説明

セラミック電子部品の製造方法

【課題】成形体の欠陥を精度良く検査でき、製品の歩留まりを向上させることができるセラミック電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】このセラミック電子部品の製造方法では、熱中性子線Rによってグリーン体21を撮像する。熱中性子線Rは、X線に比べると、有機化合物中に多く含まれる水素原子Hに対して十分な減衰係数を有している。したがって、グリーン体21の内部において、バインダ樹脂23で結合された粉体材料の分布状態を高いコントラストで検出でき、グリーン体21内部の充填欠陥25を精度良く検出することができる。これにより、グリーン体21及び焼結体41を用いて得られる製品の歩留まりを向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソフトフェライトコアや誘電体コアといった粉末成形品は、磁性材料や誘電体材料といった無機化合物を含む粉体材料に有機バインダ樹脂を混合して得られるグリーン体を焼結した焼結体によって形成される。
【0003】
ところで、グリーン体の成形時には、バインダ樹脂で結合された粉体材料が均一に分散されず、グリーン体の内部に空孔(充填欠陥)が生じる場合がある。また、グリーン体の焼結時には、焼結の過程で抜けきらなかったバインダ樹脂(バインダ残渣)が焼結体の内部に残る場合がある。このような充填欠陥が多数存在したグリーン体や、バインダ残渣が残った焼結体をそのまま後工程に流すと、完成品であるセラミック電子部品の歩留まりが低下してしまうおそれがある。
【0004】
グリーン体や焼結体の内部を非破壊で検査する方法としては、例えば特許文献1に記載のX線検査装置がある。この従来のX線検査装置は、2つのX線源からのX線をシャッタによって交互に試料に照射すると共に、シャッタと同期させて、モニタに写したX線像の視野を左右交互に遮蔽している。
【特許文献1】特開平02−093353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水素原子Hに代表される原子番号の比較的小さな元素に対するX線の減衰係数は、原子番号の比較的大きな金属に対する減衰係数に比べて小さい傾向がある。そのため、上述した粉末成形品の製造工程において、重金属を含む成形体の欠陥、すなわち、グリーン体の充填欠陥や焼結体のバインダ残渣等をX線で検査しようとすると、重金属によるX線の吸収の影響でX線画像のコントラストが十分に得られず、欠陥の判別が難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、成形体の欠陥を精度良く検査でき、製品の歩留まりを向上させることができるセラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決ため、本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、無機化合物の粉体材料とバインダ樹脂とを混合してグリーン体を作製する作製工程と、作製工程で作製したグリーン体を熱中性子線によって撮像する撮像工程と、撮像工程における撮像結果に基づいてグリーン体の良否判定を行う判定工程と、を備えたことを特徴としている。
【0008】
このセラミック電子部品の製造方法では、熱中性子線によってグリーン体を撮像する。熱中性子線は、X線に比べると、有機化合物中に多く含まれる水素原子Hに対して十分な減衰係数を有している。したがって、グリーン体の内部において、バインダ樹脂で結合された粉体材料の分布状態を高いコントラストで検出でき、グリーン体内部の充填欠陥を精度良く判別できる。この結果、グリーン体を焼成して得られる製品の歩留まりを向上させることができる。
【0009】
また、判定工程で良品と判定されたグリーン体を焼成して焼結体を形成する焼成工程と、焼成工程で形成した焼結体を熱中性子線によって撮像する撮像工程と、撮像工程における撮像結果に基づいて焼結体の良否判定を行う判定工程と、を備えたことが好ましい。この撮像工程において、焼結体の内部においてバインダ残渣が存在すると、この部分で熱中性子線が強く吸収され、バインダ残渣を精度良く判別することが可能となる。この結果、焼成体を用いて得られる製品の歩留まりを向上させることができる。
【0010】
また、作製工程で作製したグリーン体をX線によって撮像する撮像工程を更に備え、判定工程において、熱中性子線による撮像結果とX線による撮像結果とに基づいてグリーン体の良否判定を行うことが好ましい。原子番号の並びに対して減衰係数が小さくなる傾向の熱中性子線と、原子番号の並びに対して減衰係数が大きくなる傾向のX線との双方を用いることにより、撮像結果の相互補完が可能となり、内部欠陥をより精度良く判別できる。
【0011】
また、撮像工程で用いる熱中性子線のエネルギーは、0.001eV〜0.1eVであることが好ましい。この範囲では、熱中性子線による撮像のコントラストの好適化が図られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成形体の欠陥を精度良く検査でき、製品の歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るセラミック電子部品の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係るセラミック電子部品の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。図1に示すように、このセラミック電子部品の製造方法は、磁性材料や誘電体材料といった無機化合物の粉体材料からなる粉末成形品を用いて構成されるセラミック電子部品の製造に適用されるものである。
【0015】
磁性材料からなる粉末成形品としては、例えばソフトフェライトコア、ハードフェライト磁石、合金コア、金属磁石などが挙げられる。また、誘電体材料からなる粉末成形品としては、例えばコンデンサやフィルタに用いられる誘電体コアなどが挙げられる。
【0016】
図1に示すように、このセラミック電子部品の製造方法では、まず、製造ロット用の材料を準備する(ステップS01)。磁性材料からなる粉末成形品については、例えばM・Fe(Mは、Fe以外の2価の金属イオン)を主材料とするソフトフェライト粉末、ポリビニルアルコールからなるバインダ樹脂、及び添加材等を準備する。また、例えばM・Fe1219(Mは、Ba、Sr、Pb等の金属イオン)を主材料とするハードフェライト粉末、C1016O(カンファ)からなるバインダ樹脂、及び添加剤等を準備する。
【0017】
誘電体材料からなる粉末成形品については、例えばM・TiO(Mは、Ba、Sr、Ca、Pb、Zr、Pb等の金属イオン)を主材料とする誘電体粉末、ポリビニルアルコールからなるバインダ樹脂、及び添加材等を準備する。
【0018】
材料の準備の後、これらの材料の混合・分散を行う(ステップS02)。ここでは、粉体材料、バインダ樹脂、添加剤を混合し、必要に応じて分散処理を施してスラリーを得る。スラリーの混合・分散処理には、例えばボールミルを用いることができる。バインダ樹脂の混合量は、約1%Wt前後に調整される。これにより、直径が1μm〜3μm程度の磁性材料及び誘電体材料は、例えば直径が30μm〜200μm程度の顆粒状となり、バインダ樹脂によって互いに結合される(図4参照)。
【0019】
次に、グリーン体の成形を行う(ステップS03)。グリーン体の成形には、例えば金型プレスを用いることができる。ステップS02で得たスラリーを所定の形状を有する金型に充填し、パンチによって圧縮する。これにより、グリーン体が成形される。
【0020】
続いて、成形したグリーン体の内部を検査するため、熱中性子線による撮像を行う(ステップS04)。図2は、検査に用いる熱中性子線撮像装置の装置構成を示す概要図である。同図に示すように、熱中性子線撮像装置1は、例えば中性子源11と、減速器12と、コリメータ13と、イメージングプレート14と、コンバータ15と、CCDカメラ16と、モニタ装置17とを備えている。
【0021】
中性子源11は、サイクロトロン等によって構成されている。中性子源11からは、例えば18MeV程度のエネルギーを有する中性子が発生する。減速器12の内部には、例えばポリエチレンなどのターゲットが配置されている。中性子源11から発生する中性子は、減速器12の内部でターゲットに衝突することによって減速し、エネルギーが0.001eV〜0.1eV程度の熱中性子に変換される。
【0022】
コリメータ13は、熱中性子線束を平行ビームに整える部分である。コリメータ13によって平行束となった熱中性子線は、イメージングプレート14に照射される。イメージングプレート14は、1ピクセル当たり50μm程度の分解能を有しており、ステップS03で成形したグリーン体21が複数並べられる。
【0023】
コンバータ15は、イメージングプレート14による熱中性子線の透過像を可視光の画像に変換する。コンバータ15によって変換された画像は、CCDカメラ16によってモニタ装置17に出力される。
【0024】
ここで、図3は、中性子線の質量減衰係数と原子番号との関係を示した図である。同図には、エネルギーが150keV、500keVのX線の質量減衰係数についても併記されている。図3に示すように、X線は、原子番号が大きい重い元素に対して減衰係数が大きくなる(不透明になる)傾向にあり、原子番号が小さい軽い元素に対して減衰係数が小さくなる(透明になる)傾向にある。
【0025】
一方、中性子線は、X線とは反対に、原子番号が大きい重い元素に対して減衰係数が小さくなる(透明になる)傾向にあり、原子番号が小さい軽い元素に対して減衰係数が大きくなる(不透明になる)傾向にある。この傾向は、一般の中性子線よりもエネルギーの低い熱中性子線においては、更に顕著なものとなる。
【0026】
グリーン体21を熱中性子線撮像装置1で撮像すると、図4に示すように、熱中性子線Rは、イメージングプレート14に到達するまでに、粉体材料22を顆粒状に結合しているバインダ樹脂23によって強く吸収される。したがって、図5に示すように、モニタ装置17に出力される撮像結果の暗部31を観察することにより、バインダ樹脂23を介してグリーン体21内部の顆粒24の分布状態を検出できる。
【0027】
このとき、グリーン体21内部において、バインダ樹脂23で結合された粉体材料22の顆粒24が均一に分散されておらず、グリーン体21の内部に充填欠陥25が存在していると、この充填欠陥25の部分では熱中性子線Rは殆ど吸収されない。したがって、図5に示すように、モニタ装置17に出力される撮像結果の明部32を観察することにより、グリーン体21内部の充填欠陥25の数や大きさを検出できる。
【0028】
熱中性子線によるグリーン体21の撮像を行った後、X線によるグリーン体21の撮像を行う(ステップS05)。X線撮像装置には、公知の装置を用いることができる。撮像に用いるX線のエネルギーは、例えば150kVである。グリーン体21をX線で撮像すると、熱中性子線Rの場合とは反対に、グリーン体21内部の粉末材料の顆粒24によってX線が強く吸収され、顆粒24が存在しない部分ではX線は殆ど吸収されない。したがって、X線撮像装置のモニタ装置に出力される撮像結果は、熱中性子線撮像装置1のモニタ装置17に出力される撮像結果に対して明暗が反転したものとなる。
【0029】
熱中性子線及びX線による撮像を行った後、各撮像結果に基づいて、グリーン体21の良否判定を行う(ステップS06)。グリーン体21の良否判定では、まず、撮像結果を所定の画像処理で解析し、充填欠陥25に対応する暗部(X線画像の場合は明部)の数及び大きさを検出する。そして、検出された充填欠陥25の数及び大きさが予め定められた閾値に満たない場合には良品と判定し、充填欠陥25の数及び大きさが閾値を超えている場合には不良品と判定する。不良品と判定されたロットは、この時点で廃棄される(ステップS12)。
【0030】
次に、ステップS06において良品と判定されたロットについて、脱バインダ処理を経て焼成を行う(ステップS07)。この脱バインダ及び焼成により、グリーン体21に含まれていたバインダ樹脂23が消失し、粉体材料の焼結によって形成された焼結体41が形成される(図6参照)。
【0031】
続いて、形成した焼結体の内部の検査を行うため、ステップS04と同様に、熱中性子線による撮像を行う(ステップS08)。焼結体41を熱中性子線撮像装置1で撮像すると、図6に示すように、焼結している粉体材料22によっては、熱中性子線Rは殆ど吸収されない。このとき、焼結体41の内部において、焼結の過程で抜けきらなかったバインダ樹脂(バインダ残渣42)が存在していると、イメージングプレート14に到達するまでに、バインダ残渣42によって熱中性子線Rが強く吸収される。したがって、モニタ装置17に出力される撮像結果の暗部を観察することにより、焼結体41内部に存在するバインダ残渣42を検出することができる。
【0032】
熱中性子線による撮像を行った後、この撮像結果に基づいて、焼結体41の良否判定を行う(ステップS09)。焼結体41の良否判定では、ステップS06と同様に、撮像結果を所定の画像処理で解析し、バインダ残渣42に対応する暗部の数及び大きさを検出する。そして、検出されたバインダ残渣42の数及び大きさが予め定められた閾値に満たない場合には良品と判定し、バインダ残渣42の数及び大きさが閾値を超えている場合には不良品と判定する。不良品と判定されたロットは廃棄される(ステップS13)。
【0033】
ステップS09で良品と判定されたロットには、加工工程において電極形成及び基板実装等が施され、セラミック電子部品として完成する(ステップS10)。その後、完成したセラミック電子部品の寸法形状や、素子特性といった各種の検査が行われ(ステップS11)、製造工程が終了する。
【0034】
以上説明したように、このセラミック電子部品の製造方法では、熱中性子線Rによってグリーン体21を撮像する。熱中性子線Rは、X線に比べると、有機化合物中に多く含まれる水素原子Hに対して十分な減衰係数を有している。したがって、グリーン体21の内部において、バインダ樹脂23で結合された粉体材料の分布状態を高いコントラストで検出でき、グリーン体21の内部に存在する充填欠陥25を精度良く検出できる。
【0035】
また、熱中性子線Rによるグリーン体21の撮像の後、X線によるグリーン体21の撮像を合わせて行っている。原子番号の並びに対して減衰係数が小さくなる傾向の熱中性子線Rと、原子番号の並びに対して減衰係数が大きくなる傾向のX線との双方を用いることにより、撮像結果が相互補完される。このことは、充填欠陥25の検出精度の向上に寄与する。
【0036】
また、このセラミック電子部品の製造方法では、良品と判定されたグリーン体を焼成して得られる焼結体41を熱中性子線Rによって撮像する。焼結体41の内部においてバインダ残渣42が存在すると、この部分で熱中性子線Rが強く吸収され、バインダ残渣42を精度良く判別できる。以上の各検査を行うことで、グリーン体21及び焼結体41を用いて得られる製品の歩留まりを向上させることができる。
【0037】
また、このセラミック電子部品の製造方法では、撮像工程で用いる熱中性子線のエネルギーは、0.001eV〜0.1eVとなっている。中性子線のエネルギーが低すぎると、グリーン体21及び焼結体41を透過する中性子線が不十分となり、鮮明なコントラストが得られにくい。また、中性子線のエネルギーが高すぎると、原子番号に関わらずにあらゆる元素に対して中性子線が透過し、内部欠陥の判別が困難となる。そこで、上記範囲のエネルギーを持つ熱中性子線を用いることで、撮像結果のコントラストの好適化が図られる。
【0038】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば、上述した実施形態では、磁性材料及び誘電体材料からなる粉末成形品を例示しているが、CuO、NiO、Ag、Pd等の導電材料からなる粉末成形品に適用することもできる。また、チップコンデンサ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップインダクタ等のように、誘電体材料・磁性材料・導電体材料を塗布したシートを積層してなる積層型セラミック電子部品について適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るセラミック電子部品の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】検査に用いる熱中性子線撮像装置の装置構成を示す概要図である。
【図3】中性子線の質量減衰係数と原子番号との関係を示した図である。
【図4】グリーン体内部での熱中性子線の様子を示した図である。
【図5】グリーン体の撮像結果の一例を示す図である。
【図6】焼結体内部での熱中性子線の様子を示した図である。
【符号の説明】
【0040】
1…熱中性子線撮像装置、21…グリーン体、22…粉体材料、23…バインダ樹脂、25…充填欠陥、41…焼結体、42…バインダ残渣、R…熱中性子線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物の粉体材料とバインダ樹脂とを混合してグリーン体を作製する作製工程と、
前記作製工程で作製した前記グリーン体を熱中性子線によって撮像する撮像工程と、
前記撮像工程における撮像結果に基づいて前記グリーン体の良否判定を行う判定工程と、を備えたことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記判定工程において良品と判定されたグリーン体を焼成して焼結体を形成する焼成工程と、
前記焼成工程で形成した前記焼結体を熱中性子線によって撮像する撮像工程と、
前記撮像工程における撮像結果に基づいて前記焼結体の良否判定を行う判定工程と、を備えたことを特徴とする請求項1記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記作製工程で作製した前記グリーン体をX線によって撮像する撮像工程を更に備え、
前記判定工程において、前記熱中性子線による撮像結果と前記X線による撮像結果とに基づいて前記グリーン体の良否判定を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記撮像工程で用いる前記熱中性子線のエネルギーは、0.001eV〜0.1eVであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のセラミック部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−200166(P2009−200166A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39084(P2008−39084)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】