説明

セメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法

【課題】塩素を含む可燃性廃棄物等のハロゲン含有廃棄物を、塩素や臭素等のハロゲンに起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができるセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法を提供する。
【解決手段】塩素を含むハロゲン含有廃棄物を選別装置5に投入し、塩素含有量の多いハロゲン含有廃棄物と低塩素濃度廃棄物とに分離し、上記塩素含有量の多いハロゲン含有廃棄物をハロゲン分離手段8に導入し、セメントキルン1の上流側から抜き出した250℃以上に加熱された高温セメント原料を直接接触させて上記ハロゲンを含む可燃性ガスと残留物とを生成させ、次いで、ハロゲン分離手段8から排出された上記ハロゲンを含む可燃性ガスから上記ハロゲンを回収した後に、当該可燃性ガスを上記セメント製造設備の燃料として供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素等のハロゲンを含むハロゲン含有廃棄物を燃料化して、セメント製造設備における燃料の一部として利用するセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、各種飲料容器や記録用テープあるいは自動車のタイヤ等として、様々なプラスチック類が使用されている。これらプラスチック類は、使用後に多量の産業廃棄物として廃棄処分となるが、近年、埋立処理の限界から、当該廃棄物を焼却処理する方法が採用されている。
【0003】
ところで、上記プラスチック類のような可燃性廃棄物は、焼却によって所定の熱量を発生する。そこで、当該可燃性廃棄物をセメント製造設備におけるロータリーキルン内に投入して焼成するとともに、同時にその際の発熱量をセメント製造に係る燃料の一部として利用する処理方法が実施されている。
【0004】
この際に、上記可燃性廃棄物を、ロータリーキルンの窯尻部分や、その前段の設けられた立ち上がりダクトに直接投入すると、焼却時の熱量をセメント原料の予熱に利用することはできるものの、ロータリーキルン内におけるセメント原料の焼成には寄与しないことになる。また、上記可燃性廃棄物が水分を多く含む場合には、その気化熱によって投入箇所における排気ガス温度が低下し、却って安定操業に支障を来すおそれもある。
【0005】
このような問題点を解決するための先行技術として、例えば下記特許文献1に記載のセメント焼成用廃棄物処理装置が提案されている。
この廃棄物処理装置は、プラスチック等の可燃性廃棄物をロータリーキルン内に投入する前に高温ガスで乾留して乾留ガスを発生させる外熱式キルンと、上記ロータリーキルンで発生する高温の塩素バイパスガスと低温のクーラー排ガスとを混合した高温ガスを上記外熱式キルンに供給する高温ガス供給装置と、上記外熱式キルンで発生した乾留ガスをロータリーキルンのバーナーに供給する乾留ガス供給ラインとを備えたものである。
【0006】
上記構成からなる廃棄物処理装置によれば、外熱式キルンで生成した乾留ガスを、ロータリーキルンのバーナーに供給しているので、その発熱量分のキルンの主燃料を低減化することができるとともに、上記外熱式キルンで処理した乾留灰は、セメント焼成設備に供給しないために、塩素および水分による悪影響を回避することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−195524公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の廃棄物処理装置にあっては、可燃性廃棄物がポリ塩化ビニル(PVC)等の塩素含有量の多いプラスチックである場合に、外熱式キルンにおける乾留により、その塩素分の大部分が乾留ガスに移行するために、これをロータリーキルンの燃料として使用すると、当該ロータリーキルンを含めたセメント焼成設備内において塩素が濃縮され、プレヒータで閉塞するため、操業に悪影響を及ぼすという問題点がある。
【0009】
また、一般に、セメント製造設備には、上記塩素が設備内を循環することによって濃縮されることを回避すべく、排ガスの一部を抜き出して塩素分を除去する塩素バイパスシステムが設置されているが、上記乾留ガスから別途導入される塩素までを除去する能力は無く、このため上記廃棄物の処理量または廃棄物における塩素含有量が著しく制限されるという問題点も生じる。
【0010】
加えて、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等の塩素含有量が少ないプラスチック廃棄物は、それ自体で高い発熱量を有するものの、上記廃棄物処理装置においては、乾留灰をセメント焼成設備内に導入しないために、廃棄物からの十分なエネルギーの再利用を図ることができず、かつ依然として処理が必要な乾留灰という2次廃棄物が生成されてしまうという問題点を有する。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、塩素を含む可燃性廃棄物等のハロゲン含有廃棄物を、当該ハロゲン含有廃棄物に含まれる塩素や臭素等のハロゲンに起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができるセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、セメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータから導入された上記セメント原料を焼成するセメントキルンとを有するセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法であって、塩素を含むハロゲン含有廃棄物を選別装置に投入し、塩素含有量の多いハロゲン含有廃棄物と、これよりも塩素含有量が少ない低塩素濃度廃棄物とに分離し、上記塩素含有量の多いハロゲン含有廃棄物をハロゲン分離手段に導入し、上記セメントキルンの上流側から抜き出した250℃以上に加熱された高温セメント原料を直接接触させて上記ハロゲンを含む可燃性ガスと残留物とを生成させ、次いで、上記ハロゲン分離手段から排出された上記ハロゲンを含む可燃性ガスから上記ハロゲンを回収した後に、当該可燃性ガスを上記セメント製造設備の燃料として供給することを特徴とするものである。
【0013】
ここで、上記可燃性ガスを供給するセメント製造設備としては、セメントキルン、仮焼炉等の他、当該セメント製造設備に設けられている発電機やボイラ等が適用可能である。
【0014】
また、一般に上記プレヒータは、セメント原料を順次加熱しつつ下方に移送する複数段のサイクロンを有しており、最上段のサイクロンにおいても、当該サイクロンを通過するセメント原料は、通常請求項1において特定する250℃以上の温度を有している。また、最下段のサイクロンにおいては、870℃程度の温度まで昇温している。
【0015】
したがって、高温セメント原料を抜き出す個所としては、上記プレヒータのいずれのサイクロン、あるいは当該プレヒータにバイパス手段が設けられている場合には、当該バイパス手段を挙げることができる。なお、上記バイパス手段とは、塩素バイパスあるいはアルカリバイパス等のプレヒータから分岐された各種のバイパス設備の全体を指すものである。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記ハロゲン分離手段から排出された上記高温セメント原料および残留物を上記セメントキルンの上流側に戻して上記残留物を上記セメント製造設備における燃料として利用することを特徴とするものである。ここで、上記高温セメント原料および残留物を戻すセメントキルンの上流側とは、当該セメントキルンの窯尻、上記仮焼炉、上記サイクロン、セメント原料を混合するための乾式ミルあるいはセメント原料の貯蔵設備が適用可能である。
【0017】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、上記ハロゲン分離手段から排出された高温セメント原料および残留物を水洗浄して塩類を除去した後に、上記セメント製造設備に戻すことを特徴とするものである。
【0018】
この際に、請求項4に記載の発明は、高温セメント原料および残留物を水洗浄して塩類を除去した後に、乾燥させることなく水分を含んだままで、上記セメント製造設備における仮焼炉あるいはセメントキルンの窯尻に投入することを特徴とするものである。
【0019】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、上記ハロゲン分離手段において上記塩素含有量の多いハロゲン含有廃棄物と上記セメントキルンの上流側から抜き出した250℃以上に加熱された高温セメント原料を直接接触させるに際して、付着防止材として、粘土類、紙類、木材、下水汚泥、建築廃木材あるいは廃プラスチックフィルムを供給することを特徴とするものである。
【0020】
さらに、請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、上記ハロゲン含有廃棄物が、塩素含有プラスチックを含む可燃性廃棄物であり、上記ハロゲン分離手段において、当該可燃性廃棄物を熱分解して、塩素分を含む上記可燃性ガスと、油分および/または固形物を含む上記残留物とに分離することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1〜6のいずれかに記載のセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法によれば、塩素や臭素等のハロゲンを含むハロゲン含有廃棄物に、ハロゲン分離手段において、上記セメントキルンの上流側から抜き出した250℃以上の高温セメント原料を直接接触させることによって、ハロゲンを含む可燃性ガスと、大部分のハロゲンが除去された残留物とが生成する。
【0022】
例えば、上記ハロゲン含有廃棄物が、請求項6に記載の発明にように、塩素含有プラスチック等の可燃性廃棄物である場合には、当該可燃性廃棄物がハロゲン分離手段において熱分解され、塩化水素と主として炭化水素を含む可燃性ガスとから構成され熱分解ガスと、大部分のハロゲンが除去された炭化物を主成分とし、熱分解温度に応じた油分を含有する残留物とが生成する。
【0023】
そして、上記可燃性ガスについては、上記塩素分や臭素分等のハロゲンが除去された後に、上記セメント製造設備に戻されることにより、セメント製造設備におけるセメント原料の焼成等に必要な燃料の一部として寄与する。
【0024】
さらに、請求項2に記載の発明においては、上記ハロゲン分離手段から排出された上記残留物を含む高温セメント原料を、上記セメントキルンの上流側に戻すことにより、他のセメント原料と共に、最終的に後段のセメントキルンに供給されて焼成される。この際に、上記残留物に炭素分等の可燃分が含まれている場合には、上記セメントキルン内あるいはセメントキルンの前段に設けられた仮焼炉において、燃料の一部として利用することができる。
【0025】
ちなみに、上記ハロゲン含有廃棄物にハロゲンとしての塩類が多量に含まれる場合には、請求項3に記載の発明のように、ハロゲン分離手段から排出された上記高温セメント原料および残留物を、一旦上記塩類を洗浄して除去した後に、上記戻りラインからセメントキルンの上流側に戻す。
この際には、水分を含んだセメント原料および残留物を、乾燥させた後に上段のサイクロンあるいは上記乾式ミル等に戻すことができる。
【0026】
また、請求項4に記載の発明にように、上記セメント原料および残留物を仮焼炉あるいはセメントキルンの窯尻に戻すようにすれば、上記塩類の洗浄・除去後に、乾燥させることなく、水分を含んだままで、直接高温の上記仮焼炉あるいは窯尻に投入することが可能である。
【0027】
このようにして、塩素や臭素等のハロゲンを含むハロゲン含有廃棄物を、セメント製造設備において円滑に処理することができ、かつ当該ハロゲン含有廃棄物に含まれるハロゲンに起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができる。
【0028】
しかも、上記可燃性ガスから塩素等のハロゲンを除去した後に、上記セメント製造設備に戻しているので、セメント製造設備における上記塩素バイパスとしても機能させることができる。
【0029】
この際に、上記ハロゲン分離手段が例えばロータリーキルン型熱分解炉である場合においても、高温セメント原料が付着防止材として機能するために、ハロゲン含有廃棄物が上記ハロゲン分離手段に付着することを抑制することができるが、さらに請求項6に記載の発明のように、付着防止材を投入することによって、確実に上記ハロゲン含有廃棄物が熱分解炉等の内壁に付着することを防止して、円滑なハロゲンの分離処理を行うことができる。
【0030】
このような付着防止材としては、粘土等の土質材、紙材、木材、プラスチックフィルム等が適用可能である。この際に、下水汚泥、建築廃木材あるいは廃プラスチックフィルム等の廃棄物を代替使用すれば、これらの廃棄物の処理も同時に行うことが可能になる。
【0031】
特に、上記付着防止材として下水汚泥を用い、上記ハロゲン分離手段に、内部に下水汚泥等のアンモニア含有物を導入する供給管を設ければ、当該アンモニア含有物に含まれるアンモニア分が、熱分解時にハロゲン含有廃棄物に含まれる塩素と反応し、塩化アンモニウムを生成するために、残留物への塩素の残留を最小限に抑えることができて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法の第1実施形態を実施するための処理システム示す概略構成図である。
【図2】図1の実施形態の変形例を示す要部の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明に係るセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法を、ハロゲン含有廃棄物が塩素を含む可燃性廃棄物である場合に適用した一実施形態を実施するためのセメント製造設備および処理システムを示すもので、図中符号1がセメント原料を焼成するためのセメントキルンである。
【0034】
このセメントキルン1は、軸芯回りに回転自在に設けられたロータリーキルンであり、その図中左方の窯尻1a側に、セメント原料を予熱するためのプレヒータ2が設けられるとともに、図中右方の窯前1bには、内部を加熱するための主バーナー(図示を略す。)が設けられている。また、この窯前1bには、セメントキルン1によって得られたクリンカを冷却するクリンカクーラ3が設けられている。
【0035】
ここで、上記プレヒータ2は、上下方向に直列的に配置された複数段(図では4段)のサイクロン2a〜2dによって構成されており、1段目のサイクロン2aにセメント原料が供給されている。また、3段目のサイクロン2cと4段目のサイクロン2dとの間には、下端部にセメントキルン1の窯尻1aから燃焼排ガスが導入されるとともに、内部に図示されない燃料供給ラインから供給される石炭等の燃料の燃焼装置が設けられた仮焼炉4が設けられている。
【0036】
そして、これらセメントキルン1、プレヒータ2および仮焼炉4等を有するセメント製造設備には、塩素を含む可燃性プラスチック廃棄物を前処理してセメントキルン1に導入するための廃棄物燃料化システムが設けられている。
【0037】
図中符号5は、この処理システムの最上流側に設けられた選別装置(選別手段)である。この選別装置5は、処理すべき可燃性プラスチック廃棄物を、比重選別あるいは赤外線選別等によって、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン等の塩素含有量の多い廃棄物(以下、塩素含有プラスチックと略す。)と、ポリエチレンやポリプロピレン等の塩素含有量が少ない廃棄物(以下、低塩素濃度プラスチックと略す。)とに分離するものである。
【0038】
そして、この選別装置5によって分離された低塩素濃度プラスチックは、廃棄物燃料供給ライン6を介して、セメントキルン1の窯前1bから内部にその燃料の一部として投入されるようになっている。なお、上記廃棄物燃料供給ライン6は、上記セメントキルン1に代えて仮焼炉4に上記低塩素濃度プラスチックをその燃料の一部として投入するようにしてもよい。他方、選別装置5によって分離された塩素含有プラスチックは、熱分解ライン7から後段の熱分解炉(ハロゲン分離手段)8に導入されるようになっている。
【0039】
この熱分解炉8は、軸線回りに回転自在に設けられて内部に塩素含有プラスチックが供給される円筒状の熱分解炉であり、その一端側に上記熱分解ライン7が接続されている。また、この一端側には、内部に下水汚泥を導入するための供給管9が接続されている。
【0040】
ここで、上記下水汚泥は、主として付着防止材として供給するものであり、これに代えて、粘土等の土質材、紙材、木材、プラスチックフィルム等が適用可能である。この際に、下水汚泥、建築廃木材あるいは廃プラスチックフィルム等の廃棄物を代替使用すれば、これらの廃棄物の処理も同時に行うことが可能になる。
【0041】
さらに、熱分解炉8の一端側には、熱媒体として最下段のサイクロン2dの吐出側から高温セメント原料を抜き出して熱分解炉8に供給するための熱媒体供給ライン10が接続されている。
【0042】
他方、熱分解炉8の他端部には、この熱分解炉8において生成した熱分解残渣を含む上記高温セメント原料を仮焼炉4に戻すための戻りライン11が接続され、この戻りライン11には、熱分解炉8から排出された上記高温セメント原料等を水洗浄して塩類を除去するためのダスト洗浄装置(ダスト洗浄手段)12が介装されている。
また、この熱分解炉8の上部には、この熱分解炉8において生成した熱分解ガスを、後段のガス洗浄装置(ハロゲン回収手段)14へと送る分解ガス抜き出しライン13が接続されている。
【0043】
このガス洗浄装置14は、熱分解炉8から排出された上記熱分解ガス(可燃性ガス)に、供給管14aから添加される水酸化カルシウム等のアルカリ成分を接触させて、当該熱分解ガス中に含まれる塩素分を、塩化カルシウム等の塩として熱分解ガスから除去するためのもので、湿式あるいは乾式の各種ガス洗浄装置が適用可能である。ここで、図中符号14bは、上記塩化カルシウム水溶液等の排出管であり、符号14cは、未反応のアルカリ成分を含む熱分解ガスをガス洗浄装置14の入口に戻す戻り管である。
【0044】
そして、このガス洗浄装置14の排出側には、このガス洗浄装置14によって洗浄された可燃性の熱分解ガスを、仮焼炉4内に燃料の一部として供給するためのガス供給ライン(ガス供給手段)15が接続されている。
【0045】
なお、上記プレヒータ2においては、セメントキルン1の窯尻1aから導入される燃焼排ガスが、順次上方のサイクロン2d〜2aへと送られる過程で、セメント原料を予熱することにより、漸次冷却される。このため、最上段のサイクロン2aにおいて約270℃であった上記高温セメント原料は、最下段のサイクロン2dにおいて約879℃になるため、いずれのサイクロン2a〜2dから上記高温セメント原料を抜き出したとしても、上記熱分解に必要な約250℃〜900℃の範囲の高温セメント原料を熱分解炉8に供給することが可能である。
【0046】
一方、上記熱分解は、最高温度が250℃〜650℃の範囲において行うことが望ましい。この際に、当該熱分解を上記範囲内の比較的低い温度で行うと、熱分解ガスの発熱量は比較的小さいものの、熱分解残渣に炭素分が多くの残存し、その発熱量は大きくなる。また、逆に比較的高い温度で行うと、熱分解ガスの発熱量は大きくなるが、逆に熱分解残渣における可燃分が少なくなるとともに、油分の発生量が増加する。
【0047】
したがって、本実施形態においては、一例として最下段のサイクロン2dから上記高温セメント原料を抜き出す場合について示しているが、上記廃棄物の性状や可燃性ガスの仕様用途等を勘案して、抜き出すサイクロン2a〜2dを適宜選択することにより、上記加熱温度を選択することが可能である。
【0048】
また、図2に示すように、セメントキルン1の窯尻1aから4段目のサイクロン2dへ排ガスを送るダクトに、塩素バイパス管20が接続され、この塩素バイパス管20によって抜き取られた排ガスの一部を、後段のバッグフィルター21に送って塩素分を除去する塩素バイパス(バイパス手段)が設けられている場合には、塩素バイパス管20に上記熱媒体供給ライン10を接続することにより、塩素を多く含むダスト状の高温セメント原料を抜き出して上記熱分解炉8に供給するようにしてもよい。
【0049】
なお、この場合には、熱分解炉の後段で、洗浄装置が必要となる。あるいは、排ガス中に上記高温セメント原料がダスト状に含まれているために、熱媒体供給ライン10の中間部に、別途サイクロン等のダスト収集手段を介装し、収集された粗粒の高温セメント原料のみを熱分解炉8に供給することが好ましい。
【0050】
次に、上記構成からなるセメント製造設備および処理システムを用いた、本発明に係るセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法の一実施形態について説明する。
先ず、プレヒータ2の1段目のサイクロン2aに投入されたセメント原料は、図中実線矢印で示すように、順次下方のサイクロン2b〜2dへと落下するにしたがって、下方から上昇するセメントキルン1からの高温の排ガスによって予熱され、最終的に最下段のサイクロン2dからセメントキルン1の窯尻1aに導入される。
【0051】
そして、このセメントキルン1内において、窯尻1a側から窯前1b側へと徐々に送られる過程において、主バーナーからの燃焼排ガスによって加熱され、焼成されてクリンカとなる。次いで、窯前1bに到達したクリンカは、図中矢印で示すように、クリンカクーラ3内に落下して図中右方に送られる。この際に、クリンカクーラ3内に供給された空気によって所定温度まで冷却されて、最終的に当該クリンカクーラ3から取り出される。
【0052】
ところで、セメント原料に含まれる塩素分は、セメントキルン1内における高温(約1400℃)雰囲気下において、主にKClやNaCl等のアルカリ塩化物として揮発して排ガス中に移行する。そして、この排気ガスは、セメントキルン1の窯尻1aからプレヒータ2側に排気されて順次下方から上方のサイクロン2d〜2aへと上昇する際に、セメント原料を予熱することにより冷却され、当該排ガス中に含まれる塩素分が再びセメント原料側に移行してしまう。
【0053】
この結果、塩素分は上記セメントキルン1およびプレヒータ2からなる系内を循環するために、新たに燃焼排ガスまたはセメント原料から系内に持ち込まれる塩素分によって、内部の塩素濃度が徐々に上昇し、ひいてはプレヒータ2のサイクロンを閉塞させ、運転に支障をきたす。
【0054】
そこで、図2に示す塩素バイパスを有するセメント製造設備においては、定期的に塩素バイパス管20から上記排ガスの一部を抜き取り、冷却することで塩素分をアルカリ塩化物として後段のバッグフィルター21において回収することにより、系内の塩素濃度が上昇することを防止している。
【0055】
以上のセメントクリンカの製造と並行して、塩素含有プラスチックを含む処理すべき可燃性廃棄物を選別装置5に投入し、塩素含有プラスチックと、他の低塩素濃度プラスチック等の廃棄物とに分離する。そして、低塩素濃度プラスチックについては、廃棄物燃料供給ライン6を介して直接セメントキルン1の窯前1b側から内部に投入することにより、セメントキルン1内で燃焼させて、その燃料の一部として利用する。
【0056】
他方、選別装置5によって分離された塩素含有プラスチックについては、熱分解ライン7から後段の熱分解炉8に導入する。これと平行して、熱媒体供給ライン10によって最下段のサイクロン2cまたは塩素バイパス管20(図2)から高温セメント原料を抜き出して、熱分解炉8に供給する。
【0057】
すると、熱分解炉8内において、塩素含有プラスチックが高温セメント原料と直接接触することによって熱分解される。この結果、熱分解炉8内には、主に塩化水素を含む熱分解ガスと、大部分のハロゲンが除去された炭化物を主成分とする熱分解残渣とが生成する。
【0058】
この際に、下水汚泥の供給管9から供給された下水汚泥によって、上記塩素含有プラスチックやその熱分解残渣が熱分解炉8の内壁に付着することが防止される。また、下水汚泥に含まれる大量の水分が水蒸気となることにより、上記熱分解時における廃棄物からの塩素の揮発が促進されるとともに、これと併行して当該下水汚泥に含まれるアンモニア分が、揮発した塩素と反応して塩化アンモニウムが生成する。この結果、熱分解残渣への塩素の残留が最小限に抑えられる。
【0059】
そして、上記熱分解残渣を含む高温セメント原料は、戻りライン11から先ずダスト洗浄装置12に送られ、その内部で水洗されることによって、高温セメント原料等に含まれていたハロゲンが洗浄されて除去される。次いで、このダスト洗浄装置12を経たセメント原料および熱分解残渣を、戻りライン11から仮焼炉4、または図2に示すようにセメントキルン1の窯尻1aに導入する。これにより、セメント原料および熱分解残渣は、他のセメント原料とともに、最終的にセメントキルン1に送られて焼成される。この際に、熱分解残渣に含まれる可燃分は、仮焼炉4またはセメントキルン1内における燃料の一部として利用される。
【0060】
他方、上記可燃性の熱分解ガスについては、ガス洗浄装置14において塩素分等のハロゲンを除去したうえで、ガス供給ライン15によって仮焼炉4内に供給され、燃料の一部として利用される。また、ガス洗浄装置14において、上記熱分解ガス中に含まれる塩素分等を除去した後に、仮焼炉4に戻しているので、塩素バイパス管20とバッグフィルター21とからなる塩素バイパスシステムと同様の機能が得られる。
【0061】
このようにして、塩素を含む可燃性廃棄物を、セメント製造設備において円滑に処理することができ、かつ上記廃棄物に含まれる塩素等に起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができる。
【0062】
なお、上記実施形態においては、熱分解炉8から排出された高温セメント原料および残留物を、一旦戻りライン11に介装したダスト洗浄装置12によって塩類を洗浄して除去した後に、戻りライン11から仮焼炉4またはセメントキルン1の窯尻1aに戻すようにしたが、これに限るものではなく、ダスト洗浄装置12から排出された上記セメント原料等を乾燥させて、上段のサイクロン2aあるいはその上流側の図示されないセメント原料を混合するための乾式ミル等に戻すことができる。
【0063】
また、高温セメント原料を抜き出す位置についても、上述した最下段のサイクロン2dや塩素バイパス管20に限らず、その上方のサイクロン2a〜2cから抜き出すこともできる。特に、上段のサイクロン2a等から抜き出した場合には、その温度が比較的低いものの当該高温セメント原料には塩類の含有物が少ないために、ダスト洗浄装置12を設けることなく、熱分解炉8から排出した後に、そのまま上記サイクロン2aや、上記乾式ミルあるいはセメント原料の貯蔵設備に戻すことが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 セメントキルン
1a 窯尻
1b 窯前
2 プレヒータ
2a、2b、2c、2d サイクロン
4 仮焼炉
5 選別装置
6 廃棄物燃料供給ライン
7 熱分解ライン
8 熱分解炉(ハロゲン分離手段)
9 下水汚泥の供給管
10 熱媒体供給ライン
11 戻りライン
12 ダスト洗浄装置(ダスト洗浄手段)
14 ガス洗浄装置(ハロゲン回収手段)
15 ガス供給ライン(ガス供給手段)
20 塩素バイパス管
21 バッグフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータから導入された上記セメント原料を焼成するセメントキルンとを有するセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法であって、
塩素を含むハロゲン含有廃棄物を選別装置に投入し、塩素含有量の多いハロゲン含有廃棄物と、これよりも塩素含有量が少ない低塩素濃度廃棄物とに分離し、
上記塩素含有量の多いハロゲン含有廃棄物をハロゲン分離手段に導入し、上記セメントキルンの上流側から抜き出した250℃以上に加熱された高温セメント原料を直接接触させて上記ハロゲンを含む可燃性ガスと残留物とを生成させ、
次いで、上記ハロゲン分離手段から排出された上記ハロゲンを含む可燃性ガスから上記ハロゲンを回収した後に、当該可燃性ガスを上記セメント製造設備の燃料として供給することを特徴とするセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法。
【請求項2】
上記ハロゲン分離手段から排出された上記高温セメント原料および残留物を上記セメントキルンの上流側に戻して上記残留物を上記セメント製造設備における燃料として利用することを特徴とする請求項1に記載のセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法。
【請求項3】
上記ハロゲン分離手段から排出された高温セメント原料および残留物を水洗浄して塩類を除去した後に、上記セメント製造設備に戻すことを特徴とする請求項2に記載のセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法。
【請求項4】
高温セメント原料および残留物を水洗浄して塩類を除去した後に、乾燥させることなく水分を含んだままで、上記セメント製造設備における仮焼炉あるいはセメントキルンの窯尻に投入することを特徴とする請求項3に記載のセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法。
【請求項5】
上記ハロゲン分離手段において上記塩素含有量の多いハロゲン含有廃棄物と上記セメントキルンの上流側から抜き出した250℃以上に加熱された高温セメント原料を直接接触させるに際して、付着防止材として、粘土類、紙類、木材、下水汚泥、建築廃木材あるいは廃プラスチックフィルムを供給することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法。
【請求項6】
上記ハロゲン含有廃棄物は、塩素含有プラスチックを含む可燃性廃棄物であり、上記ハロゲン分離手段において、当該可燃性廃棄物を熱分解して、塩素分を含む上記可燃性ガスと、油分および/または固形物を含む上記残留物とに分離することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のセメント製造設備を用いたハロゲン含有廃棄物の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−155779(P2010−155779A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16431(P2010−16431)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【分割の表示】特願2005−67104(P2005−67104)の分割
【原出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】