説明

スプール弁

【課題】 排出ポートと先端側容積変動室との間で油圧差が生じない無圧差摺動面に、排出シールランドがリターンスプリングの偏荷重を受けて押し付けられる構造であったため、バネ荷重の増加に伴う偏荷重の増加による摺動性の劣化が懸念される。
【解決手段】 排出シールランド15の外周面に、排出ポート9および先端側容積変動室Aのオイルを無圧差摺動面αの内部へ導くオイル溝23を設けた。リターンスプリング5から偏荷重を受けて排出シールランド15が無圧差摺動面αに押し付けられても、オイル溝23を通じて無圧差摺動面αの内部にオイルが積極的に導かれるため、無圧差摺動面αにおける油膜切れの発生が防がれ、摺動抵抗の増加が抑えられる。このように、無圧差摺動面αにオイル溝23を設けるというシンプルな構造を追加するだけで、偏荷重による摺動性の悪化を防ぐことができ、性能向上および信頼性向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルの切替えや、流量調整、圧力調整を行うスプール弁に関し、排出ポートと容積変動室とを排出シールランドが区画する構造を採用するスプール弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
〔従来の技術〕
従来技術の一例として、排出ポートと容積変動室とを排出シールランドが区画する構造を採用するスプール弁と、このスプール弁を駆動する電磁アクチュエータとを結合してなる電磁油圧制御弁が知られている(例えば、特許文献1参照)。
従来技術の電磁油圧制御弁を、図4を参照して説明する。なお、各名称の符号は、後述する実施例と共通符号としている。
【0003】
図4の電磁油圧制御弁は、自動変速機の油圧制御を行うN/O(ノーマリ・オープン)タイプの三方電磁弁である。具体的に、スプール弁1は、三方弁構造を採用しており、先端側容積変動室Aにはスプール4を開弁方向(入力シールランド14が入力ポート7を開き、排出シールランド15が排出ポート9を閉じる方向:図示右側)へ付勢するリターンスプリング5が配置されている。そして、電磁アクチュエータ2のOFF時には、リターンスプリング5の付勢力によりスプール4が開弁方向(図示右側)に位置して排出シールランド15が排出ポート9を閉塞し、入力ポート7と出力ポート8が連通する。
【0004】
〔従来技術の不具合〕
スプール4は、入力シールランド14、排出シールランド15、F/B(フィードバック)ランド16を備えており、各ランド14〜16はバルブハウジング3(スリーブ等)の内周面において軸方向へ摺動する。
各ランド14〜16とバルブハウジング3との摺動面は、摺動隙間を介してオイルが導かれることで潤滑される。具体的に、入力シールランド14とバルブハウジング3との摺動面、およびF/Bランド16とバルブハウジング3との摺動面には、油圧差によってオイルが導かれて積極的に潤滑される。
しかし、排出シールランド15は、外部に連通する排出ポート9と、先端側ドレンポート11を介して外部に連通する先端側容積変動室Aとを区画シールするものであるため、この区画シール範囲における排出シールランド15とバルブハウジング3の摺動面には油圧差が生じない(あるいは油圧差が生じても油圧差が小さい)。そのため、上記区画シール範囲における排出シールランド15とバルブハウジング3との摺動面には積極的なオイル供給がなされず、結果的に潤滑不足になり易い。
なお、以下では、排出ポート9と先端側容積変動室Aとを区画する排出シールランド15とバルブハウジング3との摺動面(上記区画シール範囲における摺動面)を「無圧差摺動面α」と称して説明する。
【0005】
具体的に、各ランド14〜16の外周面には、環状溝22が形成されており、各ランド14〜16の移動により環状溝22に溜まったオイルを各摺動面に供給して油膜を発生させ、摺動抵抗を低減させることが行われている。しかし、上述したように、無圧差摺動面αには油圧差が生じないため、排出シールランド15の環状溝22へのオイルが積極的に供給されない。この結果、排出シールランド15に環状溝22を設けても、潤滑性の向上が期待できない。
【0006】
特に、図4に示すように、先端側容積変動室Aにリターンスプリング5が配置される構造では、排出シールランド15がリターンスプリング5から偏荷重(径方向に向かう荷重:リターンスプリング5はスプール4を軸方向へ付勢するように設計されるが偏荷重はゼロになることはない)を受ける。これによって、排出シールランド15は、偏荷重を受けて摺動することになって無圧差摺動面αにおいて油膜切れが発生し易くなるとともに、偏荷重によって摺動抵抗が大きくなる。
そこで、無圧差摺動面αには、他のランド14、16の摺動面より大きな潤滑性が求められるが、上述したように無圧差摺動面αには油圧差が生じず、積極的なオイルの供給がなされないため、偏荷重による摺動抵抗の増加を抑えることができず、その結果、スプール4の動きがスムーズでなくなり、応答性の悪化、ヒステリシスの増加、油圧スティックの発生などの不具合が生じてしまう。
【0007】
さらに近年では、自動変速機の変速応答性を高める目的で、電磁アクチュエータ2の駆動力を高める要求があり、それに伴いリターンスプリング5の付勢力(バネ荷重)も大きくなっている。このため、排出シールランド15に掛かる偏荷重がさらに大きくなる傾向にある。
しかし、上述したように無圧差摺動面αには油圧差が生じず、積極的なオイルの供給がなされないため、リターンスプリング5の強化に伴う偏荷重の増加によってさらに油膜切れと、摺動抵抗の増加を招くことになり、応答性の悪化、ヒステリシスの増加、油圧スティックの発生を招いてしまう。
【特許文献1】特開2003−329164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、無圧差摺動面の潤滑性を、シンプルな構造によって高めることのできるスプール弁の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載のスプール弁は、排出ポートのオイルがオイル溝を通じて無圧差摺動面の内部に積極的に導かれる。あるいは、容積変動室のオイルがオイル溝を通じて無圧差摺動面の内部に積極的に導かれる。
このように、無圧差摺動面にオイル溝を設けるというシンプルな構造を追加するだけで、無圧差摺動面の潤滑性が高まり、排出シールランドの摺動抵抗を小さくできる。この結果、スプールの動きをスムーズにすることができ、スプール弁の応答性を向上させることができるとともに、ヒステリシスを減少させることができ、さらには油圧スティックの発生を防ぐことができる。
【0010】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載のスプール弁の容積変動室には、排出シールランドが排出ポートを閉じる方向へスプールを付勢するリターンスプリングが配置されている。これにより、排出シールランドがリターンスプリングから偏荷重を受けて、排出シールランドが無圧差摺動面に押し付けられる力が発生する。
しかるに、無圧差摺動面の内部には、オイル溝により積極的にオイルが導かれるため、排出シールランドが偏荷重を受けて摺動しても無圧差摺動面における油膜切れの発生が防がれ、偏荷重による摺動抵抗の増加が抑えられる。
特に、リターンスプリングのバネ荷重の増加に伴う偏荷重の増加を受けても、オイル溝によって無圧差摺動面にオイルが積極的に導かれることで、無圧差摺動面における油膜切れの発生が防がれ、偏荷重による摺動抵抗の増加を抑えることができる。
このように、リターンスプリングの偏荷重が与えられても、無圧差摺動面における摺動抵抗の増加を抑えることができ、スプールの動きをスムーズにすることができる。即ち、スプール弁の応答性を向上させることができるとともに、ヒステリシスを減少させることができ、さらには油圧スティックの発生を防ぐことができる。
【0011】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載のスプール弁は、リターンスプリングの付勢力により排出ポートを閉じるN/Oタイプの三方弁である。
これにより、N/Oタイプの三方弁を成すスプール弁において、無圧差摺動面における摺動抵抗の増加を抑えることができ、スプールの動きをスムーズにすることができる。
【0012】
〔請求項4の手段〕
請求項4に記載のスプール弁の排出シールランドは、無圧差摺動面の移動範囲における外周面に全周に亘る環状溝を備え、オイル溝が環状溝と連通する。
これにより、オイル溝により導かれたオイルが無圧差摺動面を摺動する排出シールランドの全周に供給されることになり、無圧差摺動面における摺動抵抗の増加をより確実に抑えることができる。
【0013】
〔請求項5の手段〕
請求項5に記載のスプール弁におけるオイル溝は、バルブハウジングの内周面または排出シールランドの外周面の少なくとも一方に形成される。
【0014】
〔請求項6の手段〕
請求項6に記載のスプール弁におけるオイル溝は、螺旋状に形成される。
これにより、排出シールランドに例え環状溝が設けられていなくても、無圧差摺動面を摺動する排出シールランドの全周にオイルが供給されることになり、無圧差摺動面における摺動抵抗の増加をより確実に抑えることができる。
【0015】
〔請求項7の手段〕
請求項7に記載のスプール弁におけるオイル溝は、排出ポートと容積変動室とを連通する。
これにより、排出ポートのオイル、または容積変動室のオイルの少なくとも一方が、オイル溝を通じて無圧差摺動面の内部に積極的に導かれることになり、無圧差摺動面における摺動抵抗の増加をより確実に抑えることができる。
【0016】
〔請求項8の手段〕
請求項8に記載のスプール弁のスプールは、磁力を発生するコイル、軸方向へ摺動自在に支持されたプランジャ、コイルの発生する磁力によりプランジャを軸方向に磁気吸引する吸引ステータを備える電磁アクチュエータによって駆動される。
これにより、電磁スプール弁において、無圧差摺動面における摺動抵抗の増加を抑えることができ、スプールの動きをスムーズにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
最良の形態のスプール弁は、外部にオイルを排出するための排出ポートが形成されたバルブハウジングと、このバルブハウジングの内周面において軸方向へ摺動自在に支持され、排出ポートの開閉を行う円柱形状を呈した排出シールランドを有したスプールとを備え、このスプールは、アクチュエータにより直接、あるいはスプール弁の内部の油圧室に与えられる油圧によって駆動される。
このスプール弁は、バルブハウジング内に形成されて外部と呼吸路を介して連通する容積変動室と、排出ポートとを、排出シールランドが区画するものであり、排出ポートと容積変動室とを区画する無圧差摺動面は、排出ポートのオイルを無圧差摺動面の内部に導く、あるいは容積変動室のオイルを無圧差摺動面の内部に導くオイル溝を備える。
【実施例1】
【0018】
自動変速機の油圧制御装置に搭載される電磁油圧制御弁に、本発明を適用した実施例1を、図1を参照して説明する。
先ず、油圧制御装置の要部を説明する。
自動変速機は、車両走行用の出力を発生するエンジンの出力回転比の変更、回転方向の変更、トルクコンバータのロックアップ、車種に応じて2輪と4輪の切替等を行うものであり、これらの切替を行うために複数の摩擦係合装置(油圧クラッチ、油圧ブレーキ等)を搭載するとともに、各摩擦係合装置の係脱を車両走行状態(乗員の運転状況を含む)に応じてコントロールする油圧制御装置を搭載する。
【0019】
各摩擦係合装置は、摩擦係合部(多板等)と、この摩擦係合部の係脱を行う油圧アクチュエータとから構成されるものであり、油圧制御装置は、各油圧アクチュエータの供給油圧を制御するために複数の油圧制御弁を搭載する。
ここで、油圧制御弁は、調圧弁と電磁アクチュエータを組み合わせた1つの電磁油圧制御弁によって油圧アクチュエータの供給油圧を制御するダイレクト制御タイプと、メイン調圧弁と、メイン調圧弁をパイロットバルブ(メイン調圧弁を油圧駆動する電磁油圧制御弁)で制御するパイロット制御タイプとがある。以下では、説明のための一例としてダイレクト制御タイプに本発明を適用する例を示すが、本発明をパイロットバルブ(ダイレクト制御タイプの電磁油圧制御弁と基本構造が同じタイプのもの)に適用するものであっても良い。
【0020】
実施例1に示す電磁油圧制御弁は、調圧弁の機能を果たすスプール弁1と、電磁アクチュエータ2とを組み合わせたものであり、通電停止時に出力油圧が最大となるN/Oタイプである。
スプール弁1は、バルブハウジング3(筒状のスリーブ、あるいは油圧サーキットを形成するサーキットハウジング)と、油圧ポートの切替えを行うスプール4と、スプール4を開弁方向(図示右側)へ付勢するリターンスプリング5とを備える。
電磁アクチュエータ2は、図示しない電子制御装置(AT−ECU)から与えられる駆動電流(通電量)に応じてスプール4に閉弁方向(図示左側)の軸力を与える。
【0021】
バルブハウジング3には、油圧サーキットを形成するサーキットハウジングである場合と、サーキットハウジング内に挿入される略円筒形状を呈するスリーブである場合とがあり、この実施例では、バルブハウジング3がサーキットハウジングに挿入される独立したスリーブとして設けられる例を示すが、バルブハウジング3がサーキットハウジングによって設けられるものであっても良い。
【0022】
バルブハウジング3には、スプール4を軸方向へ摺動自在に支持する挿通穴6、オイルポンプ(図示しない油圧発生手段)から油路等を介してオイルの供給を受ける入力ポート7、摩擦係合装置(具体的には、油圧アクチュエータの油圧サーボ室)に油路等を介して連通する出力ポート8、低圧側(オイルパン内)に連通する排出ポート9が形成されている。
ここで、バルブハウジング3の内部両端には、スプール4の移動により容積が変動する容積変動室が形成され、図1左側(反電磁アクチュエータ2側)の容積変動室を先端側容積変動室Aと称し、図1右側(電磁アクチュエータ2側)の容積変動室を後端側容積変動室Bと称して説明する。
先端側容積変動室Aは、後述する調整ネジ21の中心部に形成された先端側ドレンポート11を介して低圧側(オイルパン内)に連通し、後端側容積変動室Bはバルブハウジング3に形成された後端側ドレンポート12を介して低圧側(オイルパン内)に連通する。
【0023】
入力ポート7、出力ポート8、排出ポート9、後端側ドレンポート12等のオイルポートは、バルブハウジング3の側面に形成されており、図1左側から右側に向けて、排出ポート9、出力ポート8、入力ポート7、F/B(フィードバック)ポート13、後端側ドレンポート12が形成されている。ここで、F/Bポート13は、出力ポート8と連通して、出力圧に応じたF/B油圧をスプール4に発生させるものである。なお、この実施例1では、先端側ドレンポート11を後述する調整ネジ21の中心に形成する例を示すが、先端側ドレンポート11をバルブハウジング3の側面に形成するものであっても良い。
【0024】
スプール4は、挿通穴6内において軸方向へ摺動自在に支持されるものであり、入力ポート7の開度調整を行う入力シールランド14、排出ポート9の開度調整を行う排出シールランド15、および入力シールランド14より小径のF/Bランド16を有する。そして、入力シールランド14と排出シールランド15の間に分配室17を形成し、入力シールランド14とF/Bランド16の間にF/B室18を形成する。
【0025】
排出シールランド15は、排出ポート9の開閉を行う他に、排出ポート9(具体的には、バルブハウジング3内において排出ポート9と連通する環状空間)と先端側容積変動室Aの間を区画シールするものであり、排出ポート9と先端側容積変動室Aとを区画する排出シールランド15とバルブハウジング3との摺動面が、この実施例1における無圧差摺動面αである。
一方、F/Bランド16は、F/B室18と後端側容積変動室Bの間を区画シールするものである。
【0026】
F/Bランド16のランド径は、入力シールランド14のランド径より小径に設けられている。このため、F/B室18に印加される油圧(出力圧)が大きくなるに従って入力シールランド14とF/Bランド16のランド差による差圧により、スプール4にはリターンスプリング5のバネ荷重に抗する軸力(図1左向きの力)が発生する。これによって、スプール4の変位が安定し、入力圧の変動により出力圧が変動するのを防ぐことができる。
【0027】
リターンスプリング5は、スプール4を開弁側(入力側シール長が短くなって出力圧が高くなる側:この実施例では図1右側)に付勢する筒状に螺旋形成された圧縮コイルスプリングである。
バルブハウジング3の図1左端部には、調整ネジ21が螺合されており、この調整ネジ21とスプール4との間の先端側容積変動室A(バネ室)にリターンスプリング5が圧縮された状態で配置され、調整ネジ21の螺合量(ねじ込み量)によりリターンスプリング5による「バネ開弁力(バネ荷重)」が調整できるようになっている。
なお、スプール4は、リターンスプリング5による「バネ開弁力」と、F/B室18によって生じる「F/B閉弁力」と、電磁アクチュエータ2による「駆動閉弁力」とが釣り合う位置で静止可能なものである。
【0028】
電磁アクチュエータ2は、通電量に応じた起磁力により、スプール4を直接駆動して、スプール4を閉弁方向へ変位させる駆動手段であり、通電により起磁力を発生するコイル、コイルの磁束ループを形成する固定磁気回路(ステータおよびヨーク)、および磁力によってスプール4に閉弁方向の変位力を与えるプランジャ(ムービングコア)等よりなる。
この電磁アクチュエータ2は、図示しない電子制御装置(AT−ECU)によって制御される。この電子制御装置は、デューティ比制御によって電磁アクチュエータ2へ与える駆動電流を制御するものであり、コイルへの通電量を制御することによって、リターンスプリング5の「バネ開弁力」およびF/B室18による「F/B閉弁力」に抗する「駆動閉弁力」をスプール4に与え、スプール4の軸方向位置を変位させることで、出力ポート8の出力油圧をコントロールする。
【0029】
次に、実施例1の特徴技術を説明する。
各ランド14〜16とバルブハウジング3との摺動面は、摺動隙間を介してオイルが導かれることで潤滑される。具体的に、この実施例1では、各ランド14〜16の外周面に環状溝22が形成されており、各ランド14〜16の移動により環状溝22のオイルが各摺動面に供給されて油膜を形成させ、摺動抵抗が低減するように設けられている。
【0030】
ここで、入力シールランド14とバルブハウジング3との摺動面、およびF/Bランド16とバルブハウジング3との摺動面には、油圧差によってオイルが導かれて積極的に潤滑される。
しかし、排出シールランド15は、オイルパン内に連通する排出ポート9と、オイルパン内に連通する先端側容積変動室Aとを区画するものであるため、無圧差摺動面αには油圧差が生じない(あるいは油圧差が生じても油圧差が小さい)。そのため、無圧差摺動面αには積極的なオイル供給がなされず、結果的に潤滑不足になり易い。
特に、この実施例1では、先端側容積変動室A内にリターンスプリング5が配置され、排出シールランド15がリターンスプリング5から偏荷重を受け、排出シールランド15が偏荷重によってバルブハウジング3に押し付けられて摺動するため、無圧差摺動面αにおいて油膜切れが発生し易くなるとともに、偏荷重によって摺動抵抗が大きくなる。
【0031】
上記の不具合を解決するため、この実施例1の無圧差摺動面α(排出ポート9と先端側容積変動室Aとを区画する排出シールランド15とバルブハウジング3との摺動面)には、排出ポート9のオイルを無圧差摺動面αの軸方向の内部に導くことができ、且つ先端側容積変動室Aのオイルを無圧差摺動面αの軸方向の内部に導くことができるオイル溝23が設けられている。
具体的に、この実施例1のオイル溝23は、排出シールランド15の外周面に形成された軸方向に延びる1つまたは複数(コスト的な制約がなければ多い方が好ましい)の溝であり、排出シールランド15の摺動範囲において常に排出ポート9(具体的には、バルブハウジング3内において排出ポート9と連通する環状空間)と先端側容積変動室Aとを連通するように設けられ、排出シールランド15に形成された環状溝22とも連通する。
【0032】
オイル溝23は、排出ポート9のオイルや先端側容積変動室Aのオイルを無圧差摺動面αに導くことができる断面形状や断面積であれば良く、オイル溝23の数、断面形状、断面積は制約を受けない。具体的に、排出ポート9と先端側容積変動室Aは、ともにオイルパン内に通じる低圧空間であるため、オイル溝23によって排出ポート9と先端側容積変動室Aとの連通度合が大きくなっても問題がない。
しかし、出力ポート8(具体的には分配室17)と排出ポート9とが、オイル溝23を介して連通しないようにオイル溝23を形成する必要がある。このため、オイル溝23は、排出シールランド15の図示右側には形成されないものであり、排出シールランド15の軸方向の中間部から図示左端まで形成されている。
【0033】
この実施例1における電磁油圧制御弁は、上述したように、排出シールランド15の外周面に、排出ポート9のオイル、および先端側容積変動室Aのオイルを無圧差摺動面αの内部へ導くオイル溝23を備えている。
これにより、排出シールランド15がリターンスプリング5から偏荷重を受けて、排出シールランド15が無圧差摺動面αに押し付けられて摺動しても、排出ポート9のオイルおよび先端側容積変動室Aのオイルが、オイル溝23を通じて無圧差摺動面αの内部に積極的に導かれるため、無圧差摺動面αにおける油膜切れの発生が防がれることになり、偏荷重による摺動抵抗の増加が抑えられる。
【0034】
これにより、電磁油圧制御弁の応答性の向上に伴ってリターンスプリング5のバネ荷重が増加し、その結果、偏荷重が増加して排出シールランド15が強く無圧差摺動面αに押し付けられて摺動しても、オイル溝23によって無圧差摺動面αにオイルが積極的に導かれることで、無圧差摺動面αの潤滑性が高められ、油膜切れの発生が防がれ、偏荷重による摺動抵抗の増加を抑えることができる。
このように、無圧差摺動面αにオイル溝23を設けるというシンプルな構造を追加するだけで、スプール4の動きをスムーズにすることができ、電磁油圧制御弁の応答性を向上させることができるとともに、ヒステリシスを減少させることができ、さらには油圧スティックの発生を防ぐことができる。即ち、電磁油圧制御弁の性能向上および信頼性向上を図ることができる。
【0035】
一方、この実施例1では、オイル溝23を排出シールランド15の外周面に形成したため、オイル溝23の加工を容易に実施することができる。
また、オイル溝23を軸方向に沿って形成したため、オイル溝23が無圧差摺動面αの端部(段差部)に引っ掛かる不具合が生じない。
さらに、オイル溝23の数を増やすことで、偏荷重を受けてバルブハウジング3に押し付けられて摺動する面積を減らすことができ、摺動性の向上が期待できる。
【実施例2】
【0036】
実施例2を図2を参照して説明する。なお、以下の実施例において上記実施例1と同一符号は同一機能物を示すものである。
上記の実施例1では、オイル溝23を排出シールランド15の外周面に形成する例を示した。
これに対し、この実施例2は、オイル溝23をバルブハウジング3の内周面(挿通穴6)に設けたものである。
【0037】
具体的に、この実施例2は、排出ポート9と先端側容積変動室Aとの間のバルブハウジング3の内周面にオイル溝23を形成したものであり、このオイル溝23は実施例1と同様、軸方向に延びる1つまたは複数(コスト的な制約がなければ多い方が好ましい)の溝であり、排出シールランド15の外周面に形成された環状溝22と常に連通する。
このように、バルブハウジング3の内周面にオイル溝23を設けても、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0038】
実施例3を図3を参照して説明する。
上記の実施例1、2では、オイル溝23を軸方向に沿う直線溝とした例を示した。
これに対し、この実施例3は、オイル溝23を螺旋状に形成したものである。
具体的に、この実施例3は、排出シールランド15の外周に螺旋状のオイル溝23を形成したものであり、実施例1と同様、オイル溝23が出力ポート8(具体的には、入力シールランド14と排出シールランド15との間の分配室17)と連通しないように、排出シールランド15の軸方向の中間部から図示左端まで形成されている。
【0039】
このように、オイル溝23を螺旋状に設けても、上記実施例1と同様の効果を得ることができる。
また、オイル溝23を螺旋状に設けることで、無圧差摺動面αを摺動する排出シールランド15の全周にオイルが供給されることになり、排出シールランド15における環状溝22(符号、実施例1参照)を廃止することができる。
【0040】
〔変形例〕
上記の実施例では、N/Oタイプの電磁油圧制御弁に本発明を適用する例を示したが、N/C(ノーマリ・クローズ)タイプの電磁油圧制御弁に本発明を適用しても良い。なお、N/Cタイプの電磁油圧制御弁では、排出ポート9および排出シールランド15は電磁アクチュエータ2側に設けられるものであって、無圧差摺動面αは排出ポート9と後端側容積変動室Bの間の摺動面に形成されるため、排出ポート9と後端側容積変動室Bの間の無圧差摺動面αにオイル溝23を設けるものである。
【0041】
上記の実施例では、オイル溝23が排出ポート9と容積変動室(実施例中、先端側容積変動室A)とを連通する例を示したが、オイル溝23を途中までとして、排出ポート9のオイルを無圧差摺動面αの内部に導く、あるいは容積変動室のオイルを無圧差摺動面αの内部に導くように設けても良い。
上記の実施例では、三方弁構造を採用するスプール弁1の無圧差摺動面αにオイル溝23を設ける例を示したが、開閉弁(二方弁)や四方弁以上の弁構造を採用するスプール弁1の無圧差摺動面αにオイル溝23を設けても良い。
【0042】
上記の実施例では、自動変速機の油圧制御装置に用いられる電磁油圧制御弁に本発明を適用する例を示したが、自動変速機以外の他の電磁油圧制御弁に本発明を適用しても良い。具体的には、カムシャフトの進角を可変するVVT(バルブ可変タイミング装置)のOCV(オイル・フロー・コントロール・バルブ)等に本発明を適用しても良い。
上記の実施例では、スプール弁1を駆動する駆動手段として電磁アクチュエータ2を用いる例を示したが、ピエゾスタック等を用いたピエゾアクチュエータ、油圧、吸気負圧等の流体圧アクチュエータなど、他の駆動手段を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】電磁油圧制御弁におけるスプール弁の断面図である(実施例1)。
【図2】電磁油圧制御弁におけるスプール弁の断面図である(実施例2)。
【図3】電磁油圧制御弁におけるスプール弁の要部断面図である(実施例3)。
【図4】電磁油圧制御弁におけるスプール弁の断面図である(従来例)。
【符号の説明】
【0044】
1 スプール弁
2 電磁アクチュエータ
3 バルブハウジング
4 スプール
5 リターンスプリング
9 排出ポート
15 排出シールランド
22 環状溝
23 オイル溝
A 先端側容積変動室
α 無圧差摺動面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部にオイルを排出するための排出ポートが形成されたバルブハウジングと、
このバルブハウジングの内周面において軸方向へ摺動自在に支持され、前記排出ポートの開閉を行う円柱形状を呈した排出シールランドを有したスプールとを備え、
前記バルブハウジング内に形成されて外部と呼吸路を介して連通する容積変動室と、前記排出ポートとを、前記排出シールランドが区画するスプール弁において、
前記排出ポートと前記容積変動室とを区画する前記排出シールランドと前記バルブハウジングとの無圧差摺動面は、前記排出ポートのオイルを前記無圧差摺動面の内部に導く、あるいは前記容積変動室のオイルを前記無圧差摺動面の内部に導くオイル溝を備えることを特徴とするスプール弁。
【請求項2】
請求項1に記載のスプール弁において、
前記容積変動室には、前記排出シールランドが前記排出ポートを閉じる方向へ前記スプールを付勢するリターンスプリングが配置されていることを特徴とするスプール弁。
【請求項3】
請求項2に記載のスプール弁において、
このスプール弁は、前記リターンスプリングの付勢力により前記排出ポートを閉じるノーマリ・オープン・タイプの三方弁であることを特徴とするスプール弁。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のスプール弁において、
前記排出シールランドは、前記無圧差摺動面の移動範囲における外周面に全周に亘る環状溝を備え、
前記オイル溝は、前記環状溝と連通することを特徴とするスプール弁。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のスプール弁において、
前記オイル溝は、前記バルブハウジングの内周面または前記排出シールランドの外周面の少なくとも一方に形成されることを特徴とするスプール弁。
【請求項6】
請求項5に記載のスプール弁において、
前記オイル溝は、螺旋状に形成されることを特徴とするスプール弁。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載のスプール弁において、
前記オイル溝は、前記排出ポートと前記容積変動室とを連通することを特徴とするスプール弁。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載のスプール弁において、
前記スプールは、磁力を発生するコイル、軸方向へ摺動自在に支持されたプランジャ、前記コイルの発生する磁力により前記プランジャを軸方向に磁気吸引する吸引ステータを備える電磁アクチュエータによって駆動されることを特徴とするスプール弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−115289(P2009−115289A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292007(P2007−292007)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】