説明

ステッピングモータ

【課題】電子部品の追加や、既存の配置空間の変更などを要することなく、振動の発生を抑圧する。
【解決手段】ヨーク41a〜41dの磁極歯42は、その先端部の辺44cの長さの根元部分の幅bに対する割合が65%以上で、かつ、その高hさの根元部分の幅bに対する割合が90%以上110%以下となるよう形成され、しかも、その周方向での最大幅が機械角で30度以内に設定されており、それによって、ステータコイルに鎖交する磁束量を変えて、ステータコイル31a,31bの誘起電圧波形を振動発生の要因となるようなトルクの発生が抑圧されるような形状とすることができ、従来に比して格段の振動レベルの抑圧がなされたものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステッピングモータに係り、特に、振動の抑圧、静粛性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
ステッピングモータは、位置制御が必要とされる装置など様々な装置において用いられている。例えば、自動車用空気調和装置においては、各種の空調ドアのドア開度を制御する駆動モータとして用いられており、クローポール(磁極歯)型の永久磁石式ステッピングモータなどが多く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
このようなステッピングモータにあっては、その構造上、回転始動時や停止時の回転トルクの変化に起因する振動の発生が避け難い。特に、自動車用空調装置などの静粛性の要求の大きなものにあっては、振動を如何に低減するか重要な問題である。
【0003】
このような振動を低減する方策として比較的簡易なものとしては、例えば、ステッピングモータの駆動信号は、上述のような振動の低減を考慮する必要がなければ、通常、矩形波のパルス信号が用いられるが、この駆動信号の立ち上がり、立ち下がりを緩慢なもの、すなわち、正弦波のような信号とする方法がある。
【0004】
【特許文献1】特開平5−308767号公報(第2−3頁、図1−図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような所望の波形を有する駆動信号を得るには、ステッピングモータ内部、又は、その外部に設けられる駆動信号発生回路において、駆動信号の波形を所望する信号波形に整形等するための回路の付加が必要となるため、部品点数が増えて装置の高価格化を招くばかりか、自動車用空調装置のように個々の構成部品の小型化が強く求められるものにあっては、内部スペースに余裕のないステッピングモータに電子部品を追加する方法は、現実的には実現困難である。
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、電子部品の追加や、既存の配置空間の変更などを要することなく、振動を抑圧することができるステッピングモータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るステッピングモータは、
円柱状に形成された永久磁石を用いてなるロータと、前記ロータの外周面に対向し、周方向に複数形成された磁極歯を有するヨークと、かつ、中心軸が前記ロータの回転軸と同軸となるように、前記複数の磁極歯の外周近傍に配設されたステータコイルとを具備してなるステッピングモータであって、
前記ヨークの磁極歯は、その先端部の幅の根元部分の幅に対する割合が65%以上で、かつ、当該磁極歯の高さの根元部分の幅に対する割合が90%以上110%以下に形成されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、磁極歯の形状を所定の寸法とすることで、ステータコイルに鎖交する磁束量を変えて、ステータコイルの誘起電圧波形を振動発生の要因となるようなトルクの発生が抑圧されるような形状とすることができ、そのため、従来と異なり、電子回路に何ら新たな電子部品を付加したり、新たな部品配置のための空間を確保することなく、回転の際の振動を確実に抑圧し、静粛性が極めて高いステッピングモータを提供することができる。
また、既存のステッピングモータに対しては、そのヨークの磁極歯の形状を本発明に係る磁極歯の形状に変えたものとすることで本発明同様の作用、効果を奏することができるので、安価に高い静粛性を実現することができる。
また、従来の構成に新たな部品を付加することがないので、ステッピングモータの小型化の要請に反することがなく、より一層の小型化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図7を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態におけるステッピングモータの全体的な構成例について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態におけるステッピングモータは、クローポール型永久磁石式のステッピングモータであり、詳細は後述するクローポール(磁極歯)の形状を除けば、その基本的な構成は、従来から良く知られているこの種のステッピングモータと同様のものである。
すなわち、本発明の実施の形態におけるステッピングモータは、ハウジング3に回転自在に収納されるロータ1と、このロータ1を取り囲むようにハウジング3内に組み込まれるステータ2とに大別されてなるものである。
【0009】
ハウジング3は、有底中空円筒状に形成されてなる本体部11と、蓋体部12とからなり、本体部11の開口部分を垂直方向下側(図1において紙面下側)に位置させた状態で、その開口部分に蓋体部12が取着されて開口部分が覆われるようになっている。
本体部11の頂部側、すなわち、開口部分と反対側の中央には、軸受け13aが設けられると共に、蓋体部12の中央部分にも同様に軸受け13bが設けられており、次述するロータ1の回転軸21の両端部がそれぞれ支承されるようになっている。
なお、本体部11には、後述するステータコイル31a,31bの外部接続端子35a〜35cの部分を外部に突出せしめるための接続部用切欠3aが形成されている。
【0010】
ロータ1は、ステータ2の磁極数に応じて周方向にN、S交互に着磁された永久磁石を用いてなるもので、全体がほぼ円柱上に形成されて、その中心軸に一致するように回転軸21が取着されたものとなっている。なお、この実施例においては、永久磁石の磁極面の保護等のため外周面は樹脂部材で覆われた構造となっている。
【0011】
ステータ2は、円環状に形成されてなる一対のステータコイル31a,31bと、それぞれのステータコイル31a,31bに上下方向から取り付けられるヨーク41a,41b、41c,41dとを有してなるものである。
ステータコイル31a,31bは、非磁性材を用いて円環状に形成されたボビン33に線材が巻回されてなるものである。本実施例におけるステータコイル31a,31bにおいては、ボビン33の一方の端部の周縁部分に導電性部材からなる外部接続端子35a〜35cが外側へ突出するように設けられ、コイル巻線の端部が接続されており、この外部接続端子35a〜35cを介して外部から駆動信号が印加できるようになっている。
【0012】
ヨーク41a〜41dは、その詳細な寸法、形状については後述するが、いずれも基本的に同一の形状、構造を有してなるもので、ヨーク41a,41bは、一方のステータコイル31aをその上下から挟み込むようにして、かつ、磁極歯42がステータコイル31aの中空に形成された部分の内周面に沿うようにしてステータコイル31aに取着される。また、ヨーク41c,41dは、同様に他方のステータコイル31bに取着されるものとなっている。
【0013】
本発明の実施の形態におけるヨーク41a〜41dは、6個の磁極歯42が形成されたものとなっている。そして、上下の組となるヨーク41a,41bは、ステータコイル31aに取着された際に、一方のヨーク41aの磁極歯42の間に他方のヨーク41bの磁極歯42が位置するような位置関係に設定されている。これは、ヨーク41c,41dについても同様である。
【0014】
そして、上述のようにヨーク41a,41b、41c,41dが取着されたステータコイル31a,31bは、上下に積層された状態とされて、その中空部分にロータ1が位置するようにし、かつ、ロータ1の回転軸21とステータコイル31a,31bの中心軸とが同軸の位置関係となるようにハウジング3内に収納されるものとなっている。
なお、ロータ1及びステータコイル31a,31bがハウジング3へ収納される際、ステータコイル31a,31bの外部接続端子35a〜35cが接続部用切欠3aから外部へ突出するように位置決めされるようになっており、この接続部用切欠3aの部分には、図示されない接続用コネクタが取り付けられて外部接続端子35a〜35cと外部回路(図示せず)との電気的接続が可能となっている。
【0015】
次に、図2を参照しつつ本発明の実施の形態におけるヨーク41a〜41dについて詳述する。
本発明の実施の形態におけるヨーク41a〜41dは、平板状の磁性部材を用いて、全体形状がほぼ円環状に形成され、その内周円の周縁に複数の磁極歯42、例えば、本発明の実施例においては、6個の磁極歯42が周方向で等間隔を隔てて設けられた構成を有してなるもので、その基本的な構成は次述する磁極歯42の寸法、形状を除き従来のこの種のものと同様である。
【0016】
すなわち、本発明の実施の形態におけるヨーク41a〜41dは、円環状に形成された基部43を有し、その中央に形成された貫通孔43aの周縁部分において、周方向に等間隔を隔てて6個の磁極歯41が貫通孔43aの中心方向へ向かうように延設されて、さらに、基部43に対してほぼ直角に切り起こされたものとなっている。かかるヨーク41a〜41dは、例えば、プレス打ち抜き加工によって製造されるのが好適である。
【0017】
そして、磁極歯42は、その先端部の幅である先端幅aと根元部分の幅である根元幅bと基部43からの高さhとで次のように特定される寸法、形状を有するものである。
まず、先端幅aの根元幅bに対する割合r1は、百分率でr1=(a/b)×100=65%以上であって、しかも、組み立てた際に、隣接する磁極歯42の間に、先に述べたように他方のヨークの磁極歯42が位置できることが必要である。本発明の実施の形態のステッピングモータは磁極数24極のものを前提としており、ヨーク41a〜41dの磁極歯数は6であるので、貫通孔43aの周方向における1つの磁極歯42の最大幅は、機械角で30度以内であることが必要である。
【0018】
また、高さhの根元幅bに対する割合r2は、百分率でr2=(h/b)×100=90%以上、かつ、110%以下の間となるように設定されたものとなっている。
図2は磁極歯42の正面図であるが、この正面図に現れる磁極歯42の形状は、基部43に対して直角をなして磁極歯42の根元から延びる辺44a,44bと、磁極歯42の根元に対して平行する先端部の辺44cと、この辺44cの両端部と先の辺44a,44bの端部とをつなぐ直線の辺44d,44eとから形成されたものとなっている。
【0019】
磁極歯42は、図2に示された形状に限定されるものではなく、上述した先端幅aの根元幅bに対する割合r1と貫通孔43aの円周方向における機械角幅、並びに高さhの根元幅bに対する割合r2を満たすものであれば、他の形状のものであっても勿論よいものである。
【0020】
このような本発明の実施の形態における磁極歯42の形状は、本願出願人が、ステッピングモータの動作時に発生する振動は、回転初期における回転トルクの正及び回転停止時における回転トルクの負のピーク付近で顕著であり、そのピークの発生は、ステータコイル41a〜41dの誘起電圧とコイル電流の大きさに依存するものであるという点に着目し、鋭意研究した結果得られたものである。すなわち、本願出願人は、上述した観点からトルクのピークに起因して生ずる振動を低減するためには、ステータコイル41a〜41dの誘起電圧のピークが大きく、そのゼロクロス付近の変化を小さくするような磁界とすることが有効であるとの結論を得、種々試験を繰り返した結果、上述しような磁極歯の形状を導き出すことができたものである。
【0021】
図3乃至図6には、磁極歯の他の実施の形態が示されており、以下、これらの図に示された実施例について説明する。なお、以下に説明するいずれの例も、上述した先端幅aの根元幅bに対する割合r1と貫通孔43aの円周方向における機械角幅、並びに高さhの根元幅bに対する割合r2を満たすものであることは勿論であり、それについての再度の詳細な説明は省略することとする。また、図1及び図2に示された構成例における構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付してその詳細な説明は省略し、以下、異なる点を中心に説明することとする。
【0022】
最初に、図3に示された第2の実施の形態における磁極歯42Bについて説明する。
この例における磁極歯42Bの先端部は、先に図2に示された磁極歯42同様、直線の辺となっているが、この辺44cの両端部と根元との間が曲線(例えば、円弧等)に形成されたものとなっている点が先の図2の磁極歯42と異なるものである。
【0023】
次に、図4に示された第3の実施の形態における磁極歯42Cについて説明する。
この例における磁極歯42Cの先端部は、先に図2に示された磁極歯42同様、直線の辺となっているが、この先端部の辺44cの両端部と根元との間は直線の辺46a,46bにより形成されたものとなっているものである。
【0024】
次に、図5に示された第4の実施の形態における磁極歯42Dについて説明する。
この例における磁極歯42Dの先端部は、先に図2に示された磁極歯42と異なり、曲線(例えば、円弧等)の辺47aとなっており、この辺47aの両端部と根元との間が直線の辺47b,47cにより形成されたものとなっているものである。
【0025】
次に、図6に示された第5の実施の形態における磁極歯42Eについて説明する。
この例における磁極歯42Eの先端部は、先に図4に示された磁極歯42Cと同様、直線の辺44cとなっており、また、その両端部と根元との間も直線の辺46a,46bにより形成されたものとなっているものであるが、根元幅bが先端幅aより小さく設定されたものとなっている点が磁極歯42Cの場合と異なるものである。
【0026】
次に、本発明の実施の形態におけるステッピングモータが発生する振動レベルについての試験例について、図7を参照しつつ説明する。
まず、図7は、ステッピングモータのハウジング3の外周面の適宜な箇所に取着された振動検出センサ(図示せず)によって検出された振動レベルを示すもので、同図において横軸は時間(秒)であり、縦軸は振動レベル(V)である。また、同図において、実線は、本発明の実施の形態におけるステッピングモータの振動レベルの変化特性を表す特性線であり、点線は、従来のステッピングモータの振動レベルの変化特性を表す特性線である。
【0027】
従来のステッピングモータにおいて周期的に現れている振動レベルがピークとなる箇所で、本発明の実施の形態におけるステッピングモータの振動レベルを比較して見ると、最低でも大凡0.1V強の改善がなされており、また、最大で大凡0.3V弱の改善がなされていることが確認できる。すなわち、本発明の実施の形態におけるステッピングモータは、上述したような形状のヨーク41a〜41dを採用することにより、従来に比して振動レベルが確実に抑圧されたものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態におけるステッピングモータの構成例を示す全体分解斜視図である。
【図2】図1に示されたステッピングモータのヨークの磁極歯の拡大正面図である。
【図3】第2の実施の形態におけるヨークの磁極歯の拡大正面図である。
【図4】第3の実施の形態におけるヨークの磁極歯の拡大正面図である。
【図5】第4の実施の形態におけるヨークの磁極歯の拡大正面図である。
【図6】第5の実施の形態におけるヨークの磁極歯の拡大正面図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるステッピングモータの振動試験の例を示す特性線図である。
【符号の説明】
【0029】
1…ロータ
2…ステータ
3…ハウジング
31a,31b…ステータコイル
41a〜41d…ヨーク
42…磁極歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状に形成された永久磁石を用いてなるロータと、前記ロータの外周面に対向し、周方向に複数形成された磁極歯を有するヨークと、かつ、中心軸が前記ロータの回転軸と同軸となるように、前記複数の磁極歯の外周近傍に配設されたステータコイルとを具備してなるステッピングモータであって、
前記ヨークの磁極歯は、その先端部の幅の根元部分の幅に対する割合が65%以上で、かつ、当該磁極歯の高さの根元部分の幅に対する割合が90%以上110%以下に形成されてなることを特徴とするステッピングモータ。
【請求項2】
ステッピングモータの磁極数は24であって、磁極歯の周方向における幅は、機械角で30度以内であることを特徴とする請求項1記載のステッピングモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−311708(P2006−311708A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131258(P2005−131258)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(500309126)株式会社ヴァレオサーマルシステムズ (282)
【出願人】(591249884)トネックス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】