説明

ソマトスタチンアゴニストによるTGF−βの過剰な発現の抑制方法

【課題】TGF−βの過剰な発現を抑制することによって、組織の細胞外マトリックス(例えば、コラーゲン)の異常な蓄積状態である線維症を治療する薬剤組成物の提供。
【解決手段】TGF−βの過剰な発現を抑制する化合物として、治療上有効な量のソマトスタチン、もしくは下記に代表される群から選択されるソマトスタチンアゴニストまたはその製薬上許容できる塩からなる薬剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソマトスタチンアゴニストによるTGF−βの過剰な発現の抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
組織は、細胞外マトリックスに付着する器質化した細胞群からなり、血管のネットワークで囲まれる。線維症は、様々な組織の構造や機能を変える外傷または炎症後のコラーゲンマトリックスの異常な蓄積である。部位にかかわりなく、線維症の主な病理は、その部位での正常な組織に置き換わるコラーゲンマトリックスの過剰な沈着を伴う。腎臓、肝臓、肺、心臓、骨または骨髄、および皮膚における進行性の線維症は、死及び苦痛の主要な原因である。例えば、非特許文献1を参照。
【0003】
線維症の発達は、数多くの組織及び線維性の病気(fibrotic disease)の状態におけるTGF−βの過剰発現及び過剰生産と関連があった(非特許文献2を参照)。
【非特許文献1】Border,et al.,New Engl. J. Med. 331:1286(1994)
【非特許文献2】Border et al., N. Engl. J. Med. 1994, pp. 1286−92
【発明の開示】
【0004】
本発明は、患者(例えば、ヒト等の哺乳動物)の線維症の処置方法に関するものである。本方法は、治療上有効な量のソマトスタチンまたはソマトスタチンアゴニストを患者に投与する段階を含む。上記ソマトスタチンまたはソマトスタチンアゴニストは、経口により、局所的に、非経口により投与されてもよく、例えば、静脈内、皮下、または徐放性配合物の埋め込みによって投与されてもよい。線維症は、組織の細胞外マトリックス(例えば、コラーゲン)の異常な蓄積である。線維症は、例えば、以下に位置する:腎臓では、例えば、腎炎、糖尿病性ネフロパシー、同種移植片拒絶片反応、及びHIVネフロパシーに観察されるような線維症;肝臓では、例えば、肝硬変、及び肝静脈閉塞症;肺では、例えば、突発性線維症;皮膚では、例えば、全身性硬化症、ケロイド、瘢痕、及び好酸球増加−筋肉痛症候群(eosinophilia-myalgia syndrome);中枢神経系では、例えば、眼内線維症;心臓血管系では、例えば、血管の再狭窄;鼻では、例えば、鼻ポリープ症;骨または骨髄における;内分泌器官における;および胃腸系における。
【0005】
線維性疾患(fibrotic disorder)は、下記などの数多くの原因によって誘導されてもよい:化学療法、例えば、ブレオマイシン、クロラムブシル、シクロフォスファミド、メトトレキセート、マスチン(mustine)、またはプロカルバジン処置から生じる肺線維症;放射線療法などで偶発的なあるいは意図的な放射線照射、例えば、放射線から生じる間質性肺疾患(ILD);化学物質、フューム、金属、蒸気、ガス等の環境または産業上の因子または汚染物質(例えば、アスベストまたは炭塵から生じるILD);一薬剤または複数の薬剤の組み合わせ、例えば、抗生物質(例えば、ペニシリン、サルファ剤など)、心臓血管薬(例えば、ヒドララジン、β−遮断薬など)、CNS薬(フェニトイン、クロルプロパミドなど)、抗炎症薬(例えば、金塩、フェニルブタゾンなど)などは、ILDを引き起こしうる;免疫反応障害、例えば、皮膚の線維症による慢性の移植片対宿主疾患;寄生虫で誘導される線維症(parasite induced fibrosis)を含む病気の状態(disease state)(例えば、ILDの既知の原因である吸引性肺炎(aspiration pneumonia));および創傷、例えば、CNSの穿通損傷などにおける、鈍的外傷、外科的切開、戦場における創傷などを生じうる。
【0006】
一概念によると、本発明は、治療上有効な量のソマトスタチンまたはソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法を提供するものであり;前記方法が治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる方法が前記方法のうち好ましい方法である。
【0007】
他の概念によると、本発明は、抑制される線維症が:
腎臓で抑制される線維性疾患(fibrotic disorder)が好ましくは腎炎、糖尿病性ネフロパシー、同種移植片拒絶片反応またはHIVネフロパシーである腎臓、
肺で抑制される線維性疾患(fibrotic disorder)が好ましくは突発性線維症または自己免疫性線維症である肺、
肝臓で抑制される線維性疾患が好ましくは肝硬変または肝静脈閉塞症である肝臓、
皮膚で抑制される線維性疾患が好ましくは全身性硬化症、ケロイド、瘢痕または好酸球増加−筋肉痛症候群(eosinophilia-myalgia syndrome)である皮膚、
中枢神経系で抑制される線維性疾患が好ましくは眼内線維症である中枢神経系、
骨若しくは骨髄、心臓血管系、内分泌器官または胃腸系におけるものである、治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法を提供するものである。すぐ上に記載される各方法が好ましい。
【0008】
さらなる概念によると、本発明は、線維症が化学療法によって誘導され、かつ好ましくは抑制される線維症が腎臓、肺、肝臓、皮膚、中枢神経系、骨若しくは骨髄、心臓血管系、内分泌器官または胃腸系におけるものである治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法を提供するものである。すぐ上に記載される各方法が好ましい。
【0009】
さらなる他の概念によると、本発明は、線維症が放射線によって誘導され、かつ好ましくは抑制される線維症が腎臓、肺、肝臓、皮膚、中枢神経系、骨若しくは骨髄、心臓血管系、内分泌器官または胃腸系におけるものである治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法を提供するものである。すぐ上に記載される各方法が好ましい。
【0010】
さらなる他の概念によると、本発明は、線維症が一薬剤または複数の薬剤の組み合わせによって誘導され、かつ好ましくは抑制される線維症が腎臓、肺、肝臓、皮膚、中枢神経系、骨若しくは骨髄、心臓血管系、内分泌器官または胃腸系におけるものである治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法を提供するものである。すぐ上に記載される各方法が好ましい。
【0011】
さらなる他の概念によると、本発明は、線維症が病気の状態(disease state)によって誘導され、かつ好ましくは抑制される線維症が腎臓、肺、肝臓、皮膚、中枢神経系、骨若しくは骨髄、心臓血管系、内分泌器官または胃腸系におけるものである治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法を提供するものである。すぐ上に記載される各方法が好ましい。
【0012】
さらなる他の概念によると、本発明は、線維症が環境または産業上の因子によって誘導され、かつ好ましくは抑制される線維症が腎臓、肺、肝臓、皮膚、中枢神経系、骨若しくは骨髄、心臓血管系、内分泌器官または胃腸系におけるものである治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法を提供するものである。すぐ上に記載される各方法が好ましい。
【0013】
さらなる他の概念によると、本発明は、線維症が免疫反応によって誘導され、かつ好ましくは抑制される線維症が腎臓、肺、肝臓、皮膚、中枢神経系、骨若しくは骨髄、心臓血管系、内分泌器官または胃腸系におけるものである治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法を提供するものである。すぐ上に記載される各方法が好ましい。
【0014】
さらなる他の概念によると、本発明は、線維症が創傷によって誘導され、かつ好ましくは抑制される線維症が腎臓、肺、肝臓、皮膚、中枢神経系、骨若しくは骨髄、心臓血管系、内分泌器官または胃腸系におけるものである治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法を提供するものである。すぐ上に記載される各方法が好ましい。
【0015】
別の他の概念によると、本発明は、ソマトスタチンアゴニストが他のヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター(somatostatin sub-type receptor)よりもヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター1に対して、他のヒトのソマトスタチンサブタイプレセプターよりもヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター2に対して、他のヒトのソマトスタチンサブタイプレセプターよりもヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター3に対して、他のヒトのソマトスタチンサブタイプレセプターよりもヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター4に対して、または他のヒトのソマトスタチンサブタイプレセプターよりもヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター5に対してより高い結合親和性を有する;またはソマトスタチンアゴニストが2以上のヒトのソマトスタチンレセプターのサブタイプ、例えば、1、2、3、4および/または5に対してより高い結合親和性を有する、治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法を提供するものである。すぐ上に記載される各方法が好ましい。
【0016】
別の他の概念によると、本発明は、ソマトスタチンアゴニストが下記:
【0017】
【化1】

【0018】
またはその製薬上許容できる塩であり、
この際、Aは、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Thr、Ser、β−Nal、β−Pal、Trp、Phe、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、p−X−Phe、またはo−X−PheのD−またはL−異性体であり;
は、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Phe、β−Nal、ピリジル−Ala、Trp、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、o−X−Phe、またはp−X−Pheであり;
は、ピリジル−Ala、Trp、Phe、β−Nal、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、o−X−Phe、またはp−X−Pheであり;
は、Val、Ala、Leu、Ile、Nle、Thr、Abu、またはSerであり;
は、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Phe、β−Nal、ピリジル−Ala、Trp、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、o−X−Phe、またはp−X−Pheであり;
は、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Thr、Ser、Phe、β−Nal、ピリジル−Ala、Trp、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、p−X−Phe、またはo−X−PheのD−またはL−異性体であり;
それぞれで示されるXは、独立して、CH、Cl、Br、F、OH、OCH及びNOからなる群より選ばれ;
及びRは、それぞれ独立して、H、低級アシルまたは低級アルキルであり;およびRはOHまたはNHであり;A及びAの少なくとも一方ならびにA及びAの一方は芳香族アミノ酸でなければならず;さらにA、A、A及びAすべてが芳香族アミノ酸にはなりえない、
治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法を提供するものである。
【0019】
別の他の概念によると、ソマトスタチンアゴニストが、
【0020】
【化2】

【0021】
またはその製薬上許容できる塩である、治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法。
【0022】
別の他の概念によると、ソマトスタチンアゴニストが、
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
またはその製薬上許容できる塩である、治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法。
【0028】
別の他の概念によると、ソマトスタチンアゴニストが、
【0029】
【化7】

【0030】
若しくはD-Phe-シクロ(Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys)-Thr-ol、またはその製薬上許容できる塩である、治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなる患者の線維症の抑制方法。すぐ上に記載される各方法が好ましい。
【0031】
さらなる概念によると、本発明は、治療上有効な量のソマトスタチン、ソマトスタチンアゴニストまたはその製薬上許容できる塩を患者に投与することからなるTGF−βの過剰な発現を抑制する方法を提供するものである;ソマトスタチンアゴニストが投与されることが上記方法のうち好ましい;ソマトスタチンアゴニストが他のヒトのソマトスタチンサブタイプレセプターよりもヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター1に対して、他のヒトのソマトスタチンサブタイプレセプターよりもヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター2に対して、他のヒトのソマトスタチンサブタイプレセプターよりもヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター3に対して、他のヒトのソマトスタチンサブタイプレセプターよりもヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター4に対して、または他のヒトのソマトスタチンサブタイプレセプターよりもヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター5に対してより高い結合親和性を有する;またはソマトスタチンアゴニストが2以上のヒトのソマトスタチンレセプターのサブタイプ、例えば、1、2、3、4および/または5に対してより高い結合親和性を有することがすぐ上に記載した方法のうち好ましい方法である。前記方法がそれぞれ好ましい。
【0032】
他のさらなる概念によると、本発明は、ソマトスタチンアゴニストが下記:
【0033】
【化8】

【0034】
またはその製薬上許容できる塩であり、
この際、Aは、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Thr、Ser、β−Nal、β−Pal、Trp、Phe、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、p−X−Phe、またはo−X−PheのD−またはL−異性体であり;
は、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Phe、β−Nal、ピリジル−Ala、Trp、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、o−X−Phe、またはp−X−Pheであり;
は、ピリジル−Ala、Trp、Phe、β−Nal、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、o−X−Phe、またはp−X−Pheであり;
は、Val、Ala、Leu、Ile、Nle、Thr、Abu、またはSerであり;
は、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Phe、β−Nal、ピリジル−Ala、Trp、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、o−X−Phe、またはp−X−Pheであり;
は、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Thr、Ser、Phe、β−Nal、ピリジル−Ala、Trp、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、p−X−Phe、またはo−X−PheのD−またはL−異性体であり;
それぞれで示されるXは、独立して、CH、Cl、Br、F、OH、OCH及びNOからなる群より選ばれ;
及びRは、それぞれ独立して、H、低級アシルまたは低級アルキルであり;およびRはOHまたはNHであり;A及びAの少なくとも一方ならびにA及びAの一方は芳香族アミノ酸でなければならず;さらにA、A、A及びAすべてが芳香族アミノ酸にはなりえない、
治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなるTGF−βの過剰な発現を抑制する方法を提供するものである。
【0035】
また、本発明は、ソマトスタチンアゴニストが、
【0036】
【化9】

【0037】
またはその製薬上許容できる塩である、治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなるTGF−βの過剰な発現を抑制する方法を提供するものである。
【0038】
また、本発明は、ソマトスタチンアゴニストが、
【0039】
【化10】

【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
またはその製薬上許容できる塩である、治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストを患者に投与することからなるTGF−βの過剰な発現を抑制する方法を提供するものである。
【0044】
また、本発明は、ソマトスタチンアゴニストまたはその製薬上許容できる塩が、
D-β-Nal-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr-NH2
H-Cys-Phe-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Phe-Cys-NH2
【0045】
【化14】

【0046】
若しくはD-Phe-シクロ(Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys)-Thr-ol、またはその製薬上許容できる塩である、治療上有効な量のソマトスタチンアゴニストまたはその製薬上許容できる塩を患者に投与することからなるTGF−βの過剰な発現を抑制する方法を提供するものである。前記方法がそれぞれ好ましい。
【0047】
別の他の概念によると、本発明は、上記した各方法のうち、ソマトスタチンアゴニストを非経口により投与することが好ましく、より好ましくは非経口により投与されるソマトスタチンアゴニストが徐放性配合物で投与される方法を提供するものである。また、上記した各方法のうち、ソマトスタチンアゴニストまたはその製薬上許容できる塩を経口によりまたは局所的に投与することも好ましい。それぞれの前記した方法が好ましい。
【0048】
本発明の別の他の概念は、製薬上許容できる担体および有効量のソマトスタチン、ソマトスタチンアゴニストまたはその製薬上許容できる塩を含む患者の線維症を抑制するのに使用される薬剤組成物を提供するものであり、この際、前記薬剤組成物はソマトスタチンアゴニストまたはその製薬上許容できる塩を含む薬剤組成物であることが好ましい。
【0049】
本発明の別の他の概念は、製薬上許容できる担体および有効量のソマトスタチン、ソマトスタチンアゴニストまたはその製薬上許容できる塩を含むTGF−βの過剰な発現を抑制するのに使用される薬剤組成物を提供するものであり、この際、前記薬剤組成物はソマトスタチンアゴニストまたはその製薬上許容できる塩を含む薬剤組成物であることが好ましい。
【0050】
「ソマトスタチンアゴニスト」の定義は以下のように定義されるであろう。治療上有効な量は、処置される条件、処置レジメ(treatment regimen)、選択される投与経路、及び使用される化合物の特異的な活性に依存し、最終的には主治医や獣医によって決定されるであろう。一実施態様としては、ソマトスタチンアゴニストを線維症の進行(fibrotic process)が停止あるいは逆転するまで患者に投与する。他の実施態様としては、ソマトスタチンアゴニストを患者の生涯の間投与する。別の他の実施態様としては、ソマトスタチンアゴニストを線維症の進行(fibrotic process)を開始させる事象の前に(例えば、化学療法または放射線療法等における放射線への被爆前に)投与する。
【0051】
ソマトスタチンまたはソマトスタチンアゴニストは、処置される患者の血流中に、非経口により、例えば、静脈内に、注射されてもよい。しかしながら、皮下、筋肉内、腹腔内、経腸により、経皮的に、経粘膜的に(transmucously)、徐放性ポリマー組成物(例えば、乳酸ポリマーまたは乳酸−グリコール酸共重合体微粒子またはインプラント)、プロフュージョン(profusion)、経鼻に、経口により、局所的に、経膣で、直腸内に(rectal)、経鼻に、舌下になどの経路が処置される条件及び使用されるソマトスタチンアゴニストの活性や生物学的利用能によって変化するであろうことは当業者には容易に認められるであろう。
【0052】
本発明の方法において投与される活性成分の投与量は様々である;しかしながら、活性成分の量は適当な剤形が得られるような量である必要がある。所定の投与量は、目的とする治療効果に、投与経路に、及び処置期間に依存する。通常、毎日、1kgの体重当たり0.000001〜100mgの投与レベルがヒト及び他の動物、例えば、哺乳動物に投与される。
【0053】
好ましい投与範囲は毎日、1kgの体重当たり0.01〜5.0mgであり、これは1回量としてあるいは複数回量に分けて投与されてもよい。
【0054】
ソマトスタチンアゴニストを純粋なものとしてあるいは実質的に純粋なものとして投与することは可能であるが、薬剤配合物または調製物として提示されてもよい。ヒト及び動物用の、本発明に使用される配合物は、下記のいずれかのソマトスタチンアゴニスト、及び一以上の製薬上許容できるその担体、及び必要であれば他の治療成分を含む。
【0055】
担体は、配合物の活性成分と適合する(例えば、ペプチドを安定化できる)という意味で「許容できる」ものでなければならず、処置される患者に有害であってはならない。望ましくは、配合物は、酸化剤またはペプチドが適合しないことが知られる他の物質を含むべきではない。例えば、環化形態のソマトスタチンアゴニスト(例えば、内部システインジスルフィド結合)は酸化される;したがって、賦形剤として還元剤を存在させることによって、システインのジスルフィド架橋を開く(opening)ことができる。これに対して、かなりの酸化条件はシステインスルホキシドを形成させ、トリプトファンを酸化させうる。このため、腑形剤を注意深く選ぶことが重要である。pHは他の鍵となる因子であり、若干酸性条件(pH5〜6)下で生成物を緩衝する必要があるかもしれない。
【0056】
配合物は、単位服用量形態(unit dosage form)に簡便に提示され(present)されてもよく、薬学の分野において既知の方法によって調製されてもよい。すべての方法は、活性成分を一以上の補助成分(accessory ingredient)を構成する担体と会合させる(bring into association with)段階を含む。
【0057】
通常、錠剤または粉末用の配合物は、活性成分を超微粒子状固体担体と均一にかつよく混合した後、必要であれば、錠剤の場合には、生成物を目的とする形状及び大きさに成形することによって調製される。
【0058】
これに対して、非経口(例えば、静脈内)投与に適する配合物は、簡単には、活性成分の滅菌水溶液を含む。好ましくは、溶液は、処置される患者の血液と等張である。このような配合物は、活性成分を水を含む溶媒に溶かして水溶液を作り、この水溶液を滅菌することによって簡便に調製されてもよい。配合物は、1回あるいは複数回投与用の容器、例えば、密封アンプルまたはバイアル中に提示される(present)。
【0059】
徐放性非経口投与に適する配合物(例えば、生分解性のポリマー配合物)もまた当該分野において既知である。例えば、これらの示唆は引用により取り入れられる、米国特許第3,773,919号及び4,767,628号、およびPCT公開番号WO 94/15587号を参照。
【0060】
結腸内または膣内投与用の組成物は、活性物質に加えて、カカオバターまたは坐薬用ワックス等の腑形剤を含んでもよい坐薬であることが好ましい。
【0061】
鼻腔または舌下投与用の組成物もまた、当該分野において既知の標準的な腑形剤を用いて調製される。
【0062】
局所投与に関しては、溶液、クリーム、軟膏剤(salve)、ローション、軟膏(ointment)などの形態で最も良好に使用される。
【0063】
ソマトスタチンまたはソマトスタチンアゴニストはまた、線維症を改善するためにまたは線維症の開始を防ぐために線維症の進行(fibrotic process)が既知の開始剤(例えば、化学治療剤)と共に投与されてもよい。
【0064】
本発明の他の態様及び利点は、好ましい実施態様の下記説明から及び請求の範囲から明らかであろう。
【0065】
略称
【0066】
【化15】

【0067】
発明の詳細な説明
当業者は、本説明に基づいて、本発明を十分利用できると考えられる。したがって、下記特定の実施態様は、単に説明するものとして解され、何等残りの開示を制限するものではないと解される。
【0068】
特記しない限り、本明細書中で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野における通常の知識を有するものによって一般的に理解されるのと同様の意味を有する。また、本明細書に記載されるすべての公報、特許出願、特許、及び他の引用文献は引用により取り入れられる。
【0069】
抑制される線維症は様々な体の部分に位置していてもよく、また、特定の種類を有していてもよく、例えば、線維症は下記に位置していてもよい:
腎臓では、例えば、腎炎(Yoshioka et al., Lab. Invest. 1996; 68: 154-63を参照)、糖尿病性ネフロパシー(Yamamoto et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1993; 90: 1814-8を参照)、同種移植片拒絶片反応(Shihab et al., J. Am. Soc. Nephrol. 1993; 4: 671, 要約を参照)、及びHIVネフロパシー(Border et al., J. Am. Soc. Nephrol. 1993; 4: 675, 要約を参照)に観察されるような線維症;
肝臓では、例えば、肝硬変(Castilla et al., N. Engl. J. Med. 1991; 624: 933-943及びNagy et al., Hepatology, 1991; 14: 269-73を参照)、及び肝静脈閉塞症(Anscher et al., N. Engl. J. Med. 1993; 328: 1592-8を参照);
肺では、例えば、突発性線維症(Anscher et al., N. Engl. J. Med. 1993; 328: 1592-8及びBrockelmann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1991; 88: 6642-6を参照)及び自己免疫線維症(autoimmune fibrosis)(Deguchi et al., Ann. Rheum. Dis. 1992; 51: 362-5を参照);
皮膚では、例えば、全身性硬化症(Kulozik et al., J. Clin. Invest. 1990; 86: 917-22を参照)、ケロイド(Peltonen et al., J. Invest. Dermatol. 1991; 97: 240-8を参照)、瘢痕(Ghahary et al., J. Lab. Clin. Med. 1993; 122: 465-73を参照)、及び好酸球増加−筋肉痛症候群(eosinophilia-myalgia syndrome)(Varga et al., Ann. Intern. Med. 1992; 116: 140-7を参照);
中枢神経系では、例えば、眼内線維症(Conner et al., J. Clin. Invest. 1989; 83: 1661-6を参照);
心臓血管系では、例えば、血管の再狭窄(Nikol et al., J. Clin. Invest. 1992; 90: 1582-92を参照);
鼻では、例えば、鼻ポリープ症(Ohno et al., J. Clin. Invest. 1992; 89: 1662-8を参照);
骨または骨髄における(Harrison's Principles of Internal Medicine, Thirteenth Edition, Volume 2, Chapter 362, pp. 2197-2199; Najean, Y. et al., Leuk. Lympoma, 1996, 22 Suppl. 1: 111-119;及びReith, J.D. et al., Am. J. Srg. Pathol., 1996 20(11): 1368-1377を参照);
内分泌器官における(Endocrinology, Third Edition, Edited by Leslie J. DeGroot, Vol. 1, pp. 165-177及びpp. 747-751を参照);
および胃腸系における(Mizoi, T. et al., Cancer Res., 1993 53(1): 183-190;及びTahara, E., J. Cancer Res. Clin. Oncol., 1990, 116(2), 121-131を参照)。
【0070】
線維性疾患(fibrotic disorder)は、下記などの数多くの原因によって誘導される:
化学療法、例えば、ブレオマイシン、クロラムブシル、シクロフォスファミド、メトトレキセート、マスチン(mustine)、またはプロカルバジン処置から生じる肺線維症(Key Facts in Oncology by Lilly, Drug Therapy, p.11, 1994を参照);
放射線療法などで偶発的なあるいは意図的な放射線照射、例えば、放射線から生じる間質性肺疾患(ILD)(Cecil Textbook of Medicine, 19th Edition, edited by James B. Wyngaarden, Lloyd H. Smith, Jr.,及びJ. Claude Bennet, Chapter 60, Table 60-5, p. 399, 1992を参照);
化学物質、フューム、金属、蒸気、ガス等の環境または産業上の因子または汚染物質、例えば、アスベストまたは炭塵から生じるILD(Cecil Textbook of Medicine, 19th Edition, edited by James B. Wyngaarden, Lloyd H. Smith, Jr.,及びJ. Claude Bennet, Chapter 60, Table 60-2, p. 398, 1992を参照);
一薬剤または複数の薬剤の組み合わせ、例えば、抗生物質(例えば、ペニシリン、サルファ剤など)、心臓血管薬(例えば、ヒドララジン、β−遮断薬など)、CNS薬(フェニトイン、クロルプロパミドなど)、抗炎症薬(例えば、金塩、フェニルブタゾンなど)などは、ILDを引き起こしうる(Cecil Textbook of Medicine, 19th Edition, edited by James B. Wyngaarden, Lloyd H. Smith, Jr.,及びJ. Claude Bennet, Chapter 60, Table 60-4, p. 398, 1992を参照);
免疫反応障害、例えば、皮膚の線維症による慢性の移植片対宿主疾患(Fibrotic Skin Diseases, Editorial, J. Uitto及びS. Jimenez, Arch, Dermatol, Vol 126, May 1990, p.662を参照);
ILDの既知の原因である吸引性肺炎(aspiration pneumonia)等の病気の状態(Harrison's Principles of Internal Medicine, Twelfth Edition, Chapter 211, Table 211-1, p. 1083を参照)及び寄生虫で誘導される線維症(parasite induced fibriosis)(Wahl, S.M., Kidney Int., 1997, 51(5): 1370-1375を参照);ならびに
創傷、例えば、CNSの穿通損傷などにおける、鈍的外傷、外科的切開、戦場における創傷など(Ann. Logan, et al., Brain Research, 587(1992), 216-225を参照)。
【0071】
ソマトスタチン及びそのアゴニスト
ソマトスタチン(ソマトトロピン放出抑制因子またはSRIF)は、14アミノ酸イソ型(ソマトスタチン−14)及び28アミノ酸イソ型(ソマトスタチン−28)双方を有する。Wilson, J. & Foster, D., Williams Textbook of Endocrinology, p. 510 (7th ed., 1985)を参照。この化合物は、成長ホルモンの分泌の阻害剤であり、初めは視床下部から単離された。Brazeau et al., Science 179: 77 (1973)。天然のソマトスタチンは、エンド−及びエキソペプチダーゼによって迅速に不活性化されるので、インビボでは非常に短い作用期間を有する。多くの新規な類似体が、作用期間、生物学的な活性、及びこのホルモンの選択率(例えば、特定のソマトスタチンレセプターに対する)を促進するために調製されてきた。類似体は、本明細書では「ソマトスタチンアゴニスト」と称される。さらに、ソマトスタチンレセプターに結合する、その構造の一部としてエーアールティー−認識アミノ酸(art-recognized amino acid)を持たない有機分子などの、有機部分及び非ペプチド(non-peptide)によって修飾される短いペプチドである化合物もまた、「ソマトスタチンアゴニスト」の意味に含まれる。
【0072】
様々なソマトスタチンレセプター(SSTR)、例えば、SSTR−1、SSTR−2、SSTR−3、SSTR−4、及びSSTR−5が単離された。したがって、ソマトスタチンアゴニストは、SSTR−1アゴニスト、SSTR−2アゴニスト、SSTR−3アゴニスト、SSTR−4アゴニストまたはSSTR−5アゴニストであってもよい。一実施態様によると、ソマトスタチンアゴニストは、SSTR−2アゴニストまたはSSTR−5アゴニストである。「SSTR−2アゴニスト」または「SSTR−5アゴニスト」によって意味されるものは、(1)それぞれ、SSTR−2またはSSTR−5に対して高い親和性(例えば、1nM未満または、好ましくは10nM未満のKi)(下記レセプター結合アッセイによって定義される際の)を有する、および(2)線維症の形成(例えば、下記生物学的アッセイによって定義される際の)を阻害する化合物である。ソマトスタチンアゴニストはまた、特定のソマトスタチンレセプターに対して選択であってもよく、例えば、特定のソマトスタチンレセプターサブタイプに対してより高い結合親和性を有していてもよい。一実施態様においては、ソマトスタチンレセプターはSSTR−2またはSSTR−5に選択的なアゴニストである。
【0073】
本発明の治療方法を実施するにあたって使用できるソマトスタチンアゴニストとしては、以下に制限されるものではないが、式にカバーされるものまたは下記公報に詳しく列挙されるものが挙げられるが、この際、すべての公報は引用により取り入れられる。
【0074】
EP出願番号 P5 164 EU号(発明者:G. Keri);
Van Binst, G. et al. Peptide Research 5:8 (1992);
Horvath, A. et al. Abstract, "Conformations of Somatostatin Analogs Having Antitumor Activity", 22nd European peptide Symposium, September 13-19, 1992, Interlaken, Switzerland;
PCT出願 WO 91/09056号(1991年);
EP出願 0363589 A2号(1990年);
米国特許第4,904,642号(1990年);
米国特許第4,871,717号(1989年);
米国特許第4,853,371号(1989年);
米国特許第4,725,577号(1988年);
米国特許第4,684,620号(1987年)
米国特許第4,650,787号(1987年);
米国特許第4,603,120号(1986年);
米国特許第4,585,755号(1986年);
EP出願 0203031 A2号(1986年);
米国特許第4,522,813号(1985年);
米国特許第4,486,415号(1984年);
米国特許第4,485,101号(1984年);
米国特許第4,435,385号(1984年);
米国特許第4,395,403号(1983年);
米国特許第4,369,179号(1983年);
米国特許第4,360,516号(1982年);
米国特許第4,358,439号(1982年);
米国特許第4,328,214号(1982年);
米国特許第4,316,890号(1982年);
米国特許第4,310,518号(1982年);
米国特許第4,291,022号(1981年);
米国特許第4,238,481号(1980年);
米国特許第4,235,886号(1980年);
米国特許第4,224,190号(1980年);
米国特許第4,211,693号(1980年);
米国特許第4,190,648号(1980年);
米国特許第4,146,612号(1979年);及び
米国特許第4,133,782号(1979年)。
【0075】
ソマトスタチンアゴニストの例としては、下記に制限されないが、上記引用文献に開示される下記ソマトスタチン類似体及びその製薬上許容できる塩が挙げられる:
【0076】
【化16】

【0077】
【化17】

【0078】
【化18】

【0079】
【化19】

【0080】
本明細書に記載されるすべてのソマトスタチンアゴニストについて、−NH−CH(CH(CH)OH)−CH−OHを意味するThr−ol及びプロリニル(prolinyl)を意味するPro以外は、各アミノ酸残基は−NH−C(R)H−CO−の構造を表わし、この際、Rは側鎖(例えば、AlaではCH)である。アミノ酸残基間の実線は、アミノ酸を結合するペプチド結合を表わす。また、アミノ酸残基が光学活性である場合には、D−体と特に示さない限りL−体の立体配置を意図するものである。ジスルフィド架橋は2個のCys残基間に形成される;しかしながら、これは示されない。
【0081】
下記式の直鎖のソマトスタチンアゴニスト:
【0082】
【化20】

【0083】
ただし、Aは、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Thr、Ser、β−Nal、β−Pal、Trp、Phe、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、p−X−Phe、またはo−X−PheのD−またはL−異性体であり;
は、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Phe、β−Nal、ピリジル−Ala、Trp、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、o−X−Phe、またはp−X−Pheであり;
は、ピリジル−Ala、Trp、Phe、β−Nal、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、o−X−Phe、またはp−X−Pheであり;
は、Val、Ala、Leu、Ile、Nle、Thr、Abu、またはSerであり;
は、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Phe、β−Nal、ピリジル−Ala、Trp、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、o−X−Phe、またはp−X−Pheであり;
は、Ala、Leu、Ile、Val、Nle、Thr、Ser、Phe、β−Nal、ピリジル−Ala、Trp、2、4−ジクロロ−Phe、ペンタフルオロ−Phe、p−X−Phe、またはo−X−PheのD−またはL−異性体であり;
及びRは、それぞれ独立して、H、低級アシルまたは低級アルキルであり;およびRはOHまたはNHであり;A及びAの少なくとも一方ならびにA及びAの一方は芳香族アミノ酸でなければならず;さらにA、A、A及びAすべてが芳香族アミノ酸にはなりえない、
またはその製薬上許容できる塩の使用もまた本発明に含まれる。
【0084】
本発明の方法に使用される直鎖のアゴニストの例としては以下が挙げられる:
【0085】
【化21】

【0086】
またはその製薬上許容できる塩。
【0087】
必要であれば、一以上の化学的部分、例えば、糖誘導体、モノ−若しくはポリ−ヒドロキシC2−12アルキル、モノ−若しくはポリ−ヒドロキシC2−12アシル基、またはピペラジン誘導体を、ソマトスタチンアゴニストに、例えば、N−末端アミノ酸に結合させてもよい。PCT出願WO 88/02756号、欧州出願第0329295号、及びPCT出願番号WO 94/04752号を参照。N−末端に化学置換を含むソマトスタチンアゴニストの例としては、下記がある:
【0088】
【化22】

【0089】
またはその製薬上許容できる塩。
【0090】
ソマトスタチンアゴニストの合成
ソマトスタチンアゴニストの合成方法は、例えば、本明細書の上記で列挙した米国特許及び他の引用文献に詳細に記載されるように、よく報告され、当該分野における通常の知識を有するもの能力内である。
【0091】
短いアミノ酸の合成は、ペプチド分野においてよく確立される。例えば、上記D-Nal-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Val-Cys-Thr-NH2の合成は米国特許第4,853,371号に記載されるプロトコルに従って合成でき、また、上記H-D-Phe-Phe-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Phe-Thr-NH2の合成は欧州特許出願第0 395 417 A1号の実施例Iに記載されるプロトコルに従って合成できる。置換N−末端を有するソマトスタチンアゴニストの合成は、例えば、WO 88/02756号、欧州特許出願第0 329 295号、及びPCT公報番号WO 94/04752号に記載されるプロトコルに従って達成できる。
【0092】
ソマトスタチンレセプター結合アッセイ
ヒトのSSTR−1、SSTR−2、SSTR−3、SSTR−4、及びSSTR−5のcDNAクローンは報告されており(Yamada, Y., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 89:251-255 (1992)においてSSTR−1及びSSTR−2;Yamada, et al., Mol. Endocrinol. 6:2136-2142 (1993)においてSSTR−3;およびYamada, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 195:844-852 (1993)においてSSTR−4及びSSTR−5)、また、アメリカン タイプ カルチャー コレクション(American Type Culture Collection)(ATCC, Rockville, MD)(ATCC番号79044(SSTR−1),79046(SSTR−2),及び79048(SSTR−3))からも利用できる。制限酵素地図に基づいて、各SSTR cDNAの完全なコーディング領域を適当な制限酵素による消化(Maniatis, T., et al., Molecular Cloning - A Laboratory Manual, CSHL, 1982)によって切り出してもよい。制限酵素は、ニューイングランドバイオラブス(New England Biolabs)(Beverly, MA)から市販されている。このcDNAフラグメントを、標準的な分子生物学技術(例えば、Maniatis, T., et al., Molecular Cloning,-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1982を参照)を用いて、哺乳動物の発現ベクター、pCMV(Russell, D., et al., J. Biol. Chem., 264:8222-8229 (1989))中に挿入して、発現プラスミド、pCMV−ヒトSSTR−1からpCMV−ヒトSSTR−5を作製した。他の哺乳動物の発現ベクターとしては、pcDNA1/Amp(インビトロゲン(Invitrogen), Sandlesy, CA)がある。この発現プラスミドを適当な細菌宿主、大腸菌HB101(E. Coli HB101)(ストラタジーン(Stratagene), La Jolla, CA)中に導入し、トランスフェクション用の、プラスミドDNAを塩化セシウム密度勾配で調製した。
【0093】
CHO−K1(卵巣、チャイニーズハムスター)細胞をATCC(ATCC番号:CCL 61)から得た。この細胞を、標準的な組織培養条件下で10%ウシ胎児血清を補足したハムF12培地(Ham's F12 media)(ギブコ ビーアーエル(Gibco BRL), Grand Island, NY))中で生育、維持した。トランスフェクションを目的として、細胞を1×10個/60cmプレート(バクスター サイエンティフィック プロダクツ(Baxter Scientific Products), McGaw Park, IL)の密度で播種した。DNAを介するトランスフェクションをリン酸カルシウム共沈法(calcium phosphate co-precipitation method)(Ausubel, F.M., et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, 1987)を用いて行った。プラスミドpRSV−neo(ATCC;ATCC番号 37198)を、発現プラスミドの1/10倍の濃度で選択マーカーとして含ませた。安定してトランスフェクションされたDNAを遺伝するCHO−K1クローン細胞系を10%ウシ胎児血清及び0.5mg/mlのG418(シグマ(Sigma))を加えたハムF12培地(Ham's F12 media)での生育について選択した。これらの細胞をリング−クローニング(ring-clone)して、分析用に同じ培地で拡張した(expand)。
【0094】
CHO−K1細胞におけるヒトのSSTR−1からSSTR−5レセプターの発現を細胞から調製した全RNAのノーザンブロット分析(Sambrook, J.E., et al., Molecular Cloning - A Laboratory Manual, Ed. 2., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1989)によっておよび[125I−Tyr11]ソマトスタチン−14をリガンドとして用いたレセプター結合によって検出した。ヒトのSSTRレセプターを発現するトランスフェクションされた細胞系を培養物中でクローニングにより拡張し(clonally expand)、以下のSSTR結合プロトコルに使用した。
【0095】
未精製膜を組織ホモゲナイザー(6、15秒の設定)で20mlの氷冷50mMTris−HCl中でトランスフェクションされた細胞を均質化することによって調製した。バッファーを加えて、最終容積を40mlとし、さらに、ホモジネートを0〜4℃で10分間、39,000gでソルバル(登録)SS−34ローター(Sorval SS-34 rotor)(Sorval, Newtown, Connecticut)で遠心した。得られた上清をデカンテーションして捨てた。ペレットを、前記を同様にして氷冷バッファー中で再度均質化し、希釈し、さらに遠心した。最終的なペレットを10mM Tris−HCl中に再懸濁し、レセプター結合アッセイ用に氷上に保持した。
【0096】
膜調製物のアリコートを、様々な濃度(例えば、10−11〜10−6)の試験ソマトスタチンアゴニスト、10mg/mlのウシ血清アルブミン(フラクションV)(Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)、MgCl(5mM)、トラジロール(アプロチニンとしても既知)(Sigma Chemical Co.)(200KIU/ml)、バシトラシン(Sigma Chemical Co.)(0.02mg/ml)、及びフェニルメチルスルホニルフッ化物(Sigma Chemical Co.)(0.02mg/ml)を含む50mM HEPES(pH 7.4)における0.05nM[125I−Tyr11]ソマトスタチン−14(2000Ci/ミリモル;Amersham Corp., Arlington Heights, IL)と共に30℃で30分間、インキュベートした。最終的なアッセイ容積は0.3mlであった。インキュベーションをブランデルフィルトレーションマニフォールド(Brandel filtration manifold)(Brandel Research and Development Co., Gaithersburg, Maryland)を用いたGF/Cフィルター(予め30分間、0.3%ポリエチレンイミン中に浸漬した)によるラピッドフィルトレーション(rapid filtration)によって終了した。次に、各チューブ及びフィルターを氷冷したバッファーの5mlのアリコートで3回洗浄した。特異的な結合は、全結合[125I−Tyr11]ソマトスタチン−14から1000nMのソマトスタチン−14存在下で結合した値を引いた値として定義した。試験ソマトスタチンアゴニストに関するKi値は、下記式を用いて算出した:Ki=IC50/[1+(LC/LEC)](但し、IC50はラジオリガンドである[125I−Tyr11]ソマトスタチン−14の特異的な結合を50%阻害するのに必要な試験ソマトスタチンアゴニストの濃度であり、LCはラジオリガンドの濃度(0.05nM)であり、およびLECはラジオリガンドの平衡解離定数(0.16nM)である。試験ソマトスタチンアゴニストに関するKi値(nM)を表Iに示す。
【0097】
【表1】

【0098】
線維症の抑制
ソマトスタチンアゴニストについて、線維症の抑制能を試験する。
【0099】
(a)インビトロにおける抗線維性活性(anti-fibrotic activity)の説明
ラットに、腎炎を誘導する抗胸腺細胞血清(anti-thymocyte serum)(ATS)(S. Okuda et al, J. Clin. Invest., Vol. 86, 1990, pp. 453-462を参照)またはコントロールとして機能するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)のいずれかを注射する。6日後、腎臓を除去し、糸球を単離し、培養物中に72時間、置く。培養条件は、1ml容の血清を含まないRPMI 1640(インスリンを補足)(Gibco, Gaithersburg, Maryland)における2000糸球/ウェルから構成される。試験ソマトスタチンまたはソマトスタチンアゴニストを培養時に添加する。培養液の上清を集めて、線維性活性のマーカーとしてのコラーゲンI、形質転換因子β−1(TGFβ−1)、エキストラドメインA(extra domain A)を含むフィブロネクチン(フィブロネクチン EDA+)、及びプラスミノーゲンアクチベーターインヒビターI(plasminogen activator inhibitor I)(PAI−I)の濃度を測定するためのアッセイを行うまで−70℃で貯蔵する。加えて、個々の糸球を免疫蛍光染色によって試験し、関連するマトリックスタンパク質を計測する。値を、PBSで処置された、ネガティブな線維性コントロール糸球;ATSで処置され、薬剤で処置されない、ポジティブな線維性コントロール糸球;およびATSで処置され、薬剤で処置された、線維性糸球間で比較して、線維症の進行がソマトスタチンまたはソマトスタチンアゴニストによって抑制される度合いを測定する。
【0100】
(b)インビボにおける抗線維性活性(anti-fibrotic activity)の説明
ラットに、腎炎を誘導する抗胸腺細胞血清(anti-thymocyte serum)(ATS)またはコントロールとして機能するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)のいずれかを注射する。1時間後、処置をソマトスタチンまたはソマトスタチンアゴニストで開始する。ソマトスタチンまたはソマトスタチンアゴニストを、5日間、毎日2回、皮下投与する。5日目に、ラットを代謝ケージ(metabolic cage)に入れ、24時間後、尿を集めて、タンパク質含量を測定する。6日目に腎臓を除去し、組織サンプルをホルマリン中に置くまたは組織学的評価用に凍結する。糸球を残りの組織から単離し、72時間培養液中に置く。培養条件は、1ml容の血清を含まないRPMI 1640(インスリンを補足)における2000糸球/ウェルから構成される。培養液から上清を集めて、線維性活性のマーカーとしてのコラーゲンI、形質転換因子β−1(TGFβ−1)、エキストラドメインA(extra domain A)を含むフィブロネクチン(フィブロネクチン EDA+)、及びプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(plasminogen activator inhibitor 1)(PAI1)の濃度を測定するためのアッセイを行うまで−70℃で貯蔵する。マトリックスタンパク質の存在は、凍結された腎臓の切片をフィブロネクチン EDA+、コラーゲンI、PAI1及びテナシン(tenasin)等のTGFβ−1によって誘導されるマトリックスタンパク質に対する抗体で免疫蛍光染色することにより測定される。培養、単離された糸球から、培養液の上清中に分泌されるTGFβ−1、PAI1、及びフィブロネクチンの直接的な測定結果がELISA(酵素結合イムノソルベント検定)により測定できる。各グループのサンプルからの糸球を用いて、mRNAを抽出し、TGFβ−1、GADPH、コラーゲンI、コラーゲンIII、フィブロネクチン、及びPAI1に関するメッセージレベルがノーザン分析により測定できる。肉眼による組織学的な変化の指標としては、PAS(過ヨウ素酸シッフ)で染色されたパラフィン切片を、その病理学的なマトリックススコアーに基づいて採点する。値を、PBSで処置された、ネガティブな線維性コントロール動物;ATSで処置され、薬剤で処置されない、ポジティブな線維性コントロール動物;およびATSで処置され、薬剤で処置された動物間で比較して、線維症の進行がソマトスタチンまたはソマトスタチンアゴニストによって抑制される度合いを測定する。
【0101】
他の実施態様
前記説明は、本発明の特定の実施態様に制限されるものであった。しかしながら、変化や修飾が本発明になされてもよく、この際、本発明の利点の一部またはすべてが達成されることは明らかであろう。このような実地態様もまた下記請求の範囲の概念に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製薬上許容できる担体および有効量のソマトスタチン若しくは下記:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

からなる群より選択されるソマトスタチンアゴニスト、またはその製薬上許容できる塩を含むTGF−βの過剰な発現を抑制するのに使用される薬剤組成物。
【請求項2】
ソマトスタチンアゴニストまたはその製薬上許容できる塩を含む、請求項1に記載の薬剤組成物。
【請求項3】
ソマトスタチンアゴニストがヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター1に対してより高い結合親和性を有する、ヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター2に対してより高い結合親和性を有する、ヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター3に対してより高い結合親和性を有する、ヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター4に対してより高い結合親和性を有する、またはヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター5に対してより高い結合親和性を有する、請求項1または2に記載の薬剤組成物。
【請求項4】
ソマトスタチンアゴニストがヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター1、ヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター2、ヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター3、ヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター4またはヒトのソマトスタチンサブタイプレセプター5の2以上に対してより高い結合親和性を有する、請求項1または2に記載の薬剤組成物。

【公開番号】特開2008−74857(P2008−74857A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265712(P2007−265712)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【分割の表示】特願平10−511678の分割
【原出願日】平成9年8月27日(1997.8.27)
【出願人】(507151272)ソシエテ デ コンセイルズ デ リサーチェス エト デュ’アプリケーションズ サイエンティフィクズ,エス.エー.エス. (1)
【Fターム(参考)】