説明

スチレン系樹脂押出発泡体

【課題】発泡剤としての可燃性ガスを適量使用しながら気泡膜の厚みを一定以上にし熱伝導率および難燃性(特にガス燃焼)を良好なものとしたスチレン系樹脂押出発泡体を提供する。
【解決手段】気泡膜の厚みが2μm以上であり、JIS A1412−2:1999に規定された測定法において測定した熱伝導率が28w/K以下であり、JIS A9511:2006Rに規定された燃焼性の測定方法Aに合格する、スチレン系樹脂押出発泡体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性能に優れ、燃焼性、特にガス表面燃焼の問題を改善した、押出発泡によるスチレン系樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂を押出機などに添加して加熱溶融し、次に発泡剤を注入して発泡に適した温度までゲルを冷却し、これを低圧域に押出すことにより発泡体を連続的に製造する方法が知られている。また、このようにして製造された発泡体は、低熱伝導率を備えたスチレン系樹脂発泡体として知られている。
【0003】
発泡剤としては、ジクロロジフルオロメタンなどの塩素原子含有フッ素化炭化水素(以下、CFCと略す)、モノクロロジフルオロエタンなどの塩素原子を部分的に水素化した塩素原子含有フッ素化炭化水素(以下、HCFCと略す)、1,1,1,2−テトラフルオロエタンなどの分子中に塩素原子をもたないフッ素化炭化水素(以下、HFCと略す)などのフロン類が使用されてきた。
【0004】
フロン類はガスとしての熱伝導率が低く、スチレン系樹脂に対してガス透過性が低いため気泡内に長期間残留し、発泡体の熱伝導率低減に効果を発揮していた。しかし、CFCおよびHCFCの使用については、オゾン層保護の問題が懸念され、HFCはオゾン層破壊係数が0ではあるが地球温暖化係数が大きいため、地球環境の保護という点では改善の余地があった。これに対し、フロン類の代替としてプロパン、ブタン、ペンタンなどの可燃性の炭化水素が多く使われるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−237210号公報
【特許文献2】特開平10−265604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述するように、フロン類の代替としてプロパン、ブタン、ペンタンなどの可燃性の炭化水素が多く使われるようになったが、これらの炭化水素系発泡剤がガス化した際の熱伝導率は空気より低く発泡体の熱伝導率の低減に寄与する一方、これらの可燃性ガスは発泡体の耐燃焼性を悪化させる。ここで、発泡体の燃焼性試験(ここではJIS A9511:2006Rの燃焼性試験)において、発泡体の燃焼は、大きく樹脂燃焼とガス表面燃焼に大別される。樹脂燃焼は難燃剤の増量によりある程度抑えることは可能であるが、多量の可燃性ガスの使用(注入)に起因する発泡体表面のみを延焼する現象であるガス表面燃焼は、難燃剤を増量しても抑制には限界がある。すなわち、発泡体の耐燃焼性を満足し、かつ良好な熱伝導率を得られにくい問題があった。
【0007】
本発明は上述する問題に鑑みてなされたものであり、可燃性ガスを適量使用しながらも気泡膜の厚みを一定以上にすることにより、熱伝導率および難燃性(特にガス燃焼)を良好なものとしたスチレン系樹脂押出発泡体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 気泡膜の厚みが2μm以上であり、JIS A1412−2:1999に規定された測定法において測定した熱伝導率が28w/K以下であり、JIS A9511:2006Rに規定された燃焼性の測定方法Aに合格する、スチレン系樹脂押出発泡体。
【0009】
[2] 前記熱伝導率が26w/K以下である、上記[1]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0010】
[3] 放射低減剤としてグラファイト、酸化チタンおよびカーボンブラックからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、上記[1]または[2]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0011】
[4] 前記放射低減剤の添加量が、前記発泡体100重量部に対して0.1〜10重量部である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0012】
[5] 前記発泡体中の可燃性ガスの残存量が、前記発泡体100重量部に対して3〜4.5重量部である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0013】
[6] 前記発泡体100重量部に対して、難燃剤を4〜8重量部含むことを特徴とする、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【0014】
[7] 密度が30〜40Kg/m3であり、気泡径(セルサイズ)が0.1〜0.3mmである、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、例えば、熱伝導率および難燃性(特にガス燃焼)を良好なものとし、さらには従来の発泡体密度および断面を維持し優れた物性を有するスチレン系樹脂押出発泡体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
スチレン系樹脂押出発泡体
本発明に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、気泡膜の厚みが2μm以上であり、JIS A1412−2:1999に規定された測定法において測定した熱伝導率が28w/K以下であり、JIS A9511:2006Rに規定された燃焼性の測定方法Aに合格するスチレン系樹脂押出発泡体である。
【0017】
スチレン系樹脂
本発明で用いられるスチレン系樹脂は、特に限定されるものではなく、スチレン単量体のみから得られるポリスチレンホモポリマー、スチレン単量体とスチレンと共重合可能な単量体あるいはその誘導体から得られるランダム、ブロックあるいはグラフト共重合体、後臭素化ポリスチレン、ゴム強化ポリスチレンなどの変性ポリスチレンなどが挙げられる。
【0018】
スチレンと共重合可能な単量体としては、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレンジクロロスチレン、トリクロロスチレンなどのスチレン誘導体、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ジビニルベンゼンなどのビニル化合物、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、ブタジエン、アクリロニトリルなどの不飽和化合物あるいはその誘導体、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。これらは単独あるいは2種以上混合して使用することができる。スチレン系樹脂では、ポリスチレンホモポリマーが特に好ましい。
【0019】
スチレン系樹脂の重量平均分子量は、10万〜30万であり、好ましくは15万〜25万であり、より好ましくは18万〜22万である。
【0020】
発泡剤
本発明で用いられる発泡剤としては、炭素数3〜5の飽和炭化水素を1種または2種以上、また、必要に応じて他の発泡剤を使用することができる。
【0021】
炭素数3〜5の飽和炭化水素としては、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタンなどが挙げられる。炭素数3〜5の飽和炭化水素では、発泡性と発泡体の断熱性能の点からn−ブタン、i−ブタンが好ましく、特にi−ブタンが好ましい。また、炭素数3〜5の飽和炭化水素1種または2種以上の含有量が、発泡体100重量部に対して、2〜10重量部であることが好ましく、さらに好ましくは、飽和炭化水素化合物の種類によっても異なるが、プロパンでは3〜9重量部、特に好ましくは4〜8重量部、n−ブタン、i−ブタンでは2.5〜9重量部、特に好ましくは3〜8重量部、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタンでは3〜9重量部が断熱性能と難燃性の点から好ましい。
【0022】
他の発泡剤としては、特に限定されるものではないが、有機発泡剤として、例えば、塩化メチル、塩化エチルなどの塩化アルキル類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどのエーテル類、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルi−ブチルケトン、メチルn−アミルケトン、メチルn−ヘキシルケトン、エチルn−プロピルケトン、エチルn−ブチルケトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどのアルコール類、蟻酸メチルエステル、蟻酸エチルエステル、蟻酸プロピルエステル、蟻酸ブチルエステル、蟻酸アミルエステル、プロピオン酸メチルエステル、プロピオン酸エチルエステルなどのカルボン酸エステル類などを用いることができる。また、無機発泡剤として例えば二酸化炭素、水など、化学発泡剤として例えばアゾ化合物などを用いることができる。これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。これらの他の発泡剤を用いることで、良好な可塑化効果や発泡助剤効果が得られ、押出圧力を低減し、安定に発泡体の製造が可能となる。
【0023】
特に、他の発泡剤としては、発泡性、発泡体成形性などの点から、塩化メチル、塩化エチル、ジメチルエーテルが好ましい。なお、他の発泡剤は、炭素数3〜5である飽和炭化水素以外の化合物であるが、炭素数3〜5である飽和炭化水素を含まないだけでなく、炭素数2以下の飽和炭化水素や炭素数6以上の飽和炭化水素、さらには炭素数を問わず不飽和炭化水素を含まないことが好ましい。
【0024】
複数の発泡剤を添加する場合の各発泡剤の比率については、発泡剤の全重量に対して、炭素数3〜5の飽和炭化水素が20〜100重量%、好ましくは25〜100重量%、さらに好ましくは30〜100重量%である。また、他の発泡剤は、0〜80重量%、好ましくは0〜75重量%、さらに好ましくは0〜70重量%である。他の発泡剤は、発泡体の断熱性能を良好なものにするために、80重量%以下にすることが好ましい。
【0025】
発泡体を製造する際にスチレン系樹脂に添加する発泡剤の量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して6〜10重量部、好ましくは7〜9重量部、さらに好ましくは7〜8重量部である。
【0026】
本発明で用いられる発泡剤の中には可燃性のものも含まれるが、この場合、発泡体中(気泡中)に残存する可燃性ガスの量としては、発泡体100重量部に対して3〜4.5重量部であることが好ましく、3.4〜4.3重量部であることがさらに好ましい。
【0027】
難燃剤
本発明で用いられる難燃剤としては、熱可塑性樹脂に通常使用される難燃剤を特別に限定することなく使用することができ、ハロゲン系難燃剤が好ましい。例えば、ヘキサブロモシクロドデカンなどの脂肪族あるいは脂環族炭化水素の臭素化物、ヘキサブロモベンゼン、エチレンビスペンタブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、2,3−ジブロモプロピルペンタブロモフェニルエーテルなどの芳香族化合物の臭素化物、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリブロモフェノール付加物などの臭素化ビスフェノール類およびその誘導体、テトラブロモビスフェノールAポリカーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロモ化ビスフェノール付加物エポキシオリゴマーなどの臭素化ビスフェノール類誘導体オリゴマー、エチレンビステトラブロモフタルイミド、エチレンビスジブロモノルボルナンジカルボキシイミド、ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エタン、臭素化SBSブロックポリマー、臭素化アクリル系樹脂などの臭素系芳香族化合物、塩素化パラフィン、塩素化ナフタレン、パークロロペンタデカン、塩素化芳香族化合物、塩素化脂環状化合物などが挙げられる。これら化合物は単独または2種以上を混合して使用できる。
【0028】
ハロゲン系難燃剤では、難燃性の観点から臭素系難燃剤が好ましく、特にスチレン系樹脂との相溶性などの点からヘキサブロモシクロドデカン、臭素化SBSブロックポリマー、2,2−ビス(4’(2”,3”−ジブロモアルコキシ)−3’,5’−ジブロモフェニル)−プロパンが好ましい。
【0029】
発泡体中の難燃剤の含有量は、発泡体100重量部に対して、好ましくは4〜10重量部であり、さらに好ましくは4〜8重量部、特に好ましくは7〜8重量部である。4重量部未満では、本発明の目的とする難燃性が得られず、10重量部を越えると、発泡体を製造する際の成形性などを損なう場合がある。
【0030】
ハロゲン系難燃剤とともにリン酸エステルを共存させることによって、酸化チタン(放射低減剤として)を含有した燃焼性の高い場合でも、燃焼を抑制することができ、高度な断熱性を達成するとともに、JIS A9511:2006Rに規定される高度の難燃性を達成することができる。
【0031】
本発明で用いられるリン酸エステルとしては、トリフェニルフォスフェート(TPP)に限定されるものではなく、トリクレジルホスフェート、トリキシリレニルホスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、または縮合リン酸エステルとして、芳香族リン酸エステルが好ましく、特にリン酸トリフェニルが好ましい。
【0032】
本発明で使用することができる放射低減剤としては、以下に説明する酸化チタンなどの白色系顔料、グラファイトやカーボンブラックなどの黒色系顔料、その他の有色系顔料などが挙げられる。スチレン系樹脂に添加する放射低減剤の量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がさらに好ましく、0.1〜4重量部が特に好ましい。
【0033】
白色系顔料
本発明で用いられる白色系顔料としては、例えば、鉛白(塩基性炭酸鉛:(PbCO32・Pb(OH)2)、亜鉛華(酸化亜鉛)、酸化チタン、硫化亜鉛、リトポン(硫化亜鉛と硫酸バリウムとの混合物)、アンチモン白、雲母、酸化アルミニウム、アルミナホワイト、ホワイトカーボンなどが挙げられ、これらの中でも酸化チタンが好ましい。
【0034】
白色系顔料(例えば酸化チタン)の平均粒径については、特に限定されるものではないが、樹脂への発色性を考慮すれば、0.1μm〜0.5μmが好ましい(0.15μm〜0.3μmがさらに好ましい)。この範囲の平均粒径であれば、分散性や発色性がよく可視光域400〜800nm付近での白色度合いを向上させることができる。一方、近赤外線から遠赤外線領域において樹脂への赤外線吸収を抑制したい場合には、0.8μm〜1.5μmが好ましい(0.8μm〜1.0μmがさらに好ましい)。これら平均粒径の異なる白色系顔料を10重量%〜90重量%の範囲内で混合することにより、赤外線領域の反射および可視光域での白色度合いを向上させた混合酸化チタンを得ることができる。
【0035】
スチレン系樹脂に添加する白色系顔料の量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは1〜8重量部、さらに好ましくは2〜4重量部である。
【0036】
黒色系顔料
本発明で用いられる黒色顔料としては、グラファイト、カーボンブラック、クロム黒、クロム酸銅などが挙げられ、これらの中でもグラファイトやカーボンブラックが好ましい。グラファイトとしては、鱗片状黒鉛、鱗状(塊状)黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛または熱分解黒鉛などの天然黒鉛でもあってもよい。グラファイトは、固定炭素数80%以上が望ましく、90%以上がより望ましい。
【0037】
黒色系顔料の平均粒径については、特に限定されるものではないが、例えばカーボンブラックでは10〜300nm(0.01〜0.3μm)が好ましく、200〜290nm(0.2〜0.29μm)がより好ましい。また、グラファイトでは1〜30μmが好ましく、3〜15μmがより好ましい。グラファイトの平均粒径は、酸化チタンと同様に発色性および赤外線領域での赤外線吸収/反射度合いに影響を与えるため、平均粒径10μm以上とすることが好ましい。また、グラファイトの平均粒径が30μmを超えると、発泡体の気泡の連通性が増大し断熱性能を著しく低下させる。
【0038】
スチレン系樹脂に添加する黒色系顔料の量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して0.1〜2.5重量部、好ましくは0.3〜2.0重量部、さらに好ましくは0.5〜1.2重量部である。
【0039】
有色顔料
本発明で用いられる有色顔料としては、平均粒径0.5μm以下(好ましくは0.1〜0.3μm)の有機系有色顔料が好ましく、例えば青色系であればフタロシアニンブルーが好ましい。また、無機系有色顔料は平均粒径が1μm以上のものがあり、赤外線領域で波長が大きい箇所には有効な反射作用を示す。しかしながら、無機系有色顔料は有機系顔料とは異なり発色性および分散性が乏しい場合が多く、有機系顔料に比べて多く(例えば5倍以上)の添加量が必要となる場合があることに注意する必要がある。一般に、添加物の添加量が増加すれば、発泡体を成形する際に核剤として作用し気泡径を著しく縮小させたりする場合があるのであまり好ましくなく、またコストの面からも好ましくない。
【0040】
スチレン系樹脂に添加する有色顔料の量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して0.01〜0.5重量部、好ましくは0.03〜0.2重量部、さらに好ましくは0.05〜0.15重量部である。
【0041】
スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法
本発明では、スチレン系樹脂を加熱溶融し、これに発泡剤、必要に応じて放射低減剤、難燃剤などを添加し、これを押出発泡させることにより、スチレン系樹脂押出発泡体を製造することができる。例えば、主原料のスチレン系樹脂とその他種々の添加物を押出機のホッパーに投入し、発泡剤を圧入して混練した後、冷却機でゲルを均一に冷却して、ダイから大気圧下に押出発泡することで製造することができる。
【0042】
スチレン系樹脂を加熱溶融する際の溶融温度は、160〜240℃、好ましくは170〜230度、より好ましくは180〜220℃で、押出機によって固形原料を溶融混練する。また、発泡剤を圧入する際の圧力は、110〜200kg/cm2、より好ましくは120〜185kg/cm2である。押出機によって溶融された固形原料と発泡剤はミキサー(回転数:20〜40rpm、より好ましくは25〜35rpm)によって混練され、クーラーによってゆっくりと冷却される。また、ゲルを冷却し発泡するときの最適温度は、100〜130℃、より好ましくは110〜127度である。
【0043】
また、上述する白色系顔料(例えば酸化チタン)、黒色系顔料(例えばグラファイト)、有色顔料およびリン酸エステル(例えばトリフェニルフォスフェート)は、加熱溶融されたスチレン系樹脂に添加する前に、予めスチレン系樹脂とのマスターバッチとしておくことが好ましい。
【0044】
顔料のマスターバッチを製造するときには、一般的に押出機の安定性を確保するため、例えば約5%程度のステアリン酸マグネシウムなどの金属系のステアリン酸を使用する場合があるが、これらの添加は難燃性能を低下させたり、気泡径を変動させたりする場合があった。一方、トリフェニルフォスフェートの融点は49℃付近であり、発泡体の製造過程で直接押出機に投入すると、添加量0.3重量部以上では、押出機のサージングが発生したり吐出量が不安定になったりして生産性が著しく低下する場合がある。
【0045】
したがって、ステアリン酸の代替として、0.1%〜10%、望ましくは5%前後のリン酸トリフェニルを顔料の予めマスターバッチ製造過程で投入しておくことで、これら原料の配合比の均一化、ならびにトリフェニルフォスフェートの良好な添加が可能になる。また、マスターバッチ製造過程において、リン酸トリフェニルの可塑化効果によりポリスチレンの溶融性をより向上させることができ、顔料およびトリフェニルフォスフェートの各々を直接押出機に投入するよりもマスターバッチで投入した方が容易に均一分散させることが可能であり、さらに押出成形の後も安定した分散性を得ることが可能になる。
【0046】
なお、気泡径を調整する方法としては、一般にポリエチレン、タルクなどの添加、または発泡剤の添加量の増減(溶解度の影響)により調整する方法があげられる。また、発泡体の密度を調整する方法としては、一般に発泡剤の添加量または発泡温度を調整することによって行う方法があげられる。
【0047】
スチレン系樹脂押出発泡体の物性
本発明に係るスチレン系樹脂押出発泡体の密度、気泡径(セルサイズ)、気泡膜の厚み、熱伝導率、燃焼性について説明する。
【0048】
(発泡体の密度)
発泡体の密度は、スキン層を除いて計算され、発泡体の重量(Kg)を発泡体の体積(m3)で割ることで算出できる。本発明に係るスチレン系樹脂押出発泡体の密度は、20〜45Kg/m3であり、好ましくは25〜40Kg/m3であり、より好ましくは30〜39Kg/m3である。
【0049】
(発泡体の気泡径)
発泡体の気泡径は、ASTM D 3567に準拠する方法で測定され、0.1〜0.6mmであり、好ましくは0.15〜0.3mmであり、より好ましくは0.18〜0.23mmである。なお、デュアルセル構造の発泡体においては、一次気泡と二次気泡について気泡径が規定される。この場合、一次気泡径は0.2〜0.5mmであり、好ましくは0.25〜0.4mmであり、より好ましくは0.25〜0.3mmである。また、二次気泡径は0.03〜0.1mmであり、好ましくは0.05〜0.08mmである。
【0050】
(気泡膜の厚み)
気泡膜の厚みは、理論的には正六面体モデルとして計算され、発泡体の密度と気泡径(セルサイズ)と発泡体樹脂の密度から算出される。独立気泡発泡体における正六面体モデルの気泡膜の厚みの計算は理論上次式で計算される(プラスチックフォームハンドブック 昭和48年2月28日、初版発行 日刊工業新聞社 43ページ)。なお、ρsで表わされる樹脂の密度は、発泡体の製造に使用した樹脂の密度を意味し、ポリスチレンの場合には1050Kg/m3である。ポリスチレン以外の樹脂を用いる場合には、その樹脂の密度をρsとして計算式に用いる。
【0051】
【数1】

【0052】
燃焼性試験における発泡体のガス表面燃焼を改善するには難燃剤の増加だけでは解決できない。ガス表面燃焼のメカニズムは、これに限定されるわけではないが、火源が発泡体に着火するとともに、まずは気泡膜の樹脂の溶融が促進され、続いて気泡膜が溶融されるとともに気泡が破壊され気泡構造内に充填されていた可燃性ガスが大気に放出されることにより、空気中の酸素とともにガス燃焼が起こるものと考えられる。したがって気泡膜の構造が薄かったり熱に弱い構造だったりすれば、気泡膜の破壊が容易になりガス燃焼が促進されることになるものと考えられる。ガス燃焼は一般的には試験片の表層部のみに起こり火源の延焼は一瞬のうちに最上部まで達する場合もある。
【0053】
ガス燃焼の問題は、発泡体中に残存する可燃性ガス量、難燃剤の添加量や気泡膜の厚みに関係する。気泡膜は発泡体の密度および気泡径に依存する。
【0054】
難燃剤は、上述したものを使用することができるが、特にヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)を使用するのが望ましい。難燃剤の添加量は発泡体100重量部に対して10重量部を上限とし、それより多いと発泡体の成形に問題が生じる懸念があり、8重量部より多い添加ではガス燃焼および燃焼時間とも大きな差が見られない。また、4重量部より少ないと難燃性は得られない。HBCDを使用する場合には難燃助剤であるトリフェニルフォスフェート(TPP)との併用が望ましく、一例ではあるがHBCDが6.5重量部とTPPが1.0重量部の添加割合が最もよい。なお、この添加割合は、長期断熱性能維持を考慮して発泡剤である可燃性ガス(例えばイソブタン)の添加量または残存量を約3.4〜3.7重量部(発泡体100重量部に対して)としたときの最適な難燃剤処方である。その他の発泡剤(可燃性ガス)としては塩化エチルを使用し、添加量で約1.2重量部添加する。塩化エチルのガス透過率はイソブタンよりも大きく発泡体中の残存量としてはエージング日数によって大きく変わる。サンプル評価としては約7日間のエージングを基準として、それ以降では可燃性ガス量は低下し、より安全といえる。
【0055】
これらを基準としてガス燃焼の問題をクリアするための気泡膜の厚みは、約2μm以上、望ましくは2.2μm以上が望ましい。熱伝導率改善においては気泡径は小さくすべきであるが、密度一定のとき気泡が小さくなると気泡膜が薄くなりガス燃焼が著しくなる。これらに対処するには密度を増加させなければならなく経済性とのバランスが悪くなる。したがってこれらのバランスを考慮して熱伝導率およびガス燃焼を満足するように気泡径と密度の設計をしなければならない。
【0056】
前述の通り、可燃性ガスの残存量によって気泡膜の最適厚みは変わる。例えば、添加量が上記設定値よりも多いとき、または冬季養生においては雰囲気温度が低くなりガス透過率が低下するとき、これらの場合は可燃性ガスの残存量が多くなり表面ガス燃焼の問題をクリアするための気泡膜の最適厚みは上昇する。
【0057】
なお、気泡がデュアルセル構造の場合、小気泡構造の面積%(Dc小%)と大気泡構造の面積%(Dc大%)を予め算出し、上記式で算出するそれぞれの気泡膜厚み(t小とt大)の加重平均によって気泡膜の厚みを算出してもよい。以下に説明する実施例および比較例においては、デュアルセル構造の場合にはこのようにして気泡膜の厚みを算出している。
【0058】
(発泡体の熱伝導率)
発泡体の熱伝導率(w/K)は、JIS A1412−2:1999に準拠する方法で測定され、28w/K以下であり、好ましくは26w/K以下であり、より好ましくは24w/K以下である。
【0059】
(発泡体の燃焼性)
発泡体の燃焼性は、JIS A9511:2006Rに準拠する方法で測定され(測定方法Aを採用)、燃焼性の試験結果としては、残じんがないこと、消炎時間が3秒以内であること、延焼がないこと(延焼長さ0mm)を合格の基準とした。
【実施例】
【0060】
<実施例1>
重量平均分子量210,000のスチレン樹脂を主原料にして、押出機の滑剤としてステアリン酸バリウム(日油社製)0.15重量部、難燃剤の安定剤として酸化マグネシウム(神島化学社製:スターマグL−10)0.08重量部、気泡調整剤としてポリエチレン(ダウレックス2047G:Dow Chemical社製)0.5重量部、難燃剤としてヘキサブロモシクロドデカン(HBCD、アルベマールSAYTEX HP−900)を6.5重量部、難燃補助剤としてトリフェニルフォスフェート(TPP、大八化学社製)を1.0重量部、放射低減剤としてグラファイト(GA98/10:Timcal Japan社製)0.9重量部および酸化チタン(R−104:DuPont社製)3.0重量部を押出機ホッパーに投入し、発泡剤としてイソブタン3.7重量部、塩化エチル1.2重量部、二酸化炭素2.7重量部を圧入し混練した後、冷却機でゲルを均一に冷却し、ダイから大気圧下に押出発泡した。押出機出口からダイ入口までのゲル系内の圧力は現行設備の耐圧以内であり問題でなかった。実施例1で得られた発泡体の密度は発泡温度を122℃にして採取した。
【0061】
なお、押出機に仕込んだ上記全ての原料の合計重量を100重量部となるようにした。また、グラファイト、酸化チタンおよびTPPは、あらかじめスチレン樹脂のマスターバッチの形態で投入した。マスターバッチの混合濃度は、スチレン樹脂/グラファイトまたは酸化チタンを70重量%/30重量%とし、スチレン樹脂/TPPを90重量%/10重量%とした。
【0062】
<実施例2〜7、比較例1〜9>
本実施例および比較例に係る発泡体は、表1および表2に示す各原料の量、発泡温度に従い、実施例1で説明した方法に準じて作製した。なお、実施例7および比較例7に係る発泡体はデュアルセル構造であり、この製造方法としては、デュアルセル構造成形には水が不可欠であるため塩化エチルの代わりに水0.6重量部を発泡剤として使用し、その水の保持剤としてクレイ、ここではベントナイト0.14重量部とハロイサイト0.46重量部を添加した。また、水と難燃剤の反応を軽減するため既存の酸化マグネシウムに加えて安定剤としてジブチルスズマレエート0.2重量部、ハイドロタルサイト0.05重量部を添加した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
得られた発泡体の密度、気泡径、気泡膜の厚み、熱伝導率、残存ガス量および燃焼性は、以下の方法で測定した。結果を表3および4に示す。
【0066】
(密度)
発泡体(スキン層を除く)の密度は、発泡体の重量(Kg)を発泡体の体積(m3)で割ることで算出した。
【0067】
(気泡径)
発泡体の気泡径は、ASTM D 3567に準拠する方法で測定し、気泡の厚み方向、幅方向、長さ方向(それぞれ押出発泡体の各方向に対応する)のサイズの平均値とした。なお、デュアルセル構造の発泡体においては、全体の気泡の数に対する二次気泡の数の割合(%)についても表に載せた。
【0068】
(気泡膜の厚み)
気泡膜の厚みは得られた密度および気泡径から次式により算出した。なお、ρsで表わされる樹脂の密度は、発泡体の製造に使用した樹脂の密度を意味し、ポリスチレンの場合には1050Kg/m3である。ポリスチレン以外の樹脂を用いる場合には、その樹脂の密度をρsとして計算式に用いる。
【0069】
【数2】

【0070】
(熱伝導率)
発泡体の熱伝導率(w/K)は、JIS A1412−2:1999に準拠する方法で測定した。なお、本測定は発泡体を製造してから常温で1週間経過した後に行った。熱伝導率としては、28w/K以下であることを合格の基準とした。
【0071】
(残存ガス量)
発泡体の気泡中に含まれる残存ガス量は、発泡体を溶融して採取した残存ガスをガスクロマトグラフで定量分析した。なお、本分析は発泡体を製造してから常温で1週間経過した後に行った。
【0072】
(燃焼性)
発泡体の燃焼性は、JIS A9511:2006Rに準拠する方法で測定した(測定方法Aを採用)。なお、本測定は発泡体を製造してから常温で1週間経過した後に行った。まず、発泡体から厚さ約10mm、長さ約200mm、幅約25mmの試験片を5個切り出し、この試験片に着火限界指示線と燃焼限界指示線を付けた。次に、試験片の端にろうそくの炎を当てて約5秒間かけて着火限界指示線にまで炎を及ぼした後に炎を手早く後退させ、その瞬間から炎が消えるまでの時間(秒)を測定し、残じんの有無および燃焼の停止位置を確認した。
【0073】
「消炎時間」は、試験片5個を測定した後の平均値とした。また、発泡体中(気泡中)に含まれる可燃性ガスによって発泡体表面のみを延焼する現象であるガス表面燃焼に関して、燃焼限界指示線を越えて延焼した長さを「延焼長さ」として測定した。この「延焼長さ」の測定についても試験片5個を測定した後の平均値とした。
【0074】
燃焼性の試験結果としては、残じんがないこと、消炎時間が3秒以内であること、延焼がないこと(延焼長さ0mm)を合格の基準とした。
【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
実施例および比較例に係る発泡体の試験結果から明らかなように、ほぼ同量の可燃性の残存ガスが存在していても、気泡膜の厚みを2μm以上に調整することにより、可燃性ガスによって発泡体表面が延焼するのを防ぐことができる。なお、比較例8に係る発泡体は、気泡膜の厚みが2μm以上の4.02μmであり、延焼を防ぐことができているが、熱伝導率が合格基準である28w/K以下を満たしていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡膜の厚みが2μm以上であり、JIS A1412−2:1999に規定された測定法において測定した熱伝導率が28w/K以下であり、JIS A9511:2006Rに規定された燃焼性の測定方法Aに合格する、スチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項2】
前記熱伝導率が26w/K以下である、請求項1に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項3】
放射低減剤としてグラファイト、酸化チタンおよびカーボンブラックからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項4】
前記放射低減剤の添加量が、前記発泡体100重量部に対して0.1〜10重量部である、請求項1〜3のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項5】
前記発泡体中の可燃性ガスの残存量が、前記発泡体100重量部に対して3〜4.5重量部である、請求項1〜4のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項6】
前記発泡体100重量部に対して、難燃剤を4〜8重量部含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項7】
密度が30〜40Kg/m3であり、気泡径(セルサイズ)が0.1〜0.3mmである、請求項1〜6のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。

【公開番号】特開2011−46845(P2011−46845A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197068(P2009−197068)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000109196)ダウ化工株式会社 (69)
【Fターム(参考)】