説明

ズーム光学系

【課題】 ズーミングによって像面が一定でかつズーミングにおける収差変動が少なく、全ズーム範囲にわたり、高い光学性能を有した光学全長の短いズーム光学系を得ること。
【解決手段】 光学的パワーが可変の複数の光学群と、1以上の光学群が光軸方向に配置され、該光学的パワーが可変の複数の光学群のパワーを変えてズーミングを行うズーム光学系であって、該光学的パワーが可変の複数の光学群は、各々回転非対称面を含み光軸と異なる方向に移動して光学群内のパワーを変える複数の光学素子Ldを有し、該1以上の光学群には、少なくとも1つの面に関する対称性を持ち光軸方向に移動可能な1以上の光学素子Lsを有する光学群Sが含まれていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置、投射装置、露光装置、読み取り装置等に好適なズーム光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラやカメラ付き携帯電話等の普及により、小型で高解像度のズーム光学系が要望されている。
【0003】
小型で高解像度のズーム光学系において、ズーミングは通常、受光面(CCD等)に対して複数のレンズ群を光軸方向に移動させることで行われている。このときレンズ群を物体方向に移動させるズーム方式では、光学全長(第1レンズ面から像面までの長さ)が長くなり、これがレンズ系全体の小型化を妨げる1つの原因となってくる。
【0004】
これに対して、従来、光学素子を光軸方向と異なった方向へ移動させて全系のパワーを変えるアルバレツレンズと呼ばれる光学素子を用いた光学系が提案されている(特許文献1、2,非特許文献1)。
【0005】
そしてこれらのアルバレツレンズを利用してズーミングを行うズーム光学系が種々と提案されている(特許文献3)。
【0006】
特許文献1に掲載された光学系では、3次関数で表される曲面をレンズに与え、そのレンズを2枚、光軸方向とは異なる方向に相対的にずらしてパワーを変化させている。この光学系はレンズ群を光軸方向に繰り出さないので、ズーム光学系に用いることでレンズ全長を短くすることができる。
【0007】
また特許文献2に開示されている光学系は、3次だけではなく高次の項、特に5次の項の曲面をレンズに与えることで収差を除去した光学系を開示している。
【0008】
さらに、特許文献3ではこのレンズをズーム光学系に用いた例を提案している。そして上記のレンズを最低2つ配置し、像点を一定にしながらパワーを変化させる原理について開示している。
【0009】
一方、非特許文献1には回転非対称の光学素子が含まれる光学系を開示している。この光学系では、通常の共軸レンズ系と異なり共通の軸(光軸)を持たない。こうした非共軸光学系は、オフアキシャル(Off-Axial )光学系と呼ばれ、像中心と瞳中心を通る光線が辿る経路を基準軸としたときに、構成面の基準軸との交点における面法線が基準軸上にない曲面(Off-Axial曲面)を含む光学系として定義される。
【0010】
この場合、基準軸は折れ曲がった形状となる。そのため、近軸量の算出も通常行われるような共軸系の近軸理論ではなく、Off-Axial理論を元にした近軸理論を使わなければならない。その方法の光学的原理は、非特許文献1に詳しく紹介されており、例えば面の曲率を元に4×4行列式を計算することで行われている。
【特許文献1】米国特許第3305294号
【特許文献2】米国特許第3583790号
【特許文献3】特願平01−248118号公報
【非特許文献1】光学 29巻3号(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1と特許文献2では、1組の回転非対称レンズを用いてパワーを変化させる方法および収差の補正について述べているが、パワーを変化させたとき像面を一定にすることができない。
【0012】
また、特許文献3では像点を一定にしながらパワーを変化させる原理を述べているが、収差の補正を行い実際に良好なる画像が得られるズーム光学系の設計をするまでには至っていない。
【0013】
アルバレツレンズを用いてズーム光学系を構成するには、ズーミングによって像面が一定であり、かつズーミングによる収差変動が少なくなるように構成しなくてはならない。
【0014】
本発明は、回転非対称面を含み光軸と異なる方向に移動する複数の光学素子を有する光学群と1以上の光学群とを適切に用いることによって、ズーミングによって像面が一定で、かつズーミングにおける収差変動が少なく、全ズーム範囲にわたり、高い光学性能を有した光学全長の短いズーム光学系の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のズーム光学系は、
◎光学的パワーが可変の複数の光学群と、1以上の光学群が光軸方向に配置され、該光学的パワーが可変の複数の光学群のパワーを変えてズーミングを行うズーム光学系であって、該光学的パワーが可変の複数の光学群は、各々回転非対称面を含み光軸と異なる方向に移動して光学群内のパワーを変える複数の光学素子Ldを有し、該1以上の光学群には、少なくとも1つの面に関する対称性を持ち光軸方向に移動可能な1以上の光学素子Lsを有する光学群Sが含まれていることを特徴としている。
【0016】
◎光学的パワーが可変の複数の光学群と、2以上の光学群が光軸方向に配置され、該光学的パワーが可変の複数の光学群のパワーを変えてズーミングを行うズーム光学系であって、該光学的パワーが可変の複数の光学群は、各々回転非対称面を含み光軸と異なる方向に移動して光学群内のパワーを変える複数の光学素子Ldを有し、該2以上の光学群には、少なくとも1つの面に関する対称性を持ち光軸方向に移動可能な1以上の光学素子Lsを有する光学群Sと光学的パワーが不変の光学群Cが含まれていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ズーミングによって像面が一定でかつズーミングにおける収差変動が少なく、全ズーム範囲にわたり、高い光学性能を有した光学全長の短いズーム光学系が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
まず本発明の実施例を説明する前に、本発明のズーム光学系を構成するオフアキシャル光学系の回転非対称面及びそれらの構成諸元の表し方について説明する。
【0019】
Off-Axial光学系では、後述する本発明の比較例2として示す。図2のように光入射側の面SOを基準面とし、基準面SOの中心POを原点とする絶対座標系を設定する。その原点POと瞳中心を通る光線が辿る経路を基準軸とする。また、像中心IPOと基準面SOの中心POである絶対座標系の原点を結ぶ直線をZ軸と定め、向きは第1面から像中心に向かう方向を正とする。このZ軸を光軸と呼ぶこととする。さらに、Y軸は原点POを通り右手座標系の定義に従ってZ軸に対して反時計回り方向に90゜をなす直線とし、X軸は原点を通りZ、Yの各軸に垂直な直線とする。
【0020】
以下で示す近軸値はOff-Axialの近軸追跡を行った結果である。特に断り書きがない限りOff-Axialの近軸追跡を行い、近軸値を算出した結果とする。
【0021】
本発明に係るズーム光学系は、回転非対称形状の非球面を有し、その形状は以下の式で表される。
【0022】
(数1)
z=C02y+C20x+C03y+C21xy+C04y+C22x/+C40x+C05y+C23x+C41xy+C06y+C24x/+C42x+C60x
数式1はxに関して偶数次の項のみであるため、数式1により規定される曲面はyz面(図2参照)を対称面とする面対称な形状である。
【0023】
また、以下の条件が満たされる場合はxz面(図2参照)に対して対称な形状を表す。
【0024】
(数2)
C03=C21=C05=C23=C41=t=0
更に、以下の条件が満たされる場合は回転対称な形状を表す。
【0025】
(数3)
C02=C20
(数4)
C04=C40=C22/2
(数5)
C06=C60=C24/3=C42/3
以上の条件を満たさない場合は回転非対称な形状である。
【0026】
以下に示す実施例及び比較例における回転対称面及び回転非対称面の形状は、数1〜数5に基づいている。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明の実施例1のレンズ断面図である。
【0028】
図1において、T、M、Wは各々、望遠端(全系のパワーが最も小さくなるズーム位置)、中間のズーム位置、広角端(全系のパワーが最も大きくなるズーム位置)におけるレンズ断面図である。
【0029】
図10は、図1の実施例1の中間のズーム位置(図1のM)を例として選択し、各要素について説明するためのレンズ断面図である。
【0030】
実施例1のズーム光学系は、撮像装置に用いられる撮影レンズ系であり、レンズ断面図において、左方が物体側で、右方が像側である。
【0031】
尚、実施例1のズーム光学系を、投射装置(プロジェクタ)として用いてもよく、このときは、左方がスクリーン、右方が被投射面となる。
【0032】
図1、図10において、G1、G3は光学的パワーが可変の光学群である。G2は光学的パワーが不変の光学群である。
【0033】
G4は少なくとも1つの面に関する対称性を持ち、光軸方向に移動可能な1以上の光学素子Lsを有する光学群Sである。
【0034】
光学的パワーが可変の2つの光学群G1、G3のパワーを変えて像面IPを一定にしつつズーミングを行っている。
【0035】
光学的パワーが可変の2つの光学群G1、G3は、各々回転非対称面を含み、光軸と異なる方向に移動して、光学群G1、G3内のパワーを変える2つの光学素子E1,E2、E5、E6を有している。
【0036】
尚、光学的パワーとは、光軸上に位置する面のパワーをいい、回転非対称の面を持つ光学素子が偏心して光軸上の面が変化するときは、それに応じて光学的パワーも変化する。
【0037】
本発明の実施例1では、光学素子(レンズ)が全部で7枚である。物体側から順に、光学素子E1,E2,E5,E6は回転非対称形状であり、これらの光学素子はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。光学素子E3,E4が回転対称球面形状である。光学素子E3、E4は光軸に非対称な収差が残存している場合にはこれを除去するために回転非対称形状としてもよい。光学素子E7は少なくとも1つの面に対する(1つ面を対称の中心とする)対称性を持つ回転非対称形状である。つまり、光学素子E7は複数の面に対する対称性を持つ回転非対称形状(例えば、トーリック面等)であれば良いが、より望ましくは、1つの面に対してのみ対称性を持つ(対称中心となる面が1つしか無いような)回転非対称形状の面を有する光学素子であることが望ましい。これは、E1、E2、E3、E4、E5、E6に関しても同様のことが言える。これは以下の各実施例においても同様である。
【0038】
これは光学素子E1乃至光学素子E6で除去しきれなかった軸上コマ収差を光軸上移動することで除去している。また、光学素子E1,E2で第1群G1を構成している。
【0039】
同様に光学素子E3,E4で第2群G2を構成し、光学素子E5、E6で第3群G3を構成している。光学素子E7で第4群G4を構成している。面番号については絶対座標系の原点である基準面を面S0と定め、光学素子E1の第1面をS1とし順に面S2,S3,S4となり、面S6の後(光学素子E3の後方)に絞りS7(SP)が位置している。
【0040】
光学素子E4の第1面をS8とし順に番号を付け、像面IPがS16となる。以下Y軸方向に連続偏心し、パワー変化に寄与する回転非対称群(G1とG3)、回転対称群(G2)、上記の残存収差を偏心によって抑制している光学素子(E7)より成る第4群G4をそれぞれ偏心可動ブロックG1,G3、補助ブロックG2、補助可動ブロックG4と呼ぶこととする。偏心可動ブロックG1、G3のみではパワーが強くなりすぎて収差補正が困難になるため、補助ブロックG2を配置している。
【0041】
実施例1のレンズデータを表7に示す。各光学素子のZ軸からのずれ量は表8のようになる。
【0042】
光学素子E7のズーミングに伴う光軸方向の移動量を表9に示す。表9では光学系7の前後の間隔変化S13,S14で示している。
【0043】
数式1で表される多項式面の各係数の値を表10に示す。図1は表8に示す望遠端(T)、中間のズーム位置(M)、広角端(W)のレンズ断面図である。光学素子E1とE2はY軸方向に偏心し、その量は表8に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第1群G1のパワーを望遠端から広角端にかけて正から負に変化させている。第1群G1を射出した光線は光学素子E3、絞りSP、光学素子E4を通過し、光学素子E5とE6に入射する。光学素子E5とE6はY軸方向に偏心し、その量は表8に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようにしている。それによって第3群G3のパワーを望遠端から広角端にかけて負から正に変化させている。これらの偏心可動ブロックG1、G3を通過した光線は次の補助可動ブロックG4に入射する。補助可動ブロックG4は偏心可動ブロックG1、G3の足りないパワーを補っている。これらの光学素子を通過した光線は像面IPを変化させることなく結像している。
【0044】
本実施例において、ズーミングの際に光軸方向に移動可能な1以上の光学素子には正の屈折力の光学素子が含まれている。
【0045】
本実施例では、ズーミングに際して光軸方向に移動可能な1以上の光学素子のうちの1つの光学素子(実施例1では正の屈折力の光学素子E7)の全ズーム範囲における移動量をd、全系の全長をTとするとき
d/T<0.6
なる条件を満足している。
【0046】
これによって全長の拡大を防止しつつズーミングによって生ずる収差変動を良好に補正している。
【0047】
実施例1の全長(第1面から像面までの距離)Tは10mm、光学素子(補助可動ブロック)E7の移動量dは1.34475mmであり、
d/T=0.13
となっている。
【0048】
次に、望遠端、中間のズーム位置、広角端の収差図をそれぞれ図11(A)乃至図11(C)に示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図11(A)乃至図11(C)中の番号は画角番号であり、像面上では図8に示すようになっている。x軸については対称であるので、x方向については正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。
【0049】
また、図12に望遠端T、中間のズーム位置M、広角端Wにおけるディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションは良好に抑えられているが、画角0°の光線を見ると若干ではあるがコマ収差が残存していることが分かる。
【0050】
ズーミングによる第1群G1、第3群G3のパワー変化φ1、φ3及びそれらの和φ13(φ1+φ3)を全系のパワーに対してプロットした図を図13に示す。
【0051】
このとき第1群G1と第3群G3におけるパワーの絶対値の最大値を|φ|max、第1群G1と第3群G3の合計のパワーをφ13とするとき、
−|φ|max≦φ13≦|φ|max・・・・(5)
を満足している。
【0052】
条件式(5)を満足することによって、ペッツバール和を小さくし、像面歪曲を小さくしている。
【0053】
図14に第1群G1および第3群G3の前後の主点位置(H1が第1群G1の前側主点位置、H1’が第1群G1の後側主点位置、H2が第3群G3の前側主点位置、H2’が第3群G3の後側主点位置)の変化を示す。第1群G1をメニスカス形状の光学素子で構成したため、主点位置は大きく移動している。またその変化と図13を比較すると、第1群G1のパワーが正の範囲では全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げている。
【0054】
また、第1群G1のパワーが負の範囲ではやはり全系のパワーが大きくなるにつれて物点方向に移動し、H1とH2の間隔を広げていることが分かる。また、第1群G1の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH1、H1´とし、第3群G3の前側主点位置と後側主点位置をそれぞれH2、H2´とし、物点とH1の距離をeo、H1´とH2の距離をe、H2´と像点との距離をeiとし、eoとeiを比較して小さい方をe´としたとき、eとe´、およびe/e´の関係を表11に示す。これを見ると、どのズーム位置においてもeとe´は実質的に同一である。
【0055】
特に
0.7<e/e´<1.4・・・・(2)
となっている。
【0056】
さらに図14に示すように第1群G1の後側主点位置をH1´とし、第3群G3の前側主点位置をH2とし、第1群G1のパワーがズーミングにおいて正の範囲で全系のパワーが最も小さいとき(望遠端)のH1´とH2の距離をet1、全系のパワーが最も大きいとき(広角端)のH1´とH2の距離をew1とし、第1群G1のパワーがズーミングにおいて負の範囲で全系のパワーが最も小さいときのH1´とH2の距離をet2、全系のパワーが最も大きいときのH1´とH2の距離をew2とすると、図14から
et1<ew1 et2<ew2 ‥‥‥(3)
を満たしている。
【0057】
又本実施例では全ズーミング範囲内において、光学的パワーが可変の複数の光学群G1,G3のうちの複数の光学素子E1,E2,E5,E6の個々の結像倍率の絶対値の最大値を最小値で割った値のうち最大値をBdmax、光軸方向に移動可能な1以上の光学素子(本実施例では光学素子E7のみ)E7の個々の結像倍率の絶対値の最大値を最小値で割った値のうち最小値をBsminとするとき
Bsmin<Bdmax
なる条件を満足している。
【0058】
又光学的パワーが可変の複数の光学群G1,G3のうちの光学群G1の前側主点位置Hの望遠端から広角端へのズーミングによる光軸方向の変化量をΔH、光学群G1よりも像側の光学群G3の前側主点位置Hの望遠端から広角端へのズーミングによる光軸方向の変化量をΔHとするとき、変化量ΔHと変化量ΔHのうち大きい方をΔHdmaxとし、1以上の光学素子E7の前側主点位置の変化量をΔHとするとき
ΔH<ΔHdmax
なる条件を満足している。
【0059】
具体的には、図14からΔHdmaxは第1群G1の主点間隔変化から2.025となっているのに対し、ΔHsは表9からS13の移動量を算出すると1.489となっている。すなわちΔHdmax < ΔHsが成り立っていることが分かる。
【0060】
次に表12にテレ端、ミドル。ワイド端における結像倍率の変化を各光学素子E1、E2、E5、E6、E7ごとに示す。
【0061】
光学素子E1、E2、E5、E6が光学素子Ldで偏心可動であり、光学素子E7が光軸方向へ移動する光学素子Lsである。最大値Bdmax は光学素子E5における263.97であるのに対し、最小値Bsminは光学素子E7で1.0193となっている。すなわちBdmax > Bsminが成り立っていることが分かる。
【0062】
尚、本実施例及び以下の実施例においてフォーカスは全系を移動させて行うか又は1つの光学群を光軸に対して垂直方向に移動させて行うのが良い。
【実施例2】
【0063】
図15本発明の実施例2の望遠端(T)、中間のズーム位置(M)、広角端(W)のレンズ断面図である。
【0064】
図16は図1の実施例1の中間のズーム位置を例として選択し、各要素について説明する為のレンズ断面図である。
【0065】
実施例2では光学素子が全部で6枚から構成している。物体側(前方)から像側へ順に光学素子E1,E2,E3,E4が回転非対称形状であり、これらの光学素子はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。
【0066】
また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。光学素子E5,E6が回転対称非球面形状である。光学素子E5,E6は光軸に非対称な収差が残存している場合にはこれを除去するために回転非対称形状としてもよい。
【0067】
光学素子E5,E6はズーミングに際して光軸方向に一体で動きパワーの補助を行っている。また、光学素子E1,E2で第1群G1を構成し、同様に光学素子E3,E4で第2群G2を構成している。
【0068】
面番号については絶対座標系の原点である基準面を面S0と定め、光学素子E1の第1面をS1とし順にS2,S3,S4となり、S4の後(光学素子E2の後方)に絞りS5(SP)が位置している。光学素子E3の第1面をS6とし順に番号を付け、像面がS17となる。
【0069】
以下、Y軸方向に連続偏心する回転非対称群(光学素子E1からE4)、回転対称群(光学素子E5とE6)をそれぞれ偏心可動ブロックG1,G2、補助可動ブロックG3と呼ぶこととする。
【0070】
偏心可動ブロックG1,G2のみではパワーが強くなり収差補正が困難になるため、補助可動ブロックを配置している。また回転非対称形状の光学素子E1〜E4の両面は回転非対称面形状である。CCD面等の直前に置かれた平板ガラスブロックGaは赤外カットフィルター及びCCDのカバーガラスである。
【0071】
実施例2のレンズデータを表13に示す。各光学素子E1〜E4のZ軸からのずれ量は表14のようになり、面S9及び面S13で示す光学素子E5,E6の光軸方向の移動量を表15に示す。さらに以下の式で表される回転対称非球面形状の係数を表16に示し、数式1で表される係数を表17に示す。
【0072】
【数1】

【0073】
ここで光軸からの高さhの位置での光軸方向の変位を面頂点を基準にしてZとしている。
【0074】
但し、上記の式において、h2=X2+Y2を満たし、cは曲率半径、A,Bは係数である。
【0075】
全長は6.9mmであるので0.06062mmとの比を取ると0.00879となり数式23の範囲に含まれることが分かる。
【0076】
図15において基準面S0に入射した光線はまず第1群G1に入射する。第1群G1は光学素子E1、E2の2つから構成され、面の番号はS1からS4である。光学素子E1とE2はY軸方向に偏心し、その量は表4に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第1群G1のパワーを望遠端から広角端へのズーミングに際して正から負に変化させている。
【0077】
第1群G1を射出した光線は次に絞りS5を通過し、第2群G2に入射する。第2群G2は第1群G1と同様に光学素子E3、E4の2つから構成され、面の番号はS6からS9である。光学素子E3とE4はY軸方向に偏心し、その量は表4に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。
【0078】
それによって第2群G2のパワーを望遠端から広角端のズーミングに際して負から正に変化させている。これらの偏心可動ブロックG1,G2を通過した光線は次の補助可動ブロックG3に入射する。補助可動ブロックG3は偏心可動ブロックG1,G2の足りないパワーを補っている。補助可動ブロックG3は回転対称非球面である面S10からS13から構成される光学素子E5、E6から成る。これらの光学素子を通過した光線は赤外カットフィルター、CCDのカバーガラスを通過し像面を変化させることなく結像している。
【0079】
次に、望遠端、中間のズーム位置、広角端の収差図をそれぞれ図17(A)、図17(B)、図17(C)に示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図17(A)、図17(B)、図17(C)中の番号は画角番号であり、像面上では図8に示すようになっている。x軸については対称であるので、x方向正の場合のみを考えればよい。
【0080】
画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。また、図18にディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションも良好に抑えられていることが分かる。
【0081】
次に第1群G1、第2群G2のパワー変化φ1,φ2及びそれらの和φ1+φ2を全系のパワーに対してプロットした図を図19に示す。
【0082】
第1群G1と第2群G2のパワーの絶対値の最大値を|φ|max、任意のズーム位置における第1群G1と第2群G2のパワーの合計値をφ12、広角端において第1群G1と第2群G2のパワーの絶対値で大きい方を|φgw|max、望遠端において第1群G1と第2群G2のパワーの絶対値で小さい方を|φgt|minとするとき
|φgw|max<|φgt|min ‥‥‥(4)
を満足している。
【0083】

−|φ|max≦φ12≦|φ|max ‥‥‥(5a)
を満足している。
【0084】
また、第1群G1と第2群G2のパワー変化φ1,φ2の交点がズーム中間位置よりも光学的パワーが大きい(広角端)側に位置している。これによりズーミングを効果的に行っている。
【0085】
次に表18にテレ端、ミドル。ワイド端における各光学素子E1〜E6の結像倍率の変化を示す。光学素子E1、E2、E3、E4が光学素子Ldの偏心可動であり、光学素子E5、E6が光軸方向に移動する光学素子Lsである。最大値Bdmax は光学素子E3における10.384であるのに対し、最小値Bsminは光学素子E6で1.00056となっている。すなわちBdmax > Bsminが成り立っていることが分かる。
【0086】
以上説明したように、各実施例によれば、偏心可動ブロックの他に、光軸方向に可動する光学素子を含むブロックを用いてズーミングすることによって、良好に収差を除去しながらズーミングを行い、且つコンパクトなズーム光学系を得ている。
【0087】
尚、以上の各実施例において、光学的パワーが可変の光学群は3以上でも良い。又、少なくとも1つの面に関する対称性を持ち光軸方向に移動可能な1以上の光学素子を有する光学群は2以上あっても良い。又、光学的パワーが不変の光学群はなくても良く、又2以上あっても良い。
【0088】
次に本発明のズーム光学系を撮影光学系として用いたデジタルスチルカメラ(撮像装置)の実施例を図20を用いて説明する。
【0089】
図20において、20はカメラ本体、21は本発明のズーム光学系によって構成された撮影光学系、22は撮影光学系21によって被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)、23は撮像素子22が受光した被写体像を記録するメモリ、24は不図示の表示素子に表示された被写体像を観察するためのファインダーである。
【0090】
上記表示素子は液晶パネル等によって構成され、撮像素子22上に形成された被写体像が表示される。
【0091】
このように本発明のズーム光学系をデジタルスチルカメラ等の撮像装置に適用することにより、小型で高い光学性能を有する撮像装置を実現している。
[比較例1]
次に本発明の比較例1を示す。比較例1は特許文献3を参考にズーム光学系として設計したものである。図4に比較例1のレンズ断面図を示す。
【0092】
比較例1のズーム光学系は、図4に示すようにそれぞれ2枚の回転非対称光学素子E1、E2(E3、E4)を有する2つの光学群G1、G2から成り、それらを物体側から第1群G1、第2群G2とする。まずこれらの群を1つの薄肉レンズで近似し近軸計算を行う。次に各薄肉レンズのパワーを第1群G1、第2群G2それぞれφ1、φ2とし、主点間隔とバックフォーカスをそれぞれe、Skとする。また、全系のパワーをφ、焦点距離をfとすると、次式が成立する。
【0093】
(数6)
【0094】
【数2】

【0095】
また、バックフォーカスSkは近軸計算から次式が成り立つ。
【0096】
(数7)
【0097】
【数3】

【0098】
ここで主点間隔eおよびバックフォーカスSkを定めると、数式6及び7からパワーφ1及びφ2は全系のパワーφの関数として表される。即ち、全系のパワー変化における第1群G1及び第2群G2のパワー変化の軌跡を表すことができる。そこで、主点間隔e=3とし、バックフォーカスSk=15とするとパワーφ1、φ2は以下となる。
【0099】
(数8)
【0100】
【数4】

【0101】
(数9)
【0102】
【数5】

【0103】
全系のパワーφに対するパワーφ1、φ2の関係をグラフで表すと図3のようになる。これを見ると、全系のパワーφが増加するに従って第1群G1は正から負に、第2群G2は逆に負から正にパワーが変化していることが分かる。ここで、回転非対称曲面は数式10で表され、またその係数aとパワーとの関係は数式11となる。
【0104】
(数10)
z = ay3 + 3ax2y
(数11)
φ = 12aδ(n-1)
x,y,zは上記に示した軸である。δは2枚の回転非対称光学素子E1、E2(E3、E4)のZ軸からのY軸方向へのずれ量、nはレンズの屈折率である。回転非対称光学素子E1〜E4の係数a,nを表1に示し、併せてZ軸からのずれ量δを望遠端(テレ端)・中間のズーム位置(ミドル)・広角端(ワイド端)の順に示す。また、表2には各面S0〜S9の面のタイプおよび面間隔を表す。
【0105】
図4において、基準面S0に入射した光線はまず第1群G1に入射する。第1群G1は2つの光学素子(レンズ)E1、E2から構成され、面の番号は順にS1からS4とする。光学素子E1とE2はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第1群G1のパワーφ1を図3に示すように望遠端から広角端のズーミングに際して(以下、ズーム方向は同じである)、正から負に変化させている。
【0106】
第1群G1を射出した光線は次に絞りS5を通過し、第2群G2に入射する。第2群G2は第1群G1と同様に2つの光学素子E3、E4から構成され、面の番号はS6からS9とする。光学素子E3とE4はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第2群G2のパワーφ2を図3に示すように負から正に変化させている。
【0107】
これらの群G1、G2を通過した光線は像面IPを変化させることなく結像している。しかしながら、像面を見ると結像はしているものの、収差が大きく発生していることが分かる。
【0108】
これらは、数式8及び9で定めた近軸配置に因らず発生するものである。例えば、軸上で発生するコマ収差は、近軸配置だけではどうしても除去することができない。
【0109】
以上の結果から比較例では以下の点で収差を補正しきれないことが分かる。これは、
(イ)回転非対称光学素子を有する光学系は、光軸に対して非対称であるため上線・下線にずれが生じ、結果として軸上光線においてもコマ収差が発生すること、
(ロ)像面湾曲が発生すること、
に起因する。
【0110】
そこで、本発明の実施例では、光軸方向に移動可能な光学素子を追加することでズーミングを行い、十分に収差を除去することが可能なズーム光学系を達成している。
[比較例2]
次に本発明の比較例2を説明する。
【0111】
一般に、軸上光線のコマ収差を除去することと、偏心可動ブロックのパワー(焦点距離の逆数で光学的パワーともいう。)を大きくすることを両立できれば、高精細な高ズーム比のズーム光学系を達成することができる。しかし、一般的に偏心可動ブロックのパワーを大きくすると各面の傾きが大きくなってしまい、軸上コマ収差を抑制することが困難になる。
【0112】
そこで、本発明では、光路中に共軸レンズ(共軸光学素子)を配置することでパワーの補正を行い偏心可動ブロックのパワーを抑え、軸上コマ収差を抑制している。
【0113】
本発明の比較例2としては、実施例1における第4群G4の光学素子E7を回転対称の球面より成る1つの光学素子より構成し、ズーミングに際して固定とした。
【0114】
次にこのときの比較例2の光学性能について説明する。
【0115】
図2は比較例2の中間のズーム位置におけるレンズ断面図である。図5は本発明の比較例2の光路図である。比較例2では撮像面としてCCDを仮定し、その大きさを1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとする。また入射瞳径を0.8とした。光学素子(レンズ)は全部で7枚から構成され、物体側から像側へ順に、光学素子E1,E2,E5,E6が回転非対称形状であり、これらの光学素子はY軸方向に偏心し、その偏心量は連続的に変化する。また、その量はお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。光学素子E3,E4及びE7は回転対称球面形状であるが、光軸に非対称な収差が残存している場合にはこれを除去するために回転非対称形状の光学素子を配置してもよい。また、光学素子E1,E2で第1群G1を構成している。
【0116】
同様に光学素子E3,E4で第2群G2、光学素子E5、E6で第3群G3を構成している。面番号については絶対座標系の原点である基準面S0を定め、光学素子E1の第1面をS1とし順にS2,S3,S4となり、S6の後(E3の後)に絞りSPがあるのでそれをS7としている。光学素子E4の第1面をS8とし順に番号を付け、像面IPがS16となる。以下、Y軸方向に連続偏心する回転非対称群(群G1と群G3)、回転対称群(群G2と光学素子E7)をそれぞれ偏心可動ブロック、補助ブロックと呼ぶこととする。偏心可動ブロックG1、G3のみではパワーが強くなり収差補正が困難になるため、補助ブロックG2、E7を配置している。
【0117】
比較例2のレンズデータを表3に示す。各光学素子(レンズ)のZ軸(光軸)からのずれ量は表4のようになり、数式1で表される多項式面の各係数の値を表5に示す。
【0118】
そのときの光路図を望遠端、中間のズーム位置、広角端の順に図6に示す。光学素子E1とE2はY軸方向に偏心し、その量は表4に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによって第1群G1のパワーを正から負に変化させている。第1群G1を射出した光線は光学素子E3、絞りS7、光学素子E4を通過し、光学素子E5と光学素子E6に入射する。光学素子E5とE6はY軸方向に偏心し、その量は表4に示すようにお互いに正負逆で絶対値が等しくなるようになっている。それによってG3のパワーを負から正に変化させている。
【0119】
これらの偏心可動ブロックG1、G3を通過した光線は次の補助ブロックE7に入射する。補助ブロックE7は偏心可動ブロックG1、G3の足りないパワーを補っている。これらの光学素子を通過した光線はズーミングに際して像面を変化させることなく結像している。
【0120】
次に、望遠端、中間のズーム位置、広角端の収差図をそれぞれ図7(A)乃至図7(C)に示す。横軸は光線の瞳上で位置を表し、縦軸が像面での主光線からのずれを表す。縦軸の範囲は±20μmである。図7(A)乃至図7(C)中の番号は画角番号であり、像面上では図8に示す各像高に対応している。
【0121】
光学素子の形状はx軸方向については対称であるので、x方向においては、正の場合のみを考えればよい。画角0°の光線を見ると望遠端から広角端に至るまで良好にコマ収差を除去していることが分かる。
【0122】
また、図9に、望遠端T、中間のズーム位置M、広角端Wにおけるディストーション格子を示す。格子の縦横は1/4inch(縦2.7mm×横3.6mm)サイズとなっている。これを見ると、ディストーションは良好に抑えられているが、画角0°の光線を見ると若干ではあるがコマ収差が残存していることが分かる。
【0123】
これは全系の光学的パワーの変化に伴って、偏心可動ブロックG1、G3を可動させる際、面の光線に対する角度が変化するため、それを補正しきれていないことが原因である。そこで本発明ではこれを除去するに、偏心可動ブロックG1、G3の移動に伴って変化する軸上光線の角度を補正する別の補正可動ブロックを設けている。
【0124】
すなわち、本発明ではそれぞれが回転非対称面を有する複数の光学素子で構成される複数の光学群G1、G3を有し、複数の光学群の各群G1、(G3)内の光学素子E1,E2(E5、E6)が互いに光軸と異なる方向に移動することで光学的パワーを変化させるズーム光学系において、ズーム光学系の残留収差を除去するために、少なくとも1つの面に関する対称性を持ち、光軸方向に移動する光学素子(補助可動ブロック)E7を少なくとも1つ設けている。
【0125】
即ち本発明では上記の課題を解決するための手段として偏心可動ブロックのパワー変化を小さくすることが挙げられる。変化の小さいパワーを補うために偏心可動ブロック外でパワーに変化を持たせることが必要である。さらにそのパワー変化を補う部位は、軸上光線のコマ収差を抑制するために、パワー変化によって偏心しないことが条件となってくる。
【0126】
本発明では、偏心可動ブロックのパワーを補う部位として、回転対称形状の光学素子が光軸移動を行うことで以上の課題を解決している。
【0127】
比較例2では、数式6乃至9を求め、図3のように焦点距離に対する各群のパワー変化を求めることによって行った。各群のパワーを大きくすると収差が発生するため、各群のパワーを大きくすることなく変倍比を上げるには、図3に示す全系のパワーに対する各群のパワー変化の傾きを小さくすればよい。そのようにすることで各群のパワー変化の範囲を一定にしながらも、全系のパワーが変化できる範囲を広げることができる。それを実現するために薄肉近似をした近軸配置に戻って考える。
【0128】
数式6及7をバックフォーカスSkおよび主点間隔eを変数のままにすると、以下の式が導かれる。ただし、焦点距離、前側主点位置、後側主点位置の各近軸値は論文1にて導かれる値として定義する。それらの値の導出は、各面の曲率と各面間隔を元に4×4行列式を計算することで行われる。
【0129】
【数6】

【0130】
これから両者の傾きは主点間隔eとバックフォーカスSkで定まることが分かる。そこで、両者をパワーφで微分すると以下の式が導かれる。
【0131】
【数7】

【0132】
パワーφ1は直線で変化するため傾きは一定である。それに対して、パワーφ2の傾きは全系のパワーφによって変化する。また主点間隔eが大きくなれば、パワーφ1,φ2の傾きは、ともに小さくなり高倍率化となるが、バックフォーカスSkが大きくなればパワーφ1が大きくなるのに対してパワーφ2は小さくなり、高倍率化に対するバックフォーカスSkの変化の方向を定めることはできない。
【0133】
ここで、全系のパワーφの変化に対するパワーφ1,φ2の傾きを比較する。φ2=0となる
【0134】
【数8】

【0135】
の点で
【0136】
【数9】

【0137】
となり、
【0138】
【数10】

【0139】
の範囲では
【0140】
【数11】

【0141】
となり、
【0142】
【数12】

【0143】
の範囲では
【0144】
【数13】

【0145】
となる。これらを比較した表を表6に示す。これから、広範囲にわたって
【0146】
【数14】

【0147】
となっていることが分かる。
【0148】
したがって、広範囲にわたって傾きが大きいパワーφ2の傾きを小さくすることができれば高倍化を達成することができる。
【0149】
そこで、数式20中のパワーφ2の傾き
【0150】
【数15】

【0151】
に着目すると主点間隔eとバックフォーカスSkを共に大きくすれば、傾きを小さくすることができることが分かる。またここでは、主点間隔eとバックフォーカスSkの和である第1群の主点位置から像面までの距離(薄肉近似での全長)が一定であるので、e=Skのときにパワーφ2の傾きは最小になる。以上のようにしたときズーム比が最大となる。
【0152】
本発明では、薄肉での近似から厚肉化に伴って、上記主点間隔eがH1’とH2の距離に置き換わり、薄肉の主点間隔eとずれることを考えて、本発明の実施例では、以下のようにしている。
【0153】
(数16)
【0154】
【数16】

【0155】
ただしe’は、物点とH1の距離をeo、H1’とH2の距離をe、H2’と像点との距離をeiとした時のeoとeiを比較して小さい方の距離である。
またバックフォーカスSkが一定であり主点を動かすことが可能ならば、パワーφ1、φ2ともに主点間隔eを大きくすることで傾きを小さくでき高倍化となる。そのため、群を構成する光学素子の面の形状によって主点間隔を広げるような光学素子を回転非対称レンズとして用いれば、面間隔をそのままにしながら主点間隔を広げ、さらに高倍率化を達成することができる。
【0156】
上記に示すような片面のみ数式10で記述するような曲面を用いると、前側・後側主点とも同面上で移動するだけである。この光学素子を用いただけでは主点位置を大きく動かすことができない。そのためズーム比も大きくすることができない。この主点を光学素子の前、もしくは後に動かし主点間隔を大きくすることができれば、面間隔を大きくすることを行わないで高倍率化を達成することができる。
【0157】
ここで、共軸レンズとして両レンズ面が凸形状の正レンズ(両凸レンズ)、両レンズ面が凹形状の負レンズ(両凹レンズ)、メニスカス形状のレンズの3つのレンズの主点位置について考察する。すると両凸・両凹レンズとも主点はレンズの内部にあり、上記のように主点をレンズの外に大きく動かすことを望めない。
【0158】
それに対してメニスカス形状のレンズは両凸レンズや両凹レンズとは異なり、主点がレンズの外側にすることもできるレンズである。
【0159】
そのため回転非対称レンズにもこの形状を採用することにより主点をレンズの外側に大きく変動させることができる。これを本発明のズーム光学系のような回転非対称レンズに採用すれば、主点間隔を大きくし高倍率化が望める。
【0160】
さらに、主点間隔はテレ側(望遠側)では小さくワイド側(広角側)で大きくした方が高倍率となる。それは数式6から理解できる。ワイド側での全系のパワーをφwとし、そのときの第1群、第2群のパワーをそれぞれφ1w、φ2w、その主点間隔eとし、同じようにテレ側での全系のパワーをφt、第1群、第2群のパワーをそれぞれφ1t、φ2t、その主点間隔etとする。すると数式6は以下のようになる。
【0161】
(数17)
φ=φ1w+φ2w−eφ1wφ2w
(数18)
φ=φ1t+φ2t−eφ1tφ2t
ただしφ>φである。ここで、パワーφ1とパワーφ2は異符号であるため、
(数19)
φ1w+φ2w>0、φ1t+φ2t<0
とし、
(数20)
>e
とすると、パワーφwとパワーφtの差が大きくなり、高倍化となることが分かる。
【0162】
以上のように、eとe’は実質的に等しいことが高倍化のための条件である。さらに全長を1とすると
(数21)
e + e’ = 1
【0163】
【数17】

【0164】
からeもしくはe’は0.4167以上0.588未満であることが分かる。
【0165】
この間に本発明のように補助可動ブロックを挿入することを考えると、補助可動ブロックの光軸方向の移動量の最大値は0.588未満にしなければならないことが分かる。さらに主点のずれなどを考慮に入れて、本発明では補助可動ブロックの移動量を以下の範囲に設定している。
【0166】
(数23)
d/T < 0.6
さらに、補助可動ブロックを正のパワーにすることによって、偏心可動ブロックのパワーを緩めることができる。
【0167】
また、補助可動ブロックは偏心可動ブロックの補正であるため、倍率が偏心可動ブロックと比較すると倍率の変化が緩いブロックである。すなわち以下の範囲を満たすことで、偏心可動ブロックのパワーを緩くすることができ、結果的に全体として収差小さくしている。
【0168】
(数24)
Bdmax > Bsmin
また上記と同じ理由から、偏心可動ブロックの主点位置変化と補助可動ブロックの主点位置変化を比較して、前者の方が大きくすることが必要である。ゆえに以下の範囲を満たすことで収差の抑えている。
【0169】
(数25)
ΔHdmax > ΔHs
以上のように補助可動ブロックを動かすことで、軸上コマ収差などの非対称な収差を抑えている。
【0170】
また、偏心可動ブロックのパワーは以下の如く設定している。
【0171】
広角端における第1群G1、第3群G3のパワーの絶対値を比較して大きい方を|φgw|max、望遠端における各群のパワーの絶対値を比較して小さい方を|φgt|minとすると、数式24を満足することで広角端におけるパワーを稼いでいる。
【0172】
(数26)
|φgw|max < |φgt|min
さらに、ペッツバールが大きいと像面湾曲が大きくなり、逆だと小さくなることが知られている。
【0173】
そこで本発明ではペッツバールを小さくすることで像面湾曲を小さく抑えている。ペッツバールはレンズEi(i=1〜n)でのパワーをφEi、材料の屈折率をnEiとしたとき以下の式で与えられる。
【0174】
(数27)
PEi= φEi/nEi
共軸光学素子を用いた通常のズーム光学系においては、この値は常に一定である。しかしながら、本発明のように光学素子が連続して偏心し、パワーが変化する光学系においては一定ではない。またパワーの変化に対して、硝材の屈折率は1.45付近から1.9付近とその変化が小さいため、ペッツバールの変化はパワーの変化といってもよい。
【0175】
そこで、このペッツバールを小さく抑えるために、第A群と第B群におけるパワーの絶対値の最大値を|φ|maxとし、第A群と第3群G3の合計のパワーをφ13とするとき、次式を満足するようにパワーの変化の範囲を定めている。
【0176】
(数28)
−|φ|max ≦ φ13 ≦ |φ|max・・・・(5)
次に主点位置の観点から述べる。
【0177】
コンパクトを保ちながらズーミングを行うには、主点位置を各群の所定位置から大きく移動させる必要がある。従来の片面に3次曲線を与えただけの光学系では、その3次係数を持たせた面に主点位置があるだけで大きく変動しない。
【0178】
主点位置を大きく変動させるための方法として、例えば片方の面に曲率を持たせ回転非対称レンズの形状をメニスカス形状にすることが挙げられる。正レンズや負レンズとは異なり、メニスカス形状のレンズは主点がレンズの外側にすることもできるレンズであり、回転非対称レンズにもこの形状を採用することにより主点を群の外側に大きく変動させることができる。しかしながら、回転非対称レンズをメニスカス形状にすると望遠端もしくは広角端で(光線がレンズの端を通るときに)軸上光線の上線・下線でずれが生じる。そのため、他のレンズでこれの補正しなければならない。
【0179】
これを解決する方法は補正するレンズを逆の傾きを持つメニスカス形状にし、上線・下線のずれを打ち消すことを行う。3次以上の高次の係数を面に導入する際にはこれに着目し係数を定める。また、メニスカス形状は互いの距離を縮める方向に形状をつけることが望ましい。なぜならばレンズ同士を近づけることで、軸上コマ収差を各面で最小限にしながら除去できるからである。
【0180】
以上のようにして本発明では軸上コマ収差を除去している。
【0181】
【表1】


【0182】
【表2】


【0183】
【表3】


【0184】
【表4】


【0185】
【表5】

【0186】
【表6】

【0187】
【表7】

【0188】
【表8】

【0189】
【表9】

【0190】
【表10】

【0191】
【表11】

【0192】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】本発明の実施例1のレンズ断面図である。
【図2】比較例2のOff−Axial光学系を説明する図である。
【図3】比較例1に基づいて設計したレンズのパワー配置を示す図である。
【図4】比較例1に基づいて設計したレンズの断面図である。
【図5】比較例2のレンズ断面図である。
【図6】比較例2のテレ端、ミドル、ワイド端のレンズ断面図である。
【図7(A)】比較例2の収差図である。
【図7(B)】比較例2の収差図である。
【図7(C)】比較例2の収差図である。
【図8】本発明における像面での光線の番号を示す図である。
【図9】比較例2のテレ端、ミドル、ワイド端でのディストーション格子を示す図である。
【図10】本発明の実施例1のレンズ断面図を示す図である。
【図11(A)】本発明の実施例1の収差図である。
【図11(B)】本発明の実施例1の収差図である。
【図11(C)】本発明の実施例1の収差図である。
【図12】本発明の実施例1のテレ端、ミドル、ワイド端でのディストーション格子を示す図である。
【図13】本発明の実施例1の光学群G1と光学群G3のパワー変化を示す図である。
【図14】本発明の実施例1のG1とG3の主点位置変化を示す図である。
【図15】本発明の実施例1のレンズ断面図を示す図である。
【図16】本発明の実施例2のレンズ断面図である。
【図17(A)】本発明の実施例1の収差図である。
【図17(B)】本発明の実施例1の収差図である。
【図17(C)】本発明の実施例1の収差図である。
【図18】本発明の実施例1のテレ端、ミドル、ワイド端でのディストーション格子を示す図である。
【図19】本発明の実施例1の光学群G1と光学群G2のパワー変化を示す図である。
【図20】本発明の撮像装置の説明図
【符号の説明】
【0194】
G1〜G4 光学群
SP 絞り
IP 像面
E1〜E7 光学素子
S1〜S15 面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的パワーが可変の複数の光学群と、1以上の光学群が光軸方向に配置され、該光学的パワーが可変の複数の光学群のパワーを変えてズーミングを行うズーム光学系であって、該光学的パワーが可変の複数の光学群は、各々回転非対称面を含み光軸と異なる方向に移動して光学群内のパワーを変える複数の光学素子Ldを有し、該1以上の光学群には、少なくとも1つの面に関する対称性を持ち光軸方向に移動可能な1以上の光学素子Lsを有する光学群Sが含まれていることを特徴とするズーム光学系。
【請求項2】
光学的パワーが可変の複数の光学群と、2以上の光学群が光軸方向に配置され、該光学的パワーが可変の複数の光学群のパワーを変えてズーミングを行うズーム光学系であって、該光学的パワーが可変の複数の光学群は、各々回転非対称面を含み光軸と異なる方向に移動して光学群内のパワーを変える複数の光学素子Ldを有し、該2以上の光学群には、少なくとも1つの面に関する対称性を持ち光軸方向に移動可能な1以上の光学素子Lsを有する光学群Sと光学的パワーが不変の光学群Cが含まれていることを特徴とするズーム光学系。
【請求項3】
前記光学素子Lsは、ズーミングの際に移動することを特徴とする請求項1又は2のズーム光学系。
【請求項4】
前記光軸方向に移動可能な1以上の光学素子には正の屈折力の光学素子が含まれていることを特徴とする請求項1、2又は3のズーム光学系。
【請求項5】
前記光軸方向に移動可能な1以上の光学素子のうちの1つの光学素子の全ズーム範囲における移動量をd、全系の全長をTとするとき
d/T<0.6
なる条件を満足することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項のズーム光学系。
【請求項6】
前記複数の光学素子Ldは、光軸と異なる方向に移動するとき、該複数の光学素子Ldを含む光学群の主点位置が光軸方向であって、該光学群の外側へ移動する形状の光学素子を含んでいることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項のズーム光学系。
【請求項7】
前記光学的パワーが可変の複数の光学群のうちの光学群Aの前側主点位置と後側主点位置を各々H,H´、該光学群Aよりも像側の光学群Bの前側主点位置と後側主点位置を各々H、H´とし、物点と前側主点位置Hとの距離をeo、後側主点位置H´と前側主点位置Hとの距離をe、後側主点位置H´と像点との距離をeiとし、距離eoと距離eiのうち小さい方をe´とするとき、任意のズーム位置において、距離eと距離e´は実質的に同一であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項のズーム光学系。
【請求項8】
0.7<e/e´<1.4
なる条件を満足することを特徴とする請求項7のズーム光学系。
【請求項9】
前記光学的パワーが可変の複数の光学群のうちの光学群Aの後側主点位置をH´、該光学群Aよりも像側の光学群Bの前側主点位置をH、該光学群Aの光学的パワーが可変となる領域のうち光学的パワーが正の範囲内において、全系のパワーが最も小さいときと、最も大きいときの像側主点位置H´と前側主点位置Hとの距離を各々et1、ew1、該光学群Aの光学的パワーが可変となる領域のうち光学的パワーが負の範囲内において、全系のパワーが最も小さいときと、最も大きいときの像側主点位置H´と前側主点位置Hとの距離を各々et2、ew2とするとき、
et1<ew1
et2<ew2
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項のズーム光学系。
【請求項10】
前記光学的パワーが可変の複数の光学群のうちの光学群Aと該光学群Aよりも像側の光学群を光学群Bとするとき、
望遠端から広角端へのズーミングに際して、
該光学群Aのパワーは正から負へ変化し、
該光学群Bのパワーは負から正へ変化し、
全ズーム範囲内において、該光学群Aと該光学群Bの光学的パワーが一致するズーム位置が存在し、
該一致するズーム位置は全ズーム範囲内の中間のズーム位置よりも広角側にあることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項のズーム光学系。
【請求項11】
前記光学的パワーが可変の複数の光学群のうちの光学群Aと該光学群Aよりも像側の光学群Bのうち、広角端において光学的パワーの絶対値が大きい方を|φgw|max、望遠端において光学的パワーの絶対値が小さい方を|φgt|minとするとき
|φgw|max<|φgt|min
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項のズーム光学系。
【請求項12】
前記光学的パワーが可変の複数の光学群のうちの光学群Aと該光学群Aよりも像側の光学群Bのうちで全ズーム範囲における光学的パワーの絶対値の最大値を|φ|max、該光学群Aと光学群Bの任意のズーム位置における光学的パワーの合計値をφABとするとき
−|φ|max≦φAB≦|φ|max
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項のズーム光学系。
【請求項13】
全ズーミング範囲内において、前記複数の光学素子Ldの個々の結像倍率の絶対値の最大値を最小値で割った値のうち最大値をBdmax、前記1以上の光学素子Lsの個々の結像倍率の絶対値の最大値を最小値で割った値のうち最小値をBsminとするとき
Bsmin<Bdmax
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項のズーム光学系。
【請求項14】
前記光学的パワーが可変の複数の光学群のうちの光学群Aの前側主点位置Hの望遠端から広角端へのズーミングによる光軸方向の変化量をΔH、該光学群Aよりも像側の光学群Bの前側主点位置Hの望遠端から広角端へのズーミングによる光軸方向の変化量をΔHとするとき、変化量ΔHと変化量ΔHのうち大きい方をΔHdmaxとし、前記1以上の光学素子Lsの任意の光学素子の前側主点位置の変化量をΔHとするとき
ΔH<ΔHdmax
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から13のいずれか1項のズーム光学系。
【請求項15】
光電変換素子上に像を形成することを特徴とする請求項1から14のうちいずれか1項のズーム光学系。
【請求項16】
請求項1乃至15のうちいずれか1項のズーム光学系と、該ズーム光学系によって形成される像を受光する光電変換素子とを備えることを特徴とする撮像装置。

【図11(A)】
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【図11(B)】
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【図12】
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【図15】
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【図20】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7(A)】
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【図7(B)】
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【図7(C)】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11(C)】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17(A)】
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【図17(B)】
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【図17(C)】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−4060(P2007−4060A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186981(P2005−186981)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】