説明

タイヤの加硫方法及びタイヤの加硫装置

【課題】 従来の後加硫では、タイヤの外側から熱源により熱を加えているので、タイヤの内部に熱が伝わりにくく、タイヤの内部のゴムの加硫度を高めるのは容易ではなかった。
【解決手段】 本発明によるタイヤの加硫方法は、加硫成型後のタイヤを後加硫するタイヤの加硫方法において、後加硫でタイヤの外側から電磁誘電加熱装置(IH装置4)によりタイヤ7の内部の金属部材(スチールコード30)を電磁誘電加熱したことを特徴とする。例えば、前加硫後のタイヤ7の内側空間9に圧力を加えてタイヤ7の形状を保持しながらタイヤ7を後加硫するPCIの工程においてタイヤ7の内部の金属部材を電磁誘電加熱した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの加硫方法、特に、後加硫に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りラジアルタイヤは、別々に加工されたカーカス、ベルト、トレッド、ビートなどの複数のパーツが成型機で組み立てられて形成されたグリーンタイヤ(生タイヤ)を加硫することで製造される。乗用車用空気入りラジアルタイヤの製造では、グリーンタイヤを加硫釜と呼ばれる加硫成型用の型に入れてプラダーと呼ばれる風船状の圧縮装置でグリーンタイヤを内側から高温高圧の蒸気で押し付ける加硫成型の後に、PCI(ポストイキュアインフレーション)による後加硫を行う。PCIとは、加硫成型後のタイヤの内側空間に圧力を加えることでタイヤを膨張させてタイヤ内部のスチールコードの収縮を抑えてタイヤの形状を保持しながら自然冷却させる後加硫である(例えば、特許文献1等参照)。PCIにおいて加熱しながら後加硫を行う場合もある(例えば、特許文献2等参照)。
【特許文献1】特開平7−32374号公報
【特許文献2】特開平6−238669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の後加硫では、タイヤの外側から熱源により熱を加えているので、タイヤの内部に熱が伝わりにくく、タイヤの内部のゴムの加硫度を高めるのは容易ではなかった。特に、ゴムの厚いショルダー部やビード部の内部のゴムや、タイヤの内部のスチールコード(金属部材)の周囲のゴムの加硫度を高めることができず、スチールコードとゴムとの接着力を確保できないという問題があった。この問題は、加硫成型や後加硫での加熱時間を長くすれば解消されるが、このように加熱時間を長くすれば生産効率が下がってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によるタイヤの加硫方法は、加硫成型後のタイヤを後加硫するタイヤの加硫方法において、後加硫でタイヤの外側から電磁誘電加熱装置によりタイヤの内部の金属部材を電磁誘電加熱したことを特徴とする。加硫成型後のタイヤの内側空間に圧力を加えてタイヤの形状を保持しながらタイヤを後加硫するPCIの工程においてタイヤの内部の金属部材を電磁誘電加熱したことや、タイヤをタイヤの円中心を回転中心として回転させ、電磁誘電加熱装置を回転するタイヤの横切る位置においてタイヤの外部を覆うように配置することでタイヤ全体を電磁誘電加熱したことも特徴とする。
本発明によるタイヤの加硫装置は、加硫成型後のタイヤを後加硫するための後加硫装置に、加硫後のタイヤの内部の金属部材を電磁誘電加熱するための電磁誘電加熱装置が設けられたことを特徴とする。後加硫装置が、加硫成型後のタイヤの内側空間に圧力を加えてタイヤの形状を保持しながらタイヤを後加硫するためのPCI装置であることや、加硫成型後のタイヤを保持して回転させる保持駆動機構を備え、電磁誘電加熱装置が、回転するタイヤの横切る位置でかつタイヤの外部を覆う位置に設けられたことも特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明のタイヤの加硫方法によれば、後加硫でタイヤの外側から電磁誘電加熱装置によりタイヤの内部の金属部材を電磁誘電加熱したので、電磁誘導加熱でタイヤの内部のスチールコードのみが加熱され、加熱されたスチールコードがタイヤの内部からゴムを加熱するため、加硫成型での加熱時間を長くしたり、後加硫での加熱時間を長くすることなく、タイヤの内部のゴムの加硫度を効率的に高めることができるので、タイヤの生産効率を向上できる。また、ゴムの厚いショルダー部やビード部の内部のゴムや、タイヤの内部のスチールコード(金属部材)の周囲のゴムの加硫度を高めることができて、スチールコードとゴムとの接着力を確保できる。PCIの工程においてタイヤの内部の金属部材を電磁誘電加熱したので、PCIの工程で乗用車用のタイヤの内部のゴムの加硫度を効率的に高めることができ、乗用車用のタイヤの生産効率を向上できる。電磁誘電加熱装置を回転するタイヤの横切る位置においてタイヤの外部を覆うように配置することでタイヤ全体を電磁誘電加熱したので、タイヤ全体を効率的に均等に電磁誘導加熱することができ、タイヤの生産効率を向上できる。
本発明によるタイヤの加硫装置は、加硫成型後のタイヤを後加硫するための後加硫装置に、加硫後のタイヤの内部の金属部材を電磁誘電加熱するための電磁誘電加熱装置が設けられたので、後加硫における電磁誘導加熱でタイヤの内部のゴムの加硫度を効率的に高めることができるので、タイヤの生産効率を向上できる。後加硫装置がPCI装置であれば、乗用車用のタイヤの内部のゴムの加硫度を効率的に高めることができるので、乗用車用のタイヤの生産効率を向上できる。電磁誘電加熱装置が、回転するタイヤの横切る位置でかつタイヤの外部を覆う位置に設けられたことで、タイヤ全体を効率的に均等に電磁誘導加熱することができ、タイヤの生産効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は本発明の最良の形態による後加硫装置としてのPCI装置を示し、図2はPCI装置の斜視図を示す。図1を参照し、PCI装置を説明する。PCI装置1は、回転軸2、チャック機構3、電磁誘導加熱装置(以下「IH装置」という)4、駆動機構部5を備える。本形態では加硫成型を行う図外の加硫釜と呼ばれるような加硫成型用の型装置と後加硫を行う後加硫装置としてのPCI装置1とでタイヤの加硫装置が構成される。回転軸2は駆動機構部5に設けられた図外のモータ、ギヤなどによる回転駆動機構5aの駆動により回転する。回転軸2の一端にはチャック機構3が設けられる。回転軸2と回転駆動機構5aとチャック機構3とで保持駆動機構が形成される。チャック機構3は、例えばねじ締結具や溶接などの締結手段6により回転軸2の一端に取り付けられたり、回転軸2の一端に一体に形成される。チャック機構3は、タイヤ7の内周部であるビード部8a:8bを掴んでタイヤ7の内側空間9を気密に保持するとともに、タイヤ7の内側空間9に空気を供給するための空気供給口10を備える。空気供給口10は逆止弁を備える。回転軸2はチャック機構3と図外の空気供給源とに接続された中空の空気流通路11を備える。空気供給源から図外のエアホースを経由した空気が空気流通路11、空気供給口10を経由してタイヤ7の内側空間9に供給される。このように、チャック機構3で気密に保持されたタイヤ7の内側空間9に所定量の空気を充填してタイヤ7の内側面12に所定の圧力を加えてタイヤ7を膨張させることで、タイヤ7の内部のスチールコード30の収縮を抑えてタイヤ7の形状を保持できる。IH装置4は、内蔵のコイル13に20KHz〜50KHzの高周波電流を流してうず電流を発生させ、このうず電流をタイヤ7の内部の被加熱物であるスチールコード30に流すことでスチールコード30を発熱させる。IH装置4は、回転軸2で回転するタイヤ7の周方向に沿った方向と直交する方向に沿ったタイヤ7のビード部8a、サイドウォール部14、ショルダー部15、トレッド部16、ショルダー部17、サイドウォール部18、ビード部8bの外側の近傍を覆うような形状に形成される。例えば、IH装置4を断面コ字状に形成し、回転するタイヤ7がコ字状の上部分19と下部分20との間を横切るようにIH装置4を設置してIH装置4を駆動する。言い換えれば、IH装置4が、タイヤ7の一部をビード部8a、サイドウォール部14、ショルダー部15、トレッド部16、ショルダー部17、サイドウォール部18、ビード部8bにかけて囲むような形状であり、コイル13はタイヤ7の一部をビード部8a、サイドウォール部14、ショルダー部15、トレッド部16、ショルダー部17、サイドウォール部18、ビード部8bにかけて囲む程度の大きさのものを用いる。タイヤ7の一部とは、例えば、タイヤ7の中心を基準としたタイヤ7の周方向の角度範囲で定義すれば、1度〜60度程度の範囲である。よって、IH装置4のコイル13として小型のものを用いることができ、経済的である。しかして、IH装置4をアクチュエータ21でタイヤ7の方向に移動させてタイヤ7の外側近傍に設置するとともに回転軸を回転させてタイヤ7を回転させた後に、IH装置4を駆動することで、タイヤ7の内部のスチールコード30を効率的かつ均等に電磁誘導加熱することができる。
【0007】
加硫方法を説明する。まず、グリーンタイヤが図外の加硫釜で加硫成型される。加硫成型の終了したタイヤ7が、図外のタイヤ取出装置で加硫釜から取り出されてPCI装置1のチャック機構3に装着される。その後、アクチュエータ21を駆動してIH装置4を図2の矢印Fのようにタイヤ7の方向に移動させてタイヤ7の外側近傍に設置するとともに、チャック機構3に保持されたタイヤ7の内側空間9に所定量の空気を供給してタイヤ7を膨張させた状態としてから、回転軸2を回転させてタイヤ7を所定の速度で図2の矢印Aの方向に回転させた後に、IH装置4を所定の時間だけ駆動させる。これにより、タイヤ7がIH装置4の上部分19と下部分20との間を横切るので、タイヤ7全体を効率的に均等に電磁誘導加熱することができる。PCI工程において、タイヤ7の外部は自然冷却による後加硫が行われ、タイヤの内部においてはIH装置4による電磁誘導加熱でタイヤ7の内部のスチールコード30のみが加熱され、加熱されたスチールコード30がタイヤ7の内部からゴムを加熱することになる。したがって、加硫成型での加熱時間を長くしたり、PCI装置1による後加硫での加熱時間を長くすることなく、タイヤ7の内部のゴムの加硫度を効率的に高めることができるので、生産効率を向上できる。また、ゴムの厚いショルダー部15;17やビード部8a;8bの内部のゴムや、タイヤ7の内部のスチールコード30(金属部材)の周囲のゴムの加硫度を高めることができて、スチールコード30とゴムとの接着力を確保できる。後加硫が終了したら、IH装置4の駆動を停止するとともにアクチュエータ21を駆動してIH装置4を図2の矢印Rのようにタイヤ7とは反対方向に後退させ、かつ、回転軸2を回転を停止させてタイヤ7の回転を停止させる。その後、タイヤ7は、図外の取出装置でチャック機構3より取り外されて、図外の搬送機構に載せられて、検査工程に搬送され、検査終了後、出荷される。
【0008】
最良形態においては、タイヤの回転速度(rpm)は、例えば60rpm以上500rpm以下となるよう図外の制御装置でモータを制御した。このように、タイヤの回転速度を60rpm以上500rpm以下としたことにより、IH装置4のコイル13を大きくすることなくタイヤ7の加熱むらを減らすことができる。最良形態においては、タイヤ1本ごとの加硫釜での加硫成形時間と後加硫による電磁誘導加熱時間とを合計した加硫時間を、従来の加硫釜での加硫成形時間と後加硫時間とを合計した加硫時間より短くした。例えば、タイヤ1本ごとの加硫釜での加硫成形時間を従来の加硫成型時間の10%以上50%以下の範囲で短くし、その短くした分の時間を後加硫による電磁誘導加熱時間とした。後加硫による電磁誘導加熱時間を従来の加硫成型時間の10%以上50%以下の範囲の時間としたことで、従来の加硫成型時間と同じ時間で従来と同等以上の加硫度を実現できる。最良の形態では、タイヤ7に使用される材料やタイヤ7の大きさ等に拘わらず、電磁誘導加熱による後加硫によりタイヤ7を加熱むらのないように加熱できてタイヤ7の内部のゴムの加硫度を短時間で効率的に高めることができるので、タイヤ1本ごとの加硫時間(加硫成型時間+後加硫による電磁誘導加熱時間)を従来の加硫時間(加硫成型時間+後加硫時間)より短くできるとともに従来と同等以上の加硫度を実現できる。また、IH装置4のコイルとして小型のものを用いることができ、経済的である。
【産業上の利用可能性】
【0009】
トラック用やバス用などの重荷重用空気入りラジアルタイヤの製造においては、PCIによる後加硫ではなく、加硫成型後のタイヤ7をそのまま自然冷却させる後加硫を行うので、加硫成型後のタイヤを図外の保持機構で保持して図外の回転機構で回転させる保持駆動機構を備えた後加硫装置にIH装置を設け、当該後加硫装置による後加硫でIH装置による電磁誘導加熱を行えばよい。尚、回転するタイヤ7の横切る位置でかつタイヤの外部を覆う位置にIH装置を複数設ければ電磁誘導加熱時間を短縮でき、上述のようにIH装置を1つだけ設ければIH装置にかかるコストを少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は加硫装置における後加硫装置としてのPCI装置を示す断面図(最良の形態)。
【図2】PCI装置を示す斜視図(最良の形態)。
【符号の説明】
【0011】
1 PCI装置、2 回転軸、3 チャック機構、4 IH装置、5 駆動機構部、
7 タイヤ、9 タイヤの内側空間、30 スチールコード(金属部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫成型後のタイヤを後加硫するタイヤの加硫方法において、後加硫でタイヤの外側から電磁誘電加熱装置によりタイヤの内部の金属部材を電磁誘電加熱したことを特徴とするタイヤの加硫方法。
【請求項2】
加硫成型後のタイヤの内側空間に圧力を加えてタイヤの形状を保持しながらタイヤを後加硫するPCIの工程においてタイヤの内部の金属部材を電磁誘電加熱したことを特徴とする請求項1に記載のタイヤの加硫方法。
【請求項3】
タイヤをタイヤの円中心を回転中心として回転させ、電磁誘電加熱装置を回転するタイヤの横切る位置においてタイヤの外部を覆うように配置することでタイヤ全体を電磁誘電加熱したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタイヤの加硫方法。
【請求項4】
加硫成型後のタイヤを後加硫するための後加硫装置に、加硫後のタイヤの内部の金属部材を電磁誘電加熱するための電磁誘電加熱装置が設けられたことを特徴とするタイヤの加硫装置。
【請求項5】
後加硫装置が、加硫成型後のタイヤの内側空間に圧力を加えてタイヤの形状を保持しながらタイヤを後加硫するためのPCI装置であることを特徴とする請求項4に記載のタイヤの加硫装置。
【請求項6】
加硫成型後のタイヤを保持して回転させる保持駆動機構を備え、電磁誘電加熱装置が、回転するタイヤの横切る位置でかつタイヤの外部を覆う位置に設けられたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載のタイヤの加硫装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−167932(P2006−167932A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359349(P2004−359349)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】