説明

ステント搬送用カテーテルシステム

【課題】ステント保持部に対し相対的に管腔内ステントを遠位側に移動する力を低減することが可能で、安定して、操作することができるステント搬送用カテーテルシステムを提供すること。
【解決手段】第1の直径から第2の直径に自己拡張する管腔内ステントと、該管腔内ステントを管腔内の目的の位置に搬送するためのステント搬送用カテーテルとを備え、前記ステント搬送用カテーテルは、その遠位部に配された前記管腔内ステントを第1の直径に保持するための内腔部を有する筒状のステント保持部と、該ステント保持部に対し相対的に前記管腔内ステントを遠位側に移動させる機構とを有し、前記ステント保持部は、前記管腔内ステントを前記内腔部に配置して第1の直径に保持した状態において、前記内腔部を構成する内壁における前記管腔内ステントとの接触部分に、静摩擦係数の異なる2以上の部分を有するステント搬送用カテーテルシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントを生体内管腔内に配置するためのステント搬送用カテーテルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは一般に、血管あるいは他の生体内管腔が狭窄もしくは閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するために、その狭窄もしくは閉塞部位を拡張し、その管腔の流通性を維持するために、そこに留置する医療用具として用いられている。ステントには、1本の線状の金属もしくは高分子材料からなるコイル状のステントからなるもの、金属チューブをレーザーによって切り抜いて加工したもの、線状の部材をレーザーによって溶接して組み立てたもの、複数の線状金属を織って作ったもの等がある。
【0003】
また、これらのものはステントをマウントしたバルーンによって拡張されるもの(バルーンエクスパンダブルタイプ)と、外部からの拡張を抑制する部材を取り除くことによって自ら拡張していくもの(セルフエクスパンダブルタイプ)とに分類することが出来る。
【0004】
この内、セルフエクスパンダブルタイプのステントは、一般に、管内カテーテルの先端付近において、ステントの外周にステント保持部を持つシース等を被せるようにして取り付けられる。そして、管内カテーテルを患者の体管腔内の治療部位へ進め、治療部位にてシース等を手元側から引くなどして取り除き、これに伴ってステントが自己拡張することで、目標とする病変部に留置される。近年、尿管や胆管、下肢動脈の形成術に対して、これらのステントが多く用いられるようになってきている。
【0005】
セルフエクスパンダブルステントを、目標とする病変部まで搬送する際に、一般的には、ステントを搬送用カテーテルの中に挿入するが、挿入の際にはステントを搬送用カテーテルのステント保持部を有するシースの内径以下に縮径(クリンピング)する。ステント搬送用カテーテルで病変部まで搬送後、術者が操作して手元側からシースを引くことでカテーテル内のステントを病変部に配置する。この際に手元側からシースを引くには、最初、シースとステントが静的に固定されているため、作動させるのに大きな抵抗(静摩擦抵抗)を伴う。一方、一旦ステントがシースと軸方向に相対的に移動した際には、動的に抵抗が減り、さらに、シース先端からステントが解放されるに従い、ステント端部が急激に拡張する。このため、術者による引く力(負荷)が大き過ぎる場合は、ステントが動き出したとしても、操作抵抗が急激に低下するとともに、ステントの拡張力が推進力となって、治療したい病変部を跳び越えて、意図していない場所に跳んでいく現象が発生する(ジャンピング現象)。
【0006】
また、ステントを解放するために術者が操作する力(シースを引く力など)は、留置するステントのサイズ、特に長さによって大きく異なる。ステントの長さが長い場合は、シースとステントの接触面積が大きく、シースを引くために大きな力が必要であり、一旦ステントがシース内を移動すると急激にステントが移動し、ジャンピング現象が助長される。一方、短いステントを留置する場合は、長いステントの場合より引く力は小さくはなるが、術者にとっては、力の調整が必ずしも容易ではなく、長いステントの場合と同様にして、大きな力でシースを引く場合がある。そうすると、急激にステントが解放されることになり、ジャンピング現象が一層助長される。ジャンピング現象を起こしてしまうと、治療したい病変部を治療することができなくなってしまい、治療効果に大きな影響を及ぼすと共に、再度治療を行わなければならない等、患者の身体に大きな負担がかかってしまう。
【0007】
このように、カテーテルを操作して、ジャンピング現象を回避しつつ、ステントを目的の病変部位に配置するには、術者がシースを引く力を微妙に調整しなければならず、その改善が求められていた。このようなステントのジャンピング現象防止に関しては、ステント本体や搬送用カテーテル、操作ハンドルの観点から様々な提案がなされている。これらは例えば、特許文献1乃至特許文献4に開示されている。
【0008】
特許文献1に記述されているような、シャフト上にロッキングステーを有する構造では、ステントが放出する動作とステントを保持する機構は独立しており、直前にロッキングステーからステントが離れてしまい、ジャンピングを防止することができない。
【0009】
また、特許文献2に記述されているような、ステント中央部とステント端部の拡張力を変化させるような構造では、中央部と端部でデザインを変化させているために、その部分において応力集中が発生してしまい、血管の拍動や様々な動きによってステントが破損してしまう可能性がある。
【0010】
また、特許文献3に記述されているような、カテーテルに安定化要素、可動部材を設け、操作部において制御するような構造では、カテーテル、操作部材の構造が複雑となってしまい、カテーテルをより小さくすることが困難となるために、低侵襲治療を実現できなくなってしまう。
【0011】
また、特許文献4に記述されているような、カテーテル内面に親水性被覆を塗布することで、移動抵抗を低減することは、操作する場合の力が一律に下がるだけであり、ジャンピング防止に寄与しないばかりか、ステントとの接触で被覆を剥がし、体内に剥がれた被覆が残留してしまう可能性が否定できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3679466号公報
【特許文献2】特開2008−193号公報
【特許文献3】特表2002−525168号公報
【特許文献4】特表2003−510134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記のように、ステントを病変部に留置する際に、治療したい病変部を跳び越えて、意図していない場所に跳んでいくジャンピング現象が発生する場合がある。この現象が生じると、治療効果に大きく影響を及ぼすと共に、患者の身体に大きな負担がかかってしまう。
【0014】
前記の状況を鑑み、本発明が解決しようとするところは、ステント保持部に対し相対的に管腔内ステントを遠位側に移動する力(例えばシースを引く力)を低減することが可能(過剰な力を必要としない)で、安定して、操作することができるステント搬送用カテーテルシステムを提供することにある。
また、これとは別に、ステントのサイズに関わらず、一定の力でステント保持部に対し相対的に管腔内ステントを遠位側に移動することが可能となる(例えば、シースを引くことが可能となる)一群のステント搬送用カテーテルシステムからなるステント搬送用カテーテルシステム群を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を鑑み、鋭意検討した結果、
第1の直径から第2の直径に自己拡張する略管状体の管腔内ステントと、該管腔内ステントを管腔内の目的の位置に搬送するための、手元部と遠位部を有する、ステント搬送用カテーテルとを備え、
前記ステント搬送用カテーテルは、
その遠位部に配された、前記管腔内ステントを第1の直径に保持するための内腔部を有する筒状のステント保持部と、
該ステント保持部に対し相対的に前記管腔内ステントを遠位側に移動させる機構と、を有し、
前記ステント保持部は、前記管腔内ステントを前記内腔部に配置して第1の直径に保持した状態において、前記内腔部を構成する内壁における前記管腔内ステントとの接触部分に、静摩擦係数の異なる2以上の部分を有することを特徴とするステント搬送用カテーテルシステムを提供した。
【0016】
これによれば、病変部にステントを配置する際に、前記ステント保持部に対し相対的に前記管腔内ステントを遠位側に移動させるのに術者が要する力が低く、ステントのジャンピングを防止することが可能なステント搬送用カテーテルシステムを提供することができる。
特に、表面粗さを調整することで、前記ステント保持部の内腔部を構成する内壁と管腔内ステントとの接触面積を減らすことにより、動摩擦抵抗に比べ、静摩擦抵抗を大きく低減することができ、管腔内ステントを留置する際の、最初に動き出す時の操作する力が低減することから、術者は過剰な力を必要とせずステントを留置することが可能となる。
また、前記ステント保持部の前記内壁の管腔内ステントと接触する面の一部分のみ表面抵抗値を下げることで、管腔内ステントが移動を始める時の抵抗値を下げつつ、管腔内ステントの長さが変化しても、前記ステント保持部に対し相対的に前記管腔内ステントを遠位側に移動させるのに術者が要する力が同等なステント搬送用カテーテルシステムを提供することができる。
また、管腔内ステントの長さに合わせ、前記ステント保持部の前記内壁の表面抵抗を下げた部分の長手方向長さを調整することで、管腔内ステントの長さに依存しない動作抵抗を得ることが可能となるため、より安全で効率的にステントのジャンピングを防止することが可能なステント搬送用カテーテルシステムを提供することができる。
【0017】
本発明では、前記静摩擦係数の異なる2以上の部分のうち、少なくとも1つの部分が静摩擦係数の小さい部分としてブラスト処理されていてもよい。
【0018】
本発明では、前記ブラスト処理されている部分が、ステント保持部と管腔内ステントとの接触部分における近位側部分に配置されていてもよいし、前記ブラスト処理されている部分が、ステント保持部と管腔内ステントの接触部分における遠位側部分に配置されていてもよい。
【0019】
本発明では、前記静摩擦係数の異なる2以上の部分のうちの最も静摩擦係数の小さい部分の長さが、管腔内ステントの長さに応じて調整され、前記管腔内ステントと前記ステント保持部の前記内壁との静摩擦抵抗が前記ステントの長さに関わらず、一定になるように調整されていてもよい。
【0020】
また、本発明者は、
サイズの異なる管腔内ステントと、該管腔内ステントの各サイズに対応したステント搬送用カテーテルとの組合せからなる、複数のステント搬送用カテーテルシステムを含んで構成されるステント搬送用カテーテルシステム群において、
前記複数のステント搬送用カテーテルシステムは、それぞれ請求項1〜4の何れか1項に記載のステント搬送用カテーテルシステムであると共に、
該ステント搬送用カテーテルシステムの前記静摩擦係数の異なる2以上の部分の各長さが調整されることで、各ステント搬送用カテーテルシステムの管腔内ステントとステント保持部の内壁との静摩擦抵抗が一定とされている
ことを特徴とするステント搬送用カテーテルシステム群を提供した。
【0021】
本発明では、前記静摩擦係数の異なる2以上の部分のうち、最も静摩擦係数の大きい部分の静摩擦係数をμ1、μ1以外の静摩擦係数を有する部分の静摩擦係数をμn+1(但し、nは1以上の整数である。)、ステントの長さをL1、静摩擦係数がμn+1である部分の長さをLn+1、前記ステント保持部の前記内腔部の内径をR、ステント搬送用カテーテルシステム群毎に定められる定数(静摩擦抵抗)をPとした時に、下記式(1)で表される関係式を満たすように各長さLn+1が設定されていてもよい。
【0022】
【数1】

【0023】
(式(1)中、πは円周率であり、μn>μn+1、n:1以上の整数である。)
【0024】
本発明では、前記最も静摩擦係数の小さい部分がブラスト処理により形成されてもよい。
【0025】
また、本発明者は、
第1の直径から第2の直径に自己拡張する略管状体の管腔内ステントを管腔内の目的の位置に搬送するための、手元部と遠位部を有するステント搬送用カテーテルの製造方法であって、
前記ステント搬送用カテーテルは、その遠位部に配された、前記管腔内ステントを第1の直径に保持するための内腔部を有する筒状のステント保持部と、該ステント保持部に対し相対的に前記管腔内ステントを遠位側に移動させる機構とを有しており、
前記ステント保持部の内腔部を構成する内壁の表面に静摩擦係数の異なる2以上の部分を形成することを特徴とするステント搬送用カテーテルの製造方法を提供した。
【0026】
本発明では、前記静摩擦係数の異なる2以上の部分のうち、少なくとも1の部分をブラスト処理により形成してもよい。
【0027】
また、本発明者は、
サイズの異なる管腔内ステントと、該管腔内ステントの各サイズに対応したステント搬送用カテーテルの組合せからなる、複数のステント搬送用カテーテルシステムを含んで構成されるステント搬送用カテーテルシステム群の製造方法であって、
前記サイズの異なる管腔内ステントは、それぞれ第1の直径から第2の直径に自己拡張する略管状体であり、
前記複数のステント搬送用カテーテルは、それぞれ、その遠位部に配された、前記管腔内ステントを対応する第1の直径に保持するための内腔部を有する筒状のステント保持部と、該ステント保持部に対し相対的に前記管腔内ステントを遠位側に移動させる機構とを有し、
前記ステント保持部は、前記管腔内ステントを前記内腔部に配置して第1の直径に保持した状態において、前記内腔部を構成する内壁における前記管腔内ステントとの接触部分に静摩擦係数の異なる2以上の部分を有しており、
前記複数のステント搬送用カテーテルシステムにおいて、それぞれの管腔内ステントとステント保持部の内壁との間で生じる静摩擦抵抗が一定となるように、前記静摩擦係数の異なる2以上の部分の各長さを調整して設けることを特徴とするステント搬送用カテーテルシステム群の製造方法を提供した。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、病変部にステントを配置するため、ステント保持部に対し相対的に管腔内ステントを遠位側に移動させる操作をする際に、過剰な力を必要とせず、安定して、操作することができる。また、サイズの異なるステントを配置する時にも、術者が操作する力がほぼ一定となることから、術者が意図した操作が行えるようになり、安全に手技を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のステント搬送用カテーテルシステムの実施形態の一例において、管腔内ステント2の一部が拡張している状態を示す断面図である。
【図2】(a)本発明のステント搬送用カテーテルシステムに使用可能な管腔内ステント2の一例を示した斜視図である。(b)図2(a)に示す管腔内ステント2を展開した時の一部分を示す部分展開図である。
【図3】(a)ステント保持部の実施形態の一例を示す部分拡大図である。(b)ステント保持部の他の実施形態の一例を示す部分拡大断面図である。
【図4】引っ張り・圧縮試験機を用いたステントジャンピング評価方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明に係るステント搬送用カテーテルシステムの実施形態について説明するが、本発明はこれら特定の例に制限されるものではない。
【0031】
本発明のステント搬送用カテーテルシステムは、第1の直径から第2の直径に自己拡張する略管状体の管腔内ステントと、該管腔内ステントを管腔内の目的の位置に搬送するための、手元部と遠位部を有する、ステント搬送用カテーテルとを備え、前記ステント搬送用カテーテルは、その遠位部に配された、前記管腔内ステントを第1の直径に保持するための内腔部を有する筒状のステント保持部と、該ステント保持部に対し相対的に前記管腔内ステントを遠位側に移動させる機構と、を有し、前記ステント保持部は、前記管腔内ステントを前記内腔部に配置して第1の直径に保持した状態において、前記内腔部を構成する内壁における前記管腔内ステントとの接触部分に静摩擦係数の異なる2以上の部分を有することを特徴としている。
【0032】
これにより、管腔内ステントを目的の位置に留置する際に、該ステント保持部に対し相対的に前記管腔内ステントを遠位側に移動させるのに必要となる負荷(力)を低減することができる。
また、管腔内ステントのサイズに関わらず、一定の負荷(力)でステント保持部に対し相対的に管腔内ステントを遠位側に移動することが可能な複数のステント搬送用カテーテルシステムからなるステント搬送用カテーテルシステム群を提供することができる。
以上のことから、術者の意図に反して、前述したような管腔内ステントのジャンピング現象が生じることを低減することができる。
【0033】
ここで、ステント搬送用カテーテルシステム群とは、サイズの異なる管腔内ステントと、この各サイズに対応したステント搬送用カテーテルの組合せからなる、複数のステント搬送用カテーテルシステムを含んで構成されるもので、特に1つに纏めて販売されるセットに限定されることなく、ある一連の用途に対し、更にサイズの異なる管腔内ステントに対して製造してメーカー、或いは代理店に取り揃えられる、一連のステント搬送用カテーテルシステムを意味する。
【0034】
図面を用いて、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明のステント搬送用カテーテルシステムの実施形態の一例において、自己拡張型の管腔内ステント2を移動させ、管腔内ステント2の一部が拡張している状態を示す断面図である。本例のステント搬送用カテーテルシステム10は、管腔内ステント2と、ステント搬送用カテーテル20とから構成される。ステント搬送用カテーテル20は、カテーテル本体1(シースともいう。)と、後述する機構を構成するステント操作体30とを有する。
【0035】
カテーテル本体1(シース)は、全長に亘り中空のルーメン11を有しており、生体内管腔内に挿入可能な細長い形状を有し、かつ、可撓性を有している。また、ステント搬送用カテーテル20の遠位部、即ちカテーテル本体1の遠位部には、管腔内ステント2を第1の直径に保持するための内腔部3aを有する筒状のステント保持部3が形成されている。更にステント保持部3の内腔部3aには、特に管腔内ステント2を配置した状態において、ステント保持部3の内腔部3aを構成する内壁3bにおける管腔内ステント2との接触部分に静摩擦係数の異なる2つの部分、例えばブラスト処理されている部分4(表面が荒くなっている)と、ブラスト処理されていない部分5が設けられている。尚、静摩擦係数の異なる2つの部分は、ブラスト処理の有無のみにより形成されるものではなく、その他の構成を採用しても良い。
【0036】
本実施形態では、ステント保持部3は、カテーテル本体1の遠位部に一体的に設けられているが、別部材により構成し、接着剤や溶着などの方法により接合しても良い。また、本実施形態では、ルーメン11の遠位部が内腔部3aでもある。尚、図3(a)には、図1に示す実施形態において、管腔内ステント2の全体が内腔部3aに配置されている状態のカテーテル本体1の遠位部の拡大図を示した。図3(a)中、図1における部材などと同一の部材などには同じ符号を付した。
【0037】
また、カテーテル本体1の近位側端部には、管腔内ステント2を目的部位に配置する際にカテーテル本体1の近位側を術者が把持し易くすることなどを目的として、シースコネクタ12を設けている。本例では、シースコネクタ12は略Y字状の分岐構造を有しており、それぞれの分岐部が、ルーメン11に連通する中空部を有している。一方は、例えばステント操作体30を挿通するための挿通ルーメン12aであり、他方は、所望の液体をルーメン11内に注入するためのフラッシュルーメン12bである。
【0038】
また、ステント操作体30は、カテーテル本体1に形成されたルーメン11内に挿通される内側管状部材8、内側管状部材8上であって管腔内ステント2の近位側に配置され、管腔内ステント2の近位側端部に当接し、これをカテーテル本体1の遠位側に向かって相対的に押す近位部ストッパー6、内側管状部材8の遠位側の先端に配置されるチップ7、カテーテル本体1の近位側端部に設置され、近位部ストッパー6のカテーテル本体1の軸方向に対する相対的な移動を操作する操作部材9を有して構成されている。
【0039】
以下、これらの各構成要素について順次説明する。
【0040】
ステント保持部3には、通常、略円筒状の管腔内ステント2が縮径状態で収納されている。この縮径状態の管腔内ステント2の直径が第1の直径にあたり、管腔内を移動可能な直径ともいえる。管腔内ステント2は、例えば血管の狭窄部を拡張させて治療する、セルフエクスパンダブルステントであり、ステント保持部3による規制が解除されると、その内径がステント保持部3の外径以上となるように拡径する。この拡径した状態の管腔内ステント2の直径が第2の直径にあたり、管腔内に留置可能な直径ともいえる。
【0041】
本発明のステント搬送用カテーテルシステムでは、各種セルフエクスパンダブルステントを使用することが可能である。図2(a)は、本実施形態において使用可能な管腔内ステントの一例において、その拡径した状態を示す斜視図であり、図2(b)は、図2(a)に示す管腔内ステント2を展開した時の一部分を示す部分展開図である。図2の例では、管腔内ステント2は周方向に形成された略波形構成要素204が軸方向に(波を重ねる様に)複数連続することによって構成され、また略波形構成要素204はストラット201によって構成される。また、複数の略波形構成要素204同士は、規則的に配されるストラット201により構成される連結部201aにより連結されている。管腔内ステント2の第2の直径である拡径時の外径203、及び軸方向長さ202は、病変部管腔の内径及び長さに合わせて選択されるもので、治療目的とする管腔により異なるが、例えば浅大腿動脈用のステントを例に挙げると、外径203は6.0mm〜10.0mm、軸方向長さ202は30mm〜200mm、略波形構成要素の軸方向長さ205は、1〜10mm程度に設定されていることが好ましい。また、頸動脈用のステントでは、外径203は4〜12mm、軸方向長さ202は20〜80mm程度に設定されていることが好ましい。尚、各用途を問わず一般に、第1の直径は、第2の直径の10〜50%程度に縮径されたものである。
【0042】
本発明において使用する管腔内ステントは、各種材料を使用し、更に各種方法で製造することが可能であるが、特に超弾性金属を用いて形成することが好ましく、例えばニッケルチタン合金のパイプにレーザーカットを施したものを、拡径し、熱処理して形成したものが好ましく用いられる。特に超弾性金属は、無負荷状態の形状から大きく変形する場合、オーステナイト相からマルテンサイト相に相変化する部分を有する。この相変化の間、応力−歪み曲線はプラトーを示す。そのため、超弾性金属が相変化を起こす間、負荷を最小限に増やすだけで大きく変形できることが可能となる。従って、例えば本実施形態の場合、管腔内ステント2を第2の直径から変形して第1の直径に保持する場合でも、ステント保持部3の内壁3bの表面と管腔内ステント外表面との間に生ずる応力は、各サイズの管腔内ステントの第1および第2の直径の影響を殆ど受けることがないようにすることが可能である。
【0043】
ステント保持部3は、挿入する管腔に追従可能な柔軟性、及び耐キンク性を有していると共に、カテーテル本体1を手技中に引っ張った際に伸びない程度の引っ張り強度を有していることが好ましい。更に、ステント保持部3の内腔部3aを構成する内壁3bの表面(内周面)は、ステント保持部3を管腔内ステント2に対して移動させる(即ち、ステント保持部3に対し相対的に管腔内ステント2を移動させる)ときに、その内周面に接触している管腔内ステント2との摺動抵抗が減少し、ステント保持部3の管腔内ステント2に対する相対的な移動操作を容易に行うことができるよう、低摩擦性を有していることが好ましい。
【0044】
ステント保持部3は、上記の柔軟性、耐キンク性、引っ張り強度、低摩擦性についての特性を満たす観点から、フッ素樹脂(PTFE、PFA等)、ポリエチレン等などの低摩擦材料を用いてチューブ状に形成することが好ましい。また、当該ステント保持部3の他の実施形態としては、図3(b)に示すように、外層301、内層303が樹脂材料で形成されており、外層301、内層303の間に金属素線302(補強層)を埋め込んだ三層の樹脂−金属複合チューブで形成されていることが、上記の観点から、より好ましい。
尚、上記の各実施形態の構成は、ステント保持部3のみにおいて採用しても良いし、カテーテル本体1全体において採用しても良い。
【0045】
図3(b)に示すステント保持部3の他の実施形態について説明する。
外層301の構成材料としては、例えばポリエチレン、フッ素樹脂(PTFE、PFA等)、ポリアミド、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン等の各種弾性樹脂材料が挙げられる。
【0046】
金属素線302(補強層)の構成材料としては、例えばステンレス鋼、ニッケルチタン合金、タングステン、金、白金等の各種金属材料が挙げられる。また、この金属素線は編組構造若しくはコイル構造でステント保持部3の近位端から遠位端まで形成されていることが好ましい。
【0047】
内層303の構成材料としては、例えばフッ素樹脂(PTFE、PFA等)、ポリエチレン等の低摩擦材料が挙げられる。また、ステント保持部3の内層303により構成される内壁の表面には、符号304および305でそれぞれ示される、表面粗さ調整部分1および表面粗さ調整部分2が設けられる。両者は、異なる静摩擦係数を有するように調整される。
【0048】
再度図1および図3(a)に示す実施形態に戻り、本発明の実施形態の一例について説明する。
ステント保持部3は、管腔内ステント2の全体を内腔部3aに配置している状態で、ステント保持部3の内壁3bにおける管腔内ステント2との接触部分に静摩擦係数の異なる2以上の部分を有している。これにより、カテーテル本体1(シース)を近位側に引く力(言い換えれば、ステント保持部3に対し相対的に管腔内ステント2を遠位側に移動させる際に必要な力)を低減することが可能となる。また、このように特定部分に静摩擦係数の異なる2以上部分を有しており、それらを調整して、容易に静摩擦抵抗が一定になるようにすることが可能なことから、後述するように、管腔内ステント2のサイズに関わらず、一定の力でカテーテル本体1(シース)を引くことが可能となる複数のステント搬送用カテーテルシステムからなるステント搬送用カテーテルシステム群を提供することが可能となる。
【0049】
本発明において、前記の静摩擦係数の異なる2以上の部分を設ける方法としては、特に限定はなく、ステント保持部の内壁の表面を、ヤスリによる研磨処理、化学エッチング処理、ブラスト処理などにより処理して、粗面を形成したり、ステント保持部を成形する際に、金型の表面に予め粗面加工を施して、ステント保持部の内壁表面に転写させて、粗面を形成したりしてもよい。その中でも、ステント保持部3の内壁3bの表面(内面)における管腔内ステントとの接触する部分の一部をブラスト処理することが、簡便に形成することができ、更にステントとの接触で被覆が剥がれる様なこともない点で好ましい。これにより、ブラスト処理されている内壁3bの表面が粗され、処理されていない部分に対して更に低摩擦性を付与することができ、結果として静摩擦係数の異なる2以上の部分を設けることが可能となる。尚、静摩擦係数は、処理する程度を調整することで制御可能であるため、静摩擦係数の異なる3以上の部分を設けることも可能である。
【0050】
ステント保持部3の内面にブラスト処理する方法としては、例えばCOMCO社製マイクロブラスター装置を用い、内面処理用のブラストノズルを取り付け、プログラミングによってブラスト処理するステント保持部3の軸方向の長さを調整して行うことができる。また、ブラスト処理する部分は、ステント保持部3と管腔内ステント2の接触部分に対して、どのように配置しても良く、当該接触部分の近位側部分または遠位側部分に配置しても良いし、当該接触部分において、ブラスト処理する部分としない部分が交互に存在するように配置しても良いし、その他の配置を採用しても良い。
【0051】
尚、ステント保持部3の近位側をブラスト処理した場合は、近位側の静摩擦抵抗が低下し、ステント保持部3の近位側より遠位側の静摩擦抵抗を相対的に高く保つこができる。その為、管腔内ステント2が放出される際に管腔内ステント2の遠位側が飛び出しにくく、ジャンピング現象を防止しやすい場合がある。このような観点からは、ステント保持部3と管腔内ステント2の接触部分における近位側部分にブラスト処理した部分を配置することが好ましい。
【0052】
一方、ステント保持部3の遠位側をブラスト処理した場合は、遠位側の摩擦抵抗が低下し、ステント保持部3の遠位側より近位側の摩擦抵抗を相対的に高く保つこができる。その為、管腔内ステント2をステント操作体30を用いてステント保持部3に対して相対的に移動させる際に、その移動開始時にある程度の抵抗を付与することで、管腔内ステント2のステント保持部3からの不意の飛び出しを防止することができる。例えば、通常、短いステントの場合にジャンピング現象を生じやすいが、このように遠位側をブラスト処理することにより、管腔内ステント2は、その近位側で引っ掛かりやすくなり、ジャンピングを生じにくい傾向にある。このような観点からは、ステント保持部3と管腔内ステント2の接触部分における遠位側部分にブラスト処理した部分を配置することが好ましい。
【0053】
即ち、ステント保持部3に対し相対的に管腔内ステント2を移動させるのに要する術者の力が一定になるように、管腔内ステントのサイズに応じて、ブラスト処理する部分を決定することができる。
【0054】
本発明のステント搬送用カテーテルシステムは、管腔内ステントを目的の位置に留置する際に、ステント保持部に対し相対的に管腔内ステントを遠位側に移動する機構を有している。当該機構を構成する部材としては、例えば図1の実施形態の一例に示すように、カテーテル本体1に形成されたルーメン11内に挿通される内側管状部材8を有するステント操作体30を配置することが好ましい。本実施形態では、内側管状部材8は、カテーテル本体1の遠位側端部から近位側端部に亘り、ルーメン11内に配置されているが、遠位側部から、遠位側端部と近位側端部との間の任意の位置に亘るルーメン11内に配置されるようにしても良い。後者の場合は、カテーテル本体1の側壁にルーメン11と外部とを連通する貫通口を設けるとよい(図示せず)。
【0055】
内側管状部材8は、挿入する生体内管腔に追従する程度の柔軟性、及び耐キンク性、カテーテルを手技中に引っ張った際に伸びない程度の引っ張り強度を有していることが好ましく、内側管状部材8の構成材料として、例えばポリエチレン、フッ素樹脂(PTFE、PFA等)、ポリアミド、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン等の各種弾性樹脂材料が挙げられる。
【0056】
また、本例では、内側管状部材8の遠位側には、管腔内ステント2の近位側に配置され、管腔内ステント2の近位側端部に当接し、これをカテーテル本体1の遠位側に向かって相対的に押すことが可能な近位部ストッパー6を有している。近位部ストッパー6の形状としては、このような機能を発揮することができれば特に限定はなく、略円筒状、略多角形の筒状などの形状を適宜選択して内側管状部材8の外周に設ければ良が、管腔内ステント2の近位側端部の端面に一様に当接させる観点からは、略円筒状の形状が好ましい。近位部ストッパー6は、内側管状部材8と一体的に成形されていても良いし、別途成形した部材を内側管状部材8に対し接着若しくは溶着により接合してもよい。また、近位部ストッパー6の外径は、ステント保持部3の内径より小さく、ステント保持部3の内腔部3a内に第1の直径に保持されている管腔内ステント2の内径より大きいことが好ましい。これによって、近位部ストッパー6が管腔内ステント2の近位側端部の端面と確実に当接し、ステント保持部3に対し相対的に管腔内ステント2を遠位側に移動させること、即ちカテーテル本体1(シース)の管腔内ステント2に対する近位方向へのスライド、言い換えれば、管腔内ステント2のカテーテル本体1(シース)に対する遠位側へのスライドを、より効率的に行うことができ、管腔内ステント2をステント保持部3の内腔部3aから放出することができる。
【0057】
近位部ストッパー6の構成材料としては、金属、樹脂材料等が好適であり、例えばステンレス鋼、ニッケルチタン合金、コバルトクロム合金等の金属材料、ポリエチレン、フッ素樹脂(PTFE、PFA等)、ポリアミド、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン等の各種弾性樹脂材料が好ましい。
【0058】
また、近位部ストッパー6はX線不透過性の材料から構成され、X線不透過性マーカーとして機能することが好ましい。これによって、X線透視下で体内管腔内の病変部までステント搬送用カテーテル10を進めることができ、また、管腔内ステント2を目的の位置に配置するときに管腔内ステント2とカテーテル本体1の位置関係を確認することができるため、より安全で効率的に管腔内ステント2を目的の位置に搬送し、ステント保持部3から放出することができる。
【0059】
X線不透過性マーカーとしては、X線造影性物質、超音波造影性物質などの造影性物質などの造影性物質により形成される。マーカーの構成材料としては、例えば、金、白金、タングステン、タンタル、イリジウム、パラジウムあるいはそれらの合金、あるいは金−パラジウム合金、白金−イリジウム、NiTiPd、NiTiAu等が好適である。
【0060】
ここで、管腔内ステント2がステント保持部3の内腔部3aから放出させる機構を、図1および図3(a)の例をもとに簡単に説明する。
本例では、ステント搬送用カテーテルシステムを生体内管腔に挿入して、目的とする部位に到達する前は、管腔内ステント2は、図3(a)に示す位置に配置されている。そして、目的とする位置に到達すると、術者は、カテーテル本体1のシースコネクタ12と、ステント操作体30の操作部材9とを把持し、シースコネクタ12を手元側に向かって引くと同時に操作部材9を遠位側に向かって押す。その結果、ステント保持部3の内腔部3aに配されている管腔内ステント2の近位側端面と近位部ストッパー6の遠位側端面とが当接し、所定の静摩擦抵抗を越えると、管腔内ステント2がステント保持部3に対して相対的に遠位側に移動し、管腔内ステント2の遠位側から順次、ステント保持部3の内腔部3aから放出され、図1に示すように、放出された部分の管腔内ステント2は第1の直径から第2の直径に自己拡張していく。そして、最終的に管腔内ステント2の全体が放出され、第2の直径に自己拡張して、目的の部位に管腔内ステント2が留置される。
【0061】
また、図1の実施形態では、ステント搬送用カテーテルシステム10を病変部まで導くことを容易とする為に、ステント操作体30の遠位側から近位側に連通するルーメン8aを設け、ガイドワイヤーを挿入可能としているが、ルーメン8aを設けるか否かは、適宜選択することができる。
【0062】
本実施形態では、内側管状部材8の先端部には先端チップ7が配置されている。先端チップ7は別部材により作製して、接着、溶着などの方法により内側管状部材8の先端部に接合しても良いし、内側管状部材8と一体的に形成してもよい。先端チップ7によって、病変部(狭窄部)をステント搬送用カテーテルシステム10が通過し易くなる(即ち、ステント搬送用カテーテルシステム10を、管腔内ステント2を放出する位置まで到達させることが容易となる。)。
【0063】
先端チップ7は、挿入する生体内管腔に追従する程度の柔軟性、狭窄部を通過できる程度の長軸方向の剛性を有しているのが好ましく、先端チップ7の構成材料として、例えばポリエチレン、フッ素樹脂(PTFE、PFA等)、ポリアミド、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン等の各種弾性樹脂材料が挙げられる。
【0064】
また、先端チップ7は造影性を有していることが好ましい。これによって、カテーテル本体1、換言すればステント搬送用カテーテルシステム10の先端部を把握することができる。また、カテーテル本体1の先端部近傍に同じく造影性を有する部分(図示せず)を設けた場合は、操作部材9およびシースコネクタ12を操作して、カテーテル本体1(シース)をステント操作体30に対して相対的に手元側に引いた際に、先端チップ7とカテーテル本体1の先端部の位置関係を把握可能なため、ステント保持部3に対する管腔内ステント2の相対的な位置を把握することができる。造影性を付加する場合は、先端チップ7に用いる前記の樹脂材料等に硫酸バリウム、ビスマス化合物、タングステン化合物等が含有させると良い。
【0065】
本発明では、サイズの異なる管腔内ステントについて、各管腔内ステントのサイズに対応する各ステント搬送用カテーテルを作製し、それぞれ組合せて、前述の静摩擦抵抗が一定であるステント搬送用カテーテルシステムを複数作製し、これらのステント搬送用カテーテルシステムを用いて、ステント搬送用カテーテルシステム群を構成することができる。当該ステント搬送用カテーテルシステム群に含まれる管腔内ステントのサイズの種類は、2種以上であればよく、かつ、同一サイズの管腔内ステントを用いたステント搬送用カテーテルシステムを複数含んでいても良い。また、ステント搬送用カテーテルシステム群を構成するステント搬送用カテーテルシステムの静摩擦抵抗は全て一定であることが好ましい。
【0066】
上記のように、前述の静摩擦抵抗が一定となるように、複数のステント搬送用カテーテルシステムを作製するに際し、ステント保持部の内周面における静摩擦係数の異なる2以上の部分を調整する方法は、以下のような方法である。
【0067】
即ち、前記静摩擦係数の異なる2以上の部分のうち、最も静摩擦係数の大きい部分の静摩擦係数をμ1、μ1以外の静摩擦係数を有する部分の静摩擦係数をμn+1(但し、nは1以上の整数である。)、ステントの長さをL1、静摩擦係数がμn+1である部分の長さをLn+1、前記ステント保持部の前記内腔部の内径をR、ステント搬送用カテーテルシステム群毎に定められる定数(静摩擦抵抗)をPとした時に、下記式(1)で表される関係式を満たすように各長さLn+1が設定される。
【0068】
【数2】

【0069】
(式(1)中、πは円周率であり、μn>μn+1、n:1以上の整数である。)
【0070】
上記式(1)において、各静摩擦係数は、ステント保持部の内表面全体を所定の方法で粗面にして、後述する静摩擦抵抗を測定することにより算出することができる。また、静摩擦抵抗Pは、ステント保持部全体を静摩擦係数がμ1である場合の静摩擦抵抗と静摩擦係数がμn+1の場合のそれとの間の値で任意に特定値に設定することができる。また、ステント保持部の内径R、および、管腔内ステントの長さL1は、管腔内ステントを留置する目的部位により、一義的に確定する。そして、式(1)の関係が成立するように、Ln+1が設定される。
【0071】
図3(a)をもとに、前記式(1)のnが1である場合について、具体的に説明する。以下では、ステント保持部3の内周面に対する処理方法として、ブラスト処理を行う場合を例に説明するが、他の方法を用いても同様にして行うことができる。
また、下記の例では、ブラスト処理を行う部分と行わない部分により、静摩擦係数の異なる部分を設けているが、上記のように、静摩擦係数が異なるようにブラスト処理を行って、ステント保持部3の内周面と管腔内ステント2の外周面との接触部分において異なる静摩擦係数を有するようにしても良い。
【0072】
図3(a)に示すように、あるサイズの管腔内ステント2をステント保持部3の内腔部3aに配置している状態において、ステント保持部3の内壁3bにおける管腔内ステント2の外周面との接触部分中のブラスト処理されている長さL2は、管腔内ステント2の長さL1に係わらず一定に静摩擦抵抗Pを得ようとした場合、ステント保持部3におけるブラスト処理されていない部分5の静摩擦係数μ1とブラスト処理された部分4の静摩擦係数μ2、ステント長さL1、ステント保持部3の内径Rから、以下の関係式(2)が成立するようにして決定することができる。下記関係式(2)は、上記式(1)(n=1の場合)から導出したものである。但し、ステント保持部3に管腔内ステント2全体を配置している状態において、ステント保持部3の内壁3aにおける管腔内ステント2と接触していない部分(非接触部分)にもブラスト処理を施しておくことが可能であるが、L2には、この非接触部分の長さは含まないものとする。
2=(L1μ1−P/πR)/(μ1−μ2) (2)
(但し、μ1>μ2
【0073】
尚、本例の場合、静摩擦抵抗Pは、後述する方法により測定して求めることができる。
また、上記式(1)において、各静摩擦抵抗(μn、nは1以上の整数)は、ステント保持部の内壁の表面全体が、一様に各静摩擦抵抗を有するようにして、後述する方法により静摩擦抵抗Pを測定して算出される値である。
本例の場合、静摩擦係数μ1は、ブラスト処理未実施部分のみからなるステント保持部3を用いて、後述する方法により静摩擦抵抗を測定した時に、上記関係式(1)から算出される値である。但し、この時、Ln+1=μn+1=0(但し、nは1以上の整数)である。
また、静摩擦係数μ2は、ブラスト処理実施部分のみからなるステント保持部3を用いて、静摩擦係数μ1算出の場合と同様にして、後述する方法により静摩擦抵抗を測定した時に、上記関係式(1)から算出される値である。
【0074】
サイズの異なる管腔内ステントと、この各サイズに対応したステント搬送用カテーテルの組合せからなる、複数のステント搬送用カテーテルシステムを含んで構成されるステント搬送用カテーテルシステム群において、静摩擦係数の異なる2以上の部分の各長さを調整することで、ステント搬送用カテーテルシステムの管腔内ステントとステント保持部内壁との静摩擦抵抗が一定とされたステント搬送用カテーテルシステム群を得ることができる。例えば、ステント搬送用カテーテルシステム群を構成するステント搬送用カテーテルシステムの静摩擦抵抗を全て一定とする際に好適である。
【0075】
管腔内ステントのサイズは、第2の直径、長さの2つのパラメータがあり得るが、静摩擦抵抗については、接触面積との関係では、長さ方向の影響が支配的であるため、長さL2を調整することで、静摩擦抵抗を一定にすることができる。
【0076】
より具体的には、静摩擦係数の異なる2以上の部分がブラスト処理された部分とブラスト処理されていない部分を有している場合、上記式中の静摩擦抵抗Pを群毎に定めた定数Pとすることで、サイズの異なる管腔内ステントと、この各サイズに対応したステント搬送用カテーテルの組合せからなる複数のステント搬送用カテーテルシステムを上記式を満たす様にブラスト処理されている長さL2を設定して製造することで、管腔内ステントとステント保持部内壁との静摩擦抵抗が一定とされているステント搬送用カテーテルシステム群を得ることができる。
尚、ステント搬送用カテーテルシステム群を構成する各ステント搬送用カテーテルシステムの静摩擦抵抗は、後述する測定方法により測定される静摩擦抵抗の値が、その群の平均値±20%の範囲にあると、一定と判断される。平均値±10%の範囲にあると、より好ましい。
【0077】
上記式中で使用される各変数の一般的な値を以下に挙げる。管腔内ステント2の長さL1としては、一般的に30mm〜200mmが選択されることが多い。また、静摩擦係数μ1は一般に押出成形で作製された場合、0.01〜0.1N/mm2となり、ブラスト処理された表面の静摩擦係数μ2は、0.005〜0.05N/mm2程度となる。
【実施例】
【0078】
以下に、本発明に係るステント搬送用カテーテルシステム及びステント搬送用カテーテルシステム群を、実施例を用いて説明するが、本発明は、この具体的な構造に限定されるものではない。
【0079】
(比較例1)
カテーテル本体を、外層にはポリアミドエラストマー、内層にはPTFE、補強層にステンレス鋼からなる編組構造を配置して作製した(図3(b)に示す構造)。カテーテル本体の内径Rは、1.76mm(外径2mm)とした。
ステント操作体の構造は図1に示したものを作製し、その各構成部材の材料は次のとおりとした。内側管状部材、先端チップの構成材料にはポリアミドエラストマーを用いた。近位部ストッパーには白金を用いた。操作部材の構成材料にはステンレス鋼を用いた。
これらを図1に示した構造に組み立てて(但し、管腔内ステント、カテーテル本体、ステント保持部の各構成は除く。)、ステント搬送用カテーテルを形成した。カテーテル本体の遠位側で、下記管腔内ステントを配置する部分がステント保持部にあたる。また、ステント保持部の内周面の静摩擦係数は、前記関係式(1)および後述する静摩擦抵抗の測定結果より算出し、0.04N/mm2であった。また、管腔内ステントとの接触部分の静摩擦係数は一様である。
管腔内ステントは、セルフエクスパンダブルタイプのステントを用いた。この管腔内ステントは外径φ2.2mmのニッケルチタン合金のパイプをレーザーカットし、外径がφ8mmになるまで拡張させて熱処理を施したものを使用した。尚、管腔内ステントの自己拡張した時の最大外径はφ8mm、軸方向の長さ(L1)は50mmと80mmの2種類とした。
このようにして作製した管腔内ステントを前記のようにして作製したステント搬送用カテーテルにクリンピングさせ、ステント搬送用カテーテルシステムおよびステント搬送用カテーテルシステム群を作製した。
【0080】
(参考例)
ステント保持部の管腔内ステントとの接触部分全面にブラスト処理を施した以外は、比較例1と同様にしてステント搬送用カテーテルシステムおよびステント搬送用カテーテルシステム群を作製した。ブラスト処理を施した部分の静摩擦係数は、前記関係式(1)および後述する静摩擦抵抗の測定結果より算出し、0.02N/mm2であった。
【0081】
(実施例1)
ステント保持部の管腔内ステントとの接触部分に下記のようにしてブラスト処理を施した以外は、比較例1と同様にしてステント搬送用カテーテルシステムおよびステント搬送用カテーテルシステム群を作製した。
比較例1および参考例の各ステント搬送用カテーテルシステムを後述するように評価を行って静摩擦抵抗を求め、その結果を基に、長さが50mmと80mmの各管腔内ステントと、ステント保持部との静摩擦抵抗を一定とする為に、ステント保持部の管腔内ステントとの接触部分に静摩擦係数の異なる2つの部分を設けた。即ち、長さ50mmの管腔内ステントでは、ステント保持部の内壁における管腔内ステントとの接触部分のうちの遠位側に、長さ(L2)10mmの部分の内周面全体にブラスト処理を行った。また、長さが80mmの管腔内ステントでは、接触部分のうちの遠位側に、長さ(L2)70mmの部分の内周面全体にブラスト処理を行った。ブラスト処理を行った部分の静摩擦係数(μ2)およびブラスト処理を行わなかった部分の静摩擦係数(μ1)は、それぞれ参考例および比較例1で算出した静摩擦係数と同等であることを確認した。
【0082】
(評価)
上記比較例1、参考例および実施例1に関して、以下の評価を実施した。
(1)ステント放出荷重評価(静摩擦抵抗の測定)
管腔内ステントをステント搬送用カテーテルから放出するときの、操作部材にかかる荷重評価を実施した。図4に示すように、引張圧縮試験機 ストログラフ(東洋精機製)の下チャック604にステント搬送用カテーテルシステム601の手元側部分を挟んで固定し、上チャック603で操作部材602を押して、管腔内ステント606を放出した。上チャック603の下降速度は200mm/minとした。ステント搬送用カテーテルシステム601の遠位側は37℃±2℃の温浴605に浸漬した。測定は、比較例1、実施例1および2のそれぞれについて、サンプル数を3本として行い、管腔内ステントが動き始める荷重値の平均値を求めた。この値を静摩擦抵抗Pとする。
【0083】
(評価結果)
評価結果をステント放出荷重として表1に示した。表1に示した様に、比較例1のステント放出荷重に対して、実施例1ではステント放出荷重が低くなった。また、実施例2では、ブラスト処理部分の長さを調整することで、ステント解放荷重がステントの長さに係わらず一定である(管腔内ステントとステント保持部内壁との静摩擦抵抗が一定とされた)ステント搬送用カテーテルシステムシリーズが形成できた。
【0084】
【表1】

【符号の説明】
【0085】
1 カテーテル本体
2 ステント
3 ステント保持部
4 ブラスト処理されている部分
5 ブラスト処理されていない部分
6 近位部ストッパー
7 先端チップ
8 内側管状部材
9 操作部材
201 ストラット
202 ステントの軸方向長さ
203 ステントの拡張後の外径
204 略波形構成要素
205 略波形構成要素の軸方向長さ
301 外層
302 補強層
303 内層
304 表面粗さ調整部分1
305 表面粗さ調整部分2
601 ステント搬送用カテーテルシステム
602 操作部材
603 上チャック
604 下チャック
605 温浴




【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の直径から第2の直径に自己拡張する略管状体の管腔内ステントと、該管腔内ステントを管腔内の目的の位置に搬送するための、手元部と遠位部を有する、ステント搬送用カテーテルとを備え、
前記ステント搬送用カテーテルは、
その遠位部に配された、前記管腔内ステントを第1の直径に保持するための内腔部を有する筒状のステント保持部と、
該ステント保持部に対し相対的に前記管腔内ステントを遠位側に移動させる機構と、を有し、
前記ステント保持部は、前記管腔内ステントを前記内腔部に配置して第1の直径に保持した状態において、前記内腔部を構成する内壁における前記管腔内ステントとの接触部分に、静摩擦係数の異なる2以上の部分を有することを特徴とするステント搬送用カテーテルシステム。
【請求項2】
前記静摩擦係数の異なる2以上の部分のうち、少なくとも1つの部分が静摩擦係数の小さい部分としてブラスト処理されている請求項1に記載のステント搬送用カテーテルシステム。
【請求項3】
前記ブラスト処理されている部分が、ステント保持部と管腔内ステントとの接触部分における近位側部分に配置されている請求項2に記載のステント搬送用カテーテルシステム。
【請求項4】
前記ブラスト処理されている部分が、ステント保持部と管腔内ステントの接触部分における遠位側部分に配置されている請求項2に記載のステント搬送用カテーテルシステム。
【請求項5】
前記静摩擦係数の異なる2以上の部分のうちの最も静摩擦係数の小さい部分の長さが、管腔内ステントの長さに応じて調整され、前記管腔内ステントと前記ステント保持部の前記内壁との静摩擦抵抗が前記ステントの長さに関わらず、一定になるように調整されている請求項1から4の何れか1項に記載のステント搬送用カテーテルシステム。
【請求項6】
サイズの異なる管腔内ステントと、該管腔内ステントの各サイズに対応したステント搬送用カテーテルとの組合せからなる、複数のステント搬送用カテーテルシステムを含んで構成されるステント搬送用カテーテルシステム群において、
前記複数のステント搬送用カテーテルシステムは、それぞれ請求項1〜4の何れか1項に記載のステント搬送用カテーテルシステムであると共に、
該ステント搬送用カテーテルシステムの前記静摩擦係数の異なる2以上の部分の各長さが調整されることで、各ステント搬送用カテーテルシステムの管腔内ステントとステント保持部の内壁との静摩擦抵抗が一定とされている
ことを特徴とするステント搬送用カテーテルシステム群。
【請求項7】
前記静摩擦係数の異なる2以上の部分のうち、最も静摩擦係数の大きい部分の静摩擦係数をμ1、μ1以外の静摩擦係数を有する部分の静摩擦係数をμn+1(但し、nは1以上の整数である。)、ステントの長さをL1、静摩擦係数がμn+1である部分の長さをLn+1、前記ステント保持部の前記内腔部の内径をR、ステント搬送用カテーテルシステム群毎に定められる定数(静摩擦抵抗)をPとした時に、下記式(1)で表される関係式を満たすように各長さLn+1が設定されている請求項6に記載のステント搬送用カテーテルシステム群。
【数1】

(式(1)中、πは円周率であり、μn>μn+1、n:1以上の整数である。)
【請求項8】
前記最も静摩擦係数の小さい部分がブラスト処理により形成される請求項7記載のステント搬送用カテーテルシステム群
【請求項9】
第1の直径から第2の直径に自己拡張する略管状体の管腔内ステントを管腔内の目的の位置に搬送するための、手元部と遠位部を有するステント搬送用カテーテルの製造方法であって、
前記ステント搬送用カテーテルは、その遠位部に配された、前記管腔内ステントを第1の直径に保持するための内腔部を有する筒状のステント保持部と、該ステント保持部に対し相対的に前記管腔内ステントを遠位側に移動させる機構とを有しており、
前記ステント保持部の内腔部を構成する内壁の表面に静摩擦係数の異なる2以上の部分を形成することを特徴とするステント搬送用カテーテルの製造方法。
【請求項10】
前記静摩擦係数の異なる2以上の部分のうち、少なくとも1の部分をブラスト処理により形成する請求項9記載のステント搬送用カテーテルの製造方法。
【請求項11】
サイズの異なる管腔内ステントと、該管腔内ステントの各サイズに対応したステント搬送用カテーテルの組合せからなる、複数のステント搬送用カテーテルシステムを含んで構成されるステント搬送用カテーテルシステム群の製造方法であって、
前記サイズの異なる管腔内ステントは、それぞれ第1の直径から第2の直径に自己拡張する略管状体であり、
前記複数のステント搬送用カテーテルは、それぞれ、その遠位部に配された、前記管腔内ステントを対応する第1の直径に保持するための内腔部を有する筒状のステント保持部と、該ステント保持部に対し相対的に前記管腔内ステントを遠位側に移動させる機構とを有し、
前記ステント保持部は、前記管腔内ステントを前記内腔部に配置して第1の直径に保持した状態において、前記内腔部を構成する内壁における前記管腔内ステントとの接触部分に静摩擦係数の異なる2以上の部分を有しており、
前記複数のステント搬送用カテーテルシステムにおいて、それぞれの管腔内ステントとステント保持部の内壁との間で生じる静摩擦抵抗が一定となるように、前記静摩擦係数の異なる2以上の部分の各長さを調整して設けることを特徴とするステント搬送用カテーテルシステム群の製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−65998(P2012−65998A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215337(P2010−215337)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】