の回転位相を考慮して、回転軸4の軸端の溝23とカップリング109の爪122を配設し、両者を嵌め合わせるように構成すれば、必ず回転軸4の偏心軸22設置方向が回転軸受と当接するように構成することができる。
【0092】
実施の形態5.
以下、この発明の実施の形態5によるスクロール流体機械の位置決め方法および組み立て方法について説明する。
【0093】
上記実施の形態1及び2のステップ6(ST6)及びステップ105(ST105)において、固定スクロール1の揺動軌跡の安定性を判定する際に、変位センサ102(実施の形態2では変位センサ101と変位センサ102を用いる)より固定スクロール保持機構106bの変位を計測して固定スクロール1の軌跡を算出し、その軌跡が円軌跡であるか否かを判定していた。
【0094】
本実施の形態では、固定スクロール1の揺動軌跡が安定して得られた場合は、図15に示すように、変位センサ102による計測データの振幅や周期が一定であり、その振幅の平均値は変位センサ102方向の固定スクロール1の調心位置であることを利用する。すなわち、複数個の変位センサで固定スクロール1の変位を少なくとも2方向から計測し、それらの計測データの振幅および周期を観測して、固定スクロール1の揺動軌跡の安定性を判定するようにしてもよい。図16の場合は振幅や周期が変動しており、揺動軌跡が不安定であると判定される。
【0095】
その他の実施の形態.
上記実施の形態において、変位センサ102は、固定スクロール1の位置を測定するために、図4のように直交する2方向から計測体106aを計測する場合について説明したが、これに限るものではない。変位センサ102により固定スクロール保持機構106b又は固定スクロール1を直接計測してもよく、また、計測する方向が明確であれば必ずしも直交しなくてもよく、少なくとも2方向から計測すればよい。
【0096】
上記実施の形態において、変位センサ101は、固定スクロール保持機構106bの傾きを測定するために、図4のように120度間隔に配置された3位置から計測体106aを計測する場合を図示したが、これに限るものではない。変位センサ101により、固定スクロール保持機構106b又は固定スクロール1を直接計測してもよく、また計測する位置が明確であれば必ずしも120度間隔にしなくてもよく、少なくとも3位置から計測すればよい。
【0097】
上記実施の形態において、外筒部20の水平方向移動量を測定するために、図3のように変位センサ116a、116bにより外筒部20の外周を測定しているが、サブフレーム21下の外筒部20の内周部を測定してもかまわない。
【0098】
上記実施の形態において、外筒部20の傾きを測定するために、図3のように、変位センサ116aと変位センサ116bを、上下に一対ずつ配置したが、サブフレーム21の下面を測定するようにしても良い。
【0099】
上記実施の形態において、変位センサ101、102、116a、116bあるいは116c、116dは、接触式の変位センサを図示しているが、例えば渦電流式変位センサ等の非接触式の変位センサを用いてもよい。非接触式の変位センサの場合、接触により生じる押付力等の力が測定部分の動きを妨げることがないため、接触式変位センサに比べて精度よく変位を測定することができる。
【0100】
また、上記実施の形態では、図1及び図2に示すように、ガイドフレーム15の中にコンプライアントフレーム3を有するタイプのスクロール流体機械を組み立てる場合について説明したが、本発明はコンプライアントフレーム3のないタイプのスクロール流体機械を含め他のタイプのスクロール流体機械にも適用できる。例えば、コンプライアントフレーム3がガイドフレーム15と一体となり回転軸受を内在したフレームを有するスクロール流体機械にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】この発明の実施の形態に適用されるスクロール流体機械の例を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1の被組立体であるスクロール流体機械を示す側面断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1によるスクロール流体機械の位置決め装置の全体構成を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1による変位センサの配置例を示す平面図である。
【図5】この発明の実施の形態1によるXYテーブル、フロートブロック、半径方向押付機構、固定スクロール調心機構を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1によるXYテーブル、フロートブロック、半径方向押付機構、固定スクロール調心機構を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態1によるスクロール流体機械の位置決め及び組み立て方法を示すフローチャートである。
【図8】この発明の実施の形態1による固定スクロールの振れ回り運動を説明するための図である。
【図9】この発明の実施の形態2によるスクロール流体機械の位置決め及び組み立て方法を示すフローチャートである。
【図10】この発明の実施の形態2による固定スクロールの振れ回り運動を説明するための図である。
【図11】この発明の実施の形態2による、両ラップ部の接触する位置での固定するクロールの揺動動作を説明するための図(a)及び揺動軌跡を示す図(b)である。
【図12】この発明の実施の形態3によるスクロール流体機械の位置決め装置の全体構成を示す図である。
【図13】この発明の実施の形態4によるスクロール流体機械の位置決め装置の回転力伝達手段としてのカップリングの構成を示す図である。
【図14】この発明の実施の形態4によるスクロール流体機械の位置決め装置の回転力伝達手段としてのカップリングを説明するための図である。
【図15】この発明の実施の形態5による、安定な揺動軌跡が得られた場合の変位センサの周期及び振幅を表す図である。
【図16】この発明の実施の形態5による、不安定な揺動軌跡が得られた場合の変位センサの周期及び振幅を表す図である。
【符号の説明】
【0102】
1 固定スクロール、1a 台板、1b ラップ部、2 揺動スクロール、
2a 台板、2b ラップ部、2c 揺動軸受、2d スラスト面、
2e オルダム案内溝、2f ボス部、3 コンプライアントフレーム、
3b オルダム案内溝、3c 回転軸受、4 回転軸、4a 偏心軸、
9 オルダム継手、10 ケーシング、15 ガイドフレーム、18 ステータ、
19 ロータ、20 外筒部、21 サブフレーム、
100 垂直方向加圧機構シリンダ、101 垂直方向変位センサ、
102 水平方向変位センサ、103 吊り下げ保持機構、104 XYテーブル、
105a アクチュエータ、105b 背圧機構、106 固定スクロール保持機構、
107 回転テーブル、108 ワーク保持機構、109 カップリング、
110 回転軸用モータ、111 垂直方向加圧機構、112 ボルト締結機構、
113 フロートブロック、114a 半径方向押付解除シリンダ、
114b 半径方向押付機構、115 ギア、116a 上部外筒部変位センサ、
116b 下部外筒部変位センサ、116c 上部フレーム変位センサ、
116d 下部フレーム変位センサ、117 半径方向押付機構用モータ、
118 カップリング昇降機構、119 架台、120 コンピュータ、
121 オルダム型カップリング、122 カップリング爪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロール流体機械の位置決め方法であって、
(a)回転軸受を内在するフレームが外筒部に固定され、上記回転軸受に回転軸が挿入され、サブフレームの副軸受に上記回転軸の副軸部分が挿入され、上記サブフレームが上記外筒部に固定され、上記回転軸の偏心軸が揺動スクロールの偏心軸受に挿入されて上記揺動スクロールが上記フレームに組み込まれ、オルダム継手を介して上記固定スクロールのラップ部と上記揺動スクロールのラップ部が組み合わさるように上記固定スクロールが組み付けられ、上記フレームに対して上記固定スクロールが自由に動く程度に仮組みされた被組立体の上記外筒部を保持する工程、
(b)上記固定スクロールを垂直方向及び水平方向に移動可能に保持する工程、
(c)上記固定スクロールに対して水平方向の押し付け力を作用させ、上記固定スクロールを介して上記回転軸を上記回転軸の偏心軸設置方向と逆方向に傾ける工程、
(d)上記回転軸を回転させるとともに、上記回転軸の回転位相と同期して上記固定スクロールに対する水平方向の押し付け力の位相を変化させる工程、
(e)上記固定スクロールの変位から上記固定スクロールの揺動軌跡を測定する工程、
(f)上記固定スクロールを上記フレームに対して段階的に加圧する工程、
(g)(e)における上記固定スクロールの揺動軌跡の測定値と、(f)における加圧力とから、上記固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する工程、
(h)上記固定スクロールの揺動軌跡が安定であると判定された場合、上記固定スクロールの上記フレームに対する固定位置を求める工程、
とを備えたことを特徴とするスクロール流体機械の位置決め方法。
【請求項2】
スクロール流体機械の位置決め方法であって、
(a)フレームの回転軸受に回転軸が挿入され、上記回転軸の偏心軸が揺動スクロールの偏心軸受に挿入されて上記揺動スクロールが上記フレームに組み込まれ、オルダム継手を介して固定スクロールのラップ部と上記揺動スクロールのラップ部が組み合わさるように上記固定スクロールが組み付けられ、上記フレームに対して上記固定スクロールが自由に動く程度に仮組みされた被組立体の上記フレームを保持する工程、
(b)上記固定スクロールを垂直方向及び水平方向に移動可能に保持する工程、
(c)上記固定スクロールに対して水平方向の押し付け力を作用させ、上記固定スクロールを介して上記回転軸を上記回転軸の偏心軸設置方向と逆方向に傾ける工程、
(d)上記回転軸を回転させるとともに、上記回転軸の回転位相と同期して上記固定スクロールに対する水平方向の押し付け力の位相を変化させる工程、
(e)上記固定スクロールの変位から上記固定スクロールの揺動軌跡を測定する工程、
(f)上記固定スクロールを上記フレームに対して段階的に加圧する工程、
(g)(e)における上記固定スクロールの揺動軌跡の測定値と、(f)における加圧力とから、上記固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する工程、
(h)上記固定スクロールの揺動軌跡が安定であると判定された場合、上記固定スクロールの上記フレームに対する固定位置を求める工程、
とを備えたことを特徴とするスクロール流体機械の位置決め方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスクロール流体機械の位置決め方法において、
上記固定スクロールの揺動軌跡を求める際に、上記固定スクロールを上記フレームに対して加圧する加圧力、上記回転軸の回転速度、上記固定スクロールに対する水平方向の押し付け力の位相を制御することを特徴とするスクロール流体機械の位置決め方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のスクロール流体機械の位置決め方法において、
上記(c)の工程の後に、
(k)上記固定スクロールと上記フレームの間に隙間を設ける工程、
(l)上記回転軸を回転させるとともに、上記回転軸の回転位相と同期して上記固定スクロールに対する水平方向の押し付け力の位相を変化させる工程、
(m)上記固定スクロールの水平移動量および傾きから、上記固定スクロールのラップ部と上記揺動スクロールラップ部の接触位置における揺動軌跡を計算する工程、
(n)上記固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する工程、
(o)上記固定スクロールの揺動軌跡が安定であると判定された場合、上記固定スクロールの上記フレームに対する固定位置を求める工程、
とを備えたことを特徴とするスクロール流体機械の位置決め方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のスクロール流体機械の位置決め方法において、
上記固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する場合に、当該揺動軌跡が歪みの少ない円軌跡である時に安定であると判定することを特徴とするスクロール流体機械の位置決め方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のスクロール流体機械の位置決め方法において、
上記固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する場合に、上記固定スクロールの変位の振幅や周期がほぼ一定である時に安定であると判定することを特徴とするスクロール流体機械の位置決め方法。
【請求項7】
スクロール流体機械の位置決め装置であって、
回転軸受を内在するフレームが外筒部に固定され、上記回転軸受に回転軸が挿入され、サブフレームの副軸受に上記回転軸の副軸部分が挿入され、上記サブフレームが上記外筒部に固定され、上記回転軸の偏心軸が揺動スクロールの偏心軸受に挿入されて上記揺動スクロールが上記フレームに組み込まれ、オルダム継手を介して上記固定スクロールのラップ部と上記揺動スクロールのラップ部が組み合わさるように上記固定スクロールが組み付けられ、上記フレームに対して上記固定スクロールが自由に動く程度に仮組みされた被組立体の上記外筒部を保持するワーク保持機構、
上記固定スクロールを垂直方向及び水平方向に移動可能に保持する固定スクロール保持機構、
上記回転軸を回転させる回転軸用モータ、
上記固定スクロール保持機構に対して水平方向の押し付け力を作用させる半径方向押付機構、
上記半径方向押付機構を上記回転軸の回転位相と同期して回転させる半径方向押付機構用モータ、
上記固定保持機構を介して、上記固定スクロールを上記フレームに対して加圧する垂直加圧機構、
上記固定スクロール保持機構の水平方向の変位を少なくとも2方向から計測する変位センサ、
上記変位センサの計測値から、上記固定スクロールの揺動軌跡を計算する演算部、
上記垂直方向の加圧力のデータと、上記固定スクロールの揺動軌跡から、上記固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する演算部、
上記固定スクロールの安定な揺動軌跡から、上記固定スクロールの上記フレームに対する固定位置を計算する演算部、
とを備えたことを特徴とするスクロール流体機械の位置決め装置。
【請求項8】
スクロール流体機械の位置決め装置であって、
フレームの回転軸受に回転軸が挿入され、上記回転軸の偏心軸が揺動スクロールの偏心軸受に挿入されて上記揺動スクロールが上記フレームに組み込まれ、オルダム継手を介して固定スクロールのラップ部と上記揺動スクロールのラップ部が組み合わさるように上記固定スクロールが組み付けられ、上記フレームに対して上記固定スクロールが自由に動く程度に仮組みされた被組立体の上記フレームを保持するワーク保持機構、
上記固定スクロールを垂直方向及び水平方向に移動可能に保持する固定スクロール保持機構、
上記回転軸を回転させる回転軸用モータ、
上記固定スクロール保持機構に対して水平方向の押し付け力を作用させる半径方向押付機構、
上記半径方向押付機構を上記回転軸の回転位相と同期して回転させる半径方向押付機構用モータ、
上記固定保持機構を介して、上記固定スクロールを上記フレームに対して加圧する垂直加圧機構、
上記固定スクロール保持機構の水平方向の変位を少なくとも2方向から計測する変位センサ、
上記変位センサの計測値から、上記固定スクロールの揺動軌跡を計算する演算部、
上記垂直方向の加圧力のデータと、上記固定スクロールの揺動軌跡から、上記固定スクロールの揺動軌跡の安定性を判定する演算部、
上記固定スクロールの安定な揺動軌跡から、上記固定スクロールの上記フレームに対する固定位置を計算する演算部、
とを備えたことを特徴とするスクロール流体機械の位置決め装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のスクロール流体機械の位置決め装置において、
上記固定スクロール保持機構に、上記固定スクロールと上記フレームの間に隙間を設ける機構、上記固定スクロール保持機構の傾きを計測するセンサを備え、さらに、上記固定スクロール保持機構の水平方向位置と傾きの計測値から上記固定スクロールと上記揺動スクロールの両ラップ部が接触する位置での上記固定スクロールの変位を計算する演算部を備えたことを特徴とするスクロール流体機械の位置決め装置。
【請求項10】
請求項7又は請求項8に記載のスクロール流体機械の位置決め装置において、
上記回転軸用モータをオルダム型のカップリングを介して上記回転軸に連結したことを特徴とするスクロール流体機械の位置決め装置。
【請求項11】
請求項7又は請求項8に記載のスクロール流体機械の位置決め装置において、
上記外筒部の装置本体に対する姿勢を計測する外筒部位置計測センサを備えたことを特徴とするスクロール流体機械の位置決め装置。
【請求項12】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のスクロール流体機械の位置決め方法により求められた上記固定スクロールの上記フレームに対する固定位置に、上記固定スクロールを固定することを特徴とするスクロール流体機械の組み立て方法。
【請求項13】
請求項7から請求項11のいずれか1項に記載のスクロール流体機械の位置決め装置と、上記位置決め装置により求められた上記固定スクロールの上記フレームに対する固定位置に上記固定スクロールを固定する固定スクロール固定機構を備えたことを特徴とするスクロール流体機械の組み立て装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−46563(P2007−46563A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233003(P2005−233003)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】