説明

ステアバイワイヤシステム

【課題】電気式のバックアップ手段を有するステアバイワイヤシステムのフェールセーフ機構において、その信頼性と操作性を向上させること。
【解決手段】ステアバイワイヤシステム100の操舵力伝達機構は、プッシュプルワイヤーからなるケーブル70と、それを巻き取るケーブル巻き取り装置71と、ケーブル70の張力に基づいてギヤボックス18G′を駆動するケーブル駆動機構72と、ケーブル70の張力を制御するケーブル張力変更手段73を用いて構成されている。機械式整流器35(転舵モータ転流手段)に供給される直流電位は、スイッチSW2を用いて構成される本発明の給電電圧変更手段によって、バッテリーBT0から供給される低電位とバッテリーBT1から供給される高電位の何れかから選択される。ケーブル張力変更手段73に供給される直流電位も、本発明の給電電圧変更手段によって制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアバイワイヤシステムにおいて、主要な転舵モータ制御装置が故障した異常時に、緊急避難的に転舵輪の転舵を可能にするフェールセーフ機構に関し、特に、該フェールセーフ機構の信頼性と操作性を向上させるバックアップ手段に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアバイワイヤシステムのフェールセーフ機構にワイヤーを用いた装置構成が、下記の特許文献1に開示されている。この従来技術の特徴は、変形可能なプッシュ・プルワイヤーを用いてバックアップ手段を構成することによって、車室内のレイアウトの自由度を増すことができる点と、この構成によってステアリング軸と舵取り機構とを剛結させないことで、衝突安全性を増すことができる点にある。
しかし、この従来技術では、セルフアライニングトルクやタイヤの路面抵抗に対抗する大きな操舵力が要求されるため、異常時、即ち主要な転舵モータ制御装置が故障した時の緊急避難的な操舵操作の際に、運転者に要請される操舵負荷が大きくなり、操作性の面に問題がある。
【0003】
ステアバイワイヤシステムにおいて、この様な運転者への操舵負荷を効果的に軽減することができるフェールセーフ機構としては、下記の特許文献2に記載されているフェールセーフ機構が既に公知である。このフェールセーフ機構を採用すれば、車室内のレイアウトの自由度や衝突安全性を確保でき、また、異常時に用いられる所望のバックアップ手段においてもバッテリーが用いられるため、このバッテリーによるパワーアシストによって、更に、当該バックアップ手段の使用時における操舵ハンドルの操作性をも格段に向上させることができる。
【特許文献1】特開2006−1547(図13)
【特許文献2】特開2006−21550
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献2に記載されている転流装置を使った電気式のバックアップ手段においては、下記の問題があった。
(問題点1)バッテリーの故障によって操舵できなくなる恐れがある。
(問題点2)運転者が操舵ハンドルを速く回転させた場合に、転舵モータが脱調して操舵できなくなる恐れがある。
(問題点3)転舵輪が縁石に当接して、それ以上転舵できなくなっている場合でも、操舵ハンドルを更に回転させることができるため、運転者がその当接状態を容易には認識できないことがある。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、上記の転流装置を使った電気式のバックアップ手段を有するステアバイワイヤシステムのフェールセーフ機構において、その信頼性と操作性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、本発明の第1の手段は、車両に備えた操舵ハンドルと転舵輪とを機械的に切り離し、操舵ハンドルの操作に応じて転舵モータを駆動して転舵輪を転舵するステアバイワイヤシステムにおいて、平常時に転舵モータを駆動制御する転舵モータ制御装置と、操舵ハンドルの操舵角に応じて転舵モータへの通電状態を切り換える転舵モータ転流手段と、転舵モータ制御装置の異常時に、転舵モータ制御装置を転舵モータから電気的に切り離し、その代わりに上記の転舵モータ転流手段を転舵モータに電気的に接続する接続切替手段と、上記の転舵モータ制御装置の少なくとも異常時に、上記の転舵モータ転流手段に給電する給電手段と、上記の転舵モータ制御装置の少なくとも異常時に、操舵ハンドルに機械的に連結されて、車両の運転者の操舵力を転舵輪に機械的に伝達する操舵力伝達機構とを設け、この操舵力伝達機構によって構成される操舵力の転舵輪への伝達経路を曲げ変形可能に形成することである。
【0007】
つまり、本発明は、電気式のバックアップ手段(転舵モータ転流手段)に対して機械式のバックアップ手段(操舵力伝達機構)を追加した方式、即ち、バックアップ手段に関するハイブリッド方式の採用によって、主要な転舵モータ制御装置の異常時に有効な前述のフェールセーフ機構を構成するものである。
なお、転舵モータ制御装置の異常時に、上記の操舵力伝達機構を操舵ハンドルに機械的に連結させる手段としては、例えばクラッチなどを用いることができる。また、この様な連結手段は、電気式の手段でも油圧式の手段でもよい。
また、上記の操舵力の伝達経路の構成は、ワイヤーに限定されるものではなく、その他にも例えば、ユニバーサルジョイントや蛇腹構造のシャフトなどを用いて構成することも可能である。
【0008】
また、本発明の第2の手段は、上記の第1の手段において、上記の転舵モータ転流手段を、ブラシと整流子を有する機械的な転流装置から構成することである。
【0009】
また、本発明の第3の手段は、上記の第1の手段において、操舵ハンドルの操舵角を検出する回転角センサと、検出された操舵角に基づいてON/OFF制御される半導体スイッチとを有する電子的な転流装置から、上記の転舵モータ転流手段を構成することである。
【0010】
また、本発明の第4の手段は、上記の第1乃至第3の何れか1つの手段において、操舵ハンドルの操舵角、操舵速度、または車両の車速に応じてケーブルの張力を制御するケーブル張力制御手段を設け、更に、上記の操舵力伝達機構の伝達経路をそのケーブルを用いて構成することである。
【0011】
また、本発明の第5の手段は、上記の第1乃至第4の何れか1つの手段において、操舵ハンドルの操舵速度を検出する操舵速度検出手段と、上記の異常時に操舵速度に応じて上記の給電手段からの給電電圧を変更する給電電圧変更手段とを設け、この給電電圧変更手段によって、上記の給電電圧を操舵速度の大きさに対して単調増加させることである。
【0012】
ただし、この給電電圧変更手段を介して給電する対象は、上記の電気式のバックアップ手段(転舵モータ転流手段)でもよいし、上記のケーブル張力制御手段でもよいし、また、これら双方であってもよい。
更に、この給電電圧変更手段に接続する電源は、バッテリーに限定されるものではなく、その他にも例えば、操舵ハンドルに対する操舵操作に基づいて電力を発生させる発電機などを用いてもよい。また、この様な発電手段として、操舵反力を生成する反力モータを利用してもよい。また、これらの電源(バッテリー、発電手段)は、任意に組み合わせて使用してもよい。特に、操舵反力を生成する反力モータを上記の発電手段として用いる場合には、その発電電力に基づく給電電力は連続的に増減させることができる。
以上の本発明の手段により、前記の課題を効果的、或いは合理的に解決することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上の本発明の手段によって得られる効果は以下の通りである。
即ち、本発明の第1の手段によれば、主要な転舵モータ制御装置の異常時に有効な所望のフェールセーフ機構が、電気式のバックアップ手段(転舵モータ転流手段)に対して機械式のバックアップ手段(操舵力伝達機構)を追加したハイブリッド方式で構成されるため、このバックアップ手段の二重化によって、前述の個々のバックアップ手段の各問題点をそれぞれ相補的かつ効果的に解消することができる。
【0014】
例えば、上記の操舵力伝達機構及び連結手段によって、上記の異常時には転舵輪と操舵ハンドルとが機械的に常時確実に連結されるので、これらは互いに機械的に確実に同期して動作する。このため、上記の脱調の恐れ(問題点2)や、縁石に当接した際の運転者に対する状態伝達不良の恐れ(問題点3)などを効果的に払拭することができる。
【0015】
更に、本発明の第1の手段によれば、バッテリーの故障時にも、また、転流装置や転舵モータ等が断線などによって故障した場合などにも、操舵感が幾らか重くはなるものの、操舵力伝達機構の動作によって、必要な操舵操作を有効に継続することが可能となる。また、これらの故障がなければ、電気式のバックアップ手段(転舵モータ転流手段)によって操舵操作が効果的にアシストされるので、勿論、操舵負荷は効果的に軽減される。
【0016】
このため、本発明の第1の手段によれば、所望のフェールセーフ機構の追従性、応答性などの操作性と信頼性とを同時に効果的に確保することができる。また、本発明の第1の手段によれば、フェールセーフ機構を構成するバックアップ手段が二重化されて、個々のバックアップ手段に掛かる負荷がそれぞれ効果的に軽減されるので、これによって、個々のバックアップ手段の耐久性をも向上させることができる。また、電気式のバックアップ手段(転舵モータ転流手段)と機械式のバックアップ手段(操舵力伝達機構)の各耐久性がそれぞれ向上すれば、それによって勿論、本発明によるフェールセーフ機構の信頼性も同時に向上する。
【0017】
また、本発明の第2または第3の手段によれば、上記の転舵モータ転流手段を具体的かつ良好に構成することができる。
特に、本発明の第2の手段によれば、所望の転流装置が機械的に構成されるため、高温環境や、或いは電磁的なノイズなどが多い雑音環境においても、当該転流装置を確実に動作させることができる。
一方、本発明の第3の手段によれば、所望の転流装置を半導体チップを用いて具現することが可能となり、また、その配設位置の任意性も高くできるため、上記の転流装置の小形化や搭載性などの点で非常に有利となる。
【0018】
また、本発明の第4の手段によれば、各種の操舵状況に応じた適応制御に基づいて、ケーブルの張力を最適化することができる。例えば、フェールセーフ機構の応答性を高く維持したい場合には、ケーブルの張力を大きくすればよい。また、ケーブル自身に掛かる負荷であるケーブル張力を弱めることにより、ケーブル自身の耐久性を確保することもできる。このため、本発明の第4の手段によれば、上記の操舵力伝達機構の追従性と耐久性(寿命)を同時に確保することができる。また、ケーブルの耐久性が向上すれば、上記の操舵力伝達機構の信頼性も勿論向上する。
【0019】
また、本発明の第5の手段によれば、上記の操舵速度検出手段により運転中の操舵状態が検知できるため、そのとき転舵に必要となる電力や操舵トルクの大きさに応じて、フェールセーフ機構の応答特性を適応的に最適化することが可能となる。即ち、例えば、応答性能が低くても構わない場合には、それらの状況に応じて、給電電位を低い値に設定したり、或いはワイヤーの張力を弱めたりすることができる。
このため、本発明の第5の手段によれば、当該フェールセーフ機構の追従性や応答性を確保しつつ、更に、転舵するために必要な消費電力を効果的に節約したり、或いはケーブル自身の耐久性を確保したりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
ただし、本発明の実施形態は、以下に示す個々の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1に本実施例1のステアバイワイヤシステム10のシステム構成図を示す。ギヤボックス18Gは、以下に説明する操舵力伝達機構かまたはブラシレス直流モータ20(転舵モータ)によって駆動することができる。ラック16が挿通された筒形ハウジング18には、上記のギヤボックス18Gが取り付けられており、このギヤボックス18Gから突出したピニオンギヤ19は、ラック16と噛合している。ラック16の両端に連結された1対のタイロッド17,17は、各転舵輪50,50に連結されている。
【0022】
以下、上記の操舵力伝達機構について詳しく説明する。ギヤボックス30の下方に取り付けられたクラッチCLは、操舵ハンドル11を回転自在に支持するステアリングシャフト12の回転動作を下方のユニバーサルジョイントUJに伝達するか否かを制御するものであり、そのオン/オフ動作は電磁力または油圧により制御することができる。また、運転者が操舵ハンドル11に付与する操舵力の各転舵輪50,50への伝達経路が、多数のユニバーサルジョイントUJを連結させることにより構成されている。即ち、上記のオン/オフ動作に基づいて、ギヤボックス30とギヤボックス18Gとは、クラッチCL及びこの多数のユニバーサルジョイントUJを介して機械的に連結させることができ、この連結動作によって運転者の操舵力を、これらの操舵力伝達機構を通して各転舵輪50,50に伝達することができる。多数のユニバーサルジョイントUJの連結体の捩れ剛性は、高く構成されているので、これにより操舵操作の遊びや応答性は適度に確保されている。
【0023】
一方、ブラシレス直流モータ20の駆動力も勿論、ギヤボックス18Gに入力することができる。ブラシレス直流モータ20の回転位置は、位置センサ29によって検出されて、モータ駆動制御回路51を有する転舵モータ制御装置60に入力される。ステアリングシャフト12には、トルクセンサ33が取り付けられており、このステアリングシャフト12は、ギヤボックス30を介して反力モータ31に接続されている。この反力モータ31は、運転者の操舵操作に対して操舵反力を与えるためのトルクを発生するブラシ付き直流モータであり、転舵モータ制御装置60によって駆動制御される。位置センサ32は反力モータ31のロータの回転角を検出する。また、転舵モータ制御装置60は、反力モータ31に対する制御機能をも有しており、位置センサ32によって検出された反力モータ31のロータの回転角や、トルクセンサ33が検出した操舵トルクなどの各種の制御パラメータに基づいて、反力モータ31の駆動制御を実行する。
【0024】
これらの構成に基づいて、転舵モータ制御装置60の正常時には、モータ駆動制御回路51の出力ラインL2がモータ電源切替装置46(接続切替手段)によってブラシレス直流モータ20に接続されて、モータ駆動制御回路51によってブラシレス直流モータ20が駆動制御され、これによって各転舵輪50,50が転舵される。なお、この場合、上記のクラッチCLはオフ状態のままである。
【0025】
一方、転舵モータ制御装置60の異常時には、機械式整流器35(転舵モータ転流手段)の出力ラインL1が、モータ電源切替装置46によってブラシレス直流モータ20(転舵モータ)に接続される。この場合、転舵モータ制御装置60は、各モータ20、31の駆動制御系統から切り離され、ブラシレス直流モータ20は、機械式整流器35(請求項1の転舵モータ転流手段)によって駆動制御される。また、この時、上記のクラッチCLはオン状態に制御され、これによって、運転者がステアリングシャフト12に付与する操舵トルクは、上記の操舵力伝達機構を通して各転舵輪50,50に伝達することが可能となる。したがって、上記の操舵力伝達機構を介した操舵操作に基づく所望の転舵動作は、ブラシレス直流モータ20からの出力トルク(補助駆動力)によっても同時に効果的にアシストされる。
【0026】
以下、機械式のバックアップ手段を構成する上記の機械式整流器35(転舵モータ転流手段)を中心として、本ステアバイワイヤシステム10の操舵系の構成について詳しく説明する。
上記の機械式整流器35は、例えば図3、図4を用いて後から詳しく説明する様に、機械式に構成することができる。そして、バッテリーBTから供給される適当な直流電圧から、この機械式整流器35によって、操舵ハンドル11に対する操舵操作に応じた位相を有する3相矩形波交流電圧を生成して、ブラシレス直流モータ20に印加することができる。
【0027】
図2は、このステアバイワイヤシステム10の操舵系の機械的な構成を示す斜視図である。ステアリングシャフト12の先端には、ギヤボックス30の内部に位置するウォームホイール12Wが固定されており、このウォームホイール12Wは、反力モータ31のロータ31Rの先端に固定されたウォームギヤ31Wと噛合している。これによって、ロータ31Rと操舵ハンドル11とが互いに機械的に回転自在に連動され、例えば転舵モータ制御装置60の正常時は、転舵モータ制御装置60の反力モータ31に対する駆動制御に基づいて、操舵ハンドル11に適度な反力が与えられる。
なお、上記の出力ラインL1(図1)は、本図2に記載されている様に機械式整流器35から出ている3本(3相)の出力配線40U,40V,40Wから構成されている。
【0028】
上記の機械式整流器35の論理的な構成と、電気的な接続形態を図3に例示する。機械式整流器35の出力ラインL1(図1、図2)を構成する3相の出力配線40U,40V,40Wは、モータ電源切替装置46に備えた接点44を介して、ブラシレス直流モータ20の各相回路24U,24V,24Wに接続されており、一方、モータ駆動制御回路51の出力ラインL2を構成する出力配線55U,55V,55Wは、モータ電源切替装置46に備えた接点45を介して、ブラシレス直流モータ20の各相回路24U,24V,24Wに接続されている。
【0029】
そして、通常時には、モータ電源切替装置46に所定の作動用電力が付与されていて、接点44がOFF状態に、接点45がON状態になっている。また、転舵モータ制御装置60に異常が生じた場合には、上記の作動用電力の付与が解除されて、接点44がON状態に、接点45がOFF状態になる。
【0030】
転舵モータ制御装置60が有するモータ駆動制御回路51の3本の給電ライン52はそれぞれ、1対のFET53,FET54のプッシュプル接続によって構成されており、転舵モータ制御装置60の正常時には、転舵モータ制御装置60によって、これら6つのFETに対する周知のON/OFF制御が実行されて、ブラシレス直流モータ20(転舵モータ)が駆動制御される。
【0031】
一方、転舵モータ制御装置60の異常時には、上記の制御信号の出力が抑止されて、接点45がOFF状態に、接点44がON状態になるため、この時より、機械式整流器35は、直流電圧から3相矩形波交流電圧を生成し、ブラシレス直流モータ20に対して3相交流電流を給電する。即ち、この場合には、図2、図4の回転入力軸36Jの回転動作に同期して、図3、図4の各ブラシ41,42に接触するセグメント39U,39V,39Wが随時切り替わる。そして、この切替動作によって、ブラシレス直流モータ20の各相回路24U,24V,24Wに流される相電流が適正に変化するので、その結果、ブラシレス直流モータ20に流れるこの3相交流電流によって、各転舵輪50,50は操舵ハンドル11に追従して転舵される。
【0032】
図4は、機械式整流器35の機械的な構造を示す断面図である。本図4に示す様に、機械式整流器35は、互いに相対回転するブラシホルダ36とコンミュテータ37とを備えている。コンミュテータ37は、車両に固定されており、このコンミュテータ37には、一端有底の円筒形のカバー43と、円柱形のベース部38とがそれぞれ固定されている。ベース部38はコンミュテータ37と一体に成形しても良い。そして、このベース部38の外周面には、金属片からなるセグメント39U,セグメント39V,セグメント39Wが円周方向にこの順で3周期、合計9つのセグメントが等間隔に配設されている。合計3つのセグメント39Uは、何れも出力配線40Uに接続されている。勿論、他のセグメントも同様である。
【0033】
更に、一端有底の円筒形のブラシホルダ36の底面には、同心の回転入力軸36Jが固定されている。即ち、ブラシホルダ36の回転軸と回転入力軸36Jの回転軸とは一致しており、これらは、一体となって図2のロータ31Rの回転動作に伴って回転する。ベアリング37Jは、コンミュテータ37やそのベース部38の周りをブラシホルダ36が、上記の回転軸上で滑らかに回転するのを回転自在に支持する。カバー43の内側面には、1対の給電ブラシ41T,42Tが配設されており、これらはそれぞれ、ブラシホルダ36の外側面に固定された薄板リング状の金属リング41S,42Sに当接している。したがって、回転入力軸36Jが回転すると、金属リング41Sは給電ブラシ41Tに対して擦れながらその接触を維持しつつ回転する。
【0034】
一方、ブラシホルダ36の内部では、ブラシホルダ36の回転により、ブラシホルダ36内に固定された各ブラシ41,42が、コンミュテータ37のベース部38の外側面上に固定された各セグメント(39U,39V,39W)の周りを、これらの各セグメントに対して擦れながらその接触を維持しつつ回転する。この時、ブラシ41を構成する金属製の弾性部材41Bは、ブラシ41を構成する金属導体41Cを各セグメント(39U,39V,39W)に対して適度に押しつける働きを奏する。また、ブラシ42を構成する弾性部材42Bや金属導体42Cについても同様に作用する。
以上の機械式整流器35の機械的な構成により、1対の給電ブラシ41T,42Tの間に供給される直流電圧を、回転入力軸36Jの回転に同期した位相を有する3相矩形波交流電圧に変換して、出力配線40U,40V,40W(図1、図2の出力ラインL1)から出力することができる。
【0035】
以上のような本実施例1の構成に従えば、主要な転舵モータ制御装置60の異常時に動作させるべき所望のフェールセーフ機構を、前述の機械式のバックアップ手段(操舵力伝達機構)と上記の電気式のバックアップ手段(転舵モータ転流手段)との両立構成によって実現することができるため、この様なバックアップ手段の二重化によって、前記の個々のバックアップ手段の各問題点をそれぞれ相補的かつ効果的に解消することができる。
【0036】
また、多数のユニバーサルジョイントUJの連結体は、機械的な操舵力伝達機構を構成するものであるが、万一の衝突の際にはその衝撃によって当該連結体は折れ曲がるため、これによって、運転者に対する衝突安全性を得ることもできる。また、この連結体の曲げ変形に対する剛性は低く設定することができるので、この特性はキャビン内における操舵ハンドル11の配設位置の自由度を高めることにも効果的に寄与し得る。
【実施例2】
【0037】
図5に本実施例2のステアバイワイヤシステム100の論理的な構成図を示す。このステアバイワイヤシステム100は、先の実施例1のステアバイワイヤシステム10の変形例に相当するものであり、以下の3点が大きく異なっている。
(特徴点1)本実施例2の操舵力伝達機構は、多数のユニバーサルジョイントUJの連結体の代わりに、プッシュプルワイヤーからなるケーブル70と、それを巻き取るケーブル巻き取り装置71と、ケーブル70の張力に基づいてギヤボックス18G′を駆動するケーブル駆動機構72と、ケーブル70の張力を制御するケーブル張力変更手段73を用いて構成されている。
【0038】
(特徴点2)機械式整流器35(転舵モータ転流手段)に供給される直流電位は、スイッチSW2を用いて構成される本発明の給電電圧変更手段によって、バッテリーBT0から供給される低電位とバッテリーBT1から供給される高電位の何れかから選択される。
(特徴点3)ケーブル張力変更手段73(図6−A)に供給される直流電位も、本発明の給電電圧変更手段によって制御される。
【0039】
以下、これらの特徴点について詳しく説明する。
上記のケーブル70は、右引き用と左引き用の各金属製のワイヤーからなり、各ワイヤーの一端はそれぞれケーブル巻き取り装置71に接続されている。このため、クラッチCLがオン状態の場合には、操舵ハンドル11の回転に同期して、操舵方向に対応する何れか一方のワイヤーの一部が、このケーブル巻き取り装置71に引き込まれて巻き取られる。この動作により、ケーブル駆動機構72がケーブルの張力に基づいて回転駆動されるので、これによって、運転者の操舵力がギヤボックス18G′等を介して各転舵輪50,50に伝達される。
【0040】
図6−Aに上記のケーブル張力変更手段73の構成図を例示する。このケーブル張力変更手段73は、図5に示す様に、上記の右引き用と左引き用の各金属製のワイヤーの途中にそれぞれ1箇所ずつ設けられている。円柱形の鉄心73cの一端は、その軸方向にスライド可能に支持されている。また、その他端は、鉄製のプーリー73aに接近配置されている。
この鉄心73cは、これに巻き付けられたコイル73bに流れる電流によって効果的に磁化し得るので、その磁力によってプーリー73aを図中右向きに適度に引っ張ることが可能であり、これによって、ケーブル70の張力を可変制御することができる。このコイル73bに対する給電回路上に設けられたスイッチ46′は、上記のクラッチCLをオン状態にする際に同時にオン状態になる。
【0041】
図6−Bには、上記のケーブル張力変更手段73のコイル73bに給電するための給電回路73Bを例示する。この給電回路73Bは、スイッチSW1とバッテリーBTとの直列接続によって構成されており、本発明の給電電圧変更手段の一種と考えることができる。即ち、この給電回路73Bにより、スイッチSW1の動作に基づいて、コイル73bに対する給電電位を変更することが可能である。
転舵モータ制御装置60の異常時には発電機として作用する図5の反力モータ31が、スイッチSW1のブリッジBRに接続されているので、所定の回転速度以上の操舵操作があった場合には、抵抗R1の両端間には一定以上の電位差が生じる。したがって、その場合には、フォトカプラFVCがオン状態となり、つづいて図中のFETがオン状態となるので、バッテリーBTからコイル73bに給電することが可能となる。
【0042】
なお、スイッチSW1の制御手段として応用される上記の反力モータ31の代わりに、ステアリングシャフト12の回転に同期して回転動作するタコジェネレータなどを利用してもよい。この様なタコジェネレータは、操舵角速度センサとして、しばしばその他の一般のステアバイワイヤシステムにも搭載されていることがある。
また、上記の給電回路73Bの代わりに、図6−Cの給電回路73B′を用いてもよい。この場合には、反力モータ31から出力される発電電力が、光信号に変換されることなくブリッジBRと可変抵抗rrを介してそのままコイル73bに給電されるので、これにより、コイル73bに印加すべき給電電位は、操舵速度に応じて連続的に変化させることができる。また、可変抵抗rrの抵抗値を適当に設定することによって、操舵負荷を調整することも可能である。
【0043】
以上のようなケーブル張力変更手段73を用いれば、転舵モータ制御装置60の異常時には、運転者が操舵操作を実行したいタイミングにおいてのみ、ケーブル70の張力が高く維持される。このため、ケーブル70の耐久性を確保することができると同時に、当該操舵力伝達機構の追従性や応答性をも良好に確保することができる。
【0044】
更に、これと類似の給電電位に係わる適応制御は、図5、図7のスイッチSW2を使って、電気式のバックアップ手段(即ち、機械式整流器35)に対しても応用することができる。また、以下に説明する図7の給電電圧変更手段は、後述の実施例4(図10)においても利用されるものである。
図7に、その様な応用例を例示する。本図7は、図1のステアバイワイヤシステム10のスイッチSW2の詳細な回路図である。ここでは、ブラシ付き直流モータから成る反力モータ31が、操舵速度検出手段として用いられており、並列接続された2つのバッテリーBT0,BT1とスイッチSW2によって給電電圧変更手段が構成されている。
【0045】
より詳細には、スイッチSW2の正電位出力点p+ と同じ電位の点p2 と、点p0 と同電位の点p1 との間に、バッテリーBT0とバッテリーBT1とが互いに並列に接続されていて、図中の点p0 は所定のシャーシにアースされている。ただし、バッテリーBT0の負電極とバッテリーBT1の負電極は何れも点p1 (即ち、アース側)に接続されていて、バッテリーBT0の正電極と点p2 との間には、逆流防止用のダイオードD1が挿入されている。
【0046】
一方、バッテリーBT1の正電極と点p2 との間には、MOSFETからなる半導体スイッチFET1と逆流防止用のダイオードD2とが直列に挿入されている。そして、このダイオードD2のカソード端が点p2 と接続されており、半導体スイッチFET1のドレイン端がバッテリーBT1の正電極と接続されている。また、半導体スイッチFET1のゲート端とソース端の間にはシャント抵抗RSHが接続されている。即ち、図示する様に、シャント抵抗RSHは半導体スイッチFET1のゲート端と同電位の点p6 と、半導体スイッチFET1のソース端と同電位の点p5 との間に接続されている。
【0047】
また、光スイッチFVC1は市販のフォトボルカプラから構成されており、その受光側の受光ダイオードDbは、上記の点p5 と点p6 との間に接続配置されている。調整用の抵抗Radj1は、光スイッチFVC1を構成する発光側の発光ダイオードDaのカソード側に発光ダイオードDaに対して直列に接続されており、抵抗Radj1の他端は点p7 に、発光ダイオードDaのアノード端は点p8 にそれぞれ接続されている。この2点p7 ,p8 間には、負荷抵抗Rloadが接続されており、この2点p7 ,p8 間には、更に、この負荷抵抗Rloadに対して並列にブリッジBR1の2つの出力端子が接続されている。このブリッジBR1は、図示する様に4辺にそれぞれ1つずつ配置された4つのダイオードから構成されており、このブリッジBR1の2つの入力端子には、反力モータ31が接続されている。
【0048】
以上の様にスイッチSW2を構成すれば、転舵モータ制御装置60がシステムから切り離されて、機械式整流器35の出力ラインL1がモータ電源切替装置46によってブラシレス直流モータ20(転舵モータ)に接続されている場合(即ち、転舵モータ制御装置60の異常時)には、反力モータ31が、本願発明の操舵速度検出手段として作用する。即ち、この場合、操舵ハンドル11の回転速度が、調整用の抵抗Radj1によって設定された所定の閾値よりも大きい時に、反力モータ31が生成する電力に基づいて、発光ダイオードDaが発光し、受光ダイオードDbがその光を受けて、半導体スイッチFET1がON状態となる。これにより、バッテリーBT1の出力電位V1が、上記の正電位出力点p+ に出力される。ダイオードD1は、この時にバッテリーBT0の正電極側に電流が流れ込むことを防止するための素子である。
また、操舵ハンドル11の回転速度が上記の閾値以下の場合には、発光ダイオードDaが十分には発光しないため、半導体スイッチFET1がOFF状態となる。よって、この場合には、バッテリーBT0の出力電位V0(<V1)が上記の正電位出力点p+ に出力される。
【0049】
以上の構成によれば、転舵モータ制御装置60の異常時においても、操舵速度に見合った給電電圧を常時、機械式整流器35(転舵モータ転流手段)を経由して転舵モータ(ブラシレス直流モータ20)に印加することができる。したがって、本実施例2のステアバイワイヤシステム10を用いれば、転舵モータ制御装置に異常が生じた場合においても、該システムにおける過剰な電力消費や発熱を抑制するとともに、操舵操作に対する転舵モータの追従性能を常時確保することができる。
また、負荷抵抗Rloadの抵抗値を適当に設定することにより、操舵抵抗を適度に生成することが可能となる。
【0050】
なお、図6−Bや図7に記載の反力モータ31の代わりに、例えば前述のタコジェネレータ(操舵角速度センサ)などを用いてもよい。フォトカプラのオン電力は大きくないので、電気式のバックアップ手段と機械式のバックアップ手段の双方によるこの様な操舵角速度センサの並列的な共用も可能である。
また、この場合、図7の接続点P0 と接続点P1 との間の配線上に、図6−Cの発電手段(給電回路73B′)を直列に挿入してもよい。この様な発電作用に要する負荷によっても、操舵抵抗を適度に生成することが可能となる。また、給電回路73B′の可変抵抗rrの抵抗値を適当に設定することによって、操舵負荷を調整することも可能である。
なお、図1のバッテリーBTとバッテリーBT1とは、同一のバッテリーで構成してもよい。これらの併用的構成は任意で良く、その他にも多数考えることができる。
【実施例3】
【0051】
先の実施例2の給電回路73B(図6−B)に対する代替手段を図8に示す。この代替手段73Cは、図6−BのスイッチSW1の代わりに、操舵ハンドル11の回転角(操舵位置)に応じて切り替わるスイッチ30aを用いて構成されたものである。
【0052】
図8のスイッチ30aは、図2のギヤボックス30の中に内蔵したもので、以下の2通りの状態をとり得る。
(状態1)端子t1が端子t2に接続された状態。
この時、操舵ハンドル11の操舵位置は中立位置付近にある。
(状態2)端子t1が端子t3に接続された状態。
この時、操舵ハンドル11の操舵位置は中立位置付近にない。
【0053】
この様なスイッチをギヤボックス30に内蔵すれば、上記の2通りの状態に応じて、前述のケーブル張力変更手段73に対する給電電位を適当に変更することができる。即ち、操舵位置が中立位置付近にある場合には、当該車両は直進中であって転舵の必要性が低いと考えられるので、ケーブル張力変更手段73に対する給電電位を低電位に設定する。また、操舵位置が中立位置付近にない場合には、運転者は操舵操作中であって転舵の必要性が高いと考えられるので、ケーブル張力変更手段73に対する給電電位を高電位に設定する。
例えばこの様な給電電圧変更手段によっても、前述のケーブル張力変更手段73に対する給電状態を効果的に変更することができる。
【0054】
図9には、図8の代替手段73Cの構成例(代替手段73C′)を例示する。このスイッチ30a′は、上記の2通りの状態に応じて、図中の2つのバッテリーBTa,BTbの接続状態を並列接続にしたり直列接続にしたりするものである。即ち、上記の状態1の場合には、2つのバッテリーBTa,BTbは並列接続され、上記の状態2の場合には、2つのバッテリーBTa,BTbは直列接続される。
なお、勿論、バッテリーBTbの負電極側に接続されているマイナス側の出力端子(−)を図6−Aのケーブル張力変更手段73のスイッチ46′に接続する。
【実施例4】
【0055】
先の実施例2の給電回路73B(図6−B)に対するその他の代替手段を図10に示す。この代替手段73Dは、図7のスイッチSW2と図8のスイッチ30aとを組み合わせて構成したものである。即ち、スイッチ30aの端子t2は、バッテリーBT0の正電極に接続されており、スイッチ30aの端子t3は、バッテリーBT1の正電極に接続されている。また、スイッチ30aの端子t1は、逆流防止用のダイオードD3を介して正電位出力点p+ に接続されている。勿論、この正電位出力点p+ は、図6−Aのケーブル張力変更手段73のプラス端子(+)に接続する。
【0056】
この様な構成に従えば、以下の何れの条件が成立した場合にも、ケーブル70の張力を十分かつ確実に得ることができるため、機械式のバックアップ手段(図5の操舵力伝達機構)に基づく操舵操作の操作性や追従性を確実に向上させることができる。
(条件1)操舵ハンドル11が中立位置にない。
(条件2)操舵ハンドル11の回転速度が所定値以上ある。
【実施例5】
【0057】
先の実施例2の給電回路73B(図6−B)に対するその他の代替手段を図11に示す。この代替手段73Eは、車速によってオン/オフ動作するスイッチと、図8のスイッチ30aとを組み合わせて構成したものである。即ち、比較器(オペアンプ81)のマイナス側の入力端子(−)には、車速表示装置80に入力される入力信号(車速計用電圧)が並列に入力される。一方、オペアンプ81のプラス側の入力端子(+)には、車速の高低を判定するための閾値電圧(切替基準電圧)が入力される。
【0058】
このため、車速が所定の閾値以下の場合には、フォトカプラFVCがオン状態となり、つづいてFETがオン状態となるので、この場合には、操舵ハンドル11の操舵位置に係わらず、出力側の端子t1を高電位に維持することができる。
したがって、この代替手段73Eを用いれば、極低速時や据え切り時の場合などに、操舵ハンドル11の操舵位置に係わらず、図5のケーブル70の張力を確実に高く維持することができる。
また、車速が所定の閾値以上の場合には、FETがオフ状態となるので、この場合には、先の実施例3と同等の作用・効果を得ることができる。
【実施例6】
【0059】
以上の各実施例においては、操舵ハンドル11の操舵角に応じて転舵モータ(ブラシレス直流モータ20)への通電状態を切り換える転舵モータ転流手段を、前述の機械式整流器35により構成していたが、この様な転舵モータ転流手段は、例えば、小さな半導体チップなどを用いて、電子式に構成することもできる。本実施例6では、その様な転舵モータ転流手段の構成例について例示する。
【0060】
図12に、半導体スイッチAとインクリメンタル・エンコーダIEとを有する本実施例6の電子的な転流装置の制御ブロック図を示す。この半導体スイッチAは、通電状態を切り換える上記の転舵モータ転流手段を、半導体インバータなどを用いて電子式に構成したものである。
また、本実施例6の操舵系の構成は、図1に示した実施例1の操舵系の構成を変更したもので、ステアリングシャフト12の途中には、ギヤボックスGBを介してインクリメンタル・エンコーダIEが配設されている。勿論、インクリメンタル・エンコーダIEの回転角の大きさは、このギヤボックスGBの作用により、ステアリングシャフト12の回転角の大きさに比例する。また、機械式整流器35が配設されていた位置には、その代わりに、以前にも言及のあったタコジェネレータTGが配設されている。
以上の構成に基づいて、前述の各実施例における機械式整流器35(本願発明の転舵モータ転流手段)の動作は、上記のインクリメンタル・エンコーダIEと半導体スイッチAによって代替的に実現することができる。
【0061】
以下に、上記の半導体スイッチAに係わる装置構成や動作について詳しく説明する。
インクリメンタル・エンコーダIEは、ギヤボックスGBの回転出力軸の基準位置からの回転角(機械角)が60°進む毎に+1を出力し、逆に60°逆周りする毎に−1を出力する。即ち、インクリメンタル・エンコーダIEは、ギヤボックスGBの回転出力軸の機械角を1/6回転単位に計測し、1単位以上の角度変化が見られない間は、0を出力する。インクリメンタル・エンコーダIEの出力信号Sは、これらの検出結果(−1,0,+1)の出力列から構成される。
ただし、上記の1単位は60°である必要はなく、この角度はその他の任意の角度でも良い。
【0062】
6進カウンタ回路CCは、インクリメンタル・エンコーダIEから得られる値(−1,0,+1)を随時6進カウンタ上に足し込む。この結果、6進カウンタ回路CCには、ギヤボックスGBの回転出力軸の1/6回転を1単位とする回転角(機械角)がカウントされる。以下、この6進カウンタ回路CC上でカウントされる6進数の下一桁をフェーズFと言う。
図12の通電パターンテーブルTB1には、このフェーズFと図12の各トランジスタの制御パターンとの関係が以下の表1の様に規定されている。
【0063】
【表1】

即ち、図12の6つのトランジスタは、図3のモータ駆動制御回路51と略同様の構成を有しており、これらの各トランジスタのベース電圧を、上記の表1にしたがってON/OFF制御することによって、3相矩形波交流電圧を生成することができる。
【0064】
以上の様な構成にしたがって、このインクリメンタル・エンコーダIEの出力パルスに基づいてON/OFF制御される6つのトランジスタ(半導体スイッチ)を有する半導体スイッチAから本発明の転舵モータ転流手段を構成することができる。
そして、この様な構成に従えば、3相交流を生成する周知の最も簡単な構造のインバータに用いられる半導体回路と略同様の半導体回路を用いて、上記の出力信号Sに基づいて制御される半導体スイッチを有する電子的な転流装置(即ち、上記の転舵モータ転流手段)を簡単かつより小形に構成することができる。
【0065】
〔その他の変形例〕
本発明の実施形態は、上記の形態に限定されるものではなく、その他にも以下に例示される様な変形を行っても良い。この様な変形や応用によっても、本発明の作用に基づいて本発明の効果を得ることができる。
(変形例1)
例えば、上記の実施例1では、多数のユニバーサルジョイントUJを用いて、操舵力伝達機構を構成したが、ユニバーサルジョイントによって屈曲連結されるべき接合点の数は、例えば2点程度であってもよい。この様な構成によっても、衝突安全性や室内レイアウトの自由度を十分に確保することは可能である。また、この様な操舵力伝達機構は、蛇腹構造のシャフトなどを用いて構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、ステアバイワイヤシステムにおいて、主要な転舵モータ制御装置が故障した異常時に、緊急避難的に運転者の操舵操作をアシストするフェールセーフ機構に関し、特に、該フェールセーフ機構の信頼性と操作性を向上させるのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1のステアバイワイヤシステム10のシステム構成図
【図2】ステアバイワイヤシステム10の操舵系の装置構成を例示する斜視図
【図3】ブラシレス直流モータ20(転舵モータ)の3相電流の制御回路の回路図
【図4】機械式転流装置35のハードウェア構成を例示する断面図
【図5】実施例2のステアバイワイヤシステム100のシステム構成図
【図6−A】ケーブル張力変更手段73の構成図
【図6−B】給電回路73Bの回路図
【図6−C】給電回路73B′の回路図
【図7】給電電圧を制御するための給電電圧変更手段の回路図
【図8】給電回路73Bの代替手段73Cの概念図(実施例3)
【図9】代替手段73Cの構成例を例示する回路図
【図10】代替手段73Dの構成例を例示する回路図(実施例4)
【図11】代替手段73Eの構成例を例示する回路図(実施例5)
【図12】実施例6の半導体スイッチA(電子式転流手段)の回路図
【符号の説明】
【0068】
18G: ギヤボックス
20 : ブラシレス直流モータ(転舵モータ)
30 : ギヤボックス
CL : クラッチ
71 : ケーブル巻き取り装置
72 : ケーブル駆動機構
73 : ケーブル張力変更手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備えた操舵ハンドルと転舵輪とを機械的に切り離し、前記操舵ハンドルの操作に応じて転舵モータを駆動して前記転舵輪を転舵するステアバイワイヤシステムにおいて、
平常時に前記転舵モータを駆動制御する転舵モータ制御装置と、
前記操舵ハンドルの操舵角に応じて前記転舵モータへの通電状態を切り換える転舵モータ転流手段と、
前記転舵モータ制御装置の異常時に、前記転舵モータ制御装置を前記転舵モータから電気的に切り離し、その代わりに前記転舵モータ転流手段を前記転舵モータに電気的に接続する接続切替手段と、
前記転舵モータ制御装置の少なくとも異常時に、前記転舵モータ転流手段に給電する給電手段と、
前記転舵モータ制御装置の少なくとも異常時に、前記操舵ハンドルに機械的に連結されて、前記車両の運転者の操舵力を前記転舵輪に機械的に伝達する操舵力伝達機構と
を有し、
前記操舵力伝達機構によって構成される、前記操舵力の前記転舵輪への伝達経路は、曲げ変形可能に形成されている
ことを特徴とするステアバイワイヤシステム。
【請求項2】
前記転舵モータ転流手段は、
ブラシと整流子を有する機械的な転流装置から構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のステアバイワイヤシステム。
【請求項3】
前記転舵モータ転流手段は、
前記操舵ハンドルの操舵角を検出する回転角センサと、
検出された前記操舵角に基づいてON/OFF制御される半導体スイッチと
を有する電子的な転流装置から構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のステアバイワイヤシステム。
【請求項4】
前記操舵ハンドルの操舵角、操舵速度、または前記車両の車速に応じて、ケーブルの張力を制御するケーブル張力制御手段を有し、
前記操舵力伝達機構の前記伝達経路は、前記ケーブルを用いて構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のステアバイワイヤシステム。
【請求項5】
前記操舵ハンドルの操舵速度を検出する操舵速度検出手段と、
前記異常時に、前記操舵速度に応じて、前記給電手段からの給電電圧を変更する給電電圧変更手段と
を有し、
前記給電電圧変更手段は、
前記操舵速度の大きさに対して前記給電電圧を単調増加させる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のステアバイワイヤシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6−A】
image rotate

【図6−B】
image rotate

【図6−C】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−24025(P2008−24025A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195395(P2006−195395)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】