説明

スラスト軸受

【課題】回転軸の軸方向への動きを十分に制限することができ、しかもスラストカラーの振動による傾きをより良好に吸収できるようにした、スラスト軸受を提供する。
【解決手段】回転軸1に設けられたスラストカラー4に対向して配置されるスラスト軸受3である。円環状の軸受板8と、軸受板8を支持する円環状のベース板9とを備える。軸受板8のスラストカラー4に対向する面には、ポンプイン形スパイラル溝が形成され、ベース板9の軸受板8に対向する面側と、軸受板8のベース板9に対向する面側との少なくとも一方には、周方向に沿って連続する凹部13が形成されている。凹部13の深さは、ベース板9又は軸受板8の半径方向において、その内周側から外周端に向かって連続的に深くなっている。凹部13には、凹部13を埋めた状態に第1弾性体10が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高速回転体用の軸受として、回転軸に設けられたスラストカラーに対向して配置されるスラスト軸受が知られている。このようなスラスト軸受のうち、動圧効果を利用するスラスト動圧軸受では、例えば軸受面にスパイラル溝を形成し、スラストカラーと軸受面との間に流体潤滑膜を形成することで、該潤滑膜を介して回転軸を支持している。
【0003】
ところで、このようなスラスト動圧軸受としては、軸振動や衝撃を吸収するために柔軟なフォイル、例えば厚さ100μm前後の金属製薄板で軸受面(軸受板)を形成し、この軸受面の下に該軸受面を柔軟に支持するためのフォイル構造を有したものが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
すなわち、特許文献1では、テーパ形状の軸受面を波板形状のフォイル(バンプフォイル)で支持した構造が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、スパイラル溝を形成したフォイルを軸受面(軸受板)とし、軸受面の下に複数枚のフォイルを挿入した構造が開示されている。この構造においては、軸受板の下に挿入された各フォイルにそれぞれエッチング溝が形成されており、溝が互い違いになるようにフォイル同士が重ね合わされ、バネのように機能するようになっている。
したがって、特許文献1や特許文献2に開示された軸受にあっては、いずれも軸受面(軸受板)が柔軟なため、振動や衝撃によって発生する回転軸の動き、すなわちスラストカラーの軸方向の動きと、スラストカラーの振動(面振れ)による傾きとをある程度吸収できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−513701号公報
【特許文献2】特開平06−073437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構造では、軸受面(軸受板)全体がメインプレートに柔軟に支持されているため、スラスト荷重(静荷重)が増えると軸受面(軸受板)全体がメインプレート側に移動し、これによって回転軸もその軸方向へ移動することにより、この回転軸が外側の静止部に接触してしまう可能性がある。例えば、この軸受をターボ機械のインペラを有する回転軸に適用した場合に、回転軸がその軸方向へ移動することで、インペラがその外側のハウジング(静止部)と接触を起こす可能性がある。
このような接触を避けるには、回転軸とハウジング(静止部)との隙間(軸方向隙間)を広くする必要があるが、ターボ機械のようにインペラを有する回転機械ではチップクリアランス(インペラ先端と静止部との隙間)を拡げることになるため、効率が低下してしまう。
【0007】
また、特許文献2の構造では、フォイルに形成するエッチング溝の深さを調整することにより、軸方向の移動量を少なくすることができる。しかしながら、軸受面全体が概ね均等な剛性で支持されているため、前記の流体潤滑膜の動圧に分布がある場合、この動圧が高くなる部位(例えば、ポンプイン形のスパイラル溝が形成されている場合には内周側)が大きく撓むことになる。すると、この動圧が高くなる部位において所望の動圧が発生され難くなり、結果として軸受の軸受負荷能力が低下してしまう。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、回転軸の軸方向への動きを十分に制限することができ、しかもスラストカラーの振動(面振れ)による傾きをより良好に吸収できるようにした、スラスト軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスラスト軸受は、回転軸に設けられたスラストカラーに対向して配置されるスラスト軸受であって、
前記スラストカラーに対向して配置される円環状の軸受板と、
前記軸受板の、前記スラストカラーに対向する面と反対側の面に対向して配置されて、該軸受板を支持する円環状のベース板とを備え、
前記軸受板の前記スラストカラーに対向する面には、動圧発生用のポンプイン形スパイラル溝が形成され、
前記ベース板の前記軸受板に対向する面側と、前記軸受板の前記ベース板に対向する面側との少なくとも一方には、その周方向に沿って連続する凹部が設けられ、
前記凹部の深さが、前記ベース板又は前記軸受板の半径方向において、その内周側から外周端に向かって連続的に深くなるように形成され、
前記凹部には、該凹部を埋めた状態に第1弾性体が設けられていることを特徴としている。
【0010】
このスラスト軸受によれば、軸受板のスラストカラーに対向する面に、動圧発生用のポンプイン形スパイラル溝が形成されているので、このスパイラル溝によって形成される流体潤滑膜の動圧に、スラスト軸受の内周側の圧力が外周側の圧力より高くなる圧力分布が生じる。
そこで、このスラスト軸受では、ベース板と軸受板との少なくとも一方に凹部を形成し、この凹部の深さを、前記ベース板又は前記軸受板の内周側から外周端に向かって連続的に深くなるように形成し、前記凹部に、該凹部を埋めた状態に第1弾性体を設けているので、前記動圧が高くなる内周側では外周側に比べて第1弾性体の厚さが相対的に薄くなり、したがって内周側では動圧が低くなる外周側に比べて撓み量(弾性変形量)が小さくなる。よって、この動圧が高くなる部位では第1弾性体が必要以上に大きく撓むことがないため、この部位でも流体潤滑膜に所望の動圧が発生され易くなり、軸受の軸受負荷能力の低下が抑制される。
また、特に凹部を形成した面における内周端は、この凹部を形成した面より凹んでいないため、この凹部を形成した面と対向する面に押圧されても弾性変形が生じないことになる。したがって、例えばスラスト荷重(静荷重)が増えても、前記の内周端によって軸受板がベース板側に移動するのが抑制され、これによって回転軸がその軸方向に移動するのが制限されるようになる。
【0011】
また、前記スラスト軸受において、前記凹部は、前記ベース板の前記軸受板に対向する面側に形成されているのが好ましい。
このようにすれば、軸受板には凹部を形成しないためこの軸受板を比較的薄く形成することができ、これによって軽量に形成することが可能になる。したがって、軸受板を軽量に形成することで、その軸受面のスラストカラーに対する動的な追従性を高めることができる。
【0012】
また、前記スラスト軸受においては、前記凹部が設けられた面は、その外周側に配置されて前記凹部を形成する第1面部と、該第1面部より内周側に配置された第2面部とを有し、
前記第2面部上には、前記第1弾性体より剛性が高い第2弾性体が設けられ、
前記第1弾性体と前記第2弾性体とは、前記凹部側を向く面と反対の側の面が面一に形成されていてもよい。
【0013】
前記第2面部は凹部を形成する第1面部に対して凹んでおらず、また、この第2面部に設けられた第2弾性体は第1弾性体より剛性が高いため、この第2弾性体が設けられた内周側は、対向する面に押圧されてもほとんど弾性変形が生じないことになる。したがって、例えばスラスト荷重(静荷重)が増えても、前記の内周端側によって軸受板がベース板側に移動するのが抑制され、これによって回転軸がその軸方向に移動するのが制限されるようになる。
また、前記の内周側は流体潤滑膜の動圧が高くなるものの、この内周側では第2弾性体が必要以上に大きく撓むことがないため、前述したように軸受の軸受負荷能力の低下が抑制される。
【0014】
また、前記スラスト軸受においては、前記凹部が設けられた面は、その外周側に配置されて前記凹部を形成する第1面部と、該第1面部より内周側に配置された第2面部とを有し、
前記第2面部には、該第2面部上に弾性変形可能に突出し、かつ、前記凹部が設けられた面と面一になるまでしか変形しない弾性構造部が設けられていてもよい。
【0015】
前記第2面部に設けられた弾性構造部は、対向する面に押圧されても、凹部が設けられた面と面一になるまでしか変形しない。したがって、例えばスラスト荷重(静荷重)が増えても、弾性構造部が形成された部位によって軸受板がベース板側に移動するのが抑制され、これによって回転軸がその軸方向に移動するのが制限されるようになる。
また、弾性構造部が形成された内周側は流体潤滑膜の動圧が高くなるものの、この内周側では弾性構造部が大きく撓むことがないため、前述したように軸受の軸受負荷能力の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスラスト軸受によれば、スラスト荷重(静荷重)が増えても、前述したように軸受板がベース板側に移動するのが抑制されているので、回転軸がその軸方向に移動するのが十分に制限される。したがって、例えばこのスラスト軸受をターボ機械のインペラを有する回転軸に適用した場合に、回転軸がその軸方向へ移動することで、インペラがその外側のハウジング(静止部)に接触してしまうおそれが無くなる。
また、流体潤滑膜の動圧が高くなる内周側では、例えば第1弾性体が必要以上に大きく撓むことがなく、したがってこの部位でも所望の動圧が発生され易くなるため、軸受の軸受負荷能力の低下を抑制してスラストカラーの振動(面振れ)による傾きをより良好に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るスラスト軸受が適用されるターボ機械の一例を示す模式図である。
【図2】(a)は本発明に係るスラスト軸受の第1実施形態の概略構成を示す側断面図、(b)は(a)に示したスラスト軸受の作用説明図、(c)は(a)に示したスラスト軸受の変形例を示す図である。
【図3】(a)はスパイラル溝を形成した軸受面の平面図、(b)は流体潤滑膜の圧力(動圧)の分布を示すグラフであり、(c)、(d)はスラスト軸受の要部側断面図である。
【図4】(a)は本発明に係るスラスト軸受の第2実施形態の概略構成を示す側断面図、(b)は(a)に示したスラスト軸受の作用説明図、(c)は(a)に示したスラスト軸受の変形例を示す図である。
【図5】第1実施形態のスラスト軸受に対応する変形例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明のスラスト軸受を詳しく説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1は、本発明のスラスト軸受が適用されるターボ機械の一例を示す側面図であり、図1中符号1は回転軸、2は回転軸の先端部に設けられたインペラ、3は本発明に係るスラスト軸受である。
【0019】
回転軸1には、インペラ2が形成された側にスラストカラー4が固定されており、このスラストカラー4の両側には、このスラストカラー4に対向してそれぞれの側にスラスト軸受3が配置されている。
また、インペラ2は静止側となるハウジング5内に配置されており、ハウジング5との間にチップクリアランス6を有している。
また、回転軸1には、スラストカラー4より中央側に、ラジアル軸受7が設けられている。
【0020】
図2(a)は、このような構成のターボ機械に適用されたスラスト軸受の第1実施形態を示す図である。この第1実施形態のスラスト軸受3A(3)は、図1においてインペラ2側に配置されたものである。なお、本実施形態では、図1においてインペラ2側に配置されたスラスト軸受3A(3)も、図1においてスラストカラー4を挟んでその反対側、すなわちラジアル軸受7側に配置されたスラスト軸受3も、同一の構成からなっている。
【0021】
スラスト軸受3A(3)は、回転軸1に固定された円板状のスラストカラー4に対向して配置された円環状(円筒状)のもので、回転軸1に外挿されて設けられたものである。このスラスト軸受3Aは、スラストカラー4に対向して配置されるトップフォイル(軸受板)8と、このトップフォイル8の、前記スラストカラー4に対向する面と反対側の面に対向して配置されたベース板9と、これらトップフォイル8とベース板9との間に配置された二種類の弾性体、すなわち第1弾性体10と第2弾性体11と、を備えて構成されたものである。
【0022】
トップフォイル8は、回転軸1を挿通するための貫通孔8aを有した円環板状のもので、スラストカラー4に対向する面を軸受面8bとしたものである。この軸受面8bには、図3(a)に示すように動圧発生用のスパイラル溝12が形成されている。スパイラル溝12は、公知のポンプイン形のもので、多数の螺旋形溝(スパイラル状の溝)12aを周方向に沿って等間隔に配置したものであり、本実施形態では螺旋形溝12aが全て同一の流入角を有して形成されたものである。ただし、本発明においては、必ずしも螺旋形溝12aが全て同一の流入角を有しておらず、例えば一部の螺旋形溝12aで異なっていたり、さらには一つの螺旋形溝12a内において異なる流入角を有しているような動圧発生用のスパイラル溝であっても、本発明における動圧発生用のポンプイン形スパイラル溝であるものとする。
図3(a)に示すように螺旋形溝12aは、軸受面8bの外周端から、前記貫通孔8aの周囲に設けられた円環状のランド12bにまで延びて形成されている。ランド12bは、螺旋形溝12aの底面に対して相対的に高い位置(外側の位置)に外面を有したものである。なお、螺旋形溝12a、12a間もランド(図示せず)となっている。
【0023】
このような構成によってスパイラル溝12(螺旋形溝12a)は、スラストカラー4に対して軸受面8bが相対的に回転した際(実際にはスラストカラー4が回転する)、軸受面8bの外周側から螺旋形溝12aに沿って内周側に軸受周囲の流体を引き込み、これによってスラストカラー4と軸受面8bとの間に流体潤滑膜を形成するようになっている。また、スパイラル溝12(螺旋形溝12a)によって引き込まれた流体は、ランド12bに衝突することでその流れが遮られ、動圧が保持されるため、特に軸受板8の内周側で圧力が高くなるようになっている。すなわち、スパイラル溝12(螺旋形溝12a)によって形成される流体潤滑膜は、軸受面8bの外周側に比べ、内周側で高くなるような圧力分布を有するものとなっている。
【0024】
図3(b)は、このような流体潤滑膜の圧力(動圧)の分布を示すグラフである。図3(b)中横軸は、図3(a)に示した軸受面8bにおける、中心からの半径方向の距離(位置)を示し(右側に行くほど長くなる)、縦軸は流体潤滑膜の圧力(動圧)を示している(上側に行くほど高くなる)。また、図3(b)のグラフにおける(1)は、図3(a)中のランド12bの内周縁での圧力を示し、(2)は同じくランド12bの外周縁での圧力を示し、(3)は軸受面8bの外周縁での圧力を示している。
【0025】
図3(b)に示すように、軸受面8bの外周縁(3)からランド12bの外周縁(2)までの範囲内においては、外周側から内周側に行くに連れて流体潤滑膜の圧力(動圧)は連続的に高くなるように変化している。また、軸受面8b全体で見ても、ランド12bの外周縁(2)、すなわちスパイラル溝12が形成された領域の内周端で、流体潤滑膜の圧力(動圧)が最も高くなっている。
【0026】
図2(a)に示すようにベース板9は、回転軸1を挿通するための貫通孔9aを有した円環板状(略円筒状)のもので、トップフォイル8における軸受面8bと反対側の面に対向して配置されたものである。このベース板9は、図示しないケーシング等に螺子等で固定されており、これによって固定された状態で保持されている。
【0027】
また、このベース板9の、トップフォイル8に対向する面は、その外周側に配置されて凹部13を形成する第1面部9bと、該第1面部9bより内周側に配置された第2面部9cとを有している。凹部13は、ベース板9の周方向に沿って周全体で連続して形成されている。すなわち、この凹部13は、平面視円環状に形成されている。また、この凹部13は、その深さが、ベース板9の半径方向において、その内周側から外周端に向かって連続的に深くなるように形成されている。したがって、このベース板9は、凹部13によってテーパ面を形成したものとなっている。また、凹部13の内周側の端縁13aは、凹部13を形成した面の内周端14aより外周側に位置している。したがって、前記第2面部9c(凹部13を形成した面の内周端14aから凹部13の内周側の端縁13aまでの間)は、平坦面14となっている。
【0028】
そして、この平坦面14上には第2弾性体11が設けられており、前記凹部13には、該凹部13を埋めた状態に第1弾性体10が設けられている。ただし、第1弾性体10は、凹部13を埋め、さらにその表面(凹部13側を向く面と反対の側の面)が第2弾性体11の表面と面一になるように、凹部13の深さより第2弾性体11の厚さ分、厚く形成されている。ここで、第2弾性体11の厚さは、スラスト軸受3の寸法によっても異なるものの、例えばスラスト軸受3の直径が40mm〜50mm程度である場合、数十μm程度とされる。また、第1弾性体10の最大厚、すなわちベース板9の最外周部での厚さは、数百μm程度とされる。
【0029】
これら第1弾性体10、第2弾性体11は、いずれもゴムや軟質樹脂などによって形成されたもので、例えばシリコーンゴムやシリコーン樹脂などによって形成されている。また、第2弾性体11としては、第1弾性体10より剛性が高いものが用いられている。すなわち、第2弾性体11を形成するゴムや軟質樹脂などは、例えばその硬度が、第1弾性体10を形成するゴムや軟質樹脂などに比べて高くなっている。よって、第2弾性体11は、第1弾性体10に比べて同じ荷重がかかった際の弾性変形量が小さくなり、したがって撓み量が少なくなるようになっている。
【0030】
ここで、ベース板9の、トップフォイル8に対向する面における、第1面部9bの幅(ベース板9の半径方向の長さ)と、第2面部9cの幅(ベース板9の半径方向の長さ)とについては、以下のようにして設計するのが好ましい。
後述するようにスラスト軸受3A(3)による軸受負荷能力を優先させる場合には、平坦面14の幅(半径方向の長さ)を広くして動圧分布図である図3(b)内の(2)の周辺を広く支持し、この(2)周辺での支持剛性を高くする。
【0031】
また、後述するようにスラストカラー4に対する軸受面8bの追従性を優先し、減衰効果をより高めたい場合には、平坦面14の幅(半径方向の長さ)を狭くしてフォイル8が傾き易くなるようにする。
特に、スラストカラー4に対する軸受面8bの追従性を最優先としたい場合には、平坦面14を形成することなく、トップフォイル8に対向する面全体を、凹部13としてもよい。その場合にも、凹部13の内周端(ベース板9の内周端)が凹部13中の他の部位より凹んでいないため、該内周端によって軸受負荷能力が発揮されるようになる。
【0032】
なお、図2(a)に示した構成のスラスト軸受3A(3)の要部を、図3(c)として、先に示した流体潤滑膜の圧力(動圧)の分布を示すグラフである図3(b)とともに示す。図3(b)、(c)に示すように、凹部13と平坦面14との境界が、図3(b)に示す(2)の位置、すなわち図3(a)に示すランド12bの外周縁の位置となる。
さらに、図3(d)には、平坦面14を形成することなく、トップフォイル8に対向する面全体を、凹部13とした場合の、スラスト軸受3A(3)の要部を示す。この図3(d)では、図3(b)に示す(2)の位置より外側に第1弾性体10を配置し、(2)の位置より内側に第2弾性体11を配置している。
【0033】
図2(a)に示した構成からなるスラスト軸受3A(3)を形成するには、例えば凹部13を形成したベース板9に対して、その平坦面14上に第2弾性体11の形成材料を、また、凹部13上(内)に第1弾性体10の形成材料をそれぞれ所定量配し、さらにその上にスパイラル溝12を形成したトップフォイル8を載せる。そして、適宜な圧力で加圧しつつ加熱することにより、第1弾性体10の形成材料、第2弾性体11の形成材料を共に硬化させる。これにより、第1弾性体10、第2弾性体11を形成するとともに、これら第1弾性体10、第2弾性体11をベース板9、トップフォイル8の双方に接着させる。これにより、トップフォイル8、第1弾性体10及び第2弾性体11、ベース板9が一体化されてなる、図2(a)に示した構造のスラスト軸受3A(3)が得られる。
【0034】
次に、このような構成からなるスラスト軸受3の作用について説明する。
回転軸1が高速で回転すると、スラストカラー4とトップフォイル8の軸受面8bとの間に、スパイラル溝12で形成された動圧によって流体潤滑膜が形成され、これによってスラスト軸受3A(3)は、形成された流体潤滑膜を介してスラストカラー4を支持するようになる。なお、形成された流体潤滑膜の動圧は、前述したようにスラスト軸受3A(3)の内周側で高く、外周側で低くなっている。
【0035】
また、回転軸1は、回転軸が有する不釣合い、外部環境の影響および運転状態などによってその回転が回転中心から僅かながらぶれて振動することがあり、その場合にはこれに固定されているスラストカラー4も僅かながら振動して面振れし、図2(b)に示すように瞬間的には傾いた状態となる。
その際、本実施形態のスラスト軸受3A(3)にあっては、ベース板9に凹部13を形成し、この凹部13の深さを内周側から外周端に向かって連続的に深くなるように形成し、さらに凹部13には第1弾性体10を設け、内周側の平坦面14上には第1弾性体10より剛性が高い第2弾性体11を設けている。
【0036】
したがって、前記動圧が高くなる内周側では外周側に比べて第2弾性体11の厚さが第1弾性体10に比べて相対的に薄くなり、しかも第2弾性体11は第1弾性体10より剛性が高いため、内周側の第2弾性体11は動圧が低くなる外周側の第1弾性体10に比べて撓み量(弾性変形量)が小さくなる。また、第1弾性体10についても、内周側では外周側に比べて厚さが薄くなるため、内周側ではその撓み量(弾性変形量)が小さくなる。
【0037】
よって、この動圧が高くなる内周側では第2弾性体11や第1弾性体10が必要以上に大きく撓むことがないため、動圧が高くなる内周側においても、流体潤滑膜に所望の動圧が発生されるようになり、スラスト軸受3A(3)はその軸受負荷能力の低下が抑制されたものとなる。また、外周側の第1弾性体10は内周側よりも撓み易くなっているので、軸受面8bはスラストカラー4に良好に追従し、図2(b)の左側に示すように、スラストカラー4とトップフォイル8の軸受面8bとの間の流体潤滑膜の厚さ(スラストカラー4とトップフォイル8の軸受面8bとの隙間)が一定に保たれ、流体潤滑膜が破断し難くなる。すなわち、外周側が撓み易くなっているのでスラストカラーの傾きに追従できる。
【0038】
また、凹部13の内周側には平坦面14が形成されており、この平坦面14に設けられた第2弾性体11は第1弾性体10より剛性が高いため、この第2弾性体11が設けられた内周端側は、トップフォイル8に押圧されてもほとんど弾性変形が生じない(撓まない)ことになる。したがって、例えばスラスト荷重(静荷重)が増えても、内周端側(平坦面14側)によってトップフォイル8がベース板9側に移動するのが抑制され、これによって回転軸1がその軸方向に移動するのが制限されるようになる。
【0039】
したがって、本実施形態のスラスト軸受3A(3)によれば、スラスト荷重(静荷重)が増えても、前述したようにトップフォイル8がベース板9側に移動するのが抑制されているので、回転軸1がその軸方向に移動するのが十分に制限される。よって、図1に示したようにこのスラスト軸受3をターボ機械のインペラ2を有する回転軸1に適用した場合に、回転軸1がその軸方向に沿って図1中矢印方向に移動することで、インペラ3がその外側のハウジング(静止部)5に接触してしまうおそれが無くなる。
また、流体潤滑膜の動圧が高くなる内周側では、第2弾性体11が必要以上に大きく撓むことがなく、したがってこの内周側でも前記流体潤滑膜に所望の動圧が発生されるため、軸受3A(3)の軸受負荷能力の低下を抑制することができ、また、内周側に比べると外周側は撓み易くなっているので、スラストカラー4の振動(面振れ)による傾きをより良好に吸収することができる。
【0040】
さらに、ベース板9のトップフォイル(軸受板)8に対向する面側に凹部13を形成し、トップフォイル8には凹部を形成していないので、このトップフォイル8を比較的薄く形成することができ、これによって軽量に形成することが可能になる。したがって、トップフォイル8を軽量に形成することで、その軸受面8bのスラストカラーに対する動的な追従性を高めることができる。
【0041】
なお、前記実施形態では、図2(a)、(b)に示したように、凹部13の底面を平坦な傾斜面としたが、本発明はこれに限定されることなく、凹部13はその深さがベース板9の内周側から外周端に向かって連続的に深くなるように形成されていれば、図2(c)に示すように湾曲してなる湾曲面であってもよい。この湾曲面の形状については、特に限定されないものの、例えばスラスト軸受3の形状や寸法、回転軸1の運転条件などに基づいたシミュレーションにより、図3(b)に示したようなグラフを求めておき、このグラフから得られる半径方向の距離と動圧との関係に対応して、設計するのが好ましい。
【0042】
図4(a)は、図1に示したターボ機械に適用されたスラスト軸受の第2実施形態を示す図である。この第2実施形態のスラスト軸受3B(3)は、図1においてインペラ2側に配置されたものである。なお、本実施形態でも、図1においてインペラ2側に配置されたスラスト軸受3B(3)と、図1においてラジアル軸受7側に配置されたスラスト軸受3B(3)とは、同一の構成からなっている。
【0043】
図4(a)に示したスラスト軸受3B(3)が、図2(a)に示したスラスト軸受3A(3)と異なるところは、ベース板9の凹部13を形成した面における、前記第2面部9c(凹部13を形成した面の内周端14aから凹部13の内周側の端縁13aまでの間)の構成にある。
すなわち、図4(a)に示したスラスト軸受3B(3)では、第2面部9cに、弾性構造部15が設けられている。
【0044】
弾性構造部15は、凹部13を形成した面の内周端14aと凹部13の内周側の端縁13aとの間に形成された溝16と、該溝16内に埋設された第3弾性体17と、この第3弾性体17上に配設された第4弾性体18とからなっている。溝16は、ベース板9の貫通孔9aの外周に沿って形成されたもので、平面視円環状のものである。第3弾性体17は、溝16内をちょうど埋設する大きさ・形状に形成されたもので、前記第2弾性体11と同様に、第1弾性体10より高い剛性を有したものである。したがって、第3弾性体17は、第2弾性体11と同じ材質からなっていてもよい。
【0045】
第4弾性体18も、第1弾性体10より高い剛性を有したものであり、したがって第2弾性体11や第3弾性体17と同じ材質からなっていてもよい。また、この第4弾性体18は、ベース板9の凹部13を形成した面より突出して設けられたもので、環状に形成されたものである。
【0046】
この第4弾性体18は、トップフォイル8を直接支持し、したがって前記の流体潤滑膜の動圧によって押圧されるようになっている。その際、この第4弾性体18とこれを支持する第3弾性体17とは、最大につぶれても(変形しても)、溝16の周囲がベース板9の面になっているため、この面と面一になるまでしかつぶれない(変形しない)、すなわち弾性変形しないようになっている。
【0047】
したがって、本実施形態のスラスト軸受3B(3)にあっては、スラスト荷重(静荷重)が増えても、弾性構造部15が形成された部位によってトップフォイル8がベース板9側に移動するのが抑制され、これによって回転軸1がその軸方向に移動するのが制限されるようになる。
【0048】
また、回転軸1が振動し、スラストカラー4も振動し面振れして図4(b)に示すように瞬間的に傾いた状態になっても、凹部13の深さを内周側から外周端に向かって連続的に深くなるように形成し、さらに凹部13には第1弾性体10を設け、凹部13より内周側には弾性構造部15を設けているので、内周側の第1弾性体10や内周側の弾性構造部15は、動圧が低くなる外周側の第1弾性体10に比べて撓み量(弾性変形量)が小さくなる。
【0049】
よって、この動圧が高くなる内周側では弾性構造部15や第1弾性体10が必要以上に大きく撓むことがないため、動圧が高くなる内周側においても、流体潤滑膜に所望の動圧が発生されるようになり、スラスト軸受3B(3)はその軸受負荷能力の低下が抑制されたものとなる。また、外周側の第1弾性体10は内周側よりも撓み易くなっているので、軸受面8bはスラストカラー4に良好に追従し、図4(b)に示したようにスラストカラー4とトップフォイル8の軸受面8bとの間の流体潤滑膜の厚さ(スラストカラー4とトップフォイル8の軸受面8bとの隙間)が一定に保たれ、流体潤滑膜が破断し難くなる。
【0050】
したがって、本実施形態のスラスト軸受3B(3)によれば、スラスト荷重(静荷重)が増えても、前述したようにトップフォイル8がベース板9側に移動するのが抑制されているので、回転軸1がその軸方向に移動するのが十分に制限される。よって、図1に示したようにこのスラスト軸受3をターボ機械のインペラ2を有する回転軸1に適用した場合に、回転軸1がその軸方向に沿ってインペラ2側に移動することで、インペラ3がその外側のハウジング(静止部)5に接触してしまうおそれが無くなる。
また、流体潤滑膜の動圧が高くなる内周側では、弾性構造部15や第1弾性体10が必要以上に大きく撓むことがなく、したがってこの内周側でも前記流体潤滑膜に所望の動圧が発生されるため、軸受3B(3)の軸受負荷能力の低下を抑制することができ、また、内周側に比べると外周側は撓み易くなっているので、スラストカラー4の振動(面振れ)による傾きをより良好に吸収することができる。
【0051】
さらに、ベース板9のトップフォイル(軸受板)8に対向する面側に凹部13を形成し、トップフォイル8には凹部を形成していないので、前述したようにこのトップフォイル8を比較的薄く、軽量に形成することが可能になる。したがって、トップフォイル8を軽量に形成することで、その軸受面8bのスラストカラーに対する追従性を高めることができる。
【0052】
なお、この実施形態においても、図4(a)、(b)に示したように凹部13の底面を平坦な傾斜面としたが、第1実施形態のスラスト軸受3A(3)と同様に、凹部13はその深さがベース板9の内周側から外周端に向かって連続的に深くなるように形成されていれば、図4(c)に示すように湾曲してなる湾曲面であってもよい。その際の湾曲面の形状についても、シミュレーション等によって図3(b)に示したようなグラフを求め、このグラフから得られる半径方向の距離と動圧との関係に対応して、設計するのが好ましい。
また、この実施形態では、第3弾性体17と第4弾性体18とを別に形成したが、これらを同一材料によって一体に形成してもよい。
【0053】
また、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、前記実施形態では、凹部13をベース板9のトップフォイル(軸受板)8に対向する面側に形成したが、軸受板のベース板に対向する面側に形成してもよく、さらには、これらの両方に凹部を形成してもよい。
【0054】
例えば、第1実施形態に対応する例として、図5に示すように軸受板19の外周側(第1面部)に凹部20を形成し、該凹部20内に第1弾性体21を埋設し、さらに、凹部20の内周側の平坦面(第2面部)22に第2弾性体23を設けた構成としてもよい。このような構成としても、第1実施形態と同様、回転軸1の軸方向への動きを十分に制限することができ、また、スラストカラー4の振動(面振れ)による傾きをより良好に吸収することができる。
【0055】
また、前記の平坦面14(22)や弾性構造部15を形成することなく、図3(d)に示したように凹部13(20)を、ベース板9や軸受板19の内周端から外周端にかけて全体に形成してもよい。その場合には、第2弾性体11(23)や第3弾性体17、第4弾性体18を設けることなく、凹部13(20)内に第1弾性体10(21)のみを埋設させ、または第1弾性体10(21)と第2弾性体11(23)とを共に埋設させることができる。
【符号の説明】
【0056】
1…回転軸、3(3A、3B)…スラスト軸受、4…スラストカラー、8…トップフォイルイ(軸受板)、8b…軸受面、9…ベース板、9b…第1面部、9c…第2面部、10、21…第1弾性体、11、23…第2弾性体、12…スパイラル溝、13、20…凹部、14、22…平坦面、15…弾性構造部、16…溝、17…第3弾性体、18…第4弾性体、19…軸受板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に設けられたスラストカラーに対向して配置されるスラスト軸受であって、
前記スラストカラーに対向して配置される円環状の軸受板と、
前記軸受板の、前記スラストカラーに対向する面と反対側の面に対向して配置されて、該軸受板を支持する円環状のベース板とを備え、
前記軸受板の前記スラストカラーに対向する面には、動圧発生用のポンプイン形スパイラル溝が形成され、
前記ベース板の前記軸受板に対向する面側と、前記軸受板の前記ベース板に対向する面側との少なくとも一方には、その周方向に沿って連続する凹部が設けられ、
前記凹部の深さが、前記ベース板又は前記軸受板の半径方向において、その内周側から外周端に向かって連続的に深くなるように形成され、
前記凹部には、該凹部を埋めた状態に第1弾性体が設けられていることを特徴とするスラスト軸受。
【請求項2】
前記凹部は、前記ベース板の前記軸受板に対向する面側に形成されていることを特徴とする請求項1記載のスラスト軸受。
【請求項3】
前記凹部が設けられた面は、その外周側に配置されて前記凹部を形成する第1面部と、該第1面部より内周側に配置された第2面部とを有し、
前記第2面部上には、前記第1弾性体より剛性が高い第2弾性体が設けられ、
前記第1弾性体と前記第2弾性体とは、前記凹部側を向く面と反対の側の面が面一に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスラスト軸受。
【請求項4】
前記凹部が設けられた面は、その外周側に配置されて前記凹部を形成する第1面部と、該第1面部より内周側に配置された第2面部とを有し、
前記第2面部には、該第2面部上に弾性変形可能に突出し、かつ、前記凹部が設けられた面と面一になるまでしか変形しない弾性構造部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスラスト軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−127443(P2012−127443A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280555(P2010−280555)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】