ズームレンズ
【課題】屈折力可変素子を用いたズームレンズにおいて、安定的な光学性能を実現する。
【解決手段】屈折力可変素子101と、絞り103とを有するズームレンズ100であって、屈折力可変素子101は、絞り103の光入射側に配置されており、ズームレンズ100の第1面107から結像面108までの距離をTaとし、屈折力可変素子101の最も絞りに近い屈折力可変面109から絞り103までの距離をTbとするとき、Tb/Ta<0.22の条件を満たす。
【解決手段】屈折力可変素子101と、絞り103とを有するズームレンズ100であって、屈折力可変素子101は、絞り103の光入射側に配置されており、ズームレンズ100の第1面107から結像面108までの距離をTaとし、屈折力可変素子101の最も絞りに近い屈折力可変面109から絞り103までの距離をTbとするとき、Tb/Ta<0.22の条件を満たす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折力可変素子を備えるズームレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体の界面の形状を制御することにより屈折力を変化させることができる屈折力可変素子(可変焦点素子)が知られている。例えば、特許文献1は、屈折率が互いに異なる導電性液体と絶縁性液体との接触面(界面)を変形可能な可変焦点レンズを開示している。特許文献2は、2つの屈折力可変素子を利用したズームレンズを開示している。特許文献3は、1つの屈折力可変素子と1つの切り替え型の屈折力可変素子とを用いたズームレンズを開示している。この切り替え型の屈折力可変素子は、固体のレンズの射出側に空洞を設け、この空洞内で気体や液体を入れ替えることで素子全体の屈折力を変化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−178469号公報
【特許文献2】特表2008−541184号公報
【特許文献3】特表2007−518130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2、3に開示されたズームレンズでは、屈折力可変素子は、光学系の最も物体(被写体)側に配置されている。しかしながら、屈折力可変素子は、光学系の最も物体側に配置されることで、外界の影響を受けやすくなる。例えば、直射日光が屈折力可変素子に当たると、影になる部分と日光の当たる部分とで温度差が生じ、内部の液体に対流が起こる。これにより、屈折力可変素子の光学特性が不安定になる。この影響は、屈折力可変素子の可変面が大きくなるほど顕著に現れる。
【0005】
本発明は、外界の影響による屈折力可変素子の光学特性の変化が小さいズームレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のズームレンズは、屈折力可変素子と、絞りとを有するズームレンズであって、屈折力可変素子は、絞りの光入射側に配置されており、ズームレンズの第1面から結像面までの距離をTaとし、屈折力可変素子の絞りに最も近い屈折力可変面から絞りまでの距離をTbとするとき、Tb/Ta<0.22の条件を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外界の影響による屈折力可変素子の光学特性の変化が小さいズームレンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係るズームレンズのレンズ断面図である。
【図2】第1実施形態に係る屈折力可変素子の構成を示す概略図である。
【図3】第1実施形態に係るズームレンズの各面番号を示す図である。
【図4】第1実施形態に係るズームレンズの効果を示す縦収差図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るズームレンズのレンズ断面図である。
【図6】第2実施形態に係る屈折力可変素子の構成を示す概略図である。
【図7】第2実施形態に係るズームレンズの各面番号を示す図である。
【図8】第2実施形態に係るズームレンズの効果を示す縦収差図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係るズームレンズのレンズ断面図である。
【図10】第3実施形態に係るズームレンズの各面番号を示す図である。
【図11】第3実施形態に係るズームレンズの効果を示す縦収差図である。
【図12】他の実施形態に係る屈折力可変素子の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係るズームレンズについて説明する。図1は、本実施形態に係るズームレンズのレンズ断面図である。図1(a)は、広角端(Wide)におけるズームレンズ100のレンズ断面図を示し、図1(b)は、望遠端(Tele)におけるズームレンズ100のレンズ断面図を示している。このズームレンズ100は、物体(被写体)側から順に、第1屈折力可変素子101と、第1固定レンズ102と、絞り103と、第2固定レンズ104と、第2屈折力可変素子105と、第3固定レンズ106とを備える。以下、屈折力(光学的パワー)は、焦点距離の逆数に対応したレンズの特性値として用いる。
【0011】
図2は、第1及び第2屈折力可変素子101、105の構成を示す概略断面図である。本実施形態のズームレンズ100に採用する屈折力可変素子101(105)は、3種類の液体を使用し、該3種類の液体で形成された2つの界面をエレクトロウェッティング方式にて制御するものである。以下、このように液体の界面の形状を変化させることによって屈折力を変化させることができる屈折力可変素子を、単に「液体レンズ」と表記する。液体レンズ101(105)は、略円筒形の筐体200を有し、該筐体200の内部に、光入射側から順に、第1液体201、第2液体202、及び第3液体203の3種類の液体を光軸方向に3層配置する。この3種類の液体としては、第1液体201と第2液体202、また、第2液体202と第3液体203とで形成される2箇所の界面において、互いに混ざり合わずに、かつ、異なる屈折率を有する物質を採用する。例えば、第1液体201、第3液体203として、水や電解水溶液を採用し、第2液体202として、油等を採用する。以下、第1液体201と第2液体202とで形成される界面を第1界面204と表記し、一方、第2液体202と第3液体203とで形成される界面を第2界面205と表記する。更に、液体レンズ101は、2箇所の電極206、207と、電極分離部208と、カバーガラス209、210とを備える。電極206、207は、外部からの電圧供給に基づいて、第1界面204及び第2界面205をそれぞれ独立に制御するための電極である。この電極206、207は、それぞれ金属電極層と絶縁層との2層で構成された平板を円環とした形状を有する。電極206、207は、図2に示すように、印加された電圧により各界面と電極との接触角を制御することで各界面の面形状を変化させ、液体レンズ101の全体の屈折力を変化させる。電極分離部208は、電極206と電極207との相対する位置に配置されており、各電極206、207を独立に電圧制御可能とする絶縁部材で構成されている。カバーガラス209、210は、一方が液体レンズ101の光入射側に、他方が光出射側に配置され、各液体201〜203を液体レンズ101内に封止するガラス板である。
【0012】
このような液体レンズでは、液体の温度差によって対流が生じるため、所望の光学特性が安定的に得られない場合がある。ズームレンズの物体側や像面側の端部に配置されている光学素子ほど、外界の影響を受けやすい。また、液体レンズの外形が大きいほど、液体の温度差が大きくなりやすく、光学性能が低下しやすい。そこで、本実施形態では、ズームレンズ100において、物体側に配置されている第1液体レンズ101の外形を小さくすることにより、外界の影響を低減している。
【0013】
また、本発明の各実施形態のズームレンズ100は、以下の式(1)を満足している。
Tb/Ta<0.22 ・・・(1)
ここで、Taは、ズームレンズ100の全長(ズームレンズの第1面107から結像面108までの距離)であり、Tbは、第1液体レンズ101の液体の界面(屈折力可変面)のうち最も絞り103に近い面109から絞り103までの距離である。特に、本実施形態では、距離Tbが適用される界面は、第2界面205となる。なお、第2界面の位置は、ズーミングによりわずかに移動するため、界面が最も絞り103から離れたときの位置とする。
【0014】
また、各液体レンズ101、105は、それぞれ絞り103の前後、即ち、第1の屈折力可変素子である第1液体レンズ101は、絞り103の光入射側に、一方、第2の屈折力可変素子である第2液体レンズ105は、絞り103の光出射側に配置する。これは、各液体レンズ101、105に対して無理のない屈折力を実現させ、収差を低減するためである。
【0015】
また、第1液体レンズ101と絞り103との間には、図1に示すように第1固定レンズ(第1レンズ)102を配置する。例えば、ズームレンズ100に対して式(1)を適用すると、第1液体レンズ101の可変面109は非常に小さくなる。このとき、第1液体レンズ101では、広角端において光線の重なりが大きくなる。通常のズームレンズでは、最も物体側の光学素子で各画角の光束を分岐させ、画角毎に収差の発生を抑制させるが、本実施形態のズームレンズ100では、最も物体側の第1液体レンズ101を小さくしているため、この補正が難しい。そこで、本実施形態では、収差の発生を抑えるために第1液体レンズ101と絞り103との間に第1固定レンズ102を配置している。第1固定レンズ102としては、メニスカスレンズを採用し、レンズの凹面を像側に向けて配置している。これにより、特に、コマ収差の発生を低減することができる。
【0016】
また、本実施形態における第1固定レンズ102は、絞り103に近づけて配置する。一般に、光学素子の大きさは、絞り103から離れるにつれて大きくなる傾向がある。そこで、より外界に近い物体側の光学素子を絞り103に近づけることにより、光学素子の大きさを小さくすることができる。
【0017】
また、絞り103と第2液体レンズ105との間には、正の屈折力を有し、かつ、物体側よりも像側の面の方が屈折力の強い第2固定レンズ(第2レンズ)104を配置する。これにより、第1液体レンズ101の広角端を通過する光線が第2液体レンズ105へ入射するときの入射角が小さくなる。したがって、結果的に第2液体レンズ105の大きさを小さくすることができる。
【0018】
更に、ここで、第1液体レンズ101の広角端における屈折力をφL1Wとし、望遠端における屈折力をφL1Tとし、一方、第2液体レンズ105の広角端における屈折力をφL2Wとし、望遠端における屈折力をφL2Tとする。このとき、以下の式(2)、(3)、及び(4)が成り立つものとする。
φL1W/φL1T<0 ・・・(2)
φL2W/φL2T<0 ・・・(3)
φL1W/φL2W<0 ・・・(4)
本実施形態のズームレンズを構成する不図示の制御部は、式(2)及び(3)の条件を満たすように、即ち、各液体レンズ101、105の屈折力の符号が入れ替わるように各液体レンズ101、105を制御する。これにより、各液体レンズ101、105の屈折力の可変範囲全域を利用することができ、ズーム比を大きく取ることができる。同様に、制御部は、式(4)の条件を満たす、即ち、各液体レンズ101、105の屈折力が逆転するように各液体レンズ101、105を制御する。これにより、ペッツバール和の変動を小さくし、像面湾曲の変動を小さくすることができる。加えて、制御部は、広角端ではレトロフォーカスタイプ(φL1W<0、φL2W>0)に、望遠端ではテレフォトタイプ(φL1T>0、φL2T<0)になるように、各液体レンズ101、105を制御する。これにより、小型高光学性能でズーム比を大きく取ることができる。即ち、広角端から望遠端へのズーミングに際して、第1液体レンズ101は負の屈折力から正の屈折力へ変化し、第2液体レンズ105は正の屈折力から負の屈折力へ変化するのが良い。
【0019】
次に、ズームレンズ100に上記の各条件を適用し、具体的に数値を代入して本実施形態の効果を説明する。(表1)は、図3に示すズームレンズ100の各構成要素の面に付した各面番号701〜720における各種数値を示す表である。ここで、図3では、光源(被写体)の位置を絶対座標系の基準として3次元の座標軸(Z軸、Y軸、X軸)を取る。Z軸は、第0面の中心から第1面の中心(絶対座標の原点)を通り、この方向を正とする軸である。また、Y軸は、第1面の中心を通り、Z軸に対して反時計回りに90度を成す軸であり、X軸は、原点を通り、Z軸及びY軸に垂直となる軸である。また、(表1)において、各面番号(No.)に対して、レンズの種類(Type)、曲率半径(R)、レンズ面間の厚さ(D)、d線の屈折率(Nd)、及びアッベ数(νd)のそれぞれの数値を記載している。また、第1〜第3固定レンズ102、104、106では、回転対称非球面を有する光学素子を用いており、その面形状は、以下の式で表される。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、kは、コーニック係数であり、cは、曲率(曲率半径Rの逆数)である。この式(5)に適用する各係数k、A〜Dの値を(表2)に示す。なお、(表1)において、面の形状が球面である場合は、空欄とし、回転対称非球面である場合は、ALと記載する。同様に、各液体レンズ101、105に該当する面については、可変する値をVariableと記載し、各ズーム位置(Position1、Position2)に対応した値を(表3)に示す。更に、Objectは、無限遠に物体があることを示し、INFとSTOとは、それぞれ無限大と、絞り面とを示す。
【0022】
ここで、本実施形態の条件として、画角は、全画角で34.35〜63.44degの2倍ズームで、FNo.は、2.8〜3.5である。特に、Position1では、f=5.78、FNo.は、2.8であり、一方、Position2では、f=11.55、FNo.は、3.5である。そして、この場合の条件式は、Tb/Ta=0.105であり、上記式(1)の条件を満たす。なお、参考として、図4に、本実施形態に係る縦収差図(球面収差、像面収差、歪曲)を示す。特に、図4(a)は、広角端における縦収差図であり、図4(b)は、望遠端における縦収差図である。図4において、縦軸は、光線がズームレンズ100に入射する光線高さであり、横軸は、光線が光軸と交わる位置である。また、各図では、C線(656.3nm)、D線(589.2nm)、及びF線(486.1nm)の波長を有する各光線について記載している。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
以上のように、本実施形態のズームレンズは、小型化された液体レンズが屈折力を変化させることで焦点距離を変化させるので、ズームレンズに液体レンズを採用しても、外界の影響による光学特性の変化を低減することができる。また、ズーミングに際して光学素子を移動させるカムやモーター等が不要となり、部品点数を削減することができる。
【0027】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るズームレンズについて説明する。本実施形態のズームレンズは、第1実施形態に係るズームレンズ100における液体レンズの構成と、該液体レンズの構成変更に伴う各光学素子の配置とを変更している。図5は、本実施形態に係るズームレンズの構成を示す概略断面図である。このズームレンズ300は、物体側から順に、第1液体レンズ301と、第1固定レンズ302と、絞り303と、第2及び第3固定レンズ304、305と、第2及び第3液体レンズ306、307と、第4固定レンズ308とを備える。図5において、特に、図5(a)は、広角端(Wide)におけるズームレンズ300のレンズ断面図を示す。図5(b)は、中間のズーム位置(Middle)におけるズームレンズ300のレンズ断面図を示す。また、図5(c)は、望遠端(Tele)におけるズームレンズ300のレンズ断面図を示す。ここで、第1液体レンズ301の構成は、第1実施形態の第1液体レンズ101の構成と略同一であるため説明を省略する。
【0028】
図6は、第2及び第3液体レンズ306、307の構成を示す概略断面図である。本実施形態のズームレンズ300に採用する第2及び第3液体レンズ306、307は、それぞれ2種類の液体を使用し、該2種類の液体で形成された界面をエレクトロウェッティング方式にて制御するものである。また、第2及び第3液体レンズ306、307は、図6に示すように、ガラス板等の光透過部材400を介して一体で構成される。まず、第2液体レンズ306は、略円筒形の筐体401を有し、該筐体401の内部に、第1液体402及び第2液体403の2種類の液体を光軸方向に2層配置する。この2種類の液体としては、水や油等のそれぞれ異なる屈折率を有する物質を採用する。以下、第1液体402と第2液体403とで形成される界面を第1界面404と表記する。なお、第3液体レンズ307も、第2液体レンズ308と同様の形態で液体が配置される。この第3液体レンズ307における、第1液体405と第2液体406とで形成される界面を第2界面407と表記する。そして、第2及び第3液体レンズ306、307は、それぞれ第1実施形態の液体レンズ101と同様の電極408、409を有し、該電極408、409は、外部からの電圧供給に基づいて、第1界面404及び第2界面407をそれぞれ独立に制御する。なお、この場合、筐体401は、第2及び第3液体レンズ306、307で共通としてもよいし、図5に示すように、それぞれ径の異なる独自のものとしてもよい。また、この電極408、409の構成、及びカバーガラス410、411の構成は、第1実施形態の第1液体レンズ101と同様である。このような第2及び第3液体レンズ306、307によれば、2つの液体レンズを組み合わせることで、第1実施形態の液体レンズ101と同等の作用が得られる。更に、第2及び第3液体レンズ306、307は、光透過部材400を介して組み合わされるので、第2液体レンズ306の第2液体403と、第3液体レンズ307の第1液体405とが直接触れることがないため、液体レンズに採用する液体の選択自由度が増す。
【0029】
次に、本実施形態のズームレンズ300における各種条件について説明する。まず、第1液体レンズ301は、第1実施形態と同様に、絞り303の光入射側で、かつ、ズームレンズ300において、物体側に配置されている。これにより、第1液体レンズ301よりも像面側に配置される各光学素子によるズームレンズの倍率を大きくし、第1液体レンズ301の屈折力変化量に対するズームレンズ300の焦点距離の変動量を大きくすることができる。
【0030】
また、ズームレンズ300では、第1実施形態と同様に、式(1)が成り立つように各構成要素を設置する。この場合、本実施形態では、式(1)における距離Taは、第1液体レンズ301の第1面309から結像面310までの距離であり、一方、距離Tbは、第1液体レンズ301の第2界面311から絞り303までの距離である。これにより、第1液体レンズ301は、絞り303に近い位置に配置されることとなり、第1液体レンズ301の小型化が実現できる。
【0031】
また、第1液体レンズ301の像面側には、共にメニスカスレンズを採用した第1及び第2固定レンズ302、304を、絞り303を挟んで配置している。第1固定レンズ302は、レンズの像側に凹面を向けており、第2固定レンズ304は、レンズの物体側に凹面を向けている。これにより、最も物体側の第1液体レンズ301だけでは補正しきれない収差補正を行うことができる。
【0032】
更に、第1液体レンズ301の広角端の屈折力をφL3Wとし、望遠端の屈折力をφL3Tとし、一方、第2及び第3液体レンズ306、307を組み合わせた液体レンズの広角端の屈折力をφL4Wとし、望遠端の屈折力をφL4Tとする。この場合、本実施形態においても、第1実施形態に示す式(2)、(3)、及び(4)に対応した式(6)、(7)、及び(8)が成り立つものとする。
φL3W/φL3T<0 ・・・(6)
φL4W/φL4T<0 ・・・(7)
φL3W/φL4W<0 ・・・(8)
これにより、第1実施形態と同様に、広角側における屈折力変動によるペッツバール和の変動を小さくし、かつ、ズーム比を大きく取ることができる。即ち、広角端から望遠端へのズーミングに際して、第1液体レンズ301は、負の屈折力から正の屈折力へ変化して、第2及び第3液体レンズ306、307を組み合わせた液体レンズは、正の屈折力から負の屈折力へ変化するのが良い。
【0033】
次に、ズームレンズ300に上記の各条件を適用し、具体的に数値を代入して本実施形態の効果を説明する。(表4)は、図7に示すズームレンズ300の各構成要素の面に付した各面番号901〜924における各種数値を示す表である。また、上記式(5)に適用する各係数を(表5)に示す。また、(表4)において、各ズーム位置(Position1、Position2、及びPosition3)に対応した値を(表6)に示す。これらの(表4)〜(表6)は、それぞれ第1実施形態に係る(表1)〜(表3)に対応している。ここで、本実施形態の条件として、画角は、全画角で23.29〜63.44degの3倍ズームであり、FNo.は、2.8〜5.0である。特に、Position1では、f=5.78、FNo.は、2.8であり、また、Position2では、f=9.08、FNo.は、3.5であり、更に、Position3では、f=17.33、FNo.は、5.0である。そして、この場合の条件式は、Tb/Ta=0.197であり、上記式(1)の条件を満たす。なお、参考として、図8に、本実施形態に係る広角端及び望遠端における縦収差図(球面収差、像面収差、歪曲)を示す。この図8は、第1実施形態に係る図4に対応している。これにより、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0034】
【表4】
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るズームレンズについて説明する。本実施形態のズームレンズは、第1実施形態に係るズームレンズ100において液体レンズを3個設置し、液体レンズの設置個数の増加に伴い各光学素子の配置を変更している。図9は、本実施形態に係るズームレンズの構成を示す概略断面図である。このズームレンズ500は、物体側から順に、第1固定レンズ501と、第1液体レンズ502と、第2固定レンズ503と、絞り504と、第2液体レンズ505と、第3固定レンズ506と、第3液体レンズ507と、第4固定レンズ508とを備える。図9において、特に、図9(a)は、広角端におけるズームレンズ500のレンズ断面図を示す。図9(b)は、中間のズーム位置(Middle)におけるズームレンズ500のレンズ断面図を示す。また、図9(c)は、望遠端(Tele)におけるズームレンズ500のレンズ断面図を示す。ここで、第1〜3液体レンズ502、505、507の構成は、第1実施形態の第1液体レンズ101の構成と略同一であるため説明を省略する。
【0038】
次に、本実施形態のズームレンズ500における各種条件について説明する。まず、本実施形態では、第1実施形態とは異なり、第1液体レンズ502は、ズームレンズ500の最も物体側ではなく、凹レンズである第1固定レンズ501を1枚設置し、その後部に配置する。これにより、第1液体レンズ502への外界の影響を低減させることができ、また、ズーム倍率の拡大を図ることができる。なお、ズームレンズ500においても、第1実施形態と同様に、式(1)が成り立つように各構成要素を設置することが望ましい。本実施形態では、式(1)における距離Taは、第1固定レンズ501の第1面509から結像面510までの距離であり、一方、距離Tbは、第1液体レンズ502の第2界面511から絞り504までの距離である。
【0039】
また、第1液体レンズ502と第3液体レンズ507とは、それぞれ第1実施形態に係る第1液体レンズ101と第2液体レンズ105とに対応し、同じ働きを持つ。これに対して、本実施形態では、新たに第2液体レンズ505を、第2固定レンズ503と第3固定レンズ506との間に配置している。絞り504は、第2液体レンズ505の直前(物体側)に配置されている。第2液体レンズ505は、ズーム範囲内の全てで正の屈折力を有する。これにより、第3液体レンズ507へ入射する光束の高さを低減させて、第3液体レンズ507も大きさを小さくすることができる。また、広角端から望遠端まで正の屈折力が強くなるので、第1及び第2液体レンズ502、507だけでは補正しきれないペッツバール和の変動を更に抑えることができる。
【0040】
次に、ズームレンズ500に上記の各条件を適用し、具体的に数値を代入して本実施形態の効果を説明する。(表7)は、図10に示すズームレンズ500の各構成要素の面に付した各面番号1101〜1127における各種数値を示す表である。また、上記式(5)に適用する各係数を(表8)に示す。また、(表7)において、各ズーム位置(Position1、Position2、及びPosition3)に対応した値を(表9)に示す。これらの(表7)〜(表9)も、それぞれ上記(表1)〜(表3)に対応している。ここで、本実施形態の条件として、画角は、全画角で23.29〜63.44degの3倍ズームであり、FNo.は、3.0〜5.6である。特に、Position1では、f=5.78、FNo.は、3.0であり、Position2では、f=9.08、FNo.は、4.0であり、Position3では、f=17.33、FNo.は、5.6である。なお、参考として、図11に、本実施形態に係る広角端及び望遠端における縦収差図(球面収差、像面収差、歪曲)を示す。この図11も、第1実施形態に係る図4及び第2実施形態に係る図8に対応している。これにより、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0041】
【表7】
【0042】
【表8】
【0043】
【表9】
【0044】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0045】
例えば、本実施形態では、ズームレンズに2個及び3個の液体レンズを採用するものとして説明したが、本発明は、更に複数(即ち、2個以上)の液体レンズを採用した場合でも適用可能である。また、この液体レンズの界面の形状を変化させる手段は、上記エレクトロウェッティング方式に限定されない。例えば、界面に光学的に透明な薄膜を設置し、その薄膜の端部を液体レンズ内で機械的に移動させることで界面形状を変化させる手段もある。図12は、液体の界面として透明な弾性膜を配置した液体レンズの構成を示す概略図である。図12に示すように、液体レンズ600は、略円筒形の筐体601を有し、該筐体601の内部に第1液体602及び第2液体603の2種類の液体を光軸方向に2層配置し、更に各液体602、603で形成される界面に透明な弾性膜604を配置する。液体レンズ600は、図12に示すように、弾性膜604をその端部に設置された薄膜移動手段605で移動させることにより、各液体602、603の体積を一定としつつ、弾性膜604により形成される界面の形状を変化させる。なお、カバーガラス606、607の構成は、第1実施形態の第1液体レンズ101と同様である。この液体レンズ600は、エレクトロウェッティング方式の液体レンズに比べて構造が複雑となるが、エレクトロウェッティング方式の場合の混ざり合わない液体材料を選択しなくてもよいので、液体の選択自由度が大きく増える。
【0046】
また、本発明のズームレンズに採用する液体レンズの各電極の形状(構造)も、特に限定しない。例えば、図1に示すように、第1実施形態の第1液体レンズ101は、電極部分を段構造としている。これは、後部の電極207の外径を前部の電極206の外径よりも小さくすることで、第2界面205の曲率半径をより好適に変化させるためである。したがって、所望のズームレンズの特性により、各電極206、207の形状を、単に円筒形やテーパー角度を有するような外径としても構わない。更に、第1実施形態に係る各液体レンズ101、105では、共に3種類の液体を用いた3層構造を有するが、例えば、2種類の液体を用いて1つの界面で屈折力を変化させるものや、4種類以上の更に複数の液体を用いるものであっても良い。
【符号の説明】
【0047】
100 ズームレンズ
101 第1屈折力可変素子
103 絞り
107 第1面
108 結像面
109 可変面
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折力可変素子を備えるズームレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体の界面の形状を制御することにより屈折力を変化させることができる屈折力可変素子(可変焦点素子)が知られている。例えば、特許文献1は、屈折率が互いに異なる導電性液体と絶縁性液体との接触面(界面)を変形可能な可変焦点レンズを開示している。特許文献2は、2つの屈折力可変素子を利用したズームレンズを開示している。特許文献3は、1つの屈折力可変素子と1つの切り替え型の屈折力可変素子とを用いたズームレンズを開示している。この切り替え型の屈折力可変素子は、固体のレンズの射出側に空洞を設け、この空洞内で気体や液体を入れ替えることで素子全体の屈折力を変化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−178469号公報
【特許文献2】特表2008−541184号公報
【特許文献3】特表2007−518130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2、3に開示されたズームレンズでは、屈折力可変素子は、光学系の最も物体(被写体)側に配置されている。しかしながら、屈折力可変素子は、光学系の最も物体側に配置されることで、外界の影響を受けやすくなる。例えば、直射日光が屈折力可変素子に当たると、影になる部分と日光の当たる部分とで温度差が生じ、内部の液体に対流が起こる。これにより、屈折力可変素子の光学特性が不安定になる。この影響は、屈折力可変素子の可変面が大きくなるほど顕著に現れる。
【0005】
本発明は、外界の影響による屈折力可変素子の光学特性の変化が小さいズームレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のズームレンズは、屈折力可変素子と、絞りとを有するズームレンズであって、屈折力可変素子は、絞りの光入射側に配置されており、ズームレンズの第1面から結像面までの距離をTaとし、屈折力可変素子の絞りに最も近い屈折力可変面から絞りまでの距離をTbとするとき、Tb/Ta<0.22の条件を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外界の影響による屈折力可変素子の光学特性の変化が小さいズームレンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係るズームレンズのレンズ断面図である。
【図2】第1実施形態に係る屈折力可変素子の構成を示す概略図である。
【図3】第1実施形態に係るズームレンズの各面番号を示す図である。
【図4】第1実施形態に係るズームレンズの効果を示す縦収差図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るズームレンズのレンズ断面図である。
【図6】第2実施形態に係る屈折力可変素子の構成を示す概略図である。
【図7】第2実施形態に係るズームレンズの各面番号を示す図である。
【図8】第2実施形態に係るズームレンズの効果を示す縦収差図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係るズームレンズのレンズ断面図である。
【図10】第3実施形態に係るズームレンズの各面番号を示す図である。
【図11】第3実施形態に係るズームレンズの効果を示す縦収差図である。
【図12】他の実施形態に係る屈折力可変素子の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係るズームレンズについて説明する。図1は、本実施形態に係るズームレンズのレンズ断面図である。図1(a)は、広角端(Wide)におけるズームレンズ100のレンズ断面図を示し、図1(b)は、望遠端(Tele)におけるズームレンズ100のレンズ断面図を示している。このズームレンズ100は、物体(被写体)側から順に、第1屈折力可変素子101と、第1固定レンズ102と、絞り103と、第2固定レンズ104と、第2屈折力可変素子105と、第3固定レンズ106とを備える。以下、屈折力(光学的パワー)は、焦点距離の逆数に対応したレンズの特性値として用いる。
【0011】
図2は、第1及び第2屈折力可変素子101、105の構成を示す概略断面図である。本実施形態のズームレンズ100に採用する屈折力可変素子101(105)は、3種類の液体を使用し、該3種類の液体で形成された2つの界面をエレクトロウェッティング方式にて制御するものである。以下、このように液体の界面の形状を変化させることによって屈折力を変化させることができる屈折力可変素子を、単に「液体レンズ」と表記する。液体レンズ101(105)は、略円筒形の筐体200を有し、該筐体200の内部に、光入射側から順に、第1液体201、第2液体202、及び第3液体203の3種類の液体を光軸方向に3層配置する。この3種類の液体としては、第1液体201と第2液体202、また、第2液体202と第3液体203とで形成される2箇所の界面において、互いに混ざり合わずに、かつ、異なる屈折率を有する物質を採用する。例えば、第1液体201、第3液体203として、水や電解水溶液を採用し、第2液体202として、油等を採用する。以下、第1液体201と第2液体202とで形成される界面を第1界面204と表記し、一方、第2液体202と第3液体203とで形成される界面を第2界面205と表記する。更に、液体レンズ101は、2箇所の電極206、207と、電極分離部208と、カバーガラス209、210とを備える。電極206、207は、外部からの電圧供給に基づいて、第1界面204及び第2界面205をそれぞれ独立に制御するための電極である。この電極206、207は、それぞれ金属電極層と絶縁層との2層で構成された平板を円環とした形状を有する。電極206、207は、図2に示すように、印加された電圧により各界面と電極との接触角を制御することで各界面の面形状を変化させ、液体レンズ101の全体の屈折力を変化させる。電極分離部208は、電極206と電極207との相対する位置に配置されており、各電極206、207を独立に電圧制御可能とする絶縁部材で構成されている。カバーガラス209、210は、一方が液体レンズ101の光入射側に、他方が光出射側に配置され、各液体201〜203を液体レンズ101内に封止するガラス板である。
【0012】
このような液体レンズでは、液体の温度差によって対流が生じるため、所望の光学特性が安定的に得られない場合がある。ズームレンズの物体側や像面側の端部に配置されている光学素子ほど、外界の影響を受けやすい。また、液体レンズの外形が大きいほど、液体の温度差が大きくなりやすく、光学性能が低下しやすい。そこで、本実施形態では、ズームレンズ100において、物体側に配置されている第1液体レンズ101の外形を小さくすることにより、外界の影響を低減している。
【0013】
また、本発明の各実施形態のズームレンズ100は、以下の式(1)を満足している。
Tb/Ta<0.22 ・・・(1)
ここで、Taは、ズームレンズ100の全長(ズームレンズの第1面107から結像面108までの距離)であり、Tbは、第1液体レンズ101の液体の界面(屈折力可変面)のうち最も絞り103に近い面109から絞り103までの距離である。特に、本実施形態では、距離Tbが適用される界面は、第2界面205となる。なお、第2界面の位置は、ズーミングによりわずかに移動するため、界面が最も絞り103から離れたときの位置とする。
【0014】
また、各液体レンズ101、105は、それぞれ絞り103の前後、即ち、第1の屈折力可変素子である第1液体レンズ101は、絞り103の光入射側に、一方、第2の屈折力可変素子である第2液体レンズ105は、絞り103の光出射側に配置する。これは、各液体レンズ101、105に対して無理のない屈折力を実現させ、収差を低減するためである。
【0015】
また、第1液体レンズ101と絞り103との間には、図1に示すように第1固定レンズ(第1レンズ)102を配置する。例えば、ズームレンズ100に対して式(1)を適用すると、第1液体レンズ101の可変面109は非常に小さくなる。このとき、第1液体レンズ101では、広角端において光線の重なりが大きくなる。通常のズームレンズでは、最も物体側の光学素子で各画角の光束を分岐させ、画角毎に収差の発生を抑制させるが、本実施形態のズームレンズ100では、最も物体側の第1液体レンズ101を小さくしているため、この補正が難しい。そこで、本実施形態では、収差の発生を抑えるために第1液体レンズ101と絞り103との間に第1固定レンズ102を配置している。第1固定レンズ102としては、メニスカスレンズを採用し、レンズの凹面を像側に向けて配置している。これにより、特に、コマ収差の発生を低減することができる。
【0016】
また、本実施形態における第1固定レンズ102は、絞り103に近づけて配置する。一般に、光学素子の大きさは、絞り103から離れるにつれて大きくなる傾向がある。そこで、より外界に近い物体側の光学素子を絞り103に近づけることにより、光学素子の大きさを小さくすることができる。
【0017】
また、絞り103と第2液体レンズ105との間には、正の屈折力を有し、かつ、物体側よりも像側の面の方が屈折力の強い第2固定レンズ(第2レンズ)104を配置する。これにより、第1液体レンズ101の広角端を通過する光線が第2液体レンズ105へ入射するときの入射角が小さくなる。したがって、結果的に第2液体レンズ105の大きさを小さくすることができる。
【0018】
更に、ここで、第1液体レンズ101の広角端における屈折力をφL1Wとし、望遠端における屈折力をφL1Tとし、一方、第2液体レンズ105の広角端における屈折力をφL2Wとし、望遠端における屈折力をφL2Tとする。このとき、以下の式(2)、(3)、及び(4)が成り立つものとする。
φL1W/φL1T<0 ・・・(2)
φL2W/φL2T<0 ・・・(3)
φL1W/φL2W<0 ・・・(4)
本実施形態のズームレンズを構成する不図示の制御部は、式(2)及び(3)の条件を満たすように、即ち、各液体レンズ101、105の屈折力の符号が入れ替わるように各液体レンズ101、105を制御する。これにより、各液体レンズ101、105の屈折力の可変範囲全域を利用することができ、ズーム比を大きく取ることができる。同様に、制御部は、式(4)の条件を満たす、即ち、各液体レンズ101、105の屈折力が逆転するように各液体レンズ101、105を制御する。これにより、ペッツバール和の変動を小さくし、像面湾曲の変動を小さくすることができる。加えて、制御部は、広角端ではレトロフォーカスタイプ(φL1W<0、φL2W>0)に、望遠端ではテレフォトタイプ(φL1T>0、φL2T<0)になるように、各液体レンズ101、105を制御する。これにより、小型高光学性能でズーム比を大きく取ることができる。即ち、広角端から望遠端へのズーミングに際して、第1液体レンズ101は負の屈折力から正の屈折力へ変化し、第2液体レンズ105は正の屈折力から負の屈折力へ変化するのが良い。
【0019】
次に、ズームレンズ100に上記の各条件を適用し、具体的に数値を代入して本実施形態の効果を説明する。(表1)は、図3に示すズームレンズ100の各構成要素の面に付した各面番号701〜720における各種数値を示す表である。ここで、図3では、光源(被写体)の位置を絶対座標系の基準として3次元の座標軸(Z軸、Y軸、X軸)を取る。Z軸は、第0面の中心から第1面の中心(絶対座標の原点)を通り、この方向を正とする軸である。また、Y軸は、第1面の中心を通り、Z軸に対して反時計回りに90度を成す軸であり、X軸は、原点を通り、Z軸及びY軸に垂直となる軸である。また、(表1)において、各面番号(No.)に対して、レンズの種類(Type)、曲率半径(R)、レンズ面間の厚さ(D)、d線の屈折率(Nd)、及びアッベ数(νd)のそれぞれの数値を記載している。また、第1〜第3固定レンズ102、104、106では、回転対称非球面を有する光学素子を用いており、その面形状は、以下の式で表される。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、kは、コーニック係数であり、cは、曲率(曲率半径Rの逆数)である。この式(5)に適用する各係数k、A〜Dの値を(表2)に示す。なお、(表1)において、面の形状が球面である場合は、空欄とし、回転対称非球面である場合は、ALと記載する。同様に、各液体レンズ101、105に該当する面については、可変する値をVariableと記載し、各ズーム位置(Position1、Position2)に対応した値を(表3)に示す。更に、Objectは、無限遠に物体があることを示し、INFとSTOとは、それぞれ無限大と、絞り面とを示す。
【0022】
ここで、本実施形態の条件として、画角は、全画角で34.35〜63.44degの2倍ズームで、FNo.は、2.8〜3.5である。特に、Position1では、f=5.78、FNo.は、2.8であり、一方、Position2では、f=11.55、FNo.は、3.5である。そして、この場合の条件式は、Tb/Ta=0.105であり、上記式(1)の条件を満たす。なお、参考として、図4に、本実施形態に係る縦収差図(球面収差、像面収差、歪曲)を示す。特に、図4(a)は、広角端における縦収差図であり、図4(b)は、望遠端における縦収差図である。図4において、縦軸は、光線がズームレンズ100に入射する光線高さであり、横軸は、光線が光軸と交わる位置である。また、各図では、C線(656.3nm)、D線(589.2nm)、及びF線(486.1nm)の波長を有する各光線について記載している。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
以上のように、本実施形態のズームレンズは、小型化された液体レンズが屈折力を変化させることで焦点距離を変化させるので、ズームレンズに液体レンズを採用しても、外界の影響による光学特性の変化を低減することができる。また、ズーミングに際して光学素子を移動させるカムやモーター等が不要となり、部品点数を削減することができる。
【0027】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るズームレンズについて説明する。本実施形態のズームレンズは、第1実施形態に係るズームレンズ100における液体レンズの構成と、該液体レンズの構成変更に伴う各光学素子の配置とを変更している。図5は、本実施形態に係るズームレンズの構成を示す概略断面図である。このズームレンズ300は、物体側から順に、第1液体レンズ301と、第1固定レンズ302と、絞り303と、第2及び第3固定レンズ304、305と、第2及び第3液体レンズ306、307と、第4固定レンズ308とを備える。図5において、特に、図5(a)は、広角端(Wide)におけるズームレンズ300のレンズ断面図を示す。図5(b)は、中間のズーム位置(Middle)におけるズームレンズ300のレンズ断面図を示す。また、図5(c)は、望遠端(Tele)におけるズームレンズ300のレンズ断面図を示す。ここで、第1液体レンズ301の構成は、第1実施形態の第1液体レンズ101の構成と略同一であるため説明を省略する。
【0028】
図6は、第2及び第3液体レンズ306、307の構成を示す概略断面図である。本実施形態のズームレンズ300に採用する第2及び第3液体レンズ306、307は、それぞれ2種類の液体を使用し、該2種類の液体で形成された界面をエレクトロウェッティング方式にて制御するものである。また、第2及び第3液体レンズ306、307は、図6に示すように、ガラス板等の光透過部材400を介して一体で構成される。まず、第2液体レンズ306は、略円筒形の筐体401を有し、該筐体401の内部に、第1液体402及び第2液体403の2種類の液体を光軸方向に2層配置する。この2種類の液体としては、水や油等のそれぞれ異なる屈折率を有する物質を採用する。以下、第1液体402と第2液体403とで形成される界面を第1界面404と表記する。なお、第3液体レンズ307も、第2液体レンズ308と同様の形態で液体が配置される。この第3液体レンズ307における、第1液体405と第2液体406とで形成される界面を第2界面407と表記する。そして、第2及び第3液体レンズ306、307は、それぞれ第1実施形態の液体レンズ101と同様の電極408、409を有し、該電極408、409は、外部からの電圧供給に基づいて、第1界面404及び第2界面407をそれぞれ独立に制御する。なお、この場合、筐体401は、第2及び第3液体レンズ306、307で共通としてもよいし、図5に示すように、それぞれ径の異なる独自のものとしてもよい。また、この電極408、409の構成、及びカバーガラス410、411の構成は、第1実施形態の第1液体レンズ101と同様である。このような第2及び第3液体レンズ306、307によれば、2つの液体レンズを組み合わせることで、第1実施形態の液体レンズ101と同等の作用が得られる。更に、第2及び第3液体レンズ306、307は、光透過部材400を介して組み合わされるので、第2液体レンズ306の第2液体403と、第3液体レンズ307の第1液体405とが直接触れることがないため、液体レンズに採用する液体の選択自由度が増す。
【0029】
次に、本実施形態のズームレンズ300における各種条件について説明する。まず、第1液体レンズ301は、第1実施形態と同様に、絞り303の光入射側で、かつ、ズームレンズ300において、物体側に配置されている。これにより、第1液体レンズ301よりも像面側に配置される各光学素子によるズームレンズの倍率を大きくし、第1液体レンズ301の屈折力変化量に対するズームレンズ300の焦点距離の変動量を大きくすることができる。
【0030】
また、ズームレンズ300では、第1実施形態と同様に、式(1)が成り立つように各構成要素を設置する。この場合、本実施形態では、式(1)における距離Taは、第1液体レンズ301の第1面309から結像面310までの距離であり、一方、距離Tbは、第1液体レンズ301の第2界面311から絞り303までの距離である。これにより、第1液体レンズ301は、絞り303に近い位置に配置されることとなり、第1液体レンズ301の小型化が実現できる。
【0031】
また、第1液体レンズ301の像面側には、共にメニスカスレンズを採用した第1及び第2固定レンズ302、304を、絞り303を挟んで配置している。第1固定レンズ302は、レンズの像側に凹面を向けており、第2固定レンズ304は、レンズの物体側に凹面を向けている。これにより、最も物体側の第1液体レンズ301だけでは補正しきれない収差補正を行うことができる。
【0032】
更に、第1液体レンズ301の広角端の屈折力をφL3Wとし、望遠端の屈折力をφL3Tとし、一方、第2及び第3液体レンズ306、307を組み合わせた液体レンズの広角端の屈折力をφL4Wとし、望遠端の屈折力をφL4Tとする。この場合、本実施形態においても、第1実施形態に示す式(2)、(3)、及び(4)に対応した式(6)、(7)、及び(8)が成り立つものとする。
φL3W/φL3T<0 ・・・(6)
φL4W/φL4T<0 ・・・(7)
φL3W/φL4W<0 ・・・(8)
これにより、第1実施形態と同様に、広角側における屈折力変動によるペッツバール和の変動を小さくし、かつ、ズーム比を大きく取ることができる。即ち、広角端から望遠端へのズーミングに際して、第1液体レンズ301は、負の屈折力から正の屈折力へ変化して、第2及び第3液体レンズ306、307を組み合わせた液体レンズは、正の屈折力から負の屈折力へ変化するのが良い。
【0033】
次に、ズームレンズ300に上記の各条件を適用し、具体的に数値を代入して本実施形態の効果を説明する。(表4)は、図7に示すズームレンズ300の各構成要素の面に付した各面番号901〜924における各種数値を示す表である。また、上記式(5)に適用する各係数を(表5)に示す。また、(表4)において、各ズーム位置(Position1、Position2、及びPosition3)に対応した値を(表6)に示す。これらの(表4)〜(表6)は、それぞれ第1実施形態に係る(表1)〜(表3)に対応している。ここで、本実施形態の条件として、画角は、全画角で23.29〜63.44degの3倍ズームであり、FNo.は、2.8〜5.0である。特に、Position1では、f=5.78、FNo.は、2.8であり、また、Position2では、f=9.08、FNo.は、3.5であり、更に、Position3では、f=17.33、FNo.は、5.0である。そして、この場合の条件式は、Tb/Ta=0.197であり、上記式(1)の条件を満たす。なお、参考として、図8に、本実施形態に係る広角端及び望遠端における縦収差図(球面収差、像面収差、歪曲)を示す。この図8は、第1実施形態に係る図4に対応している。これにより、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0034】
【表4】
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るズームレンズについて説明する。本実施形態のズームレンズは、第1実施形態に係るズームレンズ100において液体レンズを3個設置し、液体レンズの設置個数の増加に伴い各光学素子の配置を変更している。図9は、本実施形態に係るズームレンズの構成を示す概略断面図である。このズームレンズ500は、物体側から順に、第1固定レンズ501と、第1液体レンズ502と、第2固定レンズ503と、絞り504と、第2液体レンズ505と、第3固定レンズ506と、第3液体レンズ507と、第4固定レンズ508とを備える。図9において、特に、図9(a)は、広角端におけるズームレンズ500のレンズ断面図を示す。図9(b)は、中間のズーム位置(Middle)におけるズームレンズ500のレンズ断面図を示す。また、図9(c)は、望遠端(Tele)におけるズームレンズ500のレンズ断面図を示す。ここで、第1〜3液体レンズ502、505、507の構成は、第1実施形態の第1液体レンズ101の構成と略同一であるため説明を省略する。
【0038】
次に、本実施形態のズームレンズ500における各種条件について説明する。まず、本実施形態では、第1実施形態とは異なり、第1液体レンズ502は、ズームレンズ500の最も物体側ではなく、凹レンズである第1固定レンズ501を1枚設置し、その後部に配置する。これにより、第1液体レンズ502への外界の影響を低減させることができ、また、ズーム倍率の拡大を図ることができる。なお、ズームレンズ500においても、第1実施形態と同様に、式(1)が成り立つように各構成要素を設置することが望ましい。本実施形態では、式(1)における距離Taは、第1固定レンズ501の第1面509から結像面510までの距離であり、一方、距離Tbは、第1液体レンズ502の第2界面511から絞り504までの距離である。
【0039】
また、第1液体レンズ502と第3液体レンズ507とは、それぞれ第1実施形態に係る第1液体レンズ101と第2液体レンズ105とに対応し、同じ働きを持つ。これに対して、本実施形態では、新たに第2液体レンズ505を、第2固定レンズ503と第3固定レンズ506との間に配置している。絞り504は、第2液体レンズ505の直前(物体側)に配置されている。第2液体レンズ505は、ズーム範囲内の全てで正の屈折力を有する。これにより、第3液体レンズ507へ入射する光束の高さを低減させて、第3液体レンズ507も大きさを小さくすることができる。また、広角端から望遠端まで正の屈折力が強くなるので、第1及び第2液体レンズ502、507だけでは補正しきれないペッツバール和の変動を更に抑えることができる。
【0040】
次に、ズームレンズ500に上記の各条件を適用し、具体的に数値を代入して本実施形態の効果を説明する。(表7)は、図10に示すズームレンズ500の各構成要素の面に付した各面番号1101〜1127における各種数値を示す表である。また、上記式(5)に適用する各係数を(表8)に示す。また、(表7)において、各ズーム位置(Position1、Position2、及びPosition3)に対応した値を(表9)に示す。これらの(表7)〜(表9)も、それぞれ上記(表1)〜(表3)に対応している。ここで、本実施形態の条件として、画角は、全画角で23.29〜63.44degの3倍ズームであり、FNo.は、3.0〜5.6である。特に、Position1では、f=5.78、FNo.は、3.0であり、Position2では、f=9.08、FNo.は、4.0であり、Position3では、f=17.33、FNo.は、5.6である。なお、参考として、図11に、本実施形態に係る広角端及び望遠端における縦収差図(球面収差、像面収差、歪曲)を示す。この図11も、第1実施形態に係る図4及び第2実施形態に係る図8に対応している。これにより、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0041】
【表7】
【0042】
【表8】
【0043】
【表9】
【0044】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0045】
例えば、本実施形態では、ズームレンズに2個及び3個の液体レンズを採用するものとして説明したが、本発明は、更に複数(即ち、2個以上)の液体レンズを採用した場合でも適用可能である。また、この液体レンズの界面の形状を変化させる手段は、上記エレクトロウェッティング方式に限定されない。例えば、界面に光学的に透明な薄膜を設置し、その薄膜の端部を液体レンズ内で機械的に移動させることで界面形状を変化させる手段もある。図12は、液体の界面として透明な弾性膜を配置した液体レンズの構成を示す概略図である。図12に示すように、液体レンズ600は、略円筒形の筐体601を有し、該筐体601の内部に第1液体602及び第2液体603の2種類の液体を光軸方向に2層配置し、更に各液体602、603で形成される界面に透明な弾性膜604を配置する。液体レンズ600は、図12に示すように、弾性膜604をその端部に設置された薄膜移動手段605で移動させることにより、各液体602、603の体積を一定としつつ、弾性膜604により形成される界面の形状を変化させる。なお、カバーガラス606、607の構成は、第1実施形態の第1液体レンズ101と同様である。この液体レンズ600は、エレクトロウェッティング方式の液体レンズに比べて構造が複雑となるが、エレクトロウェッティング方式の場合の混ざり合わない液体材料を選択しなくてもよいので、液体の選択自由度が大きく増える。
【0046】
また、本発明のズームレンズに採用する液体レンズの各電極の形状(構造)も、特に限定しない。例えば、図1に示すように、第1実施形態の第1液体レンズ101は、電極部分を段構造としている。これは、後部の電極207の外径を前部の電極206の外径よりも小さくすることで、第2界面205の曲率半径をより好適に変化させるためである。したがって、所望のズームレンズの特性により、各電極206、207の形状を、単に円筒形やテーパー角度を有するような外径としても構わない。更に、第1実施形態に係る各液体レンズ101、105では、共に3種類の液体を用いた3層構造を有するが、例えば、2種類の液体を用いて1つの界面で屈折力を変化させるものや、4種類以上の更に複数の液体を用いるものであっても良い。
【符号の説明】
【0047】
100 ズームレンズ
101 第1屈折力可変素子
103 絞り
107 第1面
108 結像面
109 可変面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折力可変素子と、絞りとを有するズームレンズであって、
前記屈折力可変素子は、前記絞りの光入射側に配置されており、
前記ズームレンズの第1面から結像面までの距離をTaとし、前記屈折力可変素子の前記絞りに最も近い屈折力可変面から前記絞りまでの距離をTbとするとき、
Tb/Ta<0.22
の条件を満たすことを特徴とするズームレンズ。
【請求項2】
前記屈折力可変素子と前記絞りの間に、第1レンズが配置されており、
前記第1レンズは、前記結像面に凹面を向けたメニスカスレンズであることを特徴とする請求項1に記載のズームレンズ。
【請求項3】
前記ズームレンズは、前記絞りの光出射側に第2の屈折力可変素子を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のズームレンズ。
【請求項4】
広角端から望遠端へのズーミングに際して、前記絞りの光入射側に配置された屈折力可変素子は、負の屈折力から正の屈折力へ変化し、前記絞りの光出射側に配置された屈折力可変素子は、正の屈折力から負の屈折力へ変化することを特徴とする請求項3に記載のズームレンズ。
【請求項5】
前記絞りと、該絞りの光出射側に配置された屈折力可変素子の間に、正の屈折力の第2レンズを有することを特徴とする請求項3又は4に記載のズームレンズ。
【請求項1】
屈折力可変素子と、絞りとを有するズームレンズであって、
前記屈折力可変素子は、前記絞りの光入射側に配置されており、
前記ズームレンズの第1面から結像面までの距離をTaとし、前記屈折力可変素子の前記絞りに最も近い屈折力可変面から前記絞りまでの距離をTbとするとき、
Tb/Ta<0.22
の条件を満たすことを特徴とするズームレンズ。
【請求項2】
前記屈折力可変素子と前記絞りの間に、第1レンズが配置されており、
前記第1レンズは、前記結像面に凹面を向けたメニスカスレンズであることを特徴とする請求項1に記載のズームレンズ。
【請求項3】
前記ズームレンズは、前記絞りの光出射側に第2の屈折力可変素子を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のズームレンズ。
【請求項4】
広角端から望遠端へのズーミングに際して、前記絞りの光入射側に配置された屈折力可変素子は、負の屈折力から正の屈折力へ変化し、前記絞りの光出射側に配置された屈折力可変素子は、正の屈折力から負の屈折力へ変化することを特徴とする請求項3に記載のズームレンズ。
【請求項5】
前記絞りと、該絞りの光出射側に配置された屈折力可変素子の間に、正の屈折力の第2レンズを有することを特徴とする請求項3又は4に記載のズームレンズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−22263(P2012−22263A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162043(P2010−162043)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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