説明

ステントグラフト

【課題】分枝グラフトの嵩張りが小さくなり、留置する際の患者の負担を軽減することができ、また、容易に留置することができるステントグラフトを提供すること。
【解決手段】本発明のステントグラフトは、分枝付きステントグラフトであり、ステントと、グラフトとを有している。グラフトは、筒状をなす本体グラフトと、本体グラフトの外側面から分枝した分枝グラフト4とを有しており、その本体グラフトがステントに固定されている。分枝グラフト4は、枝血管内に導入される部位であり、伸縮可能なように、すなわち、本体グラフトの外方に向って伸長し、内方に向って収縮し得るように構成されている。分枝グラフト4は、分枝グラフト4が収縮した収縮状態では、偏平状、すなわち、蛇腹状をなし、分枝グラフト4が伸長した伸長状態では、筒状をなしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントグラフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、動脈瘤の治療にあたっては、外科的に動脈瘤を切除し、その部分に人工血管(人工的な材料で作製された管体)を移植するあるいは、バイパス手術と呼ばれる別の新たな血管流路を形成し、血液を確保するという治療法が行われていた。しかし、動脈瘤を発症する患者は一般的に高齢者が多く、このような大手術は、患者の負担が大きいため困難な場合が多く、また術中、術後の合併症も発生し易く、危険を伴うものであった。
【0003】
また、このような外科的手術をせず、経皮的にステントグラフト(人工血管(グラフト)に金属骨格(ステント)が縫い付けてある医療器具)を留置、移植して動脈瘤を治療する器具および方法が提案されている。この治療法によれば、手術の危険性および患者の負担が大幅に軽減するという利点がある。
【0004】
ステントグラフトには、大別して、(1)外力を付与しない自然状態では拡径しており、これに径方向の圧縮力を加え、縮径させた状態、すなわちチューブ内に入れて拡径を規制した状態で動脈内の目的部位(動脈瘤が形成された治療部位)まで移送し、ここで前記圧縮力を除去して自己拡径させ、そこへ留置する所謂セルフエクスパンドタイプのものと、(2)外力を付与しない自然状態では縮径しており、この状態で動脈内の目的部位まで移送した後、別途挿入されたバルーンカテーテルのバルーンを膨張させて、ステントグラフトの端部に設置された金属部材を拡張させ、該拡張に伴う金属部材の塑性変形によりその拡張状態を維持する構成の所謂バルーンエクスパンドタイプのものとがある。
【0005】
ところで、動脈瘤が形成されている動脈(血管)の動脈瘤の近傍に、その動脈から分枝した枝血管が存在する場合は、留置されたステントグラフトの端部がその枝血管にかかってしまい、これにより、血液が、動脈の血管壁とステントグラフトの外周面との間に入り込み、漏れてしまう虞がある。また、ステントグラフトが流されてしまう虞もある。
【0006】
そこで、このような場合は、筒状の本体グラフトの外側面(外周面)に、その本体グラフトの内部に連通する分枝グラフトが設けられた分枝(側枝)付きのステントグラフトが用いられる(例えば、特許文献1参照)。このステントグラフトは、枝血管内に分枝グラフトが導入された状態で留置されるので、前記の課題を解決することができる。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載されている従来の分枝付きのステントグラフトでは、初期状態において、分枝グラフトが本体グラフトの内側に裏返った状態で位置し、分枝グラフトを枝血管内に導入する際に、その分枝グラフトを裏返して正規の状態に戻すので、その際の抵抗が非常に大きく、分枝グラフトの枝血管内への導入が困難である。
【0008】
また、従来の分枝付きのステントグラフトとして、初期状態において、分枝グラフトが本体グラフトの外側に正規の状態で位置しているものもあるが、このステントグラフトでは、分枝グラフトが本体グラフトの外側において嵩張ってしまうという問題がある。このため、ステントグラフトを留置する際に、そのステントグラフトを移送する装置のチューブとして、比較的大きな径のチューブを用いる必要があり、患者の負担が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2008−513157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、分枝グラフトの嵩張りが小さくなり、留置する際の患者の負担を軽減することができ、また、容易に留置することができるステントグラフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)〜(11)の本発明により達成される。
(1) 全体形状がほぼ筒状をなすステントと、
筒状をなし、前記ステントに固定された本体グラフトと、
前記本体グラフトの外側面から分枝し、前記本体グラフトの外方に向って伸長し得る伸縮可能な分枝グラフトとを有することを特徴とするステントグラフト。
【0012】
(2) 前記分枝グラフトは、該分枝グラフトが収縮した収縮状態では、偏平状をなし、該分枝グラフトが伸長した伸長状態では、筒状をなしている上記(1)に記載のステントグラフト。
【0013】
(3) 前記分枝グラフトは、該分枝グラフトが収縮した収縮状態では、蛇腹状をなしている上記(1)または(2)に記載のステントグラフト。
【0014】
(4) 前記分枝グラフトには、折り目が形成されており、
前記分枝グラフトは、該分枝グラフトが収縮した収縮状態では、前記折り目に沿って折り畳まれた状態にある上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のステントグラフト。
【0015】
(5) 前記分枝グラフトは、前記折り畳まれた状態において、該分枝グラフトの軸方向から見て四角形をなしている上記(4)に記載のステントグラフト。
【0016】
(6) 前記ステントは、螺旋状、リング状または網状のパターンを有する金属製の線状体で構成されており、
前記分枝グラフトは、前記線状体の間において前記本体グラフトから分枝している上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のステントグラフト。
【0017】
(7) 前記分枝グラフトの前記本体グラフト側の端部に位置する流入口の形状は、該分枝グラフトが収縮した収縮状態で、直線状をなしている上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のステントグラフト。
【0018】
(8) 前記分枝グラフトの前記本体グラフト側の端部に位置する流入口の形状は、該分枝グラフトが収縮した収縮状態で、四角形をなしている上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のステントグラフト。
【0019】
(9) 前記分枝グラフトの前記本体グラフトと反対側の端部に位置する流出口の形状は、該分枝グラフトが収縮した収縮状態で、直線状をなしている上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のステントグラフト。
【0020】
(10) 前記分枝グラフトの前記本体グラフトと反対側の端部に、該分枝グラフトを伸長させる際に用いられ、その分枝グラフトを伸長させる装置側に離脱可能に連結する連結部が設けられている上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のステントグラフト。
【0021】
(11) 当該ステントグラフトは、血管内の動脈瘤付近に留置されるものである上記(1)ないし(10)のいずれかに記載のステントグラフト。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、分枝グラフトが本体グラフトの外側において嵩張らないようにその厚みを薄くすることができ、ステントグラフトを留置する際に、そのステントグラフトを移送する装置のチューブとして、比較的小さな径のチューブを用いることができ、これにより患者の負担を軽減することができる。
また、分枝グラフトを枝血管内に、容易かつ円滑に導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のステントグラフトの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すステントグラフトを血管内の動脈瘤付近に留置された状態を示す断面図である。
【図3】図1に示すステントグラフトの分枝グラフトを折り畳む際の手順および折り目のパターンを示す図である。
【図4】図1に示すステントグラフトを血管内の動脈瘤付近に留置する際の手順の一例を説明するための図である。
【図5】図4中の分枝グラフトの連結部の近傍を拡大して示す図である。
【図6】本発明のステントグラフトの第2実施形態における分枝グラフトを折り畳む際の手順および折り目のパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のステントグラフトを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0025】
<第1実施形態>
図1は、本発明のステントグラフトの第1実施形態を示す斜視図、図2は、図1に示すステントグラフトを血管内の動脈瘤付近に留置された状態を示す断面図である。また、図3は、図1に示すステントグラフトの分枝グラフトを折り畳む際の手順および折り目のパターンを示す図であって、図3(a)は、折り畳まれる前の状態の分枝グラフトを示す斜視図、図3(b)は、2つ折り状態の分枝グラフトを示す側面図、図3(c)は、折り畳みの途中の状態の分枝グラフトを示す図、図3(d)は、折り畳まれて最大に収縮した状態の分枝グラフトが示す斜視図、図3(e)は、折り畳まれて最大に収縮した状態の分岐グラフトを示す底面図である。また、図4は、図1に示すステントグラフトを血管内の動脈瘤付近に留置する際の手順の一例を説明するための図、図5は、図4中の分枝グラフトの連結部の近傍を拡大して示す図である。
【0026】
なお、以下では、図3中の左側を「左」、右側を「右」、上側を「上」、下側を「下」として説明を行う。また、図2では、ステントグラフトのステントは、図示されていない。また、図3(c)では、折り目の山折りを破線で示し、谷折りを一点鎖線で示す。また、図4および図5では、表側の部材と裏側の部材の位置関係が理解し易いように、その位置関係を極端に示す。
【0027】
これらの図に示すステントグラフト1は、大動脈(動脈)等の血管300内の動脈瘤320付近に挿入・留置される、いわゆる分枝(側枝)付きステントグラフト(血管内留置物)であり、図1および図2に示すように、骨格(例えば、金属骨格)であるステント5と、人工血管であるグラフト2とを有している。グラフト2は、本体グラフト3と、本体グラフト3の外側面(外周面)31から分枝した分枝グラフト4とを有しており、その本体グラフト3がステント5に固定されている。ステント5は、本体グラフト3用の骨格であり、分枝グラフト4は、ステント5には固定されていない。
【0028】
図1に示すように、ステント5は、全体形状がほぼ筒状(筒状の本体グラフト3が固定され、ステントグラフト1を血管内に保持し得る形状)をなしており、ステントグラフト1の本体グラフト3に対応する部位の骨格を構成する。
【0029】
このステント5は、好ましくは細長い部材の連なりとそれらが構成する複数の窓(開口)から構成されている。以下、詳細に説明する。ステント5は、リング状をなす(リング状のパターンを有する)複数のストランド(線状体)51を備えている。そして、ステント5の軸方向に沿って隣接する2つのストランド51の間に窓が形成される。
【0030】
図示の構成では、各ストランド51の側面視での形状は、波状であるが、これに限らず、例えば、直線状等であってもよい。また、図示の構成では、各ストランド51は、互いに、独立しているが、これに限らず、例えば、連結部材により連結されていてもく、また、本体グラフト3の軸方向に沿って隣接するストランド51同士が接合されていてもよい。
【0031】
なお、ストランド51の形状、形態は、リング状のものに限らず、その他、例えば、螺旋状のものや、網状(格子状)のもの等でもよい。
【0032】
ストランド51の構成材料としては、セルフエクスパンドタイプ(自己拡張型)の場合、例えば、ステンレス鋼、Ni-Ti系合金、Cu-Zn系合金、Ni-Al系合金等の擬弾性金属、タングステン、タングステン合金、チタン、チタン合金、タンタル等の各種金属が挙げられ、形状が復元できることが必要である。これを満たすことを条件に、ポリアミド、ポリイミド、超高分子量または高分子量のポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、フッ素系樹脂等の比較的高剛性の高分子材料を適宜組み合わせてもよい。
【0033】
また、ストランド51に造影性を持たせることもでき、この場合には、ストランド51の構成材料は、前記各種金属のようなX線造影性を有する材料であるのが好ましい。
【0034】
また、ストランド51の線径は、特に限定されないが、好ましくは0.02〜2mm程度とすることができ、より好ましくは0.1〜1mm程度とすることができる。
【0035】
このようなステント5は、弾性的に伸張性を有し、外力の除去によってその外径が変化、拡張するものであるのが好ましい。すなわち、ステント5は、自然状態(外力を作用させない状態)では、第1の外径である(以下、この状態を「拡径状態」と言う)が、外力を作用させる(例えばステント5に対し、その長手方向に引張力を作用させたり、その径方向に圧縮力を作用させたりする)と、前記第1の外径より小さい第2の外径となる(以下、この状態を「縮径状態」と言う)。
【0036】
この場合、第1の外径は、ステント5が動脈瘤付近の血管の内壁に十分に密着できる程度のものである。また、第2の外径は、ステントグラフト1を目的部位に留置する際に用いられる装置の装填部に装填可能な程度のものである。
【0037】
ステント5がこのような伸張性を有することにより、ステントグラフト1を目的部位へ容易に移送することができるとともに、目的部位に確実に留置、固定することができる。
【0038】
なお、ステント5は、バルーンエクスパンドタイプのものでもよいことは、言うまでもない。
【0039】
次に、グラフト2について説明する。
図1および図2に示すように、グラフト2は、本体グラフト3と、本体グラフト3の外側面31から分枝した分枝グラフト4とを有している。分枝グラフト4は、前記ステント5のストランド51の間、すなわち、隣接する2つのストランド51の間に形成された窓において本体グラフト4から分枝している。本体グラフト3と分枝グラフト4とは、一体的に形成されていてもよく、また、別部材で構成され、それらが、例えば縫合等により固定されていてもよい。
【0040】
本体グラフト3は、筒状をなしている。また、本体グラフト3は、ステント5の外径の変化に伴い伸縮したり、または折り畳まれた状態から広がることができるようになっている。
【0041】
また、本体グラフト3は、ステント5の外面(外側)に固定されている。なお、本体グラフト3は、ステント5の内面(内側)に固定されていてもよく、また、本体グラフト3が2つあり、その一方がステント5の内面に固定され、他方が外面に固定されていてもよい。
【0042】
また、本体グラフト3のステント5に対する固定方法は、特に限定されず、本体グラフト3の収縮力によりステント5に圧着させる他、例えば、ステント5に対し接着剤による接着、融着(熱融着、超音波融着等)、縫合、結紮等の方法により複数箇所で固定することができる。
【0043】
このグラフト2は、血流を透過させないもの(膜)であればよく、例えば、織物、編物、不織布、紙材のような繊維性多孔質膜、その他、非繊維性多孔質膜、高分子シートのような緻密膜等が挙げられる。
【0044】
また、グラフト2の素材(繊維)としては、例えば、セルロース繊維、綿、リンター、カポック、亜麻、大麻、ラミー、絹、羊毛等の天然繊維、ナイロン(ポリアミド)、テトロン、レーヨン、キュプラ、アセテート、ビニロン、アクリル、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)、ポリプロピレン等の化学繊維、またはこれら天然および化学繊維のうちの2以上の組み合わせ(混紡等)等が挙げられる。
【0045】
また、グラフト2の素材(高分子シート)の他の例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、天然ゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ラテックスゴム等の各種ゴム、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系等の各種熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0046】
また、グラフト2は、同一または異なる材料による2層以上の積層体であってもよい。さらに、グラフト2に対し親水化処理または疎水化処理が施されていてもよい。
【0047】
図1〜図3に示すように、分枝グラフト4は、枝血管330内に導入される部位であり、本体グラフト3の外側面31から分枝し、伸縮可能なように、すなわち、本体グラフト3の外方に向って伸長し、内方に向って収縮し得るように構成されている。換言すれば、分枝グラフト4は、本体グラフト3の軸に対して非平行な方向(軸に交差する方向)、本実施形態では、本体グラフト3の軸に対して垂直な方向に沿って、伸縮可能なように、すなわち、外側面31から離間する方向に向って伸長し、外側面31に接近する方向に向って収縮し得るように構成されている。なお、分枝グラフト4の内部の流路は、本体グラフト3の内部の流路に連通しており、分枝グラフト4の本体グラフト3側の端部、すなわち基端部41に、流入口43が形成され、本体グラフト3と反対側の端部に、すなわち先端部42に、流出口44が形成されている。
【0048】
この分枝グラフト4は、分枝グラフト4が収縮した収縮状態(以下、単に「収縮状態」と言う)では、偏平状、すなわち、蛇腹状をなし、分枝グラフト4が伸長した伸長状態(以下、単に「伸長状態」と言う)では、筒状をなしている。
【0049】
また、分枝グラフト4には、折り目が形成されており、収縮状態では、その折り目に沿って折り畳まれた状態(以下、単に「折り畳み状態」と言う)にある。分枝グラフト4は、折り畳み状態では、分枝グラフト4の軸方向から見て正方形(四角形)をなしている。
【0050】
分枝グラフト4の材質、厚さ、物性等は、本体グラフト3と、異なっていてもよく、折り目が付き易いものが好ましい。これにより、分枝グラフト4を容易かつ確実に折り畳むことができる。
【0051】
分枝グラフト4の折り目を付き易くするには、例えば、柔らかくすることである。このため、分枝グラフト4は、本体グラフト3よりも柔らかいことが好ましい。
【0052】
次に、分枝グラフト4を折り畳む際の手順および折り目のパターンについて説明する。
まず、図3(a)、(b)に示すように、円筒状(筒状)の分枝グラフト4を、その軸に対して垂直な方向に潰れるように2つ折りする。以下、前記分枝グラフト4をその軸に対して垂直な方向に潰れるように2つ折りした状態を、単に「2つ折り状態」と言う。この2つ折り状態では、分枝グラフト4の輪郭形状は、縦長の長方形(四角形)をなしている。
【0053】
次に、分枝グラフト4に所定パターンの折り目を形成する。
この折り目のパターンについては、本実施形態では、2つ折り状態で説明する。また、分枝グラフト4の折り目のパターンは、図3中の表側と裏側とで同じ(対称)であるので、以下では、代表的に表側について説明する。
【0054】
また、折り目には、山折りと、谷折りとがあり、分枝グラフト4の外側から見たときに、「山」を形成する(山状となる)折り目を「山折り」、「谷」を形成する(谷状となる)折り目を「谷折り」とする。
【0055】
図3(b)に示すように、分枝グラフト4は、2つ折り状態で、図示例では5段構造をなし、下側から、第1段部411、第2段部412、第3段部413、第4段部414および第5段部415を、この順序で有している。
【0056】
第1段部411の折り目群61は、直線状をなす2つの傾斜折り目611、612と、直線状をなす1つの境界折り目613とで構成されている。傾斜折り目611、612は、山折りであり、境界折り目613は、谷折りである。
【0057】
境界折り目613は、第1段部411と第2段部412との境界に位置し、左側の端部から右側の端部まで設けられている。
【0058】
また、傾斜折り目611は、下側の辺421の中点から境界折り目613の左側の端部まで設けられており、傾斜折り目612は、辺421の中点から境界折り目613の右側の端部まで設けられている。この第1段部411の折り目のパターンを「第1の折り目パターン」とする。但し、後述する、下側から奇数番目の段部の折り目群の説明においては、前記「辺421の中点」を、「1つ下の段部の境界折り目の中点」と読み替えるものとする。
【0059】
第2段部412の折り目群62は、直線状をなす2つの傾斜折り目621、622と、直線状をなす1つの境界折り目623とで構成されている。傾斜折り目621、622は、山折りであり、境界折り目623は、谷折りである。
【0060】
境界折り目623は、第2段部412と第3段部413との境界に位置し、左側の端部から右側の端部まで設けられている。
【0061】
また、傾斜折り目621は、境界折り目623の中点から境界折り目613の左側の端部まで設けられており、傾斜折り目622は、境界折り目623の中点から境界折り目613の右側の端部まで設けられている。この第2段部412の折り目のパターンを「第2の折り目パターン」とする。
【0062】
なお、前記第1段部411の傾斜折り目611および612と、第2段部412の折り目621および622とで、四角形が形成される。
【0063】
第3段部413の折り目群63は、前記第1段部411の折り目群61と同様であり、また、第4段部414の折り目群64は、前記第2段部412の折り目群62と同様である。また、第5段部415の折り目群65は、境界折り目を有していない以外は、前記第1段部411の折り目群61と同様である。すなわち、最上段の折り目群は、境界折り目を有していない。
【0064】
このように、最上段の折り目群が境界折り目を有していない以外は、下側から奇数番目の各段部は、それぞれ、第1の折り目パターンを有し、下側から偶数番目の各段部は、それぞれ、第2の折り目パターンを有する。すなわち、下側から、第1の折り目パターンと、第1の折り目パターンとが、交互に、繰り返される。
【0065】
なお、分枝グラフト4の段数は、図示の構成では5段であるが、これに限定されるものではなく、各部の寸法や諸条件等に応じて適宜設定されが、例えば、1〜8段程度であることが好ましく、3〜5段程度であることがより好ましい。
【0066】
次に、分枝グラフト4を、折り目に沿って、図3(c)に示すように折り畳み、図3(d)に示すように、最大に(完全に)収縮させる。以上で、分枝グラフト4の折り畳みが完了する。
このようにして、分枝グラフト4は、均一な厚みに、かつ薄く、折り畳まれる。
【0067】
図3(d)に示す折り畳み状態(収縮状態)では、図3(d)、(e)に示すように、分枝グラフト4の流入口43および流出口44の形状は、それぞれ、直線状をなしている。分枝グラフト4の流入口43の形状が直線状をなすことにより、分枝グラフト4と本体グラフト3とが一体化した状態でも、その分枝グラフト4を容易に折り畳むことができる。
【0068】
また、図3(c)、(d)に示すように、分枝グラフト4は、先端部42の流出口44の近傍に、2つの連結部45を有している。各連結部45は、図3(d)に示す折り畳み状態で、流出口44の近傍に位置し、互いが接近している。また、各連結部45は、例えば、糸状体等で輪を形成することにより構成することができる。この連結部45は、分枝グラフト4を伸長させる際や、伸長した分枝グラフト4を再び収縮させる際に用いられるものであり、分枝グラフト4を伸長させる図示しない装置側に離脱可能に連結する。
【0069】
次に、ステントグラフト1を血管内の動脈瘤付近に留置する際の手順の一例を説明する。
【0070】
まず、ステントグラフト1を血管内の動脈瘤付近に留置する際に用いる図示しない装置(以下、「ステントグラフト配置装置」と言う)の装着部に、ステントグラフト1を装着する。分枝グラフト4は、ステントグラフト配置装置の装着部で規制されて、折り畳み状態が保持される。
【0071】
なお、分枝グラフト4の折り畳み状態は、例えば、フィブリン糊のような生体に悪影響を与えない糊(接着剤)で、その分枝グラフト4を接着して、保持してもよい。そして、ステントグラフト1を血管内の動脈瘤付近に留置する際、その糊が、血液に接触することで剥がれ、分枝グラフト4が伸長可能になるようにしてもよい。
【0072】
ここで、ステントグラフト配置装置は、分枝グラフト4を伸長させたり、伸長した分枝グラフト4を再び収縮させる図示しない装置(以下、「分枝グラフト伸縮装置」と言う)を有している。また、分枝グラフト伸縮装置の移動部71は、分枝グラフト4の先端部42を保持する保持部として、例えば糸状体等で輪を形成してなる連結部72を有している。
【0073】
また、前記ステントグラフト配置装置の装着部にステントグラフト1を装着する際は、図4および図5に示すように、ステントグラフト1の分枝グラフト4の一方の連結部45の中に、他方の連結部45を入れ、さらに、各連結部45の中に、分枝グラフト伸縮装置の連結部72を入れる。
【0074】
そして、各連結部45の図4および図5中上側において、ワイヤー81を連結部72内に挿通させる。このワイヤー81の一端側は、分枝グラフト伸縮装置の手元側に位置し、他端側は、グラフト2内に位置する。これにより、分枝グラフト4の各連結部45と、分枝グラフト伸縮装置の移動部71の連結部72とが連結する。これによって、移動部71が分枝グラフト4の軸方向に移動すると、その移動部71と共に分枝グラフト4の先端部42も移動し、分枝グラフト4が伸縮する。
【0075】
次に、ステントグラフト配置装置により、ステントグラフト1を血管300の動脈瘤320がある部分まで移送する(図2参照)。そして、分枝グラフト4が、枝血管330の位置に位置するように、ステントグラフト1の位置決めをした後、分枝グラフト伸縮装置により、分枝グラフト4が伸長する方向に移動部71を移動させる。すなわち、ワイヤー81が連結部45を押して分岐グラフト4を伸長させるように操作する。これにより、分枝グラフト4が伸長し、枝血管330内に導入され、その際、分枝グラフト4は、筒状になる。
【0076】
次に、ワイヤー81を引き抜く。これにより、分枝グラフト4の各連結部45と、分枝グラフト伸縮装置の移動部71の連結部72との連結が解除される。
次に、ステントグラフト配置装置を抜去する。
【0077】
以上のようにして、ステントグラフト1は、血管300内の動脈瘤320付近に挿入・留置される。
【0078】
以上説明したように、このステントグラフト1によれば、分枝グラフト4が折り畳まれるので、その分枝グラフト4が本体グラフト3の外側において嵩張らないように厚みを薄くすることができ、ステントグラフト配置装置のチューブとして、比較的小さな径のチューブを用いることができ、これにより患者の負担を軽減することができる。
【0079】
また、分枝グラフト4を裏返す操作を必要としないので、分枝グラフト4を枝血管330内に、容易かつ円滑に導入することができる。
【0080】
<第2実施形態>
図6は、本発明のステントグラフトの第2実施形態における分枝グラフトを折り畳む際の手順および折り目のパターンを示す図であって、図6(a)は、折り畳まれる前の状態の分枝グラフトを示す斜視図、図6(b)は、四角筒折り状態の分枝グラフトを示す側面図、図6(c)は、折り畳みの途中の状態の分枝グラフトを示す図、図6(d)は、折り畳まれて最大に収縮した状態の分枝グラフトが示す斜視図、図6(e)は、折り畳まれて最大に収縮した状態の分岐グラフトを示す底面図である。
【0081】
なお、以下では、図6中の左側を「左」、右側を「右」、上側を「上」、下側を「下」として説明を行う。また、図6(c)では、折り目の山折りを破線で示し、谷折りを一点鎖線で示す。
【0082】
以下、第2実施形態について、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0083】
第2実施形態は、分枝グラフト4の構成(折り目のパターン等)が異なること以外は前記第1実施形態と同様である。
【0084】
第2実施形態のステントグラフト1の分枝グラフト4を折り畳む際の手順および折り目のパターンについて説明する。
【0085】
まず、図6(a)、(b)に示すように、円筒状(筒状)の分枝グラフト4を、平面視で(図6(b)中上側から見たとき)正方形(四角形)をなす筒状に折る。以下、分枝グラフト4を平面視で正方形(四角形)をなす筒状に折った状態を、単に「四角筒折り状態」と言う。
【0086】
次に、分枝グラフト4に所定パターンの折り目を形成する。
この折り目のパターンについては、本実施形態では、四角筒折り状態で説明する。また、分枝グラフト4の折り目のパターンは、図6中の表側と裏側とで同じ(対称)であるので、以下では、代表的に表側について説明する。
【0087】
図6(b)に示すように、分枝グラフト4は、四角筒折り状態で、図示例では9段構造をなし、下側から、第1段部431、第2段部432、第3段部433、第4段部434、第5段部435、第6段部436、第7段部437、第8段部438および第9段部439を、この順序で有している。
【0088】
第1段部431の折り目群91は、直線状をなす2つの傾斜折り目911、912と、直線状をなす2つの境界折り目913、914と、直線状をなす3つの縦折り目915、916、917とで構成されている。傾斜折り目911、912、境界折り目914は、谷折りであり、境界折り目913、縦折り目915、916、917は、山折りである。
【0089】
境界折り目913は、第1段部431と第2段部432との境界に位置し、四角筒折り状態の分枝グラフト4の左側の面441における左側の端部から右側の端部まで設けられている。
【0090】
また、境界折り目914は、第1段部431と第2段部432との境界に位置し、四角筒折り状態の分枝グラフト4の右側の面442における左側の端部から右側の端部まで設けられている。
【0091】
また、傾斜折り目911は、境界折り目913の中点から下側の辺451の左側の端部まで設けられており、傾斜折り目912は、境界折り目913の中点から下側の辺451の右側の端部まで設けられている。
【0092】
また、縦折り目915、916および917は、それぞれ、第1段部431の縦方向の辺に設けられている。この第1段部431の折り目のパターンを「第1の折り目パターン」とする。但し、後述する、下側から奇数番目の段部の折り目群の説明においては、前記「面441の中点」を、「1つ下の段部の境界折り目の中点」と読み替えるものとする。
【0093】
第2段部432の折り目群92は、直線状をなす2つの傾斜折り目921、922と、直線状をなす2つの境界折り目923、924と、直線状をなす3つの縦折り目925、926、927とで構成されている。傾斜折り目921、922は、谷折りであり、境界折り目923、924、縦折り目925、926、927は、山折りである。
【0094】
境界折り目923は、第2段部432と第3段部433との境界に位置し、四角筒折り状態の分枝グラフト4の左側の面441における左側の端部から右側の端部まで設けられている。
【0095】
また、境界折り目924は、第2段部432と第3段部433との境界に位置し、四角筒折り状態の分枝グラフト4の右側の面442における左側の端部から右側の端部まで設けられている。
【0096】
また、傾斜折り目921は、境界折り目913の中点から境界折り目923の左側の端部まで設けられており、傾斜折り目922は、境界折り目913の中点から境界折り目923の右側の端部まで設けられている。
【0097】
また、縦折り目925、926および927は、それぞれ、第2段部432の縦方向の辺に設けられている。この第2段部432の折り目のパターンを「第2の折り目パターン」とする。
【0098】
第3段部433の折り目群93、第5段部435の折り目群95、第7段部437の折り目群97は、前記第1段部431の折り目群91と同様であり、また、第4段部434の折り目群94、第6段部436の折り目群96、第8段部438の折り目群98は、前記第2段部432の折り目群92と同様である。また、第9段部439の折り目群99は、境界折り目を有していない以外は、前記第1段部431の折り目群91と同様である。すなわち、最上段の折り目群は、境界折り目を有していない。
【0099】
このように、最上段の折り目群が境界折り目を有していない以外は、下側から奇数番目の各段部は、それぞれ、第1の折り目パターンを有し、下側から偶数番目の各段部は、それぞれ、第2の折り目パターンを有する。すなわち、下側から、第1の折り目パターンと、第1の折り目パターンとが、交互に、繰り返される。
【0100】
なお、分枝グラフト4の段数は、図示の構成では9段であるが、これに限定されるものではなない。
【0101】
次に、分枝グラフト4を、折り目に沿って、図6(c)に示すように折り畳み、図6(d)に示すように、最大に(完全に)収縮させる。以上で、分枝グラフト4の折り畳みが完了する。
このようにして、分枝グラフト4は、均一な厚みに、かつ薄く、折り畳まれる。
【0102】
図6(d)に示す折り畳み状態(収縮状態)では、図6(d)、(e)に示すように、分枝グラフト4の流入口43の形状は、正方形(四角形)をなし、流出口44の形状は、直線状をなしている。分枝グラフト4の流入口43の形状が正方形をなすことにより、分枝グラフト4と本体グラフト3とが一体化した状態でも、その分枝グラフト4を容易に折り畳むことができる。
このステントグラフト1によれば、前述した第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0103】
以上、本発明のステントグラフトを、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【0104】
また、本発明は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【0105】
なお、前記実施形態では、分枝グラフト4の折り目のパターンを2つ説明したが、本発明では、折り目のパターンは、それには限定されない。
【符号の説明】
【0106】
1 ステントグラフト
2 グラフト
3 本体グラフト
31 外側面
4 分枝グラフト
41 基端部
42 先端部
43 流入口
44 流出口
45 連結部
5 ステント
51 ストランド
61 折り目群
611、612 傾斜折り目
613 境界折り目
62 折り目群
621、622 傾斜折り目
623 境界折り目
63〜65 折り目群
71 移動部
72 連結部
81 ワイヤー
91 折り目群
911、912 傾斜折り目
913、914 境界折り目
915〜917 縦折り目
92 折り目群
921、922 傾斜折り目
923、924 境界折り目
925〜927 縦折り目
93〜99 折り目群
411、431 第1段部
412、432 第2段部
413、433 第3段部
414、434 第4段部
415、435 第5段部
436 第6段部
437 第7段部
438 第8段部
439 第9段部
421 辺
441、442 面
451 辺
300 血管
320 動脈瘤
330 枝血管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体形状がほぼ筒状をなすステントと、
筒状をなし、前記ステントに固定された本体グラフトと、
前記本体グラフトの外側面から分枝し、前記本体グラフトの外方に向って伸長し得る伸縮可能な分枝グラフトとを有することを特徴とするステントグラフト。
【請求項2】
前記分枝グラフトは、該分枝グラフトが収縮した収縮状態では、偏平状をなし、該分枝グラフトが伸長した伸長状態では、筒状をなしている請求項1に記載のステントグラフト。
【請求項3】
前記分枝グラフトは、該分枝グラフトが収縮した収縮状態では、蛇腹状をなしている請求項1または2に記載のステントグラフト。
【請求項4】
前記分枝グラフトには、折り目が形成されており、
前記分枝グラフトは、該分枝グラフトが収縮した収縮状態では、前記折り目に沿って折り畳まれた状態にある請求項1ないし3のいずれかに記載のステントグラフト。
【請求項5】
前記分枝グラフトは、前記折り畳まれた状態において、該分枝グラフトの軸方向から見て四角形をなしている請求項4に記載のステントグラフト。
【請求項6】
前記ステントは、螺旋状、リング状または網状のパターンを有する金属製の線状体で構成されており、
前記分枝グラフトは、前記線状体の間において前記本体グラフトから分枝している請求項1ないし5のいずれかに記載のステントグラフト。
【請求項7】
前記分枝グラフトの前記本体グラフト側の端部に位置する流入口の形状は、該分枝グラフトが収縮した収縮状態で、直線状をなしている請求項1ないし6のいずれかに記載のステントグラフト。
【請求項8】
前記分枝グラフトの前記本体グラフト側の端部に位置する流入口の形状は、該分枝グラフトが収縮した収縮状態で、四角形をなしている請求項1ないし6のいずれかに記載のステントグラフト。
【請求項9】
前記分枝グラフトの前記本体グラフトと反対側の端部に位置する流出口の形状は、該分枝グラフトが収縮した収縮状態で、直線状をなしている請求項1ないし8のいずれかに記載のステントグラフト。
【請求項10】
前記分枝グラフトの前記本体グラフトと反対側の端部に、該分枝グラフトを伸長させる際に用いられ、その分枝グラフトを伸長させる装置側に離脱可能に連結する連結部が設けられている請求項1ないし9のいずれかに記載のステントグラフト。
【請求項11】
当該ステントグラフトは、血管内の動脈瘤付近に留置されるものである請求項1ないし10のいずれかに記載のステントグラフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−147674(P2011−147674A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12558(P2010−12558)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】