説明

セラミックス製品及びそのエッチング方法

【課題】被覆ガラス層を部分的に除去することなく、表面平滑な凹凸パターンを形成することができ、生産性を向上させることができるセラミックス製品及びそのエッチング方法を提供すること。
【解決手段】セラミックス製品1は、セラミックス基材2と、セラミックス基材2の表面に形成した被覆ガラス層3とを備え、被覆ガラス層3に凹凸パターン7を形成してなる。凹凸パターン7は、被覆ガラス層3を構成する基礎ガラスに、五酸化バナジウムを3〜20wt%含むエッチング用ガラスをエッチングし、850〜950℃の温度で加熱焼成して形成してある。凹凸パターン7における表面図柄の断面形状は、エッチング用ガラスをエッチングしたことにより、平坦状の模様中心部71と、模様中心部71の両脇に形成された凹部72と、凹部72の外側に隣接形成された凸部73とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に被覆ガラス層を形成してなるセラミックス製品及びそのエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス製品の表面に形成した被覆ガラス層に、種々のエッチングパターンを形成する方法としては、例えば、エッチングしない部位をマスキングした後、フッ化水素溶液等の薬液を塗布し、被覆ガラス層を部分的に溶解して、エッチングパターンを形成する部分溶解方法がある。この方法によれば、マスキングをした部位の表面が維持される一方、マスキングをしていない部位が、薬液によって腐食されることによって、エッチングパターンを形成することができる。
【0003】
また、他のエッチング方法としては、例えば、多数のセラミックス粉末等の砥粒(研磨剤)を被覆ガラス層に吹き付けてエッチングパターンを形成するサンドブラスト方法がある。この方法によれば、多数の砥粒が衝突した部位の表面に、多数の窪みが形成されることによって、エッチングパターンを形成することができる。
【0004】
しかしながら、上記従来のエッチング方法には以下の問題点があった。
すなわち、上記部分溶解方法においては、薬液によって被覆ガラス層を溶出させるため、必要以上に被覆ガラス層が溶出してしまうおそれがある。また、上記サンドブラスト方法においては、被覆ガラス層に多数の砥粒を吹き付けるため、この吹付の圧力、吹き付ける砥粒の大きさ等の調整が難しく、場合によっては、被覆ガラス層に剥離が生じるおそれがあった。
そのため、セラミックス製品の表面に、必要な厚みを維持して安定して被覆ガラス層を定着させるためには、更なる工夫が必要とされていた。
【0005】
また、上記部分溶解方法においては、部分的にマスキングを行う必要があり、このマスキング作業に手間がかかった。また、上記サンドブラスト法においては、多数の砥粒が周囲に飛散するため、この飛散した砥粒の管理に手間がかかった。そのため、セラミックス製品の生産性を向上させるためには、更なる工夫が必要とされていた。
【0006】
なお、特許文献1においては、陶磁器又はセラミックスからなる被装飾体に金装飾を施してなる金装飾品の製造方法が開示されている。この製造方法においては、釉ガラス層を焼き付けた被装飾体に、ブライト金ペーストよりなるブライト層と、マット金ペーストよりなるマット層とを隣接して形成し、750〜900℃で焼成して、ブライト層とマット層との境界部分にV字状溝を形成している。
しかしながら、特許文献1の技術は、セラミックス等の被装飾体に立体的な金装飾を行うための技術であり、セラミックスの表面に、必要な厚みを維持して安定して被覆ガラス層を定着させるための技術は何ら開示されていない。
【0007】
【特許文献1】特開2000−26178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、被覆ガラス層を部分的に除去することなく、表面平滑な凹凸パターンを形成することができ、生産性を向上させることができるセラミックス製品及びそのエッチング方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、セラミックス基材の表面に被覆ガラス層を形成してなるセラミックス製品を準備する準備工程と、
五酸化バナジウムを3〜20wt%含むエッチング用ガラスと、有機バインダーとを混練してなるエッチングペーストを転写紙に施して、該転写紙に転写用パターンを形成するパターン形成工程と、
上記転写紙から上記転写用パターンを上記被覆ガラス層に転写して、該被覆ガラス層にエッチングパターンを形成するパターン転写工程と、
上記エッチングパターンを形成したセラミックス製品を850〜950℃の温度で加熱焼成して、エッチングを行うエッチング工程とを含むことを特徴とするセラミックス製品のエッチング方法にある(請求項1)。
【0010】
本発明のエッチング方法においては、まず、準備工程として、セラミックス基材の表面に被覆ガラス層を形成してなるセラミックス製品を準備する。
また、パターン形成工程として、エッチングペーストを転写紙に施して転写用パターンを形成する。そして、このとき用いるエッチングペーストは、五酸化バナジウム(V25)を3〜20wt%含むエッチング用ガラスと、有機バインダーとを混練してなるものとする。
このとき、転写パターンとしては、種々の装飾のパターンとすることができる。
【0011】
次いで、転写工程として、転写紙における転写用パターンを、セラミックス製品における被覆ガラス層に転写してエッチングパターンとした後、エッチング工程として、当該セラミックス製品を850〜950℃の温度で加熱焼成する。
このとき、被覆ガラス層の表面にエッチングパターンのエッチングが行われ、被覆ガラス層の表面に施されたエッチングペーストは、被覆ガラス層の表面に凹凸パターンを形成して、被覆ガラス層と一体化される。
【0012】
そして、被覆ガラス層の表面に形成した凹凸パターンは、被覆ガラス層を構成するガラスの一部に溶出又は剥離等を生じることがなく、被覆ガラス層を構成するガラスを部分的に移動させることによって形成することができる。そのため、被覆ガラス層を部分的に除去することなく、表面平滑な凹凸パターンを形成することができる。
また、上記エッチングを行うために、部分的にマスキングを行う必要がなく、被覆ガラス層にエッチングパターンを形成することにより、簡単にエッチングを行うことができる。そのため、セラミックス製品の生産性を向上させることができる。
【0013】
それ故、本発明のエッチング方法によれば、被覆ガラス層を部分的に除去することなく、表面平滑な凹凸パターンを形成することができ、セラミックス製品の生産性を向上させることができる。
【0014】
第2の発明は、セラミックス基材の表面に被覆ガラス層を形成してなるセラミックス製品を準備する準備工程と、
五酸化バナジウムを3〜20wt%含むエッチング用ガラスと、有機バインダーとを混練してなるエッチングペーストを上記被覆ガラス層に施し、該被覆ガラス層にエッチングパターンを形成するパターン形成工程と、
上記エッチングパターンを形成したセラミックス製品を、850〜950℃の温度で加熱焼成して、エッチングを行うエッチング工程とを含むことを特徴とするセラミックス製品のエッチング方法にある(請求項3)。
【0015】
本発明のエッチング方法においても、まず、準備工程として、セラミックス基材の表面に被覆ガラス層を形成してなるセラミックス製品を準備する。
次いで、パターン形成工程として、エッチングペーストをセラミックス製品における被覆ガラス層に施して、エッチングパターンを形成する。そして、このとき用いるエッチングペーストは、五酸化バナジウム(V25)を3〜20wt%含むエッチング用ガラスと、有機バインダーとを混練してなるものとする。
このとき、エッチングパターンとしては、種々の装飾のパターンとすることができる。
【0016】
次いで、エッチング工程として、上記セラミックス製品を850〜950℃の温度で加熱焼成する。
このとき、被覆ガラス層の表面にエッチングパターンのエッチングが行われ、被覆ガラス層の表面に施されたエッチングペーストは、被覆ガラス層の表面に凹凸パターンを形成して、被覆ガラス層と一体化される。
【0017】
それ故、本発明のエッチング方法によっても、上記第1の発明と同様に、被覆ガラス層を部分的に除去することなく、表面平滑な凹凸パターンを形成することができ、セラミックス製品の生産性を向上させることができる。
【0018】
第3の発明は、セラミックス基材と、該セラミックス基材の表面に形成した被覆ガラス層とを備え、該被覆ガラス層に凹凸パターンを形成してなるセラミックス製品であって、
上記凹凸パターンは、上記被覆ガラス層を構成する基礎ガラスに、五酸化バナジウムを3〜20wt%含むエッチング用ガラスをエッチングしてなり、
上記凹凸パターンにおける表面図柄の断面形状は、上記エッチング用ガラスをエッチングしたことにより、平坦状の模様中心部と、該模様中心部の両脇に形成された凹部と、該凹部の外側に隣接形成された凸部とを備えていることを特徴とするセラミックス製品にある(請求項5)。
【0019】
本発明のセラミックス製品は、五酸化バナジウム(V25)を3〜20wt%含むエッチング用ガラスをエッチングして形成した凹凸パターンを有する被覆ガラス層を備えている。
そして、凹凸パターンにおける表面図柄の断面形状は、上記模様中心部、凹部及び凸部によって形成されている。これにより、凹凸パターンは、被覆ガラス層を構成する基礎ガラスを部分的に移動させることによって形成されている。
【0020】
それ故、本発明によれば、被覆ガラス層が部分的に除去されておらす、被覆ガラス層に表面平滑な凹凸パターンを有しており、生産性に優れるセラミックス製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
上述した第1〜第3の発明における好ましい実施の形態につき説明する。
上記第1〜第3の発明において、上記五酸化バナジウム(V25)を3〜20wt%含むエッチング用ガラスとしては、SiO2(シリカ)、Al23(アルミナ)及びB23(ホウ酸)を含有してなるSiO2−Al23−B23系ガラスを用いることができる。このSiO2−Al23−B23系ガラスとしては、R2O(RはLi、K、Na等を示す。)、R’O(R’はCa、Ba、Sr、Mg、Zn等を示す。)、TiO2(酸化チタン)、ZrO2(ジルコニア)、SnO(酸化すず)等を副成分として、一種又は二種以上含有するものを用いることができる。
また、エッチング用ガラスは、例えば、SiO2−Al23−B23−Li2O−K2O−ZrO2−V25の粉末とすることができる。
【0022】
上記セラミックス製品は、セラミックス基材の表面に、上記ガラスとしての釉を施して焼き上げたものとすることができる。また、セラミックス基材は、ボーンチャイナ又は酸化磁器等の磁器とすることができる。また、セラミックス製品は、種々の形状のものとすることができ、例えば、食器、壺、花瓶、置物等の陶磁器とすることができる。
【0023】
上記ガラスの全量に対する上記五酸化バナジウムの含有量が3wt%未満である場合には、十分なエッチング(被覆ガラス層の表面に凹凸を形成すること)を行うことが困難になる。一方、ガラスの全量に対する五酸化バナジウムの含有量が20wt%を超える場合には、エッチングを行った部位の表面が濃い黄褐色に着色するおそれがある。
なお、五酸化バナジウムを20wt%以下含有するガラスによってエッチングを行った場合においても、エッチングを行った部位の表面が薄い黄褐色に着色することはある。
【0024】
また、上記第1、第2の発明において、上記加熱焼成を行う温度が850℃未満である場合には、温度が低くて、十分なエッチング(被覆ガラス層の表面に凹凸を形成すること)を行うことが困難になる。一方、上記加熱焼成を行う温度が950℃を超える場合には、温度が高くて、被覆ガラス層が軟化するおそれがあり、被覆ガラス層の表面に形成した凹凸の鮮明度が低下するおそれがある。
【0025】
また、上記第1〜第3の発明において、上記有機バインダーとしては、例えば、樹脂を用いることができ、この樹脂としては、アクリル系樹脂、アミド系樹脂、アルキッド系樹脂、エチルセルロース系樹脂、ニトロセルロース系樹脂等を用いることができる。
また、上記第1の発明において、上記転写紙への上記エッチングペーストの施工(塗布)は、スクリーン印刷法、メタルマスク印刷法等を用いて行うことができる。また、転写紙としては、デンプン等を塗布した厚紙を使用することができる。
【0026】
上記第1、第2の発明において、上記準備工程において準備する上記セラミックス製品における被覆ガラス層の平均厚みは、例えば、100〜200μmとすることができる。この場合には、被覆ガラス層の厚みが薄く、従来の部分溶解法又はサンドブラスト法等によるエッチング方法では、良好にエッチングができない一方、上記第1、第2の発明によれば、被覆ガラス層の表面に、被覆ガラス層が除去されてしまった剥離部分等を生じることなく、凹凸パターンを形成することができる。
また、上記パターン形成工程又はパターン転写工程において、上記被覆ガラス層に形成するエッチングパターンの厚みは、例えば、10〜50μmとすることができる。
【0027】
また、上記第1の発明においては、上記パターン形成工程においては、上記転写紙に転写用着色パターンを形成すると共に、上記転写用パターンは、上記転写用着色パターンの輪郭として形成し、上記パターン転写工程においては、上記転写紙から上記転写用パターン及び上記転写用着色パターンを上記被覆ガラス層に転写して、該被覆ガラス層に上記エッチングパターン及び着色パターンを形成することが好ましい(請求項2)。また、上記第2の発明においては、上記パターン形成工程においては、上記被覆ガラス層に着色パターンを形成すると共に、上記エッチングパターンは、上記着色パターンの輪郭として形成することが好ましい(請求項4)。
【0028】
これらの場合には、セラミックス製品における被覆ガラス層に、着色パターンにより着色模様を形成すると共に、この着色模様の輪郭部に、上記エッチングによる凹凸パターンを形成することができる。これにより、エッチングによる凹凸パターンを一層際立たせることができる。
なお、上記エッチングパターンを上記着色パターンの上に形成すると、エッチングパターンによる黄褐色によって着色パターンの彩色が変化してしまうおそれがある。
【0029】
また、上記第3の発明においては、上記被覆ガラス層には、絵具により着色形成した着色模様が設けてあり、上記凹凸パターンは、上記着色模様の輪郭として形成してあることが好ましい(請求項6)。
この場合には、エッチングによる凹凸パターンを一層際立たせることができる。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明のセラミックス製品及びそのエッチング方法にかかる実施例につき、図面と共に説明する。
(実施例1)
本例において製造するセラミックス製品1は、図1、図7に示すごとく、セラミックス基材2と、このセラミックス基材2の表面に形成した被覆ガラス層3とを備え、被覆ガラス層3に凹凸パターン7を形成してなる。
この凹凸パターン7は、被覆ガラス層3を構成する基礎ガラスに、五酸化バナジウム(V25)を3〜20wt%含むエッチング用ガラスをエッチングし、850〜950℃の温度で加熱焼成して形成してある。
【0031】
そして、図1に示すごとく、凹凸パターン7における表面図柄の断面形状は、エッチング用ガラスをエッチングしたことにより、平坦状の模様中心部71と、この模様中心部71の両脇に形成された凹部72と、この凹部72の外側に隣接形成された凸部73とを備えている。
以下に、エッチングを行って、凹凸パターン7による表面図柄を形成してなるセラミックス製品1を製造する方法につき、図1〜図8と共に詳説する。
【0032】
本例においては、以下の準備工程、パターン形成工程、パターン転写工程及びエッチング工程を行って、セラミックス製品10にエッチングを行う。
上記準備工程においては、図2に示すごとく、セラミックス基材2の表面に被覆ガラス層3を形成してなるセラミックス製品10(エッチング前のセラミックス製品)を準備する。本例の被覆ガラス層3は、SiO2−Al23−B23系ガラスからなり、セラミックス基材2は磁器である。
【0033】
次いで、上記パターン形成工程においては、図3に示すごとく、五酸化バナジウム(V25)を3〜20wt%含むエッチング用ガラスと、有機バインダーとを混練してなるエッチングペースト4を転写紙51に施して、この転写紙51に転写用パターン41を形成する。
具体的には、本例のエッチング用ガラスは、SiO2−Al23−B23−Li2O−K2O−ZrO2−V25のガラス粉末とし、有機バインダーは、アクリル系樹脂とした。
【0034】
また、ガラス粉末中のV25の含有量は、7.5wt%とし、ガラス粉末とアクリル系樹脂との混合割合は、重量比で等分(1:1)とした。そして、ガラス粉末とアクリル系樹脂とを調合したものを3本ロールで混練してエッチングペースト4を得た。
また、転写紙51に施す転写用パターン41は、種々の装飾のパターンとすることができるが、本例の転写用パターン41は、図8に示すごとく、図柄のエッジ部分(輪郭部分)にエッチングペースト4を施すパターンとした。
【0035】
また、図3に示すごとく、本例においては、スクリーン印刷法を用いて、転写紙51に転写用パターン41を形成する。すなわち、本例においては、スクリーン版8に転写用パターン41の図柄に倣って複数の開口部81を形成しておく。一方、転写紙51の表面には、転写用パターン41を形成するエッチングペースト4を当該転写紙51から剥がし易くするためのデンプンが塗布されている。
そして、スクリーン版8上に配置したエッチングペースト4を、複数の開口部81から転写紙51に落下させて、転写紙51の表面に転写用パターン41を形成する。
なお、スクリーン印刷法を用いる代わりに、例えば、メタルマスク印刷法を用いることもできる。
【0036】
次いで、図4に示すごとく、転写紙51上の転写用パターン41を乾燥させた後、転写紙51上の転写用パターン41が崩れることを防止するために、転写紙51の表面にアクリル系樹脂52を塗布し、転写紙51の表面における転写用パターン41の全体をアクリル系樹脂52によって覆う。本例においては、転写紙51の表面における転写用パターン41の全体をアクリル系樹脂52は、アクリル系樹脂のフィルム52とした。
【0037】
次いで、図5、図6に示すごとく、上記パターン転写工程においては、転写紙51から転写用パターン41をセラミックス製品10における被覆ガラス層3に転写して、この被覆ガラス層3にエッチングパターン42を形成する。本例においては、水貼りスライド転写方法を用い、転写用パターン41を形成した転写紙51から、アクリル系樹脂のフィルム52によって包んだ状態の転写用パターン41を、セラミックス製品10における被覆ガラス層3に転写して、エッチングパターン42を形成した。
【0038】
次いで、エッチング工程においては、セラミックス製品10における被覆ガラス層3上のエッチングパターン42を乾燥させた後、このエッチングパターン42を形成したセラミックス製品10を850〜950℃の温度で加熱焼成して、エッチングを行う。
本例においては、エッチングパターン42を形成したセラミックス製品10を焼成炉内に配置し、焼成炉内において900℃の温度で約15分間、加熱焼成を行った。
【0039】
この加熱焼成のとき、被覆ガラス層3の表面にエッチングパターン42のエッチングが行われ、被覆ガラス層3の表面に施されたエッチングペースト4は、被覆ガラス層3の表面に凹凸パターン7を形成して、被覆ガラス層3と一体化される。また、加熱焼成のときには、アクリル系樹脂のフィルム52はエッチングパターン42の表面から蒸発する。
【0040】
こうして、図1、図7に示すごとく、凹凸パターン4を形成してなるセラミックス製品1を製造することができる。そして、形成した被覆ガラス層3の凹凸パターン7における表面図柄は、平坦状の模様中心部71と、この模様中心部71の両脇に形成された凹部72と、この凹部72の外側に隣接形成された凸部73とを備えた断面形状に形成された。また、エッチングを行って形成した凹凸パターン7の表面は、無色透明となった。
【0041】
そして、被覆ガラス層3の表面に形成した凹凸パターン7は、被覆ガラス層3を構成するガラスの一部に溶出又は剥離等を生じることがなく、被覆ガラス層3を構成するガラスを部分的に移動させることによって形成することができる。そのため、被覆ガラス層3を部分的に除去することなく、表面平滑な凹凸パターン7を形成することができる。また、この凹凸パターン7は、光沢を有する状態で形成することができる。
【0042】
また、本例においては、上記エッチングを行うために、部分的にマスキングを行う必要がなく、被覆ガラス層3にエッチングパターン42を形成することにより、簡単にエッチングを行うことができる。そのため、セラミックス製品1の生産性を向上させることができる。
それ故、本例のエッチング方法によれば、被覆ガラス層3を部分的に除去することなく、表面平滑な凹凸パターン7を形成することができ、凹凸パターン7による表面図柄を形成してなるセラミックス製品1を効率的に製造することができる。
【0043】
なお、図示は省略するが、上記エッチングペースト4は、転写紙51に転写用パターン41として転写紙51に一旦転写することなく、セラミックス製品1における被覆ガラス層3に直接施して、この被覆ガラス層3にエッチングパターン42を直接形成することもできる。この場合においても、スクリーン印刷法等を用いて、セラミックス製品10における被覆ガラス層3にエッチングパターン42を形成することができる。
【0044】
(実施例2)
本例において製造するセラミックス製品1Aは、図9に示すごとく、その被覆ガラス層3に、絵具により着色形成した着色模様75を有しており、上記凹凸パターン7は、着色模様75の輪郭として形成したものである。
本例において、エッチングを行って、セラミックス製品10における被覆ガラス層3に凹凸パターン7による表面図柄を形成する際には、上記実施例1と同様に、上記準備工程、パターン形成工程、パターン転写工程及びエッチング工程を行う。
【0045】
本例のパターン形成工程においては、エッチング用ガラスとして、SiO2−Al23−B23−Li2O−K2O−ZrO2−V25のガラス粉末と、SiO2−Al23−B23−Li2O−K2O−ZrO2の希釈ガラス粉末との粉末混合物を用いた。また、ガラス粉末中のV25の含有量は、15wt%とし、ガラス粉末と希釈ガラス粉末との混合割合は、重量比で8:2とした(ガラス粉末が8重量部に対して、希釈ガラス粉末を2重量部とした)。そして、粉末混合物と、アクリル系樹脂との混合割合は、等分(1:1)として、これらを混合したものを3本ロールで混練してエッチングペースト4を得た。
【0046】
また、本例のパターン形成工程においては、図10に示すごとく、着色顔料及び樹脂を含有してなる陶磁器用絵具ペースト6を転写紙51の上に塗布して、転写紙51の表面に種々の図柄の転写用着色パターン61を形成する。
また、本例においては、スクリーン印刷法等を用いて、転写紙51における転写用着色パターン61のエッジ部分(輪郭部分)に上記エッチングペースト4を塗布し、当該転写紙51の表面に転写用パターン41を形成する。
【0047】
次いで、本例のパターン転写工程においては、図11に示すごとく、転写紙51から転写用パターン41及び転写用着色パターン61をセラミックス製品10における被覆ガラス層3に転写して、この被覆ガラス層3に転写用パターン41によるエッチングパターン42、及び転写用着色パターン61による着色パターン62を形成する。
【0048】
その後、本例のエッチング工程においては、上記実施例1と同様にして、エッチングパターン42及び着色パターン62を形成したセラミックス製品10を焼成炉内に配置し、焼成炉内において900℃の温度で約15分間、加熱焼成を行った。
こうして、図9に示すごとく、セラミックス製品10における被覆ガラス層3に、着色パターン62により形成した着色模様75を形成し、この着色模様75の輪郭として、上記模様中心部71、凹部72及び凸部73を備えた断面形状を有する凹凸パターン7を形成して、セラミックス製品1Aを製造した。
【0049】
その他、本例においても、各工程における構成及び作用効果は、上記実施例1と同様である。
それ故、本例のエッチング方法によれば、表面平滑な凹凸パターン7を着色模様75の輪郭として形成することができ、着色模様75及び凹凸パターン7による表面図柄を形成してなるセラミックス製品1Aを効率的に製造することができる。
【0050】
なお、上記陶磁器用絵具ペースト6及びエッチングペースト4は、転写紙51に転写用パターン41として転写紙51に一旦転写することなく、セラミックス製品10における被覆ガラス層3に直接施して、この被覆ガラス層3に着色パターン62及びエッチングパターン42を直接形成することもできる。
【0051】
(比較例)
本例は、図12〜図14に示すごとく、上記実施例1、2に示したセラミックス製品1、1Aのエッチング方法の優れた作用効果と比較を行うために、従来のエッチング方法を示す例である。
本例においても、まず、セラミックス基材2の表面に被覆ガラス層3を形成してなるエッチング前のセラミックス製品10を準備する(実施例1の図2参照)。
【0052】
次いで、図12に示すごとく、セラミックス製品10における被覆ガラス層3の表面に、所望のパターンが得られるようにマスキングテープ91によってマスキングを行った後、図13に示すごとく、被覆ガラス層3の表面に、スプレーガンから多数のアルミナ系研磨砥粒を吹き付けた。こうして、図14に示すごとく、研磨砥粒によってマスキングを行っていない部位92に多数の窪み93が形成されることによって、上記所望のパターンのエッチングを行い、セラミックス製品9を製造した。
【0053】
しかしながら、エッチングを行った被覆ガラス層94の表面は、剥離が生じて部分的に除去されており、表面平滑性が劣化し、表面の光沢も消滅していた。
以上の結果より、上記実施例1、2に示したセラミックス製品1、1Aのエッチング方法によれば、従来のエッチング方法によってはなし得なかった表面平滑な凹凸パターン7を備えたセラミックス製品1、1Aを製造できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1における、凹凸パターンによる表面図柄を形成してなるセラミックス製品を示す断面説明図。
【図2】実施例1における、セラミックス基材の表面に被覆ガラス層を形成した状態を示す断面説明図。
【図3】実施例1における、転写紙にエッチングペーストによる転写用パターンを形成した状態を示す断面説明図。
【図4】実施例1における、転写紙の表面における転写用パターンの全体をアクリル系樹脂によって覆った状態を示す断面説明図。
【図5】実施例1における、転写紙から転写用パターンを被覆ガラス層に転写する状態を示す断面説明図。
【図6】実施例1における、エッチングパターンを被覆ガラス層に形成した状態を示す断面説明図。
【図7】実施例1における、凹凸パターンによる表面図柄を形成してなるセラミックス製品を示す斜視説明図。
【図8】実施例1における、転写紙に施した転写用パターンを示す平面説明図。
【図9】実施例2における、凹凸パターンによる表面図柄を、着色模様の輪郭として形成してなるセラミックス製品を示す断面説明図。
【図10】実施例2における、転写紙に転写用パターン及び転写用着色パターンを形成した状態を示す断面説明図。
【図11】実施例2における、エッチングパターン及び着色パターンを被覆ガラス層に転写した状態を示す断面説明図。
【図12】比較例における、被覆ガラス層の表面にマスキングを行った状態を示す断面説明図。
【図13】比較例における、被覆ガラス層の表面に多数のアルミナ系研磨砥粒を吹き付けた状態を示す断面説明図。
【図14】比較例における、多数の窪みによるパターンを形成したセラミックス製品を示す断面説明図。
【符号の説明】
【0055】
1 セラミックス製品
2 セラミックス基材
3 被覆ガラス層
4 エッチングペースト
41 転写用パターン
42 エッチングパターン
51 転写紙
6 陶磁器用絵具ペースト
61 転写用着色パターン
62 着色パターン
7 凹凸パターン
71 模様中心部
72 凹部
73 凸部
75 着色模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基材の表面に被覆ガラス層を形成してなるセラミックス製品を準備する準備工程と、
五酸化バナジウムを3〜20wt%含むエッチング用ガラスと、有機バインダーとを混練してなるエッチングペーストを転写紙に施して、該転写紙に転写用パターンを形成するパターン形成工程と、
上記転写紙から上記転写用パターンを上記被覆ガラス層に転写して、該被覆ガラス層にエッチングパターンを形成するパターン転写工程と、
上記エッチングパターンを形成したセラミックス製品を850〜950℃の温度で加熱焼成して、エッチングを行うエッチング工程とを含むことを特徴とするセラミックス製品のエッチング方法。
【請求項2】
請求項1において、上記パターン形成工程においては、上記転写紙に転写用着色パターンを形成すると共に、上記転写用パターンは、上記転写用着色パターンの輪郭として形成し、
上記パターン転写工程においては、上記転写紙から上記転写用パターン及び上記転写用着色パターンを上記被覆ガラス層に転写して、該被覆ガラス層に上記エッチングパターン及び着色パターンを形成することを特徴とするセラミックス製品のエッチング方法。
【請求項3】
セラミックス基材の表面に被覆ガラス層を形成してなるセラミックス製品を準備する準備工程と、
五酸化バナジウムを3〜20wt%含むエッチング用ガラスと、有機バインダーとを混練してなるエッチングペーストを上記被覆ガラス層に施し、該被覆ガラス層にエッチングパターンを形成するパターン形成工程と、
上記エッチングパターンを形成したセラミックス製品を、850〜950℃の温度で加熱焼成して、エッチングを行うエッチング工程とを含むことを特徴とするセラミックス製品のエッチング方法。
【請求項4】
請求項3において、上記パターン形成工程においては、上記被覆ガラス層に着色パターンを形成すると共に、上記エッチングパターンは、上記着色パターンの輪郭として形成することを特徴とするセラミックス製品のエッチング方法。
【請求項5】
セラミックス基材と、該セラミックス基材の表面に形成した被覆ガラス層とを備え、該被覆ガラス層に凹凸パターンを形成してなるセラミックス製品であって、
上記凹凸パターンは、上記被覆ガラス層を構成する基礎ガラスに、五酸化バナジウムを3〜20wt%含むエッチング用ガラスをエッチングしてなり、
上記凹凸パターンにおける表面図柄の断面形状は、上記エッチング用ガラスをエッチングしたことにより、平坦状の模様中心部と、該模様中心部の両脇に形成された凹部と、該凹部の外側に隣接形成された凸部とを備えていることを特徴とするセラミックス製品。
【請求項6】
請求項5において、上記被覆ガラス層には、絵具により着色形成した着色模様が設けてあり、上記凹凸パターンは、上記着色模様の輪郭として形成してあることを特徴とするセラミックス製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−31198(P2007−31198A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216124(P2005−216124)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000244305)鳴海製陶株式会社 (35)
【Fターム(参考)】