説明

スペーサ一体型ガラス基板の製造方法

【課題】 耐熱性・耐薬品性を改善し、被検体の溶液として有機溶剤が使用できるようにする。
【解決手段】 ガラス基板10の表面及びその近傍に、圧力印加によって、使用するエッチング液に対するエッチングレートが他の部分と異なる線状もしくは枠状の領域を設け、次いでこのガラス基板を前記エッチング液により化学的エッチング処理して、ガラス基板の表面に堤防状の凸部16によるスペーサを一体的に形成するスペーサ一体型ガラス基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に堤防状の凸部によるスペーサが一体的に設けられているガラス基板の製造方法に関し、更に詳しく述べると、圧力印加・エッチングプロセスによって、ガラス基板の表面に、該ガラス基板と同じ材料からなるスペーサを線状あるいは枠状に一体的に形成するスペーサ一体型ガラス基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学、生物学、医学、薬学などの分野においては、分析用あるいは観察用などとして、ガラス基板上で被検体を保持することが必要となることがある。その場合、スライドガラスとカバーガラスとがスペーサによって一定のギャップを介して対向する構造とし、そのギャップの部分で被検体などを保持する。例えば、DNA・バイオテクノロジーの分野では、化学反応の安定性を高めるために、被検体の厚みを一定に保ち、また高価な試薬量を最小限に抑えるように、一定のギャップを形成できるカバーガラスあるいはスライドガラスが求められている。
【0003】
従来技術としては、均一な粒径を有するスペーサ粒子を接着剤と混合し、スクリーン印刷によって被検体保持領域を区画形成すると同時に土手のように盛り上がったスペーサを作製し、それによってギャップを形成する方法がある。その他、スライドガラスの上に、被検体保持領域を区画形成する土手を熱硬化性インキを用いて形成し、加熱して熱硬化させる方法もある(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかし、これらの方法は、いずれも有機系の接着剤や樹脂を使用しているために、一般に耐熱性が低く、耐薬品性が悪く、使用できる被検体の溶液の種類が限られるなどの問題があった。
【特許文献1】特開平6−3231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、耐熱性・耐薬品性を改善し、被検体の溶液として有機溶剤が使用できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ガラス基板の表面及びその近傍に、圧力印加によって、使用するエッチング液に対するエッチングレートが他の部分と異なる線状もしくは枠状の領域を設け、次いで前記ガラス基板を前記エッチング液により化学的エッチング処理して、前記ガラス基板の表面に堤防状の凸部によるスペーサを一体的に形成したことを特徴とするスペーサ一体型ガラス基板の製造方法である。この方法によれば、凸部を含めて全体をガラス材料で作製することができる。
【0007】
ここで、ガラス基板を加熱しながら、もしくは加熱されているガラス基板に対して、圧力印加を行うことが好ましい。加熱状態で圧力印加を行うことで、ガラス基板にクラックを生じさせることなく、使用するエッチング液に対するエッチングレートが他の部分と異なる領域を深くでき、その結果、エッチング後の凸部高さをより高くできる。
【0008】
ガラス基板の表面に、予め無機ガラス系の薄膜を形成し、該薄膜に対して圧力印加を行うこともできる。このように、無機ガラス系の薄膜上に凸部を形成するようにすると、任意の組成の基板を使用することができる。また、薄膜と基板のエッチングレートを調整すれば、エッチング後の凸部の高さをより高くすることも可能である。
【0009】
圧力印加後に、エッチングの前処理として表面研磨を行って、圧力印加時に生じる加工痕の凹みを除去し、その後に化学的エッチング処理を行うことが望ましい。前処理を行うと、圧力印加時の初期の凹みを除去し、エッチング後の凸形状を整えることができ、ギャップをより正確に決めることが可能となる。あるいは、圧力印加時の加工痕に起因する凹みを除去するために、エッチングにより堤防状の凸部を形成してから、表面研磨する手順でもよい。エッチング後に表面研磨すると、効率面で優れている。また、凸部の高さを整えるために、研磨後さらにエッチング処理してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る製造方法は、凸部を含めて基板全体をガラス材料で一体作製することができるため、耐熱性並びに耐薬品性が向上し、被検体の溶液として多くの有機溶剤が使用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るスペーサ一体型ガラス基板の製造方法の一例について述べる。使用するガラス基板は、圧力印加によって、使用するエッチング液に対するエッチングレートが他の部分と異なる領域が形成できるものであれば、材質・組成は自由に選定できる。例えば、アルミノシリケートガラスなどが好適である。ここで、ガラス基板の表面を研磨する前処理を行うことが望ましい。組成むらのある火造り面が残っていると、エッチングレートのばらつきが生じ、凸部の高さを正確に制御できない虞があるからである。研磨後、ガラス基板を洗浄してもよい。
【0012】
このようなガラス基板を用いて、図1に示すような工程でスペーサを一体形成する。
(a)スペーサを形成すべきガラス基板10の表面部分に圧子12を押圧しつつ走査して圧力を印加する。圧子12は、例えばWC、SiCなどの超硬合金、あるいは石英などからなる。圧力印加時に、ガラス基板を加熱しておくと、ガラス基板にクラックを生じさせることなく、形成する凸部の最大高さを高くできるため好ましい。
(b)この圧子走査による圧力印加によって、ガラス基板10の表面近傍に応力残留部14(応力が残り、使用するエッチング液に対するエッチングレートが他の部分と異なる領域)が形成される。
(c)その後、化学的エッチングを施すと、応力残留部14は、それ以外の部分よりもエッチングレートが小さいので、その違いを利用することで応力残留部の位置及び大きさに応じた凸部16が形成される。エッチングは、例えばHF濃度10ppm〜10%程度で行い、エッチング液の温度は室温から80℃程度とする。凸部16を複数本の線状あるいは枠状に形成することで、それによって被検体の保持領域が区画されると共に、凸部16がスペーサとして機能することになる。
【0013】
圧子走査によって生じる加工痕の凹みを除去するために、ガラス基板を研磨するのが好ましい。図2のAに示すように、圧子走査によって加工痕の凹み18が生じ、そのままエッチングを行うと、凸部の上面は多少荒れた状態が残る。このような荒れた状態は、一定のギャップ(高さ)を維持するスペーサとしては好ましくない。しかし、図2のBに示すように、エッチング前処理としてガラス基板を研磨すると、上面は僅かに凹むが、加工痕の凹みは除去されるため、エッチングを行った後は、凸部の上面が比較的平坦な状態となり、良好なスペーサ機能が得られる。また、図2のCに示すように、エッチング後処理としてガラス基板を研磨すると、加工痕の凹みに起因し、堤防状の凸部の上面に形成された凹みは除去される。このため、凸部の上面は平坦な状態となり、同様に良好なスペーサ機能が得られる。
【0014】
次に、製造したスペーサ一体型ガラス基板の構造と使用状態の例について述べる。図3は、カバーガラス側にスペーサを設けた例である。Aに示すように、ガラス基板20の片面の両側に2本の線状の凸部22を平行に設けてカバーガラス24とする。Bに示すように、そのカバーガラス24は、凸部形成面が平板状のスライドガラス26と対向するように反転する。そしてCに示すように、凸部22で当接するように組み合わせる。これによって凸部22がスペーサとなり、スライドガラス26とカバーガラス24(厳密にはガラス基板20のこと)との間に一定のギャップが生じ、そのギャップの部分で被検体28を保持することができる。
【0015】
図4は、スライドガラス側にスペーサを設けた例である。Aに示すように、ガラス基板30の片面に4本の線状の凸部32を矩形枠状に設けてスライドガラス34とする。Bに示すように、そのスライドガラス34の上に平板状のカバーガラス36を載せる。これによって、Cに示すように凸部32がスペーサとなり、スライドガラス34(厳密にはガラス基板30)とカバーガラス36との間に一定のギャップが生じ、そのギャップの部分で被検体38を保持することができる。
【0016】
図5は、スライドガラスとカバーガラスの両方にスペーサを設けた例である。Aに示すように、ガラス基板40の片面の両側に2本ずつ線状の凸部42を平行に、2組間隔をおいて設けてスライドガラス44とし、他方、ガラス基板46の片面に2本の線状の凸部48を平行に設けてカバーガラス50とする。Bに示すように、スライドガラス44とカバーガラス50は、凸部形成面が互いに対向するように、カバーガラス50を反転する。そしてCに示すように、カバーガラス側の凸部48がスライドガラス側の凸部42の間に入るように組み合わせる。これによって凸部42,48がスペーサとなり、スライドガラスとカバーガラスとの間に一定のギャップが生じ、そのギャップの部分で被検体52を保持することができる。この構造では、互いの凸部の組み合わせによって両者の位置決めができる利点がある。
【0017】
図6は、スペーサ一体型ガラス基板の製造工程の他の例を示している。
(a)基板60の表面に、予め無機ガラス系材料からなる薄膜62を形成しておく。そして、スペーサを形成すべきガラス基板の表面部分に圧子64を走査して圧力を印加する。圧力印加時に、ガラス基板を加熱しておくと、ガラス基板にクラックを生じさせることなく、形成する凸部の最大高さを高くできるため好ましい。
(b)この圧子走査による圧力印加によって、ガラス薄膜62の表面近傍に応力残留部66が形成される。
(c)その後、化学的エッチングを施すと、応力残留部は、それ以外の部分よりもエッチングレートが小さいので、その違いを利用することで応力残留部の位置及び大きさに応じた凸部68が形成される。
【0018】
最終的に、ガラス薄膜にスペーサを形成すればよい場合には、上記(c)の工程で終了である。引き続きエッチングを行うと、(d)に示すように、ガラス薄膜がマスクとして機能し、基板60に達するまでエッチングできる。これによって、凸部の頂部のみにガラス薄膜材料が残った状態にすることができる。更にエッチングを行うと、(e)に示すように、ガラス薄膜が完全に除去されるまでエッチングできる。これによって、基板60に凸部68を形成した状態にすることもできる。
【0019】
なお、スペーサの形状は自由に設計できる。上記図3〜図5の各例では、被検体の保持領域が1区画であるが、複数区画あるいは多数区画をスペーサで仕切った構造にも適用できることは言うまでもない。それら被検体の保持領域は、1次元アレイ状に配列してもよいし、2次元アレイ状に配列することもできる。圧力印加は、圧子走査方式に限らず、金型押圧方式でもよい。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
SiO2 :64.8mol%、Al2 3 :10mol%、Na2 O:10.6mol%、Li2 O:7.4mol%、CaO:4.2mol%、MgO:2.9mol%、Fe2 3 :0.1mol%である組成のガラス基板を使用した。まず、このガラス基板の表面の平滑性を向上させるために研磨した後、ガラス基板を室温の1%KOHに浸漬し5分間超音波による洗浄を行った。次いで、ガラス基板の表面にダイヤモンド製の圧子により、約1gの荷重を加えながらXYステージを用いて所定方向に掃引する操作を2回繰り返し、互いに平行な2本の加工痕の線条を形成した。この加工痕を形成したガラス基板の表面を、コロイダルシリカが混入されているスラリーを使用して約300nm研磨し、加工痕の凹みを除去した。その後、50℃の0.05%フッ酸水溶液に2時間半浸漬してエッチングし、第1の試験片を作製した。得られた第1の試験片の表面形状をAFM(原子間力顕微鏡)で観察したところ、図3のAに示すように、ガラス基板の表面には2本の堤防状の凸部が形成されており、その形状は、底面の幅が10μm、高さが2μmの台形形状であった。
【0021】
(実施例2)
圧力印加前の処理を実施例1と同様に行ったガラス基板の表面に、ダイヤモンド製の圧子により、約1gの荷重を加えながらXYステージを用いて所定方向に掃引する操作を2回繰り返し、互いに平行な2本の加工痕の線条を形成した。更に、それと直交する方向に掃引する操作を2回繰り返し、4本合わせて長方形状の加工痕の線条を形成した。圧力印加後の処理は実施例1と同様にして、第2の試験片を作製した。得られた第2の試験片の表面形状をAFM(原子間力顕微鏡)で観察したところ、図4のAに示すように、ガラス基板の表面には長方形枠状に堤防状の凸部が形成されており、その形状は、底面の幅が10μm、高さが2μmの台形形状であった。
【0022】
(実施例3)
圧力印加前の処理を実施例1と同様に行ったガラス基板の表面に、ダイヤモンド製の圧子により、約1gの荷重を加えながらXYステージを用いて所定方向に掃引する操作を2回繰り返し、互いに平行な2本の加工痕の線条を形成した。更に、それぞれの加工痕と平行方向に20μmの間隔をおいて掃引する操作を2回繰り返し、互いに平行な4本の加工痕の線条を形成した。圧力印加後の処理は実施例1と同様にして、第3の試験片を作製した。得られた第3の試験片の表面形状をAFM(原子間力顕微鏡)で観察したところ、図5のA(下側の図)に示すように、ガラス基板の表面には20μmの間隔で平行に配置された2本の堤防状の凸部が2組互いに平行に形成されており、その形状は、底面の幅が10μm、高さが2μmの台形形状であった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るスペーサ一体型ガラス基板の製造手順の一例を示す工程図。
【図2】エッチング前処理の効果を示す説明図。
【図3】スペーサ一体型ガラス基板の一例を示す説明図。
【図4】スペーサ一体型ガラス基板の他の例を示す説明図。
【図5】スペーサ一体型ガラス基板の更に他の例を示す説明図。
【図6】本発明のスペーサ一体型ガラス基板の製造手順の他の例を示す工程図。
【符号の説明】
【0024】
10 ガラス基板
12 圧子
14 応力残留部
16 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の表面及びその近傍に、圧力印加によって、使用するエッチング液に対するエッチングレートが他の部分と異なる線状もしくは枠状の領域を設け、次いで前記ガラス基板を前記エッチング液により化学的エッチング処理して、前記ガラス基板の表面に堤防状の凸部によるスペーサを一体的に形成したことを特徴とするスペーサ一体型ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス基板を加熱しながら、もしくは加熱されているガラス基板に対して、前記圧力印加を行う請求項1記載のスペーサ一体型ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス基板の表面に、予め無機ガラス系の薄膜を形成し、該薄膜に対して圧力印加を行う請求項1又は2記載のスペーサ一体型ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記圧力印加後、表面研磨の前処理を行って前記圧力印加時の凹みを除去し、その後に前記化学的エッチング処理を行う請求項1乃至3のいずれかに記載のスペーサ一体型ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記化学的エッチング処理を行い堤防状の凸部を形成させ、その後に表面研磨を行って前記圧力印加に起因する凹みを除去する請求項1乃至3のいずれかに記載のスペーサ一体型ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−78224(P2006−78224A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259961(P2004−259961)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】