説明

セメント混和剤およびこれを用いたセメント組成物

【課題】優れたセメント分散性能を有するとともに、セメントおよびセメント組成物の凝固時間を短縮できる、オキシカルボン酸類あるいは糖類、スルホン酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤からなるセメント混和剤及びこれを用いたセメント組成物を提供する。
【解決手段】炭素原子数が2〜8のアルケニル基を有するポリカルボン酸系分散剤(A)、スルホン酸系分散剤(B)、オキシカルボン酸類あるいは糖類(C)からなるセメント混和剤であって、(A):(B):(C)の含有割合が、5〜90重量%:5〜90重量%:1〜90重量%(ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%)を含有することを特徴とするセメント混和剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和剤およびこれを用いたセメント組成物に関する。さらに詳しくは、セメントペースト、モルタル、コンクリートといったいわゆるセメント組成物(セメント配合物)において、セメントの分散性能を向上させて、その流動性を高め、良好な作業性を与えるセメント混和剤およびこのセメント混和剤を含有するセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの施工性ならびに耐久性を向上させるためには、コンクリート中の単位水量を減らすことが有効である。しかしながら、単位水量を減少させると、コンクリートの流動性が低下し、作業性を損なうことが知られている。そのため、単位水量を減少した際にも、コンクリートの効率的な作業性を確保するためには、セメント粒子を分散させる働きを持つ様々な分散剤が使用されている。
【0003】
このような分散剤としては、AE減水剤として、リグニンスルホン酸系分散剤、オキシカルボン酸など、高性能AE減水剤として、ナフタレンスルホン酸系分散剤、アミノスルホン酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤(特許文献1〜4)などが知られている。これらの中では、環境負荷軽減の点から、天然物由来のリグニンスルホン酸塩やその誘導体を主成分としたリグニンスルホン酸分散剤、オキシカルボン酸を主成分とした分散剤の利用が再び脚光を浴びている。特に、リグニンスルホン酸系分散剤は、亜硫酸パルプ蒸解排液などの有効使用にも繋がり、さらに環境負荷軽減の効果が高くなる。
【0004】
一方、天然骨材の枯渇問題により、従来の良質な川砂、川砂利、海砂などが供給困難となり、砕砂、砕石などをコンクリート用骨材として使用されていることや、廃棄物ゼロエミッションなどの環境負荷低減への取り組みとして、石炭灰や溶融スラグの混入、焼却灰からの原料抽出、再生骨材といった再生材料の利用が加速しており、コンクリート用骨材やセメントの品質低下している。このため、従来の分散剤では、練り上がりのコンクリート粘性が増大したりするなど、作業性が悪化するなどの問題が生じている。
【0005】
このため、セメント組成物であるコンクリートやモルタルの諸性質を維持するため、様々な分散剤を組み合わせたセメント混和剤が使用されている。例えば、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と(メタ)アクリル酸系単量体の共重合体とリグニンスルホン酸塩を混合したセメント混和剤(特許文献5)、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテルと不飽和モノカルボン酸系単量体との共重合物と芳香族基を含むスルホン酸系分散剤とを混合したセメント混和剤(特許文献6)、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテルと不飽和モノカルボン酸系単量体との共重合物をオキシカルボン酸と混合したセメント混和剤(特許文献7)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−86990号公報
【特許文献2】特開2005−281022号公報
【特許文献3】特開平11−157898号公報
【特許文献4】特開2003−146717号公報
【特許文献5】国際公開WO99/62838号公報
【特許文献6】特開2003−212624号公報
【特許文献7】特開2003−212622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献5〜7に記載されているセメント混和剤は、リグニンスルホン酸系分散剤やオキシカルボン酸とポリカルボン系分散剤(ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル単量体と不飽和モノカルボン酸単量体との共重合体)のセメントへの吸着特性の違いにより、ポリカルボン酸系分散剤のセメントに対する吸着が阻害される。つまり、ポリカルボン酸系分散剤が有する分散性能が十分に発現しないため、リグニンスルホン酸系分散剤とポリカルボン酸系分散剤、オキシカルボン酸とポリカルボン系分散剤を併用する効果が十分に発現されない問題があった。また、セメントの分散性能はセメント分散剤の添加量を増やすことによって向上させることが可能であるが、この場合はセメントの凝結時間が長くなる問題があった。
【0008】
そこで、本発明では上記の状況を解決すべく、優れたセメント分散性能を有するとともに、セメントおよびセメント組成物の凝固時間を短縮できる、オキシカルボン酸類あるいは糖類、スルホン酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤からなるセメント混和剤及びこれを用いたセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、特定の炭素数を有するアルケニル基を有するポリカルボン酸系分散剤(A)、スルホン酸系分散剤(B)、オキシカルボン酸類あるいは糖類(C)を混合したセメント混和剤を用いることで、上記課題を解決することを見出し、本発明に至った。特に、ポリカルボン酸分散剤が、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル単量体と、不飽和カルボン酸系単量体、及び(メタ)アリルビスフェノール系単量体とを共重合することによって得られる特定の構造単位を有する共重合物(A)であり、スルホン酸系分散剤が芳香族基を有することで優れた効果を発現する。
【0010】
すなわち、本発明は以下によりなる。
(1)下記一般式(化1)で表されるポリカルボン酸系分散剤(A)、スルホン酸系分散剤(B)、オキシカルボン酸類あるいは糖類(C)からなるセメント混和剤であって、(A):(B):(C)の含有割合が、5〜90重量%:5〜90重量%:1〜90重量%(ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%)であることを特徴とするセメント混和剤。
【0011】
【化1】

(式中、Yは、炭素数2〜8のアルケニル基を表す。ROは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜40の数を表す。Rは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
(2)前記一般式(化1)で表されるポリカルボン酸系分散剤(A)が、(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体(a)、不飽和カルボン酸系単量体(b)、及び(a)及び/又は(b)と共重合可能なその他の単量体(c)からなり、(a):(b):(c)の含有割合が、5〜90重量%:5〜90重量%:0〜50重量%(ただし、(a)+(b)+(c)=100重量%)であることを特徴とする(1)に記載のセメント混和剤。
(3)前記ポリカルボン酸系分散剤(A)の重量平均分子量が、ポリエチレングリコール換算で5000〜50000であることを特徴とする(1)〜(2)に記載のセメント混和剤。
(4)前記ポリカルボン酸系分散剤(A)が、アルカリ性物質で中和して得られるポリカルボン酸系分散剤(A)の塩であることを特徴とする(1)〜(3)に記載のセメント混和剤。

(5)スルホン酸系分散剤(B)が、分子中にスルホン酸基を有することを特徴とする(1)〜(4)に記載のセメント混和剤。
(6)スルホン酸系分散剤(B)が、分子中に芳香族基を有することを特徴とする(1)〜(5)に記載のセメント混和剤。
(7)ポリカルボン酸系分散剤(A)に対して1〜90重量%の(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体を含有することを特徴とする(1)〜(6)に記載のセメント混和剤。
(8)(1)〜(7)に記載のセメント分散剤を含有することを特徴とするセメント組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れたセメント分散性能を有するとともに、セメントおよびセメント組成物の凝固時間を短縮できる、オキシカルボン酸類あるいは糖類、スルホン酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤からなるセメント混和剤及びこれを用いたセメント組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のセメント分散剤は、ポリカルボン酸系分散剤(A)、スルホン酸系分散剤(B)、オキシカルボン酸類あるいは糖類(C)からなるセメント混和剤であり、(A):(B):(C)の含有割合が、5〜90重量%:5〜90重量%:1〜90重量%(ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%)である。
【0014】
本発明において、ポリカルボン酸系分散剤は一般式(化1)で表され、特定の炭素数2〜8のポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル単量体(a)と、不飽和カルボン酸系単量体(b)及び(a)および/または(b)と共重合可能なその他の単量体(c)を必須の構成単位として有する共重合体であり、全構成単位中に占める(a)の含有率が5重量%〜90重量%、好ましくは20重量%〜90重量%、より好ましくは30重量%〜90重量%、更に好ましくは40重量%〜90重量%、最も好ましくは50重量%〜90重量%、(b)の含有率が5重量%〜90重量%、好ましくは5重量%〜80重量%、(c)の含有率が0重量%〜50重量%、好ましくは0重量%〜30重量%、更に好ましくは0重量%〜10重量%(ただし、(a)+(b)+(c)=100重量%)の比率で重合して得られる共重合物である。
【0015】
【化1】

(式中、Yは、炭素数2〜8のアルケニル基を表す。ROは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜40の数を表す。Rは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【0016】
ポリカルボン酸系分散剤(A)を構成する、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル単量体(a)のアルケニル基(一般式(化1)のYの部分)の炭素原子数は2〜8が好ましいく、さらに好ましくは2〜6であり、最も好ましくは3〜5である。具体的にはアリル基、メタリル基、3−メチル−3−ブテン−1−オールの残基等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
ポリカルボン酸系分散剤(A)を構成する、前記一般式(1)中の、ROは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表し、オキシアルキレン基はオキシエチレン基(エチレングリコール)、オキシプロピレン基(プロピレングリコール)が好ましい。オキシエチレン基(エチレングリコール)とオキシプロピレン基(プロピレングリコール)とが混在していてもよく、混在している場合には、ブロック状の付加であってもよく、ランダム状の付加であってもよい。一般式(1)中のnはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜40の数を表し、5〜40が好ましく、最も好ましくは7〜39である。平均付加モル数は単量体1モルに付加しているアルキレングリコール単位のモル数の平均値を表す。
【0018】
ポリカルボン酸系分散剤(A)を構成する、前記一般式(1)中のRは水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。炭素原子数が大きくなると分散性が低下するため、水素又は炭素原子数1〜10であることが好ましく、水素又は炭素原子数1〜5であることがさらに好ましく、水素又はメチル基であることが最も好ましい。
【0019】
本発明において、ポリカルボン酸系分散剤(A)を構成するポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル(a)としては、例えば、アリルアルコール、メタリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の不飽和アルコールにアルキレンオキサイドを1〜40モル付加して製造することが可能であるが、具体的には(ポリ)エチレングリコール(メタ)アリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アリルエーテル、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール(メタ)アリルエーテル等が挙げられる。本発明ではこれらのうち1種もしくは2種以上を用いることができるが、親水性、疎水性のバランスから、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アリルエーテルを用いることが好ましく、平均付加モル数は5〜40が好ましく、最も好ましくは7〜39である。平均付加モル数は単量体1モルに付加しているアルキレングリコール単位のモル数の平均値を表す。
【0020】
本発明において、ポリカルボン酸系分散剤(A)を構成する不飽和カルボン酸系単量体(b)は、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸等のカルボン酸類、またはこれらの塩、例えば、一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩を挙げることができる。これらは、1種または2種以上用いることができ、これらの中で特にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、および/その塩が好ましい。
【0021】
本発明において、ポリカルボン酸系分散剤(A)を構成する(a)および/または(b)と共重合可能なその他の単量体(c)は、下記のもの等を例示することができ、これらを1種または2種以上を用いることが可能である。
【0022】
マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのハーフエステル、ジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのハーフアミド、ジアミド類;上記アルコールやアミンに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと上記不飽和ジカルボン酸類とのハーフエステル、ジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数2〜18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフエステル、ジエステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルクロトネート、エチルクロトネート、プロピルクロトネート等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのエステル類;炭素原子数1〜30のアルコールに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルコキシ(ポリ)アルキレングリコールと(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸類とのエステル類;(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)ブチレングリコールモノメタクリレート等の、(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸類への炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドの1〜500モル付加物類;マレアミド酸と炭素原子数2〜18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフアミド類。
【0023】
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;トリエチレングリコールジマレート、ポリエチレングリコールジマレート等の(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2−(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4−(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩;メチル(メタ)アクリルアミドのように不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのアミド類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等のビニル芳香族類;1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等のジエン類。
【0024】
(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等の不飽和シアン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ) アクリル酸ジブチルアミノエチル、ビニルピリジン等の不飽和アミン類;ジビニルベンゼン等のジビニル芳香族類;トリアリルシアヌレート等のシアヌレート類;(メタ)アリルアルコール、グリシジル(メタ)アリルエーテル等のアリル類;メトキシポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、等のビニルエーテルあるいはアリルエーテル類;ポリジメチルシロキサンプロピルアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサンアミノプロピレンアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサン−ビス−(プロピルアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(ジプロピレンアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン−(1−プロピル−3−アクリレート)、ポリジメチルシロキサン−(1−プロピル−3−メタクリレート)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(1−プロピル−3−アクリレート)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(1−プロピル−3−メタクリレート)等のシロキサン誘導体。
【0025】
このうち、アリルフェノールなどの芳香族アリル類を用いることが好ましく、アリルフェノールがさらに好ましく、特に4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3’位をアリル置換した化合物が好ましい。
【0026】
本発明において、ポリカルボン酸系分散剤(A)は、公知の方法によって製造することができる。共重合体は、溶媒中での重合や塊状重合などの方法により行うことができる。
【0027】
使用される溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などが挙げられる。原料単量体および得られる共重合体の溶解性の面から、水および低級アルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましく、その中でも水を用いることがより好ましい。
【0028】
共重合は、各単量体と重合開始剤を各々反応容器に連続滴下しても良いし、単量体の混合物と重合開始剤を各々反応容器に連続滴下しても良い。また、反応容器に溶媒を仕込み、単量体と溶媒の混合物と、重合開始剤溶液を各々反応容器に連続滴下してもよいし、単量体の一部または全部を反応容器に仕込み、重合開始剤を連続滴下してもよい。
【0029】
共重合に使用する重合開始剤は、水溶媒中では過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;あるいは、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどの水溶性有機過酸化物を用いることができる。この際、亜硫酸水素ナトリウム、モール塩などの促進剤を併用することもできる。また、低級アルコール、芳香族単炭化水素、脂肪族炭化水素、エステル類あるいはケトン類を溶媒とする際には、ベンゾイルパーオキサイドやラウリルパーオキサイドなどのパーオキサイド;クメンパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド;アゾビスイソブチロニトリルなどの芳香族アゾ化合物などが使用できる。この際、アミン化合物などの促進剤を併用することもできる。さらに、水−低級アルコール混合溶剤を用いる場合には、前述の重合開始剤あるいは重合開始剤と促進剤との組合せの中から適宜選択して使用することができる。重合温度は、用いる溶媒や、重合開始剤によって適宜異なるが、通常50〜120℃の範囲で行われる。
【0030】
また、共重合においては、必要に応じて連鎖移動剤を用いて分子量を調整することができる。使用される連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、および、2−メルカプトエタンスルホン酸などの既知のチオール系化合物:亜リン酸、次亜リン酸、及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)や、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)の低級酸化物及びその塩;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、共重合体(A)の分子量調整のためには、単量体(d)として(メタ)アリルスルホン酸(塩)類等の連鎖移動性の高い単量体を用いることも有効である。
【0031】
重合体を水溶媒中で共重合する場合、重合時のpHは通常不飽和結合を有する単量体の影響で強酸性となるが、これを適当なpHに調整してもよく、重合の際にpHの調整が必要な場合は、リン酸、硫酸、硝酸、アルキルリン酸、アルキル硫酸、アルキルスルホン酸、(アルキル)ベンゼンスルホン酸などの酸性物質を用いてpHの調整を行うことができ、これら酸性物質の中では、pH緩衝作用がある点等から、リン酸を用いることが好ましい。しかし、エステル系の単量体がエステル結合を有し、これが不安定になるためpHは8以上が好ましい。また、pH調整に用いるアルカリ性物質に特に限定はないが、通常NaOH、Ca(OH)2などが一般的である。pH調整は、重合前の単量体に対して行ってもよいし、重合後の共重合体溶液に対して行ってもよい。また、これらは重合前に一部のアルカリ性物質を添加して重合を行った後、さらに共重合体に対してpH調整を行ってもよい。
【0032】
このようにして得られた共重合体は、そのままでもセメント混和剤の主成分として使用できるが、必要に応じてこれに換えて、或いは共重合体のほかにさらにアルカリ性物質で中和して得られる共重合体塩を、セメント混和剤の主成分として用いても良い。このようなアルカリ性物質としては特に限定はないが、通常NaOH、Ca(OH)2など、一価金属および二価金属の水酸化物、塩化物および炭素塩などの無機物;アンモニア;有機アミンなどが好ましいものとして挙げられる。
【0033】
また、共重合体またはその塩の重量平均分子量は、5000〜50000であることが好ましい。5000未満であると、セメント分散性が低く、リグニンスルホン酸系またはオキシカルボン酸系などのAE減水剤を上回る減水率が得られなかったり、流動性や作業性が改善されなかったり、セメント分散剤としての目的の効果が十分に発現されない。また、50000を超えると、凝集作用を示すため作業性の低下を招いたり、他のコンクリート添加剤と併用する場合は、他のコンクリート用添加剤のセメント粒子に対する単位面積あたりの吸着量が高くなり、該共重合体が吸着阻害を受けやすくなり、求められる分散性能が得られないおそれがある。より好ましくは7000〜35000、更に好ましくは8000〜30000に設定する必要がある。なお、本発明における共重合体及びそのアルカリ塩(A)における重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてポリエチレングリコール換算する公知の方法にて測定できる。
【0034】
GPCの測定条件として特に限定はないが、例として以下の条件を挙げることができる。
測定装置;東ソー製
使用カラム;Shodex Column OH−pak SB−806HQ、SB−804HQ、SB−802.5HQ
溶離液;0.05mM硝酸ナトリウム/アセトニトリル 8/2(v/v)
標準物質;ポリエチレングリコール(東ソー製、GLサイエンス製)
検出器;示差屈折計(東ソー製)
検量線;ポリエチレングリコール基準
【0035】
本発明で用いられる、スルホン酸系分散剤(B)は、分子中にスルホン酸基を有することがセメント分散性の点から好ましい。分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤(B)は、スルホン酸基とセメントの間で静電的反発が生じ、高い分散性が発現する。
【0036】
本発明において、スルホン酸系分散剤(B)としては、公知のものを用いることができ、限定されるものではないが、分子中に芳香族基を有する化合物であることが好ましい。具体的には、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系;リグニンスルホン酸塩、変性リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系;ポリスチレンスルホン酸塩系;等の各種スルホン酸系分散剤が挙げられる。
【0037】
尚、水/セメント比が高いコンクリートの場合にはリグニンスルホン酸塩系の分散剤が好適に用いられ、一方、より高い減水性能が要求される水/セメント比が中程度のコンクリートの場合には、ポリアルキルアリールスルホン酸塩系、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系、芳香族アミノスルホン酸塩系、ポリスチレンスルホン酸塩系等の分散剤が好適に用いられる。
【0038】
本発明で用いられる化合物(C)は、オキシカルボン酸類あるいは糖類であり、オキシカルボン酸類としては、例えば、グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、クエン酸や、これらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等の無機塩又は有機塩等が挙げられる。又、糖類としては、グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース、キシロース、アピオース、リボース、異性化糖などの単糖類や、二糖、三糖等のオリゴ糖、又はデキストリン等のオリゴ糖、又はデキストラン等の多糖類等が挙げられる。又、これらを含む糖蜜類も含まれる。さらに、ソルビトール等の糖アルコールが挙げられる。これらの中では、オキシカルボン酸類を用いることが好ましく、グルコン酸もしくはその塩を用いることがとりわけ好ましい。尚、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明において、ポリカルボン酸系分散剤(A)とスルホン酸系分散剤(B)及びオキシカルボン酸類あるいは糖類(C)の比率としては、(A):(B):(C)の含有割合が固形分重量比で、5〜90重量%:5〜90重量%:1〜90重量%(ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%)であるが、セメントの分散性(流動性)の点から、5〜70重量%:10〜90重量%:1〜70重量%(ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%)が好ましく、5〜60重量%:10〜80重量%:1〜60重量%(ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%)とすることがより好ましい。なお、ポリカルボン酸分散剤(A)をアルカリ性物質で中和して得られるポリカルボン酸分散剤(A)の塩は、分子中にスルホン酸系分散剤(B)及びオキシカルボン酸類あるいは糖類(C)と併用した場合において、セメントへの吸着阻害を受けにくく優れた分散性を発現する。
【0040】
本発明において、ポリカルボン酸系分散剤(A)、スルホン酸系分散剤(B)及びオキシカルボン酸類あるいは糖類(C)を必須成分としたセメント混和剤と(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体を併用することは、モルタルやコンクリート等のセメント組成物のワーカビリティをより向上させる点で好ましい。また、併用する(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体は、本発明のセメント混和剤を構成するポリカルボン酸共重合体(A)に対して1〜90重量%配合することが好ましく、より好ましくは1〜80重量%、さらに好ましくは1〜60重量%、特に好ましくは1〜50重量%である。(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体の配合量が1重量%未満の場合には、ワーカビリティの向上効果が不十分となり好ましくなく、一方、90重量%を超える場合には、セメントに対する分散性が低下して好ましくない。
【0041】
尚、本発明のセメント混和剤に併用する(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体は、ポリカルボン酸系分散剤(A)のを構成している(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体(a)と同一であってもよいし、異なっていてもよい。さらに、2種類以上の(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体を用いてもよい。また、(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体は、ポリカルボン酸系分散剤(A)の製造後に配合してもよいが、ポリカルボン酸系分散剤(A)を製造する際に、原料として用いた(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体(a)が、ポリカルボン酸系分散剤(A)に対して1〜90重量%残留している時点で重合反応を停止することによって、ポリカルボン酸系分散剤(A)以外に、(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体をポリカルボン酸系分散剤(A)に対して1〜90重量%含有するセメント分散剤を得ることができる。重合反応を停止する時点は、(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体が、ポリカルボン酸系分散剤(A)に対して1〜80重量%残留している時点がより好ましく、1〜60重量%残留している時点がさらに好ましく、1〜50重量%残留している時点がとりわけ好ましい。この残留する(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体の比率が1重量%未満の場合には、ワーカビリティの向上効果が不十分となり好ましくなく、一方、90重量%を超える場合には、セメントに対する分散性が低下して好ましくない。尚、ポリカルボン酸系分散剤(A)の製造後に、さらに不飽(ポリ)アルキレングリコールエーテル系単量体を配合してもよく、配合する(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体は、共重合反応の単量体成分として用いた(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体(a)と同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
本発明のセメント混和剤は、水溶液の形態、あるいは乾燥させて粉体化した形態て使用することが可能である。尚、セメント混和剤をセメント組成物に添加する場合、予めポリカルボン酸系分散剤(A)とスルホン酸系分散剤(B)及びオキシカルボン酸類あるいは糖類(C)を混合したセメント混和剤を添加してもよい。又、セメント粉末やドライモルタルのような水を含まないセメント組成物に、粉体化したポリカルボン酸系分散剤(A)と粉体化したスルホン酸系分散剤(B)及びオキシカルボン酸類あるいは糖類(C)を予め混合しておいて、左官、床仕上げ、グラウト等に用いるプレミックス製品として用いることもできる。
【0043】
本発明のセメント混和剤は、各種水硬性材料、即ちセメントや石膏等のセメント組成物やそれ以外の水硬性材料に用いることができる。このような水硬性材料と水と本発明のセメント混和剤とを含有し、さらに必要に応じて細骨材(砂等)や粗骨材(砕石等)を含む水硬性組成物の具体例としては、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスター等が挙げられる。
【0044】
上記水硬性組成物の中では、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も一般的であり、該セメント組成物は、本発明のセメント混和剤、セメント及び水を必須成分として含んでなる。このようなセメント組成物は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0045】
上記セメント組成物において使用されるセメントとしては、特に限定はない。例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)等が挙げられ、さらに、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加してもよい。又、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が使用可能である。
【0046】
上記セメント組成物における上記セメント混和剤の配合割合については、特に限定はないが、水硬セメントを用いるモルタルやコンクリート等に使用する場合には、セメント混和剤(ポリカルボン酸系分散剤(A)、スルホン酸系分散剤(B)及びオキシカルボン酸類あるいは糖類(C)合計)の添加量(配合量)はセメントの全重量に対して、0.01〜5.0%、好ましくは0.02〜2.0%、より好ましくは0.05〜1.0%である。この添加により、30単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上等の各種の好ましい諸効果がもたらされる。上記配合割合が0.01%未満では、性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に5.0%を超える多量を使用しても、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となる。
【0047】
上記のセメント組成物は、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり、さらに、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【0048】
本発明のセメント混和剤はそのままセメントの分散剤として使用できるが、さらに公知の他のセメント分散剤、水溶性高分子、高分子エマルジョン、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、効果促進剤、消泡剤、AE剤、その他の界面活性剤などの公知のコンクリート用添加剤との併用も可能である。これらは単独で使用してもよく、2種以上を用いてもよい。
【0049】
本発明の好ましい実施形態としては、ポリカルボン酸系分散剤(A)、スルホン酸系分散剤(B)及びオキシカルボン酸類あるいは糖類(C)以外に公知の他のセメント分散剤の1種または2種以上と併用することが好ましく、スランプロス防止性能を付与することができる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中特に断りの無い限り%は重量%を、また、部は重量部を示す。
【0051】
[ポリカルボン酸系分散剤(A−1)の製造]
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水247部、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数10個)578部、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3´位をアリル置換した化合物8部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。その後、アクリル酸130部、水618部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム14部および水186部の混合液を各々1時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合物の水溶液を得た。不飽和ポリエチレングリコールアルケニルエーテルの含有量は19重量%であった。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整し、重量平均分子量18300の共重合体水溶液からなるポリカルボン酸系分散剤(A−1)を得た。
【0052】
[ポリカルボン酸系分散剤(A−2)の製造]
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水210部、メトキシポリエチレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数8個)480部、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3´位をアリル置換した化合物7部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。その後、アクリル酸130部、水508部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム14部および水186部の混合液を各々1時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合物の水溶液を得た。不飽和ポリエチレングリコールアルケニルエーテルの含有量は18重量%であった。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整し、重量平均分子量14800の共重合体水溶液からなるポリカルボン酸系分散剤(A−2)を得た。
【0053】
[ポリカルボン酸系分散剤(A−3)の製造]
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水501部、3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数10個)500部、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3´位をアリル置換した化合物2部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。その後、アクリル酸135部、水501部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム12部および水188部の混合液を各々1時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合物の水溶液を得た。不飽和ポリエチレングリコールアルケニルエーテルの含有量は5重量%であった。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整し、重量平均分子量22500の共重合体水溶液からなるポリカルボン酸系分散剤(A−3)を得た。
【0054】
[ポリカルボン酸系分散剤(A−4)の製造]
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水430部、メトキシポリエチレングリコールモノアリルエーテル(エチレンオキサイドの平均付加モル数10個)289部、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホンの3および3´位をアリル置換した化合物1部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。その後、アクリル酸135部、水65部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸アンモニウム10部および水90部の混合液を各々1時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合物の水溶液を得た。不飽和ポリエチレングリコールアルケニルエーテルの含有量は7重量%であった。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整し、重量平均分子量70600の共重合体水溶液からなるポリカルボン酸系分散剤(A−4)を得た。
【0055】
[ポリカルボン酸系分散剤(A−5)の製造]
温度計、攪拌装置、還流装置、窒素導入管および滴下装置を備えたガラス反応容器に水294部を仕込み、攪拌下で反応容器を窒素置換し、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。その後、ポリエチレングリコールモノアクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数10個)81部、メタクリル酸15部、水80部を混合したモノマー水溶液と、過硫酸ナトリウム1.5部および水28.5部の混合液を各々2時間で、100℃に保持した反応容器に連続滴下した。さらに、温度を100℃に保持した状態で1時間反応させることにより共重合物の水溶液を得た。この液を30%NaOH水溶液でpH7に調整し、重量平均分子量18600の共重合体水溶液からなるポリカルボン酸系分散剤(A−5)を得た。
【0056】
[実施例1]
下記のようにポリカルボン酸系分散剤(A)、スルホン酸系分散剤(B)、オキシカルボン酸類あるいは糖類(C)を混合してセメント混和剤を調整した。
・ポリカルボン酸系分散剤水溶液(A−1)
0.2重量%(固形分換算:セメントに対する重量%)
・スルホン酸系分散剤(リグニンスルホン酸系セメント分散剤:日本製紙ケミカル株式会社製、商品名:サンフローRH)LG剤
10.00重量%(固形分換算:セメントに対する重量%)
・オキシカルボン酸類(グルコン酸ナトリウム系セメント分散剤:扶桑化学工業株式会社製、商品名:C−PARN)
10.00重量%(固形分換算:セメントに対する重量%)
【0057】
これらに水/セメントの比が1となるように水を加える。次いで、所定量のセメントを加えて室温下で5分間攪拌後、吸引濾過装置を用いて濾液を採取し、この濾液中のセメント分散剤の残存量をRI屈折率計で測定した。以下の式に定義するように、添加した各セメント分散剤の量と、濾液中に残存するセメント分散剤濃度の差からセメントへ吸着したセメント分散剤の量を算出し、吸着率とした。
【0058】
【数1】

【0059】
また、LS剤及びGL剤を併用していない場合のセメント分散剤の吸着率を100として、LS剤及びGL剤を併用した場合の吸着率の変化率を、吸着率変化率とした。なお、添加したセメント分散剤がすべてセメントへ吸着したと仮定した場合の吸着率は、100となる。吸着率測定試験の結果を表1に示す。
【0060】
[実施例2]
ポリカルボン酸系分散剤(A)をA−2に変更した以外は実施例1と同様にした。
[実施例3]
ポリカルボン酸系分散剤(A)をA−3に変更した以外は実施例1と同様にした。
[実施例4]
ポリカルボン酸系分散剤(A)をA−4に変更した以外は実施例1と同様にした。
【0061】
[比較例1]
ポリカルボン酸系分散剤(A)をA−5に変更した以外は実施例1と同様にした。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から、本発明のセメント混和剤(ポリカルボン酸系分散剤(A)、スルホン酸系分散剤(B)、オキシカルボン酸類あるいは糖類(C))は、各成分がお互いにセメントへの吸着を阻害しないことがわかる。この結果として、高いセメント分散性が発現すると推測される。
【0064】
[実施例5〜10、比較例2〜7]
下記のように配合した細骨材、セメント、水および表2に示すセメント混和剤(ポリカルボン酸系分散剤(A)、スルホン酸系分散剤(B)、オキシカルボン酸類あるいは糖類(C))を投入してモルタルミキサーによる機械練りでモルタルを調製したモルタルフロー及び凝結時間を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製、比重3.16)
200g
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、比重3.16)
200g
普通ポルトランドセメント(株式会社トクヤマ製比重3.16)
200g
水道水 315g
砕石砕砂(細骨材、比重2.63、表面水0.1%) 1097g
石灰砕砂(細骨材、比重2.65、表面水0.2%) 737g
セメント混和剤(固形分換算) 表2参照
【0066】
<モルタルフロー>
底面の直径20cm、上面の直径10cm、高さ30cmの中空円筒のミニスランプコーンに上記のモルタルを詰め、ミニスランプコーンを垂直に持ち上げた際のテーブルに広がったモルタルの2方向の直径の平均値を測定し、以下のような基準で評価した。
○:平均値が200mm以上
×:平均値が200mm未満
【0067】
<凝結時間>
断熱材で覆われた容器の中にモルタルを流し込み、経時温度測定装置を用いて、モルタル温度の経時変化を調べ、その最高温度到達時間をモルタルの凝結時間とし、以下のような基準で評価した。
○:20時間未満
×:20時間以上
【0068】
【表2】

【0069】
表2から、本発明のセメント混和剤(A−1〜A−4、LS剤及びGL剤)は、モルタルフロー値が高く、各成分がお互いにセメントへの吸着を阻害しないことがわかる。この結果として、高いセメント分散性が発現すると推測される。また、本発明のセメント混和剤は添加率が少ないためにモルタルの凝結に悪影響を及ぼさず、早い凝結性能を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(化1)で表されるポリカルボン酸系分散剤(A)、スルホン酸系分散剤(B)、オキシカルボン酸類あるいは糖類(C)からなるセメント混和剤であって、(A):(B):(C)の含有割合が、5〜90重量%:5〜90重量%:1〜90重量%(ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%)を含有することを特徴とするセメント混和剤。
【化1】

(式中、Yは、炭素数2〜8のアルケニル基を表す。ROは、同一若しくは異なって、炭素原子数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜40の数を表す。Rは、水素原子又は炭素原子数1〜30の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(化1)で表されるポリカルボン酸系分散剤(A)が、(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体(a)、不飽和カルボン酸系単量体(b)、及び(a)及び/又は(b)と共重合可能なその他の単量体(c)からなり、(a):(b):(c)の含有割合が、5〜90重量%:5〜90重量%:0〜50重量%(ただし、(a)+(b)+(c)=100重量%)であることを特徴とする請求項1に記載のセメント混和剤。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸系分散剤(A)の重量平均分子量が、ポリエチレングリコール換算で5000〜50000であることを特徴とする請求項1〜2に記載のセメント混和剤。
【請求項4】
前記ポリカルボン酸系分散剤(A)が、アルカリ性物質で中和して得られるポリカルボン酸系分散剤(A)の塩であることを特徴とする請求項1〜3に記載のセメント混和剤。
【請求項5】
スルホン酸系分散剤(B)が、分子中にスルホン酸基を有することを特徴とする請求項1〜4に記載のセメント混和剤。
【請求項6】
スルホン酸系分散剤(B)が、分子中に芳香族基を有することを特徴とする請求項1〜5に記載のセメント混和剤。
【請求項7】
ポリカルボン酸系分散剤(A)に対して1〜90重量%の(ポリ)アルキレングリコールアルケニルエーテル系単量体を含有することを特徴とする請求項1〜6に記載のセメント混和剤。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のセメント混和剤を含有することを特徴とするセメント組成物。

【公開番号】特開2011−57459(P2011−57459A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205457(P2009−205457)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【Fターム(参考)】