説明

ステアリングホイール

【課題】外観や、触り心地、風合い等の品質を損なうことなく、ユーザの心電図信号などの電気信号を適切に取得可能なステアリングホイールを提供すること。
【解決手段】環状の支持部材と、前記支持部材上に形成され、周方向への通電性を有する第1導電層と、前記第1導電層を被覆する表皮層とを有するリム部を備えるステアリングホイールであって、前記第1導電層と前記表皮層との間に、前記第1導電層と前記表皮層との積層方向に通電性を有する第2導電層を備えることを特徴とするステアリングホイールを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の操舵を行なうためのステアリングホイールのリム部は、通常、ステアリング心材上に、ウレタン樹脂などから構成される発泡体層を形成し、発泡体層を、本革材などからなる表皮層で被覆することにより形成されている。たとえば、特許文献1では、このようなステアリングホイールにおいて、リム部を構成する発泡体層と表皮層との間に、導電層を設け、該導電層に通電して発熱させることで、ステアリングホイールのリム部を加熱可能なものとする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−512881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、ステアリングホイールのリム部を介して、ユーザの心電図信号などの各種生体信号を、表皮層から、発泡体層と表皮層との間に形成された導電層を介して取得しようとした場合、上記従来技術においては、次のような問題がある。すなわち、表皮層を構成する本皮材は、コラーゲン繊維に起因する凹凸があるため、表皮層と導電層との間に空隙部が生じてしまい、該空隙部の影響により、表皮層と導電層との間の接触が充分に確保されず、そのため、抵抗が高くなってしまい、表皮層から導電層に伝達される電気信号の信号強度が劣化してしまうという問題がある。
【0005】
また、このような問題に対して、たとえば、本皮材の代わりに、金属材料を用いる方法も考えられるが、ステアリングホイールのリム部を金属材料で形成すると、外観や触り心地、風合いが損なわれるという問題や、車両が炎天下中に長時間放置された場合に、リム部の温度が大きく上昇してしまい、リム部に触れることができなくなってしまうという問題がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、外観や、触り心地、風合い等の品質を損なうことなく、ユーザの心電図信号などの電気信号を適切に取得可能なステアリングホイールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、環状の支持部材上に、周方向への通電性を有する第1導電層と、第1導電層を被覆する表皮層とを有するリム部を備えるステアリングホイールにおいて、第1導電層と表皮層との間に、これらの積層方向に通電性を有する第2導電層を設けることにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1導電層と表皮層との積層方向に通電性を有する第2導電層を形成することにより、表皮層と、第1導電層との間の接触抵抗を低減することができるため、表皮層から、第1導電層を介して、ユーザの心電図信号などの電気信号を取得する際における、表皮層から第1導電層に伝達される電気信号の信号強度を良好なものとすることができ、これにより、ユーザの心電図信号などの電気信号を適切に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本実施形態に係るステアリングホイールを示す図である。
【図2】図2は、図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図3は、図2のA部分を拡大して示した拡大断面図である。
【図4】図4は、従来のステアリングホイールを示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施例における信号強度の測定方法を説明するための図である。
【図6】図6は、本発明の実施例および比較例における周波数と信号強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係るステアリングホイール1を示す図である。図1に示すように、ステアリングホイール1は、ボス部2と、リング状のリム部4とが、3本のスポーク部3で連結されることにより構成されている。本実施形態のステアリングホイール1は、車両等の各種移動体に備えられ、不図示のステアリングシャフトを介して、車輪に操舵力を伝達するための、操舵用の把持部として用いられる。以下においては、本実施形態のステアリングホイール1が、車両の操舵用の把持部として用いられる場合を例示して、説明を行なう。
【0012】
図2に、ステアリングホイール1のリム部4のII−II線に沿う断面図を、図3に、図2のA部分を拡大して示した拡大断面図を、それぞれ示す。なお、図2、図3は、リム部4の断面を模式的に表す図であり、たとえば、各層の実際の厚みを必ずしも反映したものではない。図2に示すように、リム部4は、中空の円環状のステアリング心材41の周囲に、発泡体層42、第1導電層43、第2導電層44、および表皮層45が、それぞれ形成されてなる。
【0013】
ステアリング心材41としては、特に限定されないが、たとえば、一般的な鉄心材などを用いることができる。
【0014】
発泡体層42としては、特に限定されないが、たとえば、一般的な発泡ウレタンなどで構成することができる。
【0015】
第1導電層43は、ステアリングホイール1のリム部4の周方向への通電性を有する層である。この第1導電層43は、後述するように、表皮層45から第2導電層44を介して第1導電層43に伝達された電気信号を、リム部4の周方向に伝達し、第1導電層43と電気的に接続された検出器(不図示)に取得させる機能を有する。なお、表皮層45から第1導電層44を介して第1導電層43により伝達される電気信号としては、たとえば、ユーザの心電図信号などの各種生体信号などが挙げられる。
【0016】
第1導電層43としては、リム部4の周方向、すなわち、第1導電層43の厚み方向と垂直な方向への通電性を発現する材料で構成すればよく、特に限定さないが、たとえば、金属線(たとえば、ヒーター線に用いられる金属線)や、金属線の織布、樹脂織布の心材に金属コートを施してなる導電性のテープ、金属ペーストの塗装物などで構成することができる。
【0017】
表皮層45は、リム部4の最外層を構成する層であり、その表面を、ユーザの手が直接触れることとなるため、表皮層45は、触り心地や、風合いのよい材料で構成されることが好ましい。表皮層45を構成する具体的な材料としては、たとえば、牛革、馬革、豚革等の本革や、樹脂層と繊維質基材とからなる合成皮革などが挙げられる。
【0018】
合成皮革の具体例としては、たとえば、繊維基材として両面編組織を有する緯編布を用い、かつ、繊維基材表面に、ポリウレタン樹脂接着層を介して、シリコーン変性無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなるポリウレタン樹脂表皮層を積層したものや、基布表面上に、ウレタン系接着層及びポリウレタン表皮層を順次積層し、該基布が表面に起毛を有するメリヤスを用いたもの、さらには、グランド糸と起毛糸とがポリエステルマルチフィラメント糸からなり、起毛丸編地の起毛面側に、ポリウレタン接着層、及びポリウレタン表皮層が順次積層されたもの等が挙げられる。
【0019】
表皮層45を構成する材料の厚みは、特に限定はされないが、0.5〜3.0mm程度であることが好ましい。
【0020】
また、表皮層45は、その外観が佳麗になることから、ユーザの手が触れる表面側は、通常の目止め処理に加えて、バフ研磨等により平滑化処理が施されたものであることが好ましい。
【0021】
第2導電層44は、図2、図3に示すように、第1導電層43と表皮層45との間に形成され、第1導電層43と表皮層45との積層方向への通電性を有する層である。ここで、表皮層45は、上述したように本革や、合成皮革で形成されるため、図3に示すように、コラーゲン繊維や繊維質基材に起因する凹凸により、内面(第1導電層43側の面)が凹凸形状を有するものとなる。これに対し、本実施形態では、第1導電層43と表皮層45との間に、これらの積層方向への通電性を有する第2導電層44を設けることで、この凹凸形状によって、第1導電層43と表皮層45との接触点が少なくなることに起因する、第1導電層43と表皮層45との間の接触抵抗を低減させるものである。
【0022】
特に、従来のように、第2導電層44を形成しない場合には、図4に示すように、表皮層45を構成する本皮や、合成皮革のコラーゲン繊維や繊維質基材に起因する凹凸により、第1導電層43と表皮層45との間に空隙200が形成され、第1導電層43と表皮層45との接触点が少なくなってしまい、第1導電層43と表皮層45との間の接触抵が高くなってしまうという問題があった。これに対し、本実施形態においては、第1導電層43と表皮層45との間に、第2導電層44を形成することにより、上記問題を有効に解決するものである。ここで、図4は、従来のステアリングホイールを示す図であり、具体的には、従来のステアリングホイールの、図3に示す拡大断面図に相当する図である。
【0023】
第2導電層44を構成する材料としては、特に限定されないが、樹脂材料が好ましく用いられる。
【0024】
樹脂材料としては、例えば、ナイロン66などの脂肪族ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)およびそれらを組み合わせた樹脂等を例示することができる。
【0025】
これらの樹脂のなかでもポリエステルが流通性、機械的強度等の点からも適しており、コストパフォーマンスも高い。ポリエステルとしては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンイソフタレート(PBI)、ポリε−カプロラクトン(PCL)等のほか、PETのエチレングリコール成分を他の異なるグリコール成分で置換したもの(たとえば、ポリヘキサメチレンテレフタレート(PHT))、さらには、テレフタル酸成分を他の異なる2塩基酸成分で置換したもの(ポリヘキサメチレンイソフタレート(PHI)、ポリヘキサメチレンナフタレート(PHN))等が挙げられる。また、これらポリエステルを構成ユニットとして有する共重合ポリエステル、例えば、PBTとポリテトラメチレングリコール(PTMG)とのブロック共重合体、PETとPEIとの共重合体、PBTとPBIとの共重合体、PBTとPCLとの共重合体など、主たる繰返し単位がポリエステルからなる共重合体であってもよい。
この他、ポリアクリロニトリルなどを単独で、あるいは上述した各樹脂と混合して用いたものや、塩化ビニル、酢酸ビニルなどの単独の成分、およびこれらの重合体、共重合体や、置換体としてのポリビニルアルコール系ポリマーを用いることもできる。
【0026】
これら樹脂材料の重合度は、特に限定されないが、得られるステアリングホイール1の機械的特性や寸法安定性等を考慮すると、重量平均分子量(Mw)が、10,000〜1,000,000の範囲のものが好ましい。高重合度のものを用いると、強度、耐湿熱性等の点で優れるので好ましいが、製造コストなどの観点より、樹脂材料の重合度は、重量平均分子量(Mw)で、50,000〜100,000の範囲のものがより好ましい。重量平均分子量(Mw)が10,000以下では、樹脂材料の粘度が低くなりすぎてしまい、第2導電層44を形成する際に、表面が均質になりにくく、結果として、第2導電層44を形成することによる、接触抵抗の低減効果が低くなるおそれがある。一方、重量平均分子量(Mw)が1,000,000以上では、逆に粘度が高くなりすぎてしまい、これにより、第2導電層44を形成する際に、ムラになりやすくなったり、ステアリングホイール1を構成する表皮層45の風合い上、硬くなり過ぎる場合がある。
【0027】
なお、本実施形態においては、第2導電層44を構成する材料として、上述した各種樹脂に代えて、あるいは、上述した各種樹脂とともに、導電性高分子を用いることが好ましい。導電性高分子を用いることで、第2導電層44の導電性を向上させることができ、これにより、第1導電層43と表皮層45との間の接触抵抗のさらなる低減が可能となる。また、導電性高分子を用いることで、第2導電層44が高い導電性を有することとなり、表皮層45から第1導電層43に伝達される、ユーザの心電図信号などの各種生体信号を、より高い信号強度で伝達させることができる。
【0028】
導電性高分子としては、電子伝導性を有する高分子材料であればよく、特に限定されないが、たとえば、アセチレン系高分子、複素5員環系高分子、フェニレン系高分子、アニリン系高分子やこれらの共重合体、またはこれらの誘導体、さらには、ポリフェニレンビニレン;ポリチオフェンビニレン;ポリペリナフタレン;ポリアントラセン;ポリナフタレン;ポリピレン;ポリアズレンなどが挙げられる。
【0029】
アセチレン系高分子としては、下記式(1)〜(5)に示す基本骨格を有するものが挙げられる。
【化1】

上記式(1)〜(5)中、nは重合数を表し、その数は特に限定されない。また、上記式(2)、(3)中、R、R、およびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状のアルキル基、または炭素数6〜18、好ましくは炭素数6〜12のアリール基を示す。
【0030】
上記式(1)〜(5)に示す基本骨格を有するアセチレン系高分子の具体例としては、ポリアセチレン、ポリメチルアセチレン、ポリフェニルアセチレン、ポリフルオロアセチレン、ポリブチルアセチレン、ポリメチルフェニルアセチレンなどが挙げられる。
【0031】
複素5員環系高分子としては、下記式(6)、(7)に示す基本骨格を有するピロール系高分子、下記式(8)〜(11)に示す基本骨格を有するチオフェン系高分子、下記式(12)に示す基本骨格を有するイソチアナフテン系高分子が挙げられる。
【化2】

【化3】

上記式(6)〜(12)中、nは重合数を表し、その数は特に限定されない。また、上記式(7)、(9)、(10)中、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状のアルキル基を示す。
【0032】
また、フェニレン系高分子としては、下記式(13)〜(15)に示す基本骨格を有するものが挙げられる。
【化4】

上記式(13)〜(15)中、nは重合数を表し、その数は特に限定されない。
【0033】
さらに、アニリン系高分子としては、下記式(16)、(17)に示す基本骨格を有するものが挙げられる。
【化5】

上記式(16)、(17)中、nは重合数を表し、その数は特に限定されない。また、上記式(17)中、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状のアルキル基を示す。
【0034】
上記各式において、炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基、およびシクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状アルキル基などが挙げられる。炭素数6〜18のアリール基としては、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o−,m−若しくはp−トリル基、2,3−若しくは2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基およびピレニル基などが挙げられる。
【0035】
導電性高分子のより具体的な例としては、ポリアセチレン、ポリメチルアセチレン、ポリフェニルアセチレン、ポリフルオロアセチレン、ポリブチルアセチレン、ポリメチルフェニルアセチレンなどのポリアセチレン系高分子;ポリオルソフェニレン、ポリメタフェニレン、ポリパラフェニレンなどのポリフェニレン系高分子;ポリピロール、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−ドデシルピロール)、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(N−ドデシルピロール)、ポリ(N−メチル−3−メチルピロール)、ポリ(N−エチル−3−ドデシルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)などのポリピロール系高分子;ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジエチルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などのポリチオフェン系高分子;ポリフラン;ポリセレノフェン;ポリイソチアナフテン;ポリフェニレンスルフィド;ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(2−エチルアニリン)、ポリ(2,6−ジメチルアニリン)などのポリアニリン系高分子;ポリパラフェニレンビニレンなどのポリフェニレンビニレン;ポリチオフェンビニレン;ポリペリナフタレン;ポリアントラセン;ポリナフタレン;ポリピレン;ポリアズレン;またはこれらの誘導体が好ましく挙げられる。
なお、これら導電性高分子には、ドーパントが含まれてもよく、ドーパントとしては、使用する導電性高分子の種類などによって適宜選択される。
【0036】
これらのなかでも、ポリピロール、ポリアニリン、およびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選択された一つのモノマーを重合した高分子に、ポリ(4−スチレンサルフォネート)をドープしたもの(たとえば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)にポリ(4−スチレンサルフォネート)(PSS)をドープしたPEDTOT/PSS)、および、ポリパラフェニレンビニレンからなる群から選択された導電性高分子、ならびに、これらの誘導体から選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。導電性高分子は単独でもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本実施形態に係るリム部4の製造方法としては特に限定されないが、たとえば、ステアリング心材41に、発泡体層42を形成し、この発泡体層42上に、第1導電層43を形成し、この第1導電層43を、第1導電層43と対向することとなる面に第2導電層44を形成した表皮材料(表皮層45を形成することとなる材料)で、被覆することにより、第2導電層44および表皮層45を形成することにより、製造することができる。
【0038】
第2導電層44を、表皮層45を構成することとなる表皮材料の第1導電層43と対向することとなる面に形成する方法としては、特に限定されないが、第2導電層44を形成することとなる樹脂材料または導電性高分子を、含浸または塗布する方法が挙げられる。含浸または塗布により、第2導電層44を形成することにより、表皮材料の第1導電層43と対向することとなる面の凹凸を適切に解消することができ、これにより、表皮層45と第1導電層43との積層方向における、接触抵抗を効率的に低下させることができる。そして、その結果として、表皮層45から第1導電層43に伝達される、ユーザの心電図信号などの各種生体信号を、より高い信号強度で伝達させることができる。また、含浸または塗布により、第2導電層44を形成することにより、第2導電層44を比較的容易に形成することができ、製造コストの低減が可能となる。
【0039】
表皮層45を形成することとなる表皮材料に、第2導電層44を形成することとなる樹脂材料または導電性高分子を、含浸または塗布する際には、これら樹脂材料または導電性高分子を、溶媒に溶解して混合溶液とし、混合溶液の状態で、含浸または塗布を行い、その後、溶媒を除去する方法が、効率がよく安価であるため、好ましい。この場合に用いる溶媒としては、たとえば、水、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒やグリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類、およびこれらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物、さらにはこれら溶媒同士、あるいはこれら溶媒と水との混合物などが挙げられる。これらの中でも、水やDMSO、エチレングリコール等がコスト、回収性等の工程通過性の点で最も好適である。
【0040】
混合溶液中の樹脂材料または導電性高分子の濃度は、これらの組成や重合度、あるいは使用する溶媒の種類によって異なるが、混合溶液全体100重量部に対し、1〜10重量部の範囲であることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、混合溶液には、必要に応じて、難燃剤、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの各種添加剤が含有されていてもよく、これら添加剤は、一種単独で、あるいは二種以上を併用して用いることができる。
【0041】
混合溶液の粘度は、500mPa・s以上、10,000mPa・s以下であることが好ましく、さらに好ましくは1,000mPa・s以上、5,000mPa・s以下であることが好ましい。混合溶液の粘度を上記範囲に制御することで、含浸または塗布を容易に行なうことが可能となる。混合溶液の粘度が低すぎると、表皮材料表面の凹凸を埋めることができず、そのため、表皮層45と第1導電層43との積層方向における、接触抵抗の低下効果を得ることができない場合がある。一方、混合溶液の粘度が高すぎると、表皮材料表面の凹凸をより大きくしてしまい、そのため、表皮層45と第1導電層43との積層方向における、接触抵抗の低下効果を得ることができない場合がある。
【0042】
上記方法に従い、第2導電層44を、表皮層45を形成することとなる表皮材料の第1導電層43と対向することとなる面に形成した後、第2導電層44を形成した表皮材料について、熱処理を行なってもよい。この場合における熱処理温度は、通常、100℃以上であり、好ましくは110℃〜250℃である。第2導電層44を形成した表皮材料について、熱処理を行なうことにより、第2導電層44と、表皮層45との間の界面状態を改善することができ、これにより、接触抵抗の低下効果をさらに高めることができる。その一方で、熱処理温度が低すぎると、接触抵抗の低下効果が不十分となる場合があり、また、熱処理温度が高すぎると、第2導電層44表面に、融解が生じてしまい、これにより、第2導電層44の力学物性が低下する場合がある。
【0043】
また、第2導電層44の厚みは、表皮層45(表皮層45を構成することとなる表皮材料)の厚みの1〜40%の厚みとすることが好ましい。なお、第2導電層44の厚みは、たとえば、第2導電層44を形成する前の表皮層45(表皮層45を構成することとなる表皮材料)の厚みと、第2導電層44を形成した後の厚みとを測定することで求めることができる。第2導電層44の厚みを上記範囲とすることにより、第1導電層43と表皮層45との間の接触抵抗の低減効果を良好なものとすることができる。第2導電層44の厚みが薄すぎると、第2導電層44を形成した効果が得難くなる傾向にある。一方、第2導電層44の厚みが厚すぎると、第2導電層44が抵抗体として作用してしまい、表皮層45から第1導電層43に伝達される、ユーザの心電図信号などの各種生体信号の信号強度が低下してしまうおそれがある。また、第2導電層44の厚みが厚すぎると、得られる表皮層45が硬くなってしまい、リブ部4の触感や、風合いが損なわれるおそれもある。
【0044】
本実施形態によれば、第1導電層43と表皮層45との間に、積層方向への通電性を有する第2導電層44を形成するため、第1導電層43と表皮層45との間の接触抵抗を低減させることができる。そして、本実施形態によれば、第1導電層43と表皮層45との間の接触抵抗を低減させることにより、第1導電層43を介して、ユーザの心電図信号などの各種生体信号などの電気信号を取得する際における、表皮層45から第1導電層43に伝達される電気信号の信号強度を良好なものとすることができ、これにより、ユーザの心電図信号などの各種生体信号などの電気信号を適切に取得することができる。特に、本実施形態によれば、外観や、触り心地、風合い等の品質を確保するために、表皮層45を、本革や、合成皮革で形成した場合でも、コラーゲン繊維や繊維質基材に起因する凹凸により、第1導電層43と表皮層45との接触点が少なくなることに起因する、第1導電層43と表皮層45との間の接触抵抗を低減させることができ、その結果として、表皮層45から第1導電層43に伝達される電気信号の信号強度を良好なものとし、これにより、ユーザの心電図信号などの各種生体信号などの電気信号を適切に取得することができる。
【0045】
このような本実施形態に係るステアリングホイール1は、特に、心電図のR波の帯域である10〜40Hzの電気信号に対しては数dB〜数十dBの信号強度の向上が可能となり、ユーザの心電図信号などの各種生体信号を取得するための用途に特に有効である。
【0046】
そのため、本実施形態のステアリングホイール1を、車両の操舵用の把持部として用いた場合には、ステアリングホイール1を介して、運転者の心電図信号などの各種生体信号を容易に取得することができ、取得した生体信号を用いることで、生体信号に基づいて、車両を制御したり、あるいは、車両を緊急停止させたり、さらには、生体信号から得られる情報を蓄積することで、健康管理に用いたりと、車両に種々の新たな機能を付与することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態に係るステアリングホイール1は、表皮層45を通した電気信号の取得に特に有効であることから、ユーザの心電図信号などの各種生体信号を取得するための用途以外にも、たとえば、各種スイッチ、帯電材、除電材、ブラシ、各種センサ、アクチュエータ、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に極めて有用である。
【0048】
なお、上述した実施形態において、ステアリング心材41および発泡体層42は本発明の支持部材に相当する。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、表皮材料の厚さ、第2導電層の厚さ、信号強度は、下記の方法により測定した。
【0051】
<表皮材料の厚さ>
表皮材料の厚さは、マイクロメーター(ミツトヨ製、MDC―25MJ)を用いて測定した。
【0052】
<第2導電層の厚さ>
第2導電層の厚さは、走査型白色干渉計(キャノン製、ZYGO)を用い、表面の凹凸形状を観察することにより、算出した。
【0053】
<信号強度>
まず、図5に示すように、ステリングホイール1の表皮層45の外側に沿うように、7cm×7cmの大きさのステンレス電極100を設置し、これを信号入力側の電極とした。
そして、ステンレス電極100を介して、表皮層45−第1導電層43間に、ファンクションジェネレータ(ヒューレット・パッカード社製、HP33120A)を使用して、4V、2Hzの正弦波電圧を印加した。そして、オシロスコープ(テクトロニクス製、DSA8200)を用いて、正弦波電圧を印加した際における、各周波数での信号強度を測定した。なお、信号強度は高いほど、好ましい。
【0054】
《実施例1》
本実施例では、以下のようにして、図1〜図3に示すような構成を有するステアリングホイール1を作製した。
【0055】
すなわち、まず、導電性高分子としてのPEDOT/PSS粉末(アグフア製、Orgacon Dry、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)にポリ(4−スチレンサルフォネート)(PSS)をドープしてなるもの)を、PEDOT/PSSの濃度が、3重量%となるようにエチレングリコール(和光純薬製特級)に分散させて、導電性高分子を含有する混合溶液を得た。
【0056】
そして、上記にて得られた混合溶液を、コーティング装置(Mathis製、LTE−S)を用いて、厚さ1.1mmの牛革(表皮材料)の裏面に塗布し、エチレングリコールを除去することで、牛革からなる表皮層45上に、PEDOT/PSSからなる第2導電層44を形成した。なお、第2導電層44の厚みは、110μmであり、表皮層45の厚みの10%であった。
【0057】
また、上記とは別に、ポリウレタン発泡体からなる発泡体層42が表面に形成されたステアリング心材41の表面に、導電テープ(北川工業製、CSTK)を貼り付けることにより、第1導電層43を形成した。そして、スポーク部3から、第1導電層43に伝達される電気信号を、外部へ取り出すための電極を設置し、次いで、上記にて作製した第2導電層44が形成された牛革を、第1導電層43を被覆するように配置し、縫い合わせた。そして、最後に、スポーク領域で余分な皮革を切り取り、皮革を加熱してシワを取り除くことにより、ステアリングホイール1を得た。そして、得られたステアリングホイール1について、上記方法にしたがい、10Hzおよび100Hzにおける信号強度の測定を行なった。結果を表1に示す。
【0058】
また、得られたステアリングホイール1の表皮層45を、JIS K6911に準拠し、8cm角に切り出し、切り出したサンプルを用いて、恒温槽中で、25℃、60%R.H.条件下で、第2導電層44の形成された表皮層45の体積抵抗率を測定したところ、4.0×10Ω・cmであった。なお、体積抵抗率は、測定機として、アドバンテスト社製「METER R8340A」を、測定用電極として、安藤電気製「SE−71」を、恒温槽として、エスペック製「SH−240」を、それぞれ用いた。
【0059】
《実施例2》
導電性高分子を含有する混合溶液を調製する際における、PEDOT/PSSの濃度を、1.5重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、第2導電層44を形成し、ステアリングホイール1を得て、同様にして信号強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0060】
《実施例3》
実施例1と同様にして導電性高分子を含有する混合溶液を調製し、調製した混合溶液を、厚さ1.1mmの牛革(表皮材料)の裏面に、直接載せて、1分間放置することにより、含浸処理を行なった。その後、含浸されなかった余分な混合溶液を除去し、乾燥させることにより、牛革からなる表皮層45上に、PEDOT/PSSからなる第2導電層44を形成した。そして、このようにして得られた第2導電層44が形成された牛革を用いた以外は、実施例1と同様にして、ステアリングホイール1を得て、同様にして信号強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0061】
《実施例4》
ポリビニルアルコール(クラレ製、ポバールPVA−220、重量平均分子量(Mw)88,000、ケン化度85.0モル%)を、ポリビニルアルコールの濃度が、3重量%となるように水に分散させて、樹脂材料を含有する混合溶液を得た。そして、このようにして得られた混合溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、第2導電層44を形成し、ステアリングホイール1を得て、同様にして信号強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0062】
《実施例5》
第2導電層44の厚みを、5.5μm(表皮層45の厚みの0.5%)とした以外は、実施例1と同様にして、第2導電層44を形成し、ステアリングホイール1を得て、同様にして信号強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0063】
《実施例6》
第2導電層44の厚みを、11μm(表皮層45の厚みの1%)とした以外は、実施例1と同様にして、第2導電層44を形成し、ステアリングホイール1を得て、同様にして信号強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0064】
《実施例7》
第2導電層44の厚みを、440μm(表皮層45の厚みの40%)とした以外は、実施例1と同様にして、第2導電層44を形成し、ステアリングホイール1を得て、同様にして信号強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0065】
《実施例8》
第2導電層44の厚みを、550μm(表皮層45の厚みの50%)とした以外は、実施例1と同様にして、第2導電層44を形成し、ステアリングホイール1を得て、同様にして信号強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0066】
《実施例9》
厚さ1.1mmの牛革の代わりに、厚さ0.6mmの豚革を使用した以外は、実施例1と同様にして、第2導電層44を形成し、ステアリングホイール1を得て、同様にして信号強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0067】
《実施例10》
厚さ1.1mmの牛革の代わりに、厚さ0.6mmの牛革を使用した以外は、実施例1と同様にして、第2導電層44を形成し、ステアリングホイール1を得て、同様にして信号強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0068】
《比較例1》
第2導電層44を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、ステアリングホイールを得て、同様にして信号強度の測定を行った。結果を表1に示す。また、実施例1と同様にして、第2導電層44の形成されていない表皮層45の体積抵抗率を測定したところ、7.4×1010Ω・cmであった。
【0069】
《比較例2》
第2導電層44を形成しなかった以外は、実施例9と同様にして、ステアリングホイールを得て、同様にして信号強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【0070】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜10のステアリングホイール1は、第1導電層43と表皮層45との間に、第2導電層44を有しているため、第2導電層44を有しない従来のステアリングホイール(比較例1,2)と比較して、信号強度に優れる結果であった。また、実施例1〜10のステアリングホイール1は、比較例1,2と比較して、外観においても、差異はみられなかった。
【0071】
なお、図6に、実施例1、実施例6、実施例7、および比較例1における、周波数と信号強度との関係を示すグラフを示す。図6より、実施例1、実施例6、および実施例7は、比較例1と比較して、心電図のR波の帯域である10〜40Hzを含む低周波数帯域において、特に信号強度に優れることが確認できる。
【符号の説明】
【0072】
1…ステアリングホイール
2…ボス部
3…スポーク部
4…リム部
41…ステアリング心材
42…発泡体層
43…第1導電層
44…第2導電層
45…表皮層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の支持部材と、前記支持部材上に形成され、周方向への通電性を有する第1導電層と、前記第1導電層を被覆する表皮層とを有するリム部を備えるステアリングホイールであって、
前記第1導電層と前記表皮層との間に、前記第1導電層と前記表皮層との積層方向に通電性を有する第2導電層を備えることを特徴とするステアリングホイール。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリングホイールにおいて、
前記第2導電層は、前記表皮層を形成することとなる表皮材料の前記第1導電層と対向することとなる面に、前記第2導電層を形成することとなる導電材料を含浸させることにより形成されることを特徴とするステアリングホイール。
【請求項3】
請求項1に記載のステアリングホイールにおいて、
前記第2導電層は、前記表皮層を形成することとなる表皮材料の前記第1導電層と対向することとなる面に、前記第2導電層を形成することとなる導電材料を塗布することにより形成されることを特徴とするステアリングホイール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のステアリングホイールにおいて、
前記第2導電層は、前記表皮層の厚さに対し、1〜40%の厚みで形成されることを特徴とするステアリングホイール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のステアリングホイールにおいて、
前記第2導電層が、導電性高分子を含むことを特徴とするステアリングホイール。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のステアリングホイールを備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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