説明

ゼルンボン誘導体およびその製造方法

【課題】 多用途なキラル源として利用できる新規なゼルンボン誘導体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 ゼルンボンを、酢酸エチルの存在下で、m−クロロ過安息香酸でエポキシ化することで、ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボンが得られ、このラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボンをLiAlHの存在下で反応させ、ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボールが得られることを見出した。また、得られた6,7−モノエポキシゼルンボールをリパーゼの存在下、酢酸イソプロペニルとエステル転移反応させることで、光学活性を有する(1R)−6,7−モノエポキシゼルンボールとその酢酸エステル(1S)とが得られることを見出した。さらに、上記光学活性を有する(1R)−6,7−モノエポキシゼルンボールを酸化することで、新規な光学活性を有する6,7−モノエポキシゼルンボンが得られることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品などの製造中間体として有用なゼルンボン誘導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゼルンボン誘導体の利用価値が高まってきている。ゼルンボンは、下記式(1)で表される11員環の二重共役ケトンを含むトリエン骨格を有する化合物である。
【化16】

ゼルンボンは、ハナ生姜(Zingiber zerumbet Smith)の根茎から水蒸気蒸留により、乾燥重量あたり0.3〜0.4%の収率で得ることができる(非特許文献1参照)。ゼルンボンはその反応性(同文献)が注目され始めただけでなく、ゼルンボンそのものの生理活性(例えば、非特許文献2参照)やその誘導体の興味深い生理活性(例えば、非特許文献3参照)、例えば、情報伝達阻害剤(例えば、特許文献1参照)、動脈硬化抑制剤としての活性が明らかとなっている。
【0003】
ゼルンボンを出発物質としてさらにユニークな骨格へ誘導することは、新たな反応や生理活性物質、機能性物質の発見につながる可能性が増すばかりでなく、工業的な利用へと展開する。特に新規光学活性体は、キラルビルディングブロックとして医薬、香料、液晶、電子材料など様々な分野への応用が期待できる。
【非特許文献1】J. Org. Chem., 1999, 64, p.2667-2672
【非特許文献2】Biosci.Biotechnol.Biochem., 1999, 63(10), p.1811-1812
【非特許文献3】Biosci. Biotechnol. Biochem., 2001, 65, p.2193-2199
【特許文献1】特開特願2005−206520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、多用途なキラル源として利用できる新規なゼルンボン誘導体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、ゼルンボンを、酢酸エチルの存在下で、m−クロロ過安息香酸でエポキシ化することで、ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボンが得られ、このラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボンをLiAlHの存在下で反応させ、ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボールが得られることを見出した。また、得られた6,7−モノエポキシゼルンボールをリパーゼの存在下、酢酸イソプロペニルとエステル転移反応させることで、光学活性を有する(1R)−6,7−モノエポキシゼルンボールとその酢酸エステル(1S)とが得られることを見出した。さらに、上記光学活性を有する(1R)−6,7−モノエポキシゼルンボールを酸化することで、新規な光学活性を有する6,7−モノエポキシゼルンボンが得られることを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、ゼルンボンをエポキシ化することで、ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボンを得る。このラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボンからラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボールを得る。ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボールをリパーゼの存在下でエステル転移反応することで、新規光学活性体を見出した。この新規光学活性体は、キラルビルディングブロックとして医薬、香料、液晶、電子材料など様々な分野への応用が期待できる、
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明を詳細に説明する。
[反応の概説]
本発明では、下記スキーム1に示すように、ゼルンボン(1)をエポキシ化して、ラセミ体6,7−エポキシゼルンボン(2)(式中、「racemic−(2)」)を得る。式中、「〜」は、RまたはSいずれかの立体配位の結合を示す。次に、得られた6,7−エポキシゼルンボンを水素化アルミニウムリチウム(LiAlH、以下「LAH」ということもある)存在下で反応させると、ジアステレオ混合物である、ラセミ体−エリトロ−6,7−モノエポキシゼルンボール(3)(以下、「rac−e−(3)」ということもある)と、ラセミ体−トレオ−6,7−モノエポキシゼルンボール(4)(以下、「rac−t−(4)」ということもある)とが得られる。それぞれの収率は、ラセミ体−エリトロ−6,7−モノエポキシゼルンボール(3)が80%、ラセミ体−トレオ−6,7−モノエポキシゼルンボール(4)が20%である。

【化17】

【0008】
原料となるゼルンボン(1)は、花ショウガの葉、根、茎、地下茎又は全草から抽出することができる。抽出のための溶媒には特に制限はないが、水、メタノール、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール等を用いることができる。好ましくは、野生花ショウガの根塊を直接に水蒸気蒸留する。この蒸留液中にゼルンボンは粗製結晶として析出する。この粗製結晶を有機溶媒、例えばヘキサン、で再結晶することにより、精製ゼルンボンが得られる。
【0009】
ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボン(2)は、出発物質であるゼルンボン(1)を、室温、酢酸エチル(AcOEt)の存在下で、m−クロロ過安息香酸(m−chloroperbenzoic acid 以下、「MCPBA」という)でエポキシ化することで得られる。収率は、90%である。反応時間は、60〜100分程度である。
【0010】
次に、得られたラセミ体−6,7−モノエポキシゼルンボン(2)を、−10℃で、通常非極性から中極性(例えば、無水ジエチルエーテル)中で、LiAlH(LAH)を用いて還元すると、エリトロ−6,7−モノエポキシゼルンボール(3)と、トレオ−6,7−モノエポキシゼルンボール(4)とのラセミ体が得られる。反応時間は、60〜100分程度である。
【0011】
得られた6,7−モノエポキシゼルンボール(3)、(4)のラセミ体は、溶媒抽出、クロマトグラフィーなどの公知の方法で、分離、精製し、エリトロ体とトレオ体とを得る。
【0012】
[モノエポキシゼルンボールのエステル交換反応]
次に、上記得られたエリトロ体とトレオ体の6,7−モノエポキシゼルンボール(3)、(4)を用いた、光学活性6,7−モノエポキシゼルンボール(5)、(6)およびその酢酸エステル(7)、(8)の製造方法について説明する。
【0013】
下記スキーム2で表されるように、エリトロ体の6,7−モノエポキシゼルンボール(3)またはトレオ体の6,7−モノエポキシゼルンボール(4)を、リパーゼ触媒下で速度論的エステル転移反応を行う。
【化18】

【0014】
ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボール(4)の反応は、ガスクロマトグラフィを用いて行った(装置:GC353(GLサイエンス社製)、キャピラリーカラム:DB−5、注入温度:200℃、検出温度:200℃、カラム温度:180℃、カラム圧力:80kg/cm、6,7−モノエポキシゼルンボール(4)保持時間:17分、エステル体(7)保持時間:22分)。キラリティ(対掌性)は、ガスクロマトグラフィを用いて行った(装置:GC353(GLサイエンス社製)、キャピラリーカラム:CP−CD(CP−cyclodextrin−B−236−M−19)、注入温度:160℃、検出温度:160℃、カラム温度:140℃、カラム圧力:160kg/cm、(−)−6,7−モノエポキシゼルンボール(5):66分、(+)−6,7−モノエポキシゼルンボール(5):69分、(+)−1−アセチル−6,7−モノエポキシゼルンボール(7):67分、(−)−1−アセチル−6,7−モノエポキシゼルンボール(7):70分)。なお、以下の説明において、(+)−6,7−モノエポキシゼルンボール(5)を「(+)−(5)」と、(−)−6,7−モノエポキシゼルンボール(5)を「(−)−(5)」と、(−)−1−アセチル−6,7−モノエポキシゼルンボール(7)を「(−)−(7)」と、(+)−1−アセチル−6,7−モノエポキシゼルンボール(7)を「(+)−(7)」ということもある。
【0015】
ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボール(3)の反応は、ガスクロマトグラフィを用いて行った(装置:GC353(GLサイエンス社製)、キャピラリーカラム:DB−5、注入温度:200℃、検出温度:200℃、カラム温度:180℃、カラム圧力:80kg/cm、6,7−モノエポキシゼルンボール(3)保持時間:15分、エステル体(8)保持時間:23分)。エステル体(8)のキラリティ(対掌性)は、直接チェックし、(6)は、水酸基を酸化した後に、ガスクロマトグラフィを用いて行った(装置:GC353(GLサイエンス社製)、キャピラリーカラム:CP−CD(CP−cyclodextrin−B−236−M−19)、注入温度:230℃、検出温度:230℃、カラム温度:150℃、カラム圧力:100kg/cm、(−)−6,7−モノエポキシゼルンボン(10):63分、(+)−6,7−モノエポキシゼルンボン(11):68分、(+)−1−アセチル−6,7−モノエポキシゼルンボール(8):66分、(−)−1−アセチル−6,7−モノエポキシゼルンボール(8):68分)。
【0016】
表1は、18種類のリパーゼを用いて、テトラヒドロフラン(THF)中で酢酸イソプロペニルを用いて、6,7−モノエポキシゼルンボール(4)を、エステル転移反応をさせた結果を示す表である。
【表1】

【0017】
表1から、いくつかのリパーゼ、特にAlcaligenes
sp.由来のリパーゼが、対応する酢酸エステルへの変換率が高いことがわかる。
【0018】
また、Amano AK(天野製薬製)とTHFとの組合せが、最大のE値19(enantiomeric ratio(エナンチオ率))を与えることがわかる。しかし、Meito QLM(名糖産業製)は、優れたE値を与え、高い光学活性(+)−6,7−モノエポキシゼルンボール(5)のエナンチオマー過剰率と、反応率とが得られることがわかる。
【0019】
次に、Meito QLM(名糖産業製)を用いて、使用溶媒の検討を行った。図1は、Meito QLMを用いて、6種類の溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド(DMF:N,N−dimethylformamide)、ジイソプロピルエーテル(DIPE)、THF、酢酸エチル(EtOAc)、トルエン、ヘキサン)中で、(+)−6,7−モノエポキシゼルンボール(5)の生成率を評価した図である。図1において、横軸は、反応時間(h:時間)を、縦軸はラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボール(4)のエステル転移反応の変換率(conv.)(%)を示す。
【0020】
図1から、反応は、極性溶媒のDMFを用いた場合が最も遅く、非極性溶媒のヘキサンを用いた場合が最も早いことがわかる。しかし、両反応のエナンチオ選択性は、エステル転移反応中で減少している。リパーゼ、Meito QLMとの組み合わせにおいて、最もE値が高くなったのは、中極性溶媒のTHFである。
【0021】
表2は、種々の温度(10、20〜23、35、45、55℃)において、THF中で、Meito QLMと酢酸イソプロペニルを用いて、ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボール(4)をエステル転移反応させた結果を示す表である。
【表2】

【0022】
表2から、10℃〜45℃、好ましくは20〜35℃の間で、エステル転移反応のエナンチオ選択性が優れることがわかる。
【0023】
スキーム3に示すようにして、重原子誘導体の異常分散により、(+)−6,7モノエポキシセルンボール(5)の絶対配置を決定する。このために、(+)−6,7モノエポキシセルンボール(5)は、それの4−クロロ−3,5−ジニトロ安息香酸エステル(9)に変換した。単斜晶結晶の(9)は、ジエチルエーテルで再結晶し、X−線解析を行った。4−クロロ−3,5−ジニトロ安息香酸エステル化物(9)の絶対配置は、(1R,6S,7S)である。Flack パラメータは、0.00である。
【化19】

【0024】
表3は、18種類のリパーゼを用いて、テトラヒドロフラン(THF)中で酢酸イソプロペニルを用いて、6,7−モノエポキシゼルンボール(3)をエステル転移反応をさせた結果を示す表である。
【表3】

【0025】
表2から、約半数のいくつかのリパーゼが、対応する酢酸エステルへの変換率が高いことがわかる。
【0026】
また、Meito SL(名糖産業製)とTHFとの組合わせが、最大のE値205(enantiomeric ratio(エナンチオ率))を与えることがわかる。しかし、Meito QLM(名糖産業製)あるいはMeito TL(名糖産業製)は、優れたE値と、光学活性(+)−6,7−モノエポキシゼルンボール(6)のエナンチオマー過剰率が高い、反応速度とが得られることがわかる。
【0027】
ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボール(4)に比べ、(+)−6,7−モノエポキシゼルンボール(3)のエステル転移反応の反応性と立体選択性は非常に高い。驚くべきことに、キラル中心である水酸基から全く離れた位置にあるエポキシの位置の相違がリパーゼ触媒によるエステル転移反応の反応性に影響を与えていると考えられる。さらに、Meito MYを用いたラセミ体−6,7−モノエポキシゼルンボール(3)のエステル転移反応は、他のリパーゼを用いた場合に比べ、全く逆の位置選択性を示す。
【0028】
リパーゼ触媒によるエステル転移反応を用いたラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボール(4)の立体選択性は、対応する水酸基の酸化により確認された。スキーム4に示すように、(+)−(1R,6S,7S)−6,7−モノエポキシゼルンボール(5)は、デス−マーチン(Dess−Martin)試薬により酸化され、収率78%で(−)−(6S,7S)−6,7−モノエポキシゼルンボン(10)が得られる。一方、(−)−6,7−モノエポキシセランボール(6)をDess−Martin試薬で酸化すると、収率72%で(+)−6,7−モノエポキシゼルンボン(11)が得られる。このことから、(−)−6,7−モノエポキシセランボール(6)の絶対配置は、(1R,6R,7R)の形状であることが決定される。
【化20】

【0029】
リパーゼ触媒によるエステル転移反応を用いたモノエポキシドの立体選択性は、とりわけ一連のMeito QLMによる立体選択性の評価から、キラル炭素近辺の障害を認識することによることが明らかにされている。モノエポキシドの水酸基の障害がリパーゼにより認識されるので、S選択性が促進される。一方、水酸基の両側のエポキシドの存在により2−メチル基の障害効果が打ち消されるので、キラル中心である水酸基から離れたトリエポキシドの9,9−gem メチル基は、リパーゼにより認識される。
【0030】
光学活性物質である(+)−6,7−モノエポキシゼルンボン(11)と(−)−6,7−モノエポキシゼルンボール(10)は、ラセミ体モノエポキシセランボールのリパーゼによる立体選択的なエステル転移反応により合成される光学活性モノエポキシセルンボール(5)、(6)の酸化により得られる。酸化は、例えばDess−Martin Periodinaneを用いて行う。リパーゼは、リパーゼ触媒によるエステル転移反応の立体選択性に影響を与える、キラル中心から離れたエポキシの位置とキラル中心の近接するエポキシ基の相違を認識することを見出した。
【実施例】
【0031】
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0032】
[一般的な方法]
特記しない限り、NMR(核磁気共鳴)スペクトルは、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を用い、CDCl中でプロトンについて270MHzと13Cについて68MHzで測定した。化学シフトは、TMSからのppmで記録した。マススペクトルは70eVで記録し、高分解能質量分析(HRMS)は、直接注入により測定した。X線解析とCCDCリファレンスナンバーは、物質のデータに記載した。化学薬品は、市販されている試薬を、さらに精製することなく用いた。
【0033】
[6,7−エポキシゼルンボン(2)の還元]
窒素雰囲気下で、無水ジエチルエーテル(以下、「EtO」という)(80mL)中のラセミ体6,7−エポキシゼルンボン(2)に、−10℃で無水EtO(20mL)にLiAlH(490mg、12.8mmol)を混合したものを、滴下し、氷塩水浴中で80分攪拌した。反応の進行は、薄層クロマトグラフィー(TLC)(展開液:ヘキサン/酢酸エチル(体積比)=4:1)で確認した。この液に、水(50mL)と硫酸(10mL)とを加え、EtOをロータリーエバポレーターで留去した後、酢酸エチルを用いて抽出した(3回×30mL)。有機溶液は、飽和食塩水で洗浄し(3回×30mL)、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、ロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣を、溶離液としてクロロホルム・エーテル混液(30:1(体積比))を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、(1RS,6RS,7RS)−エリトロ−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン−1−オール,(rac−e−(3))と(1RS,6SR,7SR)−トレオ−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン−1−オール,(rac−t−(4))とをそれぞれ収率51%(1.5g)と23%(0.69g)とで得た。
【0034】
(1RS,6RS,7RS)−エリトロ−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン−1−オール(3) (rac−e−(3))
融点:100.5−101.5℃.
IR(KBr):3277,2958,1296cm−1
H−NMR(CDCl):δ 1.05(s,3H,CH at C9),1.19(s,3H,CH at C6),1.19(s,3H,CH at C9),1.32−1.63(ddd,2H,J=14.2,9.9 and 9.9Hz,CH at C8),1.72(s,3H,CH at C2),2.02−2.06(m,1H,CH at C5),2.08−2.15(m, 1H,CH at C4),2.25−2.30(m, 1H,CH at C4),2.48(d,1H,J=9.9Hz,CH at C7),4.72(d,1H,J=6.9Hz,CH at C1),5.38(d,1H,J=15.8Hz,CH at C10),5.48(dd,1H,J=9.9 and 8.3Hz,CH at C3),5.75(dd,1H,J=16.2 and 6.9Hz,CH at C11),
13C−NMR:δ 12.9(CH at C6),16.1(CH at C9),22.6(C4),22.9(CH at C9),30.5(CH at C6),35.0(C9),37.8(C5),40.3(C8),61.4(C6),63.4(C7),78.0(C1),124.8(C3),132.0(C11),139.3(C10),143.1(C2).
HRMS:m/z 計算値(C1524);236.1776,実測地;236.1773.
【0035】
(1RS,6SR,7SR)−トレオ−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−−シクロウンデカジエン−1−オール(4) (rac−t−(4))
融点:99.0〜99.5℃.
IR(KBr):3461,2956,1447cm−1
H−NMR: δ 1.08(s,3H,CH,at C9),1.12−1.16(m,1H,CH at C5),1.18(s,3H,CH at C9),1.19(s,3H,CH at C6),1.41−1.63(dd,2H,J=14.2 and 8.9Hz,2H at C8),1.72(s,3H,CH at C2),2.06−2.13(m,1H at C5),2.16−2.24(m,2H,H at C4),2.52(d,1H,J=8.9Hz,H at C7),4.66(s,1H,H at C1),5.43(t,1H,J=7.9Hz H at C3),5.80(d,1H,J=1.3Hz,H at C11),5.81(s,H,H at C10),
13C−NMR: δ 13.7(CH at C2),16.4(CH at C9),23.0(C4),25.5(CH at C6),29.5(CH at C9),34.2(C9),38.3(C5),42.1(C8),61.3(C6),62.8(C7),75.8(C1),124.3(C3),132.1(C11),138.6(C10),141.0(C2).
HRMS:m/z 計算値(C1524);236.1776,実測地;236.1763.
【0036】
[rac−t−(4)のリパーゼ触媒によるエステル交換反応の一般的な製法]
THF(50mL:水含有量<1.0%v/v)に、rac−t−(4)(1.0g、4.23mmol)、酢酸イソプロペニル(2.0ml、500mmol)、リパーゼ(乾燥Meit QL、1.00g)を加えた混合物を、35℃で480時間攪拌した。反応は、ガスクロマトグラフィ(装置:GC353(GLサイエンス社製)、キャピラリーカラム:DB−5、注入温度:200℃、検出温度:200℃、カラム温度:180℃、キャリアガス:ヘリウム(He)、検出器:FID)を用いて追跡した。この条件下では、rac−t−(4)とこれに相当するエステル化物の保持時間は、それぞれ17分と22分であった。反応混合物はろ過し、濾液を濃縮する。濃縮物をシリカゲル上でクロマトグラフィーに付し、ヘキサン−酢酸エチル(4:1)で溶出して、(+)−(5)と、(−)−(7)とをそれぞれ不斉収率99.6%と28%で得た。(+)−(4)と、(−)−(4)の確認は、ガスクロマトグラフィを用いて行った(装置:GC353(GLサイエンス社製、キャピラリーカラム:CP−CD、注入温度:160℃、検出温度:160℃、カラム温度:140℃、キャリアガス:He、検出器:FID)。これらの状況下における(−)−(5)、(+)−(5)、(+)−(7)、(−)−(7)の保持時間は、それぞれ66、69、67、70分であった。
【0037】
(1R,6S,7S)−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン−1−オール,(+)−6,7−モノエポキシゼルンボール(5).
融点:94〜96.5℃
[α](23.5℃)=+82.4(c 0.100,CHCl),99.6% ee
【0038】
(1S,6R,7R)−1−アセトキシル−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン(5),(−)−(5)
性状:無色、油状
[α](23.5℃)=−31.4(c −1.02,CHCl),33.5% ee
IR(NaCl film):2960,1745,1450cm−1
H−NMR(CDCl): δ 1.08(s,3H,CH at C9),1.06−1.28(m,1H,H at C5),1.17(s,3H,CH at C9),1.21(s,3H,CH at C6),1.35−1.67(d,2H,J=8.9Hz,CH at C8),1.70(s,3H,CH at C2),2.04−2.18(m,1H,CH at C5),2.10(s,3H,CH at CHCO),2.20−2.34(m,2H,CH at C4),2.57(d,1H,J=8.9Hz,CH at C7),5.35(t,1H,J=7.6Hz,CH at C3),5.52(s,1H,CH at C1),5.79(d,1H,J=1.3Hz,CH at C11),5.80(s,1H,CH at C10),
13C−NMR: δ 13.5(CH at C2),16.4(CH at C9),21.1(CHCO),23.4(C4),25.7(CH at C6),29.2(CH at C9),34.4(C9),38.3(C5),42.5(C8),61.3(C6),62.6(C7),77.3(C1),126.7(C3),128.4(C11),137.5(C10),141.2(C2),170.2(CO).
HRMS:m/z 計算値(C1726);278.1882,実測地;278.1877.
【0039】
[rac−e−(3)のリパーゼ触媒によるエステル交換反応の一般的な製法]
rac−e−(3)のリパーゼ触媒によるエステル交換反応の一般的な製法は、上記rac−t−4のリパーゼ触媒によるエステル交換反応の一般的な製法と同様である。
【0040】
(1R,6R,7R)−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン−1−オール(6),(−)−6,7−モノエポキシゼルンボール(6).
融点: 129.5−131.0℃.
[α](23.5℃)=−43.1(c 1.01,CHCl),90.0% ee
【0041】
(1S,6S,7S)−1−アセトキシル−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン(8),(+)−8.
融点:78〜81℃.
[α](23.5℃)=+5.13(c 1.01,CHCl),86.9% ee
IR(KBr):2962,1730,1448cm−1
H−NMR CDCl): δ 1.06(s,3H,CH at C9),1.13−1.29(m,1H,H at C5),1.20(s,3H,CH at C9),1.20(s,3H,CH at C6),1.35−1.67(dd,2H,J=14.2 and 9.9 Hz,CH at C8),1.70(s,3H,CH at C2),1.85−2.09(m,1H,CH at C5),2.09(s,3H,CH at CHCO),2.21−2.32(m,2H,CH at C4),2.57(d,1H,J=9.6Hz,CH at C7),5.44(d,1H,J=16.2Hz,CH at C10),5.54(dd,1H,CH at C3),5.55(d,1H,J=6.9Hz,CH at C1),5.72(dd,1H,J=16.2 and 6.6Hz CH at C11),
13C−NMR: δ 13.7(CH at C2),16.1(CH at C9),21.1(CHCO),22.9(C4),22.9(CH at C6),30.4(CH at C9),35.3(C9),38.0(C5),40.4(C8),61.3(C6),63.2(C7),79.1(C1),127.4(C3),128.5(C11),140.4(C2),140.8(C10),170.4(CO).
HRMS:m/z 計算値(C1726);278.1882,実測地;278.1872.
【0042】
[(1R,6S,7S)−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチルシクロウンデカ−2,10−ジエチル−4−クロロ−3,5−ジニトロ安息香酸エステル(9)の製造]
窒素雰囲気下、(+)−(4)(30.7mg、0.13mmol)と4−ジメチルアミノピリジン(3.8mg、0.03mmol)、4−クロロ−3,5−ジニトロ安息香酸(33.2mg、0.14mmol)と、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(39.1mg、0.19mmol)の乾燥ジクロロメタン3mL中の混合液を0℃で5分間攪拌し、その後室温で3時間攪拌した。次に、水(20mL)を溶液に加え、20分間攪拌して反応をさせた。析出物を濾過して除去し、濾液をジクロロメタンで抽出した(2回×20mL)。有機溶液は、0.5M塩酸と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、ロータリーエバポレーターで濃縮し、黄色固体残渣を得た。残渣を、溶離液としてヘキサン・酢酸エチル混液(4:1(体積比))を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、収率6.8%で、(1R,6S,7S)−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチルシクロウンデカ−2,10−ジエチル−4−クロロ−3,5−ジニトロ安息香酸エステル(9)を得た。
【0043】
[(6S,7S)−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン−1−オン(10),(以下、「(−)−(10)」ということもある)の製造]
窒素雰囲気下で、デスマーチン パーヨージナン(Dess−Martin periodinane)(92.7mg、0.22mmol)を室温でジクロロメタン(3mL)に加え、混合物が完全に溶解するまで攪拌した。化合物(+)−(4)(51mg、0.22mmol)をジクロロメタン(1.5mL)に溶解したものを、Dess−Martin溶液に滴下し、同じ温度で1時間攪拌した。反応の進行は、薄層クロマトグラフィー(TLC)(展開液:ヘキサン/酢酸エチル(体積比)=4:1)で確認した。この溶液に、ジクロロメタン(30mL)と1M水酸化ナトリウム水溶液(30mL)とを加え、水層をジクロロメタンを用いて抽出した(3×30mL)。有機溶液は、飽和食塩水で洗浄し(3回×30mL)、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、ロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣を、溶離液としてヘキサン・酢酸エチル混液(4:1(体積比))を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、(−)−(6S,7S)−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン−1−オン(10)を収率72%で得た。
【0044】
融点:119.0〜122.0℃
[α](23.5℃)=−9.7(c 1.000,CHCl),99.6%ee
IR(KBr)cm−1:1657,1263
H−NMR: δ 1.10(s,3H,CH at C),1.22(s,3H,CH at C6),1.31(s,3H,CH at C9),1.27−1.36(m,1H,H at C5),1.45(dd,1H,J=11.3 and 14.0Hz,CH at C8),1.85(s,3H,CH at C7),1.93(d,1H,J=14.0Hz,CH at C8),2.26−2.43(m,3H,CH at C4 and CH at C5),2.72(dd,1H,J=1.4 and 11.3 Hz, H at C7),6.07−6.12(m,3H,3H at C2,C10 and C11);
13C−NMR: δ 12.3(CH at C2),15.8(CH at C6),23.9(CH at C9),24.8(C4),30.0(CH at C9),36.1(C9),38.2(C5),42.8(C8),61.2(C6),62.8(C7),128.6(C11),139.3(C2),147.6(C3),159.3(C10),202.3(C1).
元素分析:実測値:C=76.96、H=9.41%、計算値(C1522として計算):C=76.88、H=9.46%.
【0045】
[(6R,7R)−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン−1−オン(11),(+)−(11)の製造]
(6R,7R)−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン−1−オン(11)は、上記(6S,7S)−6,7−エポキシ−2,6,9,9−テトラメチル−2,10−シクロウンデカジエン−1−オン(10),(−)−(10)と同等にして合成した。
[α](23.5℃)=+7.8(c 1.000,CHCl),90.0%ee

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、Meito QLMを用いて、6種類の溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド(DMF:N,N−dimethylformamide)、ジイソプロピルエーテル(DIPE)、THF、酢酸エチル(EtOAc)、トルエン、ヘキサン)中で、(+)−6,7−モノエポキシゼルンボール(6)の生成率を評価した図である。。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(3)
【化1】

または、下記化学式(4)
【化2】

で表される、ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボール。
【請求項2】
下記化学式(1)で表されるゼルンボンを、エポキシ化する工程と、
【化3】

下記化学式(2)で表される6,7−モノエポキシゼルンボンのラセミ体を得る工程と、
【化4】

【請求項3】
上記6,7−モノエポキシゼルンボンを、LiAlHの存在下で反応させ、下記化学式(3)、(4)に示す、6,7−モノエポキシゼルンボールを得る工程と、を有する、ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボールの製造方法。
【化5】

【化6】

【請求項4】
下記化学式(2)で表される6,7−モノエポキシゼルンボンのラセミ体LiAlHの存在下で反応させ、下記化学式(3)、(4)に示す、ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボールを得る工程と、を有する、ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボールの製造方法。
【化7】

【化8】

【化9】

【請求項5】
下記化学式(5)、または、下記化学式(6)で表される光学活性6,7−モノエポキシゼルンボールおよびそのエステル。
【化10】


【化11】

【請求項6】
前記エステルが下記化学式(7)、(8)で表される、請求項5に記載のエステル。
【化12】

【化13】

【請求項7】
ラセミ体6,7−モノエポキシゼルンボールをリパーゼの存在下、溶媒中で、酢酸エステルとのトランスエステル化反応をさせ、光学活性6,7−モノエポキシゼルンボールおよびそのエステルを得る、請求項5または6に記載の光学活性6,7−モノエポキシゼルンボールおよびそのエステルの製造方法。
【請求項8】
下記化学式で表される光学活性6,7−モノエポキシゼルンボン。
【化14】

【化15】




【図1】
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【公開番号】特開2010−13370(P2010−13370A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172671(P2008−172671)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】