説明

セメント製造設備の排ガス臭気測定方法及び測定装置

【課題】NOxやSOxを含むセメント製造設備からの排ガスの臭気を正確に測定するとともに、臭気指数による管理を可能にする。
【解決手段】セメントキルン4からの排ガスを移送する配管12に、排ガスの一部を抽出するサンプリング部13が設けられるとともに、サンプリング部13に、排ガス中の全炭化水素量を測定する全炭化水素測定器14と、排ガス中の一酸化炭素量を測定する一酸化炭素量測定器15とが設けられ、全炭化水素測定器14に、その測定値を一酸化炭素量測定器15の測定値によって補正する補正手段16と、その補正後の全炭化水素量から排ガスの臭気指数を推定する臭気指数推定手段17とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造設備で発生する排ガス中の臭気を連続的に測定する方法及び排ガス臭気測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント製造のための原料は、石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料等の天然の無機材料から構成されている。しかし、近年では各種の産業廃棄物を処分のためセメント原料やセメント焼成用の燃料の一部として利用するようになってきている。この産業廃棄物には、廃プラスチック、油分や洗浄剤等を含む土壌、各種汚泥等が混在していることにより、石炭を起源とするものではない炭素分や有機分が発生するようになってきた。これら産業廃棄物からの揮発やその燃焼によって生じる排ガスは、臭気物質を含むため、その管理が必要である。
【0003】
この場合、臭気に関する法規制として、悪臭防止法では、特定悪臭物質濃度を基準に臭気を測定するものと、臭気指数を基準にするものとが存在するが、ほとんどの臭気は種々の低濃度物質が混合した複合臭として存在するため、特定悪臭物質濃度を測定するよりも臭気指数基準の方が現実的である。臭気指数とは、嗅覚が正常であることが確認されている被検者が臭気を感じなくなるまで試料を無臭空気で希釈したときの希釈倍率(臭気濃度)から算出される数値であり、臭いそのものを人間の嗅覚で測定するものである。
【0004】
臭気を計測するセンサとしては一般には半導体センサがよく知られている。この半導体センサは、半導体表面における臭気分子の吸着によって半導体の抵抗値が変化することを利用したものであるが、原理的には、特定の単一物質を検出対象とするガスセンサであるため、そのままでは、種々の臭気物質が混合した複合臭を人間の嗅覚のように区別するのは難しい。
【0005】
そこで、従来では、例えば特許文献1に記載された臭気測定装置のように、複数の半導体センサを用いて、それぞれに異なる臭気に対して感応性を有するようにしておき、この半導体センサの出力と種々の臭気に対する人の感性データとの対応関係をニューラルネットワークに構築し、臭気を半導体センサで検出しながら人の感覚で表現できるようにしたものが提案されている。
【特許文献1】特開2006−275862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、半導体センサは、そのセンサ素子である酸化物半導体が還元性ガスを吸着することにより反応する現象を利用したものであり、臭気物質が還元性ガスからなる場合は問題ないが、酸化性ガスが存在する場合には負の誤差を生じる。臭気物質はその98%程度が還元性ガスであるが、セメント製造設備で発生する排ガス中には、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)等の酸化性ガスが含まれるため、このような半導体センサを使用してセメント製造設備の排ガス中の臭気を正確に測定することは困難である。
一方、臭気指数を三点比較式臭袋法で直接測定するのでは、測定の都度、ガスのサンプリングと被検者の確保が必要であり、連続的な測定は不可能である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、NOxやSOxを含むセメント製造設備からの排ガスの臭気を正確に測定するとともに、臭気指数による管理を可能とした測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
セメント製造設備で発生する排ガス中の有機物としては、(1)原料の粉砕、乾燥等を行う原料工程や、原料の予熱を含む焼成工程で原料(原料系廃棄物を含む)中の有機物が揮発するもの、(2)燃料(燃料系廃棄物を含む)の不完全燃焼により発生するもの、(3)原料工程や焼成工程の中で種物質から他の有機物と反応し合成されるもの等がある。そして、排ガス中の臭気は、燃料の燃焼によるものと、原料によるもの(有機物)とがあるが、複合臭としては、燃料の燃焼による臭気の影響は小さい。したがって、上記(1)〜(3)の理由で発生する有機物の量、すなわち全炭化水素(Total HydroCarbon:略してTHCということがある)の量を測定することで臭気の測定が可能になる。
【0009】
このような知見の下、本発明に係るセメント製造設備の排ガス臭気測定方法は、セメント製造設備から発生する排ガス中の全炭化水素量を連続的に測定して、この全炭化水素量から排ガスの臭気指数を推定することを特徴する。
【0010】
すなわち、排ガスの全炭化水素量を連続的に測定すると、排ガス中に含まれる有機物量に応じて測定値が上下する。この測定値をチャートに示した場合に、有機物量の変化に起因して測定値が変動する場合は、その測定値が描くチャートのベースラインを上下させるように変化するので、その測定値から排ガスの臭気指数を推定するのである。
【0011】
この場合、その推定においては、全炭化水素量の変化のピーク部を補正し、その補正後の全炭化水素量から臭気指数を推定することとしてもよい。つまり、全炭化水素量の測定値が急激に変化してピーク部が生じるような場合は、燃焼等の運転状況によるものであり、臭気をもつ有機物量に起因するものではない。したがって、このピーク部を補正した後の全炭化水素量を用いて臭気指数を推定するのである。
【0012】
この補正をする場合、排ガス中の全炭化水素量と一酸化炭素又は酸素からなる特定気体の量とを連続的に測定し、この特定気体の測定値により全炭化水素量の測定値を補正し、その補正後の全炭化水素量から排ガスの臭気指数を推定するとよい。
【0013】
全炭化水素量の測定値が急激に変化する場合は、前述したように燃焼等の運転状況によるものと考えられる。この燃焼状況によって変化する物理量として一酸化炭素又は酸素のいずれかの特定気体の量を同時に測定し、この特定気体の測定値によって燃焼状況に起因するピーク的変化の影響をなくすように全炭化水素量の測定値を補正することにより、その補正後の全炭化水素量から臭気指数を推定するものであり、燃焼等の運転状況の変化に影響されることなく、有機物量を正確に測定することができる。
【0014】
補正の方法としては、特定気体の測定値にピーク部が発生していて、その発生時に対応して全炭化水素量の測定値にもピーク部が発生している場合には、この全炭化水素量の測定値のピーク部を除外した測定値から臭気指数を推定する、又は、ピーク部の測定値に特定の係数を乗じて得られた測定値から臭気指数を推定する、などの方法を採用することができる。あるいは、全炭化水素量の測定値を同じタイミングで測定した特定気体の測定値によって常に一定の比率で補正するようにしてもよい。なお、一酸化炭素と酸素とでは、前者は全炭化水素量と正の相関を有し、後者は全炭化水素量と負の相関を有することになる。
【0015】
また、本発明に係るセメント製造設備の排ガス臭気測定装置は、セメントキルンからの排ガスを移送する配管に、排ガスの一部を抽出するサンプリング部が設けられるとともに、該サンプリング部に、排ガス中の全炭化水素量を測定する全炭化水素測定器と、排ガス中の一酸化炭素又は酸素のいずれかの特定気体量を測定する特定気体測定器とが設けられ、前記全炭化水素測定器に、その測定値を前記特定気体測定器の測定値によって補正する補正手段と、その補正後の全炭化水素量から排ガスの臭気指数を推定する臭気指数推定手段とが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るセメント製造設備の排ガス臭気測定方法及び測定装置によれば、排ガス中の全炭化水素量を測定することにより、NOx等の影響を受けることなく臭気指数を推定することができる。その場合に、燃焼状況に起因する全炭化水素量のピーク部を補正することにより、臭気に影響する全炭化水素量のみから臭気指数を推定することができ、臭気指数の正確な推定をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るセメント製造設備の排ガス臭気測定方法及び測定装置の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は一実施形態の排ガス臭気測定装置を備えたセメント製造設備を示している。この図1に示すセメント製造設備1は、セメント原料を粉砕、乾燥する原料ミル及びドライヤ2と、この原料ミルで得られた粉体原料を予熱するプレヒータ3と、プレヒータ3によって予熱された粉体原料を焼成するキルン4と、キルン4で焼成された後のセメントクリンカを冷却するための図示略の冷却機等とを備えている。
【0019】
キルン4は、横向きの円筒状シェルを回転させながら、プレヒータ3から供給されるセメント原料をバーナーによって1450℃以上に加熱焼成してセメントクリンカを生成するものである。この場合、キルン4からの排ガスは、プレヒータ3を経由して原料ミル及びドライヤ2に導入されるようになっており、原料ミル及びドライヤ2は、キルン4からの排ガスが導入されることにより、セメント原料の粉砕と乾燥を同時に行うようになっている。また、プレヒータ3は、下方から上方に向けて複数のサイクロンを多段に接続した多段サイクロン式のものであり、原料ミルで粉砕されたセメント原料をキルン4からの排ガスを利用して所定温度まで予熱するものである。
【0020】
このセメント製造設備1において、セメント原料としては、石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料等を適宜の比率で混合したものが用いられるが、廃プラスチックを含む産業廃棄物、油分や洗浄剤等を含む土壌、各種汚泥、焼却灰等がセメント原料の一部あるいはキルンの燃料の一部として用いられる。図1において、二重実線の矢印がセメント原料からセメントクリンカを得る流れを示している。
【0021】
一方、キルン4での燃焼により発生した排ガスの流れを破線で示しており、この排ガスは、プレヒータ3、原料ミル及びドライヤ2を経由して、プレヒータ3での粉体原料の予熱の熱源、原料ミル及びドライヤ2での乾燥の熱源として利用された後、集塵機5に送られ、集塵機5でダストを除去された後に煙突6から大気に放出される。
【0022】
この集塵機5は、例えば高電圧放電により生じる静電気を利用して排ガス中のダストを集塵する電気集塵機であり、その電極に、排ガス中に固体分として混在している灰分等のダストが捕集される。電気集塵機以外にも、排ガス中の固体分を捕集することができるものであれば、バグフィルタ、サイクロン等の周知の集塵機を用いることができる。捕集されたダストは、ダスト配送管7を通して原料ミルに投入されるようになっている。
【0023】
そして、この集塵機5と煙突6との間に排ガス臭気測定装置11が設けられている。この排ガス臭気測定装置11は、集塵機5と煙突6との間の配管12に、排ガスの一部を抽出するサンプリング部13が設けられるとともに、該サンプリング部13に、全炭化水素量測定器14と、特定気体として一酸化炭素の量を測定する一酸化炭素量測定器15とが並列に接続され、全炭化水素量測定器14に、全炭化水素量の測定値を一酸化炭素量の測定値によって補正する補正手段16と、その補正後の全炭化水素量から排ガスの臭気指数を推定する臭気指数推定手段17とが設けられた構成とされている。
【0024】
全炭化水素量測定器14は、例えば水素イオン化検出法(FID:Flame Ionization Detector)による測定器であり、ノズルから排ガスと燃料の水素とを送って点火することにより、排ガス中の有機物が水素炎中で燃焼し、その炎を挟むコレクター電極間に発生する炭素イオンによるイオン電流を測定するものである。
【0025】
一酸化炭素量測定器15は、例えば非分散型赤外線分析法による測定器であり、一酸化炭素が特定波長の赤外光を選択的に吸収する性質を有していることを利用し、その赤外線吸収量から成分濃度を測定するものである。
【0026】
これら全炭化水素量測定器14及び一酸化炭素量測定器15は、排ガスの全炭化水素量及び一酸化炭素量を同じタイミングで連続的に測定している。そして、補正手段16は、全炭化水素量測定器14で連続的に測定される全炭化水素量をこれと同じタイミングで測定した一酸化炭素量によって補正するものである。その補正方法の詳細については後述する。
【0027】
また、臭気指数推定手段17は、あらかじめ全炭化水素量と臭気指数との相関関係を数式化してコンピュータに記憶しておき、補正手段16から得られた補正後の全炭化水素量の測定値から数式に従い臭気指数を推定するものである。
【0028】
この臭気指数は、嗅覚測定法(臭気指数及び臭気排出強度の算定の方法)により、あらかじめ嗅覚が正常であることの検査に合格した被検者が臭気を感じなくなるまで試料を無臭空気で希釈したときの希釈倍率(臭気濃度)を求め、その常用対数値に10を乗じた数値である。算出式は、臭気指数=10×Log(臭気濃度)で表わされる。測定の具体的方法としては「三点比較式臭袋法」が採用される。この三点比較式臭袋法は、3個の袋のうち、2個の袋には無臭の空気を入れ、残りの1個の袋に所定の希釈倍数に希釈した試料を入れ、これら3袋を1組として、6名以上の被検者により、各袋の臭いの有無を判定する作業を希釈倍率を変えながら繰り返し行い、臭いを感じなくなった希釈倍率を求める方法である。
【0029】
また、この臭気指数と全炭化水素量とは、臭気指数=a×log(全炭化水素量)+bの関係を有しており、その定数であるa,bは廃棄物の種類等によって異なり、パイロット運転等によってあらかじめ求めておくことが行われる。
【0030】
このように構成した排ガス臭気測定装置11によりセメント製造設備1からの排ガスの臭気を測定する方法について説明すると、セメント製造設備1からの排ガスは、集塵機5でダストが除去された後に煙突6から大気に放出されるが、この集塵機5と煙突6との間のサンプリング部13で排ガスの一部がサンプリングされ、全炭化水素量測定器14及び一酸化炭素量測定器15により全炭化水素量及び一酸化炭素量が連続的に測定される。
【0031】
この全炭化水素量と一酸化炭素量とは、連続測定中に同じような挙動を示し、一方にピーク部が発生すると他方にも同じタイミングでピーク部が発生する傾向にあるが、一酸化炭素量のピーク部は不完全燃焼に起因するものであり、投入される有機物の量に起因するものではない。したがって、この一酸化炭素量のピーク部発生のタイミングと同じタイミングで全炭化水素量にもピーク部が発生している場合には、その全炭化水素量のピーク部は燃焼による影響で発生しているものと考えられる。そこで、次の補正手段16においては、この一酸化炭素量の測定値にピーク部が発生した場合に、そのピーク部が発生したタイミングで全炭化水素量の測定値にピーク部が発生しているか否かを判断し、全炭化水素量の測定値にも同一タイミングでピーク部が発生している場合は、この全炭化水素量のピーク部を除外した状態として次の臭気指数推定手段17に測定値を受け渡すのである。したがって、補正手段16から出力される全炭化水素量の測定値には、燃焼状況に起因する変化は除外された状態となっている。
【0032】
そして、臭気指数推定手段17では、この全炭化水素量の測定値に基づき臭気指数を推定する。この臭気指数の推定においては、すでに補正手段16において燃焼等の運転状況に起因するピーク値は除外されているので、有機物量に応じて正確に臭気指数を推定することができるのである。
【0033】
次に、このような測定方法によって臭気指数を導くことができることを実証するために行った試験結果について図2から図6を参照しながら以下に説明する。
【0034】
図2は、セメント原料に、その原料中の粘土として利用される汚泥等の粘土系廃棄物を一定割合で投入して、全炭化水素量を連続測定した結果を示すチャートである。図中、細線が有機物を含有した産業廃棄物を一定割合で投入した場合を示し、太線がその投入がない場合を示している。この図2に示されるように、排ガス中の全炭化水素量は、産業廃棄物の存在によって増えており、また、その投入量を変化させなければ、燃焼による影響と考えられるピークは出るが、ほぼ一定のベースラインで推移していることがわかった。これは投入する廃棄物の量と排ガス中の全炭化水素量とが相関を有することを示している。
【0035】
図3は、排ガス中の全炭化水素量とともに、酸素(O)、一酸化炭素(CO)の量を連続的に測定した結果を示している。この図3から、全炭化水素量の変化のピーク部と、一酸化炭素量の変化のピーク部とはほぼ同じタイミングで発生しており、両者は正の相関関係を有していることが理解できる。つまり、排ガス中の全炭化水素量は、キルンでの焼成工程の燃焼が十分であれば、ベースライン上を推移し、燃焼が悪く不完全燃焼で有機物が発生した場合に、ピーク部となって現れることを示している。なお、酸素量は、一酸化炭素量の変化とは逆の変化を示しており、全炭化水素量とは負の相関関係となっている。
【0036】
図4は、全炭化水素量のピーク部発生時とベースライン時とを分けてサンプリングして、臭気指数を測定した結果を示しており、■印がピーク部発生時の測定値であり、◆印がベースライン時の測定値である。この図4では、全炭化水素量のピーク部発生時の測定値は臭気指数とは相関がないことが示されている。つまり、全炭化水素量を連続的に測定する場合に、そのピーク部発生時の測定値を考慮せずに、ベースライン時の測定値だけを用いて臭気指数を管理することができる。
【0037】
図5及び図6は、全炭化水素量と臭気指数との相関関係を示した散布図であり、図5では全炭化水素量のピーク部発生時の測定値も含んで示しているのに対して、図6ではピーク部発生時の測定値を除外して示している。それぞれ近似式曲線も併せて図示したが、図6の方が当てはまりがよいことがわかる。つまり、ピーク部発生時の測定値を除いて、臭気に影響する全炭化水素量の測定値のみに基づいて臭気指数を推定することにより、正確な推定を行うことができる。
【0038】
以上の説明から明らかなように、全炭化水素量を測定することにより、排ガス中に含まれるNOx等の影響を受けることなく臭気指数を推定することができるとともに、その場合に、燃焼状況に起因する全炭化水素量の変動を一酸化炭素量の測定値によって補正して、臭気に影響する全炭化水素量のみから臭気指数を推定するようにしており、臭気指数の正確な推定をすることができる。
【0039】
一方、一酸化炭素量を連続的に測定していることにより、この一酸化炭素量の測定値の変化に基づきキルン4の燃焼状況をも把握することができる。つまり、一酸化炭素量に頻繁にピーク部が発生する場合は、不完全燃焼が続いていることを示しており、この測定値を監視してキルン4の運転条件を修正するなどの対策をすることができる。この場合、前述したように、一酸化炭素量の測定値と補正前の全炭化水素量の測定値とは相関関係を示すのであるから、一酸化炭素量の測定値を監視するのではなく、補正前の全炭化水素量の測定値を監視することにより、そのピーク部発生状況からセメントキルン4の燃焼状況を把握することができる。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態では、一酸化炭素量の測定値から全炭化水素量の測定値を補正するようにしたが、この一酸化炭素量に代えて酸素量を連続的に測定し、この酸素量の測定値から全炭化水素量の測定値を補正し、その補正後の全炭化水素量から臭気指数を推定するようにしてもよい。この酸素量の場合は、図3に示したように一酸化炭素の場合とは逆の特性を示すので、この酸素量の測定値から全炭化水素量の測定値を補正する場合は、両者が負の相関を有するものとして補正すればよい。また、この酸素量を測定する場合、一酸化炭素量の場合と同様に、その測定値からキルンの燃焼状況を把握することが可能である。
【0041】
これら一酸化炭素量や酸素量を測定する場合、上記実施形態では全炭化水素量の測定のためのサンプリング部からサンプリングした排ガスを測定したが、そのサンプリング部とは別に、プレヒータ−の出口等にサンプリング部を取り付けてもよく、変化に迅速に対応することができる。
【0042】
また、全炭化水素量を補正する場合、上記実施形態では、一酸化炭素量(又は酸素量)の測定値のピーク部と同一タイミングで発生している全炭化水素量のピーク部を除外するように補正したが、そのピーク部の測定値に特定の係数を乗じることによりピーク部を緩和するように補正してもよいし、全炭化水素量の測定値の全部を同じタイミングで測定した一酸化炭素又は酸素のいずれかの特定気体の測定値によって常に一定の比率で補正するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る排ガス臭気測定装置の一実施形態を備えたセメント製造設備を示す全体システム構成図である。
【図2】排ガス中の全炭化水素量の連続測定結果を示すチャートである。
【図3】排ガス中の全炭化水素量、酸素量、一酸化炭素量を連続的に測定した結果を示すチャートである。
【図4】排ガス中の全炭化水素量についてピーク部発生時とベースライン時とのそれぞれの測定値と臭気指数との相関を示す散布図である。
【図5】排ガス中の全炭化水素量のピーク部を含むすべての測定値と臭気指数との相関を示す散布図である。
【図6】排ガス中の全炭化水素量のピーク部を除外した測定値と臭気指数との相関を示す散布図である。
【符号の説明】
【0044】
1 セメント製造設備
2 原料ミル及びドライヤ
3 プレヒータ
4 キルン
5 集塵機
6 煙突
11 排ガス臭気測定装置
12 サンプリング部
13 全炭化水素量測定器
14 一酸化炭素量測定器(特定気体測定器)
15 補正手段
16 臭気指数推定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント製造設備から発生する排ガス中の全炭化水素量を連続的に測定し、この全炭化水素量から排ガスの臭気指数を推定することを特徴とするセメント製造設備の排ガス臭気測定方法。
【請求項2】
セメント製造設備から発生する排ガス中の全炭化水素量を連続的に測定し、この全炭化水素量の変化のピーク部を補正し、その補正後の全炭化水素量から排ガスの臭気指数を推定することを特徴とするセメント製造設備の排ガス臭気測定方法。
【請求項3】
セメント製造設備から発生する排ガス中の全炭化水素量と一酸化炭素又は酸素のいずれかの特定気体の量とを連続的に測定し、この特定気体の測定値により全炭化水素量の測定値を補正し、その補正後の全炭化水素量から排ガスの臭気指数を推定することを特徴とするセメント製造設備の排ガス臭気測定方法。
【請求項4】
前記補正は、前記特定気体の測定値におけるピーク部発生時に対応して発生している全炭化水素量のピーク部を補正するものであることを特徴とする請求項3記載のセメント製造設備の排ガス臭気測定方法。
【請求項5】
セメントキルンからの排ガスを移送する配管に、排ガスの一部を抽出するサンプリング部が設けられるとともに、該サンプリング部に、排ガス中の全炭化水素量を測定する全炭化水素測定器と、排ガス中の一酸化炭素又は酸素のいずれかの特定気体の量を測定する特定気体測定器とが設けられ、前記全炭化水素測定器に、その測定値を前記特定気体測定器の測定値によって補正する補正手段と、その補正後の全炭化水素量から排ガスの臭気指数を推定する臭気指数推定手段とが設けられていることを特徴とするセメント製造設備の排ガス臭気測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−192482(P2009−192482A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36066(P2008−36066)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】