説明

セラミックフィルタ、排ガス浄化用セラミックフィルタ、ディーゼルパティキュレートフィルタ及びセラミックフィルタの製造方法

【課題】本発明は粒径が1μm以下のような小さな微粒子の捕獲率が高いセラミックフィルタを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るセラミックフィルタは、多孔質組織を構成する炭化珪素結晶粒子同士がネック部によって結合された焼結体であって、SiC表面から起立した複数のナノチューブを有するナノチューブ層が形成されていることを特徴とする。ナノチューブの長さ方向は、SiC表面と略垂直であることが好ましい。また、ナノチューブの長さは1〜3μmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子の補修効率に優れたセラミックフィルタに関する。特に、排ガス浄化用セラミックフィルタ、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の台数は飛躍的に増加しており、それに比例して自動車の内燃機関から出される排気ガスの量も急激な増加の一途を辿っている。特にディーゼルエンジンの出す排気ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では世界環境にとって深刻な影響を与えつつある。また最近では排気ガス中の微粒子(ディーゼルパティキュレート)が、ときとしてアレルギー障害や精子数の減少を引き起こす原因となるとの研究結果も報告されている。
つまり、排気ガス中の微粒子を除去する対策を講じることが、人類にとって急務の課題であると考えられている。
【0003】
このような事情のもと、従来、多様多種の排気ガス浄化装置が提案されている。一般的な排気ガス浄化装置は、エンジンの排気マニホールドに連結された排気管の途上にケーシングを設け、その中に微細な孔を有するフィルタを配置した構造を有している。フィルタの形成材料としては、金属や合金のほか、セラミックがある。セラミックからなるフィルタの代表例としては、多孔質コーディエライト製や多孔質炭化珪素(SiC)製のハニカムフィルタが知られている(特許文献1等)。SiCは熱伝導率が高いため、再生時に加熱した場合、微粒子が均一に燃焼しやすいので、最近では多くのディーゼル車に搭載されている。
【0004】
ハニカムフィルタは自身の軸線方向に沿って延びる多数のセルを有している。排気ガスがフィルタを通り抜ける際、そのセル壁によって微粒子がトラップされる。その結果、排気ガス中から微粒子が除去される。また、トラップされた微粒子を加熱して燃やすことにより、フィルタが再生されるようになっている(例えば、特許文献2等)。
【0005】
しかしながら従来のハニカムフィルタには、1μm以下の小さな微粒子の補足率が良くないという問題がある。これは、パティキュレート微粒子のSiCへの付着効率が高くないことに起因する。すなわち、粒径が1μm以下の微粒子はフィルタを素通りしてしまう場合が多く、該微粒子とSiCとが密着しやすくなることが望まれている。
【0006】
更に、従来のフィルタには、フィルタの再生時において燃焼効率が良くないという問題もある。これは、SiCから微粒子への熱の伝わりが低いために生じる。SiCは、熱伝導率は高いが、SiCから微粒子に熱が伝わる際には、熱伝導率ではなく熱抵抗が問題となる。すなわち、SiCフィルタを構成する骨格の表面には必ず微細な凹凸があり、粒子が付着した時の接触面積が大きくないため、SiCと微粒子との接触熱抵抗が大きくなってしまい、燃焼効率が悪くなる。
【0007】
【特許文献1】特開2006−7117号公報
【特許文献2】特許第3341800号公報
【特許文献3】特許第3183845号公報
【特許文献4】特開2000−109306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みて、粒径が1μm以下のような小さな微粒子の捕獲率が高いセラミックフィルタを提供することを課題とする。更に、燃焼効率が高く、再生効率の高いディーゼルパティキュレートフィルタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、SiC多孔体を構成する材質の表面にナノチューブを形成することにより、1μm以下の微細な粒子の密着力が高くなって補足されやすくなることを見出した。さらには、SiCからナノチューブを介して微粒子に効率よく熱が伝わること、ナノチューブが耐酸化性に優れるため、粒子を高温で燃焼除去することが可能で再生効率が高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、以下の構成からなる。
(1)本発明に係るセラミックフィルタは、多孔質組織を構成するSiC(炭化珪素)結晶粒子同士がネック部によって結合された焼結体であって、SiC表面から起立した複数のナノチューブを有するナノチューブ層が形成されていることを特徴とする。
(2)上記(1)に記載のセラミックフィルタであって、前記焼結体の気孔率が30〜70%であることを特徴とする。
(3)上記(1)又は(2)に記載のセラミックフィルタであって、前記焼結体の平均気孔径が1μm〜50μmであることを特徴とする。
【0011】
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一に記載のセラミックフィルタであって、前記ナノチューブの長さ方向がSiC表面と略垂直であることを特徴とする。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一に記載のセラミックフィルタであって、前記ナノチューブの長さが1〜3μmであることを特徴とする。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか一に記載のセラミックフィルタであって、前記ナノチューブ層の直下に多孔質層が形成されていることを特徴とする。
【0012】
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一に記載のセラミックフィルタであって、前記ナノチューブが、カーボンナノチューブ又はBNナノチューブであることを特徴とする。
(8)上記(6)又は(7)に記載のセラミックフィルタであって、前記多孔質層が、グラファイト層又は多孔質BN層であることを特徴とする。
【0013】
(9)本発明に係る排ガス浄化用セラミックフィルタは、上記(1)〜(8)のいずれか一に記載のセラミックフィルタがハニカム形状を持つことを特徴とする。
(10)本発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタは、上記(1)〜(8)のいずれか一に記載のセラミックフィルタ又は上記(9)に記載の排ガス浄化用セラミックフィルタを用いたことを特徴とする。
【0014】
(11)本発明に係るセラミックフィルタの製造方法は、セラミックフィルタの製造方法であって、SiC粒子を単独もしくは結合材と共に成形して成形体にする第一の工程と、該成形体を、不活性ガスを主成分とするガス中または真空中で焼結させてSiC焼結体にする第二の工程と、該SiC焼結体を真空下においてSiCが分解して珪素原子が失われる温度に加熱することにより、該SiC焼結体から珪素原子を除去してカーボンナノチューブを形成する第三の工程を有することを特徴とする。
【0015】
(12)上記(11)に記載のセラミックフィルタの製造方法であって、カーボンナノチューブをBNナノチューブに転化する第四の工程を有することを特徴とする。
(13)上記(11)又は(12)に記載のセラミックフィルタの製造方法であって、前記第三の工程の加熱温度が1200〜2500℃、真空度が10-4〜10-10torrであることを特徴とする。
(14)上記(12)又は(13)に記載のセラミックフィルタの製造方法であって、前記第二の工程、前記第三の工程、及び前記第四の工程を連続処理することを特徴とする。
(15)上記(12)〜(14)のいずれか一に記載のセラミックフィルタの製造方法であって、前記第四の工程を減圧下で行うことを特徴とする。
(16)上記(15)に記載のセラミックフィルタの製造方法であって、前記第四の工程において、圧力が0.01MPa以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るセラミックフィルタは、SiC多孔体を構成する材質の表面にナノチューブを有することにより、微細な粒子の密着力が高くなって補足されやすくなる。さらには、微粒子を燃焼させてフィルタを再生する場合に、SiCからナノチューブを介して微粒子に効率よく熱が伝わるため、フィルタの再生効率が高くなる。かかるセラミックフィルタは、特に、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)として有望である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係るセラミックフィルタは、SiC焼結体のSiC表面にナノチューブ層が形成されていることを特徴とする。かかるSiC焼結体は、フィルタとして使用されることから、SiC結晶粒子同士がネック部によって結合された多孔質組織を形成していることが好ましい。また、ナノチューブ層は、図1に示すように、SiC表面から起立した複数のナノチューブにより形成されていることを特徴とする。本発明において、ナノチューブとしては、微細な突起状物であれは特に限定されないが、SiC多孔体表面との密着性が高く、更に熱伝導率に優れていることが好ましい。これらの観点から、ナノチューブは、特に、カーボンナノチューブ又はBNナノチューブであることが好ましい。
【0018】
例えば、カーボンナノチューブ、BNナノチューブは周知のごとく細長い針状である。このようなナノチューブを無数に有するSiC焼結体は表面積が極めて大きくなり、1μm以下の微細な粒子との密着力が高くなり補足しやすくなる。ナノチューブは、直線形状であってもよいし、所々で屈曲した形状であってもよい。また、ナノチューブは非常に高い熱伝導率を有するため、加熱(燃焼)等によりフィルタを再生する際に補足した微粒子への熱伝導が良好になり、再生効率を高くすることができる。
【0019】
ナノチューブの長さ方向は、SiC表面と略垂直であることが好ましい。これにより、SiC多孔質焼結体の気孔部分にナノチューブをより密集させることができ、微粒子の補足効率を高くすることができる。ナノチューブは、SiC表面と厳密に垂直に形成されている必要はなく、概ね垂直方向を向いていればよく、所々に傾斜して形成されていてもよい。
【0020】
本発明に係るセラミックフィルタの製造方法は、SiC粒子単独もしくは結合材と共に成形して成形体にする第一の工程と、該成形体を、不活性ガスを主成分とするガス中もしくは真空中で焼結させてSiC焼結体にする第二の工程と、該SiC焼結体を、真空下においてSiCが分解して珪素原子が失われる温度に加熱することにより該SiC焼結体から珪素原子を除去する第三の工程を有することを特徴とする。更に、カーボンナノチューブをBNナノチューブに転化する第四の工程を有することが好ましい(図2参照)。
【0021】
まず、本発明に係るセラミックフィルタの骨格となるSiC多孔体は、例えば以下のとおりに作製することができる。すなわち第一の工程は、SiC粉末を所定の形状に成形後、適当な程度に気孔が残存するような条件で焼結させてSiC多孔体を得る。結合材としての焼結助剤はあってもなくても構わない。例えばBeO等の助剤を使用すると焼結温度が低下して緻密化しやすい。無助剤の場合は1800℃程度以上に加熱することで適度な気孔率を保った多孔体にすることができる。焼結雰囲気は一般的には不活性ガス雰囲気で構わない。
【0022】
SiC多孔体の骨格表面へのナノチューブの形成は、例えば、特許文献3に記載の方法(以下、昇華法と記す)により、SiC表面にカーボンナノチューブ層を形成することにより実現することができる。
すなわち、炉内を高真空状態になるまで排気して、SiC基板が分解して珪素原子が失われる温度に加熱すればよい。SiCを真空下で加熱すると、例えば、真空度が10-7torrでは1400℃になるとSiCが分解して珪素原子が失われる。このとき、珪素原子はSiC結晶の表面から順に失われるため、まずSiC結晶の表面が珪素原子の欠乏した層に変化し、このSi除去層が次第に元のSiC結晶の内部に浸透するように厚みを増す。この層を顕微鏡で観察すると、カーボンナノチューブがSiC表面から垂直に生成している層となる。
【0023】
真空度は概ね10-4torrよりも高真空であればカーボンナノチューブは生成する。加熱温度は、1200〜2500℃程度、好ましくは1400〜1800℃程度である。温度が高いとエネルギー効率が悪い。
【0024】
更に、SiC多孔体表面に一旦カーボンナノチューブを形成した後、該カーボンナノチューブをBNナノチューブに転化させることもできる(第四の工程)。
第二の工程と第三の工程、および第四の工程を同じ炉内で行い、連続処理することもできる。例えば、SiCの成形体をアルゴンガス雰囲気中で昇温し、2000℃程度まで加熱した後、高真空に排気して同温度でカーボンナノチューブを生成させ、さらにそのまま、カーボンナノチューブをBNナノチューブに転化させることもできる。この方が、効率がよく、好ましい。
【0025】
上記カーボンナノチューブのBNナノチューブへの転化は、カーボンナノチューブを硼素と窒素を含む雰囲気と反応させることで得られる。
例えば、カーボンナノチューブと、B23などのホウ素酸化物および窒素を高温下で化学反応させることにより、カーボンナノチューブを元の形態を残したまま窒化ホウ素に変換することができる(特許文献4)。B23は高温で分解してB23ガス、B22ガス、BO2ガスなどのガスを発生してカーボンナノチューブに到達し、ナノチューブの炭素により還元を受けると同時に窒素と反応してBNを生成する。この反応により、原料のカーボンナノチューブの形態を残したまま、るつぼ内にBNナノチューブが得られる。
【0026】
上記の硼素源としては、加熱によりホウ素酸化物を生成する物質であれば他の物質でもよい。例えば、ホウ酸、メラミンボレート等の有機ホウ酸化合物、ホウ酸と有機物の混合物等の物質の固体、液体、さらにはホウ素、酸素を含む気体でもよい。
窒素源は、窒素を含む中性または還元性のガスであればよく、窒素、アンモニア等が手軽で、そのまま、または混合、希釈して用いられる。安価で安全であることから窒素ガスが最も好ましい。
【0027】
BNの生成は熱力学的に1200℃以上で生じる。反応温度は、1200℃から2100℃が好適であり、特に1300℃から1800℃が好ましい。温度が高すぎるとBNの結晶化が進んで板状晶を生成するためナノチューブの形態が維持できないので、上限は2100℃以下、好ましくは1900℃以下である。また雰囲気に酸素が多いほどBNの結晶化が進んで板状晶を生成する傾向が大きいので、酸素の多い環境では1800℃以下、好ましくは1600以下がよい。
【0028】
雰囲気圧力は、減圧下が好ましい。前記した昇華法で形成したカーボンナノチューブは、生成密度が高いので、大気圧ではカーボンナノチューブからBNナノチューブへの転化が進行しにくい。0.01MPa以下にすることにより、カーボンナノチューブはBNナノチューブに効率よく転化する。
【0029】
上記のようにして、垂直配向したカーボンナノチューブをBNナノチューブに転化させることができる。昇華法でカーボンナノチューブを形成する場合は、カーボンナノチューブ層の直下にグラファイト等を主成分とする多孔質炭素層が形成される場合があるが、それでも構わない。グラファイトは大気中での耐酸化性が低く、400℃程度から酸化し始めて燃え尽きてしまうが、この場合は、カーボンナノチューブをBNナノチューブに転化することにより、該多孔質炭素層も多孔質BN層に転化して安定なものとなる。
【0030】
粒子との接触性を良好にするためのナノチューブの長さは、1μm〜3μmであることが好ましい。ナノチューブの長さが1μm未満であるとフィルタとしての捕集率が低下する場合がある。これは、ナノチューブと微粒子の接触面積が小さくなるためと考えられる。一方、長さが3μmを超えると効果は飽和する。
【0031】
本発明に係るセラミックフィルタをDPFとして使用する場合には、微粒子を補足した後、ヒーターで燃焼させてフィルタを再生しなければならないが、この時、温度を500℃以上に加熱される。昇華法により作製する本発明のカーボンナノチューブ層は、耐酸化性に優れるので再生時にも耐えることができる。しかし、上記の様にグラファイトが生成すると、フィルタの再生時に酸化されてカーボンナノチューブまでも剥がれ落ちてフィルタの信頼性が損なわれるおそれがある。この場合には、BN転化処理を行うことにより、グラファイトによる多孔質炭素層を多孔質BN層とすればよい。BNナノチューブは約1100℃までは大気中でも安定であるので再生温度を高く設定できるので、高い再生効率が得られる。
【0032】
昇華法で形成されるカーボンナノチューブは直径が数ナノメートルで、気孔率が50%程度の層として生成する。微細であるために極めて表面活性が高く、微粒子の密着力が極めて高い。また、カーボンナノチューブは柔軟でしなり性が高いので、排気圧力で搬送された粒子がカーボンナノチューブに衝突する時、カーボンナノチューブが一部変形して粒子との接触面積が大きくなる。このため補足効率が高く、また、熱が微粒子に伝わりやすいため、燃焼効率も高くなる。かかる効果は、昇華法で形成されるカーボンナノチューブをBNナノチューブに転化した場合にも同様に得られる。
【0033】
焼結体の気孔率(ナノチューブを形成する前の)は30〜70%が好ましい。気孔率が30%未満であると、セラミックフィルタが緻密になりすぎてしまい、内部に排気ガス等を流通させることができなくなるおそれがある。一方、気孔率が70%を越えると、セラミックフィルタ中に空隙が多くなりすぎてしまうため、強度的に弱くなりかつ微粒子の捕集効率が低下してしまうおそれがある。
【0034】
セラミックフィルタの平均気孔径は1μm〜50μmであることが好ましい。平均気孔径が1μm未満であると、微粒子の堆積によるセラミックフィルタの目詰まりが著しくなる。一方、平均気孔径が50μmを越えると、ナノチューブを形成していても細かい微粒子を捕集することができなくなるため、捕集効率が低下する場合がある。
【0035】
本発明に係るセラミックフィルタは、ハニカム形状を持つように製造することにより、排ガス浄化用セラミックフィルタとして好ましく使用することができる。特に、自動車の内燃機関から出される排気ガス中に含まれる微粒子(ディーゼルパティキュレート)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)として好ましく使用することができる。DPFは、加熱してトラップされた微粒子を燃やすことによりフィルタを再生することが可能である。このとき、本発明に係るDPFは、SiCからナノチューブを介して微粒子に効率よく熱が伝わるため、微粒子を燃焼させてフィルタを再生する場合の再生効率が高くなる。更に、窒化硼素は、大気中において高耐熱性であるため、フィルタ再生時の燃焼温度を上げても信頼性に優れる。
【0036】
本発明に係るセラミックフィルタを具体化した一実施形態として、ディーゼルエンジン用の排気ガス浄化装置を、図3〜図5に基づき詳細に説明する。図3に示すように、この排ガス浄化装置は、内燃機関としてのディーゼルエンジンから排出される排気ガスを浄化するための装置である。一般にディーゼルエンジンは、複数の気筒(不図示)を備えている。各気筒には、金属材料からなる排気マニホールドの分岐部がそれぞれ連結されている。各分岐部は1本の排気マニホールド本体にそれぞれ接続されているため、各気筒から排出された排気ガスは一箇所に集中して排出される。
【0037】
排気マニホールドの下流側には、金属材料からなる排気管が配設されている。排気管の上流側端は、排気マニホールド本体に連結されている。排気管の下流側端は、同じく金属材料からなる筒状のケーシングと連結している。ケーシングの下流側端は更に別の排気管と連結されている。排気管の途上にケーシングが配設されていると把握することもできる。この結果、両排気管とケーシングの内部領域が互いに連通し、その中を排気ガスが流れるようになっている。
【0038】
図3に示されるように、ケーシングはその中央部が排気管よりも大径となるように形成され、ケーシングの内部領域は、排気管の内部領域に比べて広くなっている。該ケーシング内には上記本発明に係るセラミックフィルタ(この場合は排ガス浄化用セラミックフィルタ)が収容される。セラミックフィルタの外周面とケーシングの内周面との間には、断熱材が配設されている。
【0039】
断熱材はセラミックファイバを含んで形成されたマット状物であり、厚さは数mm〜数十mmである。断熱材は熱膨張性を有していることがよい。ここでいう熱膨張性とは、弾性構造を有するため熱応力を解放する機能があることを指す。その理由は、セラミックフィルタの最外周部から熱が逃げることを防止することにより、再生時のエネルギーロスを最小限に抑えるためである。また、再生時の熱によってセラミックファイバを膨張させることにより、排気ガスの圧力や走行による振動等のもたらすセラミックフィルタ集合体の位置ずれを防止するためである。
【0040】
本実施形態において用いられるセラミックフィルタは、上記のごとくディーゼルパティキュレートを除去するものであるため、一般にディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)と呼ばれる。図4等に示されるように、本実施形態のセラミックフィルタはハニカム形状をした円柱状である。上記の如く、本発明に係るセラミックフィルタは、セラミック焼結体の一種である多孔質炭化珪素焼結体製である。炭化珪素焼結体を採用した理由は、他のセラミックに比較して強度、耐熱性及び熱伝導性に優れるという利点があるからである。
【0041】
図5に示されるように、本実施形態のセラミックフィルタは、いわゆるハニカム構造を備えている(図5は、図4のa−a矢示断面図である)。ハニカム構造を採用した理由は、微粒子の捕集量が増加したときでも圧力損失が小さいという利点があるからである。ハニカム形状をしたセラミックフィルタには、断面略正方形状をなす複数の貫通孔がその軸線方向に沿って規則的に形成されている。各貫通孔は薄いセル壁によって互いに仕切られている。セル壁の外表面には、白金族元素(例えばPt等)やその他の金属元素及びその酸化物等からなる酸化触媒が担持されている。
【0042】
各貫通孔の開口部は、いずれか一方の端面の側において封止体(ここでは多孔質炭化珪素焼結体)により封止されている。このためセラミックフィルタには、断面四角形状をした多数のセルが形成されている。該セラミックフィルタ端面は、全体としてみると市松模様状を呈している。
セルの密度は200個/インチ前後に設定され、セル壁の厚さは0.3mm前後に設定され、セルピッチは1.8mm前後に設定されている。多数あるセルのうち、約半数のものは上流側端面において開口し、残りのものは下流側端面において開口している。
【0043】
次に、上記排ガス浄化用セラミックフィルタによる微粒子トラップ作用について簡単に説明する。ケーシング内に収容されたセラミックフィルタには、上流側端から排気ガスが供給される。排気管を経て供給されてくる排気ガスは、まず、セラミックフィルタの上流側で開口しているセル内に流入する。次いで、排気ガスはセル壁(多孔質炭化珪素焼結体製)を通過し、それに隣接しているセル、即ち下流側端面が開口しているセルの内部に到る。そして、排気ガスは、同セルの開口部を介してセラミックフィルタの下流側端から流出する。この過程において、排気ガス中に含まれる微粒子はセル壁を通過することができず、トラップされてしまい、その結果、浄化された排気ガスがセラミックフィルタの下流側端開口部から排出される。浄化された排気ガスは、さらに下流側の排気管を通過した後、最終的には大気中へと放出される。また、トラップされた微粒子は、セラミックフィルタの内部温度が所定の温度に達すると、前記触媒の作用により着火して燃焼するようになっているため、セラミックフィルタを再生して使用することが可能である(図5)。
【実施例】
【0044】
(フィルタの製造)
平均粒径10μmのα型炭化珪素粉末52.2重量%と、平均粒径0.45μmのα型炭化珪素粉末20重量%とを湿式混合し、得られた混合物に有機バインダ(メチルセルロース)と水とをそれぞれ4.0重量%、174重量%ずつ加えて混練した。次に、前記混練物に可塑剤と潤滑剤とを少量加えてさらに混練したものを押出成形することにより、ハニカム状の生成形体を得た(第一の工程)。
具体的には、α型炭化珪素粉末として、平均粒径が10μmのもの(屋久島電工株式会社製、商品名:C−1000F)と、平均粒径が0.5μmのもの(屋久島電工株式会社製、商品名:GC−15)とを用いた。
【0045】
次に、この生成形体を、マイクロ波乾燥機を用いて乾燥した後、成形体の貫通孔を多孔質炭化珪素焼結体製の封止用ペーストによって封止した。次いで、再び乾燥機を用いて封止用ペーストを乾燥させた。端面封止工程に続いて、この乾燥体を400℃で脱脂した後、さらにそれを常圧のアルゴン雰囲気下において2190℃で約2時間焼成した(第二の工程)。その結果、多孔質炭化珪素焼結体製のハニカムフィルタを得た。各ハニカムフィルタの直径は100mmに設定し、長さは200mmに設定した。
このハニカムフィルタを真空炉に設置し、炉内を排気し、各種温度、各種時間、各種真空度で加熱してカーボンナノチューブを形成した(第三の工程)。
【0046】
図6に示すように、内径200mmの炭素炉芯管を持つ外熱式熱CVD炉内に、内径2cm、深さ2cmの黒鉛るつぼを設置し、B2粉末3gを装填した。その上に上記カーボンナノチューブを形成したハニカムフィルタ試料を設置した。N2またはNH3ガスを導入し、各種温度、圧力で加熱した後、自然冷却した(第四の工程)。
試料のSEM観察から、処理前と同様のナノチューブが確認できた。粉末法X線回折から、回収した試料は層状構造を持つBNを含んでいた。
【0047】
(捕集試験)
予め用意しておいた粒子径が0.008〜0.1μmのディーゼルパティキュレート(粒子)を図7の容器(500リットル)に濃度5000ppmで空気と共に3気圧まで充填した。その後、系にセットした廃ガス浄化装置を通して廃ガス収納容器(100リットル)に移動させた。廃ガス収納装置は最初真空に保持しておき、廃ガスの濾過と共に、開閉コックを調整して廃ガス収納容器内が大気圧になるまで移動させた。
濾過後のSiCフィルタを、外部ヒーターを用い、温度700℃で60秒加熱した。濾過と燃焼のサイクルを100回繰り返した。
【0048】
[1]捕集性能評価
100回後の廃ガス収納容器内の粒子濃度をパーティクルカウンターで測定し、濃度を算出した。
[2]燃焼性能評価
100回後、上記と同じように捕集試験装置に装填し、パーティクルなしで空気のみを廃ガス収納容器内に移動させた時の圧力損失を計算した。
【0049】
表1に結果を示す。
【表1】

【0050】
本発明に係るセラミックフィルタは捕集効率が高く、圧力損失も小さかった。グラファイトが形成された試料の捕集効率が小さくなったのは、燃焼の繰り返しでグラファイトが酸化してしまい、カーボンナノチューブが剥離したのではないかと推測した。
これに対して、BNに転化させた試料の捕集効率は高く、圧力損失は低かった。BNに転化することで、燃焼を繰り返してもBNナノチューブや多孔質BNが酸化しないため、BNナノチューブや多孔質BNが剥離しないためと推測した。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るセラミックフィルタの構造の一例を表す図である。
【図2】本発明に係るセラミックフィルタの製造方法の一例を表す図である。
【図3】本発明に係るセラミックフィルタの設置例の一例を表す図である。
【図4】本発明に係るセラミックフィルタの一例を表す図である。
【図5】本発明に係るセラミックフィルタの断面図の一例を表す図である。
【図6】本発明に係るBNナノチューブ形成装置の概略図を表す図である。
【図7】実施例において使用した排ガス浄化装置の概略を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質組織を構成するSiC(炭化珪素)結晶粒子同士がネック部によって結合された焼結体であって、SiC表面から起立した複数のナノチューブを有するナノチューブ層が形成されていることを特徴とするセラミックフィルタ。
【請求項2】
前記焼結体の気孔率が30〜70%であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックフィルタ。
【請求項3】
前記焼結体の平均気孔径が1μm〜50μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミックフィルタ。
【請求項4】
前記ナノチューブの長さ方向がSiC表面と略垂直であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載のセラミックフィルタ。
【請求項5】
前記ナノチューブの長さが1〜3μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載のセラミックフィルタ。
【請求項6】
前記ナノチューブ層の直下に多孔質層が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載のセラミックフィルタ。
【請求項7】
前記ナノチューブが、カーボンナノチューブ又はBNナノチューブであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一に記載のセラミックフィルタ。
【請求項8】
前記多孔質層が、グラファイト層又は多孔質BN層であることを特徴とする請求項6又は7に記載のセラミックフィルタ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一に記載のセラミックフィルタがハニカム形状を持つことを特徴とする排ガス浄化用セラミックフィルタ。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一に記載のセラミックフィルタ又は請求項9に記載の排ガス浄化用セラミックフィルタを用いたことを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項11】
セラミックフィルタの製造方法であって、SiC粒子を単独もしくは結合材と共に成形して成形体にする第一の工程と、該成形体を、不活性ガスを主成分とするガス中または真空中で焼結させてSiC焼結体にする第二の工程と、該SiC焼結体を真空下においてSiCが分解して珪素原子が失われる温度に加熱することにより、該SiC焼結体から珪素原子を除去してカーボンナノチューブを形成する第三の工程を有することを特徴とするセラミックフィルタの製造方法。
【請求項12】
前記第三の工程の後に、カーボンナノチューブをBNナノチューブに転化する第四の工程を有することを特徴とする請求項11に記載のセラミックフィルタの製造方法。
【請求項13】
前記第三の工程の加熱温度が1200〜2500℃、真空度が10-4〜10-10torrであることを特徴とする請求項11又は12に記載のセラミックフィルタの製造方法。
【請求項14】
前記第二の工程、前記第三の工程、及び前記第四の工程を連続処理することを特徴とする請求項12又は13に記載のセラミックフィルタの製造方法。
【請求項15】
前記第四の工程を減圧下で行うことを特徴とする請求項12〜14のいずれか一に記載のセラミックフィルタの製造方法。
【請求項16】
前記第四の工程において、圧力が0.01MPa以下であることを特徴とする請求項15記載のセラミックフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−226390(P2009−226390A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230829(P2008−230829)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】