説明

センカクソウエキスの製造方法およびエキス配合飲料

【課題】 50%のエタノールを用い、沸騰条件下で製造したエキスではエキス中に沈殿が生じ、流動性が低いばかりでなく、水への溶解性も著しく低いことから、これらのエキスを用いて飲料を製造することが困難であることを見出した。一方、20℃以下の低温で抽出すると、流動性が改善され、沈殿量も減少するが、30分の沸騰抽出と比較してエキス収率が極めて低く、生産性の観点から問題であった。
本発明の目的は、水などの極性が高い溶媒に溶解しても、生物活性を維持しつつ、沈殿量を最小限に抑えることができるセンカクソウエキスの製造方法およびその製法により製造したセンカクソウエキス、さらには、そのエキスを配合した飲料を提供することにある。
【解決手段】 センカクソウを25〜35%のエタノールに浸漬し、その後エタノールを留去する工程を含むセンカクソウエキスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水などの極性が高い溶媒に溶解しても沈殿の形成を最小限にとどめることができるセンカクソウエキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生薬などの天然物中には温水などで簡単に抽出される極性の高い物質から植物油など極性の低い物質まで種々の極性を呈する物質が含まれている。一般に天然物を抽出する場合、抽出溶媒として、水、エタノール、酢酸エチル、エーテルなどを用い、冷浸または加熱抽出することにより、エキスを得ることが多い。これらのエキスを水やお茶などに溶解して飲料を製造する場合、エキスの溶解性や流動性が問題となる。一方、エキスの有効性の面からは抽出方法の違いにより、活性に差が見られることも一般的である。
【0003】
センカクソウ(仙鶴草)は竜牙草とも称され、その基原植物にはバラ科のキンミズヒキ(Agrimonia pilosa )の全草があてられている(非特許文献1)。また、センカクソウの薬材としては上記以外にその亜種であるA. pilosa var. pilosa、A. pilosa var. nepalensis、A. pilosa var. viscidula、A. pilosa var. davurica、A. pilosa var. nipponicaなども用いられるが、同属植物のセイヨウキンミズヒキ(A. eupatria)はセンカクソウとしては用いられていない(非特許文献2)。センカクソウの薬理作用としては抗菌作用や抗腫瘍作用が知られており、漢方あるいは中医学においては止血作用を期待し、処方薬に配合して用いられている(非特許文献1)。
【0004】
さらに、本願発明者はセンカクソウがαグルコシダーゼ阻害作用を有することを明らかにしているが、薬理作用の面から、抽出溶媒として水または95%エタノールでは活性が得られず、5〜10%または70%エタノールでは活性が弱いことから、抽出溶媒としては15〜70%のエタノールが好ましく、20〜50%エタノールがさらに好ましく、25〜35%のエタノールが最も好ましいことを開示している(特許文献1)。
【0005】
また、キンミズヒキの抽出物を有効成分とするリパーゼ阻害剤も開示されている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特願2005−161274号
【特許文献2】特開2005−60334号公報
【非特許文献1】難波恒夫著、「和漢薬百科図鑑」、保育社、[II]平成6年2月28日全改訂新版、p.62-64
【非特許文献2】上海科学技術出版社 小学館 編、「中薬大辞典 第三巻」、小学館、昭和60年12月10日、p.1488
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、50%のエタノールを用い、沸騰条件下で製造したエキスを水に溶解した飲料を製造したところ、沈殿が発生し、その沈殿物が凝集して塊になることから流動性が低く、さらに水への溶解性も著しく低いことから、これらのエキスを用いて飲料を製造することが困難であることを見出した。一方、20℃以下の低温で抽出すると、流動性は改善され、エキス中の沈殿量も減少するが、沸騰条件下で30分間抽出して得たエキスと比較して収量が極めて低く、生産性の観点から問題であった。
【0008】
本発明の目的は、高い生物活性を持ち、なおかつ、極性が高い水に溶解した際に、沈殿量を最小限に抑えることができるセンカクソウエキスの製造方法およびその製法により製造したセンカクソウエキス、さらには、そのエキスを配合した飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、センカクソウの抽出において溶媒のアルコール濃度、抽出温度などを限定することにより、水に配合しても、沈殿の形成を最小限にとどめることができるエキス製造方法を見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)センカクソウを25〜35%のエタノールで加温抽出し、その後エタノールを留去する工程を含むセンカクソウエキスの製造方法。
(2)センカクソウを25〜35%のエタノールで55〜65℃の温度で加温抽出し、その後エタノールを留去する工程を含むセンカクソウエキスの製造方法。
(3)センカクソウを25〜35%のエタノールで55〜65℃の温度で加温抽出し、不溶物をろ過後エタノールを留去する工程を含むセンカクソウエキスの製造方法。
(4)(1)〜(3)記載の製造方法により製造した乾燥減量40〜60%のセンカクソウ軟エキス。
(5)(4)記載のセンカクソウ軟エキスを乾燥したセンカクソウ乾燥エキス。
(6)(4)記載のセンカクソウ軟エキスを凍結乾燥法またはスプレードライ法により乾燥したセンカクソウ乾燥エキス。
(7)(4)〜(6)のいずれかに記載のエキスを含有する飲料。
(8)(4)〜(6)のいずれかに記載のエキスを含有する不発酵茶または半発酵茶。
(9)(4)〜(6)のいずれかに記載のエキスを含有する緑茶またはウーロン茶。
(10)(7)〜(9)のいずれかの飲料を封入した容器詰め飲料。
(11)容器の材質がポリエチレンテレフタレート、鉄、アルミニウムのいずれかである(10)記載の容器詰め飲料。
である。
【0011】
一般的に生薬はその由来により効力が異なる場合が多く、本発明のセンカクソウについては、キンミズヒキ(A.pilosa)またはその亜種の全草(地上部)を乾燥したものを用いることができるが、好ましくはキンミズヒキ(A.pilosa)の全草(地上部)である。
【0012】
本発明ではセンカクソウを25〜35%のエタノールで抽出する必要がある。エタノール濃度が35%を超えると製剤化したときに沈殿が生じることがあり、25%未満であると抽出効率が悪くなるためである。ここで、エタノールの濃度である「%」とは20℃でのそれぞれ個別の容積で求める数値であり、たとえば30%のエタノール水溶液であれば無水エタノール30mlと精製水70mlの割合で混和させた溶媒であり、混和後の容積では単純な合計よりも少なく、この例の場合は100ml未満となる。
【0013】
本発明では、抽出効率の点から加温抽出が必要である。加温抽出する際の温度は55〜65℃の範囲が好ましい。55℃未満だと抽出に時間がかかるため作業効率の点で不利になり、65℃を超えると極性の低い成分も抽出され、水、お茶などの溶媒にエキスを溶解した際に発生する不溶物が増加するからである。
【0014】
本発明ではセンカクソウは好ましくは細かく粉砕後25〜35v/v%のエタノールに浸漬し適温で抽出する。抽出時間は55〜65℃の範囲であれば30分〜1時間程度で十分であるが抽出温度がこれよりも低い場合は長時間抽出した方が好ましい。その後、必要があればろ過し、減圧下溶媒を留去するなど濃縮してエキスを得ることができる。得られた軟エキスは乾燥減量40〜60%となるものが好ましい。軟エキスはさらに乾燥させ、乾燥エキスとすることもできる。乾燥方法としては成分の安定性と作業効率の点から凍結乾燥法またはスプレードライ法が好ましい。
【0015】
本発明により、水、お茶などに配合しても沈殿の生成を最小限にとどめることができ、外観の良い飲料の製造が可能になった。ここで、αグルコシダーゼ阻害剤は食後過血糖などに有効なため、食事の直前または食事と同時にとることが作用メカニズム上好ましい。この作用メカニズムを十分に発揮させることができることから、食事と同時に服用しやすい風味の不発酵茶または半発酵茶に配合するのが好ましい。
【0016】
本発明で不発酵茶とは緑茶に代表される生の茶葉を発酵させずに製造した不発酵茶のことであり、煎茶、玉露、かぶせ茶、玄米茶、番茶、玉緑茶、碾茶、抹茶、焙じ茶、中国緑茶などがあげられる。
【0017】
本発明で半発酵茶とはウーロン茶に代表される発酵度が15〜70%程度の半発酵茶のことであり、中国茶の青茶に分類されるものがあげられる。
【0018】
本発明の製造方法で製造したエキスを配合した飲料は、製品流通の容易さと成分の安定性保持の点からポリエチレンテレフタレート、鉄またはアルミニウム製の容器に封入した形態が好ましい。
【0019】
本発明の製造方法で製造したエキスは、発明の効果を損なわない質的および量的範囲で、ビタミン、キサンチン誘導体、アミノ酸、賦形剤、pH調整剤、清涼化剤、懸濁化剤、消泡剤、粘稠剤、溶解補助剤、抗酸化剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを配合して、常法により液剤などに使用することができるが、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、チュアブル錠、などの固形剤にも使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のセンカクソウエキスは飲料形態に製しても沈殿を生じず、優れたαグルコシダーゼ阻害活性を有していた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に実施例及び試験例をあげ、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0022】
センカクソウを細切後、10倍量の30%エタノールを加え、沸騰状態で30分間加温抽出し、濾過後減圧下でエタノールを留去し、さらに、濃縮を行うことにより、エキス(乾燥減量50.8%)を得た。
【実施例2】
【0023】
センカクソウを細切後、10倍量の30%エタノールを加え、約60℃で1時間加温抽出し、濾過後減圧下でエタノールを留去し、さらに、濃縮を行うことにより、エキス(乾燥減量49.1%)を得た。
【0024】
比較例1
センカクソウを細切後、10倍量の50%エタノールを加え、沸騰状態で30分間加熱抽出し、濾過後減圧下でエタノールを留去し、さらに、濃縮を行うことにより、エキス(乾燥減量53.8%)を得た。
【0025】
比較例2
センカクソウを細切後、10倍量の50%エタノールを加え、約20℃で16時間抽出し、濾過後減圧下でエタノールを留去し、さらに、濃縮を行うことにより、エキス(乾燥減量49.5%)を得た。
【0026】
比較例3
センカクソウを細切後、10倍量の30%エタノールを加え、約20℃で16時間抽出し、濾過後減圧下でエタノールを留去し、さらに、濃縮を行うことにより、エキス(乾燥減量51.7%)を得た。
【実施例3】
【0027】
実施例2のエキスを緑茶100mLに対して0.245g配合し、pH調整剤として、重曹0.012g、酸化防止剤として、Lアスコルビン酸ナトリウム0.06gを加え、飲料を調製した。また、そのときのpHは6.5付近であった。
【実施例4】
【0028】
実施例2のエキスを緑茶100mLに対して0.49g配合し、pH調整剤として、重曹0.016g、酸化防止剤として,Lアスコルビン酸ナトリウム0.06gを加え、飲料を調製した。また、そのときのpHは6.5付近であった。
【実施例5】
【0029】
実施例2のエキスをウーロン茶100mLに対して0.245g配合し、pH調整剤として、重曹0.015g、酸化防止剤として、Lアスコルビン酸ナトリウム0.03gを加え、飲料を調製した。また、そのときのpHは6.5付近であった。
【実施例6】
【0030】
実施例2のエキスをウーロン茶100mL対して0.49g配合し、pH調整剤として、重曹0.017g、酸化防止剤として、Lアスコルビン酸ナトリウム0.03gを加え、飲料を調製した。また、そのときのpHは6.5付近であった。
【実施例7】
【0031】
実施例2のエキスを精製水100mL対して0.315g配合し、pH調整剤として、重曹0.01g、酸化防止剤として、Lアスコルビン酸ナトリウム0.06gを加え、飲料を調製した。また、そのときのpHは6.5付近であった。
【実施例8】
【0032】
実施例2のエキスを精製水100mL対して0.63g配合し、pH調整剤として、重曹0.01g、酸化防止剤として、Lアスコルビン酸ナトリウム0.06gを加え、飲料を調製した。
【0033】
試験例1(沈殿形成試験)
実施例1、2および比較例1〜3の各製造法で、それぞれエキスを得た。その際の固形分収率を表1に示した。
【0034】
次に、それぞれのエキス250mgを正確に秤量し、水200mLに溶解した。十分に溶解させた後、25℃、3000rpm、30分の条件で遠心分離し、沈殿と上清部に分離した。さらに、乾燥機で沈殿を乾燥した後、沈殿重量を測定し、配合したエキス量に対する沈殿形成率(沈殿率)を算出した。結果を表1および図1に示した。なお、表中の数値は3回の平均値である。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から明らかなように比較例1のエキスは高い沈殿率であった。
【0037】
また、比較例2および比較例3のエキスは沈殿率は低い値を示したものの、どちらも16時間もの長時間抽出しているにもかかわらず、固形分収率が低く抽出効率が悪かった。一方、実施例のエキスの沈殿率は比較例3に比較すると若干高くなるものの、短時間の抽出であるにもかかわらず、固形分収率が高い値を示した。すなわち、センカクソウエキスを製造する場合、25〜35%のエタノールで加温抽出する条件は、エキスの生産効率を低下させることなく、沈殿の形成を最小限にとどめることができることが明らかになった。
【0038】
参考例1(αグルコシダーゼ阻害作用の測定)
実施例3〜実施例6で製造した飲料を原液、精製水で3倍または5倍に希釈した希釈液をサンプルに用いた。各サンプル25μL、リン酸緩衝液(0.25M、pH6.5)125μL、基質溶液50μL(1.4 mM p-nitrophenyl-α-D-glucopyranoside)、酵素溶液(Bacillus stearothermophilus由来α-Glucosidase 1.0 U/mL)50μLを添加し、37℃で30分間反応させた後、波長405 nmにおける吸光度の変化を基に抑制率を測定した。
【0039】
結果を表2および図2に示した。
【0040】
【表2】

【0041】
表2および図2から明らかなように、実施例3〜6の飲料は濃度依存的に、優れたαグルコシダーゼ阻害作用を示すことが明らかになった。なお、センカクソウエキスを配合しない緑茶、ウーロン茶のみではこの作用が認められなかった。
【0042】
このことから本願発明のセンカクソウエキスの有用性が明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により、水に配合しても沈殿の生成を最小限にとどめることができ、外観の良い飲料の製造が可能になった。その結果、食後過血糖、糖尿病などの生活習慣病を予防または改善する食品、血糖値が気になる人、血糖値が高めの人向けの保健機能を表示した容器詰の食品(特定保健用食品)などの飲料に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】センカクソウ各エキスの沈殿率および固形分収率を示すグラフであり、縦軸に百分率(%)、を示した。
【図2】センカクソウ配合緑茶、ウーロン茶飲料のαグルコシダーゼ活性に及ぼす影響を示すグラフであり、縦軸に抑制率(%)、横軸に濃度(μg/mL)を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センカクソウを25〜35%のエタノールで加温抽出し、その後エタノールを留去する工程を含むセンカクソウエキスの製造方法。
【請求項2】
センカクソウを25〜35%のエタノールで55〜65℃の温度で加温抽出し、その後エタノールを留去する工程を含むセンカクソウエキスの製造方法。
【請求項3】
センカクソウを25〜35%のエタノールで55〜65℃の温度で加温抽出し、不溶物をろ過後エタノールを留去する工程を含むセンカクソウエキスの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載の製造方法により製造した乾燥減量40〜60%のセンカクソウ軟エキス。
【請求項5】
請求項4記載のセンカクソウ軟エキスを乾燥したセンカクソウ乾燥エキス。
【請求項6】
請求項4記載のセンカクソウ軟エキスを凍結乾燥法またはスプレードライ法により乾燥したセンカクソウ乾燥エキス。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載のエキスを含有する飲料。
【請求項8】
請求項4〜6のいずれかに記載のエキスを含有する不発酵茶または半発酵茶。
【請求項9】
請求項4〜6のいずれかに記載のエキスを含有する緑茶またはウーロン茶。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかの飲料を封入した容器詰め飲料。
【請求項11】
容器の材質がポリエチレンテレフタレート、鉄、アルミニウムのいずれかである請求項10記載の容器詰め飲料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−161620(P2007−161620A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357688(P2005−357688)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】