センサ付き車輪用軸受装置
【課題】 軸受の荷重状態を簡単で正確に検出できるセンサ付き車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】外方部材と内方部材の間に複列の転動体を介在させた車輪用軸受において、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に歪みセンサ21と処理回路40を取付ける。歪みセンサ21は、前記固定側部材に固定された歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられた歪み測定用のセンサ素子を含む。前記処理回路40は、増幅回路41、オフセット調整回路42、記憶手段43、補正手段44、および外部インタフェース45を有する。前記記憶手段43には、前記歪みセンサ21および軸受の個体差となる特性が記憶され、前記補正手段44は前記記憶手段43の記憶内容に従ってセンサ素子の出力を補正する。前記外部インタフェース45は、前記記憶手段43に対して入力が可能なものである。
【解決手段】外方部材と内方部材の間に複列の転動体を介在させた車輪用軸受において、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に歪みセンサ21と処理回路40を取付ける。歪みセンサ21は、前記固定側部材に固定された歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられた歪み測定用のセンサ素子を含む。前記処理回路40は、増幅回路41、オフセット調整回路42、記憶手段43、補正手段44、および外部インタフェース45を有する。前記記憶手段43には、前記歪みセンサ21および軸受の個体差となる特性が記憶され、前記補正手段44は前記記憶手段43の記憶内容に従ってセンサ素子の出力を補正する。前記外部インタフェース45は、前記記憶手段43に対して入力が可能なものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付き車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の安全走行のために、各車輪の回転速度を検出するセンサを車輪用軸受に設けたものがある。従来の一般的な自動車の走行安全性確保対策は、各部の車輪の回転速度を検出することで行われているが、車輪の回転速度だけでは十分でなく、その他のセンサ信号を用いてさらに安全面の制御が可能なことが求められている。
【0003】
そこで、車両走行時に各車輪に作用する荷重から姿勢制御を図ることも考えられる。例えばコーナリングにおいては外側車輪に大きな荷重がかかり、また左右傾斜面走行では片側車輪に、ブレーキングにおいては前輪にそれぞれ荷重が片寄るなど、各車輪にかかる荷重は均等ではない。また、積載荷重不均等の場合にも各車輪にかかる荷重は不均等になる。このため、車輪にかかる荷重を随時検出できれば、その検出結果に基づき、事前にサスペンション等を制御することで、車両走行時の姿勢制御(コーナリング時のローリング防止、ブレーキング時の前輪沈み込み防止、積載荷重不均等による沈み込み防止等)を行うことが可能となる。しかし、車輪に作用する荷重を検出するセンサの適切な設置場所がなく、荷重検出による姿勢制御の実現が難しい。
【0004】
また、今後ステアバイワイヤが導入されて、車軸とステアリングが機械的に結合しないシステムになってくると、車軸方向荷重を検出して運転手が握るハンドルに路面情報を伝達することが求められる。
【0005】
このような要請に応えるものとして、車輪用軸受の外輪に歪みゲージを貼り付け、歪みを検出するようにした車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特表2003−530565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車輪用軸受の外輪は、転走面を有し、強度が求められる部品であって、塑性加工や、旋削加工、熱処理、研削加工などの複雑な工程を経て生産される軸受部品であるため、特許文献1のように外輪に歪みゲージを貼り付けるのでは、生産性が悪く、量産時のコストが高くなるという問題点がある。また、外輪の歪みを感度良く検出することが難しく、その検出結果を車両走行時の姿勢制御に利用した場合、制御の精度が問題となる。
【0007】
そこで、歪み発生部材に歪み測定用のセンサ素子を取付けて歪みセンサとし、この歪みセンサを外輪の周面に取付けることを試みた。試行錯誤の結果、外輪歪みの検出感度を向上させるためには、歪み発生部材は外輪に対して2箇所の接触固定部を有するものであって、これら接触固定部のうち片方の接触固定部を外輪のフランジ面に固定し、もう片方の接触固定部を外輪の外周面に固定するのが良いことが分かった。
【0008】
しかし、このような構成とした場合にも、以下に挙げるような問題がある。
・ 歪み発生部材を用いた歪み計測に基づく荷重推定を行うが、温度特性、センサ素子の個体差、特性の非線形、さらには取付け状態による特性変化などがあり、これらを補償する機能を備えていないと正確な荷重測定ができない。
・ センサ素子の出力信号を受け取る車体側の電気制御ユニット(ECU)で補正することも可能だが、それぞれの部品に特有な補正処理を個別にプログラムして行うのは煩雑で非効率的である。
・ センサ付き軸受装置の単体で性能を確保したいが、このためには、センサ素子の出力信号を利用する車体側で軸受のセンサ特性個体差を無くすか、あるいは軸受に補償機能を付与する必要がある。
・ 使用中の環境変化や経年変化による感度特性やオフセットの変化を検知・判断し、定期的に較正する機能も望まれる。
・ 自動車などの情報通信網に接続するインタフェースを備えていることも望まれる。
【0009】
この発明の目的は、軸受の荷重状態を簡単で正確に検出できるセンサ付き車輪用軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のセンサ付き車輪用軸受装置は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記各転走面に対向する転走面を外周に有する内方部材と、各列の転走面間に介在した複列の転走面を有する転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に固定された歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられた歪み測定用のセンサ素子を含む歪みセンサと、この歪みセンサの前記センサ素子の出力する歪み信号を処理する処理回路とを備え、前記処理回路が、増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および外部インタフェースを有し、前記記憶手段は、前記歪みセンサおよび軸受の個体差となる特性が記憶され、前記補正手段は前記記憶手段の記憶内容に従ってセンサ素子の出力を補正するものとし、前記外部インタフェースは、前記記憶手段に対して入力が可能なものとしたことを特徴とする。
この構成によると、センサ素子の出力する歪み信号を処理する処理回路を備え、この処理回路が、増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段を有するため、軸受で検出した荷重信号を処理回路により適正に較正された状態で出力するができる。そのため、信号を利用する車体側では軸受の荷重状態を簡単で正確に得ることができる。
また、前記記憶手段は、前記歪みセンサおよび軸受の個体差となる特性が記憶され、前記補正手段は前記記憶手段の記憶内容に従ってセンサ素子の出力を補正するものとしたため、歪みセンサおよび軸受の個体差が処理回路で補償される。そのため、車体側ではこのセンサ付き軸受装置が組み込まれると、ただちに歪みセンサの出力信号を利用することができ、較正などが不要である。
処理回路は外部インタフェースを有するので、記憶手段への補正データの入力や、記憶されている補正データの修正、ID情報の読み出しなどを外部から行うことができる。また、経年変化あるいは衝撃荷重によるオフセット変化分を検出し、外部から修正して、正確な荷重検出能力を保つことも可能となる。
【0011】
この発明において、前記歪みセンサの前記歪み発生部材は、固定側部材に対して2箇所の接触固定部を有し、前記接触固定部のうち第1の接触固定部は前記固定側部材に設けられたフランジ面であり、第2の接触固定部材は前記固定側部材の周面であっても良い。この構成の場合、第1および第2の接触固定部の径方向位置が異なり、固定側部材の歪みが歪み発生部材に転写かつ拡大して現れやすくなる。この転写かつ拡大された歪みをセンサ素子で測定するため、固定側部材の歪みを感度良く検出でき、荷重の測定精度が高くなる。
【0012】
この発明において、前記補正回路として線形補正回路を有し、前記オフセット調整回路がオフセット補償機能を有するものであり、前記処理回路は、前記増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および外部インタフェースに加えて、信号出力回路、並びにこれらオフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および信号出力回路のうちのいずれかを制御するコントロール回路を有するものとしても良い。このようにコントロール回路が設けられていると、処理回路の出力の精度を向上させることが容易である。
【0013】
この発明において、前記記憶手段は、前記歪みセンサの感度補正値,温度補正値、および軸受の識別コードを記憶したものであり、前記処理回路は前記記憶手段の記憶内容に従って回路動作を制御するものであっても良い。この構成の場合、歪みセンサの感度補正や温度補正が行え、またはこの補正のための入力,更新,管理等が、識別コードを用いて軸受の個体毎に管理できる。
【0014】
この発明において、前記記憶手段の記憶内容を前記処理回路に対する外部から読み書きする読み書き手段を有するものであっても良い。このように外部から読み書きする読み書き手段が設けられていると、記憶手段に対する読み書きが容易に行える。
【0015】
この発明において、前記読み書き手段がワイヤレス通信手段であっても良い。この構成の場合、省配線化、小型化が可能になる。前記記憶手段に対する読み書きは、常時は不要であるため、前記読み書き手段がワイヤレス通信手段であると、必要時に簡単に読み書きできて、かつハーネス等の配線系の煩雑化が回避できる。
【0016】
この発明において、前記外部インタフェースが、自動車の車体制御系通信バスに接続可能な形式のものであっても良い。この構成の場合、汎用性が高くなり、容易な接続が可能になる。
【発明の効果】
【0017】
この発明のセンサ付き車輪用軸受装置は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記各転走面に対向する転走面を外周に有する内方部材と、各列の転走面間に介在した複列の転走面を有する転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に固定された歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられた歪み測定用のセンサ素子を含む歪みセンサと、この歪みセンサの前記センサ素子の出力する歪み信号を処理する処理回路とを備え、前記処理回路が、増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および外部インタフェースを有し、前記記憶手段は、前記歪みセンサおよび軸受の個体差となる特性が記憶され、前記補正手段は前記記憶手段の記憶内容に従ってセンサ素子の出力を補正するものとし、前記外部インタフェースは、前記記憶手段に対して入力が可能なものとしたため、軸受で検出した荷重信号が処理回路により適正に較正された状態で出力される。そのため、信号を利用する車体側では軸受の荷重状態を簡単で正確に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の実施形態を図1ないし図13と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0019】
このセンサ付き車輪用軸受装置における軸受は、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、各転走面3,4は接触角が外向きとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、密封装置7,8によりそれぞれ密封されている。
【0020】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックルに取付けるフランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには、周方向の複数箇所に車体取付孔14が設けられている。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、ホイールおよび制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0021】
外方部材1の外周部には、歪みセンサ21と、センサ信号処理回路を有するセンサ信号処理回路ユニット25とが設けられている。歪みセンサ21は、歪み発生部材22に、この歪み発生部材22の歪みを測定するセンサ素子23等を取付けたものである。
【0022】
前記歪みセンサ21の一構成例を図4に示す。この歪みセンサ21において、歪み発生部材22は、外方部材1のフランジ1aにおける車体取付孔14の近傍のフランジ面に接触固定される第1の接触固定部22aと、外方部材1の外周面に接触固定される第2の接触固定部22bとを有している。また、歪み発生部材22は、前記第1の接触固定部22aを含む径方向に沿った径方向部位22cと、前記第2の接触固定部22bを含む軸方向に沿った軸方向部位22dとでL字の形状に構成されている。径方向部位22cは、軸方向部位22dに比べ、剛性が低くなるよう肉厚を薄くしてある。歪み測定用センサ素子23は、この剛性の低い径方向部位22cに取付けられている。この歪みセンサ21の場合、歪み測定用センサ素子23に隣接して温度センサ素子24が設けられている。
【0023】
上記歪みセンサ21は、図1および図2に示すように、歪み発生部材22の第1および第2の接触固定部22a,22bにより、両接触固定部22a,22bが外方部材1の周方向に対して同位相の位置となるように、外方部材1の外周部に固定される。第1および第2の接触固定部22a,22bを周方向において同位相とすると、歪み発生部材22の長さを短くすることができるため、歪みセンサ21の設置が容易である。歪み測定用センサ素子23や温度センサ素子24は、歪み発生部材22に例えば接着剤を用いて固定される。
【0024】
歪み発生部材22は、外方部材1への固定により塑性変形を起こさない形状や材質とされている。また、歪み発生部材22は、車輪用軸受に予想される最大の荷重が印加された場合でも、塑性変形を起こさない形状とする必要がある。上記の想定される最大の力は、車両故障につながらない走行において想定される最大の力である。歪み発生部材22に塑性変形が生じると、外方部材1の変形が歪み発生部材22に正確に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすためである。
【0025】
この歪みセンサ21の歪み発生部材22は、例えば鋼材等の金属材からプレス加工により製作することができる。歪み発生部材22をプレス加工品とすると、コストダウンが可能になる。
また、歪み発生部材22は、金属粉末射出成形による焼結金属品としてもよい。金属粉末射出成形は、金属、金属間化合物等の成形技術の一つであり、金属粉末をバインダーと混練する工程、この混練物を用いて射出成型する工程、成形体の脱脂処理を行なう工程、成形体の焼結を行なう工程を含む。この金属粉末射出成形によれば、一般の粉末冶金に比べて焼結密度の高い焼結体が得られ、焼結金属品を高い寸法精度で製作することができ、また機械的強度も高いという利点がある。
【0026】
歪み測定用センサ素子23としては、種々のものを使用することができる。例えば、歪み測定用センサ素子23が金属箔ストレインゲージで構成されている場合、この金属箔ストレインゲージの耐久性を考慮すると、車輪用軸受に予想される最大の荷重が印加された場合でも、歪み発生部材22における歪み測定用センサ素子23取付部分の歪み量が1500マイクロストレイン以下であることが好ましい。同様の理由から、歪み測定用センサ素子23が半導体ストレインゲージで構成されている場合は、同歪み量が1000マイクロストレイン以下であることが好ましい。また、歪み測定用センサ素子23が厚膜式センサで構成されている場合は、同歪み量が1500マイクロストレイン以下であることが好ましい。
【0027】
図4における歪み発生部材22に取付けられる温度センサ素子24としては、例えば白金測温抵抗または熱電対またはサーミスタを使用することができる。さらに、これら以外の温度を検出することが可能なセンサを使用することもできる。
【0028】
この歪みセンサ21を設けた車軸用軸受では、歪み測定用センサ素子23が歪み発生部材22の歪みを検出し、その歪みにより車輪に加わる荷重を測定する。ところで、車輪用軸受は使用中に温度が変化し、その温度変化が歪み発生部材22の歪み、または歪み測定用センサ素子23の動作に影響を及ぼす。そこで、歪み発生部材22に配置した温度センサ素子24にて歪み発生部材22の温度を検出し、その検出した温度により歪み測定用センサ素子23の出力を補正することにより、歪み測定用センサ素子23の温度による影響を除去することができる。これにより、精度の高い荷重検出を行なうことができる。
【0029】
図5は、歪みセンサ21の他の構成例を示す。この歪みセンサ21では、板材をL字状に折り曲げて歪み発生部材22が形成され、その径方向片22Aおよび軸方向片22Bのそれぞれにボルト挿通孔31,32が形成されている。歪み測定用センサ素子23は径方向片22Aの片面に固定される。この歪み発生部材22は、図6に示すように、2つの接触固定部材33,34を介して外方部材1の外周部に、ボルト39で締結される。すなわち、径方向片22Aのボルト挿通孔31から第1の接触固定部材33のボルト挿通孔35に挿通させたボルト39を、外方部材1のフランジ1aにおける車体取付孔14の近傍のフランジ面に設けられたボルト孔37に螺合させ、軸方向片22Bのボルト挿通孔32から第2の接触固定部材34のボルト挿通孔36に挿通させたボルト39を、外方部材1の外周面に設けられたボルト孔38に螺合させることで、歪み発生部材22が外方部材1に締結される。
【0030】
図5の歪みセンサ21において、歪み発生部材22の径方向片22Aには4つの歪み測定用センサ素子23が配置される。この場合の歪み発生部材22の歪みは、固定部分から折れ曲がり角部22Cに向けて大きくなる傾向にあり、できるだけ折れ曲がり角部22Cに近い位置に歪み測定用センサ素子23を配置するのが望ましい。計算による結果を図7にグラフで示すように、歪み発生部材22の板厚をtとして、折れ曲がり角部22Cからのセンサ素子配置位置までの距離xを、x<3tの範囲とすると、効率良く歪みを検出できることが分かっている。
【0031】
そこで、この歪みセンサ21では、歪み発生部材22の径方向片22Aにおける歪みを受ける部分(折れ曲がり角部22Cに近い部分)に2つの歪み測定用センサ素子23を配置し、さらに歪みの影響を受けない部分(折れ曲がり角部22Cから遠い部分)に他の2つの歪み測定用センサ素子23を配置している。
【0032】
図8は、歪みセンサ21のさらに他の構成例を示す。この歪みセンサ21では、図5の歪みセンサ21において、歪み発生部材22の径方向片22Aにおける歪みを受ける部分(折れ曲がり角部22Cに近い部分)に、互いに特性が同じか、または特性の異なる2つの歪み測定用センサ素子23を配置し、歪みの影響を受けない部分(折れ曲がり角部22Cから遠い部分)には歪み測定用センサ素子23を配置していない。その他の構成は図5の歪みセンサ21の場合と同様である。
【0033】
センサ信号処理回路ユニット25は、図3に示すように、樹脂等で製作されたハウジング26内に、ガラスエポキシ等で製作された回路基板27を有し、その回路基板27上には、前記歪み測定用センサ素子23の出力信号を処理するオペアンプ、抵抗、マイコン等や歪み測定用センサ素子23等を駆動する電源用の電気・電子部品28が配置されている。また、歪み測定用センサ素子23等の配線と回路基板27とを接合する接合部29を有している。また、外部からの電源供給や外部へセンサ信号処理回路によって処理された出力信号を出力するケーブル30を有している。歪みセンサ21に歪み測定用センサ素子23のほかに、前述した温度センサ素子24等の各種センサ素子が設けられている場合、センサ信号処理回路ユニット25にはそれぞれのセンサ素子に対応した回路基板27、電気・電子部品28、接合部29、ケーブル30等が設けられる(図示せず)。
【0034】
図9は、前記センサ信号処理回路ユニット25における処理回路40の構成を示すブロック図である。この処理回路40は、増幅回路41、オフセット調整回路42、記憶手段43、各種の補正回路44、外部インタフェース45、信号出力回路46、およびコントロール回路47を有する。コントロール回路47は、前記オフセット調整回路42、記憶手段43、補正回路44、および信号出力回路46のうちのいずれかを制御する制御回路である。
【0035】
図10には、歪みセンサ21の回路と、その出力信号を増幅する増幅回路41との接続構成の一例を示す。この場合の歪みセンサ21の回路は、図5および図6に示す構成例のものであって、歪みを受ける位置の2つの歪み測定用センサ素子23(S1)と、歪みの影響を受けない位置の2つの歪み測定用センサ素子23(S2)とを、ブリッジ接続して構成される。増幅回路41はオペアンプからなる。
このように、歪みを受ける位置の2つの歪み測定用センサ素子23(S1)と、歪みの影響を受けない位置の2つの歪み測定用センサ素子23(S2)とをブリッジ接続して検出回路を構成すると、歪み信号出力が2倍の振幅となり検出感度を高めることができる。なお、前記ブリッジ接続の検出回路において、歪みの影響を受けない位置の2つの歪み測定用センサ素子23(S2)を設ける代わりに、固定抵抗を設けても良い。基本的には、この歪み信号出力を増幅回路41で増幅した信号により、つまり、図9の回路におけるA部の構成だけで車輪用軸受にかかる荷重を検出することができる。
【0036】
しかし、歪みセンサ21には製造上のばらつきがあり、オフセット、感度、温度特性などに個体差がある。さらに、車輪用軸受を車体へ取付ける場合の取付け状態によっても、歪みセンサ21の感度特性が変化する。前記処理回路40におけるオフセット調整回路42や各種の補正回路44は、上記した個体差を補正する回路である。
【0037】
すなわち、オフセット調整回路42は、歪みセンサ21の初期オフセットと、車輪用軸受への固定によるオフセットを、正規の値に調整するものである。前記歪みセンサ21に、図4に示したような温度センサ素子24を設けても良く、この場合には温度センサ素子24の出力に基づいて、センサオフセットの自動補償をコントロール回路47で行うことができる。
【0038】
図11は、歪みセンサ21、増幅回路41、およびオフセット調整回路42の具体的構成例を示す。この構成例では、オフセット調整回路42は、オペアンプOP、抵抗R3,R4、可変抵抗VR1,VR2などからなる加減算器として構成される。このオフセット調整回路42の場合、オフセット補償機能を有するものとされる。すなわち、コントロール回路47から、端子T1に温度センサ素子24の検出出力に応じた入力電圧e1を入力することによりオフセット値の温度補償が行われ、また個体差の条件に応じて、前記可変抵抗VR1,VR2の値をコントロール回路47で変更することにより、オフセット値の個体差による補償が行われる。
【0039】
なお、図11の回路構成例では、歪みセンサ21として、図8に示した構成の歪みセンサ21が用いられている。この場合、歪み発生部材22の径方向片22Aにおける歪みを受ける位置に配置された特性の異なる2つの歪み測定用センサ素子23(S1),23(S2)を、2つの固定抵抗R1,R2とブリッジ接続して構成される。この場合には、2つの歪み測定用センサ素子23(S1),23(S2)の各出力を加算した振幅の歪み信号出力を得ることができる。
【0040】
記憶手段43は例えば不揮発メモリからなり、オフセットの温度特性や、感度、非線形を補正するためのパラメータを記憶する。コントロール回路47は、これらのパラメータに基づいて、各種の補正回路44の補正処理を制御する。
例えば、図12に示すように、歪みセンサ21の出力特性は車輪に加わる荷重と非線形な関係にあるので、この特性データをテーブル化して記憶手段43に記憶するか、あるいは近似曲線のパラメータの形態で記憶手段43に記憶する。コントロール回路47は、記憶手段43に記憶された非線形補正のデータを読み出し、補正回路44の一つとして用意された線形補正回路の動作を制御することにより、非線形補正の処理を実行する。オフセットの温度補正や、感度補正についても同様にして実行される。
【0041】
図13は、歪みセンサ21の出力電圧と、センサ付き車輪用軸受装置を車体へ取付けるときの取付けボルトの締め付け力との関係をグラフで示したものである。このように、歪みセンサ21の出力特性は、車体への取付け状態によっても異なる。すなわち、歪みセンサ21の出力特性は、各車体に取付けられる軸受装置の間でも個体差が生じる。そこで、前記記憶手段43に記憶する上記補正データは、車体への取付け状態を反映したものとされる。記憶手段43には、軸受の識別コード(ID)を記憶させても良い。
【0042】
外部インタフェース45は、外部からコントルール回路47との間で通信を行う手段であり、信号端子や無線通信手段などで構成される。この外部インタフェース45を介して、記憶手段43に記憶された補正データの修正や、ID情報の読み出しを外部から行うことができる。また、例えば、外部の自動車のECU等では、車両の使用状態と歪みセンサ21から得られる一定期間の信号出力とで、径年変化あるいは衝撃荷重によるオフセットの急激な変化を推定・検出できる。さらに、その推定・検出結果に基づき、外部のECU等から前記外部インタフェース45を介して記憶手段43に記憶されているオフセットデータを修正することができるので、正確な荷重検出能力を保つことができる。
【0043】
外部インタフェース45は、CANバス等の自動車の車体制御系通信バスに接続可能な形式のものとしても良い。この場合には、汎用性が高くなり、外部との容易な接続が可能になる。
【0044】
信号出力回路46は、オフセット調整回路42や各種の補正回路44で補正された歪みセンサ21の出力信号を、パルス変調、周波数変調、A/D変換、シリアルデータへの変換など、各種の変換を行って外部に出力する。
【0045】
このように、このセンサ付き車輪用軸受装置では、外方部材1および内方部材2のうちの固定側部材(ここでは外方部材)に固定された歪み発生部材22、およびこの歪み発生部材22に取付けられた歪み測定用のセンサ素子23を含む歪みセンサ21と、この歪みセンサ21の前記センサ素子23の出力する歪み信号を処理する処理回路40とを備え、前記処理回路40が、増幅回路41、オフセット調整回路42、記憶手段43、各種補正回路44、および外部インタフェース45を有し、前記記憶手段43は、前記歪みセンサ21および軸受の個体差となる特性が記憶され、前記記憶手段43は、前記歪みセンサ21の記憶内容に従ってセンサ素子23の出力を補正するものとし、前記外部インタフェース45は、前記記憶手段43に対して入力が可能なものとしたので、軸受で検出した荷重信号が適正に較正された状態で出力され、信号を利用する車体側では軸受の荷重状態を簡単で正確に得ることができる。
【0046】
同様に、歪みセンサ21および軸受の個体差が補償されるため、車体側ではこのセンサ付き軸受装置が組み込まれると、ただちに歪みセンサ21の出力信号を利用することができ、較正などが不要である。
【0047】
外部インタフェース45を有するので、記憶手段43に記憶されている補正データの修正や、ID情報の読み出しを外部から行うことができる。また、経年変化あるいは衝撃荷重によるオフセット変化分を検出し、外部から修正して、正確な荷重検出能力を保つことができる。
【0048】
なお、上記実施形態における図9の処理回路40でのセンサ信号の補償計算は、外部のECU等で実行しても良い。この場合、記憶手段43の補正データを外部から読み出すことにより、歪みセンサ21や軸受の個体差の特性に合わせた上記した場合と同等の補正処理を外部のECU等で実行することになるので、ECU側に個体差に応じた個々のパラメータを記憶する必要がない。
【0049】
このように外部のECU等を利用する場合には、記憶手段43に軸受のID情報だけを記憶させておいて、別途用意した数種類の特性テーブルを参照するといった方法を採用すれば、少ない容量の記憶手段43で必要な機能を実現することもできる。
【0050】
また、上記実施形態において、ECU等を利用するのに代えて、前記記憶手段43の記憶内容を、前記処理回路40に対する外部から読み書きするワイヤレス通信手段(RFID利用)などの読み書き手段49を別に付加しても良い。この場合には、省配線化、小型化が可能になる。読み書き手段49は、外部インタフェース45の一部の機能部分として設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の一実施形態にかかるセンサ付き車輪用軸受装置の断面図である。
【図2】同センサ付き車輪用軸受装置の外方部材の正面図である。
【図3】センサ信号処理回路ユニットの側面図である。
【図4】(A)は歪みセンサの一構成例の側面図、(B)はそのIV矢視図である。
【図5】(A)は歪みセンサの他の構成例の断面図、(B)は同正面図、(C)は同斜視図である。
【図6】図5の歪みセンサを車輪用軸受へ取付けた状態を示す断面図である。
【図7】図5の歪みセンサにおける歪み発生部材の折れ曲がり角部からの距離と歪みの大きさとの関係を示すグラフである。
【図8】(A)は歪みセンサのさらに他の構成例の断面図、(B)は同正面図、(C)は同斜視図である。
【図9】センサ信号処理回路ユニットにおける処理回路のブロック図である。
【図10】歪みセンサに増幅回路を接続した回路構成図である。
【図11】歪みセンサに増幅回路およびオフセット調整回路を接続した回路構成図である。
【図12】歪みセンサの出力と車輪に加わる荷重との関係を示すグラフである。
【図13】歪みセンサの出力電圧と取付けボルト締め付け力との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1…外方部材
1a…フランジ
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
21…歪みセンサ
22…歪み発生部材
22a…第1の接触固定部
22b…第2の接触固定部
23…歪み測定用センサ素子
33,34…接触固定部材
40…処理回路
41…増幅回路
42…オフセット調整回路
43…記憶手段
44…補正回路
45…外部インタフェース
46…信号出力回路
47…コントロール回路
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付き車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の安全走行のために、各車輪の回転速度を検出するセンサを車輪用軸受に設けたものがある。従来の一般的な自動車の走行安全性確保対策は、各部の車輪の回転速度を検出することで行われているが、車輪の回転速度だけでは十分でなく、その他のセンサ信号を用いてさらに安全面の制御が可能なことが求められている。
【0003】
そこで、車両走行時に各車輪に作用する荷重から姿勢制御を図ることも考えられる。例えばコーナリングにおいては外側車輪に大きな荷重がかかり、また左右傾斜面走行では片側車輪に、ブレーキングにおいては前輪にそれぞれ荷重が片寄るなど、各車輪にかかる荷重は均等ではない。また、積載荷重不均等の場合にも各車輪にかかる荷重は不均等になる。このため、車輪にかかる荷重を随時検出できれば、その検出結果に基づき、事前にサスペンション等を制御することで、車両走行時の姿勢制御(コーナリング時のローリング防止、ブレーキング時の前輪沈み込み防止、積載荷重不均等による沈み込み防止等)を行うことが可能となる。しかし、車輪に作用する荷重を検出するセンサの適切な設置場所がなく、荷重検出による姿勢制御の実現が難しい。
【0004】
また、今後ステアバイワイヤが導入されて、車軸とステアリングが機械的に結合しないシステムになってくると、車軸方向荷重を検出して運転手が握るハンドルに路面情報を伝達することが求められる。
【0005】
このような要請に応えるものとして、車輪用軸受の外輪に歪みゲージを貼り付け、歪みを検出するようにした車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特表2003−530565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車輪用軸受の外輪は、転走面を有し、強度が求められる部品であって、塑性加工や、旋削加工、熱処理、研削加工などの複雑な工程を経て生産される軸受部品であるため、特許文献1のように外輪に歪みゲージを貼り付けるのでは、生産性が悪く、量産時のコストが高くなるという問題点がある。また、外輪の歪みを感度良く検出することが難しく、その検出結果を車両走行時の姿勢制御に利用した場合、制御の精度が問題となる。
【0007】
そこで、歪み発生部材に歪み測定用のセンサ素子を取付けて歪みセンサとし、この歪みセンサを外輪の周面に取付けることを試みた。試行錯誤の結果、外輪歪みの検出感度を向上させるためには、歪み発生部材は外輪に対して2箇所の接触固定部を有するものであって、これら接触固定部のうち片方の接触固定部を外輪のフランジ面に固定し、もう片方の接触固定部を外輪の外周面に固定するのが良いことが分かった。
【0008】
しかし、このような構成とした場合にも、以下に挙げるような問題がある。
・ 歪み発生部材を用いた歪み計測に基づく荷重推定を行うが、温度特性、センサ素子の個体差、特性の非線形、さらには取付け状態による特性変化などがあり、これらを補償する機能を備えていないと正確な荷重測定ができない。
・ センサ素子の出力信号を受け取る車体側の電気制御ユニット(ECU)で補正することも可能だが、それぞれの部品に特有な補正処理を個別にプログラムして行うのは煩雑で非効率的である。
・ センサ付き軸受装置の単体で性能を確保したいが、このためには、センサ素子の出力信号を利用する車体側で軸受のセンサ特性個体差を無くすか、あるいは軸受に補償機能を付与する必要がある。
・ 使用中の環境変化や経年変化による感度特性やオフセットの変化を検知・判断し、定期的に較正する機能も望まれる。
・ 自動車などの情報通信網に接続するインタフェースを備えていることも望まれる。
【0009】
この発明の目的は、軸受の荷重状態を簡単で正確に検出できるセンサ付き車輪用軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のセンサ付き車輪用軸受装置は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記各転走面に対向する転走面を外周に有する内方部材と、各列の転走面間に介在した複列の転走面を有する転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に固定された歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられた歪み測定用のセンサ素子を含む歪みセンサと、この歪みセンサの前記センサ素子の出力する歪み信号を処理する処理回路とを備え、前記処理回路が、増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および外部インタフェースを有し、前記記憶手段は、前記歪みセンサおよび軸受の個体差となる特性が記憶され、前記補正手段は前記記憶手段の記憶内容に従ってセンサ素子の出力を補正するものとし、前記外部インタフェースは、前記記憶手段に対して入力が可能なものとしたことを特徴とする。
この構成によると、センサ素子の出力する歪み信号を処理する処理回路を備え、この処理回路が、増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段を有するため、軸受で検出した荷重信号を処理回路により適正に較正された状態で出力するができる。そのため、信号を利用する車体側では軸受の荷重状態を簡単で正確に得ることができる。
また、前記記憶手段は、前記歪みセンサおよび軸受の個体差となる特性が記憶され、前記補正手段は前記記憶手段の記憶内容に従ってセンサ素子の出力を補正するものとしたため、歪みセンサおよび軸受の個体差が処理回路で補償される。そのため、車体側ではこのセンサ付き軸受装置が組み込まれると、ただちに歪みセンサの出力信号を利用することができ、較正などが不要である。
処理回路は外部インタフェースを有するので、記憶手段への補正データの入力や、記憶されている補正データの修正、ID情報の読み出しなどを外部から行うことができる。また、経年変化あるいは衝撃荷重によるオフセット変化分を検出し、外部から修正して、正確な荷重検出能力を保つことも可能となる。
【0011】
この発明において、前記歪みセンサの前記歪み発生部材は、固定側部材に対して2箇所の接触固定部を有し、前記接触固定部のうち第1の接触固定部は前記固定側部材に設けられたフランジ面であり、第2の接触固定部材は前記固定側部材の周面であっても良い。この構成の場合、第1および第2の接触固定部の径方向位置が異なり、固定側部材の歪みが歪み発生部材に転写かつ拡大して現れやすくなる。この転写かつ拡大された歪みをセンサ素子で測定するため、固定側部材の歪みを感度良く検出でき、荷重の測定精度が高くなる。
【0012】
この発明において、前記補正回路として線形補正回路を有し、前記オフセット調整回路がオフセット補償機能を有するものであり、前記処理回路は、前記増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および外部インタフェースに加えて、信号出力回路、並びにこれらオフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および信号出力回路のうちのいずれかを制御するコントロール回路を有するものとしても良い。このようにコントロール回路が設けられていると、処理回路の出力の精度を向上させることが容易である。
【0013】
この発明において、前記記憶手段は、前記歪みセンサの感度補正値,温度補正値、および軸受の識別コードを記憶したものであり、前記処理回路は前記記憶手段の記憶内容に従って回路動作を制御するものであっても良い。この構成の場合、歪みセンサの感度補正や温度補正が行え、またはこの補正のための入力,更新,管理等が、識別コードを用いて軸受の個体毎に管理できる。
【0014】
この発明において、前記記憶手段の記憶内容を前記処理回路に対する外部から読み書きする読み書き手段を有するものであっても良い。このように外部から読み書きする読み書き手段が設けられていると、記憶手段に対する読み書きが容易に行える。
【0015】
この発明において、前記読み書き手段がワイヤレス通信手段であっても良い。この構成の場合、省配線化、小型化が可能になる。前記記憶手段に対する読み書きは、常時は不要であるため、前記読み書き手段がワイヤレス通信手段であると、必要時に簡単に読み書きできて、かつハーネス等の配線系の煩雑化が回避できる。
【0016】
この発明において、前記外部インタフェースが、自動車の車体制御系通信バスに接続可能な形式のものであっても良い。この構成の場合、汎用性が高くなり、容易な接続が可能になる。
【発明の効果】
【0017】
この発明のセンサ付き車輪用軸受装置は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記各転走面に対向する転走面を外周に有する内方部材と、各列の転走面間に介在した複列の転走面を有する転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に固定された歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられた歪み測定用のセンサ素子を含む歪みセンサと、この歪みセンサの前記センサ素子の出力する歪み信号を処理する処理回路とを備え、前記処理回路が、増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および外部インタフェースを有し、前記記憶手段は、前記歪みセンサおよび軸受の個体差となる特性が記憶され、前記補正手段は前記記憶手段の記憶内容に従ってセンサ素子の出力を補正するものとし、前記外部インタフェースは、前記記憶手段に対して入力が可能なものとしたため、軸受で検出した荷重信号が処理回路により適正に較正された状態で出力される。そのため、信号を利用する車体側では軸受の荷重状態を簡単で正確に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の実施形態を図1ないし図13と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0019】
このセンサ付き車輪用軸受装置における軸受は、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、各転走面3,4は接触角が外向きとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、密封装置7,8によりそれぞれ密封されている。
【0020】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックルに取付けるフランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには、周方向の複数箇所に車体取付孔14が設けられている。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、ホイールおよび制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0021】
外方部材1の外周部には、歪みセンサ21と、センサ信号処理回路を有するセンサ信号処理回路ユニット25とが設けられている。歪みセンサ21は、歪み発生部材22に、この歪み発生部材22の歪みを測定するセンサ素子23等を取付けたものである。
【0022】
前記歪みセンサ21の一構成例を図4に示す。この歪みセンサ21において、歪み発生部材22は、外方部材1のフランジ1aにおける車体取付孔14の近傍のフランジ面に接触固定される第1の接触固定部22aと、外方部材1の外周面に接触固定される第2の接触固定部22bとを有している。また、歪み発生部材22は、前記第1の接触固定部22aを含む径方向に沿った径方向部位22cと、前記第2の接触固定部22bを含む軸方向に沿った軸方向部位22dとでL字の形状に構成されている。径方向部位22cは、軸方向部位22dに比べ、剛性が低くなるよう肉厚を薄くしてある。歪み測定用センサ素子23は、この剛性の低い径方向部位22cに取付けられている。この歪みセンサ21の場合、歪み測定用センサ素子23に隣接して温度センサ素子24が設けられている。
【0023】
上記歪みセンサ21は、図1および図2に示すように、歪み発生部材22の第1および第2の接触固定部22a,22bにより、両接触固定部22a,22bが外方部材1の周方向に対して同位相の位置となるように、外方部材1の外周部に固定される。第1および第2の接触固定部22a,22bを周方向において同位相とすると、歪み発生部材22の長さを短くすることができるため、歪みセンサ21の設置が容易である。歪み測定用センサ素子23や温度センサ素子24は、歪み発生部材22に例えば接着剤を用いて固定される。
【0024】
歪み発生部材22は、外方部材1への固定により塑性変形を起こさない形状や材質とされている。また、歪み発生部材22は、車輪用軸受に予想される最大の荷重が印加された場合でも、塑性変形を起こさない形状とする必要がある。上記の想定される最大の力は、車両故障につながらない走行において想定される最大の力である。歪み発生部材22に塑性変形が生じると、外方部材1の変形が歪み発生部材22に正確に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすためである。
【0025】
この歪みセンサ21の歪み発生部材22は、例えば鋼材等の金属材からプレス加工により製作することができる。歪み発生部材22をプレス加工品とすると、コストダウンが可能になる。
また、歪み発生部材22は、金属粉末射出成形による焼結金属品としてもよい。金属粉末射出成形は、金属、金属間化合物等の成形技術の一つであり、金属粉末をバインダーと混練する工程、この混練物を用いて射出成型する工程、成形体の脱脂処理を行なう工程、成形体の焼結を行なう工程を含む。この金属粉末射出成形によれば、一般の粉末冶金に比べて焼結密度の高い焼結体が得られ、焼結金属品を高い寸法精度で製作することができ、また機械的強度も高いという利点がある。
【0026】
歪み測定用センサ素子23としては、種々のものを使用することができる。例えば、歪み測定用センサ素子23が金属箔ストレインゲージで構成されている場合、この金属箔ストレインゲージの耐久性を考慮すると、車輪用軸受に予想される最大の荷重が印加された場合でも、歪み発生部材22における歪み測定用センサ素子23取付部分の歪み量が1500マイクロストレイン以下であることが好ましい。同様の理由から、歪み測定用センサ素子23が半導体ストレインゲージで構成されている場合は、同歪み量が1000マイクロストレイン以下であることが好ましい。また、歪み測定用センサ素子23が厚膜式センサで構成されている場合は、同歪み量が1500マイクロストレイン以下であることが好ましい。
【0027】
図4における歪み発生部材22に取付けられる温度センサ素子24としては、例えば白金測温抵抗または熱電対またはサーミスタを使用することができる。さらに、これら以外の温度を検出することが可能なセンサを使用することもできる。
【0028】
この歪みセンサ21を設けた車軸用軸受では、歪み測定用センサ素子23が歪み発生部材22の歪みを検出し、その歪みにより車輪に加わる荷重を測定する。ところで、車輪用軸受は使用中に温度が変化し、その温度変化が歪み発生部材22の歪み、または歪み測定用センサ素子23の動作に影響を及ぼす。そこで、歪み発生部材22に配置した温度センサ素子24にて歪み発生部材22の温度を検出し、その検出した温度により歪み測定用センサ素子23の出力を補正することにより、歪み測定用センサ素子23の温度による影響を除去することができる。これにより、精度の高い荷重検出を行なうことができる。
【0029】
図5は、歪みセンサ21の他の構成例を示す。この歪みセンサ21では、板材をL字状に折り曲げて歪み発生部材22が形成され、その径方向片22Aおよび軸方向片22Bのそれぞれにボルト挿通孔31,32が形成されている。歪み測定用センサ素子23は径方向片22Aの片面に固定される。この歪み発生部材22は、図6に示すように、2つの接触固定部材33,34を介して外方部材1の外周部に、ボルト39で締結される。すなわち、径方向片22Aのボルト挿通孔31から第1の接触固定部材33のボルト挿通孔35に挿通させたボルト39を、外方部材1のフランジ1aにおける車体取付孔14の近傍のフランジ面に設けられたボルト孔37に螺合させ、軸方向片22Bのボルト挿通孔32から第2の接触固定部材34のボルト挿通孔36に挿通させたボルト39を、外方部材1の外周面に設けられたボルト孔38に螺合させることで、歪み発生部材22が外方部材1に締結される。
【0030】
図5の歪みセンサ21において、歪み発生部材22の径方向片22Aには4つの歪み測定用センサ素子23が配置される。この場合の歪み発生部材22の歪みは、固定部分から折れ曲がり角部22Cに向けて大きくなる傾向にあり、できるだけ折れ曲がり角部22Cに近い位置に歪み測定用センサ素子23を配置するのが望ましい。計算による結果を図7にグラフで示すように、歪み発生部材22の板厚をtとして、折れ曲がり角部22Cからのセンサ素子配置位置までの距離xを、x<3tの範囲とすると、効率良く歪みを検出できることが分かっている。
【0031】
そこで、この歪みセンサ21では、歪み発生部材22の径方向片22Aにおける歪みを受ける部分(折れ曲がり角部22Cに近い部分)に2つの歪み測定用センサ素子23を配置し、さらに歪みの影響を受けない部分(折れ曲がり角部22Cから遠い部分)に他の2つの歪み測定用センサ素子23を配置している。
【0032】
図8は、歪みセンサ21のさらに他の構成例を示す。この歪みセンサ21では、図5の歪みセンサ21において、歪み発生部材22の径方向片22Aにおける歪みを受ける部分(折れ曲がり角部22Cに近い部分)に、互いに特性が同じか、または特性の異なる2つの歪み測定用センサ素子23を配置し、歪みの影響を受けない部分(折れ曲がり角部22Cから遠い部分)には歪み測定用センサ素子23を配置していない。その他の構成は図5の歪みセンサ21の場合と同様である。
【0033】
センサ信号処理回路ユニット25は、図3に示すように、樹脂等で製作されたハウジング26内に、ガラスエポキシ等で製作された回路基板27を有し、その回路基板27上には、前記歪み測定用センサ素子23の出力信号を処理するオペアンプ、抵抗、マイコン等や歪み測定用センサ素子23等を駆動する電源用の電気・電子部品28が配置されている。また、歪み測定用センサ素子23等の配線と回路基板27とを接合する接合部29を有している。また、外部からの電源供給や外部へセンサ信号処理回路によって処理された出力信号を出力するケーブル30を有している。歪みセンサ21に歪み測定用センサ素子23のほかに、前述した温度センサ素子24等の各種センサ素子が設けられている場合、センサ信号処理回路ユニット25にはそれぞれのセンサ素子に対応した回路基板27、電気・電子部品28、接合部29、ケーブル30等が設けられる(図示せず)。
【0034】
図9は、前記センサ信号処理回路ユニット25における処理回路40の構成を示すブロック図である。この処理回路40は、増幅回路41、オフセット調整回路42、記憶手段43、各種の補正回路44、外部インタフェース45、信号出力回路46、およびコントロール回路47を有する。コントロール回路47は、前記オフセット調整回路42、記憶手段43、補正回路44、および信号出力回路46のうちのいずれかを制御する制御回路である。
【0035】
図10には、歪みセンサ21の回路と、その出力信号を増幅する増幅回路41との接続構成の一例を示す。この場合の歪みセンサ21の回路は、図5および図6に示す構成例のものであって、歪みを受ける位置の2つの歪み測定用センサ素子23(S1)と、歪みの影響を受けない位置の2つの歪み測定用センサ素子23(S2)とを、ブリッジ接続して構成される。増幅回路41はオペアンプからなる。
このように、歪みを受ける位置の2つの歪み測定用センサ素子23(S1)と、歪みの影響を受けない位置の2つの歪み測定用センサ素子23(S2)とをブリッジ接続して検出回路を構成すると、歪み信号出力が2倍の振幅となり検出感度を高めることができる。なお、前記ブリッジ接続の検出回路において、歪みの影響を受けない位置の2つの歪み測定用センサ素子23(S2)を設ける代わりに、固定抵抗を設けても良い。基本的には、この歪み信号出力を増幅回路41で増幅した信号により、つまり、図9の回路におけるA部の構成だけで車輪用軸受にかかる荷重を検出することができる。
【0036】
しかし、歪みセンサ21には製造上のばらつきがあり、オフセット、感度、温度特性などに個体差がある。さらに、車輪用軸受を車体へ取付ける場合の取付け状態によっても、歪みセンサ21の感度特性が変化する。前記処理回路40におけるオフセット調整回路42や各種の補正回路44は、上記した個体差を補正する回路である。
【0037】
すなわち、オフセット調整回路42は、歪みセンサ21の初期オフセットと、車輪用軸受への固定によるオフセットを、正規の値に調整するものである。前記歪みセンサ21に、図4に示したような温度センサ素子24を設けても良く、この場合には温度センサ素子24の出力に基づいて、センサオフセットの自動補償をコントロール回路47で行うことができる。
【0038】
図11は、歪みセンサ21、増幅回路41、およびオフセット調整回路42の具体的構成例を示す。この構成例では、オフセット調整回路42は、オペアンプOP、抵抗R3,R4、可変抵抗VR1,VR2などからなる加減算器として構成される。このオフセット調整回路42の場合、オフセット補償機能を有するものとされる。すなわち、コントロール回路47から、端子T1に温度センサ素子24の検出出力に応じた入力電圧e1を入力することによりオフセット値の温度補償が行われ、また個体差の条件に応じて、前記可変抵抗VR1,VR2の値をコントロール回路47で変更することにより、オフセット値の個体差による補償が行われる。
【0039】
なお、図11の回路構成例では、歪みセンサ21として、図8に示した構成の歪みセンサ21が用いられている。この場合、歪み発生部材22の径方向片22Aにおける歪みを受ける位置に配置された特性の異なる2つの歪み測定用センサ素子23(S1),23(S2)を、2つの固定抵抗R1,R2とブリッジ接続して構成される。この場合には、2つの歪み測定用センサ素子23(S1),23(S2)の各出力を加算した振幅の歪み信号出力を得ることができる。
【0040】
記憶手段43は例えば不揮発メモリからなり、オフセットの温度特性や、感度、非線形を補正するためのパラメータを記憶する。コントロール回路47は、これらのパラメータに基づいて、各種の補正回路44の補正処理を制御する。
例えば、図12に示すように、歪みセンサ21の出力特性は車輪に加わる荷重と非線形な関係にあるので、この特性データをテーブル化して記憶手段43に記憶するか、あるいは近似曲線のパラメータの形態で記憶手段43に記憶する。コントロール回路47は、記憶手段43に記憶された非線形補正のデータを読み出し、補正回路44の一つとして用意された線形補正回路の動作を制御することにより、非線形補正の処理を実行する。オフセットの温度補正や、感度補正についても同様にして実行される。
【0041】
図13は、歪みセンサ21の出力電圧と、センサ付き車輪用軸受装置を車体へ取付けるときの取付けボルトの締め付け力との関係をグラフで示したものである。このように、歪みセンサ21の出力特性は、車体への取付け状態によっても異なる。すなわち、歪みセンサ21の出力特性は、各車体に取付けられる軸受装置の間でも個体差が生じる。そこで、前記記憶手段43に記憶する上記補正データは、車体への取付け状態を反映したものとされる。記憶手段43には、軸受の識別コード(ID)を記憶させても良い。
【0042】
外部インタフェース45は、外部からコントルール回路47との間で通信を行う手段であり、信号端子や無線通信手段などで構成される。この外部インタフェース45を介して、記憶手段43に記憶された補正データの修正や、ID情報の読み出しを外部から行うことができる。また、例えば、外部の自動車のECU等では、車両の使用状態と歪みセンサ21から得られる一定期間の信号出力とで、径年変化あるいは衝撃荷重によるオフセットの急激な変化を推定・検出できる。さらに、その推定・検出結果に基づき、外部のECU等から前記外部インタフェース45を介して記憶手段43に記憶されているオフセットデータを修正することができるので、正確な荷重検出能力を保つことができる。
【0043】
外部インタフェース45は、CANバス等の自動車の車体制御系通信バスに接続可能な形式のものとしても良い。この場合には、汎用性が高くなり、外部との容易な接続が可能になる。
【0044】
信号出力回路46は、オフセット調整回路42や各種の補正回路44で補正された歪みセンサ21の出力信号を、パルス変調、周波数変調、A/D変換、シリアルデータへの変換など、各種の変換を行って外部に出力する。
【0045】
このように、このセンサ付き車輪用軸受装置では、外方部材1および内方部材2のうちの固定側部材(ここでは外方部材)に固定された歪み発生部材22、およびこの歪み発生部材22に取付けられた歪み測定用のセンサ素子23を含む歪みセンサ21と、この歪みセンサ21の前記センサ素子23の出力する歪み信号を処理する処理回路40とを備え、前記処理回路40が、増幅回路41、オフセット調整回路42、記憶手段43、各種補正回路44、および外部インタフェース45を有し、前記記憶手段43は、前記歪みセンサ21および軸受の個体差となる特性が記憶され、前記記憶手段43は、前記歪みセンサ21の記憶内容に従ってセンサ素子23の出力を補正するものとし、前記外部インタフェース45は、前記記憶手段43に対して入力が可能なものとしたので、軸受で検出した荷重信号が適正に較正された状態で出力され、信号を利用する車体側では軸受の荷重状態を簡単で正確に得ることができる。
【0046】
同様に、歪みセンサ21および軸受の個体差が補償されるため、車体側ではこのセンサ付き軸受装置が組み込まれると、ただちに歪みセンサ21の出力信号を利用することができ、較正などが不要である。
【0047】
外部インタフェース45を有するので、記憶手段43に記憶されている補正データの修正や、ID情報の読み出しを外部から行うことができる。また、経年変化あるいは衝撃荷重によるオフセット変化分を検出し、外部から修正して、正確な荷重検出能力を保つことができる。
【0048】
なお、上記実施形態における図9の処理回路40でのセンサ信号の補償計算は、外部のECU等で実行しても良い。この場合、記憶手段43の補正データを外部から読み出すことにより、歪みセンサ21や軸受の個体差の特性に合わせた上記した場合と同等の補正処理を外部のECU等で実行することになるので、ECU側に個体差に応じた個々のパラメータを記憶する必要がない。
【0049】
このように外部のECU等を利用する場合には、記憶手段43に軸受のID情報だけを記憶させておいて、別途用意した数種類の特性テーブルを参照するといった方法を採用すれば、少ない容量の記憶手段43で必要な機能を実現することもできる。
【0050】
また、上記実施形態において、ECU等を利用するのに代えて、前記記憶手段43の記憶内容を、前記処理回路40に対する外部から読み書きするワイヤレス通信手段(RFID利用)などの読み書き手段49を別に付加しても良い。この場合には、省配線化、小型化が可能になる。読み書き手段49は、外部インタフェース45の一部の機能部分として設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の一実施形態にかかるセンサ付き車輪用軸受装置の断面図である。
【図2】同センサ付き車輪用軸受装置の外方部材の正面図である。
【図3】センサ信号処理回路ユニットの側面図である。
【図4】(A)は歪みセンサの一構成例の側面図、(B)はそのIV矢視図である。
【図5】(A)は歪みセンサの他の構成例の断面図、(B)は同正面図、(C)は同斜視図である。
【図6】図5の歪みセンサを車輪用軸受へ取付けた状態を示す断面図である。
【図7】図5の歪みセンサにおける歪み発生部材の折れ曲がり角部からの距離と歪みの大きさとの関係を示すグラフである。
【図8】(A)は歪みセンサのさらに他の構成例の断面図、(B)は同正面図、(C)は同斜視図である。
【図9】センサ信号処理回路ユニットにおける処理回路のブロック図である。
【図10】歪みセンサに増幅回路を接続した回路構成図である。
【図11】歪みセンサに増幅回路およびオフセット調整回路を接続した回路構成図である。
【図12】歪みセンサの出力と車輪に加わる荷重との関係を示すグラフである。
【図13】歪みセンサの出力電圧と取付けボルト締め付け力との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1…外方部材
1a…フランジ
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
21…歪みセンサ
22…歪み発生部材
22a…第1の接触固定部
22b…第2の接触固定部
23…歪み測定用センサ素子
33,34…接触固定部材
40…処理回路
41…増幅回路
42…オフセット調整回路
43…記憶手段
44…補正回路
45…外部インタフェース
46…信号出力回路
47…コントロール回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記各転走面に対向する転走面を外周に有する内方部材と、各列の転走面間に介在した複列の転走面を有する転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、
前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に固定された歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられた歪み測定用のセンサ素子を含む歪みセンサと、この歪みセンサの前記センサ素子の出力する歪み信号を処理する処理回路とを備え、
前記処理回路が、増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および外部インタフェースを有し、前記記憶手段は、前記歪みセンサおよび軸受の個体差となる特性が記憶され、前記補正手段は前記記憶手段の記憶内容に従ってセンサ素子の出力を補正するものとし、前記外部インタフェースは、前記記憶手段に対して入力が可能なものとしたことを特徴とするセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記歪みセンサの前記歪み発生部材は、固定側部材に対して2箇所の接触固定部を有し、前記接触固定部のうち第1の接触固定部は前記固定側部材に設けられたフランジ面であり、第2の接触固定部材は前記固定側部材の周面であるセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記補正回路として線形補正回路を有し、前記オフセット調整回路がオフセット補償機能を有するものであり、前記処理回路は、前記増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および外部インタフェースに加えて、信号出力回路、並びにこれらオフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および信号出力回路のうちのいずれかを制御するコントロール回路を有するセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記記憶手段は、前記歪みセンサの感度補正値,温度補正値、および軸受の識別コードを記憶したものであり、前記処理回路は前記記憶手段の記憶内容に従って回路動作を制御するものであるセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項5】
請求項4において、前記記憶手段の記憶内容を前記処理回路に対する外部から読み書きする読み書き手段を有するセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項6】
請求項5において、前記読み書き手段がワイヤレス通信手段であるセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記外部インタフェースが、自動車の車体制御系通信バスに接続可能な形式のものであるセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記各転走面に対向する転走面を外周に有する内方部材と、各列の転走面間に介在した複列の転走面を有する転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置において、
前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に固定された歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられた歪み測定用のセンサ素子を含む歪みセンサと、この歪みセンサの前記センサ素子の出力する歪み信号を処理する処理回路とを備え、
前記処理回路が、増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および外部インタフェースを有し、前記記憶手段は、前記歪みセンサおよび軸受の個体差となる特性が記憶され、前記補正手段は前記記憶手段の記憶内容に従ってセンサ素子の出力を補正するものとし、前記外部インタフェースは、前記記憶手段に対して入力が可能なものとしたことを特徴とするセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記歪みセンサの前記歪み発生部材は、固定側部材に対して2箇所の接触固定部を有し、前記接触固定部のうち第1の接触固定部は前記固定側部材に設けられたフランジ面であり、第2の接触固定部材は前記固定側部材の周面であるセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記補正回路として線形補正回路を有し、前記オフセット調整回路がオフセット補償機能を有するものであり、前記処理回路は、前記増幅回路、オフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および外部インタフェースに加えて、信号出力回路、並びにこれらオフセット調整回路、記憶手段、補正手段、および信号出力回路のうちのいずれかを制御するコントロール回路を有するセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記記憶手段は、前記歪みセンサの感度補正値,温度補正値、および軸受の識別コードを記憶したものであり、前記処理回路は前記記憶手段の記憶内容に従って回路動作を制御するものであるセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項5】
請求項4において、前記記憶手段の記憶内容を前記処理回路に対する外部から読み書きする読み書き手段を有するセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項6】
請求項5において、前記読み書き手段がワイヤレス通信手段であるセンサ付き車輪用軸受装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記外部インタフェースが、自動車の車体制御系通信バスに接続可能な形式のものであるセンサ付き車輪用軸受装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−185497(P2008−185497A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20377(P2007−20377)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]