説明

スライドベアリングブッシュの製造方法

本発明は、プラスチックスライディング層と、支持体として使用され、そして、外部に耐食防止層を備えているメタルシースとを含む、平らなベアリングブッシュの製造方法に関する。耐食防止層を形成するために、耐食剤を粉末状の形態で機械的に付与する。本発明の方法により製造された平らなベアリングブッシュは、改良されたスライディング特性及び長い有効寿命を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、外側に耐食層が設けられた、支持体としての金属ジャケット及びプラスチック製のスライド層を有するスライドベアリングブッシュの製造方法に関する。本発明は更に、前記方法により製造されたスライドベアリングブッシュに関する。
【0002】
請求の範囲の前提部に記載された型のスライドベアリングブッシュは、一般に公知であり、そして、特に、自動車産業部門の最も広く種々の型のヒンジ及びベアリングに広く用いられている。スライドベアリングブッシュの操作はメンテナンスフリーであり、すなわち、ベアリングに注油する必要がない。スライドベアリングブッシュの対応するヒンジ及びベアリング内への取り付けは、通常、適切な道具を用いてスライドベアリングブッシュを圧入することにより実施される。従って、スライドベアリングブッシュは、圧入式メンテナンスフリーのスライドベアリングブッシュとも表示される。
【0003】
公知の圧入式スライドベアリングブッシュの例は、特に、刊行された明細書DE3534242、EP0217462、及びWO90/12965A1に記載されている。前記ブッシュは通常、その内面にフルオロポリマー配合物(compound)系のプラスチックスライド層(「ランニング層」)(例えば、グラスファイバー−グラファイト充填剤と共にPTFE)が設けられた金属ケーシング(ジャケット)を有する。要求されるランニング特性に応じて、プラスチックスライド層は更に、フルオロポリマー配合物中に埋め込まれた、強化材料としてのスズ/青銅製の金網又はエキスパンデッド・メタル・リブ・メッシュを含む。更に、表面に構造を有する(surface−structured)金属シートにプラスチックスライド層としてハニカム・カットアウトを設け、前記金属シートの表面へ接着剤によってフルオロポリマー配合物が取り付けられ、そしてハニカム・カットアウトを充填する方式も、例えば、WO99/05425A1から公知である。記載されたスライドベアリングブッシュ中の金属ジャケット及びプラスチックスライド層は通常、ホットメルト接着剤フィルム(例えば、PFA、ETFE)によって相互に結合される。
【0004】
腐食に対する保護を与えるために、スライドベアリングブッシュの金属ジャケットに対してその外側に及びその表面に、亜鉛又は亜鉛/ニッケル、スズ、亜鉛−アルミニウム、及び場合によりクロム製の耐食層を設けることも一般的である。公知のスライドベアリングブッシュの製造の間に、亜鉛又は亜鉛/ニッケル層の付与を亜鉛めっきによって実施し、すなわち、亜鉛又は亜鉛/ニッケルめっき浴中に仕上げされたスライドベアリングブッシュを導き、この浴中で亜鉛又は亜鉛/ニッケル耐食層が電解手段によって堆積される。
【0005】
本発明の分野における研究は、スライドベアリングブッシュの亜鉛めっきの間に亜鉛の堆積がフランジ領域内のランニング層上に生じ、この堆積がブッシュのスライド特性に不利な作用を及ぼすことを示した。フランジの成形の間に微小なクラックがプラスチックランニング層中に生じ、そこから電解質が金属強化材料(例えば、青銅製の織物)のところまで浸透するので亜鉛の電解的堆積を許容することになる。亜鉛の堆積は、その容積がマイクログラム範囲内と小さいにもかかわらず、スライドベアリングの初期スライド特性に不利な作用を及ぼすことが見出された。特に、亜鉛の堆積は、スライドベアリングブッシュのならし運転(runnig−in)相における、摩擦係数の増加並びに荷重負担能力及び耐磨耗性の低下の原因となることが見出された。この増加した摩擦は、スライドベアリングの有効寿命に不利な作用を及ぼす。
【0006】
スライドベアリングブッシュの亜鉛めっきに伴う更なる不利益は、アーク放電により個々のブッシュにしばしば損傷が引き起こされるために、欠陥のあるブッシュに伴う比較的高い損失率を招くことである。このアーク放電は、高分子コートされたブッシュの不完全な電気的接触、及びこれに関連した電解の間の局所的な電界集中によるものである。
【0007】
DIN ISO標準12683からは更に、金属部材を機械的にめっきする方式、すなわち、適切なドラム装置を用いて付与される亜鉛コーティングを前記金属部材に施す方式が公知である。この方法は、ドラム中で種々の大きさの小さなガラス玉(glass ball)が、めっきされる予定の部材の表面中に亜鉛粉末粒子を圧入する方式に実質的に基づいているので、ボールめっき法(ball−plating)とも呼ばれる。この方法によれば、電流も加熱も必要ない。
【0008】
本発明の目的は、優れたスライド特性及び著しく良好な耐食性を有する、本明細書の前提部に記載された型のスライドベアリングブッシュの製造方法を提供することである。特に、耐食層の付与はブッシュの機能及び有効寿命を損なうものであってはならない。
【0009】
本発明の目的は、本発明に従って、耐食層が設けられる支持体としての金属ジャケット及びプラスチック製スライド層を含み、前記耐食層を形成するために、粉末状の耐食剤が機械的手段により前記金属ジャケット上に付与されるスライドベアリングブッシュの製造方法により達成される。
【0010】
耐食層の(例えば、亜鉛めっきによる)電解的付与を備えた公知の製造方法とは対照的に、本発明の方法によれば耐食剤の付与は機械的手段、例えば、金属製ジャケットの表面中への圧入により実施される。
【0011】
意外にも、機械的手段による耐食層の機械的付与は、通常の亜鉛めっき法と比較して、スライドベアリングブッシュの有効寿命の増進及び向上したスライド特性をもたらすことが見出された。特に、耐食剤の機械的付与の場合、亜鉛めっき法とは対照的に、ランニング層のフランジ領域における亜鉛堆積は形成されないことが見出された。本発明による方法を用いた場合でさえブッシュのフランジ領域は亜鉛粉末(又は他の金属粉末)と直接的な接触状態になるので、本発明による方法を用いることによりフランジ領域における亜鉛堆積の発生を避けることができるという事実は、特に意外なことであった。しかしながら、この接触は、意外にも、言及した領域における長時間の亜鉛の堆積には至らない。常法により亜鉛めっきされたスライドベアリングブッシュをならし運転する際に生じる望ましくない摩擦係数の増加及び荷重負担能力及び耐磨耗性の低下は、本発明による方法では生じない。本発明による方法を用いて製造されるスライドベアリングブッシュは、通常の亜鉛めっきされたスライドベアリングブッシュと比較して長い有効寿命を有する。
【0012】
このことに加えて、本発明による方法を用いて製造されたスライドベアリングブッシュは、亜鉛めっきされたブッシュよりも良好な、金属ジャケットとプラスチックスライド層との間の接着性を有する。特に剥離の傾向があるフランジ領域において、プラスチックスライド層の剥離がない。本発明による方法は、通常の亜鉛めっき法に比べて穏やかであり、そしてブッシュに対する損傷が少ないので、製造の間における損失率が低い。
【0013】
従属の請求項の特徴は、本発明による方法の有利な更なる態様に関するものである。
【0014】
本発明による方法は、全種類のスライドベアリングブッシュの製造に好適であり、そして特定のスライドベアリングブッシュに限定されるものではない。唯一の必須要素は、スライドベアリングブッシュが金属ジャケットとプラスチックスライド層との間の結合を示すことである。通常、スライドベアリングブッシュは、その前面(front faces)に開口の中空円筒体を有し、その中空円筒体はその外側に金属ジャケットをそしてその内側にプラスチックスライド層を有する。スライドベアリングブッシュは、その面表面の少なくとも一方に、ヒンジ又はベアリング内へのブッシュの簡単な圧入を可能にするフランジを有していることができる。特に、本発明による方法は、メンテナンスフリーのスライドベアリングの製造に好適である。
【0015】
スライドベアリングブッシュの金属ジャケットは、任意の望ましい金属及び合金からなることができる。特に、適切な金属は、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、青銅、真鍮、チタン、及び/又は銅、並びにこれらの金属の合金である。
【0016】
スライドベアリングブッシュのプラスチックスライド層は、プラスチック製のスライドベアリング材料を含む。この目的に好適であるプラスチックは、通常、良好なスライド特性に加えて、高い機械的荷重負担能力及び/又は高い耐熱性を有する。適切なプラスチックは、例えば、フルオロポリマーを基剤とするプラスチック、特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフルオロアルコキシアルケン(PFA、MFA)、及び/又はテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)、並びにフッ素化されていない重合体、例えば、特に、ポリエーテル−エーテルケトン(PEEK)又はポリエチレン(PE)、及び特に高分子量ポリエチレン(HMW−PE)及び/又は超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)である。
【0017】
荷重負担能力を改善しそして磨耗、常温流れ、及び静止摩擦を低減させるために、プラスチックスライド層は、有機及び/又は無機の充填剤(「配合物」)を含んでいることができる。好ましい充填配合物は、グラスファイバー、カーボン、グラファイト、及び/又は芳香族ポリエステルを含む。特に好適なのは、フルオロポリマー/グラスファイバー/グラファイト配合物、フルオロポリマー/カーボン/グラファイト配合物、及びフルオロポリマー/芳香族ポリエステル配合物である。
【0018】
スライドベアリングブッシュのプラスチックスライド層は更に、強化用の金属性部材を含んでいることができ、この金属部材はオープン構造を有する強化材料、織物、特に、金網、エキスパンデッド・メタル・リブ・メッシュ、不織フリース材、特に、金属フリース、金属フォーム、多孔質金属層、及び/又は有孔ディスクであることができる。多孔質金属層(特に、多孔質青銅層)の場合、好ましくは、この多孔質金属層は金属ジャケット上に焼結される。金属性部材は任意の望ましい金属又は合金からなることができる。好ましくは、前記金属性部材は、青銅、銅、クロム、ニッケル、亜鉛、亜鉛−鉄合金、亜鉛−ニッケル合金、アルミニウム、スズ青銅、鋼、ステンレス鋼、及びそれらの合金から選択される材料からなる。
【0019】
スライドベアリングブッシュのプラスチックスライド層は、内部で金属ジャケットに結合されておりそして複合材料を形成する。好ましくは、プラスチックのスライド層は、特に、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、及び/又はペルフルオロアルコキシ共重合体(PFA)のホットメルト接着剤フィルムによって金属ジャケットに結合される。しかしながら、例えば、焼結又は溶接によって、金属ケースとプラスチックスライド層の金属部材(例えば、金網又はエキスパンデッド・メタル・リブ・メッシュ)とを金属的に(metallically)相互に結合させ、そして次いでスライド材料を金属部材中に導入することもできる。この種類の金属結合を用いれば、金属ジャケットとプラスチックスライド層とを結合させるメルト接着剤の使用は必要なくなる。
【0020】
本発明による方法において用いられる耐食層を付与するための機械的めっき法は、以下でより詳細に記載する。
【0021】
本発明による方法は、耐食層を形成するために、スライドベアリングブッシュの金属ジャケット上に機械的に粉末状の耐食剤を付与することを特徴とする。機械的付与の方法もめっきと表示する。
【0022】
材料の腐食の傾向を低減するのに表面コーティングとして適切である耐食剤として、任意の望ましい材料を考えることができる。耐食材料は、好ましくは、延性材料、特に、めっきの間に金属ジャケットの表面内に圧入することができる延性金属である。耐食剤として特に好適なのは、金属粉末、特に、亜鉛、スズ、アルミニウム、カドミウム、及び/又はそれらの合金の粉末である。しかしながら、非金属性耐食剤、例えば、特定の延性重合体も考えることができる。本発明の特に好ましい態様によれば、耐食剤として、亜鉛が、特に、亜鉛粉末の形態で用いられる。
【0023】
耐食剤は粉末状で存在する。本発明の意味における用語「粉末」は、平均粒径20mm〜1μmを有する粒子を意味するものと理解されたい。使用される粉末の平均粒径が小さくなればなるほど、その付与は容易になる。有利には、この径は、1μm〜1mm、そしてより好ましくは、1〜10μm、そして特に、3〜8μmの範囲にある。
【0024】
耐食剤の機械的付与は、好ましくは、金属ジャケットの表面内に圧入することにより実施される。これは、例えば、粉末状の耐食剤と硬質材料物体(hard material bodies)との混合物中でスライドベアリングブッシュを回転(roll)させることによって実施することができる。この状況において、前記混合物の回転の間に、硬質材料物体が耐食剤の粒子をスライドベアリングブッシュの金属ジャケットの表面内に圧入する。
【0025】
硬質材料物体として、好ましくは、球形の硬質材料物体、例えば、ガラス玉を用いる。硬質材料物体は、好ましくは、平均粒径0.1〜10mm、特に、0.4〜1.2mmを有する。用いられる硬質材料物体の大きさは、得られるコーティングの速度及び粒度に影響を与える。粒径3〜10mmを有する大きい物体は、より迅速なめっき工程につながる高い衝撃効果を有する。対照的に、平均粒径0.1〜0.5mmを有する小さな物体を用いることの有利さは、前記小さな物体が、工程の条件下でコーティング材料から形成されそして望ましくない粗粒状態のコーティング表面の原因となる凝集物を破壊するという事実に存する。従って、小さい物体の使用は実際には遅速なコーティング工程につながるが、最終的な結果においては細粒状のコーティングがもたらされる。
【0026】
大きい及び小さい硬質材料物体の利点を合わせるために、これらの混合物を用いることもできる。粒径3〜10mmの物体対平均粒径0.1〜0.5mmの物体の混合比10:90〜50:50容量%、特に、20:80〜30:70容量%を用いると、スライドベアリングブッシュについて使用するのに特に有利である表面特性及び耐食特性を有するコーティングを得ることができる。好ましくは、示した混合割合において、種々の大きさのガラス玉を用いる。
【0027】
硬質材料物体用の材料として、その硬さが耐食材料の粒子の硬さより硬いものであればどのような材料でも適している。本発明の好ましい態様によれば、ガラス玉は単純で経済的であり、多様な大きさで利用することができ、無害であり、化学的に不活性であり、非吸収性であり、耐磨耗性であり、そして再利用することができ、並びに小さい摩擦係数及び高い耐衝撃性を有しているので、硬質材料物体としてガラス玉を用いる。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、硬質材料物体及びスライドベアリングブッシュは、およそ等しい容量部の混合物として存在する。しかしながら、硬質材料物体の割合を高く又は低く選択することもできる。高い割合の硬質材料物体は、特に、重量のあるスライドベアリングブッシュのコーティングに、又は、厚みのある層が望ましい場合に、好都合である。通常、本発明による方法においてスライドベアリングブッシュに対する硬質材料物体の容量比は約0.3〜約3である。
【0029】
本発明による方法は、混合物が充填され、そして中で混合物が回転される回転ドラム内で実施される。ドラム内での混合物の回転を良好にするために、好ましくは、ドラムはその内側にコーナー配置(corner arrangement)を有する。回転工程に対する更なる改善は、ドラムに床(floor)を設け、そしてドラムの横断面がその床に向かって減少している(decreasing)ことにより達成することができる。加えて、ドラムは、使用する物質に対して耐性であることが好ましい。従って、好ましくは、ステンレス鋼製のドラムを用い、そのドラムは更に耐酸性及び耐磨耗性のプラスチック又はゴムでコートされていることができる。
【0030】
本発明の別の好ましい態様によれば、前記混合物は、耐食剤及びスライドベアリングブッシュの他に、流体、特に水も含んでいる。特に、金属粉末、例えば、亜鉛粉末を耐食剤として用いようとする場合、混合物に水を添加しそして混合物の水性相をpH値0〜7、特に1〜3に調整することが有利であることがわかった。
【0031】
pH値は酸の添加によって調整することができる。酸性媒体中で、スライドベアリングブッシュの金属ジャケットの表面はエッチングされそしてその結果活性化される。pH値が高ければ高いほど、概して、コーティング工程が行われるのは遅くなる。従って、pH値は、0〜7、好ましくは、1〜3、そしてより好ましくは、1.7〜2.5であるのが好ましい。pH値の調整は、酸の添加によって行う。関与する酸は、好ましくは、非酸化性酸である。
【0032】
硬質材料物体及びスライドベアリングブッシュ対流体の容量比は、好ましくは、およそ2:1である。これに関連して、ドラムの回転の間、流体量は混合物の固体成分部分のすぐ上に留まるように流体量を調整することが有利である。
【0033】
前記の構成要素の他に、通常の添加剤、例えば、活性剤、促進剤、脱泡手段、及び金属塩も混合物に添加することができる。この型の添加剤の添加は、概して一般的であり、そして、機械的亜鉛めっきに関する文献から概して当業者に公知である。
【0034】
混合物の温度が5〜40℃、そして特に21〜26℃である場合に同様に良好な結果を達成することができる。作業を高温で実施しようとする場合、迅速なコーティング工程を達成することができるが、これは幾分か粗粒状態の表面に至る傾向がある。対照的に、低温においては、コーティングはより遅速に行われるが、それによってより均一な表面が形成される。
【0035】
めっき工程の前に、最初にスライドベアリングブッシュを十分に洗浄しそして脱脂しておくのが有利である。脱脂は、任意の望ましい方法で実施することができ、そして特に、グリース溶液として熱アルカリ石鹸溶液が好適である。次いで、脱脂したブッシュは、酸浴中に浸漬し、そして、その後に水ですすぐことができる。
【0036】
本発明の好ましい態様によれば、コーティング工程の後に更に表面処理段階を実施する。従って、例えば、機械的めっき処理後に、スライドベアリングブッシュをクロメート処理し及び/又は常法によりシールすることができる。クロメート処理には、イエロークロメート処理(yellow chromating)法(Cr−VI)又はブルークロメート処理(Cr−III)を考えることができる。シーリングには、特に、シリケートシーラーを用いたシーリングを考えることができる。
【0037】
本発明による方法の考えられる順序を、例示として以下に記載する。
【0038】
コートしようとするスライドベアリングブッシュを、適切ならば予備的な洗浄後に、硬質材料物体(例えば、ガラス玉)と水との混合物中にドラム内へ充填する。
【0039】
更に、活性剤、例えば、グリコールエーテル、例えば、ノニルフェノールグリコールエーテルを前記混合物に添加することができる。好ましくは、活性剤は、酸性溶液中、特に希硫酸中の混合物に添加することができる。
【0040】
ドラムの短時間の回転により、全要素を相互に混合する(約2分間)。
【0041】
コーティングの下塗をつくるために、工程の次の段階として金属塩、特に、銅塩、例えば、硫酸銅を前記混合物に添加することができる。これに加えて、反応促進剤として促進剤、例えば、スズ塩、特に、硫酸スズも前記混合物に添加することができる。好ましくは、促進剤は、酸性溶液中、特に、希硫酸と塩酸との混合物中の前記混合物に添加する。促進剤溶液は、更に、添加剤として界面活性剤(tensides)及び/又は有機塩を含んでいることができる。更に、通常の脱泡手段も反応混合物に添加することができる。これらの要素は、同様にして、ドラムの短時間回転(4〜8分間)により他の成分と混合する。
【0042】
コーティングの基礎を形成するために、フラッシュとして少量の耐食剤を添加することができ、スライドベアリングブッシュが銀色の光沢を得るまでの必要な時間に亘り回転を続ける。
【0043】
均一な層の厚さを得るために、好ましくは、耐食剤を数回の段階に分けて、特に2〜5段階、そしてより好ましくは、3段階で添加する。各回、好ましくは、5〜60分間、特に、10〜20分間の時間間隔で添加を実施する。耐食剤を全量添加した後、活性剤を用いて及び/又は酸の添加によってpH値を1.6と2.0との間の値に調整する。好ましくは、コーティング工程の最後までこの値を一定に保つ。
【0044】
スライドベアリングブッシュが望ましい厚さに達したら、スライドベアリングブッシュを洗いそして混合物の他の成分から分離する。この分離は、例えば、篩分けによって又は磁石の手段によって実施することができる。
【0045】
本願の主題は、本発明の方法によって製造されたスライドベアリングブッシュでもある。
【実施例】
【0046】
態様の例に基づいて以下に本発明を更に詳細に記載する。
【0047】
《比較例1》
Willich(ドイツ)のSaint−Gobain Performance Plastics Pampus GmbH製のNorglide(商標)PRO XL型の、下記層構造:
1.金属ジャケット:両面にCu/Bzがめっきされ、Bz側面構造を有する(Bz side structured)DC4コールドストリップ、
2.ホットメルト接着剤フィルム(PFAフィルム)、
3.プラスチックスライド層:フルオロポリマー配合フィルム(PTFE及び有機充填剤)
を有する1.0mm金属/プラスチックラミネートから、直列モールド(series mould)の自動プレス成形−曲げ(automatic stamping−bending)装置を用いて、10mm幅のストリップ形材から、圧延されそしてフランジを付けられた複合ブッシュおよそ12,000ユニットを、下記寸法:
a)フランジ径:13mm
b)内径:7mm
c)肉厚:0.98mm
d)全長:7mm
で製造した。
【0048】
自家用車のドア・ヒンジ用のベアリングとしての用途に対して耐食性を得るために、6,000ユニットの前記ブッシュを常法により亜鉛めっきして、そして、次にイエロークロメート処理して白錆に対する保護を与える(Cr−VI)。
【0049】
このようにして製造し、亜鉛めっきしそして白錆に対してイエロークロメート処理したブッシュの36%の中で、フランジのランニング層にわずかな亜鉛の分離が観察された。これらの分離は、フランジの成形の間に重合体ランニング層に微小なクラックが生じ、そこを通って電解質が青銅製の織物強化材のところまで浸透することができるので、亜鉛の電解的分離を許容してしまうという事実により引き起こされる。PTFEランニング層への亜鉛粒子の堆積は、スライドベアリングブッシュのならし運転特性及び有効寿命に悪影響を与える。
【0050】
このことに加えて、ブッシュの23%において、フランジ領域に明らかなフィルム分離があった。更に、全てのフランジについて、3mmまでの深さに至るフィルム表面下の腐食が観察され、これは交差端(intersection edge)から外側に伸びていた。フランジ領域及び表面下に腐食のある交差端において、バリ取り(deburring)ナイフを用いれば重合体フィルムは比較的容易に剥離することができた。剥離されたフィルムの下には、薄い重合体層を通して内部に拡散された電解質の作用による金属表面の明らかな腐食が見られた。
【0051】
DIN50021による塩水噴霧試験において、赤錆が始まる前には、必要とされる120時間どころでなくわずか72時間しか不変時間を得られなかった。塩水噴霧試験において、表面下の腐食及びフィルム剥離はかなり増大した。
【0052】
《実施例1》
自家用車のドア・ヒンジ用のベアリングとして用いるための耐食性を得るために、比較例1と同じ型のブッシュ6,000ユニット(見かけ容積約50L)を機械的に亜鉛めっきした。
【0053】
これを実施するために、最初にブッシュを洗浄しそして弱アルカリ性洗剤で脱脂し、そして次に円錐状の八角形コーティングドラム内に充填した。容量に関してほぼ等しい量のガラス玉(粒径範囲0.4〜1.2mm)及び容量に関して等しい量の水道水で満たした後、コーティングドラムを回転数30rpmに設定した。次に、コーティング工程を開始するために、希硫酸中ノニルフェノールポリグリコールエーテルの1%溶液(ドイツ、BalveのTolkmit Industries製のアクチベーターB)1L、希硫酸と塩酸との混合物中5%硫酸スズ溶液(ドイツ、BalveのTolkmit Industries製のプロモーター2001)50g、及び平均粒度30μm未満を有する亜鉛フラッシュとしての亜鉛粉末50gを添加し、そして10分間回転させた。10分間の時間間隔で、1回につき亜鉛粉末150gを4回添加し、そして、さらに30分間回転させた。この場合の水性相のpH値は1〜2となり、これを規則的な間隔でチェックした。コーティング工程の後、ドラムからベアリングを取り出し、水ですすぎ、そして乾燥させた。
【0054】
このようにして製造したブッシュは、12〜18μmの範囲の厚みを有する均一な亜鉛層を有している。ブッシュは、スライド層上の亜鉛堆積、フィルム剥離、重合体層の表面下腐食のいずれも示さない。DIN50021による塩水噴霧試験において、試験ブッシュは全て、130時間を越える赤錆に対する耐性を達成した。このブッシュは、比較例1と比較して向上したならし運転特性を特徴としていた。
【0055】
《比較例2》
Willich(ドイツ)のSaint−Gobain Performance Plastics Pampus GmbH製のNorglide(商標)T0.5型の、下記層構造:
1.金属ジャケット:両面が亜鉛めっきされそしてイエロークロメート処理されたDC4コールドストリップ、
2.ホットメルト接着剤フィルム(EFTEフィルム)、
3.プラスチックスライド層:フルオロポリマー配合フィルム(PTFE+カーボン/グラファイト)
を有する0.5mm金属/プラスチックラミネートから、直列モールドの自動プレス成形−曲げ装置を用いて、11mm幅のストリップ形材から、圧延されそしてフランジを付けられた複合ブッシュ36,000ユニットを、下記寸法:
a)フランジ径:17mm
b)内径:11mm
c)肉厚:0.48mm
d)全長:7mm
で製造した。
【0056】
自家用車のエンジンボンネット・ヒンジ・ベアリングとしての用途に対して耐食性を得るために、30,000ユニットの前記ブッシュを常法により亜鉛めっきし、そして、次にイエロークロメート処理して白錆に対する保護を与えた[Cr(VI)]。
【0057】
このようにして製造したブッシュの約3%について、フランジの領域並びにブッシュの円筒部分のいずれにも著しい変形が認められた。この変形の原因は、亜鉛めっきドラム内での比較的重い電極による機械的変形であると同定された。更に、過剰のアーク放電による損傷のある11ユニットのブッシュを選別により取り除いた。前記欠陥があるために、ブッシュの100%品質管理が必要であった。塩水噴霧試験において、132時間の赤錆の開始に対する耐性が測定された。
【0058】
《実施例2》
自家用車のエンジンボンネット・ヒンジ・ベアリングとしての用途に対して耐食性を得るために、最初に、比較例2と同じ型のベアリング約6,000ユニットを実施例1に記載のように機械的に亜鉛めっきし、ここで全量300gの亜鉛を用いそして厚さ15μmの亜鉛層を形成した。次いで、不動態化のために、ブルークロメート処理[Cr(VIII)]コーティング、並びにドイツ、GueterslohのCoventya製のフィニガード(Finigard)105型のシーラーを付与した。
【0059】
このようにして製造し、そして機械的に亜鉛めっきし、ブルー不動態化しそしてシールしたブッシュを視覚的に評価したところ、欠陥は確認することができなかった。塩水噴霧試験においては、300時間を超える赤錆に対する優良な耐性が達成された。このブッシュは、比較例2により製造されたブッシュと比較して向上したならし運転特性を特徴としている。
【0060】
《比較例3》
Willich(ドイツ)のSaint−Gobain Performance Plastics Pampus GmbH製のNorglide(商標)T0.75型の、下記層構造:
1.金属ジャケット:両面が亜鉛めっきされそしてイエロークロメート処理されたDC4コールドストリップ、
2.ホットメルト接着剤フィルム(EFTEフィルム)、
3.プラスチックスライド層:青銅製の織物で強化されたスライド層(E−PTFE+グラスファイバー/グラファイト)
を有する0.75mm金属/プラスチックラミネートから、直列モールドの自動プレス成形−曲げ装置を用いて、8.5mm幅のストリップ形材から、圧延されそしてフランジを付けられた複合ブッシュ38,000ユニットを、下記寸法:
a)フランジ径:20mm
b)内径:13mm
c)肉厚:0.78mm
d)全長:5mm
で製造した。
【0061】
自家用車のマルチポイント・ヒンジ・ベアリングとしての用途に対して耐食性を得るために、32,000ユニットの前記ブッシュを常法により亜鉛めっきした。次いで、それらをイエロークロメート処理(Cr−VI)して白錆に対する保護を与えた。
【0062】
このようにして製造したブッシュの36%において、フランジのランニング層にわずかな亜鉛分離が観察された。これらの分離は、フランジの成形の間に重合体ランニング層に微小なクラックが生じ、そこを通って電解質が青銅製の織物強化材のところまで浸透することができるために、亜鉛の電解的分離を許容してしまうという事実により引き起こされる。PTFEランニング層へ堆積した亜鉛粒子は、スライドベアリングブッシュの動作の間に、ならし運転相の間の磨耗を増大させそして有効寿命を短くすることの原因となる。塩水噴霧試験において、ブッシュは120時間を越える赤錆に対する耐性を有する。
【0063】
《実施例3》
自家用車のマルチポイント・ヒンジ・ベアリングとしての用途に対して耐食性を得るために、最初に、比較例3と同じ型のブッシュ約6,000ユニットを実施例1に記載のように機械的に亜鉛めっきし、ここで全量300gの亜鉛を用い、そして、厚さ15μmの亜鉛層を形成した。次いで、浸漬、遠心分離、及び乾燥により、ブッシュにシリケートシーラーをコートした。
【0064】
このようにして製造したブッシュを視覚的に評価したところ、亜鉛の堆積も他の異常も認めることができなかった。塩水噴霧試験においては、140時間を超える赤錆に対する良好な耐性が達成された。摩擦学的試験によって、前記の腐食層処理はスライドベアリングの摩擦及び磨耗挙動に悪影響を及ぼさないことが確認された。
【0065】
前記の例は、本発明による方法に従って製造された機械的に亜鉛めっきされたベアリングブッシュが、常法によって亜鉛めっきされるベアリングブッシュと比較して以下の利点を有していることを示している:
【0066】
すなわち、金属ジャケットへのプラスチックスライド層の接着は、機械的な亜鉛めっきによって損なわれない。この理由により、スライド層の剥離も表面下での腐食も全くなく、その結果、腐食の受けやすさが増加した領域は生じない。更に、過剰のアーク放電による電界の集中によって被るブッシュの損傷及び機械的変形が回避される。それに加えて、スライド層のスライド能力は、耐食剤の堆積によって損なわれることがなく、これによりならし運転特性における向上及び有効寿命の増加がもたらされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体としての金属製ジャケットと、プラスチック製スライド層とを含むスライドベアリングブッシュの製造方法であって、前記金属製ジャケットは、外側に耐食層を備えており、粉末状の耐食剤を機械的に付与することによって前記耐食層を形成する前記スライドベアリングブッシュの製造方法。
【請求項2】
付与する際に、前記耐食剤を金属製ジャケットの表面へ押圧する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粉末状の耐食剤及び硬質材料物体の混合物中でスライドベアリングブッシュを回転させることによって前記耐食剤の付与を実施する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
混合物を充填した回転ドラム内で前記回転を実施する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ドラムがその内部にコーナー配置を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ドラムが床を有し、そして、前記ドラムの横断面が床に向かって減少している、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記硬質材料物体として球状の硬質材料物体を用いる、請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記球状の硬質材料物体が平均直径0.1〜10mm、特に、0.4〜1.2mmを有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記硬質材料物体としてガラス玉を用いる、請求項3〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記耐食剤として金属粉末、特に、亜鉛、スズ、アルミニウム、及び/又はそれらの合金を用いる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記金属粉末が、平均粒径1μm〜1mm、特に、3〜20μmを有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
耐食剤として亜鉛粉末を用いる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記混合物が水を含む、請求項3〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記混合物が、水性懸濁液であり、その水性相がpH値0〜7、特に、1〜3を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記混合物が、活性剤、促進剤、脱泡手段、及び金属塩、特に、銅塩からなる群より選ばれる添加剤少なくとも1種類を含む、請求項3〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
スライドベアリングブッシュに対する前記硬質材料物体の容量比が、約0.3〜約3、そして、特に、1である、請求項3〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記硬質材料物体/スライドベアリングブッシュ/水の容量比が、約1/1/1である、請求項13〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記機械的付与を5〜40℃、特に、21〜26℃で実施する、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記耐食剤を数回の段階に、特に、3〜5段階に分割して、5分間〜1時間の時間間隔で、そして特に約15分間の時間間隔で添加する、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記耐食層の付与前に前記スライドベアリングブッシュを洗浄し及び/又は脱脂する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記耐食層の付与後に前記スライドベアリングブッシュを表面処理、特に、クロメート処理又はシール処理に付する、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記金属製ジャケットが、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、青銅、真鍮、チタン、及び/又は銅、あるいは、それらの合金製のジャケットである、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記プラスチックスライド層が、フルオロポリマー及び/又は有機又は無機の充填剤を含む、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記充填剤が、グラスファイバー、カーボン、グラファイト、又は、芳香族ポリエステルを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記プラスチックが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系、ペルフルオロアルコキシアルケン(PFA、MFA)系、及び/又はテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)系のプラスチックである、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記プラスチックスライド層が、金属部材を含む、請求項1〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記金属部材が、オープン構造を有する強化材料、織物、特に、金網、エキスパンデッド・メタル・リブ・メッシュ、不織フリース、特に、金属フリース、金属フォーム、有孔ディスク、多孔質金属層、及び/又は表面側に配置されたカットアウトを有する表面構造を有する金属シートである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記金属部材が、青銅、銅、クロム、ニッケル、亜鉛、亜鉛−鉄合金、亜鉛−ニッケル合金、及び/又はアルミニウム又はそれらの合金、スズ青銅、あるいは鋼織物、特に、ステンレス鋼からなる、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
前記プラスチックスライド層が、ホットメルト接着剤フィルムによって、特に、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)及び/又はペルフルオロアルコキシ共重合体(PFA)によって前記金属製ジャケットに結合される、請求項1〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法により得られる、スライドベアリングブッシュ。

【公表番号】特表2007−502370(P2007−502370A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529706(P2006−529706)
【出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004324
【国際公開番号】WO2004/104268
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(505138646)サン−ゴバン パフォーマンス プラスティクス パンパス ゲー エム ベー ハー (2)
【氏名又は名称原語表記】SAINT−GOBAIN PERFORMANCE PLASTICS PAMPUS GMBH
【Fターム(参考)】