説明

スプレー乾燥製剤

【課題】水及び揮発性有機溶媒に難溶性の薬物とポリマーとの固体分散体を提供する。
【解決手段】水に難溶性のイオン性薬物、カチオン種及び分散ポリマーを含む医薬組成物を該組成物の形成法と共に開示する。前記薬物の中性形は(i)pH6〜7で1mg/mL未満の水溶液中溶解度、(ii)20mg/mL未満の揮発性有機溶媒中溶解度、及び(iii)5を超える酸性pKa値を有する。固体分散体中の薬物の少なくとも90重量%は非晶質形である。薬物、カチオン種、及び分散ポリマーは固体分散体の少なくとも80重量%を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に難溶性のイオン性薬物、カチオン種及び分散ポリマーの固体分散体を含む医薬組成物、並びに該組成物の形成法に関する。前記薬物の中性形は、(i)pH6〜7で1mg/mL未満の水溶液中溶解度、(ii)20mg/mL未満の揮発性有機溶媒中溶解度、及び(iii)5を超える酸性pKa値を有する。
【背景技術】
【0002】
低溶解度の薬物は、ポリマー中薬物の固体分散体として製剤化すると、難溶性薬物のバイオアベイラビリティを改良できることがよく知られている。好適な固体分散体はスプレー乾燥によって形成される。なぜならば、この方法によって、薬物が典型的にはポリマー全体に均一に分散された非晶質薬物として存在する分散体が得られるからである。そのような固体分散体は分子分散体又は固溶体とも呼ばれている。例えば、J.Ford,“Current status of solid dispersions,”Pharm.Acta.Helv.61(1986)69−88参照。
【0003】
溶媒処理は固体分散体を製造するための好適な製造技術である。この方法では、薬物とポリマーを両方とも共通の溶媒に溶解する。次に、乾燥ガスの存在下でスプレー溶液を噴霧することによって溶媒を迅速に除去する。溶媒の迅速除去によって、ポリマー中に均一に分散された非晶質形(アモルファスとも呼ばれる)の薬物の固体分散体が得られる。そのような固体分散体は、インビトロ溶解試験で高濃度の溶解薬物及び良好なバイオアベイラビリティを提供する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、化合物の中には、バイオアベイラビリティを改良するために固体分散体を形成させるのが望ましいが、固体分散体として製造するのが困難な化合物のクラスがある。そのような化合物は、水溶解度が非常に低く、その上、スプレー溶液の形成に使用される揮発性溶媒中の溶解度も極めて低い。その結果、そうした化合物をスプレー乾燥技術を用いて固体分散体に製造することは実際的に不可能であろう。
【0005】
そこで、水にも揮発性有機溶媒にも難溶性の薬物とポリマーの固体分散体を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一側面において、固体分散体は、(a)水に難溶性のイオン性薬物{前記薬物の中性形は、(i)pH6〜7で1mg/mL未満の水溶液中溶解度、(ii)20mg/mL未満の揮発性有機溶媒中溶解度、及び(iii)5を超える酸性pKa値を有する};(b)カチオン種;(c)分散ポリマーを含み;(d)固体分散体中の薬物の少なくとも90重量%は非晶質形であり;そして(e)薬物、カチオン種、及び分散ポリマーは固体分散体の少なくとも80重量%を構成する。
【0007】
別の側面において、薬物はその中性形ではケト/エノール形で存在できる。
別の側面において、カチオン種は、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、アンモニウムのカチオン、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。
【0008】
別の側面において、分散ポリマーは、中性ポリマー、中和されたポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。
別の側面において、分散ポリマーはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)である。
【0009】
別の側面において、固体分散体の形成法は、(a)水に難溶性のイオン性薬物、分散ポリマー、塩基、及び溶媒を含むスプレー溶液を形成し;(b)前記薬物の中性形は、(i)pH6〜7で1mg/mL未満の水溶液中溶解度、(ii)20mg/mL未満の揮発性有機溶媒中溶解度、及び(iii)5を超える酸性pKa値を有し;(c)溶媒を蒸発させて固体分散体を形成し、固体分散体は薬物、カチオン種、及び分散ポリマーを含み;(d)固体分散体中の薬物の少なくとも90重量%は非晶質形であり;そして(e)薬物、カチオン種、及び分散ポリマーは固体分散体の少なくとも80重量%を構成することを含む。
【0010】
別の側面において、薬物は、6−アミノ−9−ベンジル−8−オキソ−8,9−ジヒドロ−7H−プリン−2−カルボン酸 シクロプロピルメチル−アミドである。
別の側面において、薬物は、4−アミノ−1−ベンジル−6−トリフルオロメチル−1,3−ジヒドロ−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−2−オンである。
【0011】
さらに別の側面において、薬物は、6−(5−クロロ−3−メチル−ベンゾフラン−2−スルホニル)−2H−ピリダジン−3−オンである。
発明者らは、弱酸性で揮発性有機溶媒に難溶性の薬物の分散体を形成するという課題を、薬物と塩基を揮発性有機溶媒中に共溶解することによって有機溶媒中にイオン化形の薬物を効果的に形成させることにより解決した。揮発性溶媒中のイオン化形の薬物の溶解度が高くなると、固体分散体の製造に著しい改良がもたらされる。
【0012】
発明者らは、本発明の組成物の物理的安定性は、該組成物を比較的乾燥条件下で保存することによって著しく改良できることもさらに確認した。
本発明の上記及びその他の目的、特徴、及び利点は、以下の本発明の詳細な説明を考慮すれば一段と容易に理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の組成物は、薬物、分散ポリマー及びカチオン種の固体分散体を含む。薬物、固体分散体、分散ポリマー、分散体の形成法、及び本発明の組成物を含有する剤形について、以下でより詳細に説明する。
【0014】
薬物
本発明は、水に難溶性、揮発性有機溶媒に難溶性、及び弱酸性のあらゆる薬物との使用に適している。
【0015】
“水に難溶性”とは、薬物がpH6〜7で1mg/ml未満の水溶液中溶解度しか持たないことを意味する。本発明は水溶解度が低下するほど有用性を増す。薬物の水溶解度は、0.5mg/ml未満、0.1mg/ml未満、0.05mg/ml未満、又はさらには0.01mg/ml未満であってよい。溶解度は、水中又はpHを6〜7に調整したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の溶液中、25℃で測定されうる。
【0016】
薬物は揮発性有機溶媒にも難溶性である。“揮発性有機溶媒”とは、アセトン、メタノール、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、これらのいずれか一つと水との混合物、及びこれら相互の混合物からなる群から選ばれる溶媒を意味する。“難溶性”とは、薬物が以下のそれぞれ、すなわちアセトン、メタノール、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、これらのいずれか一つと水との混合物、及びこれら相互の混合物に20mg/mL未満の溶解度しか持たないことを意味する。本明細書中で使用している溶解度は周囲温度及び圧力での測定を仮定している。本発明は、薬物の揮発性有機溶媒中溶解度が低下するほど有用性が増すことが分かっている。従って、薬物の揮発性有機溶媒中での溶解度は、周囲温度及び圧力で、15mg/mL未満、又は10mg/mL未満、又はさらには5mg/mL未満であってよい。
【0017】
水にも揮発性有機溶媒にも難溶性の薬物は、比較的融点(T)を有することが多い。一態様において、薬物は200℃を超えるTを有する。Tは250℃を超えることも、又はさらには300℃を超えることもあり得る。
【0018】
そのような薬物は比較的高いTの対ガラス転移温度(T)比を有していることが多い。一態様において、薬物は1.4を超えるT/T比(K/Kで)を有する。T/T比(K/Kで)は1.45を超えることも、又はさらには1.5を超えることもあり得る。
【0019】
また、そのような薬物は中〜低疎水性の傾向もある。(1)オクタノール相中の薬物濃度の(2)水相中の薬物濃度に対する比(2相が互いに平衡状態にあるとき)の10を底とする対数と定義されるLog Pは、広く受け入れられた疎水性の測定値である。“中〜低疎水性”とは、薬物が4.5未満のLog P値を有することを意味する。本発明は、さらに低いLog P値を有する薬物にとっても有用性が高いことが分かっている。従って、Log P値は4.0未満でも、3.5未満でも、さらには3.0未満であってもよい。
【0020】
Log Pは、実験的に測定又は当該技術分野で公知の方法を用いて計算できる。Log Pの計算値を使用する場合、Log Pの計算として一般に受け入れられているいずれかの方法を用いて計算された最高値が使用される。計算Log P値は、ClogP、AlogP、及びMlogPのような計算法によって言及されることが多い。Log Pは、Crippenのフラグメント法(27 J.Chem.Inf.Comput.Sci.21(1987));Viswanadhanのフラグメント法(29 J.Chem.Inf.Comput.Sci.163(1989));又はBrotoのフラグメント法(19 Eur.J.Med.Chem.−Chim.Theor.71(1984))のようなフラグメント法を用いて推定することもできる。
【0021】
“弱酸性”とは、薬物が5を超える酸性pKaを有することを意味する。ここでは、pKの用語はその従来形で使用される。すなわちpKは酸のイオン化定数の負の対数である。特に明記しない限り、pKは25℃の蒸留水中での測定と仮定される。薬物は6を超える、6.5を超える酸性pKaを有しうる。又はさらには7を超える酸性pKaを有していてもよい。
【0022】
そのような薬物は典型的には、オキシアニオンが共役系全体に非局在化されうるという構造的特徴を有する。構造的特徴の一つの例示的クラスはケト/エノール形で存在しうる化合物である。そのような化合物のケト及びエノール形は一般に互変異性体と呼ばれており、構造における唯一の違いはプロトンの配置である。ほとんどの分子がケト及びエノール形で存在する平衡時、ケトのエノール形に対する比率は、分子の他方の構造的特徴及び分子の直近の環境に依存する。ケト/エノール形で存在しうる分子が該分子のpKaより大きいpHの環境に置かれた場合、ケト又はエノール基は塩基とプロトンを交換し、以下のスキームによって表されるようなエノラートアニオンを形成する。
【0023】
【化1】

【0024】
ケト/エノール化合物に関する詳細については、J.R.Keeffe,The Chemistry of Enols,1990参照。
いくつかの共通の構造的特徴は、共役系全体に非局在化するオキシアニオンを形成できることである。以下において“R”置換基は、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、又は芳香族もしくは脂肪族構造を表しうる。2個以上のR基を有する構造の場合、R基は同じでも異なっていてもよい。オキシアニオンが共役系全体に非局在化する構造的特徴の具体例は以下の通りである。
【0025】
【化2−1】

【0026】
【化2−2】

【0027】
一態様において薬物は構造的特徴:
【0028】
【化3】

【0029】
を含有する。
別の態様において薬物は構造的特徴:
【0030】
【化4】

【0031】
を含有する。
別の態様において薬物は構造的特徴:
【0032】
【化5】

【0033】
を含有する。
別の態様において薬物は構造的特徴:
【0034】
【化6】

【0035】
を含有する。
別の態様において薬物は構造的特徴:
【0036】
【化7】

【0037】
を含有する。
別の態様において薬物は構造的特徴:
【0038】
【化8】

【0039】
を含有する。
別の態様において薬物は構造的特徴:
【0040】
【化9】

【0041】
を含有する。
別の態様において薬物は構造的特徴:
【0042】
【化10】

【0043】
を含有する。
別の態様において薬物は構造的特徴:
【0044】
【化11】

【0045】
を含有する。
別の態様において薬物は構造的特徴:
【0046】
【化12】

【0047】
を含有する。
別の態様において薬物は構造的特徴:
【0048】
【化13】

【0049】
を含有する。
別の態様において薬物は構造的特徴:
【0050】
【化14】

【0051】
を含有する。
指名された各薬物は、薬物の製薬学的に許容しうるあらゆる形態を含むと理解されるべきである。“製薬学的に許容しうる形態”とは、互変異性体、立体異性体、立体異性体混合物、鏡像異性体、溶媒和物、水和物、同形体、多形体、擬似体、中性形、塩形及びプロドラッグを含むあらゆる製薬学的に許容しうる誘導体又は変形を意味する。
【0052】
一態様において、薬物は、6−アミノ−9−ベンジル−8−オキソ−8,9−ジヒドロ−7H−プリン−2−カルボン酸 シクロプロピルメチル−アミド(“薬物1”)、又はその製薬学的に許容しうる形態で、その中性形は下記構造を有する。
【0053】
【化15】

【0054】
別の態様において、薬物は、4−アミノ−1−ベンジル−6−トリフルオロメチル−1,3−ジヒドロ−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−2−オン(“薬物2”)、又はその製薬学的に許容しうる形態で、その中性形は下記構造を有する。
【0055】
【化16】

【0056】
別の態様において、薬物は、6−(5−クロロ−3−メチル−ベンゾフラン−2−スルホニル)−2H−ピリダジン−3−オン(“薬物3”)、又はその製薬学的に許容しうる形態で、その中性形は下記構造を有する。
【0057】
【化17】

【0058】
カチオン種
前述のように、本発明での使用に適切な薬物は水に難溶性である。このため、溶解度及びバイオアベイラビリティを改良するために薬物を固体分散体に製剤化することが望ましい。しかしながら、薬物は揮発性有機溶媒にも難溶性なので、薬物を溶媒処理によって固体分散体に加工することは実際不可能である。
【0059】
発明者らは、本発明の薬物が製薬学的に許容しうるイオン化形で存在する場合、その揮発性有機溶媒中の溶解度は該薬物の中性形と比べて著しく増大することを見出した。この増大した溶解度は、化合物の有効製剤への製造可能性及び加工性に改良をもたらす。
【0060】
薬物は弱酸性なので、塩基の存在下ではイオン化形になるであろう。塩基がアニオン性薬物のカチオン性対イオンを提供する。イオン化形の薬物は、中性形の薬物よりも揮発性有機溶媒中での溶解度が著しく高くなる。例えば、90/10(w/w)メタノール/水混合物中の薬物1の結晶質カリウム塩形の溶解度は5mgA/mLを超えるが、メタノール中の薬物1の結晶質中性形の溶解度は約0.059mgA/mLである(ここで使用している“mgA”とは中性形として存在する活性薬物のミリグラムを意味する)。この85倍高い溶解度は、本明細書で以下に検討するように、改良された製造可能性及び加工性をもたらす。
【0061】
揮発性有機溶媒中でイオン化形の薬物を形成させるのに広範囲の塩基が使用できる。“塩基”という用語は、水酸化ナトリウムのような強塩基だけでなく、弱塩基及び所望のイオン化度を達成できる緩衝液も含め、広義に使用される。一般的に、塩基は、薬物のpKa値より大きいpKa値を持つべきである。従って、塩基は、約6を超える、さらに好ましくは約7を超える、最も好ましくは約8を超えるpKa値を持つべきである。
【0062】
塩基の例は、水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アンモニウム、及び水酸化コリン;炭酸水素塩、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、及び炭酸水素アンモニウム;炭酸塩、例えば炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、及び炭酸ナトリウム:酸化物、例えば酸化マグネシウム及び酸化カルシウム;アミン、例えばトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルグルカミン、グルコサミン、エチレンジアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−ベンジル−2−フェネチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、ジエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ドデシルアミン、及びトリエチルアミン;タンパク質、例えばゼラチン;アミノ酸、例えばリジン、アルギニン、グアニン、グリシン、及びアデニン;高分子アミン、例えばEudragit Eのようなポリアミノメタクリレート;各種酸の共役塩基、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム(二塩基性リン酸カリウム)、リン酸三カリウム(三塩基性リン酸カリウム)、リン酸水素カルシウム、ナトリウムフェノラート、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の塩、例えばテトラナトリウムEDTA;及び各種酸性ポリマーの塩、例えばデンプングリコール酸ナトリウム、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及びポリアクリル酸ナトリウムなどである。
【0063】
塩基を薬物と共に揮発性有機溶媒中に共溶解すると、薬物のイオン化形が形成される。イオン化形薬物の対イオンは、薬物と共溶解されている塩基によって供給されるカチオン種である。好ましくは、カチオン種は、以下のカチオン、すなわちカリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、アンモニウム、ベンザチン(N,N’−ジベンジルエチレンジアミン)、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N−メチルグルカミン)、ベネタミン(N−ベンジルフェネチルアミン)、ジエチルアミン、ピペラジン、トロメタミン(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)、プロカイン及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。さらに好ましくは、カチオン種は、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、アンモニウムのカチオン、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。
【0064】
一態様において、カチオン種は、カリウム、ナトリウムのカチオン、及びそれらの混合物から選ばれる。
分散ポリマー
本発明の組成物に使用するのに適切な分散ポリマーは製薬学的に許容し得るものであるべきであり、また生理学的に関連するpH(例えば1〜8)の水溶液中で少なくとも多少の溶解度を有するべきである。1〜8のpH範囲の少なくとも一部にわたって少なくとも約0.1mg/mLの水溶解度を有するほとんどあらゆるポリマーは適切であり得る。
【0065】
一態様において、ポリマーは中性又は非イオン性ポリマーである。すなわちポリマーは実質的にイオン性官能基を持たないことを意味する。“実質的にイオン性官能基がない”とは、ポリマーに共有結合しているイオン性基の数がポリマー1グラムあたり約0.05ミリ当量未満であることを意味する。好ましくはその数は中性ポリマー1グラムあたり約0.02ミリ当量未満である。“イオン性基”とは、1〜8の生理学的関連pH範囲の少なくとも一部にわたって少なくとも約10%がイオン化される官能基を意味する。そのような基は約0〜9のpKa値を有する。
【0066】
本発明での使用に適切な一つのクラスの中性ポリマーは中性非セルロース系ポリマーを含む。ポリマーの例は、ヒドロキシル、アルキルアシルオキシ、及び環状アミドを含む基から選ばれる少なくとも1個の置換基を有するビニルポリマー及びコポリマー;少なくとも1個の親水性のヒドロキシル含有反復単位と少なくとも1個の疎水性のアルキル−又はアリール含有反復単位のビニルコポリマー;少なくとも非加水分解(酢酸ビニル)形の反復単位の部分を有するポリビニルアルコール;ポリビニルアルコールポリ酢酸ビニルコポリマー;ポリビニルピロリドン;アクリレート及びメタクリレートコポリマー;ポリエチレンポリビニルアルコールコポリマー;及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(ポロキサマーとも呼ばれる)などである。
【0067】
本発明での使用に適切な別のクラスの中性ポリマーは中性セルロース系ポリマーを含む。“セルロース系”とは、サッカリド反復単位上のヒドロキシル基の少なくとも一部が化合物との反応によって修飾され、エステル又はエーテル置換基が形成されているセルロースポリマーを意味する。ポリマーとして使用できる中性セルロース系ポリマーの例は、酢酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCA)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシエチルエチルセルロースなどである。
【0068】
別の態様においてポリマーは中和された酸性ポリマーである。中和された酸性ポリマーについては、2002年6月17日出願の米国公開特許出願第US2003−0054038号、発明の名称“Pharmaceutical Compositions of Drugs and Neutralized Acidic Polymers”に、より詳細に記載されている。前記出願特許の関連開示部分は引用によって本明細書に援用する。“酸性ポリマー”とは、相当数の酸性部分を有するあらゆるポリマーを意味する。一般に、相当数の酸性部分とは、ポリマー1グラムあたり約0.05ミリ当量以上の酸性部分であろう。“酸性部分”は、水に接触又は溶解された場合に水に水素カチオンを少なくとも部分的に供与でき、ゆえに水素イオン濃度を増大できるほど十分酸性のあらゆる官能基を含む。この定義は、約10未満のpKaを有するあらゆる官能基又は“置換基”(官能基がポリマーに共有結合している場合にそう呼ばれる)を含む。
【0069】
“中和された酸性ポリマー”とは、相当部分の“酸性部分”又は“酸性置換基”が“中和されている”、すなわち脱プロトン化形で存在するあらゆる酸性ポリマーを意味する。モノプロトン酸(例えばカルボン酸)で置換されているポリマーの“中和度”αは、中和されている、すなわち塩基によって脱プロトン化されているポリマー上の酸性部分のフラクションと定義される。
【0070】
典型的には、酸性ポリマーが“中和された酸性ポリマー”とみなされるには、αは少なくとも約0.01(又は1%)、さらに好ましくは少なくとも約0.1(10%)、なおさらに好ましくは少なくとも約0.5(50%)、最も好ましくは少なくとも0.9(90%)(少なくとも90%の酸性部分が中和されているという意味)でなければならない。
【0071】
本発明で中和形で使用できる酸性ポリマーの例は、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸コハク酸セルロース(CAS)、酢酸フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAP)、酢酸トリメリット酸セルロース(CAT)、酢酸トリメリット酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAT)、及び酢酸酪酸カルボキシメチルセルロース(CMCAB)などである。
【0072】
中和された酸性ポリマーは、所望の中和度が得られる当該技術分野で公知の任意の従来法によって形成できる。一般に、酸性ポリマーは、酸性ポリマーを含有する溶液又は組成物に十分量の塩基を加えることによって中和される。例えば、塩基を酸性ポリマーの溶液に加えてポリマーの酸性官能基を中和する。酸性ポリマーの中和に使用できる適切な塩基は、本発明の固体分散体中に存在するカチオン種に関して上でリストアップしたものを含む。
【0073】
一態様において、ポリマーの中和に利用される塩基は、本発明の固体分散体中に存在するカチオン種を提供するのに使用される同じ塩基である。
一態様において、酸性ポリマーは固体分散体の形成前に中和される。別の態様において、酸性ポリマーは固体分散体の形成に使用される溶媒溶液中で中和される。これについては以下で説明する。
【0074】
特定のポリマーを本発明の組成物に使用するのに適切であるとして解説してきたが、そのようなポリマーのブレンドも適切である。従って“ポリマー”という用語は単一種のポリマー以外にポリマーのブレンドも含むものとする。
【0075】
一態様において、分散ポリマーは、中性ポリマー、中和された酸性ポリマー、又はそれらの混合物からなる群から選ばれる。
別の態様において、分散ポリマーは、ヒドロキシル、アルキルアシルオキシ、及び環状アミドを含む基から選ばれる少なくとも1個の置換基を有するビニルポリマー及びコポリマー;少なくとも1個の親水性のヒドロキシル含有反復単位と少なくとも1個の疎水性のアルキル−又はアリール含有反復単位のビニルコポリマー;少なくとも非加水分解(酢酸ビニル)形の反復単位の部分を有するポリビニルアルコール;ポリビニルアルコールポリ酢酸ビニルコポリマー;ポリビニルピロリドン;アクリレート及びメタクリレートコポリマー;ポリエチレンポリビニルアルコールコポリマー;ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(ポロキサマーとも呼ばれる);酢酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCA);ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC);ヒドロキシプロピルセルロース(HPC);メチルセルロース;ヒドロキシエチルメチルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース;酢酸ヒドロキシエチルセルロース;ヒドロキシエチルエチルセルロース;酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)の中和形、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)の中和形、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)の中和形、酢酸フタル酸セルロース(CAP)の中和形、酢酸コハク酸セルロース(CAS)の中和形、酢酸フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAP)の中和形、酢酸トリメリット酸セルロース(CAT)の中和形、酢酸トリメリット酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAT)の中和形、酢酸酪酸カルボキシメチルセルロース(CMCAB)の中和形、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。
【0076】
なお別の態様において、分散ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、酢酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCA)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポロキサマー、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)の中和形、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)の中和形、酢酸フタル酸セルロース(CAP)の中和形、酢酸トリメリット酸セルロース(CAT)の中和形、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)の中和形、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。
【0077】
なお別の態様において、分散ポリマーは、HPMC、HPMCA、HPC、ポロキサマー、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。
さらに別の態様において、分散ポリマーは、酸性ポリマーのHPMCAS、HPMCP、CAP、CAT、CMECの中和形、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。
【0078】
さらに別の態様において分散ポリマーはHPMCである。
さらに別の態様において分散ポリマーはHPMCASの中和形である。
なお別の態様において、分散ポリマーはHPMCで、カチオン種はカリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、アンモニウムのカチオン、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。
【0079】
別の態様において、分散ポリマーはHPMCで、カチオン種はカリウムである。
別の態様において、分散ポリマーはHPMCで、カチオン種はナトリウムである。
別の態様において、分散ポリマーはHPMCで、カチオン種はカルシウムである。
【0080】
別の態様において、分散ポリマーはHPMCで、カチオン種はマグネシウムである。
別の態様において、分散ポリマーはHPMCで、カチオン種はアルミニウムである。
別の態様において、分散ポリマーはHPMCで、カチオン種はアンモニウムである。
【0081】
なお別の態様において、分散ポリマーは中和されたHPMCASで、カチオン種はカリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、アンモニウムのカチオン、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。
【0082】
別の態様において、分散ポリマーは中和されたHPMCASで、カチオン種はカリウムである。
別の態様において、分散ポリマーは中和されたHPMCASで、カチオン種はナトリウムである。
【0083】
別の態様において、分散ポリマーは中和されたHPMCASで、カチオン種はカルシウムである。
別の態様において、分散ポリマーは中和されたHPMCASで、カチオン種はマグネシウムである。
【0084】
別の態様において、分散ポリマーは中和されたHPMCASで、カチオン種はアルミニウムである。
別の態様において、分散ポリマーは中和されたHPMCASで、カチオン種はアンモニウムである。
【0085】
固体分散体
本明細書中に記載の医薬組成物は、薬物、分散ポリマー、及びカチオン種の固体分散体を含む。“固体分散体”とは、薬物の少なくとも一部がポリマー中に分散していることを意味する。そのような固体分散体は、当該技術分野ではポリマー中薬物の“分子分散体”又は“固溶体”と呼ばれることも多い。
【0086】
薬物はその純粋形では結晶質か又は非晶質のいずれかであり得るが、固体分散体中の薬物の少なくとも90重量%は非晶質である。本明細書中で使用している“結晶質”という用語は、3次元に長距離秩序を示す化合物の特別の固体形を意味する。“非晶質”とは、長距離3次元秩序を持たない材料のことで、本質的に無秩序の材料だけでなく、多少の秩序(この秩序は3次元未満及び/又はほんの短距離にわたる秩序)を有しうる材料も含むものとする。材料の非晶質形に関する別の用語は材料の“アモルファス”形である。好ましくは、固体分散体中の薬物の少なくとも約95重量%は非晶質である。言い換えると、結晶形の薬物の量は約5重量%を超えない。結晶質及び非晶質薬物の量は、当該技術分野で公知の技術、例えば粉末X線回折(PXRD)結晶学、走査型電子顕微鏡(SEM)分析、固体NMR、又は示差走査熱量測定(DSC)のような熱技術、又はいずれかその他の標準的定量測定法によって特徴付けできる。
【0087】
固体分散体中の非晶質薬物は、純粋相として、分散ポリマー全体に均一に分布した薬物の固溶体として、又はこれらの状態の任意の組合せもしくはそれらの中間にある状態として存在しうる。好ましくは、薬物の少なくとも一部及び分散ポリマーは固溶体の形態でナノ粒子中に存在する。固溶体は熱力学的に安定で、そこでは薬物が分散ポリマー中の薬物の溶解限度未満で存在する。又は薬物が分散ポリマー中のその溶解限度を超える過飽和の固溶体であってもよい。好ましくは、本質的にすべての薬物及び分散ポリマーは固溶体として存在する。
【0088】
非晶質薬物及び分散ポリマーが約20℃をこえて異なるガラス転移温度を有している場合、固体分散体内の比較的純粋な非晶質ドメイン又は領域に存在する薬物のフラクションは、分散体のガラス転移温度(T)の測定によって特定できる。本明細書中で使用しているTは、ガラス状材料が次第に加熱されて、ガラス状態からゴム状態への比較的迅速な(すなわち10〜100秒で)物理変化を遂げる特性温度である。ポリマー又は分散体のような非晶質材料のTはいくつかの技術、例えば動的機械分析器(DMA)、膨張計、誘電分析器、及びDSCによって測定できる。各技術によって測定される正確な値はいくらか変動しうるが、通常互いに10℃〜30℃の範囲内に収まる。固体分散体が単一のTを示す場合、分散体中の純粋な非晶質ドメイン又は領域にある薬物の量は一般的に約10重量%未満で、分散体が実質的に均一であることを裏付けている。これは、一般的に二つの異なるTを示す純非晶質薬物粒子と純分散ポリマー粒子の単なる物理的混合物とは対照をなす。二つのTは、一方は薬物のもので他方はポリマーのものである。二つの異なるTを示す固体分散体の場合、薬物の少なくとも一部が比較的純粋な非晶質ドメインに存在すると結論づけることができる。DSCを用いて、比較的純粋な非晶質ドメイン又は領域に存在する薬物の量は、検量標準として使用される公知量の薬物を有する実質的に均一な分散体のTをまず測定することによって決定できる。均一分散体のT、純粋なポリマーのT、及び二つのTを示す分散体のポリマー豊富相のTから、比較的純粋な非晶質ドメイン又は領域中の薬物のフラクションは推定できる。あるいは、比較的純粋な非晶質ドメイン又は領域に存在する薬物の量は、薬物のTに相関する熱容量の大きさ(1)を、非晶質薬物とポリマーの物理的混合物のTに相関する(2)と比較することによって決定することもできる。
【0089】
好ましくは、固体分散体は、純粋な薬物のT及び純分散ポリマーのTとは異なる少なくとも一つのTを示し、薬物の少なくとも一部及びポリマーが固溶体として存在することを示す。
【0090】
本発明の分散体中に存在する薬物の量に対する分散ポリマーの量は、ポリマーの特性に依存し、薬物対ポリマーの重量比0.01(1部の薬物対100部のポリマー)から約3まで広く変動しうる(すなわち1重量%の薬物〜75重量%の薬物)。好ましくは、薬物対ポリマーの重量比は0.01〜2(1重量%の薬物〜66重量%の薬物)、さらに好ましくは0.05〜1(5重量%の薬物〜50重量%の薬物)の範囲である。
【0091】
一態様において、固体分散体は少なくとも約1重量%の薬物、又はその製薬学的に許容しうる形態を含む。別の側面において、固体分散体は少なくとも約5重量%、少なくとも約10重量%、少なくとも約15重量%、少なくとも約20重量%、少なくとも約25重量%、少なくとも約30重量%、少なくとも約35重量%、少なくとも約40重量%、少なくとも約45重量%の薬物、又はその製薬学的に許容しうる形態を含む。
【0092】
別の態様において、薬物、カチオン種、及び分散ポリマーは固体分散体の全質量の少なくとも80重量%を構成する。好ましくは、薬物、カチオン種、及び分散ポリマーは固体分散体の全質量の少なくとも85重量%、さらに好ましくは少なくとも90重量%、なおさらに好ましくは少なくとも95重量%を構成する。別の態様において、固体分散体は、本質的に薬物、カチオン種、及び分散ポリマーからなる。
【0093】
なお別の態様において、固体分散体は複数の粒子からなる。前記粒子のそれぞれは、薬物、カチオン種、及び分散ポリマーを含む。これは、薬物がポリマーと混合、ブレンド、又は分散されて薬物粒子とポリマー粒子の混合物からなる組成物を形成する薬物とポリマーの単純な物理的混合物とは対照をなす。好適な態様において、固体分散体は複数の粒子からなり、各粒子は薬物、カチオン種、及び分散ポリマーを含む。そこでは薬物、カチオン種、及び分散ポリマーは固溶体の形態となっている。
【0094】
本発明の固体分散体は良好な物理的安定性を提供する。本明細書中で使用している“物理的に安定な”又は“物理的安定性”とは、固体分散体中に存在する非晶質薬物が、25℃及び約60%RH未満という周囲保存条件で結晶化する傾向を意味する。従って、他より物理的に安定な固体組成物というと、固体組成物中の薬物の結晶化速度が遅いことになる。具体的には、本発明の組成物は、25℃及び60%RHで3週間の保存中に約10重量%未満の薬物しか結晶化しないほど十分な安定性を有している。好ましくは、25℃及び60%RHで3週間の保存中、さらに好ましくは25℃及び60%RHで3ヶ月間の保存後に約5重量%未満の薬物しか結晶化しない。
【0095】
発明者らは、本発明の薬物及び分散ポリマーの固体分散体の物理的安定性は、一般的に組成物を乾燥条件下で保存した場合に改良されることを見出した。“乾燥条件”とは、固体分散体が、温度が約50℃以下及び相対湿度が約50%以下、好ましくは約30%以下、さらに好ましくは約20%以下、最も好ましくは約10%以下の環境で保存されることを意味する。
【0096】
組成物の調製
薬物、カチオン種、及び分散ポリマーを含む固体分散体は、薬物の少なくとも一部が非晶質状態となるような任意の従来法に従って製造できる。そのような方法は、溶媒処理、例えば非溶媒沈殿、スプレーコーティング及びスプレー乾燥を含む。
【0097】
溶媒処理は一般的に、薬物の少なくとも一部及び一つ又は複数の分散ポリマー成分の少なくとも一部を共通溶媒に溶解することからなる。“溶媒”という用語は広義に使用され、溶媒の混合物を含む。“共通”とは、ここでは溶媒(化合物の混合物であってもよい)が薬物及び分散ポリマー(一つ又は複数)の少なくとも一部を溶解することを意味する。好ましくは、溶媒は本質的にすべての薬物及び本質的にすべての分散ポリマーを溶解する。前述のように、塩基を一般的に薬物と共に溶媒中に共溶解して、薬物の溶媒中の溶解度を増大させる。
【0098】
溶媒処理に適切な溶媒は、イオン化形の薬物と分散ポリマーが相互に可溶である任意の化合物であり得る。好ましくは、溶媒は沸点が150℃以下の揮発性でもある。さらに、溶媒は比較的低毒性であるべきであり、固体分散体から医薬品規制調和国際会議(ICH)ガイドラインに準じて許容可能なレベルにまで除去されるべきである。このレベルまでの溶媒の除去は、トレイ乾燥のような次の処理ステップを必要としうる。好適な溶媒は、アルコール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、及びブタノール;ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソ−ブチルケトン;エステル、例えば酢酸エチル及びプロピルアセテート;並びに各種のその他の溶媒、例えばアセトニトリル、塩化メチレン、トルエン、1,1,1−トリクロロエタン、及びテトラヒドロフランなどである。ジメチルアセトアミド又はジメチルスルホキシドのような低揮発性溶媒も揮発性溶媒との混合物中に少量使用することができる。50%メタノールと50%アセトンといった溶媒の混合物も、ポリマー及び薬物がスプレー乾燥法を実施できるほど十分に可溶である限り、水との混合物と同様に使用できる。好適な溶媒は、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、これらと水との混合物、及びそれらの混合物である。
【0099】
好適な態様において、イオン化形の薬物は、本明細書中に記載のように溶媒中で現場形成される。この方法では中性形の薬物と塩基を溶媒中に共溶解又は懸濁させる。イオン化形の薬物は溶媒中の溶解度が高いので、この方法は高濃度の薬物が溶媒中に溶解されるのを可能にし、溶媒処理におけるスループットを高める。
【0100】
好ましくは十分量の塩基を溶媒中に薬物とともに共溶解して、大部分の薬物が最終溶液中にイオン化形として存在するようにする。すなわち、最終溶液中の少なくとも約60重量%の薬物がイオン化形として存在する。好ましくは十分量の塩基を共溶解して、最終溶液中の少なくとも約70重量%の薬物がイオン化形として存在するように、さらに好ましくは少なくとも約80重量%、なおさらに好ましくは少なくとも約90重量%、最も好ましくは少なくとも約95重量%の薬物がイオン化形として存在するようにする。一態様においては、最終溶液中の本質的にすべての薬物がイオン化形で存在する。
【0101】
溶媒中に薬物と共溶解されて薬物をイオン化形に変換するのに要する塩基の量は、選択された塩基の性質、特に塩基のpKによって異なる。一般的に、強塩基(pKaが約9以上)の場合、1モルの塩基が1モルの薬物をイオン化形に変換する。例えば、本質的にすべての薬物がイオン化形である溶液を形成するためには、等モルの薬物と塩基を溶媒中に共溶解することになる。一態様では、過剰の塩基を溶媒に加えて、本質的にすべての薬物を確実にイオン化形にするようにする。
【0102】
中和された分散ポリマーをイオン化形の薬物と共に現場で形成する場合、十分量の塩基を加えて、所望量のイオン化形薬物及び所望量の中和された分散ポリマーが提供されるようにする。
【0103】
薬物及び分散ポリマーそれぞれの少なくとも一部が溶解されたら、溶媒は蒸発によって又は非溶媒との混合によって除去される。例となる方法は、スプレー乾燥、スプレーコーティング(パンコーティング、流動床コーティングなど)、及び薬物と分散ポリマーの溶液をCO、ヘキサン、ヘプタン、適当なpHの水、又は他の何らかの非溶媒と迅速混合することによる沈殿である。溶媒の除去後、実質的に均一な固体分散体が得られるのが好ましい。この目標を達成するには、溶液を噴霧化して薬物と分散ポリマーを迅速に固化する方法のように、溶媒を溶液から迅速に除去するのが一般的に望ましい。
【0104】
溶媒はスプレー乾燥によって除去できる。“スプレー乾燥”という用語は従来使用されており、広義にはスプレー乾燥装置で液体混合物を小滴に砕き(噴霧)、混合物から溶媒を迅速に除去することを含む方法のことを言う。スプレー乾燥装置内では溶媒を液滴から蒸発させるための強い推進力が働いている。スプレー乾燥法及びスプレー乾燥装置は一般にPerry’s Chemical Engineers’ Handbook,20−54〜20−57ページ(第6版、1984)に記載されている。スプレー乾燥法及び装置に関する更なる詳細は、Marshall,“Atomization and Spray−Drying,”50 Chem.Eng.Prog.Monogr.Series 2(1954)及びMasters,Spray Drying Handbook(第4版、1985)に概説されている。溶媒蒸発のための強力な推進力は、一般的にスプレー乾燥装置内の溶媒の分圧を、乾燥する液滴の温度における溶媒の蒸気圧よりずっと低く維持することによって提供される。これは、(1)スプレー乾燥装置内の圧力を部分真空(例えば0.01〜0.50atm)に維持する;又は(2)液滴を温かい乾燥ガスと混合する;又は(3)(1)と(2)の両方によって達成される。さらに溶媒の蒸発に必要な熱の少なくとも一部をスプレー溶液の加熱によって提供することもできる。
【0105】
溶媒を含有する供給原料は非常に多様な条件下でスプレー乾燥でき、それでもなお許容可能な性質を有する固体分散体を得ることができる。例えば、様々なタイプのノズルを用いてスプレー溶液を噴霧できる。そうすることによりスプレー溶液をスプレー乾燥チャンバに小滴の集まりとして導入することができる。形成される液滴がスプレー乾燥チャンバ壁に付着したり又はチャンバ壁を被覆しないように十分小さくて十分乾燥(溶媒の蒸発により)する限り、本質的にあらゆるタイプのノズルが溶液のスプレーに使用できる。
【0106】
最大の液滴サイズはスプレー乾燥器内の大きさ、形状及びフローパターンに応じて広く変動するが、一般的に液滴はノズルから吐出されるときの直径が約500μm未満であるべきである。固体分散体の形成に使用できるノズルの種類の例は、2流体ノズル、噴水型ノズル、フラットファン型ノズル、プレッシャーノズル及びロータリーアトマイザなどである。好適な態様ではプレッシャーノズルを使用する。詳細は2003年1月24日出願の米国公開特許出願第US2003−0185893号に開示されており、前記出願特許は引用によって本明細書に援用する。
【0107】
スプレー溶液はスプレーノズル(一つ又は複数)に広範な温度及び流速で供給できる。一般的に、スプレー溶液の温度は、溶媒の凝固点のすぐ上からその周囲圧力沸点の約20℃上(溶液の加圧により)までの中のいずれかの範囲であり得る。場合によってはそれより高いこともある。スプレーノズルへのスプレー溶液の流速は、ノズルの種類、スプレー乾燥器の大きさ及びスプレー乾燥条件(例えば乾燥ガスの入口温度及び流速)に応じて広く変動しうる。一般的に、スプレー乾燥法で溶媒をスプレー溶液から蒸発させるためのエネルギーは主として乾燥ガスに由来する。
【0108】
乾燥ガスは原則的には本質的にあらゆるガスでよいが、安全上の理由と固体分散体中の薬物又はその他の物質の望まざる酸化を最小限にするために、窒素、窒素豊富化空気又はアルゴンのような不活性ガスを利用する。乾燥ガスは典型的には乾燥チャンバに約60℃〜約300℃、好ましくは約80℃〜約240℃の温度で導入される。
【0109】
液滴の表面積対体積比が大きく、溶媒蒸発のための推進力も大きいため、液滴の固化時間は迅速なものとなる。固化時間は約20秒未満、好ましくは約10秒未満、さらに好ましくは1秒未満であるべきである。この迅速な固化は、粒子が、薬物豊富相及びポリマー豊富相に分離する代わりに一様で均一な分散体を維持するために重要であることが多い。好適な態様では、スプレー乾燥器の高さ及び容積は、液滴がスプレー乾燥器の内部表面に衝突する前に乾燥するのに十分な時間を提供できるように調整される。これについては米国特許第6,763,607号に詳述されている(引用によって本明細書に援用する)。前述のように、濃度及びバイオアベイラビリティを大きく向上させるためには、なるべく均一な分散体を得る必要があることが多い。
【0110】
固化後、固体粉末は典型的にはスプレー乾燥チャンバに約5〜60秒間とどまって、固体粉末から溶媒をさらに蒸発させる。乾燥器から出るときの固体分散体の最終溶媒含量は低くあるべきである。なぜならば、このことで固体分散体内での薬物分子の可動性が低減し、その安定性が改良されるからである。一般的に、スプレー乾燥チャンバを出るときの固体分散体の溶媒含量は10重量%未満、好ましくは2重量%未満であるべきである。
【0111】
形成後、固体分散体は残留溶媒を除去するために適切な乾燥法を用いて乾燥させることができる。例えばトレイ乾燥、真空乾燥、流動床乾燥、マイクロ波乾燥、ベルト乾燥、ロータリー乾燥、及び当該技術分野で公知のその他の乾燥法などである。好適な二次乾燥法は真空乾燥又はトレイ乾燥などである。乾燥中の化学分解を最小限にするために、乾燥は窒素のような不活性ガス下又は真空下で行うのがよい。
【0112】
固体分散体は通常小粒子の形態である。粒子の体積平均直径は500μm未満、又は直径100μm未満、直径50μm未満、又は直径25μm未満でありうる。固体分散体をスプレー乾燥によって形成させると、得られる分散体はそのような小粒子の形態となる。固体分散体を他の方法、例えば回転蒸発、非溶媒を用いる沈殿、スプレーコーティング、溶融−凝固、又は押出法によって形成すると、得られる分散体は複数の小粒子を得るためにふるいにかけられる、粉砕される、又はそれ以外の加工をされることになり得る。
【0113】
別の態様において、溶媒は、溶媒含有原料溶液をシードコア(seed core)に噴霧することによって除去される。シードコアは、デンプン、微結晶性セルロース、糖又はワックスのような任意の適切な材料から、溶融−又はスプレー凝固、押出/球形化、造粒、スプレー乾燥などのような任意の公知法によって製造できる。原料溶液はそのようなシードコアに製薬技術分野で公知のコーティング装置を用いてスプレーできる。例えば、パンコーター(例えば、日本・東京のFreund Corp.から入手できるHi−Coater、英国リバプールのManestyから入手できるAccela−Cota)、流動床コーター(例えば、ニュージャージー州ラムゼイのGlatt Air Technologies及びスイス・ブーベンドルフのNiro Pharma Systemsから入手できるWurster coaters又はtop−sprayers)及び回転造粒器(例えば、Freund Corpから入手できるCF−Granulator)などである。この方法の最中に、シードコアは原料溶液でコーティングされ、溶媒は蒸発するので、固体分散体を含むコーティングが得られる。固体分散体をシードコア上に形成することには、以下の点で利点がある。つまり、分散体は低密度なので水使用環境に投与された場合に迅速な溶解が可能であるが、このように形成された粒子はシードコアのそれと類似する総合密度を有することになり、組成物の加工と取扱いが改良される。
【0114】
濃度増強
好適な態様において、本発明の組成物は“濃度増強”をする。すなわち、薬物、カチオン種、及び分散ポリマーの固体分散体は、本質的に等量の結晶質中性形薬物からなる対照組成物と比べて、使用環境において薬物の濃度を改良する。本明細書中で使用している“使用環境”とは、動物、例えば哺乳動物、特にヒトの消化管、皮下、鼻腔内、頬内、髄腔内、眼内、耳内、皮下腔、膣管、動静脈血管、呼吸器又は筋肉内組織といったインビボ環境、又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液もしくはモデル絶食十二指腸(Model Fasted Duodenal, MFD)溶液のような試験溶液のインビトロ環境のいずれかであり得る。濃度増強は、インビトロ溶解試験又はインビボ試験のいずれかによって決定できる。MFD溶液又はPBS溶液中でのインビトロ溶解試験における薬物濃度の増強は、インビボにおける成績及びバイオアベイラビリティの良好な指標になることがわかっている。適当なPBS溶液は、20mMのリン酸ナトリウム(NaHPO)、47mMのリン酸カリウム(KHPO)、87 mMのNaCl、及び0.2 mMのKClを含み、NaOHでpH6.5に調整された水溶液である。適当なMFD溶液は、同じPBS溶液の中に、さらに7.3 mMのタウロコール酸ナトリウム及び1.4mMの1−パルミトイル−2−オレイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンも存在する。特に、本発明の組成物は、MFD又はPBS溶液にそれを加え、溶解を促進するために撹拌することによって溶解試験することができる。
【0115】
一態様において、水性の使用環境に投与された場合、本発明の組成物は薬物の最大溶解濃度(MDC)を提供する。これは、対照組成物によって提供されるMDCの少なくとも1.25倍である。例えば、対照組成物によって提供されるMDCが100μg/mLの場合、本発明の組成物は少なくとも125μg/mLのMDCを提供する。対照組成物は薬物の溶解度に物質的に影響を及ぼすような可溶化剤又はその他の成分を含有しないこと、及び薬物は対照組成物中では固体の結晶質中性形であることは理解されるべきである。好ましくは、発明的組成物は水溶液中で、少なくとも2倍、さらに好ましくは少なくとも3倍の薬物のMDCを提供する。驚くべきことに、発明的組成物は水溶液中濃度に極めて大きい増強を達成できる。場合によっては、試験組成物によって提供される薬物のMDCは、対照によって提供されるMDCの少なくとも5倍以上になることもある。
【0116】
別の態様において、発明的組成物は、ポリマーは含まないが等量の結晶質中性形薬物からなる対照組成物と比べて、使用環境における薬物の濃度対時間曲線下溶解面積(AUC)を増大する。より具体的には、使用環境において発明的組成物は、使用環境への導入後0〜270分の間のいずれかの90分間について、前述の対照組成物の少なくとも1.25倍のAUCを提供する。好ましくは、組成物によって提供されるAUCは、対照組成物の少なくとも2倍、さらに好ましくは少なくとも3倍である。本発明の組成物の中には、前述の対照組成物の少なくとも5倍、さらには少なくとも10倍以上のAUC値を提供するのもある。
【0117】
あるいは、本発明の組成物は、ヒト又はその他の動物に経口投与された場合、対照組成物との比較で観察されるものの少なくとも1.25倍の、血漿又は血清中薬物濃度におけるAUC(又は相対的バイオアベイラビリティ)を提供する。好ましくは、血中AUCは、対照組成物のそれの少なくとも約2倍、さらに好ましくは少なくとも約3倍、なおさらに好ましくは少なくとも約4倍、なおさらに好ましくは少なくとも約6倍、なおさらに好ましくは少なくとも約10倍、最も好ましくは少なくとも約20倍である。AUCの決定は周知の手続であり、例えば、Welling,“Pharmacokinetics Processes and Mathematics,”ACS Monograph 185(1986)に記載されている。
【0118】
あるいは、本発明の組成物は、ヒト又はその他の動物に経口投与された場合、対照組成物との比較で観察されるものの少なくとも1.25倍の血漿又は血清中最大薬物濃度(Cmax)を提供する。好ましくは、Cmaxは、対照組成物のそれの少なくとも約2倍、さらに好ましくは少なくとも約3倍、なおさらに好ましくは少なくとも約4倍、なおさらに好ましくは少なくとも約6倍、なおさらに好ましくは少なくとも約10倍、最も好ましくは少なくとも約20倍である。このように、インビトロ又はインビボの成績基準、又はその両方を満たす組成物は本発明の範囲内に含まれるとみなされる。
【0119】
固体剤形
組成物は様々な経路によって送達できる。例えば経口、鼻腔、直腸、膣、皮下、静脈内及び肺などの経路であるが、これらに限定されない。一般的には経口経路が好適である。
【0120】
組成物は、薬物投与のための様々な剤形にも使用できる。剤形の例は、散剤又は顆粒(乾燥状態のまま又は水もしくはその他の液体を添加して再構成(還元)し、ペースト、スラリー、懸濁液もしくは溶液にして経口投与される);錠剤;カプセル;マルチパーティキュレート(multiparticulate);及びピルである。様々な添加剤を本発明の組成物と共に混合、粉砕、又は粒状化して、上記剤形に適切な材料を形成することができる。
【0121】
本発明の組成物は、粒子の液体ビヒクル中懸濁液として送達できるように、様々な形態に製剤化することができる。そのような懸濁液は製造時に液体又はペーストとして製剤化されるか、又は乾燥粉末として製剤化し、後に経口投与前に液体、典型的には水を加えるようにすることができる。懸濁液に再構成されるそのような粉末はサシェ又は構成用経口粉末(oral powder for constitution,OPC)剤と呼ばれることが多い。そのような剤形は、任意の公知手順によって製剤化及び再構成できる。最も簡単な手法は、剤形を乾燥粉末として製剤化し、単に水を加えて撹拌することにより再構成するというものである。あるいは、剤形を液体及び乾燥粉末として製剤化し、それらを混合して撹拌し、経口懸濁液を形成してもよい。さらに別の態様においては、剤形を2種類の粉末として製剤化し、まず一つの粉末に水を加えて再構成して溶液を形成し、それに第二の粉末を撹拌しながら混合して懸濁液を形成するというようにしてもよい。
【0122】
本発明の組成物は、当該技術分野で周知の硬質ゼラチンカプセル又は軟質ゼラチンカプセルのような適切なカプセルに充填することもできる(例えば、Remington’s The Science and Practice of Pharmacy,第20版,2000参照)。
【0123】
本発明のその他の特徴及び態様は以下の実施例から明らかになるであろう。これらの実施例は本発明を例示するために提供されるのであって、その意図する範囲を制限するためのものではない。
【実施例】
【0124】
実施例で使用される薬物
薬物1は、6−アミノ−9−ベンジル−8−オキソ−8,9−ジヒドロ−7H−プリン−2−カルボン酸 シクロプロピルメチル−アミド、又はその製薬学的に許容しうる形態で、その中性形は以下の構造を有する。
【0125】
【化18】

【0126】
薬物1は以下の手順を用いて製造した。
ステップ1:9−ベンジル−2,6−ジクロロ−9H−プリンの製造
【0127】
【化19】

【0128】
2,6−ジクロロ−9H−プリン(10.9g、60mmol;Aldrich Chemical Co.より購入)を200mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、炭酸カリウム(31.9g、230mmol)を加えた。臭化ベンジル(13.7mL、120mmol)を少しずつ加え、全体を窒素下室温で16時間撹拌した。該混合物をArbocel(登録商標)のショートプラグを通してろ過し、ろ液を真空下で蒸発させて、黄色油のN7−(高極性)及びN9−ベンジル(低極性)プリンを得た。この油を1:2:10の酢酸エチル:アセトン:ヘキサンを溶離液として用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、9−ベンジル−2,6−ジクロロ−9H−プリンを白色固体として得た(9.1g、57%)。
【0129】
ステップ2:9−ベンジル−2−クロロ−9H−プリン−6−イルアミンの製造
【0130】
【化20】

【0131】
ステップ1の生成物(10g、40mmol)をエタノール(60mL)中に懸濁させ、70mLの濃水酸化アンモニウム溶液(比重0.88)を加えた。該混合物をスチール製圧力容器中、100℃で6時間加熱し、次いで室温に放冷した。反応混合物をろ過してオフホワイト色固体を得た。これを水(15mL)及びエタノール(15mL)で洗浄し、真空下で乾燥させて9−ベンジル−2−クロロ−9H−プリン−6−イルアミンを白色固体として得た(8.7g、94%)。
【0132】
ステップ3:9−ベンジル−8−ブロモ−2−クロロ−9H−プリン−6−イルアミンの製造
【0133】
【化21】

【0134】
ステップ2の生成物(3g、11.6mmol)を酢酸(50mL)及び酢酸ナトリウム(1.4g、17.3mmol)中に懸濁させ、混合物を氷浴で冷却しながら臭素(3.6mL、69.3mmol)を滴下添加した。添加完了後、混合物を窒素雰囲気下70℃で5時間加熱し、次いで室温に放冷した。該混合物を50mLの10%Na水溶液上に注ぎ、全体を真空下で約10mLに減量し、次いで2N NaOH溶液で中和した。有機物をジクロロメタン(3×150mL)で抽出し、水(100mL)及び食塩水(100mL)で洗浄し、次いで乾燥(MgSO)及び蒸発させて黄色固体を得た。その固体をエーテルで粉砕し、ろ過して、オフホワイト色固体の9−ベンジル−8−ブロモ−2−クロロ−9H−プリン−6−イルアミン(3.3g、85%)を得た。これはそれ以上精製せずに使用できるほど純粋であることがわかった。
【0135】
ステップ4:6−アミノ−9−ベンジル−2−クロロ−7,9−ジヒドロ−プリン−8−オンの製造
【0136】
【化22】

【0137】
ステップ3の生成物(2g、5.9mmol)を12N HCl(35mL)及びn−ブタノール(35mL)中に懸濁させ、混合物を100℃で7時間加熱し、次いで室温に放冷した。該反応混合物を真空下で蒸発乾固し、次いで2N NaOH(50mL)とジクロロメタン(50mL)間に分配させた。有機層を分離し、いくらかの未反応出発材料しか含有していないことがわかったので廃棄した。一方、水性層は濃HClで中和し、得られた沈殿物をろ過により回収し、酢酸エチルで洗浄して6−アミノ−9−ベンジル−2−クロロ−7,9−ジヒドロ−プリン−8−オンをオフホワイト色固体として得た(1.5g、94%)。これは>90%の純度であることがわかったのでそれ以上精製せずに使用した。
【0138】
ステップ5:6−アミノ−9−ベンジル−8−オキソ−8,9−ジヒドロ−7H−プリン−2−カルボン酸エチルエステルの製造
【0139】
【化23】

【0140】
ステップ4の生成物をスチール製圧力容器中でエタノール(10mL)とNaCOの混合物中に懸濁させた。ジクロロメタン中Pd(ジフェニルホスフィノフェロセニル)Cl(30mg、0.04mmol)を加え、混合物を120psi(827kPa)圧の一酸化炭素下、110℃で20時間加熱した。この時間の後、混合物を室温に放冷し、次いで減圧下で蒸発させた。得られた残渣をシリカゲル上クロマトグラフィーにかけ、ジクロロメタン中2%、次いで5%メタノールを溶離液として用いて6−アミノ−9−ベンジル−8−オキソ−8,9−ジヒドロ−7H−プリン−2−カルボン酸エチルエステルをオフホワイト色固体として得た(74mg、33%)。
【0141】
ステップ6:薬物1の製造
【0142】
【化24】

【0143】
ステップ5の化合物(40mg、0.13mmol)を5mLのReactiVial(登録商標)(Fisher Scientific)中のエタノール(2mL)及びシクロプロピルメチルアミン(335μL、3.8mmol)に取り、60℃で70時間加熱した。さらに335μLのシクロプロピルメチルアミンをバイアルに追加し、加熱をさらに48時間続けた。混合物を室温に放冷し、次いで減圧下で蒸発乾固した。得られた残渣を水(2mL)でスラリー化し、次いでろ過した。回収した白色粉末は>90%の純度の生成物であることがわかったので、それ以上精製せずに使用した(32mg、74%)。分析的に純粋なサンプルは、ジクロロメタン中2%、次いで5%、次いで10%メタノールを溶離液として用いるシリカゲルクロマトグラフィーによって得られた。薬物1は白色粉末として提供された。
【0144】
薬物1の中性形は、pH6.5のMFD溶液中の溶解度が約3μg/mLである。薬物1は、アセトン中溶解度25μg/mL、メタノール中溶解度59μg/mLを有する。薬物1は、酸性pKa7.3、T>350℃、推定T約140℃未満、及び推定T/T比1.5より大(K/K)を有する。
【0145】
薬物2は、4−アミノ−1−ベンジル−6−トリフルオロメチル−1,3−ジヒドロ−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−2−オン、又はその製薬学的に許容しうる形態で、その中性形は以下の構造を有する。
【0146】
【化25】

【0147】
薬物2は以下の手順を用いて製造した。
ステップ1:2,4−ジヒドロキシ−6−トリフルオロメチル−ニコチン酸エチルエステルの製造
3−アミノ−4,4,4−トリフルオロクロトン酸エチルエステル(100g/546mmol)をジクロロメタン(600mL)中に溶解するためにピリジン(53mL/660mmol)を加えた。窒素下に置き、氷浴中に吊して5℃に冷却した。エチルマロニルクロリドを、温度が20℃を超えないように約1時間かけて1滴ずつ加えた。得られた淡褐色の溶液を5℃で3時間撹拌し、一晩かけて室温に温まらせ、暗緑色溶液を得た。1MのHCl(水溶液)(200mL)、次いで飽和NaHCO(水溶液)(250mL)で洗浄した。水性の洗液を更なるジクロロメタン(2×250mL)で順次再抽出した。有機物を合わせ、NaSO上で乾燥させ、ろ過し濃縮して暗緑色油の粗3−(2−エトキシカルボニル−アセチルアミノ)−4,4,4−トリフルオロ−ブタ−2−エン酸エチルエステル(175g)を得た。粗生成物の一部(120g)をエタノール(300mL)に溶解し、窒素下に置いた。カリウムtert−ブトキシド(54g/480mmol)を、温度が60℃を超えないように数回に分けて加え、紫色溶液を得た。70℃で3時間加熱した。エタノール(100mL)を加えて粘度を下げ、さらに1時間80℃で加熱した。放冷し、真空下で濃縮して赤色固体を得た。水(500mL)に溶解し、クエン酸(180g)を加えて沈殿を起こした。酢酸エチル(600mL)を加えた。分液漏斗に注ぎ入れ、水性相を流し出した。多くの非溶解固体を含有する有機層をろ過し、標記化合物(46.5g)を白色固体として得た。有機ろ液の濃縮とメタノールによる粉砕で、2,4−ジヒドロキシ−6−トリフルオロメチル−ニコチン酸エチルエステル(15.3g)を白色固体として得た。
【0148】
ステップ2:6−トリフルオロメチル−ピリジン−2,4−ジオールの製造
2,4−ジヒドロキシ−6−トリフルオロメチル−ニコチン酸エチルエステル(62g/247mmol)を30分かけて少しずつ6MのHCl(水溶液)(620mL)に還流下で加えた。激しく撹拌しながら一晩100℃に加熱し、完全溶液を得た。放冷し、真空下で濃縮して白色固体を得た。水(250mL)中でスラリー化し、濃アンモニアでpH7に調整し、重い白色懸濁液を得た。ろ過により固体を回収し、新鮮水ですすぎ、乾燥させて6−トリフルオロメチル−ピリジン−2,4−ジオール(44.0g)を白色固体として得た。
【0149】
ステップ3:3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−2,4−ジオールの製造
6−トリフルオロメチル−ピリジン−2,4−ジオール(56g、310mmol)を3〜5gずつ濃硫酸(140mL)に撹拌しながら加え、淡褐色溶液を得た。添加中、温度は〜50℃に上がった。硝酸(21.1mL、328mmol、70%HNO d=1.4g/ml)を、反応温度が45〜50℃に維持されるような速度で1滴ずつ添加した。これにおよそ90分を要した。すべての硝酸の添加が終わったら反応を3時間かけて周囲温度に放冷した。撹拌しながら氷/水(〜1.3kg)に注ぐと数分後淡黄色の沈殿物が形成された。これをろ過して酢酸エチルに溶解し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、ろ過し蒸発させた。物質の第二の収穫は酢酸エチルによる水性ろ液の抽出によって得られた。バッチ分を合わせ、酢酸エチル/n−ヘプタンからの結晶化により精製し、3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−2,4−ジオールを‘ふわふわの’白色固体として得た(49.5g、収率71%)。
【0150】
ステップ4:4−クロロ−3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−2−オールの製造
3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−2,4−ジオール(5.8g、26mmol)をフェニルホスホン酸ジクロリド(30mL)中、100℃で19時間加熱した。冷却し、氷(60g)上に注ぎ、酢酸エチル(3×50mL)で抽出した。合わせた有機抽出物を炭酸水素ナトリウム水溶液(10%w/v)で洗液が塩基性(pH〜8)にとどまるまで洗浄した。次に、深黄色の有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、ろ過し、蒸発させて黄色ゴムを得た。このゴムをジクロロメタンで粉砕して黄色固体を得た。これをろ過し乾燥させた(4.65g)。該固体を水(25mL)に溶解し、2N塩酸(7.5mL)で酸性化して粘稠性の白色沈殿物を得た。これをろ過して水洗した。該沈殿物を酢酸エチルに溶解し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、ろ過し蒸発させて4−クロロ−3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−2−オールを白色固体として得た(3.75g)。
【0151】
ステップ5:4−ベンジルアミノ−3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−2−オールの製造
4−クロロ−3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−2−オール(65.1g、268mmol)をテトラヒドロフラン(350mL)に溶解し、N下室温で撹拌した。テトラヒドロフラン(50mL)中ベンジルアミン(86.3g、805mmol)を30分かけて1滴ずつ加え、明黄色溶液を得た。該反応を50℃の油浴中で18時間加熱した(この反応の間に固体が形成された)。周囲温度に冷却し、反応混合物をジエチルエーテル(200mL)で希釈し、固体(ベンジルアミンヒドロクロリド)をろ過した。ろ液を減圧下で蒸発させて嵩を減らし、粘稠性の黄色スラリーを得た。ジエチルエーテル(300mL)を加え、黄色固体をろ過し、フィルタパッド上で乾燥させてベンジルアミン塩を得た(96.5g)。所望の生成物は、該固体を2N HCl水溶液とジクロロメタン間で分配することによって遊離させ、酢酸エチル/n−ペンタンから結晶化して4−ベンジルアミノ−3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−2−オールを淡黄色固体として得た(61.7g、収率73.4%)。
【0152】
ステップ6:ベンジル−(2−クロロ−3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−4−イル)−アミンの製造
4−ベンジルアミノ−3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−2−オール(61.7g、197mmol)をフェニルホスホン酸ジクロリド(180mL)に加え、油浴中、N下で一晩100℃に加熱した。出発材料は加熱により溶解し、淡黄色溶液となった。冷却した反応混合物を氷水(氷600g+水100mL)上でクエンチングし、淡黄色固体を得た。ろ過し、固体を水でよく洗った。該固体を酢酸エチル(600mL)に溶解し、炭酸水素ナトリウム水溶液(10%w/v)で、更なる泡立ちが無くなり水性洗液のpHが塩基性になるまで洗浄した。有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、ろ過し蒸発させて汚い黄色固体を得た。該固体をジエチルエーテルに溶解し、これにn−ヘキサンを溶液が曇るまで加えた。数分以内に粘稠性の綿状固体が形成された。これをろ過し、n−ヘキサンで洗浄し、乾燥させてベンジル−(2−クロロ−3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−4−イル)−アミンを得た(60.59g、収率92%)。
【0153】
ステップ7:エチル−[2−クロロ−3−ニトロ−6−(トリフルオロメチル)−ピリジン−4−イル]−ベンジルカルバメートの製造
ベンジル−(2−クロロ−3−ニトロ−6−トリフルオロメチル−ピリジン−4−イル)−アミン(57g、170mmol)をテトラヒドロフラン(750mL)に溶解し、N下で撹拌した。氷/食塩浴で−5℃に冷却した。この溶液に、〜30分かけてカリウムt−ブトキシド(21.2g、189mmol)のテトラヒドロフラン(200mL)中溶液を、温度を−5℃〜0℃に維持しながら1滴ずつ加え、深紅の反応混合物を得た。この温度で15分間撹拌した後、エチルクロロホルメート(21.4g、198mmol)のテトラヒドロフラン(100mL)中溶液を、温度を5℃未満に維持しながら1滴ずつ加えた。冷却浴を取り除き、反応混合物を1時間かけて周囲温度に到達させたところ、淡褐色の濁った溶液を得た。溶媒の蒸発後、残渣を飽和食塩水(50mL)とt−ブチルメチルエーテル(300mL)間に分配させた。有機相を水(50mL)、次いで飽和食塩水(50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し蒸発させて褐色油を得た。この油をn−ペンタン(250mL)に溶解し、周囲温度で一晩保存した。析出した暗褐色タールからn−ペンタン溶液をデカントした。溶媒の蒸発によりエチル−[2−クロロ−3−ニトロ−6−(トリフルオロメチル)−ピリジン−4−イル]−ベンジルカルバメートを淡褐色粘稠油として得た(63g、収率91%)。
【0154】
ステップ8:エチル−[2−アミノ−3−ニトロ−6−(トリフルオロメチル)−ピリジン−4−イル]−ベンジルカルバメートの製造
エチル−[2−クロロ−3−ニトロ−6−(トリフルオロメチル)−ピリジン−4−イル]−ベンジルカルバメート(63g、160mmol)をテトラヒドロフラン(300mL)に溶解し、これに濃水酸化アンモニウム溶液(比重0.88、100mL)を加えて2相にした。これを圧力容器に移し、密封して撹拌しながら80℃に2時間加熱した。テトラヒドロフランを蒸発させ、残渣を飽和食塩水とジエチルエーテル間に分配させた。有機抽出物を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、ろ過し蒸発させてエチル−[2−アミノ−3−ニトロ−6−(トリフルオロメチル)−ピリジン−4−イル]−ベンジルカルバメートの粘稠性黄色スラリー(65g)を得た。
【0155】
ステップ9:エチル−[2,3−ジアミノ−6−(トリフルオロメチル)−ピリジン−4−イル]−ベンジルカルバメートの製造
粗エチル−[2−アミノ−3−ニトロ−6−(トリフルオロメチル)−ピリジン−4−イル]−ベンジルカルバメート(65g、170mmol)をエタノール(1000mL)に溶解し、10%PdC(6g)を加えた。40℃及び40psiで1時間の水素化によってニトロ基が完全に還元された。触媒をろ過により除去し、ろ液を減圧下で蒸発乾固して淡褐色半固体が得られた。t−ブチルメチルエーテル(150mL)による粉砕、その後のろ過及び同一溶媒(30mL)での洗浄により、エチル−[2,3−ジアミノ−6−(トリフルオロメチル)−ピリジン−4−イル]−ベンジルカルバメート(30g、収率60%)を白色固体として得た。
【0156】
ステップ10:薬物2の製造
エチル−[2,3−ジアミノ−6−(トリフルオロメチル)−ピリジン−4−イル]−ベンジルカルバメート(35g、99mmol)を氷酢酸(300mL)に室温で溶解した。ろ過してあらゆる不溶性物質を除去した後、透明の黄色ろ液を撹拌しながら80℃に加熱した。10分以内に白色沈殿物が形成され始めた。加熱は合計40分間続けた。反応混合物を周囲温度に放冷し、沈殿物をろ過により回収し、酢酸で洗浄、そして真空下50℃で3時間乾燥させて薬物2(26.4g、収率86%)を白色固体として得た。
【0157】
薬物2の中性形は、pH6.5のMFD溶液中の溶解度が約1μg/mLである。薬物2はアセトン中溶解度<1mg/mL、メタノール中溶解度<1mg/mLを有する。薬物2は、酸性pKa11.3、T>350℃、推定T約140℃未満、及び推定T/T比1.5より大(K/K)を有する。
【0158】
薬物3は、6−(5−クロロ−3−メチル−ベンゾフラン−2−スルホニル)−2H−ピリダジン−3−オン、又はその製薬学的に許容しうる形態で、その中性形は以下の構造を有する。
【0159】
【化26】

【0160】
薬物3は、米国特許第6,579,879号(その開示内容は引用によって本明細書に援用する)に記載の手順を用い、標準の有機合成技術によって合成できる。
薬物3の中性形は、pH6.5のリン酸緩衝生理食塩水中の溶解度1μg/mL未満、25℃のメタノール中溶解度約1.5mg/mL、25℃のアセトン中溶解度約4.7mg/mL、及び25℃のTHF中溶解度約12mg/mLを有する。薬物3は、酸性pKa 6.9、T 258℃、T 74℃、及びT/T比 1.53(K/K)を有する。
【0161】
実施例1及び2
薬物1とHPMC(E3 Prem LV,Methocel(登録商標),ミシガン州ミッドランドのDow Chemical Companyより入手)の固体スプレー乾燥分散体を以下のようにして製造した。実施例1の固体分散体については、1.98gの水、7.92gのメタノール、及び140μLの1M KOH(5.5mgのカリウムカチオン含有)を含有するスプレー溶液を形成し、これに25mgの結晶質中性形の薬物1を加えた。次に75mgのHPMCを溶液に加え、該溶液を5分間撹拌し、2分間超音波処理して、すべての固体材料を溶媒に効果的に溶解させた。実施例2の固体分散体については、4.95gの水、19.8gのメタノール、及び110μLの1M KOH(4.3mgのカリウムカチオン含有)を含有するスプレー溶液を形成し、これに25mgの結晶質中性形の薬物1を加えた。次に225mgのHPMCを溶液に加え、該溶液を5分間撹拌し、2分間超音波処理した。
【0162】
別の実験で、各溶液を、直径11cmのステンレススチールチャンバからなる小規模スプレー乾燥装置に、Cole Parmer 74900シリーズの速度制御シリンジポンプ経由で0.65ml/分の速度で汲み上げた。薬物/ポリマー溶液を、2流体ノズル(イリノイ州ホイートンのSpraying Systems Co.,Model No.SU1A)から0.55標準ft/分の流速の窒素熱流を用いて噴霧化した。加熱ガスはチャンバに入口温度85℃で流入し、出口温度22℃で排出された。得られた固体分散体をろ紙上に回収し、真空下で乾燥させ、デシケータ中に保存した。実施例1の分散体は、23.7重量%の薬物1、5.2重量%のカリウムカチオン、及び71.1重量%のHPMCを含有し、実施例2の分散体は、9.8重量%の薬物1、1.7重量%のカリウムカチオン、及び88.5重量%のHPMCを含有していた。
【0163】
インビトロの溶解試験
これらの試験は、本発明の固体分散体がインビトロで溶解薬物1の濃度を増大することを示すものである。これらの試験のために懸濁液を形成した。すなわち、各懸濁液中に7.2mgA/mLの薬物1が含有されるよう、それに足る量の実施例1又は実施例2の分散体を0.5重量%のMethocel Type Aを含有する水に加えた。次に各懸濁液の50μLサンプルをマイクロ遠心管に加え、これを2重に複製した。この管を37℃の温度管理チャンバに入れ、1.75mLのMFD溶液をそれぞれの管に加えた。各管の溶解薬物1の濃度は、薬物1がすべて溶解した場合、200μgA/mLになったはずである。渦流ミキサを用いてサンプルを約60秒間迅速に混合した。サンプルを13,000G、37℃で1分間遠心した。次に得られた上清溶液を採取し、メタノールで1:6(体積比)に希釈し、次いで高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。HPLC分析は、Zorbax RX−C18 4.6×75mm 3.5μMカラムを用い、移動相63/37 v/vの0.1重量%トリフルオロ酢酸水溶液/アセトニトリルで実施し、UV吸光度は220nmで測定した。それぞれの管の内容物を渦流ミキサで混合し、次のサンプルを取るまで37℃で静かに放置した。サンプルは、4、10、20、40、90、及び1200分時点で収集した。
【0164】
対照1
対照1は、結晶質中性形の薬物1の0.5重量% Methocel A中7.2mgA/mL懸濁液からなり、薬物1がすべて溶解した場合、溶解薬物1の濃度が200μgA/mLになるよう、それに足る量の材料を加えた。
【0165】
これらのサンプルで得られた溶解薬物1の濃度を用いて、試験の最初の90分間の溶液中の薬物1の最大溶解濃度(MDC90)、最初の90分間の濃度対時間曲線下面積(“AUC90”)、及び1200分時点の薬物1の濃度(“C1200”)を決定した。結果を表1に示す。
【0166】
【表1】

【0167】
データからわかるように、本発明の固体分散体は、溶解薬物1の濃度を、結晶質薬物1単独で提供されるものよりも増大した。実施例1の固体分散体は、結晶質対照によって提供されるものの23倍のMDC90値と、結晶質対照によって提供されるものの20倍を超えるAUC90値を提供した。実施例2の固体分散体は、結晶質対照によって提供されるものの24倍のMDC90値と、結晶質対照によって提供されるものの19倍を超えるAUC90値を提供した。
【0168】
実施例3
薬物1とHPMCを含有する固体分散体を以下のようにして製造した。最初に、6765gのメタノール、1197gの水、41mLの5M水酸化カリウム(8gのカリウムカチオン含有)、及び40gの結晶質中性形の薬物1を、オーバーヘッド撹拌機を備えたステンレススチール製のタンクに量り入れた。該溶液を一晩撹拌し、薬物を完全に溶解した。次に111.98gのHPMC(E3 Prem)をこの混合物に直接加え、該混合物を撹拌してHPMCを溶解し、スプレー溶液を形成した。
【0169】
該スプレー溶液を高圧ポンプを用いて圧力渦巻アトマイザ(pressure-swirl atomizer)(Schlick #1.5 圧力ノズル、ドイツ・ウンタージーマウのDusen Schlick GmbH製)を備えたスプレー乾燥器(Liquid−Feed Process Vessel付きNiro XP型Portable Spray−Drier(“PSD−1”))に汲み上げた。PSD−1に9インチ及び4インチのチャンバ延長部を備え付けた。チャンバ延長部は、乾燥器の縦の長さを増大するためにスプレー乾燥器に追加された。追加の長さによって乾燥器内でのレジデンスタイムが長くなるため、生成物はスプレー乾燥器の角の部分に到達する前に乾燥可能となった。Bran+Lubbe高圧ポンプを用いて液体をノズルに送達した。スプレー溶液は485psig(34atm)の圧力で約40g/分でスプレー乾燥器に汲み上げられた。乾燥ガス(窒素)は乾燥チャンバに入口温度117℃及び平均流速約1775g/分で送達された。蒸発溶媒と乾燥ガスはスプレー乾燥器から約60℃の温度で排出された。得られた固体分散体をサイクロンに回収した。分散体は,25重量%Aの薬物1、5重量%のカリウムカチオン、及び70重量%のHPMCを含有していた。
【0170】
上記手順を用いて形成された固体分散体は、真空デシケータ中で乾燥させてから更なる使用に供した。
PXRD分析
実施例3の固体分散体のサンプルを、Bruker AXS(ウィスコンシン州マディソン)のD8 Advance回折計を用い、粉末X線回折(PXRD)によって分析した。サンプル(約100mg)をLuciteサンプルカップに詰めた。このサンプルカップはカップ底部としてSi(511)プレートが取り付けられているのでバックグラウンド信号を生じない。サンプルをφ面で30rpmの速度で回転させ、結晶配向の影響を最小限にした。X線源(KCua λ=1.54Å)は45kVの電圧及び40mAの電流で運転した。サンプルのデータは、連続検出器スキャンモードで、スキャン速度1.8秒/ステップ及びステップサイズ0.04°/ステップで27分間にわたって収集した。回折図は2θの範囲4°〜40°にわたって収集した。この分析結果(図1に示す)は、アモルファスのハロー(パターン)のみを示しており、分散体中の薬物1がほぼ完全に非晶質であることを示していた。
【0171】
実施例4
薬物2とヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC E3 Prem LV,Methocel(登録商標),ミシガン州ミッドランドのDow Chemical Companyより入手)の固体分散体を以下のようにして製造した。まず、2.97gの水、16.83gのメタノール、及び250μLの1M KOH(9.8mgのカリウムカチオン含有)を含有するスプレー溶液を形成し、これに51.27mgの結晶質中性形の薬物2を加えた。次に140.4mgのHPMCを溶液に加え、該溶液を5分間撹拌し、2分間超音波処理した。該溶液を、実施例1に記載の小規模スプレー乾燥装置に、Cole Parmer 74900シリーズの速度制御シリンジポンプ経由で1.1mL/分の速度で汲み上げた。該溶液を2流体ノズル(イリノイ州ホイートンのSpraying Systems Co.,Model No.SU1A)から1標準ft/分の流速の窒素熱流を用いて噴霧化した。加熱ガスはチャンバに入口温度85℃で流入し、出口温度22℃で排出された。得られた固体分散体をろ紙上に回収し、真空下で乾燥させ、デシケータ中に保存した。固体分散体は、25.4重量%の薬物2、4.9重量%のカリウムカチオン、及び69.7重量%のHPMCを含有していた。収率は約60%であった。
【0172】
PXRD分析
実施例4の固体分散体のサンプルを、実施例1に記載のように、Bruker AXS(ウィスコンシン州マディソン)のD8 Advance回折計を用い、粉末X線回折(PXRD)によって調べた。この分析結果(図2に示す)は、アモルファスのハローのみを示しており、固体分散体中の薬物2がほぼ完全に非晶質であることを示していた。
【0173】
インビトロの溶解試験
これらの試験は、本発明の固体分散体がインビトロで溶解薬物2の濃度を増大することを示すものである。この試験のために懸濁液を形成した。すなわち、懸濁液中に7.2mgA/mLの薬物2が含有されるよう、それに足る量の実施例4の分散体を0.5重量%のMethocel Type Aを含有する水に加えた。次に、この懸濁液の50μLサンプルをマイクロ遠心管に加え、これを2重に複製した。この管を37℃の温度管理チャンバに入れ、1.75mLのMFD溶液をそれぞれの管に加えた。各管の溶解薬物2の濃度は、薬物2がすべて溶解した場合、200μgA/mLになったはずである。渦流ミキサを用いてサンプルを約60秒間迅速に混合した。サンプルを13,000G、37℃で1分間遠心した。次に得られた上清溶液を採取し、メタノールで1:6(体積比)に希釈し、次いで高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。HPLC分析は、Agilent RX−C18 4.6×75mm 3.5μMカラムを用い、移動相65/35 v/vの0.1重量%トリフルオロ酢酸/アセトニトリルで実施し、UV吸光度は220nmで測定した。各管の内容物を渦流ミキサで混合し、次のサンプルを取るまで37℃で静かに放置した。サンプルは、4、10、20、40、90、及び1200分時点で収集した。
【0174】
対照2
対照2は、結晶質中性形の薬物2の0.5重量% Methocel A中7.2mgA/mL懸濁液からなり、薬物2がすべて溶解した場合、溶解薬物2の濃度が200μgA/mLになるよう、それに足る量の材料を加えた。
【0175】
これらのサンプルで得られた溶解薬物2の濃度を用いて、試験の最初の90分間の溶液中の薬物2の最大溶解濃度(MDC90)、最初の90分間の濃度対時間曲線下面積(“AUC90”)、及び1200分時点の薬物2の濃度(“C1200”)を決定した。結果を表2に示す。
【0176】
【表2】

【0177】
データからわかるように、本発明の固体分散体は、溶解薬物2の濃度を、結晶質薬物2単独で提供されるものよりも増大した。MDC90は対照の31.7倍、AUC90は対照の34.1倍であった。
【0178】
化学安定性
これらの試験は、分散体の老化を促進するような管理温度及び湿度条件下での保存に伴う固体分散体中の薬物2の化学安定性を示している。実施例4の固体分散体中の薬物2の効力を、50℃/75%相対湿度(RH)で1日間保存する前及び後に測定した。
【0179】
効力を測定するため、0.6mgの固体分散体をメスフラスコに正確に秤量し、10mLのメタノールを加えた。該フラスコを超音波処理して薬物2を溶解し、HPLCを用いて分析した。結果を表3に示す。
【0180】
【表3】

【0181】
上記結果は、実施例4の分散体中の薬物2がこれらの促進保存条件下で安定であることを示している。
実施例5
薬物3とHPMC(E3 Prem,ミシガン州ミッドランドのDow Chemical Companyより入手)を含有する固体分散体を以下のようにして製造した。まず、3306gのメタノール、555.7gの水、280.9gの1M水酸化カリウム、及び87.0gの結晶質中性形の薬物3をフラスコに秤量した。該溶液を約45分間撹拌して薬物3を完全に溶解した。次に120.0gのHPMCをこの混合物に直接加え、該混合物をさらに1時間撹拌してHPMCを溶解させ、スプレー溶液を形成した。
【0182】
該スプレー溶液を下記以外は実施例3に概説した手順を用いてスプレー乾燥させた。アトマイザはSchlick #2.5 圧力ノズルで、スプレー溶液は126psig(9.6atm)の圧力で約55g/分でスプレー乾燥器に汲み上げられた。乾燥ガス(窒素)は入口温度115℃で拡散プレートを通じて送達された。蒸発溶媒と乾燥ガスはスプレー乾燥器から55℃の温度で排出された。得られた固体分散体をサイクロンに回収した。分散体は、39.9重量%Aの薬物3(“重量%A”は、分子量324.7g/molを有する活性な中性形薬物3の分散体の重量パーセントを意味する)、5重量%のカリウムカチオン、及び55.1重量%のHPMCを含有していた。
【0183】
上記手順を用いて形成された固体分散体を、Gruenbergシングルパス対流トレイ乾燥器を用い、30℃/15%相対湿度(RH)で最低5時間運転して後乾燥させた。乾燥後、該分散体は保存の前に21℃(周囲)/40%RHで平衡化した。
【0184】
PXRD分析
実施例5の固体分散体を実施例3に概説した手順を用いてPXRDによって分析した。この分析結果(図3に示す)は、アモルファスのハローのみを示しており、分散体中の薬物3がほぼ完全に非晶質であることを示していた。
【0185】
インビトロ溶解試験
結晶質中性形の薬物3(対照3)と比較した実施例5の固体分散体の溶解性能を決定するためにインビトロ溶解試験を実施した。この試験では、全化合物が溶解した場合に薬物3の濃度が200μgA/mLになるよう、それに足る量の材料をマイクロ遠心試験管に加えた。試験は2重に実施した。この管を37℃の温度管理チャンバに入れ、pH6.5及び290mOsm/kgのMFD溶液1.8mLをそれぞれの管に加えた。渦流ミキサを用いてサンプルを約60秒間迅速に混合した。サンプルを13,000G、37℃で1分間遠心した。次に得られた上清溶液を採取し、メタノールで1:6(体積比)に希釈し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。HPLC分析は、Waters Symmetry Cカラムを用いて実施した。移動相は、pH3に調整された45%の20mM KHPO、30%のアセトニトリル、及び25%のメタノールで構成された。UV吸光度は270nmで測定した。各管の内容物を渦流ミキサで混合し、次のサンプルを取るまで37℃で静かに放置した。サンプルは、4、10、20、40、90、及び1200分時点で収集した。
【0186】
同様の試験を対照3についても実施し、全化合物が溶解した場合に薬物3の濃度が200μgA/mLになるよう、それに足る量の材料を加えた。
これらのサンプルで得られた薬物3の濃度を用いて、試験の最初の90分間の薬物3の最大溶解濃度(“MDC90”)及び濃度対時間曲線下面積(“AUC90”)を決定した。結果を表4に示す。
【0187】
【表4】

【0188】
結果は、薬物3の固体分散体は、結晶質中性形の薬物3単独の場合と比べて濃度増強を提供していることを示している。該分散体は対照3によって提供されるものの4.6倍のMDC90、及び対照3によって提供されるものの5.2倍のAUC90を提供した。
【0189】
実施例6及び7
薬物3とHPMCの固体分散体を以下のようにして製造した。実施例6については、結晶質中性形の薬物3、HPMC、及びn−メチルグルカミン(40/36/24 w/w/w)をメタノールに溶解してスプレー溶液を形成した。実施例7については、結晶質中性形の薬物3、HPMC、及び水酸化ナトリウム(39/56/5 w/w/w)をメタノールに溶解してスプレー溶液を形成した。溶液をCole Parmer 74900シリーズの速度制御シリンジポンプから1.3ml/分の速度で小規模スプレー乾燥装置に汲み上げた。薬物3/ポリマー溶液を、Spraying Systems Co.の2流体ノズル、Model No.SU1Aから、1標準立方フィート/分(28標準L/分)の流速の窒素熱流を用いて噴霧化した。スプレー溶液は、直径11cmのステンレススチールチャンバに噴霧された。加熱窒素はチャンバに入口温度70℃で流入し、周囲出口温度で排出された。得られた固体分散体をろ紙上に回収し、真空下で乾燥させ、デシケータ中に保存した。
【0190】
実施例8
薬物3とHPMCの固体分散体を以下のようにして製造した。スプレー溶液は、まず0.616mLの1N KOHを12gの5/1(w/w)メタノール/水溶媒に加えることによって形成した。次にこの溶液に200mgの結晶質中性形の薬物3と800mgのHPMCを加え、スプレー溶液を形成した。次いで、この溶液を実施例6〜7に概説した手順を用いて小規模スプレー乾燥装置中でスプレー乾燥することによって固体分散体を形成した。得られた固体分散体は約19.3重量%Aの薬物3を含有していた。
【0191】
実施例8の固体分散体の溶解性能を実施例5に概説した手順を用いて評価した。ただし下記変更を行った。実施例8の分散体の25mgサンプルを、pH6.5のPBS中に溶解した0.5重量%のMethocel Type Aと15mg/mLのHPMCAS−HFを含有する懸濁媒体0.5mL中に懸濁させた。次に、全化合物が溶解した場合に薬物3の濃度が200μgA/mLになるよう、それに足る量のこの懸濁液を1.8mLのMFD溶液に加えた。次に、該溶液を前述のように溶解薬物3の濃度対時間について分析した。この試験の結果を表5にまとめた。この表には結晶質中性形の薬物3(対照3)についての結果も含めた。これらのデータは、実施例8の固体分散体が、対照3によって提供されるものの5.3倍のMDC90、及び対照3によって提供されるものの6.7倍のAUC90を提供したことを示している。
【0192】
【表5】

【0193】
実施例9
カリウム塩形の薬物3を以下のようにして製造した。414mgの結晶質中性形の薬物3のサンプルを125mLフラスコに加え、これに40mLのアセトンを加えた。薬物3を溶解するために該溶液を撹拌しながら熱水浴中で60℃に加熱した。溶解後700μLの2N KOHを該溶液に加えると、カリウム塩形の薬物3の結晶質沈殿物が直ちに形成された。該溶液を室温まで放冷した。沈殿物をろ過により回収し、該沈殿物を数回のアセトンで濯いだ。次に沈殿物を真空デシケータに一晩入れて残留アセトンを除去した。
【0194】
前述の明細書中で使用した用語及び表現は、記述のための用語として使用されており、制限のためのものではない。そしてそのような用語及び表現の使用に、示し記載した特徴又はその一部の等価物を排除する意図はない。本発明の範囲は以下の特許請求の範囲によってのみ定義及び制限されることは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1】実施例3の固体分散体の粉末X線回折(PXRD)の回折図を示す図である。
【図2】実施例4の固体分散体のPXRD回折図を示す図である。
【図3】実施例5の固体分散体のPXRD回折図を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体分散体であって、
(a)水に難溶性のイオン性薬物であって、前記薬物の中性形が、
(i)pH6〜7で1mg/mL未満の水溶液中溶解度、
(ii)20mg/mL未満の揮発性有機溶媒中溶解度、及び
(iii)5を超える酸性pKa値
を有する、水に難溶性のイオン性薬物と;
(b)カチオン種と;
(c)分散ポリマーとを含み、
(d)前記固体分散体中の前記薬物の少なくとも90重量%が非晶質形であり;そして
(e)前記薬物、前記カチオン種、及び前記分散ポリマーが前記固体分散体の少なくとも80重量%を構成する、固体分散体。
【請求項2】
前記薬物がその中性形ではケト/エノール形で存在できる、請求項1に記載の固体分散体。
【請求項3】
前記薬物が6を超える酸性pKa値を有する、請求項1〜2のいずれかに記載の固体分散体。
【請求項4】
前記薬物が、1.4を超える、融点対ガラス転移温度比(K/Kで)を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の固体分散体。
【請求項5】
前記薬物が0.5mg/mL未満の水溶液中溶解度を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の固体分散体。
【請求項6】
前記分散ポリマーが、中性ポリマー、中和されたポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1〜5のいずれかに記載の固体分散体。
【請求項7】
前記分散ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポロキサマー、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースの中和形、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースの中和形、酢酸フタル酸セルロースの中和形、酢酸トリメリット酸セルロースの中和形、カルボキシメチルエチルセルロースの中和形、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1〜6のいずれかに記載の固体分散体。
【請求項8】
前記分散ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項1〜7のいずれかに記載の固体分散体。
【請求項9】
前記カチオン種が、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、アンモニウムのカチオン、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1〜8のいずれかに記載の固体分散体。
【請求項10】
前記分散体が、前記の純粋な薬物及び前記の純粋なポリマーのガラス転移温度とは異なるガラス転移温度を有する、請求項1〜9のいずれかに記載の固体分散体。
【請求項11】
前記薬物が6−アミノ−9−ベンジル−8−オキソ−8,9−ジヒドロ−7H−プリン−2−カルボン酸 シクロプロピルメチル−アミドである、請求項1〜10のいずれかに記載の固体分散体。
【請求項12】
前記薬物が4−アミノ−1−ベンジル−6−トリフルオロメチル−1,3−ジヒドロ−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−2−オンである、請求項1〜10のいずれかに記載の固体分散体。
【請求項13】
前記薬物が6−(5−クロロ−3−メチル−ベンゾフラン−2−スルホニル)−2H−ピリダジン−3−オンである、請求項1〜10のいずれかに記載の固体分散体。
【請求項14】
固体分散体の形成法であって、
(a)水に難溶性のイオン性薬物、分散ポリマー、塩基、及び溶媒を含むスプレー溶液を形成し;
(b)前記薬物の中性形は、
(i)pH6〜7で1mg/mL未満の水溶液中溶解度、
(ii)20mg/mL未満の揮発性有機溶媒中溶解度、及び
(iii)5を超える酸性pKa値
を有し;
(c)前記溶媒を蒸発させて前記固体分散体を形成し、前記固体分散体は前記薬物、カチオン種、及び前記分散ポリマーを含み;
(d)前記固体分散体中の前記薬物の少なくとも90重量%は非晶質形であり;そして
(e)前記薬物、前記カチオン種、及び前記分散ポリマーは前記固体分散体の少なくとも80重量%を構成する
ことを含む方法。
【請求項15】
前記薬物がその中性形ではケト/エノール形で存在できる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記溶媒が、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、これらのいずれか一つと水との混合物、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項14〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒がスプレー乾燥によって除去される、請求項14〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
水溶液中の前記溶解度が0.5mg/mL未満である、請求項14〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記分散ポリマーが、中性ポリマー、中和されたポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項14〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記分散ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポロキサマー、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースの中和形、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースの中和形、酢酸フタル酸セルロースの中和形、酢酸トリメリット酸セルロースの中和形、カルボキシメチルエチルセルロースの中和形、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項14〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記分散ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項14〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記カチオン種が、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、アンモニウムのカチオン、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項14〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記塩基が、水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、酸化物、アミン、タンパク質、アミノ酸、酸の共役塩基、エチレンジアミン四酢酸の塩、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項14〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
固体分散体であって、
(a)薬物6−アミノ−9−ベンジル−8−オキソ−8,9−ジヒドロ−7H−プリン−2−カルボン酸 シクロプロピルメチル−アミドと;
(b)カチオン種と;
(c)分散ポリマーとを含み、
(d)前記固体分散体中の前記薬物の少なくとも90重量%が非晶質形であり;そして
(e)前記薬物、前記カチオン種、及び前記分散ポリマーが前記固体分散体の少なくとも80重量%を構成する、固体分散体。
【請求項25】
固体分散体であって、
(a)薬物4−アミノ−1−ベンジル−6−トリフルオロメチル−1,3−ジヒドロ−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−2−オンと;
(b)カチオン種と;
(c)分散ポリマーとを含み、
(d)前記固体分散体中の前記薬物の少なくとも90重量%が非晶質形であり;そして
(e)前記薬物、前記カチオン種、及び前記分散ポリマーが前記固体分散体の少なくとも80重量%を構成する、固体分散体。
【請求項26】
固体分散体であって、
(a)薬物6−(5−クロロ−3−メチル−ベンゾフラン−2−スルホニル)−2H−ピリダジン−3−オンと;
(b)カチオン種と;
(c)分散ポリマーとを含み、
(d)前記固体分散体中の前記薬物の少なくとも90重量%が非晶質形であり;そして
(e)前記薬物、前記カチオン種、及び前記分散ポリマーが前記固体分散体の少なくとも80重量%を構成する、固体分散体。
【請求項27】
化合物6−(5−クロロ−3−メチル−ベンゾフラン−2−スルホニル)−2H−ピリダジン−3−オンのカリウム塩形。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−100997(P2008−100997A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−266713(P2007−266713)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】