説明

セルロースアシレートフィルムの製造方法

【課題】製膜中、支持体の表面における汚れの付着を防止する。
【解決手段】針葉樹を原料としたセルロースアシレートを使用してドープ70を作る。このセルロースアシレートは、セルロースアシレートに含まれる化合物若しくは結合カルボン酸基のセルロースアシレートに対するモル当量が3以上15以下の範囲内で、セルロースアシレート中のCa成分の質量濃度が0ppm以上5ppm以下、Mg成分の質量濃度が10ppm以上70ppm以下である。表面を冷却したエンドレス走行の流延ドラム34上にドープ70を流延してゲル状の流延膜40を形成する。ドラム洗浄機44から流延ドラム34の表面にドライアイス粒子を含む洗浄ガスを吹き付ける。流延ドラム34から流延膜40を剥取後、乾燥してフィルム51とする。脂肪酸Ca等の生成を抑制し、洗浄ガスによる流延ドラム34表面の洗浄により汚れの付着を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルムの製造方法であって、特に、液晶表示装置等の光学製品に用いられるセルロースアシレートフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムは、透明度が高く、強靭性や光学等方性に優れる等の特徴から、例えば、液晶表示装置における偏光板の保護フィルムや光学補償フィルム、視野角拡大フィルムとして利用されている。セルロースアシレートフィルムは、一般的に溶液製膜方法で作られている。溶液製膜方法とは、エンドレスで走行させた支持体の上に、セルロースアシレート及び溶媒を含むドープを流延して流延膜を形成した後、この流延膜を支持体から剥ぎ取り、乾燥してフィルムとする方法である。
【0003】
ところで、溶液製膜方法では、製膜を続けていると支持体の表面に汚れが生じ、汚れが発生した箇所で支持体から流延膜を円滑に剥ぎ取ることが難しくなり、最悪の場合には剥ぎ取り不能となって製膜を一時中断しなければならないという問題がある。汚れが付着した支持体を使い続けると、上記の問題に加えて、流延膜の表面に有機物が転写し、完成したフィルムの光学ムラを引き起こす。このため、製膜現場では、定期的に溶剤を染み込ませた不織布等で支持体の表面を拭き取ることによりその表面を清潔に保つ等の対策を講じている。しかしながら、この方法では、製膜速度を落としたり、一旦製造ラインを停止させる必要があるため生産性が低下するほか、支持体の表面を傷付けることが懸念されるため改善が求められている。
【0004】
今までに、支持体の表面に汚れを付着させずに製膜するための様々な方法が検討されており、汚れは、主にセルロースアシレート中のCaやMg成分を含む塩を主成分とした有機物であることが分かっている。そこで、例えば、特許文献1には、フィルム原料としてCaやMg成分の含有率を低くしたセルロースアシレートを使用して汚れの生成を抑制することにより、支持体表面への付着を防止する方法が提案されている。また、特許文献2では、有機物がセルロースアシレート等に起因する脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アルコール等の特定成分とCa、Mg成分との結合により生成するものであることを見出し、当該特定成分とCa、Mg成分の濃度を低くしたセルロースアシレートを使用する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2006−095971号公報
【特許文献2】特開2006−199029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2のように、特定成分やCa、Mg成分の濃度を低くしたセルロースアシレートを使うだけでは支持体の表面における汚れの付着を防止することが難しい。また、現在、溶液製膜方法に対しては、液晶表示装置等の発展に伴って従来よりも製膜速度の高速化が望まれているが、特許文献1では、製膜速度を高速化するための効果的な方法は提案されていない。一方、特許文献2では、ドラム流延方式を採用することにより高速化を実現する方法が提案されている。ドラム流延方式は、支持体として表面が冷却されたドラムを使用してドープを冷却することにより短時間のうちにゲル状の流延膜を形成することができるので、製造時間の短縮による高速化が実現可能である。ところが、ドラム流延方式では、製造時間の経過に伴ってドラムの表面に汚れが付着するという問題を抱えており、改善が望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、支持体の表面における汚れの付着を防止しながら製膜速度を高速化してセルロースアシレートフィルムを製造することができる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、エンドレス走行の支持体の上に、セルロースアシレートと溶媒とを含むドープを流延して流延膜を形成した後、支持体から流延膜を剥ぎ取り、乾燥してフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、セルロースアシレートとして、木材から得られるセルロースをエステル化することで作られ、セルロースアシレートに含まれる化合物若しくは結合カルボン酸基のセルロースアシレートに対するモル当量が3以上15以下の範囲内で、セルロースアシレート中のCa成分の質量濃度が0ppm以上5ppm以下であって、Mg成分の質量濃度が10ppm以上70ppm以下であるものを使用し、支持体の表面に粒状のドライアイスを含む洗浄ガスを吹き付けることにより流延膜から生じて支持体の表面に付着した有機物を除去することを特徴とする。
【0008】
木材が針葉樹であることが好ましい。
【0009】
支持体の表面温度が−20℃以上0℃以下であることが好ましい。
【0010】
洗浄ガスを、流延膜が剥ぎ取られた後でドープが流延される前の支持体の表面に吹き付けることが好ましい。
【0011】
支持体は周面を持つ流延ドラムであり、その回転速度が80m/分以上であることが好ましい。
【0012】
流延膜が、支持体の上で空気に接する表層と表層及び支持体に接する内層とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冷却した支持体の表面に対して汚れを付着させずにフィルムを製造することができる。このため、支持体の表面を傷付けることなく製膜速度を高速化してフィルムを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、ここに示す形態は本発明に係わる一例であって、本発明を限定するものではない。
【0015】
〔セルロースアシレート〕
本発明では、ドープの原料として木材を原料とするセルロースアシレートを用いる。木材には、その樹種の違いにより広葉樹及び針葉樹からなるものが存在するが、支持体の表面における汚れの付着を防止するためには針葉樹からなるものが好適である。針葉樹が広葉樹と対比して汚れ防止に効果的である理由の解明は十分ではないものの、理由の1つとして、針葉樹から得られるセルロースは、例えば、NMRやFT−IR法等による成分分析から、広葉樹を原料とするセルロースと対比して脂肪酸エステル類の含有量が少ないため汚れとなり得る有機物の生成が少ないことが推察される。また、針葉樹は広葉樹と対比して繊維の形状やセルロースの組成が異なること等も起因すると考えられる。なお、原料となる木材の種類は、被対象とするセルロースアシレートをサンプルとし、これを構成する糖分析を行うことで推定することができる。
【0016】
また、セルロースアシレートとしては、セルロースアシレートに含まれる化合物若しくは結合カルボン酸基のセルロースアシレートに対するモル当量が3以上15以下の範囲内で、セルロースアシレート中のCa成分の質量濃度が0ppm以上5ppm以下であって、Mg成分の質量濃度が10ppm以上70ppm以下である。なお、セルロースアシレート中の化合物若しくは結合カルボン酸基を合わせたものを意味する。このように本発明は、セルロースアシレートに対するカルボン酸基のモル当量を規定すると同時に、セルロースアシレート中のMg成分の質量濃度をCa成分よりも多くする。この点は、セルロースアシレートのCa、Mg成分の含有量を単に減らすことを主とした従来と対比して大きな差異がある。上記によりカルボン酸基とCaとの結合がMgにより阻害され、汚れとなり得る脂肪酸Ca等の生成が抑制される。このため、支持体の表面に対する汚れの付着が効果的に防止される。ここで、セルロースアシレートにおける各成分の上限値が超えた場合、Mg成分によりCa成分と脂肪酸等との結合を抑制することが難しくなり汚れの付着を防止することができない。一方で、下限値を見た場合、Ca成分は少ない程好ましいが、Mg成分は、脂肪酸とCa成分との結合を阻害する効果が得がたい。このため、Mg成分は所定の範囲の中で上限値に近づけるほど好ましい等、各成分は所定範囲内で適宜バランスを取りながら調節することが好ましい。
【0017】
なお、結合カルボン酸基とは、セルロースアシレートに結合しているカルボキシル(carboxyl)基である。また、セルロースアシレートに含まれる化合物若しくは結合カルボン酸基のセルロースアシレートに対するモル当量が3以上15以下の範囲とは、セルロースアシレート1kg中に含まれる化合物もしくはカルボキシル基の物質量が3mmol以上15mmol以下である範囲に等しい。
【0018】
本発明におけるカルボン酸基は、カルボン酸基の測定方法としてASTM D−1926に規定されている炭酸水素ナトリウム−塩化ナトリウム法に準じて測定することができる。また、本発明におけるCaやMg成分は、被対象となるセルロースアシレートをサンプルとして、イオンクロマトグラフィー、原子吸光スペクトル、ICP、ICP−MS等の分析方法により定量した値とする。
【0019】
セルロースアシレートに含まれている被対象成分を所定範囲まで少なくためには、主に2つの方法が挙げられる。(1)セルロースアシレートの生成条件を調節する。(2)セルロースアシレートの洗浄を十分に行う。
【0020】
(1)の場合、セルロースアシレートを生成する方法は特に限定されず、硫酸法をはじめとする公知のものを利用することができる。この中で、エステル化に使用するアシル化剤やアシル化反応により得られる生成物を中和するための中和剤の種類や添加量等を好適に調節することが好ましい。通常、アシル化剤及び中和剤は、カルボン酸系の化合物が用いられる。アシル化剤としては、カルボン酸の酸無水物が一般的であり、中でも無水酢酸が主流とされる。一方、中和剤は、例えば、Ca、Mg、Fe、Al、Zn等の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物、酸化物やその溶液が使用される。この溶液は、所望とする金属を溶媒と混合したものである。溶媒としては、例えば、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等)、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸等)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトン等)等が挙げられる。したがって、例えば、アシル化剤を無水酢酸として適宜量を調節しながらエステル化した後、中和時において、Ca成分を含む塩よりも多くMg(CHCOO)を使用してCaをMgで置き換えれば、所望とするセルロースアシレートが得られる。
【0021】
また、通常、工業用途のセルロースアシレートには、耐熱安定性の向上を目的として耐熱安定剤が入れられている。耐熱安定剤としては、例えば、アルカリ金属(Li、K、Na等)、アルカリ土類金属(Ca、Mg、Ba等)、又はこれらの塩やその化合物が挙げられる。したがって、耐熱安定剤としてMg成分を含む塩等をCa成分に対して多く含ませれば、本発明で好適なセルロースアシレートを得ることができる。
【0022】
(2)の場合、ドープを調製する前に、セルロースアシレートを溶媒に溶かして液化物を調製した後、これを濾過手段により濾過する作業を少なくとも1回以上行う方法や、支持体上に流延する前のドープを濾過手段により少なくとも1回以上濾過する方法が好適である。液化物を調製する溶媒は、ドープとの相溶性の観点からドープに使用する溶媒と同一であるものが好ましい。ドープに使用される溶媒は、後で詳細に説明する。
【0023】
また、セルロースアシレートは、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(1)〜(3)の全てを満足するものがより好ましい。式(1)〜(3)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、セルロースアシレートの90重量%以上が、0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。
(1) 2.5≦A+B≦3.0
(2) 0≦A≦3.0
(3) 0≦B≦2.9
【0024】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0025】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0026】
ただし、本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0027】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、溶解度が高いドープを得ることができる。
【0028】
セルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステル等が挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等が挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等がより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0029】
ドープの原料として好適な溶媒は、セルロースアシレートを溶解できるものが好ましい。具体的には、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン等)、ハロゲン化炭化水素(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコール等)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)等が挙げられる。上記のハロゲン化炭化水素においては、炭素原子数1〜7のものが好ましい。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
【0030】
中でも、溶媒としては、疎水性のものが好ましい。特に、ポリマーに対する溶解度や、ドープ中に添加剤として微粒子を用いる場合、この分散性に優れる等の観点から塩化メチレンが好ましい。また、セルロースアシレートの溶解度、流延膜と支持体との剥取性、フィルムの機械強度、光学特性等の観点からは塩化メチレンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種、ないしは数種類を混合することが好ましい。アルコールの含有量は溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられ、中でも、メタノール、エタノール、n−ブタノール、或いはこれらの混合物が好適である。
【0031】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、塩化メチレンを使用しない溶媒組成も提案されている。この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いる。これらのエーテル、ケトン、及びエステルは環状構造を有するものでも良いし、エーテル、ケトン、及びエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−、及び−COO−)のいずれかを2つ以上有するものでも良い。また、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していても良い。なお、2種類以上の官能基を有する場合、その炭素原子数がいずれかの官能基を有する場合の規定範囲内であれば良く、特に限定はされない。
【0032】
〔添加剤〕
ドープには用途に応じて添加剤を加えても良い。添加剤としては、例えば、可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤、光学異方性コントロール剤、レタデーション制御剤、染料、微粒子等のマット剤、剥離剤、剥離促進剤等が挙げられる。これら添加剤は、特に限定されず、各種添加剤として公知であるものを使用すれば良い。
【0033】
ドープには、フィルム同士の接着を防ぐこと等を目的として微粒子を添加することが好ましい。微粒子としては、二酸化ケイ素誘導体が好適である。本発明における二酸化ケイ素誘導体とは、二酸化ケイ素や三次元の網状構造を有するシリコーン樹脂も含まれる。また、その表面にはアルキル化処理の施されているものが好ましい。アルキル化処理のような疎水化処理が施された微粒子を用いると溶媒に対する分散性が向上する。
【0034】
微粒子の表面にアルキル化処理が施されている場合、微粒子の表面に導入されるアルキル基は、炭素数が1〜20であることが好ましい。より好ましくは、導入されるアルキル基の炭素数が、1〜12であり、特に好ましくは、炭素数が1〜8である。このようなアルキル基が導入された微粒子は、微粒子同士の凝集が抑制されると共に分散性が向上する。表面に炭素数が1〜20のアルキル基を有する微粒子としては、例えば、二酸化ケイ素の微粒子をオクチルシランで処理したものが挙げられる。なお、表面にオクチル基を有する二酸化ケイ素誘導体の一例としては、アエロジルR805(日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、本発明において好適に使用できる。
【0035】
また、微粒子の含有量はドープの固形分に対して0.2%以下とすることが好ましい。このように微粒子の含有量が制御されたドープは微粒子の凝集が抑制されるため、透明度が高く、優れた光学特性を示すフィルムが製造できる。なお、フィルムの透明度の高さ、光学特性、或いは微粒子の凝集を抑制する上で、微粒子はその平均粒径が1.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.3〜1.0μmであり、特に好ましくは0.4〜0.8μmである。
【0036】
本発明の特徴以外で係るセルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒、各種添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0037】
次に、本発明に係わるフィルムの製造方法について説明する。ただし、本実施形態は、本発明に係わる一例であって本発明を限定するものではない。
【0038】
図1に示すように、本実施形態で使用するフィルム製造設備10は、流延室12と、渡り部13と、テンタ14と、乾燥室15と、冷却室16と、巻取室17とから構成されている。
【0039】
流延室12には、フィードブロック30が取り付けられた流延ダイ31、減圧チャンバ32、伝熱媒体循環装置33、流延ドラム34、凝縮器35、剥取ローラ36等が備えられている。また、流延室12の外部には温調設備37が取り付けられており、流延室12の内部温度が所定の範囲で略一定に保持される。
【0040】
フィードブロック30は、配管L1〜L3を介してストックタンク60と接続されており、適宜送られてくるドープを流延膜の層構造に応じて所望の配置に合流させる。各配管のうち、配管L1は基層を形成するための基層ドープ、L2は支持体層ドープ、L3は表層ドープの流路となる。ここで、基層とは、流延膜になったときに支持体から最も遠くに存在し空気に面すると表層と支持体である流延ドラム34との間に存在する層であり、支持体層は、基層と流延ドラム34とに接して存在する層である。本発明におけるドープとは、ポリマーや添加剤からなる固形分と溶媒とを含む混合液である。ドープの流延及びその調製に関しては後で詳細に説明する。
【0041】
流延ダイ31はドープの吐出口が形成されており、この吐出口が流延ドラム34に向かって開口した状態で設置されている。また、流延ダイ31には、その吐出口の両端に溶媒供給装置(図示しない)が取り付けられている。この溶媒供給装置は、ドープを可溶化させる溶媒を吐出口と流延ドラム34との間に形成される流延ビードの両端部及び吐出口と外気との気液界面に供する。上記の溶媒としては、例えば、ジクロロメタン86.5重量部、メタノール13重量部、n−ブタノール0.5重量部の混合溶媒が挙げられる。溶媒を供給する際には、脈動率が5%以下のポンプを用いることが好ましい。これにより吐出口からドープを流延している間、ドープの局所的な乾燥を抑制して安定した流延ビードを形成することができる。上記の溶媒の供給量は特に限定されないが、ドープの乾燥を抑制し、流延膜40の中にドープの固化物等の異物を混入させない上で、吐出口端部の片側ごとの供給量が0.1〜1.0mL/分であることが好ましい。
【0042】
減圧チャンバ32は減圧装置(図示しない)に接続されており、減圧度を調節しながら流延ビードの背面部を減圧する。流延ビードの背面の減圧度は(大気圧−2000Pa)以上(大気圧−10)Pa以下とすることが好ましい。
【0043】
流延ドラム34は、図示しない駆動装置により円筒の軸を中心にエンドレスで回転する。流延ドラム34は、円筒形状或いは円柱状であり、その表面には十分な耐腐食性と強度とを付与する目的でクロムめっきが施されている。また、流延ドラム34の内部には、伝熱媒体の流路が形成されている。この伝熱媒体は、流延ドラム34に取り付けられた伝熱媒体循環装置33から供給される。流路に伝熱媒体を循環又は通過させることにより流延ドラム34の表面温度が所望の温度に保持される。耐腐食性や耐熱性等の観点からはその材質が金属製であるものが好ましい。中でも、ステンレス製であってSUS316製の金属ドラムが好適である。なお、本発明では、流延ドラム34に代わる支持体として、回転ローラに掛け渡されて無端で移動する流延バンドを用いても良い。
【0044】
ドラム及びバンドとその形態に係わらず、支持体の幅はドープの流延幅の1.05倍〜1.5倍の範囲のものが好ましい。また、平面性に優れる流延膜を形成させる上で、流延ドラム34の周面はその表面粗さが0.05μm以下となるように研磨されたものが好ましく、その表面欠陥が最小限に抑制されたものが好ましい。具体的には30μm以上のピンホールを皆無とし、10μm以上30μm未満のピンホールを1個/m以下とし、10μm未満のピンホールを2個/m以下とすることが好ましい。
【0045】
凝縮器35は、ドープや流延膜40から揮発した有機溶媒を含むガスを凝縮液化する。回収装置39は、この凝縮液化した溶媒を回収する。なお、回収された溶媒は、図示しない再生装置で再生されてドープ調製用の溶媒として再利用される。剥取ローラ36は、流延ドラム34から流延膜40を剥ぎ取る際に流延膜40を支持する。ここで流延ドラム34から流延膜40を剥ぎ取ることにより溶媒を含んだ湿潤フィルム41が形成される。
【0046】
減圧チャンバ32と剥取ローラ36との間の流延ドラム34の表面近傍には、ドラム洗浄機44が設置されている。ドラム洗浄機44は、流延ドラム34の表面に対して所定の洗浄ガスを吹き付けることにより有機物を除去する。洗浄ガスとしては、洗浄ガスとしては、空気の中にドライアイス粒子を含ませたものが好適であるが、空気の替わりに窒素や不活性ガスなどの気体を用いてもよい。ドラム洗浄機44には、配管46aを介して空気を供給する空気供給装置46が接続されている。また、配管46aには、配管45aを介してドライアイス供給装置45が接続されている。ドライアイス供給装置45には、タイマとドライアイス粒子のサイズや割合を制御するために流量調整器とが備えられており、所定の時分の間、粒径を調整したドライアイス粒子を配管45aに供給する。空気供給装置46には、空気の供給時間を制御するためのタイマと圧力調整器とが備えられており、タイマで設定された時分の間、配管46aに圧力を調節して空気を供給する。この圧力調整器としては、例えば、空気が充填されたボンベとボンベ内の空気の温度を調節する温調器とを有するものが挙げられる。
【0047】
渡り部13は、複数のローラと送風装置13aとで構成されており、各ローラで湿潤フィルム41を支持し搬送する間に、送風装置13aから乾燥風を供給して湿潤フィルム41の乾燥を促進させる。
【0048】
テンタ14は、その内部に複数のピンを備えたピンプレートと乾燥風を供給するための乾燥装置(共に図示しない)とが備えられており、湿潤フィルム41の両側端部に各ピンを差し込み固定した後、搬送する間に、湿潤フィルム41の乾燥をいっそう促進させてフィルム51とする。
【0049】
テンタ14の下流にはカッタを備えた耳切装置47が設置されている。耳切装置47によりフィルム51の両側端部が切断される。また、耳切装置47に接続されたクラッシャ48はフィルム51の切断片をチップ状に粉砕する。
【0050】
乾燥室15には、多数のローラ50と乾燥風を供給するための送風装置(図示しない)とが備えられており、ここでフィルム51の乾燥が十分に行なわれる。また、乾燥室15の外部には乾燥室15中の溶媒ガスを回収する吸着回収装置52が接続されている。
【0051】
乾燥室15に併設された冷却室16は、乾燥室15で加熱されたフィルム51を略室温まで冷却する。フィルム51を冷却する方法は特に限定されず、略室温とした室内にフィルム51を放置して自然に冷やしても良いし、冷熱や冷却風を供給して人為に冷やしても良い。冷却室16の下流には、フィルム51の帯電圧を調節するための強制除電装置53が設置されている。また、本実施形態では、強制除電装置53の下流側にフィルム51にナーリングを付与するためのナーリング付与ローラ54を設けている。巻取室17の内部には、フィルム51を巻き取るための巻取装置55とフィルム51に押圧を付与するためのプレスローラ56とが備えられている。
【0052】
また、ストックタンク60は、ジャケット61と、モータ62で回転する攪拌機63とが取り付けられている。ストックタンク60は、ジャケット61の内部に温度を調節した伝熱媒体を通過させることによりその内部温度が所定の範囲で略一定に保持され、攪拌機63を常時回転させることにより貯留するドープ70を攪拌し、異物の凝集を抑えながら均一な状態を保持する。
【0053】
配管L1〜L3にはタンク71〜73が接続されており、各タンク71〜73の接続点よりも下流には、スタティックミキサ77〜79と濾過装置80〜82とが取り付けられている。
【0054】
タンク71〜73は、予め添加剤と溶媒とを混ぜ合わせた添加剤溶液71a〜73aが入れられている。添加剤溶液71a〜73aは、ポンプP1〜P3により送液量が調節されて配管L1〜L3を流れるドープ70に送られる。添加剤は所望とするフィルムの特性に応じて適宜選択されたものが用いられ、例えば、可塑剤、紫外線吸収剤、離型剤、剥離促進剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。上記の溶媒は特に限定されるものではないが、ドープ70との相溶性の観点からドープの調製に使用したものと同じものが好ましい。ここで、溶媒の量を調節することによりドープ70の粘度等を好適に制御することができる。
【0055】
添加剤は、形成する層の用途等に応じて適宜決定される。また、本実施形態のように流延に供するためのドープを複数種類調製する場合には全て同一にする必要はない。例えば、支持体層ドープを調製するための添加剤溶液71aに対してのみ、粒状の二酸化ケイ素誘導体を含ませれば、支持体から流延膜を剥ぎ取る際の剥取性は向上する一方で、二酸化ケイ素誘導体を含まない基層等では高い透明度が確保される。添加剤は、目的に応じて1種類或いは複数種類を選択して使用すれば良い。なお、ドープ70中に添加剤を含ませる方法は特に限定されるものではなく、例えば、固体の添加剤を用いる場合には、ホッパで配管内を流れるドープに入れても良いし、常温で液体の添加剤を用いる場合には、溶剤を使用せずにそのままの状態で入れれば良い。
【0056】
流延に供するドープには、完成したフィルムの特性及びフィルムを製造する工程での取り扱い性等の観点から、可塑剤、紫外線吸収剤及び微粒子を含ませることが好ましい。このとき、フィルム中に含まれるセルロースアシレートの全重量に対して可塑剤の占める割合は3重量%以上20重量%以下とし、紫外線吸収剤は1×10−3重量%以上5重量%以下とし、微粒子は1×10−3重量%以上5重量%以下とすることが好ましい。なお、これらの添加剤は、添加剤溶液として入れても良いし、予めドープ70を調製する際に添加しても良い。
【0057】
スタティックミキサ77〜79は、添加剤溶液が入れられたドープ70を攪拌混合する。スタティックミキサ77〜79としては、ドープ70中に添加剤溶液を効率良くかつ効果的に分散させることを目的として、長方形の板をねじったエレメントを内部に備えたものが好適である。ここで攪拌速度や滞留時間を調節すればドープ70と添加剤溶液との混合具合を好適に制御することができ、さらに、混合具合を制御すればドープ70の粘度が適宜調節できる。ただし、スタティックミキサの形状や構造等は特に限定されるものではなく、例えば、短冊状の複数の板を格子状に組み合わせることで形成されたエレメントを備えたスルーザーミキサを用いるといったことが考えられる。なお、本実施形態では、いずれも同形のものを使用するが必ずしも同じものを用いる必要はない。また、濾過装置80〜82はドープを濾過することにより異物を除去する。
【0058】
次に、上記のフィルム製造設備10の作用について説明する。なお、各配管L1〜L3内でドープを調製する手順は同じであるため、以下の説明では、配管L1内にて基層ドープを調製する手順を代表して説明する。
【0059】
ストックタンク60では、ジャケット61の内部に伝熱媒体が流されてドープ70の温度が25〜35℃に調整される。攪拌機63が常時回されてドープ70の品質が保持される。四方バルブ84の開閉が調節され、ストックタンク60と配管L1とが繋げられた後、ストックタンク60から配管L1内に適量のドープ70が送られる。ここでドープ20の流量はポンプP4で調節される。
【0060】
ポンプP2により配管L1を流れるドープ70に対して添加剤タンク72から添加剤溶液72aが送られる。この後、ドープ70はスタティックミキサ78で攪拌されて均一化された後、濾過装置81でドープ70中の異物が取り除かれる。なお、最終的に流延に供する各ドープ中の添加剤濃度がドープ70中の固形分全体に対して1〜20重量%とすることが好ましい。
【0061】
各配管L1〜L3を通じてフィードブロック30の中に表層ドープ、基層ドープ、支持体層ドープの3種類のドープが送られる。各ドープは、フィードブロック31で合流した後に、3層状態が維持されたままで流延ダイ31に送られてから流延ダイ31の吐出口より流延ドラム34の上に共流延される。流延ドラム34の表面は−20℃〜0℃の範囲で略一定となるように保持される。流延ドラム34の表面に到達したドープは速やかに冷やされて、短時間の内にゲル状の流延膜40が形成される。流延膜40は流延ドラム34の上に滞在する時間が長くなるほど冷却が進み、流延膜40のゲル化が進む。このように表面を冷却した流延ドラム34を支持体とすれば、短時間のうちに自己支持性を持つ流延膜40を形成することができるので生産速度の向上が可能となる。
【0062】
連続的に回転する流延ドラム34の回転速度は80m/分以上で保持されることが好ましい。これにより、生産速度を低下させずに安定した形状の流延ビードを形成させて優れた平面性の流延膜40を得ることができる。なお、回転速度を大きくするほど製膜速度の高速化が実現できるが、流延ドラム34の回転支持構造や高速回転時の同伴風抑制、或いは支持体自身の振動が懸念される。このため、流延ドラム34の回転速度は、流延ドラム34の状態に応じて適宜調節する。流延ドラム34の回転速度は、80m/分以上150m/分以下の範囲がより好ましい。なお、流延ドラム34の回転速度とは、ドープが流延される周面における任意の点の移動速度である。支持体として流延バンドを用いる場合には、上記の回転速度は流延バンドの走行速度に等しい。なお、高速回転時における支持体の安定性は、流延バンドに比べて流延ドラムが優れており、本実施形態のように流延ドラムを用いれば、回転速度を80m/分以上として安定して流延膜40を形成することが可能である。そして、連続的に流延ドラム34が回転することにより、ドープの流延と剥ぎ取りとが繰りかえされる。また、流延室12の内部温度は、温調設備37により10℃〜30℃の範囲で略一定に保持される。
【0063】
自己支持性を持たせた流延膜40は剥取ローラ36で支持されながら流延ドラム34から剥ぎ取られ湿潤フィルム41とされる。本発明では、ドープ原料として、針葉樹を原料とし特定成分の含む割合が所定の範囲としたセルロースアシレートを使用しているので、流延ドラム34の表面における汚れの付着が防止される。なお、本実施形態のように複層の流延膜を形成する場合には、少なくとも支持体である流延ドラム34に接触するドープにおいて上記のセルロースアシレートを使用する。
【0064】
溶媒を多量に含んだ湿潤フィルム41は、渡り部13において乾燥が促進された後にテンタ14に送られる。テンタ14では、湿潤フィルム41の両側端部にピンが差し込み固定した状態で搬送する間に乾燥を進めてフィルム51とする。ここで、対面するピンの間隔を調節することにより湿潤フィルム41の幅方向に対して張力を付与することができる。この張力の大きさを適宜調節すれば湿潤フィルム41の分子配向を好適に制御でき、結果として、所望のレタデーション値をフィルムに発現させることができる。
【0065】
本発明では、フィルムに光学特性を付与することを目的とし、必要に応じてクリップテンタを設置しても良い。クリップテンタとは、湿潤フィルム41の把持手段である多数のクリップと乾燥装置とを備えた延伸乾燥機を意味し、クリップで把持した湿潤フィルム41を搬送しつつ乾燥する間に、対面するクリップの間隔を拡縮させることにより湿潤フィルムの幅方向に張力を付与するものである。また、ピンやクリップ等の把持手段の形態に係わらず、テンタにおいて湿潤フィルム41の搬送速度や把持手段の搬送方向に対する間隔を調節すれば、湿潤フィルム41の搬送方向に張力を付与することができるので、搬送方向にかかる分子配向を制御してより好ましくレタデーション値を調節することが可能となる。なお、ピンテンタとクリップテンタとを併用する場合には、各装置を連続して用いる必要はなく、例えば、ピンテンタで乾燥を進めた湿潤フィルムを一旦ロール状に巻き取った後に、このロール状のフィルムをクリップテンタに供して後の工程を続けても良い。
【0066】
フィルム51は耳切装置47によりその両側端部が切断されてピンの突き刺しキズ等が取り除かれる。切断片はクラッシャ48に送られてチップ状に粉砕される。なお、このチップはフィルムの原料として再利用可能であるため原料コストが削減できる。
【0067】
乾燥室15では、各ローラ50に巻き掛けられ搬送されるフィルム51の膜面温度を60〜145℃となるように加熱してフィルム51の乾燥を十分に進める。上記の膜面温度は、フィルム51の搬送路の近傍に赤外線センサ等の温度計を設けることで測定可能である。乾燥室15を出たフィルム51は冷却室16で略室温まで冷却された後、強制除電装置53で帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)に調節され、更に、ナーリング付与ローラ54によりナーリングが付与される。
【0068】
巻取室17に送られたフィルム51は、プレスローラ56でその中心方向に押圧されながら巻取装置55に巻き取られる。これにより、しわやつれがなく面状が良好なロール状のフィルムが製造される。巻き取るフィルム51は、搬送方向に少なくとも100m以上とすることが好ましく、その幅方向が1400〜2500mmであることが好ましい。ただし、本発明は幅方向が2500mmより大きい場合にも効果を得ることができる。乾燥後のフィルム51の厚みは、30μm以上80μmであることが好ましい。上記の様に幅が広く薄手のフィルムを製造する際にも本発明は優れた効果を発揮する。
【0069】
本実施形態では、流延ドラム34の表面における汚れの付着を防止するため、若しくは付着した汚れを除去するために、ドラム洗浄機44により流延ドラム34を洗浄する。図2に示すように、ドラム洗浄機44は、配管46aの先端に取り付けられたノズル44aと、ノズル44aの周囲に設けられた吸引カバー44bとから構成されている。ノズル44aは、この先端に形成された送風口44cから配管46aを経由して送られる洗浄ガスを流延ドラム34に対して吹き付ける。吸引カバー44bは、図示しない吸引装置に接続された吸引管303によりノズル44a近傍の空気を吸引する。また、ドラム洗浄機44には、図示しないシフト部が接続されている。このシフト部の操作により、流延ドラム34の表面に効率良く洗浄ガスを吹き付けることを目的として、ノズル44aの先端に形成された送風口44cから流延ドラム34までの距離L1や、流延ドラム34に対して洗浄ガスを吹き付ける角度θ1が適宜調節される。
【0070】
適宜、送風口44cから流延ドラム34の表面に対して洗浄ガスが吹き付けられる。洗浄ガス中のドライアイス粒子が流延ドラム34の表面に衝突することで流延ドラム34の表面に付着した有機物が粉砕される。本実施形態の流延ドラム34は、その表面が所定の温度範囲で冷却されているので、ドライアイスは昇華せずに流延ドラム34に衝突する。有機物を粉砕し除去している間は、吸引カバー44bで洗浄箇所周辺の空気を吸引されるため、粉砕し、流延ドラム34の表面周辺に飛散している有機物が回収される。このため、粉砕した有機物が流延膜40の表面に付着し、その表面が傷付くこともない。なお、吸引する力は、洗浄ガスの吹き付け圧よりも小さい範囲で適宜調節すれば良く特に限定はされない。
【0071】
有機物を粉砕する効果は、ドライアイスの平均粒径、洗浄ガスを吹き付ける圧、洗浄ガスと流延ドラム34の表面との吹き付け角度θ1、流延ドラム34の表面とノズル44aとの距離L1等を好適に調節することで向上させることができる。ドライアイスの平均粒径は、5μm以上20μm以下であることが好ましい。ドライアイス粒子は、粒径が20μmを超えると大きすぎて支持体表面を傷付けるおそれがある。逆に粒径が5μm未満であると小さすぎて有機物を粉砕する効率が落ちる。なお、ドライアイスの粒径は、有機物の成長に応じて適宜選択することが好ましい。
【0072】
洗浄ガスを吹き付ける圧は、好ましくは600kPa以上4000kPa以下であり、より好ましくは1000kPa以上2500kPa以下である。吹き付け圧が4000kPaを超えると、ノズル44b内にドライアイス粒子が詰まるおそれがある他、流延ドラム34の表面を傷付けるおそれがある。一方で、600kPa未満では、ガスの衝突時に発生するエネルギーが小さいため、有機物を粉砕する効果が弱い。
【0073】
また、洗浄ガスを吹き付ける方向と流延ドラム34の表面とのなす角度θ1は、好ましくは45°以上135°以下であり、より好ましくは70°以上110°以下、最も好ましくは85°以上95°以下である。この角度θ1は、有機物の形状等に応じて適宜調節される。更に、ノズル44aの送風口44cと流延ドラム34の表面との距離L1は、好ましくは0.1mm以上15.0mm以下であり、より好ましくは0.1mm以上10.0mm以下であり、特に好ましくは0.1mm以上2.0mm以下である。上記のL1は、送風口44cから出た洗浄ガスが流延ドラム34の表面に衝突するまでの長さに等しい。L1が15mmを超えて長くなるほど、流延ドラム34の表面に到達する前にドライアイス粒子が昇華することが懸念され、有機物を粉砕するに必要な衝突時のエネルギー確保が難しい。一方で、L1を0.1mm未満とすると、衝突時のエネルギーを確保することができない他、装置の設置が困難である。
【0074】
本発明のように洗浄ガスを吹き付ける方法は、流延ドラム34の表面に付着する有機物の除去に有用である。有機物は、脂肪酸エステルを主成分とするものを代表とし、脂肪酸や脂肪酸金属塩の他、ドライアイス粒子の吹き付けにより粉砕される、或いは、液状の二酸化炭素に溶解し、液状の二酸化炭素とともに蒸発するものが被対象となる。また、上記実施形態では、ドライアイスと空気とからなる洗浄ガスを用いると記載したが、これに限らず、空気の変わりに窒素や不活性ガスなどを用いても良い。
【0075】
洗浄ガスは、流延ドラム34上に流延膜40を形成する前、若しくは流延ドラム34から流延膜40を剥ぎ取った後において吹き付ける。このとき、常時(連続的に)或いは間欠的に吹き付けを行う。流延膜40が剥ぎ取られた後であって可能な限り早期に洗浄ガスを吹き付ければ、有機物の成長が進んでいないので効率良く有機物を粉砕除去できる。洗浄ガスを吹き付ける時間は、有機物の粉砕を効率良くかつ効果的に行うことを目的として、好ましくは0.001秒以上5秒以下であり、より好ましくは0.01秒以上5秒以下である。また、本実施形態では、製膜中に流延ドラム34の表面の有機物を除去する、いわゆる、オンラインの形式を示したが、一旦流延ドラム34を取り出してからその表面に同様の除去処理を施す、いわゆるオフラインで異物を除去してもよい。この場合、代替の流延ドラム34を設置すれば生産性の低下を極力抑えることができる。
【0076】
本発明のように洗浄ガスを用いて流延ドラム34を洗浄する方法を用いれば、不織布等の清掃手段と対比して流延ドラム34の表面に洗浄跡を残すことなく有機物を取り除くことができ、流延ドラム34の表面を傷付けるおそれも軽減される。また、ドラム洗浄機44を減圧チャンバ32と剥取ローラ36との間であって流延ドラム34の表面近傍に設置すればフィルムの製造を停止させることなく洗浄することができる。なお、ドライアイス粒子を吹き付ける方法は、防爆管理下にある流延ドラム34表面の洗浄手段として適用可能である。
【0077】
上記のようなドライアイス粒子を空気と混合した洗浄ガスを供給する装置は特に限定されず、例えば、液状の二酸化炭素を吹き付けて生成させたドライアイス粒子を用いることにより洗浄ガスとしてもよい。次に、図3を参照して、液状の二酸化炭素を用いる場合のドラム洗浄機の実施形態について説明する。図3に示すように、ドラム洗浄機150は、第1ノズル151と第2ノズル152とからなる。
【0078】
第1ノズル151は、キャリアガス300が導入されるキャリアガス導入口162と、液状の二酸化炭素310が導入される二酸化炭素導入口163と、洗浄ガス320を送り出す洗浄ガス送風口164と、キャリアガス導入口162及び洗浄ガス送風口164を連通させるキャリアガス流路165と、二酸化炭素導入口163及びキャリアガス流路165を連通させる二酸化炭素流路166とを備える。キャリアガス流路165は、キャリアガス300及び二酸化炭素流路166からの液状の二酸化炭素310から、ドライアイス粒子311を含む洗浄ガス320をつくる粒子形成部167を有する。また、二酸化炭素流路166の出口166a側にオリフィス168を有する。更に、キャリアガス流路165は、粒子形成部167の上流側に、キャリアガス流路165の断面積よりも大きな断面積を有する整流用ポケット169を有する。
【0079】
第2ノズル152は、洗浄ガス送風口164からの洗浄ガス320が導入される洗浄ガス導入口175と、洗浄ガス320を送り出す洗浄ガス供給口176と、キャリアガス導入口175及び洗浄ガス送風口176を連通させる洗浄ガス流路177とを備える。また、洗浄ガス流路177は、洗浄ガス流路177の断面積よりも大きな断面積を有する整流用ポケット178を有する。
【0080】
第2ノズル152は、洗浄ガス送風口164と洗浄ガス導入口175とが連結するように第1ノズル151に取り付けられる。そして、流延ドラム34の周面34bと洗浄ガス送風口176との距離L1や吹き付け角度θ1が所望の値になるようにドラム洗浄機150が配される。なお、流延ドラムの近傍に対するドラム洗浄機の設置条件(L1及びθ1など)は、前述と同じとすればよいのでここでの説明は省略する。
【0081】
キャリアガス導入口162は、配管180を介してキャリアガス300の供給源であるキャリアガスタンク181と接続する。配管180には、キャリアガス300の流量を調節する絞り弁182が設けられる。二酸化炭素導入口163は、配管190を介して液状の二酸化炭素310の供給源である二酸化炭素タンク191と接続する。配管190には、液状の二酸化炭素310の流量を調節する絞り弁192が設けられる。
【0082】
これら絞り弁181、191は、コントローラ195により調節される。コントローラ195の制御の下、絞り弁181、191の開度がそれぞれ所望の範囲に調節される。絞り弁181、191の開度の調節により洗浄ガス320の吹き付け圧力、ドライアイス311の粒径、キャリアガス300と液状の二酸化炭素310との混合比率などを調節することができる。
【0083】
キャリアガス300は、例えば、空気などが用いられる。キャリアガスタンク181は、キャリアガス300を所定の圧力に圧縮した状態で格納してもよい。液状の二酸化炭素310としては、純度の高いものを用いることが好ましい。また、二酸化炭素タンク191や配管190の条件としては、二酸化炭素タンク191から送られる液状の二酸化炭素310が、粒子形成部167に到達するまでに、液状を維持しえる程度のものであればよい。
【0084】
次に、ドラム洗浄機150の作用について説明する。コントローラ195の制御の下、絞り弁181、191の開度がそれぞれ所望の範囲に調節される。キャリアガス300は、所定の流量Q1(m/mm・分)で配管180を介してキャリアガスタンク181からキャリアガス導入口162に導入され、キャリアガス流路165の粒子形成部167まで送られる。液状の二酸化炭素310は、所定の質量流量Q2(kg/mm・分)で配管190を介して二酸化炭素タンク191から二酸化炭素導入口163に導入され、二酸化炭素流路166まで送られる。二酸化炭素流路166に送られた液状の二酸化炭素310は、オリフィス163を介して粒子形成部167に送られる。粒子形成部167に送られた液状の二酸化炭素310は、相変化により二酸化炭素ガスとドライアイス粒子311とになる。そして、キャリアガス300の流れにより二酸化炭素ガスとドライアイス粒子311とが周面34bに析出した有機物X1に衝突する。このドライアイス粒子311と有機物X1との衝突により有機物X1が周面34bから除去される。
【0085】
有機物X1の除去作用としては、(1)ドライアイス粒子と有機物X1との衝突により、吹き付けられるドライアイス粒子の運動エネルギーが周面34bに付着する有機物X1の破壊に用いられること、(2)有機物X1との衝突に起因してドライアイス粒子が液状の二酸化炭素となり、この液状の二酸化炭素が有機物X1を溶解すること、(3)液状の二酸化炭素やドライアイス粒子の気化時による体積膨張が有機物X1を吹き飛ばすこと、及び(1)〜(3)の組合せによる相乗効果が挙げられる。ドライアイス粒子との衝突に起因する効果により周面34bから除去された有機物X1は微細化され、雰囲気ガスとともに循環されるため有機物X1や残存物による厚みムラや析出物故障などの発生につながることはない。また、周面34bに残存したとしても微小物であり、これによる析出物故障に発展することもない。
【0086】
なお、第2実施形態では、第1ノズル151と第2ノズル152とからなるドラム洗浄機150を用いたが本発明はこれに限られず、第1ノズル151のみをドラム洗浄機として用いてもよい。
【0087】
なお、本発明に係わるドラム洗浄機は、流延ドラムに対して被接触式であって、流延ドラムに対してその幅方向に均一に洗浄ガスを吹き付けることができるものが好ましい。好適な事例としては、例えば、支持体の幅方向全長と略同等の送風口を有するものが挙げられる。また、予め、小スケールでドープを流延する等して支持体の表面に有機物が発生しやすいポイントを特定しておき、このポイントに狙いを定めてドラム洗浄機をランダムに設置しても良い。
【0088】
また、上記実施形態ではフィルム製造設備において流延ドラムの表面の有機物を除去する、いわゆるオンライン形態を記載したが、フィルム製造設備から取り出した流延ドラムの表面に同様の除去処理を施す、いわゆるオフライン形態で有機物を除去してもよい。更に、ドラム洗浄機の設置数は特に限定されず、1機或いは複数機を用いてもよい。複数のドラム洗浄機を用いる場合には、これらを流延ドラムの幅方向に並列してもよいし、予め、小スケールでドープを流延するなどして有機物が付着すると予想される箇所を特定した上で、当該箇所に狙いを定めてランダムに設置してもよい。1機の場合には、ドラム幅全域に走行可能な走査型の洗浄機を用いることが好ましい。これにより広域で有機物を粉砕することができる。なお、流延ドラムの替わりになる支持体として、回転ローラに掛け渡されて無端で走行する流延バンドを用いる場合でも、本発明の効果は発揮される。
【0089】
本発明は、目的とするフィルムが単層であっても、複層であっても効果を得ることができる。複層構造のフィルムを形成する場合、本実施形態では、複数のドープを同時に流延する共流延の形態を示したが特に限定されず、例えば、複数のドープを逐次に支持体上に流延する方法でも良いし、これらの方法を組み合わせても良い。複数のドープを支持体上に逐次に流延する場合には、所望とする流路を有したフィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型の流延ダイを用いても良い。この場合、共流延により多層からなるフィルムを形成する場合には、表層の厚さと支持体層の厚さとの少なくともいずれか一方をフィルム全体の厚みの0.5〜30%とすることが好ましい。また、同時にドープを流延する場合には、ダイスリットから支持体上にドープを流延するとき、高粘度のドープが低粘度のドープで包み込むことが好ましい。更に、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち外界と接するドープにおけるアルコールの組成比が、その内部のドープよりも大きいことが好ましい。
【0090】
本発明に係わるフィルム製造設備のうち、流延ダイ、減圧チャンバ、支持体等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0091】
次に、本発明に係わるドープの調製方法について具体的に説明する。図4に示すように、本実施形態で用いられるドープ製造設備100は、溶剤タンク101と、ホッパ102と、添加剤タンク103と、混合タンク105と、加熱装置106と、温調装置107と、濾過装置109と、フラッシュ装置110等から構成されている。また、このドープ製造設備100はストックタンク60を介してフィルム製造設備10に繋げられている。
【0092】
溶剤タンク101は、ドープの溶媒として作用する溶剤が入れられており、本実施形態では、予めジクロロメタン及びメタノールを所定の割合で混合したものが入れられている。複数の溶剤を用いる場合、混合物とせずに所望とする溶剤の種類に応じてタンクを用意し、適宜混合タンクに送る形態でも良い。ホッパ102は、フィルムの原料となるポリマーが入れられており、本実施形態ではTACが入れられている。添加剤タンク103は、フィルムに付与する所望の機能に応じて選択された添加剤が入れられている。先に説明した通り、この添加剤は、基層ドープ、支持体層ドープ、表層ドープに共通して使用する添加剤である。
【0093】
混合タンク105は、混合タンク105の外面を包み込むようにして設けられたジャケット110と、第1攪拌機112と、第2攪拌機113等とで構成されている。混合タンク105は、ジャケット110の内部に温度を調節した伝熱媒体を通過させることで、その内部温度が所定の範囲で略一定に保持されている。モータ115,116により第1攪拌機112及び第2攪拌機113をそれぞれ回転させてドープの原料を攪拌する。これにより、混合タンク105内で混合液120が作られる。第1攪拌機112はアンカー翼であることが好ましく、第2攪拌機113はディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。このように異なるタイプの攪拌機を適宜選択しながら用いればドープの原料を効率良くかつ効果的に攪拌することができる。
【0094】
加熱装置106は、温調制御が可能なジャケット付き配管が好適に用いられ、混合液120を所定の温度範囲で加熱してポリマー等の固形分を溶媒に溶かす。加熱装置106による混合液120の加熱温度は0〜97℃とする。溶解度を向上させる上で加熱装置106は加圧手段を備えたものが好ましい。これにより、熱ダメージを軽減しながら溶解度を向上させることができる。なお、本発明において、加熱装置106による加熱とは、室温以上の温度に混合液120を加熱するという意味ではなく、混合液120の温度を上昇させると言う意味である。例えば、加熱装置106に送られた時点での混合液120の温度が−7℃の場合には0℃にすることも加熱である。
【0095】
混合液120の溶解度を向上させるには、上記の加熱溶解に代えて冷却溶解を用いても良い。冷却溶解は、混合液120を−100〜−10℃に冷却させることにより溶解度を向上させるものである。なお、加熱溶解及び冷却溶解はドープの原料等に応じて適宜選択して行なうことにより混合液120の溶解度を好適に制御することができる。温調装置107には温度制御機能が備えられており、混合液120を略室温としてドープ70とする。本実施形態では、温調装置107を出た後の液をドープ70と称する。
【0096】
濾過装置109の内部には多孔質のフィルタが備えられており、ドープ70をフィルタに通過させることで異物を取り除く。フィルタは特に限定されるものではないが、効率良くかつ効果的に濾過を進める上で平均孔径が100μm以下のものが好ましい。また、濾過時間を長引かせずに異物を効率良く取り除く上では、濾過装置109によるドープ70の濾過流量を50L/時以上とすることが好ましい。なお、フラッシュタンク110の下流に設置した濾過装置113は上記と同形のものを用いる。各濾過装置の濾過条件は同一である。
【0097】
ドープ製造設備100を構成する各部材は、耐食性や耐熱性に優れる等の利点からステンレス製の配管で接続されている。また、各配管には任意にポンプP5、P6やバルブV1、V2が取り付けられており、配管内に送られる原料ドープ等の流量が適宜調節される。なお、ドープ製造設備100に設置されるポンプやバルブの個数及び設置箇所等は特に限定されず、適宜選択して用いれば良い。
【0098】
次に、上記のドープ製造設備100の作用について説明する。
【0099】
溶剤タンク101及びホッパ102から混合タンク105の中に適宜適量の溶剤、TACが送られる。溶剤やTACを送る順序は限定されず、TAC、溶剤の順でも良いし、同時に送っても良い。また、添加剤タンク103から適宜適量の添加剤が混合タンク105の中に送られる。混合タンク105では、第1攪拌機112及び第2攪拌機113が回されて溶剤、TAC、添加剤が攪拌される。これにより各種ドープの原料を混合した混合液120が調製される。なお、混合タンク105は、ジャケット110の内部に温度を調整した伝熱媒体を流して−10〜55℃の範囲で略一定に保持する。
【0100】
混合液120は加熱装置106に送られ所定の温度範囲で加熱されることにより溶解度が高められる。この後、温調装置107により混合液120は略室温とされてドープ70が得られる。ドープ70は、平均孔径が100μmのフィルタを備えた濾過装置109に送られて異物が取り除かれる。この時点でドープ70の濃度が所望の値である場合、ストックタンク60へ送られ、流延に供するまでの間、貯留される。ストックタンク60では、モータ62で回転させた攪拌機63によりドープ70は常時攪拌され、均一な状態が保持される。なお、本実施形態のようにTACを使用する場合には、ドープ70中のTACの濃度は5〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは15〜30重量%であり、特に好ましくは17〜25重量%である。
【0101】
上記のように、混合液120を作ってから、所望の濃度のドープ70を調製する方法では、所望とするドープ70の濃度が高いほど調製に要する時間が長くなり、製造コストが増大する等の問題が生じる。この問題を改善するには、所望とする濃度よりも低濃度のドープ70を調製した後に所望の濃度まで濃縮させる方法が好ましい。本実施形態では、この方法を採用し、以下に、濃縮方法の詳細を説明する。
【0102】
前述の手順により所望とする値よりも濃度が低いドープ70を調製する。濾過装置109でドープ70の異物を取り除いた後に、バルブV2の開閉によりフラッシュ装置110に送る。フラッシュ装置110では、ドープ70に含まれている溶剤の一部を蒸発させて、ドープ70を所望の濃度にまで濃縮させる。これにより、短時間で高濃度のドープが調製できる。濃縮したドープ70は、ポンプP6でフラッシュ装置110から抜き出した後に、濾過装置113を通過させて異物を取り除く。濾過装置113では、ドープ70の温度を0〜200℃とすることが好ましい。濾過後のドープ70は、必要となるまでストックタンク60に貯留される。ドープ70から蒸発した溶剤ガスは、凝縮器(図示しない)で凝縮液化させた後に回収装置117で回収される。この後、再生装置118で再生された溶剤をドープの調製に用いると、原料コストの削減を図ることができる。なお、ドープ70をフラッシュ装置110から抜き出す際には、ドープ70の中に発生した気泡を抜くため、泡抜き処理を施すことが好ましい。泡抜き処理の方法としては、公知の方法を適用することができ、例えば、超音波照射法が挙げられる。
【0103】
本発明に係わるドープの製造方法(例えば、素材、原料の溶解方法、及び添加方法、濾過方法、脱泡等)は、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0104】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
本発明で得られるフィルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[1073]段落から[1087]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0105】
[表面処理]
また、完成したフィルムの少なくとも一方の面には、表面処理されていることが好ましい。この表面処理は、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0106】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
完成したフィルムの少なくとも一方の面は下塗りされていても良い。
【0107】
また、本発明に係わるフィルムをベースとして他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。機能性層としては、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、及び光学補償層のうち、少なくとも1層を設けることが好ましい。そして、この機能性層は、少なくとも一種の界面活性剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の滑り剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましい。機能性層は少なくとも一種のマット剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の帯電防止剤を1〜1000mg/m含有することが好ましい。なお、フィルムに対して様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1072]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0108】
本発明で得られるフィルムの用途について説明する。当該フィルムは、平面性に優れると共に、優れた光学特性を有することから、偏光板の保護フィルム等として有用である。このフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を液晶層に2枚貼ることにより作製した液晶表示装置は、液晶表示能力に優れる等の特長を示す。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報には、例えば、[1088]段落から[1265]段落に、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この方法も本発明に適用させることができる。また、同出願には光学的異方性層を付与したフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したフィルムについての記載、適度な光学性能を付与した光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これらの記載も本発明に適用させることができる。
【0109】
次に、本発明に係わる実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。なお、ここに示す形態は、本発明に係わる一例であって、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0110】
〔フィルム製造〕
フィルム製造設備10において、表面にクロムめっき及び鏡面加工処理が施され、直径1000mmの円筒状の流延ドラム34の表面上に基層ドープ、表層ドープ、支持体層ドープを流延した。このとき、各ドープの流延量は、完成したフィルムの膜厚が60μmとなるように調整した。流延ドラム34の表面を−12℃に設定し、この設定温度±1℃の範囲に温度が保持されるように温度制御した。これにより、流延された各ドープを冷却してゲル状の流延膜40を形成した。十分に冷却し自己支持性を持たせた流延膜40を、剥取ローラ36で支持しながら流延ドラム34から剥ぎ取って湿潤フィルム41とした。渡り部13及びテンタ14を介して湿潤フィルム41を所定の残留溶媒量まで乾燥しフィルム51とした。この後、乾燥室15でフィルム51の乾燥を十分に進めた。
【0111】
剥取ローラ36と減圧チャンバ32との間であって流延ドラム34の表面近傍に、ドラム洗浄機44を設置して、オンラインで流延ドラム34の洗浄を行った。ドラム洗浄機44としては(株)リンクスタージャパン製snocleとし、ノズル44aはテフロン(登録商標)製のオリフィス付ノズルとした。流延ドラム34の表面に対する洗浄ガスの吹き付け角度θ1は85°とした。ノズル44aの送風口44cと流延ドラム34の表面との距離L1は15mm、洗浄ガスの吹き付け圧を896.35kPaとして、回転中の流延ドラム34に対する1回の連続した吹き付け時間を5秒とした。これにより、流延ドラム34の周面上の任意の点に対する洗浄ガスの吹き付け時間は、0.01秒程度となる。
【0112】
実施例1では、針葉樹を原料とするTACを使用した。また、TAC中のCa成分は5ppmであり、Mg成分は40ppmであった。
【0113】
製造開始から200時間が経過した後、流延ドラム34の表面に汚れが付着しているか否かを目視により確認した。ここで、汚れの付着がほとんど確認されない場合を◎とし、非常に少ない場合を○、若干確認されたが、製造上問題となるレベルでない場合を△、非常に多くの汚れが確認された場合を×とした。この結果、実施例1において汚れは確認されなかった(◎)。また、完成したフィルム51の耐熱性を評価したところ、製品レベルを満足する良好な値(○)を示した。
【実施例2】
【0114】
実施例2では、TAC中のMg成分の含有量を30ppmとした以外は、全て実施例1と同様にフィルムを製造した。その結果、製造開始から200時間経過しても、流延ドラムの上には非常に少量の汚れしか確認されなかった(○)。また、完成したフィルム(膜厚60μm)の耐熱性も良好であった。
【実施例3】
【0115】
実施例3では、広葉樹を原料としたTACを使用する以外は、全て実施例1と同様にフィルム製造した。この結果、製造開始から200時間が経過した時点で有機物が確認された(×)。
【0116】
〔比較例1〕
比較例1では、ドラム洗浄機44による流延ドラム34の洗浄を行わずに製膜した以外は全て実施例1と同様にフィルムを製造した。その結果、製造開始から200時間経過した時点で非常に少量ながら汚れが確認された(△)。一方、完成したフィルム(膜厚60μm)の耐熱性を確認したところ、良好な値(○)を示した。
【0117】
〔比較例2〕
比較例2では、TAC中のCa成分の含有量を70ppm、Mg成分の含有量を5ppmとした。また、ドラム洗浄機44を使用せずに製膜した以外は、全て実施例1と同様にフィルムを製造した。その結果、製造開始から48時間を経過したところで既に流延ドラム34の表面に汚れが確認された。また、完成したフィルム(膜厚60μm)の耐熱性を確認したところ、製品レベルを満たさなかった(×)。
【0118】
〔比較例3〕
比較例3では、Ca成分の含有量が30ppmであるTACを使用した以外は、全て実施例1と同様にフィルムを製造した。この結果、完成したフィルム(膜厚60μm)の耐熱性を評価したところ、製品レベルとしては良好(○)であったが、製造開始から200時間が経過したとき、汚れの付着が確認された(×)。
【実施例4】
【0119】
次に、実施例1における完成させるフィルムの厚みと、流延ドラム34の表面の温度と、吹付時間との少なくともいずれかひとつを表1のように代えて実験1〜5を実施した。吹付時間は、フィルムの製造を継続して200時間実施した間における吹付の時間の和である。その他の条件は実施例1と同じである。各実験1〜5についても実施例1〜実施例3及び比較例1〜比較例3と同様に実施した。評価結果についても表1に示す。
【0120】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明に係わるフィルム製造設備の一例の概略図である。
【図2】第1の実施形態であるドラム洗浄機を利用した流延ドラム周辺の概略図である。
【図3】第2の実施形態であるドラム洗浄機を利用した流延ドラム周辺の概略図である。
【図4】本発明に係わるドープ製造設備の一例の概略図である。
【符号の説明】
【0122】
10 フィルム製造設備
12 流延室
31 流延ダイ
34 流延ドラム
40 流延膜
44、150 ドラム洗浄機
51 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドレス走行の支持体の上に、セルロースアシレートと溶媒とを含むドープを流延して流延膜を形成した後、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取り、乾燥してフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、
前記セルロースアシレートとして、木材から得られるセルロースをエステル化することで作られ、前記セルロースアシレートに含まれる化合物若しくは結合カルボン酸基の前記セルロースアシレートに対するモル当量が3以上15以下の範囲内で、前記セルロースアシレート中のCa成分の質量濃度が0ppm以上5ppm以下であって、Mg成分の質量濃度が10ppm以上70ppm以下のものを使用し、
前記支持体の表面に粒状のドライアイスを含む洗浄ガスを吹き付けることにより前記流延膜から生じて前記支持体の表面に付着した有機物を除去することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記木材が針葉樹であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記支持体の表面温度が−20℃以上0℃以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記洗浄ガスを、前記流延膜が剥ぎ取られた後で前記ドープが流延される前の前記支持体の表面に吹き付けることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記支持体は周面を持つ流延ドラムであり、その回転速度が80m/分以上であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記流延膜が、前記支持体の上で空気に接する表層と前記表層及び前記支持体に接する内層とを有することを特徴とする請求項1ないし5いずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−260925(P2008−260925A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70209(P2008−70209)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】