説明

セラミック焼結体の製造方法およびグロープラグの製造方法

【課題】誘導加熱方式のホットプレス用焼成炉を用いたセラミック焼結体の製造において、セラミック焼結体の品質のバラツキを抑制すること。
【解決手段】誘導加熱方式の焼成炉1内に設けられた焼成室5内にセラミック粉末からなる被焼成物を配置し、一対の加圧部3により被焼成物の加圧を行いつつ加熱して焼成物を得るセラミック焼結体の製造方法に関する。該加熱は、一対の加圧部3から選ばれる少なくとも一方の加圧部3における加圧軸方向の両端部および中間部から選ばれるいずれかの部分に、加圧軸方向における常温での熱伝導率が焼成室5を構成する部材の熱伝導率の10%以下となる低熱伝導材8を配置して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック焼結体の製造方法およびグロープラグの製造方法に係り、特に誘導加熱方式のホットプレス用焼成炉を用いたセラミック焼結体の製造方法および該製造方法により得られるセラミック焼結体を用いたグロープラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼル機関の始動促進用のグロープラグ、バーナーの着火用ヒータ、あるいはガスセンサの加熱用ヒータ等にセラミックヒータが使用されている。セラミックヒータ(ヒータ本体)は、熱伝導性が良好な電気絶縁性セラミック焼結体中に高融点金属やその化合物またはこれらを主成分とする各種無機導電材からなる発熱抵抗体を埋設したものであり、例えばホットプレス法により製造されている。
【0003】
ホットプレス法に用いる焼成炉としては、誘導加熱方式の焼成炉が挙げられ、例えば主として焼成室を形成する筒状のモールド、このモールド内に挿入され、被焼成物の加圧に用いられる一対のプレス棒、およびモールドを加熱するためにその外側に配置されるコイルを有するものが挙げられる。このような焼成炉では、コイルからの高周波により主としてモールドの外側付近が加熱され、この熱が内側に伝わることで加熱が行われる。モールド、プレス棒等の焼成室を構成する部材は、高周波による加熱のために、また高温での強度を確保するために、常温での熱伝導率が70〜140W/m・K程度のグラファイト(等方性黒鉛)からなるものとされている。
【0004】
このような焼成炉を用いた焼成では、まず被焼成物、すなわち焼成によりヒータ本体となる未焼成ヒータ本体をホットプレス用成形型で挟持して積層体とする。ホットプレス用成形型は、柱状の未焼成ヒータ本体が配置される複数の列状の凹部を有する波板状のものであり、一般に未焼成ヒータ本体を加圧軸方向から挟むように該未焼成ヒータ本体と交互に積層されて積層体とされる。
【0005】
このような積層体は、一般に積層方向(加圧軸方向)の両側に常温での熱伝導率が70〜140W/m・K程度のグラファイト(等方性黒鉛)からなる板状治具を介して焼成室内に配置される。板状治具は、積層体の均等な加熱等を目的として設けられている。そして、焼成炉に設けられたコイルにより加熱するとともに、一対のプレス棒により加圧して、焼成炉内に収容された未焼成ヒータ本体を焼成してヒータ本体とする(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−22889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した焼成炉については、プレス棒により焼成室を機械的に加圧するので、プレス棒が接触する焼成室の接触面から熱逃げが発生しやすい。このため、焼成室の中央部に比べてプレス棒が接触する加圧軸方向両端部は温度が低くなりやすい。このように中央部と両端部では焼成の際の温度にバラツキを生じるため、焼成物であるヒータ本体の品質にもバラツキが発生しやすく、また一定の品質とするためには焼成室内の温度分布を一定とするような厳密な温度管理が要求される。
【0008】
焼成室内の温度分布を一定にする方法として、例えば焼成室をプレス棒から離す方法が考えられるが、このような方法を採用するためには焼成室を小さくしたり、焼成炉を大きくしたりする必要があり、前者については生産性が低下しやすく、後者については設備コストが増加しやすい。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、誘導加熱方式のホットプレス用焼成炉を用いたセラミック焼結体の製造において、焼成室内の温度分布のバラツキを抑制し、これによりセラミック焼結体の品質のバラツキを抑制することを目的する。また、本発明は、このようなセラミック焼結体としてグロープラグのセラミックヒータに用いられるヒータ本体を製造することで、グロープラグの品質のバラツキを抑制することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセラミック焼結体の製造方法は、誘導加熱方式のホットプレス用焼成炉内に設けられた焼成室内にセラミック粉末からなる被焼成物を配置し、一対の加圧部により被焼成物の加圧を行いつつ加熱して焼成物を得るセラミック焼結体の製造方法に関する。本発明のセラミック焼結体の製造方法は、特に一対の加圧部から選ばれる少なくとも一方の加圧部における加圧軸方向の両端部および中間部から選ばれるいずれかの部分に、加圧軸方向における常温での熱伝導率が焼成室を構成する部材の熱伝導率の10%以下となる低熱伝導材を配置して加熱を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明のグロープラグの製造方法は、上記したセラミック焼結体の製造方法により得られるセラミック焼結体、特にセラミックヒータのヒータ本体を用いたグロープラグの製造方法に関する。本発明のグロープラグの製造方法は、上記したセラミック焼結体の製造方法によりセラミックヒータのヒータ本体を製造する工程と、該ヒータ本体をセラミックヒータの構成部材である金属外筒に挿入するとともに、該金属外筒をグロープラグの構成部材である筒状の主体金具の筒孔先端に挿入してグロープラグとする工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、誘導加熱方式のホットプレス用焼成炉を用いてセラミック焼結体を製造するにあたり、加圧部の加圧軸方向の両端部および中間部から選ばれるいずれかの部分に低熱伝導材を配置することで、焼成室内の温度分布、特に加圧軸方向の温度分布のバラツキを抑制し、これによりセラミック焼結体の品質のバラツキを抑制することができる。また、セラミック焼結体としてグロープラグのセラミックヒータに用いられるヒータ本体を製造することで、グロープラグの品質のバラツキを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に用いられるホットプレス用焼成炉の一例を示す断面図。
【図2】図1に示すホットプレス用焼成炉の平面図。
【図3】低熱伝導材の配置場所の他の例を示す断面図。
【図4】低熱伝導材の配置場所のさらに他の例を示す断面図。
【図5】グロープラグの一例を示す縦断面図。
【図6】未焼成ヒータ本体の製造方法の一例を示す図。
【図7】未焼成ヒータ本体の成形方法の一例を示す図。
【図8】未焼成ヒータ本体の焼成方法の一例を示す図。
【図9】実施例の未焼成ヒータ本体の焼成方法を示す図。
【図10】1750℃で焼成したヒータ本体の焼成位置と抵抗値との関係を示す図。
【図11】1800℃で焼成したヒータ本体の焼成位置と抵抗値との関係を示す図。
【図12】1750℃で焼成したヒータ本体の焼成位置とβ化率との関係を示す図。
【図13】1800℃で焼成したヒータ本体の焼成位置とβ化率との関係を示す図。
【図14】焼成炉aにおける焼成温度とヒータ本体の抵抗値(最大値、最小値)との関係を示す図。
【図15】焼成炉bにおける焼成温度とヒータ本体の抵抗値(最大値、最小値)との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のセラミック焼結体の製造方法について説明する。
本発明は、誘導加熱方式のホットプレス用焼成炉内に設けられた焼成室内にセラミック粉末からなる被焼成物を配置し、一対の加圧部により被焼成物の加圧を行いつつ加熱して焼成物を得るセラミック焼結体の製造方法に関する。本発明は、特に一対の加圧部から選ばれる少なくとも一方の加圧部における加圧軸方向の両端部および中間部から選ばれるいずれかの部分に、加圧軸方向における常温での熱伝導率が焼成室を構成する部材の熱伝導率の10%以下となる低熱伝導材を配置して加熱を行うことを特徴とする。
【0015】
図1は、誘導加熱方式のホットプレス用焼成炉(以下、単に焼成炉という)の一例を示す断面図である。焼成炉1は、円筒状等の筒状のモールド2、このモールド2に挿入され、被焼成物の加圧に用いられる一対の加圧部となる柱状のプレス棒3、およびモールド2の外方、側面部に配置され、該モールド2に高周波を印加して加熱を行うためのコイル4を有する。なお、コイル4は、図1に示すようにモールド2の側面部の全体に設けられていてもよいが、側面部の加圧軸方向(図中、上下方向)の少なくとも両端部に設けられていればよい。
【0016】
モールド2内には、例えば焼成室5を規定するための仕切板6が配置される。仕切板6は、加圧軸方向に延びる板状のものであり、例えば図2に示すように平面視で4枚が四角形状に配置されて筒状を形成している。各仕切板6の外側には、仕切板6とモールド2との隙間を埋めるための隙間調整板7が配置される。隙間調整板7は、外側表面がモールド2の形状に合わせた円弧状とされ、内側表面が仕切板6に合わせた平面状とされている。
【0017】
焼成室5は、これら仕切板6およびプレス棒3で囲まれる部分であり、焼成時に被焼成物およびこの被焼成物の保持および加圧に用いられるホットプレス用成形型が配置される部分である。焼成室5を構成する部材、すなわちモールド2、プレス棒3、仕切板6、隙間調整板7は、一般に同一材料からなり、常温での熱伝導率が70〜140W/m・Kのグラファイト(等方性黒鉛)からなるものである。
【0018】
本発明では、このような焼成室5に被焼成物を配置して焼成(ホットプレス焼成)を行う際、低熱伝導材8を用いることを特徴とする。ここで、低熱伝導材8は、加圧軸方向における常温での熱伝導率が焼成室5を構成する部材の熱伝導率の10%以下となるものである。低熱伝導材8は、例えば図1に示すように一対のプレス棒3と焼成室5との間に配置されるが、少なくとも一方のプレス棒3に対して設けられていればよく、またプレス棒3の加圧軸方向における両端部および中間部から選ばれるいずれかの部分に配置されていればよい。
【0019】
低熱伝導材8を配置することで、プレス棒3を介した熱逃げを抑制し、焼成室5内の温度分布のバラツキ、特に加圧軸方向の温度分布のバラツキを抑制することができる。これにより、焼成物の部分毎、または焼成物が複数存在する場合には固体毎の品質のバラツキを抑制することができる。また、品質の揃ったものを得るために必要な温度管理も容易とすることができる。
【0020】
例えば、焼成物が複数存在する場合、固体間の品質を揃えるためには、個々のものについて所定の温度範囲内に入るように温度管理を行わなければならない。この際、焼成室5内に温度分布のバラツキがあると、温度が高くなる位置と低くなる位置とにおいて同時に所定の温度範囲内としなければならず、上記温度範囲よりも狭い範囲内での厳密な温度管理が必要とされる。焼成室5内の温度分布のバラツキを抑制することで、すなわち温度が高くなる位置と低くなる位置との温度差を小さくすることで、温度管理の幅を広げ、
温度管理に余裕を持たせることができる。
【0021】
低熱伝導材8の加圧軸方向の熱伝導率(常温での熱伝導率、以下同様)は、上記したように焼成室5を構成する部材の熱伝導率の10%以下である。加圧軸方向の熱伝導率が10%を超える場合、プレス棒3を介した熱逃げを有効に抑制することができず、結果として焼成室5内の温度分布のバラツキを抑制することができない。
【0022】
低熱導電体8の加圧軸方向の熱伝導率は、特に1〜7W/m・Kが好ましい。加圧軸方向の熱伝導率を7W/m・K以下とすることで、プレス棒3を介した熱逃げを効果的に抑制することができる。一方、加圧軸方向の熱伝導率を1W/m・K以上とすることで、低熱伝導材8の強度も十分に確保し、焼成毎の交換等の手間を省略することができる。すなわち、加圧軸方向の熱伝導率が1W/m・K未満の場合、密度が低くなるために、必ずしも強度に優れない。より好ましい加圧軸方向の熱伝導率は、2〜6W/m・Kである。一方、加圧軸方向に対して垂直方向となる熱伝導率は必ずしも限定されないが、例えば10〜30W/m・Kが好ましく、15〜25W/m・Kがより好ましい。
【0023】
このような低熱伝導材8としては、カーボン繊維の織布からなるものが挙げられ、例えば複数のカーボン繊維からなるリボン状の繊維束が平織りされたカーボン/カーボン複合材(C/C複合材)からなるものが好ましい。なお、低熱伝導材8は、1枚のC/C複合材からなるものであってもよいし、複数枚のC/C複合材が積層されたものであってもよい。C/C複合材としては、市販されているものを使用することができ、以下の実施例で用いる低熱伝導材8の仕様は、厚さ方向の熱伝導率:5W/m・K、面方向の熱伝導率:20W/m・Kである。なお、低熱伝導材8やその他の焼成室5を構成する部材の熱伝導率は公知の方法によって測定することができるが、例えばプローブ法、ホットディスク法、レーザーフラッシュ法が好ましく、特にプローブ法が簡易的で好ましい。
【0024】
低熱伝導材8の形状は、焼成室5やプレス棒3と同様の形状が好ましい。また。大きさ(面積)は、焼成室5等の大きさの80%以上が好ましい。焼成室5等の大きさの80%以上とすることで、プレス棒3を介した熱逃げを効果的に抑制することができる。低熱伝導材8の大きさは、焼成室5等の大きさの90%以上がより好ましく、焼成室5等と同等の大きさがさらに好ましい。
【0025】
低熱伝導材8の加圧軸方向の厚さは10〜60mmが好ましい。低熱伝導材8の厚さを10mm以上とすることで、プレス棒3を介した熱逃げを効果的に抑制することができる。一方、低熱伝導材8の厚さは60mmもあれば熱逃げを十分に抑制することができ、これを超えても熱逃げを抑制する効果が飽和する。低熱伝導材8の厚さは15〜25mmがより好ましい。
【0026】
低熱伝導材8の位置は、図1に示したようにプレス棒3と焼成室5との間とすることができるが、例えば図3、4に示すようにプレス棒3の加圧軸方向における中間部としてもよい。すなわち、プレス棒3として第1のプレス棒3aと第2のプレス棒3bとからなるものを用い、これら第1のプレス棒3aと第2のプレス棒3bとの間に低熱伝導材8を配置してもよい。
【0027】
この場合、低熱伝導材8は、焼成開始時、図4に示すようにコイル4の加圧軸方向における最も外側である最外部4pと同位置またはこれよりも内側に配置されることが好ましく、またモールド2の加圧軸方向における端部2pと同位置またはこれよりも内側に配置されることが好ましい。このような位置とすることで、焼成室5の温度が低くなりやすい部分に熱量の多くなる部分を近づけることができ、また例えば図3に示すようなモールド2から露出する第1のプレス棒3aの端部側面からの熱逃げも抑制することができる。
【0028】
なお、放射拡散的な熱逃げを抑制し、焼成室5内の温度分布のバラツキを効果的に抑制する観点からは、焼成室5により近い位置に低熱伝導材8を配置することが好ましく、特に図1に示したようにプレス棒3と焼成室5との間に低熱伝導材8を配置することが好ましい。
【0029】
本発明における焼成条件、すなわち加熱温度、加圧圧力等は、特に限定されるものではなく、被焼成物の組成、また焼成物に求められる特性等に応じて適宜選択することができる。また、被焼成物についても、セラミック粉末からなるものであれば特に限定されないが、例えばグロープラグ等のセラミックヒータ(ヒータ本体)が代表的なものとして挙げられる。特に、セラミックヒータを構成する導電部や抵抗発熱する部分が導電性セラミックからなるものにおいてとりわけ本発明は重要である。それらの比抵抗(導電率)は焼成温度の影響を受けて変動するためである。また、本発明の製造方法は、特に多数のヒータ本体を多段に配置して同時に焼成する場合に有効である。
【0030】
以下、グロープラグに用いられるセラミックヒータ(ヒータ本体)の製造を例に挙げて具体的に説明する。まず、グロープラグ等の構造について説明する。
【0031】
図5は、グロープラグの一例を示す縦断面図である。グロープラグ10は、セラミックヒータ11と、このセラミックヒータ11の後端部を内部に保持する筒状の主体金具12とを備える。主体金具12の外周面には、図示しないエンジンブロックにグロープラグ10を固定するための、取付部としてのねじ部121が形成され、後端部にはエンジンブロックへの固定の際に締め付けに用いる工具が係合する、断面六角形の工具係合部122が形成されている。
【0032】
主体金具12の内部には、後端側からセラミックヒータ11に電力を供給するための柱状の金属軸13が、自身の後端部を主体金具12から突出させた状態で主体金具12と絶縁状態で配置されている。主体金具の後端部において、この金属軸13の周囲には絶縁性素材であるフッ素ゴム等からなるOリング14とナイロン等の樹脂製の絶縁ブッシュ15が配置されている。絶縁ブッシュ15は、自身の後端側に径方向外側へ鍔状に張り出したフランジ部151と、その先端側に当該フランジ部151よりも細く筒状をなす小径部152とを有している。この絶縁ブッシュ15は、前記フランジ部151の先端向き面が主体金具12の後端へ当接するよう、小径部152が主体金具12の筒孔の後端部へ隙間嵌めされる形で前記金属軸13の周囲に配置される。この小径部152の先端面に押圧されるとともに主体金具12の筒孔及び金属軸13に当接するようにOリング14は配設され、グロープラグ10の後端部における、内部と外部との気密が保たれている。
【0033】
主体金具12の後方に延出した金属軸13の後端部には、端子金具17が嵌め込まれている。端子金具17は、径方向の加締め部17aにより、金属軸13の外周面に導通状態で固定されている。
【0034】
セラミックヒータ11は、ヒータ本体18と、このヒータ本体18を先端部が突出するように内部に保持する金属外筒19とを有する。金属外筒19は全体として筒状をなし、先端側に比較的薄肉に形成された小径部191、その小径部の後端側に拡径するテーパ部192を介して比較的肉厚に形成された大径部193、さらに大径部の後端側に、主体金具12の筒孔と略同一の外径を有し大径部193よりも小径の係合部194を備えている。この係合部194を主体金具12の筒孔先端へ挿入し、大径部193の後端向き面と主体金具12の先端面とを当接させ、その当接部を全周レーザー溶接する形で金属外筒19と主体金具12とを固定している。
【0035】
ヒータ本体18は、絶縁性セラミックからなるセラミック基体181中に導電性セラミックからなるセラミック抵抗体182が埋設された棒状の形態を有する。セラミック抵抗体182は、ヒータ本体18の先端側に配置されるU字状部分と、この両端部に接続され、ヒータ本体18の軸線方向に沿って延伸された一対の直線状部分とを有する。この直線状部分の一方には径方向へ分岐しヒータ本体18の側面へ露出する接地用通電端子部21が形成され、ヒータ本体18を圧入保持する金属外筒19を介して主体金具12に電気的に接続されている。直線状部分の他方には前記接地用通電端子部21よりも後方に、当該接地用通電端子部21に類似した形で、直線状部分から分岐しヒータ本体18の側面へ露出する電源側通電端子部22が形成される。金属軸13の先端に接合され円筒状をなすリング部材16が、ヒータ本体18の後端部に外嵌めされ、これにより電源側通電端子部22は金属軸13に電気的に接続されている。これにより、セラミック抵抗体182はU字状に折り返された部分が抵抗発熱する。
【0036】
セラミック基体181を構成する絶縁性セラミック相には、例えば窒化珪素質セラミックが採用される。窒化珪素質セラミックの組織は、窒化珪素(Si)を主成分とする主相粒子が、後述の焼結助剤成分等に由来した粒界相により結合された形態のものである。
【0037】
窒化珪素質セラミックには、周期律表の3A、4A、5A、3B(例えばAl)、および4B(例えばSi)の各族の元素群、ならびにMgから選ばれる少なくとも1種を、焼結体全体における含有量にて、酸化物換算で1〜10質量%含有させることができる。これら成分は主に酸化物の形で添加され、焼結体中においては、主に酸化物あるいはシリケートなどの複合酸化物の形態にて含有される。
【0038】
焼結助剤成分が1質量%未満では緻密な焼結体が得にくくなり、10質量%を超えると強度や靭性あるいは耐熱性の不足を招く。焼結助剤成分の含有量は、望ましくは2〜8質量%とするのがよい。焼結助剤成分として希土類成分を使用する場合、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを用いることができる。これらのうちでもTb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybは、粒界相の結晶化を促進し、高温強度を向上させる効果があるので好適に使用できる。
【0039】
導電性セラミック相には、炭化タングステン(WC)、二珪化モリブデン(MoSi)、二珪化タングステン(WSi)等が採用される。なお、セラミック基体181との線膨張係数差を縮小して耐熱衝撃性を高めるために、セラミック基体181の主成分となる絶縁性セラミック相、例えば窒化珪素質セラミック相を配合することができる。
【0040】
このようなヒータ本体18は、以下のようにして製造することができる。
まず、図6に示すように、成形用材料を射出成形してセラミック抵抗体182となる未焼成抵抗体182aを作製する。成形用材料は、例えば上記した導電性セラミックの組成が得られるように、炭化タングステン粉末、窒化珪素粉末、および焼結助剤粉末が配合された原料セラミック粉末と、有機バインダとを混練したコンパウンドを加熱により溶融流動化させたものである。
【0041】
別途、基体用原料粉末をプレス成形することにより、上下別体に形成された未焼成分割基体181a、bを作製する。未焼成分割基体181a、bの合わせ面には、それぞれ未焼成抵抗体182aに対応した形状の凹部183が形成されている。
【0042】
次いで、凹部183に未焼成抵抗体182aを収容するようにして、未焼成分割基体181a、bを合わせ面において嵌め合わせる。そして、図7に示すように、金型31に収容し、一対のパンチ32により一体化して成形体18a(未焼成ヒータ本体)とする。さらに、バインダ成分を除去するために、600〜800℃程度の仮焼を行って仮焼体とする。この仮焼体にホットプレス法による焼成を行ってヒータ本体18とする。
【0043】
図8は、仮焼体の焼成方法の一例を示す断面図である。仮焼体18bは、窒化ホウ素等の離型剤が塗布された最下段のホットプレス用成形型41上に複数が列状に配置される。最下段(1段目)のホットプレス用成形型41は、下面が平坦状であり、上面に仮焼体18bが配置される複数の凹部が列状に形成されたものである。
【0044】
最下段(1段目)のホットプレス用成形型41の上には、列状に配置された複数の仮焼体18bを介して離型剤が塗布された2段目のホットプレス用成形型41が配置される。2段目以降のホットプレス用成形型41には、下面と上面の両面に仮焼体18bが配置される複数の凹部が列状に形成されている。このようにしてホットプレス用成形型41と仮焼体18bとが交互に積層され、最上段には下面に仮焼体18bが配置される複数の凹部が列状に形成され、上面が平坦状とされたホットプレス用成形型41が積層される。なお、各ホットプレス用成形型41は、熱伝導率が70〜140W/m・Kの等方性黒鉛からなるものである。
【0045】
このようにしてホットプレス用成形型41と仮焼体18bとが交互に積層された積層体は、上記した焼成炉1の焼成室5に配置される。この際、例えば積層体の加圧軸方向となる両側に一対の低熱伝導材8が配置される。そして、コイル4から高周波を印加してモールド2を加熱するとともに、一対のプレス棒3により加圧して焼成を行う。
【0046】
焼成は、例えば非酸化性雰囲気中、最高温度が1700〜1850℃となるように、1〜2時間、ホットプレス圧力350kgf/cmで行う。その後、焼成物はホットプレス用成形型41から取り出され、センタレス研磨による外周面の研磨、両端側の端面研磨、さらに先端側の反球面研磨等が行われてヒータ本体18となる。
【0047】
上記した焼成方法によれば、低熱伝導材8を配置することで焼成室5内の温度分布のバラツキ、特に加圧軸方向の温度分布のバラツキを抑制することができ、結果として品質のバラツキが抑制された多数のヒータ本体18を同時に製造することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を参照して本発明の製造方法についてより具体的に説明する。
【0049】
(実施例1)
平均粒径1.0μmの窒化珪素粉末85質量%、焼結助剤としてのYb粉末10質量%およびSiO粉末5質量%を配合して絶縁成分粉末とした。この絶縁成分用粉末45重量%、WC粉末55重量%をボールミルで24時間湿式混合し、乾燥して混合粉末を得た。この混合粉末に所定量のバインダを添加し、混錬機により4時間混錬した。この混錬物をペレット状とし、射出成形機に投入して未焼成抵抗体182aとした。
【0050】
一方、平均粒径0.6μmの窒化珪素粉末83質量%、焼結助剤としてのYb粉末10質量%およびSiO粉末5質量%、MoSi粉末2質量%を配合し、バインダを添加して20時間湿式混合し、スプレードライにより造粒した。この造粒粉末をプレス成形して凹部183を有する一対の未焼成分割基体181a、bを作製した。
【0051】
凹部183に未焼成抵抗体182aを収容するように未焼成分割基体181a、bを嵌め合わせた後、金型31に収容して一対のパンチ32により一体化して成形体18a(未焼成ヒータ本体)とした。さらに、バインダ成分を除去するために、N雰囲気中、600℃で仮焼を行って仮焼体18bとした。
【0052】
そして、図9に示すように、一対のホットプレス用成形型41間に仮焼体18bを配置し、このようなものが上段、中段、下段となるように板状の中間材42(厚さ60mm)を介して積層体とした。さらに、この積層体を一対の低熱伝導材8で挟持するようにして焼成炉1(焼成炉aとする)の焼成室5内に配置し、窒素常圧下、ホットプレス圧力を350kgf/cmとし、1750℃で焼成を行ってヒータ本体18を製造した。
【0053】
なお、各低熱伝導材8は、前述のC/C複合材が積層されたものを用い、厚さは20mm、大きさ(面積)は焼成室5と同一とした。また、焼成室5を構成するその他の部材、ホットプレス用成形型41、中間材42は、熱伝導率が70W/m・Kの等方性黒鉛からなるものとした。
【0054】
(実施例2)
他の焼成炉における効果を確認するために、焼成炉aに代えて略同様の構造を有する他の焼成炉bを用いて実施例1と同様にしてヒータ本体18を製造した。
【0055】
(実施例3)
焼成温度を1800℃に変更した以外は実施例1と同様にしてヒータ本体18を製造した。
【0056】
(実施例4)
焼成温度を1800℃に変更した以外は実施例2と同様にしてヒータ本体18を製造した。
【0057】
(比較例1)
低熱伝導材8に代えて、熱伝導率が70W/m・Kの等方性黒鉛からなる板状治具を用いた以外は実施例1と同様にしてヒータ本体18を製造した。なお、板状治具の厚さは20mmとした。
【0058】
(比較例2)
焼成炉aに代えて焼成炉bを用いた以外は比較例1と同様にしてヒータ本体18を製造した。
【0059】
(比較例3)
焼成温度を1800℃に変更した以外は比較例1と同様にしてヒータ本体18を製造した。
【0060】
(比較例4)
焼成温度を1800℃に変更した以外は比較例2と同様にしてヒータ本体18を製造した。
【0061】
このようにして得られた実施例および比較例のヒータ本体18について、焼成位置(上段、中段、下段)毎に抵抗値、窒化珪素のβ化率の評価を行った。ここで、抵抗値、窒化珪素のβ化率は、焼成温度によって変化するものであり、焼成時の焼成室5内の温度分布を評価するために用いた。一般に、焼成温度が高いほど、抵抗値は低くなり、窒化珪素のβ化率は高くなる。
【0062】
なお、β化率は、セラミック基体181のX線回折チャートのピーク高さα(102)、α(201)、β(102)、β(201)から以下の式(1)により算出した。
[β(102)+β(201)] / [α(102)+α(201)+β(102)+β(201)] …(1)
【0063】
結果を表1に示す。また、表1の結果を図10〜15にグラフにして示す。なお、表中、Δ(最大値−最小値)は、表中の上段〜下段に示された数値の最大値と最小値との差を示したものである。
【0064】
【表1】

【0065】
図10、11は、焼成温度が1750℃(実施例1、2、比較例1、2)、1800℃(実施例3、4、比較例3、4)の場合の焼成位置と抵抗値との関係を示したものである。図10、11より、C/C複合材を用いた実施例1〜4については、焼成位置による抵抗値のバラツキ、特に中段に対する上段および下段の抵抗値のバラツキが抑制されており、焼成室5内の温度分布のバラツキが抑制されていることが分かる。
【0066】
また、図12、13は、焼成温度が1750℃(実施例1、2、比較例1、2)、1800℃(実施例3、4、比較例3、4)の場合の焼成位置とβ化率との関係を示したものである。図12、13からも、C/C複合材を用いた実施例1〜4については、焼成位置におけるβ化率のバラツキ、特に中段に対する上段および下段のβ化率のバラツキが抑制されており、焼成室5内の温度分布のバラツキが抑制されていることが分かる。
【0067】
図14、15は、焼成炉a、bについて、焼成温度と抵抗値(最大値、最小値)との関係を示したものである。なお、抵抗値の最大値および最小値は、表1の最大値、最小値と同様の意味である。図14、15からも、C/C複合材を用いたものについては、そうでないものに比べて、各焼成温度における抵抗値の最大値と最小値との差が小さくなり、焼成室5内の温度分布のバラツキが抑制されていることが分かる。
【0068】
表2は、図14、15より求めた抵抗値(最大値、最小値)の近似式、およびこの近似式より求められる抵抗値が300mΩ±10%の範囲内となるための温度条件(上限値、下限値等)を示したものである。ここで、抵抗値が300mΩ±10%の範囲内になるとは、上段〜下段の抵抗値が全て300mΩ±10%の範囲内となることを意味し、具体的には最大値および最小値が同時に300mΩ±10%の範囲内となることを意味する。
【0069】
焼成炉aの場合、等方性黒鉛からなる板状治具を用いたものについては、抵抗値を300mΩ±10%の範囲内とするために、焼成温度を1788〜1819℃(温度幅31℃)の範囲内に管理しなければならないことがわかる。これに対して、C/C複合材を用いたものについては、同様の抵抗値とするために、焼成温度を1773〜1835℃(温度幅62℃)の範囲内に管理すればよく、温度幅が31℃程度広がることにより温度管理が容易となることがわかる。また、異なる焼成炉である焼成炉bにおいても、温度幅が40℃程度広がることが確認され、本発明の効果が確認された。
【0070】
【表2】

【符号の説明】
【0071】
1…ホットプレス用焼成炉、2…モールド(2p…端部)、3…プレス棒(加圧部)、4…コイル(4p…最外部)、5…焼成室、8…低熱伝導材、10…グロープラグ、11…セラミックヒータ、12…主体金具、18…ヒータ本体、19…金属外筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱方式のホットプレス用焼成炉内に設けられた焼成室内にセラミック粉末からなる被焼成物を配置し、一対の加圧部により前記被焼成物の加圧を行いつつ加熱して焼成物を得るセラミック焼結体の製造方法において、
前記加熱は、前記一対の加圧部から選ばれる少なくとも一方の加圧部における加圧軸方向の両端部および中間部から選ばれるいずれかの部分に、前記加圧軸方向における常温での熱伝導率が前記焼成室を構成する部材の熱伝導率の10%以下となる低熱伝導材を配置して行うことを特徴とするセラミック焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記低熱伝導材の前記加圧軸方向における常温での熱伝導率は1〜7W/m・Kであることを特徴とする請求項1記載のセラミック焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記ホットプレス用焼成炉は、筒状のモールド、前記モールドに挿入され、前記加圧部となる一対のプレス棒、および前記モールドの側面部における前記加圧軸方向の少なくとも両端部に配置されるコイルを有し、
前記低熱伝導材は、前記焼成開始時、前記コイルの前記加圧軸方向における最も外側である最外部と同位置またはこれよりも内側に配置されることを特徴とする請求項1または2記載のセラミック焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記低熱伝導材は、前記焼成開始時、前記モールドの前記加圧軸方向における端部と同位置またはこれよりも内側に配置されることを特徴とする請求項3記載のセラミック焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記低熱伝導材は、前記加圧部の前記焼成室側となる端部に配置されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のセラミック焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記低熱伝導材は、前記一対の加圧部の各々に対して設けられることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のセラミック焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記低熱伝導材は、カーボン繊維の織布からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のセラミック焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記低熱伝導材は、前記加圧軸方向の厚さが10〜60mmであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のセラミック焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記セラミック焼結体はセラミックヒータのヒータ本体であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載のセラミック焼結体の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項記載のセラミック焼結体の製造方法によりグロープラグのセラミックヒータに用いられるヒータ本体を製造する工程と、
前記ヒータ本体を前記セラミックヒータの構成部材である金属外筒に挿入するとともに、前記金属外筒を前記グロープラグの構成部材である筒状の主体金具の筒孔先端に挿入してグロープラグとする工程と
を有することを特徴とするグロープラグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−101979(P2012−101979A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252218(P2010−252218)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】