説明

セルロースエステルフィルム、長尺位相差フィルム、光学フィルムとその製造方法及びそれらを用いた偏光板と表示装置

【課題】面品質(押され故障、膜厚偏差が少ない)に優れ、リターデーション値R0の制御が容易で、均一な位相差特性を有するセルロースエステルフィルム、長尺位相差フィルム、光学フィルムとその製造方法並びにそれを用いた表示品質に優れる偏光板及び表示装置を提供する。
【解決手段】炭素数2〜4のアシル基を置換基として有し、グルコース残基における2位、3位及び6位のアシル基置換度の合計が2.67未満であり、かつ6位のアシル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルを含み、かつ紫外線吸収性基を有する繰り返し単位を含む特定な高分子紫外線吸収剤を含有することを特徴とするセルロースエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置、有機ELディスプレイ等の表示装置に用いられるセルロースフィルム及びその製造方法に関し、更に詳しくは、位相差機能を備えた長尺位相差フィルム、光学フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型軽量ノートパソコンの開発が進んでいる。それに伴って、液晶表示装置等の表示装置で用いられる偏光板の保護フィルムもますます薄膜化、高性能化への要求が強くなってきている。偏光板用保護フィルムには、一般的にトリアセチルセルロースフィルムが広く使用されているが、薄膜化の為には、優れた光学特性が要求される。
【0003】
液晶表示装置等に使用される偏光板は、一般に、偏光子の両面に高分子フィルムからなる保護フィルムを張り合わせることで構成されている。偏光子は、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、エチレンビニルアルコール系フィルム、セルロース系フィルム、ポリカーボネート系フィルムなどがあるが、加工性等の理由からヨウ素染色したポリビニルアルコール系フィルムを延伸したもの、あるいは、ポリビニルアルコール系フィルムを延伸した後、ヨウ素染色したものが一般に用いられている。保護フィルムとしては、光学的異方性が小さく、透明性に優れ、更に偏光子との接着性に優れることからセルローストリアセテートフィルムが広く使用されている。偏光板保護フィルムとしては、上記の特性以外に、寸法安定性や偏光子の劣化を防止するための紫外線吸収機能、水分のバリアー機能などに優れることが重要である。偏光子と保護フィルムは、天然ゴム、合成ゴム、アクリル系樹脂、ブチラール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等を主成分とする接着剤ないし粘着剤を用いて接着される。
【0004】
液晶表示装置等に使用されている位相差フィルムは、偏光板と組み合わせて使用することで、色補償、視野角拡大等の問題を解決するために用いられており、可視光領域の波長に対して直線偏光を円偏光に変換したり逆に円偏光を直線偏光に変換する機能を有している。1枚の位相差フィルムで上記の効果を得るには、位相差フィルムに入射する波長(λ)において位相差がλ/4になることが好ましい。この様な位相差フィルムは、例えば、偏光板を一枚だけ使用し裏面電極を反射電極と兼ねた構成の反射型液晶表示装置に用いることで、画質に優れた反射型表示装置を得ることができる。また、ゲストホスト型の液晶層の観測者に対して裏面側にこの位相差フィルムを用いたり、左右どちらか一方の円偏光のみを反射するコレステリック液晶等から構成される反射型偏光板の円偏光を直線偏光に変換する素子としても、同様に用いられる。
【0005】
また、プラズマディスプレイや有機EL素子を用いたディスプレイ等の前面板における反射防止フィルムとして利用することで、反射光の色付きを低減することが可能である。また、タッチパネル等の反射防止にも利用することができる。
【0006】
従来から、位相差フィルムの材料としては、例えば、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アモルファスポリオレフィンなどがある。これらの高分子フィルムは、波長が長いほど位相差が小さくなる特性を持っており、可視光領域の全波長に対して理想的な位相差特性を付与することは困難であった。
【0007】
この問題に対して、特開2000−137116号では、2.5〜2.8のアセチル化度を有するセルロースアセテートの配向フィルムを位相差フィルムとして用いることが提案されている。この方法によれば、波長が長いほど位相差が大きくなり、可視光領域の全波長に対して理想的な位相差特性が得られるとしている。
【0008】
位相差フィルムは、偏光板と組み合わせて用いることで、前述したような効果が得られる。これまでは、液晶表示装置の中で、偏光板と位相差フィルムは別々の光学要素として構成されてきた。従って、偏光板と位相差フィルムを張り合わせる工程が必要であり、製造工程が複雑になることに加えて、張り合わせ時に、泡や異物が入り込んだり、しわが入ったりすることで、不良品が発生するなどの問題が多々あった。
【0009】
本発明者等は、偏光板の保護フィルムの代わりに位相差フィルムを偏光子と張り合わせることで、液晶表示装置の製造工程が短縮でき、更に不良の発生も低減できると考えた。
【0010】
従来のポリカーボネートを用いた位相差フィルムでは鹸化処理ができないため、偏光子あるいはセルロースエステル系の偏光板保護フィルムとの接着性に劣っていた。このため、偏光板と位相差フィルムの貼合が困難であったり、あるいは偏光板保護フィルムと兼ねることが困難であった。
【0011】
ところで、これらの光学フィルムは、均一な光学特性を有することが求められている。具体的には偏光板保護フィルムとしては、リターデーション値R0が低いほど好ましいとされ、位相差機能を付与する際には、目的のリターデーション値R0の値となるように延伸等の方法により調整が容易であり、また均一に作りやすいことが求められている。すなわち、延伸によってこれらのフィルムを製造する際に、幅手方向でリターデーション値R0が分布を持ってしまい、均一なものが得にくい等の問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、均一な位相差機能を有し、加えて面品質(押され故障、膜厚偏差が少ない)に優れ、更に、リターデーション値R0の制御が容易で、均一な位相差特性を有する光学フィルムを生産性よく製造できるセルロースエステルフィルム、長尺位相差フィルム、光学フィルムとその製造方法を提供することにあり、またこれらを用いた表示品質に優れる偏光板及び表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成された。
【0014】
1.炭素数2〜4のアシル基を置換基として有し、グルコース残基における2位、3位および6位のアシル基置換度の合計が2.67未満であり、かつ6位のアシル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルを含み、かつ下記一般式(3)で表される紫外線吸収性基を有する繰り返し単位を含む高分子紫外線吸収剤を含有することを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【0015】
【化1】

【0016】
〔式中、R12〜R25は各々、水素原子、ハロゲン原子または置換基を表す。〕
2.アセチル基を置換基として有し、グルコース残基における2位、3位および6位のアセチル基置換度の合計が2.5以上2.67未満であり、かつ6位のアセチル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルを含み、かつ下記一般式(3)で表される紫外線吸収性基を有する繰り返し単位を含む高分子紫外線吸収剤を含有することを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【0017】
【化2】

【0018】
〔式中、R12〜R25は各々、水素原子、ハロゲン原子または置換基を表す。〕
3.前記セルロースエステルが、重量平均分子量Mwの数平均分子量Mnに対する比が2.0以上3.5以下であることを特徴とする前記1または2項記載のセルロースエステルフィルム。
【0019】
4.面内方向のリターデーション値R0が、110〜2000nmであることを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【0020】
5.数平均分子量1000〜100000の高分子紫外線吸収剤を含むことを特徴とする前記1〜4項のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【0021】
6.膜厚が30〜70μmであることを特徴とする前記1〜5項のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【0022】
7.フィルムの厚み方向のリターデーション値Rtが、0〜75nmであることを特徴とする前記1〜6項のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【0023】
8.長尺フィルムで、かつ幅手方向における面内方向のリターデーション値R0の変動率が、±5%以内であること特徴とする前記1〜7項のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【0024】
9.酢酸メチルまたはアセトンを含むセルロースエステル溶液を支持体上に流延して製膜されたこと特徴とする前記1〜8項のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【0025】
10.フィルム面内の遅相軸方向が、長尺方向に対して±5度の範囲または幅手方向に対して±5度の範囲のいずれかであることを特徴とする前記1〜9項のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルムからなる長尺位相差フィルム。
【0026】
11.炭素数2〜4のアシル基を置換基として有し、2位、3位および6位のアシル基置換度の合計が2.67未満であり、かつ6位のアシル基置換度が0.87未満であるセルロースエステル、その溶媒、可塑剤及び下記一般式(3)で表される紫外線吸収性基を有する繰り返し単位を含む高分子紫外線吸収剤を含むセルロースエステル溶液を支持体上に流延し、剥離後のセルロースエステルフィルムを長尺方向または幅手方向に同時もしくは逐次延伸することを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0027】
【化3】

【0028】
〔式中、R12〜R25は各々、水素原子、ハロゲン原子または置換基を表す。〕
12.延伸時の温度が40〜200℃の範囲で、かつ1.15〜4.0倍に延伸することを特徴とする前記11項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0029】
13.残留溶媒量として30質量%未満で延伸することを特徴とする前記11または12項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【0030】
14.光学フィルムが、前記11〜13項のいずれか1項記載の方法で製造されたセルロースエステルフィルムであることを特徴とする光学フィルム。
【0031】
15.前記1〜9項のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム、前記10項に記載の長尺位相差フィルムまたは前記14項に記載の光学フィルムを、偏光子または偏光板の少なくともの一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【0032】
16.前記15項に記載の偏光板を有することを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、面品質(押され故障、膜厚偏差が少ない)に優れ、更に、リターデーション値R0の制御が容易で、均一な位相差特性を有する光学フィルムを生産性よく製造できるセルロースエステルフィルム、長尺位相差フィルム、光学フィルムとその製造方法並びにそれを用いた表示品質に優れる偏光板及び表示装置を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0035】
請求項1に係る発明では、セルロースエステルが、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有し、グルコース残基における2位、3位および6位のアシル基置換度の合計が2.67未満であり、かつ6位のアシル基置換度が0.87未満であることが特徴である。セルロースエステルの中でも、特に、上記のようなアシル基置換度を有するものが、より均一な光学特性を得ることができる。更に好ましくは、請求項2に係る発明である、アセチル基を置換基として有し、2位、3位および6位のアセチル基置換度の合計が2.5以上2.67未満であり、かつ6位のアセチル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルを含むことである。上記の特性を有する本発明のセルロースエステルを用いることにより、リターデーション値R0が50nm以上のフィルムを得る場合、特に効果が認められる。特に、請求項4に係る発明である面内方向のリターデーション値R0(以降、単にR0ともいう)が、110〜2000nmの範囲にある位相差機能を付与したセルロースエステルフィルムを得る場合、所望のR0値が得られるように延伸等の方法によって製造されるが、本発明のセルロースエステルを含有させて延伸することによって、幅手方向のR0値のばらつきが少ない均一なフィルムを得ることができる。特に、膜厚が120nm以下の薄い膜厚のセルロースエステルフィルムでは均一な位相差機能を持たせることが困難であったが、本発明により薄い膜厚であっても均一な位相差機能を有するセルロースエステルフィルムを得ることができた。
【0036】
本発明でいうリターデーション値R0は、下式により定義される。
【0037】
R0=(Nx−Ny)×d
式中、Nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、Nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、dはフィルムの膜厚(nm)を表す。
【0038】
本発明のセルロースエステルは、アセチル基を有することが好ましく、このほかプロピオニル基及び/またはブチリル基等の置換基を有してもよい。
【0039】
更に、請求項5に係る発明では、セルロースエステルフィルムに数平均分子量1000〜100000の高分子量の紫外線吸収剤を含有させることが特徴であり、これにより面品質に優れたフィルムを得ることができる。
【0040】
本発明のセルロースエステルフィルムは、膜厚が120μm以下であることが好ましく、特に請求項6に係る発明では、膜厚が30〜70μmであることが特徴であり、薄膜であっても上記特性を有するセルロースエステルを用いることにより、均一なR0値を有するセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0041】
本発明のセルロースエステルフィルムによれば、幅手方向でのR0の変動率は±10%未満が好ましく、更に好ましくは請求項8に係る発明である±5%未満のセルロースエステルフィルムであり、特に好ましくは±1%未満のセルロースエステルフィルムである。
【0042】
請求項10に係る発明では、セルロースエステルフィルムにおいて、フィルム面内の遅相軸方向が、長尺方向に対して±5度の範囲または幅手方向に対して±5度の範囲のいずれかであることが特徴であり、更に長尺方向に対して±1度の範囲あるいは幅手方向に対して±1度の範囲のいずれかであることが、円偏光板を作製する際の貼合作業時の角度調整が容易になるため好ましい。
【0043】
本発明のセルロースエステルフィルムは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有し、2位、3位および6位のアシル基置換度の合計が2.67未満であり、かつ6位のアシル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルと、溶媒、可塑剤及び前記一般式(3)で表される紫外線吸収性基を有する繰り返し単位を含む高分子紫外線吸収剤を含むセルロースエステル溶液を支持体上に流延することによって、製造することができ、剥離後のフィルムを長尺方向及び/または幅手方向に延伸することによって、所望のR0を有するセルロースエステルフィルムを製造することが特徴である。請求項12に係る発明では、延伸の際のフィルムの温度が40〜200℃の範囲で延伸することが特徴の一つであり、50〜150℃の範囲で延伸することが更に好ましく、60〜140℃の範囲で延伸することが特に好ましい。また、延伸倍率は1.15〜4.0倍であることが特徴の一つであり、更に好ましくは1.20〜2.50倍に延伸することが、R0値110nm以上で幅手内のR0値が均一で面品質に優れるため、特に好ましい。延伸方向は、テンターを用いて主に幅手方向に延伸しても、周速の異なるロールを用いてフィルムの製膜方向(長尺方向)に延伸しても、あるいはその他の手段によってもよいが、好ましくはテンターで幅手方向に1.01〜1.2倍未満で延伸し、製膜方向(長尺方向)に1.15〜4倍延伸し、幅手方向の延伸倍率<製膜方向(長尺方向)の延伸倍率の関係にあることが特に好ましい。
【0044】
本発明のセルロースエステルフィルムは、位相差機能をもつ偏光板保護フィルムとして特に好ましく用いることができ、各種表示装置に用いた場合、均一な表示性能が得られ、特に大画面であっても均一な表示性能を得ることができる。具体的には、VA方式、HAN方式、OCB方式あるいはその他の液晶表示装置に用いて、視野角を拡大する等表示性能の改善に寄与することができる。
【0045】
以下に、本発明を更に具体的に説明する。
【0046】
本発明のセルロースエステルフィルムは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有し、グルコース残基における2位、3位および6位のアシル基置換度の合計が2.67未満であり、かつ6位のアシル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルを含むことを特徴とする。アシル基はアセチル基を含むことが好ましく、この他プロピオニル基あるいはブチリル基を含んでもよいが、アセチル基のみであることが好ましい。特にセルロースエステルのグルコース残基における2位、3位および6位のアセチル基置換度の合計が2.67未満であり、かつ6位のアセチル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルが、特に110〜2000nmの大きなR0値を有するセルロースエステルフィルムで、均一なR0値を有する長尺のセルロースエステルフィルムが得られる点で好ましい。本発明においては、特に2位、3位および6位のアセチル基置換度の合計が2.5以上2.67未満であることが好ましく、かつ6位のアセチル基置換度が0.87未満であることが好ましく、特に0.70〜0.83であることが好ましい。
【0047】
セルロースアセテートの2位、3位および6位のアセチル置換度の合計が2.67とは、平均酢化度58.5%に相当する。平均酢化度は、セルロース単位質量あたりの結合酢酸量を表し、ASTM:D−817−96(セルロースアセテート等の試験方法)に従い測定し、計算で求めることができる。
【0048】
セルロースアセテートの2位、3および6位のアセチル置換度は、セルロースアセテートの残存水酸基を、別のアシル基(例えばプロピオニル基)で置換するプロピオニル化処理した後、13C−NMRによる測定によって求めることができる。測定方法の詳細については、手塚他(Carbohydr.Res,273(1995)83−91)に記載がある。アセチル基等の置換度は、ASTM−D817−96により求めることができる。
【0049】
本発明で用いられるセルロースエステルは、特に重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnが2.0以上3.5以下のセルロースエステルを用いることがより均一なR0値を有するセルロースエステルフィルムが得られるため好ましい。
【0050】
なお、本発明のセルロースエステルフィルムでは、Mw/Mnの値が2.0以上3.5以下であるセルロースエステルを、フィルムに含まれる全セルロースエステルの80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、更に95質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが最も好ましい。特に、セルロースエステルフィルムに含まれるセルロースエステルが、全体として上記範囲内にあることが好ましい。
【0051】
本発明のセルロースエステル中の微量金属成分は、少ないことが好ましい。鉄(Fe)成分については、1ppm以下であることが好ましい。これは、綿花リンター、木材パルプいずれの原料を用いたものでも、鉄成分は少ないことが好ましく、実用的には、製造上の下限である0.01ppmから1ppmの範囲に制御することが好ましい。カルシウム(Ca)成分については、地下水や河川の水等に多く含まれ、これが多いと硬水となり、飲料水としても不適当であるが、カルボン酸やスルホン酸等の酸性成分あるいは多くの配位子と配位化合物すなわち、錯体を形成しやすく、多くの不要なカルシウムに由来するスカム(不溶性の澱、濁り)を形成する要因となる。カルシウム(Ca)成分は60ppm以下であることが好ましく、更に好ましくは30ppm以下である。実用上は少ないほど好ましいが、製造上なくすことは難しく、その下限は10ppm程度であり、従って実質的には10〜30ppmであることが好ましい。マグネシウム(Mg)成分については、やはりカルシウムと同様に地下水中に多く含まれているものであり、同様に不要物生成の要因となる。これらのマグネシウム成分は、多すぎると不溶分を生ずるので、多すぎることは好ましくない。但し、逆に少なすぎても、フィルム特性上好ましくなく、その最適の範囲は、5〜70ppmであり、特に木材パルプで30〜70ppmである。
【0052】
本発明に使用するセルロースエステルの粘度平均重合度(重合度)は、200以上700以下が好ましく、特に、250以上500以下のものが好ましい。上記範囲にあることにより、機械的強度にも優れたセルロースエステルフィルムを得ることができる。重合度が余り大きくなると、不溶性成分が増加するので輝点異物が増加する傾向があり、逆に余り重合度が小さいと膜として物性が不十分となり好ましくない。
【0053】
セルロースエステルの平均分子量および分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定することができ、これを用いて数平均分子量、重量平均分子量を算出し、その比を計算することができる。測定条件は以下の通りである。
【0054】
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に得ることが好ましい。
【0055】
また、本発明でいう重合度とは、粘度平均重合度であり、セルロースエステル(例えば、セルロースアセテート)の粘度平均重合度(DP)は、以下のようにして測定し、求めることができる。
【0056】
乾燥したセルロースアセテート0.2gを精秤し、メチレンクロリド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶媒100mlに溶解する。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求める。
【0057】
ηrel=T/T0
[η]=(lnηrel)/C
DP=[η]/Km
上記式中、Tは測定試料の落下秒数、T0は溶剤単独の落下秒数、Cは濃度(g/L)、DPは粘度平均重合度及びKmは定数6×10−4を表す。
【0058】
具体的には、セルロースアセテートの6%粘度は以下の様にして測定する。混合溶液(塩化メチレン:メタノール=91:9)61.67gを三角フラスコに採取し、乾燥試料3.00gを投入し、密栓して横振り振盪機で約1.5時間振盪する。その後、回転振盪機で約1時間振盪して完全に溶解させる。得られた6質量/容量%の溶液を所定のオストワルド粘度計の標線まで移し、25±1℃の恒温槽で約15分間整温した後、計時用の標線間の流下時間を測定する。
【0059】
次式により6%粘度を算出する。
【0060】
6%粘度(cps)=流下時間(s)×粘度計係数
粘度計係数は、粘度計校正用標準液を用いて、上記と同様の操作で流下秒数を測定して求める。
【0061】
本発明のセルロースエステルにおける微量金属成分、すなわち鉄(Fe)分の含量、カルシウム(Ca)分含量、マグネシウム(Mg)分含量等の金属成分は、絶乾したセルロースエステルをマイクロダイジェスト湿式分解装置(硫硝酸分解)によりアルカリ溶融で前処理を行った後、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析を行うことにより定量できる。
【0062】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料セルロースとしては、綿花リンターや木材パルプ(針葉樹あるいは広葉樹由来)などが挙げられる。原料の異なるセルロースエステルは、それぞれ単独で用いてもよく、また、混合して用いてもよい。また、本発明のセルロースエステルは、少なくともアセチル基を有するものが好ましく、アセチル基の他にプロピオニル基、ブチリル基を有してもよい。
【0063】
セルロースのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CHCHCOCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0064】
最も一般的なセルロースの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロースをアセチル基及び他のアシル基に対応する脂肪酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0065】
本発明に用いるセルロースエステルは、下記の方法により合成できる。
【0066】
セルロースアセテートの合成方法の基本的な原理は、右田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。代表的な合成方法は、無水酢酸−酢酸−硫酸触媒による液相酢化法である。具体的には、木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸で前処理した後、予め冷却した酢化混液に投入して酢酸エステル化し、完全セルロースアセテート(2位、3位および6位のアセチル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。上記酢化混液は、一般に、溶媒としての酢酸、エステル化剤としての無水酢酸および触媒としての硫酸を含む。無水酢酸は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。酢化反応終了後に、系内に残存している過剰の無水酢酸の加水分解およびエステル化触媒の一部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩または酸化物)の水溶液を添加する。次に、得られた完全セルロースアセテートを少量の酢化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、50〜90℃に保つことにより、鹸化熟成し、所望のアセチル置換度および重合度を有するセルロースアセテートまで変化させる。所望のセルロースアセテートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記のような中和剤を用いて完全に中和するか、あるいは、中和することなく、水または希硫酸中にセルロースアセテート溶液を投入(あるいは、セルロースアセテート溶液中に、水または希硫酸を投入)してセルロースアセテートを分離し、洗浄および安定化処理によりセルロースアセテートを得る。この時、硫酸触媒を多くすることにより、6位のアセチル置換度を小さくすることができる。すなわち、硫酸触媒を多くすると、酢化反応の進行を促進し、触媒量に応じてセルロースとの間に硫酸エステルが生成し、反応終了時に遊離して残存水酸基を生じる。硫酸エステルは、反応性が高い6位により多く生成するため、硫酸触媒が多いと6位のアセチル置換度が小さくなる。これにより、本発明に用いるセルロースアセテートを合成することができる。
【0067】
原料のセルロースエステルでは、平均粒径が1〜5mmの粒子が好ましく用いられ、使用する粒子の90%以上がこの範囲内にあることが好ましく、粒子形状は特に限定されないが、フレーク状の粒子が好ましく用いられる。
【0068】
本発明のセルロースエステルフィルムは、波長400〜700nmの範囲で、長波長ほど大きい位相差を示す。波長450nm、590nm、650nmの時のセルロースエステルフィルムの位相差をそれぞれR450、R590、R650としたとき、
0.5<R450/R590<1.0
1.0<R650/R590<1.5
の範囲にあることが、全波長域に亘り均一な位相差が得られ、直線偏光を円偏光にする機能に優れるので好ましい。
【0069】
本発明のセルロースエステルフィルムを四分の一波長板として用いる場合は、R590は、147.5±20nmが好ましく、更に147.5±10nmであることが好ましい。同様にR550は、137.5±20nmが好ましく、更に137.5±10nmであることが好ましい。この範囲とすることで、良好な四分の一波長板の機能が得られる。R0値を調整することによって、1/2λ板あるいはその他の位相差フィルムとすることもでき、本発明のセルロースエステルを用いたフィルムは、特にR0値が110〜2000nmの範囲となるように延伸する場合、幅手方向のR0値のばらつきが少ない点で優れている。
【0070】
上記の様な好ましい光学特性を得るためには、セルロースエステルフィルム面内の遅相軸方向の屈折率Nxと進相軸方向の屈折率Nyの差が、0.0005以上、0.0050以下とする必要がある。更に好ましい範囲は、0.0010以上、0.0030以下である。
【0071】
また、フィルムの遅相軸方向の屈折率Nx、進相軸方向の屈折率Ny、厚み方向の屈折率Nzとしたとき、(Nx+Ny)/2−Nzが0.0005以上0.002以下とすることも有効であり、特に0.0010以上0.0020以下であることが好ましい。
【0072】
フィルムの屈折率を上記範囲とするには、本発明のセルロースエステルを有するフィルムを延伸することにより達成できるのであるが、セルロースエステルフィルムはその高いガラス転移温度と剛直な分子構造のため、一般に延伸性に劣る。そのため、可塑剤を多く含有させたり、高温度での延伸が必要であったのである。ところがこの様な条件では、可塑剤がブリードアウトしたり、樹脂が劣化し着色するなどの問題があった。ところが、本発明者らは、後述する様な方法を選択することにより、これらの問題が解決された延伸方法を開発し、本発明のセルロースエステルフィルムを完成させたのである。
【0073】
本発明のセルロースエステルフィルムは、フィルムの厚み方向の下式で表されるレターデーション値Rtが、0nmから300nmであることが好ましく、更に130nm以下であることが好ましく、特に請求項9に係る発明では、0〜75nmであることが特徴である。
【0074】
Rt={(Nx+Ny)/2−Nz}×d
ここで、波長590nmにおける遅相軸方向の屈折率Nx、進相軸方向の屈折率Ny、厚み方向の屈折率Nz、dはフィルムの膜厚(nm)である。
【0075】
また、本発明のセルロースエステルフィルムは、ヘイズが1.0%以下であることが好ましく、更に好ましくはヘイズ0.5%以下であり、特に好ましくは0〜0.1%未満である。透過率については、90%以上であることが好ましく、特には92%以上であることが好ましい。
【0076】
また、本発明のセルロースエステルフィルムは、中心線表面粗さRaが0.5〜20nmの範囲であることが好ましく、これにより極めて平滑な表面を有するセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0077】
本発明のセルロースエステルフィルムの厚みは、10〜300μmの範囲であるが、偏光板保護フィルムとして用いる場合は、20〜150μmの範囲が、偏光板の寸法安定性、水バリアー性等の点から好ましい。特に、請求項8に係る発明では、セルロースエステルフィルムの膜厚が30〜70μmの薄膜フィルムであることが特徴であり、これはR0値のばらつきが少ないため特に好ましい。
【0078】
また、ロールフィルムとしての長尺方向及び幅手方向の膜厚変動は、±3%以内であることが好ましく、特に±1%以内であることが好ましく、±0.1%以内であることがさらに好ましい。
【0079】
本発明のセルロースエステルフィルム中には、フタル酸エステル、リン酸エステル、クエン酸エステルなどの可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、マット剤などの添加剤を加えることができる。
【0080】
本発明のセルロースエステルフィルムにおいては、可塑剤を含有させることが好ましい。用いることのできる可塑剤としては、特に限定しないが、リン酸エステル系では、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系では、例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等、グリコール酸エステル系では、例えば、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)、その他アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸系可塑剤及び下記一般式(A)〜(D)で表される可塑剤及び請求項5に係る発明である200℃における蒸気圧が665Pa未満の可塑剤を適宜選択して、単独あるいは併用することができる。
【0081】
下記一般式(A)〜(D)で表される可塑剤を、本発明において好ましく用いることができる。
【0082】
【化4】

【0083】
上記一般式(A)において、RはH、炭素数1〜8の置換または無置換のアルキル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基またはアロイル基等を含むアシル基を表す。好ましくは、RはH、炭素数1〜3の置換または無置換のアルキル基、炭素数1〜7のアシル基であり、具体的にはH、メチル、エチル、プロピル、2−エチルヘキシル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、カプロイル、クロロアセチル、ピバロイル、シクロヘキサンカルボニル、ベンゾイルなどを挙げることができる。特に好ましいのはH、アセチル、プロピオニル、ブチロイル、ピバロイル、シクロヘキサンカルボニルである。
【0084】
、R、Rは、各々同じでも異なってもよく、H、炭素数1〜18の置換または無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはアリール基であり、R、R、R、Rの2つ以上が同時にHになることはない。具体的にはH、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、t−オクチル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、4−メチルシクロヘキシル、フルフリル、アリール、オレイル、フェニル、ベンジル等である。好ましくは、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル、ドデシル、フルフリル、オレイル、フェニルである。また、R、R、Rの炭素数の総数は3〜54であるが、好ましくは6〜36、より好ましくは9〜30である。得られる一般式(A)の化合物の沸点は、常圧で沸点が280℃以上であり、300℃以上の沸点がより好ましく、350℃以上なら更に好ましい。
【0085】
以下に、一般式(A)で示される可塑剤の具体的化合物例を示す。
【0086】
【化5】

【0087】
なお、上記例示化合物PL−2、PL−5、PL−11、PL−13は、各々ファイザー社の商品名Citroflex−2、Citroflex−4、Citroflex A−8、Citroflex A−4として知られている可塑剤であり、好ましい。
【0088】
一般式(A)で表される可塑剤は、溶媒に対し0.2〜5質量%、好ましくは0.5〜5質量%、特に好ましくは0.5〜3質量%添加される。また、一般式(A)で表される可塑剤のフィルム中での含有量は、フィルム固形分中の0.5〜30質量%であり、好ましくは1〜25質量%、特に好ましくは2〜20質量%である。
【0089】
次に一般式(B)、(C)で表される可塑剤について説明する。
【0090】
【化6】

【0091】
一般式(B)、(C)において、R〜R10は同じでも異なってもよく、各々水素原子、炭素数2〜18のアシル基(アシル基の炭化水素基としては、アルキル、アルケニル、アルキニル基を含む)、アロイル基、アルキル基(アルキル、アルケニル、アルキニルを含む)またはアリール基を表す。ただし、R〜Rの2つ以上が同時に水素原子になることはなく、またR〜R10の3つ以上が同時に水素原子になることはない。
【0092】
一般式(B)または(C)で表される可塑剤について以下に詳細に記載する。R〜R10は、好ましくは各々水素原子、アセチル、プロピオニル、ブチロイル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、オレイノイル、ベンゾイル、シンナミルなどを挙げることができる。R〜R10は、特に好ましくは水素原子、アセチル、プロピオニル、ブチロイル、ピバロイル、ヘキサノイル、デカノイル、ドデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、オレイノイル、フェニルカルボキシルを挙げることができる。また、R〜Rの炭素数の総数は4〜72であるが、好ましくは6〜64、より好ましくは8〜48である。また、R〜R10の炭素数の総数は6〜108であるが、好ましくは8〜96、より好ましくは10〜72である。R〜Rの2つ以上が同時に水素原子になることはないが、より好ましくは、水素原子は1個以下である。また、R〜R10の3つ以上が同時に水素原子になることはないが、より好ましくは、水素原子は2個以下が好ましい。
【0093】
以下に本発明で好ましく用いられる一般式(B)または(C)で表される可塑剤の具体的化合物例を挙げる。
【0094】
【化7】

【0095】
【化8】

【0096】
上記一般式(B)または(C)で表される化合物は、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールとカルボン酸または酸クロライドのエステル化反応で容易に得られる。場合によって、予め作製されたペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールエステル(例えば、ペンタエリスリトールテトラアセテートまたはジペンタエリスリトールヘキサアセテート)をカルボン酸化合物とエステル交換することでも作製できる。また、アルキル基、アルキレン基及びアリレン基の場合は、これらのハロゲン物(クロル、ブロム体)を原料としてエーテル結合を容易に作製できる。本発明の一般式(A)または(B)で表される化合物は、沸点が常圧で280℃以上が好ましく、より好ましくは沸点が300℃以上であり、特に好ましくは沸点が320℃以上である。本発明の一般式(B)または(C)で表される化合物のフィルム中での含有量は、フィルム固形分中の2〜25質量%であり、より好ましくは2〜20質量%、特に好ましくは5〜18質量%である。本発明のセルロースエステルフィルムを製膜する際、セルロースエステル溶液を用いる。このセルロースエステル溶液においては、一般式(B)または(C)で表される化合物の濃度は、0.2〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%、特に好ましくは1〜4質量%である。
【0097】
次に、一般式(D)で表される可塑剤について説明する。
【0098】
【化9】

【0099】
上記一般式(D)において、R、RおよびRは、各々炭素原子数が2〜18のアシル基または水素原子であり、R、RおよびRの少なくとも二つが、炭素原子数が2〜18のアシル基であり、かつR、RおよびRの少なくとも一つが、炭素原子数が5〜18のアシル基である。R、RおよびRの少なくとも一つは、炭素原子数が7〜18のアシル基であることが好ましい。アシル基は、−CO−R(Rは、脂肪族基、芳香族基または複素環基)で示される。上記Rは、脂肪族基(アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基)または芳香族基(アリール基、置換アリール基)であることが好ましく、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アリール基または置換アリール基であることがより好ましく、アルキル基、アルケニル基またはアリール基であることがさらに好ましく、アルキル基であることが最も好ましい。アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、環状構造よりも鎖状構造を有していることが好ましい。鎖状構造は、分岐を有していてもよい。置換アルキル基、置換アルケニル基および置換アルキニル基のアルキル部分、アルケニル部分およびアルキニル部分は、上記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基と同様である。置換アルキル基、置換アルケニル基および置換アルキニル基の置換基の例には、アリール基(例えば、フェニル)が含まれる。アリール基および置換アリール基のアリール部分は、フェニルであることが好ましい。置換アリール基の置換基の例には、アルキル基が含まれる。炭素原子数が5〜18のアシル基の例には、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、オレオイル、ベンゾイルおよびシンナモイルが含まれる。炭素原子数が2〜4のアシル基の例には、アセチル、プロピオニルおよびブチロイルが含まれる。
【0100】
、RおよびRの総炭素原子数は、7〜54である。R、RおよびRの総炭素原子数は、9〜36であることが好ましく、11〜30であることがさらに好ましい。一般式(D)で表わされるグリセリドの沸点は、280〜500℃であることが好ましく、300〜500℃であることがさらに好ましく、300〜450℃であることが最も好ましい。以下に、一般式(D)で表わされるグリセリドの例を示す。なお、かっこ内の数字は、炭素原子数である。
【0101】
【化10】

【0102】
一般式(D)で表わされるグリセリドは、グリセリンとカルボン酸または酸クロリドとのエステル化反応により容易に合成することができる。また、予め合成された、あるいは市販のグリセリド(例えば、グリセリントリアセテート)をカルボン酸とエステル交換することによっても合成することができる。一般式(D)で表わされるグリセリドは、可塑剤として、セルロースの低級脂肪酸エステルの溶液に添加して使用する。溶液中のグリセリドの濃度は、0.2〜5質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがさらに好ましく、0.5〜3質量%であることが最も好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルの成型品(例えば、セルロースエステルフイルム)中での可塑剤の量は、成型品の固形分量の0.5〜30質量%であることが好ましく、1〜25質量%であることがさらに好ましく、2〜20質量%であることが最も好ましい。
【0103】
本発明においては、二種類以上のグリセリドを併用してもよく、またグリセリドと他の可塑剤とを併用することもできる。
【0104】
これらの可塑剤を添加することで、フィルムの水分率を低くでき、水バリアー性が向上できる。
【0105】
本発明のセルロースエステルフィルムでは、その製造に際し、後述するようなフィルム中の残留溶媒をコントロールすることで、高温でなくても延伸が可能であるが、この方法を用いない場合には、高温で延伸することも可能である。請求項14に係る発明では、40〜200℃の範囲内で延伸することが特徴であり、好ましくは70〜150℃の範囲内で延伸することであり、特に好ましくは100〜130℃で延伸することである。
【0106】
高温で延伸する場合、延伸温度としては、セルロースエステルフィルムのガラス転移温度付近あるいはそれ以上の温度で延伸することが好ましく、前述した様な可塑剤では、その効果が薄れてしまい延伸性が十分得られない場合がある。請求項5に係る発明では、高温においても十分な延伸性が付与できる点で、200℃における蒸気圧が665Pa未満である可塑剤を用いることが一つの特徴であり、特に好ましくは333Pa未満の可塑剤を用いることが好ましく、特に好ましくは133Pa未満の蒸気圧を有する可塑剤を用いることが好ましい。具体的な可塑剤としては、アリーレンビス(ジアリールホスフェート)エステル等が好ましく用いられる。あるいは、アセチルクエン酸トリブチル(545Pa 200℃)、リン酸トリクレシル(38.6Pa 200℃)等も好ましく用いられる。また、特表平6−501040号に記載されている不揮発性燐酸エステルも好ましく用いられる。このほか、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニルを含む共重合体などのポリマーあるいはオリゴマーなどの高分子量の可塑剤も好ましく用いることができる。この場合、可塑剤の含有量は、セルロースエステルに対して0.1〜30質量%が好ましく、特に0.5〜15質量%が好ましい。このような可塑剤を用いることにより、高温でのセルロースエステルの延伸性を向上でき、特に、フィルムの面品質や平面性に優れたセルロースエステルフィルムを生産性よく製造することができる。
【0107】
また、本発明においては、セルロースエステルフィルム中に紫外線吸収剤を含有させることが好ましく、紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点より波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の点より波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものが好ましく用いられる。特に、波長370nmでの透過率が、20質量%以下であることが望ましく、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。用いられるものとしては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などがあげられるが、これらに限定されない。紫外線吸収剤は2種以上用いてもよい。紫外線吸収剤のドープへの添加方法は、アルコールやメチレンクロライド、ジオキソランなどの有機溶媒に溶解してから添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にデゾルバやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。本発明において、紫外線吸収剤の使用量は、セルロースエステルに対し0.1〜5.0質量%、好ましくは0.5〜2.0質量%、より好ましくは0.8〜2.0質量%である。
【0108】
セルロースエステルフィルムでは、異物や擦り傷などの表面欠陥のない高品質な特性が求められる。上記要望に対して、分配係数が9.2以上の紫外線吸収剤を用いることで、表面欠陥の少ないセルロースエステルフィルムが得られるので好ましい。紫外線吸収剤の分配係数は、10.1以上がさらに好ましく、10.3以上が最も好ましい。分配係数は、以下の式で定義されるオクタノールと水との分配率を表す。
【0109】
分配係数=Log(Po/w)
但し、Po/w=So/Sw
式中、Soは25℃におけるn−オクタノール中での紫外線吸収剤の溶解度、Swは25℃における純水中での紫外線吸収剤の溶解度を表す。
【0110】
分配係数が、上記記載の好ましい範囲にある紫外線吸収剤としては、以下に示す一般式〔I〕で表されるものである。
【0111】
【化11】

【0112】
式中、R、R、R、R、Rは各々一価の置換基を表し、R、R、R、R、Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。但し、R、R、Rの少なくとも1つは総炭素数10〜20の無置換の分岐または直鎖のアルキル基である。
【0113】
ここで、一価の置換基としては、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、モノまたはジアルキルアミノ基、アシルアミノ基または5〜6員の複素環基等を表す。
【0114】
、R、Rの少なくとも1つは総炭素数10〜20の無置換の分岐または直鎖のアルキル基であるが、更に好ましいのは総炭素数11〜18であり、最も好ましいのは総炭素数12〜15である。この範囲にあるとき、分配係数が上記の好ましい範囲となり、ロール汚れが減少すると同時に樹脂との相溶性にも優れる。総炭素数の多い方がロール汚れが減少する点で優れ、総炭素数の少ない方が樹脂との相溶性に優れる。余り炭素数が多くなると樹脂との相溶性が損なわれる。これらの紫外線吸収剤の具体的な化合物例を以下にあげるが、これらに限定されるものではない。
【0115】
【化12】

【0116】
また、好ましい紫外線吸収剤は、以下の一般式〔II〕で表される。
【0117】
【化13】

【0118】
式中、R、R、R、Rは各々一価の置換基であり、一般式〔I〕におけるR〜Rと同じものを表す。また、Rは分岐のアルキル基である。
【0119】
分岐のアルキル基としてはイソプロピル基、イソブチル基等の炭素数3〜20迄の分岐のアルキル基であり、好ましくは炭素数3〜18、更に好ましくは3〜15である。
【0120】
これらの具体例としては、以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
【化14】

【0122】
更に、請求項6に係る発明では、セルロースエステルフィルム中に、数平均分子量として1000〜100000の高分子量の紫外線吸収剤を用いることが特徴であり、これにより、得られるセルロースエステルフィルムの面品質が向上するため特に好ましい。本発明の高分子量の紫外線吸収剤としては、例えば、特開平6−148430号、特願平12−156039号、特願平12−214134号等に記載の高分子紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0123】
以下、本発明で用いることのできる高分子紫外線吸収剤について説明する。
【0124】
本発明においては、下記に示す一般式(1)〜(7)で表される繰り返し単位を含む高分子紫外線吸収剤を用いることが好ましい。
【0125】
【化15】

【0126】
一般式(1)において、Jは−O−、−NR−、−S−、−SO−、−SO−、−POO−、−CO−、−COO−、−NRCO−、−NRCOO−、−NRCONR−、−OCO−、−OCONR−、−CONR−、−NRSO−、−NRSO−、−SONR10−、−SONR11−を表し、好ましくは−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−NRCO−、−CONR−が挙げられる。R〜R11は各々水素原子、アルキル基、(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ヒドロキシエチル基、メトキシメチル基、トリフルオロメチル基、t−ブチル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−クロロフェニル基等)を表す。
【0127】
Spは2価の連結基を示し、特に限定はされないが、好ましくはアルキレン基、アリーレン基を含む2価の連結基が挙げられ、更に好ましくは、炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数4〜10のアリーレン基である。これら2価の連結基はハロゲン原子、置換基を有していてもよい。前記置換基としては、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、ヒドロキシエチル基、メトキシメチル基、トリフルオロメチル基、t−ブチル基等)、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−クロロフェニル基等)、アシル基(例えばアセチル基、プロパノイル基、ブチロイル基等)、スルホニル基(例えばメタンスルホニル基、ブタンスルホニル基、フェニルスルホニル基等)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ブチルチオ基等)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ基等)、アミノ基、アルキルアミノ基(例えばメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基等)、アリールアミノ基(例えばフェニルアミノ基等)、アシルアミノ基(例えばアセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基等)、ヒドロキシル基、シアノ基、カルバモイル基(例えばメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、ジメチルカルバモイル基等)、スルファモイル基(例えばエチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基等)、スルホンアミド基、アシルオキシ基、オキシカルボニル基、スルホニルアミノ基(例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基等)、ウレイド基(例えば3−メチルウレイド基、3,3−ジメチルウレイド基、1,3−ジメチルウレイド基等)、スルファモイルアミノ基(ジメチルスルファモイルアミノ基等)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル基等)、ニトロ基、イミド基(例えばフタルイミド基等)、ヘテロ環基(例えば、ピリジル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基、ベンズオキサゾリル基等)が挙げられるが、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アシルアミノ基、カルバモイル基、アシルオキシ基、オキシカルボニル基である。
【0128】
但し、Spに紫外線吸収性基が直接、またはスペーサーを介して結合するか、もしくは、紫外線吸収性基の一部が重合体主鎖の一部を形成している。
【0129】
ここで言うスぺーサーとは、2価の連結基であれば如何なるものでもよいが、好ましくはアルキレン基、アリーレン基を含む2価の連結基、または、−O−、−NRO−、−S−、−SO−、−SO−、−POO−、−CO−、−COO−、−NR41CO−、−NR42COO−、−NR43CONR44−、−OCO−、−OCONR45−、−CONR46−とアルキレン基、アリーレン基の組み合わせからなる2価の連結基が挙げられる。
【0130】
ここで、R41〜R46は各々水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基を表す。アルキル基、アリール基は各々複数の置換基を有してもよく、置換基の例としては、一般式(1)中のSpが取り得る置換基の例として挙げたもの等が挙げられる。
【0131】
本発明における紫外線吸収性基は、380nmにおける分光吸収が極めて大きく、更に420nm以上の可視光を殆ど吸収しない基を示し、この様な性質を有する基であれば如何なるものでもよいが、具体的には、下記一般式(10)〜(18)で表される化合物から水素原子を一つ取り除いた紫外線吸収性基を挙げることができる。
【0132】
【化16】

【0133】
上記紫外線吸収性基は、各々複数の水素原子、ハロゲン原子、置換基で置換され、置換基の例としては、一般式(1)中のSpの置換基の例として挙げたもの等が挙げられる。
【0134】
一般式(10)〜(18)において、R55〜R65は各々水素原子、ハロゲン原子、置換基を表し、置換基の例としては、一般式(1)におけるSpの置換基の例として挙げたもの等が挙げられるが、好ましくは、一般式(12)において、R55、R56は各々水素原子、アルキル基、一般式(15)において、R57、R58、R59は各々水素原子、アルキル基、アリール基、一般式(17)において、R60、R61はアルキル基を挙げることができる。また、一般式(17)及び(18)のR62〜R65は好ましくはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アミノ基を挙げることができる。一般式(15)において、Xはメチレン、カルコゲン原子を表し、好ましくは硫黄原子である。一般式(17)、(18)において、EWG〜EWGは電子吸引性基を表し、電子吸引性基の例としては、アシルアミノ基(例えばアセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基等)、スルホニルアミノ基(例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基等)、スルファモイルアミノ基(例えばジメチルスルファモイルアミノ基等)、カルバモイル基(例えばメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、ジメチルカルバモイル基等)、スルファモイル基(例えばエチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基等)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル基等)、スルホニル基(例えばメタンスルホニル基、ブタンスルホニル基、フェニルスルホニル基等)、アシル基(例えばアセチル基、プロパノイル基、ブチロイル基等)、ニトロ基、シアノ基等の置換基、及び、ハロゲン原子が挙げられ、好ましくはシアノ基、アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基が挙げられる。
【0135】
但し、一般式(17)のEWG、EWG及び一般式(18)のEWG、EWGは両者が共に電子吸引性基である必要はなく、どちらか一方が電子吸引性基であれば良い。さらに一般式(17)において、R60〜R64、EWG、EWG、一般式(18)においてEWG、EWG、R65は互いに連結し5または6員環を形成していてもよい。
【0136】
次いで、一般式(2)で表される高分子紫外線吸収剤について説明する。
【0137】
【化17】

【0138】
一般式(2)において、J、Jは、各々一般式(1)におけるJと同義であり、J、Jは互いに同じであっても異なってもよい。Sp、Spは各々一般式(1)中のSpと同義であり、Sp、Spは互いに同じであっても異なってもよいが、Sp、Spが共に紫外線吸収性基と直接、またはスペーサーを介して結合している必要はなく、少なくとも一方が紫外線吸収性基と直接、またはスペーサーを介して結合している。もしくは、Sp、Spが共に紫外線吸収性基の一部かつ重合体主鎖の一部を形成している必要はなく、少なくとも一方が紫外線吸収性基の一部かつ重合体主鎖の一部を形成していればよい。
【0139】
紫外線吸収性基は、一般式(1)で紫外線吸収性基として挙げたものと同じものを挙げることができ、同様にスペーサーも一般式(1)でスペーサーとして挙げたものをあげることができる。
【0140】
次いで、一般式(3)、(4)、(5)で表される紫外線吸収性基を有する繰り返し単位を含む高分子紫外線吸収剤について、以下説明する。
【0141】
【化18】

【0142】
一般式(3)において、R12〜R25は各々、水素原子、ハロゲン原子または置換基を表し、置換基の例としては、一般式(1)中のSpの置換基の例として挙げたもの等が挙げられる。但し、一般式(3)で表される紫外線吸収性基はいずれかの部位で重合体主鎖と直接、またはスペーサーを介して結合するか、もしくは、紫外線吸収性基の一部が重合体主鎖の一部を形成している。スペーサーは、一般式(1)でスペーサーとして挙げたものをあげることができる。
【0143】
【化19】

【0144】
一般式(4)において、R26、R27は各々炭素数1〜10のアルキル基を表し、R28、R29、R30は各々アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アミノ基を表し、X、Yは各々電子吸引性基を表す。電子吸引性基の例としては、前記一般式(17)、(18)における、EWG〜EWGの例として挙げたもの等が挙げられる。但し、R26〜R30及びX、Yはハロゲン原子、置換基を有してもよく、置換基の例としては、一般式(1)における、Spが取り得る置換基の例として挙げたもの等が挙げられる。但し、R26〜R30、X、Yは、互いに連結して5または6員環を形成していても良い。但し、一般式(4)で表される紫外線吸収性基はいずれかの部位で重合体主鎖と直接、またはスペーサーを介して結合するか、もしくは、紫外線吸収性基の一部が重合体主鎖の一部を形成している。紫外線吸収性基は一般式(1)で紫外線吸収性基として挙げたものと同じものを挙げることができ、同様にスペーサーも一般式(1)でスペーサーとして挙げたものをあげることができる。
【0145】
【化20】

【0146】
一般式(5)において、R66〜R71は各々水素原子、ハロゲン原子、置換基を表し、好ましくは、R66〜R70は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基が挙げられ、R71は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基が挙げられる。但し、R66〜R70は互いに連結して5または6員環を形成していても良い。X、Yは一般式(4)中のX、Yと同義である。但し、一般式(5)で表される紫外線吸収性基はいずれかの部位で重合体主鎖と直接、またはスペーサーを介して結合するか、もしくは、紫外線吸収性基の一部が重合体主鎖の一部を形成している。紫外線吸収性基は一般式(1)で紫外線吸収性基として挙げたものと同じものを挙げることができ、同様にスペーサーも一般式(1)でスペーサーとして挙げたものをあげることができる。
【0147】
ついで、一般式(6)、(7)で表される繰り返し単位を含む高分子紫外線吸収剤について、以下説明する。
【0148】
【化21】

【0149】
【化22】

【0150】
一般式(6)、(7)において、R31〜R34は、各々水素原子、ハロゲン原子、置換基を表し、置換基の例としては、一般式(1)中のSpの置換基の例として挙げたもの等が挙げられる。nは0、1、2、3のいずれかの整数を表し、mは0、1、2、3、4のいずれかの整数を表し、sは0、1、2、3、4のいずれかの整数を表し、oは0、1、2、3のいずれかの整数を表す。Jは、*−O−、*−NR−、*−S−、*−SO−、*−SO−、*−POO−、*−CO−、*−COO−、*−NRCO−、*−NRCOO−、*−NRCONR−、*−OCO−、*−OCONR−、*−CONR−、*−NRSO−、*−NRSO−、*−SONR10−、*−SONR11−を表すが(但し*印は、*で紫外線吸収性基に連結していることを示す)、好ましくは*−O−、*−NR−、*−S−、*−SO−、*−SO−、*−NRCOO−、*−NRCONR−である。Jは、*−O−、*−NR−、*−S−、*−SO−、*−SO−、*−POO−、*−CO−、*−COO−、*−NRCO−、*−NRCOO−、*−NRCONR−、*−OCO−、*−OCONR−、*−CONR−、*−NRSO−、*−NRSO−、*−SONR10−、*−SONR11−を表すが(但し*印は、*で紫外線吸収性基に連結していることを示す)、好ましくは、*−O−、*−NR−、*−S−、*−SO−、*−SO−、*−NRCOO−、*−NRCONR−である。R〜R11は前記一般式(1)のR〜R11と同義である。Sp、Sp、は一般式(1)のSpと同義である。
【0151】
また、本発明においては、下記一般式(8)及び(9)で表される化合物から誘導される共重合体を含有する高分子紫外線吸収剤を好ましく用いることができる。
【0152】
【化23】

【0153】
一般式(8)、(9)において、R35〜R36は、各々、水素原子、ハロゲン原子、置換基を表し、置換基の例としては、一般式(1)中のSpが取り得る置換基の例として挙げたもの等が挙げられる。qは0、1、2、3、4を、rは0、1、2、3を表す。Spは、一般式(1)のSpと同義である。
【0154】
また、本発明で用いることのできる高分子紫外線吸収剤は、セルロースもしくはセルロース誘導体のヒドロキシ基のいずれかに紫外線吸収性基が直接、またはスペーサーを介して結合した変性セルロースも好ましい一例である。セルロースもしくはセルロース誘導体のヒドロキシ基に紫外線吸収性基がスペーサーを介して結合したとは、セルロースの繰り返し単位が有する3箇所のヒドロキシ基のいずれかに、少なくとも一つの紫外線吸収性基が直接、またはスペーサーを介して結合していればよく、紫外線吸収性基は一般式(1)で紫外線吸収性基として挙げたものを挙げることができ、同様にスペーサーも一般式(1)でスペーサーとして挙げたものをあげることができる。この高分子紫外線吸収剤は、繰り返し単位がセルロース誘導体であるため、セルロースとの相溶性が非常に良好であり、セルロースフィルムの製造工程中やアルカリ処理液で鹸化する際に問題となっていた、ブリード現象、結晶の析出等が起こらず安定である。
【0155】
上記高分子紫外線吸収剤は、前記一般式(1)、(2)、(6)、(7)で表される繰り返し単位を含む重合体、前記一般式(3)、(4)、(5)で表される紫外線吸収性基を有する繰り返し単位を含む重合体、前記一般式(8)及び(9)で表される化合物から誘導される共重合体またはセルロースのヒドロキシル基のいずれかに紫外線吸収性基が直接、またはスぺーサーを介して結合した変性セルロースから選ばれる少なくとも一種含有することを特徴としており、繰り返し単位、もしくは、本発明の化合物から誘導される共重合体を含有していれば、ホモポリマーであっても、複数の他の連続単位との共重合体であっても良い。
【0156】
他の連続単位としては、例えば、アクリルアミド誘導体含有モノマー、アクリル酸エステル誘導体含有モノマー、メタクリル酸エステル誘導体含有モノマー、ビニルエーテル誘導体含有モノマー、エチレンオキシド誘導体含有モノマー、ビニルエステル誘導体含有モノマー、ジカルボン酸誘導体含有モノマー、ジオール誘導体含有モノマー、ジアミン誘導体含有モノマー等から得られる連続単位などがあげられる。
【0157】
本発明に用いられる重合体は、セルロースエステルに対し、0.01〜40質量%の割合で混ぜることが好ましく、更に好ましくは、0.01〜30質量%の割合で混ぜることが好ましい。この時の、セルロースエステルフィルムを形成した時のヘイズが0〜1.0であれば特に制限はされないが、好ましくは、ヘイズが0.5以下である。更に好ましくは、セルロースエステルフィルムを形成した時のヘイズが0〜0.2、かつ380nmにおける透過率が0〜10%であることである。
【0158】
また、本発明の高分子紫外線吸収剤は、セルロースエステルに混合する際に、他の低分子化合物、高分子化合物、もしくは無機化合物などと一緒に用いることもできる。例えば、本発明の高分子紫外線吸収剤と他の低分子紫外線吸収剤を同時にセルロースエステルフィルムに混合することも好ましい様態の一種である。
【0159】
本発明の重合体はモノマー以外であれば、特に制限なく用いることができるが、好ましい重合体の数平均分子量は、請求項6に係る発明である1000〜100000であり、特に好ましくは5000〜20000である。
【0160】
本発明の重合体の重合方法は、特に問わないが、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などが挙げられる。ラジカル重合法の開始剤としては、例えば、アゾ化合物、過酸化物等が挙げられ、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスイソブチル酸ジエステル誘導体、過酸化ベンゾイルなどが挙げられる。
【0161】
本発明で用いることのできる高分子紫外線吸収剤の具体的化合物としては、前記の特開平6−148430号、特願平12−156039号、特願平12−214134号等に記載の例示化合物を挙げることができる。
【0162】
更に、本発明のセルロースエステルフィルム中には、酸化防止剤を含有させることが好ましく、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。このほか、劣化防止剤としてブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)をセルロースエステルに対して0.05〜0.2質量%添加することもできる。
【0163】
また、本発明において、セルロースエステルフィルム中に、取扱性を向上させる為、例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子などのマット剤を含有させることができる。中でも二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを小さくできるので好ましい。微粒子の2次粒子の平均粒径は0.01〜5.0μmの範囲で、その含有量はセルロースエステルに対して0.005〜0.3質量%が好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子には有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下できるため好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどが挙げられ、表面にメチル基が存在するような処理が好ましい。微粒子の平均粒径が大きい法がマット効果は大きく、平均粒径の小さい方は透明性に優れるため、好ましい微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmで、より好ましくは7〜14nmである。これらの微粒子はフィルム中では、通常、凝集体として存在しフィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させることが好ましい。二酸化ケイ素の微粒子としては日本アエロジル(株)製のAER0SIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等を挙げることができ、好ましくはAER0SIL R972、R972V、R974、R202、R812である。これらのマット剤は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することができる。
【0164】
さらに、請求項7に係る発明では、1次平均粒子径が20nm以下であり、見かけ比重が70g/リットル以上の酸化珪素微粒子を含むことが特徴であり、これによりR0値が110nm以上のフィルムでヘイズを低くできる点で好ましい。1次粒子の平均径が20nm以下で見かけ比重が70g/リットル以上の酸化珪素微粒子は、例えば、気化させた四塩化珪素と水素を混合させたものを1000〜1200℃にて空気中で燃焼させることで得ることができる。これらは、例えば、上記の日本アエロジル(株)製のAER0SIL 200V、AER0SIL R972Vの商品名で市販されており使用することができる。
【0165】
本発明で用いられる二酸化珪素微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であることが特徴であり、1次粒子の平均粒子径が5〜16nmがより好ましく、5〜12nmがさらに好ましい。特に、1次粒子の平均粒子径が小さい方が、ヘイズが低く好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。これらの微粒子は、特願平11−241446号記載の方法により調製し、フィルムに添加することができる。
【0166】
本発明のセルロースエステルフィルムを製造する方法については、特に限定はないが、下記の方法を好ましく用いることができる。
【0167】
先ず、セルロースエステルを溶解し得る有機溶媒に溶解してドープを形成する。具体的には、セルロースエステルのフレークやパウダーと有機溶媒を混合し、攪拌しながら溶解し、ドープを形成する。溶解方法には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号、同9−95557号または同9−95538号に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法がある。溶解後、ドープを濾材で濾過、脱泡した後、ポンプで次工程に送る。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、10〜35質量%程度が好ましく、特に21〜35質量%が好ましく用いられる。
【0168】
本発明で用いられるセルロースエステルは、輝点異物が少ないものが好ましく用いられる。輝点異物とは、クロスニコルに配置された偏光板の間にセルロースエステルフィルム試料を配置し、一方より光を当てて、もう一方より観察するとき、光源の光が透過することによって光って見える点のことをいう。表示装置用の光学フィルムでは、この輝点異物が少ないものが求められており、10μm以上の大きさの輝点異物が100個/cm以下、特に好ましくは実質的に無いことが好ましく、5〜10μmの大きさの輝点異物が200個/cm以下、特に好ましくは、50個/cm以下、実質的にないことが好ましい。5μm未満の輝点異物も少ないことが望ましい。セルロースエステルフィルムの輝点異物の原因は、原料のセルロースエステルに含まれる未酢化のセルロースと考えられており、原料として輝点異物が少ないセルロースエステルを選択すること及び流延に用いるセルロースエステル溶液を濾過することによって減らすことができる。
【0169】
セルロースエステルを溶解し得る有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、アセトン、シクロヘキサノン、アセト酢酸メチル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ニトロエタン、塩化メチレン等を挙げることができる。塩化メチレンのような塩素系有機溶媒は、昨今の厳しい環境問題の中では、使用を見合わせた方が良い場合もあり、非塩素系の有機溶媒の方が好ましい。中でも酢酸メチル、アセトンが好ましく使用できる。また、これらの有機溶媒に、メタノール、エタノール、ブタノール等の低級アルコールを併用すると、セルロースエステルの有機溶媒への溶解性が向上したりドープ粘度が低減できたり、支持体から剥離する際の剥離性が向上したりできるので好ましい。特に沸点が低く、毒性の少ないエタノールが好ましい。これら低級アルコールは、全有機溶媒に対して2質量%以上、50質量%以下含有させることが好ましく、特に5質量%以上、30質量%以下で含有させることが望まれる。
【0170】
溶液流延製膜方法は、上記のドープを濾過して、定量ポンプでダイに送り、表面研磨されているステンレスベルトあるいは金属ドラム上にダイからドープを流延し、その金属支持体上で、有機溶媒を蒸発あるいは冷却して固化させて、金属支持体が一周する前にウェブを剥離し、乾燥工程で乾燥してフィルムを形成させるものである。
【0171】
前述のようにして調製されたセルロースエステル溶液(以下、ドープともいう)は、例えば、回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギアポンプを通して加圧型ダイスに送られる。ギアポンプから加圧ダイスに送り込まれたドープは、加圧型ダイスの口金(スリット)からエンドレスに回転している支持体の上に均一に流延される。支持体がほぼ一周したところで、生乾きのフィルム(ウェブ)として支持体から剥され、回転しているロール群に通されながら乾燥され、乾燥されたフィルムは、巻き取り機で所定の長さに巻き取られる。
【0172】
本発明に有用な流延方法としては、調整されたドープを加圧ダイスから支持体上に均一に押し出す方法、一旦支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、一旦支持体上に流延されたドープを逆回転するロールで膜厚を調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイスを用いる方法が好ましい。加圧ダイスには、コートハンガータイプやTダイスタイプ等があるがいずれも好ましく用いることができる。また、上記以外にも、例えば、特開昭61−94724号、同61−148013号、特開平4−85011号、同4−286611号、同5−185443号、同5−185445号、同6−278149号、同8−207210号などに記載の従来知られている方法を好ましく用いることができ、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することにより、それぞれの上記公報に記載の内容と同様の効果が得られる。エンドレスの支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(単に、ベルトともいう)が用いられる。加圧ダイスは、1基あるいは2基以上設置してもよい。好ましくは1基または2基である。2基以上設置する場合には、流延するドープ量をそれぞれのダイスに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギアポンプからそれぞれの割合でダイスにドープを供給する。
【0173】
支持体上に流延されたドープは、例えば、ドラムあるいはベルトの表面側、つまり支持体上にあるウェブ側から熱風を当てる方法、ドラムあるいはベルトの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をベルトやドラムの裏面に接触させて、伝熱によりドラムあるいはベルトを加熱し、表面温度をコントロールする液体伝熱方法などによって乾燥することができるが、裏面液体伝熱方式を用いるのが好ましい。
【0174】
ドープが流延される前の支持体の表面温度は、ドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし、乾燥を促進し、また、ドープの支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1から10℃低い温度に設定することが好ましい。
【0175】
製造する速度は、ドラムの直径あるいはベルトの長さ、乾燥方法、ドープ溶媒の組成等によっても変化するが、形成されたウェブをドラムやベルトから剥離する時点での残留溶媒の量も影響する。つまり、ドープ膜の厚み方向でのドラムやベルト表面付近での溶媒濃度が高すぎる場合には、形成されたウェブを剥離した時、ドラムやベルトにドープが残り、次の流延に支障をきたしてしまうし、また、形成されたウェブは、剥離する力に耐えるだけの強度が必要であるからである。剥離時点での残留溶媒量は、乾燥方法によっても異なり、ドープ表面から風を当てて乾燥する方法よりは、ベルトあるいはドラム裏面から伝熱する方法の方が効果的に残留溶媒量を低減することができる。
【0176】
ドラムやベルト上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法について述ベる。ドラムやベルトが1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロール群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送される。乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。発泡により、フィルム中に気泡ができると後述の延伸工程でフィルムが破断する原因となる恐れがあるため、当然ながらフィルム中には気泡が含まれないことが望まれる。具体的には0.5μm以上の気泡が、1個/cm未満であることが望まれる。
【0177】
支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、出来上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンター方式)が好ましい。
【0178】
上記乾燥工程における乾燥温度は、40から250℃、特に70から180℃が好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。
【0179】
請求項14に係る発明における製造方法では、支持体から剥離したウェブ(フィルム)を、少なくとも1方向に1.15〜4.0倍延伸することが特徴の一つでありであり、特に好ましくは1.2〜2.5倍に延伸することが好ましい。また、請求項15に係る発明の製造方法においては、ウェブ中の残留溶媒量が30質量%未満で延伸することが特徴である。
【0180】
本発明でいう残留溶媒量は、下記の式で表せる。
【0181】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
式中、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0182】
ウェブ中の残留溶媒量が多すぎると延伸の効果が得られず、また、少なすぎると延伸が著しく困難となり、ウェブの破断が発生してしまう場合がある。また、延伸倍率が小さすぎると十分な位相差が得られず、大きすぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。延伸倍率は所望の位相差が得られるように適宜調整することができる。
【0183】
本発明のセルロースエステルを用いて溶液流延製膜したものは、特定の範囲の残留溶媒量であれば高温に加熱しなくても延伸可能であるが、乾燥と延伸を兼ねると、工程が短くてすむので好ましい。しかし、ウェブの温度が高すぎると、可塑剤が揮散するので、室温(15℃)〜200℃以下の範囲で延伸することが好ましく、更に好ましくは請求項14の発明である40〜200℃の範囲で延伸することが好ましい。更に好ましくは70〜150℃の範囲内で延伸することであり、特に好ましくは100〜130℃で延伸することである。
【0184】
また、互いに直交する2軸方向に延伸することは、フィルムの屈折率Nx、Ny、Nzを本発明の範囲に入れるために有効な方法である。例えば流延方向に延伸した場合、巾方向の収縮が大きすぎると、Nzの値が大きくなりすぎてしまう。この場合、フィルムの巾収縮を抑制あるいは、巾方向にも延伸することで改善できる。巾方向に延伸する場合、巾手で屈折率に分布が生じる場合がある。これは、テンター法を用いた場合にみられることがあるが、巾方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、いわゆるボーイング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、流延方向に延伸することで、ボーイング現象を抑制でき、巾手の位相差の分布を少なく改善できるのである。
【0185】
更に、互いに直行する2軸方向に延伸することにより得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。セルロースエステルフィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなり、円偏光板として用いたとき着色等の問題が生じる。セルロースエステルフィルムの幅手及び長尺方向の膜厚変動は、前述したように±3%の範囲であることが望ましく、この様な目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ1.15〜4.0倍、1.0〜1.15倍の範囲とすることが好ましい。更に好ましくは長尺方向に1.2〜4.0に延伸し、幅手方向の延伸倍率が1.01〜1.2倍に延伸することが好ましく、更に好ましくは長尺方向に1.2〜2.5に延伸し、1.01〜1.10倍となるように延伸することが位相差のムラも少なく、平面性にも優れるため好ましい。
【0186】
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことがで、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0187】
以上のようにして得られたフィルムは、最終仕上がりフィルムの残留溶媒量で2質量%以下、さらに0.4質量%以下であることが、寸度安定性が良好なフィルムを得る上で好ましい。更に、残留溶媒量が10質量%未満、特に好ましくは5質量%未満まで乾燥させたフィルムを130〜200℃の温度で10秒以上、好ましくは30秒以上処理することが更に寸法安定性に優れたフィルムを得られるため好ましく、一旦、室温〜100℃以下まで冷却されたフィルムを再度この温度で処理することがより好ましい。特に延伸時の温度よりも10℃以上低くすることが効果的である。
【0188】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。
【0189】
得られたセルロースエステルフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0190】
以上の様にして得られた長尺のセルロースエステルフィルムは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長さ方向)に対して、±5度の範囲であることが好ましく、更に±1度の範囲であることが好ましい。または、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの巾方向)に対して、±5度の範囲であることが好ましく、更に±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルム長尺方向)に対して、±1度以内であることが好ましい。
【0191】
また、偏光子もしくは偏光板の偏光軸に対して、セルロースエステルフィルムの遅相軸を45度にして張り合わせることにより、円偏光板が得られる。本発明のセルロースエステルフィルムを円偏光板の保護フィルムとして用いる場合、セルロースエステルフィルムの遅相軸が、ロールフィルムの長尺方向に対して略45度の角度にあると、ロール状フィルムを用いて連続的に偏光子と貼合できるため好ましい。例えば特開2000−9912号記載の方法等を併用することによってこのような位相差フィルムを得ることもできる。ただし、遅相軸方向を45度としたロール状の長尺位相差フィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0192】
本発明の加熱乾燥後のセルロースエステルフィルムの厚さは、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイスの口金のスリット間隙、ダイスからの押し出し圧力、支持体速度等を調節することにより行うことができる。
【0193】
前述したようにフィルム中の残留溶媒量をコントロールすることで、高温度に設定しなくとも延伸可能であるのだが、本発明においては、以下の示す方法で延伸することも有効な方法の一つである。
【0194】
すなわち、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有し、グルコース残基における2位、3位および6位のアシル基置換度の合計が2.67未満であり、かつ6位のアシル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルと200℃における蒸気圧が665Pa未満の可塑剤とを有機溶媒に溶解させた溶液を、支持体上に流延し溶媒を蒸発させて残留溶媒量2質量%未満のセルロースエステルフィルムを形成した後、100℃〜200℃の温度で、少なくとも1方向に延伸する方法である。
【0195】
本発明のセルロースエステルフィルムは各種表示装置に用いられる偏光板保護フィルムとしても有用であり、また位相差フィルムとして、偏光板に貼合して円偏光板とすることもできる。特にVA方式、HAN方式、OCB方式等の形式の液晶表示装置で、視野角拡大させるための光学フィルムとしても有用である。また、このセルロースエステルフィルム上に配向膜及び液晶性化合物から形成された層を塗設して光学補償フィルムを得ることができる。
【0196】
偏光板は、前述の如く、偏光子の少なくとも一面に偏光板用保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は、従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムの様な親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロースエステルフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、例えば、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤としては、完全鹸化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。
【0197】
上記のようにして作製される偏光板は、種々の表示装置に使用できる。表示装置としては、液晶表示装置、有機電解発光素子、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等があり、例えば、一枚偏光板反射型液晶表示装置の場合、その構成は、表側から、偏光板保護フィルム/偏光子/本発明の光学フィルム/ガラス基盤/ITO透明電極/配向膜/TN型液晶/配向膜/金属電極兼反射膜/ガラス基板である。従来の場合、偏光板保護フィルム/偏光子/偏光板保護フィルム/位相差フィルム/ガラス基盤/ITO透明電極/配向膜/TN型液晶/配向膜/金属電極兼反射膜/ガラス基板の構成となる。従来の構成では、位相差フィルムの波長に対する位相差特性が不十分であるため着色が見られるが、本発明の光学フィルムを用いることで着色のない良好な液晶表示装置が得られるのである。更に、本発明の光学フィルムを用いることによって、従来別々に用いられていた偏光板保護フィルムと位相差フィルムを一枚のフィルムとすることもでき、手数のかかる張り合わせ工程の短縮が可能である。また、コレステリック液晶からなる反射型偏光素子の場合は、バックライト/コレステリック液晶層/本発明の光学フィルム/偏光子/偏光板保護フィルムの構成で用いることができる。
【0198】
また、本発明のセルロースエステルフィルムは、偏光板の一方の面に貼合して円偏光板を作製することができる。すなわち、本発明の光学フィルムを四分の1波長板として用いた偏光板の場合、自然偏光を円偏光に変換できる円偏光板となる。これは、プラズマディスプレイや有機ELディスプレイ等の前面板に設置することで反射防止フィルムや防眩フィルムとして働き、着色や視認性の劣化を防止できる。また、タッチパネルの反射防止にも使用できる。
【0199】
有機電解発光素子は、有機EL素子とも呼ばれ、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライドフィジックス第25巻773項(1986年)等で紹介されているものである。その構成は、例えば、透明基盤/陽極/有機発光層/陰極、または透明基盤/陽極/正孔注入輸送層/電子注入輸送発光層/陰極、または透明基盤/陽極/正孔注入輸送層/電子注入輸送層/陰極、または透明基盤/陽極/正孔注入輸送層/有機発光層/電子注入輸送層/陰極などの順で構成されている。この構成では、外部からの光が透明基盤側から入り、陰極表面で反射した光が写ってしまい視認性が悪い。ところが、透明基盤の表面に円偏光板を設けることで、陰極表面での反射光を遮断できるので視認性に優れたディスプレイとなるのである。
【実施例】
【0200】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0201】
実施例1
〔セルロースアセテート1の作製〕
セルロース100質量部に、硫酸16質量部、無水酢酸260質量部、酢酸420質量部をそれぞれ添加し、攪拌しながら室温から60℃まで60分かけて昇温し、15分間その温度を保持しながら酢化反応を行った。次に、酢酸マグネシウムの酢酸−水混合溶液を添加して硫酸を中和した後、反応系内に水蒸気を導入して、60℃で120分間維持して鹸化熟成処理を行った。その後、多量の水により酢酸臭がなくなるまで洗浄を行い、更に乾燥した後、アセチル基の置換度2.65、粘度平均重合度290のセルロースアセテート1を得た。
【0202】
なお、得られたセルロースアセテート1の6位のアセチル基の置換度は、前述の13C−NMRにより求めた結果、0.85であった。また、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比Mn/Mwは2.0であった。
【0203】
〔ドープ液1の調製〕
上記調製したセルロースアセテート1の100質量部とアセチルクエン酸トリブチル10質量部、塩化メチレン290質量部及びエタノール60質量部とを密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら60分かけて45℃まで昇温して溶解し、ドープ液1を調製した。なお、容器内は1.2気圧であった。このドープ液1を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、24時間静置し、ドープ液中の泡を除いた。
【0204】
〔紫外線吸収剤溶液1の調製〕
上記セルロースアセテート1を5質量部、下記の方法で得られた高分子紫外線吸収剤1を8質量部を、塩化メチレン94質量部及びエタノール8質量部と混合、撹拌、溶解して、紫外線吸収剤溶液1を調製した。
【0205】
〈高分子紫外線吸収剤1の合成〉
アクリルモノマー(e)7.18g(20mmol)とアクリルモノマー(f)10.75g(125mmol)を100ml三頭コルベンに入れ、真空ポンプにより、減圧にした後、窒素置換を三回行なった。窒素下、脱水テトラヒドロフラン60mlに溶解し、加熱還流した。この溶液にアゾビスイソブチロニトリル1.16g(7.25mmol)のテトラヒドロフラン溶液を添加し、3時間加熱還流した。反応溶液の溶媒を減圧留去した後、少量のテトラヒドロフランに溶解し、アセトンで再沈した。析出物を濾取し、高分子紫外線吸収剤1を得た。高分子紫外線吸収剤1の分子量をGPCにより測定した結果、数平均分子量は16800であった。また、高分子紫外線吸収剤1の構造は、1H−NMRにより、アクリルモノマー(e)とアクリルモノマー(f)のユニット比はそれぞれ40質量%及び60質量%であることを確認した。
【0206】
【化24】

【0207】
〔セルロースエステルフィルム1(光学フィルム1)の作製〕
上記ドープ液1の100質量部に対して、前記紫外線吸収剤溶液1を2質量部の割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイコータからステンレスベルト上にドープ温度30℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から25℃の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて15秒間保持した後、ステンレスベルトから剥離した。剥離時のセルロースエステルフィルム中の残留溶媒量は100質量%であった。次いで、横延伸機(テンター)を用いて剥離したウェブの両端をクリップで掴み、クリップ間隔を巾方向に変化させることで、120℃で巾方向に1.5倍延伸した。延伸終了後、一旦、フィルム温度を80℃まで冷却した後、周速の異なるローラーを用いて130℃で長さ方向に1.1倍延伸した。更にローラー搬送しながら130℃で10分間乾燥させ、膜厚120μmのセルロースエステルフィルム1(光学フィルム1)を作製した。
【0208】
セルロースエステルフィルム1は、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度250℃のエンボスリングを押し当て、高さ15μmの突起を形成する厚みだし加工を施して、フィルム同士の密着を防止した。
【0209】
〔セルロースアセテートフィルム1の特性評価〕
得られたフィルムロールからフィルムサンプルを切り出し、下記方法に従い膜厚むら、ヘイズ、R0、Rtの測定及び面押されの評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0210】
〈膜厚むらの測定〉
フィルムの巾方向に、10mm間隔でマイクロメーターを用いて膜厚(μm)を測定し、各膜厚の最大値と最小値の差(μm)で表した。
【0211】
〈ヘイズ測定〉
JIS K7105−1981に準じてヘイズを測定した。
【0212】
〈R0値、Rt値の測定〉
フィルム巾方向の端部から反対側端部間で等間隔に10カ所(順にA点からJ点とする)サンプリングし、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長590nmにおける3次元屈折率測定を行い、遅相軸方向の屈折率Nx、進相軸方向の屈折率Ny、厚さ方向の屈折率Nzを測定し、下式により、Rt値、R0値を算出した。
【0213】
R0=(Nx−Ny)×d
Rt={(Nx+Ny)/2−Nz}×d
なお、式中のdは、フィルムの厚み(nm)である。
【0214】
〈面押され故障の評価〉
フィルム1m×1mの範囲を目視で観察し、フィルム表面の変形の大きさが100μm以上の押され変形故障の個数を測定した。面押され故障数として3個以下であれば、実用上問題はないと判断した。
【0215】
なお、セルロースエステルフィルム1の遅相軸の方向は、フィルムの巾方向に対し±2度の範囲に収まっていることを確認した。
【0216】
〔保護フィルムAの作製〕
アセチル基の置換度2.92、粘度平均重合度300のセルローストリアセテート100質量部、エチルフタリルエチルグリコレート2質量部、トリフェニルフォスフェイト10質量部、塩化メチレン350質量部、エタノール50質量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、60分かけて45℃まで上げて溶解した。この時、容器内は1.2気圧となった。このドープ液Aを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、24時間静置し、ドープ中の泡を除いた。次いで、上記調製したセルローストリアセテート1を5質量部、チヌビン326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)3質量部、チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)7質量部、チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)5質量部及びAER0SIL 200V(日本アエロジル(株)製)1質量部を塩化メチレン90質量部及びエタノール10質量部に混合、撹拌して溶解し、紫外線吸収剤溶液Aを調製した。上記ドープ液Aの100質量部に対して紫外線吸収剤溶液Aを2質量部の割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイコータからステンレスベルト上にドープ温度35℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から35℃の温度の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて15秒間保持した後、ステンレスベルトから剥離した。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は70質量%であった。次いで剥離したウェブの両端を固定しながら120℃で10分間乾燥させ、膜厚80μmのセルロースアセテートフィルムA(保護フィルムA)を得た。
【0217】
〔偏光板1の作製〕
上記作製した各セルロースアセテートフィルム(保護フィルムA及び光学フィルム1)をそれぞれ60℃、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に2分間浸漬して水洗した後、100℃で10分間乾燥してアルカリ鹸化処理を施した。
【0218】
別途、厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で4倍に延伸して偏光膜(偏光子1)を作製した。
【0219】
上記作製した偏光子1の片面に、上記のアルカリ鹸化処理済み光学フィルム1を、その反対面に上記のアルカリ鹸化処理済み保護フィルムAを完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として、各々貼り合わせて偏光板1を作製した。
【0220】
上記偏光板1の作製に当たり、光学フィルム1は、フィルムロールの巾方向の両端部及び中央部からそれぞれフィルムサンプルを切り出し、それぞれについて2枚づつ(合計6枚)偏光板1を作製した。なお、偏光子1の偏光軸と光学フィルム1の巾方向とのなす角度は、45度となるように貼り合わせた。
【0221】
〔偏光板1の評価〕
以上の様にして作製した偏光板1(6枚)を、更に偏光板が実際に使用される状況を考慮し、60℃で90%RHの環境下で500時間処理した後、一枚偏光板反射型液晶表示装置に組み込み評価した。構成は、前面側から、本発明の偏光板1/ガラス基板/ITO透明電極/配向膜/TN型液晶/配向膜/金属電極兼反射膜/ガラス基板とした。偏光板1は保護フィルムAが最前面になるように配置した。電源OFF時及び電源ONそれぞれの場合で、着色の程度を目視で評価したところ、いずれの偏光板1を用いても着色はほとんど認められず、良好なコントラストが得られることが判った。
【0222】
実施例2
〔セルロースアセテート2の作製〕
セルロース100質量部に、硫酸18質量部、無水酢酸260質量部、酢酸420質量部を添加、攪拌しながら室温から55℃まで60分かけて昇温し、15分間その温度で保持して酢化反応を行った。次に、酢酸マグネシウムの酢酸−水混合溶液を添加して硫酸を中和した後、反応系内に水蒸気を導入して、55℃で240分間維持して鹸化熟成処理を行った。その後、多量の水により、酢酸臭がなくなるまで洗浄を行い、更に乾燥して、アセチル基の置換度2.54、粘度平均重合度250のセルロースアセテート2を得た。
【0223】
得られたセルロースアセテート2の6位のアセチル基の置換度は、前述の13C−NMRにより求めた結果0.72であった。また、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比Mn/Mwは、3.0であった。
【0224】
〔ドープ液2の調製〕
上記のセルロースアセテート1の100質量部、リン酸トリクレシル10質量部、塩化メチレン290質量部及びエタノール60質量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、60分かけて45℃まで上げ溶解して、ドープ液2を調製した。この時、容器内は1.2気圧となった。このドープ液2を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、24時間静置し、ドープ中の泡を除いた。
【0225】
〔紫外線吸収剤溶液2の調製〕
上記セルロースアセテート2を5質量部、前記高分子紫外線吸収剤1を12質量部及びAER0SIL R972V(日本アエロジル(株)製)1質量部とを塩化メチレン94質量部とエタノール8質量部に混合、撹拌、溶解して、紫外線吸収剤溶液2を調製した。
【0226】
〔セルロースエステルフィルム2(光学フィルム2)の作製〕
上記調製したドープ液2の100質量部に対して、紫外線吸収剤溶液2を2質量部の割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイコータからステンレスベルト上にドープ温度39℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から39℃の温度の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて15秒間保持した後、ステンレスベルトから剥離した。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は30質量%であった。次いで横延伸機(テンター)を用いて剥離したウェブの両端をクリップで掴み、クリップ間隔を巾方向に変化させることで、150℃で巾方向に3.0倍延伸した。この後、一旦、フィルム温度を60℃まで冷却した後、クリップから解放し、ローラー搬送しながら130℃で10分間乾燥させ、膜厚40μmのセルロースアセテートフィルム2(光学フィルム2)を得た。
【0227】
セルロースエステルフィルム2は、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度230℃のエンボスリングを押し当て、5μmの厚みだし加工を施して、フィルム同士の密着を防止した。
【0228】
〔セルロースアセテートフィルム2の特性評価〕
得られたフィルムロールからフィルムサンプルを切り出し、実施例1に記載したと同様の方法にて、膜厚むら、ヘイズ、R0値、Rt値の測定及び面押され故障の評価を行い、得られた結果を表1に示した。なお、セルロースアセテートフィルム2の遅相軸の方向は、フィルムの巾方向に対し±2度の範囲に収まっていることを確認した。
【0229】
〔偏光板2の作製〕
上記作製したセルロースアセテートフィルム2(光学フィルム2)を60℃、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に2分間浸漬し水洗した後、100℃で10分間乾燥して、アルカリ鹸化処理を施した。
【0230】
実施例1で作製した偏光子1の片面に上記のアルカリ鹸化処理済みの光学フィルム2を、その反対面に実施例1で作製したアルカリ鹸化処理済み保護フィルムAを完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として用いて各々貼り合わせ偏光板2を作製した。
【0231】
なお、光学フィルム2は、フィルムロールの巾方向の両端部及び中央部からそれぞれフィルムサンプルを切り出し、それぞれについて2枚づつ(合計6枚)偏光板2を作製した。偏光子1の偏光軸と光学フィルム2の巾方向とのなす角度は、45度となるように貼り合わせた。
【0232】
〔偏光板2の評価〕
以上の様にして作製した偏光板2(6枚)を用いて、市販のバックライト/コレステリック液晶層/偏光板2の構成で着色の程度を目視で評価したところ、着色はほとんど認められず、良好な結果が得られた。
【0233】
実施例3
〔セルロースアセテート3の作製〕
セルロース100質量部に、硫酸18質量部、無水酢酸260質量部、酢酸400質量部を添加、攪拌しながら、室温から55℃まで60分かけて昇温し、15分間その温度で保持して酢化反応を行った。次に、酢酸マグネシウムの酢酸−水混合溶液を添加して硫酸を中和した後、反応系内に水蒸気を導入して、55℃で180分間維持して鹸化熟成処理を行った。この後、多量の水により酢酸臭がなくなるまで洗浄を行い、更に乾燥した後、アセチル基の置換度2.50、粘度平均重合度240のセルロースアセテート3を得た。
【0234】
得られたセルロースアセテート3の6位のアセチル基の置換度は、前述の13C−NMRにより求めた結果0.80であった。また、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比Mn/Mwは2.5であった。
【0235】
〔ドープ液3の調製〕
上記のセルロースアセテート3の100質量部に、一般式(B)で表される可塑剤PL−26を10質量部、塩化メチレン290質量部、エタノール60質量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、60分かけて45℃まで上げ溶解してドープ液3を調製した。この時、容器内は1.2気圧となった。このドープ液3を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、24時間静置しドープ中の泡を除いた。
【0236】
〔紫外線吸収剤溶液3の調製〕
上記セルロースアセテート3を3質量部、前記高分子紫外線吸収剤1を10質量部とを塩化メチレン90質量部とエタノール10質量部に混合、撹拌、溶解して、紫外線吸収剤溶液3を調製した。
【0237】
〔セルロースアセテートフィルム3(光学フィルム3)の作製〕
上記調製したドープ液3の100質量部に対して、紫外線吸収剤溶液3を2質量部の割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイコータからステンレスベルト上にドープ温度35℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から35℃の温水を接触させ、温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて15秒間保持した後、ステンレスベルトから剥離した。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は70質量%であった。次いで、120℃のオーブン内でロール搬送しながら、オーブン入り口直後のロール周速に対してオーブン出口直前のロール周速を1.5倍になるようにして、複数のロール間で流延方向(フィルムの長尺方向)に1.5倍延伸した。延伸後、直ちに60℃まで冷却した。更にテンターを用いてウェブの両端をクリップで掴み、クリップ間隔を徐々に広げ、テンター出口で巾方向の延伸倍率が1.05倍になるようにしながら、140℃で5分乾燥させ、膜厚70μmのセルロースアセテートフィルム3(光学フィルム3)を得た。
【0238】
セルロースエステルフィルム3は、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度270℃のエンボスリングを押し当て、10μmの厚みだし加工を施して、フィルム同士の密着を防止した。
【0239】
〔セルロースアセテートフィルム3の特性評価〕
得られたフィルムロールからフィルムサンプルを切り出し、実施例1に記載したと同様の方法にて、膜厚むら、ヘイズ、R0値、Rt値の測定及び面押され故障の評価を行い、得られた結果を表1に示した。なお、セルロースアセテートフィルム3の遅相軸の方向は、フィルムの巾方向に対し±2度の範囲に収まっていることを確認した。
【0240】
〔偏光板3の作製〕
上記作製したセルロースアセテートフィルム3(光学フィルム3)を60℃、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に2分間浸漬し水洗した後、100℃で10分間乾燥して、アルカリ鹸化処理を施した。
【0241】
実施例1で作製した偏光子1の片面に上記のアルカリ鹸化処理済みの光学フィルム3を、その反対面に実施例1で作製したアルカリ鹸化処理済み保護フィルムAを完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として用いて各々貼り合わせ偏光板3を作製した。
【0242】
なお、光学フィルム3は、フィルムロールの巾方向の両端部及び中央部からそれぞれフィルムサンプルを切り出し、それぞれについて2枚づつ(合計6枚)偏光板3を作製した。偏光子1の偏光軸と光学フィルム3の巾方向とのなす角度は、45度となるように貼り合わせた。
【0243】
〔偏光板3の評価〕
以上の様にして作製した偏光板3(6枚)を用いて、実施例1と同様の方法にて液晶表示装置で評価を行った結果、着色がほとんど認められず、良好な結果を得ることができた。
【0244】
実施例4
〔ドープ液4の調製〕
実施例2で作製したセルロースアセテート2を100質量部、アセチルクエン酸トリブチルを10質量部、酢酸メチルを200質量部及びエタノール50質量部を密閉容器に入れ膨潤させた。膨潤した混合物を−70℃まで冷却して30分そのまま保持した。次いで50℃まで加温、溶解した後、更に60分間攪拌して、ドープ液4を調製した。このドープ液4を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、24時間静置しドープ中の泡を除いた。
【0245】
〔紫外線吸収剤溶液4の調製〕
セルロースアセテート2を5質量部、前記高分子紫外線吸収剤1を8質量部とを酢酸メチル94質量部とエタノール8質量部に混合、撹拌、溶解し、紫外線吸収剤溶液4を調製した。
【0246】
〔セルロースアセテートフィルム4(光学フィルム4)の作製〕
上記ドープ液4の100質量部に対して、紫外線吸収剤溶液4を2質量部の割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイコータからステンレスベルト上にドープ温度50℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から55℃の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて15秒間保持した後、ステンレスベルトから剥離した。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は70質量%であった。次いで同時二軸延伸テンターを用いて剥離したウェブの両端をクリップで掴み、クリップ間隔を巾方向と流延方向(長さ方向)に同時に変化させることで、150℃で巾方向に2.5倍、流延方向(長さ方向)に1.05倍延伸した。延伸終了後、一旦、フィルム温度を80℃まで冷却した後、周速の異なるローラーを用いて130℃で長さ方向に1.05倍延伸した。更にローラー搬送しながら130℃で10分間乾燥させ、膜厚75μmのセルロースアセテートフィルム4(光学フィルム4)を得た。
【0247】
セルロースエステルフィルム4は、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度250℃のエンボスリングを押し当て、高さ10μmの厚みだし加工を施して、フィルム同士の密着を防止した。
【0248】
〔セルロースアセテートフィルム4の特性評価〕
得られたフィルムロールからフィルムサンプルを切り出し、実施例1に記載したと同様の方法にて、膜厚むら、ヘイズ、R0値、Rt値の測定及び面押され故障の評価を行い、得られた結果を表1に示した。なお、セルロースアセテートフィルム4の遅相軸の方向は、フィルムの巾方向に対し±2度の範囲に収まっていることを確認した。
【0249】
〔偏光板4の作製〕
上記作製したセルロースアセテートフィルム4(光学フィルム4)を60℃、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に2分間浸漬し水洗した後、100℃で10分間乾燥して、アルカリ鹸化処理を施した。
【0250】
実施例1で作製した偏光子1の片面に上記のアルカリ鹸化処理済みの光学フィルム4を、その反対面に実施例1で作製したアルカリ鹸化処理済み保護フィルムAを完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として用いて各々貼り合わせ偏光板4を作製した。
【0251】
なお、光学フィルム4は、フィルムロールの巾方向の両端部及び中央部からそれぞれフィルムサンプルを切り出し、それぞれについて2枚づつ(合計6枚)偏光板4を作製した。偏光子1の偏光軸と光学フィルム4の巾方向とのなす角度は、45度となるように貼り合わせた。
【0252】
〔偏光板4の評価〕
以上の様にして作製した偏光板4(6枚)を用いて、実施例1と同様の方法にて液晶表示装置で評価を行った結果、着色がほとんど認められず、良好なコントラスト特性を得ることができた。
【0253】
実施例5
〔セルロースアセテート5の作製〕
セルロース100質量部に、硫酸16質量部、無水酢酸260質量部、酢酸420質量部を添加し攪拌しながら、室温から60℃まで60分かけて昇温し、15分間その温度で保持して酢化反応を行った。次に、酢酸マグネシウムの酢酸−水混合溶液を添加して硫酸を中和した後、反応系内に水蒸気を導入して、60℃で180分間維持して鹸化熟成処理を行った。その後、多量の水により酢酸臭がなくなるまで洗浄を行い、更に乾燥して、アセチル基の置換度2.60、粘度平均重合度270のセルロースアセテート5を得た。
【0254】
得られたセルロースアセテート5の6位のアセチル基の置換度は、前述の13C−NMRにより求めた結果0.77であった。また、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比Mn/Mwは3.0であった。
【0255】
〔ドープ液5の調製〕
上記作製したセルロースアセテート5を100質量部、アセチルクエン酸トリブチルを10質量部、塩化メチレンを290質量部及びエタノール60質量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、60分かけて45℃まで上げ溶解して、ドープ液5を調製した。この時、容器内は1.2気圧となった。このドープ液5を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、24時間静置しドープ中の泡を除いた。
【0256】
〔紫外線吸収剤溶液5の調製〕
上記作製したセルロースアセテート5を5質量部、下記に示す方法で得られた高分子紫外線吸収剤2を10質量部、塩化メチレン94質量部及びエタノール8質量部を混合、撹拌、溶解して、紫外線吸収剤溶液5を調製した。
【0257】
〈高分子紫外線吸収剤2の合成〉
ペンタヒドロキシトリアジン(c)10.35g(20mmol)とグルタル酸(d)2.64g(20mmol)に酸化アンチモン0.02gを加え、真空かき混ぜ機をつけた重合管に入れる。重合管には窒素ガス導入管をつなぎ、この重合管を油浴に入れ180℃に加熱しながら、ゆっくりと窒素ガスを通した。かき混ぜながら、徐々に270℃まで昇温し、同時に真空度を102Paまで高めた。このまま3時間加熱した後、放冷し、定量的に高分子紫外線吸収剤2を得た。高分子紫外線吸収剤2の分子量をGPCにより測定した結果、数平均分子量は23000であった。また高分子紫外線吸収剤2の構造は1H−NMRにより確認した。
【0258】
【化25】

【0259】
〔セルロースエステルフィルム5(光学フィルム5)の作製〕
上記調製したドープ液5の100質量部に対して、前記紫外線吸収剤溶液5を2質量部の割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイコータからステンレスベルト上にドープ温度30℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から30℃の温水を接触させて、温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて15秒間保持した後、ステンレスベルトから剥離した。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は100質量%であった。次いで、横延伸機(テンター)を用いて剥離したウェブの両端をクリップで掴み、クリップ間隔を巾方向に変化させることで、100℃で巾方向に1.5倍延伸した。延伸終了後、一旦、フィルム温度を60℃まで冷却した後、周速の異なるローラーを用いて130℃で長さ方向に1.05倍延伸した。更にローラー搬送しながら130℃で10分間乾燥させ、膜厚100μmのセルロースエステルフィルム5(光学フィルム5)を得た。
【0260】
セルロースエステルフィルム5は、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度250℃のエンボスリングを押し当て、高さ15μmの突起を形成することにより厚みだし加工を施して、フィルム同士の密着を防止した。
【0261】
〔セルロースアセテートフィルム5の特性評価〕
得られたフィルムロールからフィルムサンプルを切り出し、実施例1に記載したと同様の方法にて、膜厚むら、ヘイズ、R0値、Rt値の測定及び面押され故障の評価を行い、得られた結果を表1に示した。なお、セルロースアセテートフィルム5の遅相軸の方向は、フィルムの巾方向に対し±2度の範囲に収まっていることを確認した。
【0262】
〔偏光板5の作製〕
上記作製したセルロースアセテートフィルム5(光学フィルム5)を60℃、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に2分間浸漬し水洗した後、100℃で10分間乾燥して、アルカリ鹸化処理を施した。
【0263】
実施例1で作製した偏光子1の片面に上記のアルカリ鹸化処理済みの光学フィルム5を、その反対面に実施例1で作製したアルカリ鹸化処理済み保護フィルムAを完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として用いて各々貼り合わせ偏光板5を作製した。
【0264】
なお、光学フィルム5は、フィルムロールの巾方向の両端部及び中央部からそれぞれフィルムサンプルを切り出し、それぞれについて2枚づつ(合計6枚)偏光板5を作製した。偏光子1の偏光軸と光学フィルム5の巾方向とのなす角度は、45度となるように貼り合わせた。
【0265】
〔偏光板5の評価〕
以上の様にして作製した偏光板5(6枚)を用いて、実施例1と同様の方法にて液晶表示装置で評価を行った結果、着色がほとんど認められず、良好なコントラスト特性を得ることができた。
【0266】
比較例1
〔セルロースアセテート6の作製〕
セルロース100質量部に、硫酸12質量部、無水酢酸260質量部、酢酸420質量部を添加し、攪拌しながら室温から70℃まで60分かけて昇温し、15分間その温度で保持して酢化反応を行った。次に、酢酸マグネシウムの酢酸−水混合溶液を添加して硫酸を中和した後、反応系内に水蒸気を導入して、70℃で120分間維持して鹸化熟成処理を行った。その後、多量の水により酢酸臭がなくなるまで洗浄を行い、アセチル基の置換度2.65、粘度平均重合度273のセルロースアセテート6を得た。
【0267】
得られたセルロースアセテート6の6位のアセチル基の置換度は0.87であった。また、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比Mn/Mwは3.7であった。
【0268】
〔ドープ液6の調製〕
上記作製したセルロースアセテート6を100質量部、フタル酸ジブチルを3質量部、塩化メチレンを450質量部及びメタノール50質量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、60分かけて45℃まで上げ溶解して、ドープ液6を調製した。その時、容器内は1.2気圧となった。このドープ液6を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、24時間静置しドープ中の泡を除いた。
【0269】
〔紫外線吸収剤溶液6の調製〕
上記作製したセルロースアセテート6を3質量部、チヌビン326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を5質量部及びチヌビン328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)5質量部を塩化メチレン90質量部とエタノール10質量部に混合、撹拌、溶解して、紫外線吸収剤溶液6を調製した。
【0270】
〔セルロースアセテートフィルム6(光学フィルム6)の作製〕
上記調製したドープ液6の100質量部に対して、紫外線吸収剤溶液6を2質量部の割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイコータからステンレスベルト上にドープ温度35℃で流延した。ステンレスベルトの裏面から35℃の温水を接触させて、温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて15秒間保持した後、ステンレスベルトから剥離した。剥離時のウェブ中の残留溶媒量は70質量%であった。次いで、120℃のオーブン内でロール搬送しながら、オーブン入り口直後のロール周速に対してオーブン出口直前のロール周速を1.5倍になるようにして、流延方向(フィルムの長尺方向)に1.5倍延伸した。更にテンターを用いてウェブの両端をクリップで掴み、クリップ間隔を徐々に広げテンター出口で巾方向の延伸倍率が1.05倍になるように延伸した後、140℃で5分乾燥させ、膜厚70μmのセルロースアセテートフィルム6(光学フィルム6)を作製した。
【0271】
セルロースエステルフィルム6は、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度270℃のエンボスリングを押し当て、15μmの厚みだし加工を施して、フィルム同士の密着を防止した。
【0272】
〔セルロースアセテートフィルム6の特性評価〕
得られたフィルムロールからフィルムサンプルを切り出し、実施例1に記載したと同様の方法にて、膜厚むら、ヘイズ、R0値、Rt値の測定及び面押され故障の評価を行い、得られた結果を表1に示した。なお、セルロースアセテートフィルム6の遅相軸の方向は、フィルムの巾方向に対し±15度とばらつきが大きかった。
【0273】
〔偏光板6の作製と評価〕
実施例1の偏光板1の作製において、光学フィルム1の代わりに光学フィルム6を用いた以外は同様にして偏光板6を作製し、実施例1と同様の方法にて液晶表示装置で評価したところ、着色むら甚だしく実用に耐えない画面品質であった。
【0274】
比較例2
〔セルロースアセテート7の作製〕
セルロース100質量部に、硫酸8質量部、無水酢酸260質量部、酢酸420質量部を添加して、攪拌しながら室温から65℃まで60分かけて昇温し、15分間その温度で保持して酢化反応を行った。次に、酢酸マグネシウムの酢酸−水混合溶液を添加して硫酸を中和した後、反応系内に水蒸気を導入して、65℃で40分間維持して鹸化熟成を行った。その後、多量の水により酢酸臭がなくなるまで洗浄を行い、更に乾燥しアセチル基の置換度2.80、粘度平均重合度300のセルロースアセテート7を作製した。
【0275】
得られたセルロースアセテート7の6位のアセチル基の置換度は、0.85であった。また、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比Mn/Mwは3.5であった。
【0276】
〔光学フィルム7の作製と特性評価〕
上記作製したセルロースアセテート7を用いて、比較例1と同様の方法にて光学フィルム7を作製し、膜厚むら、ヘイズ、R0値、Rt値の測定及び面押され故障の評価を行い、得られた結果を表1に示した。
【0277】
なお、光学フィルム7の遅相軸の方向は、フィルムの巾方向に対し±10度とばらつきが大きかった。
【0278】
〔偏光板7の作製と評価〕
実施例1の偏光板1の作製において、光学フィルム1の代わりに光学フィルム7を用いた以外は同様にして偏光板7を作製し、実施例1と同様の方法にて液晶表示装置で評価したところ、着色むら甚だしい上に、コントラストが悪く実用に耐えない画面品質であった。
【0279】
実施例6
実施例1で作製したセルロースエステルフィルム1において、縦方向の延伸倍率を3.0倍とし、最終フィルム厚さを150μmになるように変更した以外は同様にして光学フィルム8を作製し、実施例1に記載の方法で、膜厚むら、ヘイズ、R0値、Rt値の測定及び面押され故障の評価を行い、得られた結果を表1に示した。なお、光学フィルム8の遅相軸の方向は、フィルムの巾方向に対し±1度とばらつきは小さかった。
【0280】
ついで実施例1の偏光板1の作製において、光学フィルム1に代えて光学フィルム8を用いた以外は同様にして偏光板8を作製し、実施例1と同様の方法で評価を行った結果、偏光板として着色がほとんど認められず、良好なコントラスト特性を得ることができた。
【0281】
【表1】

【0282】
また、表1より明らかなように、本発明の実施例5で作製したセルロースアセテートフィルムは、比較例に対して、膜厚ムラが少なく、ヘイズも低く、R0値、Rt値のバラツキが少なく、かつ面押され故障の発生が極めて少ないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2〜4のアシル基を置換基として有し、グルコース残基における2位、3位および6位のアシル基置換度の合計が2.67未満であり、かつ6位のアシル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルを含み、かつ下記一般式(3)で表される紫外線吸収性基を有する繰り返し単位を含む高分子紫外線吸収剤を含有することを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【化1】

〔式中、R12〜R25は各々、水素原子、ハロゲン原子または置換基を表す。〕
【請求項2】
アセチル基を置換基として有し、グルコース残基における2位、3位および6位のアセチル基置換度の合計が2.5以上2.67未満であり、かつ6位のアセチル基置換度が0.87未満であるセルロースエステルを含み、かつ下記一般式(3)で表される紫外線吸収性基を有する繰り返し単位を含む高分子紫外線吸収剤を含有することを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【化2】

〔式中、R12〜R25は各々、水素原子、ハロゲン原子または置換基を表す。〕
【請求項3】
前記セルロースエステルが、重量平均分子量Mwの数平均分子量Mnに対する比が2.0以上3.5以下であることを特徴とする請求項1または2記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項4】
面内方向のリターデーション値R0が、110〜2000nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項5】
数平均分子量1000〜100000の高分子紫外線吸収剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項6】
膜厚が30〜70μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項7】
フィルムの厚み方向のリターデーション値Rtが、0〜75nmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項8】
長尺フィルムで、かつ幅手方向における面内方向のリターデーション値R0の変動率が、±5%以内であること特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項9】
酢酸メチルまたはアセトンを含むセルロースエステル溶液を支持体上に流延して製膜されたこと特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項10】
フィルム面内の遅相軸方向が、長尺方向に対して±5度の範囲または幅手方向に対して±5度の範囲のいずれかであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルムからなる長尺位相差フィルム。
【請求項11】
炭素数2〜4のアシル基を置換基として有し、2位、3位および6位のアシル基置換度の合計が2.67未満であり、かつ6位のアシル基置換度が0.87未満であるセルロースエステル、その溶媒、可塑剤及び下記一般式(3)で表される紫外線吸収性基を有する繰り返し単位を含む高分子紫外線吸収剤を含むセルロースエステル溶液を支持体上に流延し、剥離後のセルロースエステルフィルムを長尺方向または幅手方向に同時もしくは逐次延伸することを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。
【化3】

〔式中、R12〜R25は各々、水素原子、ハロゲン原子または置換基を表す。〕
【請求項12】
延伸時の温度が40〜200℃の範囲で、かつ1.15〜4.0倍に延伸することを特徴とする請求項11に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項13】
残留溶媒量として30質量%未満で延伸することを特徴とする請求項11または12に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項14】
光学フィルムが、請求項11〜13のいずれか1項記載の方法で製造されたセルロースエステルフィルムであることを特徴とする光学フィルム。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれか1項記載のセルロースエステルフィルム、請求項10に記載の長尺位相差フィルムまたは請求項14に記載の光学フィルムを、偏光子または偏光板の少なくともの一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【請求項16】
請求項15に記載の偏光板を有することを特徴とする表示装置。

【公開番号】特開2010−265460(P2010−265460A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119064(P2010−119064)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【分割の表示】特願2000−250824(P2000−250824)の分割
【原出願日】平成12年8月22日(2000.8.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】