セラミック積層体の製造方法
【課題】セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部を形成することができるセラミック積層体の製造方法を提供すること。
【解決手段】開口部を有する中間セラミックシート13と、中間セラミックシート13の表裏にそれぞれ積層された第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12と、中間セラミックシート13の開口部131において第1セラミックシート11と第2セラミックシート12との間に形成された中空部とを有するNOxセンサ素子1を製造する方法。第1グリーンシート110と、中間グリーンシート130と、第2グリーンシート120とを積層すると共に、中間グリーンシート130の開口部131に乾燥した有機材料からなる焼失材シート2を配置したうえで、これらのグリーンシート同士を圧着して未焼積層体を形成する。この未焼積層体を焼成すると共に焼失材シート2を焼失させる。
【解決手段】開口部を有する中間セラミックシート13と、中間セラミックシート13の表裏にそれぞれ積層された第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12と、中間セラミックシート13の開口部131において第1セラミックシート11と第2セラミックシート12との間に形成された中空部とを有するNOxセンサ素子1を製造する方法。第1グリーンシート110と、中間グリーンシート130と、第2グリーンシート120とを積層すると共に、中間グリーンシート130の開口部131に乾燥した有機材料からなる焼失材シート2を配置したうえで、これらのグリーンシート同士を圧着して未焼積層体を形成する。この未焼積層体を焼成すると共に焼失材シート2を焼失させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセラミックシートを積層してなると共に内部に中空部を有するセラミック積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、積層型のガスセンサ素子は複数のセラミックシートを積層した構造を有する。そして、複数のセラミックシートの間には、基準ガスとなる大気或いは被測定ガスを導入するための中空部を設ける場合がある。このような中空部を設けたセラミック積層体として、図7に示すごとく、開口部131を有する中間セラミックシート13と、該中間セラミックシート13の表裏にそれぞれ積層された第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12とからなるものがある。そして、上記中間セラミックシート13の上記開口部131において上記第1セラミックシート11と上記第2セラミックシート12との間に、中空部14が形成される(特許文献1、2参照)。
【0003】
上記のようなセラミック積層体9を製造するに当たっては、例えば、図8に示すごとく、第1セラミックシート11形成用の第1グリーンシート110における、中空部14形成予定の領域に焼失材ペースト99を塗布した上で、中間セラミックシート13形成用の中間グリーンシート130及び第2セラミックシート12形成用の第2グリーンシート120を積層・圧着し、未焼積層体90を得る。その後、この未焼積層体90を焼成するとともに焼失材ペースト99を焼失させることにより、図7に示すような中空部14を有するセラミック積層体9を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−6818号公報
【特許文献2】特開2007−248219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のグリーンシート同士を圧着する際、図9に示すごとく、未焼積層体90の中空部14形成予定の領域には潰れが発生し、焼成後、セラミック積層体9内の中空部14は内側に湾曲した形状になってしまうことがあった。さらには、図10に示すごとく、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12において、中間セラミックシート13の形成領域と中空部14の形成領域との境界部の位置に割れ8が発生することがあった。
【0006】
この原因は、上記中空部14に充填した焼失材ペースト99と上記中間グリーンシート130との間の圧縮率差にあると考えられる。すなわち、上記焼失材ペースト99は、印刷後、乾燥処理して残留溶剤を揮発させるため気孔率が高くなる。そのため、グリーンシート同士を圧着して未焼積層体90を形成する際、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120の中空部形成領域は潰れが発生しやすい。
【0007】
さらに、中間グリーンシート130が配置された領域と中空部14の形成領域との間において、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120が受ける圧着圧力が変わる。そのため、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12における中間セラミックシート13と積層される領域と中空部14が形成される領域とで焼成収縮率に差が生じ、焼成中、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12における上記二つの領域の境界部では応力が発生し、割れ8が生じるおそれがある。
【0008】
また、焼失材ペースト99を厚めに形成しておいた上で未焼積層体90を形成し、グリーンシート同士を圧着すると、図11に示すごとく、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120が外側に湾曲するように変形するおそれがある。そして、この場合においても、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12における中間セラミックシート13と積層される領域と中空部14が形成される領域とで焼成収縮率に差が生じ、焼成中、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12における上記二つの領域の境界部では応力が発生し、割れが生じるおそれがある。
【0009】
また、比較的大きな中空部14を形成する場合、グリーンシートに塗布する焼失材ペースト99の量が多くなるため、残留溶剤によるシートアタックや、積層ズレによる剥離、焼失材の熱分解によるセラミックシートへのアタックが生じるおそれがある。
すなわち、例えば、1枚のグリーンシートに焼失材ペースト99を厚く印刷した場合、印刷後乾燥してもペースト中の残留溶剤が完全には揮発しないことがある。また、上下2枚のグリーンシートに印刷した場合には、積層ズレにより積層体の中空部形成予定の領域に焼失材ペースト99を十分充填できないことがある。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部を形成することができるセラミック積層体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、開口部を有する中間セラミックシートと、該中間セラミックシートの表裏にそれぞれ積層された第1セラミックシート及び第2セラミックシートと、上記中間セラミックシートの上記開口部において上記第1セラミックシートと上記第2セラミックシートとの間に形成された中空部とを有するセラミック積層体を製造する方法であって、
上記第1セラミックシート形成用の第1グリーンシートと、上記中間セラミックシート形成用の中間グリーンシートと、上記第2セラミックシート形成用の第2グリーンシートとを積層すると共に、上記中間グリーンシートの開口部に乾燥した有機材料からなる焼失材シートを配置したうえで、これらのグリーンシート同士を圧着して未焼積層体を形成し、
該未焼積層体を焼成すると共に上記焼失材シートを焼失させることを特徴とするセラミック積層体の製造方法にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0012】
本発明において、上記未焼積層体を形成する際に、乾燥した有機材料からなる上記焼失材シートを、上記中間グリーンシートの開口部に配置する。そして、未焼積層体を焼成する際に焼失材シートを焼失させることにより、上記開口部において上記中空部をセラミック積層体の中に形成することができる。
このように、上記中空部を形成するにあたって、乾燥した焼失材シートを用いる。これにより、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部を形成することができる。
【0013】
すなわち、焼失材シートを乾燥した状態で配置するため、上記複数のグリーンシート同士を圧着する際に、焼失材シートが潰れ難く、第1グリーンシート及び第2グリーンシートが変形し難い。また、これにより、第1グリーンシート及び第2グリーンシートにおける、中間グリーンシートの形成領域と中空部の形成領域との境界部に応力が生じることを抑制し、この部分に亀裂が発生することを防ぐことができる。
また、焼失材シートが潰れ難いため、中間グリーンシートの形成領域と中空部の形成領域との間で、グリーンシートに対する圧着圧力が変化することを防ぐことができる。これにより、セラミックシートにおいて焼成収縮率が部分的に変化することを防ぐことができ、焼成収縮率差に起因するセラミックシートの割れを防ぐことができる。
【0014】
また、焼失材シートは、予め所定の厚みに形成しておくことができるため、焼失材ペーストを塗布する場合のように、塗布厚みの変動によってグリーンシートの圧着時にグリーンシートの変形や応力発生を招くおそれもない。
また、焼失材シートは、乾燥状態で配置されるため、焼失材ペーストを使用する場合のような溶剤によるセラミックシートへのシートアタックの問題もない。また、焼失材ペーストを使用する場合のように、厚膜形成のため上下2枚のグリーンシートに印刷する必要も無いため、積層ずれが生じ難く、積層ずれによる層間剥離の問題も低減することができる。
【0015】
以上のごとく、本発明によれば、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部を形成することができるセラミック積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1における、NOxセンサ素子の展開斜視図。
【図2】実施例1における、NOxセンサ素子の斜視図。
【図3】実施例1における、NOxセンサ素子の先端部付近の図2のA−A線矢視断面図。
【図4】図3のB−B線矢視断面図。
【図5】実施例1における、NOxセンサ素子の製造方法の説明図。
【図6】図5に続く、NOxセンサ素子の製造方法の説明図。
【図7】従来例における、セラミック積層体の断面図。
【図8】従来例における、焼失材ペーストを充填した未焼積層体の断面図。
【図9】従来例における、グリーンシートが潰れた状態の断面図。
【図10】従来例における、セラミック積層体に生じる割れの発生状態を示す断面図。
【図11】従来例における、グリーンシートが外側に膨れるように変形した状態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、上記焼失材シートは、上記中間グリーンシートと同等の厚みを有することが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記グリーンシート同士を圧着する際に、グリーンシートへかかる応力をより低減することができる。その結果、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を、より効果的に防ぐことができる。ここで、上記「中間グリーンシートと同等の厚み」には、製造上の誤差程度のずれは含み、例えばグリーンシートの厚みに対して±5%以内の誤差範囲内であれば同等であるとする。
【0018】
また、上記焼失材シートは、200〜500℃にて焼失する材料からなることが好ましい(請求項3)。
この場合には、セラミックシートに亀裂等を生じさせることなく、容易にセラミック積層体を得ることができる。
200℃未満の状態においては、グリーンシート中のバインダや可塑剤等が残っており気孔が少ないため、この段階で焼失材シートが焼失し熱分解すると、その分子が中空部から抜け出すことが困難となり、セラミック積層体に応力が作用して亀裂等の原因になるおそれがある。一方、500℃を超えると、グリーンシート中のバインダや可塑剤等がほとんど脱脂されてしまうためにセラミック積層体が脆弱となり、この状態で焼失材シートが焼失することによる衝撃がセラミック積層体に作用することによって、亀裂等を招くおそれがある。
【0019】
また、上記焼失材シートは、200〜400℃にて焼失する材料からなることが好ましい(請求項4)。
この場合には、より確実に、セラミックシートに亀裂等を生じさせることなく、容易にセラミック積層体を得ることができる。すなわち、400℃以下にて焼失材シートが焼失することにより、グリーンシート中のバインダや可塑剤等が充分に残留してセラミック積層体の強度が充分である状態で焼失材シートを焼失させることができる。
【0020】
また、上記焼失材シートは、温度85℃の状態において圧力50MPaを10分間加えたときの圧縮率が、上記中間グリーンシートと同等であることが好ましい(請求項5)。
この場合には、グリーンシート同士を圧着する際に、第1グリーンシート及び第2グリーンシートにおける、中空部形成領域が変形することを効果的に防ぐことができる。
【0021】
また、上記セラミック積層体は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための積層型のガスセンサ素子であることが好ましい(請求項6)。
この場合には、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部を形成することができるガスセンサ素子の製造方法を提供することができる。
【0022】
また、上記ガスセンサ素子は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度を検出するためのNOxセンサ素子であることが好ましい(請求項7)。
この場合には、本発明の効果を充分に発揮することができる。すなわち、NOxセンサ素子においては、被測定ガス中に含まれる微量のNOxを検出する必要があるため、特に高精度の検出精度が必要となる。そのため、導入する被測定ガスの量を充分に確保すべく、被測定ガスを導入する空間として用いられる上記中空部の体積を大きくすることが要求される。このとき、焼失材ペーストを用いて中空部を形成しようとしても、得ようとする中空部の形状に沿った形状に焼失材ペーストを配置することが難しい。すなわち、焼失材ペーストを厚膜に形成する場合、その形状を所望の形状に保つことは困難である。そこで、本発明のように、あらかじめ形状が定まった焼失材シートを用いることにより、NOxセンサ素子の中空部を容易に形成することができる。
【0023】
また、上記焼失材シートは、樹脂からなる骨材を可塑剤と共に溶剤中に分散させてなるスラリーを成形し乾燥させることにより製造するにあたり、上記スラリーの状態において上記骨材をコーティング剤によってコーティングすることが好ましい(請求項8)。
この場合には、経時変化を生じ難い上記焼失材シートを得ることができる。その結果、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を、より効果的に防ぐことができる。
【0024】
すなわち、上記スラリーの状態において、仮に、上記骨材をコーティング剤によってコーティングしてないと、骨材が上記溶剤や上記可塑剤を吸収しすぎてしまうことにより、膨潤する。この状態でスラリーを成形、乾燥させて焼失材シートを作製した場合、経時変化によって硬くて脆い状態になりやすい。このような状態となった焼失材シートをグリーンシート間の所定の位置に配置してグリーンシート同士を圧着する際、焼失材シートが充分に潰れ難く、その結果、グリーンシートに応力がかかり、変形や割れが生じるおそれがある。
【0025】
これに対して、上記のごとく、上記スラリーの状態において、上記骨材がコーティング剤によってコーティングされることによって、上記のような骨材の膨潤を抑制し、焼失材シートの経時変化を防ぐことができる。その結果、セラミック積層体の変形や割れを招くことを防ぐことができる。
また、焼失材シートの経時変化を抑制することができるため、特に、焼失材シートを予め多数作製して保管しておいた後、これらを上記セラミック積層体の製造に用いることも可能となる。その結果、セラミック積層体の生産効率を向上させることができる。
【0026】
また、上記骨材は、アクリル樹脂からなることが好ましい(請求項9)。
この場合には、アクリル樹脂が200〜400℃程度にて焼失するため、焼成温度を高くする必要がなく、グリーンシート中のバインダや可塑剤等が充分に残留させてセラミック積層体の強度を充分に確保した状態で、焼失材シートを焼失させることができる。
【0027】
また、上記コーティング剤は、カルボン酸アミン塩又はイミダゾリン系の材料を主成分とすることが好ましい(請求項10)。
この場合には、上記コーティング剤の上記骨材との濡れ性を高くすることができ、より少ない添加量で効果的に骨材をコーティングすることができる。
【0028】
また、上記コーティング剤は、ノニオン又はカチオンであることが好ましい(請求項11)。
この場合には、上記コーティング剤の上記骨材との濡れ性を高くすることができ、より少ない添加量で効果的に骨材をコーティングすることができる。すなわち、上記骨材を構成するアクリル樹脂は、アニオンであるため、ノニオン又はカチオンのコーティング剤を用いることによって、その濡れ性を高め、骨材を効率的にコーティングすることができる。
【0029】
また、上記スラリーにおける上記コーティング剤の添加量は、上記骨材100重量部に対して0.3〜30重量部であることが好ましい(請求項12)。
この場合には、上記骨材を充分にコーティングすることができ、上記焼失材シートの経時変化を充分に抑制することができる。
上記添加量が0.3重量部未満の場合には、骨材がコーティング剤によって充分にコーティングされないおそれがあり、焼失材シートの経時変化を充分に抑制することが困難となるおそれがある。一方、上記添加量が30重量部を超える場合には、コーティング剤をコーティングした骨材が凝集(フロキュレーション)してしまい、シート特性を制御する際の制約になるおそれがある。
【0030】
また、上記スラリーにおける上記コーティング剤の添加量は、上記骨材100重量部に対して0.5〜20重量部であることがより好ましい(請求項13)。
この場合には、上記焼失材シートの経時変化をより効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるセラミック積層体の製造方法につき、図1〜図6を用いて説明する。本例においては、セラミック積層体を、被測定ガス中のNOx濃度を検出するためのNOxセンサ素子1とした例につき説明する。
図1〜図4に示すごとく、NOxセンサ素子1は、開口部131を有する中間セラミックシート13と、該中間セラミックシート13の表裏にそれぞれ積層された第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12とを有する。中間セラミックシート13の開口部131において第1セラミックシート11と第2セラミックシート12との間には、中空部14が形成されている。
【0032】
この中空部14を有するとともに第1セラミックシート11と第2セラミックシート12と中間セラミックシート13とからなるメイン積層体101にのみ着目すると、NOxセンサ素子1は、以下のような方法で製造される。
すなわち、図1に示すごとく、第1セラミックシート11形成用の第1グリーンシート110と、中間セラミックシート13形成用の中間グリーンシート130と、第2セラミックシート12形成用の第2グリーンシート120とを積層する。このとき、中間グリーンシート130の開口部131に乾燥した有機材料からなる焼失材シート2を配置したうえで、これらのグリーンシート同士を圧着して未焼積層体を形成する。
その後、未焼積層体を焼成すると共に焼失材シート2を焼失させる。
これにより、焼失材シート2を配置した部分に、中空部14が形成された状態で、メイン積層体101が形成される。
【0033】
本例のNOxセンサ素子1は、図6に示すごとく、上記メイン積層体101と、後述するサブ積層体102とを焼成前において個別で形成しておき、両者を一体化した後に焼成することにより製造される。「メイン」及び「サブ」は便宜的な表現であり、特に主従関係があるものではない。
【0034】
図3に示すごとく、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12は、ジルコニアを主成分とする酸素イオン電導性を有する固体電解質体からなる。また、中間セラミックシート13は、アルミナを主成分とする。
第1セラミックシート11には、中空部14に面するように内側ポンプ電極31が形成されていると共に、その反対側の面に外側ポンプ電極32が形成されている。この内側ポンプ電極31と外側ポンプ電極32と第1セラミックシート11とによって、中空部14の酸素濃度を調整するためのポンプセル3が構成される。
【0035】
また、第2セラミックシート12には、中空部14に面するように測定電極41が形成され、その反対側の面に基準電極42が形成されている。この測定電極41と基準電極42と第2セラミックシート12とによって、中空部14に導入された被測定ガス中のNOx濃度を測定するためのセンサセル4が構成される。
内側ポンプ電極31は、NOx活性作用を有さない不活性電極であり、測定電極41はNOx活性作用を有する活性電極である。
【0036】
図3、図4に示すごとく、上記サブ積層体102は、メイン積層体101における第2セラミックシート12側に積層されている。サブ積層体102は、上記基準電極42に面する基準ガス室15をメイン積層体101との間に形成するためのダクト層16と、NOxセンサ素子1の温度調整を行うためのヒータ部17を構成する一対のヒータ層171、172とを積層してなる。一対のヒータ層171、172の間には、通電により発熱する発熱体173が形成されている。また、ダクト層16、ヒータ層171、172は、いずれもアルミナを主成分とするセラミックシートからなる。
【0037】
また、図2に示すごとく、NOxセンサ素子1は長尺形状を有しており、その先端側に、ポンプセル3、センサセル4、発熱体173が形成されている。ここで、先端側とは、NOxセンサ素子1を排ガス管等に挿入する側をいい、その反対側を基端側という。
そして、図1、図2に示すごとく、第1セラミックシート11における外側ポンプ電極32を設けた面であって、NOxセンサ素子1の基端部付近には、内側ポンプ電極31、外側ポンプ電極32、測定電極41、基準電極42とそれぞれ電気的に接続された端子部51が形成されている。また、各端子部51は、それぞれ内側ポンプ電極31、外側ポンプ電極32、測定電極41、基準電極42と、第1セラミックシート11或いは第2セラミックシート12に形成されたリード部52、及び、第1セラミックシート11、第2セラミックシート12、或いは中間セラミックシート13に形成されたスルーホール53によって電気的に接続されている。
【0038】
また、ヒータ層172における発熱体173を設けた面と反対側の面における基端側には、一対の端子部175が設けられている。そして、ヒータ層172における発熱体173を設けた面に形成されたリード部174及びスルーホール(図示略)によって、発熱体173と端子部175とが電気的に接続されている。
また、中空部14の先端側には、多孔質セラミックからなる拡散層18が形成されており、被測定ガスは、この拡散層18を通じて中空部14に取り込まれる。
【0039】
次に、本例に係るNOxセンサ素子1の製造方法の一例について具体的に説明する。
まず、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12の作製方法について説明する。
6モル%イットリアと94モル%ジルコニアよりなる平均粒径0.65μmのイットリア部分安定化ジルコニアを100部(重量部、以下同じ)、α−アルミナを2部、PVB(ポリビニルブチラール)を8部、BBP(ブチルベンジルフタレート)を5部、エタノール18部、2−ブタノール18部、酢酸イソアミル18部を秤量する。
【0040】
次いで、これらをボールミル中で混合してスラリーを作製し、該スラリーよりドクターブレード法にて乾燥厚みが0.22mmとなるシート成形体(第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120)を作製する。
次いで、第1グリーンシート110にスルーホールを設ける。その後、導電性ペーストを用いて内側ポンプ電極31を、第1グリーンシート110に印刷する。この導電性ペーストとしては、12.6重量%ジルコニア添加及び1〜10重量%Au添加Ptペーストを使用する。また、10重量%ジルコニア添加Ptペーストを用いて外側ポンプ電極32、リード部52、端子部51を、第1グリーンシート110に印刷する。
【0041】
次いで、第2グリーンシート120にスルーホールを設ける。その後、30重量%ジルコニア添加及び67重量%Rh添加Ptペーストを用いて、測定電極41を第2グリーンシート120に印刷する。また、10重量%ジルコニア添加Ptペーストを用いて、基準電極42、リード部52、端子部53用を、第2グリーンシート120に印刷する。さらに、平均粒径1.5μmのα−アルミナペーストにより拡散層18を第2グリーンシート120に印刷する。
【0042】
次に、中間セラミックシート13、ダクト層16、ヒータ層171、172用のアルミナグリーンシートの作製につき説明する。
平均粒径0.3μmのα−アルミナを98部、6モル%イットリアと94モル%ジルコニアよりなるイットリア部分安定化ジルコニアを2部、PVBを12部、BBPを7部、エタノール27.3部、2−ブタノール27.3部、酢酸イソアミル27.3部を秤量する。
【0043】
次いで、これらをボールミル中で混合してスラリーを作製し、該スラリーよりドクターブレード法にて乾燥厚みが中間セラミックシート13用の中間グリーンシート130は0.066mm、それ以外は0.22mmとなるシート成形体(グリーンシート)を作製する。このとき、グリーンシートの圧縮率は50MPa×10分(85℃)のプレス条件において11〜16%とする。
【0044】
上記中間グリーンシート130にはスルーホールを設ける。該スルーホールには10重量%α−アルミナ添加Ptペーストを印刷により形成する。
上記ダクト層16用のグリーンシートには基準ガス室15用のスリット161を設け、略コ字状とする。
【0045】
次に、ヒータ層172用のグリーンシートにもスルーホールを設ける。さらに、10重量%α−アルミナ添加Ptペーストを用いて、発熱体173、リード部174、端子部175となる印刷部を形成する。
【0046】
次に、焼失材シート2の作製方法につき説明する。焼失材シート2はアクリル樹脂シートからなる。
まず、平均粒径10μmのアクリル樹脂を100部、PVBを40部、BBPを30部、エタノールを64.7部、2−ブタノールを64.7部、酢酸イソアミルを64.7部、コーティング剤(SNスパース2190;サンノプコ社製)を0.6部、秤量する。
【0047】
次いで、これらをボールミル中で混合してスラリーを作製する。スラリーの作製に当たっては、まず、エタノール、2−ブタノール、酢酸イソアミル、コーティング剤をボールミルで30分程度混合する。次いで、これに、アクリル樹脂を投入して、18時間程度混合してアクリルスラリーを作製する。
一方、ポリビニルブチラール、フタル酸ブチルベンジルおよび溶媒を混合して、バインダー溶液を作製する。
このバインダー溶液を、上記アクリルスラリーに適量添加し、18時間程度混合する。
【0048】
これにより得られたスラリーを、ドクターブレード法にて成形しながら乾燥させる。これにより、乾燥厚みが0.066mmとなる焼失材シート2を成形する。このとき、焼失材シート2の圧縮率は50MPa×10分(85℃)のプレス条件において11〜16%とする。
【0049】
上記焼失材シート2は、図5に示すごとく、中空部14形成用の中間グリーンシート130に設けた開口部131に充填するため、トムソン刃など専用の治具により所望の形状(10.1×2.8mm、R0.4)に加工する。「R0.4」は、平面視長方形状の角部の曲率半径が0.4mmであることを意味する。
【0050】
そして、図5に示すごとく、常温において、メイン積層体101を構成すべきグリーンシートと、サブ積層体102を構成すべきグリーンシートとを、それぞれ個別に積層、圧着し、図6に示すごとく、メイン積層体101及びサブ積層体102をそれぞれ別体として得る。
グリーンシートの圧着は、50MPa×10分(85℃)のプレス条件の静水圧プレスにて行う。
【0051】
なお、各グリーンシートに形成されたスルーホールには、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120においては10重量%ジルコニア添加Ptペーストを、その他のグリーンシートにおいては10重量%α−アルミナ添加Ptペーストを予め充填しておく。
その後、図6に示すごとく、常温にて感圧接着性を有するペースト19を用いて、メイン積層体101とサブ積層体102とを接合し、未焼積層体とする。
【0052】
次に、未焼積層体を、55.5×4.88mmの外形となるように切断し、温度1450℃にて2時間焼成する。このとき、焼失材シート2が焼失し、中空部14が第1セラミックシート11、第2セラミックシート12、及び中間セラミックシート13の間に形成される。
以上により、図2〜図4に示すようなNOxセンサ素子1を得る。
【0053】
次に、本例の作用効果につき説明する。
未焼積層体を形成する際に、図5に示すごとく、乾燥した有機材料からなる焼失材シート2を、中間グリーンシート130の開口部131に配置する。そして、未焼積層体を焼成する際に焼失材シート2を焼失させることにより、開口部131において中空部14をNOxセンサ素子1の中に形成することができる。
このように、中空部14を形成するにあたって、乾燥した焼失材シート2を用いる。これにより、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部14を形成することができる。
【0054】
すなわち、焼失材シート2を乾燥した状態で配置するため、複数のグリーンシート同士を圧着する際に、焼失材シート2が潰れ難く、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120が変形し難い。また、これにより、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120における中間グリーンシート130の形成領域と中空部14の形成領域との境界部に応力が生じることを抑制し、この部分に亀裂が発生することを防ぐことができる。
また、焼失材シート2が潰れ難いため、中間グリーンシート130の形成領域と中空部14の形成領域との間で、グリーンシートに対する圧着圧力が変化することを防ぐことができる。これにより、セラミックシートにおいて焼成収縮率が部分的に変化することを防ぐことができ、焼成収縮率差に起因するセラミックシートの割れを防ぐことができる。
【0055】
また、焼失材シート2は、予め所定の厚みに形成しておくことができるため、焼失材ペーストを塗布する場合のように、塗布厚みの変動によってグリーンシートの圧着時にグリーンシートの変形や応力発生を招くおそれもない。
また、焼失材シート2は、乾燥状態で配置されるため、焼失材ペーストを使用する場合のような溶剤によるセラミックシートへのシートアタックの問題もない。また、焼失材ペーストを使用する場合のように、厚膜形成のため上下2枚のグリーンシートに印刷する必要も無いため、積層ずれが生じ難く、積層ずれによる層間剥離の問題も低減することができる。
【0056】
また、焼失材シート2は、中間グリーンシート130と同等の厚みを有するため、グリーンシート同士を圧着する際に、グリーンシートへかかる応力をより低減することができる。その結果、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を、より効果的に防ぐことができる。
また、焼失材シート2は、200〜500℃にて焼失する材料からなるため、セラミックシートに亀裂等を生じさせることなく、容易にNOxセンサ素子1を得ることができる。
【0057】
また、焼失材シート2は、温度85℃の状態において圧力50MPaを10分間加えたときの圧縮率が、中間グリーンシート130と同等である。そのため、グリーンシート同士を圧着する際に、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120における、中空部14形成領域が変形することを効果的に防ぐことができる。
【0058】
以上のごとく、本例によれば、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部を形成することができるNOxセンサ素子の製造方法を提供することができる。
【0059】
(実施例2)
本例は、表1に示すごとく、実施例1に示したNOxセンサ素子1を製造するのに適した焼失材シート2の材料を種々検討した例である。
焼失材シート2の材料を種々変更した以外は、実施例1に示した製造方法に沿って未焼積層体を製造した。そして、この未焼積層体を加熱しながら、積層体の温度及び重量変化を測定することによって、焼失材シート2の熱分解開始温度、熱分解終了温度、さらには最終的な焼失材シート2の残渣を検出した。
【0060】
具体的には、熱重量(TG)分析装置を用いて、窒素雰囲気中にて、未焼積層体を室温から800℃を超える温度まで昇温しつつ、積層体の温度と重量変化を測定した。熱分解開始温度は、積層体の重量減少が開始した時点の温度として検出され、熱分解終了温度は、積層体の重量減少が終了した時点の温度として検出される。
また、残渣の量は、昇温前の焼失材シート2の総重量に対する重量比によって表わしている。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から分かるように、PVC(ポリ塩化ビニル)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)を用いた場合、800℃を超えても残渣が残っており、熱分解が終了しない。また、PTFE(ポリテトラフルエチレン)を用いた場合、熱分解終了温度が600℃を超える。
そして、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PMMA(アクリル樹脂)、PVA(ポリ酢酸ビニル)、POM(ポリビニルアルコール)、ABS(ABS樹脂)を用いた場合、熱分解開始温度〜熱分解終了温度の間の熱分解領域が200〜500℃に納まっている。特に、PMMA又はPOMを用いた場合、熱分解領域が200〜400℃にも納まっている。
【0063】
上記のごとく、熱分解領域が200〜500℃に納まっていれば、セラミックシートに亀裂等を生じさせることなく、容易にNOxセンサ素子1を得ることができる。
すなわち、200℃未満の状態においては、グリーンシート中のバインダや可塑剤等が残っており気孔が少ないため、この段階で焼失材シート2が焼失し熱分解すると、その分子が中空部14から抜け出すことが困難となり、セラミック積層体に応力が作用して亀裂等の原因になるおそれがある。一方、500℃を超えると、グリーンシート中のバインダや可塑剤等がほとんど脱脂されてしまうためにセラミック積層体が脆弱となり、この状態で焼失材シート2が焼失することによる衝撃がセラミック積層体に作用することによって、亀裂等を招くおそれがある。
【0064】
そのため、熱分解領域が200〜500℃に納まるPE、PP、PS、PMMA、PVA、POM、ABSの何れかを用いることにより、亀裂等の発生を効果的に防ぎつつ、容易にNOxセンサ素子1を得ることができる。さらに、熱分解領域が200〜400℃に納まるPMMA又はPOMを用いることにより、亀裂等の発生をより効果的に防ぎつつ、容易にNOxセンサ素子1を得ることができる。
【0065】
実施例1、2においては、セラミック積層体として、NOxセンサ素子の例を示したが、本発明のセラミック積層体の製造方法は、これ以外のガスセンサ素子を始め、中空部を有する種々のセラミック積層体に適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 NOxセンサ素子
11 第1セラミックシート
110 第1グリーンシート
12 第2セラミックシート
120 第2グリーンシート
13 中間セラミックシート
130 中間グリーンシート
131 開口部
14 中空部
2 焼失材シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセラミックシートを積層してなると共に内部に中空部を有するセラミック積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、積層型のガスセンサ素子は複数のセラミックシートを積層した構造を有する。そして、複数のセラミックシートの間には、基準ガスとなる大気或いは被測定ガスを導入するための中空部を設ける場合がある。このような中空部を設けたセラミック積層体として、図7に示すごとく、開口部131を有する中間セラミックシート13と、該中間セラミックシート13の表裏にそれぞれ積層された第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12とからなるものがある。そして、上記中間セラミックシート13の上記開口部131において上記第1セラミックシート11と上記第2セラミックシート12との間に、中空部14が形成される(特許文献1、2参照)。
【0003】
上記のようなセラミック積層体9を製造するに当たっては、例えば、図8に示すごとく、第1セラミックシート11形成用の第1グリーンシート110における、中空部14形成予定の領域に焼失材ペースト99を塗布した上で、中間セラミックシート13形成用の中間グリーンシート130及び第2セラミックシート12形成用の第2グリーンシート120を積層・圧着し、未焼積層体90を得る。その後、この未焼積層体90を焼成するとともに焼失材ペースト99を焼失させることにより、図7に示すような中空部14を有するセラミック積層体9を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−6818号公報
【特許文献2】特開2007−248219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のグリーンシート同士を圧着する際、図9に示すごとく、未焼積層体90の中空部14形成予定の領域には潰れが発生し、焼成後、セラミック積層体9内の中空部14は内側に湾曲した形状になってしまうことがあった。さらには、図10に示すごとく、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12において、中間セラミックシート13の形成領域と中空部14の形成領域との境界部の位置に割れ8が発生することがあった。
【0006】
この原因は、上記中空部14に充填した焼失材ペースト99と上記中間グリーンシート130との間の圧縮率差にあると考えられる。すなわち、上記焼失材ペースト99は、印刷後、乾燥処理して残留溶剤を揮発させるため気孔率が高くなる。そのため、グリーンシート同士を圧着して未焼積層体90を形成する際、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120の中空部形成領域は潰れが発生しやすい。
【0007】
さらに、中間グリーンシート130が配置された領域と中空部14の形成領域との間において、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120が受ける圧着圧力が変わる。そのため、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12における中間セラミックシート13と積層される領域と中空部14が形成される領域とで焼成収縮率に差が生じ、焼成中、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12における上記二つの領域の境界部では応力が発生し、割れ8が生じるおそれがある。
【0008】
また、焼失材ペースト99を厚めに形成しておいた上で未焼積層体90を形成し、グリーンシート同士を圧着すると、図11に示すごとく、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120が外側に湾曲するように変形するおそれがある。そして、この場合においても、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12における中間セラミックシート13と積層される領域と中空部14が形成される領域とで焼成収縮率に差が生じ、焼成中、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12における上記二つの領域の境界部では応力が発生し、割れが生じるおそれがある。
【0009】
また、比較的大きな中空部14を形成する場合、グリーンシートに塗布する焼失材ペースト99の量が多くなるため、残留溶剤によるシートアタックや、積層ズレによる剥離、焼失材の熱分解によるセラミックシートへのアタックが生じるおそれがある。
すなわち、例えば、1枚のグリーンシートに焼失材ペースト99を厚く印刷した場合、印刷後乾燥してもペースト中の残留溶剤が完全には揮発しないことがある。また、上下2枚のグリーンシートに印刷した場合には、積層ズレにより積層体の中空部形成予定の領域に焼失材ペースト99を十分充填できないことがある。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部を形成することができるセラミック積層体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、開口部を有する中間セラミックシートと、該中間セラミックシートの表裏にそれぞれ積層された第1セラミックシート及び第2セラミックシートと、上記中間セラミックシートの上記開口部において上記第1セラミックシートと上記第2セラミックシートとの間に形成された中空部とを有するセラミック積層体を製造する方法であって、
上記第1セラミックシート形成用の第1グリーンシートと、上記中間セラミックシート形成用の中間グリーンシートと、上記第2セラミックシート形成用の第2グリーンシートとを積層すると共に、上記中間グリーンシートの開口部に乾燥した有機材料からなる焼失材シートを配置したうえで、これらのグリーンシート同士を圧着して未焼積層体を形成し、
該未焼積層体を焼成すると共に上記焼失材シートを焼失させることを特徴とするセラミック積層体の製造方法にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0012】
本発明において、上記未焼積層体を形成する際に、乾燥した有機材料からなる上記焼失材シートを、上記中間グリーンシートの開口部に配置する。そして、未焼積層体を焼成する際に焼失材シートを焼失させることにより、上記開口部において上記中空部をセラミック積層体の中に形成することができる。
このように、上記中空部を形成するにあたって、乾燥した焼失材シートを用いる。これにより、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部を形成することができる。
【0013】
すなわち、焼失材シートを乾燥した状態で配置するため、上記複数のグリーンシート同士を圧着する際に、焼失材シートが潰れ難く、第1グリーンシート及び第2グリーンシートが変形し難い。また、これにより、第1グリーンシート及び第2グリーンシートにおける、中間グリーンシートの形成領域と中空部の形成領域との境界部に応力が生じることを抑制し、この部分に亀裂が発生することを防ぐことができる。
また、焼失材シートが潰れ難いため、中間グリーンシートの形成領域と中空部の形成領域との間で、グリーンシートに対する圧着圧力が変化することを防ぐことができる。これにより、セラミックシートにおいて焼成収縮率が部分的に変化することを防ぐことができ、焼成収縮率差に起因するセラミックシートの割れを防ぐことができる。
【0014】
また、焼失材シートは、予め所定の厚みに形成しておくことができるため、焼失材ペーストを塗布する場合のように、塗布厚みの変動によってグリーンシートの圧着時にグリーンシートの変形や応力発生を招くおそれもない。
また、焼失材シートは、乾燥状態で配置されるため、焼失材ペーストを使用する場合のような溶剤によるセラミックシートへのシートアタックの問題もない。また、焼失材ペーストを使用する場合のように、厚膜形成のため上下2枚のグリーンシートに印刷する必要も無いため、積層ずれが生じ難く、積層ずれによる層間剥離の問題も低減することができる。
【0015】
以上のごとく、本発明によれば、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部を形成することができるセラミック積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1における、NOxセンサ素子の展開斜視図。
【図2】実施例1における、NOxセンサ素子の斜視図。
【図3】実施例1における、NOxセンサ素子の先端部付近の図2のA−A線矢視断面図。
【図4】図3のB−B線矢視断面図。
【図5】実施例1における、NOxセンサ素子の製造方法の説明図。
【図6】図5に続く、NOxセンサ素子の製造方法の説明図。
【図7】従来例における、セラミック積層体の断面図。
【図8】従来例における、焼失材ペーストを充填した未焼積層体の断面図。
【図9】従来例における、グリーンシートが潰れた状態の断面図。
【図10】従来例における、セラミック積層体に生じる割れの発生状態を示す断面図。
【図11】従来例における、グリーンシートが外側に膨れるように変形した状態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、上記焼失材シートは、上記中間グリーンシートと同等の厚みを有することが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記グリーンシート同士を圧着する際に、グリーンシートへかかる応力をより低減することができる。その結果、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を、より効果的に防ぐことができる。ここで、上記「中間グリーンシートと同等の厚み」には、製造上の誤差程度のずれは含み、例えばグリーンシートの厚みに対して±5%以内の誤差範囲内であれば同等であるとする。
【0018】
また、上記焼失材シートは、200〜500℃にて焼失する材料からなることが好ましい(請求項3)。
この場合には、セラミックシートに亀裂等を生じさせることなく、容易にセラミック積層体を得ることができる。
200℃未満の状態においては、グリーンシート中のバインダや可塑剤等が残っており気孔が少ないため、この段階で焼失材シートが焼失し熱分解すると、その分子が中空部から抜け出すことが困難となり、セラミック積層体に応力が作用して亀裂等の原因になるおそれがある。一方、500℃を超えると、グリーンシート中のバインダや可塑剤等がほとんど脱脂されてしまうためにセラミック積層体が脆弱となり、この状態で焼失材シートが焼失することによる衝撃がセラミック積層体に作用することによって、亀裂等を招くおそれがある。
【0019】
また、上記焼失材シートは、200〜400℃にて焼失する材料からなることが好ましい(請求項4)。
この場合には、より確実に、セラミックシートに亀裂等を生じさせることなく、容易にセラミック積層体を得ることができる。すなわち、400℃以下にて焼失材シートが焼失することにより、グリーンシート中のバインダや可塑剤等が充分に残留してセラミック積層体の強度が充分である状態で焼失材シートを焼失させることができる。
【0020】
また、上記焼失材シートは、温度85℃の状態において圧力50MPaを10分間加えたときの圧縮率が、上記中間グリーンシートと同等であることが好ましい(請求項5)。
この場合には、グリーンシート同士を圧着する際に、第1グリーンシート及び第2グリーンシートにおける、中空部形成領域が変形することを効果的に防ぐことができる。
【0021】
また、上記セラミック積層体は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための積層型のガスセンサ素子であることが好ましい(請求項6)。
この場合には、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部を形成することができるガスセンサ素子の製造方法を提供することができる。
【0022】
また、上記ガスセンサ素子は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度を検出するためのNOxセンサ素子であることが好ましい(請求項7)。
この場合には、本発明の効果を充分に発揮することができる。すなわち、NOxセンサ素子においては、被測定ガス中に含まれる微量のNOxを検出する必要があるため、特に高精度の検出精度が必要となる。そのため、導入する被測定ガスの量を充分に確保すべく、被測定ガスを導入する空間として用いられる上記中空部の体積を大きくすることが要求される。このとき、焼失材ペーストを用いて中空部を形成しようとしても、得ようとする中空部の形状に沿った形状に焼失材ペーストを配置することが難しい。すなわち、焼失材ペーストを厚膜に形成する場合、その形状を所望の形状に保つことは困難である。そこで、本発明のように、あらかじめ形状が定まった焼失材シートを用いることにより、NOxセンサ素子の中空部を容易に形成することができる。
【0023】
また、上記焼失材シートは、樹脂からなる骨材を可塑剤と共に溶剤中に分散させてなるスラリーを成形し乾燥させることにより製造するにあたり、上記スラリーの状態において上記骨材をコーティング剤によってコーティングすることが好ましい(請求項8)。
この場合には、経時変化を生じ難い上記焼失材シートを得ることができる。その結果、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を、より効果的に防ぐことができる。
【0024】
すなわち、上記スラリーの状態において、仮に、上記骨材をコーティング剤によってコーティングしてないと、骨材が上記溶剤や上記可塑剤を吸収しすぎてしまうことにより、膨潤する。この状態でスラリーを成形、乾燥させて焼失材シートを作製した場合、経時変化によって硬くて脆い状態になりやすい。このような状態となった焼失材シートをグリーンシート間の所定の位置に配置してグリーンシート同士を圧着する際、焼失材シートが充分に潰れ難く、その結果、グリーンシートに応力がかかり、変形や割れが生じるおそれがある。
【0025】
これに対して、上記のごとく、上記スラリーの状態において、上記骨材がコーティング剤によってコーティングされることによって、上記のような骨材の膨潤を抑制し、焼失材シートの経時変化を防ぐことができる。その結果、セラミック積層体の変形や割れを招くことを防ぐことができる。
また、焼失材シートの経時変化を抑制することができるため、特に、焼失材シートを予め多数作製して保管しておいた後、これらを上記セラミック積層体の製造に用いることも可能となる。その結果、セラミック積層体の生産効率を向上させることができる。
【0026】
また、上記骨材は、アクリル樹脂からなることが好ましい(請求項9)。
この場合には、アクリル樹脂が200〜400℃程度にて焼失するため、焼成温度を高くする必要がなく、グリーンシート中のバインダや可塑剤等が充分に残留させてセラミック積層体の強度を充分に確保した状態で、焼失材シートを焼失させることができる。
【0027】
また、上記コーティング剤は、カルボン酸アミン塩又はイミダゾリン系の材料を主成分とすることが好ましい(請求項10)。
この場合には、上記コーティング剤の上記骨材との濡れ性を高くすることができ、より少ない添加量で効果的に骨材をコーティングすることができる。
【0028】
また、上記コーティング剤は、ノニオン又はカチオンであることが好ましい(請求項11)。
この場合には、上記コーティング剤の上記骨材との濡れ性を高くすることができ、より少ない添加量で効果的に骨材をコーティングすることができる。すなわち、上記骨材を構成するアクリル樹脂は、アニオンであるため、ノニオン又はカチオンのコーティング剤を用いることによって、その濡れ性を高め、骨材を効率的にコーティングすることができる。
【0029】
また、上記スラリーにおける上記コーティング剤の添加量は、上記骨材100重量部に対して0.3〜30重量部であることが好ましい(請求項12)。
この場合には、上記骨材を充分にコーティングすることができ、上記焼失材シートの経時変化を充分に抑制することができる。
上記添加量が0.3重量部未満の場合には、骨材がコーティング剤によって充分にコーティングされないおそれがあり、焼失材シートの経時変化を充分に抑制することが困難となるおそれがある。一方、上記添加量が30重量部を超える場合には、コーティング剤をコーティングした骨材が凝集(フロキュレーション)してしまい、シート特性を制御する際の制約になるおそれがある。
【0030】
また、上記スラリーにおける上記コーティング剤の添加量は、上記骨材100重量部に対して0.5〜20重量部であることがより好ましい(請求項13)。
この場合には、上記焼失材シートの経時変化をより効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるセラミック積層体の製造方法につき、図1〜図6を用いて説明する。本例においては、セラミック積層体を、被測定ガス中のNOx濃度を検出するためのNOxセンサ素子1とした例につき説明する。
図1〜図4に示すごとく、NOxセンサ素子1は、開口部131を有する中間セラミックシート13と、該中間セラミックシート13の表裏にそれぞれ積層された第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12とを有する。中間セラミックシート13の開口部131において第1セラミックシート11と第2セラミックシート12との間には、中空部14が形成されている。
【0032】
この中空部14を有するとともに第1セラミックシート11と第2セラミックシート12と中間セラミックシート13とからなるメイン積層体101にのみ着目すると、NOxセンサ素子1は、以下のような方法で製造される。
すなわち、図1に示すごとく、第1セラミックシート11形成用の第1グリーンシート110と、中間セラミックシート13形成用の中間グリーンシート130と、第2セラミックシート12形成用の第2グリーンシート120とを積層する。このとき、中間グリーンシート130の開口部131に乾燥した有機材料からなる焼失材シート2を配置したうえで、これらのグリーンシート同士を圧着して未焼積層体を形成する。
その後、未焼積層体を焼成すると共に焼失材シート2を焼失させる。
これにより、焼失材シート2を配置した部分に、中空部14が形成された状態で、メイン積層体101が形成される。
【0033】
本例のNOxセンサ素子1は、図6に示すごとく、上記メイン積層体101と、後述するサブ積層体102とを焼成前において個別で形成しておき、両者を一体化した後に焼成することにより製造される。「メイン」及び「サブ」は便宜的な表現であり、特に主従関係があるものではない。
【0034】
図3に示すごとく、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12は、ジルコニアを主成分とする酸素イオン電導性を有する固体電解質体からなる。また、中間セラミックシート13は、アルミナを主成分とする。
第1セラミックシート11には、中空部14に面するように内側ポンプ電極31が形成されていると共に、その反対側の面に外側ポンプ電極32が形成されている。この内側ポンプ電極31と外側ポンプ電極32と第1セラミックシート11とによって、中空部14の酸素濃度を調整するためのポンプセル3が構成される。
【0035】
また、第2セラミックシート12には、中空部14に面するように測定電極41が形成され、その反対側の面に基準電極42が形成されている。この測定電極41と基準電極42と第2セラミックシート12とによって、中空部14に導入された被測定ガス中のNOx濃度を測定するためのセンサセル4が構成される。
内側ポンプ電極31は、NOx活性作用を有さない不活性電極であり、測定電極41はNOx活性作用を有する活性電極である。
【0036】
図3、図4に示すごとく、上記サブ積層体102は、メイン積層体101における第2セラミックシート12側に積層されている。サブ積層体102は、上記基準電極42に面する基準ガス室15をメイン積層体101との間に形成するためのダクト層16と、NOxセンサ素子1の温度調整を行うためのヒータ部17を構成する一対のヒータ層171、172とを積層してなる。一対のヒータ層171、172の間には、通電により発熱する発熱体173が形成されている。また、ダクト層16、ヒータ層171、172は、いずれもアルミナを主成分とするセラミックシートからなる。
【0037】
また、図2に示すごとく、NOxセンサ素子1は長尺形状を有しており、その先端側に、ポンプセル3、センサセル4、発熱体173が形成されている。ここで、先端側とは、NOxセンサ素子1を排ガス管等に挿入する側をいい、その反対側を基端側という。
そして、図1、図2に示すごとく、第1セラミックシート11における外側ポンプ電極32を設けた面であって、NOxセンサ素子1の基端部付近には、内側ポンプ電極31、外側ポンプ電極32、測定電極41、基準電極42とそれぞれ電気的に接続された端子部51が形成されている。また、各端子部51は、それぞれ内側ポンプ電極31、外側ポンプ電極32、測定電極41、基準電極42と、第1セラミックシート11或いは第2セラミックシート12に形成されたリード部52、及び、第1セラミックシート11、第2セラミックシート12、或いは中間セラミックシート13に形成されたスルーホール53によって電気的に接続されている。
【0038】
また、ヒータ層172における発熱体173を設けた面と反対側の面における基端側には、一対の端子部175が設けられている。そして、ヒータ層172における発熱体173を設けた面に形成されたリード部174及びスルーホール(図示略)によって、発熱体173と端子部175とが電気的に接続されている。
また、中空部14の先端側には、多孔質セラミックからなる拡散層18が形成されており、被測定ガスは、この拡散層18を通じて中空部14に取り込まれる。
【0039】
次に、本例に係るNOxセンサ素子1の製造方法の一例について具体的に説明する。
まず、第1セラミックシート11及び第2セラミックシート12の作製方法について説明する。
6モル%イットリアと94モル%ジルコニアよりなる平均粒径0.65μmのイットリア部分安定化ジルコニアを100部(重量部、以下同じ)、α−アルミナを2部、PVB(ポリビニルブチラール)を8部、BBP(ブチルベンジルフタレート)を5部、エタノール18部、2−ブタノール18部、酢酸イソアミル18部を秤量する。
【0040】
次いで、これらをボールミル中で混合してスラリーを作製し、該スラリーよりドクターブレード法にて乾燥厚みが0.22mmとなるシート成形体(第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120)を作製する。
次いで、第1グリーンシート110にスルーホールを設ける。その後、導電性ペーストを用いて内側ポンプ電極31を、第1グリーンシート110に印刷する。この導電性ペーストとしては、12.6重量%ジルコニア添加及び1〜10重量%Au添加Ptペーストを使用する。また、10重量%ジルコニア添加Ptペーストを用いて外側ポンプ電極32、リード部52、端子部51を、第1グリーンシート110に印刷する。
【0041】
次いで、第2グリーンシート120にスルーホールを設ける。その後、30重量%ジルコニア添加及び67重量%Rh添加Ptペーストを用いて、測定電極41を第2グリーンシート120に印刷する。また、10重量%ジルコニア添加Ptペーストを用いて、基準電極42、リード部52、端子部53用を、第2グリーンシート120に印刷する。さらに、平均粒径1.5μmのα−アルミナペーストにより拡散層18を第2グリーンシート120に印刷する。
【0042】
次に、中間セラミックシート13、ダクト層16、ヒータ層171、172用のアルミナグリーンシートの作製につき説明する。
平均粒径0.3μmのα−アルミナを98部、6モル%イットリアと94モル%ジルコニアよりなるイットリア部分安定化ジルコニアを2部、PVBを12部、BBPを7部、エタノール27.3部、2−ブタノール27.3部、酢酸イソアミル27.3部を秤量する。
【0043】
次いで、これらをボールミル中で混合してスラリーを作製し、該スラリーよりドクターブレード法にて乾燥厚みが中間セラミックシート13用の中間グリーンシート130は0.066mm、それ以外は0.22mmとなるシート成形体(グリーンシート)を作製する。このとき、グリーンシートの圧縮率は50MPa×10分(85℃)のプレス条件において11〜16%とする。
【0044】
上記中間グリーンシート130にはスルーホールを設ける。該スルーホールには10重量%α−アルミナ添加Ptペーストを印刷により形成する。
上記ダクト層16用のグリーンシートには基準ガス室15用のスリット161を設け、略コ字状とする。
【0045】
次に、ヒータ層172用のグリーンシートにもスルーホールを設ける。さらに、10重量%α−アルミナ添加Ptペーストを用いて、発熱体173、リード部174、端子部175となる印刷部を形成する。
【0046】
次に、焼失材シート2の作製方法につき説明する。焼失材シート2はアクリル樹脂シートからなる。
まず、平均粒径10μmのアクリル樹脂を100部、PVBを40部、BBPを30部、エタノールを64.7部、2−ブタノールを64.7部、酢酸イソアミルを64.7部、コーティング剤(SNスパース2190;サンノプコ社製)を0.6部、秤量する。
【0047】
次いで、これらをボールミル中で混合してスラリーを作製する。スラリーの作製に当たっては、まず、エタノール、2−ブタノール、酢酸イソアミル、コーティング剤をボールミルで30分程度混合する。次いで、これに、アクリル樹脂を投入して、18時間程度混合してアクリルスラリーを作製する。
一方、ポリビニルブチラール、フタル酸ブチルベンジルおよび溶媒を混合して、バインダー溶液を作製する。
このバインダー溶液を、上記アクリルスラリーに適量添加し、18時間程度混合する。
【0048】
これにより得られたスラリーを、ドクターブレード法にて成形しながら乾燥させる。これにより、乾燥厚みが0.066mmとなる焼失材シート2を成形する。このとき、焼失材シート2の圧縮率は50MPa×10分(85℃)のプレス条件において11〜16%とする。
【0049】
上記焼失材シート2は、図5に示すごとく、中空部14形成用の中間グリーンシート130に設けた開口部131に充填するため、トムソン刃など専用の治具により所望の形状(10.1×2.8mm、R0.4)に加工する。「R0.4」は、平面視長方形状の角部の曲率半径が0.4mmであることを意味する。
【0050】
そして、図5に示すごとく、常温において、メイン積層体101を構成すべきグリーンシートと、サブ積層体102を構成すべきグリーンシートとを、それぞれ個別に積層、圧着し、図6に示すごとく、メイン積層体101及びサブ積層体102をそれぞれ別体として得る。
グリーンシートの圧着は、50MPa×10分(85℃)のプレス条件の静水圧プレスにて行う。
【0051】
なお、各グリーンシートに形成されたスルーホールには、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120においては10重量%ジルコニア添加Ptペーストを、その他のグリーンシートにおいては10重量%α−アルミナ添加Ptペーストを予め充填しておく。
その後、図6に示すごとく、常温にて感圧接着性を有するペースト19を用いて、メイン積層体101とサブ積層体102とを接合し、未焼積層体とする。
【0052】
次に、未焼積層体を、55.5×4.88mmの外形となるように切断し、温度1450℃にて2時間焼成する。このとき、焼失材シート2が焼失し、中空部14が第1セラミックシート11、第2セラミックシート12、及び中間セラミックシート13の間に形成される。
以上により、図2〜図4に示すようなNOxセンサ素子1を得る。
【0053】
次に、本例の作用効果につき説明する。
未焼積層体を形成する際に、図5に示すごとく、乾燥した有機材料からなる焼失材シート2を、中間グリーンシート130の開口部131に配置する。そして、未焼積層体を焼成する際に焼失材シート2を焼失させることにより、開口部131において中空部14をNOxセンサ素子1の中に形成することができる。
このように、中空部14を形成するにあたって、乾燥した焼失材シート2を用いる。これにより、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部14を形成することができる。
【0054】
すなわち、焼失材シート2を乾燥した状態で配置するため、複数のグリーンシート同士を圧着する際に、焼失材シート2が潰れ難く、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120が変形し難い。また、これにより、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120における中間グリーンシート130の形成領域と中空部14の形成領域との境界部に応力が生じることを抑制し、この部分に亀裂が発生することを防ぐことができる。
また、焼失材シート2が潰れ難いため、中間グリーンシート130の形成領域と中空部14の形成領域との間で、グリーンシートに対する圧着圧力が変化することを防ぐことができる。これにより、セラミックシートにおいて焼成収縮率が部分的に変化することを防ぐことができ、焼成収縮率差に起因するセラミックシートの割れを防ぐことができる。
【0055】
また、焼失材シート2は、予め所定の厚みに形成しておくことができるため、焼失材ペーストを塗布する場合のように、塗布厚みの変動によってグリーンシートの圧着時にグリーンシートの変形や応力発生を招くおそれもない。
また、焼失材シート2は、乾燥状態で配置されるため、焼失材ペーストを使用する場合のような溶剤によるセラミックシートへのシートアタックの問題もない。また、焼失材ペーストを使用する場合のように、厚膜形成のため上下2枚のグリーンシートに印刷する必要も無いため、積層ずれが生じ難く、積層ずれによる層間剥離の問題も低減することができる。
【0056】
また、焼失材シート2は、中間グリーンシート130と同等の厚みを有するため、グリーンシート同士を圧着する際に、グリーンシートへかかる応力をより低減することができる。その結果、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を、より効果的に防ぐことができる。
また、焼失材シート2は、200〜500℃にて焼失する材料からなるため、セラミックシートに亀裂等を生じさせることなく、容易にNOxセンサ素子1を得ることができる。
【0057】
また、焼失材シート2は、温度85℃の状態において圧力50MPaを10分間加えたときの圧縮率が、中間グリーンシート130と同等である。そのため、グリーンシート同士を圧着する際に、第1グリーンシート110及び第2グリーンシート120における、中空部14形成領域が変形することを効果的に防ぐことができる。
【0058】
以上のごとく、本例によれば、セラミックシートの変形や割れ、剥離等を効果的に防ぎつつ中空部を形成することができるNOxセンサ素子の製造方法を提供することができる。
【0059】
(実施例2)
本例は、表1に示すごとく、実施例1に示したNOxセンサ素子1を製造するのに適した焼失材シート2の材料を種々検討した例である。
焼失材シート2の材料を種々変更した以外は、実施例1に示した製造方法に沿って未焼積層体を製造した。そして、この未焼積層体を加熱しながら、積層体の温度及び重量変化を測定することによって、焼失材シート2の熱分解開始温度、熱分解終了温度、さらには最終的な焼失材シート2の残渣を検出した。
【0060】
具体的には、熱重量(TG)分析装置を用いて、窒素雰囲気中にて、未焼積層体を室温から800℃を超える温度まで昇温しつつ、積層体の温度と重量変化を測定した。熱分解開始温度は、積層体の重量減少が開始した時点の温度として検出され、熱分解終了温度は、積層体の重量減少が終了した時点の温度として検出される。
また、残渣の量は、昇温前の焼失材シート2の総重量に対する重量比によって表わしている。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から分かるように、PVC(ポリ塩化ビニル)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)を用いた場合、800℃を超えても残渣が残っており、熱分解が終了しない。また、PTFE(ポリテトラフルエチレン)を用いた場合、熱分解終了温度が600℃を超える。
そして、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PMMA(アクリル樹脂)、PVA(ポリ酢酸ビニル)、POM(ポリビニルアルコール)、ABS(ABS樹脂)を用いた場合、熱分解開始温度〜熱分解終了温度の間の熱分解領域が200〜500℃に納まっている。特に、PMMA又はPOMを用いた場合、熱分解領域が200〜400℃にも納まっている。
【0063】
上記のごとく、熱分解領域が200〜500℃に納まっていれば、セラミックシートに亀裂等を生じさせることなく、容易にNOxセンサ素子1を得ることができる。
すなわち、200℃未満の状態においては、グリーンシート中のバインダや可塑剤等が残っており気孔が少ないため、この段階で焼失材シート2が焼失し熱分解すると、その分子が中空部14から抜け出すことが困難となり、セラミック積層体に応力が作用して亀裂等の原因になるおそれがある。一方、500℃を超えると、グリーンシート中のバインダや可塑剤等がほとんど脱脂されてしまうためにセラミック積層体が脆弱となり、この状態で焼失材シート2が焼失することによる衝撃がセラミック積層体に作用することによって、亀裂等を招くおそれがある。
【0064】
そのため、熱分解領域が200〜500℃に納まるPE、PP、PS、PMMA、PVA、POM、ABSの何れかを用いることにより、亀裂等の発生を効果的に防ぎつつ、容易にNOxセンサ素子1を得ることができる。さらに、熱分解領域が200〜400℃に納まるPMMA又はPOMを用いることにより、亀裂等の発生をより効果的に防ぎつつ、容易にNOxセンサ素子1を得ることができる。
【0065】
実施例1、2においては、セラミック積層体として、NOxセンサ素子の例を示したが、本発明のセラミック積層体の製造方法は、これ以外のガスセンサ素子を始め、中空部を有する種々のセラミック積層体に適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 NOxセンサ素子
11 第1セラミックシート
110 第1グリーンシート
12 第2セラミックシート
120 第2グリーンシート
13 中間セラミックシート
130 中間グリーンシート
131 開口部
14 中空部
2 焼失材シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する中間セラミックシートと、該中間セラミックシートの表裏にそれぞれ積層された第1セラミックシート及び第2セラミックシートと、上記中間セラミックシートの上記開口部において上記第1セラミックシートと上記第2セラミックシートとの間に形成された中空部とを有するセラミック積層体を製造する方法であって、
上記第1セラミックシート形成用の第1グリーンシートと、上記中間セラミックシート形成用の中間グリーンシートと、上記第2セラミックシート形成用の第2グリーンシートとを積層すると共に、上記中間グリーンシートの開口部に乾燥した有機材料からなる焼失材シートを配置したうえで、これらのグリーンシート同士を圧着して未焼積層体を形成し、
該未焼積層体を焼成すると共に上記焼失材シートを焼失させることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記焼失材シートは、上記中間グリーンシートと同等の厚みを有することを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記焼失材シートは、200〜500℃にて焼失する材料からなることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、上記焼失材シートは、200〜400℃にて焼失する材料からなることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記焼失材シートは、温度85℃の状態において圧力50MPaを10分間加えたときの圧縮率が、上記中間グリーンシートと同等であることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記セラミック積層体は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための積層型のガスセンサ素子であることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、上記ガスセンサ素子は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度を検出するためのNOxセンサ素子であることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項において、上記焼失材シートは、樹脂からなる骨材を可塑剤と共に溶剤中に分散させてなるスラリーを成形し乾燥させることにより製造するにあたり、上記スラリーの状態において上記骨材をコーティング剤によってコーティングすることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、上記骨材は、アクリル樹脂からなることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、上記コーティング剤は、カルボン酸アミン塩又はイミダゾリン系の材料を主成分とすることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10において、上記コーティング剤は、ノニオン又はカチオンであることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか一項において、上記スラリーにおける上記コーティング剤の添加量は、上記骨材100重量部に対して0.3〜30重量部であることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項13】
請求項12において、上記スラリーにおける上記コーティング剤の添加量は、上記骨材100重量部に対して0.5〜20重量部であることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項1】
開口部を有する中間セラミックシートと、該中間セラミックシートの表裏にそれぞれ積層された第1セラミックシート及び第2セラミックシートと、上記中間セラミックシートの上記開口部において上記第1セラミックシートと上記第2セラミックシートとの間に形成された中空部とを有するセラミック積層体を製造する方法であって、
上記第1セラミックシート形成用の第1グリーンシートと、上記中間セラミックシート形成用の中間グリーンシートと、上記第2セラミックシート形成用の第2グリーンシートとを積層すると共に、上記中間グリーンシートの開口部に乾燥した有機材料からなる焼失材シートを配置したうえで、これらのグリーンシート同士を圧着して未焼積層体を形成し、
該未焼積層体を焼成すると共に上記焼失材シートを焼失させることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記焼失材シートは、上記中間グリーンシートと同等の厚みを有することを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記焼失材シートは、200〜500℃にて焼失する材料からなることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、上記焼失材シートは、200〜400℃にて焼失する材料からなることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記焼失材シートは、温度85℃の状態において圧力50MPaを10分間加えたときの圧縮率が、上記中間グリーンシートと同等であることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記セラミック積層体は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための積層型のガスセンサ素子であることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、上記ガスセンサ素子は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度を検出するためのNOxセンサ素子であることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項において、上記焼失材シートは、樹脂からなる骨材を可塑剤と共に溶剤中に分散させてなるスラリーを成形し乾燥させることにより製造するにあたり、上記スラリーの状態において上記骨材をコーティング剤によってコーティングすることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、上記骨材は、アクリル樹脂からなることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、上記コーティング剤は、カルボン酸アミン塩又はイミダゾリン系の材料を主成分とすることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10において、上記コーティング剤は、ノニオン又はカチオンであることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか一項において、上記スラリーにおける上記コーティング剤の添加量は、上記骨材100重量部に対して0.3〜30重量部であることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【請求項13】
請求項12において、上記スラリーにおける上記コーティング剤の添加量は、上記骨材100重量部に対して0.5〜20重量部であることを特徴とするセラミック積層体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−286473(P2010−286473A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65338(P2010−65338)
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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