説明

セサミン類とエピガロカテキンガレートとを含有する組成物

【課題】セサミン類の体内吸収を促進する手段を提供すること。
【解決手段】セサミン類とエピガロカテキンガレートとを組合せて用いることにより、当該セサミン類の体内吸収を促進することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セサミン類の体内吸収性を促進するための組成物、セサミン類の体内吸収促進剤、及びそれらを利用する飲食品又は医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
セサミン類はゴマに含有されるリグナン化合物の一種である。なかでもセサミンとその立体異性体であるエピセサミンに関しては、血中コレステロール低下作用及び血中中性脂質低下作用、肝機能改善作用、活性酸素消去作用、Δ5不飽和化酵素阻害作用、過酸化脂質生成抑制作用、抗高血圧作用、悪酔防止作用、乳癌抑制作用等の種々の生理活性が報告されている(特許文献1)。
【0003】
しかしなら、セサミン類を包含するリグナン類化合物は、水に殆ど溶解しない上、医薬用又は食用に使用可能な有機溶媒に対してもある程度しか溶解しない。このような難溶性のため、リグナン類化合物は生体内で吸収されにくいという問題を有する。
【0004】
脂溶性物質の体内吸収性を向上させる方法としては、例えば、脂溶性物質であるユビデカレノンを食用天然油脂や中鎖脂肪酸のトリグリセリドに溶解させて液状にすることにより、ユビデカレノンの体内吸収を高める方法が開示されている(特許文献2)。
【0005】
また、脂溶性物質の体内吸収性を向上させる別の方法として、脂溶性物質のミセルを微細化(微粒子化)する方法も提案されている。例えば、コエンザイムQ10と、特定のポリグリセリン、脂肪酸モノエステル等とからなる組成物で、平均粒子系を110nm以下とすることにより、生体内吸収性が顕著に改善されたコエンザイムQ10含有水溶性組成物が開示されている(特許文献3)。しかしながら、他の化合物との組合せによりセサミン類の体内吸収性を向上させた例は報告されていない。
【特許文献1】WO2006/070856号パンフレット
【特許文献2】特開昭54−92616号公報
【特許文献3】特開2004−196781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脂溶性物質の体内吸収を促進し得る上記の手段を用いる場合には、脂溶性物質を油脂等に溶解させて液状にするか、又は脂溶性物質のミセルを含む液体とする必要がある。しかしながら、セサミン類は油脂に対する溶解度が低く、一度に摂取するセサミン類の量を多くする場合は、溶剤である油脂の量も多くせざるをえない。したがって、製剤化した場合、製剤が大きくなりすぎ、特にカプセル等に製剤化した場合には摂取粒数が多くなりすぎるといった問題があった。また、油脂摂取量の増加による余剰カロリーの摂取も懸念されていた。一方、吸収性向上を目的として、ミセル形成させるためには、脂溶性物質を均一に乳化させる必要があり、また複雑な工程を必要とするといった問題もあった。
【0007】
そこで本発明の課題は、このような問題点を解決することのできる、セサミン類の体内吸収を促進するための新たな手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セサミン類をエピガロカテキンガレートと組み合わせて用いることにより、セサミン類の体内吸収を促進することが可能となることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、以下のものに関する:
1.セサミン類とエピガロカテキンガレートとを含有する組成物;
2.組成物中の、セサミン類の総重量を1とした場合にエピガロカテキンガレートの重量が1以上である、1に記載の組成物;
3.セサミン類の総含有量が、組成物全重量に対して1重量%以上である、1または2記載の組成物;
4.セサミン類が、セサミンおよび/またはエピセサミンである、1〜3のいずれかに記載の組成物;
5.飲食品である、1〜4のいずれかの項に記載の組成物;
6.セサミン類及びエピガロカテキンガレートを含有する飲料であって、飲料の総重量に基づいて、セサミン類の総含有量が0.0002重量%以上、エピガロカテキンガレートの含量が0.002重量%以上である飲料;
7.医薬組成物である、1〜4のいずれかの項に記載の組成物;
8.エピガロカテキンガレートを有効成分として含む、セサミン類の体内吸収促進剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、セサミン類とエピガロカテキンガレートとを組合せて用いることにより、セサミン類の体内吸収性を向上させることができる。従って、セサミン類の投与量を増加させることなく、その生理活性を効率よく発揮させることが可能となる。
【0011】
また、エピガロカテキンガレートはポリフェノール化合物の一種であり、強力な抗酸化活性や、抗突然変異作用、抗菌作用、抗アレルギー作用等の生理作用を有している。その上、セサミン類及びエピガロカテキンガレートは、植物由来であるため極めて安全性が高い。従って、本発明は、セサミン類の吸収性を向上させるだけでなく、エピガロカテキンガレートの有用な生理作用も期待でき、かつ安全で継続摂取可能な飲食品、医薬用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、セサミン類とエピガロカテキンガレートとを含有する組成物、及びセサミン類の体内吸収促進剤に関する。
【0013】
セサミン類
本発明のセサミン類とは、セサミン、エピセサミン及びその類縁体を含む一連の化合物の総称である。前記のセサミン類縁体としては、例えば特開平4−9331号公報に記載されたジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン誘導体がある。セサミン類の具体例としては、セサミン、エピセサミン、セサミノール、エピセサミノール、セサモリン等を例示でき、これらの立体異性体又はラセミ体を単独で、またはそれらの混合物を用いることができるが、本発明においては、セサミン及び/又はエピセサミンを好適に用いることができる。また、セサミン類の代謝物(例えば、特開2001-139579号公報に記載)も、本発明の効果を示す限り、セサミン類に含まれるセサミン類縁体であり、本発明に使用することができる。
【0014】
本発明に用いるセサミン類は、その形態や製造方法等によって、何ら制限されるものではない。例えば、セサミン類としてセサミンを選択した場合には、通常、ゴマ油から公知の方法(例えば、特開平4−9331号公報に記載された方法)によって抽出したセサミン(セサミン抽出物または濃縮物という)を用いることもできるが、市販のゴマ油(液状)をそのまま用いることもできる。しかしながら、ゴマ油を用いた場合には、セサミン含量が低い(通常、1%未満)ため、セサミンの生理作用を得るのに必要なセサミンを配合しようとすると、処方される組成物の単位投与当りの体積が大きくなり過ぎるため、摂取に不都合を生じることがある。特に、経口投与用に製剤化した場合は、製剤(錠剤、カプセルなど)が大きくなり過ぎて摂取に支障が生じる。したがって、摂取量が少なくてよいという観点からもゴマ油からのセサミン抽出物(又はセサミン濃縮物)を用いることが好ましい。なお、ゴマ油特有の風味が官能的に好ましくないと評価されることもあることから、セサミン抽出物(又はセサミン濃縮物)を公知の手段、例えば活性白土処理等により無味無臭としてもよい。
【0015】
このように、セサミン類としては、ゴマ油等の食品由来の素材から抽出及び/又は精製によりセサミン類の含有濃度を向上させて得られるセサミン類濃縮物を用いるのが好ましい。濃縮の度合いは、用いるセサミン類の種類や配合する組成物の形態により適宜設定すればよいが、通常、セサミン類が総量で1重量%以上となるように濃縮されたセサミン類濃縮物を用いるのが好ましい。セサミン類濃縮物中のセサミン類総含量は、20重量%以上がより好ましく、さらに50重量%以上が好ましく、さらにまた70重量%以上が好ましく、90重量%以上まで濃縮(精製)されたものが最適である。
【0016】
エピガロカテキンガレート
エピガロカテキンガレートはフラボノイド類の1つである。特に、(−)−エピガロカテキンガレートは、緑茶植物 Camellia Sinesis の葉に含まれる主要なポリフェノールであり、抗酸化作用、抗突然変異作用、抗菌作用、抗アレルギー作用等の種々の生理作用を有することが知られている(特開2001−97968号公報)。本発明においては、好ましくは(−)−エピガロカテキンガレートを用いる。
【0017】
本発明に用いるエピガロカテキンガレートは、その形態や製造方法等によって何等制限されるものではないが、エピガロカテキンガレートは、例えば、特開2001−97968号公報に記載された方法にしたがって緑茶葉から抽出・精製を行うことにより製造することができる。或いは、本発明においては、エピガロカテキンガレートの粗精製物を用いてもよい。これには、茶葉、好ましくは緑茶葉からの抽出物及び当該茶葉の粉砕品が含まれる。また、当該抽出物には茶飲料、特に緑茶飲料が含まれる。または例えばテアビゴ(商標:DSM ニュートリション ジャパン株式会社)のような精製度の高いものを用いてもよい。
【0018】
セサミン類とエピガロカテキンガレートとを含有する組成物及びセサミン類の体内吸収促進剤
本発明は、セサミン類とエピガロカテキンガレートを組み合わせることにより、セサミン類の体内吸収性を高め、その生理活性を効率的に発揮させることができるとともに、健康食品等として利用することで、それぞれの成分の生理作用により、健康増進を図ることができる。
【0019】
本発明のセサミン類とエピガロカテキンガレートとを含有する組成物(飲食品、医薬組成物等)中におけるセサミン類とエピガロカテキンガレートの配合量及び配合比率は、セサミン類の体内吸収が促進され、生理活性が効率的に発揮される範囲であれば特に制限されず、組成物の形態や対象となる病態等の条件及び選択する他の配合成分との関係等により適宜選択すればよい。
【0020】
セサミン類の生理作用を得るためのセサミン類の総配合量としては、通常、成人1日当り1〜200mgを摂取できるよう配合することが好ましく、より好ましくは5〜100mg、さらに好ましくは10〜100mg程度を摂取できるように配合する。また、エピガロカテキンガレートの配合量としては、成人1日当り10mg〜500mg、好ましくは50mg〜300mg程度を摂取できるように配合する。
【0021】
本発明の組成物(飲食品、医薬組成物等)中における、セサミン類の総配合割合は、組成物全重量に対し、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは1〜50重量%であり、さらに好ましくは1〜10重量%であるのがよいが、本発明の組成物の形態が液剤又は飲料である場合、組成物全重量に対するセサミン類の総配合割合は、0.0002重量%以上、好ましくは0.0002〜0.4重量%程度、より好ましくは0.001〜0.04重量%、さらにより好ましくは0.002〜0.02重量%となるよう配合することができる。一方、組成物中におけるエピガロカテキンガレートの配合割合は、組成物全重量に対し、好ましくは1.0〜80重量%であり、より好ましくは1.0〜70重量%、さらに好ましくは3.0〜50重量%であるのがよいが、本発明の組成物の形態が液剤又は飲料である場合、組成物全重量に対するエピガロカテキンガレートの配合割合は、0.002重量%以上、好ましくは0.002〜0.5重量%、より好ましくは0.002〜0.2重量%、さらにより好ましくは0.01〜0.2重量%となるよう配合することができる。ここで言う液剤又は飲料とは、例えば後述するようなドリンク剤、清涼飲料、茶飲料、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤等が挙げられる。
【0022】
本発明のセサミン類とエピガロカテキンガレートとを含有する組成物においては、その配合比率に制限はないが、セサミン類の体内吸収促進効果を期待するのであれば、セサミン類の総量とエピガロカテキンガレート量との比率は、重量で1:1以上、好ましくは重量で1:2〜1:70、より好ましくは重量で1:3〜1:50、さらに好ましくは重量で1:5〜1:30である。
【0023】
このようにして、本発明は、セサミン類の体内吸収を促進することができる。この効果は、例えば、実施例1に示されているように、セサミン類の血中濃度を測定することにより確認することができる。
【0024】
以下の実施例に詳細に説明するが、発明者らは、セサミン類10mg/kg(動物モデルの体重1kg当りのセサミン類の量(mg))に加えてエピガロカテキンガレートを200μmol/kg(91.6mg/kg)投与することにより、セサミン類10mg/kgのみの投与の場合に比べて、セサミン類の体内吸収性が顕著に増強されることを確認している。また、EGCG同時投与時には、吸収量だけでなく、吸収速度に関しても独特の吸収プロファイルを示すことを確認している。即ち、セサミン類を単独で摂取させた場合、セサミン類の血中濃度は4時間目にピークに達し(Cmax=1.44 ng/ml)、その後、速やかに減少したのに対し、EGCGを同時に摂取させた場合、投与6時間目に血中濃度がピークに達し、投与4時間目から8時間の間高い血中濃度(>1.44 ng/ml)が維持されていた。従って、本発明の組成物により、セサミンの血中濃度を一定時間持続させ、長時間セサミン類の効果を発揮させることが可能となる。
【0025】
上記の通り、セサミン類とエピガロカテキンガレートを組合せることにより、セサミン類の体内吸収性が顕著に増強される。従って、本発明は、エピガロカテキンガレートを有効成分として含有するセサミン類の体内吸収促進剤としても利用できる。本発明におけるセサミン類の体内吸収促進作用とは、セサミン類の体内吸収量を、セサミン類単独投与の場合と比較して増加させる作用を意味し、その作用の具体的な例には、AUCの増加作用、最大血中濃度増加作用、血中セサミン濃度の持続作用も含まれる。
【0026】
エピガロカテキンガレートを有効成分として含有するセサミン類の体内吸収促進剤に配合するエピガロカテキンガレートの配合率、配合量は、セサミン類及びエピガロカテキンガレートを含有する組成物におけるエピガロカテキンガレートの配合率、配合量等に関して上記した数値に基づいて適宜決定することができる。また、セサミン類とそれと共に投与される体内吸収促進剤との比率も、セサミン類及びエピガロカテキンガレートを含有する組成物に関して上記した通りである。
【0027】
飲食品及び医薬品
本発明の組成物及び体内吸収促進剤は、飲食品(機能性食品、健康補助食品、栄養機能食品、特別用途食品、特定保健用食品、栄養補助食品、食事療法用食品、健康食品、サプリメント等)及び医薬品の形態で提供することが好適である。そのような飲食品及び医薬品には、セサミン類とエピガロカテキンガレートとを含む飲食組成物及び医薬組成物、及び当該組成物を含むか又は添加した飲食品及び医薬品が含まれる。また、エピガロカテキンガレートを有効成分として含有するセサミン類の体内吸収促進剤を含むか又は添加した飲食品及び医薬品も含まれる。
【0028】
また、飲食品及び医薬品は、ペットの餌として加工したペットフードや動物飼料等、並びに動物用医薬でもよい。
セサミン類とエピガロカテキンガレートとを含む飲食品及び医薬品は、血中コレステロール低下作用及び血中中性脂質低下作用、肝機能改善作用、活性酸素消去作用、Δ5不飽和化酵素阻害作用、過酸化脂質生成抑制作用、抗高血圧作用、悪酔防止作用、乳癌抑制作用等などの、セサミン類が有効であると考えられる種々の生理作用を得るために使用することができる。また、エピガロカテキンガレートを含有するセサミン類の体内吸収促進剤である飲食品及び医薬品は、セサミン類に上記のような種々の生理作用を効率的に発揮させるために使用され得る。
【0029】
本発明の組成物を飲食品として提供する場合、その形態は、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、ドリンク剤(溶液剤及び懸濁液剤が含まれる)等の健康食品の形態で提供することも、清涼飲料、茶飲料、ヨーグルトや乳酸菌飲料等の乳製品、調味料、加工食品、デザート類、菓子(例えば、ガム、キャンディ、ゼリー)等の形態で提供することも可能であるが、これらに限定されない。
【0030】
また、本発明の組成物を医薬品として用いる場合、その投与形態は経口投与でもよいし、注射剤等の形態で投与してもよく、各々の投与に適した製剤として公知のものを適宜用いればよい。例えば、経口投与に適した製剤には、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤などが含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の組成物は、必要に応じて、セサミン類とエピガロカテキンガレートの他に、任意の添加剤、通常の飲食品や医薬品に用いられる任意の成分を含有することができる。これらの添加剤及び/又は成分の例としては、ビタミンE、ビタミンC等のビタミン類、ミネラル類、栄養成分、香料などの生理活性成分のほか、製剤化において配合される賦形剤、結合剤、乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、凝固剤、コーティング剤等が挙げられる。
【0032】
なお、セサミン類とエピガロカテキンガレートを個別に製剤化して、それらをほぼ同時に、または、一方の製剤を服用後、その効き目が持続している間に他方の製剤を服用すれば、本発明の意図するセサミン類の体内吸収促進作用が得られる。よって、エピガロカテキンガレートを含有するセサミン類の体内吸収促進剤とセサミン類含有組成物とを含むキット等も、本発明の意図するものである。キット中に別々に含まれる各成分は、同時に摂取しても良いし、逐次的又は別々に摂取してもよい。
【0033】
当該キットは、それら組成物又は製剤を収容するための1又は複数の容器を有することができ、それら2種類の組成物又は製剤は同一の容器に収容されてもよいし、別々に異なる容器に収容されてもよい。或いは、それら組成物又は製剤は、仕切りなどで分けられた同一容器内の異なる区画中に別々に収容されてもよい。容器としては、公知のいずれのものを用いてもよく、それには、ボトル、バッグ、PTPシート等が含まれる。例えば、キットは、上記2種類の組成物又は製剤を別々に収容した2つのボトルやバッグを含有するパッケージであることができる。また、キットは、異なる区画に上記の2種類の組成物又は製剤(例えば錠剤)を別々に収容するPTPシートを含むこともできる。
【実施例】
【0034】
本発明を以下の実施例によりさらに詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。当業者は、本発明を種々変更、修飾して使用することが可能であり、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0035】
実施例1 エピガロカテキンガレート(EGCG)がセサミン類生体内吸収性に及ぼす影響
EGCGがセサミン類の生体吸収性に及ぼす影響を検討した。また、EGCGが持つ抗酸化作用の関与を調べる目的で、代表的な抗酸化剤としてアスコルビン酸(ビタミンC又はVC)を用いてセサミン類の生体内吸収性に対する影響を検討し、EGCGを用いた場合及びコントロールの結果と比較した。
【0036】
SD(IGS)系雄性ラット(8週齢)を日本チャールスリバー社より購入し、1週間試験環境下で馴化させた後、順調な発育を示した動物を選択して試験に供した。一晩絶食したラットを各群4匹からなる3群に分け、第1群(コントロール)には蒸留水5ml/kgおよびセサミンとエピセサミンの1:1混合物(竹本油脂株式会社より購入:以下、「セサミン類混合物」とも称する)のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、第2群にはEGCG蒸留水溶液(200μmol(91.6mg)/5ml)を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、第3群にはアスコルビン酸の蒸留水溶液(200μmol/5ml)を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、ゾンデを用いて経口投与した。投与前に、そして投与開始の1, 2, 4, 6, 8, 10, 24時間後に尾静脈よりヘパリン採血管にて血液を採取し、遠心分離操作(8000rpm、10min)により血漿サンプルを得た。当該サンプルに内部標準物質ユーデスミン(フナコシ株式会社)を添加した後にOasis HLBで固相抽出を行い、得られた溶液を減圧濃縮し、メタノール中に懸濁し、これをフィルターろ過して得られた溶液をLC−MS/MSに付してセサミン類の定量を行った。セサミン類の量は、それらのピーク面積と、内部標準として用いたユーデスミンのピーク面積との比により決定した。LC−MS/MS分析条件を以下に示す。尚、本実施例においては、EGCGとして、テアビゴ(商標:DSM ニュートリション ジャパン株式会社、EGCG純度93%)を用いた。第2群の投与液は、テアビゴ98.5mgを5mLの水に溶解したものであり、この濃度は、EGCG換算では91.6mg/5mLとなる。
カラム:Develosil C30-UG-5(5μm、2.0Φ×50mm、野村化学社製)
移動相:A;蒸留水、B;メタノール、D;100mM酢酸アンモニウム水溶液
流速:0.25ml/min
グラジェントプログラム:B液55%、D液10%のアイソクラクティック(0〜2分);B液55%→60%、D液10%→10%(2〜5分);B液60%→85%、D液10%→10%(5〜7分)
(MS/MS)
測定モード:選択反応モニタリング
検出 :セサミン(保持時間約5.1分);前駆イオンm/z=372([M+NH4]+)、生成イオンm/z=233
:エピセサミン(保持時間約5.4分);前駆イオンm/z=372([M+NH4]+)、生成イオンm/z=233
:ユーデスミン(保持時間約2.9分);前駆イオンm/z=369([M+NH4]+)、生成イオンm/z=298
イオン化法:ESI法
セサミンの体内吸収量(AUC)及びエピセサミンの体内吸収量(AUC)の総和をセサミン類の体内吸収量(AUC)として図1に示す。セサミン類混合物単独で投与したコントロールのAUCは156.5 ng/ml*hrであるのに対し、EGCG 200μmol/kgを同時に摂取するとAUCが189.3 ng/ml*hrまで上昇した。この値は、コントロールの約1.2倍であった。
【0037】
一方、アスコルビン酸200μmol/kgを同時に投与した場合のAUCは、157.7 ng/ml*hrであり(コントロールの1.0倍)、アスコルビン酸がセサミン類の吸収性にまったく影響を与えないことが示された。
【0038】
図2は、セサミンの血中濃度の推移を示す。セサミン類混合物を単独で投与したコントロールにおけるセサミンの最大血中濃度(Cmax)は1.44 ng/mlであったのに対し、EGCGを同時に投与した場合にはセサミンのCmaxが1.81ng/mlに増加した。さらに、EGCG同時投与時には、独特の吸収プロファイルが示された。即ち、セサミン類混合物を単独で摂取させた場合、セサミンの血中濃度は4時間目にピークに達し(Cmax=1.44 ng/ml)、その後、速やかに減少したのに対し、EGCGを同時に摂取させた場合、投与6時間目に血中濃度がピークに達し、投与4時間目から8時間の間高い血中濃度(>1.44 ng/ml)が維持されていた。
【0039】
以上の結果より、セサミン類とEGCGを同時に摂取すると、セサミン類の生体内吸収性が向上することが明らかとなった。また、EGCGとの併用により、体内滞留時間の延長も認められた。
【0040】
なお、データは示さないが、上記のような吸収促進効果はセサミンとエピセサミンに対して同程度に発揮されることが確認された。
さらに、代表的な抗酸化剤であるアスコルビン酸にはこのような効果は認められなかった。したがって、セサミン類経口吸収促進作用は抗酸化剤一般に認められるものではなく、EGCGに特有の作用であることも示唆された。
【0041】
実施例2:処方例
(製剤例1)顆粒剤
セサミン 10g
エピガロカテキンガレート 90g
酢酸トコフェロール 0.5g
無水ケイ酸 41g
トウモロコシデンプン 98.5g
以上の粉体を均一に混合した後に10%のハイドロキシプロピルセルロース・エタノール溶液100mlを加え、常法通り練和し、押し出し、乾燥して顆粒剤を得た。
【0042】
(製剤例2)カプセル剤
ゼラチン 60.0%
グリセリン 30.0%
パラオキシ安息香酸メチル 0.15%
パラオキシ安息香酸プロピル 0.51%
水 適量
上記成分からなるソフトカプセル剤皮の中に、以下に示す組成物を常法により充填し、1粒360mgのソフトカプセルを得た。
【0043】
セサミン 4.0mg
エピガロカテキンガレート 71.6mg
ビタミンE 35mg
グリセリン脂肪酸エステル 15.0mg
ミツロウ 15.0mg
小麦胚芽油 219.4mg
(製剤例3)錠剤
セサミン 10g
エピガロカテキンガレート 50g
ビタミンE 50g
デンプン 142g
ショ糖脂肪酸エステル 9.0g
酸化ケイ素 9.0g
これらを混合し、単発式打錠機にて打錠して径9mm、質量300mgの錠剤を製造した。
【0044】
(製剤例4)茶飲料
(A液)緑茶茶葉2 . 5 k gを8 0℃の純水7 5 Lで6分間抽出、濾過した液に以下の成分を添加して、A液とした。
【0045】
炭酸水素ナトリウム 8 0g
L-アスコルビン酸 1 0 0g
テアビゴ(商標:DSM ニュートリション ジャパン株式会社、エピガロカテキンガレート純度93%) 50 g
(B液)以下の成分を混ぜ合わせて乳化液(B液)を作成した。
【0046】
セサミン 7g
ビタミンE 25g
シクロデキストリン 25g
乳化剤 25g
A液、B液および香料を添加し、2 5 0 Lとなるように加水調合した。続いて得られた調合液を1 3 0℃ 1分間U H T殺菌し、3 5 0 m lの缶に充填・密封し缶飲料を得た。
【0047】
(製剤例5)茶飲料
緑茶茶葉8gを80℃の純水300mlで6分間抽出・ろ過し、炭酸水素ナトリウム0.3g、L−アスコルビン酸0.4g、テアビゴ(商標:DSM ニュートリション ジャパン株式会社、エピガロカテキンガレート純度93%)を添加しA液とした。テアビゴの添加量は、A液中のEGCG量が100mgとなるように添加した。セサミン20mgを適量の乳化剤で乳化したセサミン乳化溶液500ml(セサミン20mg/500mL)をA液に添加して、最終1000mlとなるよう加水調合した。調合液を加熱殺菌(130℃、1分間)してペット容器充填を行い、セサミン含有緑茶飲料を得た。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、セサミン類の体内吸収量(AUC)を示す図である。
【図2】図2は、EGCGがセサミンの血中濃度の経時変化に及ぼす影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セサミン類とエピガロカテキンガレートとを含有する組成物。
【請求項2】
セサミン類の総含有量が、組成物全重量に対して1重量%以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
セサミン類が、セサミンおよび/またはエピセサミンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
飲食品である、請求項1〜3のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項5】
セサミン類及びエピガロカテキンガレートを含有する飲料であって、飲料の総重量に基づいて、セサミン類の総含有量が0.0002重量%以上、エピガロカテキンガレートの含量が0.002重量%以上である飲料。
【請求項6】
エピガロカテキンガレートを有効成分として含む、セサミン類の体内吸収促進剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150209(P2010−150209A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331769(P2008−331769)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】