説明

ゼオライト構造体及びその製造方法

【課題】機械的強度に優れたゼオライト構造体を提供する。
【解決手段】複数のゼオライト粒子32と、ゼオライト粒子32の相互間を結合させる無機結合材33とを含有するゼオライト材料からなり、複数のゼオライト粒子32は、平均粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子32aと、微粒ゼオライト粒子32aの平均粒子径よりも平均粒子径が3倍以上の大きさで、且つ一次粒子の凝集体ではない粗粒ゼオライト粒子32bからなるとともに、複数のゼオライト粒子32全体の体積に対する、粗粒ゼオライト粒子32bの体積の比率が、40〜90体積%のものであり、また、ゼオライト材料は、ゼオライト材料全体の体積に対する、無機結合材33の体積の比率が、5〜50体積%であり、且つ、複数のゼオライト粒子32と無機結合材33とを含有するゼオライト原料を押出成形して形成されたゼオライト構造体100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト構造体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、機械的強度に優れたゼオライト構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト(zeolite)は、微細で均一な径の細孔が形成された網目状の結晶構造を有する珪酸塩の一種であり、一般式:W2n・sHO(W:ナトリウム、カリウム、カルシウム等、Z:珪素、アルミニウム等、sは種々の値をとる)で示される種々の化学組成が存在するとともに、結晶構造についても細孔形状の異なる多くの種類(型)が存在することが知られている。これらのゼオライトは、各々の化学組成や結晶構造に基づいた固有の吸着能、触媒性能、固体酸特性、イオン交換能等を有しており、吸着材、触媒、触媒担体、ガス分離膜、或いはイオン交換体といった様々な用途において利用されている。
【0003】
例えば、MFI型ゼオライト(「ZSM−5型ゼオライト」とも称される)は、結晶中の酸素10員環によって0.5nm程度の細孔が形成されたゼオライトであり、自動車排ガス中の窒素酸化物(NO)、炭化水素(HC)等を吸着させるための吸着材、或いはキシレン異性体からp−キシレンのみを選択的に分離するためのガス分離膜等の用途において利用されている。また、DDR(Deca−Dodecasil 3R)型ゼオライトは、結晶中の酸素8員環によって0.44×0.36nm程度の細孔が形成されたゼオライトであり、天然ガスやバイオガスから二酸化炭素のみを選択的に分離・除去し、燃料として有用なメタンの純度を向上させるためのガス分離膜等の用途において利用されている。
【0004】
また、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業用定置エンジン、燃焼機器等から排出される排ガスに含有されるNO等を浄化するためや炭化水素等を吸着するために、コージェライト等からなるハニカム形状のセラミック担体(ハニカム構造体)に、イオン交換処理されたゼオライトが担持された触媒体が使用されている。
【0005】
上記コージェライト等から形成されたセラミック担体にゼオライトを担持させた場合、コージェライト等は、NO浄化、炭化水素の吸着等の作用を示さないため、コージェライト等が存在する分だけ、排ガスが通過するときの圧力損失が増大することになる。
【0006】
これに対し、ハニカム構造体自体を、金属イオンによりイオン交換処理されたゼオライトを含む成形原料を成形、焼成して、構造体を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−169104号公報
【特許文献2】特開2006−104028号公報
【特許文献3】特許第3862161号公報
【特許文献4】特開2007−296521号公報
【特許文献5】米国特許第6555492号明細書
【特許文献6】国際公開第2009/141878号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来のゼオライト構造体は、ゼオライト構造体中のゼオライトの充填率が低く、例えば、曲げ強度等の機械的強度が低いという問題があった。特に、ハニカム構造体自体をゼオライトによって形成する場合には、自動車の排気系内部に設置して使用するため、従来のゼオライト構造体では、自動車等の振動によって破損したり、変形してしまうという問題があった。
【0009】
また、従来のゼオライト構造体であっても、ゼオライト粒子を結合するための結合材を大量に含有させることにより、その機械的強度をある程度向上させることは可能であるが、ゼオライト構造体に含まれるゼオライトの比率が低下してしまうため、浄化性能が悪くなるという問題があった。
【0010】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、機械的強度に優れたゼオライト構造体及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記のような従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、ゼオライト構造体の骨材となるゼオライト粒子として、平均粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子と、上記微粒ゼオライト粒子よりも平均粒子径が3倍以上の粗粒ゼオライト粒子とを所定量混合した原料を押出成形することによって、形成されるゼオライト構造体の充填率を向上させることができ、上記課題が解決されることに想到し、本発明を完成させた。具体的には、本発明により、以下のゼオライト構造体及びその製造方法が提供される。
【0012】
[1] 複数のゼオライト粒子と、前記ゼオライト粒子の相互間を結合させる無機結合材とを含有するゼオライト材料からなり、前記複数のゼオライト粒子は、平均粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子と、前記微粒ゼオライト粒子の平均粒子径よりも平均粒子径が3倍以上の大きさで、且つ一次粒子の凝集体ではない粗粒ゼオライト粒子からなるとともに、前記複数のゼオライト粒子全体の体積に対する、前記粗粒ゼオライト粒子の体積の比率が、40〜90体積%のものであり、前記ゼオライト材料は、前記ゼオライト材料全体の体積に対する、前記無機結合材の体積の比率が、5〜50体積%であり、且つ、前記複数のゼオライト粒子と前記無機結合材とを含有するゼオライト原料を押出成形して形成されたゼオライト構造体。
【0013】
[2] 前記複数のゼオライト粒子のうちの少なくとも一部のゼオライト粒子が、ZSM−5型ゼオライト、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、及びフェリエライト型ゼオライトからなる群より選択される少なくとも一種のゼオライトからなる粒子である前記[1]に記載のゼオライト構造体。
【0014】
[3] 前記複数のゼオライト粒子のうちの少なくとも一部のゼオライト粒子が、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、マンガン、コバルト、銀、パラジウム、インジウム、セリウム、ガリウム、チタン、及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のイオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子である前記[1]又は[2]に記載のゼオライト構造体。
【0015】
[4] 前記微粒ゼオライト粒子と前記粗粒ゼオライト粒子とが、それぞれ異なる種類の前記金属のイオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子である前記[3]に記載のゼオライト構造体。
【0016】
[5] 前記微粒ゼオライト粒子が、鉄、チタン、及びコバルトからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子であり、且つ、前記粗粒ゼオライト粒子が、銅、マンガン、銀、及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のイオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子である前記[4]に記載のゼオライト構造体。
【0017】
[6] 前記無機結合材が、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、セリアゾル、ベーマイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、塩基性塩化アルミニウム、水硬性アルミナ、シリコン樹脂、及び水ガラスからなる群より選択される少なくとも一種を含むものである前記[1]〜[5]のいずれかに記載のゼオライト構造体。
【0018】
[7] 流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えたハニカム形状に成形されたものである前記[1]〜[6]のいずれかに記載のゼオライト構造体。
【0019】
[8] 平均粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子及び前記微粒ゼオライト粒子よりも平均粒子径が3倍以上の大きさの粗粒ゼオライト粒子を混合した複数のゼオライト粒子からなる粉末と、前記複数のゼオライト粒子を結合させる無機結合材と、有機バインダと、を混合して、ゼオライト原料を調製する工程と、得られた前記ゼオライト原料を押出成形してゼオライト成形体を形成する工程と、得られた前記ゼオライト成形体を焼成して、ゼオライト構造体を作製する工程と、を備え、前記ゼオライト原料を調製する工程において、前記複数のゼオライト粒子として、前記複数のゼオライト粒子全体の体積に対して、前記粗粒ゼオライト粒子を40〜90体積%含有するゼオライト粒子の粉末を用い、且つ、前記無機結合材を、前記複数のゼオライト粒子と前記無機結合材との固形分換算の合計体積100体積%に対して、5〜50体積%加えて、前記ゼオライト原料を調製するゼオライト構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のゼオライト構造体は、平均粒子径が小さな、分級された微粒ゼオライト粒子、上記微粒ゼオライト粒子よりも平均粒子径が3倍以上の、分級された粗粒ゼオライト粒子からなるゼオライト粒子の粉末と、ゼオライト粒子を結合させる無機結合材とを所定の比率で混合したゼオライト原料を押出成形することによって形成されたものであるため、ゼオライト構造体の充填率が高くなり、換言すれば、ゼオライト構造体の気孔率が低下し、機械的強度の高いものである。特に、ゼオライト粒子を結合するための結合材の量を少なくしても、機械的強度を向上させることができるため、ゼオライト構造体に含まれるゼオライトの比率を高くすることができ、浄化性能にも優れたものとなる。
【0021】
また、粒子径の大きなゼオライト粒子は、耐熱性が高く、一方、粒子径の小さなゼオライト粒子は、浄化性能に優れているため、微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とを所定の比率で混合して用いることにより、耐熱性と浄化性能を共に向上させることができる。
【0022】
また、本発明のゼオライト構造体の製造方法は、上記した骨材の充填率が高く、機械的強度の優れたゼオライト構造体を簡便且つ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のゼオライト構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のゼオライト構造体の表面に垂直な断面における、ゼオライト粒子と無機結合材との結合状態を模式的に示す拡大図である。
【図3】本発明のゼオライト構造体の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0025】
(1)ゼオライト構造体:
本発明のゼオライト構造体の一の実施形態は、図1及び図2に示すように、複数のゼオライト粒子32と、複数のゼオライト粒子32の相互間を結合させる無機結合材33とを含有するゼオライト材料からなるゼオライト構造体100である。本実施形態のゼオライト構造体100は、上記した複数のゼオライト粒子と無機結合材とを少なくとも含有するゼオライト原料を押出成形して形成された構造体である。ここで、図1は、本発明のゼオライト構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1のゼオライト構造体の表面に垂直な断面における、ゼオライト粒子と無機結合材との結合状態を模式的に示す拡大図である。なお、符号31は、複数のゼオライト粒子32からなるゼオライト粉末を示す。
【0026】
そして、本実施形態のゼオライト構造体100を構成する複数のゼオライト粒子32は、平均粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子32aと、この微粒ゼオライト粒子32aの平均粒子径よりも平均粒子径が3倍以上の大きさで、且つ一次粒子の凝集体ではない粗粒ゼオライト粒子32bからなるとともに、複数のゼオライト粒子32全体の体積に対する、粗粒ゼオライト粒子32bの体積の比率(以下、単に「粗粒ゼオライト粒子の体積の比率」ということがある)が、40〜90体積%である。
【0027】
また、本実施形態のゼオライト構造体100を構成するゼオライト材料は、ゼオライト材料全体の体積に対する、無機結合材の体積の比率(以下、単に「無機結合材の体積の比率」ということがある)が、5〜50体積%となっている。
【0028】
このように構成することによって、本実施形態のゼオライト構造体は、ゼオライト構造体の充填率(即ち、ゼオライト構造体中の、骨材としてのゼオライト粒子の充填率)が高くなり、これにより、ゼオライト構造体の気孔率が低下し、その機械的強度が高くなる。特に、ゼオライト粒子を結合するための無機結合材の量を少なくしても、機械的強度を向上させることができるため、ゼオライト構造体に含まれるゼオライトの比率を高くすることができ、浄化性能にも優れたものとなる。
【0029】
また、粒子径の大きなゼオライト粒子は、耐熱性が高く、一方、粒子径の小さなゼオライト粒子は、浄化性能に優れているため、微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とを所定の比率で混合して用いることにより、耐熱性と浄化性能を共に向上させることができる。
【0030】
本実施形態のゼオライト構造体は、例えば、骨材としての複数のゼオライト粒子からなる粉末として、平均粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子の粉末と、この微粒ゼオライト粒子よりも平均粒子径が3倍以上の大きさで、且つ一次粒子の凝集体ではない粗粒ゼオライト粒子の粉末との混合粉末が用いられている。即ち、骨材となるゼオライト粒子として用いられる粒子の粉末は、粒子径の小さい微粒ゼオライト粒子に起因する第一ピークと、微粒ゼオライト粒子の平均粒子径よりも3倍以上の平均粒子径の粗粒ゼオライト粒子に起因する第二ピークとを有する二峰性の粒度分布を示す粉末となる。
【0031】
なお、本実施形態における「平均粒子径」とは、ゼオライトの粉体を構成する固体の粒子(ゼオライト粒子)の粒子径の分布におけるメジアン径(d50)のことである。
【0032】
また、複数のゼオライト粒子全体の体積に対する、粗粒ゼオライト粒子の体積の比率は、例えば、ゼオライト構造体を所定の箇所にて切断し、その断面の微構造写真から算出することができる。より具体的な上記体積の比率の算出方法としては、例えば、まず、ゼオライト構造体を切断し、その切断を研磨する。次に、研磨した切断面を、走査型電子顕微鏡等によって撮像する。なお、断面の微構造を撮像する際には、1視野内に、粗粒ゼオライト粒子が10〜30個含まれる視野とすることが好ましい。
【0033】
得られた走査型電子顕微鏡写真(以下、「SEM写真」ということがある)を、画像解析ソフト(例えば、MEDIA CYBERNETICS社製の「Image−Pro Plus(商品名)」)を使用して、各ゼオライト粒子の粒子径を測定し、粒子径を測定したゼオライト粒子を、微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とに分類する。なお、上記画像解析ソフトによる粒子径の測定においては、各粒子が円であった場合の直径を、その粒子の粒子径として測定することができる。また、各ゼオライト粒子の粒子径を測定する際には、少なくとも10視野(即ち、上記SEM写真10枚分)における平均値とする。
【0034】
更に、撮像されたゼオライト粒子の大きさから、ゼオライト粒子の体積を算出する。このため、本明細書において、「ゼオライト粒子全体の体積」とは、各ゼオライト粒子の体積の合計値、即ち、ゼオライト粒子の相互の隙間(空隙)を含まない体積のことを意味する。このようなゼオライト粒子全体の体積は、例えば、原料として使用する粒子の粉末の場合には、ゼオライト粒子全体の質量を、その密度で除した値となる。
【0035】
なお、粒子径を測定したゼオライト粒子から、微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とを分類して、粗粒ゼオライト粒子の体積を算出する方法としては、例えば、上述した画像解析ソフトにより取得される二峰性の粒度分布から、それぞれの粒子(即ち、微粒と粗粒)に起因する二つのピーク(即ち、それぞれの粒子の粒度分布)を分離する方法を挙げることができる。なお、微粒と粗粒に起因する二つのピークを分離する際には、微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とがそれぞれ正規分布を示す粒子の粉末であると仮定することが好ましく、また、粒度分布については、その横軸に、粒子径の対数を表示したグラフとすることが好ましい。このようにして粗粒ゼオライト粒子の体積を算出することにより、より正確な粗粒ゼオライト粒子の体積を算出することができる。また、それぞれの粒子(微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子)の粒度分布を分離することによって、得られた各粒度分布から、微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子との平均粒子径を求めることができる。
【0036】
上述したように、複数のゼオライト粒子全体の体積に対する、粗粒ゼオライト粒子の体積の比率(以下、「粗粒ゼオライト粒子の体積比率」ともいう)は、上記したSEM写真によって算出するものであるが、原料段階(即ち、製造段階)で使用する粗粒ゼオライト粒子の体積と微粒ゼオライト粒子の体積とが予め判明している場合、或いは、製造段階において各粒子の体積が測定可能な場合には、この原料段階における各粒子の体積から、上記粗粒ゼオライト粒子の体積比率を算出してもよい。このような方法によって粗粒ゼオライト粒子の体積比率を求めることにより、極めて簡便に粗粒ゼオライト粒子の体積比率を得ることができる。なお、原料段階において、上記ゼオライト粒子の体積比率を求める場合には、微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とのそれぞれの平均粒子径は、JIS R1629に準拠して、レーザー回折散乱法にて測定した値とする。例えば、ゼオライト粒子の平均粒子径は、堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置:「LA−920(商品名)」によって測定することができる。
【0037】
また、上記無機結合材の体積の比率(無機結合材の体積比率ともいう)は、ゼオライト構造体(即ち、ゼオライト原料を押出成形した成形体を焼成した焼成体)における体積の比率である。即ち、無機結合材は、原材料として、液体或いは固体の状態で用いられることがあるが、上記無機結合材の体積の比率は、液体成分を除く固形分における体積の比率である。無機結合材の体積の比率は、例えば、上記「粗粒ゼオライト粒子の体積比率」の算出を行ったSEM写真から算出することができる。即ち、上記SEM写真から、画像解析ソフト(例えば、MEDIA CYBERNETICS社製の「Image−Pro Plus(商品名)」)を用いて、ゼオライト粒子の粒子径或いは占有面積、及び無機結合材の占有面積を求め、これらの値から、ゼオライト粒子全体の体積、及び無機結合材の体積を算出することができる。なお、測定されたゼオライト粒子の粒子径から、ゼオライト粒子の体積を算出する方法は、「粗粒ゼオライト粒子の体積比率」の算出方法に準じて行うことができる。「無機結合材の体積の比率」の算出に関しては、少なくとも10視野(即ち、上記SEM写真10枚分)における平均値とする。
【0038】
無機結合材の体積の比率は、下記式(1)で表すことができる。
無機結合材の体積の比率={(無機結合材の体積)/(ゼオライト粒子全体の体積+無機結合材の体積)} ・・・ (1)
【0039】
また、原料段階(即ち、製造段階)で使用するゼオライト粒子の質量(即ち、粗粒と微粒の合計質量)、無機結合材の質量が予め判明している場合、或いは、製造段階において各原料成分の体積が測定可能な場合には、原料段階において無機結合材の体積比率を算出してもよい。このような方法によって無機結合材の体積比率を求めることにより、極めて簡便に無機結合材の体積比率を得ることができる。以下、原料段階において無機結合材の体積比率を算出する方法について説明する。
【0040】
無機結合材の体積は、下記式(2)により算出することができ、ゼオライト粒子全体の体積は、下記式(3)により算出することができる。
無機結合材の体積={(焼成前の無機結合材の質量)×(焼成及び乾燥による無機結合材の質量変化率)}/(焼成後の無機結合材の密度) ・・・(2)
ゼオライト粒子全体の体積=ゼオライト粒子全体の質量/ゼオライトの密度 ・・・ (3)
【0041】
なお、上記式(3)中、ゼオライトの密度は、ゼオライト粒子を構成するゼオライトの密度であり、1.85g/cmとする。また、焼成及び乾燥による無機結合材の質量変化率は、焼成前の無機結合材の質量に対する、焼成及び乾燥によって変化する質量の比の値のことを意味する。なお、焼成後の無機結合材の密度と、焼成及び乾燥によって変化する質量とは、製造時において使用する無機結合材のみを焼成し、焼成前後における質量を測定することによって得ることができる。
【0042】
また、「一次粒子の凝集体ではない」とは、その粒子が、粒子径の小さい複数の粒子が、互いの間のファンデルワールス力によって一つに集まり固まった二次粒子ではなく、独立した粒子、即ち、一つの結晶構造体であることをいう。
【0043】
なお、粗粒ゼオライト粒子の平均粒子径が、微粒ゼオライト粒子の平均粒子径の3倍未満の大きさであると、粗粒ゼオライト粒子の含有比率によっても異なるが、粗粒ゼオライト粒子の相互間に、微粒ゼオライト粒子が十分に充填されず、ゼオライト構造体の機械的強度を向上させることができない。即ち、本実施形態のゼオライト構造体においては、粗粒ゼオライト粒子の相互間に、微粒ゼオライト粒子が適度に充填され、その気孔率が低くなり、これに伴って機械的強度、例えば、曲げ強度が向上する。
【0044】
粗粒ゼオライト粒子の平均粒子径は、微粒ゼオライト粒子の平均粒子径よりも3〜1000倍の大きさであることが好ましく、7〜100倍の大きさであることが更に好ましく、15〜30倍の大きさであることが特に好ましい。このように構成することによって、微粒ゼオライト粒子が粗粒ゼオライト粒子の相互間により最適に充填され、機械的強度をより向上させることができる。なお、粗粒ゼオライト粒子の平均粒子径が、1000倍よりも大きくなると、粗粒ゼオライト粒子が大きくなり過ぎ、押出成形することが困難になることがある。
【0045】
本実施形態のゼオライト構造体においては、ゼオライト粒子全体の体積に対する、粗粒ゼオライト粒子の体積の比率が、40〜90体積%であることが必要である。上記粗粒ゼオライト粒子の体積の比率が40体積%未満であると、粗粒ゼオライト粒子が少な過ぎて、微粒ゼオライト粒子が充填される隙間ができず、強度を向上させることができない。一方、90体積%超であると、隙間に充填される微粒ゼオライト粒子が少な過ぎて、こちらも強度を向上させることができない。なお、この粗粒ゼオライト粒子の体積の比率は、上述した所定の大きさ(即ち、平均粒子径の3倍以上)の粗粒ゼオライト粒子における比率であり、粗粒ゼオライト粒子の平均粒子径と、粗粒ゼオライト粒子の体積の比率とが上記数値範囲を満たすことにより、夫々が相俟って、これまでに説明した効果を奏することができる。即ち、粗粒ゼオライト粒子の平均粒子径が、微粒ゼオライト粒子の平均粒子径の3倍以上であっても、上記比率でなかったり、また、上記比率を満たしていても、粗粒ゼオライト粒子の平均粒子径が小さい場合には、機械的強度を十分に向上させることは不可能である。
【0046】
また、本実施形態のゼオライト構造体においては、無機結合材の体積の比率が、5〜50体積%であることが必要である。なお、無機結合材の体積の比率が、5体積%未満であると、結合材が少なすぎて、ゼオライト粒子を良好に結合されることができず、一方、無機結合材の体積の比率が、50体積%超であると、無機結合材が多すぎて、浄化性能が悪くなる。
【0047】
なお、本明細書において、ゼオライト原料とは、ゼオライト粒子及び無機結合材を少なくとも含有し、ゼオライト構造体を形成するための成形体を押出成形するための成形原料のことを意味する。また、ゼオライト材料とは、ゼオライト原料を押出成形した成形体を、乾燥、及び焼成することによって製造されたゼオライト構造体を構成する材料、即ち、焼結体を構成する材料のことを意味する。
【0048】
(1−1)ゼオライト粒子:
ゼオライト粒子は、本実施形態のゼオライト構造体の骨材となるものである。このようなゼオライト粒子は、無機結合材によって複数のゼオライト粒子の相互間が結合されて一つの構造体を形成している。
【0049】
本実施形態のゼオライト構造体に用いられるゼオライト粒子は、平均粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子と、この微粒ゼオライト粒子よりも平均粒子径が3倍以上の大きさで、且つ一次粒子の凝集体ではない粗粒ゼオライト粒子とからなる複数の粒子によって構成されている。そして、複数のゼオライト粒子全体の体積に対する、粗粒ゼオライト粒子の体積の比率が、40〜90体積%である。なお、複数のゼオライト粒子全体の体積とは、ゼオライト構造体に使用されている全てのゼオライト粒子の体積の合計値のことを意味する。
【0050】
なお、このようなゼオライト粒子の粉末(複数のゼオライト粒子の集合)としては、上記平均粒子径及び含有される粗粒ゼオライト粒子の体積比率を満たす混合粉末であれば、ゼオライトの種類等については特に制限はないが、例えば、ZSM−5型ゼオライト、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、及びフェリエライト型ゼオライトからなる群より選択される少なくとも一種のゼオライトからなる粒子を含有するものであることが好ましい。これらの中でも、良好な浄化性能ならびに良好な吸着性能を有することから、ZSM−5型ゼオライト、及びβ型ゼオライトが好ましい。
【0051】
また、特に限定されることはないが、微粒ゼオライト粒子の平均粒子径は、0.1〜30μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることが更に好ましく、0.5〜2μmであることが特に好ましい。なお、微粒ゼオライト粒子の平均粒子径が0.1μm未満では、耐熱性が低くなることがあり、30μm超では、ゼオライト原料を押出成形することが困難になることがある。
【0052】
また、微粒ゼオライト粒子は、その少なくとも一部が、複数の微粒ゼオライト粒子が凝集した、ゼオライト粒子の凝集体であってもよい。即ち、微粒ゼオライト粒子については、微粒ゼオライト粒子を一次粒子とした凝集体(二次粒子)であっても、これまでに説明した、微粒ゼオライト粒子単独の粒子の場合と、同様の効果を得ることができる。
【0053】
即ち、微粒ゼオライト粒子が凝集体の場合には、微粒ゼオライト粒子の凝集体の平均粒子径よりも、粗粒ゼオライト粒子の平均粒子径が3倍以上の大きさであることが必要がある。
【0054】
なお、ゼオライト粒子の凝集体の平均粒子径は、0.1〜30μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることが更に好ましく、0.5〜2μmであることが特に好ましい。なお、ゼオライト粒子の凝集体の平均粒子径が0.1μm未満では、耐熱性が低くなることがあり、30μm超では、押出成形することが困難となることがある。なお、凝集体の平均粒子径は、JIS R1629に準拠して、レーザー回折散乱法にて測定した値である。
【0055】
また、粗粒ゼオライト粒子の平均粒子径は、0.5〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることが更に好ましく、10〜20μmであることが特に好ましい。なお、微粒ゼオライト粒子の平均粒子径が0.5μm未満では、耐熱性が低くなることがあり、100μm超では、押出成形することが困難となることがある。
【0056】
なお、本実施形態のゼオライト構造体を作製するに際し、微粒ゼオライト粒子の粉末と、粗粒ゼオライト粒子の粉末とを用いる場合には、それぞれの粉末は、その粒度分布を頻度分布として表現したときの最大頻度が大きい方が好ましく、その最大頻度が7%以上であることが好ましく、13%以上が更に好ましく、20%以上が特に好ましい。このように構成することによって、微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子との差異が明確になり、粗粒ゼオライト粒子の相互間に、微粒ゼオライト粒子が適度に充填され、その気孔率が低くなり、これに伴って機械的強度、例えば、曲げ強度が向上する。
【0057】
なお、「頻度分布」とは、横軸を、複数の粒子からなる粉末の粒子径とし、縦軸を、その粒度分布(体積基準分布)の頻度(%)としたグラフによって示すことができる。また、「最大頻度」とは、頻度分布曲線における、頻度(%)が最大となる頻度(分布の極大値)のことを意味する。なお、上記した最大頻度は、粗粒ゼオライト粒子の体積比率を算出する際において、SEM写真の画像解析によって取得される、微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とのそれぞれの粒度分布(即ち、二峰性の粒度分布を分離した粒度分布)から求めることも可能である。
【0058】
また、本実施形態のゼオライト構造体においては、金属イオンによりイオン交換されたゼオライト(ゼオライト粒子)により形成されたものであることが好ましい。このような金属イオンによりイオン交換されたゼオライトは、触媒機能に優れており、例えば、排ガス中の窒素酸化物(NO)の処理等を良好に行うことができる。
【0059】
具体的には、複数のゼオライト粒子のうちの少なくとも一部のゼオライト粒子が、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、マンガン、コバルト、銀、パラジウム、インジウム、セリウム、ガリウム、チタン、及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のイオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子であることが好ましい。例えば、鉄イオンや銅イオンによりイオン交換することによって、良好なNO浄化性能となり、また、銅イオンや銀イオンによりイオン交換することによって、良好な炭化水素吸着能を発現させることができる。
【0060】
なお、特に限定されることはないが、金属イオンでのイオン交換量(M+/Alイオンモル比)は、0.3〜2.0であることが好ましく、0.7〜1.5であることが更に好ましく、0.9〜1.2であることが特に好ましい。なお、イオン交換量は、例えば、セイコーインスツル製の誘導結合プラズマ質量分析装置:「SPQ9000(商品名)」によって測定することができる。なお、上述したイオン交換量は、ゼオライト中のアルミニウムイオン(Alイオン)に対する、金属イオンの価数(M+)のモル比(「M+/Alイオン」)のことである。なお、イオン交換量が少ない(例えば、0.3未満である)と触媒性能が低くなり、一方、イオン交換量が多過ぎる(例えば、2.0超である)と、触媒性能が飽和して、イオン交換による効果が発現し難くなることがある。なお、イオン交換量としては、交換後のゼオライト粒子の質量に対する、金属イオンの質量の割合(質量%)として示すこともできる。
【0061】
なお、ゼオライト粒子がイオン交換されたものである場合には、結合材によって結合される前の粉体の状態でイオン交換されたものであってもよいし、結合材によって結合された後のゼオライト構造体の状態でイオン交換されたものであってもよい。なお、製造工程がより簡便であることから、粉体の状態でイオン交換されたもの(即ち、原料の状態で予めイオン交換されたもの)であることがより好ましい。
【0062】
微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とは、同一のゼオライトから構成された粒子であってもよいし、異なるゼオライトからなる粒子であってもよい。また、微粒ゼオライト粒子及び粗粒ゼオライト粒子のそれぞれは、複数種類のゼオライト粒子の混合粒子であってもよい。例えば、二種類の微粒ゼオライト粒子と、一種類の粗粒ゼオライト粒子との混合粉末である場合には、粗粒ゼオライト粒子は、二種類の微粒ゼオライト粒子のそれぞれの平均粒子径よりも3倍以上の平均粒子径の粒子であることが必要となる。このように、複数のゼオライト粒子は、三種類以上の粒子からなるものであってもよい。
【0063】
また、本実施形態のゼオライト構造体においては、複数のゼオライト粒子を構成する微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とが、それぞれ別の金属イオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子であってもよい。イオン交換を行う金属イオンの種類によって、例えば、NOの浄化に対する反応性の高さや、耐高温水蒸気性等の耐久性が異なることが知られている。具体的には、例えば、銅イオンは上記反応性は高いが、比較的に耐久性が低く、一方、鉄イオンは、反応性は若干低いが、耐久性が高いという特性を有している。
【0064】
本実施形態のゼオライト構造体は、図2に示すように、粗粒ゼオライト粒子32bの周囲を、微粒ゼオライト粒子32aが覆うように配置されているため、微粒ゼオライト粒子32aは、水蒸気に曝され易く、且つ浄化対象となる成分、例えば、NOガスとも接触し易い。一方、粗粒ゼオライト粒子32bは、その表面に微粒ゼオライト粒子32aが多く配置されているため、上記した水蒸気やNOガスと接触し難くなる。
【0065】
このため、例えば、水蒸気と接触し難い粗粒ゼオライト粒子については、銅イオンによってイオン交換することによって、耐久性の低さを補いつつ、その反応性の高さから、NOガスとの接触頻度が低くとも、十分な浄化性能を発現させることが可能となる。一方、水蒸気に曝され易い微粒ゼオライト粒子については、鉄イオンによってイオン交換することによって、優れた耐久性を良好に活かすことができるとともに、反応性が若干低いものであったとしても、NOガスとの接触頻度が高いため、十分な浄化性能を発現させることが可能となる。
【0066】
なお、金属イオンの組み合わせは、上記した銅イオンと鉄イオンとの場合に限定されることはなく、各金属イオンの特性(例えば、耐久性や反応性)に応じて適宜選択することができる。なお、耐久性の高い金属イオンを微粒ゼオライト粒子とし、反応性が高い金属イオンを粗粒ゼオライト粒子とすることが好ましい。例えば、微粒ゼオライト粒子が、鉄、チタン、及びコバルトからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子であり、且つ、粗粒ゼオライト粒子が、銅、マンガン、銀、及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のイオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子である場合を好適例として挙げることができる。なお、このような各ゼオライト粒子が別の金属イオンによりイオン交換された場合における効果は、ゼオライト構造体の形状が、後述するハニカム形状等の構造体の表面積が大きい場合に特に顕著となる。
【0067】
なお、例えば、国際公開第2009/141886号パンフレットには、異なる種類の金属イオンでイオン交換された二種類のゼオライトを含むハニカム構造体が開示されているが、このハニカム構造体においては、異なる種類の金属イオンでイオン交換された各ゼオライトの平均粒子径については特に規定されておらず、上述したような、各金属イオンの特性(例えば、耐久性や反応性)と、微粒及び粗粒のゼオライト粒子の特性(例えば、ガスや水蒸気との接触効率)とを考慮して金属イオンを選択することにより生じる顕著な効果を奏するものではない。
【0068】
また、上記国際公開第2009/141886号パンフレットに記載のハニカム構造体は、例えば、一の金属イオンでイオン交換されたゼオライトを用いてハニカム構造体を作製した後に、他の金属イオンでイオン交換されたゼオライトを含むコート層を、作製したハニカム構造体の隔壁表面に形成することによって製造されており、異なる種類の金属イオンでイオン交換された二種類のゼオライトは、それぞれ配置される領域も異なっている。一方、本実施形態のゼオライト構造体は、予め微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とを別々の金属イオンでイオン交換し、この各粒子を含むゼオライト原料を押出成形して形成されたものであり、一つの構造体内で、微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とが混ざりあった状態で存在している。また、上述したように一回の押出成形によって成形体を形成することができるため、上記国際公開第2009/141886号パンフレットに記載のハニカム構造体と比較して、その製造方法も極めて簡便である。
【0069】
(1−2)無機結合材:
無機結合材は、これまでに説明したゼオライト粒子の相互間を結合させるための結合材である。
【0070】
このような無機結合材としては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、セリアゾル、ベーマイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、塩基性塩化アルミニウム、水硬性アルミナ、シリコン樹脂、及び水ガラスからなる群より選択される少なくとも一種を含む無機結合材を好適に用いることができる。
【0071】
また、ゼオライト材料全体、即ち、ゼオライト構造体全体に対する、無機結合材の体積の比率は、5〜50体積%であり、10〜30体積%であることが好ましく、15〜25体積%であることが更に好ましい。無機結合材の体積の比率が、10体積%未満であると、ゼオライト粒子を良好に結合されることが困難になることがあり、一方、無機結合材の体積の比率が、30体積%超であると、浄化性能が悪くなることがある。
【0072】
(1−3)ゼオライト構造体:
本実施形態のゼオライト構造体は、これまでに説明したゼオライト粒子と無機結合材とを含有するゼオライト原料を押出成形して形成されたものであり、複数のゼオライト粒子が無機結合材によって結合された多孔質体となっている。
【0073】
なお、本実施形態のゼオライト構造体の気孔率及び気孔径(細孔径)は、二つの観点で考える必要がある。第一の観点は、ゼオライト(ゼオライト粒子)が結晶構造体として細孔を有する物質であるために、ゼオライトの種類に特有の値であり、ゼオライトの種類が決まれば決まる細孔に関するものである。例えば、ZSM−5型ゼオライトの場合は、酸素10員環の細孔を有し、細孔径が約0.5〜0.6nmである。また、β型ゼオライトの場合は、酸素12員環の細孔を有し、細孔径が約0.5〜0.75nmである。第二の観点は、ゼオライト構造体が、ゼオライト粒子(ゼオライトの結晶粒子)が結合材とともに一体化したものであるため、ゼオライト構造体(多孔質体)としての気孔率、気孔径である。なお、結晶構造体においては、細孔及び細孔径と表記し、多孔質体においては、気孔及び気孔径と表記することとする。本実施形態のゼオライト構造体においては、気孔率が20〜60%であることが好ましく、30〜50%であることが更に好ましく、30〜40%であることが特に好ましい。気孔率が低すぎると、浄化性能が低くなることがあり、一方、気孔率が高すぎると、強度が低下することがある。なお、気孔率は、水銀圧入法によって測定した気孔径3nm〜180μmの気孔の単位質量あたりの気孔容量と、ゼオライト構造体の真密度を用いて、下記式(4)にて計算した値である。
気孔率=気孔容量/(気孔容量+1/ゼオライト構造体の真密度)×100 ・・・ (4)
【0074】
なお、上記式(4)において、気孔容量は、Quantachrome社製の全自動多機能水銀ポロシメータ「PoreMaster60GT(商品名)」にて測定した値とした。また、ゼオライト構造体の真密度は、ゼオライト(ゼオライト粒子)に関しては、1.85g/cmとし、無機結合材に関しては、micrometrics社製の乾式自動密度計「アキュピック1330(商品名)」にて測定した値とした。
【0075】
ゼオライト構造体は、押出成形によって形成されたものであれば、その形状については特に制限はなく、例えば、ガスの浄化や分離に利用可能なものであればよい。例えば、膜状、板状(例えば、図1参照)、筒状等の形状であってもよいし、図3に示すように、流体の流路となる一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1を備えたハニカム形状に成形されたもの(ゼオライト構造体100a)であってもよい。ここで、図3は、本発明のゼオライト構造体の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【0076】
このようなハニカム形状とすることにより、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業用定置エンジン、燃焼機器等から排出される排ガスに含有されるNO等を浄化するためや炭化水素等を吸着するためのハニカム構造体を、ゼオライト構造体によって形成することが可能となる。即ち、従来使用されていた、コージェライト等のセラミック担体を用いる必要がないため、セラミック担体を用いた場合と比較して圧力損失を極めて低いものとすることができる。このため、例えば、ゼオライト構造体に、より多くの触媒を担持することも可能となる。そして、本実施形態のゼオライト構造体は、極めて高い強度を有しているため、自動車の排気系内部に設置して使用したとしても、振動等による破損や変形も生じ難くなっている。
【0077】
また、ゼオライト構造体をハニカム形状とする場合には、セル2の延びる方向に直交する断面における面積が、300〜200000mmであることが好ましい。300mmより小さいと、排ガスを処理することができる面積が小さくなることがあるのに加えて、圧力損失が高くなることがある。200000mmより大きいと、ゼオライト構造体の強度が低下することがある。
【0078】
また、本実施形態のゼオライト構造体100aは、図3に示すように、隔壁1全体の外周を取り囲むように配設された外周壁4を備えることが好ましい。外周壁の材質は、必ずしも隔壁と同じ材質である必要はないが、外周部の材質が耐熱性や熱膨張係数等の物性の観点で大きく異なると隔壁の破損等の問題が生じる場合があるので、主として同じ材質を含むか、同等の物性を有する材料を主として含有することが好ましい。外周壁は、押出成形により、隔壁と一体的に形成されたものであっても、成形後に外周部を所望形状に加工し、外周部にコーティングするものであってもよい。
【0079】
ハニカム形状のゼオライト構造体における、セルの形状(即ち、セルが延びる方向に直交する断面におけるセルの形状)としては、特に制限はなく、例えば、三角形、四角形、六角形、八角形、円形、あるいはこれらの組合せを挙げることができる。
【0080】
ハニカム形状のゼオライト構造体における、隔壁の厚さは、50μm〜2mmであることが好ましく、100μm〜350μmであることが更に好ましい。50μmより薄いと、ゼオライト構造体の強度が低下することがある。2mmより厚いと、浄化性能が低くなったり、ゼオライト構造体にガスが流通するときの圧力損失が大きくなったりすることがある。また、ハニカム形状のゼオライト構造体の最外周を構成する外周壁4の厚さは、10mm以下であることが好ましい。10mmより厚いと、排ガス浄化処理を行う面積が小さくなることがある。
【0081】
また、ハニカム形状のゼオライト構造体のセル密度は、特に制限されないが、7.8〜155.0セル/cmであることが好ましく、31.0〜93.0セル/cmであることが更に好ましい。155.0セル/cmより大きいと、ゼオライト構造体にガスが流通するときの圧力損失が大きくなることがある。7.8セル/cmより小さいと、排ガス浄化処理を行う面積が小さくなることがある。
【0082】
ハニカム形状のゼオライト構造体の全体の形状は特に限定されず、例えば、円筒形状、オーバル形状等、所望の形状とすることができる。また、ゼオライト構造体の大きさは、例えば、円筒形状の場合、底面の直径が20〜500mmであることが好ましく、70〜300mmであることが更に好ましい。また、ゼオライト構造体の中心軸方向の長さは、10〜500mmであることが好ましく、30〜300mmであることが更に好ましい。
【0083】
(2)ゼオライト構造体の製造方法:
次に、本発明のゼオライト構造体の製造方法の一の実施形態について説明する。本発明のゼオライト構造体の製造方法の一の実施形態は、上述した、本発明のゼオライト構造体の一の実施形態を製造するものである。
【0084】
本実施形態のゼオライト構造体の製造方法は、平均粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子及び微粒ゼオライト粒子よりも平均粒子径が3倍以上の大きさの粗粒ゼオライト粒子を混合した複数のゼオライト粒子からなる粉末と、この複数のゼオライト粒子を結合させる無機結合材と、有機バインダと、を混合して、ゼオライト原料を調製する工程と、得られたゼオライト原料を押出成形してゼオライト成形体を形成する工程と、得られたゼオライト成形体を焼成して、ゼオライト構造体を作製する工程と、を備え、ゼオライト原料を調製する工程において、前記複数のゼオライト粒子として、前記複数のゼオライト粒子全体の体積に対して、粗粒ゼオライト粒子を40〜90体積%含有するゼオライト粒子の粉末を用い、且つ、無機結合材を、ゼオライト粉末と無機結合材との固形分換算の合計体積100体積%に対して、5〜50体積%加えて、ゼオライト原料を調製するものである。
【0085】
このように構成することによって、これまでに説明した本実施形態のゼオライト構造体を簡便且つ安価に製造することができる。なお、押出成形するゼオライト成形体の形状については特に制限はなく、図1に示すゼオライト構造体100のように板状のものであってもよいし、図3にゼオライト構造体100aのようにハニカム形状のものであってもよい。
【0086】
以下に、本実施形態のゼオライト構造体の製造方法について更に詳細に説明する。
【0087】
まず、本実施形態のゼオライト構造体の製造方法においては、ゼオライト粒子の粉末として、比較的に粒子径の小さい微粒ゼオライト粒子からなる微粒ゼオライト粉末と、この微粒ゼオライト粒子の平均粒子径よりも平均粒子径が3倍以上の粗粒ゼオライト粒子からなる粗粒ゼオライト粉末とを所定の割合で混合して、平均粒子径の異なる二つの粉末の混合粉末を調製する。なお、上述した平均粒子径は、ゼオライト粉体を構成する固体の粒子(ゼオライト粒子)の粒子径の分布におけるメジアン径(d50)のことであり、JIS R1629に準拠して、レーザー回折散乱法にて測定した値である。この平均粒子径は、例えば、堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置:「LA−920(商品名)」によって測定することができる。
【0088】
なお、粗粒ゼオライト粒子の平均粒子径は、一次粒子の凝集体ではない一つの結晶構造体の平均粒子径である。また、粗粒ゼオライト粒子については、これらの粒子が更に凝集していない粒子(一次粒子)であることが必要である。一方、微粒ゼオライト粒子については、複数のゼオライト粒子が凝集した二次粒子であってもよいし、凝集していない一次粒子であってもよい。
【0089】
粗粒ゼオライト粒子は、ゼオライト粉末を構成する複数のゼオライト粒子全体の体積に対して、40〜90体積%であることが必要であり、50〜80体積%であることが好ましく、60〜70体積%であることが更に好ましい。なお、微粒ゼオライト粒子は、複数のゼオライト粒子全体の体積に対して、10〜60体積%の割合で含有される。
【0090】
また、無機結合材は、複数のゼオライト粒子(ゼオライト粉末)と無機結合材との固形分換算の合計体積100体積%に対して、5〜50体積%加えることが必要であり、10〜30体積%であることが好ましく、15〜25体積%であることが更に好ましい。なお、無機結合材の固形分換算の体積は、無機結合材の固形分換算の質量と密度とによって算出することができる。即ち、上述した式(2)〜(4)によって算出することができる。
【0091】
また、ゼオライト粒子としては、ZSM−5型ゼオライト、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、及びフェリエライト型ゼオライトからなる群より選択される少なくとも一種のゼオライトからなる粒子を用いることができる。なお、各ゼオライト粒子の平均粒子径等については、ゼオライト構造体の実施形態にて説明したものと同様に構成されたものであることが好ましい。
【0092】
また、ゼオライト粒子は、金属イオンによるイオン交換処理を行ったものであってもよい。このようなゼオライト粒子を用いることによって、触媒機能に優れたゼオライト構造体を簡便に製造することができる。なお、イオン交換処理については、ゼオライト構造体を製造した後に行うことも可能である。また、微粒ゼオライト粒子と粗粒ゼオライト粒子とで、イオン交換する金属イオンの種類を変えて、イオン交換処理を行ってもよい。
【0093】
なお、ゼオライト粒子或いはゼオライト構造体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施す方法としては、以下の方法を挙げることができる。
【0094】
イオン交換する金属イオンを含有するイオン交換用溶液(金属イオン含有溶液)を調製する。例えば、銀イオンでイオン交換する場合には、硝酸銀、又は酢酸銀の水溶液を調製する。また、銅イオンでイオン交換する場合には、酢酸銅、硫酸銅、又は硝酸銅の水溶液を調製する。また、鉄イオンでイオン交換する場合には、硫酸鉄、又は酢酸鉄の水溶液を調製する。イオン交換用溶液の濃度は、0.005〜0.5(モル/リットル)が好ましい。そして、イオン交換用溶液に、ゼオライト粒子を浸漬する。浸漬時間は、イオン交換させたい金属イオンの量等によって適宜決定することができる。そして、ゼオライト粒子をイオン交換用溶液から取り出し、乾燥及び仮焼を行うことによりイオン交換されたゼオライト粒子を得ることができる。乾燥条件は、80〜150℃で、1〜10時間が好ましい。仮焼の条件は、400〜600℃で、1〜10時間が好ましい。
【0095】
次に、この混合したゼオライト粒子の粉末に、無機結合材を更に加えてゼオライト原料(即ち、成形原料)を調製する。無機結合材としては、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、セリアゾル、ベーマイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、塩基性塩化アルミニウム、水硬性アルミナ、シリコン樹脂、及び水ガラスからなる群より選択される少なくとも一種を含むものであることが好ましい。
【0096】
ゼオライト原料中には、水が含有されていることが好ましい。ゼオライト原料中の水の含有量は、ゼオライト粒子100質量%に対して、30〜70質量%が好ましい。
【0097】
また、ゼオライト原料中には、有機バインダを含有させる。有機バインダとしては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0098】
なお、有機バインダの添加量としては、ゼオライト粒子と無機結合材の合計質量に対して、1〜20質量%が好ましく、3〜10質量%が更に好ましく、3〜6質量%が特に好ましい。有機バインダの添加量が少な過ぎる(1質量%未満である)と、押出成形が極めて困難になることがあり、有機バインダの添加量が多すぎる(20質量%超である)と、得られるゼオライト構造体の気孔率が高くなり、強度が低下することがある。
【0099】
また、ゼオライト原料中には、分散剤等を更に含有させてもよい。分散剤としては、例えば、脂肪酸、アクリル酸、ソルビタン酸、ポリアルコール等を挙げることができる。
【0100】
ゼオライト粉末と無機結合材とを混合する方法については、特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本田鐵工製の双腕型ニーダーを用いて、乾式(即ち、水を加えずに)で10〜30分間混合し、その後、混合物に更に水を加えて、混合物の粘度を調整しながら、20〜60分間、混合及び混練する方法を挙げることができる。
【0101】
次に、得られたゼオライト原料を所定の形状に押出成形して、ゼオライト成形体を形成する。なお、ゼオライト成形体をハニカム形状に成形する場合には、例えば、まず、ゼオライト原料を混練して円柱状の成形体を形成し、円柱状の成形体を押出成形して、ハニカム形状のゼオライト成形体を形成することが好ましい。成形原料を混練して円柱状の成形体を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚さ、セル密度等を有する口金を用いることが好ましい。口金の材質としては、摩耗し難い金属が好ましい。
【0102】
得られたハニカム形状の成形体について、焼成前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥の方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることが好ましい。
【0103】
また、ゼオライト成形体を焼成(本焼成)する前には、そのゼオライト成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、中の有機物(有機バインダ、分散剤等)を除去することができればよい。仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜500℃程度で、1〜20時間程度加熱することが好ましい。
【0104】
次に、ゼオライト成形体を焼成して、所定の形状のゼオライト構造体を得る。従って、「焼成したゼオライト成形体」は、「ゼオライト構造体」のことである。焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。なお、焼成温度は、500〜750℃が好ましく、550〜700℃が更に好ましい。焼成温度が低過ぎる場合は、強度が低下することがあり、高過ぎる場合は、ゼオライトの性能が低下することがある。また、焼成する際には、上記温度において、焼成条件は、大気雰囲気で、1〜10時間加熱することが好ましい。
【0105】
以上のようにして、平均粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子、及び微粒ゼオライト粒子の平均粒子径よりも平均粒子径が3倍以上の大きさで、且つ一次粒子の凝集体ではない粗粒ゼオライト粒子からなる複数のゼオライト粒子と、複数のゼオライト粒子の相互間を結合させる無機結合材とを含有するゼオライト材料からなるゼオライト構造体を製造することができる。
【0106】
なお、ゼオライト粒子として、イオン交換処理されたゼオライト粒子を用いなかった場合には、焼成したゼオライト成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施してもよい。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0108】
(実施例1)
粗粒ゼオライト粒子の粉末として、ZSM−5型ゼオライトからなり、銅イオンで3質量%イオン交換された、平均粒子径が14μmの粗粒ゼオライト粒子の粉末(以下、ゼオライト(1)という)を用意し、微粒ゼオライト粒子の粉末として、β型ゼオライトからなり、鉄イオンで3質量%イオン交換された、平均粒子径が0.7μmの微粒ゼオライト粒子の粉末(ゼオライト(2)という)を用意した。なお、ゼオライト(1)の粒度分布を頻度分布として表現したときの最大頻度は、13%であり、ゼオライト(2)の最大頻度は、20%である。表1に、各ゼオライト粒子の物性を示す。表1において、「結晶系」の欄は、ゼオライト粒子を構成するゼオライトの種類(結晶系)を意味する。また、「金属イオン」の欄は、イオン交換処理によってゼオライト粒子に含有されるようになった金属イオンを意味する。「Cu」は銅イオン、「Fe」は鉄イオンを意味する。
【0109】
ゼオライト(1)2100gと、ゼオライト(2)1400gとに、無機結合材として、比表面積が130m/gのベーマイト1400gと、モンモリロナイト100gとを加えた。更に、有機バインダとして、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を200gを加え、本田鐵工製双腕型ニーダーを用いて乾式で10分間混合し、更に、水を加えて粘度調整しながら40分間混合及び混練し、ゼオライトの混練物(ゼオライト原料)を得た。表2に、ゼオライト原料の配合処方を示す。
【0110】
得られたゼオライトの混練物を、本田鐵工製の連続混練真空押出成形機を用いて、幅25mm、厚さ5mmの板状に押出成形して、ゼオライト成形体を得た。得られたゼオライト成形体を、熱風乾燥機にて80℃で12時間乾燥した後、焼成炉にて450℃で5時間脱脂し、700℃で4時間焼成することでゼオライト焼成体(ゼオライト構造体)を得た。
【0111】
なお、ゼオライト粒子の平均粒子径は、そのゼオライト粒子を含有する粉末の粒子径分布におけるメジアン径(d50)であり、JIS R1629に準拠したレーザー回折散乱法にて測定した。なお、ゼオライト粒子における「最大頻度」とは、頻度分布曲線における、頻度(%)が最大となる頻度(分布の極大値)のことである。
【0112】
また、比表面積はBET比表面積とし、micrometrics社製の流動式比表面積測定装置:「FlowSorb−2300(商品名)」を使用し、試料前処理は200℃で10分間保持として測定した。ここで、比表面積とは、単位質量当りの表面積を表し、例えば、ガスの物理吸着によりB.E.T理論を用いて、試料表面に吸着されたガスの単分子層でサンプル表面を覆うのに必要な分子数(N)を求め、この吸着分子数(N)に吸着ガスの分子断面積をかけることにより、試料の表面積を導出し、この試料の表面積を試料の質量で割ることにより求まる値をいう。
【0113】
また、得られたゼオライト構造体について、JIS R1601に準拠して4点曲げ試験を行って、ゼオライト構造体の曲げ強度を測定した。表3に、曲げ強度の測定結果を示す。また、表3に、ゼオライト粒子全体の体積に対する、粗粒ゼオライト粒子の体積の比率(粗粒ゼオライト粒子の体積比率(体積%))と、ゼオライト材料全体の体積に対する、無機結合材の体積比率(体積%)と、を示す。なお、ゼオライト材料とは、ゼオライト構造体を構成する材料を意味し、ゼオライト材料全体の体積とは、ゼオライト構造体全体の体積を意味する。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
【表3】

【0117】
(実施例2)
表1及び表2に示すように、粗粒ゼオライト粒子の粉末として、ZSM−5型ゼオライトからなり、鉄イオンで3質量%イオン交換された、平均粒子径が14μmの粗粒ゼオライト粒子の粉末(以下、ゼオライト(3)という)を用意し、微粒ゼオライト粒子の粉末として、β型ゼオライトからなり、鉄イオンで3質量%イオン交換された、平均粒子径が0.7μmの微粒ゼオライト粒子(1次粒子)が凝集した、平均粒子径4μmの凝集体(以下、ゼオライト(5)という)を用意した。なお、ゼオライト(3)の最大頻度は、13%であり、ゼオライト(5)の最大頻度は、9%である。表1に、ゼオライト粒子の物性を示す。
【0118】
表2に示すように、粗粒ゼオライト粒子としてゼオライト(3)2100g、微粒ゼオライト粒子としてゼオライト(5)1400gを用いた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。
【0119】
(実施例3)
表2に示すように、粗粒ゼオライト粒子としてゼオライト(1)3150g、微粒ゼオライト粒子としてゼオライト(2)350gを用いた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。
【0120】
(実施例4)
表2に示すように、粗粒ゼオライト粒子としてゼオライト(1)1400g、微粒ゼオライト粒子としてゼオライト(2)2100gを用いた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。
【0121】
(実施例5)
表2に示すように、無機結合材として、モンモリロナイトを950g用いた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。
【0122】
(実施例6)
表2に示すように、無機結合材として、モンモリロナイトを300g用いた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。実施例2〜6の曲げ強度の測定結果、粗粒ゼオライト粒子の体積比率(体積%)、及び、ゼオライト材料全体の体積に対する、無機結合材の体積比率(体積%)を、表3に示す。
【0123】
(比較例1)
表1及び表4に示すように、β型ゼオライトからなり、鉄イオンで3質量%イオン交換された、平均粒子径が0.7μmの微粒ゼオライト粒子の粉末(ゼオライト(2))2100gと、ZSM−5型ゼオライトからなり、鉄イオンで3質量%イオン交換された、平均粒子径が0.5μmの微粒ゼオライト粒子(以下、ゼオライト(4)という)の粉末1400gを用いた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。測定結果を表5に示す。比較例1においては、二種類の微粒のゼオライト粒子によって、ゼオライト構造体を作製した。なお、ゼオライト(4)の最大頻度は、18%である。
【0124】
【表4】

【0125】
【表5】

【0126】
(比較例2)
表4に示すように、ゼオライト(1)3500gのみを用いた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。比較例2においては、粗粒のゼオライト粒子のみによって、ゼオライト構造体を作製した。
【0127】
(比較例3)
表4に示すように、ゼオライト(2)3500gのみを用いた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。比較例3においては、微粒のゼオライト粒子一種類のみによって、ゼオライト構造体を作製した。
【0128】
(比較例4)
表4に示すように、粗粒ゼオライト粒子としてゼオライト(1)1050g、微粒ゼオライト粒子としてゼオライト(2)2450gを用いた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。比較例4においては、ゼオライト粒子全体の体積に対する、粗粒ゼオライト粒子の体積の比率が、30体積%である。
【0129】
(比較例5)
表4に示すように、ゼオライト(2)1400g、ゼオライト(5)2100gを用いた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。比較例5においては、微粒のゼオライト粒子と、凝集した微粒のゼオライト粒子とを用いて、ゼオライト構造体を作製した。
【0130】
(比較例6)
表4に示すように、無機結合材として、モンモリロナイトを180g用いた以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を製造し、曲げ強度を測定した。比較例2〜6の曲げ強度の測定結果、粗粒ゼオライト粒子の体積比率(体積%)、及び、ゼオライト材料全体の体積に対する、無機結合材の体積比率(体積%)を、表5に示す。なお、比較例2及び3については、ゼオライト粒子を一種類しか用いていないため、粗粒ゼオライト粒子の体積比率(%)を表5に記載していないが、比較例2は、粗粒に相当する粒子のみを用いているため、粗粒ゼオライト粒子の体積比率としては100体積%に相当し、一方、比較例3は、微粒に相当する粒子のみを用いているため、粗粒ゼオライト粒子の体積比率としては0体積%に相当する。
【0131】
表3及び表5より、実施例1〜6のゼオライト構造体は、曲げ強度が高いことがわかる。特に、粗粒微粒ゼオライト粒子の平均粒子径が、微粒ゼオライト粒子の平均粒子径よりも3倍以上の大きさの実施例2において、曲げ強度が高くなるのに対し、比較例1のように、1.4倍の大きさの場合には、十分に曲げ強度が向上していないことがわかる。
【0132】
また、ゼオライト粒子全体の体積に対する、粗粒ゼオライト粒子の体積の比率が、60体積%の実施例2、及び90体積%の実施例3において、曲げ強度が高くなるのに対し、比較例2のように、粗粒ゼオライト粒子のみの場合や、比較例3のように、微粒ゼオライト粒子のみの場合には、十分に曲げ強度が向上していないことがわかる。また、ゼオライト粒子全体の体積に対する、粗粒ゼオライト粒子の体積の比率が、30体積%の比較例4についても、十分に曲げ強度が向上していないことがわかる。
【0133】
また、ゼオライト粒子の凝集体が、粗粒ゼオライト粒子となる比較例5についても、十分に曲げ強度が向上していないことがわかる。また、比較例6のように、無機結合材が少なすぎると、曲げ強度が低下する。実施例5のように、ゼオライト材料全体の体積に対する、無機結合材の体積の比率が、5体積%以上であると、無機結合材の欠乏による曲げ強度の低下を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明のゼオライト構造体は、吸着材、触媒、触媒担体、ガス分離膜、或いはイオン交換体に使用することができ、特に、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業用定置エンジン、燃焼機器等から排出される排ガスに含有されるNO等を浄化するために好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0135】
1:隔壁、2:セル、4:外周壁、11:一方の端部、12:他方の端部、31:ゼオライト粉末、32:ゼオライト粒子、32a:微粒ゼオライト粒子、32b:粗粒ゼオライト粒子、33:無機結合材、100,100a:ゼオライト構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のゼオライト粒子と、前記ゼオライト粒子の相互間を結合させる無機結合材とを含有するゼオライト材料からなり、
前記複数のゼオライト粒子は、平均粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子と、前記微粒ゼオライト粒子の平均粒子径よりも平均粒子径が3倍以上の大きさで、且つ一次粒子の凝集体ではない粗粒ゼオライト粒子からなるとともに、前記複数のゼオライト粒子全体の体積に対する、前記粗粒ゼオライト粒子の体積の比率が、40〜90体積%のものであり、
前記ゼオライト材料は、前記ゼオライト材料全体の体積に対する、前記無機結合材の体積の比率が、5〜50体積%であり、且つ、
前記複数のゼオライト粒子と前記無機結合材とを含有するゼオライト原料を押出成形して形成されたゼオライト構造体。
【請求項2】
前記複数のゼオライト粒子のうちの少なくとも一部のゼオライト粒子が、ZSM−5型ゼオライト、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、及びフェリエライト型ゼオライトからなる群より選択される少なくとも一種のゼオライトからなる粒子である請求項1に記載のゼオライト構造体。
【請求項3】
前記複数のゼオライト粒子のうちの少なくとも一部のゼオライト粒子が、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、マンガン、コバルト、銀、パラジウム、インジウム、セリウム、ガリウム、チタン、及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のイオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子である請求項1又は2に記載のゼオライト構造体。
【請求項4】
前記微粒ゼオライト粒子と前記粗粒ゼオライト粒子とが、それぞれ異なる種類の前記金属のイオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子である請求項3に記載のゼオライト構造体。
【請求項5】
前記微粒ゼオライト粒子が、鉄、チタン、及びコバルトからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子であり、且つ、前記粗粒ゼオライト粒子が、銅、マンガン、銀、及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属のイオンによりイオン交換されたゼオライトからなる粒子である請求項4に記載のゼオライト構造体。
【請求項6】
前記無機結合材が、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、セリアゾル、ベーマイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、塩基性塩化アルミニウム、水硬性アルミナ、シリコン樹脂、及び水ガラスからなる群より選択される少なくとも一種を含むものである請求項1〜5のいずれか一項に記載のゼオライト構造体。
【請求項7】
流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えたハニカム形状に成形されたものである請求項1〜6のいずれか一項に記載のゼオライト構造体。
【請求項8】
平均粒子径が小さな微粒ゼオライト粒子及び前記微粒ゼオライト粒子よりも平均粒子径が3倍以上の大きさの粗粒ゼオライト粒子を混合したゼオライト粉末と、前記ゼオライト粉末を構成するゼオライト粒子を結合させる無機結合材と、有機バインダと、を混合して、ゼオライト原料を調製する工程と、得られた前記ゼオライト原料を押出成形してゼオライト成形体を形成する工程と、得られた前記ゼオライト成形体を焼成して、ゼオライト構造体を作製する工程と、を備え、前記ゼオライト原料を調製する工程において、前記ゼオライト粉末として、前記ゼオライト粉末全体の体積に対して、前記粗粒ゼオライト粒子を40〜90体積%含有するゼオライト粉末を用い、且つ、前記無機結合材を、前記ゼオライト粉末と前記無機結合材との固形分換算の合計体積100体積%に対して、5〜50体積%加えて、前記ゼオライト原料を調製するゼオライト構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−201722(P2011−201722A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70090(P2010−70090)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】