説明

ステントグラフト、人工血管、生体埋込材料、複合糸、及び複合糸、生体埋込材料の製造方法

【課題】血管の一部として生体に埋め込んだ場合に、血流側での血栓形成が抑制されて長期間にわたる開存性を維持しつつ、血管との間では細胞組織が効率的に生成されて効率的に密着可能なステントグラフト、人工血管、生体埋込材料、複合糸、及びこれら複合糸、生体埋込材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】複合糸12であって、非生分解合成高分子のフィラメントを含むマルチフィラメントからなる芯部13と、この芯部13の外周を覆うように形成され生体吸収性ポリマーのフィラメントを含むマルチフィラメントからなる鞘部14とを備え、前記生体吸収性ポリマーのフィラメントは、少なくとも一部が前記非生分解合成高分子のフィラメントと絡み合い、かつ前記鞘部の表面にポロシティが形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体内に埋め込んで用いられるステントグラフト、人工血管、生体埋込材料、複合糸、及びこれら複合糸、生体埋込材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維の人工血管は、中、大口径の場合、長期にわたる臨床により安全かつ実用的であることが実証されているが、小口径の人工血管として用いた場合には、血栓形成によって長期に開存状態を維持することが困難であり移植用人工血管としての実用性が高くない。
【0003】
また、近年、かかるポリエステル繊維の人工血管は、動脈瘤、静脈瘤等の低侵襲治療手技であるステントグラフト内挿術においてステントをカバーするための人工血管として用いられ、その場合、人工血管と血管の間が確実に密着されないと瘤内に血液が漏れるエンドリークという現象およびステントグラフトが留置位置から移動するというマイグレーションの問題を発生する可能性がある。
【0004】
このような小口径の人工血管における閉塞を抑制し充分な開存性を確保するために、内腔面に抗血栓性の組織、内皮化を誘導する方法が検討されている。
その方法として、ヒトの内皮細胞、骨髄由来細胞を播種する方法、細胞の接着物質をコーティングする方法、コラーゲンあるいはゼラチンを含浸させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、ステントグラフトのエンドリークを防止するためにステントをカバーするポリエステルの人工血管の外面にコラーゲン、トロンビン、フィブリノゲン、エラスチン、フォンビルブラントファクターから選択されるタンパク質由来の生理活性剤を塗布し、埋め込み初期の人工血管と血管壁との間の血栓形成を促進し、長期的には繊維組織の形成によりエンドリークを抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−33661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の人工血管においては、内皮化及び血栓抑制効果は小口径人工血管の実用化には不充分であり、ポリエステルの人工血管が小口径である場合に、実用化のために血栓形成を抑制し長期にわたって開存性を確保することが可能な人工血管が要望されている。
また、ステントグラフトの人工血管の場合は、人工血管と血管壁の間を密着させてエンドリークを防止することが必要である。
【0008】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、血管の一部として生体に埋め込んだ場合に、血流側での血栓形成が抑制されて長期間にわたる開存性を維持しつつ、血管との間で細胞組織が効率的に生成されて充分な密着が可能なステントグラフト、人工血管、生体埋込材料、複合糸、及びこれら複合糸、生体埋込材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に記載の発明は、非生分解合成高分子のフィラメントを含むマルチフィラメントからなる芯部と、この芯部の外周を覆うように形成され生体吸収性ポリマーのフィラメントを含むマルチフィラメントからなる鞘部とを備え、前記生体吸収性ポリマーのフィラメントは、少なくとも一部が前記非生分解合成高分子のフィラメントと絡み合い、かつ前記鞘部の表面にポロシティが形成されていることを特徴とする。
【0010】
この発明に係る複合糸によれば、芯部が非生分解合成高分子のフィラメントを含んでいるので生体吸収性ポリマーが生体内において分解されても芯部の非生分解合成高分子のフィラメントが残留して、複合糸、生体埋込材料、人工血管等の強度を保持することができる。
【0011】
また、鞘部の表面に生体吸収性ポリマーからなる多数のポロシティ(微細孔)が形成されているので、細胞組織が効率的に生成されるとともに、芯部の生体吸収性ポリマーの繊維が生体に吸収されて出来る空隙部に細胞組織が形成されるため、安定した非分解性合成高分子のフィラメントと組織の統合体が形成される。これは、複合糸の表面に形成された、例えば、生体吸収性ポリマーのポロシティ(例えば、ループ、たるみ等による微細孔)が、生体において細胞の形成起部として安定した血栓の形成を誘導し、その後この基部から生体の環境に応じた細胞組織が生成されるからであると推測される。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の複合糸であって、前記ポロシティは、前記生体吸収性ポリマーのフィラメントのループとたるみの少なくともいずれか一方により構成されることを特徴とする。
【0013】
この発明に係る複合糸によれば、ポロシティが生体吸収性ポリマーのフィラメントのループとたるみの少なくともいずれか一方により構成されているので、生体吸収性ポリマーのポロシティを容易に形成することができかつ効率的に細胞組織が生成される。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の複合糸であって、前記非生分解合成高分子がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする。
【0015】
この発明に係る複合糸によれば、芯部が含む非生分解合成高分子がポリエチレンテレフタレートであるので、しなやかさ及び高い抗張力を確保することが可能となり、又引張強度等の機械的強度が生体内において長期間にわたって維持され、高い耐久性を確保することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合糸であって、前記生体吸収性ポリマーが、紡糸可能な合成ポリマーあるいは生体由来のポリマーであることを特徴とする。
【0017】

請求項5に記載の発明は、生体埋込材料であって、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合糸を、織り、編み、組紐手法の少なくともいずれか一の手法によって布状に形成したことを特徴とする。
【0018】
この発明に係る生体埋込材料によれば、効率的に生産が可能であるとともに生体内において細胞を安定して生成することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、人工血管であって、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合糸を、織り、編み、組紐手法の少なくともいずれか一の手法によって管状に形成したことを特徴とする。
【0020】
この発明に係る人工血管によれば、人工血管の内腔面、外層面にそれぞれ生体の環境に応じた組織が生成され、血流側は内皮細胞の着床を誘導して内皮組織で被覆されるので、人工血管として安定した作用を奏することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、ステントグラフトであって、ステントと、請求項6に記載の人工血管と、を備え、前記ステントが前記人工血管の外周又は内周に配置されていることを特徴とする。
【0022】
この発明に係るステントグラフトによれば、人工血管の血流側は内皮細胞の着床を誘導して内皮組織で被覆され、外層面は血管壁との間に組織が形成されて血管壁部と充分に密着するのでグラフト固定力が向上し、マイグレーション、エンドリーク、グラフトずれ等の発生を抑制することができる。
【0023】
請求項8に記載の発明は、非生分解合成高分子のフィラメントを含むマルチフィラメントからなる芯部と、この芯部の外周を覆うように形成され生体吸収性ポリマーのフィラメントを含むマルチフィラメントからなる鞘部とを備え、前記生体吸収性ポリマーのフィラメントは、少なくとも一部が前記非生分解合成高分子のフィラメントと絡み合いかつ前記鞘部の表面にポロシティが形成された複合糸の製造方法であって、前記芯部を構成するマルチフィラメントと、前記鞘部を構成するマルチフィラメントとを複合化する場合に、前記鞘部を構成するマルチフィラメントを、芯部を構成するマルチフィラメントに対して、1.08から1.8倍の供給速度で供給することを特徴とする。
【0024】
この発明に係る複合糸の製造方法によれば、容易かつ効率的に生体埋め込みに用いる複合糸を生産することができる。
【0025】
請求項9に記載の発明は、生体埋込材料の製造方法であって、請求項8に記載の複合糸を、織り、編み、組紐手法の少なくともいずれか一の手法によって布状に形成することを特徴とする。
【0026】
この発明に係る生体埋込材料の製造方法によれば、容易かつ効率的に生体埋込材料を生産することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る複合糸、生体埋込材料、人工血管及びステントグラフトによれば、血管の一部として生体に埋め込んだ場合に、血流側での血栓形成が抑制されて長期間にわたる開存性を維持しつつ、血管との間で細胞組織が効率的に生成することができる。
また、この発明に係る複合糸、生体埋込材料の製造方法によれば、細胞組織を安定かつ効率的に生成可能な複合糸、生体埋込材料を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る人工血管を説明する斜視図である。
【図2】本発明に係る生体埋込材料及び複合糸の一例を説明する電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明に係る生体埋込材料及び複合糸の一例を説明する電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明に係る複合糸の表面構造を説明する図であり、(A)はフィラメントのループを示す概念図、(B)はその電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明に係る複合糸の表面構造を説明する図であり、(A)はフィラメントのたるみを示す概念図、(B)はその電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るステントグラフトを示す斜視図である。
【図7】本発明に係る複合糸の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図1から図5を参照して、この発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、人工血管を説明する図であり、符号1は人工血管を示している。
人工血管1は、例えば、口径が2mmから5mmの孔部3を有するチューブからなり、壁部2は可撓性を有していて壁部2の周方向長さの範囲内において孔部3の形状を自在に変形可能とされている。
また、人工血管1は、孔部3を閉塞させずに孔部3の中心軸Oを所定の曲率の範囲内で曲げることが可能とされている。
【0030】
壁部2は、図2に示すような生体埋込材料10からなり、生体埋込材料10は、例えば、縦糸11Aと横糸11Bとを布状に織った布状繊維11が形成されている。
【0031】
縦糸11A、横糸11Bは、それぞれ、図3に示すような複合糸12により構成されており、複合糸12は、芯部13(破線で示す内側の部分)と、この芯部13の外周を覆うように配置された鞘部14(芯部12の外側に破線で示した部分)とを備えている。
芯部13は複数の非生分解合成高分子フィラメントを束ねた非生分解合成高分子マルチフィラメントからなり、鞘部14は複数の生体吸収性ポリマーフィラメントを束ねたマルチフィラメントからなるとともに、生体吸収性ポリマーのフィラメントの少なくとも一部は、芯部13の非生分解合成高分子のフィラメントに絡み合い、かつ鞘部14の表面にポロシティが形成されている。
【0032】
このポロシティは、生体吸収性ポリマーフィラメントのもつれ等により形成され、具体的には、例えば、図4(A)の概念図及び図4(B)の電子顕微鏡写真(60倍)に示すような生体吸収性ポリマーフィラメントのループ16(電子顕微鏡写真(60倍)のループ16は、多数のループ16のうちのひとつを目立たせて示した)や、図5(A)の概念図及び図5(B)の電子顕微鏡写真(60倍)に示すような生体吸収性ポリマーフィラメントのたるみ17(電子顕微鏡写真(60倍)のたるみ17は、多数のたるみ17のうちのひとつを目立たせて示した)による微細孔18から構成されている。
【0033】
実際の複合糸12におけるポロシティは、図4(B)、図5(B)に示すようにループ16とたるみ17とが交錯して形成されているが、ループ16又はたるみ17のいずれか一方によりポロシティが形成されてもよいことはいうまでもなく、ループ16、たるみ17以外の形態であってもよい。
【0034】
非生分解合成高分子は、生体内において分解されることが少なく、埋め込み材料として実績のあるポリマー、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等が好適である。
生体吸収性ポリマーは、生体内において経時的に分解が可能かつ埋め込み材料として使用可能な、例えば臨床実績のある材料からなり、例えば、ポリグリコール酸、グリコール酸と乳酸の共重合体、グリコール酸とカプロラクトンの共重合体及びポリディオキサノン及びコラーゲン、シルクなどの生体由来の高分子のいずれか又はこれらを複合したものから構成されている。なお、生体吸収性ポリマーは、例えば、結晶構造を有するような紡糸可能なポリマーである。
【0035】
複合糸12によれば、芯部13が非生分解合成高分子のフィラメントを含むマルチフィラメントから構成されているので、芯部13および鞘部14の生体吸収性ポリマーが生体内において分解されても非生分解合成高分子のフィラメントが残留する。その結果、複合糸12、生体埋込材料10、人工血管1の強度を保持することができる。
また、鞘部14のポロシティにより安定した新生内膜が形成され、芯部の生体吸収性ポリマー繊維が吸収されて形成される空隙部に細胞組織が形成されるため、生体に対して優れた親和性を有していて生体としっかりと一体化される。
【0036】
また、芯部13がポリエチレンテレフタレートのフィラメントにより形成されているので、しなやかさ及び高い抗張力を確保することが可能となり、又引張強度等の機械的強度が生体内において長期間にわたって維持され、高い耐久性を確保することができる。
【0037】
また、人工血管1によれば、人工血管1の内腔面、外層面にそれぞれ生体の環境に応じた組織が生成され、血流側は内皮細胞の着床を誘導して内皮組織で被覆されるので、人工血管1として生体内で安定して用いることができる。
【0038】
次に、図6を参照して、この発明の第2の実施形態について説明する。
図6は、ステントグラフト20の概略構成を示す図である。
第2の実施形態が、第1の実施形態に係る人工血管1と異なるのは、ステントグラフト20が、人工血管1に加えて、人工血管1の内周側又は外周側に配置されるステント4を備えて構成されている点である。その他は、第1の実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0039】
ステントグラフト20は、ステント4と人工血管(グラフト)1から構成され、挿入時には小さく折りたたまれているが、留置部位でステント4の自己拡張能あるいはバルーンによって人工血管1の所定の径までが径方向に拡張される。
【0040】
ステント4は、例えば、ステンレス製の針金5を長手方向の両端側6、7で複数回V字形に屈曲して複数のV字形を形成し、図6に示すように、軸線Oを中心とする円周上にこれら頂部が配列されるように成形するとともにステンレス製針金の両端部を接続して構成されている。
【0041】
かかる構成により、ステント4を構成するステンレス針金の軸部は、外力が加わった場合にV字形に屈曲された頂部における交差角が変位し、その結果、ステント4を構成する軸部と軸線Oとの距離が変位可能とされるとともに、ステント4の形状復元力によってステント4の外形が元の形状に復元するようになっている。
【0042】
ステントグラフト20は、血管に形成された動脈瘤等に血圧が印加されるのを防止するために、動脈瘤等が形成された血管内に装着して用いられる。
【0043】
ステントグラフト20によれば、人工血管1の血流側は内皮組織が効率的に被覆され、外層面は血管壁との間に組織が効率的に形成されて血管壁部と充分に密着するのでグラフト固定力が向上し、マイグレーション、エンドリーク、グラフトずれ等の発生を抑制することができる。
人工血管と血管壁の剥離試験により、人工血管と血管壁の間の組織形成による密着度を示すと、従来のポリエチレンテレフタレートの人工血管が最大点荷重約4.0(N)であるのに対してステントグラフト20では最大点荷重約7.0(N)である。これは本来の血管の引張り強度7.5(N)とほぼ同等であり、非常に良好な密着状態を示している。
【0044】
次に、図7を参照して、複合糸12の製造方法の一例について説明する。
図7に示した複合糸の製造装置は、例えば、エアージェット加工機50を示す図であり、第1のフィラメント供給ローラR1と、第2のフィラメント供給ローラR2と、第1の集束部J13と、第2の集束部J14と、混繊部J12とを備えている。
【0045】
第1のフィラメント供給ローラR10には、複合糸12を構成するポリエチレンテレフタレート等からなる非生分解合成高分子のフィラメント13A(以下、フィラメント13Aと表す場合がある)のマルチフィラメントが、第2のフィラメント供給ローラR20にはポリグリコール酸等の生体吸収性ポリマーのフィラメント14A(以下、フィラメント14Aと表す場合がある)のマルチフィラメントがそれぞれ供給可能に巻回されている。
【0046】
第1の集束部J13、第2の集束部J14は、それぞれフィラメント13A、及びフィラメント14Aを集束するとともにエアージェットJ12に供給する際の供給速度を付与するように構成されていて、この実施形態において、フィラメント14Aの供給速度V14は、巻き取り速度V12に対して、例えば、1.05〜1.8倍とされている。
【0047】
エアージェットJ12は、供給されたフィラメント13Aと、フィラメント14Aとを高圧流体によって交絡・撹乱処理するようになっており、その結果形成された複合糸12は、巻き取り速度V12で図示しない製品ローラによって巻き取られるようになっている。ここで、供給速度V13は巻き取り速度V12の1.02〜1.15の速度に設定されている。
すなわち、鞘部14を構成するフィラメント14Aからなるマルチフィラメントは、芯部13を構成するフィラメント13Aからなるマルチフィラメントに対して、1.08から1.8倍の供給速度で供給するようになっている。
【0048】
例えば、ポリエチレンテレフタレートフィラメント13A(75デニール/36フィラメント)とポリグリコール酸フィラメント14A(70デニール/20フィラメント)をエアージェット加工する場合に、ポリエチレンテレフタレートフィラメント13A、ポリグリコール酸フィラメント14Aを、エアージェット加工域に、巻き取り速度V12(=200m/min)に対してそれぞれV13(=110%)、V14(=150%)の速度で供給して撚糸する。
【0049】
また、エアージェットJ12において、フィラメント13Aとフィラメント14Aとは撹乱流体により異なる長さのフィラメント13Aとフィラメント14Aとが一体に複合されるようになっている。
【0050】
エアージェット加工機50を用いた複合糸12の製造方法によれば、エアージェットJ12において、フィラメント13Aとフィラメント14Aとが絡み合いながら複合され、その際、フィラメント14Aがフィラメント13Aに対して供給速度の差に相当する長さだけ長く供給されているので、複合糸12の表面12Aにフィラメント14Aのループ、たるみ等により構成されるポロシティが多数形成される。
【0051】
エアージェット加工機50を用いた複合糸12の製造方法によれば、複合糸12の表面12Aにループ及びたわみからなるポロシティを容易に形成することが可能な複合糸12を効率的に製造することができる。
【0052】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更をすることが可能である。
上記実施の形態においては、芯部13を非生分解合成高分子のマルチフィラメントにより形成し、鞘部14を生体吸収性ポリマーのマルチフィラメントにより形成する場合について説明したが、例えば、芯部13を構成するマルチフィラメントの一部を生体吸収性ポリマーのフィラメント14Aとし、又は鞘部14を構成するマルチフィラメントの一部を非生分解合成高分子のフィラメント13Aとし、あるいはこれら双方の構成を採用したものであってもよい。
【0053】
上記実施の形態においては、芯部13がポリエチレンテレフタレート糸(非生分解合成高分子マルチフィラメント)およびポリグリコール酸、鞘部14がポリグリコール酸である場合について説明したが、上記以外の、例えば、ポリエチレンテレフタレート以外のポリエステル樹脂からなる非生分解合成高分子マルチフィラメントにより芯部を形成してもよいし、ポリグリコール酸以外の生体吸収性ポリマーのマルチフィラメントにより鞘部14を形成してもよい。
【0054】
また、上記実施の形態においては、二重構造である場合について説明したが、例えば、芯部13が複数の層から形成され複合糸が三重以上の構造とされてもよい。
【0055】
また、上記実施の形態においては、複合糸12により人工血管1、ステントグラフト10が形成されている場合について説明したが、布状に形成した生体埋込材料を、例えば、心臓外科手術におけるパッチ(例えば、血管を部分的な被覆)に用いてもよい。
また、複合糸12を人工血管や血管の縫合に用いてもよい。
【0056】
上記実施の形態においては、人工血管が2mmから5mm、例えば、2mm、3mm、4mm、5mmである場合について説明したが、これ以外の口径の人工血管に適用してもよい。
【0057】
また、上記実施の形態においては、ポロシティがループ又はたわみのポロシティにより構成される場合について説明したが、ループ、たるみ以外によって複合糸12の表面12Aのポロシティが構成されてもよい。
【0058】
上記実施の形態においては、エアージェット加工機50を用いて複合糸12を製造する場合について説明したが、エアージェット加工域に2種類又はそれ以上の糸を供給して複合糸とすることが可能な撚糸装置、仮燃装置等を用いてもよい。
【0059】
また、複合糸12、生体埋込材料、人工血管1、ステントグラフト20を適用する生体は、人のみならず、家畜、ペット等の動物でもよいことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る複合糸を用いることにより、生体内において安定した細胞組織の生成が可能な生体埋込材料等を構成することができるので産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 人工血管(グラフト)
4 ステント
10 生体埋込材料
12 複合糸
12A 複合糸の表面
13 芯部
14 鞘部
16 ループ
17 たるみ
18 微細孔(ポロシティ)
20 ステントグラフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非生分解合成高分子のフィラメントを含むマルチフィラメントからなる芯部と、この芯部の外周を覆うように形成され生体吸収性ポリマーのフィラメントを含むマルチフィラメントからなる鞘部とを備え、
前記生体吸収性ポリマーのフィラメントは、少なくとも一部が前記非生分解合成高分子のフィラメントと絡み合い、かつ前記鞘部の表面にポロシティが形成されていることを特徴とする複合糸。
【請求項2】
請求項1に記載の複合糸であって、
前記ポロシティは、
前記生体吸収性ポリマーのフィラメントのループとたるみの少なくともいずれか一方により構成されることを特徴とする複合糸。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の複合糸であって、
前記非生分解合成高分子がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする複合糸。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合糸であって、
前記生体吸収性ポリマーが、紡糸可能な合成ポリマーあるいは生体由来のポリマーであることを特徴とする複合糸。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合糸を、織り、編み、組紐手法の少なくともいずれか一の手法によって布状に形成したことを特徴とする生体埋込材料。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合糸を、織り、編み、組紐手法の少なくともいずれか一の手法によって管状に形成したことを特徴とする人工血管。
【請求項7】
ステントと、請求項6に記載の人工血管と、を備え、前記ステントが前記人工血管の外周又は内周に配置されていることを特徴とするステントグラフト。
【請求項8】
非生分解合成高分子のフィラメントを含むマルチフィラメントからなる芯部と、この芯部の外周を覆うように形成され生体吸収性ポリマーのフィラメントを含むマルチフィラメントからなる鞘部とを備え、前記生体吸収性ポリマーのフィラメントは、少なくとも一部が前記非生分解合成高分子のフィラメントと絡み合いかつ前記鞘部の表面にポロシティが形成された複合糸の製造方法であって、
前記芯部を構成するマルチフィラメントと、前記鞘部を構成するマルチフィラメントとを複合化する場合に、前記鞘部を構成するマルチフィラメントを、芯部を構成するマルチフィラメントに対して、1.08から1.8倍の供給速度で供給することを特徴とする複合糸の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の複合糸を、織り、編み、組紐手法の少なくともいずれか一の手法によって布状に形成することを特徴とする生体埋込材料の製造方法。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−273734(P2010−273734A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126997(P2009−126997)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】