説明

ステータの製造方法及びその方法に用いられる絶縁被覆電線

【課題】コアに電線を巻回して電線層を形成後その電線層をコア方向へプレスする工程を有するステータの製造方法であって、プレスの際の絶縁層の薄い部分の発生が抑制され、絶縁性能の低下や絶縁層の破壊が少ない製造方法、及びこの製造方法に用いられる絶縁被覆電線を提供する。
【解決手段】コア上に絶縁被覆電線を巻回して電線層を形成する巻回工程、及び前記電線層をコア方向にプレスする圧縮工程を有し、前記絶縁被覆電線が、導体線及びその導体線を被覆する絶縁層からなり、前記絶縁層が、前記プレスにより変形可能な材質からなり、かつ前記絶縁被覆電線の長手方向に垂直な断面において互いに対向する2つの厚層部を有し、前記巻回が、前記絶縁被覆電線の厚層部がコア方向に配向するように行われることを特徴とするステータの製造方法、及びこの製造方法に用いられる絶縁被覆電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のステータの製造方法、より詳細には、コア上に絶縁被覆電線を巻回する工程及び巻回により形成された電線層をコア方向にプレスする工程を有するステータの製造方法、及びこのステータの製造方法に用いられる絶縁被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機等の回転電機を、大型化することなく、より高出力化するためには、回転電機のステータを構成する電線を、コア上により密に巻回すること、すなわち電線間の間隙の減少が望まれる。そのため、電線を可能な限り密接して巻回する方法や、特にいわゆる整列巻の方法等が特開平7−183152号公報や特開2003−333782号公報等において種々提案されている。
【0003】
さらに、電線間の間隙を減少する方法として、コア上に電線を巻回し、電線の列からなる層を複数積層して電線層を形成後、その電線層を外側からコア方向、すなわち巻回の軸方向へプレスする方法も提案されている(特開2001−231223号公報)。
【特許文献1】特開平7−183152号公報
【特許文献2】特開2003−333782号公報
【特許文献3】特開2001−231223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このプレスの際、電線層内の各電線に加えられる応力は、その電線の断面における1方向において大きく他の方向へは小さい。電線は導体線とその周囲を被覆する絶縁層からなるが、この大きな応力により絶縁層が変形し絶縁層の薄い部分が生じる。特に、絶縁層がポリアミドイミドやポリイミド等からなる場合、これらは硬質の樹脂ではないのでプレス時の応力により変形しやすくこの問題が顕著である。絶縁層の薄い部分が生じると、絶縁性能が低下し、場合により絶縁層が破壊されて絶縁不良が生じ、回転電機として所定の出力が得られない場合がある。
【0005】
本発明は、コアに電線を巻回して電線層を形成後その電線層をコア方向へプレスする工程を有するステータの製造方法であって、プレスの際に絶縁層の薄い部分の発生が抑制され、絶縁性能の低下や絶縁層の破壊が少ない製造方法を提供することを課題とする。本発明は、さらにこの製造方法に用いられる絶縁被覆電線を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は検討の結果、絶縁被覆電線の断面の、プレスの際に大きな応力が負荷される側にある絶縁層を予め厚層にし、この厚層部をコアの方向、すなわちプレスの方向に配向させることにより、プレス時における絶縁層の薄い部分の発生を低減することができ、絶縁性能の低下や絶縁破壊等を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、その第1の態様として、コア上に絶縁被覆電線を巻回して電線層を形成する巻回工程、及び前記電線層をコア方向にプレスする圧縮工程を有するステータの製造方法であって、前記絶縁被覆電線が、導体線及びその導体線を被覆する絶縁層からなり、前記絶縁層が、前記プレスにより変形可能な材質からなり、かつ前記絶縁被覆電線の長手方向に垂直な断面において導体線の断面を挟んで互いに対向する2つの厚層部を有し、前記巻回が、前記絶縁被覆電線の厚層部がコア方向に配向するように行われることを特徴とするステータの製造方法(請求項1)を提供する。
【0008】
本発明は、また、その第2の態様として、導体線及びその導体線を被覆する絶縁層からなり、前記のステータの製造方法に用いられる絶縁被覆電線であって、前記絶縁層が、前記プレスにより変形可能な材質からなり、かつ前記絶縁被覆電線の長手方向に垂直な断面において導体線の断面を挟んで互いに対向する2つの厚層部を有することを特徴とする絶縁被覆電線(請求項2)を提供する。
【0009】
本発明の第1の態様に用いられる絶縁被覆電線、すなわち第2の態様の絶縁被覆電線は、従来技術のステータに用いられている絶縁被覆電線、いわゆるエナメル線等と同様に、導体線、及びその導体線を被覆する絶縁層からなる。絶縁層は巻回後のプレスにより変形可能な材質からなる。具体的には絶縁層としては、ポリアミド、ポリアミドイミドやポリイミド等からなる樹脂層を例示することができる。その絶縁層の平均の厚みや導体線の径等も従来のエナメル線と同様である。導体線の材質としては、銅、銅合金、銀等が挙げられる。
【0010】
この絶縁被覆電線は、前記絶縁層が、絶縁被覆電線の長手方向に垂直な断面において導体線の断面を挟んで互いに対向する2つの厚層部を有することを特徴とする。ここで厚層部とは、絶縁層の平均の厚さよりも厚い部分である。2つの厚層部が互いに対向する位置にあるとは、電線断面の中心を通る一直線上に2つの厚層部が乗ることを意味する。
【0011】
この絶縁被覆電線の製法は特に限定されない。例えば、導体線上に絶縁層を形成する樹脂を塗布後その固化前に、又は固化後加熱して樹脂を再び軟化させた後に、電線の外周の一定方向(両脇)を圧縮するようなローラ対間に電線を通して、そのローラにより圧縮された部分を薄膜化するとともに他の部分を厚層部とする方法が挙げられる。又、ローラ対の代わりに、電線をダイスに通して厚層部を形成する方法も挙げられる。
【0012】
本発明の製造方法では、前記本発明の絶縁被覆電線を用い、コア上へこの電線を巻回する際に、その厚層部がプレスの方向すなわちコア方向に配向するように巻回する点をその特徴とする。プレスの方向に配向するように電線を巻回する方法は特に限定されないが、例えば、コア等に巻付ける直前に電線の断面の向きを揃えるガイドを設けそのガイドに電線を通す方法や、厚層部を形成する手段、例えば前記のローラ対やダイスを、コア等に巻付ける直前に設ける方法等が挙げられる。これらの方法においては、電線の断面の向きを可能な限り正確に揃えるため、ガイドや、ローラ対、ダイスは、出来る限りコア等に近い位置に設けることが望まれる。
【0013】
本発明の製造方法における巻回工程及び圧縮工程は、以上の点以外は、従来のステータの製造方法と同様である。例えば、隣接する電線間に間隙を設けないようにコア上に巻付ける方法としては、前記の特許文献1〜3に記載する方法等公知の方法を採用することができる。圧縮工程におけるプレスの方法や条件も従来技術と同様な方法を用いることができ、例えば、フラットパンチ等を用いて行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のステータの製造方法は、コアに絶縁被覆電線を巻回して電線層を形成後その電線層をコア方向へプレスして電線間の間隙を減少する工程を有する方法であるが、従来問題であった、プレスの際の絶縁層の薄い部分の発生が抑制され、絶縁性能の低下や絶縁層の破壊の発生が少ない。このステータの製造方法は、本発明の絶縁被覆電線を用いて行うことができ、前記の優れた効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に発明を実施するための最良の形態を、図を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は、この形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の絶縁被覆電線の一例を模式的に示した模式断面図である。図1(a)の例の電線は、丸線(断面が円形の線)の導体線1の周囲に絶縁層2を有し、絶縁層2は、導体線1の断面を挟んで互いに対向する2つの厚層部3を有する。さらに絶縁層2は、厚層部3が互いに対向する方向(図中のaの方向)とは垂直方向(図中のbの方向)に互いに対向する2つの薄層部4を有する。ここで、薄層部とは、厚層部以外の部分、すなわち絶縁層の平均厚さより薄い部分を言う。
【0017】
厚層部3の最大厚みと薄層部4の最小厚みの比の範囲は特に限定されず、絶縁層の材質やプレスの際に各電線に加わる応力の大きさ等の条件により好ましい範囲は変動し、前記の各条件を考慮して適宜選択される。絶縁破壊や絶縁低下の抑制を有効に達成するためには、プレス後の厚層部3及び薄層部4が均一な膜厚になるような比が好ましい。
【0018】
図1(b)の例の電線は、断面が平角形状の導体線5とそれを被覆する絶縁層6よりなる。絶縁層6は、導体線5の断面を挟んで互いに対向する2つの厚層部7、及び厚層部7が対向する方向に対し垂直方向に対向する2つの薄層部8からなる。
【0019】
この例のように、本発明の絶縁被覆電線の断面形状は多角形であってもよい。断面が、多角形、特に平角形状の電線は、巻回後の電線間の隙間を低減させることが容易であるとともに、電線の巻回の際に、プレスの方向に電線の厚層部を確実に向けることも容易であるので好ましい。
【0020】
本発明の製造方法により製造されるステータは、少なくともその製造過程においては、絶縁被覆電線が巻回されるコアを有するものである。このようなステータとしては、例えば、ヨーク、つば、及びヨークとつばを結合するティースからなるコア、及びティースに電線を多層に整列巻してなる電線層(ソレノイド部)を有する分割ステータを、ヨークを外周側にして円環状に配置してなるステータが挙げられる。このステータは、磁束密度の増加と電線の巻回の容易化を図るため広く用いられており、その製造の際に圧縮行程が設けられることが多く、本発明の効果が特に期待されるステータである。以下、図によりこのステータをより具体的に説明する。
【0021】
図2(a)は、このステータにおいて、分割ステータがステータの中心Oの周りに円環状に配置されている様子を示す概念図である。図示を分かりやすくするため、分割ステータは、その1つであるAのみを示し、断面が円環状のステータそのものは点線で示している。又、分割ステータAは、コア15とそれに巻回されている電線よりなる電線層20からなるが、電線層20は網掛けで示し個々の電線等の図示は省略している。
【0022】
図2(b)は、ヨーク16とティース17とつば18からなるコア15の構造を示す斜視図である。この例では、コア15のティース17上にインシュレーターが装着され、さらにその上に本発明の絶縁被覆電線が巻回される。なお、図2(b)より明らかなように、ヨーク16はつば18より長いため、電線を互いに密接、整列させかつ隣接する分割ステータと干渉しない最大の範囲に巻回しようとすると電線層20の最外層は階段状になる(図4参照)。
【0023】
図3は、断面が図1(a)(又は図1(b))で示される電線21(本発明の絶縁被覆電線の一例)を、コア22に巻回する工程の一例を、概念的に示す説明図(断面図)である。コア22としては、前記図2(b)で示されるコア15と同様なものが用いられる。コア22は鉄等の磁性体からなり、この磁性体の芯の周囲、すなわち電線が巻回される部分の周りはインシュレーターで覆われているが、図中では、コア22の断面のみを概念的に表わし、芯、インシュレーターの図示は省略されている。
【0024】
図3に示すように、巻回は、コア22を駆動装置(図示されていない。)により時計回りに回転させながら電線21を巻付ける方法により行われる。巻回は、電線21の厚層部がプレスの方向に配向するように行われる。すなわち、コア22に向かう方向がプレスの方向であるので、図3中の矢印eの方向に厚層部が向く(すなわち、図1(a)の例での線aの方向が矢印eの方向と一致する)ように巻回される。
【0025】
厚層部を確実に矢印eの方向に向けるために、電線の向きを揃える手段24が設けられている。電線の向きを揃える手段24としては、厚層部を有する電線21の断面形状と同じ断面形状の貫通孔を有し、その貫通孔内を電線21が通ることにより電線21の向きを揃える器具や、電線21の断面形状の下側の半分の形状と適合し、この上を電線21が通ることにより電線21の向きを揃える器具が例示される。
【0026】
図3の例では、さらに、電線21を整列させて巻くための電線ガイド25が設けられている。電線ガイド25により電線21を整列させて巻くことにより電線21をより密接させて巻回することができる。
【0027】
図3の例では、電線21は、逆反りローラ23を通りコア22に巻回される際に曲げられる向きとは逆向きの反りを与えられてから巻回がされる。逆反りローラ23を通すことにより、いわゆる巻太りを抑制することができる。
【0028】
電線21の巻回後、巻回により形成された電線層は、電線間の間隙を減少するためにコア22の方向にプレスされる(圧縮工程)。図4は、コア22上に装着されたインシュレーター27の上に電線21が巻回された状態、及びこのプレスの様子を示す説明図(概念断面図)である。図4は、図2(a)のAのC−Cで区分けされた左右のいずれか一方を、紙面に水平方向に切断した図に相当する。
【0029】
図4中の26は、電線層をあらわし、図中のeの方向が厚層部の方向であり(図1(a)の電線を使用しているので、断面はeの方向を長径とする楕円となっている。)、矢印Pの方向がプレスの方向である。なお図4の例では、電線層26の最外層は階段状になっており、矢印Pの方向とeの方向は厳密にはずれているが、この程度のずれがあっても極端な薄膜部分は生じにくい。本発明におけるプレスの方向Pとeの方向が一致するとはこのような場合も含む意味である。
【0030】
プレスの方法やその条件は特に限定されず、従来技術と同様に電線層の形状、大きさや電線の径等に応じて好ましい方法や条件が適宜採用される。圧縮行程(プレス)により厚層部は薄膜化されるが、プレス前が厚いので、薄膜化されても絶縁破壊や絶縁低下が生じにくい。
【0031】
以上のようにして形成された分割ステータは、図2(a)に示されるように、多数(3相交流の回転電機の場合は3の倍数)同心円状に並列されて、回転電機のステータを形成する。なおつば部を有しないコアを用いる分割ステータにおいても、前記のコア22を用いる場合と同様に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の絶縁被覆電線の断面を、模式的に示した模式断面図である。
【図2】本発明により製造されるステータの一例であって、分割ステータが配置されている様子及びそのコアを示す概念図である。
【図3】本発明において、電線をコアに巻回する工程の一例を概念的に示す説明図である。
【図4】本発明において、コアに電線が巻回された状態、及びこのプレスの様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1、5 導体線
2、6 絶縁層
3、7 厚層部
4、8 薄層部
15、22 コア
16 ヨーク
17 ティース
18 つば
20、26 電線層
21 電線
23 逆反りローラ
24 電線の向きを揃える手段
25 電線ガイド
27 インシュレーター
P プレスの方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア上に絶縁被覆電線を巻回して電線層を形成する巻回工程、及び前記電線層をコア方向にプレスする圧縮工程を有するステータの製造方法であって、
前記絶縁被覆電線が、導体線及びその導体線を被覆する絶縁層からなり、
前記絶縁層が、前記プレスにより変形可能な材質からなり、かつ前記絶縁被覆電線の長手方向に垂直な断面において導体線の断面を挟んで互いに対向する2つの厚層部を有し、
前記巻回が、前記絶縁被覆電線の厚層部がコア方向に配向するように行われることを特徴とするステータの製造方法。
【請求項2】
導体線及びその導体線を被覆する絶縁層からなり、請求項1に記載のステータの製造方法に用いられる絶縁被覆電線であって、前記絶縁層が、前記プレスにより変形可能な材質からなり、かつ前記絶縁被覆電線の長手方向に垂直な断面において導体線の断面を挟んで互いに対向する2つの厚層部を有することを特徴とする絶縁被覆電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−104303(P2008−104303A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285413(P2006−285413)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】