説明

セメント焼成装置及び含水有機廃棄物の乾燥方法

【課題】セメントキルン排ガス量の増加に伴う熱損失の発生を回避し、乾燥熱源ガスの酸素濃度の上昇を招かず、安全かつ効率的に含水有機廃棄物を乾燥可能なセメント焼成装置等を提供する。
【解決手段】セメントキルン2の仮焼炉4の出口ダクトからプレヒータ3の出口ダクトまでの排ガス流路より抽気した燃焼ガスが供給され、含水率の高い有機汚泥等の含水有機廃棄物Wを乾燥させる乾燥装置6と、乾燥装置からの排ガスの一部を乾燥装置に循環させる循環ダクト9とを備えるセメント焼成装置1。循環ダクトに設置された流量調節手段としてのダンパ9aの開度を調整し、循環ダクトから乾燥装置に戻る排ガス量を調整し、乾燥装置の乾燥熱源ガスの温度及び流量を調整することができる。乾燥装置からの排ガスをセメントキルンの仮焼炉の出口ダクトからプレヒータの出口ダクトまでの排ガス流路へ戻すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高含水有機汚泥等の含水有機廃棄物を、安全かつ効率的に乾燥させることのできるセメント焼成装置、及び同装置を利用した含水有機廃棄物の乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市ごみ等の廃棄物をセメント焼成装置で処理するにあたって、種々の装置及び方法が提案されている。例えば、特許文献1には、都市ごみ等の廃棄物を乾燥させるための乾燥装置にクリンカクーラの高温空気の一部を導入し、乾燥装置からの排気を再びクリンカクーラに戻し、乾燥装置の排気が混入したクリンカクーラの高温空気をセメントキルン又は仮焼炉の燃焼用空気として使用する技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、セメント焼成装置で可燃性廃棄物を焼却するにあたって、可燃性廃棄物をクリンカクーラの高温空気の一部を用いて焼却し、廃棄物の焼却工程中に生成した排ガスを、セメント原料を加熱するためのプレヒータに通気し、かつ廃棄物の焼却工程中に発生したスラグを引き出す技術が記載されている。
【0004】
しかし、上記特許文献に記載のように、クリンカクーラから抽気される高温空気を都市ごみ等の廃棄物や、可燃性廃棄物の乾燥等に利用する場合には問題はないが、高含水有機汚泥等の含水有機廃棄物を乾燥させるにあたって上記高温空気を利用すると、該高温空気は酸素濃度が高いため、爆発のおそれがあった。
【0005】
また、セメント焼成装置のプレヒータ出口以降の燃焼排ガスを利用しようとしても、この領域の燃焼排ガスの温度は450℃程度以下と低温であるため、高含水汚泥の乾燥には適さない。
【0006】
さらに、セメントキルンの窯尻からの抽気ガスは、酸素濃度が低く、約1000℃と高温であるため、含水有機廃棄物の乾燥には適しているが、窯尻から燃焼ガスを抽気すると、セメントキルンの熱効率が悪化するという問題があった。
【0007】
上記に加え、有機汚泥等を乾燥させた後に発生する乾燥排ガスは、相当量の臭気成分を含有しているため、脱臭処理後に排気する必要がある。脱臭処理を行うためには、臭気成分を含むガスを800℃以上にすることが好ましく、仮焼炉等の燃焼領域にガスを導いて脱臭処理する方法が一般的である。しかし、有機汚泥等の乾燥にセメントキルン排ガスを用いると、乾燥排ガスは低酸素濃度であるため、上述のように乾燥排ガスを燃焼領域で処理すると、燃焼状態が悪化し、セメントキルンの熱効率が低下するため適さないという問題があった。
【0008】
そこで、本出願人は、特願2006−177618において、高含水有機汚泥等を乾燥させるにあたって、爆発のおそれがなく、セメントキルンの熱効率が悪化することもないセメント焼成装置として、セメントキルンの仮焼炉の出口ダクトからプレヒータの出口ダクトまでの排ガス流路より抽気した燃焼ガスが供給され、40質量%以上の水分を含む高含水有機廃棄物を乾燥させる乾燥装置を備えるセメント焼成装置等を提案した。
【0009】
このセメント焼成装置によれば、セメントキルンの仮焼炉の出口ダクトからプレヒータの出口ダクトまでの排ガス流路より抽気した燃焼ガスは、2〜8%と酸素濃度が低いため、乾燥装置が爆発するおそれがなく、燃焼ガスの温度は450〜900℃であるため、高含水有機廃棄物を十分に乾燥させることができるとともに、セメントキルンの窯尻等から燃焼ガスを抽気しないため、セメントキルンの熱効率が悪化することもない。
【0010】
【特許文献1】特開昭63−151650号公報
【特許文献2】特表2003−506299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記乾燥装置を備えたセメント焼成装置において高含水有機汚泥等を乾燥する際には、汚泥等の処理量や含水率等の運転条件、乾燥装置の運転状況により乾燥に要する熱量が変化する。従って、安定した乾燥装置の運転を継続するためには、乾燥装置の入口ガス温度、出口ガス温度等を調整する必要がある。ここで、乾燥装置の入口のガス温度を調整する手段として、高温のセメントキルンの排ガスを冷却空気と混合する方法が一般的であるが、以下の問題がある。
【0012】
冷却空気を導入した分だけ乾燥装置からの排ガス量が増加し、乾燥装置の排ガスをセメントキルン系で処理すると、セメントキルン系にリークエアが導入されたときと同様の状態となり、セメントキルン排ガス量の増加に伴って熱損失が発生する。
【0013】
また、上記本出願人による発明において、乾燥装置のための乾燥熱源ガスとしてセメントキルンの排ガスを使用する理由の一つは、爆発防止を目的とした低酸素濃度ガスとしてセメントキルンの排ガスが適していることであったが、セメントキルン排ガスに冷却空気を混合することにより、乾燥装置に導入される乾燥熱源ガスの酸素濃度の上昇を招き、好ましくない。
【0014】
例えば、温度650℃、酸素濃度5%のセメントキルン排ガスと、温度20℃、酸素濃度21%の冷却空気とを、0.8:0.2の割合で混合すると、550℃の乾燥熱源ガスを得ることができるが、この際、ガス量が20%増加するとともに、乾燥装置に導入される乾燥熱源ガスの酸素濃度が8.2%に上昇する。
【0015】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、セメントキルン排ガス量の増加に伴う熱損失の発生を回避することができ、乾燥熱源ガスの酸素濃度の上昇を招くこともなく、安全かつ効率的に高含水有機汚泥等の含水有機廃棄物を乾燥させることのできるセメント焼成装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明は、セメント焼成装置であって、セメントキルンの仮焼炉の出口ダクトからプレヒータの出口ダクトまでの排ガス流路より抽気した燃焼ガスが供給され、含水有機廃棄物を乾燥させる乾燥装置と、該乾燥装置からの排ガスの一部を該乾燥装置に循環させる循環経路とを備えることを特徴とする。
【0017】
そして、本発明によれば、循環経路を介して乾燥装置からの排ガスの一部を循環させることにより乾燥装置の入口の乾燥熱源ガスの温度、流量等を調整することができるため、冷却空気の導入を回避することができる。これにより、セメントキルン排ガス量の増加に伴う熱損失の発生、及び乾燥熱源ガスの酸素濃度の上昇を防止し、安全かつ効率的に含水有機廃棄物を乾燥させることが可能となる。
【0018】
前記セメント焼成装置において、前記循環経路を流れる前記乾燥装置からの排ガスの流量を調節するための流量調節手段を備えることができる。これによって、乾燥装置に戻される乾燥装置の排ガスの量を調整することができるため、乾燥熱源ガスの温度、流量等をより容易かつ精度よく調整することができる。
【0019】
また、前記セメント焼成装置において、前記乾燥装置からの排ガスを、前記セメントキルンの仮焼炉の出口ダクトからプレヒータの出口ダクトまでの排ガス流路へ戻すための第2の排ガス流路を備えることができる。これによって、セメントキルンの熱効率の悪化を引き起こすことなく、臭気成分を有する乾燥排ガスを処理することができる。
【0020】
前記セメント焼成装置において、前記含水有機廃棄物は、含水有機汚泥であってもよく、製紙汚泥、下水汚泥、ビルピット汚泥、食品汚泥等を乾燥させることができる。
【0021】
さらに、本発明は、セメントキルンの仮焼炉の出口ダクトからプレヒータの出口ダクトまでの排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気し、該抽気した燃焼ガスの一部を用いて含水有機廃棄物を乾燥させる含水有機廃棄物の乾燥方法において、前記含水有機廃棄物を乾燥した後の排ガスの一部を再び該含水有機廃棄物の乾燥に用いることを特徴とする。これによって、上述のように、冷却空気の導入を回避し、セメントキルン排ガス量の増加に伴う熱損失の発生、及び乾燥熱源ガスの酸素濃度の上昇を防止し、安全かつ効率的に含水有機廃棄物を乾燥させることができる。
【0022】
前記含水有機廃棄物の乾燥方法において、前記含水有機廃棄物を乾燥した後の排ガスの一部のガス量を調節しながら、該排ガスを再び該含水有機廃棄物の乾燥に用いることができる。これによって、乾燥熱源ガスの温度、流量等をより容易かつ精度よく調整することができる。
【0023】
前記含水有機廃棄物の乾燥方法において、前記含水有機廃棄物を乾燥させた後のガスを、前記セメントキルンの仮焼炉の出口ダクトからプレヒータの出口ダクトまでの排ガス流路に戻すことができ、セメントキルンの熱効率を悪化させることなく、臭気成分を有する乾燥排ガスを処理することができる。
【0024】
前記含水有機廃棄物の乾燥方法において、前記含水有機廃棄物は、含水有機汚泥であってもよく、製紙汚泥、下水汚泥、ビルピット汚泥、食品汚泥等を乾燥させることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、セメントキルン排ガス量の増加に伴う熱損失の発生を回避するとともに、乾燥熱源ガスの酸素濃度の上昇を招くこともなく、安全かつ効率的に高含水有機汚泥等の含水有機廃棄物を乾燥させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明にかかるセメント焼成装置の一実施の形態を示し、このセメント焼成装置1は、セメントキルン2と、プレヒータ3と、仮焼炉4と、乾燥装置6と、ファン7と、戻りダクト8と、循環ダクト(循環経路)9等で構成され、循環ダクト9を備えることが本発明の特徴である。
【0027】
セメントキルン2、プレヒータ3及び仮焼炉4は、従来のセメント焼成装置と同様の機能を有し、プレヒータ3に供給されたセメント原料Rは、プレヒータ3で予熱され、仮焼炉4で仮焼された後、セメントキルン2にて焼成される。
【0028】
乾燥装置6には、40質量%以上の水分を含む高含水有機汚泥等の含水有機廃棄物(以下、「廃棄物」という)Wが供給されるとともに、最下段サイクロン3Aから第2サイクロン3Bへの排ガス流路より抽気した燃焼ガスが供給され、廃棄物Wの乾燥が行なわれる。この燃焼ガスは、2〜8%程度と酸素濃度が低いため、乾燥装置6が爆発するおそれはない。また、この燃焼ガスの温度は、800〜900℃程度であるため、高含水有機廃棄物を十分に乾燥させることができる。乾燥された廃棄物Wは、セメント焼成装置1において処理してもよく、セメント焼成装置1の系外で処理してもよい。
【0029】
ファン7は、プレヒータ3から燃焼ガスを乾燥装置6に導入するために備えられ、ファン7の排気は、戻りダクト8を介して最下段サイクロン3Aから第2サイクロン3Bへの排ガス流路に戻されるとともに、ファン7の排気の一部は、循環ダクト9を介して乾燥装置6に戻される。
【0030】
循環ダクト9は、乾燥装置6から排出された燃焼ガスの一部を乾燥装置6へ戻して循環させるために備えられる。循環ダクト9には、ファン7から乾燥装置6へ戻す排ガス量を調整するためのダンパ9aが備えられ、ダンパ9aの開度調整により、最下段サイクロン3Aからの燃焼ガスと合流する乾燥装置6の排ガス量が調整され、乾燥装置6の入口の乾燥熱源ガスの温度及び流量を調整することができる。
【0031】
尚、上記実施の形態においては、乾燥装置6に、最下段サイクロン3Aから第2サイクロン3Bへの排ガス流路より抽気した燃焼ガスを供給したが、プレヒータ3のさらに上流の、第2サイクロン3Bから第3サイクロン3Cへの排ガス流路(燃焼ガス温度は、700〜800℃程度)、又は第3サイクロン3Cから第4サイクロン3Dへの排ガス流路(燃焼ガス温度は、550℃〜650程度)から燃焼ガスを抽気して乾燥装置6に供給することもできる。また、乾燥装置6からの乾燥排ガスについても、最下段サイクロン3Aから第2サイクロン3Bへの排ガス流路に戻す場合に限定されず、上記燃焼ガスを抽気する場合と同様の領域に戻すことができる。さらに、乾燥装置6からの乾燥排ガスをセメント焼成装置1の系外で処理してもよい。
【0032】
また、上記実施の形態においては、セメント焼成装置1の循環ダクト9と最下段サイクロン3Aの出口ダクトとを合流させ、乾燥装置6の排ガスと最下段サイクロン3Aからの燃焼ガスとを合流させた後、乾燥装置6に導入したが、循環ダクト9を最下段サイクロン3Aの出口ダクトに合流させることなく、乾燥装置6に直接接続する構成とすることもできる。
【実施例】
【0033】
次に、上記構成を有するセメント焼成装置1の循環ダクト9を利用し、乾燥装置6の入口の乾燥熱源ガスの温度、流量等を調節した場合の実施例について説明する。尚、以下の実施例においては、第3サイクロン3Cから第4サイクロン3Dへの排ガス流路より抽気した燃焼ガスを乾燥装置6に導入する場合を例にとって説明する。
【0034】
第3サイクロン3Cから第4サイクロン3Dへの排ガス流路より抽出した温度650℃、酸素濃度5%のセメントキルン排ガスを用い、乾燥装置6の出口ガスを200℃とした場合、セメントキルン排ガスと循環排ガスを0.75:0.25の割合で混合すると、550℃の乾燥熱源ガス(乾燥装置6の入口ガス)が得られる。この場合、冷却空気を導入していないため、循環ダクト9を利用する前後において、セメントキルン系の排ガス(例えば、第4サイクロン3Dの入口ガス)のガス量の増加は0%であり、5%の酸素濃度も変化しない。
【0035】
すなわち、冷却空気を用いて乾燥装置6の入口の乾燥熱源ガスの温度を調節すると、セメントキルン系のガス量が増加し、さらに酸素濃度が増加するが、循環ダクト9を介して乾燥装置6の排ガスを循環させた場合には、セメントキルン系のガス量に変化はなく、酸素濃度も変化しない。これにより、セメントキルン排ガス量の増加に伴う熱損失の発生を回避することができ、乾燥熱源ガスの酸素濃度の上昇を招くこともなく、安全かつ効率的に高含水有機汚泥等の含水有機廃棄物を乾燥させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明にかかるセメント焼成装置の一実施の形態の全体構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0037】
1 セメント焼成装置
2 セメントキルン
3 プレヒータ
3A 最下段サイクロン
3B 第2サイクロン
3C 第3サイクロン
3D 第4サイクロン
4 仮焼炉
6 乾燥装置
7 ファン
8 戻りダクト
9 循環ダクト
9a ダンパ
R セメント原料
W 含水有機廃棄物(高含水有機汚泥)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの仮焼炉の出口ダクトからプレヒータの出口ダクトまでの排ガス流路より抽気した燃焼ガスが供給され、含水有機廃棄物を乾燥させる乾燥装置と、
該乾燥装置からの排ガスの一部を該乾燥装置に循環させる循環経路とを備えることを特徴とするセメント焼成装置。
【請求項2】
前記循環経路を流れる前記乾燥装置からの排ガスの流量を調節するための流量調節手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のセメント焼成装置。
【請求項3】
前記乾燥装置からの排ガスを、前記セメントキルンの仮焼炉の出口ダクトからプレヒータの出口ダクトまでの排ガス流路へ戻すための第2の排ガス流路を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント焼成装置。
【請求項4】
前記含水有機廃棄物は、含水有機汚泥であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のセメント焼成装置。
【請求項5】
セメントキルンの仮焼炉の出口ダクトからプレヒータの出口ダクトまでの排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気し、
該抽気した燃焼ガスの一部を用いて含水有機廃棄物を乾燥させる含水有機廃棄物の乾燥方法において、
前記含水有機廃棄物を乾燥した後の排ガスの一部を再び該含水有機廃棄物の乾燥に用いることを特徴とする含水有機廃棄物の乾燥方法。
【請求項6】
前記含水有機廃棄物を乾燥した後の排ガスの一部のガス量を調節しながら、該排ガスを再び該含水有機廃棄物の乾燥に用いることを特徴とする請求項5に記載の含水有機廃棄物の乾燥方法。
【請求項7】
前記含水有機廃棄物を乾燥させた後のガスを、前記セメントキルンの仮焼炉の出口ダクトからプレヒータの出口ダクトまでの排ガス流路に戻すことを特徴とする請求項5又は6に記載の含水有機廃棄物の乾燥方法。
【請求項8】
前記含水有機廃棄物は、含水有機汚泥であることを特徴とする請求項5、6又は7に記載の含水有機廃棄物の乾燥方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−30007(P2008−30007A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209379(P2006−209379)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】