説明

スルークリップ

【目的】この発明は、1種類のスルークリップによって、スルー幅の異なる複数種類のコネクタハウジングを車体のパネル係止孔に固定することができるような、スルークリップを提供することを目的とする。
【解決手段】スルークリップ100のベース部110の一方の面には、車体パネルに設けられた係止孔に係止して固定されるアンカー部120を備え、他方の面には、コネクタハウジング200の嵌合凹溝210A、210Bにスライドして取り付けられる、1対の嵌合凸条130A、130Bを備え、嵌合凸条130Aと130Bの幅が、弾性的に可変になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタのハウジングを車体パネル等に設けられた係止孔に固定する、取り付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に用いられるワイヤハーネス等のコネクタハウジングを、車体パネル等に設けられた係止孔に固定する取り付け構造として、特許文献1に記載されたスルークリップが知られている。図7は、特許文献1に開示されたスルークリップを示したものである。コネクタハウジング400に設けられた1対の嵌合凹溝420A、420Bに対して、スルークリップ300の1対の嵌合凸条330A、330Bがスライドして嵌合するようになっている。
【0003】
コネクタハウジング400の外面において、2個の倒L字型断面状のガイドレール410A、410Bが、L字の底辺が互いに向かい合うように並列に設けられることで、1対の嵌合凹溝420A、420Bが形成されている。
【0004】
また、スルークリップ300は、ベース310の一方の面に、車体のパネル500に設けられた係止孔510に固定できるアンカー320を備え、他方の面に、2個のL字型断面状の嵌合凸条330A、330Bが、L字の底辺が互いに外向きになるように並列に設けられることで、1対の嵌合凸条330A、330Bを形成している。
【0005】
また、コネクタハウジング400の外面でガイドレール410Aと410Bの間には、抜け止めのための係止突起430が備えられている。スルークリップ300とコネクタハウジング400とがスライドして嵌合されると、係止突起430がスルークリップ300の下面にあって図示されない係止爪と係合することによって抜け止めとなる。
【0006】
ここで、コネクタハウジング400側の1対の嵌合凹溝420A、420Bの間隔(スルー幅WA)と、スルークリップ300側の1対の嵌合凸条330A、330Bの幅WBが、略一致している。ここで略一致とは、スライドして嵌合させるのに必要最小限の隙間を持ち、かつ十分な固定力を発揮できる程度に一致していることを示す。これにより、コネクタハウジング400とスルークリップ300の取り付けが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−082423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コネクタハウジングは、コネクタのサイズや、必要とされる取り付け強度によって、スルー幅が異なる種類のものがある。例えば、コネクタの仕様の違いによって、スルー幅には、9mm、17mm、23mmなどの種類がある。そのため、スルークリップ側も、スルー幅の種類に合わせて、嵌合凸条の幅の異なる種類のものを用意する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための、本発明のスルークリップの構成は、以下のようなものである。請求項1に記載の発明は、コネクタハウジングをパネルに固定するために用いられ、板状のベース部と、前記ベース部の一方の面に形成されたアンカー部と、前記ベース部の他方の面に形成された1対の嵌合凸条とを備え、前記1対の嵌合凸条が、前記コネクタハウジングの外面に設けられた1対の嵌合凹溝にスライドして嵌合し、前記アンカー部が、前記パネルに設けられた係止孔に係止されるスルークリップであって、前記1対の嵌合凸条の幅が可変であることを特徴とする、スルークリップである。
【0010】
この構成によれば、1対の嵌合凹溝には、1対の嵌合凸条つまり2個の嵌合凸条が対応する。ここで、スルークリップ単体の状態では、嵌合凸条の幅を広く成形しておく。スルークリップを変形可能な樹脂等で成形することにより、嵌合凸条の幅を圧縮して狭めることができる。
【0011】
そこで、スルー幅の広い嵌合凹溝対を持つコネクタハウジングに対しては、スルークリップの嵌合凸条対をそのまま嵌合し、スルー幅の狭い嵌合凹溝対を持つコネクタハウジングに対しては、スルークリップの嵌合凸条対の幅を圧縮して狭めた状態で嵌合する。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記嵌合凸条が、支柱部、弾性的に変形可能な変形部、前記嵌合凹溝に嵌合する直条部からなり、前記支柱部が前記ベース部から突出し、前記変形部の一端が前記支柱部から延出するとともに、前記直条部が前記変形部の他端に設けられ、前記変形部と前記直条部はベース部に略平行に形成され、前記変形部および前記直条部が前記ベース部に対して変位することにより、前記1対の嵌合凸条の幅が可変であることを特徴とする、請求項1に記載のスルークリップである。
【0013】
この構成によれば、支柱部はベース部に固定され、変形部と直条部はベース部から浮いているので、嵌合凸条がベース部に固定されながら、変形部が変形し、直条部が変位することが可能になる。また、直条部がベース部に平行を保ったまま変位することも容易になる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、前記支柱部がスライド方向前方部で前記ベース部上から突出し、前記変形部が前記支柱部から湾曲して延出し、前記直条部が前記変形部からスライド方向後方部に向かって延出し、前記1対の嵌合凸条が、平面視で略U字型に形成されていることを特徴とする、請求項2に記載のスルークリップである。
【0015】
この構成によれば、嵌合凸条対の支柱部が先頭になるように、コネクタハウジングの嵌合凹溝対にスライドして嵌合する。そのため、スルークリップをスルー幅の狭いコネクタハウジングに嵌合する際、嵌合凸条対の幅を事前に圧縮しなくても、嵌合凹溝によって押され、自然に圧縮されて幅が狭められる。
【0016】
また、樹脂の射出成形によって製造する場合、単純な金型でベース部、支柱部、変形部、直条部を一体成形することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、1種類の形状のスルークリップによって、スルー幅の異なる複数種類のコネクタハウジングを、車体のパネルに設けられた係止孔に固定することができる。これにより、複数種類のスルークリップを準備する必要がなくなるので、金型コストや部品管理コストを低減することができる。また、1種類の部品を大量に使用するため、量産効果によりスルークリップの成形コストも低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態であるスルークリップを示す図。
【図2】本発明の第1の実施形態であるスルークリップとコネクタハウジングの嵌合状態を示す図。
【図3】本発明の第1の実施形態であるスルークリップの、嵌合凸条対の幅の変化を示す図。
【図4】本発明の第2の実施形態であるスルークリップの、嵌合凸条対の幅の変化を示す図。
【図5】本発明の第2の実施形態であるスルークリップの、直条部のスライド方向前方端部を示す部分拡大図。
【図6】本発明の第3の実施形態であるスルークリップの、嵌合凸条対の幅の変化を示す図。
【図7】従来技術のスルークリップによってコネクタハウジングを車体のパネル係止孔に固定する状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態であるスルークリップ100の概略図である。図1(a)はスルークリップ100の正面図、図1(b)はスルークリップ100を上方から見た斜視図、図1(c)はスルークリップ100を下方から見た斜視図である。
【0020】
スルークリップ100は、射出成形された樹脂からなり、板状のベース部110と、ベース部110の一方の面に形成され、車体のパネルの係止孔に係止して固定されるアンカー部120と、ベース部110の他方の面に形成され、並列に配置された1対の嵌合凸条130A、130Bを備えている。
【0021】
嵌合凸条130A、130Bは、それぞれ支柱部130A1、130B1がスライド方向前方でベース部110に固定され、支柱部130A1、130B1から曲線状の変形部130A2、130B2が延出し、さらにスライド方向後方に向かって直線状の直条部130A3、130B3が延びている。
【0022】
ここで、スライド方向前方とは、スルークリップ100をコネクタハウジング200等に嵌合させる際に、スルークリップ100がコネクタハウジング200等に向かう側を指す。
【0023】
変形部130A2、130B2、直条部130A3、130B3は、ベース部110と略平行に形成されている。また、嵌合凸条130A、130Bは、支柱部130A1、130B1以外の部分ではベース部110に固定されておらず、変形部130A2、130B2、直条部130A3、130B3はベース部110に対して変位可能となっている。
【0024】
また、ベース部100の嵌合凸条130Aと130Bの間には、係止爪140が突出して設けられている。
【0025】
図2(a)、図2(b)は、スルークリップ100が、2種類のコネクタハウジング200、201にそれぞれスライドして取り付けられた状態を示す正面図である。図2(a)では、コネクタハウジング200は幅が広いので、ガイドレール210Aと210Bからなる1対の嵌合凹溝220A、220Bの間隔(スルー幅W1)も広い。そのため、直条部130A3と130B3の幅は圧縮されず、スルークリップ100に外力がかからない状態での直条部130A3と130B3の幅W2のまま、ガイドレール210A、210Bに取り付けられる。
【0026】
また、コネクタハウジング200の外面で嵌合凹溝220Aと220Bの間には、係止突起230が突出して設けられている。係止突起230は、スルークリップ100がコネクタハウジング200にスライドして取り付けられる際には、弾性的に変形して係止爪140の通過を許容し、取り付け完了時には、係止爪140に係合することで抜け止めとなる。係止爪140と係止突起230はなくても良く、図示しない他の形態の抜け止め機構であっても良い。
【0027】
図2(b)では、コネクタハウジング201は幅が狭いので、ガイドレール211Aと211Bからなる1対の嵌合凹溝221A、221Bの間隔(スルー幅W3)も狭くなっている。そのため、直条部130A3と130B3の幅は、幅W4に圧縮され、ガイドレール211A、211Bに取り付けられる。
【0028】
また、コネクタハウジング201には、係止突起231が設けられているが、係止突起231と係止爪140の関係は、図2(a)の場合と同様であるので、説明を省略する。
【0029】
図3(a)、図3(b)は、スルークリップ100を下方から見た斜視図であり、嵌合凸条130Aと130Bの幅がW2とW4の間で変化する様子を示している。図3(a)は、図2(a)のときのスルークリップ100の状態に対応し、図3(b)は、図2(b)のときのスルークリップ100の状態に対応する。
【0030】
図3(a)では、スルークリップ100に外力はかかっておらず、嵌合凸条130Aと130Bは、成形されたままの形状である。図3(b)では、嵌合凸条130Aと130Bが、幅方向に圧縮された状態であり、変形部130A2、130B2が弾性的に変形することによって、W4がW2と比べて狭くなっている。
【0031】
以上のように、2種類のコネクタハウジング200、201を車体のパネルの係止孔に固定する際に、1種類のスルークリップ100によって対応することができる。
【0032】
また、嵌合凸条130Aと130Bの幅は、W2とW4の2通りに限らず、変形部130A2、130B2の変形可能な範囲内で無段階に可変であるので、その範囲内であれば、多数種のコネクタハウジングに対応できる。
【0033】
図4は、本発明の第2の実施形態であるスルークリップ101を下方から見た斜視図である。スルークリップ101において、嵌合凸条131A、131Bの支柱部131A1、131B1は、スライド方向前方部でベース部111に固定されている。
【0034】
変形部131A2、131B2は、平面視で略平行四辺形状になっており、支柱部131A1、131B1からスライド方向に斜め後方に延出している。さらに変形部131A2、131B2の外側には直線状の直条部131A3、131B3がスライド方向に平行に設けられている。
【0035】
さらに、直条部131A3,131B3のスライド方向前方端部には、コネクタハウジング200等のガイドレール210A等に進入しやすくするために、面取り部Cを備えている。その他の点は、第1の実施形態とほぼ同様である。
【0036】
図4では、図3と同様に、嵌合凸条131Aと131Bの幅が、W5とW6の間で変化する様子を示している。図4(a)では、スルークリップ101に外力がかかっておらず、嵌合凸条131Aと131Bは、成形されたままの形状である。図4(b)では、嵌合凸条131Aと131Bが、幅方向に圧縮された状態であり、変形部131A2、131B2が弾性的に変形してつぶれた平行四辺形になることによって、W6がW5と比べて狭くなっている。
【0037】
スルークリップ101を、幅の異なるコネクタハウジングにスライドして取り付けたときの状態は、実施形態1の図2の場合と同様なので、説明を省略する。
【0038】
本実施形態では、嵌合凸条131Aと131Bが変形しても、直条部131A3と131B3を平行に保ちやすいという特徴がある。
【0039】
図5は、本発明の第2の実施形態であるスルークリップ101の、直条部131A3,131B3のスライド方向前方端部を示す部分拡大図である。図5(b)は、図4と同様の形態であり、面取り部Cを備えている。
【0040】
面取り部の形態は適宜変更可能であり、図5(a)のように面取り部を備えていなくても良く、図5(c)のように面取り部C2を広く取っても良い。この場合、直条部131A3がスライド方向前方端部で内側に曲がっていることで、面取り部C2を直条部131A3の幅を超えて広くすることもできる。
【0041】
図6は、本発明の第3の実施形態であるスルークリップ102を下方から見た斜視図である。スルークリップ102において、嵌合凸条132A、132Bの支柱部132A1、132B1は、ベース部112のスライド方向中央付近でベース部112に固定されている。
【0042】
変形部132A2、132B2は、平面視で略V字状になっており、それぞれV字の角が支柱部132A1、132B1に固定されている。さらに変形部132A2、132B2の外側には直線状の直条部132A3、132B3がスライド方向に平行に設けられている。
【0043】
さらに、直条部132A3,132B3のスライド方向前方端部には、コネクタハウジング200等のガイドレール210A等に進入しやすくするために、面取り部Cを備えている。面取り部の形態は、図5に示す第2の実施形態の場合と同様に、適宜変更可能である。その他の点は、第1の実施形態とほぼ同様である。
【0044】
図6では、図3と同様に、嵌合凸条132Aと132Bの幅が、W7とW8の間で変化する様子を示している。図6(a)では、スルークリップ102に外力がかかっておらず、嵌合凸条132Aと132Bは、成形されたままの形状である。図6(b)では、嵌合凸条132Aと132Bが、幅方向に圧縮された状態であり、変形部132A2、132B2が弾性的に変形して波状につぶれることによって、W8がW7と比べて狭くなっている。
【0045】
スルークリップ102を、幅の異なるコネクタハウジングにスライドして取り付けたときの状態は、実施形態1の図2の場合と同様なので、説明を省略する。
【0046】
本実施形態では、嵌合凸条132Aと132Bが変形しても、直条部132A3と132B3を平行に保ちやすいという特徴がある。
【0047】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、嵌合凸条の形態、特に支柱部の形態、変形部の形態等は、適宜変更可能である。それにより、1種類のスルークリップで対応が要求されるコネクタハウジングの種類に合わせて、嵌合凸条の幅の可変域を広げたり、嵌合凸条の平行度や強度を向上させたり、成形しやすくすること等が可能である。
【符号の説明】
【0048】
100、101、102・・・スルークリップ
110、111、112・・・ベース部
120、121、122・・・アンカー部
130A、130B、131A、131B、132A、132B・・・嵌合凸条
130A1、130B1、131A1、131B1、132A1、132B1・・・支柱部
130A2、130B2、131A2、131B2、132A2、132B2・・・変形部
130A3、130B3、131A3、131B3、132A3、132B3・・・直条部
C、C2・・・面取り部
140、141、142・・・係止爪
200、201・・・コネクタハウジング
210A、210B、211A、211B・・・ガイドレール
220A、220B、221A、221B・・・嵌合凹溝
230、231・・・係止突起
W1、W3・・・1対の嵌合凹溝の間隔(スルー幅)
W2、W4、W5、W6、W7、W8・・・1対の嵌合凸条の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタハウジングをパネルに固定するために用いられ、
板状のベース部と、
前記ベース部の一方の面に形成されたアンカー部と、
前記ベース部の他方の面に形成された1対の嵌合凸条とを備え、
前記1対の嵌合凸条が、前記コネクタハウジングの外面に設けられた1対の嵌合凹溝にスライドして嵌合し、前記アンカー部が、前記パネルに設けられた係止孔に係止されるスルークリップであって、
前記1対の嵌合凸条の幅が可変であることを特徴とする、スルークリップ。
【請求項2】
前記嵌合凸条が、支柱部、弾性的に変形可能な変形部、前記嵌合凹溝に嵌合する直条部からなり、
前記支柱部が前記ベース部から突出し、
前記変形部の一端が前記支柱部から延出するとともに、前記直条部が前記変形部の他端に設けられ、
前記変形部と前記直条部はベース部に略平行に形成され、
前記変形部および前記直条部が前記ベース部に対して変位することにより、前記1対の嵌合凸条の幅が可変であることを特徴とする、
請求項1に記載のスルークリップ。
【請求項3】
前記支柱部がスライド方向前方部で前記ベース部上から突出し、
前記変形部が前記支柱部から湾曲して延出し、
前記直条部が前記変形部からスライド方向後方部に向かって延出し、
前記1対の嵌合凸条が、平面視で略U字型に形成されていることを特徴とする、
請求項2に記載のスルークリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−244757(P2010−244757A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90255(P2009−90255)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】