タイヤモールド
【課題】スリット幅を高精度に調整可能で、加硫成形の繰り返しによるスリット幅の減少を軽減できるタイヤモールドを提供する。
【解決手段】
タイヤのトレッド面を形成する環状の成形面1aを、周方向に配列した複数のピース6で構成したタイヤモールドにおいて、隣接するピース6の一方の隣接面61に、成形面1aに開口した浅溝20を形成するとともに、その隣接するピース6の間にシム11を挟んで浅溝20内に設置し、シム11の厚みまたはシム11と浅溝20との厚み差に対応したスリットSを設けた。
【解決手段】
タイヤのトレッド面を形成する環状の成形面1aを、周方向に配列した複数のピース6で構成したタイヤモールドにおいて、隣接するピース6の一方の隣接面61に、成形面1aに開口した浅溝20を形成するとともに、その隣接するピース6の間にシム11を挟んで浅溝20内に設置し、シム11の厚みまたはシム11と浅溝20との厚み差に対応したスリットSを設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤを加硫成形するためのタイヤモールドに関し、より詳しくは、タイヤのトレッド面を形成する環状の成形面を、周方向に配列した複数のピースで構成したタイヤモールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のタイヤモールドは、ピースモールドとも呼ばれ、下記特許文献1〜3に開示されているように従来から公知である。ピースモールドでは、寄り集まった複数のピースが全体として環状をなし、タイヤのトレッド面に当接する成形面を構成する。成形面には、溝部を形成する凸部や陸部を形成する凹部が設けられ、これらに対応したトレッドパターンがタイヤに付与される。
【0003】
タイヤの加硫成形では、モールドの成形面とタイヤのトレッド面との間に空気を滞留させると、トレッド面にベアと呼ばれる凹み傷が形成されてしまう。このため、ピースモールドでは、隣接するピースの間にスリットを形成し、このスリットを通じて空気を背面に排出するように構成している。但し、スリットの開口が大き過ぎると、ゴムが流入してトレッド面にバリを生じることから、スリット幅を高精度に、具体的には数十μmのオーダーにて調整する必要がある。
【0004】
特許文献1,2には、隣接するピースの間に、成形面から背面に至るスリットを設けたタイヤモールドが記載されている。これらは、隣接するピースを互いに当接させたときに、所定の幅寸法を有するスリットが形成されるように、ピースの隣接面に浅溝を加工したものである。しかし、ピースの加工には、主に機械加工やワイヤーカット放電加工が採用されるところ、後述するような事情により、何れの加工を採用してもスリット幅を高精度に調整するのが困難であった。
【0005】
即ち、機械加工では、ピースの隣接面に対する加工精度が低くなるため、ピース同士を正確に当接できるように、摺合せと呼ばれる手加工を施して隣接面を修正する必要があり、当初はスリットを精度良く加工できていても、摺合せによってスリット幅が不本意に変わってしまうという不都合があった。また、ワイヤーカット放電加工によれば、摺合せを不要にできるものの、加工誤差が大きいためにスリット幅を数十μmのオーダーで調整するのが困難であった。
【0006】
特許文献3には、隣接するピースの間に挿入した薄いスペーサによって、成形面から背面に至るスリットを設けたタイヤモールドが記載されている(段落0048、図14)。しかし、このモールドでは、ピースの隣接面に当接したスペーサが面圧を受けることにより、加硫成形を繰り返すと、隣接面にスペーサがめり込んでスリット幅が減少するという問題がある。かかる問題は、ピースがスペーサよりも軟質の材料で作製されている場合に、特に顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−155444号公報
【特許文献2】特許第3239078号公報
【特許文献3】特開平4−223108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スリット幅を高精度に調整可能で、加硫成形の繰り返しによるスリット幅の減少を軽減できるタイヤモールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係るタイヤモールドは、タイヤのトレッド面を形成する環状の成形面を、周方向に配列した複数のピースで構成したタイヤモールドにおいて、隣接するピースの一方の隣接面に、成形面に開口した浅溝を形成するとともに、その隣接するピースの間にシムを挟んで前記浅溝内に設置し、前記シムの厚みまたは前記シムと前記浅溝との厚み差に対応したスリットを設けたものである。
【0010】
本発明のタイヤモールドでは、ピースの隣接面に形成した浅溝内にシムを設置して、そのシムの厚みに対応したスリット、或いはシムと浅溝との厚み差に対応したスリットを設けることから、浅溝の加工精度に関係なく、スリット幅を高精度に調整することができる。また、シムを浅溝内に設置しているために、ピース同士が隣接面を当接させた状態でも、シムが隣接面に完全にめり込むことがなく、加硫成形の繰り返しによるスリット幅の減少を軽減できる。
【0011】
本発明のタイヤモールドでは、隣接するピースの他方の隣接面に、ピースの背面と連通する排気溝が前記成形面から離して設けられ、その排気溝の少なくとも一部が前記浅溝に対向しているものが好ましい。かかる構成によれば、加硫成形時には、成形面とトレッド面との間の空気がスリットを経由して排気溝を通り、背面からモールドの外部に排出されるため、シムの大きさや形状に影響されることなく、空気の排出経路を確保することができる。
【0012】
本発明のタイヤモールドでは、前記シムが、前記成形面に近接した部分を有するものが好ましい。これにより、スリットにゴムが流入する事態が発生しても、バリの成長を適度に抑えることができる。特に、シムと浅溝との厚み差に対応したスリットでは、ゴムが流入しやすい傾向にあるため、かかる構造が有用である。
【0013】
本発明のタイヤモールドでは、前記シムを積み重ねて設置してあるものが好ましい。かかる構成によれば、シム全体の厚みを容易に変えられることから、スリット幅を簡便に調整することができ、特に所望のスリット幅に対して浅溝の厚みが大きい場合に有用である。また、積み重ねたシムの間に微小隙間が形成されるため、バリの成長を抑えつつ空気の排出効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るタイヤモールドの一例を概略的に示す縦断面図
【図2】トレッド型部の平面図
【図3】セクターの斜視図
【図4】隣接するピースの一方の隣接面を示す正面図
【図5】隣接するピースの他方の隣接面を示す正面図
【図6】シムの斜視図
【図7】ピースの間にスリットを設けたセクターの断面図
【図8】浅溝の溝断面を示す図
【図9】シムを設置したときの浅溝の溝断面を示す図
【図10】シムの変形例を示す断面図
【図11】シムの変形例を示す(a)断面図と(b)側方断面図
【図12】シムの変形例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るタイヤモールド(以下、「モールド」と略す場合がある。)の一例を概略的に示す縦断面図であり、型締め状態を示している。図1において、グリーンタイヤ(不図示)はタイヤ軸方向が上下になるようにセットされる。即ち、図1右側がタイヤ内周側となり、図1左側がタイヤ外周側となる。
【0016】
このモールドは、タイヤのトレッド面が当接する環状のトレッド型部1と、タイヤのサイドウォール部が当接するサイド型部2,3とを備える。サイド型部2とサイド型部3の内周側にはビードリング4が設けられ、タイヤのビード部を嵌合可能に構成されている。このモールドは、いわゆるセグメンテッドモールドであり、型開き状態では、トレッド型部1が外周側に変位すると共に、トレッド型部1とサイド型部3と上側のビードリング4が上昇する。かかる型部の変位は、不図示の開閉機構により行われる。
【0017】
トレッド型部1は、タイヤのトレッド面を形成する環状の成形面1aを有する。図1では記載を省略しているが、成形面1aには、周方向溝や横溝などの溝部を形成する凸部8と、ブロックやリブなどの陸部を形成する凹部9が設けられている(図4参照)。加硫成形時には、グリーンタイヤのトレッド面に成形面1aが押し当てられ、凹凸形状に対応したトレッドパターンが形成される。
【0018】
図2に示すように、トレッド型部1は、周方向に分割された複数のセクター5からなる。セクター5の各々は、径方向に変位可能に構成され、型締め状態では相互に端面を当接させて円環状をなし、型開き状態では外周側に変位して相互に離間する。本実施形態では、トレッド型部1が七分割され、各セクター5の周長が略同等である例を示すが、本発明はこれに限られない。
【0019】
図3に示すように、セクター5は、周方向に配列した複数のピース6と、それらを内周側に組み込んだバックセグメント7とを備える。例えば、ピース6はアルミニウム材(純アルミ系の素材のみならず、アルミニウム合金も含む。)で作製され、バックセグメント7はスチール材で作製される。バックセグメント7は、タイヤ軸方向の両側に鉤状の支持腕70を有し、ピース6が内周側に脱落しないように支持している。成形面1aは複数のピース6で構成され、図3では記載を省略しているが、実際には凹凸形状が設けられている。
【0020】
隣接するピース6のうち一方の隣接面61を図4に示し、他方の隣接面62を図5に示す。隣接面は、ピースの、周方向に隣接する他のピースに対向する面であり、この隣接面61と隣接面62とが互いに対向している。隣接面61には、成形面1aに開口した浅溝20が形成されている。本実施形態では、浅溝20がピース6の背面6aに到達しているが、これに限定されるものではない。成形面1aには、複数の凸部8とそれにより区画された凹部9とが設けられ、この凹部9の各々に対応して浅溝20が配置されている。
【0021】
隣接するピース6の間には、図6に示したシム11が挟み込まれる。シム11は、ステンレス鋼や真鍮などからなる薄板であり、本実施形態では矩形状に形成されている。図7に示すように、シム11は浅溝20内に設置され、その浅溝20形成箇所には、成形面1aに開口したスリットSが設けられる。このモールドでは、シム11の厚みtまたはシム11と浅溝20との厚み差に対応したスリットSを設けており、ベアの発生とゴムの流入を防止するべくスリット幅が高精度に調整されている。これに対し、シムを挟まない場合には、浅溝20の厚み(溝深さ)に対応したスリットが設けられるものの、浅溝20の厚みを高精度に調整することは困難であるため、所望のスリット幅は容易く得られない。
【0022】
本実施形態では、所望のスリット幅が0.02〜0.03mmである例を示し、この範囲にスリット幅を調整することによって、ベアの発生とゴムの流入を良好に防止できるものとする。但し、本発明で調整されるスリット幅は、この範囲に限られるものではない。
【0023】
ワイヤーカット放電加工によりピース6を作製すると、隣接面61の摺合せは不要になるものの、加工誤差が±0.01mm程度であるため、浅溝20の厚みを数十μmのオーダーで、具体的には0.02〜0.03mmの範囲に調整することが困難である。例えば、加工中心を0.015mmに設定すると、浅溝20の厚みは0.005〜0.025mmの範囲でばらつき、0.02mm未満のものが範囲外となる。図8(a)〜(c)は、この場合の浅溝20の溝断面を示す。厚みa1〜a3は、それぞれ0.005mm、0.015mm、0.025mmであり、(a)及び(b)では所望のスリット幅が得られない。
【0024】
そこで、図8(d)〜(f)のように、ピース6の間に挟んだシム11を浅溝20内に設置し、その厚みtを0.02mmとすれば、(d)及び(e)においてシム11の厚みtに対応したスリットSが設けられ、そのスリット幅は所望の0.02mmとなる。浅溝20の厚みが0.005mm未満であっても、同様にして所望のスリット幅が得られる。また、浅溝20の厚みa3が当初から所望の範囲にある(c)では、シム11を設置しても(f)のようにスリット幅が変わらない。
【0025】
一方、浅溝20の厚みが所望の範囲を超える場合には、シム11と浅溝20との厚み差に対応したスリットが設けられる。例えば、図9に示した浅溝20の厚みa4が0.035mmであれば、厚みtが0.01mmのシム11を設置すればよく、これによりシム11と浅溝20との厚み差gに対応したスリットSが設けられ、そのスリット幅は0.025mmとなる。このため、ピース6を修正する必要はなくなり、代替的に所望のスリット幅を得ることができる。
【0026】
このように、当該モールドでは、浅溝20の加工精度に関係なく、シム11によってスリット幅を高精度に調整できる。その際、所望のスリット幅に対して浅溝20の厚みが小さければ、所望のスリット幅と同等の厚みのシム11を設置し、シム11の厚みtに対応したスリットSが設けられる。また、所望のスリット幅に対して浅溝20の厚みが大きければ、その浅溝20の厚みに適した厚みのシム11を設置し、シム11と浅溝20との厚み差gに対応したスリットSが設けられる。
【0027】
更に、シム11を浅溝20内に設置しているために、隣接面61と隣接面62が当接した状態でも、シム11が隣接面61又は隣接面62に完全にめり込むことがない。これにより、加硫成形の繰り返しによるスリット幅の減少を軽減でき、ピース6の隣接面にシム11を直接的に当接させた場合に比べて、モールドの延命が可能となる。
【0028】
図9のように浅溝20の厚みが所望の範囲を超える場合には、図10に示すようにシム11を成形面1aに近接させることが望ましく、これによりバリの成長を確実に抑えることができる。成形面1aからシム11までの距離d1は、0〜0.5mmが好ましい。この距離d1を0mm以上にすることで、トレッド面にシム11の痕跡を形成しないで済み、また距離d1を0.5mm以下にすることで、バリを目立たなくできるため、タイヤの外観が良好になる。
【0029】
本実施形態では、浅溝20が形成された隣接面61に対向する隣接面62に、排気溝10が設けられている。図7に示すように、排気溝10は、ピース6の背面6aに連通するとともに、成形面1aから離して設けられている。排気溝10の少なくとも一部は浅溝20に対向し、スリットSから排気溝10に通じる空気の排出経路が形成されている。このような成形面1aに開口しない排気溝10に対しては、高精度の加工が不要である。本実施形態のように浅溝20が背面6aに至る場合には、シム11を浅溝20よりも幅狭にして空気の排出経路を確保し、排気溝を省略してもよい。
【0030】
成形面1aから排気溝10までの距離d2は、通気抵抗を下げるために20mm以下が好ましい。また、一般に3mmを超えるバリは発生し難いことから、排気溝10へのゴムの流入を防ぐうえで、距離d2は3mm以上が好ましい。即ち、距離d2が3mm未満であると、ゴムがスリットSに流入するという不慮の事態が起こった場合に、排気溝10に引っ掛かったバリがモールド内に残存する恐れがある。
【0031】
長期においてタイヤの加硫成形を繰り返すと、加硫ガスやオイル分による夾雑物がスリットSに詰まって空気の排出を阻害するが、このモールドでは、シムに関する処置により延命が可能であり、モールドを洗浄する周期を大幅に延ばすことができる。このとき、図8のようにシムの厚みに対応したスリットに対しては、より厚いシムへの交換がなされ、図9のようにシムと浅溝との厚み差に対応したスリットに対しては、シムの取り外しや、より薄いシムへの交換がなされる。シム11の修正や交換は、ピース6の洗浄に比べると、遥かに短時間で行える。
【0032】
シム11は、ピース6から内周側に脱落しないように、抜け止め手段を備えるものが好ましい。図11では、シム11の外周側の一部を折り曲げて、抜け止め手段としての返り11aを形成し、それを隣接面61に係合している。これによって、スリットSに流入したゴムがシム11に付着し、タイヤを取り出す際にシム11が内周側に引っ張られても、シム11の脱落を防ぐことができる。かかる構造は、シム11を成形面1aに近接させている場合に、特に有用である。
【0033】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であり、ピースやバックセグメント、排気溝、シムの具体的な形状は適宜に変更することができる。また、シム11は、特段の固定手段を設けることなく、隣接したピース6により挟持することで固定しても構わないが、クリップや磁石など適当な固定手段により固定しても構わない。その他のシムの固定手段としては、シムに形成したボス穴に、ピースの隣接面に突設したボスを嵌め込む構造や、シムの外周側部分を折り曲げて、ピースとバックセグメントとの間に入れ込む構造が挙げられる。
【0034】
前述の実施形態では、互いに対向する隣接面61,62のうち、一方の隣接面61のみに浅溝20を形成した例を示したが、本発明では少なくとも一方の隣接面に浅溝が形成されてあればよく、両方の隣接面に浅溝を形成しても構わない。ワイヤーカット放電加工により隣接面を設ける際には、浅溝の形成箇所で放電電圧を上げる方法を採ると、両方の隣接面に浅溝が形成されるが、そのような場合には、対向する浅溝同士を合わせて所定の厚みを形成するようにすればよい。
【0035】
また、本発明では、図12に示すようにシム11を積み重ねて設置しても好適である。かかる構成では、シム11全体を簡単に増厚できることから、特に浅溝20の厚みが所望の範囲を超える場合に有益である。図12では、図9の例と同様に、シム全体と浅溝20との厚み差gに対応したスリットが設けられている。シム11同士は例えばスポット溶接により固着され、積み重ねたシム11の間に形成された微小隙間によって、空気の排出効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 トレッド型部
1a 成形面
6 ピース
6a 背面
7 バックセグメント
8 凸部
9 凹部
10 排気溝
11 シム
20 浅溝
61 一方の隣接面
62 他方の隣接面
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤを加硫成形するためのタイヤモールドに関し、より詳しくは、タイヤのトレッド面を形成する環状の成形面を、周方向に配列した複数のピースで構成したタイヤモールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のタイヤモールドは、ピースモールドとも呼ばれ、下記特許文献1〜3に開示されているように従来から公知である。ピースモールドでは、寄り集まった複数のピースが全体として環状をなし、タイヤのトレッド面に当接する成形面を構成する。成形面には、溝部を形成する凸部や陸部を形成する凹部が設けられ、これらに対応したトレッドパターンがタイヤに付与される。
【0003】
タイヤの加硫成形では、モールドの成形面とタイヤのトレッド面との間に空気を滞留させると、トレッド面にベアと呼ばれる凹み傷が形成されてしまう。このため、ピースモールドでは、隣接するピースの間にスリットを形成し、このスリットを通じて空気を背面に排出するように構成している。但し、スリットの開口が大き過ぎると、ゴムが流入してトレッド面にバリを生じることから、スリット幅を高精度に、具体的には数十μmのオーダーにて調整する必要がある。
【0004】
特許文献1,2には、隣接するピースの間に、成形面から背面に至るスリットを設けたタイヤモールドが記載されている。これらは、隣接するピースを互いに当接させたときに、所定の幅寸法を有するスリットが形成されるように、ピースの隣接面に浅溝を加工したものである。しかし、ピースの加工には、主に機械加工やワイヤーカット放電加工が採用されるところ、後述するような事情により、何れの加工を採用してもスリット幅を高精度に調整するのが困難であった。
【0005】
即ち、機械加工では、ピースの隣接面に対する加工精度が低くなるため、ピース同士を正確に当接できるように、摺合せと呼ばれる手加工を施して隣接面を修正する必要があり、当初はスリットを精度良く加工できていても、摺合せによってスリット幅が不本意に変わってしまうという不都合があった。また、ワイヤーカット放電加工によれば、摺合せを不要にできるものの、加工誤差が大きいためにスリット幅を数十μmのオーダーで調整するのが困難であった。
【0006】
特許文献3には、隣接するピースの間に挿入した薄いスペーサによって、成形面から背面に至るスリットを設けたタイヤモールドが記載されている(段落0048、図14)。しかし、このモールドでは、ピースの隣接面に当接したスペーサが面圧を受けることにより、加硫成形を繰り返すと、隣接面にスペーサがめり込んでスリット幅が減少するという問題がある。かかる問題は、ピースがスペーサよりも軟質の材料で作製されている場合に、特に顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−155444号公報
【特許文献2】特許第3239078号公報
【特許文献3】特開平4−223108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スリット幅を高精度に調整可能で、加硫成形の繰り返しによるスリット幅の減少を軽減できるタイヤモールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係るタイヤモールドは、タイヤのトレッド面を形成する環状の成形面を、周方向に配列した複数のピースで構成したタイヤモールドにおいて、隣接するピースの一方の隣接面に、成形面に開口した浅溝を形成するとともに、その隣接するピースの間にシムを挟んで前記浅溝内に設置し、前記シムの厚みまたは前記シムと前記浅溝との厚み差に対応したスリットを設けたものである。
【0010】
本発明のタイヤモールドでは、ピースの隣接面に形成した浅溝内にシムを設置して、そのシムの厚みに対応したスリット、或いはシムと浅溝との厚み差に対応したスリットを設けることから、浅溝の加工精度に関係なく、スリット幅を高精度に調整することができる。また、シムを浅溝内に設置しているために、ピース同士が隣接面を当接させた状態でも、シムが隣接面に完全にめり込むことがなく、加硫成形の繰り返しによるスリット幅の減少を軽減できる。
【0011】
本発明のタイヤモールドでは、隣接するピースの他方の隣接面に、ピースの背面と連通する排気溝が前記成形面から離して設けられ、その排気溝の少なくとも一部が前記浅溝に対向しているものが好ましい。かかる構成によれば、加硫成形時には、成形面とトレッド面との間の空気がスリットを経由して排気溝を通り、背面からモールドの外部に排出されるため、シムの大きさや形状に影響されることなく、空気の排出経路を確保することができる。
【0012】
本発明のタイヤモールドでは、前記シムが、前記成形面に近接した部分を有するものが好ましい。これにより、スリットにゴムが流入する事態が発生しても、バリの成長を適度に抑えることができる。特に、シムと浅溝との厚み差に対応したスリットでは、ゴムが流入しやすい傾向にあるため、かかる構造が有用である。
【0013】
本発明のタイヤモールドでは、前記シムを積み重ねて設置してあるものが好ましい。かかる構成によれば、シム全体の厚みを容易に変えられることから、スリット幅を簡便に調整することができ、特に所望のスリット幅に対して浅溝の厚みが大きい場合に有用である。また、積み重ねたシムの間に微小隙間が形成されるため、バリの成長を抑えつつ空気の排出効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るタイヤモールドの一例を概略的に示す縦断面図
【図2】トレッド型部の平面図
【図3】セクターの斜視図
【図4】隣接するピースの一方の隣接面を示す正面図
【図5】隣接するピースの他方の隣接面を示す正面図
【図6】シムの斜視図
【図7】ピースの間にスリットを設けたセクターの断面図
【図8】浅溝の溝断面を示す図
【図9】シムを設置したときの浅溝の溝断面を示す図
【図10】シムの変形例を示す断面図
【図11】シムの変形例を示す(a)断面図と(b)側方断面図
【図12】シムの変形例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るタイヤモールド(以下、「モールド」と略す場合がある。)の一例を概略的に示す縦断面図であり、型締め状態を示している。図1において、グリーンタイヤ(不図示)はタイヤ軸方向が上下になるようにセットされる。即ち、図1右側がタイヤ内周側となり、図1左側がタイヤ外周側となる。
【0016】
このモールドは、タイヤのトレッド面が当接する環状のトレッド型部1と、タイヤのサイドウォール部が当接するサイド型部2,3とを備える。サイド型部2とサイド型部3の内周側にはビードリング4が設けられ、タイヤのビード部を嵌合可能に構成されている。このモールドは、いわゆるセグメンテッドモールドであり、型開き状態では、トレッド型部1が外周側に変位すると共に、トレッド型部1とサイド型部3と上側のビードリング4が上昇する。かかる型部の変位は、不図示の開閉機構により行われる。
【0017】
トレッド型部1は、タイヤのトレッド面を形成する環状の成形面1aを有する。図1では記載を省略しているが、成形面1aには、周方向溝や横溝などの溝部を形成する凸部8と、ブロックやリブなどの陸部を形成する凹部9が設けられている(図4参照)。加硫成形時には、グリーンタイヤのトレッド面に成形面1aが押し当てられ、凹凸形状に対応したトレッドパターンが形成される。
【0018】
図2に示すように、トレッド型部1は、周方向に分割された複数のセクター5からなる。セクター5の各々は、径方向に変位可能に構成され、型締め状態では相互に端面を当接させて円環状をなし、型開き状態では外周側に変位して相互に離間する。本実施形態では、トレッド型部1が七分割され、各セクター5の周長が略同等である例を示すが、本発明はこれに限られない。
【0019】
図3に示すように、セクター5は、周方向に配列した複数のピース6と、それらを内周側に組み込んだバックセグメント7とを備える。例えば、ピース6はアルミニウム材(純アルミ系の素材のみならず、アルミニウム合金も含む。)で作製され、バックセグメント7はスチール材で作製される。バックセグメント7は、タイヤ軸方向の両側に鉤状の支持腕70を有し、ピース6が内周側に脱落しないように支持している。成形面1aは複数のピース6で構成され、図3では記載を省略しているが、実際には凹凸形状が設けられている。
【0020】
隣接するピース6のうち一方の隣接面61を図4に示し、他方の隣接面62を図5に示す。隣接面は、ピースの、周方向に隣接する他のピースに対向する面であり、この隣接面61と隣接面62とが互いに対向している。隣接面61には、成形面1aに開口した浅溝20が形成されている。本実施形態では、浅溝20がピース6の背面6aに到達しているが、これに限定されるものではない。成形面1aには、複数の凸部8とそれにより区画された凹部9とが設けられ、この凹部9の各々に対応して浅溝20が配置されている。
【0021】
隣接するピース6の間には、図6に示したシム11が挟み込まれる。シム11は、ステンレス鋼や真鍮などからなる薄板であり、本実施形態では矩形状に形成されている。図7に示すように、シム11は浅溝20内に設置され、その浅溝20形成箇所には、成形面1aに開口したスリットSが設けられる。このモールドでは、シム11の厚みtまたはシム11と浅溝20との厚み差に対応したスリットSを設けており、ベアの発生とゴムの流入を防止するべくスリット幅が高精度に調整されている。これに対し、シムを挟まない場合には、浅溝20の厚み(溝深さ)に対応したスリットが設けられるものの、浅溝20の厚みを高精度に調整することは困難であるため、所望のスリット幅は容易く得られない。
【0022】
本実施形態では、所望のスリット幅が0.02〜0.03mmである例を示し、この範囲にスリット幅を調整することによって、ベアの発生とゴムの流入を良好に防止できるものとする。但し、本発明で調整されるスリット幅は、この範囲に限られるものではない。
【0023】
ワイヤーカット放電加工によりピース6を作製すると、隣接面61の摺合せは不要になるものの、加工誤差が±0.01mm程度であるため、浅溝20の厚みを数十μmのオーダーで、具体的には0.02〜0.03mmの範囲に調整することが困難である。例えば、加工中心を0.015mmに設定すると、浅溝20の厚みは0.005〜0.025mmの範囲でばらつき、0.02mm未満のものが範囲外となる。図8(a)〜(c)は、この場合の浅溝20の溝断面を示す。厚みa1〜a3は、それぞれ0.005mm、0.015mm、0.025mmであり、(a)及び(b)では所望のスリット幅が得られない。
【0024】
そこで、図8(d)〜(f)のように、ピース6の間に挟んだシム11を浅溝20内に設置し、その厚みtを0.02mmとすれば、(d)及び(e)においてシム11の厚みtに対応したスリットSが設けられ、そのスリット幅は所望の0.02mmとなる。浅溝20の厚みが0.005mm未満であっても、同様にして所望のスリット幅が得られる。また、浅溝20の厚みa3が当初から所望の範囲にある(c)では、シム11を設置しても(f)のようにスリット幅が変わらない。
【0025】
一方、浅溝20の厚みが所望の範囲を超える場合には、シム11と浅溝20との厚み差に対応したスリットが設けられる。例えば、図9に示した浅溝20の厚みa4が0.035mmであれば、厚みtが0.01mmのシム11を設置すればよく、これによりシム11と浅溝20との厚み差gに対応したスリットSが設けられ、そのスリット幅は0.025mmとなる。このため、ピース6を修正する必要はなくなり、代替的に所望のスリット幅を得ることができる。
【0026】
このように、当該モールドでは、浅溝20の加工精度に関係なく、シム11によってスリット幅を高精度に調整できる。その際、所望のスリット幅に対して浅溝20の厚みが小さければ、所望のスリット幅と同等の厚みのシム11を設置し、シム11の厚みtに対応したスリットSが設けられる。また、所望のスリット幅に対して浅溝20の厚みが大きければ、その浅溝20の厚みに適した厚みのシム11を設置し、シム11と浅溝20との厚み差gに対応したスリットSが設けられる。
【0027】
更に、シム11を浅溝20内に設置しているために、隣接面61と隣接面62が当接した状態でも、シム11が隣接面61又は隣接面62に完全にめり込むことがない。これにより、加硫成形の繰り返しによるスリット幅の減少を軽減でき、ピース6の隣接面にシム11を直接的に当接させた場合に比べて、モールドの延命が可能となる。
【0028】
図9のように浅溝20の厚みが所望の範囲を超える場合には、図10に示すようにシム11を成形面1aに近接させることが望ましく、これによりバリの成長を確実に抑えることができる。成形面1aからシム11までの距離d1は、0〜0.5mmが好ましい。この距離d1を0mm以上にすることで、トレッド面にシム11の痕跡を形成しないで済み、また距離d1を0.5mm以下にすることで、バリを目立たなくできるため、タイヤの外観が良好になる。
【0029】
本実施形態では、浅溝20が形成された隣接面61に対向する隣接面62に、排気溝10が設けられている。図7に示すように、排気溝10は、ピース6の背面6aに連通するとともに、成形面1aから離して設けられている。排気溝10の少なくとも一部は浅溝20に対向し、スリットSから排気溝10に通じる空気の排出経路が形成されている。このような成形面1aに開口しない排気溝10に対しては、高精度の加工が不要である。本実施形態のように浅溝20が背面6aに至る場合には、シム11を浅溝20よりも幅狭にして空気の排出経路を確保し、排気溝を省略してもよい。
【0030】
成形面1aから排気溝10までの距離d2は、通気抵抗を下げるために20mm以下が好ましい。また、一般に3mmを超えるバリは発生し難いことから、排気溝10へのゴムの流入を防ぐうえで、距離d2は3mm以上が好ましい。即ち、距離d2が3mm未満であると、ゴムがスリットSに流入するという不慮の事態が起こった場合に、排気溝10に引っ掛かったバリがモールド内に残存する恐れがある。
【0031】
長期においてタイヤの加硫成形を繰り返すと、加硫ガスやオイル分による夾雑物がスリットSに詰まって空気の排出を阻害するが、このモールドでは、シムに関する処置により延命が可能であり、モールドを洗浄する周期を大幅に延ばすことができる。このとき、図8のようにシムの厚みに対応したスリットに対しては、より厚いシムへの交換がなされ、図9のようにシムと浅溝との厚み差に対応したスリットに対しては、シムの取り外しや、より薄いシムへの交換がなされる。シム11の修正や交換は、ピース6の洗浄に比べると、遥かに短時間で行える。
【0032】
シム11は、ピース6から内周側に脱落しないように、抜け止め手段を備えるものが好ましい。図11では、シム11の外周側の一部を折り曲げて、抜け止め手段としての返り11aを形成し、それを隣接面61に係合している。これによって、スリットSに流入したゴムがシム11に付着し、タイヤを取り出す際にシム11が内周側に引っ張られても、シム11の脱落を防ぐことができる。かかる構造は、シム11を成形面1aに近接させている場合に、特に有用である。
【0033】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であり、ピースやバックセグメント、排気溝、シムの具体的な形状は適宜に変更することができる。また、シム11は、特段の固定手段を設けることなく、隣接したピース6により挟持することで固定しても構わないが、クリップや磁石など適当な固定手段により固定しても構わない。その他のシムの固定手段としては、シムに形成したボス穴に、ピースの隣接面に突設したボスを嵌め込む構造や、シムの外周側部分を折り曲げて、ピースとバックセグメントとの間に入れ込む構造が挙げられる。
【0034】
前述の実施形態では、互いに対向する隣接面61,62のうち、一方の隣接面61のみに浅溝20を形成した例を示したが、本発明では少なくとも一方の隣接面に浅溝が形成されてあればよく、両方の隣接面に浅溝を形成しても構わない。ワイヤーカット放電加工により隣接面を設ける際には、浅溝の形成箇所で放電電圧を上げる方法を採ると、両方の隣接面に浅溝が形成されるが、そのような場合には、対向する浅溝同士を合わせて所定の厚みを形成するようにすればよい。
【0035】
また、本発明では、図12に示すようにシム11を積み重ねて設置しても好適である。かかる構成では、シム11全体を簡単に増厚できることから、特に浅溝20の厚みが所望の範囲を超える場合に有益である。図12では、図9の例と同様に、シム全体と浅溝20との厚み差gに対応したスリットが設けられている。シム11同士は例えばスポット溶接により固着され、積み重ねたシム11の間に形成された微小隙間によって、空気の排出効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 トレッド型部
1a 成形面
6 ピース
6a 背面
7 バックセグメント
8 凸部
9 凹部
10 排気溝
11 シム
20 浅溝
61 一方の隣接面
62 他方の隣接面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド面を形成する環状の成形面を、周方向に配列した複数のピースで構成したタイヤモールドにおいて、隣接するピースの一方の隣接面に、成形面に開口した浅溝を形成するとともに、その隣接するピースの間にシムを挟んで前記浅溝内に設置し、前記シムの厚みまたは前記シムと前記浅溝との厚み差に対応したスリットを設けたことを特徴とするタイヤモールド。
【請求項2】
隣接するピースの他方の隣接面に、ピースの背面と連通する排気溝が前記成形面から離して設けられ、その排気溝の少なくとも一部が前記浅溝に対向している請求項1に記載のタイヤモールド。
【請求項3】
前記シムが、前記成形面に近接した部分を有する請求項1又は2に記載のタイヤモールド。
【請求項4】
前記シムを積み重ねて設置してある請求項1〜3いずれか1項に記載のタイヤモールド。
【請求項1】
タイヤのトレッド面を形成する環状の成形面を、周方向に配列した複数のピースで構成したタイヤモールドにおいて、隣接するピースの一方の隣接面に、成形面に開口した浅溝を形成するとともに、その隣接するピースの間にシムを挟んで前記浅溝内に設置し、前記シムの厚みまたは前記シムと前記浅溝との厚み差に対応したスリットを設けたことを特徴とするタイヤモールド。
【請求項2】
隣接するピースの他方の隣接面に、ピースの背面と連通する排気溝が前記成形面から離して設けられ、その排気溝の少なくとも一部が前記浅溝に対向している請求項1に記載のタイヤモールド。
【請求項3】
前記シムが、前記成形面に近接した部分を有する請求項1又は2に記載のタイヤモールド。
【請求項4】
前記シムを積み重ねて設置してある請求項1〜3いずれか1項に記載のタイヤモールド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−56819(P2011−56819A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209753(P2009−209753)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】
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