説明

スパッタリング成膜装置

【課題】 立体形状や凹凸形状等の多様な表面形状を有する基材の全面に成膜ムラのない均一な膜厚の薄膜を容易にかつ無駄なく成膜することが可能なスパッタリング成膜装置を提供する。
【解決手段】 その内部を所定の真空状態で維持する真空チャンバ1と、該真空チャンバの内部で薄膜が成膜される基材を支持する板状の基材ホルダ8と、該基材ホルダと対向する前記真空チャンバ内の所定の位置に配置され前記成膜される薄膜の原料としての成膜物質を供給するターゲット部20aと、該ターゲット部からの前記成膜物質の供給量を制御するための制御部18a〜18d,19a〜19dとを備えるスパッタリング成膜装置100であって、前記ターゲット部が少なくとも3以上の板状のターゲット10a〜10dを有し、前記3以上のターゲットの各々の主面の法線が、前記基材ホルダの主面の法線に対して各々傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に薄膜を成膜する真空成膜装置に関し、特に、不活性ガスの衝突によりターゲットから叩き出した成膜物質を基材の表面に堆積させて薄膜を成膜するスパッタリング成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチック等の樹脂製基材やシリコンウエハー等の基材の表面に反射膜や導電膜等の薄膜を成膜するための真空成膜装置として、スパッタリング成膜装置が用いられている。
【0003】
スパッタリング成膜装置は、実質的に真空状態とされた真空チャンバの内部に放電用のアルゴンガス等の不活性ガスを導入しながら基材とターゲットとの間に直流高電圧を印加してグロー放電を発生させ、この直流高電圧の印加による放電により発生させたアルゴンイオンをターゲットに衝突させ、このアルゴンイオンの衝突により叩き出されたターゲット由来の成膜物質を基材の表面に堆積させて薄膜を成膜する、種々ある真空成膜装置の内の一種である。
【0004】
このスパッタリング成膜装置では、熱エネルギーを利用して蒸発源から成膜物質を蒸発させて薄膜を成膜する場合と異なり、アルゴンイオンの激しい衝突によって高エネルギー状態(例えば、上記蒸発の場合と比べて、約100倍の高エネルギー状態)の成膜物質がターゲットから叩き出される。そして、この叩き出された高エネルギー状態の成膜物質が基材の表面に激しく衝突しながら堆積することにより、基材の表面に所望の薄膜が良好に成膜される。この場合、上述したように、高エネルギー状態の成膜物質が基材の表面に激しく衝突しながら薄膜が成膜されるので、基材に対する密着性が優れた薄膜を得ることができる。そのため、スパッタリング成膜装置は、基材と薄膜との密着性が重視される用途において、従来から好適に用いられている。
【0005】
ここで、従来のスパッタリング成膜装置の構成と動作とについて、図面を参照しながら概説する。
【0006】
図5は、従来のスパッタリング成膜装置の構成を模式的に示す縦断図である。尚、図5では、スパッタリング成膜装置として、マグネトロン型のスパッタリング成膜装置を例示している。
【0007】
図5に示すように、従来のスパッタリング成膜装置300は、導電性部材からなる真空チャンバ1と、不活性ガスとしてのアルゴンガスを真空チャンバ1の内部に供給するためのAr供給装置2及び供給経路3と、真空チャンバ1の内部の空気を排気してその内部を実質的な真空状態にするための排気装置4及び排気経路5と、陰極として機能するカソード6と、このカソード6の裏面(つまり、真空チャンバ1の外部側の面)に配設された電磁石7と、真空チャンバ1の内部で基材9を所定の支持状態で支持するための基材ホルダ8とを有している。ここで、供給経路3及び排気経路5の各々は、真空チャンバ1の内部に連通している。
【0008】
上述したように、スパッタリング成膜装置300におけるカソード6は、マグネトロンスパッタの際の陰極として用いられる。図5に示すように、このカソード6は、その一部が真空チャンバ1の外部に突出しており、残りの部分が真空チャンバ1の内部に配置されている。又、このカソード6は、図5では特に図示しないが、所定の絶縁性部材を介して真空チャンバ1の壁部に気密に配設されている。従って、カソード6と真空チャンバ1とは、電気的に絶縁されている。そして、真空チャンバ1の内部では、このカソード6の表面に、マグネトロンスパッタのためのターゲット10が配設されている。ここで、このターゲット10は、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銅(Cu)等から選択された成膜物質によって構成されている。又、真空チャンバ1の外部では、上述したように、カソード6の表面に、マグネトロンスパッタのための電磁石7が配設されている。
【0009】
又、図5に示すように、電磁石7の特に図示しない電極は、所定の配線を介して、磁石電源11の特に図示しない出力端子に接続されている。この磁石電源11のオン・オフ制御は、磁石電源11に接続された制御装置12によって行われる。ここで、この電磁石7は、カソード6の形状に応じた形状にコイル(図示せず)を巻回して構成されている。例えば、この電磁石7は、カソード6の形状が円形であればリング状とされ、又、カソード6の形状が矩形であればトラック形状とされている。このような電磁石7は、ターゲット10の消耗した部分(エロージョン)の形状が均等になるように、カソード6の裏面に配設されている。
【0010】
又、図5に示すように、カソード6の真空チャンバ1から外部に突出する突出部には、導電性のケーブルの一端が電気的に接続されている。そして、このケーブルの他端は、直流高電圧を出力するDC電源13のマイナス端子に電気的に接続されている。又、DC電源13のプラス端子は、接地されている。ここで、真空チャンバ1、及び真空チャンバ1に電気的に接続されている基材ホルダ8は、各々接地されている。つまり、DC電源13のプラス端子と真空チャンバ1及び基材ホルダ8とは、相互に同電位とされている。かかる構成により、カソード6と真空チャンバ1との間に、電位差に応じた電界を形成することが可能とされている。
【0011】
一方、真空チャンバ1の内部に配設される基材ホルダ8の形状は、例えば、円板状の形状である。そして、真空チャンバ1の壁部に固定された支持構造14によって、その円板状の基材ホルダ8が、真空チャンバ1の内部の所定位置に配設されている。この場合、基材ホルダ8の表面がターゲット10の表面に対して平行となるようにして、かつ基材ホルダ8とターゲット10とが相互に対向するようにして、基材ホルダ8が真空チャンバ1の内部に配設されている。ここで、基材ホルダ8は、導電性部材によって構成されていてもよく、又、非導電性部材によって構成されていてもよい。尚、基材ホルダ8が導電性部材によって構成される場合には、成膜時における異常放電を防止することが可能となる。そして、この基材ホルダ8の表面に、例えば円板状の基材9が装着される。
【0012】
このように構成される従来のスパッタリング成膜装置300では、基材ホルダ8に基材9が装着された後、排気装置4によって真空チャンバ1の内部から空気が排気経路5を介して真空チャンバ1の外部に排出される。この排気装置4による排気動作により、真空チャンバ1の内部が所定の真空状態とされる。そして、真空チャンバ1の内部が所定の真空状態とされた後、Ar供給装置2からアルゴンガスが供給経路3を介して真空チャンバ1の内部に供給される。
【0013】
真空チャンバ1の内部にAr供給装置2からアルゴンガスが供給されると、制御装置12の制御動作によって、磁石電源11がオフ状態からオン状態に切り替えられる。これにより、電磁石7が通電されて、カソード6の周囲に磁界が発生する。
【0014】
一方、成膜時、DC電源13から直流高電圧がカソード6に印加されることにより、カソード6と真空チャンバ1との間に電位差が与えられる。この際、カソード6にはDC電源13のマイナス端子が接続されており、その一方で真空チャンバ1にはDC電源13のプラス端子が接続されているので、カソード6の電位は真空チャンバ1の電位よりも低電位となる。これにより、カソード6と真空チャンバ1との間には、DC電源13の印加電圧に応じた電界が発生する。そして、この発生する電界によって、グロー放電が生じる。すると、そのグロー放電により発生するアルゴン由来の電子が磁界にトラップされて、カソード6の周囲に正電荷のアルゴンイオン15(Ar+)が集中する。そして、このカソード6の周囲に集中した正電荷のアルゴンイオン15が、ターゲット10の表面に加速されながら激しく衝突する。又、このアルゴンイオン15の激しい衝突によって、ターゲット10を構成する例えば銅粒子16が、真空チャンバ1の内部に高エネルギー状態で叩き出される。
【0015】
ターゲット10から叩き出された高エネルギー状態の銅粒子16は、その高エネルギー状態を保持しながら、真空チャンバ1の内部を基材9に向けて移動する。そして、その高エネルギー状態の銅粒子16が、基材9の表面に激しく衝突して堆積する。これにより、基材9の表面には、銅粒子16からなる薄膜9aが成膜される。この際、ターゲット10から叩き出された銅粒子16は基材9の表面に高エネルギー状態で激しく衝突するため、例えば微視的なアンカー効果等により、銅粒子16からなる薄膜9aと基材9とは強固に密着する。つまり、スパッタリング成膜装置300を用いて成膜を行うことによって、基材9との密着性に優れた薄膜9aを容易に成膜することが可能になる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−001772号公報(特に、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、従来のスパッタリング成膜装置を用いて基材の表面に薄膜を成膜する場合には、平面状の形状を有する基材がターゲットに対して平行な状態で基材ホルダに装着されるので、成膜される薄膜の膜厚は基材の全面に渡って概ね均一な膜厚となる。
【0017】
ところで、例えば、自動車の前照灯で用いられる反射板等の光学部材では、一点の光源から発せられた放射光を平行光に変換する必要があるため、その光学部材の一部に凹面鏡等の反射面を形成する必要がある。そして、このような凹部を有する光学部材を品質良く製造するためには、その凹部を有する基材の全面に均一な厚みの反射膜を成膜する必要がある。換言すれば、光学部材を構成する基材のターゲットと平行となる部分の膜厚と、凹部内の曲面における膜厚とが互いに略同一の膜厚となるように、基材の表面に反射膜を成膜する必要がある。
【0018】
しかしながら、従来のスパッタリング成膜装置を用いて凹凸を有する基材や立体形状を有する基材の表面に薄膜を成膜する場合、基材のターゲットに対して平行となる部分への薄膜の成膜は良好に行われるが、凹凸形状や立体形状に因って発生するターゲットからみて影になる部分への薄膜の成膜は、非常に困難であった。具体的には、従来のスパッタリング成膜装置を用いる場合、基材のターゲットからみて影になる部分にはそのターゲットから叩き出された成膜物質が到達し難いため、成膜不良が発生するか、又は、成膜される薄膜の膜厚が非常に薄くなる。又、ターゲットからみて影にならない部分であっても、ターゲットに対して傾斜する部分の膜厚は比較的薄くなる。つまり、従来のスパッタリング成膜装置では、凹凸形状や立体形状を有する基材の全面に渡って均一な厚みの薄膜を成膜することは困難であった。そして、そのため、従来のスパッタリング成膜装置では、上述した自動車の前照灯を構成する反射板等の光学部材等を安定した成膜品質で製造することが困難であった。
【0019】
本発明はこのような事情に鑑みてなされてものであり、立体形状や凹凸形状等の多様な表面形状を有する基材の全面に成膜ムラのない均一な膜厚の薄膜を容易にかつ無駄なく成膜することが可能なスパッタリング成膜装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明に係るスパッタリング成膜装置は、その内部を所定の真空状態で維持する真空チャンバと、該真空チャンバの内部で薄膜が成膜される基材を支持する板状の基材ホルダと、該基材ホルダと対向する前記真空チャンバ内の所定の位置に配置され前記成膜される薄膜の原料としての成膜物質を供給するターゲット部と、該ターゲット部からの前記成膜物質の供給量を制御するための制御部とを備えるスパッタリング成膜装置であって、前記ターゲット部が少なくとも3以上の板状のターゲットを有し、前記3以上のターゲットの各々の主面の法線が、前記基材ホルダの主面の法線に対して各々傾斜している(請求項1)。かかる構成とすることにより、ターゲット部を構成する3以上のターゲットの各々から射出方向が多方位のスパッタ成分が真空チャンバの内部に飛散するようになるので、凹凸形状や立体形状を有する基材の表面の全体に反射膜等の薄膜を均一な膜厚で容易に成膜することが可能になる。又、ターゲットから供給されるスパッタ成分を効率良く基材の表面に集中して堆積させることができるので、ターゲットを無駄なく使用することが可能になる。
【0021】
この場合、前記3以上のターゲットの各々の主面の法線が、前記基材ホルダの主面の法線と交差するようにして該基材ホルダの主面の法線に対して各々傾斜している。(請求項2)。かかる構成とすることにより、ターゲット部を構成する3以上のターゲットの各々から飛散するスパッタ成分の飛散方向を最適化することが可能になる。
【0022】
又、上記の場合、前記ターゲット部が各々台形状の4つのターゲットを有し、前記4つのターゲットが、2つのターゲットの各々の斜辺が相互に対向するようにして各々配置されている(請求項3)。かかる構成とすることにより、4つのターゲットの各々からスパッタ成分が各々異なる方向性を有して供給されるので、凹凸形状や立体形状を有する基材に対する薄膜の成膜を、より効果的に行うことが可能になる。
【0023】
又、上記の場合、前記ターゲット部が各々矩形状の8つのターゲットを有し、前記8つのターゲットが、1つのターゲットの2辺が他の2つのターゲットの1辺と相互に対向するようにして各々配置されている(請求項4)。かかる構成とすることにより、8つのターゲットの各々からスパッタ成分が各々異なる方向性を有して供給されるので、複雑な凹凸形状や立体形状を有する基材に対する薄膜の成膜を、より一層効果的に行うことが可能になる。
【0024】
更に、上記の場合、前記3以上のターゲットの各々に対して前記制御部が個別に設けられ、前記制御部により前記3以上のターゲットの各々からの前記成膜物質の供給量が各々独立して個別に制御される(請求項5)。かかる構成とすることにより、制御部により3以上のターゲットの各々からの成膜物質の供給量が各々独立して個別に制御されるので、複雑な凹凸形状や立体形状を有する基材に対する薄膜の成膜を、より一層効果的に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るスパッタリング成膜装置を用いることにより、立体形状や凹凸形状等の多様な表面形状を有する基材の全面に成膜ムラのない均一な膜厚の薄膜を容易にかつ無駄なく成膜することが可能になるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るスパッタリング成膜装置の構成を模式的に示す縦断図である。尚、図1では、後述するマルチターゲット部20aにおける第1ユニット101と第3ユニット103との略中央部分を縦断した場合(即ち、図2(a)のIIb−IIb線に沿って縦断した場合)における断面構成を模式的に示している。
【0028】
図1に示すように、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置100は、例えばステンレス等の導電性部材からなる真空チャンバ1を有している。この真空チャンバ1は、所定の導電経路によって、接地状態とされている。又、このスパッタリング成膜装置100は、不活性ガスとしてのアルゴンガスを真空チャンバ1の内部に供給するためのAr供給装置2及び供給経路3と、真空チャンバ1の内部の空気を排気してその内部を実質的な真空状態にするための排気装置4及び排気経路5と、表面に反射膜等の薄膜を成膜する基材を真空チャンバ1の内部の所定位置に所定の支持状態で支持するための基材ホルダ8とを有している。又、このスパッタリング成膜装置100は、ここでは凹凸基材17の表面に反射膜や導電膜等の薄膜を成膜する際の成膜物質の供給源として機能する複数の電磁石及びカソード及びターゲットが集合して構成されているマルチターゲット部20aを備えている。このマルチターゲット部20aの構成については、後に詳細に説明する。尚、供給経路3及び排気経路5の各々は、真空チャンバ1の内部に連通している。又、マルチターゲット部20aと基材ホルダ8とは、相互に対向する位置関係となるようにして、真空チャンバ1の内部に各々配設されている。
【0029】
真空チャンバ1の内部に配設される基材ホルダ8の形状は、特に限定されない。本実施の形態では、基材ホルダ8として、厚み方向からみて円板状の形状を有する板状の基材ホルダを用いている。そして、真空チャンバ1の壁部に導通状態で固定された支持構造14によって、その円板状の基材ホルダ8が真空チャンバ1の内部の所定位置に配設されている。ここで、この「所定位置」とは、本実施の形態においては、厚み方向からみた基材ホルダ8の中心軸がマルチターゲット部20aの正面視における中心軸と一致する位置としている。尚、基材ホルダ8は、導電性部材によって構成されていてもよく、又、非導電性部材によって構成されていてもよい。尚、基材ホルダ8が導電性部材によって構成される場合には、成膜時における異常放電を防止することが可能となる。そして、この基材ホルダ8の表面に、自動車の前照灯やその他の光学部材等に用いられる、表面に凹凸形状が形成された凹凸基材17が装着される。
【0030】
又、図1に示すように、このスパッタリング成膜装置100は、上述したマルチターゲット部20aを構成する各々の電磁石に対する電力の供給量を調整するための電力調整器18a〜18dと、マルチターゲット部20aを構成する各々のカソードに対する印加電圧を調整するための電圧調整器19a〜19dとを有している。これらの電力調整器18a〜18dと電圧調整器19a〜19dとを、本明細書では、「制御部」と称している。又、このスパッタリング成膜装置100は、電力調整器18a〜18dに対して上述した各々の電磁石を稼働させるための電力を供給する磁石電源11と、この磁石電源11の動作を制御するための制御装置12と、電圧調整器19a〜19dに対して上述した各々のカソードを機能させるための直流高電圧を出力するDC電源13とを有している。
【0031】
次に、本発明を特徴付けるマルチターゲット部20aの構成について、図1及び図2を参照しながら詳細に説明する。
【0032】
図2は、本発明の実施の形態1に係るマルチターゲット部の構成を模式的に示す構成図であって、(a)は正面図であり、(b)は(a)のIIb−IIb線に沿った断面図であり、(c)は(a)のIIc−IIc線に沿った断面図である。ここで、図2(a)に示す正面図は、真空チャンバ1の内部において基材ホルダ8からマルチターゲット部20aを望んだ場合に観察されるマルチターゲット部20aの状態を示す図である。
【0033】
図2(a)に示すように、本実施の形態に係るマルチターゲット部20aは、各々が平板状の形状を有する、第1ユニット101、第2ユニット102、第3ユニット103、及び第4ユニット104の4つのターゲット部によって構成されている。本明細書では、これらの複数のターゲット部で構成される集合体を、「マルチターゲット部」と称している。これらの第1ユニット101〜第4ユニット104の各々は、ターゲット10a〜10d、カソード6a〜6d、電磁石7a〜7dの各々によって構成されている。具体的に説明すると、例えば、第1ユニット101に着目した場合、板状の形状を有するカソード6aの一方の面には電磁石7aが配設されており、又、カソード6aの他方の面には板状の形状を有するターゲット10aが配設されている。ここで、カソード6aとターゲット10aとは平面視形状(厚み方向からみた形状)が略均しい大きさを有しており、各々の端面を揃えるようにして相互に密着されている。一方、電磁石7aの大きさは平面視形状がカソード6aの大きさよりも小さく、カソード6aと略相似形の形状を有している。ここで、この電磁石7aは、カソード6aの形状に応じた形状にコイル(図示せず)を巻回して構成されている。例えば、この電磁石7aは、カソード6aの形状が円形の形状であればリング状とされ、又、カソード6の形状が矩形の形状であればトラック形状とされている。このような電磁石7aは、ターゲット10aの消耗した部分(エロージョン)の形状が均等になるように、カソード6aの裏面に配設されている。そして、かかる第1ユニット101の構成と同様の構成を、他の第2ユニット102〜第4ユニット104の各々も備えている。尚、本実施の形態では、第1ユニット101〜第4ユニット104が各々電磁石7a〜7dとカソード6a〜6dとターゲット10a〜10dとから構成されているが、このような構成に限定されることはなく、例えば、カソード6a〜6dがターゲット10a〜10dを兼ねる構成であってもよい。
【0034】
カソード6a〜6dの材料としては、マグネトロンスパッタの際の陰極として用いることが可能な導電性を有する材料であれば、如何なる材料を用いてもよい。又、マグネトロンスパッタのためのターゲット10a〜10dは、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銅(Cu)等から選択される成膜物質によって構成されている。例えば、スパッタリング成膜装置100によって樹脂層上に銅からなる配線層を形成する場合には、銅から構成されるターゲットが用いられる。又、電磁石7a〜7dとしては、マグネトロンスパッタを好適に実行可能な電磁石であれば、如何なる電磁石を用いてもよい。尚、本実施の形態では電磁石を用いているが、このような構成に限定されることはなく、例えば永久磁石を電磁石7a〜7dとして用いてもよい。
【0035】
又、図2(a)に示すように、マルチターゲット部20aを構成する第1ユニット101〜第4ユニット104の各々は、台形状の平面形状を各々有している。そして、これらの第1ユニット101〜第4ユニット104の各々は、短辺を内側に配置しかつ長辺を外側に配置するようにして、全体として四角錐台形状をなすようにして、各々真空チャンバ1の基材ホルダ8と対向する所定の位置に配置されている。ここで、第1ユニット101〜第4ユニット104の各々は、その一部を図1に示すように、カソード6a〜6dの各々の一部が真空チャンバ1の外部に突出し、残りの部分が真空チャンバ1の内部に位置するようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。又、これらのカソード6a〜6dは、図1では特に図示しないが、所定の絶縁性部材を介して真空チャンバ1の壁部に気密に配設されている。従って、カソード6a〜6dと真空チャンバ1とは、相互に電気的に絶縁されている。そして、図1及び図2に示すように、真空チャンバ1の内部では、これらのカソード6a〜6dの表面に、マグネトロンスパッタのためのターゲット10a〜10dが各々配設されている。又、真空チャンバ1の外部では、カソード6a〜6dの各々の表面に、マグネトロンスパッタのための電磁石7a〜7dが各々配設されている。
【0036】
本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置100では、マルチターゲット部20aを構成する第1ユニット101〜第4ユニット104の各々が、仮想の基準線に対して所定の角度だけ傾斜して配設されている。
【0037】
より具体的に説明すると、図1及び図2(b)に示すように、マルチターゲット部20aを構成する第1ユニット101は、円板状の基材ホルダ8の中心軸に一致する仮想の基準線Aに対して第1ユニット101の垂線が角度θaだけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。又、マルチターゲット部20aを構成する第3ユニット103は、その垂線が上述した基準線Aに対して角度θcだけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。又、同様にして、図2(c)に示すように、マルチターゲット部20aを構成する第2ユニット102は、その垂線が上述した基準線Aに対して角度θbだけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。又、マルチターゲット部20aを構成する第4ユニット104は、その垂線が上述した基準線Aに対して角度θdだけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。つまり、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置100では、マルチターゲット部20aを構成する第1ユニット101〜第4ユニット104の各々の垂線と仮想の基準線Aとのなす角が各々θa〜θdとなるようにして、第1ユニット101〜第4ユニット104の各々が真空チャンバ1の壁部に配設されている。尚、本実施の形態では、第1ユニット101〜第4ユニット104の各々が真空チャンバ1の壁部に配設されている形態について説明しているが、この配設形態に限定されることはなく、第1ユニット101〜第4ユニット104の各々の垂線が基準線Aに対して各々θa〜θdだけ傾斜する形態であれば、如何なる配設形態を採用してもよい。例えば、第1ユニット101〜第4ユニット104を1枚のボード上に所定の角度で傾斜させて配設して、この第1ユニット101〜第4ユニット104を有するボードを真空チャンバ1の基材ホルダ8と対向する壁部に配設する形態としてもよい。又、本実施の形態では、θa〜θdを何れも同一の角度とする形態について説明しているが、この形態に限定されることはなく、個々の角度を必要に応じて個別に設定する形態としてもよい。つまり、本発明では、マルチターゲット部20aを構成する第1ユニット101〜第4ユニット104を内側(基準線A側)に傾斜させる点が重要であり、この点を具現化可能な形態であれば、如何なる形態であってもよい。
【0038】
そして、図1に示すように、マルチターゲット部20aを構成する第1ユニット101〜第4ユニット104の各々における電磁石7a〜7dに設けられた特に図示しない各電気端子が、所定の配線を介して、電力調整器18a〜18dの特に図示しない出力端子に各々接続されている。又、電力調整器18a〜18dの各電力供給端子は、所定の配線を介して、磁石電源11の特に図示しない電力出力端子に接続されている。この磁石電源11のオン・オフ制御は、磁石電源11に接続された制御装置12によって行われる。
【0039】
又、図1に示すように、カソード6a〜6dの真空チャンバ1から外部に突出する突出部には、導電性のケーブルの一端が各々電気的に接続されている。そして、これらの各々のケーブルの他端が、電圧調整器19a〜19dの特に図示しない出力端子に各々接続されている。又、電圧調整器19a〜19dの各電圧印加端子は、所定の配線を介して、直流高電圧を出力するDC電源13のマイナス端子に電気的に接続されている。このDC電源13のプラス端子は、接地されている。ここで、上述したように、真空チャンバ1、及び真空チャンバ1に電気的に接続されている基材ホルダ8は、各々接地されている。そのため、DC電源13のプラス端子と真空チャンバ1及び基材ホルダ8とは、相互に同電位とされている。かかる構成により、カソード6a〜6dと真空チャンバ1との間に、電位差に応じた電界を形成することが可能とされている。
【0040】
又、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置100は、電磁石7a〜7dに供給する電力を電力調整器18a〜18dにより個別に調整することが可能に構成されている。又、カソード6a〜6dに印加する直流高電圧を、電圧調整器19a〜19dによって個別に調整することが可能に構成されている。このように構成されていることにより、スパッタリング成膜装置100では、マルチターゲット部20aにおける第1ユニット101〜第4ユニット104を、各々異なる動作条件において機能させることが可能とされている。これにより、凹凸基材17の表面形状に応じて、最適な成膜条件を提供することができる。
【0041】
さて、上述の如く構成される本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置100では、基材ホルダ8に凹凸形状を有する凹凸基材17が装着された後、排気装置4によって真空チャンバ1の内部から空気が排気経路5を介して真空チャンバ1の外部に排出される。この排気装置4による排気動作により、真空チャンバ1の内部が所定の真空状態とされる。そして、真空チャンバ1の内部が所定の真空状態とされた後、Ar供給装置2からアルゴンガスが供給経路3を介して真空チャンバ1の内部に供給される。
【0042】
真空チャンバ1の内部にAr供給装置2からアルゴンガスが供給されると、制御装置12の制御によって、磁石電源11がオフ状態からオン状態に切り替えられる。これによって、マルチターゲット20aを構成する第1ユニット101〜第4ユニット104の各々の電磁石7a〜7dに対して、磁場を発生させるための電力が供給される。この際、電磁石7a〜7dに供給される電力は、基材ホルダ8に装着される凹凸基材17の表面形状に応じて、電力調整器18a〜18dによって適宜調整される。この電磁石7a〜7dに対する磁石電源11からの電力の供給により、カソード6a〜6dの周囲には磁界が発生する。
【0043】
一方、成膜時、DC電源13から直流高電圧がカソード6a〜6dに印加されることにより、カソード6a〜6dと真空チャンバ1との間に電位差が与えられる。この際、カソード6a〜6dに印加される直流高電圧は、基材ホルダ8に装着される凹凸基材17の表面形状に応じて、電圧調整器19a〜19dによって適宜調整される。ここで、カソード6a〜6dは電圧調整器19a〜19dを介してDC電源13のマイナス端子と接続されており、その一方で、真空チャンバ1にはDC電源13のプラス端子が接続されているので、カソード6a〜6dの電位は真空チャンバ1の電位よりも低電位となる。これにより、カソード6a〜6dと真空チャンバ1との間には、DC電源13の印加電圧に応じた電界が発生する。そして、この発生する電界により、グロー放電が生じる。すると、そのグロー放電により発生するアルゴン由来の電子が磁界にトラップされて、カソード6a〜6dの周囲には正電荷のアルゴンイオン(Ar+)が集中する。そして、このカソード6a〜6dの周囲に集中した正電荷のアルゴンイオンが、ターゲット10a〜10dの表面に加速されながら激しく衝突する。又、このアルゴンイオンの激しい衝突によって、ターゲット10a〜10dを構成する例えば銅が、銅粒子として、真空チャンバ1の内部に高エネルギー状態で叩き出される。
【0044】
マルチターゲット部20aのターゲット10a〜10dから叩き出された高エネルギー状態の銅粒子は、その高エネルギー状態を保持しながら、真空チャンバ1の内部を凹凸基材17に向けて移動する。この際、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置100では、マルチターゲット部20aを構成する第1ユニット101〜第4ユニット104が図1及び図2に示すように仮想の基準線Aに対して角度θa〜θdだけ傾斜して配設されているので、ターゲット10a〜10dから叩き出された高エネルギー状態の銅粒子は、凹凸基材17に形成された凹凸部の底面や側面等にも十分に到達する。又、この場合、ターゲット10a〜10dから叩き出された高エネルギー状態の銅粒子は、相互に衝突してその進行方向を逐次変化させながら、凹凸基材17の表面に到達することも考えられる。つまり、本実施の形態によれば、成膜時における真空チャンバ1の内部の状態が、高エネルギー状態でありかつ多方位のスパッタ成分(成膜物質)が存在する状態となる。そして、これにより、その多方位に移動する高エネルギー状態の銅粒子が、凹凸基材17の表面(平面部、及び凹凸部における底部や壁部)に均一な密度で衝突して堆積する。即ち、凹凸基材17の表面には、均一な膜厚の薄膜17aがムラ(影)なく成膜される。又、アルゴンイオンの激しい衝突により叩き出された高エネルギー状態の銅粒子が凹凸基材17の表面に高エネルギー状態で激しく衝突するため、銅粒子からなる薄膜17aと凹凸基材17とは強固に密着する。
【0045】
凹凸基材17に対する薄膜17aの成膜が完了した後、所定の真空状態とされている真空チャンバ1の内部には、図1では特に図示しない大気導入部から大気が導入される。この大気の導入により、真空チャンバ1の内部は常圧状態とされる。そして、真空チャンバ1の内部が常圧状態となったことが確認されると、基材ホルダ8から、薄膜17aの成膜が完了した凹凸基材17が取り外される。
【0046】
以上、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置100を用いることによれば、真空チャンバ1の内部に射出方向が多方位のスパッタ成分(成膜物質)が存在するようになるので、これまで困難であった立体形状や凹凸形状を有する凹凸基材17の表面に均一な膜厚の反射膜等の薄膜を容易に成膜することが可能になる、具体的には、従来のスパッタリング成膜装置を用いて凹凸形状を有する基材や立体形状を有する基材の表面に薄膜を成膜する場合と比べて、凹凸形状や立体形状に因って発生するターゲットからみて影になる部分等への薄膜の成膜も良好に行われるようになる。これは、マルチターゲット部20aから叩き出される成膜物質が多方性を有しており、これにより、凹凸基材17のターゲットからみて影になる部分や、影にはならないがターゲットに対して傾斜する部分にも成膜物質が衝突し易くなるためである。そして、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置100を用いることにより、凹凸形状や立体形状を有する凹凸基材17の全面に渡って均一な厚みの薄膜を成膜することが容易になるので、自動車の前照灯を構成する反射板等の光学部材等を安定した成膜品質で製造することが可能になる。
【0047】
又、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置によれば、マルチターゲット部20aを構成する第1ユニット101〜第4ユニット104が傾斜して配設されているので、成膜時の成膜物質の利用効率を改善することが可能になる。又、防着板に付着する成膜物質の量を低減することができるので、成膜時における設備メンテナンス(メンテナンスインターバル)を簡略化(短縮化)することが可能になる。そして、これらにより、光学部材等の製造に係るトータルコストを低減することが可能になる。
【0048】
又、上述したように、凹凸基材17の表面に薄膜を成膜する際には、電磁石7a〜7dに供給される電力が基材ホルダ8に装着される凹凸基材17の表面形状に応じて電力調整器18a〜18dによって適宜独立して調整される。又、カソード6a〜6dに印加される直流高電圧が、基材ホルダ8に装着される凹凸基材17の表面形状に応じて電圧調整器19a〜19dによって適宜独立して調整される。これにより、基材の形状及びサイズに応じた高品質な成膜が可能になる。
【0049】
そして、本実施の形態によれば、立体形状や凹凸形状等の多様な表面形状を有する基材の全面に成膜ムラのない均一な膜厚の薄膜を容易にかつ無駄なく成膜することが可能なスパッタリング成膜装置を提供することが可能になる。
【0050】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係るスパッタリング成膜装置では、実施の形態1で示したスパッタリング成膜装置の場合と比べて、マルチターゲット部の構成が異なっている。又、マルチターゲット部の構成が異なっていることに伴い、電磁石やカソードへの電力の供給量や印加電圧を調整するための調整器の配設個数が異なっている。尚、それ以外の構成については、実施の形態1で示したスパッタリング成膜装置の構成と同様である。そのため、ここでは、実施の形態1で示したスパッタリング成膜装置と共通する構成要素についての説明は省略し、相違点についてのみ詳細に説明する。
【0051】
図3は、本発明の実施の形態2に係るスパッタリング成膜装置の構成を模式的に示す縦断図である。尚、図3では、後述するマルチターゲット部20bにおける第1ユニット201と第5ユニット205との略中央部分を縦断した場合(即ち、図4(a)のIVb−IVb線に沿って縦断した場合)における断面構成を模式的に示している。又、図3では、実施の形態1で示したスパッタリング成膜装置100の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付している。
【0052】
図3に示すように、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置200は、凹凸基材17の表面に反射膜や導電膜等の薄膜を成膜する際の成膜物質の供給源として機能する複数の電磁石及びカソード及びターゲットが集合して構成されるマルチターゲット部20bを備えている。このマルチターゲット部20bの構成については、後に詳細に説明する。
【0053】
又、このスパッタリング成膜装置200は、上述したマルチターゲット部20bを構成する各々の電磁石に対する電力の供給量を調整するための電力調整器18e〜18lと、マルチターゲット部20bを構成する各々のカソードに対する印加電圧を調整するための電圧調整器19e〜19lとを有している。尚、このスパッタリング成膜装置200は、実施の形態1の場合と同様、電力調整器18e〜18lに対して上述した各々の電磁石を稼働させるための電力を供給する磁石電源11と、この磁石電源11の動作を制御するための制御装置12と、電圧調整器19e〜19lに対して上述した各々のカソードを機能させるための直流高電圧を出力するDC電源13とを有している。
【0054】
次に、本発明を特徴付けるマルチターゲット部20bの構成について、図3及び図4を参照しながら詳細に説明する。
【0055】
図4は、本発明の実施の形態2に係るマルチターゲット部の構成を模式的に示す構成図であって、(a)は正面図であり、(b)は(a)のIVb−IVb線に沿った断面図であり、(c)は(a)のIVc−IVc線に沿った断面図である。ここでも、実施の形態1の場合と同様、図4(a)に示す正面図は、真空チャンバ1の内部において基材ホルダ8からマルチターゲット部20bを望んだ場合に観察されるマルチターゲット部20bの状態を示す図である。
【0056】
図4(a)に示すように、本実施の形態に係るマルチターゲット部20bは、各々が平板状の形状を有する、第1ユニット201、第2ユニット202、第3ユニット203、第4ユニット204、第5ユニット205、第6ユニット206、第7ユニット207、及び第8ユニット208の8つのターゲット部によって構成されている。これらの第1ユニット201〜第8ユニット208の各々は、ターゲット10e〜10l、カソード6e〜6l、電磁石7e〜7lの各々によって構成されている。具体的に説明すると、例えば第1ユニット201に着目した場合、板状の形状を有するカソード6eの一方の面には電磁石7eが配設されており、カソード6eの他方の面には板状の形状を有するターゲット10eが配設されている。尚、実施の形態1の場合と同様、ここでも、カソード6eとターゲット10eとは平面視形状が略均しい大きさを有しており、各々の端面を揃えるようにして相互に密着されている。又、電磁石7eの大きさは平面視形状がカソード6eの大きさよりも小さく、カソード6eと略相似形の形状を有している。そして、かかる第1ユニット201の構成と同様の構成を、他の第2ユニット202〜第8ユニット208の各々も備えている。
【0057】
本実施の形態では、図4(a)に示すように、マルチターゲット部20bを構成する第1ユニット201及び第2ユニット202、第4ユニット204〜第6ユニット206、及び第8ユニット208の各々は、正方形状の平面形状を有している。又、第3ユニット203及び第7ユニット207の各々は、長方形状の平面形状を有している。そして、これらの第1ユニット201〜第8ユニット208の各々は、図4(a)に示すように、全体として四角錐台形状をなすようにして、各々真空チャンバ1の基材ホルダ8と対向する所定の位置に配置されている。尚、ここでも、実施の形態1の場合と同様にして、第1ユニット201〜第8ユニット208の各々は、その一部を図3に示すように、カソード6e〜6lの各々の一部が真空チャンバ1の外部に突出し、残りの部分が真空チャンバ1の内部に位置するようにして、真空チャンバ1の壁部に気密に配設されている。又、これらのカソード6e〜6lも、図3では特に図示しないが、所定の絶縁性部材を介して、真空チャンバ1の壁部に気密に配設されている。そして、図3及び図4に示すように、真空チャンバ1の内部では、これらのカソード6e〜6lの表面に、マグネトロンスパッタのためのターゲット10e〜10lが各々配設されている。又、真空チャンバ1の外部では、カソード6e〜6lの各々の表面に、マグネトロンスパッタのための電磁石7e〜7lが配設されている。
【0058】
本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置200でも、マルチターゲット部20bを構成する第1ユニット201〜第8ユニット208の各々が、仮想の基準線に対して所定の角度だけ傾斜して配設されている。
【0059】
より具体的に説明すると、図3及び図4(b)に示すように、マルチターゲット部20bを構成する第1ユニット201は、円板状の形状を有する基材ホルダ8の中心軸に一致する仮想の基準線Aに対して第1ユニット201の垂線が角度θeだけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。又、マルチターゲット部20bを構成する第5ユニット205は、その垂線が上述した基準線Aに対して角度θiだけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。又、同様にして、図4(c)に示すように、マルチターゲット部20bを構成する第3ユニット203は、その垂線が上述した基準線Aに対して角度θgだけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。又、マルチターゲット部20bを構成する第7ユニット207は、その垂線が上述した基準線Aに対して角度θkだけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。
【0060】
又、マルチターゲット部20bを構成する第2ユニット202は、その垂線が上述した基準線Aに対して角度θeと角度θgとを合成してなる角度だけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。又、同様にして、マルチターゲット部20bを構成する第4ユニット204は、その垂線が上述した基準線Aに対して角度θgと角度θiとを合成してなる角度だけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。又、マルチターゲット部20bを構成する第6ユニット206は、その垂線が上述した基準線Aに対して角度θiと角度θkとを合成してなる角度だけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。更に、マルチターゲット部20bを構成する第8ユニット208は、その垂線が上述した基準線Aに対して角度θkと角度θeとを合成してなる角度だけ傾くようにして、真空チャンバ1の壁部に配設されている。
【0061】
つまり、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置200では、マルチターゲット部20bを構成する第1ユニット201〜第8ユニット208の各々の垂線と仮想の基準線Aとのなす角が、各々θe,θg,θi,θk、若しくはそれらの合成角度となるようにして、第1ユニット201〜第8ユニット208の各々が真空チャンバ1の壁部に配設されている。尚、本実施の形態でも、実施の形態1の場合と同様、第1ユニット201〜第8ユニット208の各々が真空チャンバ1の壁部に配設される形態について説明しているが、この配設形態に限定されることはなく、第1ユニット201〜第8ユニット208の各々の垂線が基準線Aに対して、上述したように各々θe〜θk若しくはそれらの合成角度だけ傾斜する形態であれば、如何なる配設形態を採用してもよい。例えば、実施の形態1の場合と同様にして、第1ユニット201〜第8ユニット208を1枚のボード上に所定の角度で傾斜させて配設して、この第1ユニット201〜第8ユニット208を有するボードを真空チャンバ1の基材ホルダ8と対向する壁部に配設する形態としてもよい。又、本実施の形態でも、実施の形態1の場合と同様、θe〜θkを何れも同一の角度とする形態について説明しているが、この形態に限定されることはなく、個々の角度を必要に応じて個別に設定する形態としてもよい。つまり、本実施の形態でも、マルチターゲット部20bを構成する第1ユニット201〜第8ユニット208を内側(基準線A側)に傾斜させる点が重要であり、この点を具現化可能な形態であれば、如何なる形態であってもよい。
【0062】
そして、図3に示すように、実施の形態1の場合と同様、マルチターゲット部20bを構成する第1ユニット201〜第8ユニット208の各々における電磁石7e〜7lに設けられた特に図示しない各電気端子が、所定の配線を介して、電力調整器18e〜18lの特に図示しない出力端子に各々接続されている。又、実施の形態1の場合と同様、電力調整器18e〜18lの各電力供給端子は、所定の配線を介して、磁石電源11の特に図示しない電力出力端子に接続されている。この磁石電源11のオン・オフ制御は、磁石電源11に接続された制御装置12によって行われる。
【0063】
又、図3に示すように、カソード6e〜6lの真空チャンバ1から外部に突出する突出部には、導電性のケーブルの一端が各々電気的に接続されている。そして、これらの各々のケーブルの他端が、電圧調整器19e〜19lの特に図示しない出力端子に各々接続されている。又、電圧調整器19e〜19lの各電圧印加端子は、所定の配線を介して、直流高電圧を出力するDC電源13のマイナス端子に電気的に接続されている。尚、このDC電源13のプラス端子は、接地されている。
【0064】
又、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置200でも、実施の形態1の場合と同様、電磁石7e〜7lに供給する電力の供給量を電力調整器18e〜18lにより個別に調整することが可能に構成されている。又、カソード6e〜6lに印加する直流高電圧を、電圧調整器19e〜19lによって個別に調整することが可能に構成されている。かかる構成により、本実施の形態でも、マルチターゲット部20bにおける第1ユニット201〜第8ユニット208を、凹凸基材17に表面形状に応じて各々異なる動作条件において機能させることが可能とされている。
【0065】
尚、その他の点については、実施の形態1で示したスパッタリング成膜装置100の場合と同様である。
【0066】
さて、上述の如く構成される本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置200では、実施の形態1の場合と同様、基材ホルダ8に凹凸形状を有する凹凸基材17が装着された後、排気装置4によって真空チャンバ1の内部から空気が排気経路5を介して真空チャンバ1の外部に排出され、その後、Ar供給装置2からアルゴンガスが供給経路3を介して真空チャンバ1の内部に供給される。そして、制御装置12の制御によって磁石電源11がオフ状態からオン状態に切り替えられて、マルチターゲット20bを構成する第1ユニット201〜第8ユニット208の各々の電磁石7e〜7lに対して磁場を発生させるための電力が供給される。この際、電磁石7e〜7lに供給される電力は、基材ホルダ8に装着される凹凸基材17の表面形状に応じて、電力調整器18e〜18lによって適宜調整される。この電磁石7e〜7lに対する磁石電源11からの電力の供給によって、カソード6e〜6lの周囲には磁界が発生する。
【0067】
一方、成膜時、本実施の形態でも、DC電源13から直流高電圧がカソード6e〜6lに印加されることにより、カソード6e〜6lと真空チャンバ1との間に電位差が与えられる。この際、カソード6e〜6lに印加される直流高電圧は、基材ホルダ8に装着される凹凸基材17の表面形状に応じて、電圧調整器19e〜19lによって適宜調整される。これにより、カソード6e〜6lと真空チャンバ1との間には、DC電源13の印加電圧に応じた電界が発生する。そして、この発生する電界によってグロー放電が生じ、そのグロー放電によりアルゴン由来の電子が磁界にトラップされて、カソード6e〜6lの周囲には正電荷のアルゴンイオンが集中する。そして、このカソード6e〜6lの周囲に集中した正電荷のアルゴンイオンがターゲット10e〜10lの表面に加速されながら激しく衝突して、ターゲット10e〜10lを構成する例えば銅が、銅粒子として、真空チャンバ1の内部に高エネルギー状態で叩き出される。
【0068】
マルチターゲット部20bのターゲット10e〜10lから叩き出された高エネルギー状態の銅粒子は、その高エネルギー状態を保持しながら、真空チャンバ1の内部を凹凸基材17に向けて移動する。この際、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置200では、マルチターゲット部20bを構成する第1ユニット201、第3ユニット203、第5ユニット205、及び第7ユニット207が図3及び図4に示すように基準線Aに対して各々角度θe,θg,θi,θkだけ傾斜しており、かつ第2ユニット202、第4ユニット204、第6ユニット206、及び第8ユニット208が角度θe,θg,θi,θkの何れか2つの角度の合成角度だけ傾斜して配設されているので、ターゲット10e〜10lから叩き出された高エネルギー状態の銅粒子は、実施の形態1の場合と比べて更に多方性を有しながら、凹凸基材17に形成された凹凸部の底面や側面等に更に十分に到達する。このように、本実施の形態でも、成膜時における真空チャンバ1の内部の状態が、高エネルギー状態でありかつ多方位のスパッタ成分(成膜物質)が存在する状態となる。そして、これにより、実施の形態1の場合と同様、その多方位に移動する高エネルギー状態の銅粒子が、凹凸基材17の表面(平面部、及び凹凸部における底部や壁部)により一層均一な密度で衝突して堆積する。
【0069】
そして、凹凸基材17に対する薄膜17aの成膜が完了した後、真空チャンバ1の内部に図3では特に図示しない大気導入部から大気が導入され、その後、基材ホルダ8から薄膜17aの成膜が完了した凹凸基材17が取り外される。
【0070】
以上、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置200を用いることによれば、実施の形態1で示したスパッタリング成膜装置100を用いる場合と比べて、マルチターゲット部20bがより一層数多く分割されており、かつ第1ユニット201〜第8ユニット208の各々が基準線Aに対して各々傾斜され配設されているので、真空チャンバ1の内部の状態が、より一層多方位のスパッタ成分(成膜物質)が存在する状態になる。そして、これにより、より一層複雑な表面形状を有する基材に対して、その表面により一層均一な膜厚の反射膜等の薄膜を容易に成膜することが可能になる。
【0071】
又、本実施の形態によれば、マルチターゲット部20bを構成する第1ユニット201〜第8ユニット208の各々について、電磁石7e〜7lやカソード6e〜6lに対する電力の供給量や印加電圧を電力調整器18e〜18lや電圧調整器19e〜19lによって個別に調整することができるので、これによっても、より一層複雑な表面形状を有する基材に対して、その表面に均一な膜厚の反射膜等の薄膜を容易に成膜することが可能になる。
【0072】
そして、本実施の形態に係るスパッタリング成膜装置200を用いることにより、複雑な凹凸形状や立体形状を有する基材の全面に渡って均一な厚みの薄膜を成膜することが容易になるので、自動車の前照灯以外の、より一層複雑な表面形状を有する光学部材等を安定した成膜品質で製造することが可能になる。
【0073】
尚、本発明の実施の形態1及び2では、真空成膜装置としてスパッタリング成膜装置を例示しているが、本発明はこのスパッタリング成膜装置に限定されることはなく、蒸発源から成膜物質を飛散させて基材の表面に薄膜を成膜する成膜装置であれば、如何なる成膜装置に対しても適用又は応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るスパッタリング成膜装置は、立体形状や凹凸形状等の多様な表面形状を有する基材の全面に成膜ムラのない均一な膜厚の薄膜を容易にかつ無駄なく成膜することが可能なスパッタリング成膜装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態1に係るスパッタリング成膜装置の構成を模式的に示す縦断図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るマルチターゲット部の構成を模式的に示す構成図であって、(a)は正面図であり、(b)は(a)のIIb−IIb線に沿った断面図であり、(c)は(a)のIIc−IIc線に沿った断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係るスパッタリング成膜装置の構成を模式的に示す縦断図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係るマルチターゲット部の構成を模式的に示す構成図であって、(a)は正面図であり、(b)は(a)のIVb−IVb線に沿った断面図であり、(c)は(a)のIVc−IVc線に沿った断面図である。
【図5】従来のスパッタリング成膜装置の構成を模式的に示す縦断図である。
【符号の説明】
【0076】
1 真空チャンバ
2 Ar供給装置
3 供給経路
4 排気装置
5 排気経路
6 カソード
6a〜6l カソード
7 電磁石
7a〜7l 電磁石
8 基材ホルダ
9 基材
9a 薄膜
10 ターゲット
10a〜10l ターゲット
11 磁石電源
12 制御装置
13 DC電源
14 支持構造
15 アルゴンイオン
16 銅粒子
17 凹凸基材
17a 薄膜
18a〜18l 電力調整器
19a〜19l 電圧調整器
20a マルチターゲット部
20b マルチターゲット部
101 第1ユニット
102 第2ユニット
103 第3ユニット
104 第4ユニット
201 第1ユニット
202 第2ユニット
203 第3ユニット
204 第4ユニット
205 第5ユニット
206 第6ユニット
207 第7ユニット
208 第8ユニット
100〜300 スパッタリング成膜装置
A 基準線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部を所定の真空状態で維持する真空チャンバと、該真空チャンバの内部で薄膜が成膜される基材を支持する板状の基材ホルダと、該基材ホルダと対向する前記真空チャンバ内の所定の位置に配置され前記成膜される薄膜の原料としての成膜物質を供給するターゲット部と、該ターゲット部からの前記成膜物質の供給量を制御するための制御部とを備えるスパッタリング成膜装置であって、
前記ターゲット部が少なくとも3以上の板状のターゲットを有し、
前記3以上のターゲットの各々の主面の法線が、前記基材ホルダの主面の法線に対して各々傾斜している、スパッタリング成膜装置。
【請求項2】
前記3以上のターゲットの各々の主面の法線が、前記基材ホルダの主面の法線と交差するようにして該基材ホルダの主面の法線に対して各々傾斜している、請求項1記載のスパッタリング成膜装置。
【請求項3】
前記ターゲット部が各々台形状の4つのターゲットを有し、
前記4つのターゲットが、2つのターゲットの各々の斜辺が相互に対向するようにして各々配置されている、請求項1記載のスパッタリング成膜装置。
【請求項4】
前記ターゲット部が各々矩形状の8つのターゲットを有し、
前記8つのターゲットが、1つのターゲットの2辺が他の2つのターゲットの1辺と相互に対向するようにして各々配置されている、請求項1記載のスパッタリング成膜装置。
【請求項5】
前記3以上のターゲットの各々に対して前記制御部が個別に設けられ、
前記制御部により前記3以上のターゲットの各々からの前記成膜物質の供給量が各々独立して個別に制御される、請求項1記載のスパッタリング成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−152333(P2006−152333A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341558(P2004−341558)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】