説明

スピントルク発振素子

【課題】素子の発振を安定化させることができる。
【解決手段】本実施形態に係る磁気記録媒体は、非磁性部、1以上の第1磁性部および第2磁性部を含む。非磁性部は、非磁性体で形成される。1以上の第1磁性部は、前記非磁性部に接続され、電流を伴わない電子スピンの流れを示す純スピン流を発生する。第2磁性部は、前記第1磁性部との間の距離が、前記非磁性部において電子スピンの偏極が保持される距離を示すスピン拡散長以下となるように前記非磁性体に接続され、前記純スピン流により発振する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、純スピン流により発振するスピントルク発振素子に関する。
【背景技術】
【0002】
微細磁性体におけるスピントランスファ効果を利用した電流磁化反転が、磁性メモリの書き込み方法として提案され、スピントランスファ効果を用いた書き込み方式の製品開発が行われている。同様に、スピントランスファ効果を利用して数GHzから数十GHzの磁化の歳差運動を実現するスピントルク発振素子についても、次世代大容量ハードディスクドライブ装置(HDD)における再生および書き込みヘッド、通信などへの応用が提案されている。
例えば、HDDの再生および書き込みヘッドに関する応用としては、スピントルク発振素子により高周波磁場を記録媒体に印加し、誘起される磁気共鳴を利用して媒体へエネルギーを注入し、書き込み磁界を下げるという記録方式がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S. I. Kiselev, J. C. Sankey, I. N. Krivorotov, N. C. Emley, R. J. Schoelkopf,R. A. Buhrman, and D. C. Ralph, Nature 425, 380(2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、スピントルク発振素子をデバイスに応用する際には、スピントルク発振素子が安定して発振することが求められる。伝導電子によるスピントランスファ効果を用いて磁化の歳差運動を励起するスピントルク発振素子においては、電流による発熱、非均一磁区構造などの影響があり、安定的な発振を得るのは難しい。すなわち、スピン流を作るために発振素子に印加した電流により、ジュール熱と電流磁場とが発生し、これらが磁化の運動と磁区構造とに影響する。また、現状のスピントルク発振素子は、スピン流を作る磁性層、発振層、およびその間の非磁性中間層から構成される積層構造であり、非磁性中間層の厚さは一般に数nmしかないため、磁性層からの静磁的な相互作用が発振層に働き、発振素子の発振状態に影響を及ぼしてしまう。
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであり、安定して発振するスピントルク発振素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係るスピントルク発振素子は、非磁性部、1以上の第1磁性部および第2磁性部を含む。非磁性部は、非磁性体で形成される。1以上の第1磁性部は、前記非磁性部に接続され、電流を伴わない電子スピンの流れを示す純スピン流を発生する。第2磁性部は、前記第1磁性部との間の距離が、前記非磁性部において電子スピンの偏極が保持される距離を示すスピン拡散長以下となるように前記非磁性体に接続され、前記純スピン流により発振する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本実施形態に係るスピントルク発振素子を示す図。
【図2】本実施形態に係るスピントルク発振素子における、スピン蓄積とスピン流発生との一例を示す図。
【図3】スピントルク発振素子における、微細磁性体の磁化容易軸と微細磁性体の磁化困難軸とが平行する場合の発振状態の一例を示す図。
【図4】スピントルク発振素子を用いた磁気再生ヘッドの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
スピントランスファ効果を用いた磁化の励起は、1996年に理論的に予測され、この予測に基づいて、電流による微細磁性体の磁化反転および歳差運動が実験的に観察されている。伝導電子が磁性体を流れる時、電子のスピンが磁性体の磁化方向に揃うことにより、スピン角運動量の流れが発生する(これをスピン流と呼ぶ)。スピン流が磁化方向の異なる磁性層に流れ込む場合、電子のスピン角運動量が磁性体に伝わることにより、磁性層の磁化にトルクをもたらす。その結果、磁化の反転または歳差運動が引き起こされる。
上述のように、この磁化の歳差運動による発生した高周波磁界を用いることで、現在使用されている書き込みヘッドでは対応できないような媒体材料、例えばHDDの高記録密度化に応じて熱安定性を保つために磁気異方性が高められた媒体材料にも書き込みを行なうことができる。
さらに、HDDの大容量化の次の技術として、3次元(多層)磁気記録が注目されている。層を選択した再生および書き込みには、スピントルク発振素子を使う磁気ヘッドが有力である。また、通信応用に関しては、巨大磁気抵抗およびトンネル磁気抵抗(GMR/TMR)効果によって、スピントルク発振素子の抵抗が磁化の歳差運動の周期で変化する現象を利用し、高周波信号を発生する素子として用いることが想定される。
【0008】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係るスピントルク発振素子について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をおこなうものとして、重複する説明を適宜省略する。
本実施形態に係るスピントルク発振素子について図1を参照して説明する。
本実施形態に係るスピントルク発振素子100は、第1微細磁性体101(第1磁性部ともいう)、第2微細磁性体102(第2磁性部という)および非磁性細線103(非磁性部ともいう)を含む。また、第1微細磁性体101と非磁性細線103とに電流源104が接続され、第2微細磁性体102と非磁性細線103とに電圧計105が接続される。
第1微細磁性体101は、例えば磁性細線または磁性ドットの形状を有する磁性体であり、スピン注入のために用いられる。スピン注入は、後述の電流源104から電流121が印加され、磁性体の磁化によって電子のスピンが揃えられ(スピン偏極と呼ぶ)、このスピン偏極した電流が磁化を持たない非磁性金属や半導体に注入されることを示す。
【0009】
第2微細磁性体102は、例えば磁性ドットの形状を有する磁性体であり、スピン流122が流されることにより発振し、スピン検出用および発振体として用いられる。第1微細磁性体101および第2微細磁性体102は、例えばNiFe合金で形成されればよい。
非磁性細線103は、Cu、Al、Agなどスピン拡散長の長い材料で形成され、第1微細磁性体101および第2微細磁性体102にそれぞれ導通可能に接続される。スピン拡散長は、スピン偏極が保持される距離を示す。
電流源104は、素子を発振させるために非磁性細線103に電流121を印加する。電流121は、非磁性細線103から第1微細磁性体101に流れる。
電圧計105は、第2微細磁性体102における電圧の変化を読み取ることで、外部にある他の磁性体の磁化方向(例えば、磁気記録媒体の記録層の磁化方向)を読み取る。
第1微細磁性体101の磁化141と第2微細磁性体102の磁化142とは、互いの磁化の向きが反対方向を向く反平行に配置される。なお、電流を流す方向を逆にすれば、第1微細磁性体101の磁化141と第2微細磁性体102の磁化142とを平行配置にしてもよい。
また、第1微細磁性体101の磁化しやすい方向を示す磁化容易軸181は、界面に平行であり、2微細磁性体102の磁化しにくい方向を示す磁化困難軸182は界面に垂直となる。
【0010】
ここで、第1微細磁性体101、第2微細磁性体102および非磁性細線103の寸法、および、第1微細磁性体101と第2微細磁性体102との間隔は、スピンの緩和を抑制するため、非磁性細線103のスピン拡散長の数分の1程度とすることが望ましい。第1微細磁性体101が細線で形成される場合、寸法とは細線の幅を示し、スピンの緩和とは、スピン偏極が保持されなくなることを示す。
【0011】
次に、本実施形態に係るスピントルク発振素子100における、非局所スピン注入の手法を用いた、純スピン流の生成について図2を参照して説明する。
図2(a)から(c)は、第1微細磁性体101、第2微細磁性体102および非磁性細線103のいずれかの接合面の界面と、界面付近における電流およびスピン流の流れとを示す。
【0012】
電流121が非磁性細線103から第1微細磁性体101に流れるとき、電子は第1微細磁性体101から非磁性細線103に流れ込み、スピン流122が電流121の流れる向きと反対方向に流れる。このとき、磁性体での電子のスピン依存散乱効果により、界面付近では第1微細磁性体101の磁化141の磁化方向と同じ向きのスピンを持つ電子(以下、スピンアップ電子(e)と呼ぶ)の数が、第1微細磁性体101の磁化M1 141の方向と反対向きのスピンを持つ電子(以下、スピンダウン電子(e)と呼ぶ)の数より多くなる。この結果、図2(a)に示されるように、スピンアップ電子(e)の電気化学ポテンシャル(Electrochemical potential)(μ)が高まり、スピンダウン電子(e)の電気化学ポテンシャル(μ)は低下する。このように電子スピンのバランスが崩れることをスピン蓄積と呼ぶ。なお、反対に、電流が第1微細磁性体101から非磁性細線103に流れる場合は、スピンダウン電子(e)が蓄積されることとなる。
【0013】
続いて図2(b)に示されるように、電子は電気化学ポテンシャルの高い場所から電気化学ポテンシャルの低い場所へと拡散するので、スピンアップ電子(e)が非磁性細線103の電流121が流れていない部分にも流れる。それに伴って、スピンアップ電子(e)と向きが同じスピン流122が発生する。同時に、非磁性細線103の電流121が流れていない部分から、スピンダウン電子(e)が第1微細磁性体101と非磁性細線103との界面(以下、第1界面161ともいう)とに流れ、向きがスピンダウン電子(e)と同じ向きのスピン流122が発生する。スピンダウン電子とスピンアップ電子とは互いに反対方向を流れるので電流として打ち消され、非磁性細線103と第2微細磁性体102との界面(以下、第2界面162ともいう)に向かう方向に電流121は流れない。
一方、スピン流122は、スピンの向きと流れ方向の両方がともに反対であるため、打ち消されずに足し合わせることになる。つまり、電流121が流れる第1微細磁性体101と非磁性細線103との第1界面161から、電流が流れていない第2微細磁性体102と非磁性細線103との第2界面162方向へと電流が伴わないスピン流、すなわち純スピン流が流れる。上述した手法を非局所スピン注入と呼ぶ。
【0014】
非磁性細線103は、スピン拡散長の長い材料であるので、非磁性細線103を流れるスピン流122の緩和が小さい。そのため、図2(c)に示されているように、第1界面161から非磁性細線103のスピン拡散長以内の距離で離れた第2界面162にもスピン蓄積を発生させることができる。スピンアップ電子(e)の数がスピンダウン電子(e)の数よりも多いので、拡散により、第2界面162から第2微細磁性体102にスピンアップ電子(e)が流れ込み、第2微細磁性体102から第2界面162にスピンダウン電子(e)が流れ出す。すなわち、純スピン流は第2微細磁性体102にも流れ込み、第1微細磁性体101の磁化M1 141と第2微細磁性体102の磁化M2 142との向きが一致していない場合、スピントランスファ効果が働く。このとき、第2微細磁性体102に流れ込むスピンアップ電子のスピンの向きにより、第2微細磁性体102の磁化の方向に近づく際、第2微細磁性体102の磁化にスピン角運動量が伝わってトルクをもたらし、磁化M2 142の歳差運動、つまり発振を励起する。第2微細磁性体102の磁化M2 142が歳差運動をしている場合、電気化学ポテンシャルが発振周波数で変動する。非磁性細線103の電気化学ポテンシャルが変動しないため、第2微細磁性体102と非磁性細線103との間の電圧(出力電圧)が第2微細磁性体102の電気化学ポテンシャルの変動を反映して、同じ周波数で変動する。
このように、第1微細磁性体101と第2微細磁性体102との距離を、第2微細磁性体102が発振可能な距離、かつ磁性体の静磁的な相互作用を低減する距離に離すことができ、第2微細磁性体102を安定して発振させることができる。
【0015】
なお、電流源104から電流を流す際に、第1微細磁性体101と非磁性細線103とにそれぞれ金などのスピン緩和の強い材料から作製されるリード線を接続する。非磁性細線103にリード線を接続する位置が界面に近い位置である場合、第1微細磁性体101と非磁性細線103との第1界面にスピン蓄積がなされていればスピンがリード線に吸収されるので、第1界面に蓄積されるスピンが減少してしまう。そのため、非磁性細線103にリード線を接続する位置は、第1微細磁性体101と非磁性細線103との第1界面から非磁性細線103のスピン拡散長以上離れることが望ましい。
また同様に、出力電圧を測る際にも、第2微細磁性体102と非磁性細線103とにそれぞれ金などのスピン緩和の強い材料から作製されるリード線を接続する。非磁性細線103にリード線を接続する位置は、スピンがリード線に吸収されてしまわないように、第2微細磁性体102と非磁性細線103との第2界面から非磁性細線103のスピン拡散長以上離れることが望ましい。
さらに、スピントランスファ効果は界面付近で起きるので、第2微細磁性体102を発振させるために、第2界面に垂直する方向の寸法を数nm程度に抑える必要がある。この場合、第2微細磁性体102の磁化困難軸182が界面に対して垂直方向となる。
【0016】
第1微細磁性体101の磁化容易軸と第2微細磁性体102の磁化困難軸とが平行する場合の一例を図3に示す。スピントルク発振素子300の構成は、図1に示すスピントルク発振素子100と同様の構成であるが、第1微細磁性体101の磁化容易軸301と第2微細磁性体102の磁化困難軸302との方向が同一となり、磁化M1 141および磁化M2 142の向きが互いに垂直となる。
図3に示すように、第1微細磁性体101の磁化容易軸301と第2微細磁性体102の磁化困難軸302とが平行する場合、第2微細磁性体102の発振(歳差運動)の軸は磁化困難軸302と同一となる。この場合、電流の調節によって、発生する高周波磁界の強度と周波数を大きさとを容易に調節することができる。
【0017】
次に、図1に示すスピントルク発振素子100を、イオンミリング、電子ビームリソグラフィーなどの微細加工手法を用いて、シリコン基板上に作製した場合の実施例について説明する。
保磁力の差を付けるため、第1微細磁性体101と第2微細磁性体102とは、それぞれ厚さが20nmと4nmとのNiFe合金により設計される。第1微細磁性体101と第2微細磁性体102とは形状磁気異方性を有し、両者(第1微細磁性体101および第2微細磁性体102)の磁化容易軸が平行であり、厚さ方向と垂直する面内にある。また、第2微細磁性体102を発振させるために、第2微細磁性体102の厚さを4nmとする。非磁性細線103は、幅150nm、厚さ60nmのCu細線である。また、第1微細磁性体101と第2微細磁性体102との間隔aは約250nmと設定する。
また、非磁性細線103の幅も第1微細磁性体101と非磁性細線103との間隔も、非磁性細線103(Cu)のスピン拡散長(1000nm)よりも十分小さい。よって、スピン流が第1微細磁性体101と非磁性細線103との第1界面から第2微細磁性体102と非磁性細線103との第2界面に流れる場合は、スピン流全体のうち25%が損失となるが、75%のスピン流を確保することができる。
【0018】
続いて、上述したスピントルク発振素子のスピン注入の効率について説明する。
第1微細磁性体101と第2微細磁性体102との磁化容易軸の方向に外磁界を掃引させ、非磁性細線103から微細磁性体101に1mA電流を流す。そして、第1微細磁性体101と第2微細磁性体102との磁化方向が平行から反平行に変わる際の出力電圧を測定した結果、約4μVの出力電圧変化が得られる。この結果により、第2微細磁性体102に流れ込むスピン流は式(1)で見積もられる。
【数1】

【0019】
ここで、Rは材料のスピン抵抗であり、Pは材料のスピン分極率、tは第2微細磁性体102の厚さ、λは材料のスピン拡散長、PyはNiFe合金、Auは第2微細磁性体102と接続されるリード線、Idcは非磁性細線103から第1微細磁性体101に流れる電流である。
式(1)により、非磁性細線103から第1微細磁性体101に10mAの電流を流す場合、第2微細磁性体102に約6×1010A/mのスピン流が流れ込むことが理解できる。これは、スピントルクによる磁化発振に必要なスピン流密度と同レベルである。すなわち、図1に示すスピントルク発振素子100において、非局所スピン注入の手法を用いることで、第2微細磁性体102の歳差運動により磁性体を発振させることができる。
【0020】
次に、本実施形態に係るスピントルク発振素子100の実装例について図4を参照して説明する。
図4は、スピントルク発振素子100を用いた磁気再生ヘッド400を示す図である。磁気再生ヘッド400は、第1微細磁性体101−1および第1微細磁性体101−2、第2微細磁性体102、非磁性細線103、シールド401、絶縁体402およびリード線403を含む。
シールド401および絶縁体402は、一般的な材料を用いればよいため、ここでの説明は省略する。
リード線403は、上述のように、金(Au)などのスピン緩和が強い材料により形成される。
スピン注入の効率を高めるため、磁化方向が反平行の2つの第1微細磁性体101−1と101−2とを用い、非磁性細線103を挟むように第1微細磁性体101−1と101−2とを接続する。図4に示すように、電流Idcを流して、第2微細磁性体102を発振させる場合、出力電圧が磁化の発振周波数で変動し、高周波信号が生成される。記録媒体からの漏れ磁場が微細磁性体102に印加する場合、この高周波信号の周波数または振幅が変化する。この変化を検出することによって、記録された情報を再生することができる。
【0021】
また、2つの第1微細磁性体101−1と101−2との磁化の向きを反平行にするために、2つの第1微細磁性体101の保磁力を異なる値にする。または、反強磁性体を使って、反平行にする。上述のように、電子が非磁性細線103から第1微細磁性体101に流れる場合と、電子が第1微細磁性体101から非磁性細線103に流れる場合では、第1界面で蓄積されるスピンの向きが反対になる。また、第1微細磁性体101の磁化の向きが反転すると、第1界面で蓄積されるスピンの向きも反転する。よって、電流が第1微細磁性体101−1から非磁性細線103に流れる場合、非磁性細線103から第1微細磁性体101−1と磁化の向きが反平行である第1微細磁性体101−2に流れる場合、2つの第1微細磁性体101と非磁性細線103とのそれぞれの界面において、スピンアップ電子(e)が蓄積されることになる。よって、第1界面が1つである場合のスピン蓄積よりも略2倍のスピンが蓄積されることになるので、第2微細磁性体102に流れるスピン流も略2倍に増やすことができる。言い換えれば、第2微細磁性体102を発振させるために必要な電流を減らすことができ、この電流の減少に伴い、第2微細磁性体をより安定して発振させることができる。
【0022】
以上に示した本実施形態に係るスピントルク発振素子によれば、非局所スピン注入の手法を用いて電流が伴わない純スピン流を利用することにより、スピントルク発振素子の微細磁性体の発振を励起しつつ、ジュール熱、電流磁場など電流から生じる悪影響を避けることができる。さらに、スピン流を生成する微細磁性体と発振する微細磁性体(発振素子)との距離を十分長くとることで、磁性体の静磁的な相互作用を低減することができ、発振素子の発振を安定化させることができる。
【符号の説明】
【0023】
100,300・・・スピントルク発振素子、101,101−1,101−2・・・第1微細磁性体、102・・・第2微細磁性体、103・・・非磁性細線、104・・・電流源、105・・・電圧計、121・・・電流、122・・・スピン流、141・・・磁化M1、142・・・磁化M2、181,301・・・磁化容易軸、182,302・・・磁化困難軸、400・・・磁気再生ヘッド、401・・・シールド、402・・・絶縁体、403・・・リード線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体で形成される非磁性部と、
前記非磁性部に接続され、電流を伴わない電子スピンの流れを示す純スピン流を発生する1以上の第1磁性部と、
前記第1磁性部との間の距離が、前記非磁性部において電子スピンの偏極が保持される距離を示すスピン拡散長以下となるように前記非磁性体に接続され、前記純スピン流により発振する第2磁性部と、を具備するスピントルク発振素子。
【請求項2】
前記第1磁性部を2つ具備する場合、2つの該第1磁性部の磁化の向きを反平行とし、かつ前記非磁性部を挟むように2つの該第1磁性部を接続することを特徴とする請求項1に記載のスピントルク発振素子。
【請求項3】
前記第1磁性部および前記第2磁性部は、前記第1磁性部が磁化しやすい方向を示す磁化容易軸と前記第2磁性部が磁化しにくい方向を示す磁化困難軸とが平行となるように配置されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスピントルク発振素子。
【請求項4】
前記第1磁性部に電流を印加するための第1リード線と、前記第2磁性部からの出力信号を測定するための第2リード線とがそれぞれ前記非磁性部に接続される場合、該第1リード線および該第2リード線はそれぞれ、前記第1磁性部と前記非磁性部との第1界面および前記第2磁性部と該非磁性部との第2界面から、該第1リード線および該第2リード線が接続される材料のスピン拡散長以上離れて接続されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のスピントルク発振素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−69755(P2013−69755A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205780(P2011−205780)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】