説明

スプリングユニット

【課題】リターンスプリングがスプリングリテーナから外れ難いスプリングユニットを提
供する。
【解決手段】リテーナ62の複数の凸部のうち少なくとも一つの凸部は、スプリング7の
内径部が係止される少なくとも二つの係止突部611、612を高さ方向に間隔を隔てて
に有する係止接触部をスプリング7の内径部が位置する方向に間隔を隔てて少なくとも二
つ有する装着係止突部61である。スプリング7は常に2個以上の係止突部611、61
2で係止されている。このためスプリング7の締め代がこれら2個以上の係止突部611
、612で常に維持される。このためスプリング7が装着係止凸部61より抜け出るのが
効果的に抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機の伝達経路を形成する摩擦係合要素用の油圧サーボ等に用いられるスプリングユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用自動変速機などに用いられる多板式クラッチ用油圧サーボは、底部にシリンダ部が形成されたクラッチドラム内に、軸方向に摺動自在なピストン部材と、スナップリングにより軸方向に移動が規制された支持プレートと、該ピストン部材と該支持プレートとの間に縮設されたコイル状のリターンスプリングとを有する。このリターンスプリングはコイルバネよりなる複数個で構成され、複数のこれらリターンスプリングの一端が固定されている環状の座金と、複数のこれらリターンスプリングの他端に位置している前記座金と対面し前記複数のリターンスプリングの他端の内径部に係着するようにスプリングリテーナの平板部より突出している複数の凸部をもつスプリングリテーナと、を備えたスプリングユニットとして組み付けられている。
【0003】
このスプリングユニットを構成する、スプリングとリテーナを比較的容易に一体化するために、リテーナの複数の凸部のうちの少なくとも1つの凸部の先端部分に、スプリングの内径より幅広で、かつ該リターンスプリングの内径部に嵌合し得る幅広部を有しているものが使用されている。
【0004】
このスプリングユニットは、リテーナの複数の凸部のうちに、少なくとも1つの先端幅広部を有する凸部があり、スプリングユニットを組み立てる際に、スプリングがその先端幅広部を乗り越えて係着させている。これにより、リテーナがスプリングから離脱するためには、凸部の先端幅広部を通り抜ける必要があり、大きな離脱抵抗を伴う。このため、例えば外部よりスプリングユニットに対して衝撃等が生じた場合でも、スプリングとリテーナとが離脱したり、又は組付け位置がずれてしまうことを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−127164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の車両用自動変速機の伝達経路を形成する摩擦係合要素用の油圧サーボに用いられるスプリングユニットは、スプリングリテーナの複数の凸部のうちの少なくとも1つの凸部の先端部分に、リターンスプリングの内径より幅広で、該リターンスプリングの内径部と当接して内径部が抜け出るのを阻止する幅広部を一個しか有していない。
【0007】
リターンスプリングは、一般的に、座金上に位置する座巻部とこの座巻部から立ち上がる立上部とこれに続くコイル部とからなる。図7及び図8に、従来のスプリングユニットのリターンスプリングとスプリングリテーナの組付きの2つの状態を示す。図7(a)は、スプリングリテーナの凸部の幅広部の両側端にリターンスプリングの座巻部と立上部が組付いている状態を示し、図7(b)はその拡大要部を示す。図8(a)は、スプリングリテーナの凸部の幅広部の両側端にリターンスプリングの座巻部がそれぞれ組付いている状態を示し、図8(b)はその拡大要部を示す。
【0008】
図8に示すように、スプリングリテーナの凸部の幅広部の両端にリターンスプリングの座巻部が掛かる状態の場合は特に問題にならない。スプリングの座巻部はリテーナの凸部の幅広部の両端で阻止され、スプリングの締め代が確保され、スプリングはリテーナの凸部から抜け出て離脱することはない。しかし、図7のようにスプリングリテーナの凸部の幅広部の両端にリターンスプリングの座巻部と立上部が掛かる状態の場合は問題になる。即ち、図7(b)の状態でリターンスプリングが凸部から抜け出ようとすると、リターンスプリングの立上部が先に凸部の幅広部に当接して阻止される。この時リターンスプリングの座巻部は幅広部に当接していない。係る場合にリターンスプリングが凸部から抜け出ようとすると、リターンスプリングの座巻部と幅広部との間の間隔だけリターンスプリングが振れて移動し、凸部の幅広部による締め代が減少し、リターンスプリングが凸部より抜けて離脱しやすくなる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、リターンスプリングがスプリングリテーナの凸部から外れ難いスプリングユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、スプリングリテーナの複数の凸部のうちの少なくとも一つの凸部に、該リターンスプリングの内径部が係止される少なくとも二つの係止突部を高さ方向に設けることを思いつき、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明のスプリングユニットは、シリンダ部と、前記シリンダ部に対して軸方向に移動自在に配設され、該シリンダ部との間に作動油室を形成するピストン部材と、前記シリンダ部に対して前記軸方向に位置決めされる支持プレートと、を備え、前記作動油室に供給される油圧に基づき摩擦板の係脱を行う摩擦係合要素用油圧サーボに用いられ、前記ピストン部材と前記支持プレートとの間に配設されるスプリングユニットであって、コイルバネよりなる複数のリターンスプリングと、複数の前記リターンスプリングの一端が固定されている環状の座金と、複数の前記リターンスプリングの他端に位置している前記座金と対面し複数の前記リターンスプリングの他端の内径部に係着するようにスプリングリテーナの平板部より突出している複数の凸部をもつスプリングリテーナと、を備え、前記スプリングリテーナの複数の凸部のうち少なくとも一つの凸部は、前記リターンスプリングの内径部が係止される少なくとも二つの係止突部を高さ方向に間隔を隔てて有する係止接触部を該スプリングの内径部が位置する方向に間隔を隔てて少なくとも二つ有することを特徴とする。
【0012】
本発明のスプリングユニットは、リターンスプリングが装着係止される凸部は、リターンスプリングの内径部が係止される少なくとも二つの係止突部を高さ方向に間隔を隔てて少なくとも二つもつ係止接触部をリターンスプリングの内径部が位置する方向に間隔を隔てて少なくとも二つ有する。このため装着係止されるリターンスプリングの部分がその座巻部の場合でもその立上部の場合でも常に一つの係止突部に係止されることになる。そして、リターンスプリングはその内径部が位置する方向に間隔を隔てた少なくとも2つの係止接触部で係止される。このため、少なくとも二つの係止接触部をもつ凸部に装着係止されたリターンスプリングは、常に二つ以上の係止突部で係止されることになり、スプリングの締め代が確保され、リターンスプリングはスプリングリテーナの凸部から容易に抜け出て離脱することはない。以下、リターンスプリングは、特に明記する場合を除き、スプリングと、スプリングリテーナは、特に明記する場合を除き、リテーナと称する。
【0013】
本発明のスプリングユニットはスプリングと環状の座金とリテーナとで構成されている。これらのスプリングユニットの構成要素の中で、スプリングと環状の座金は従来のものと同じであり、従来のものをそのまま使用できる。また、リテーナもスプリングを装着係止する凸部を除き、従来のリテーナと同じである。即ち、本発明のスプリングユニットの構造上の特色は、リテーナのスプリングを装着係止する凸部にある。ここでスプリングを装着係止する凸部を装着係止凸部と称する。
【0014】
装着係止凸部は、スプリングの内径部が係止される、少なくとも二つの係止突部を高さ方向に間隔を隔てて有する係止接触部を、スプリングの内径部が位置する方向に間隔を隔てて少なくとも二つ有する。
【0015】
本発明のリテーナは、従来と同様に、環状の平板部を使用して得ることができる。例えば、この平板部の一方の面に、全てのスプリングの他端の座巻部が当接する部分を円錐台状に突出させ、これら突出部を凸部とすることができる。また、平板部の全てのスプリングの他端の座巻部が当接する部分をコ字形状に切り、環状の平板部に接続している一辺を90度曲げて方形片として立ち上げる。この立ち上げた方形片を凸部とすることができる。装着係止凸部以外の円錐台状の突出部及び方形片は、スプリングの座巻部に挿入しやすい形状大きさのものとする必要がある。具体的には突出部の外周径及び方形片の幅は、スプリングの座巻部の内周壁で区画される直径より少し小さい幅のものとする。突出部及び方形片の頂部は、三角形あるいは円弧状に上側に突出するものとすることができる。
【0016】
なお、1個のスプリングが装着される凸部は、1個の方形片で形成しても、図4及び図6に示すように、複数個の片で形成しても良い。複数個の片で形成する場合は、図4に示すように方形片を幅方向の中央線で2個に分割した2個の分割片で構成することもできる。なお、1個の方形片を2個の分割片で構成したように、1個の方形片を複数個の小片で構成することができる。
【0017】
装着係止凸部の形成も基本的には通常の方形片の凸部の形成と同じである。平板部に切り込みを入れるコ字形状が異なる。例えば、コ字形状の上辺と下辺を互いに対称に接続している一辺から背向する辺に向かい直線状、突出した円弧状、直線状、突出した円弧状と波状の辺とするものである。この切り込みを立ち上げた方形片は、立ち上げ方向に延びる側端部分が波状となり、方形片の幅は立ち上げ部分から狭い幅の部分と広い幅の部分とが交互に繰り返されて上に延びるものとなる。狭い幅は、スプリングの座巻部の内周径より短く、広い幅の部分はスプリングの座巻部の内周径より長くなっている。この側端部が本発明の装着係止凸部の係止接触部を構成する。一個の方形片の両側の側端部がそれぞれ一個の係止接触部となり、一個の方形片は二個の係止接触部をもつものとなる。
【0018】
装着係止凸部も係止機能を持たない凸部と同様に、複数個の小片で構成することができる。例えば1個の装着係止凸部を幅方向に2等分し、2個の分割片としても良い。この場合各分割片はそれぞれ一方の側端部分が係止接触部をもつものとなる。また、分割片に限らず、複数個の小片で構成することもできる。各小片はその側端部分の一方が係止接触部となるとか、小片の一面側が係止接触部となるものである必要がある。なお、1個の方形片の機能を担う複数個の小片は共同してスプリングの締め代を確保するものである。
【0019】
なお、2個の係止接触部でスプリングの締め代を確保する場合、2個の係止接触部の互いに背向する係止突部の間隔はスプリングの内周径よりも大きい必要がある。3個以上の係止接触部でスプリングの締め代を確保する場合、各係止接触部の係止突部は係止されるスプリングの内周円より外側に突出したものである必要がある。
【0020】
本発明のスプリングユニットを得るには、まず、環状の座金の一面にスプリングをリング状に配置すると共に各スプリングの一端を固定し、座金の一面に各スプリングがリング状に立ったものとする。この状態で、一面に凸部がリング状に形成されたリテーナを座金の各スプリングの他端側に重ね、各凸部を各スプリングの他端に装着する。装着係止凸部の場合は装着されるスプリングの座巻部の内周径より外側に突出した係止突部をもつ係止接触部を有するため、装着には、係止装着部の1個あるいは全ての係止突部を乗り越える押圧力を必要とする。
【0021】
装着が完了した状態では、スプリングの座巻部は装着係止凸部の係止接触部の係止突部を全て乗り越え、その座巻部はリテーナ面と係止接触部のリテーナ面に一番近い係止突部の間に位置し、このリテーナに一番近い係止突部によりスプリングが抜け出るのを抑制される。スプリングの立上部は、装着係止凸部の係止接触部を滑り、少なくともリテーナに最も遠い係止突部を乗り越える。そして、係止接触部と接触するスプリングの立上部の位置がリテーナに近い場合には、その係止接触部の全ての係止突部を乗り越えるかあるいは最もリテーナに近い係止突部とその次の係止突部の間に位置することになる。この場合、スプリングの立上部は、最もリテーナに近い係止突部かあるいはその次の係止突部によりスプリングが抜け出るのを抑制される。係止接触部と接触するスプリングの立上部の位置がリテーナより遠い場合、その係止接触部の少なくともリテーナに最も遠い係止突部を乗り越える。そして、このスプリングの立上部は、リテーナに最も遠い係止突部とそれに隣接する次にリテーナから遠い係止突部の間に位置することになる。この場合、このスプリングの立上部は、最もリテーナに遠い係止突部によりスプリングが抜け出るのを抑制される。
【0022】
本発明のスプリングユニットでは、そのスプリングの座巻部は常にリテーナと装着係止凸部の係止接触部の最もリテーナに近い係止突部との間に保持される。また、スプリングの立上部は、リテーナと装着係止凸部の係止接触部の最もリテーナに近い係止突部との間あるいは隣接する2つの係止突部との間に保持される。従って、スプリングが装着係止凸部から抜け出る場合には、同時に少なくとも2つの係止接触部の各係止突部を抜け出ることになり、スプリングの締め代が常に維持される。このためスプリングが装着係止凸部より抜け出るのが効果的に抑制される。
【発明の効果】
【0023】
本発明のスプリングユニットでは、スプリングはリテーナの装着係止突部の少なくとも2個の係止接触部がもつ複数の係止突部のいずれか一つの係止突部に係止されている。即ち、スプリングは常に2個以上の係止突部で係止されている。このためスプリングの締め代がこれら2個以上の係止突部で常に維持される。このためスプリングが装着係止凸部より抜け出るのが効果的に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例のスプリングユニットが使用される油圧サーボを示す要部縦断面図である。
【図2】同図(a)は、本発明の実施例のスプリングユニットの側面図を示し、同図(b)は、本発明の実施例のスプリングユニットのリテーナの一部を示す平面図である。同図(c)は、同図(b)のA−A矢視拡大断面図である。
【図3】同図(a)は、本発明の実施例のスプリングユニットのリテーナとスプリングの係着状態を示す要部拡大図である。同図(b)は、同図(a)の装着係止凸部とスプリングの装着係止状態を示す拡大断面図である。
【図4】本発明に係る他のリテーナの一部拡大平面図である。
【図5】本発明に係るさらに他のリテーナの一部拡大平面図である。
【図6】本発明に係るさらに他のリテーナの一部拡大平面図である。
【図7】同図(a)は、従来のスプリングユニットのリテーナとスプリングの一係着状態を示す要部拡大図である。同図(b)は、同図(a)の装着係止凸部とスプリングの装着係止状態を示す拡大断面図である。
【図8】同図(a)は、従来のスプリングユニットのリテーナとスプリングの他の係着状態を示す要部拡大図である。同図(b)は、同図(a)の装着係止凸部とスプリングの装着係止状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の実施例を挙げて、本発明をより詳しく説明する。
【0026】
本実施例のスプリングユニットが使用される多板式クラッチ用油圧サーボ(摩擦係合要素用油圧サーボ)(以下、油圧サーボと称する。)1の要部を図1に示す。この油圧サーボ1は、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車輌に搭載される自動変速機に配設されるものである。この自動変速機は、トルクコンバータ(図示せず)、変速機構(図示せず)、及び油圧制御装置(図示せず)等をハウジングケース及びミッションケース等からなるケース3内に備えて構成されている。また、この変速機構は、入力軸(図示せず)及び多板式クラッチ(図示せず)を含む複数のクラッチやブレーキ、及びプラネタリギヤ等からなる歯車機構等を備えて構成されている。そして、クラッチは、複数の摩擦板15とを有している。
【0027】
図1に示すように、油圧サーボ1は、大まかに、シリンダ部2を形成するクラッチドラム4、ピストン部材5及びリテーナ6、スプリング7と座金8よりなるスプリングユニット、キャンセルプレート(支持プレート)9を有する。
【0028】
ピストン部材5は、概ねクラッチドラム4の形状に合せてb方向側に内包される形状に形成されており、上述のシリンダ部2に対向してクラッチドラム4に対してa−b方向に摺動自在に配設されている。シリンダ部2とピストン部材5との間には、シールリップ11,12が配設されており、これらシールリップ11,12によってシールされて作動油室10が形成されている。また、ピストン部材5は、径方向外周側の端部が摩擦板15を押圧するための押圧部52として形成されている。つまり上記作動油室10の油圧に基づき摩擦板15を押圧し得るように構成されている。また、ピストン部材5のフランジ部42に対向する部分の外周側には、a方向に対して環状に凹んだ凹部51が形成されており、詳しくはスプリングユニットのリテーナ6及びスプリング7を取付け得るように構成されている。
【0029】
スプリング7は、外径D2、及び内径D1を有するコイル状のスプリングからなり、上述したピストン部材5とキャンセルプレート9との間に、周方向均等な位置に複数縮設され、該キャンセルプレート9の反力を受けてピストン部材5をシリンダ部2側に付勢している。また、スプリング7の一端部7aは、リテーナ6を介してピストン部材5の凹部51に係着(着座)されている。さらに、スプリング7の、該一端部7aの反対側の他端部7bは、座金8に固定されており、このスプリング7を取付けた座金8がキャンセルプレート9の外周側に係着(着座)されている。
【0030】
なお、図1に示す油圧サーボはそこに使用されているスプリングユニットを除き公知のものである。
【0031】
本実施例のスプリングユニットの側面図を図2(a)に、そのリテーナの要部拡大図を図2(b)に、さらに、リテーナの装着係止凸部61をもつ部分の拡大側面図を図2(c)に示す。
【0032】
リテーナ6は、図2(b)に示すように、中空円状(環状)の平板部よりなる基底部62と、基底部62の各スプリング7に対応する位置(つまり、周方向均等な位置)に押圧成形等で形成された複数の装着係止凸部61及び多数の位置決め用の円筒凸部63とを有している。なお、リテーナ6の基底部62は、ピストン部材5の環状の凹部51の底面に収納される形で係着している。
【0033】
位置決め用の円筒凸部63は、従来どおり、スプリング7の内径D1よりも小径な円筒状で、スプリング7の一端部7aの内周部に挿入される形で係着できる形状に形成されている。
【0034】
また、本発明の特色をなす装着係止凸部61は、着座するスプリング7の着座位置を定めると共にスプリング7の離脱を阻止するものである。装着係止凸部61は、図2(b)に示すように、基底部62のスプリング7が着座する部分を略コ字形状に切り、切られていない辺を90度折り曲げて平板状の方形片として形成したものである。図2(b)のA−A矢視部分を拡大して示す図2(c)より明らかなように、この装着係止凸部61は、その両側端面がいずれも上端から下方の基底部62方向に、上方係止突部611及び下方係止突部612をもつ。上方係止突部611と下方係止突部612の間及び下方係止突部612と基底部62の間の部分は谷部となり、波形状となっている。なお、装着係止凸部61の波形状の側端面をもつ部分が本発明の係止接触部を構成する。
【0035】
装着係止凸部61の両方の上方係止突部611間の距離(L1)及び両方の下方係止突部612間の距離(L2)はスプリング7の内径D1よりも幅広に形成され、両方の谷部間の距離(L3)はスプリング7の内径D1よりも幅狭に形成されている。
【0036】
この油圧サーボ1において、例えば油圧制御装置より作動油室10に作動油が油路16を通じて供給され作動油圧が生じると、ピストン部材5がスプリング7の付勢力に反してb方向に押圧駆動され、ピストン部材5の押圧部52が上述した複数の摩擦板15をb方向に押圧し、クラッチが係合状態とされる。また、作動油室10より作動油圧が油路16を通じて排出されると、作動油室10の遠心油圧がキャンセル油室18の遠心油圧によりキャンセルされると共に、スプリング7の付勢力によってピストン部材5がa方向に押圧されて、クラッチは解放状態とされる。
【0037】
油圧サーボ1を組立てる際には、例えば、上述の座金8に全てのスプリング7の一端を固定し取付けておく。そして、ピストン部材5及びリテーナ6が載置されているクラッチドラム4に、上方より座金8及びスプリング7のセットを載置・挿入していき、目視によりスプリング7の一端部7aとリテーナ6の装着係止凸部61及び円筒凸部63との周方向位置を位置合わせしつつ、リテーナ6と全てのスプリング7を係着させる。
【0038】
なお、リテーナ6の装着係止凸部61にスプリング7の一端部7aが装着係止するためには、スプリング7の一端部7aは、装着係止凸部61の上方係止突部611、下方係止突部612、612を乗り越える形で係着することになる。スプリング7の一端部7aの内径D1よりも両上方係止突部611間の幅(L1)及び両下方係止突部612間の幅(L2)の方が大きいので、スプリング7の一端部7aは、撓ませ(広がり)ながらリテーナ6の装着係止凸部61の上方係止突部611、611及び下方係止突部612、612を乗り越えて装着される。円筒凸部63の外周径はスプリング7の一端部7aの内径D1よりも小さいため、円筒凸部63にはスプリング7の一端部7aがそのまま包み込むように装着される。このようにしてスプリング7がリテーナ6の平板部62に当接して組付けされる。
【0039】
係着させた装着係止凸部91とスプリング7の一端部7aを装着係止突部91の一側端面に向かって見た図3(a)及びそこから90度回転した位置での係止状態を拡大して見た図3(b)を示す。この係着状態は、スプリング7の一端部7aの座巻部72がリテーナ62の一面と装着係止凸部61の一方の係止接触部の下方係止突部612との間に位置し、スプリング7の一端部7aの立上部71が装着係止凸部61の他方の係止接触部の下方係止突部612と上方係止突部611との間に位置している。
【0040】
この状態でスプリング7がリテーナ6の装着係止凸部61から抜け出る場合を考える。まず、スプリング7の座巻部72及び立上部71が共にその上側にある下方係止突部612及び上方係止突部611で上方への移動が規制されている。このためスプリング7がリテーナ6の装着係止凸部61から抜け出るためには、スプリング7の座巻部72及び立上部71の少なくとも一方が下方係止突部612又は上方係止突部611を超えなければならず、超える際に超える方の座巻部72及び立上部71は弾性的に大きく内周径が大きく変形する必要がある。即ち、スプリング7の締め代が機能する。このためスプリング7が装着係止凸部61から容易に離脱することができない。
【0041】
以上のよう車両用自動変速機の伝達経路を形成する摩擦係合要素用の油圧サーボに用いられる本実施例のスプリングユニットは、そのリテーナ6の複数の凸部61,63のうちの装着係止凸部61が基底部62の所定部分に切れ目を入れて立ち上げた方形片で形成されている。この方形片の両側端部が本発明の2個の係止接触部を構成し、各係止接触部にスプリング7の内径部が係止される2個の係止突部、上方係止突部611、下方係止突部612が形成されている。リテーナ6の装着係止凸部61に装着係止されたスプリング7は、その装着係止位置がスプリング7の一端部7aの座巻部72及び立上部71のいずれであっても、座巻部72は下方係止突部612により係止され、立上部71は上方係止突部611又は下方係止突部612のいずれかに係止される。そして、スプリング7の一端部7aが装着係止凸部61の上方係止突部611、下方係止突部612を抜け出るためには、スプリング7の一端部7aは弾性的な変形を必要とし、スプリングの締め代が機能する。このためスプリング7はリテーナ6より容易に離脱できなくなる。
【0042】
なお、本実施例のスプリングユニットは、予め、座金8、スプリング7及びリテーナ6を一体的に組み付けた状態とすることができる。組み付けられたスプリングユニットを油圧サーボ1に組み付ける際に、例えば衝撃等が生じた場合にも、スプリング7とリテーナ6と離脱が容易に起こらないようになっているため、スプリング7の位置ずれ、若しくはスプリング7がリテーナ6から外れてしまう等の不都合を効果的に防ぐことができる。
【0043】
また、リテーナに備えられる装着係止凸部の数は1つ又は2つ以上あるいは全ての凸部を装着係止凸部とすることもできる。
【0044】
また、リテーナの装着係止凸部がもつ係止接触部の数は2つ以上でも構わない。また、係止接触部のもつ凸部は2個以上でも良い。
【0045】
なお、本実施例のリテーナ62の装着係止凸部61に代えて、図4,図5及び図6に示す装着係止凸部を採用することもできる。図4の装着係止凸部は、2個の小さい方形片で構成したもので、立ち上げた各小さい方形辺の背向する側端部が本発明の係止接触部を形成している。図5の装着係止凸部は、実施例の装着係止凸部61の立ち上げ方向を90度回転させたものである。図6の装着係止凸部は3個の小さい方形片で構成されている。各方形片の両側端部が本発明の係止接触部となっている。
【符号の説明】
【0046】
6:スプリングリテーナ 61:装着係止凸部 62:基底部
63:円筒凸部 611:上方係止突部 612:下方係止突部
613:支持脚部 7:スプリング 7a:一端部
71:立上部 72:座巻部 8:座金


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ部と、前記シリンダ部に対して軸方向に移動自在に配設され、該シリンダ部との間に作動油室を形成するピストン部材と、前記シリンダ部に対して前記軸方向に位置決めされる支持プレートと、を備え、前記作動油室に供給される油圧に基づき摩擦板の係脱を行う摩擦係合要素用油圧サーボに用いられ、前記ピストン部材と前記支持プレートとの間に配設されるスプリングユニットにおいて
コイルバネよりなる複数のリターンスプリングと、複数の前記リターンスプリングの一端が固定されている環状の座金と、複数の前記リターンスプリングの他端に位置している前記座金と対面し複数の前記リターンスプリングの他端の内径部に係着するようにスプリングリテーナの平板部より突出している複数の凸部をもつスプリングリテーナと、を備え
前記スプリングリテーナの複数の凸部のうち少なくとも一つの凸部は、前記リターンスプリングの内径部が係止される少なくとも二つの係止突部を高さ方向に間隔を隔てて有する係止接触部を、該スプリングの内径部が位置する方向に間隔を隔てて少なくとも二つ有する装着係止突部であることを特徴とするスプリングユニット。
【請求項2】
前記スプリングリテーナの平板部は環状であり、前記装着係止凸部は該平板部をコ字形状に切り立ち上げた方形片で形成され且つ該方形部は、高さ方向に前記リターンスプリングの他端の内径より幅狭な部分と前記リターンスプリングの他端の内径より幅広な部分とが交互に少なくとも2個づつ有するものである請求項1記載のスプリングユニット。
【請求項3】
前記スプリングリテーナの平板部は環状であり、前記装着係止凸部は該平板部を底辺を残して所定形状に切り立ち上げた複数個の小片で構成され、各該小片はその一方の側端部分あるいは一方の面が前記係止接触部を形成し、複数個の該小片の該係止接触部が共同して前記リターンスプリングの締め代を形成する請求項1記載のスプリングユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−193857(P2012−193857A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−154219(P2012−154219)
【出願日】平成24年7月10日(2012.7.10)
【分割の表示】特願2007−237199(P2007−237199)の分割
【原出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000151597)株式会社東郷製作所 (78)
【Fターム(参考)】