説明

スフィンゴシン1リン酸による神経伝達物質の放出促進機能とその応用

【課題】スフィンゴシン1リン酸(S1P)の神経系に特異的な作用・機能を同定し、その成果を神経疾患治療等へ応用すること。
【解決手段】本発明は、S1Pが神経細胞からの神経伝達物質の放出を促進するという、今回同定したS1Pの神経特異的な新規作用に基づくものであり、神経細胞にS1Pまたはその受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストを投与し、あるいは神経細胞でのS1Pの生成を制御することによって、神経細胞からの神経伝達物質の放出を調節する方法を提供するほか、神経伝達物質の放出制御剤、神経疾患治療薬、および、このような神経伝達物質の放出制御剤や神経疾患治療薬のスクリーニング方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スフィンゴシン1リン酸による神経伝達物質の放出促進機能とその応用に関する。例えば、中枢神経系の海馬ニューロンにおいて神経伝達物質であるグルタミン酸の放出を促進または抑制することができ、新規てんかん治療薬の開発など各種神経疾患(特に海馬系の疾患、およびグルタミン酸作動性神経系の疾患)の治療へ応用することができる。
なお、本明細書において、かっこ内に数字のみ記載している場合、その数字は、特に断らない限り、明細書の末尾に掲げる参考文献リストの該当番号を指すものとする。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系の大きな特徴の1つとして、膨大な数の神経細胞(ニューロン)が互いに連絡して無数の情報を統合し、蓄積記憶する能力が挙げられる。ニューロン間の情報伝達は、化学シナプスにおいて神経伝達物質を介して行われ、シナプス前細胞(以下、「前シナプス」という)からシナプス間隙に神経伝達物質が放出されると、シナプス後細胞(以下、「後シナプス」という)がその受容体によってこの情報をとらえるという形で情報が速やかに前シナプスから後シナプスへと伝えられる。
前シナプスからの神経伝達物質の放出には、神経伝達物質の詰まったシナプス小胞の移動、細胞膜への融合、シナプス間隙への神経伝達物質の放出といった現象がみられる(3,17)。また、膨大な量の情報を蓄積しつつ可塑性を有する中枢神経系の複雑な機能とその研究成果は、神経伝達物質の放出を制御する調節因子が存在する可能性を示唆している。このような調節因子を同定することで、当該因子の調節機能を利用して神経伝達物質の放出を制御し、ひいてはニューロン間の情報伝達を調節し、各種神経疾患の治療、診断、病態解明などへ応用することが期待される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スフィンゴシン1リン酸(以下、「S1P」と略す場合がある。)などのスフィンゴ脂
質代謝物は、その神経系での役割について近年注目されている物質の1つである(7)。スフィンゴシン1リン酸は、スフィンゴシンキナーゼによりスフィンゴシンがリン酸化されることで生成され、細胞の内外で作用する重要な脂質メディエーターと考えられている(22,30)。細胞外のスフィンゴシン1リン酸は、Gタンパク質共役型のS1P受容体ファミリー(S1P1-5)のメンバーと結合して種々の細胞活動を惹起し、血管新生、心発生、免疫、細胞運動、神経伸長等の多岐にわたる生命現象に関与することが報告されている(31,33,38)。その一方、スフィンゴシン1リン酸は、細胞内において、細胞内カルシウムの移動、細胞増殖、アポトーシスの抑制に関与することが報告されている(14,35)。さらに他の報告として、高濃度の塩化カリウム(KCl)によりPC12細胞の脱分極を誘導すると、S1Pの蓄積が生じること(1)、小脳の顆粒細胞およびアストロサイトから細胞内生成されたS1Pが放出されること(2)、S1Pの合成酵素であるスフィンゴシンキナーゼ1、およびS1Pの受容体が中枢神経系に豊富に存在すること(12,13,36)が報告されている。しかし、神経細胞の活動においてS1Pがどのような生理活性を有しているのか、その神経特異的な作用、役割については、未だ十分解明されていなかった。
そこで、本発明は、スフィンゴシン1リン酸(S1P)の神経系に特異的な作用について研究を進め、その作用・機能を同定し、神経疾患治療等へ応用することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
スフィンゴシンをリン酸化してS1Pを産生する脂質代謝酵素スフィンゴシンキナーゼ1(以下、「SK1」と略す場合がある。)は、上記のように中枢神経系に豊富に存在する。本発明者は、海馬神経細胞において、このSK1が小胞と共に軸索突起部に局在することを見出した。また、このSK1の発現や活性を抑制すると、脱分極依存性の神経伝達物質(グルタミン酸)の放出が抑制されること、脱分極のときにSK1は細胞膜に移動して基質をリン酸化し、細胞内S1P量を増加させること、さらに、生成されたS1Pは、オートクラインまたはパラクラインな方法でS1P受容体を活性化して、神経細胞からの神経伝達物質の放出を促進すること、S1Pによるこの放出促進作用には異なる2つのメカニズムが存在し、S1P自体が神経伝達物質の放出を誘導する誘導因子として作用するほか、S1Pが脱分極依存性の神経伝達物質の放出を亢進・増強する増強因子としての作用を有すること等を明らかにし、これらの新知見が神経疾患治療等へ応用可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、産業上有用な、以下の(1)〜(20)の発明を包含するものである。
(1)神経細胞にスフィンゴシン1リン酸またはその受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストを投与し、あるいは神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を制御することによって、神経細胞からの神経伝達物質の放出を調節する方法。
(2)神経細胞にスフィンゴシン1リン酸受容体のアンタゴニストを投与し、あるいは神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を抑制することによって、神経細胞からの神経伝達物質の放出を抑制する方法。
(3)神経細胞にスフィンゴシン1リン酸またはその受容体のアゴニストを投与し、あるいは神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を促進することによって、神経細胞からの神経伝達物質の放出を促進する方法。
(4)前記神経伝達物質は、グルタミン酸またはγ-アミノ酪酸(GABA)である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)神経細胞でのスフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を調節することによって、前記神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を制御する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記神経細胞は、中枢神経細胞または中枢神経細胞由来である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記神経細胞は、海馬神経細胞または海馬神経細胞由来である上記(6)記載の方法。
(8)スフィンゴシン1リン酸、スフィンゴシン1リン酸受容体のアゴニストまたはアンタゴニスト、および、スフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を調節する物質からなる群から選択される物質を有効成分とする神経伝達物質の放出制御剤。
(9)スフィンゴシン1リン酸受容体のアンタゴニスト、および、スフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を抑制する物質からなる群から選択される物質を有効成分とする神経伝達物質の放出抑制剤。
(10)スフィンゴシン1リン酸、スフィンゴシン1リン酸受容体のアゴニスト、および、スフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を促進する物質からなる群から選択される物質を有効成分とする神経伝達物質の放出促進剤。
(11)スフィンゴシン1リン酸、スフィンゴシン1リン酸受容体のアゴニストまたはアンタゴニスト、および、スフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を調節する物質からなる群から選択される物質を有効成分とする神経疾患治療薬。
(12)前記神経疾患が、中枢神経疾患である上記(11)記載の神経疾患治療薬。
(13)前記神経疾患が、海馬系の疾患、またはグルタミン酸作動性神経系の疾患である上記(11)記載の神経疾患治療薬。
(14)前記神経疾患が、てんかん、海馬硬化症、アルツハイマー病、統合失調症および他の精神神経疾患からなる群から選択されるものである上記(11)記載の神経疾患治療薬。
(15)神経細胞に発現するスフィンゴシン1リン酸受容体のアゴニストまたはアンタゴニストを探索することを特徴とする、神経伝達物質の放出制御剤、または神経疾患治療薬のスクリーニング方法。
(16)スフィンゴシン1リン酸受容体のサブタイプであるS1P1またはS1P3のアゴニストまたはアンタゴニストを探索することを特徴とする、上記(15)記載のスクリーニング方法。
(17)上記(15)または(16)記載のスクリーニング方法に使用することができ、神経細胞への候補物質の投与に対し、当該細胞に発現するスフィンゴシン1リン酸受容体の活性化の有無をFRET法により検出できるように調製された、蛍光タンパク質とスフィンゴシン1リン酸受容体との融合タンパク質を発現するベクター。
(18)神経細胞または神経組織に候補物質を投与するステップと、候補物質投与の前後におけるスフィンゴシンキナーゼ1の発現変化または活性変化を指標に、スフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を調節する物質を探索するステップとを含む、神経伝達物質の放出制御剤、または神経疾患治療薬のスクリーニング方法。
(19)神経細胞にスフィンゴシン1リン酸またはその受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストを投与し、あるいは神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を制御することによって、神経細胞間のシナプス形成を調節する方法。
(20)神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を抑制することによって、神経細胞間のシナプス形成を抑制する方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、各種神経疾患の治療、診断、病態解明などへ応用することが可能である。たとえば、側頭葉てんかん等の難治性てんかんに対する新たな薬物療法の開発に利用できる。側頭葉てんかんの治療法としては現在バルブロ酸(VPA)などの薬物療法が主である。しかし、薬物が効かないタイプも多く、またこの薬物による催奇形性が報告され、より安全で有効な薬物の開発が期待されている。本疾患では海馬に病巣が存在することから、本発明により海馬神経細胞からのグルタミン酸の放出を特異的に抑制するなどして、側頭葉てんかんの治療、診断、病態解明などへ応用することができる。
特に小児の難治性側頭葉てんかんでは発作の繰り返しにより知的障害を引き起こすことが今日のてんかん治療の大きな課題となっている。本発明によるてんかん治療の新たな試みは、S1Pが海馬神経細胞からの神経伝達物質(グルタミン酸)の放出を促進し、またS1P産生酵素SK1の働きを阻害するとその放出が抑制されるという今回の知見に基づき、その1つとしてスフィンゴシンキナーゼ阻害薬をてんかん治療に用いることを包含する。スフィンゴシンキナーゼ阻害薬は免疫抑制薬などで開発が進み、人体に対する安全性も調べられている段階である。そこで、スフィンゴシンキナーゼ阻害薬を難治性側頭葉てんかんなどの薬物治療に臨床応用することにより、より安全で有効な治療効果が期待できる。
もちろん、本発明は、てんかん治療に限らず、各種神経疾患の治療、診断、病態解明などに応用可能である。特に、中枢での神経活動の異常に起因する疾患(神経活動の過剰、あるいは反対に神経活動の低下に起因する疾患)、とりわけ、海馬領域の神経活動の異常に起因する海馬系の疾患や、グルタミン酸を神経伝達物質としてニューロン間の情報伝達を行うグルタミン酸作動性神経系の疾患の治療、診断、病態解明などに有用と考えられる。たとえば、てんかんのほか、海馬硬化症、アルツハイマー病、統合失調症、その他記憶障害や知覚障害がみられる精神神経疾患、海馬萎縮など組織の変性がみられる神経変性疾患への臨床応用が考えられる。
また、免疫組織化学による解析結果などから、S1P産生酵素SK1は、海馬領域のみならず、嗅球および小脳皮質にも豊富に存在することが判明している。したがって、今回同定されたS1Pの神経伝達物質放出促進作用は、海馬領域に限らず、SK1が豊富な脳領域においてS1Pは同様の作用を示す可能性があり、このことは海馬領域以外の異常に起因する脳疾患に対しても本発明を臨床応用できる可能性を示すものである。
さらに、S1Pは神経系の形成・発生において重要な役割を担っていることから、本発明は、神経系の形成異常に起因する疾患にも臨床応用できる可能性がある。これまでに、S1P産生酵素であるSK1/SK2のダブルノックアウトマウスと、S1P受容体であるS1P1欠損マウスの双方において、神経管の閉鎖不全など神経系の重大な形成異常を引き起こすことが報告されている(26)。また、神経新生が盛んに起こる海馬苔状線維(mossy fiber)においてSK1の高い発現が認められることから、今回同定されたS1Pの神経伝達物質放出促進作用は、シナプス形成ひいては回路形成を含む神経系の形成と新生に大きく関与している可能性がある。本発明は、この分子メカニズムの研究のためにも有用である。
近年、活動電位に依存しない、神経伝達物質の「自発的な(spontaneous)」放出が報告されている(19)が、その分子メカニズムはよくわかっていない。今回の解析から、S1Pは、脱分極を介さずに、それ自体で神経伝達物質の放出を誘導する放出促進因子(secretagogue)としての作用と、脱分極依存性の神経伝達物質の放出を亢進・増強する増強因子(enhancer)としての作用を有することを明らかにした。S1Pのこの2つの作用のうち、前者の作用は神経伝達物質の自発的な放出のメカニズムに関与している可能性がある。本発明は、この分子メカニズムの研究のためにも有用であり、その他脳神経の研究用に広く利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について、以下さらに詳しく説明する。
[1]本発明の神経伝達物質の放出制御法
本発明の神経伝達物質の放出制御法は、神経細胞にS1Pまたはその受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストを投与し、あるいは神経細胞でのS1Pの生成を制御することによって、神経細胞からの神経伝達物質の放出を調節することを特徴とする。
前述のように、神経細胞でSK1により生成されたS1Pは、オートクラインまたはパラクラインな方法でS1P受容体を活性化して、神経細胞からの神経伝達物質の放出を促進する。実際に、S1Pで海馬神経細胞を刺激すると、シナプス小胞と小胞内の神経伝達物質グルタミン酸の放出が誘導された(図6AB)。この放出誘導作用は、ごく微量(ピコモル濃度)で認められ、最大効果は10nMで認められた。また、ピコモル濃度のS1Pを投与すると、神経細胞からの脱分極依存性グルタミン酸放出が著名に亢進した(図6D)。
したがって、神経細胞にS1Pまたはその受容体のアゴニストを投与することによって、当該細胞からの神経伝達物質の放出を促進することができる。また、S1P受容体ファミリーのメンバーのうち、S1P1またはS1P3の発現を抑制すると、神経伝達物質の放出が抑制され、両者の発現を抑制すると、神経伝達物質の放出はほぼ完全に抑制された(図6F)。この結果から、神経伝達物質放出促進のために投与するS1P受容体のアゴニストとしては、S1P受容体のサブタイプであるS1P1またはS1P3のアゴニスト(即ち、S1P受容体に結合して、S1Pと同様、受容体を活性化する物質)を使用することが好ましい。
また、図6Fの結果からもわかるように、S1P受容体のアンタゴニスト(即ち、S1P受容体に結合して、S1Pによる受容体の活性化を阻害する物質)を投与することによって、逆に神経細胞からの神経伝達物質の放出を抑制することができる。このような本発明の方法に使用するアゴニストおよびアンタゴニストとしては、既知のS1P受容体のアゴニストおよびアンタゴニストを使用してもよいが、FRET法などでS1P受容体の活性化を検出する方法により、本発明に使用するアゴニストおよびアンタゴニストを探索することが可能である。この方法の一例として、図5Aに示すようなFRET法を採用することができる。この方法では、まずS1P受容体と蛍光タンパク質(フルオロフォア)との融合タンパク質を発現するベクターを調製して、神経細胞に導入する。そして、この融合タンパク質を発現する神経細胞に対して種々の候補物質を投与し、S1P受容体の活性化の有無をFRET法により検出する。この結果、S1P受容体を活性化する物質は、本発明のアゴニストとして利用可能性を有するし、後述のように、神経伝達物質の放出促進剤、あるいは神経疾患治療薬として利用可能性を有する。
他方、S1P受容体と蛍光タンパク質(フルオロフォア)との融合タンパク質を発現する神経細胞に対して、S1Pと一緒に種々の候補物質を投与し、S1Pによる受容体の活性化が、一緒に投与した候補物質により阻害されるかどうかをFRET法により検出してもよい。この結果、S1Pによる受容体の活性化を阻害する物質は、本発明のアンタゴニストとして利用可能性を有するし、後述のように、神経伝達物質の放出抑制剤、あるいは神経疾患治療薬として利用可能性を有する。
また、SK1阻害薬であるジメチルスフィンゴシン(DMS)で神経細胞を処理し、あるいはRNA干渉(siRNA)によりSK1の発現を抑制すると、いずれの場合にもS1P受容体の活性化が抑制された(図5C)。この結果からもわかるように、神経細胞でのSK1の発現または活性を調節し、当該細胞でのS1Pの生成を調節することにより、神経細胞からの神経伝達物質の放出を制御することが可能である。たとえば、SK1阻害剤を投与してS1Pの生成を抑制することにより、神経細胞からの神経伝達物質の放出を抑制することが可能である。使用するSK1阻害剤としては、既知のスフィンゴシンキナーゼ阻害剤(たとえば特開2001−122846号参照)、あるいはスクリーニングにより新たなSK1阻害剤を探索して使用してもよい。
以上のように、本発明の神経伝達物質の放出制御法は、本発明者により明らかにされたS1Pによる神経伝達物質の放出促進機能に着目し、その機能を抑制し、あるいは促進することによって、神経伝達物質の放出を制御する方法である。この方法は、生体外では培養神経細胞に対して、また生体内ではヒト以外の動物に対して使用することができる。
【0008】
なお上述した、S1Pによる神経伝達物質グルタミン酸の放出促進作用は、培養海馬神経細胞のみならず、海馬組織切片を用いた解析によっても確認された(図10)。電気生理学的解析の結果、S1Pは、海馬のCA3錐体細胞において電気刺激によらない自発的グルタミン酸放出を促進し(図11)、また電気刺激による神経伝達物質の放出を増強する増強因子としての作用も認められた(図13)。
さらに、グルタミン酸以外の神経伝達物質として、S1Pは、抑制性の神経伝達物質γ-アミノ酪酸(GABA)の放出促進作用をも有しており(図14)、海馬のCA3錐体細胞ならびにCA1錐体細胞において自発的なGABAの放出を促進した(図15)。
また、本発明は、神経細胞にスフィンゴシン1リン酸またはその受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストを投与し、あるいは神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を制御することによって、神経細胞間のシナプス形成を調節する方法を提供する。例えば後述のように、神経細胞でスフィンゴシンキナーゼ1の発現を抑制すると、神経細胞間のシナプス形成が強く抑制された(図16)。このように、神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を抑制することによって、神経細胞間のシナプス形成を抑制することが可能である。
【0009】
[2]本発明の神経伝達物質放出制御剤、および神経疾患治療薬
本発明の神経伝達物質放出制御剤、および神経疾患治療薬は、前述したように、S1P、S1P受容体のアゴニストまたはアンタゴニスト、あるいは、SK1の発現または活性を調節する物質を有効成分とするものである。S1P受容体のアゴニストとアンタゴニストには、前述同様、既知のS1P受容体のアゴニストとアンタゴニストのほか、FRET法などでS1P受容体の活性化を検出する方法により、S1P受容体の新規アゴニストまたは新規アンタゴニストを探索して、得られた物質を使用してもよい。
神経疾患治療薬に用いる場合は、治療対象の疾患に応じて候補物質群の中から有効適切な物質を選別することが望ましい。たとえば、SK1の発現または活性を阻害するSK1阻害物質を側頭葉てんかん治療薬に用いる場合には、既存のSK1阻害物質あるいはスクリーニングにより新たに取得したSK1阻害物質の中から、側頭葉てんかんモデルマウス等を用いて、各物質の安全性や脳内移行性、てんかん発作への有効性や特異性を調査し、より有効適切な物質を選別することが望ましい。
【0010】
[3]本発明のスクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、S1P受容体の活性化を介した神経伝達物質の放出促進作用に着目し、神経伝達物質の放出制御剤、または神経疾患治療薬のスクリーニングにおいて、S1P受容体のアゴニストまたはアンタゴニストを探索することを特徴とする。たとえば前述したように、S1P受容体のサブタイプであるS1P1またはS1P3を神経細胞に発現させ、FRET法によりそのアゴニストまたはアンタゴニストを探索するスクリーニング方法が例示される。
また、本発明の他のスクリーニング方法は、神経伝達物質の放出制御剤、または神経疾患治療薬のスクリーニングにおいて、神経細胞または神経組織に候補物質を投与するステップと、候補物質投与の前後におけるSK1の発現変化または活性変化を指標に、SK1の発現または活性を調節する物質を探索するステップとを含むことを特徴とする。SK1の発現変化や活性変化の調査は、遺伝子・タンパク質の発現量、キナーゼのリン酸化活性の変化等を調べる従来公知の種々の方法を適用することができ、特に限定されるものではない。また、in vitroおよびin vivoスクリーニング系のいずれであってもよいし、cell-free systemでスクリーニングを行ってもよい。また、SK1遺伝子・タンパク質は、ヒト由来のもののほか、ラット、マウスその他の動物由来のものを使用してもよい。勿論、SK1タンパク質の高次構造の情報を利用してインシリコ・スクリーニングを行ってもよい。
【実施例】
【0011】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記の実施例によって何ら制限されるものではない。
[実施例1]
[1]材料と方法
[1−1]プラスミドの作製
HA−mSK1およびHA−rSK2プラスミドを、参考文献16と同様の方法で作製し、ベクターpEGFP-C1(Clontech, Palo Alto, CA)へクローニングした。
hSK1(GenBank accession number, AF266756)とrSK1(GenBank accession number, NM_133386)のcDNAは、PCRでヒト脳cDNAライブラリー(Invitrogen)とラット脳cDNAライブラリー(Clontech)とからそれぞれPCRをもちいて増幅した。PCRでは、N末端にHAタグをつけるため、hSK1については下記[1][2]のプライマーを使用し、rSK1については下記[3][4]のプライマーを使用した(これ以降に記載される[1]〜[31]の各配列は、それぞれ配列表の配列番号1〜31に示す配列に対応する)。
[1]sense primer, 5’-GCCGGTACCCCGCGGGTCGAGGTTATGG-3’
[2]antisense primer, 5’-GCCGGTACCTCATAAGGGCTCTTCTGGC-3’
[3]sense primer, 5’-CGGGGTACCATGCAACCAGCAGACTGTCCC-3’
[4]antisense primer, 5’-CGGGGTACCTCATATTGGTTCTTCTGGAGGTGG-3’
Stratagene (La Jolla, CA) Quick Change site-directed mutagenesis kitを用いた部位特異的突然変異誘発法により、キナーゼ活性が不活性の変異体hSK1G82Dを作製した。得られたコンストラクトは、コード配列全体をシークエンスして変異が導入されていることを確認した。
C末端にGFPを融合させたラットシナプトフィジンをコードするコンストラクトを、シナプトフィジン−CFPが組み込まれたpECFPから再構築した。
マウスS1P受容体であるmS1P1(GenBank accession number, NM_007901)のcDNAを、マウス脳cDNAから増幅した。より詳細には、まずマウス胎仔脳mRNA(Invitrogen)から逆転写後、下記[5][6]のプライマーを使用したPCRを行い、C末端にCFPを融合させたコンストラクトを発現するpECFP-N1を作製した。
[5]sense primer, 5’-CGGAATTCGCCACCATGGTGTCCACTAGCATCC-3’
[6]antisense primer, 5’-CGGAATTCGGGAAGAAGAATTGACGTTTCCAG-3’
マウスβ−アレスチン2(GenBank accession number, NM_004313)のcDNAを、マウス脳cDNAから増幅した。より詳細には、まずマウス胎仔脳mRNA(Invitrogen)から逆転写後、下記[7][8]のプライマーを使用したPCRを行い、N末端にYFPを融合させたコンストラクトを発現するpEYFP-C1を作製した。
[7]sense primer, 5’-GCCGGTACCCCGCGGGTCGAGGTTATGG-3’
[8]antisense primer 5’-GCCGGTACCTCATAAGGGCTCTTCTGGC-3’
【0012】
[1−2]細胞培養
すべての動物実験は、神戸大学の動物実験ガイドラインにしたがって行われた。
海馬ニューロンは、胎生18日(E18)ラット(Wistar)から調製した。海馬ニューロンは、300μg/ml poly-D-lysineと25μg/ml lamininでコートしたガラス底の培養皿(Matsunami Glass, Osaka, Japan)で、5%CO2雰囲気中、Neurobasal培地(B−27(Invitrogen),1mM L−グルタミン, 100 units/mlペニシリンと100μg/mlストレプトマイシンを添加)にて培養した。
培養ニューロン(5×104個、密度38,000/cm2)に対し、アッセイの2−5日前に、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて、種々のcDNA(0.53μg)を細胞内導入した。すべての実験は、インビトロでの培養日数(DIV)10−14日目に行われた。
【0013】
[1−3]siRNAの作製
ラットSK1のsiRNAとして、下記[9][10]の配列のものを合成し、使用した。
[9]5’-GGGCAAGGCUCUGAAGCUCdTdT-3’
[10]5’-GAGCUUCAGAGCCUUGCCCdTdT-3’
また、コントロールsiRNAとして下記[11][12]の配列のものを、S1P1のsiRNAとして下記[13][14]の配列のものを、S1P3のsiRNAとして下記[15][16]の配列のものを、それぞれ合成し使用した。
[11]5’-UUCUCCGAACGUGUCACGUdTdT-3’
[12]5’-ACGUGACACGUUCGGAGAAdTdT-3’
[13]5'-CUGACUUCAGUGGUGUUCAdTdT-3'
[14]5'-UGAACACCACUGAAGUCAGdTdT-3'
[15]5'-CCCUCUACUCCAAGAAAUACA-3'
[16]5'-UAUUUCUUGGAGUAGAGGGGC-3'
実験では、作製したsiRNAと、空ベクターまたは種々の発現ベクターコンストラクトとを、アッセイの2−5日前に、ニューロンにトランスフェクションした。
【0014】
[1−4]抗SK1抗体の作製
ウサギポリクローナル抗マウスSK1抗体を、下記[17]のアミノ酸配列からなる合成ペプチド(362−381番目のアミノ酸残基に相当)とglutathione S-transferaseとの融合タンパク質を抗原に使用して常法により作製した。得られた抗SK1抗体は、抗原固相化セファロース4Bを使用してアフィニティ精製した。
[17]GSRDAPSGRDSRRGPPPEEP
【0015】
[1−5]免疫沈降
培養海馬ニューロンを、細胞溶解用バッファー(20 mM Tris-HCl, pH 7.4, 1 mM EGTA, 1 mM EDTA, 150 mM NaCl, 1% (w/v) Triton X-100, protease inhibitors (Roche Applied Science))で処理し、得られた溶解物を超音波処理後に10,000 x gで遠心した。その上澄みを、抗SK1抗体(1:100希釈)で1時間、4℃でインキュベーションした後、プロテインA−セファロースを加えてさらに1時間インキュベーションした。その後、サンプルを、4℃、2,000 x gで5分遠心し、得られたペレットを、界面活性剤を含まない細胞溶解用バッファーで3回洗浄した。そして、このペレットを、界面活性剤を含まない細胞溶解用バッファーに溶かし、イムノブロット解析およびスフィンゴシンキナーゼ(SK)アッセイに供した。
【0016】
[1−6]免疫蛍光染色
参考文献11の方法と同様に、ラット海馬ニューロンを培養10−14日に免疫染色した。
抗SK1抗体(1:100希釈)および抗SK2抗体(1:1000希釈)は、ポリクローナル抗体を使用した。抗Tau抗体(Sigma Aldrich; 1:100)、抗MAP2抗体(Sigma Aldrich; 1:100)、および抗シナプトフィジン抗体(CHEMICON International, Temecula, CA; 1:50)は、モノクローナル抗体を使用した。
蛍光観察は、共焦点レーザスキャン顕微鏡(LSM 510 META, Carl Zeiss, Jena, Germany)を使用した。より詳細には、Alexa488の蛍光を、505-530 nm band-pass barrier filterを使用して励起波長488nmで、またAlexa594 の蛍光を、560 nm long-pass barrier filterを使用して励起波長543nmで、それぞれ観察した。
また、GFP−SK1をコードするプラスミドDNAをニューロンにトランスフェクションし、FM4−64色素で標識した後に活性突起部(functional puncta)を検出する実験を行った。
【0017】
[1−7]FM4−64によるモニタリング
前シナプスのシナプス小胞を、参考文献34の方法とほぼ同様に、膜染色用のスチリル蛍光色素プローブFM4−64(Molecular Probes, Eugene, OR)を用いて標識した。実験では、50mM KCl中、15μMのFM4−64で1分間シナプス小胞を標識した後、色素を含まない溶液で10分間洗浄した。そして、高濃度カリウム(50mM KCl)またはグルタミン酸により誘導される小胞の細胞外放出を、バッファー(135 mM NaCl, 5.4 mM KCl, 1 mM MgCl2, 1.8 mM CaCl2, 10 mM glucose, 5 mM HEPES, pH 7.3)中で測定した。
FM4−64蛍光は、共焦点レーザスキャン顕微鏡(Zeiss LSM 510 META)で、640 nm long-pass barrier filterを使用して励起波長488nmで測定した。各突起部(少なくとも100個の異なる領域)での蛍光を、Zeiss LSM 510 softwareを用いて解析した。3回独立に行った実験からの蛍光値の平均をとり、FM4−64蛍光の経時変化(減衰)をプロットした。また、siRNA実験などにおいては、シナプトフィジン−GFPを発現するGFP陽性の突起部において、FM4−64蛍光を測定した。
【0018】
[1−8]グルタミン酸の測定
培養海馬ニューロンから放出されたグルタミン酸は、AmplexTM Red Glutamic Acid/Glutamate Oxidase Assay Kit(Invitrogen)を用いて測定した。初代海馬ニューロンを、50mM KClまたは10nM S1Pの存在下または非存在下で1分間処理した。その後、培地を回収し、上記キットを用いてグルタミン酸量を測定した。蛍光の経時的な変化は、蛍光分光計(F-2500, Hitachi, Tokyo)を用いて、励起波長540nm、発光波長590nmで測定した。
【0019】
[1−9]海馬ニューロンにおけるS1P量の測定
海馬ニューロンでのS1P量を、参考文献10の方法を少し改変して測定した。実験では、KCl処理した(またはコントロールの)海馬ニューロン(2.5 x 106 細胞/サンプル)をメタノールで回収し、S1Pを抽出した。抽出したS1Pは、ウシ小腸粘膜由来アルカリホスファターゼ(Sigma)で脱リン酸化し、 [γ-32P]ATP標識組み換えmSK1を用いて再びリン酸化した。そして、標準品のS1Pを用いた薄層クロマトグラフィによって、放射性S1Pを定量した。
【0020】
[1−10]リアルタイム定量RT−PCR
ISOGEN(Nippon gene, Toyama, Japan)を用いて、全RNAをラット海馬ニューロン(4 x 105 細胞)から抽出した。cDNAの合成と定量PCRは、参考文献27と同様の方法で行った。使用した各遺伝子増幅用のプライマー配列は次のとおりである。
ラットS1P1のセンスプライマーおよびアンチセンスプライマー
[18]5'-TTG TTG CAA ATG CCC CAA CG-3'
[19]5’-TTT GCT GCG GCT AAA TTC CAT G-3’
ラットS1P2のセンスプライマーおよびアンチセンスプライマー
[20]5'-TCG CCA AGG TCA AGC TCT ACG-3'
[21]5'-AGA CAA TTC CAG CCC AGG ATG G-3'
ラットS1P3のセンスプライマーおよびアンチセンスプライマー
[22]5’-CAC CTG ACC ATG ATC AAG ATG AG-3’
[23]5’-ACC CAG CGA GAA GGC AAT TAG C-3’
ラットS1P4のセンスプライマーおよびアンチセンスプライマー
[24]5’-TGT GTA TGG CTG CAT CGG TCT G-3’
[25]5’-GAG CAC ATA GCC CTT GGA GTA G-3’
ラットS1P5のセンスプライマーおよびアンチセンスプライマー
[26]5’-GCT CTA CGC CAA GGC CTA TGT G-3’
[27]5’-GCA CCT GAC AGT AAA TCC TTG C-3’
ラットglyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)のセンスプライマーおよびアンチセンスプライマー
[28]5'-TGC CCC CAT GTT TGT GAT G-3'
[29]5'-TGT GGT CAT GAG CCC TTC C-3'
ラットSK1のセンスプライマーおよびアンチセンスプライマー
[30]5'-CTGGAGGAGGCTGAGGTATC-3'
[31]5'-CCAGTGACCCAGTTCTTCTGC-3'
各mRNAの発現は、GAPDHのmRNA発現により標準化された。
【0021】
[1−11]FRAP(fluorescence recovery after photobleaching)
FRAP解析は、参考文献6の方法と同様に、Zeiss LSM 510 META共焦点レーザスキャン顕微鏡を用いて行った。実験では、GFP−SK1、GFP−変異SK1、シナプトフィジン−GFPまたはGFP単独を、初代海馬ニューロンにトランスフェクションし、50mM KClまたは100μMのグルタミン酸の存在下または非存在下で1分間処理した。その後、選択した各突起部の環状領域を、最高出力のアルゴンレーザで8秒間スキャンして、フォトブリーチした。フォトブリーチ後、低レーザ出力の共焦点蛍光顕微鏡によって、各選択領域での蛍光の回復を経時的に解析した。line scan averagingによって、得られたすべての画像のノイズレベルを低減させた。
各選択領域でのFRAPは、下記の式により算出した(32)。
[F(t) - Fp]/[Fi - Fp] x 100
(「Fi」はフォトブリーチ前の選択領域での蛍光、「Fp」はフォトブリーチ直後の選択領域での蛍光、「F(t)」はフォトブリーチ後t(秒)経過時点の選択領域での蛍光である)。
【0022】
[1−12]FRET(fluorescence resonance energy transfer)
ガラス底の培養皿で培養された初代海馬ニューロンに、S1P1−CFP(ドナー)とYFP−β−アレスチン(アクセプター)の発現プラスミドを、ドナー/アクセプター比1:1で、コトランスフェクション(共に細胞内導入)した。励起波長458nmに続き、Zeiss LSM 510 META共焦点レーザスキャン顕微鏡のラムダモードおよびその解析用ソフトウエアを用いて、473nmから633nmまで20nm間隔の8チャンネルで、(S1P1−CFPまたはYFP−β−アレスチンを単独で発現させた細胞から)CFPとYFPの発光スペクトルを得た。コトランスフェクションして2日後に、ニューロンを種々のアゴニストで処理し、各突起部をFRET解析した。FRET効率は、参考文献4の方法と同様に、アクセプターのフォトブリーチ後に測定した。コトランスフェクション細胞の混合スペクトルイメージを得た後、YFPのフォトブリーチのため対象となる突起部または樹状突起の領域を選択した。そして、100% 514nmレーザ出力で2秒間、選択領域をフォトブリーチ(アクセプターフォトブリーチ)する一方で、フォトブリーチを制限する10%レーザ出力、励起波長458nmを用いてフォトブリーチ前後の画像を記録する方法を採用した。FRETは、YFP(アクセプター)のフォトブリーチ後に近接するCFP(ドナー)シグナルの増加として把握される。FRET効率(E)は、フォトブリーチ後のエネルギードナー(CFP)の蛍光強度(Ipost)と、フォトブリーチ前のエネルギーアクセプター(YFP)の蛍光強度(Ipre)との相対蛍光強度から、次式により決定される(25)。
E = 1-(Ipre/Ipost)
【0023】
[1−13]イムノブロット解析等
イムノブロット解析は、参考文献20と同様の方法で行った。スフィンゴシンキナーゼ1の活性は、参考文献16とほぼ同様に測定したが、スフィンゴシンキナーゼ2(SK2)活性を抑制するため、反応液に0.5% Triton x-100を添加した(24)。
【0024】
[2]結果
[2−1]海馬ニューロン軸索の活性突起部(functional puncta)でのSK1の発現
ニューロン活動におけるS1Pの役割、そのニューロン特異的機能を調べるため、まず海馬ニューロンにおけるスフィンゴシンキナーゼ(SK)の細胞内分布を検討した。
まず、マウスSK1(mSK1)を抗原に使用して作製された抗SK1抗体は、ラットSK1(rSK1)を特異的に認識する一方、ラットSK2(rSK2)を認識しなかった(図1A)。この抗SK1抗体を使用したラット脳溶解物に対するイムノブロット解析の結果、組み換えラットSK1(rSK1)の分子量に相当する40kDa付近に、単一バンドが認められた(図1B左)。このバンドは、抗SK1抗体による反応に抗原ペプチドを入れると消失した(同図右)。
また、抗SK1抗体を用いてラット脳溶解物から免疫沈降を行い、免疫沈降物のスフィンゴシンキナーゼ(SK)活性を解析した。その結果、抗原ペプチド非存在下に抗原抗体反応を行うとSK活性が認められる一方、抗原ペプチド存在下ではSK活性は認められなかった(図1C)。
さらに、単離した初代培養ラット海馬ニューロンを、抗SK1抗体および種々のマーカータンパク質に対する抗体を用いて染色した。この初代海馬ニューロンに対する免疫組織化学の結果、SK1は、神経突起(neurites)に沿って点状パターンに染色された。また、ほとんどすべてのSK1は、軸索マーカーであるTauと共局在したが、樹状突起のマーカーである微小管結合タンパク質2(MAP2)との共局在は認められなかった(図1D)。
SK1の点状パターンは、前シナプスから細胞外に放出されるシナプス小胞のマーカーであるシナプトフィジンとも共標識された。また、前シナプスの活発なシナプス小胞を標識する膜染色物質FM4−64を用いると、ほとんどすべてのGFP−SK1を含む点状パターンは、FM4−64と共標識された(図1D)。
以上の結果から、SK1は、海馬ニューロンにおいて、前シナプスの活性突起部(functional puncta)に局在すると考えられる。これとは対照的に、SK1のアイソザイムであるSK2は、主として海馬ニューロンの核に局在し、軸索の突起部や樹状突起の棘部には存在しなかった。この観察結果は、以前の報告と一致する(16,27)。
【0025】
[2−2]海馬ニューロンでの脱分極による神経伝達物質放出におけるSK1の関与
SK1が前シナプスの活性突起部(functional puncta)に局在するという観察結果から、次に、SK1が神経伝達物質の放出といったニューロン特異的な作用に関与しているかどうかを検討した。
まず、SK1の競合的酵素阻害剤であるジメチルスフィンゴシン(DMS)の神経伝達物質放出に対する影響を検討した。海馬ニューロンから放出される神経伝達物質グルタミン酸は、酵素蛍光アッセイによって定量することができる。高濃度のカリウムにより誘導された脱分極によってニューロンから放出されるグルタミン酸は、DMSの添加によって強く抑制されたので(図2A)、神経伝達物質の放出へのスフィンゴシンキナーゼの関与が示唆された。
さらに、脱分極によって誘導される神経伝達物質の放出へのスフィンゴシンキナーゼの関与を、FM色素法によって詳しく調べた。実験では、DMSの存在下または非存在下で海馬ニューロンを前処理した後、50mM KCl含有バッファーを用いた脱分極条件下、前シナプスの活発なシナプス小胞を、FM4−64で短時間(1分)標識した。そして、種々の脱分極刺激後に、FM4−64色素の蛍光変化(減衰)を調べることによってシナプス小胞の放出(分泌)を評価した(図2B)。その結果、DMSは、高濃度カリウムによる脱分極によって誘導される放出(分泌)を顕著に抑制した(図2C)。この結果は、小胞放出(分泌)へのスフィンゴシンキナーゼの関与を裏付けるものである。脱分極前後においてFM色素の発光スペクトルに変化はなかったので、観察された蛍光変化は、脱分極後の膜脂質環境の変化の結果ではないと考察される。また、DMS自体は、蛍光標識効率に何ら実質的な影響を与えなかった。
さらに、グルタミン酸によって誘導される前シナプスからのシナプス小胞(および小胞内の神経伝達物質)の放出においても、DMSによる放出抑制効果が認められた(図2D)。なお、シナプス小胞の放出は、グルタミン酸による誘導のほうが、高濃度カリウムによる誘導よりも時間的に早く観察された。
次に、siRNAによるSK1発現抑制実験によって、神経伝達物質放出における内因性SK1の関与を検討した。培養海馬ニューロンをrSK1−siRNA処理すると、組み換えrSK1の発現を強く抑制したが、ヒトSK1(hSK1)およびhSK1G82Dの発現は抑制しなかった(図3A)。海馬ニューロンをrSK1−siRNA処理すると、コントロールsiRNA処理した神経細胞に比べて、SK1タンパク質の発現が約60%抑制された(図3B)。
海馬ニューロンをrSK1−siRNA処理すると、高濃度カリウム(50mM)により誘導されるシナプス小胞(および小胞内の神経伝達物質)の放出を顕著に抑制した(図3C)。この放出抑制は、野生型hSK1を共発現させると、ほぼ完全にレスキューされたが、不活性型の変異体hSK1G82Dを共発現させてもレスキューされなかった。この結果は、脱分極により誘導される放出機構においてSK1キナーゼ活性が非常に重要であることを示している。
rSK2−siRNA処理しても、高濃度カリウムにより誘導される放出に顕著な差異は認められなかった。また、グルタミン酸を用いて放出を誘導すると、特に早い段階においてrSK1−siRNA処理細胞での放出が抑制された(図3D)。この放出抑制は、野生型hSK1を共発現させるとレスキューされたが、不活性型の変異体hSK1G82Dを共発現させてもレスキューされなかった。
以上の結果から、内因性SK1は、S1Pの産生を通じて、脱分極により誘導される海馬ニューロンからの神経伝達物質の放出をアップレギュレーションする作用、役割を有していると考えられる。
【0026】
[2−3]脱分極における、細胞質から膜へのSK1の移動
細胞を種々のアゴニストで処理すると、細胞内のSK1は刺激を受けて、細胞膜や小器官膜へ移動することが報告されている(8,18,29,37)。そこで、FRAP(fluorescence recovery after photobleaching)解析により、SK1が多く存在する軸索突起部(図1D)において、脱分極によりSK1の位置移動が誘導されるかどうかを検討した。種々のGFP融合タンパク質をコードするプラスミドを、海馬ニューロンにトランスフェクションし、前シナプスの突起部におけるフォトブリーチ後の融合タンパク質の動きを観測した。
脱分極による誘導前には、GFP単独をトランスフェクションした細胞において、GFPタンパク質は細胞質で自由に拡散し移動している様子であったが、前シナプスの膜タンパク質であるシナプトフィジンについては自由に拡散する様子は認められなかった。一方、SK1は、2通りの動きが認められ、大多数のSK1は自由に拡散し移動している様子であったが、一部は膜に局在し、自由に拡散していない様子であった(図4A)。
KClによって脱分極が誘導されると、自由に拡散しないSK1の割合が増加し、脱分極によって突起部のSK1は細胞質から膜へと移動した。これに対して、GFPタンパク質およびシナプトフィジンの分布パターンは、KClによって脱分極が誘導されても変わらなかった(図4A)。さらに、グルタミン酸によって脱分極が誘導された場合にも、自由に拡散しないSK1の割合が増加し、細胞質から膜へのSK1の移動が観察されたが、その割合は、KClによって脱分極を誘導した場合に比べて少なかった(図4B)。
【0027】
[2−4]脱分極における、SK1活性依存的なS1P受容体の活性化
脱分極によって軸索突起部で細胞質から膜へのSK1の移動が誘導され(図4)、また、SK1活性が神経伝達物質の放出に非常に重要である(図3CD)という前述の結果に鑑み、次に、SK1により新たに産生されたS1PがS1P受容体(S1P1)を活性化するかどうかを検討した。実験では、S1P受容体(S1P1)の活性化を調べるため、FRET(fluorescence resonance energy transfer)解析を行った。β−アレスチンは、Gタンパク質共役型受容体が活性化されると速やかに受容体に結合する(5,21)。そこで、S1P1−CFPおよびYFP−β−アレスチンの融合タンパク質をそれぞれ発現するベクターを作製した。もしβ−アレスチンがS1P1に結合し、CFPとYFPとが非常に接近したならば、CFPを励起すると、YFPフルオロフォアからの発光を刺激することになる(図5A)。この方法により、細胞でのS1P受容体の活性化を空間的および時間的にとらえることが可能である。前記2つの発現ベクターを海馬ニューロンにコトランスフェクションして、アクセプターフルオロフォアYFPの特異的フォトブリーチ後、CFPシグナルのdequenchingに基づくFRET効率の値を用いて、2つのフルオロフォア共役タンパク質により生じるFRETシグナルを確認した。
FRET効率は、KClまたはグルタミン酸により誘導される脱分極によって、受容体のリガンドであるS1Pによる刺激と同程度にまで上昇した(図5B)。このことは、脱分極のときにS1P受容体が刺激されることを示す。DMSまたはrSK1−siRNAでニューロンを処理すると、S1Pによって刺激した場合を除き、KClまたはグルタミン酸によって脱分極を誘導した場合にFRET効率の上昇は消失した(図5C)。この結果は、脱分極のときにSK1によりS1Pが産生される領域近傍でS1P1受容体が活性化されることを示している。また、この結果は、脱分極により誘導される放出が、DMS(図2)またはrSK1−siRNA(図3CD)処理によって抑制されるという前述の結果とも一致する。
さらに、脱分極により誘導されるFRET効率の増加が、SK1が多く存在する軸索突起部(図1D)でのみ検出され、SK1量が少ない樹状突起領域では検出されなかったという結果(図5C)から、脱分極のときにSK1によるS1P産生の重要性が一層強く確認された。
【0028】
[2−5]神経伝達物質放出における外因性S1Pの役割
脱分極におけるS1P受容体の活性化がどのような効果をもたらすのか検討するため、次に、海馬ニューロンからの神経伝達物質の放出に対して、外因性S1Pと、SK1のリン酸化産物であるdihydro S1P(DHS1P)がどのような影響を与えるかを検討した。
FM色素法で測定すると、S1P自体が、用量依存的にEC50=〜20pMで小胞(および小胞内の神経伝達物質)の放出を促進する作用を有し、最大効果は10nMで認められた(図6A)。DHS1Pもまた、S1Pと同様に放出を促進した。このことは、S1Pの放出促進作用が受容体を介して作用することを示している。
同様の結果が、海馬ニューロンからのグルタミン酸放出を直接測定することによって得られた。外因性S1Pは、FM色素法を用いて測定した結果と同程度のS1P濃度でグルタミン酸放出を促進した(図6B)。S1Pの効果は迅速で、最大の細胞外放出(エキソサイトーシス)は2秒程度で生じた(図6C)。
次に、グルタミン酸により誘導される神経伝達物質放出に対する、受容体を介したS1Pの作用を検討するため、グルタミン酸と組み合わせてS1Pの影響を解析した。グルタミン酸により誘導される放出は、DMS処理によって強力(75%)に抑制される(図2D、図6C)。これは、グルタミン酸誘導放出におけるスフィンゴシンキナーゼ(SK)活性の重要性を示す。また重要なことに、このDMSによる抑制は、suboptimalな濃度(1pM)のS1P同時投与によって軽減された(図6C)。もっとも、この程度の濃度のS1P単独投与では、十分なエキソサイトーシスは得られなかった(図6AとCの黒三角印)。この結果は、S1P自体が放出を誘導する誘導因子としての作用を有するほかに、グルタミン酸により誘導される神経伝達物質の放出が、S1Pによって増強されること、つまり、S1Pが増強因子としての作用を有することを示すものである。実際に、グルタミン酸により誘導される神経伝達物質の放出(エキソサイトーシス)の用量依存的カーブは、1pMの外因性S1Pの投与によって左側にシフトした(図6D)。
外因性S1Pの上記作用がS1P受容体の活性化を介して作用しているかどうかを検討するため、S1P受容体ノックダウン細胞において、S1Pにより誘導される神経伝達物質放出を測定した。
まず、海馬ニューロンでのS1P受容体の発現を、リアルタイム定量PCRによって評価すると、5つのS1P受容体サブタイプ(S1P1〜S1P5)のうち、主にS1P1とS1P3のmRNAが海馬ニューロンで発現していた(図6E)。そこで、S1P1またはS1P3のsiRNAを海馬ニューロンにトランスフェクションすると、コントロールsiRNAをトランスフェクションしたニューロンに比べて、S1P誘導放出はいずれも明らかに抑制された(図6F)。さらに、S1P1とS1P3のsiRNAをコトランスフェクションすると、S1P誘導放出はほぼ完全に抑制された。このことはS1P誘導放出に、S1P1受容体とS1P3受容体の活性化がいずれも関与していることを示している。
【0029】
[2−6]グルタミン酸放出の誘導および増強における、S1Pのオートクラインまたはパラクラインな作用
受容体を介したS1Pの放出促進因子(secretagogue)としての作用(図6AB)を、Na+-チャンネルブロッカーであるテトロドトキシン(TTX)を用いてさらに検討した。
海馬ニューロンをTTXで処理すると、S1P誘導放出は、穏やかにではあるが(約50%)抑制された(図7A)。これに対して、受容体が主に後シナプス膜に存在するNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)で誘導した場合には、NMDAによって誘導される放出は、TTX処理によってほぼ完全に消失した(図7B)。
このことは、S1Pが異なる2つのメカニズムで神経伝達物質の放出を促進することを示す。第1は、TTX非感受性の前シナプスの突起部に直接作用して神経伝達物質(グルタミン酸)の放出を誘導するメカニズム、第2は、TTX感受性のNMDA型グルタミン酸受容体の活性化を介した脱分極により誘導される神経伝達物質の放出を増強するメカニズム、である。実際に、S1Pのグルタミン酸放出促進作用は、TTX処理によって部分的に抑制された(図7C)。これは、S1Pによるグルタミン酸放出促進作用において、異なる2つのメカニズム(すなわち、放出の誘導機構と増強機構)が関与していることを示す。
KClにより誘導されるグルタミン酸放出は、DMSによって強く抑制されたが(図2A)、これに対して、S1Pにより誘導されるグルタミン酸放出は、DMSに非感受性であった(図7C)。この結果から、脱分極のときにSK1が移動した局所領域で生成されるS1Pが、その後近傍のS1P受容体を活性化し、前シナプスからグルタミン酸の放出を誘導する効果と、グルタミン酸により誘導される神経伝達物質の放出を増強する効果とを奏することが考えられる。これを支持するデータとして、FM4−64で標識した活発な前シナプス小胞と、S1P1またはS1P3受容体との共局在が観察された(図7E)。
さらに、脱分極前後の細胞内S1P量を測定した。高濃度のカリウムでニューロンを処理すると、細胞内S1P量は未処理のニューロンと比べて約50%増加した(図7D)。これは脱分極のときに生成されたS1Pが、グルタミン酸放出の誘導と増強の両面で重要な役割を果たすことを示すものといえる。
【0030】
[実施例2]
[1]材料と方法
[1−1]細胞培養
すべての動物実験は神戸大学の動物実験ガイドラインに沿って行われた。海馬の神経細胞は胎生18日目のWisterラットまたは胎生16日のC57BLマウスを用いた。神経細胞は底がガラスの培養皿に300μg/mlのポリリジンと25μg/mlのラミニンをコートしたものにNeurobasal培地にB27を加え、1 mMグルタミン、100単位のペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンを加えて5%の常圧炭酸ガスのもとで培養した。培養神経細胞(38,000/cm2当たり5 x 104 個の細胞密度)は種々のcDNA(0.53μg)をリポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて遺伝子導入を行い、4〜5日後に実験に用いた。すべての実験は神経細胞の培養後10〜14日目に行われた。
【0031】
[1−2]グルタミン酸およびGABAの放出実験
6週齢の雄Wisterラットから海馬のスライス(400μmの厚さ)を調製し、標準脳神経人工液(ACSF)(117 mM NaCl, 3.6 mM KCl, 1.2 mM NaH2PO4, 1.2 mM MgCl2, 2.5 mM CaCl2, 25 mM NaHCO3, 11.5 mM glucose)に95%酸素と5%炭酸ガスを通しながら室温で1時間培養し、更に50分間34℃で培養した。その後スライスをテトロドトキシン(TTX, 0.5μM)、S1Pの存在下あるいは非存在下の条件のACSF培地を満たした培養シャーレに移し、34℃で20分間95%酸素と5%炭酸ガスを通しながら培養した。操作後培養液を集め、グルタミン酸およびGABAを4-fluoro-7-nitrobenzofurazan(NBD−F)を用いて標識した。24μlのサンプルをHPLCシステム(Shimadzu, Kyoto, Japan)に接続したカラムに注入した。NBD−Fは350nmの波長で励起し、450nmの放射光を蛍光測定器(Shimadzu, Kyoto, Japan)を用いて測定した。全タンパク量はタンパク定量キット(Dojindo, Osaka, Japan)を用いて測定した。統計解析はunpaired t testを用いて行った。
【0032】
[1−3]EPSCsおよびIPSCsの記録
スライスパッチは、6週齢の雄Wisterラットから調製された海馬のスライスのCA3またはCA1領域を用いて行われた。自発的なAMPA(α-amino-3-hydroxy-5-methylisoxazole-4-propionic acid)受容体を介した微少興奮性シナプス後電流(AMPA-mEPSCs)は、標準ACSF液に、NMDA受容体に特異的阻害薬のDL-2-amino-5-phosphonovaleric acid(DL−AP5, 100μM)、GABA-A受容体の特異的阻害薬bicuculline(20μM)およびTTX(0.5μM)を加えて、34℃で95%酸素と5%炭酸ガスを通しながら培養し、Axopatch-200A 増幅器(Axon Instruments, USA)を用いて測定した。
GABA受容体依存性微小抑制性シナプス後電位(GABA-mIPSCs)は、標準ASCF液に、AMPA受容体の特異的阻害薬6,7-dinitro-2,3-dihydroxyquinoxaline(DNQX)(20 μM)、DL−AP5(100 μM)およびTTX(0.5μM)を加え、95%酸素5%炭酸ガスを通気して34℃でスライスを培養しながら測定した。記録チャンバーは絶えずACSF液を毎分2mlの流速で還流しながら実験を行った。また、S1P(1μM), DMS(10μM, Sigma)またはHACPT(3μM)を加える際は、三方活栓を用いてスライスが浸る様に加えた。パッチの電極液はmEPSC測定のときはCs2SO4(110 mM), tetraethylammonium chloride (5 mM), MgCl2(2 mM), CaCl2(0.5 mM), ethylene glycol-bis (β-aminoethyl ether)-N,N,N’,N’-tetraacetate(EGTA)(5 mM), Hepes(5 mM), MgATP(5 mM)を用い、mIPSC測定のときはCsSO4(110 mM)の替わりにCsCl(135 mM)を用いた。統計解析にはKolmogorov-Smirnovテストを用いた。
【0033】
[1−4]In situ ハイブリダイゼーション組織化学染色
生後10日の雄C57BLマウスを経心臓的に4%パラホルムアルデヒドを含む0.1Mリン酸バッファーで還流し、脳を頭部より摘出し、同液を用いて一晩固定した。次に特級エタノールを用いて脱水し、トルエンで洗浄し、パラフィン包埋を行い、4μmの厚さで連続切片を作成した。マウスのS1P1-5受容体の全遺伝子に対するcDNAをPCR法を用いて作成した。DIG標識されたアンチセンスとセンスRNAプローブはcDNAフラグメントを鋳型にしてin vitroでDIG標識dUTP(Roche, Sydney, Australia)存在下で作成した。In situ ハイブリダイゼーションは製造元が作成したマニュアルを参考にして行った。
【0034】
[1−5]スフィンゴシンキナーゼ1(SK1)のsiRNAの調製等
ラットスフィンゴシンキナーゼ1(rSK1)のsiRNA(5’-GGGCAAGGCUCUGAAGCUCdTdT-3’(配列番号9), 5’- GAGCUUCAGAGCCUUGCCCdTdT-3’(配列番号10))とコントロールsiRNA(5’- UUCUCCGAACGUGUCACGUdTdT-3’(配列番号11), 5’-ACGUGACACGUUCGGAGAAdTdT- 3’(配列番号12))は、Japan Bio Services(埼玉, 日本)において合成された。HA−hSK1とその活性欠損変異株の作成に関しては、実施例1と同様に行った。神経細胞は空ベクターまたは種々のhSK1を含んだプラスミドベクター存在下に上述のsiRNAを遺伝子導入し、2−5日後に実験に用いた。
【0035】
[1−6]抗SK1抗体
合成ペプチドに対して作成されたウサギの抗マウスSK1ポリクローナル抗体の作成は、実施例1と同様に行った。
【0036】
[1−7]免疫組織化学染色
アフィニティー精製された抗マウスSK1ポリクローナル抗体は500倍に希釈して使用した。成体C57BL/6マウスの脳の水平断の切片は、Sakai et al., Genes Cells 9:945-957 (2004)記載の方法にしたがって免疫染色された。
【0037】
[1−8]シナプス形成の解析
5万個の培養海馬神経細胞を、シナプトフィジン(synaptophysin)−GFPとラットSK1に対するsiRNA、またある実験では更にヒトHA−SK1のcDNAを含むプラスミドとともに遺伝子導入し、5日後に実験に用いた。培養後14日目に神経細胞を固定し、抗PSD95抗体(Bioreagents, Golden, CO;500倍希釈で使用)を用いて免疫染色を行った。蛍光画像は共焦点顕微鏡を用いて連続画像取得モードで取り込み、解析した。個々の解析では各シリーズで少なくとも500のシナプトフィジン−GFPで標識された粒状構造(puncta)を任意に選び解析し、これを3シリーズ行い統計解析を加えた。PSD−95集積サイズの測定においては、シナプトフィジン−GFP由来のGFPとPSD−95由来の蛍光を共に発現する単一punctaを任意に選び、PSD−95陽性後シナプス領域のサイズを Zeiss LSM 510ソフトを用いて解析し、累積度数分布解析を行った。
【0038】
[2]結果
[2−1:SK1とS1P1受容体は共に海馬体の歯状回顆粒細胞に豊富に発現する]
先の実施例1では、S1Pが海馬の初代神経細胞において神経伝達物質の放出に関与していることを示した。さらにS1Pの神経伝達物質放出における機能解析を行うため、まずS1Pの産生に関与する酵素SK1の免疫組織化学の解析を成体マウス脳を用いて行った。その結果、図8ABに示すように、SK1は嗅球、尾状核−淡蒼球、黒質、海馬、小脳皮質に多く分布した。興味深いことに、SK1は海馬のCA3領域の透明層(これは歯状回顆粒細胞からの苔状線維がCA3錐体細胞の近位樹状突起にシナプス結合するところ)に優先的に認められ、CA3錐体細胞がCA1錐体細胞に投射を行うSchaffer側副路には認められなかった(図8C−F)。このことは苔状線維にはS1Pが高濃度に存在することを示唆している。
S1PはS1P受容体を介してシグナルを伝達する。In situ ハイブリダイゼーション組織化学を用いて解析すると、S1P1受容体のmRNA陽性細胞は歯状回顆粒細胞に多く分布し、その他CA3からCA1にかけて弱く分布した(図9の矢印)。これと類似の結果はS1P3受容体mRNAを用いても得られた。そしてこれらS1P1、S1P3受容体は共に海馬の神経細胞からグルタミン酸の放出に関与することを実施例1で明らかにしている。以上から、S1P1受容体の分布はSK1のそれと海馬において一致していることが分かった。
【0039】
[2−2:ラット海馬スライスにおいてS1PはCA3錐体細胞でAMPA-mEPSCを引き起こすが、CA1錐体細胞では引き起こさない]
神経伝達物質放出におけるS1Pの効果を更に調べるために、ラットの海馬スライスを用いて、電位依存性ナトリウムチャンネルブロッカーTTX存在下にグルタミン酸放出におけるS1Pの影響を調べた。その結果、S1Pは海馬のスライスから濃度依存性(0.01-1μM)にグルタミン酸の放出を引き起こした(図10)。このことはS1Pが静止状態の脱分極が起こらない状態のシナプスからグルタミン酸の放出を引き起こすことを示すものである。
S1Pのグルタミン酸放出における更なる知見を得るために、ラット海馬スライスを用いて、AMPA-mEPSCを測定した。その結果、S1P(1μM)は、CA3錐体細胞から記録されるAMPA-mEPSCの強度は変化させずに、頻度を優位に増加させた(P<0.01, Kolmogorov-Simirnovテスト, 図11A)。このことはS1Pが苔状線維からCA3錐体細胞の近位樹状突起へ投射するシナプスにおける自発的グルタミン酸放出を促進していることを示す。一方、SK1(図8C)やS1P1受容体(図9)の発現量の低いCA1錐体細胞では、S1Pによるこの様な現象は認められなかった(図11B)。これらの結果から、スフィンゴシンキナーゼ(SK)/S1Pシグナルは少なくとも海馬においては自発的グルタミン酸放出を引き起こす重要因子であり、Schaffer側枝の存在するCA1ではなく、苔状線維の存在するCA3領域においてこのシグナルが自発的興奮性シグナル伝達に重要な役割を果たしていることが強く示唆された。
【0040】
[2−3:グルタミン酸の自発的放出は、スフィンゴシンキナーゼ(SK)の阻害薬で認められなくなった]
実施例1では、内因性に産生されたS1Pが近傍のS1P1受容体を活性化させるいわゆる「自動活性化」がグルタミン酸放出を引き起こすことを初代海馬の神経培養細胞を用いて示した。これと関連して、SKの阻害薬DMSが、顕著にCA3錐体細胞からの自発的AMPA-mEPSCの強度ではなく、頻度を低下させた(P<0.01, Kolmogorov-Simirnovテスト, 図12A)。同様の抑制は、別のより特異的なSK阻害薬2-(p-Hydroxyanilino)-4-(p-chlorophenyl)thiazole(HACPT)を用いても認められた(P<0.01, Kolmogorov-Simirnov test, 図12B)。これらを総合すると、SKの作用により産生された内因性S1Pが、S1P受容体の自動活性化を介してグルタミン酸の自発的放出を調節するということを、具体的現象から裏付けたことになる。
【0041】
[2−4:S1Pは電気刺激により引き起こされたEPSCを増強する]
次に、電気刺激により引き起こされるCA3錐体細胞における興奮性後シナプス電位(eEPSC)とS1Pの影響を海馬スライスを用いて検討した。実施例1の結果と符合して、S1P(1μM)はeEPSCを増強させ(図13A)、またこの増強効果はDMSでは抑制されず、eEPSCの強度には影響を与えなかった(図13B)。したがって、外から加えたS1PはS1P受容体を介して脱分極依存性のグルタミン酸放出を促すが、スフィンゴシンキナーゼの作用を介して産生される内因性のS1PはeEPSCに影響を与えないようである。
【0042】
[2−5:S1Pはラット海馬のスライスにおいてCA3,CA1のどちらの錐体細胞からもGABA-mIPSCsを引き起こす]
S1Pは興奮性の神経伝達物質のみの放出を引き起こすのかどうかを検討するため、TTX(0.5μM)存在下でラット海馬のスライスからの抑制性神経伝達物質であるGABAの放出とS1Pの関係を調べた。その結果、グルタミン酸放出のときのように、S1PはGABAの放出を濃度依存性に(0.01-1μM)引き起こした(図14)。
さらに、ラット海馬のスライスを用いてCA3あるいはCA1錐体細胞におけるGABA受容体依存性微小抑制性シナプス後電位(GABA-mIPSCs)を調べた。その結果、S1P(1μM)はCA3錐体細胞におけるGABA-mIPSCsの強度を変えることなく優位に頻度を増加させた(P<0.01, Kolmogorov-Simirnovテスト, 図15A)。これらのことからS1Pはグルタミン酸とGABAのどちらの自発的放出も引き起こすことが示された。さらに、AMPA-mEPSCsのときとは異なり、S1P(1μM)はCA1錐体細胞におけるGABA-mIPSCsの頻度も増加させた(P<0.01, Kolmogorov-Simirnov テスト, 図15B)。CA1及びCA3錐体細胞はGABA性介在ニューロン(interneurons)により神経支配を受けていることが知られており、おそらくこれらの介在ニューロンにはスフィンゴシンキナーゼやS1P受容体が発現していると考えられる。
【0043】
[2−6:スフィンゴシンキナーゼ(SK)/S1Pシグナルはラット初代海馬の神経細胞培養実験でシナプス形成を促進する]
これまでの報告によると、神経伝達物質の放出とシナプス形成に因果関係が存在することが分かっている(Han et al., Nature 349:697-700 (1991); Kabayama et al., Neurosci. 88:999-1003 (1999))。そこで、S1Pがシナプス形成に関与しているかについてラット初代海馬の神経細胞培養を用いて検討した。SK1特異的なsiRNAを用いると内在性SK1の発現は抑制された(図16B)。次にSK1特異的なsiRNAを処理した神経細胞ではシナプス前マーカーであるシナプトフィジンとシナプス後マーカーであるPSD−95の共染色される頻度は対照実験に比べて約60%減少していた(図16AC)。PSD−95の集合サイズは、コントロールに比べ、明らかに減少していた(図16D)。さらに、SK1特異的なsiRNAによって引き起こされた現象はヒトのSK1を発現させることで回復されたが、活性欠損型変異体を発現させても回復できなかった(図16ACD)。このことからS1Pシグナルはシナプス形成に必要であると考えられる。
【0044】
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【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】海馬ニューロン軸索の活性突起部(functional puncta)でのSK1の発現について検討した結果を示す図である。(A)HA−rSK1またはHA−rSK2を一過性に発現させたCOS7細胞に対し、抗SK1抗体または抗HA抗体を使用してイムノブロット解析を行った結果である。(B)ラット脳溶解物に対し、抗原ペプチドの存在下または非存在下に、抗SK1抗体を用いたイムノブロット解析を行い、内因性SK1発現を解析した結果である。(C)抗原ペプチドの存在下または非存在下に、抗SK1抗体を用いてラット脳溶解物から免疫沈降を行い、免疫沈降物のスフィンゴシンキナーゼ(SK)活性を解析した結果である。(D)ラット初代海馬ニューロンを、抗SK1抗体または抗SK2抗体と、抗Tau抗体、抗MAP2抗体または抗シナプトフィジン(SynPhy)抗体とで、二重染色した結果である。また、一過性にGFP−SK1を発現するニューロンを膜染色物質FM4−64で標識し、生細胞での蛍光局在を観察した。微分干渉(DIC)像と二重染色の重ね合せ(Merge)像も示される。スケールバー10μm
【図2】脱分極によるグルタミン酸の放出がDMSによって抑制されたことを示す図である。(A)6cm培養皿で培養したニューロンをPBSで3回洗浄後、10μMのDMSの存在下または非存在下で30分間前処理し、50mM KCl含有または非含有(Buffer)のバッファーで処理し、1分後にグルタミン酸放出を解析した結果を示すグラフである。(B)FM4−64色素法を用いた神経伝達物質放出測定のプロトコールを説明する図である。(C)ラット海馬ニューロンを、10μMのDMSの存在下または非存在下(control)で30分間処理した。ニューロンを洗浄後、FM色素で標識し、前シナプスの活発なシナプス小胞に導入した。そして、50mM KClにより誘導された脱分極後に、各突起部での色素の蛍光変化(Ft%)を経時的に測定した。(D)10μMのDMSの存在下または非存在下(control)で処理したニューロンを、上記同様にFM色素で標識した。そして、100μMのグルタミン酸処理後に、各突起部での色素の蛍光変化(Ft%)を経時的に測定した。矢印は、グルタミン酸の添加時点を示す。データは3回独立に行った実験の平均±SEMである(C,D)。
【図3】脱分極により誘導される神経伝達物質放出におけるSK1の関与を検討した結果を示す図である。(A)ラット海馬ニューロンに対し、rSK1、hSK1、またはhSK1G82Dをコードする発現ベクターとともに、コントロールsiRNAまたはrSK1−siRNAをトランスフェクションした。その2日後に、イムノブロット解析により、ニューロンのSK1発現を解析した。(B)抗SK1抗体を用いたイムノブロット解析により、コントロールsiRNAまたはrSK1−siRNAをトランスフェクションしたニューロンにおいて、内因性SK1タンパク質を検出した。(C,D)hSK1またはhSK1G82Dをコードする発現ベクターあるいは空ベクター(mock)とともに、コントロールsiRNAまたはrSK1−siRNAをトランスフェクションしたニューロンを、FM4−64色素で前処理し、50mM KCl(C)または100μMのグルタミン酸(D)で処理した後に、各突起部での色素の蛍光変化(Ft%)を経時的に測定した。矢印は、グルタミン酸の添加時点を示す。データは3回独立に行った実験の平均±SEMである(C,D)。
【図4】脱分極によりSK1の位置移動が誘導されるかどうか調べた結果を示すグラフである。GFP−SK1、GFP単独またはSynPhy−GFPをコードする発現ベクターを、海馬ニューロンにトランスフェクションした。その2日後、共焦点レーザスキャン顕微鏡を用いて、生細胞のFRAP解析を行った。50mM KCl(A)または100μMのグルタミン酸(B)で脱分極を誘導し、または誘導を行わずに、GFP融合タンパク質を発現する軸索の突起部をフォトブリーチし、その後、経時的に撮像した。各突起部での蛍光強度(最小の蛍光強度は0秒)を測定し、フォトブリーチ前の初期値に基づいて、蛍光の回復(fluorescence recovery)の割合を算出した。データは3回独立に行った実験の平均±SEMである。
【図5】脱分極によってS1P受容体(S1P1)の活性化が誘導されることをFRET解析により示す図である。(A)S1P1活性化後のS1P1とβ−アレスチン(βArr)との結合をFRETにより検出することを説明する図である。(B)S1P1−CFPとYFP−β−アレスチンをそれぞれコードする発現プラスミドを一緒に海馬ニューロンにトランスフェクションし、50mM KCl、100μMのグルタミン酸、または10nM S1Pの存在下または非存在下(buffer)で処理し、生細胞をFRET解析した。各突起部において、アクセプターフォトブリーチ後のドナー蛍光の増加からの検出光を測定し、FRET効率として表した。KClやグルタミン酸によって脱分極を誘導した場合のみならず、S1Pで処理した場合にも、FRET効率は実質的な増加を示した(n = 50, p<0.01, Student’s paired t test)。(C)S1P1−CFPとYFP−β−アレスチンをそれぞれコードする発現プラスミドを一緒に海馬ニューロンにトランスフェクションし、種々のアゴニストで刺激する前に30分間、10μM DMSの存在下または非存在下(10μMメタノール)で処理した。あわせて、蛍光物質共役タンパク質をコードするプラスミドと一緒に、コントロールsiRNAまたはrSK1−siRNAをニューロンにトランスフェクションする実験を行った。ニューロンを、50mM KCl、100μMのグルタミン酸、または10nM S1Pの存在下または非存在下(buffer)で刺激し、固定した後、フォトブリーチ後の軸索突起部または樹状突起領域のFRET効率を測定した。
【図6】神経伝達物質放出の誘導因子並びに増強因子としての外因性S1Pの作用、役割を明らかにした実験結果を示す図である。(A)ラット初代海馬ニューロンをFM4−64色素で予め標識した後、標識細胞を、種々の濃度のS1PまたはDHS1Pで6秒間刺激し、蛍光強度の変化を測定した。すべての場合に、vehicle(メタノール)の濃度を一定(1μM)に保持した。(B)PBSでニューロンを3回洗浄後、種々の濃度のS1Pで6秒間刺激した。その後、放出されたグルタミン酸を、酵素蛍光アッセイにより測定した。(C)ニューロンを、10μM DMSの存在下または非存在下(vehicle)で30分間処理し、FM色素で標識した。その後、ニューロンを、1pM S1Pと100μMグルタミン酸の種々の組み合わせで刺激し、蛍光強度の変化を経時的に測定した。矢印は、アゴニストの添加時点を示す。(D)FM色素で予め標識したニューロンを、種々の濃度のグルタミン酸と、1pM S1Pの存在下または非存在下で6秒間処理し、蛍光強度の変化を測定した。(E)リアルタイム定量逆転写PCRによって、ラット初代海馬ニューロンから、各々のS1P受容体mRNAを定量化した。mRNA量の値は、GAPDH発現によって標準化した。(F)海馬ニューロンに、コントロールsiRNA、S1P1−siRNA、S1P3−siRNAを種々の組み合わせでトランスフェクションし、FM4−64で予め標識した。その後、10nM S1Pでニューロンを刺激し、蛍光強度の変化を測定した。矢印は、S1Pの添加時点を示す。データは3回(A−D,F)と6回(E)独立に行った実験の平均±SEMである。
【図7】グルタミン酸放出の誘導および増強におけるS1Pの作用の解析結果を示す図である。(A,B)FM色素で予め標識した海馬ニューロンを、1μMのTTXの存在下または非存在下で10分間処理した。その後、10nM S1P(A)または100μMのNMDA(B)でニューロンを刺激し、蛍光強度の変化を測定した。矢印は、アゴニストの添加時点を示す。(C)6cm培養皿で培養したニューロンを、PBSで3回洗浄した後、10μMのDMSで30分間、または1μMのTTXで10分間、あるいはこれらの非存在下(control)で前処理した。その後、10nM S1P含有または非含有のバッファーでニューロンを処理し、1分後にグルタミン酸放出を解析した。(D)10cm培養皿で培養したニューロンを、PBSで3回洗浄した後、50mM KClの存在下(depolarization)または非存在下(control)で1分間処理した。その後、ニューロンから脂質を抽出し、S1P量を解析した(n = 5, p<0.05, Student’s paired test)。(E)S1P1−GFPまたはS1P3−GFPを発現するラット初代海馬ニューロンを膜染色物質FM4−64で標識し、生細胞の蛍光局在を解析した。微分干渉(DIC)像と二重染色の重ね合せ(Merge)像も示される。スケールバー10μm
【図8】成体マウス海馬でのスフィンゴシンキナーゼ1(SK1)の発現について検討した結果を示す図である。(A)大脳、(B)小脳であり、OB:嗅球、CPu:尾状核−淡蒼球、SN:黒質、Hp:海馬である。(C)は海馬領域を拡大(x 100)した図であり、DG:歯状回である。(D)は歯状回顆粒細胞からの苔状線維を模式的に示し、(E)(F)は、(C)をさらに部分拡大(x 8)した図である。
【図9】In situ ハイブリダイゼーションにより、マウス海馬でのS1P1受容体mRNAの発現について検討した結果を示す図である。S1P1受容体mRNAは、歯状回(DG)顆粒細胞において高発現し、その他CA3からCA1にかけて弱く分布した(矢印)。バーの長さは500μm、左下は低倍率(x 1/12)のもの。
【図10】前述した方法により、TTX存在下において、ラット海馬スライスからのグルタミン酸の放出がS1P濃度によってどのように変化するか検討した結果を示すグラフである。実験を8回行った平均を示し、*はS1P非存在下のときに比べて有意差(P<0.01)があることを示す。
【図11】S1P(1μM)の存在下または非存在下(Control)において、ラット海馬スライスの(A)CA3錐体細胞、および(B)CA1錐体細胞からの自発的AMPA-mEPSCs(AMPA受容体を介した微少興奮性シナプス後電流)の測定結果を示す図である。実験は保持電位−70mVで4回行い、それぞれ典型的な電流を示すとともに、記録されたAMPA-mEPSCsの強度(amplitude, pA)および頻度(inter-event interval, s)についての累積確率をグラフに示す。
【図12】ラット海馬スライスのCA3錐体細胞を用いて、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤(A:DMS、B:HACPT)の存在下または非存在下(Control)において自発的AMPA-mEPSCsを測定した結果を示す図である。実験は保持電位−70mVで4回行い、それぞれ典型的な電流を示すとともに、記録されたAMPA-mEPSCsの強度(amplitude, pA)および頻度(inter-event interval, s)についての累積確率をグラフに示す。
【図13】電気刺激により引き起こされるCA3錐体細胞における興奮性後シナプス電位(eEPSC)に対するS1Pの影響を、ラット海馬スライスを用いて検討した結果を示すグラフである。電気刺激の際に、DMS(10μM)の非存在下(A)または存在下(B)で10分間S1P(1μM)処理し、eEPSCを測定した。実験を4回行い、各値は0分時のeEPSCの強さに対する平均パーセンテージを示す。
【図14】前述した方法により、TTX存在下において、ラット海馬スライスからのGABAの放出がS1P濃度によってどのように変化するか検討した結果を示すグラフである。実験を8回行った平均を示し、*はS1P非存在下のときに比べて有意差(P<0.01)があることを示す。
【図15】S1P(1μM)の存在下または非存在下(Control)において、ラット海馬スライスの(A)CA3錐体細胞、および(B)CA1錐体細胞からの自発的GABA-mIPSCs(GABA受容体依存性微小抑制性シナプス後電位)の測定結果を示す図である。実験は保持電位−70mVで4回行い、それぞれ典型的な電流を示すとともに、記録されたGABA-mIPSCsの強度(amplitude, pA)および頻度(inter-event interval, s)についての累積確率をグラフに示す。
【図16】シナプス形成へのS1Pの関与について検討した結果を示す図である。(A)ラット初代海馬ニューロンに、シナプトフィジン(SynPhy)−GFPとともに、i) コントロールsiRNA、ii)ラットスフィンゴシンキナーゼ1(rSK1)特異的なsiRNA、iii) rSK1特異的なsiRNA+ヒトスフィンゴシンキナーゼ1(hSK1)発現プラスミド、またはiv)rSK1特異的なsiRNA+活性欠損型変異ヒトスフィンゴシンキナーゼ1(hSK1G82D)発現プラスミドを導入した後、抗PSD−95抗体を用いて免疫染色した結果である。SynPhyおよびPSD−95の重ね合せ(Merge)像も示される。スケールバー5μm。(B)各条件下、ラット海馬ニューロンにおけるスフィンゴシンキナーゼ1(SK1)の発現をイムノブロットにより解析した結果である。(C)シナプトフィジン(SynPhy)が陽性であった全punctaのうち、SynPhyおよびPSD−95がともに陽性であったpunctaの割合を算出し、これを「Synaptic index」としてグラフにしたもの。(D)SynPhyおよびPSD−95がともに陽性であったpunctaについて、PSD−95の集合サイズの累積頻度(%)をグラフに示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経細胞にスフィンゴシン1リン酸またはその受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストを投与し、あるいは神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を制御することによって、神経細胞からの神経伝達物質の放出を調節する方法。
【請求項2】
神経細胞にスフィンゴシン1リン酸受容体のアンタゴニストを投与し、あるいは神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を抑制することによって、神経細胞からの神経伝達物質の放出を抑制する方法。
【請求項3】
神経細胞にスフィンゴシン1リン酸またはその受容体のアゴニストを投与し、あるいは神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を促進することによって、神経細胞からの神経伝達物質の放出を促進する方法。
【請求項4】
前記神経伝達物質は、グルタミン酸またはγ-アミノ酪酸(GABA)である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
神経細胞でのスフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を調節することによって、前記神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を制御する請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記神経細胞は、中枢神経細胞または中枢神経細胞由来である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記神経細胞は、海馬神経細胞または海馬神経細胞由来である請求項6記載の方法。
【請求項8】
スフィンゴシン1リン酸、スフィンゴシン1リン酸受容体のアゴニストまたはアンタゴニスト、および、スフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を調節する物質からなる群から選択される物質を有効成分とする神経伝達物質の放出制御剤。
【請求項9】
スフィンゴシン1リン酸受容体のアンタゴニスト、および、スフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を抑制する物質からなる群から選択される物質を有効成分とする神経伝達物質の放出抑制剤。
【請求項10】
スフィンゴシン1リン酸、スフィンゴシン1リン酸受容体のアゴニスト、および、スフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を促進する物質からなる群から選択される物質を有効成分とする神経伝達物質の放出促進剤。
【請求項11】
スフィンゴシン1リン酸、スフィンゴシン1リン酸受容体のアゴニストまたはアンタゴニスト、および、スフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を調節する物質からなる群から選択される物質を有効成分とする神経疾患治療薬。
【請求項12】
前記神経疾患が、中枢神経疾患である請求項11記載の神経疾患治療薬。
【請求項13】
前記神経疾患が、海馬系の疾患、またはグルタミン酸作動性神経系の疾患である請求項11記載の神経疾患治療薬。
【請求項14】
前記神経疾患が、てんかん、海馬硬化症、アルツハイマー病、統合失調症および他の精神神経疾患からなる群から選択されるものである請求項11記載の神経疾患治療薬。
【請求項15】
神経細胞に発現するスフィンゴシン1リン酸受容体のアゴニストまたはアンタゴニストを探索することを特徴とする、神経伝達物質の放出制御剤、または神経疾患治療薬のスクリーニング方法。
【請求項16】
スフィンゴシン1リン酸受容体のサブタイプであるS1P1またはS1P3のアゴニストまたはアンタゴニストを探索することを特徴とする、請求項15記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
請求項15または16記載のスクリーニング方法に使用することができ、神経細胞への候補物質の投与に対し、当該細胞に発現するスフィンゴシン1リン酸受容体の活性化の有無をFRET法により検出できるように調製された、蛍光タンパク質とスフィンゴシン1リン酸受容体との融合タンパク質を発現するベクター。
【請求項18】
神経細胞または神経組織に候補物質を投与するステップと、候補物質投与の前後におけるスフィンゴシンキナーゼ1の発現変化または活性変化を指標に、スフィンゴシンキナーゼ1の発現または活性を調節する物質を探索するステップとを含む、神経伝達物質の放出制御剤、または神経疾患治療薬のスクリーニング方法。
【請求項19】
神経細胞にスフィンゴシン1リン酸またはその受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストを投与し、あるいは神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を制御することによって、神経細胞間のシナプス形成を調節する方法。
【請求項20】
神経細胞でのスフィンゴシン1リン酸の生成を抑制することによって、神経細胞間のシナプス形成を抑制する方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−189662(P2008−189662A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4763(P2008−4763)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】